説明

難燃性エポキシ樹脂組成物、同組成物を含有するプリプレグ、積層板およびプリント配線板

難燃性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂および硬化剤を必須成分とし、リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂を含有する。リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂は、構造式(I)に示される反応性リン含有化合物を縮合反応又は重縮合反応させたものである。この難燃性エポキシ樹脂組成物は、ハロゲンを含まない難燃剤としてリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂を含有することで難燃化を達成しているので、燃焼の際に有毒ガスの発生を抑制でき、且つ成形性に優れる。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物は、耐熱性、耐水性および耐薬品性、難燃性、耐半田性、耐湿性、耐トラッキング性等の諸特性において優れる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、燃焼の際に有毒ガスの発生が少なく、且つ高い難燃性を有する難燃性のエポキシ樹脂組成物、並びにこのエポキシ樹脂組成物にて形成されるプリプレグ、積層板及びプリント配線板に関するものである。
技術背景
エポキシ樹脂は、耐熱性、密着性、電気特性(電気絶縁性)などの優れた性能から、電気電子材料部品を中心に幅広く使用されている。
これら電気電子材料部品のうち、電気プリント配線板用ガラスエポキシ積層板に代表される電気積層板用途においては、高い難燃性(UL−94燃焼試験でV−O)が求められており、通常は臭素化エポキシ樹脂等の、ハロゲン元素を含有した化合物が用いられている。例えば、特開平5−9394号公報、特開平9−125037号公報、特開平9−283876号公報等では、電気プリント回路用エポキシ樹脂積層板を作製するための樹脂組成物中に、臭素化エポキシ樹脂を主原料成分としたエポキシ樹脂と、ジシアノジアミドやフェノール化合物等のエポキシ樹脂硬化剤とを配合することが開示されている。
しかし、このようなハロゲン原子含有化合物の使用は、近年のダイオキシンに代表される環境問題の一要因となっている他、高温環境下でのハロゲン解離による電気的な長期信頼性への悪影響などから、ハロゲン系化合物の使用量低減や、ハロゲン系化合物に代替できる他の化合物を使用した難燃剤、あるいは他の難燃処方の開発が強く求められている。
このようなハロゲン系化合物による難燃処方に代わる技術として、例えばリン酸エステル系化合物などを難燃剤として併用または代替する技術が種々検討されており、例えば特開平10−193516号公報に開示されているような技術が提案されている。
しかしながら、リン酸エステル系化合物を難燃剤として使用する技術で高い難燃性(例えばUL−94燃焼試験でV−Oレベル)を確保するためには、これら難燃剤を相当量添加する必要があり、そのために成形品の重要な特性である耐熱性や耐水性、酸またはアルカリに対する耐薬品性等の低下を伴うという重大な欠点があった。
【発明の開示】
従って、本発明の主たる目的は、燃焼の際に有毒ガスの発生が少なく、且つその成形品に優れた耐熱性、耐水性および耐薬品性を付与すると共に難燃性、耐半田性、耐湿性、耐トラッキング性等にも優れた成形品を形成することができる難燃性エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
すなわち、本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)および硬化剤(B)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物において、リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)を含有し、前記リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)が、下記構造式(I)に示される反応性リン含有化合物(s)を縮合反応又は重縮合反応させて成るものであることを特徴とする。

この難燃性エポキシ樹脂組成物によれば、難燃剤としてハロゲンを含まないリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C))を含有させることで、高い難燃性が付与されると共に、組成物中のハロゲン含有量が低減されることから燃焼の際には有毒ガスの発生が抑制され、且つ成形品に優れ、更にこのエポキシ樹脂組成物の硬化物に耐熱性、耐水性および耐薬品性を付与すると共に難燃性、耐半田性、耐湿性、耐トラッキング性等にも優れたものとすることができる。
上記の硬化剤(B)は、その一部又は全部としてノボラック樹脂を含有することが好ましい。また、上記のエポキシ樹脂(A)は、そのエポキシ当量が、100〜10000g/eqであることが好ましい。これらの場合は、難燃性エポキシ樹脂組成物の硬化物の架橋密度が高まり、Tg(ガラス転移点)や耐熱性、半田耐熱性などが向上し、特に積層板用途としての性能が向上する。
また、エポキシ樹脂(A)は、その分子構造内にハロゲン原子を含まないもののみからなることが好ましく、これにより組成物中のハロゲン含有量をさらに低減して燃焼の際の有毒ガスの発生を更に抑制することができるものである。
本発明の更なる目的は、上記の難燃性エポキシ樹脂組成物を基材に含浸させたプリプレグ、このプリプレグを成形した積層板、およびこの積層板の一面又は両面に導体配線を形成してなるプリント配線板を提供することにあり、これらは、ハロゲンを含まない難燃剤によって高い難燃性を有する。すなわち、上記したプリプレグ、積層板およびプリント配線板は、いずれも難燃剤としてハロゲンを含まないリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)を含有させることで、高い難燃性が付与されると共に、組成物中のハロゲン含有量が低減されることから燃焼の際には有毒ガスの発生が抑制される。また、このプリプレグを成形した成形品、積層板およびプリント配線板は、耐熱性、耐水性耐薬品性、難燃性、耐半田性、耐湿性、耐トラッキング性などの種々の優れた特性を発揮する。尚、上記の積層板の一面又は両面に金属箔を積層成形することが好ましい。
本発明のこれらの及び更なる目的及び長所は、以下に説明する発明の最良の実施形態から明確になるだろう。
