説明

電力用半導体装置

【課題】逆回復電流に起因するスイッチング損失を減少することができ、発熱損失を減少することができ、小型化を実現することができる電力用半導体装置を提供する。
【解決手段】電力用半導体装置1において、カスコード素子20の電力用半導体スイッチング素子21のソース領域と負極端子11との間に複数直列接続された第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22及び第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23を備え、カスコード素子20に対して電気的に並列に高速ダイオード30を備える。電力用半導体スイッチング素子21はノーマリーオン型であり、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22及び第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23はノーマリーオフ型である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用半導体装置に関し、特に正極端子と負極端子との間にカスコード素子を備えた電力用半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体装置を構築する接合型電界効果トランジスタや静電誘導型トランジスタは、高電圧、大電力領域において、高速動作を実現することができる電力用半導体スイッチング素子である。この電力用半導体スイッチング素子は、一般に、ゲート電圧0Vのときにドレイン電流が流れるノーマリーオン型の特性を示す。ゲート電極に負極性の電圧が十分に印加されない状態において、ドレイン電圧が印加されると、大きなドレイン電流が流れ、電力用半導体スイッチング素子が破壊されることがある。このため、バイポーラトランジスタ、金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ等のノーマリーオフ型の特性を有するトランジスタに比べて、電力用半導体スイッチング素子の取り扱いが比較的難しい。
【0003】
下記特許文献1には、このような技術課題を解決可能な、カスコード接続によるノーマリーオフ型の複合半導体素子(以下、単に「カスコード素子」という。)が提案されている。図5に示すように、カスコード素子110は、正極端子100と負極端子101との間に電気的に直列に接続されたノーマリーオン型素子及びノーマリーオフ型素子により構成されている。ノーマリーオン型素子には例えば接合型電界効果トランジスタ111が使用され、ノーマリーオフ型素子には例えば金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ112が使用されている。
【0004】
金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ112にはソース領域とドレイン領域との間にダイオード(整流ダイオード)113が内蔵されている。カスコード素子110においては、負極端子101から正極端子100に、ダイオード113及び接合型電界効果トランジスタ111を通して電流を流すこともできる。
【0005】
金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ112のゲート電極には、抵抗125を介在して駆動回路120が接続されている。駆動回路120はインバータ121及び電源122により構成されている。
【特許文献1】特開2001−251846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の電力用半導体装置においては、以下の点について配慮がなされていなかった。図5に示すカスコード素子110を上下に組んで双方向チョッパ回路として使用し、又ブリッジを組んでインバータとして使用する場合、スイッチング動作時に一方のアームのカスコード素子110が導通(オン)すると、他方のアームの金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ112のダイオード113が非導通(オフ)になる。このとき、非導通状態にあるダイオード113のPN接合部に生成される空乏層には少数キャリアが蓄積される。空乏層に蓄積された少数キャリアは逆回復電流としてダイオード113に流れるので、逆回復損失が発生する。逆回復損失はダイオード113のスイッチング損失であり、スイッチング動作毎に発生する。また、この逆回復電流は、導通過渡状態のカスコード素子110に流れ込み、カスコード素子110のスイッチング損失の増大を引き起こす。
【0007】
更に、スイッチング損失の増大は発熱損失の増大になる。このため、大型の冷却用ヒートシンクを使用する必要があるので、電力用半導体装置が大型になる。
【0008】
なお、このような課題は、電力用半導体装置において、カスコード素子110の接合型電界効果トランジスタ111に特有のものではなく、接合型電界効果トランジスタ111を静電誘導型トランジスタに代えた場合にも同様に発生する。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は逆回復電流に起因するスイッチング損失を減少することができる電力用半導体装置を提供することである。
【0010】
更に、本発明の目的は、スイッチング損失並びに発熱損失を減少することができ、小型にすることができる電力用半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の実施の形態に係る特徴は、電力用半導体装置において、正極端子に主電極の一方が接続されたノーマリーオン型の電力用半導体スイッチング素子と、電力用半導体スイッチング素子の主電極の他方と負極端子との間に電気的に直列に接続されたノーマリーオフ型の複数の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタとを備えたカスコード素子と、カスコード素子と電気的に並列に接続され、正極端子にカソード領域が接続され、負極端子にアノード領域が接続された高速ダイオードとを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、逆回復電流に起因するスイッチング損失を減少することができる電力用半導体装置を提供することができる。
【0013】
更に、本発明によれば、スイッチング損失並びに発熱損失を減少することができ、小型にすることができる電力用半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、実施の形態において、同一機能を有する構成要素には同一符号を付け、重複する説明は省略する。
【0015】
