鉄シリサイド結晶を含有する薄膜及びその薄膜の製造方法
【課題】β−FeSi2結晶を主相として含有し、デバイス材料への幅広い応用が可能となる新規な薄膜を提供する。
【解決手段】β型鉄シリサイド結晶を主相として含有し、更にCuを含有する薄膜。
【解決手段】β型鉄シリサイド結晶を主相として含有し、更にCuを含有する薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄シリサイド結晶を含有する新規な薄膜及びその薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池等に組み込まれる薄膜状のデバイス材料として、従来、Siが広く研究されてきた。ところが、Siに関する研究は成熟しているにも関わらず、所望とされる半導体固有物性を得るにはまだ不十分であり、Siを用いて、これ以上に薄膜の物性を向上させるのは困難であると考えられる。
【0003】
そこで、Ge、GaAsに代表されるいわゆるIII−V化合物系、ZnTeなどのII−VI化合物系など、半導体固有物性の点でSiよりも優れている材料が近年開発されている。しかし、これらの材料は環境安全性や資源供給性等の点でSiよりも不利であり、大規模利用への用途展開は困難である。
【0004】
ところで、β型鉄シリサイド(以下、「β−FeSi2」とも表記する。)は、数あるFe−Si系化合物の中で、唯一半導体を形成し得るものである。このβ−FeSi2は環境負荷が小さく、資源供給性にも優れた半導体材料として、最近非常に注目を集めている。
【0005】
従来、β−FeSi2結晶を含有する薄膜及びα−FeSi2結晶を含有する薄膜として、固相溶融エピタキシー法(SPE)、高周波堆積エピタキシー法(RDE)、分子線エピタキシー法(MBE)、イオン注入法(IBS)、レーザーアブレーション法(PLD)など、様々な方法により形成されたものが検討されている。
【0006】
また、α型鉄シリサイド(以下、「α−FeSi2」とも標記する。)の薄膜は、結晶のエピタキシャル成長により薄膜を形成する際の基板(下地層)として用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
β−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、太陽電池材料等のデバイス材料として期待される。しかしながら、上述の非特許文献1に記載のものを始めとする従来の方法により形成されたβ−FeSi2は、所望とするβ−FeSi2以外の組成を有する結晶の生成及び多結晶化などの要因により、デバイス材料として応用するにはまだ不十分である。
【0008】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、β−FeSi2結晶を主相として含有し、デバイス材料への幅広い応用が可能となる新規な薄膜及びその製造方法の提供を目的とする。
【0009】
また、α−FeSi2結晶を含む薄膜は、その薄膜にα−FeSi2相以外の結晶相が含まれると、その結晶相の存在に起因して、上述の下地層として用いた場合に、結晶の良好なエピタキシャル成長を妨げる要因となる。ところが、従来、α−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、α−FeSi2結晶の形成を意図した場合であっても、別の鉄シリサイド結晶相であるε型鉄シリサイド(以下、「ε−FeSi」とも表記する。)結晶が副次的に形成してしまう。さらには、α−FeSi2結晶の配向性が高くない場合も、結晶の良好なエピタキシャル成長を妨げる要因となる。
【0010】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、α−FeSi2結晶を主相として含有し、ε−FeSi結晶の存在が十分に抑制され、かつ、α−FeSi2結晶の配向性が十分に高い新規な薄膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、β−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜を形成する際に、特定の金属元素を添加することにより、その薄膜がデバイス材料として有用なものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、β型鉄シリサイド結晶を主相として含有し、更にCuを含有する薄膜を提供する。この薄膜は、Cuが添加されていることにより、例えば、α型シリサイド(以下、「α−FeSi2」とも表記する。)結晶が共存している場合であっても、所定の処理を更に施すことで、β−FeSi2結晶に速やかに相転移させることが可能となる。α−FeSi2は非半導体であるため、薄膜がこの結晶を多く含んだ状態ではデバイス材料として応用し難いが、α−FeSi2結晶をβ−FeSi2結晶に相転移することで、デバイス材料として、より有効に応用することができる。
【0013】
本発明の薄膜は、下記式(1)で表される条件を満足する比率でCuを含有することが好ましい。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (1)
ここで、式(1)中、ACuはCuのモル数を示し、AFeはβ型鉄シリサイド結晶を構成するFeのモル数を示す。
【0014】
上記式(1)を満足するように、薄膜中のCuの組成比を調整すると、Cu自体に起因する薄膜の半導体固有物性の低下を一層抑制すると共に、β−FeSi2結晶のc軸配向性を更に向上させることができる。
【0015】
また、本発明の薄膜は、下記式(2)で表される条件を満足する比率でCuを含有することがより好ましい。
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (2)
これにより、本発明の薄膜は、上述の効果に加えて、α−FeSi2結晶の薄膜中での残存量を一層低減することができる。
【0016】
本発明の薄膜は、その薄膜の面内方向における粒径が0.5μm以上であるβ型鉄シリサイド結晶を含有することができる。かかる粒径のβ−FeSi2結晶を含有する薄膜は、従来作製できなかったが、本発明により初めて得られたものである。この薄膜は、粒界などのキャリア散乱/再結合因子が少ないので、半導体材料として、従来よりも有効に利用できる。
【0017】
本発明は、絶縁膜で挟まれてなり、Fe、Si及びCuを含有してなる原料薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融して中間薄膜を得る工程と、上記中間薄膜に対して、α型鉄シリサイド相からβ型鉄シリサイド相への相転移温度以下の温度でポストアニールを施す工程とを有する、β型鉄シリサイド結晶を主相とする薄膜の製造方法を提供する。
【0018】
β−FeSi2は一般的には、940℃以上の温度で金属相であるα−FeSi2に相転移する。そのため、溶融及び固化処理により直接β−FeSi2結晶が主に含有された薄膜を作製することは極めて困難である。一方、α−FeSi2は、Fe及びSiを主に含有する融液から直接結晶化させることができる。
【0019】
本発明の薄膜の製造方法によると、まず、Fe、Si及びCuを含有してなる原料薄膜をゾーンメルティング法によって溶融する。ゾーンメルティング(Zone melting)法は、原料薄膜の一部帯域(溶融ゾーン)を加熱溶融し、その溶融ゾーンを所定方向に移動させる方法である。この方法によると、移動方向の前方では原料薄膜が溶融し、後方では一旦溶融した原料薄膜が固化する。この溶融する工程を経ることにより、原料薄膜からα−FeSi2相を主に含有する中間薄膜が得られる。
【0020】
また、本発明者らは、本発明の製造方法において、ゾーンメルティング法を採用することにより、比較的欠陥の少ないα−FeSi2相を主相とし、面積の大きな連続膜を有する薄膜が形成されることを見出した。この点は、単なるアニール処理のみによって得られた薄膜が、小径のα−FeSi2結晶粒子の凝集体を構成することと大きく異なっている。なお、本明細書において「連続膜」とは、単結晶からなる膜を意味する。
【0021】
さらに、この工程において、原料薄膜を絶縁膜で挟んで、溶融することにより、生成するα−FeSi2結晶のc軸配向性が高くなることが判明した。α−FeSi2の結晶構造をc軸に垂直な方向から眺めた場合、Feのみからなる層とSiのみからなる層とがc軸に対して規則的に積層した層状構造とみなすことができる。本発明に係る溶融する工程では、中間薄膜の絶縁膜との界面でFeのみからなる層及びSiのみからなる層のいずれかが形成され、その層と絶縁膜との界面が非常に安定しているため、α−FeSi2結晶のc軸配向性が高くなると考えられる。ただし、要因はこれに限定されない。
【0022】
溶融する工程を経て固化した状態にある中間薄膜は、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への転移温度以下の温度でポストアニールを施される。これにより、中間薄膜中のα−FeSi2相がβ−FeSi2相に転移する。この際、本発明の製造方法では、薄膜に含まれるCuが有効に作用して、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への転移が促進されるため、β−FeSi2結晶を主相とする薄膜を製造することができる。
【0023】
また、上述のとおり、中間薄膜が、高いc軸配向性を示し、しかも欠陥の少ないα−FeSi2相を含み、かつ、面積の大きな連続膜を形成している。そのため、ポストアニールを施す工程後の薄膜も、それらの性質を引き継ぎ、高いc軸配向性を有し、欠陥の少ないβ−FeSi2相を含み、しかも面積の大きな連続膜を有している。これは、β−FeSi2とほぼ同程度の結晶密度を有するα−FeSi2の連続膜が形成され、しかも、α−FeSi2相が絶縁膜との間で非常に安定な界面を有していることで、ポストアニール時の島状構造化が抑制されるためとも考えられる。また、このようにして得られた、β−FeSi2結晶を主相として含有した薄膜は、その表面の起伏も少ない平坦性に優れたものである。
【0024】
上述のような複数の要因を複合的に組み合わせることにより、本発明の製造方法は、デバイス材料への幅広い応用が可能となる、β−FeSi2結晶を主相として含有した薄膜を生成することができる。
【0025】
本発明の製造方法において、原料薄膜は、下記式(3)で表される条件を満足する比率でCuを含有すると好ましい。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (3)
ここで、式中、ACuはCuのモル数を示し、AFeはFeのモル数を示す。
【0026】
上記式(3)を満足するように、原料薄膜中のCuの組成比を調整すると、最終的に得られるβ−FeSi2結晶を主相として含有した薄膜の、Cu自体に起因する半導体固有物性の低下を一層抑制する。また、β−FeSi2結晶のc軸配向性を更に向上させることができる。これは、溶融する工程の後に生成したα−FeSi2結晶のc軸配向性が更に高まったことに起因する。
【0027】
本発明の製造方法において、原料薄膜は、下記式(4)で表される条件を満足する比率でCuを含有することが好ましい。
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (4)
これによると、得られるβ−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、上述の効果に加えて、α−FeSi2結晶の薄膜中での残存量を一層低減したものとなる。
【0028】
本発明の製造方法において、上記ポストアニールの温度が800〜935℃であることが好ましい。ポストアニールをこの温度範囲内で行うことにより、ポストアニールを施す工程におけるα−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移を一層促進することが可能となる。これは、薄膜中のα−FeSi2相の低減効果と共に工程時間の短縮化にも繋がる。
【0029】
本発明の製造方法において、原料薄膜はアモルファス相を主相として含有すると好ましい。アモルファス相を主相として含有する原料薄膜をゾーンメルティング法により溶融固化させることで、低コストで大面積の連続膜を一段と容易に得ることができる。
【0030】
本発明の製造方法において、原料薄膜は、交互スパッタリングにより形成されていることが好ましい。これにより、原料薄膜の全体に亘ってCuの組成比が均一化し、Cuの局在化を更に抑制することができる。その結果、β−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、β−FeSi2結晶の局在化を一層有効に防止され、膜全体に亘ってより良好な連続膜となる。また、交互スパッタリングは、組成の異なる複数のターゲットを用いてスパッタリングを行うため、組成の調整を容易に行うことができる。
