説明

金属リングの側縁検査装置

【課題】CVTのベルト等に用いられる金属リングの側縁検査装置であって、従来よりもさらに精度の高い検査装置を提供する。
【解決手段】側縁検査装置1は、回転テーブル2と、その上方に設けられた照明装置3及びカメラ4と、撮影された画像の処理を行う画像処理装置5等を備えている。回転テーブル2に載置された積層リング7aの撮像位置Pに周方向両側から照明装置3の平面発光部9により照明を行う。この平面発光部9は、積層リング7aの撮像位置Pから見ると、積層リング7aの周方向から径方向に向けて14゜から84゜の間の角度領域に延在している。このような照明を行うことにより、凹部23の形状がどのようなものであっても当該凹部23からの反射光をカメラ4で撮像し、画像処理装置5で凹部23の検出を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用無段変速機(CVT)等のベルトに使用される無端状の金属リングについて、その側縁に生じた傷や打痕等を検査する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の無段変速機の動力伝達のために、複数の金属リングを積層して積層リングを形成し、該積層リングを所定形状のエレメントに組み付けて保持した無段変速機用ベルトが用いられている。前記金属リングは、製造工程や搬送工程、積層工程などでその側縁に傷や打痕等が生じることがある。
【0003】
そこで、前記金属リングの傷等を検出するために、金属リングの側縁に光を当ててその側縁をカメラで撮像し、その画像によって金属リングの傷等を検出する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−77425号公報(明細書0012,0016、図3,4,5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された検査方法で金属リングの側縁の検査を行ってみると、本来傷等として検出されなければならない箇所があるにもかかわらず、当該傷等が検出されない例が散見された。このように、従来の検査方法では検出することのできない傷等があることが判明した。
【0005】
本願発明者等は、その原因は以下のようなものであることを知見した。まず、従来は照明用の光源として集中光(スポット光)を照射するものを用い単層の金属リングに向けて一方向からスポット光を当てていた。一方、打痕等によって生じる凹部の傾斜面では、光源からの光の方向に対してある程度の角度範囲がないと当該傾斜面で反射された光はカメラに入らない。従って、カメラで前記凹部の存在部分を撮像しても、凹部の略半分程度しか画像に現れず、あとの半分は影になってしまうため、凹部の形状によっては検査時に傷等として認識されない事態が生じうる。
【0006】
本発明は、前記不都合を解消するために、従来よりもさらに精度の高い側縁検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の金属リングの側縁検査装置は、無端状に形成された金属リングの側縁を検査する装置であって、前記金属リングを周方向に回転させる回転手段と、前記回転手段により回転されている前記金属リングの軸方向から側縁を撮像する撮像手段と、前記金属リングの側縁の前記撮像手段による撮像位置に、前記金属リングの周方向両側から前記金属リングの軸方向に対し周方向に傾いた光を照射する照明手段と、前記撮像手段により得られた画像を処理して前記金属リングの側縁の検査を行う画像解析手段とを備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明の側縁検査装置では、前記照明手段が前記撮像位置の両側から光を照射するため、打痕等によって生じた凹部の傾斜面のすべてを照射することができる。従って、前記撮像手段によって得られた画像には前記凹部の全体が現れるため、前記画像解析手段によって従来のように傷等を見落とすことなく検出することができる。尚、本願において周方向とは、撮像位置の接線方向を含む概念である。
【0009】
また、本発明の側縁検査装置においては、前記照明手段は、拡散光を照射する面状の発光部を有し、前記発光部が前記撮像位置から見て前記金属リングの周方向から前記金属リングの軸方向に傾斜した所定の角度範囲に亘って延在していることが好ましい。金属リングの側縁に生じる打痕等の凹部はその傾斜面の角度も様々であるが、本発明の側縁検査装置では前記撮像位置に前記発光部からの拡散光が所定の角度に亘って照射されるため、これらの様々な角度の傾斜も前記撮像手段で撮像することができる。従って、前記画像解析手段によりもれなく傷等を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の側縁検査装置の実施形態の一例について、図1乃至図7を参照して説明する。本実施形態の側縁検査装置1は、図1及び図2に示すように、回転テーブル2と、回転テーブル2の上方に設けられた照明装置3と、回転テーブル2及び照明装置3の上方に設けられたカメラ4と、カメラ4によって撮影された画像の処理を行う画像処理装置5と、回転テーブル2の回転を制御する回転テーブル制御装置6とを備えている。
【0011】
回転テーブル2は、図2に示すように、複数の金属リング7が積層された積層リング7aを積層状態で保持して当該積層リング7aを円周方向に回転させるものである。回転テーブル2には、積層リング7aの内周面に当接して積層リング7aを円形の状態で保持する保持部(図示せず)が設けられている。また、回転テーブル2の側方には、積層リング7aに傷等が検出された場合、傷等がある箇所にマーキングを行うマーキング装置8が設けられている。このマーキング装置8は、積層リング7aに向けて進退自在のマーカー8aを有している。