発明を実施するための最良の実施形態
以下に本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物、並びにそれを含有するプリプレグ、積層板およびプリント配線板の好ましい実施の形態を詳述する。
上記のように、本発明に係る難燃性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)および硬化剤(B)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物において、リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)を含有させることで得られるものである。また本発明に係るエポキシ樹脂組成物を調製するにあたっては、ハロゲンを含む物質を含有させることもできるが、ハロゲンを含有する物質は用いないものとして、ノンハロゲンの難燃性エポキシ樹脂組成物を調製することが好ましい。但し、ノンハロゲンの難燃性エポキシ樹脂組成物を得る場合でも、製造上不可避的に混入するハロゲン化合物の含有は許容される。
本発明で用いるエポキシ樹脂(A)は、特に限定されるものではないが、ハロゲンを含まないもののみを用いることが好ましい。
エポキシ樹脂(A)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、2,2’,6,6’−テトラメチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビス−β−トリフルオロメチルジグリシジルビスフェノールA等のビスフェノール型エポキシ樹脂;1,6−ジグリシジルオキシナフタレン型エポキシ樹脂、1−(2,7−ジグリシジルオキシナフチル)−1−(2−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1−ビス(2,7−ジグリシジルオキシナフチル)メタン、1,1−ビス(2,7−ジグリシジルオキシナフチル)−1−フェニル−メタン等のナフタレン系エポキシ樹脂;ビフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールヘキサフルオロアセトンジグリシジルエーテル、レゾルシノ−ジグリシジルエーテル等のその他の2官能型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールADノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;前記ビスフェノール型エポキシ樹脂と、ノボラック型エポキシ樹脂とを、ビスフェノールを介して共重合させたエポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンとフェノールとの重付加体のエポキシ化物に代表される環式脂肪族エポキシ樹脂;フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジルp−オキシ安息香酸、ダイマー酸グリシジルエステル、トリグリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジルp−アミノフェノール、テトラグリシジルm−キシリレンジアミン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ヒダントイン型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環式エポキシ樹脂;その他、フロログリシノールトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシビフェニルトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−2−[4−[1,1−ビス[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]エチル]フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−[1−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−1−[4−[1−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−1−メチルエチル]フェニル]エチル]フェノキシ]−2−プロパノール、テトラヒドロキシフェニルエタンテトラグリシジルエーテル、テトラグリシジルベンゾフェノン、ビスレゾルシノールテトラグリシジルエーテル、テトラグリシドキシビフェニル等のエポキシ樹脂などが挙げられる。上記エポキシ樹脂はそれぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また上記のようなエポキシ樹脂を変性したエポキシ樹脂を併用しても良い。
これらのエポキシ樹脂の中でも、エポキシ当量が100〜10000g/eqのものが好ましい。即ち、エポキシ当量が10000g/eq以下の領域において、硬化物の架橋密度が高まり、Tg(ガラス転移点)や耐熱性、半田耐熱性などが向上し、積層板としての性能が向上する。
また成形品に高Tg、高耐水性、耐半田性を付与することができることから、上記のエポキシ樹脂の一部又は全部としてノボラック型エポキシ樹脂を使用するのが好ましい。このようにノボラック型エポキシ樹脂を用いる場合には、その含有量はエポキシ樹脂(A)全量に対して20重量%以上が特に好ましい。ノボラック型エポキシ樹脂含有量がそれより少ないと、上記のような成形品に高Tg、高耐水性、耐半田性の付与を充分に発現させることが困難となる。
また、本発明においては、上記エポキシ樹脂(A)と共に、シクロヘキセンオキサイド、トリシクロデセンオキサイド、シクロペンテンオキサイド等のエポキシ系反応性希釈剤を併用してもよい。
硬化剤(B)としては、エポキシ樹脂用として通常用いられている硬化剤を適用することが可能であり、例えば、ノボラック樹脂;ジシアンジアミド、イミダゾール、BF−アミン錯体、グアニジン誘導体等の潜在性アミン系硬化剤;メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族アミン類;シクロホスファゼンオリゴマー等の窒素原子を含有する硬化剤;ポリアミド樹脂、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸などの酸無水物系硬化剤等を用いることができる。このような硬化剤(B)は一種単独で使用し、或いは二種以上を併用することができる。
