説明

酸化物膜の製造方法

【課題】p型の導電膜及びp型の透明導電膜としての高性能な酸化物膜の、量産性に優れた製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の1つの酸化物膜の製造方法は、酸素を含むガスの雰囲気下で、反応性スパッタリング法により、銅(Cu)からなる第1ターゲット30a,30aとニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)からなる群から選択される1種類の遷移元素からなる第2ターゲット30b,30bとを用いて交互にスパッタを行うことにより、基板10上に第1酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を形成する工程、及びその第1酸化物膜を不活性ガス雰囲気中で加熱焼成することにより第2酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を形成する工程を含む。従って、この製造方法によって形成された酸化物膜は、大型基板上への膜の形成が容易になることから、量産性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透明性又は導電性を備えた種々の酸化物膜が研究されている。特に、透明性と導電性を兼ね備えた膜は透明導電膜と呼ばれ、フラットパネルディスプレーや太陽電池などのデバイスにおける重要な要素材料として広く用いられている。
【0003】
これまでに採用されてきた代表的な透明導電膜の材料は、ITO(酸化インジウム錫)とZnO(酸化亜鉛)である。ITO(酸化インジウム錫)は、特に透明性や導電性が高いことで知られており、材料としても安定していることから、各種のデバイスにおいて長年用いられてきた。しかし、その導電性はn型しか示さないため、適用範囲が限定される。他方、昨今、高性能化に向けた研究開発の対象として注目されているZnO(酸化亜鉛)については、純酸化亜鉛のみならず、アルミニウム(Al)とクロム(Cr)を添加した酸化亜鉛などが開発されている(特許文献1を参照)。しかし、そもそも酸化亜鉛は水分や熱に対する安定性がITOに比べて低いため、その取扱いは難しい。
【0004】
ところで、n型の導電性を示す透明導電膜については、上述のITOをはじめ、AlをドープしたZnOやフッ素をドープしたSnOなど、数多くの種類が存在する。しかしながら、p型の導電性を示す透明導電膜の高性能化に向けた研究開発は依然として道半ばであるといえる。例えば、銅(Cu)とアルミニウム(Al)の複合酸化物であるCuAlOの膜、又は銅(Cu)とストロンチウム(Sr)の複合酸化物であるSrCuの膜がp型の導電性を示すことが開示されている(非特許文献1を参照)。しかしながら、それらの導電率は非常に低い。また、以下に示す特許文献2や特許文献3では、幾つかの元素が添加された酸化物が透明導電膜としての性質を有していることが開示されているが、いずれの文献も、開示された全ての元素に対する導電性や可視光透過率に関する具体的な開示が無いため、透明導電膜の技術資料として採用することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−75061号公報
【特許文献2】特開2007−142028号公報
【特許文献3】特表2008−507842号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jaroslaw Domaradzki 他3名、「Transparent oxide semiconductors based on TiO2 doped with V, Co and Pd elements」、Journal of Non−Crystalline Solids、2006年、第352巻、p2324−2327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、p型の導電性を示す導電膜、特に、透明導電膜としての酸化物膜の高性能化は、n型のそれと比べて大きく立ち遅れているのが現状である。すなわち、現在開発されているp型の透明導電膜は、主として透明性又は導電性が低いといった問題を抱えている。
【0008】
また、結晶性の酸化物膜については、その物性を決定する結晶の配向制御の問題が生じうる。その意味で、特定の結晶方位を有しなければその性能を十分に発揮しないような結晶性の酸化物膜の採用は、工業化を念頭に置いたときに量産化や基板の大型化にとっての技術的な障壁となる可能性がある。
【0009】
一方、透明性が高く、p型の高い導電性を示す導電膜を製造するための優れた方法を創出することも、その量産化等を実現するための強い駆動力となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の技術課題の少なくとも1つを解決することにより、p型の導電膜、特にp型の透明導電膜としての酸化物膜の高性能化、及びその製造方法の最適化に向けて大きく貢献するものである。発明者らは、導電膜の適用範囲を広げるためにはp型の導電性を有する酸化物膜の高性能化が不可欠であると考え、その導電性又は透明性を高めるべく、古くから研究されている対象の元素のみならず、これまで本格的な研究対象となっていなかった新しい元素の採用を試みた。数多くの試行錯誤を行った結果、発明者らは、いわゆる薄膜化を行うことによって塊状の物性とは全く異なる物性を示す材料が存在し、その膜の特性が上述の幾つかの問題の解決に寄与し得ることを知見した。さらに発明者らが研究を重ねた結果、その材料は、ある特殊な製造方法によって形成されることによって優れた特性が得られることも併せて知見した。本発明は、そのような知見と経緯によって創出された。