【0031】
本発明は、α型鉄シリサイド結晶を主相として含有し、下記式(5)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有する薄膜を提供する。
2.0≦(BSi/BFe)≦4.0 (5)
ここで、式中、Bsiは上記薄膜中のSiのモル数を示し、BFeは上記薄膜中のFeのモル数を示す。
【0032】
上記式(5)を満足するように、薄膜中のFeに対するSiのモル比(以下、「Si/Fe」という。)を調整すると、薄膜中のα−FeSi2とは異なる相を有する鉄シリサイドであるε−FeSiを十分に低減することができ、しかもα−FeSi2結晶の配向性を十分に高くすることができる。また、この薄膜において、α−FeSi2結晶の欠陥は非常に少ない。それらの結果、この本発明の薄膜を結晶膜形成の際の下地層として用いた場合、良好なエピタキシャル成長を進行させることができる。
【0033】
本発明の薄膜において、α型シリサイド結晶は、そのX線回折パターンにおける(002)面のピーク高さが、(001)面のピーク高さに対して50%以下であると好ましい。本発明によると、かかるc軸配向性の非常に高い薄膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、β−FeSi2結晶を主相として含有し、デバイス材料への幅広い応用が可能となる新規な薄膜及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、α−FeSi2結晶を主相として含有し、ε−FeSi結晶の存在が十分に抑制され、かつ、α−FeSi2結晶の配向性が十分に高い新規な薄膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0036】
本発明の第1実施形態に係る薄膜は、β−FeSi2結晶を主相として含有し、更にCuを含有するものである。図1に、β−FeSi2の結晶構造の模式図を示す。この図1から明らかなとおり、β−FeSi2は非常に複雑な結晶構造を有しており、この結晶構造がβ−FeSi2の光学物性に大きく影響するとも言われている。したがって、β−FeSi2結晶を含む薄膜を太陽電池等のデバイス材料へ利用する場合、粒界などのキャリア散乱/再結合因子の少ない大きな結晶粒からなり、かつ結晶内で歪や格子欠陥が最適に制御された薄膜である必要がある。本発明は、かかる薄膜を作製し得るものである。
【0037】
本実施形態の薄膜は、好適には、基板上に、絶縁膜で挟まれてなり、Fe、Si及びCuを含有してなる原料薄膜を設置して準備する工程(以下、「原料薄膜準備工程」という。)と、ゾーンメルティング法によって溶融及び結晶化して中間薄膜を得る工程(以下、「ゾーンメルティング工程」という。)と、中間薄膜に対して、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移温度以下の温度でポストアニールを施す工程(以下、「ポストアニール工程」という。)とを有するものである。
【0038】
原料薄膜準備工程では、例えば図2に示す積層体200を準備する。この積層体200は下記のようにして得られる。まず、基板210を用意する。基板210は、原料薄膜230を構成する材質よりも融点が高いものであれば特に限定されず、例えばSiウエハを用いることができる。
【0039】
次いで、基板210の表面上に下側の絶縁膜220を積層する。絶縁膜220は、絶縁性を示し、原料薄膜230を構成する材質よりも融点が高いものであれば特に限定されず、例えば金属酸化物が挙げられる。金属酸化物としては、例えば、シリカ(SiO2)、窒化ケイ素(SiN)、ジルコニア(ZrO2)及びアルミナ(Al2O3)が挙げられ、これらの中ではシリカが好ましい。
【0040】
絶縁膜220の成膜方法は、通常の結晶薄膜の成膜方法であれば特に限定されず、公知の薄膜製造技術を用いることができる。この成膜方法としては、例えば、スキージ法、スクリーンプリンティング法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等のCVD法が挙げられる。これらの中では、ゾーンメルティング工程における中間薄膜の結晶性を優れたものにする観点から、PVD法が好ましい。さらには、RFマグネトロンスパッタリング等のスパッタリング法がより好適である。
【0041】
次に、下側の絶縁膜220の表面上に原料薄膜230を形成する。原料薄膜230は、その材質として、Fe、Si及びCuを含有するものであり、その他の元素成分を微量含んでもよい。ただし、より高い結晶性を有する薄膜を得るためには、原料薄膜230は、Fe、Si及びCuからなるものであると好ましい。
【0042】
原料薄膜230は、下記式(3)で表される条件を満足する比率でCuを含有すると好適である。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (3)
ここで、式(3)中、ACuは原料薄膜230中のCuのモル数を示し、AFeは原料薄膜230中のFeのモル数を示す。上記式(3)を満足することにより、本実施形態の製造方法により得られる、β−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、Cuの含有量を低減することができる。それにより、Cuに起因する薄膜の半導体固有物性の低下を更に抑制することができる。また、β−FeSi2結晶のc軸配向性を更に向上させることができる。
【0043】
同様の観点から、原料薄膜230は、より好ましくは下記式(4)、更に好ましくは下記式(4a)、特に好ましくは下記式(4b)で表される条件を満足する比率でCuを含有する。
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (4)
0.02≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (4a)
0.02≦ACu/(AFe+ACu)≦0.10 (4b)
なお、ACu/(AFe+ACu)が上記下限値を下回ると、Cuの添加によるα−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移促進効果が低減する傾向にある。また、原料薄膜230がアモルファス状態にある場合、ACu/(AFe+ACu)が上記下限値以上であると、その状態からβ−FeSi2相への形成促進効果も認められる。
【0044】
原料薄膜230の成膜方法は、通常の結晶薄膜の成膜方法であれば特に限定されず、公知の薄膜製造技術を用いることができる。この成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法が挙げられる。これらの中では、RFスパッタリング等のスパッタリング法がより好適である。
【0045】
また、スパッタリング法の中でも、交互スパッタリング法によって原料薄膜230を成膜すると更に好ましい。これにより、原料薄膜230の全体に亘ってCuの組成比が均一化し、Cuの局在化を更に抑制することができる。その結果、β−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、β−FeSi2結晶の局在化を一層有効に防止され、膜全体に亘ってより良好な連続膜となる。また、交互スパッタリングは、組成の異なる複数のターゲットを用いてスパッタリングを行うため、組成の調整を容易に行うことができる。かかる観点から、スパッタリングのターゲットとして、Cuからなるターゲットと、Siからなるターゲット並びにFeからなるターゲット、Siからなるターゲット並びにSi及びFeからなるターゲット、あるいは、Si及びFeからなるターゲット及びFeからなるターゲットと、を併用することが更に好ましい。
【0046】
続いて、原料薄膜230の表面上に上側の絶縁膜240を設けて積層体200を得る。この絶縁膜240の材質、成膜方法及び膜厚は、上記の下側の絶縁膜220と同様であればよいので、ここでは説明を省略する。ただし、同じ積層体200中の下側の絶縁膜220及び上側の絶縁膜240は、必ずしも同じ材質、成膜方法及び膜厚である必要はなく、それぞれが異なっていてもよい。
【0047】
次に、ゾーンメルティング工程において、ゾーンメルティング法によって、原料薄膜230を溶融及び結晶化して中間薄膜を得る。本実施形態において、ゾーンメルティング法は、薄膜ゾーンメルティング法(Zone melting crystallization method、以下、「ZMC法」ともいう。)であると好ましい。ここで、「薄膜ゾーンメルティング法」とは、ヒーターで予備加熱した被処理膜上でラインヒーターを走査し、その被処理膜のみを順次帯状に溶融固化させる手法である。図3は、本実施形態のゾーンメルティング工程において使用できるZMC装置の概略図である。
【0048】
図3に示すZMC装置300は、上側を除く5面の壁面で包囲する直方体である筐体310と、その筐体310内で被処理膜である原料薄膜230を含む積層体200を配置するための支持台330と、その支持台330の下側に配置される下部ヒーター320と、支持台330の上側に配置され、上記筐体310が包囲していない1壁面を構成する石英プレート340と、石英プレートの上側に配置されるラインヒーター350と、を備えている。ラインヒーター350は、図3中の矢印方向に移動することができる。
【0049】
ゾーンメルティング工程において、まず積層体200が基板210を下側(下部ヒーター320側)にして支持台330上に配置される。
【0050】
この際、筐体310は、図中ではその一部が開放されているが、実際は、その筐体310と、石英プレート340とにより、下部ヒーター320、支持台330及び積層体200を外部と隔離することができ、その内側を所定の雰囲気に調整することもできる。筐体310内の雰囲気は、窒素、希ガス等の不活性ガス雰囲気、あるいは水素を含有するガス等の還元性ガス雰囲気であることが好ましく、不活性ガス雰囲気であることがより好ましい。これにより、原料薄膜230の酸化をより有効に防止することができる。
【0051】
次いで、下部ヒーター320により、支持台320を加熱することにより、間接的に積層体200を予備加熱(予熱)する。
【0052】
次に、ラインヒーター350を用い、石英プレート340を介して、輻射熱により積層体200を加熱する。この際、ラインヒーター350は積層体200の一部を帯状に加熱しながら、図中矢印方向に移動して、積層体200を走査することができる。ラインヒーター350により加熱された原料薄膜230の部分は溶融するが、ラインヒーター350が更に移動することにより冷却され固化する。こうして、Fe、Si及びCuを含有する原料薄膜230は、α−FeSi2結晶を主相として含有し、更にCuを含有する中間薄膜に転化する。
【0053】
ラインヒーター350による積層体200の加熱温度は、鉄シリサイドの融点以上、絶縁膜の融点未満であれば特に制限されない。また、ラインヒーター350の走査速度は、特に制限されないが、ラインヒーター350により加熱されている原料薄膜230の部分が過剰に加熱されて、原料薄膜230の形状の維持が困難となることがないように、かつ、原料薄膜230の加熱が不十分となり、溶融し難くなることがないように調整されればよい。
【0054】
次いで、ポストアニール工程において、原料薄膜230を中間薄膜に置換した状態にある積層体200に対して、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移温度以下の温度でポストアニールを施す。これにより、α−FeSi2結晶がβ−FeSi2結晶に相転移して、β−FeSi2結晶を主相として含有し、更にCuを含有する薄膜が得られる。
【0055】
この工程におけるアニール方法では、下部ヒーター320により積層体200を間接的に加熱して行ってもよく、あるいは、別の公知の加熱炉を用いて積層体200を加熱することにより行ってもよい。
【0056】
この工程におけるアニール温度は、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移温度以下の温度であれば特に限定されない。ここで、参考までに図4にFe−Si系の相図を示す(出典:binary alloy phase diagrams)。この図からも明らかなとおり、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移温度は、Si/Feによっても異なるため一義的には設定できない。ただし、アニール温度が800〜935℃であると、上記相転移をより促進することができ、α−FeSi2相の更なる低減並びに工程時間の一層の短縮化が可能となる。
【0057】
この工程におけるアニール雰囲気は、特に限定されない。更にアニール時間は、相転移に十分な時間であれば特に限定されない。