また硬化剤(B)としては、特にその一部又は全部としてノボラック樹脂を用いることも好ましい。このようなノボラック樹脂としては、特に制限されるものではないが、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、n−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、n−ブチルフェノール、イソブチルフェノール、ターシャリブチルフェノール、セカンダリブチルフェノール、n−ヘキシルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ノニルフェノール、n−ドデシルフェノール、イソアミルフェノール、イソオクチルフェノール、ターシャリアミノフェノール、ターシャリオクチルフェノール、ビスフェノールA等のフェノール類をホルマリン類等で架橋したノボラック樹脂が挙げられる。これらのなかでも特に耐熱性に優れる点からフェノールをホルマリンで架橋したフェノールノボラック樹脂、又はクレゾールをホルマリンで架橋したクレゾールノボラック樹脂が好ましい。
またこのノボラック樹脂は、耐熱性と、電気積層板用途におけるクロス状基材への含浸性とのバランスの点から軟化点50〜150℃であることが好ましい。
組成物中における硬化剤(B)の配合量は、組成物を構成する成分に応じ、プリプレグの成形性やプリプレグの硬化成形時の成形性等を考慮して適宜設定されるものであって特に制限されないが、例えば硬化剤(B)としてノボラック樹脂を用いる場合には、エポキシ樹脂(A)のエポキシ樹脂に対するノボラック樹脂の水酸基の当量が0.8以上1.2以下となるようにすることが好ましく、この範囲外であると硬化不足が生じるおそれがある。
また本発明におけるエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を含有させることもできる。この硬化促進剤としては公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えば、ベンジルジメチルアミン等の第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられ、一種単独で用いるほか、二種以上を併用することもできる。組成物中における硬化促進剤の配合量は、組成物を構成する成分に応じ、プリプレグの成形性やプリプレグの硬化成形時の成形性等を考慮して適宜設定されるものであって特に制限されないが、エポキシ樹脂(A)の全量に対して0.001〜10重量%の範囲となるように配合することが好ましい。
またリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)としては、反応性リン含有化合物(s)を、縮合反応又は重縮合反応させることで得られるものを用いることができる。
反応性リン含有化合物(s)としては、反応の容易性、難燃効果等が特に優れている点から、下記一般式(I)で表される化合物が用いられる。

リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)は、上記のように反応性リン含有化合物(s)を縮合又は重縮合させることにより得ることができる。具体的に説明すると、例えば反応性リン含有化合物(s)を反応容器に加えて徐々に昇温加熱し、次いで例えば6.7hPa(5mmHg)以下の減圧下、160〜280℃の温度範囲内で加熱を行なうことで、リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)が得られる。なお、この反応においては、任意の時期に触媒として、従来公知のチタン、アンチモン、鉛、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、マンガン、アルカリ金属化合物等を加えてもよい。
なお、本発明のエポキシ樹脂組成物に用いる場合のリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)は、数平均分子量が500〜50000であることが好ましい。この数平均分子量が500〜50000のとき、リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)に対して特に優れた難燃性が付与でき、このリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)から調製されるエポキシ樹脂組成物の硬化物の難燃性、耐熱性等を特に優れたものとすることができる。
このようなリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)のエポキシ樹脂中の含有量は特に制限はされないが、硬化物の難燃性、耐熱性、耐半田性、耐湿性、耐トラッキング性等に特に優れたエポキシ樹脂組成物を得るためには、好ましくは組成物全量中におけるリン原子の含有量(リン単体に換算した場合のリン含有量)が重量比率で0.02%以上となるように配合することが好ましい。またこのときの配合量の上限は特に制限されないが、組成物全量中におけるリン原子の含有量が重量比率で9%以下となるように配合することが好ましい。
尚、本発明のエポキシ樹脂組成物には、上記のようなリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)以外にも、他のポリエステル樹脂を配合することもできるが、このような他のポリエステル樹脂を配合する場合でも、リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)の含有量が、これらのポリエステル樹脂の全量に対して10重量%以上であることが好ましい。
また本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記各成分に加え、更に必要に応じ、有機溶剤(D)を使用することができる。とりわけ、電気積層板用のワニスを調整する際は、前記(A)、(B)、(C)及び(D)の各成分を必須の成分とすることが好ましい。尚、本発明のエポキシ樹脂組成物を、塗料用途等その他の用途に使用する場合においても、勿論(A)、(B)、(C)及び(D)の各成分を併用してもよい。