【0011】
本発明の1つの酸化物膜の製造方法は、次の2つの工程を含んでいる。その1つは、酸素を含むガスの雰囲気下で、反応性スパッタリング法により、銅(Cu)からなる第1ターゲットとニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)からなる群から選択される1種類の遷移元素からなる第2ターゲットとを用いて交互にスパッタを行うことにより、基板上に第1酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を形成する工程である。もう1つは、前述の第1酸化物膜を不活性ガス雰囲気中で加熱焼成することにより、第2酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を形成する工程である。
【0012】
この酸化物膜の製造方法は、反応性スパッタリング法によって第1酸化物膜が形成されるため、量産性ないし工業性に優れる。また、この第1酸化物は、膜状になった後、不活性ガス雰囲気中で加熱焼成されことによって、そのp型としての導電性が飛躍的に向上する。したがって、この酸化物膜の製造方法によれば、従来と比較してp型の高い導電性を備えた酸化物膜が、例えば大型基板上においても容易に形成され得る。
【0013】
なお、本出願においては、「基板」とは、代表的にはガラス基板、半導体基板、金属基板、及びプラスチック基板を意味するが、これに限定されない。また、本出願における「基板」には、平板状に限らず、曲面状の構造体も含まれ得る。さらに、本願において、「基板の温度」とは、特に言及がない限り、その基板を支持、保持、又は収容する台や器具を加熱するヒーターの設定温度を意味する。また、本出願において、「酸化物」及び「酸化物膜」には、製造上、混入を避けることができない不純物が含まれ得る。なお、この不純物の代表的なものは、例えば、ターゲットを製造する際に混入しうる不純物や、各種の基板の含まれる不純物、あるいは各種のデバイスの製造工程において利用される水の中に含まれる不純物である。従って、本願出願時の最新の分析機器によって必ずしも検出できるとは言えないが、例えば、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、及びマグネシウム(Mg)が代表的な不純物として考えられる。
【0014】
また、本出願において、「ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)からなる群から選択される1種類の遷移元素と、銅(Cu)とを含む酸化物の膜」には、ニオブ(Nb)又はタンタル(Ta)と銅(Cu)との複合酸化物(例えば、CuNbやCuTa、但し、X,Y,Zは、それぞれの原子の存在比率を表す。以下、同じ)の膜のみならず、酸化銅(Cu)と酸化ニオブ(Nb)又は酸化タンタル(Ta)との混合物の膜も含まれる。同様に、本出願において、「銅(Cu)とニオブ(Nb)からなる酸化物の膜」には、ニオブ(Nb)と銅(Cu)との複合酸化物(CuNb)の膜のみならず、酸化銅(Cu)と酸化ニオブ(Nb)との混合物の膜も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の1つの酸化物膜の製造方法によれば、従来と比較してp型の高い導電性を備えた酸化物膜が、例えば大型基板上においても容易に形成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態における第1酸化物膜の製造装置(反応性スパッタリング装置)の説明図である。
【図2A】本発明の第1の実施形態における第2酸化物膜の形成過程の1つを示す説明図である。
【図2B】本発明の第1の実施形態における第2酸化物膜の形成過程の1つを示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における第1酸化物膜及び第2酸化物膜の主として紫外光から可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。
【図4】本発明の第1の実施形態における第1酸化物膜及び第2酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態における第1酸化物膜及び第2酸化物膜の主として紫外光から可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。
【図6】本発明の第2の実施形態における第1酸化物膜及び第2酸化物膜のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0018】
<第1の実施形態>
本実施形態では、銅(Cu)及びニオブ(Nb)とからなる酸化物膜及びその製造方法について説明する。図1は、本実施形態における第1酸化物膜の製造装置20の説明図である。図2A及び図2Bは、本実施形態における第2酸化物膜の形成過程の1つを示す説明図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の第1酸化物膜の製造装置20は、いわゆる反応性スパッタリング装置であり、基板回転機構22及び背面ヒーター23を備えた、基板10を公知の保持具(図示しない)により保持するステージ24を、密閉可能なチャンバー21内に備えている。また、この第1酸化物膜の製造装置20は、上下方向に互いに向かい合うように配置された銅(Cu)のターゲット(第1ターゲットともいう)30a,30a及びニオブ(Nb)のターゲット(第2ターゲットともいう)30b,30bを、前述の基板回転機構22及びステージ24の外周側に備えている。また、本実施形態では、一対の銅(Cu)のターゲット30a,30aの中心軸に平行にプラズマ収束磁界を印加させるために磁石25a,・・・,25aが配置されている。同様に、一対のニオブ(Nb)のターゲット30b,30bに対しても、磁石25b,・・・,25bが配置されている。加えて、各ターゲット30a,30bを冷却するための冷却水を流すための配管(冷却用配管)29a,29bが設けられている。