(第1の実施の形態)
[電力用半導体装置の構成]
本発明の第1の実施の形態に係る電力用半導体装置1は、図1に示すように、正極端子10に主電極の一方(ドレイン領域)が接続され、高耐圧を有するノーマリーオン型の電力用半導体スイッチング素子21と、電力用半導体スイッチング素子21の主電極の他方(ソース領域)と負極端子11との間に電気的に直列に接続され、低耐圧を有するノーマリーオフ型の2個の第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22及び第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23とを備えたカスコード素子20と、カスコード素子20と電気的に逆並列に接続され、正極端子10にカソード領域が接続され、負極端子にアノード領域が接続された高速ダイオード30とを備える。
【0016】
更に、電力用半導体装置1は、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22のゲート電極に接続された抵抗51と、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のゲート電極に接続された抵抗52と、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のソース領域とゲート電極との間に挿入されたツェナーダイオード53と、抵抗51、52、負極端子11にそれぞれ接続された駆動回路60とを備えている。駆動回路60は、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22及び第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23の導通、非導通の制御を行う機能を備え、インバータ61及び電源62を備えている。
【0017】
カスコード素子20の電力用半導体スイッチング素子21は、第1の実施の形態において、接合型電界効果トランジスタにより構成されている。この接合型電界効果トランジスタには、ソース領域に印加されるソース電位に対してゲート電極に印加されるゲート電位が例えば20V以上低いと非導通(オフ)になり、それ以上高いと導通(オン)になる接合型電界効果トランジスタを使用することができる。ゲート電極には負極端子11からゲート抵抗分降下したゲート電位が印加されている。つまり、この接合型電界効果トランジスタは600V以上の高耐圧を備えている。なお、電力用半導体スイッチング素子21は、接合型電界効果トランジスタに代えて、静電誘導型トランジスタにより構成してもよい。
【0018】
接合型電界効果トランジスタ、静電誘導型トランジスタにおいては、いずれも高電圧、大電力領域において高速動作を実現することができ、順方向、逆方向の双方向においてスイッチング損失を減少することができる。
【0019】
第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のそれぞれは、いずれも、シリコン半導体−絶縁体−金属構造のトランジスタである。すなわち、第1の実施の形態において、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、MISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)、IGFET(Insulated Gate Field Effect Transistor)のいずれもが含まれる。
【0020】
第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22は、ソース領域を負極端子11に接続し、ドレイン領域を第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のソース領域に接続し、ゲート電極を抵抗51を通して駆動回路60に接続する。この第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22は、ゲート電位を例えば2V〜10V以上加えると導通し、それ以下においては非導通になる。
【0021】
第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22のソース領域とドレイン領域との間には寄生ダイオード25が作り込まれている。寄生ダイオード25のアノード領域はソース領域に電気的に接続され、カソード領域はドレイン領域に電気的に接続されている。この寄生ダイオード25は整流ダイオードとして機能する。
【0022】
第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23は、ソース領域を第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22のドレイン領域に接続し、ドレイン領域を電力用半導体スイッチング素子21のソース領域に接続し、ゲート電極を抵抗52を通して駆動回路60に接続する。この第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23は、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22と同様に、ゲート電位を例えば2V〜10V以上加えると導通し、それ以下においては非導通になる。第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のソース領域とドレイン領域との間には、寄生ダイオード25と同様の寄生ダイオード26が作り込まれている。
【0023】
高速ダイオード30は、負極端子11から正極端子10に電流が流れるとき、カスコード素子20ではなく、この高速ダイオード30に電流を積極的に流し、低損失化を図ることを主目的として、カスコード素子20に逆並列接続されている。第1の実施の形態において、高速ダイオード30にはユニポーラダイオードを実用的に使用することができる。ユニポーラダイオードにおいては、少数キャリアの蓄積がなく、逆回復電荷が形成されないので、逆回復電流が流れない。また、ユニポーラダイオードは接合容量成分のみの電荷であり、ユニポーラダイオードの逆回復損失は極めて小さい。従って、ユニポーラダイオードを高速ダイオード30として使用することにより、高速ダイオード30の損失を減少することができる。
【0024】
第1の実施の形態において、ユニポーラダイオードには、ショットキーバリアダイオード(SBD)を実用的に使用することができる。SBDは、寄生ダイオード25、26のそれぞれに比べて、逆回復時間が短く、逆回復損失が小さい性質を備えている。ワイドギャップ半導体において構築されるSBDにおいては、例えば200V以上の高耐圧を備えている。また、ユニポーラダイオードには、SBDと同等の特性を有する、ジャンクションバリアショットキーダイオード(JBS)を使用することができる。