【0058】
こうして、中間薄膜が転化して得られた薄膜は、いわゆる結晶薄膜であり、β−FeSi2結晶を主相として含有し、Cuを更に含有する。本発明者らは、このようにして得られた薄膜において、少なくとも一部のβ−FeSi2結晶は、当該薄膜の面内方向における粒径が0.5μm以上であることをSEMにより確認でき、1μm以上のβ−FeSi2結晶、6μm以上のβ−FeSi2結晶を確認することもできた。
【0059】
また、得られた薄膜は、原料薄膜中の組成をほぼ保持するため、下記式(1)で表される条件を満足する比率でCuを含有し、より好適には下記式(2)、更に好適には下記式(2a)、特に好適には下記式(2b)で表される条件を満足する。ここで、式中、ACuはCuのモル数を示し、AFeはβ−FeSi2結晶を構成するFeのモル数を示す。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (1)
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (2)
0.02≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (2a)
0.02≦ACu/(AFe+ACu)≦0.10 (2b)
【0060】
こうして得られた、β−FeSi2結晶を主相として含有し、Cuを更に含有する結晶薄膜は太陽電池における光電変換材料等のデバイス材料として使用できる。β−FeSi2は直接遷移型半導体特性を示し、そのバンドギャップは0.83〜0.85eVとSiと比較して小さいため、Siでは未使用である近赤外領域での光キャリア生成が期待できる。また、可視光領域であれば105cm−1という、Siの約100倍に相当する高い光吸収係数を有している。
【0061】
一方で、β−FeSi2は電子−格子相互作用が大きく、大きなキャリア移動度が望めないことも知られており、半導体デバイスへの利用の際には、粒界などのキャリア散乱/再結合因子を極限まで排除しなければならない。また、β−FeSi2は単位胞中に48原子を含む非常に複雑な構造(斜方晶系、空間群Cmca、格子定数はa=0.986nm、b=0.779nm、c=0.783nm;歪んだ蛍石型構造)であるが故に歪みや格子欠陥が導入されやすい。このわずかな歪みや格子欠陥がβ−FeSi2の光学物性を左右するとも言われている。β−FeSi2は、実験的には直接遷移型特性を有するとされている。しかし、最近の精密な計算によると、歪みのない完全結晶であれば、β−FeSi2は、価電子帯エッジがY点、伝導帯エッジがΛ点に位置するY−Λ間接遷移型のバンド構造を持つとの結果が得られており、直接遷移型特性は結晶内での歪みによって発現しているとの見方が有力となっている。
【0062】
これらの点を考えると、β−FeSi2を単体で太陽電池の発電層等として使用とする場合には、結晶粒径が大きく、なおかつ結晶粒内で歪みや格子欠陥が制御された状態の超薄膜を作成する必要がある。上述の本実施形態の薄膜は、従来のものと比較して、結晶粒径が大きく、結晶粒内で歪みや格子欠陥が低減されているため、太陽電池の発電層等として有用である。
【0063】
次に、本発明の第2実施形態に係る薄膜について説明する。この第2実施形態に係る薄膜は、α−FeSi2結晶を主相として含有し、下記式(5)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有するものである。
2.0≦(BSi/BFe)≦4.0 (5)
ここで、式(5)中、Bsiは薄膜中のSiのモル数を示し、BFeは薄膜中のFeのモル数を示す。
【0064】
本実施形態の薄膜は、好適には、基板上に、絶縁膜で挟まれてなり、Fe及びSiを上記式(5)で表される条件を満足するように含有してなる原料薄膜を設置して準備する工程(以下、「原料薄膜準備工程」という。)と、ゾーンメルティング法によって溶融及び結晶化して薄膜を得る工程(以下、「ゾーンメルティング工程」という。)とを有するものである。
【0065】
原料薄膜準備工程では、図2に示す積層体において、原料薄膜230を、本実施形態の原料薄膜に置換した積層体を準備すればよい。
【0066】
本実施形態の原料薄膜は、その材質として、Fe及びSiを含有するものであり、その他の元素成分を微量含んでもよい。ただし、より結晶の配向性が高く、不純物を低減させるためには、この原料薄膜は、Fe及びSiからなるものであると好ましい。
【0067】
本実施形態の原料薄膜は、下記式(8)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有するものである。
2.0≦(BSi/BFe)≦4.0 (8)
ここで、式(8)中、Bsiは原料薄膜中のSiのモル数を示し、BFeは原料薄膜中のFeのモル数を示す。原料薄膜が上記式(8)を満足することにより、本実施形態の製造方法により得られる、α−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、容易に、ε−FeSi結晶の存在を十分に低減することができ、しかも、α−FeSi2結晶の配向性を十分に高くすることができる。同様の観点から、本実施形態の原料薄膜は、好ましくは下記式(8a)、より好ましくは下記式(8b)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有するものである。
2.3≦(BSi/BFe)≦4.0 (8a)
2.3≦(BSi/BFe)≦2.7 (8b)
式(8a)、(8b)中、BSi及びBFeは上記式(8)におけるものと同義である。
【0068】
本実施形態の原料薄膜の成膜方法は、通常の結晶薄膜の成膜方法であれば特に限定されず、公知の薄膜製造技術を用いることができる。この成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法が挙げられる。これらの中では、RFスパッタリング等のスパッタリング法がより好適である。
【0069】
次に、ゾーンメルティング工程において、ゾーンメルティング法によって、上記原料薄膜を溶融及び結晶化して、α−FeSi2結晶を主相として含有し、上記式(5)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有する結晶薄膜が得られる。本実施形態のゾーンメルティング法は、積層体200を本実施形態におけるものに置換する点、並びにラインヒーター350による積層体の加熱温度を下記のように変更することを除いて、第1実施形態におけるものと同様であればよい。
【0070】
本実施形態におけるラインヒーター350による積層体の加熱温度は、鉄シリサイドの融点以上、絶縁膜の融点未満であれば特に制限されない。
【0071】
こうして得られた薄膜は、そこに含有されるα−FeSi2のc軸配向性が非常に高く、そのX線回折パターンにおける(002)面のピーク高さが、(001)面のピーク高さに対して50%以下であることを本発明者らは確認し、さらには、そのX線回折パターンにおける(002)面のピーク高さが、(001)面のピーク高さに対して10%以下であること、及び1%以下であることも確認した。
【0072】
また、得られた薄膜は、原料薄膜中の組成をほぼ保持するため、好適には下記式(5a)、更に好適には下記式(5b)で表される条件を満足する。
2.3≦(BSi/BFe)≦4.0 (5a)
2.3≦(BSi/BFe)≦2.7 (5b)
式(5a)、(5b)中、BSi及びBFeは上記式(5)におけるものと同義である。
【0073】
本実施形態により得られる薄膜は、薄膜中のα−FeSi2とは異なる相を有する鉄シリサイドであるε−FeSi結晶、並びにSi結晶を十分に低減することができる。これは、原料薄膜中のSi/Feを上記数値範囲内に調整すると共に、本実施形態に係るゾーンメルティング法を採用することにより、α−FeSi2結晶が単独で析出し、ε−FeSi結晶及びSi結晶の共析を十分に抑制できることに起因する。
【0074】
また、本実施形態により得られる薄膜は、α−FeSi2結晶の配向性を十分に高くすることができる。本発明者らは得られた薄膜のX線回折パターンから、α−FeSi2結晶の一次粒子径を導出したところ、薄膜中のα−FeSi2は、膜厚の60%程度までc軸方向に成長した状態となっていることが示唆された。α−FeSi2結晶の構造をc軸に垂直な方向から眺めてみる場合、Feのみからなる層とSiのみからなる層がc軸に対して規則的に積層した層状構造とみなすことができる。このことから、得られた薄膜は、原料薄膜を挟んでいた上下の絶縁膜との界面にFeのみからなる層、又はSiのみからなる層のいずれかが形成されており、その界面が非常に安定であるため、薄膜の配向性が高くなると推測される。
【0075】
また、この薄膜において、α−FeSi2結晶の欠陥は非常に少ない。
【0076】
本実施形態による薄膜は、結晶薄膜形成用の基板(下地層)として好適に用いられる。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0078】
例えば、本発明の別の実施形態では、本発明の目的を達成できる限度において、得られる薄膜中にFe、Si及びCu以外の元素が微量添加されていてもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
[積層体の作製(原料薄膜準備工程)]
まず、基板としてSiウエハ(nタイプ、<100>配向−1°off、25mm×60mm×0.55mmの矩形基板)を準備した。次いで、その基板上に下側の絶縁膜としてシリカ膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして純度99.99%のシリカディスク(Furuuchi chemical co.社製)を用い、雰囲気はAr雰囲気、5×10−3torr、RF電源出力400Wの条件で行った。得られたシリカ膜の膜厚は約0.8μmであった。
【0081】
次に、下側の絶縁膜の表面上に原料薄膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして、純度99.99%のシリカディスク(Furuuchi chemical co.社製)、純度99.99%のFeSi2ディスク(KojundoChemical Lab. Co., Ltd社製)及び純度99.99%のCuディスク(Furuuchichmical co.社製)を用い、雰囲気はAr雰囲気、8×10−3torr、RF電源出力30〜100Wの条件の下、原料薄膜中の各元素のモル比が、AFe:ASi:ACu=0.98:0.02:1.98となるよう交互スパッタリングで行った。得られた原料薄膜の膜厚は約0.3μmであった。
【0082】
続いて、原料薄膜の表面上に、上側の絶縁膜としてシリカ膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により積層した。スパッタリングの条件は下側の絶縁膜と同様とした。得られたシリカ膜の膜厚は約1.6μmであった。こうして積層体を得た。
【0083】
[ゾーンメルティング工程]
得られた積層体に対して、図3に示したものと同様の構成を備えるZMC装置を用いて、以下のようにしてゾーンメルティングを施した。まず、筐体内の支持台上に積層体を配置した。続いて、筐体内に大気圧で窒素を流通し、窒素雰囲気にした。次に、下部ヒーターを用いて、昇温速度30℃/minにて、積層体表面が1000℃になるまで加熱した。なお、積層体表面の温度は放射温度計により測定した。そして、その温度で5〜10分保持することにより、積層体の予備加熱を行った。
【0084】
次に、下部ヒーターでの加熱を停止し、ラインヒーターで積層体を照射して、輻射熱により積層体の一部を帯状に加熱しつつ、ラインヒーターを1mm/secの速度で走査した。ラインヒーターの出力は、積層体における原料薄膜が溶融するように調節した。ラインヒーターの走査が終了した後、窒素雰囲気を維持して自然放冷した。これにより、原料薄膜が中間薄膜に転化した。
【0085】
[ポストアニール工程]
続いて、ゾーンメルティング工程後の積層体を、ZMC装置から取り出し、窒素流通により窒素雰囲気を保持できる加熱炉に収容した。次いで、大気圧、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minにて、積層体を930℃まで加熱した後、その温度で20時間保持し、その後、一旦自然放冷を行った。続いて、大気圧、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minにて、積層体を800℃まで加熱した後、その温度で20時間保持し、その後、自然放冷を行った。こうして、結晶薄膜を得た。
【0086】
(実施例2)
積層体の作製を下記のようにして行った以外は、実施例1と同様にして結晶薄膜を得た。すなわち、まず、基板としてSiウエハを準備し、次いで、その基板上に下側の絶縁膜としてシリカ膜を形成するまでは実施例1と同様にした。