【0020】
また、本実施形態の第1酸化物膜の製造装置20では、チャンバー21内に反応ガス(本実施形態では、アルゴン(Ar)ガス80mol%及び酸素(O)ガス20mol%の混合ガス)を導入するための導入口28aと、それらの反応ガスを排気するための排気口28bとが、開閉可能に設けられている。なお、本実施形態の基板10は石英基板である。また、前述の銅(Cu)のターゲット30a,30a及びニオブ(Nb)のターゲット30b,30bは、それぞれ単体物質であるが、不可避不純物を含みうる。
【0021】
ここで、本実施形態では、上述のとおり、一対の第1ターゲット30a,30aの中心軸、及び一対の第2ターゲット30b,30bの中心軸に平行にプラズマ収束磁界を印加させるため、各ターゲット30a,30bから放出されるγ電子が一対の第1ターゲット30a,30a間及び一対の第2ターゲット30b,30b間の空間内に閉じ込められることになる。その結果、反応ガスのイオン化が促進されるため、プラズマ密度を高めることが可能になる。また、本実施形態では、図1に示すように、一対の第1ターゲット30a,30aの中心軸、及び一対の第2ターゲット30b,30bの中心軸に平行に、かつ,それらによって形成されるプラズマ領域外に、基板10が配置されている。従って、正電荷のみならず負電荷の高エネルギー荷電粒子の基板10への衝突が抑制されるため、基板10上に堆積される第1酸化物膜11へ与える損傷を低減することができる。また、第1酸化物膜の製造装置20が上述の構成を備えることにより、2種類のターゲット30a,30bから形成されるプラズマを交互に利用して、原子層オーダーで組成制御しながら基板10上に第1酸化物膜11を堆積させることを可能となる。
【0022】
また、本実施形態の基板回転機構22の回転軸がステッピングモーターによって駆動するように設計されている。従って、前述の反応ガスが導入されてプラズマが形成され、スパッタリングが行われている間、一対の銅(Cu)のターゲット30a,30a間のプラズマ領域に向いて停止している時間と、一対の銅(Cu)のターゲット30a,30a間のプラズマ領域に向いて停止している時間とを自由に変更することができる。本実施形態では、第1ターゲット30a,30aによる基板10へのスパッタ時間(第1スパッタ時間ともいう)を1としたときの第2ターゲット30b,30bによる基板10へのスパッタ時間(第2スパッタ時間ともいう)の値(比)が、2.4であった。
【0023】
本実施形態の第1酸化物膜の製造装置20を用いて、基板10上に第1酸化物膜11を形成した。成膜時間は4時間であった。ここで、3つの第1酸化物膜11が形成された基板10を評価サンプルとして用意した。その1つに対しては、その後、窒素(N)ガスが供給されることにより酸素濃度が1%未満の雰囲気となっている管状炉内において400℃のアニール(加熱焼成)処理を1時間行うことにより、図2Bに示すような第2酸化物膜12を形成した。また、他の1つに対しては、その後、窒素(N)ガス雰囲気下の管状炉内において300℃のアニール処理を1時間行うことにより、第2酸化物膜12を形成した。さらに最後の1つは、アニール処理を施さない比較例(つまり、第1酸化物11のまま)とした。
【0024】
上述の3つの評価サンプルについて、膜厚、抵抗率ρ[Ωcm]、伝導率σ[S/cm]、及び透過率[%]を測定した。表1は、それらの測定結果を示す一覧表である。
【0025】
【表1】

【0026】
まず、表1に示すように、膜厚は、いずれの評価サンプルも1.1μmであった。次に、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の組成比については、ニオブ(Nb)が1に対して銅(Cu)が0.96ないし0.99であった。すなわち、その組成比は、ニオブ(Nb)が1に対して、銅(Cu)がほぼ1である。
【0027】
また、本実施形態では、3つの評価サンプルの抵抗率ρは次のように測定された。まず、金電極をそれぞれの評価サンプルの4箇所に真空蒸着した。その後、その金電極上に銀ペーストを用いて銅線を接着し、van der Pauw法によって抵抗率ρを算出した。その結果、第2酸化物膜12は、ホットプローブ法に基づく評価及びホール効果を考慮すると、p型の導電性を有すると考えられる結果が得られた。
【0028】