【0012】
照明装置3は、図2に示すように、2個の平面発光部9と、これらの平面発光部9を支持する支持板10と、支持板10を角度調節自在に固定する固定板11と、平面発光部9に光を送る光ファイバ12とを有しており、光ファイバ12は光源13に接続されている。平面発光部9は、図2に示すように正方形であり、本実施形態では30mm四方のものを使用している。この平面発光部9では、その全面から拡散光が照射される。また、平面発光部9は、積層リング7aの撮像位置Pから見ると、図3に示すように積層リング7aの周方向から積層リング7aの軸方向に向けて14゜から84゜の範囲に延在している。
【0013】
カメラ4は、一般に用いられているCMOSカメラであり、積層リング7a、即ち金属リング7の軸方向からその側縁を撮像するものである。また、カメラ4はケーブル14により画像処理装置5に接続されている。
【0014】
画像処理装置5は、図4に示すように、機能的構成として、画像記憶手段15、2値化手段16、選択手段17、幅検出手段18、判定手段19、結果表示手段20及び傷位置検出手段21とを備えている。また、画像記憶手段15はカメラ4に接続され、結果表示手段20は画像処理装置5に内蔵されたモニタ22に接続され、傷位置検出手段21は回転テーブル制御装置6に接続されている。
【0015】
回転テーブル制御装置6は、図4に示すようにマーキング制御手段6aを内蔵している。マーキング制御手段6aはマーキング装置8に接続され、傷位置検出手段21から通知される傷等がある箇所の信号を基にマーキング装置8によって積層リング7aにマーキングを行うものである。
【0016】
積層リング7aは、図5に示すように、複数枚(本実施形態では12枚)の金属リング7を積層したものである。各金属リング7はそれぞれ隣り合う金属リング7と僅かな隙間を存して積層されている。また、単層の金属リング7の側縁は、図5に示すように角部が面取りされた略円弧状となっている。
【0017】
次に、本実施形態の側縁検査装置1の作動について説明する。ここでは、図5に示すように、撮像位置Pにおける最外周の金属リング7に打痕による凹部23が生じている例について説明する。まず、図示しない積層装置によって複数の金属リング7が積層され、積層リング7aとなる。この積層リング7aは、図示しない移送装置により回転テーブル2上に移送され、回転テーブル2の保持部により円形に保持される。積層リング7aが回転テーブル2上にセットされた後、回転テーブル制御装置6が回転テーブル2を所定の速度で回転させる。
【0018】
積層リング7aの撮像位置Pでは、照明装置3によって積層リング7aの周方向(本実施形態においては撮像位置Pにおける接線方向)両側から平面発光部9の拡散光が照射されている。このように、積層リング7aが回転され、照明装置3によって照明がなされている状態で、カメラ4によって積層リング7aの側縁の映像が撮影される。平面発光部9は、上述のように面状の発光部であるため、積層リング7aの積層方向、即ち金属リング7の径方向へも広がりを有している。このため、従来のスポット光とは異なり広い範囲に亘って照明を行うことができる。これにより、金属リング7を積層して積層リング7aとした状態でも検査を行うことができる。
【0019】
本実施形態における金属リング7は、その側縁の角部が面取りされて断面視で略円弧状となっているため、積層リング7aの側縁に周方向から光を当てて撮像すると、図5の拡大図に示すように、各金属リング7の厚さ方向の中心付近は反射によってカメラ4まで到達する光の量が多いため明るい画像となり、面取りされた部分は反射角度が大きくなり反射光がカメラ4に到達しないため暗い映像となる。
【0020】
このような積層リング7aにおいて、金属リング7の側縁に打痕による凹部23が存在すると、金属リング7の側縁は当該凹部23により一部が潰され、その潰された部分にも平面発光部9の拡散光が当たって反射光がカメラ4に到達する。また、凹部23の形状は様々であるが、本願発明者等が平面発光部9と積層リング7aの周方向との角度を14゜から84゜にしたところ、打痕のみならず、設備等に接触して側縁に傷が付いた場合であっても、カメラ4によってこのような凹部23を認識することができた。
【0021】
このカメラ4によって撮像された画像は、ケーブル14を介して画像処理装置5に送られ、画像記憶手段15に記憶される。画像処理装置5では、画像記憶手段15に記憶された画像について、2値化手段16が所定の2値化閾値を用いて2値化処理を行い、さらに2値化された画像のラベリングを行う。2値化及びラベリングされた画像は、図6に示すように、金属リング7の側縁が緩やかに湾曲した複数の円弧状の明部像7bとして現れ、凹部23は上下に突出する形状23aとして現れる。なお、図6及び図7において、金属リング7の周方向をX軸方向、金属リング7の径方向をY軸方向とする。また、2値化された画像は明部像7bと暗部像とに別れ、暗部像は黒となるが、図6及び図7においては便宜上暗部像を黒ではなく網掛けで表している。
【0022】
次に、画像処理装置5は、選択手段17によって2値化及びラベリングされた複数の明部像7bの中から単層の明部像7bを選択する。本実施形態においては、図6に示す各明部像7bを上から順に選択し、幅検出手段18に選択した明部像7bを送信する。
【0023】