【0087】
次に、下側の絶縁膜の表面上に原料薄膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして、純度99.99999%のシリカディスク(Furuuchi chemical co.社製)、純度99.999%のFeチップ(Toho zinc.co., ltd社製)及び純度99.99%のCuディスク(Furuuchichmical co.社製)を用い、雰囲気はAr雰囲気、8×10−3torr、RF電源出力30〜100Wの条件の下、原料薄膜中の各元素のモル比が、AFe:ASi:ACu=0.70:0.30:2.20となるよう交互スパッタリングで行った。得られた原料薄膜の膜厚は約0.5μmであった。
【0088】
続いて、原料薄膜の表面上に、上側の絶縁膜としてシリカ膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により積層した。スパッタリングの条件は下側の絶縁膜と同様とした。得られたシリカ膜の膜厚は約1.3μmであった。こうして積層体を得た。
【0089】
(比較例1)
ゾーンメルティング工程を経なかった以外は、実施例2と同様にして、積層体を得た。
【0090】
<X線回折測定>
得られた結晶薄膜を備えた積層体について、X線回折測定装置(RIGAKU社製、商品名「RINT2000」)を用いて、X線回折測定を行った。測定条件は以下のとおりとした。得られたX線回折パターンを図5、6に示す。図5(a)は実施例1、図5(b)及び図6(a)は実施例2、図6(b)は比較例1に係るX線回折パターンをそれぞれ示す。
測定条件:管電圧=40kV、管電流=30mA、走査速度=5°/min、X線=FeKα線(1937Å)、Kβ除去=Mnフィルター(モノクロなし)、発散スリット=1deg、散乱スリット=1deg、受光スリット=0.3mm。
【0091】
実施例1で得られた結晶薄膜は、α−FeSi2相に基づくピークが認められたものの、Cuを添加しない場合(例えば、後述の図9)と対比すると、α−FeSi2相に基づくピークは劇的に減少し、代わってβ−FeSi2相に基づくピークが強い強度で確認された。更に実施例2で得られた結晶薄膜では、α−FeSi2相に基づくピークが認められず、β−FeSi2相に基づくピークが顕著に現れていることが確認できた。また、実施例1におけるα−FeSi2相はc軸配向性が高くなっている。これらのことから、c軸配向性の高いα−FeSi2であっても、Cuを添加したことにより、β−FeSi2相への相転移が促進されたことが示唆された。
【0092】
また、実施例1、2とも、β−FeSi2相の(202)面及び(220)面に基づく回折が強く現れている。このことより、c軸配向性の高いα−FeSi2相から、同じくc軸配向性の高いβ−FeSi2相が形成されたことが示唆された。
【0093】
更に、比較例1との対比から、ゾーンメルティング工程を経た実施例2の結晶薄膜の方が、よりc軸配向性の高いβ−FeSi2相を確認できる。また、実施例2のX線回折パターンでは、微小なSiに基づくピークが現れているが、これは、α−FeSi2相が共析型の転移過程を経て、β相に転化したためと考えられる。
【0094】
<SEM観察>
実施例2及び比較例1で得られた結晶薄膜を備えた積層体の断面を、SEM(装置:JEOL社製、商品名「JSM−6460」)により観察した。観察条件は以下のとおりとした。得られたSEM写真を図7に示す。図7は実施例2、図8は比較例1に係るSEM写真である。
観察条件:加速電圧=15kV、真空度=0.1mPaオーダー、導電処理なし、倍率=10000倍。
【0095】
実施例2に係る図7のSEM写真では、連続膜の膜内方向における粒径が6μmを越えていることが確認できる。一方、比較例1に係る図8のSEM写真では、数百nmの粒径を有する結晶粒子が凝集して充填されたような状態になっていることが確認できた。
【0096】
(実施例3)
[積層体の作製(原料薄膜準備工程)]
まず、基板としてSiウエハ(nタイプ、<100>配向−1°off、25mm×60mm×0.55mmの矩形基板)を準備した。次いで、その基板上に下側の絶縁膜としてシリカ膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして純度99.99%のシリカディスク(Furuuchi chemical co.社製)を用い、雰囲気はAr雰囲気、5×10−3torr、RF電源出力400Wの条件で行った。得られたシリカ膜の膜厚は約0.7μmであった。
【0097】
次に、下側の絶縁膜の表面上に原料薄膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして、純度99.99%のFeSi2ディスク(Kojundo Chemical Lab. Co., Ltd社製)を用い、雰囲気はAr雰囲気、8×10−3torr、RF電源出力50Wの条件の下、原料薄膜中の各元素のモル比が、BFe:BSi=1.00:1.98(すなわち1.0:2.0)となるよう行った。得られた原料薄膜の膜厚は約0.4μmであった。
【0098】
続いて、原料薄膜の表面上に、上側の絶縁膜としてシリカ膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により積層した。スパッタリングの条件は下側の絶縁膜と同様とした。得られたシリカ膜の膜厚は約1.8μmであった。こうして積層体を得た。
【0099】
[ゾーンメルティング工程]
得られた積層体に対して、図3に示したものと同様の構成を備えるZMC装置を用いて、以下のようにしてゾーンメルティングを施した。まず、筐体内の支持台上に積層体を配置した。続いて、筐体内に大気圧で窒素を流通し、窒素雰囲気にした。次に、下部ヒーターを用いて、昇温速度30℃/minにて、積層体表面が1000℃になるまで加熱した。なお、積層体表面の温度は放射温度計により測定した。そして、その温度で5〜10分保持することにより、積層体の予備加熱を行った。
【0100】
次に、下部ヒーターでの加熱を停止し、ラインヒーターで積層体を照射して、輻射熱により積層体の一部を帯状に加熱しつつ、ラインヒーターを1mm/secの速度で走査した。ラインヒーターの出力は、積層体における原料薄膜が溶融するように調節した。ラインヒーターの走査が終了した後、窒素雰囲気を維持して自然放冷した。これにより、結晶薄膜を得た。
【0101】
(比較例2)
ゾーンメルティング工程に代えて、原料薄膜を備える積層体に対して、図3に示したものと同様の構成を備えるZMC装置を用いて、以下のようにして加熱を施した以外は、実施例3と同様にした。すなわち、まず、筐体内の支持台上に積層体を配置した。続いて、筐体内に大気圧で窒素を流通し、窒素雰囲気にした。次に、下部ヒーターを用いて、昇温速度30℃/minにて、積層体表面が1000℃になるまで加熱した。なお、積層体表面の温度は放射温度計により測定した。そして、その温度で10分保持した後、自然放冷して結晶薄膜を得た。
【0102】
実施例3及び比較例2に係る結晶薄膜を備える積層体について、上記と同様にしてX線回折測定を行った。得られたX線回折パターンを図9、10に示す。図10(a)は実施例3、図10(b)は(a)の一部を拡大したもの、図9は比較例2に係るX線回折パターンをそれぞれ示す。図9では、α−FeSi2相のみでなく、ε−FeSi相に基づくピークが明確に認められるのに対して、図10では、α−FeSi2相に基づくピークが強く出ている一方、ε−FeSi相に基づくピークがほとんど認められなかった。また、図9では、全体的にピーク強度が弱く、多結晶の状態であるのに対し、図10では、極めてc軸配向性の高いα−FeSi2の大きな連続膜が得られたことを示していた。
【0103】
実施例3に係る結晶薄膜を備える積層体について、上記と同様にしてSEM観察を行った。そのSEM写真を図12に示す。また、参考として加熱していない積層体のSEM写真を図11に示す。これらの図より、実施例3に係る結晶薄膜が、極めて結晶性が高く、大きな連続膜を形成していることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】β−FeSi2の結晶構造の模式図である。
【図2】実施形態に係る積層体の模式断面図である。
【図3】実施形態のゾーンメルティング工程において使用できるZMC装置の概略斜視図である。
【図4】Fe−Si系の相図である。
【図5】実施例に係る結晶薄膜のX線回折パターンである。
【図6】比較例に係る結晶薄膜のX線回折パターンである。
【図7】実施例に係る積層体のSEM写真である。
【図8】比較例に係る積層体のSEM写真である。
【図9】比較例に係る結晶薄膜のX線回折パターンである。
【図10】実施例に係る結晶薄膜のX線回折パターンである。
【図11】参考用の積層体のSEM写真である。
【図12】実施例に係る積層体のSEM写真である。
【符号の説明】
【0105】
200…積層体、210…基板、220、240…絶縁膜、230…原料薄膜、300…ZMC装置、310…筐体、320…下部ヒーター、330…支持台、340…石英プレート、350…ラインヒーター。
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄シリサイド結晶を含有する新規な薄膜及びその薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池等に組み込まれる薄膜状のデバイス材料として、従来、Siが広く研究されてきた。ところが、Siに関する研究は成熟しているにも関わらず、所望とされる半導体固有物性を得るにはまだ不十分であり、Siを用いて、これ以上に薄膜の物性を向上させるのは困難であると考えられる。
【0003】
そこで、Ge、GaAsに代表されるいわゆるIII−V化合物系、ZnTeなどのII−VI化合物系など、半導体固有物性の点でSiよりも優れている材料が近年開発されている。しかし、これらの材料は環境安全性や資源供給性等の点でSiよりも不利であり、大規模利用への用途展開は困難である。
【0004】
ところで、β型鉄シリサイド(以下、「β−FeSi2」とも表記する。)は、数あるFe−Si系化合物の中で、唯一半導体を形成し得るものである。このβ−FeSi2は環境負荷が小さく、資源供給性にも優れた半導体材料として、最近非常に注目を集めている。
【0005】
従来、β−FeSi2結晶を含有する薄膜及びα−FeSi2結晶を含有する薄膜として、固相溶融エピタキシー法(SPE)、高周波堆積エピタキシー法(RDE)、分子線エピタキシー法(MBE)、イオン注入法(IBS)、レーザーアブレーション法(PLD)など、様々な方法により形成されたものが検討されている。
【0006】
また、α型鉄シリサイド(以下、「α−FeSi2」とも標記する。)の薄膜は、結晶のエピタキシャル成長により薄膜を形成する際の基板(下地層)として用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
β−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、太陽電池材料等のデバイス材料として期待される。しかしながら、上述の非特許文献1に記載のものを始めとする従来の方法により形成されたβ−FeSi2は、所望とするβ−FeSi2以外の組成を有する結晶の生成及び多結晶化などの要因により、デバイス材料として応用するにはまだ不十分である。
【0008】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、β−FeSi2結晶を主相として含有し、デバイス材料への幅広い応用が可能となる新規な薄膜及びその製造方法の提供を目的とする。
【0009】
また、α−FeSi2結晶を含む薄膜は、その薄膜にα−FeSi2相以外の結晶相が含まれると、その結晶相の存在に起因して、上述の下地層として用いた場合に、結晶の良好なエピタキシャル成長を妨げる要因となる。ところが、従来、α−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、α−FeSi2結晶の形成を意図した場合であっても、別の鉄シリサイド結晶相であるε型鉄シリサイド(以下、「ε−FeSi」とも表記する。)結晶が副次的に形成してしまう。さらには、α−FeSi2結晶の配向性が高くない場合も、結晶の良好なエピタキシャル成長を妨げる要因となる。