また、本実施形態では、3つの評価サンプルの透過率(%)については、分光光度計(日本分光株式会社製、型式V−650)を使用し、200nm〜800nmの範囲において測定を行った。図3は、その3つの評価サンプルにおける第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の主として紫外光から可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。なお、図中、一点鎖線は、第1酸化物膜11による結果を示している。また、実線は300℃でアニール処理された第2酸化物膜12による結果を示し、点線は400℃でアニール処理された第2酸化物膜12による結果を示している。ここで、本実施形態における透過率(%)の数値については、分光光度計による測定の結果、350nm付近から透過率が上昇し始め、550nm付近よりも長い波長領域において透過率が飽和傾向となっていることが確認されたため、その飽和領域、すなわち、550nm以上における平均的透過率値を以って透過率とした。その結果、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12のいずれも、55%以上の高い透過率を有していることが確認された。特に、第1酸化物膜11の透過率は約65%であった。
【0029】
さらに、発明者らは、3つの評価サンプルについて、XRD(X線回折)による分析を行った。図4は、その3つの評価サンプルにおける第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。XRD分析の結果、図4に示すように、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれも2θが20°付近にピークを有するとともに、20°乃至40°においてブロードなピークが観察された。従って、本実施形態の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。
【0030】
なお、上述の第1の実施形態では、第1スパッタ時間を1としたときの第2スパッタ時間の値(比)が、2.4であったが、第1の実施形態はこの値に限定されない。例えば、その値が0.5以上5以下であれば、本実施形態の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0031】
また、上述の第1の実施形態では、第2ターゲットがニオブ(Nb)どターゲットであったが、第2ターゲットもニオブ(Nb)に限定されない。例えば、ニオブ(Nb)の代わりに、タンタル(Ta)、又はニオブ(Nb)とタンタル(Ta)の混合物が採用されたとしても、本実施形態の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0032】
また、上述の第1の実施形態では、第2酸化物膜12を形成するためのアニール処理において、窒素(N)ガス雰囲気下で行われたが、第1の実施形態のアニール処理は、窒素(N)ガス雰囲気下に限定されない。例えば、その他の不活性ガス(例えば、アルゴン(Ar)ガス)雰囲気中でアニール処理することによっても、本実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。
【0033】
<第2の実施形態>
本実施形態では、第1の実施形態の第2酸化物膜12の膜厚が異なる点を除き、第1の実施形態の各プロセスと同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0034】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、反応性スパッタリング装置である第1酸化物膜の製造装置20を用いて第1酸化物膜11を基板10上に形成した後、窒素(N)ガスが供給されることにより酸素濃度が1%未満の雰囲気となっている管状炉内においてアニール処理を行うことにより、第2酸化物膜12を形成した。
【0035】
本実施形態の成膜時間は2時間であった。ここで、第1の実施形態と同様に、3つの第1酸化物膜11が形成された基板10を評価サンプルとして用意した。その1つに対しては、その後、上述の処理方法を用いて400℃のアニール(加熱焼成)処理を1時間行うことにより、第2酸化物膜12を形成した。また、他の1つに対しては、その後、上述の処理方法を用いて300℃のアニール処理を1時間行うことにより、第2酸化物膜12を形成した。さらに最後の1つは、アニール処理を施さない比較例(つまり、第1酸化物11のまま)とした。
【0036】
上述の3つの評価サンプルについて、膜厚、抵抗率ρ[Ωcm]、伝導率σ[S/cm]、及び透過率[%]を測定した。表2は、それらの測定結果を示す一覧表である。なお、各結果は、第1の実施形態と同様の測定方法又は算出方法に基づくものである。
【0037】
【表2】

【0038】
まず、表2に示すように、膜厚は、いずれの評価サンプルも0.6μmであった。次に、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の組成比については、ニオブ(Nb)が1に対して銅(Cu)が0.90ないし0.92であった。
【0039】
また、本実施形態では、3つの評価サンプルの抵抗率ρは次のように測定された。まず、金電極をそれぞれの評価サンプルの4箇所に真空蒸着した。その後、その金電極上に銀ペーストを用いて銅線を接着し、van der Pauw法によって抵抗率ρを算出した。その結果、第2酸化物膜12は、ホットプローブ法に基づく評価及びホール効果を考慮すると、p型の導電性を有すると考えられる結果が得られた。また、第1酸化物膜11の抵抗率ρが、高抵抗のために測定不可能であったのに対して、アニール処理を行った第2酸化物膜12の抵抗率は、第1の実施形態と同様に、アニール温度が高くなるほど顕著に低下する傾向が確認できた。特に、400℃下でアニール処理した第2酸化物膜12の抵抗率ρは、2.4[Ωcm]にまで低減された。すなわち、少なくとも、窒素(N)ガス雰囲気下において300℃以上400℃以下のアニール処理によって、その抵抗率を顕著に低減することができる。一方、伝導率σについては、表2に示すように、抵抗率とは逆に、アニール温度が高くなるほど顕著に増加する傾向が確認できた。