有機溶剤(D)としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、N、N−ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、メトキシプロパノール、エチルカルビトール、トルエン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。これらの溶剤は1種のみを用いるほか、適宜2種又はそれ以上の混合溶剤として使用することも可能である。
有機溶剤(D)の使用量は特に制限されるものではないが、プリプレグを作製する場合の基材への含浸性、樹脂付着性等が良好となる点から、ワニス中の固形分濃度30重量%以上、なかでも40〜70重量%となる範囲であることが好ましい。
本発明のエポキシ樹脂組成物には、さらに必要に応じて種々の添加剤、難燃剤、充填材等を適宜配合することができる。特に無機系充填材(E)を配合することが、より高い難燃性が得られる点から望ましい。
この無機系充填材(E)としては、特に制限されるものではないが、例えばシリカ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、窒化珪素、窒化硼素などがあげられる。
また、この無機系充填材(E)の組成物中での含有量がエポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)及び難燃剤(C)の合計100重量部に対し150重量部以下となるように無機系充填材(E)を配合することが好ましい。これより多く使用しても難燃性に与える効果は同じであり、逆にドリル加工性等の他の積層板特性が低下するおそれがある。
また、その他に浸透剤、レベリング剤等種々の添加剤を適宜配合することが出来るが、本発明の効果を顕著なものとするためには、これらの使用はできるだけ避けた方が望ましく、使用する場合においても、組成物中5重量%以下の範囲であることが好ましい。
以上詳述した本発明のエポキシ樹脂組成物は、既述の通り、電気積層板用途として極めて有用である。本発明のエポキシ樹脂組成物から積層板を製造する方法は特に制限されるものではないが、例えば有機溶媒(D)を用いない場合には、エポキシ樹脂組成物を構成する各成分からなる固形の組成物を加熱溶融させて、所定の樹脂量(好ましくは30〜70重量%)となる割合で基材に含浸させ、また有機溶媒(D)を用いてワニスとして調製する場合はエポキシ樹脂組成物を構成する各成分を配合してワニスを調整し、これを所定の樹脂量(好ましくは30〜70重量%)となる割合で基材に含浸してプリプレグとする。またこのプリプレグを用い、所定枚数、好ましくは1〜10枚のプリプレグを加熱プレスして積層板が得られる。
また金属張積層板を得る場合には、所定枚数、好ましくは1〜10枚のプリプレグの一面又は両面に銅箔等の金属箔を配置し、加熱プレスして得る方法が挙げられる。
また上記のような積層板や金属箔張積層板に対し、アディティブ法、サブトラクティブ法等により一面又は両面に導体配線を形成して、プリント配線板を得ることができる。
ここで、プリプレグを得るための基材としては、特に限定されるものではなく、プリプレグ形成用途に使用可能な適宜のものを採用することができ、例えばガラス織布やガラス不織布等の無機繊維の織布又は不織布、アラミド樹脂織布やアラミド樹脂不織布等の有機繊維の織布又は不織布などが挙げられる。
また、積層板形成時の加熱加圧成形の際の条件としては、特に制限されないが、例えば温度条件として120〜220℃の範囲、圧力条件として2〜10MPaの範囲、時間条件として10〜240分間が好ましく適用できる。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記の通り電気積層板用として極めて有用であるが、硬化剤との組み合わせによって、接着剤、注型、塗料等の各種用途に使用することもでき、例えば、銅箔に接着剤として塗布し、乾燥半硬化させてビルドアップ工法用にも適用できる。
即ち、本発明のエポキシ樹脂組成物は、耐熱性を低下させることなく、非ハロゲン系の難燃性硬化物を得られることから、封止、積層、塗料などの用途特にガラスエポキシ積層板やIC封止材用に適し、さらに金属密着性に優れるのでレジストや塗料用途にも適する被覆用エポキシ樹脂組成物を提供することが出来る。
【実施例】
次に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の合成例、実施例および比較例において「部」とは、特に示さない限り、全て重量基準である。また、下記合成例1乃至3のポリエステル樹脂の数平均分子量、および実施例1乃至6、比較例1乃至3の物性は、以下の試験方法により測定したものである。
(1)数平均分子量の測定
各試料を固形分について10mg/mlとなる様にTHF溶液を調製し、各々インジェクション量100マイクロリットルにて、下記測定条件により測定した。
・GPC測定装置:昭和電工(株)製SHODEX SYSTEM 11
・カラム:SHODEX KF−800P、KF−805、KF−803及びKF−801(いずれも昭和電工(株)製)の4本直列移動相
・THF流量:1ml/分
・カラム温度:45℃
・検出器:RI
・換算:ポリスチレン
(2)難燃性
UL94燃焼性試験法に基づき試験した。
(3)耐トラッキング性
各試料につき、UL−1410に基づき、基板表面上に電極を配置し、得られた滴定数−電圧曲線から50滴に対応する電圧を求めた。
(4)引き剥がし強さ
JIS C 6481に基づき試験した。
(5)耐熱性
各試料につき、銅張積層板25mm×25mmの試験片を280℃の半田浴に5〜20分間(5分刻み)浮かべ、フクレの有無を試験して次のように評価した。
◎:全くなし、○:一部あり、△:大部あり、×:全部あり。
(6)耐湿性
各試料につき、120℃、2気圧の加圧水蒸気処理後、280℃の半田浴中に10秒間浸漬し、フクレの有無を試験して次のように評価した。
◎:全くなし、○:一部あり、△:大部あり、×:全部あり。
<リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)の合成>
〔合成例1〕
反応器に、反応性リン含有化合物(s)(上記化学式(I)で示される反応性リン含有化合物(s)、三光株式会社製、品名「M−ester」、エチレングリコール63%溶液)600.0部及び触媒としてシュウ酸チタンカリウム0.1部を加え、撹拌混合しながら昇温した。続いて250℃で徐々に減圧し250℃、0.5mmHg(66.7Pa)の条件下で50分間重縮合反応を行い、数平均分子量5100のリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−1)を得た。
〔合成例2〕