【0010】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、α−FeSi2結晶を主相として含有し、ε−FeSi結晶の存在が十分に抑制され、かつ、α−FeSi2結晶の配向性が十分に高い新規な薄膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、β−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜を形成する際に、特定の金属元素を添加することにより、その薄膜がデバイス材料として有用なものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、β型鉄シリサイド結晶を主相として含有し、更にCuを含有する薄膜を提供する。この薄膜は、Cuが添加されていることにより、例えば、α型シリサイド(以下、「α−FeSi2」とも表記する。)結晶が共存している場合であっても、所定の処理を更に施すことで、β−FeSi2結晶に速やかに相転移させることが可能となる。α−FeSi2は非半導体であるため、薄膜がこの結晶を多く含んだ状態ではデバイス材料として応用し難いが、α−FeSi2結晶をβ−FeSi2結晶に相転移することで、デバイス材料として、より有効に応用することができる。
【0013】
本発明の薄膜は、下記式(1)で表される条件を満足する比率でCuを含有することが好ましい。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (1)
ここで、式(1)中、ACuはCuのモル数を示し、AFeはβ型鉄シリサイド結晶を構成するFeのモル数を示す。
【0014】
上記式(1)を満足するように、薄膜中のCuの組成比を調整すると、Cu自体に起因する薄膜の半導体固有物性の低下を一層抑制すると共に、β−FeSi2結晶のc軸配向性を更に向上させることができる。
【0015】
また、本発明の薄膜は、下記式(2)で表される条件を満足する比率でCuを含有することがより好ましい。
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (2)
これにより、本発明の薄膜は、上述の効果に加えて、α−FeSi2結晶の薄膜中での残存量を一層低減することができる。
【0016】
本発明の薄膜は、その薄膜の面内方向における粒径が0.5μm以上であるβ型鉄シリサイド結晶を含有することができる。かかる粒径のβ−FeSi2結晶を含有する薄膜は、従来作製できなかったが、本発明により初めて得られたものである。この薄膜は、粒界などのキャリア散乱/再結合因子が少ないので、半導体材料として、従来よりも有効に利用できる。
【0017】
本発明は、絶縁膜で挟まれてなり、Fe、Si及びCuを含有してなる原料薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融して中間薄膜を得る工程と、上記中間薄膜に対して、α型鉄シリサイド相からβ型鉄シリサイド相への相転移温度以下の温度でポストアニールを施す工程とを有する、β型鉄シリサイド結晶を主相とする薄膜の製造方法を提供する。
【0018】
β−FeSi2は一般的には、940℃以上の温度で金属相であるα−FeSi2に相転移する。そのため、溶融及び固化処理により直接β−FeSi2結晶が主に含有された薄膜を作製することは極めて困難である。一方、α−FeSi2は、Fe及びSiを主に含有する融液から直接結晶化させることができる。
【0019】
本発明の薄膜の製造方法によると、まず、Fe、Si及びCuを含有してなる原料薄膜をゾーンメルティング法によって溶融する。ゾーンメルティング(Zone melting)法は、原料薄膜の一部帯域(溶融ゾーン)を加熱溶融し、その溶融ゾーンを所定方向に移動させる方法である。この方法によると、移動方向の前方では原料薄膜が溶融し、後方では一旦溶融した原料薄膜が固化する。この溶融する工程を経ることにより、原料薄膜からα−FeSi2相を主に含有する中間薄膜が得られる。
【0020】
また、本発明者らは、本発明の製造方法において、ゾーンメルティング法を採用することにより、比較的欠陥の少ないα−FeSi2相を主相とし、面積の大きな連続膜を有する薄膜が形成されることを見出した。この点は、単なるアニール処理のみによって得られた薄膜が、小径のα−FeSi2結晶粒子の凝集体を構成することと大きく異なっている。なお、本明細書において「連続膜」とは、単結晶からなる膜を意味する。
【0021】
さらに、この工程において、原料薄膜を絶縁膜で挟んで、溶融することにより、生成するα−FeSi2結晶のc軸配向性が高くなることが判明した。α−FeSi2の結晶構造をc軸に垂直な方向から眺めた場合、Feのみからなる層とSiのみからなる層とがc軸に対して規則的に積層した層状構造とみなすことができる。本発明に係る溶融する工程では、中間薄膜の絶縁膜との界面でFeのみからなる層及びSiのみからなる層のいずれかが形成され、その層と絶縁膜との界面が非常に安定しているため、α−FeSi2結晶のc軸配向性が高くなると考えられる。ただし、要因はこれに限定されない。
【0022】
溶融する工程を経て固化した状態にある中間薄膜は、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への転移温度以下の温度でポストアニールを施される。これにより、中間薄膜中のα−FeSi2相がβ−FeSi2相に転移する。この際、本発明の製造方法では、薄膜に含まれるCuが有効に作用して、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への転移が促進されるため、β−FeSi2結晶を主相とする薄膜を製造することができる。
【0023】
また、上述のとおり、中間薄膜が、高いc軸配向性を示し、しかも欠陥の少ないα−FeSi2相を含み、かつ、面積の大きな連続膜を形成している。そのため、ポストアニールを施す工程後の薄膜も、それらの性質を引き継ぎ、高いc軸配向性を有し、欠陥の少ないβ−FeSi2相を含み、しかも面積の大きな連続膜を有している。これは、β−FeSi2とほぼ同程度の結晶密度を有するα−FeSi2の連続膜が形成され、しかも、α−FeSi2相が絶縁膜との間で非常に安定な界面を有していることで、ポストアニール時の島状構造化が抑制されるためとも考えられる。また、このようにして得られた、β−FeSi2結晶を主相として含有した薄膜は、その表面の起伏も少ない平坦性に優れたものである。
【0024】
上述のような複数の要因を複合的に組み合わせることにより、本発明の製造方法は、デバイス材料への幅広い応用が可能となる、β−FeSi2結晶を主相として含有した薄膜を生成することができる。
【0025】
本発明の製造方法において、原料薄膜は、下記式(3)で表される条件を満足する比率でCuを含有すると好ましい。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (3)
ここで、式中、ACuはCuのモル数を示し、AFeはFeのモル数を示す。
【0026】
上記式(3)を満足するように、原料薄膜中のCuの組成比を調整すると、最終的に得られるβ−FeSi2結晶を主相として含有した薄膜の、Cu自体に起因する半導体固有物性の低下を一層抑制する。また、β−FeSi2結晶のc軸配向性を更に向上させることができる。これは、溶融する工程の後に生成したα−FeSi2結晶のc軸配向性が更に高まったことに起因する。
【0027】
本発明の製造方法において、原料薄膜は、下記式(4)で表される条件を満足する比率でCuを含有することが好ましい。
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (4)
これによると、得られるβ−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、上述の効果に加えて、α−FeSi2結晶の薄膜中での残存量を一層低減したものとなる。
【0028】
本発明の製造方法において、上記ポストアニールの温度が800〜935℃であることが好ましい。ポストアニールをこの温度範囲内で行うことにより、ポストアニールを施す工程におけるα−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移を一層促進することが可能となる。これは、薄膜中のα−FeSi2相の低減効果と共に工程時間の短縮化にも繋がる。
【0029】
本発明の製造方法において、原料薄膜はアモルファス相を主相として含有すると好ましい。アモルファス相を主相として含有する原料薄膜をゾーンメルティング法により溶融固化させることで、低コストで大面積の連続膜を一段と容易に得ることができる。
【0030】
本発明の製造方法において、原料薄膜は、交互スパッタリングにより形成されていることが好ましい。これにより、原料薄膜の全体に亘ってCuの組成比が均一化し、Cuの局在化を更に抑制することができる。その結果、β−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、β−FeSi2結晶の局在化を一層有効に防止され、膜全体に亘ってより良好な連続膜となる。また、交互スパッタリングは、組成の異なる複数のターゲットを用いてスパッタリングを行うため、組成の調整を容易に行うことができる。
【0031】
本発明は、α型鉄シリサイド結晶を主相として含有し、下記式(5)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有する薄膜を提供する。
2.0≦(BSi/BFe)≦4.0 (5)
ここで、式中、Bsiは上記薄膜中のSiのモル数を示し、BFeは上記薄膜中のFeのモル数を示す。
【0032】
上記式(5)を満足するように、薄膜中のFeに対するSiのモル比(以下、「Si/Fe」という。)を調整すると、薄膜中のα−FeSi2とは異なる相を有する鉄シリサイドであるε−FeSiを十分に低減することができ、しかもα−FeSi2結晶の配向性を十分に高くすることができる。また、この薄膜において、α−FeSi2結晶の欠陥は非常に少ない。それらの結果、この本発明の薄膜を結晶膜形成の際の下地層として用いた場合、良好なエピタキシャル成長を進行させることができる。
【0033】
本発明の薄膜において、α型シリサイド結晶は、そのX線回折パターンにおける(002)面のピーク高さが、(001)面のピーク高さに対して50%以下であると好ましい。本発明によると、かかるc軸配向性の非常に高い薄膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、β−FeSi2結晶を主相として含有し、デバイス材料への幅広い応用が可能となる新規な薄膜及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、α−FeSi2結晶を主相として含有し、ε−FeSi結晶の存在が十分に抑制され、かつ、α−FeSi2結晶の配向性が十分に高い新規な薄膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0036】
本発明の第1実施形態に係る薄膜は、β−FeSi2結晶を主相として含有し、更にCuを含有するものである。図1に、β−FeSi2の結晶構造の模式図を示す。この図1から明らかなとおり、β−FeSi2は非常に複雑な結晶構造を有しており、この結晶構造がβ−FeSi2の光学物性に大きく影響するとも言われている。したがって、β−FeSi2結晶を含む薄膜を太陽電池等のデバイス材料へ利用する場合、粒界などのキャリア散乱/再結合因子の少ない大きな結晶粒からなり、かつ結晶内で歪や格子欠陥が最適に制御された薄膜である必要がある。本発明は、かかる薄膜を作製し得るものである。
【0037】
本実施形態の薄膜は、好適には、基板上に、絶縁膜で挟まれてなり、Fe、Si及びCuを含有してなる原料薄膜を設置して準備する工程(以下、「原料薄膜準備工程」という。)と、ゾーンメルティング法によって溶融及び結晶化して中間薄膜を得る工程(以下、「ゾーンメルティング工程」という。)と、中間薄膜に対して、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移温度以下の温度でポストアニールを施す工程(以下、「ポストアニール工程」という。)とを有するものである。
【0038】
原料薄膜準備工程では、例えば図2に示す積層体200を準備する。この積層体200は下記のようにして得られる。まず、基板210を用意する。基板210は、原料薄膜230を構成する材質よりも融点が高いものであれば特に限定されず、例えばSiウエハを用いることができる。
【0039】
次いで、基板210の表面上に下側の絶縁膜220を積層する。絶縁膜220は、絶縁性を示し、原料薄膜230を構成する材質よりも融点が高いものであれば特に限定されず、例えば金属酸化物が挙げられる。金属酸化物としては、例えば、シリカ(SiO2)、窒化ケイ素(SiN)、ジルコニア(ZrO2)及びアルミナ(Al2O3)が挙げられ、これらの中ではシリカが好ましい。
【0040】