幅検出手段18においては、選択手段17によって選択された明部像7bに対し、X軸方向に所定幅を有する検査ウィンドウ24を当てはめ、検査ウィンドウ24内において明部像7bの径方向の幅を求める。この検査ウィンドウ24は、X軸方向には短く、Y軸方向に長く設定されている。そして、この検査ウィンドウ24を図7においてX軸方向の左から右側に移動させながらそれぞれの領域における明部像7bのY軸方向の幅を求めていく。例えば、図7の左側の領域においては明部像7bの太さそのものが幅になる。また、略中央部の領域においては、幅方向に突出する領域23aの幅がY軸方向の幅となる。
【0024】
このように、幅検出手段18では、X軸方向に検査ウィンドウ24を順次移動させ、明部像7bのY軸方向の幅の最大値を検出する。本実施形態においてこのようにX軸方向に短い検査ウィンドウ24を移動させながら明部像7bの幅の検出を行うのは、明部像7b全体の形状は円弧状であるため、その曲がり量を幅として算出しないようにするためである。
【0025】
幅検出手段18によって検出された金属リング7の径方向の幅の最大値は、次の判定手段19に送信される。判定手段19では、当該幅の最大値と所定の判定値とを比較し、検出された幅の最大値が当該判定値以上の場合は、当該金属リング7は使用不可であると判定する。当該判定結果は、結果表示手段20からモニタ22に送信されて表示される。また、判定手段19により使用不可であると判断された場合は、傷位置検出手段21から回転テーブル制御装置6に凹部23の位置の信号が送られる。
【0026】
回転テーブル制御装置6では、傷位置検出手段21からの信号により回転テーブル2を回転させて積層リング7aの打痕等がある箇所をマーキング装置8の位置まで移動させ、マーキング制御手段6aによりマーカー8aを積層リング7aに向けて突出させてマーキングを行う。また、本実施形態では、各金属リング7毎にはマーキングは行わず、打痕等が検出された積層リング7aの外周面にマーキングを行っている。
【0027】
そして、本実施形態の側縁検査装置1により側縁が検査された積層リング7aは、凹部23を含む傷等がなければ正常な積層リング7aとして組み付け工程等の次の工程に払い出される。一方、傷等が発見された積層リング7aは、使用不可品の候補として再度検査員による検査を行い、検査員による検査によっても使用不可品と判断された場合は、傷等のある金属リング7を取り除く等の作業が行われる。
【0028】
このように本実施形態では、金属リング7を積層した状態で検査を行うことができる。従来は、単層の金属リングの検査を行っていたため、一組の積層リングにおけるすべての金属リングの検査を行うには多くの時間を必要としていたが、本発明では従来に比べて大幅に検査の作業時間の短縮を行うことができる。
【0029】
尚、上記実施形態においては、金属リング7が積層された積層リング7aについて検査を行っているが、回転テーブル2に単層の金属リング7をセットすることにより、単層の金属リング7の検査も行うことができる。また、平面発光部9の角度は、図3において左右対称としているが、これに限らず、どちらかの角度を変えて異なる角度から光を照射してもよい。また、マーキング装置8によるマーキングは、上記実施形態のように積層リング7aの全体にしてもよく、或いは積層リング7aの側縁に対向するインクジェットプリンタ等を用いて傷等のある金属リング7のみにマーキングを行ってもよい。また、上記実施形態ではカメラ4としてCMOSカメラを使用しているが、CCDカメラ等の他のカメラを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態の一例である側縁検査装置の概要を示すブロック図。
【図2】本実施形態の側縁検査装置の主要部の構成を示す説明図。
【図3】積層リングと照明装置とカメラとの関係を示す説明図。
【図4】画像処理装置の機能的構成を示す説明図。
【図5】積層リングの一部拡大断面図。
【図6】画像処理装置により処理された積層リングの側縁の画像を示す説明図。
【図7】画像処理装置における側縁検査の処理状況を示す説明図。
【符号の説明】
【0031】
1…側縁検査装置、2…回転手段、3…照明手段、4…カメラ(撮像手段)、5…画像処理装置(画像解析手段)、7…金属リング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に形成された金属リングの側縁を検査する装置であって、
前記金属リングを周方向に回転させる回転手段と、
前記回転手段により回転されている前記金属リングの軸方向から側縁を撮像する撮像手段と、
前記金属リングの側縁の前記撮像手段による撮像位置に、前記金属リングの周方向両側から前記金属リングの軸方向に対し周方向に傾いた光を照射する照明手段と、
前記撮像手段により得られた画像を処理して前記金属リングの側縁の検査を行う画像解析手段とを備えていることを特徴とする金属リングの側縁検査装置。
【請求項2】
前記照明手段は、拡散光を照射する面状の発光部を有し、前記発光部が前記撮像位置から見て前記金属リングの周方向から前記金属リングの軸方向に傾斜した所定の角度範囲に亘って延在していることを特徴とする請求項1に記載の金属リングの側縁検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−10586(P2006−10586A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190323(P2004−190323)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】