合成例1において、重縮合反応の反応時間を10分間として、数平均分子量520のリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−2)を得た。
〔合成例3〕
合成例1において、重縮合反応の反応時間を180分間として、数平均分子量11000のリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−3)を得た。
【実施例1】
エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂「EPICLON N−770」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量189g/eq)100部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON 1051」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量470g/eq)70部、硬化剤としてノボラック型フェノール樹脂「PSM−4261」(群栄化学工業(株)製、水酸基当量106g/eq、軟化点80℃)72部、合成例1で得られたリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−1)85部、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.3部を、メチルセロソルブ80部とメチルエチルケトン90部混合溶剤に溶解し、エポキシ樹脂組成物(エポキシ樹脂ワニス)を調製した。
本樹脂ワニスを、基材であるガラスクロス(旭シュエーベル(株)製、7628タイプ、厚み0.18mm)に含浸し、170℃で測定するプリプレグのゲルタイムが約120秒になるように170℃乾燥器で乾燥およびB−ステージ化し、樹脂量45重量%のエポキシ樹脂プリプレグを作製した。
得られたプリプレグを8枚積層すると共にその外側の両面に厚み18μmの銅箔を重ね合わせ、圧力3.9MPa(40kg/cm)、温度170℃、加熱時間90分の条件で硬化させて板厚約1.6mmの積層板を作製した。
得られた積層板について、上記測定条件で耐熱性(耐半田性)、耐湿性、引き剥がし強さを測定し、また得られた積層板から銅箔を溶解除去した後、上記測定条件で難燃性、耐トラッキング性を測定した。その結果を表1に示す。
【実施例2】
実施例1において、合成例1で得られたリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−1)に代えて、合成例2で得られたリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−2)を用い、それ以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂プリプレグ及び積層板を作製し、実施例1と同様に評価試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【実施例3】
実施例1において、合成例1で得られたリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−1)に代えて、合成例3で得られたリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−3)を用い、それ以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂プリプレグ及び積層板を作製し、実施例1と同様に評価試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【実施例4】
エポキシ樹脂としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂「EPICLON N−665」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量206g/eq)110部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON 1051」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量470g/eq)70部、硬化剤としてノボラック型フェノール樹脂「PSM−4261」(群栄化学工業(株)製、水酸基当量106g/eq、軟化点80℃)72部、合成例1で得られたリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−1)85部、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.3部を、メチルセロソルブ80部とメチルエチルケトン90部混合溶剤に溶解し、エポキシ樹脂組成物(エポキシ樹脂ワニス)を調製した。
このエポキシ樹脂組成物を用い、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂プリプレグ及び積層板を作製し、実施例1と同様に評価試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【実施例5】
実施例4において、合成例1で得られたリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−1)に代えて、合成例2で得られたリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−2)を用い、それ以外は実施例4と同様にして、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂プリプレグ及び積層板を作製し、実施例1と同様に評価試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
【実施例6】
実施例4において、合成例1で得られたリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−1)に代えて、合成例3で得られたリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C−3)を用い、それ以外は実施例4と同様にして、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂プリプレグ及び積層板を作製し、実施例1と同様に評価試験を行った。その結果を表1に併せて示す。