絶縁膜220の成膜方法は、通常の結晶薄膜の成膜方法であれば特に限定されず、公知の薄膜製造技術を用いることができる。この成膜方法としては、例えば、スキージ法、スクリーンプリンティング法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等のCVD法が挙げられる。これらの中では、ゾーンメルティング工程における中間薄膜の結晶性を優れたものにする観点から、PVD法が好ましい。さらには、RFマグネトロンスパッタリング等のスパッタリング法がより好適である。
【0041】
次に、下側の絶縁膜220の表面上に原料薄膜230を形成する。原料薄膜230は、その材質として、Fe、Si及びCuを含有するものであり、その他の元素成分を微量含んでもよい。ただし、より高い結晶性を有する薄膜を得るためには、原料薄膜230は、Fe、Si及びCuからなるものであると好ましい。
【0042】
原料薄膜230は、下記式(3)で表される条件を満足する比率でCuを含有すると好適である。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (3)
ここで、式(3)中、ACuは原料薄膜230中のCuのモル数を示し、AFeは原料薄膜230中のFeのモル数を示す。上記式(3)を満足することにより、本実施形態の製造方法により得られる、β−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、Cuの含有量を低減することができる。それにより、Cuに起因する薄膜の半導体固有物性の低下を更に抑制することができる。また、β−FeSi2結晶のc軸配向性を更に向上させることができる。
【0043】
同様の観点から、原料薄膜230は、より好ましくは下記式(4)、更に好ましくは下記式(4a)、特に好ましくは下記式(4b)で表される条件を満足する比率でCuを含有する。
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (4)
0.02≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (4a)
0.02≦ACu/(AFe+ACu)≦0.10 (4b)
なお、ACu/(AFe+ACu)が上記下限値を下回ると、Cuの添加によるα−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移促進効果が低減する傾向にある。また、原料薄膜230がアモルファス状態にある場合、ACu/(AFe+ACu)が上記下限値以上であると、その状態からβ−FeSi2相への形成促進効果も認められる。
【0044】
原料薄膜230の成膜方法は、通常の結晶薄膜の成膜方法であれば特に限定されず、公知の薄膜製造技術を用いることができる。この成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法が挙げられる。これらの中では、RFスパッタリング等のスパッタリング法がより好適である。
【0045】
また、スパッタリング法の中でも、交互スパッタリング法によって原料薄膜230を成膜すると更に好ましい。これにより、原料薄膜230の全体に亘ってCuの組成比が均一化し、Cuの局在化を更に抑制することができる。その結果、β−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、β−FeSi2結晶の局在化を一層有効に防止され、膜全体に亘ってより良好な連続膜となる。また、交互スパッタリングは、組成の異なる複数のターゲットを用いてスパッタリングを行うため、組成の調整を容易に行うことができる。かかる観点から、スパッタリングのターゲットとして、Cuからなるターゲットと、Siからなるターゲット並びにFeからなるターゲット、Siからなるターゲット並びにSi及びFeからなるターゲット、あるいは、Si及びFeからなるターゲット及びFeからなるターゲットと、を併用することが更に好ましい。
【0046】
続いて、原料薄膜230の表面上に上側の絶縁膜240を設けて積層体200を得る。この絶縁膜240の材質、成膜方法及び膜厚は、上記の下側の絶縁膜220と同様であればよいので、ここでは説明を省略する。ただし、同じ積層体200中の下側の絶縁膜220及び上側の絶縁膜240は、必ずしも同じ材質、成膜方法及び膜厚である必要はなく、それぞれが異なっていてもよい。
【0047】
次に、ゾーンメルティング工程において、ゾーンメルティング法によって、原料薄膜230を溶融及び結晶化して中間薄膜を得る。本実施形態において、ゾーンメルティング法は、薄膜ゾーンメルティング法(Zone melting crystallization method、以下、「ZMC法」ともいう。)であると好ましい。ここで、「薄膜ゾーンメルティング法」とは、ヒーターで予備加熱した被処理膜上でラインヒーターを走査し、その被処理膜のみを順次帯状に溶融固化させる手法である。図3は、本実施形態のゾーンメルティング工程において使用できるZMC装置の概略図である。
【0048】
図3に示すZMC装置300は、上側を除く5面の壁面で包囲する直方体である筐体310と、その筐体310内で被処理膜である原料薄膜230を含む積層体200を配置するための支持台330と、その支持台330の下側に配置される下部ヒーター320と、支持台330の上側に配置され、上記筐体310が包囲していない1壁面を構成する石英プレート340と、石英プレートの上側に配置されるラインヒーター350と、を備えている。ラインヒーター350は、図3中の矢印方向に移動することができる。
【0049】
ゾーンメルティング工程において、まず積層体200が基板210を下側(下部ヒーター320側)にして支持台330上に配置される。
【0050】
この際、筐体310は、図中ではその一部が開放されているが、実際は、その筐体310と、石英プレート340とにより、下部ヒーター320、支持台330及び積層体200を外部と隔離することができ、その内側を所定の雰囲気に調整することもできる。筐体310内の雰囲気は、窒素、希ガス等の不活性ガス雰囲気、あるいは水素を含有するガス等の還元性ガス雰囲気であることが好ましく、不活性ガス雰囲気であることがより好ましい。これにより、原料薄膜230の酸化をより有効に防止することができる。
【0051】
次いで、下部ヒーター320により、支持台320を加熱することにより、間接的に積層体200を予備加熱(予熱)する。
【0052】
次に、ラインヒーター350を用い、石英プレート340を介して、輻射熱により積層体200を加熱する。この際、ラインヒーター350は積層体200の一部を帯状に加熱しながら、図中矢印方向に移動して、積層体200を走査することができる。ラインヒーター350により加熱された原料薄膜230の部分は溶融するが、ラインヒーター350が更に移動することにより冷却され固化する。こうして、Fe、Si及びCuを含有する原料薄膜230は、α−FeSi2結晶を主相として含有し、更にCuを含有する中間薄膜に転化する。
【0053】
ラインヒーター350による積層体200の加熱温度は、鉄シリサイドの融点以上、絶縁膜の融点未満であれば特に制限されない。また、ラインヒーター350の走査速度は、特に制限されないが、ラインヒーター350により加熱されている原料薄膜230の部分が過剰に加熱されて、原料薄膜230の形状の維持が困難となることがないように、かつ、原料薄膜230の加熱が不十分となり、溶融し難くなることがないように調整されればよい。
【0054】
次いで、ポストアニール工程において、原料薄膜230を中間薄膜に置換した状態にある積層体200に対して、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移温度以下の温度でポストアニールを施す。これにより、α−FeSi2結晶がβ−FeSi2結晶に相転移して、β−FeSi2結晶を主相として含有し、更にCuを含有する薄膜が得られる。
【0055】
この工程におけるアニール方法では、下部ヒーター320により積層体200を間接的に加熱して行ってもよく、あるいは、別の公知の加熱炉を用いて積層体200を加熱することにより行ってもよい。
【0056】
この工程におけるアニール温度は、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移温度以下の温度であれば特に限定されない。ここで、参考までに図4にFe−Si系の相図を示す(出典:binary alloy phase diagrams)。この図からも明らかなとおり、α−FeSi2相からβ−FeSi2相への相転移温度は、Si/Feによっても異なるため一義的には設定できない。ただし、アニール温度が800〜935℃であると、上記相転移をより促進することができ、α−FeSi2相の更なる低減並びに工程時間の一層の短縮化が可能となる。
【0057】
この工程におけるアニール雰囲気は、特に限定されない。更にアニール時間は、相転移に十分な時間であれば特に限定されない。
【0058】
こうして、中間薄膜が転化して得られた薄膜は、いわゆる結晶薄膜であり、β−FeSi2結晶を主相として含有し、Cuを更に含有する。本発明者らは、このようにして得られた薄膜において、少なくとも一部のβ−FeSi2結晶は、当該薄膜の面内方向における粒径が0.5μm以上であることをSEMにより確認でき、1μm以上のβ−FeSi2結晶、6μm以上のβ−FeSi2結晶を確認することもできた。
【0059】
また、得られた薄膜は、原料薄膜中の組成をほぼ保持するため、下記式(1)で表される条件を満足する比率でCuを含有し、より好適には下記式(2)、更に好適には下記式(2a)、特に好適には下記式(2b)で表される条件を満足する。ここで、式中、ACuはCuのモル数を示し、AFeはβ−FeSi2結晶を構成するFeのモル数を示す。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (1)
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (2)
0.02≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (2a)
0.02≦ACu/(AFe+ACu)≦0.10 (2b)
【0060】
こうして得られた、β−FeSi2結晶を主相として含有し、Cuを更に含有する結晶薄膜は太陽電池における光電変換材料等のデバイス材料として使用できる。β−FeSi2は直接遷移型半導体特性を示し、そのバンドギャップは0.83〜0.85eVとSiと比較して小さいため、Siでは未使用である近赤外領域での光キャリア生成が期待できる。また、可視光領域であれば105cm−1という、Siの約100倍に相当する高い光吸収係数を有している。
【0061】
一方で、β−FeSi2は電子−格子相互作用が大きく、大きなキャリア移動度が望めないことも知られており、半導体デバイスへの利用の際には、粒界などのキャリア散乱/再結合因子を極限まで排除しなければならない。また、β−FeSi2は単位胞中に48原子を含む非常に複雑な構造(斜方晶系、空間群Cmca、格子定数はa=0.986nm、b=0.779nm、c=0.783nm;歪んだ蛍石型構造)であるが故に歪みや格子欠陥が導入されやすい。このわずかな歪みや格子欠陥がβ−FeSi2の光学物性を左右するとも言われている。β−FeSi2は、実験的には直接遷移型特性を有するとされている。しかし、最近の精密な計算によると、歪みのない完全結晶であれば、β−FeSi2は、価電子帯エッジがY点、伝導帯エッジがΛ点に位置するY−Λ間接遷移型のバンド構造を持つとの結果が得られており、直接遷移型特性は結晶内での歪みによって発現しているとの見方が有力となっている。
【0062】
これらの点を考えると、β−FeSi2を単体で太陽電池の発電層等として使用とする場合には、結晶粒径が大きく、なおかつ結晶粒内で歪みや格子欠陥が制御された状態の超薄膜を作成する必要がある。上述の本実施形態の薄膜は、従来のものと比較して、結晶粒径が大きく、結晶粒内で歪みや格子欠陥が低減されているため、太陽電池の発電層等として有用である。
【0063】
次に、本発明の第2実施形態に係る薄膜について説明する。この第2実施形態に係る薄膜は、α−FeSi2結晶を主相として含有し、下記式(5)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有するものである。
2.0≦(BSi/BFe)≦4.0 (5)
ここで、式(5)中、Bsiは薄膜中のSiのモル数を示し、BFeは薄膜中のFeのモル数を示す。
【0064】
本実施形態の薄膜は、好適には、基板上に、絶縁膜で挟まれてなり、Fe及びSiを上記式(5)で表される条件を満足するように含有してなる原料薄膜を設置して準備する工程(以下、「原料薄膜準備工程」という。)と、ゾーンメルティング法によって溶融及び結晶化して薄膜を得る工程(以下、「ゾーンメルティング工程」という。)とを有するものである。
【0065】