【0025】
なお、第1の実施の形態において、電力用半導体装置1は、カスコード素子20の電力用半導体スイッチング素子21、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23、高速ダイオード30は、それぞれが1つの半導体チップにより構成され、この半導体チップを1つまたは複数パッケージングすることにより構築することができる。また、電力用半導体装置1は、カスコード素子20の電力用半導体スイッチング素子21、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23、高速ダイオード30の2つ以上を1つにパッケージングするように構成してモジュール化することもできる。更に、電力用半導体装置1は、それらの素子の1つ又は複数を搭載した半導体チップを複数構築し、これら複数の半導体チップをモジュールとして1つにパッケージングすることにより構築してもよい。
【0026】
[電力用半導体装置の動作]
次に、前述の電力用半導体装置の動作を説明する。まず、非導通状態から導通状態への動作は以下の通りである。駆動回路60からカスコード素子20の第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22のゲート電極、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のゲート電極にそれぞれ駆動開始信号が供給される。この駆動開始信号は、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22のゲート電極とソース領域(負極端子11)との間の電位差、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のゲート電極とソース領域との間の電位差をいずれも例えば10Vにするゲート電位である。
【0027】
この駆動開始信号の供給の結果、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23の双方のドレイン領域とソース領域との間の電位差がなくなる。正確には、ドレイン領域とソース領域との間はオン抵抗のドロップ電圧分(例えば、0.1V)のみの電位差になる。すると、電力用半導体スイッチング素子21のソース領域のソース電位が負極端子11と同程度になり、ゲート電極とソース領域との間の電位差はなくなるので、この電力用半導体スイッチング素子21は導通状態になる。すなわち、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22及び第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23が導通すると、電力用半導体スイッチング素子21も導通し、正極端子10と負極端子11との間に電流が流れる。
【0028】
次に、導通状態から非導通状態への動作は以下の通りである。駆動回路60から第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22のゲート電極、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のゲート電極にそれぞれ駆動停止信号が供給される。この駆動停止信号は、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22のゲート電極とソース領域(負極端子11)との間の電位差、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のゲート電極とソース領域との間の電位差をいずれも例えば0Vにするゲート電位である。
【0029】
この駆動停止信号の供給の結果、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23の双方は非導通状態になり、ソース領域とドレイン領域との間にそれぞれ例えば25Vの電位差が発生する。つまり、電力用半導体スイッチング素子21のソース領域と負極端子11との間には、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22のソース領域とドレイン領域との間の電位差と、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のソース領域とドレイン領域との間の電位差とを加えた50Vの電位差が発生する。この電位差は電力用半導体スイッチング素子21のソース領域とドレイン領域との間に印加され、電力用半導体スイッチング素子21のゲート電極には−50Vが印加される。この結果、電力用半導体スイッチング素子21は完全に非導通状態になり、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22及び第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23が非導通になるので、正極端子10と負極端子11との間に流れる電流を遮断することができる。第1の実施の形態に係る電力用半導体スイッチング素子21は、例えば−40V以下において完全に非導通状態になるように閾値電圧が調節されている。
【0030】
ここで、カスコード素子20に並列に接続された高速ダイオード30は、インバータのデッドタイム期間のみ動作する。電力用半導体装置1の負極端子11から正極端子10に電流が流れる場合、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22と第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23とが直列接続されているので、寄生ダイオード25及び26の電圧降下分が2素子分になるため、高速ダイオード30の電圧降下分がカスコード素子20よりも小さくなり、逆方向に流れる電流がカスコード素子20と高速ダイオード30とのそれぞれに分流することなく、その大半を高速ダイオード30に流すことができる。更に、たとえカスコード素子20にソース電流が僅かに流れてしまった場合においても、逆回復電流はソース電流に比例して小さくなるので、カスコード素子20の逆回復損失を低減することができる。従って、カスコード素子20の損失を低減することができる。
【0031】
また、電力用半導体装置1のカスコード素子20を上下に組み込んだ双方向チョッパ回路や、カスコード素子20によりブリッジを組んだインバータの場合、一方のアームのカスコード素子20が導通し、反対アームの導通過渡状態にあるカスコード素子20に逆回復電流が流れ込むことによる損失を低減することができる。つまり、カスコード素子20のスイッチング損失を低減することができる。