【0040】
また、本実施形態においても、3つの評価サンプルの透過率(%)については、分光光度計(日本分光株式会社製、型式V−650)を使用し、200nm〜800nmの範囲において測定を行った。図5は、その3つの評価サンプルにおける第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12の主として紫外光から可視光領域の波長の光線の透過率の分析結果を示すチャートである。その表示方法は、図3と同じであるため省略する。図5及び表2に示すように、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12のいずれも、75%以上の高い透過率を有していることが確認された。
【0041】
さらに、発明者らは、3つの評価サンプルについて、XRD(X線回折)による分析を行った。図6は、その3つの評価サンプルにおける第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12のXRD(X線回折)分析結果を示すチャートである。XRD分析の結果、図4に示すように、第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12は、いずれも2θが20°付近にピークを有するとともに、20°乃至40°においてブロードなピークが観察された。従って、本実施形態の第1酸化物膜11及び第2酸化物膜12も、第1の実施形態と同様に、微結晶の集合体、微結晶を含むアモルファス状、又はアモルファス状であると考えられる。
【0042】
ところで、上述の第1の実施形態では、第2酸化物膜12に含まれる銅(Cu)に対するニオブ(Nb)の原子数比が、そのニオブ(Nb)の原子数を1とした場合にその銅(Cu)の原子数が0.90乃至0.99、換言すれば、その銅(Cu)の原子数を1とした場合にそのニオブ(Nb)の原子数が1.01乃至1.11であったが、その数値に限定されない。例えば、第2酸化物膜12に含まれる銅(Cu)に対するニオブ(Nb)の原子数比が、その銅(Cu)の原子数を1とした場合にそのニオブ(Nb)の原子数が0.5以上3未満であれば、上述の各の実施形態と同様の効果が奏され得る。同様に、前述のニオブ(Nb)が他の遷移元素(例えば、タンタル(Ta))に置き換えられても、少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0043】
なお、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、p型の導電性を有する酸化物膜、あるいはp型の導電性を有する透明導電膜の製造に広く利用され得る。
【符号の説明】
【0045】
10 基板
11 第1酸化物膜
12 第2酸化物膜
20 反応性スパッタリング装置
21 チャンバー
22 基板回転機構
23 背面ヒーター
24 ステージ
25a,25b 磁石
28a 導入口
28b 排気口
29a,29b 冷却用配管
30a 第1ターゲット
30b 第2ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を含むガスの雰囲気下で、反応性スパッタリング法により、銅(Cu)からなる第1ターゲットとニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)からなる群から選択される1種類の遷移元素からなる第2ターゲットとを用いて交互にスパッタを行うことにより、基板上に第1酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を形成する工程、及び
前記第1酸化物膜を不活性ガス雰囲気中で加熱焼成することにより第2酸化物膜(不可避不純物を含み得る)を形成する工程を含む、
酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1ターゲットによる前記基板への第1スパッタ時間を1としたときの前記第2ターゲットによる前記基板への第2スパッタ時間の値(比)が、0.5以上5以下である、
請求項1に記載の酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
前記銅(Cu)に対する前記遷移元素の原子数比が、前記銅(Cu)の原子数を1とした場合に前記遷移元素の原子数が0.5以上3未満である、
請求項1または請求項2に記載の酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
前記不活性ガス雰囲気中、300℃以上400℃以下で前記第1酸化物膜を加熱焼成することにより前記第2酸化物膜を形成する、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の酸化物膜の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167299(P2012−167299A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26678(P2011−26678)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構、革新型太陽電池国際研究拠点整備事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】