原料薄膜準備工程では、図2に示す積層体において、原料薄膜230を、本実施形態の原料薄膜に置換した積層体を準備すればよい。
【0066】
本実施形態の原料薄膜は、その材質として、Fe及びSiを含有するものであり、その他の元素成分を微量含んでもよい。ただし、より結晶の配向性が高く、不純物を低減させるためには、この原料薄膜は、Fe及びSiからなるものであると好ましい。
【0067】
本実施形態の原料薄膜は、下記式(8)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有するものである。
2.0≦(BSi/BFe)≦4.0 (8)
ここで、式(8)中、Bsiは原料薄膜中のSiのモル数を示し、BFeは原料薄膜中のFeのモル数を示す。原料薄膜が上記式(8)を満足することにより、本実施形態の製造方法により得られる、α−FeSi2結晶を主相として含有する薄膜は、容易に、ε−FeSi結晶の存在を十分に低減することができ、しかも、α−FeSi2結晶の配向性を十分に高くすることができる。同様の観点から、本実施形態の原料薄膜は、好ましくは下記式(8a)、より好ましくは下記式(8b)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有するものである。
2.3≦(BSi/BFe)≦4.0 (8a)
2.3≦(BSi/BFe)≦2.7 (8b)
式(8a)、(8b)中、BSi及びBFeは上記式(8)におけるものと同義である。
【0068】
本実施形態の原料薄膜の成膜方法は、通常の結晶薄膜の成膜方法であれば特に限定されず、公知の薄膜製造技術を用いることができる。この成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法が挙げられる。これらの中では、RFスパッタリング等のスパッタリング法がより好適である。
【0069】
次に、ゾーンメルティング工程において、ゾーンメルティング法によって、上記原料薄膜を溶融及び結晶化して、α−FeSi2結晶を主相として含有し、上記式(5)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有する結晶薄膜が得られる。本実施形態のゾーンメルティング法は、積層体200を本実施形態におけるものに置換する点、並びにラインヒーター350による積層体の加熱温度を下記のように変更することを除いて、第1実施形態におけるものと同様であればよい。
【0070】
本実施形態におけるラインヒーター350による積層体の加熱温度は、鉄シリサイドの融点以上、絶縁膜の融点未満であれば特に制限されない。
【0071】
こうして得られた薄膜は、そこに含有されるα−FeSi2のc軸配向性が非常に高く、そのX線回折パターンにおける(002)面のピーク高さが、(001)面のピーク高さに対して50%以下であることを本発明者らは確認し、さらには、そのX線回折パターンにおける(002)面のピーク高さが、(001)面のピーク高さに対して10%以下であること、及び1%以下であることも確認した。
【0072】
また、得られた薄膜は、原料薄膜中の組成をほぼ保持するため、好適には下記式(5a)、更に好適には下記式(5b)で表される条件を満足する。
2.3≦(BSi/BFe)≦4.0 (5a)
2.3≦(BSi/BFe)≦2.7 (5b)
式(5a)、(5b)中、BSi及びBFeは上記式(5)におけるものと同義である。
【0073】
本実施形態により得られる薄膜は、薄膜中のα−FeSi2とは異なる相を有する鉄シリサイドであるε−FeSi結晶、並びにSi結晶を十分に低減することができる。これは、原料薄膜中のSi/Feを上記数値範囲内に調整すると共に、本実施形態に係るゾーンメルティング法を採用することにより、α−FeSi2結晶が単独で析出し、ε−FeSi結晶及びSi結晶の共析を十分に抑制できることに起因する。
【0074】
また、本実施形態により得られる薄膜は、α−FeSi2結晶の配向性を十分に高くすることができる。本発明者らは得られた薄膜のX線回折パターンから、α−FeSi2結晶の一次粒子径を導出したところ、薄膜中のα−FeSi2は、膜厚の60%程度までc軸方向に成長した状態となっていることが示唆された。α−FeSi2結晶の構造をc軸に垂直な方向から眺めてみる場合、Feのみからなる層とSiのみからなる層がc軸に対して規則的に積層した層状構造とみなすことができる。このことから、得られた薄膜は、原料薄膜を挟んでいた上下の絶縁膜との界面にFeのみからなる層、又はSiのみからなる層のいずれかが形成されており、その界面が非常に安定であるため、薄膜の配向性が高くなると推測される。
【0075】
また、この薄膜において、α−FeSi2結晶の欠陥は非常に少ない。
【0076】
本実施形態による薄膜は、結晶薄膜形成用の基板(下地層)として好適に用いられる。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0078】
例えば、本発明の別の実施形態では、本発明の目的を達成できる限度において、得られる薄膜中にFe、Si及びCu以外の元素が微量添加されていてもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
[積層体の作製(原料薄膜準備工程)]
まず、基板としてSiウエハ(nタイプ、<100>配向−1°off、25mm×60mm×0.55mmの矩形基板)を準備した。次いで、その基板上に下側の絶縁膜としてシリカ膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして純度99.99%のシリカディスク(Furuuchi chemical co.社製)を用い、雰囲気はAr雰囲気、5×10−3torr、RF電源出力400Wの条件で行った。得られたシリカ膜の膜厚は約0.8μmであった。
【0081】
次に、下側の絶縁膜の表面上に原料薄膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして、純度99.99%のシリカディスク(Furuuchi chemical co.社製)、純度99.99%のFeSi2ディスク(KojundoChemical Lab. Co., Ltd社製)及び純度99.99%のCuディスク(Furuuchichmical co.社製)を用い、雰囲気はAr雰囲気、8×10−3torr、RF電源出力30〜100Wの条件の下、原料薄膜中の各元素のモル比が、AFe:ASi:ACu=0.98:0.02:1.98となるよう交互スパッタリングで行った。得られた原料薄膜の膜厚は約0.3μmであった。
【0082】
続いて、原料薄膜の表面上に、上側の絶縁膜としてシリカ膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により積層した。スパッタリングの条件は下側の絶縁膜と同様とした。得られたシリカ膜の膜厚は約1.6μmであった。こうして積層体を得た。
【0083】
[ゾーンメルティング工程]
得られた積層体に対して、図3に示したものと同様の構成を備えるZMC装置を用いて、以下のようにしてゾーンメルティングを施した。まず、筐体内の支持台上に積層体を配置した。続いて、筐体内に大気圧で窒素を流通し、窒素雰囲気にした。次に、下部ヒーターを用いて、昇温速度30℃/minにて、積層体表面が1000℃になるまで加熱した。なお、積層体表面の温度は放射温度計により測定した。そして、その温度で5〜10分保持することにより、積層体の予備加熱を行った。
【0084】
次に、下部ヒーターでの加熱を停止し、ラインヒーターで積層体を照射して、輻射熱により積層体の一部を帯状に加熱しつつ、ラインヒーターを1mm/secの速度で走査した。ラインヒーターの出力は、積層体における原料薄膜が溶融するように調節した。ラインヒーターの走査が終了した後、窒素雰囲気を維持して自然放冷した。これにより、原料薄膜が中間薄膜に転化した。
【0085】
[ポストアニール工程]
続いて、ゾーンメルティング工程後の積層体を、ZMC装置から取り出し、窒素流通により窒素雰囲気を保持できる加熱炉に収容した。次いで、大気圧、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minにて、積層体を930℃まで加熱した後、その温度で20時間保持し、その後、一旦自然放冷を行った。続いて、大気圧、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minにて、積層体を800℃まで加熱した後、その温度で20時間保持し、その後、自然放冷を行った。こうして、結晶薄膜を得た。
【0086】
(実施例2)
積層体の作製を下記のようにして行った以外は、実施例1と同様にして結晶薄膜を得た。すなわち、まず、基板としてSiウエハを準備し、次いで、その基板上に下側の絶縁膜としてシリカ膜を形成するまでは実施例1と同様にした。
【0087】
次に、下側の絶縁膜の表面上に原料薄膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして、純度99.99999%のシリカディスク(Furuuchi chemical co.社製)、純度99.999%のFeチップ(Toho zinc.co., ltd社製)及び純度99.99%のCuディスク(Furuuchichmical co.社製)を用い、雰囲気はAr雰囲気、8×10−3torr、RF電源出力30〜100Wの条件の下、原料薄膜中の各元素のモル比が、AFe:ASi:ACu=0.70:0.30:2.20となるよう交互スパッタリングで行った。得られた原料薄膜の膜厚は約0.5μmであった。
【0088】
続いて、原料薄膜の表面上に、上側の絶縁膜としてシリカ膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により積層した。スパッタリングの条件は下側の絶縁膜と同様とした。得られたシリカ膜の膜厚は約1.3μmであった。こうして積層体を得た。
【0089】
(比較例1)
ゾーンメルティング工程を経なかった以外は、実施例2と同様にして、積層体を得た。
【0090】
<X線回折測定>
得られた結晶薄膜を備えた積層体について、X線回折測定装置(RIGAKU社製、商品名「RINT2000」)を用いて、X線回折測定を行った。測定条件は以下のとおりとした。得られたX線回折パターンを図5、6に示す。図5(a)は実施例1、図5(b)及び図6(a)は実施例2、図6(b)は比較例1に係るX線回折パターンをそれぞれ示す。
測定条件:管電圧=40kV、管電流=30mA、走査速度=5°/min、X線=FeKα線(1937Å)、Kβ除去=Mnフィルター(モノクロなし)、発散スリット=1deg、散乱スリット=1deg、受光スリット=0.3mm。
【0091】
実施例1で得られた結晶薄膜は、α−FeSi2相に基づくピークが認められたものの、Cuを添加しない場合(例えば、後述の図9)と対比すると、α−FeSi2相に基づくピークは劇的に減少し、代わってβ−FeSi2相に基づくピークが強い強度で確認された。更に実施例2で得られた結晶薄膜では、α−FeSi2相に基づくピークが認められず、β−FeSi2相に基づくピークが顕著に現れていることが確認できた。また、実施例1におけるα−FeSi2相はc軸配向性が高くなっている。これらのことから、c軸配向性の高いα−FeSi2であっても、Cuを添加したことにより、β−FeSi2相への相転移が促進されたことが示唆された。
【0092】
また、実施例1、2とも、β−FeSi2相の(202)面及び(220)面に基づく回折が強く現れている。このことより、c軸配向性の高いα−FeSi2相から、同じくc軸配向性の高いβ−FeSi2相が形成されたことが示唆された。
【0093】
更に、比較例1との対比から、ゾーンメルティング工程を経た実施例2の結晶薄膜の方が、よりc軸配向性の高いβ−FeSi2相を確認できる。また、実施例2のX線回折パターンでは、微小なSiに基づくピークが現れているが、これは、α−FeSi2相が共析型の転移過程を経て、β相に転化したためと考えられる。
【0094】
<SEM観察>
実施例2及び比較例1で得られた結晶薄膜を備えた積層体の断面を、SEM(装置:JEOL社製、商品名「JSM−6460」)により観察した。観察条件は以下のとおりとした。得られたSEM写真を図7に示す。図7は実施例2、図8は比較例1に係るSEM写真である。
観察条件:加速電圧=15kV、真空度=0.1mPaオーダー、導電処理なし、倍率=10000倍。
【0095】
実施例2に係る図7のSEM写真では、連続膜の膜内方向における粒径が6μmを越えていることが確認できる。一方、比較例1に係る図8のSEM写真では、数百nmの粒径を有する結晶粒子が凝集して充填されたような状態になっていることが確認できた。
【0096】
(実施例3)
[積層体の作製(原料薄膜準備工程)]