〔比較例1〕
エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂「EPICLON N−770」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量189g/eq)100部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON 1051」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量470g/eq)70部、ノボラック型フェノール樹脂「PSM−4261」(群栄化学工業(株)製、水酸基当量106g/eq、軟化点80℃)72部、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.3部を、メチルセロソルブ60部とメチルエチルケトン70部混合溶剤に溶解し、エポキシ樹脂組成物(エポキシ樹脂ワニス)を調製した。本樹脂ワニスを使用し、実施例1と同様に積層板を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
〔比較例2〕
エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂「EPICLON N−770」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量189g/eq)100部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON 1051」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量470g/eq)70部、ノボラック型フェノール樹脂「PSM−4261」(群栄化学工業(株)製、水酸基当量106g/eq、軟化点80℃)72部、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.3部、難燃剤としてリン酸エステル系「PX−200」(大八化学工業(株)製)80部を、メチルセロソルブ80部とメチルエチルケトン90部混合溶剤に溶解し、エポキシ樹脂組成物(エポキシ樹脂ワニス)を調製した。本樹脂ワニスを使用し、実施例1と同様に積層板を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
〔比較例3〕
エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂「EPICLON N−770」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量189g/eq)100部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON 1051」(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量470g/eq)70部、ノボラック型フェノール樹脂「PSM−4261」(群栄化学工業(株)製、水酸基当量106g/eq、軟化点80℃)72部、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.3部を、メチルセロソルブ80部とメチルエチルケトン90部混合溶剤に溶解し、本溶液に無機系充填材として水酸化アルミニウム粉末(住友化学工業(株)製)280部を添加して分散し、エポキシ樹脂組成物(エポキシ樹脂ワニス)を調製した。本樹脂ワニスを使用し、実施例1と同様に積層板を作製し、評価した。その結果を表1に示す。

【産業上の利用の可能性】
上記のように、本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物によれば、難燃剤としてハロゲンを含まないリン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)を含有するので、燃焼の際に有毒ガスの発生を抑制することができる。また、この樹脂組成物を用いて作成した成形品は、難燃性、耐半田性、耐湿性、耐トラッキング性に優れるという長所がある。尚、本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物は、プリプレグ、積層板及びプリント配線板等の作成に特に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)および硬化剤(B)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物において、リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)を含有し、前記リン原子含有難燃性ポリエステル樹脂(C)が、下記構造式(I)に示される反応性リン含有化合物(s)を縮合反応又は重縮合反応させたものである難燃性エポキシ樹脂組成物。

【請求項2】
請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂組成物において、硬化剤(B)の一部又は全部は、ノボラック樹脂を含有する。
【請求項3】
請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量が、100〜10000g/eqである。
【請求項4】
請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂(A)が、その分子構造内にハロゲン原子を含まないもののみからなる。
【請求項5】
請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂組成物を基材に含浸させたプリプレグ。
【請求項6】
請求項5に記載のプリプレグを成形した積層板。
【請求項7】
請求項6に記載の積層板において、上記積層板の少なくとも一面に金属箔が積層成形される。
【請求項8】
請求項6に記載の積層板の少なくとも一面に導体配線を形成してなるプリント配線板。

【国際公開番号】WO2004/092265
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570900(P2004−570900)
【国際出願番号】PCT/JP2003/004906
【国際出願日】平成15年4月17日(2003.4.17)
【出願人】(000166683)互応化学工業株式会社 (57)
【Fターム(参考)】