まず、基板としてSiウエハ(nタイプ、<100>配向−1°off、25mm×60mm×0.55mmの矩形基板)を準備した。次いで、その基板上に下側の絶縁膜としてシリカ膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして純度99.99%のシリカディスク(Furuuchi chemical co.社製)を用い、雰囲気はAr雰囲気、5×10−3torr、RF電源出力400Wの条件で行った。得られたシリカ膜の膜厚は約0.7μmであった。
【0097】
次に、下側の絶縁膜の表面上に原料薄膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして、純度99.99%のFeSi2ディスク(Kojundo Chemical Lab. Co., Ltd社製)を用い、雰囲気はAr雰囲気、8×10−3torr、RF電源出力50Wの条件の下、原料薄膜中の各元素のモル比が、BFe:BSi=1.00:1.98(すなわち1.0:2.0)となるよう行った。得られた原料薄膜の膜厚は約0.4μmであった。
【0098】
続いて、原料薄膜の表面上に、上側の絶縁膜としてシリカ膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により積層した。スパッタリングの条件は下側の絶縁膜と同様とした。得られたシリカ膜の膜厚は約1.8μmであった。こうして積層体を得た。
【0099】
[ゾーンメルティング工程]
得られた積層体に対して、図3に示したものと同様の構成を備えるZMC装置を用いて、以下のようにしてゾーンメルティングを施した。まず、筐体内の支持台上に積層体を配置した。続いて、筐体内に大気圧で窒素を流通し、窒素雰囲気にした。次に、下部ヒーターを用いて、昇温速度30℃/minにて、積層体表面が1000℃になるまで加熱した。なお、積層体表面の温度は放射温度計により測定した。そして、その温度で5〜10分保持することにより、積層体の予備加熱を行った。
【0100】
次に、下部ヒーターでの加熱を停止し、ラインヒーターで積層体を照射して、輻射熱により積層体の一部を帯状に加熱しつつ、ラインヒーターを1mm/secの速度で走査した。ラインヒーターの出力は、積層体における原料薄膜が溶融するように調節した。ラインヒーターの走査が終了した後、窒素雰囲気を維持して自然放冷した。これにより、結晶薄膜を得た。
【0101】
(比較例2)
ゾーンメルティング工程に代えて、原料薄膜を備える積層体に対して、図3に示したものと同様の構成を備えるZMC装置を用いて、以下のようにして加熱を施した以外は、実施例3と同様にした。すなわち、まず、筐体内の支持台上に積層体を配置した。続いて、筐体内に大気圧で窒素を流通し、窒素雰囲気にした。次に、下部ヒーターを用いて、昇温速度30℃/minにて、積層体表面が1000℃になるまで加熱した。なお、積層体表面の温度は放射温度計により測定した。そして、その温度で10分保持した後、自然放冷して結晶薄膜を得た。
【0102】
実施例3及び比較例2に係る結晶薄膜を備える積層体について、上記と同様にしてX線回折測定を行った。得られたX線回折パターンを図9、10に示す。図10(a)は実施例3、図10(b)は(a)の一部を拡大したもの、図9は比較例2に係るX線回折パターンをそれぞれ示す。図9では、α−FeSi2相のみでなく、ε−FeSi相に基づくピークが明確に認められるのに対して、図10では、α−FeSi2相に基づくピークが強く出ている一方、ε−FeSi相に基づくピークがほとんど認められなかった。また、図9では、全体的にピーク強度が弱く、多結晶の状態であるのに対し、図10では、極めてc軸配向性の高いα−FeSi2の大きな連続膜が得られたことを示していた。
【0103】
実施例3に係る結晶薄膜を備える積層体について、上記と同様にしてSEM観察を行った。そのSEM写真を図12に示す。また、参考として加熱していない積層体のSEM写真を図11に示す。これらの図より、実施例3に係る結晶薄膜が、極めて結晶性が高く、大きな連続膜を形成していることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】β−FeSi2の結晶構造の模式図である。
【図2】実施形態に係る積層体の模式断面図である。
【図3】実施形態のゾーンメルティング工程において使用できるZMC装置の概略斜視図である。
【図4】Fe−Si系の相図である。
【図5】実施例に係る結晶薄膜のX線回折パターンである。
【図6】比較例に係る結晶薄膜のX線回折パターンである。
【図7】実施例に係る積層体のSEM写真である。
【図8】比較例に係る積層体のSEM写真である。
【図9】比較例に係る結晶薄膜のX線回折パターンである。
【図10】実施例に係る結晶薄膜のX線回折パターンである。
【図11】参考用の積層体のSEM写真である。
【図12】実施例に係る積層体のSEM写真である。
【符号の説明】
【0105】
200…積層体、210…基板、220、240…絶縁膜、230…原料薄膜、300…ZMC装置、310…筐体、320…下部ヒーター、330…支持台、340…石英プレート、350…ラインヒーター。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β型鉄シリサイド結晶を主相として含有し、更にCuを含有する薄膜。
【請求項2】
下記式(1)で表される条件を満足する比率で前記Cuを含有する、請求項1記載の薄膜。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (1)
(式中、ACuは前記Cuのモル数を示し、AFeは前記β型鉄シリサイド結晶を構成するFeのモル数を示す。)
【請求項3】
下記式(2)で表される条件を満足する比率で前記Cuを含有する、請求項2記載の薄膜。
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (2)
【請求項4】
当該薄膜の面内方向における粒径が0.5μm以上である前記β型鉄シリサイド結晶を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薄膜。
【請求項5】
絶縁膜で挟まれてなり、Fe、Si及びCuを含有してなる原料薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融して中間薄膜を得る工程と、
前記中間薄膜に対して、α型鉄シリサイド相からβ型鉄シリサイド相への相転移温度以下の温度でポストアニールを施す工程と、
を有する、β型鉄シリサイド結晶を主相とする薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記原料薄膜は、下記式(3)で表される条件を満足する比率で前記Cuを含有する、請求項5記載の薄膜の製造方法。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (3)
(式中、ACuは前記Cuのモル数を示し、AFeは前記Feのモル数を示す。)
【請求項7】
前記原料薄膜は、下記式(4)で表される条件を満足する比率で前記Cuを含有する、請求項6記載の薄膜の製造方法。
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (4)
【請求項8】
前記ポストアニールの温度が800〜935℃である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記原料薄膜はアモルファス相を主相として含有する、請求項5〜8のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記原料薄膜は、交互スパッタリングにより形成されている、請求項5〜9のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項11】
α型鉄シリサイド結晶を主相として含有し、下記式(5)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有する薄膜。
2.0≦(BSi/BFe)≦4.0 (5)
(式中、Bsiは前記薄膜中のSiのモル数を示し、BFeは前記薄膜中のFeのモル数を示す。)
【請求項12】
前記α型シリサイド結晶は、そのX線回折パターンにおける(002)面のピーク高さが、(001)面のピーク高さに対して50%以下である、請求項11記載の薄膜。
【請求項1】
β型鉄シリサイド結晶を主相として含有し、更にCuを含有する薄膜。
【請求項2】
下記式(1)で表される条件を満足する比率で前記Cuを含有する、請求項1記載の薄膜。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (1)
(式中、ACuは前記Cuのモル数を示し、AFeは前記β型鉄シリサイド結晶を構成するFeのモル数を示す。)
【請求項3】
下記式(2)で表される条件を満足する比率で前記Cuを含有する、請求項2記載の薄膜。
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (2)
【請求項4】
当該薄膜の面内方向における粒径が0.5μm以上である前記β型鉄シリサイド結晶を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薄膜。
【請求項5】
絶縁膜で挟まれてなり、Fe、Si及びCuを含有してなる原料薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融して中間薄膜を得る工程と、
前記中間薄膜に対して、α型鉄シリサイド相からβ型鉄シリサイド相への相転移温度以下の温度でポストアニールを施す工程と、
を有する、β型鉄シリサイド結晶を主相とする薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記原料薄膜は、下記式(3)で表される条件を満足する比率で前記Cuを含有する、請求項5記載の薄膜の製造方法。
ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (3)
(式中、ACuは前記Cuのモル数を示し、AFeは前記Feのモル数を示す。)
【請求項7】
前記原料薄膜は、下記式(4)で表される条件を満足する比率で前記Cuを含有する、請求項6記載の薄膜の製造方法。
0.001≦ACu/(AFe+ACu)≦0.30 (4)
【請求項8】
前記ポストアニールの温度が800〜935℃である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記原料薄膜はアモルファス相を主相として含有する、請求項5〜8のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記原料薄膜は、交互スパッタリングにより形成されている、請求項5〜9のいずれか一項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項11】
α型鉄シリサイド結晶を主相として含有し、下記式(5)で表される条件を満足する比率でFe及びSiを含有する薄膜。
2.0≦(BSi/BFe)≦4.0 (5)
(式中、Bsiは前記薄膜中のSiのモル数を示し、BFeは前記薄膜中のFeのモル数を示す。)
【請求項12】
前記α型シリサイド結晶は、そのX線回折パターンにおける(002)面のピーク高さが、(001)面のピーク高さに対して50%以下である、請求項11記載の薄膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−266106(P2007−266106A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86098(P2006−86098)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年12月2日 独立行政法人科学技術振興機構主催の「シンポジウム2005環境調和型のエネルギー・物質変換を目指して」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月28日 化学工学会発行の「化学工学会第71年会 研究発表講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年12月2日 独立行政法人科学技術振興機構主催の「シンポジウム2005環境調和型のエネルギー・物質変換を目指して」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月28日 化学工学会発行の「化学工学会第71年会 研究発表講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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