【0032】
更に、カスコード素子20の電力用半導体スイッチング素子21のソース領域と負極端子11との間に複数の直列接続された(複数に分割された)第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22及び第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23を挿入したことにより、1素子当たりの素子耐圧を半分以下にすることができ、1素子当たりの導通抵抗(オン抵抗)値を減少することができる。素子の導通抵抗値の減少と素子耐圧の増加との間には2乗の関係がある。従って、カスコード素子20の素子耐圧を向上しつつ、順方向電流(ドレイン電流)における導通抵抗を減少することができる。
【0033】
そして、金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタを第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22と第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23との複数に分割することによって、寄生ダイオード25、26のそれぞれの1素子当たりの面積並びに素子耐圧を小さくすることができる。従って、寄生ダイオード25、26のそれぞれにおいては、逆回復電荷量を小さくし、逆回復電流を小さくすることができるので、逆回復損失を低減することができる。
【0034】
このように構成される第1の実施の形態に係る電力用半導体装置1においては、逆回復電流に起因するスイッチング損失を減少することができる。更に、第1の実施の形態に係る電力用半導体装置1においては、スイッチング損失並びに発熱損失を減少することができ、小型にすることができる。
【0035】
[第1の変形例]
本発明の第1の実施の形態の第1の変形例に係る電力用半導体装置1は、前述の図1に示す電力用半導体装置1においてカスコード素子20の電力用半導体スイッチング素子21をワイドギャップ半導体により構成したものである。ワイドギャップ半導体を利用して形成される電力用半導体スイッチング素子21においては、シリコン半導体に比べて絶縁破壊電界強度を1桁程度大きくすることができ、素子耐圧を保持するためのドリフト層を1/10程度まで薄くすることができるので、電力用半導体スイッチング素子21の導通損失を低減することができる。例えば、電力用半導体スイッチング素子21の絶縁破壊耐圧をシリコン半導体よりも10倍程度高めることができる。
【0036】
更に、電力用半導体スイッチング素子21においては、シリコン半導体に比べて、飽和電子ドリフト速度を2倍程度大きくすることができるので、10倍程度の高周波化を実現することができる。
【0037】
第1の変形例において、ワイドギャップ半導体には、シリコンカーバイド(SiC)、ガリウムナイトライド(GaN)、ダイアモンド等を実用的に使用することができる。
【0038】
このように、第1の変形例に係る電力用半導体装置1においては、カスコード素子20の電力用半導体スイッチング素子21をワイドギャップ半導体により構成することにより、電力用半導体スイッチング素子21の導通損失及びスイッチング損失を減少することができるので、低損失化並びに小型化を実現することができる。
【0039】
[第2の変形例]
本発明の第1の実施の形態の第2の変形例に係る電力用半導体装置1は、前述の図1に示す電力用半導体装置1においてカスコード素子20に逆並列接続された高速ダイオード30をワイドギャップ半導体により構成したものである。ワイドギャップ半導体を利用して形成される高速ダイオード30においては、シリコン半導体に比べて、絶縁破壊電界強度を1桁程度大きくすることができ、素子耐圧を向上することができる。例えば、高速ダイオード30の素子耐圧をシリコン半導体よりも10倍程度高めることができる。
【0040】
高い絶縁破壊領域を必要とする高速ダイオード30において、シリコン半導体を利用する場合にはバイポーラダイオードしか使用することができないが、ワイドギャップ半導体を利用する場合にはユニポーラダイオード、具体的にはSBD若しくはJBDを使用することができる。シリコン半導体を利用してユニポーラダイオードを形成すると、このユニポーラダイオードは導通損失が大きく、実用上、使用することができない。つまり、ワイドギャップ半導体を利用して形成される高速ダイオード30は高い素子耐圧においても逆回復損失を低減することができるので、この高速ダイオード30の損失を減少することができる。
【0041】
ワイドギャップ半導体には前述の第1の変形例において説明したSiC等を実用的に使用することができる。
【0042】
このように、第2の変形例に係る電力用半導体装置1においては、高速ダイオード30をワイドギャップ半導体により構成することにより、高絶縁耐圧領域においても高速ダイオード30の逆回復損失を低減することができ、高絶縁耐圧領域においても電力用半導体スイッチング素子21のスイッチング損失を低減することができるので、低損失化並びに小型化を実現することができる。
【0043】
なお、第1の実施の形態に係る電力用半導体装置1においては、第1の変形例と第2の変形例とを組み合わせることができる。すなわち、電力用半導体装置1は、カスコード素子1の電力用半導体スイッチング素子21、高速ダイオード30のそれぞれをワイドギャップ半導体により構成することができる。
【0044】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、前述の第1の実施の形態に係る電力用半導体装置1のカスコード素子20と駆動回路60との接続構造を代えた例を説明するものである。図2に示すように、電力用半導体装置1において、カスコード素子20の第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22のゲート電極に駆動回路60(インバータ61の出力)が抵抗51を介在して接続され、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のゲート電極に駆動回路60がダイオード55及び抵抗52を介在して接続されている。第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のゲート電極とソース領域との間には、前述の第1の実施の形態に係る電力用半導体装置1のツェナーダイオード53に代えて、抵抗54が挿入されている。
【0045】
第2の実施の形態に係る電力用半導体装置1は、第1の実施の形態に係る電力用半導体装置1に対して、回路接続構造に若干の違いはあるものの、基本的には同等の回路動作を行い、同等の作用効果を奏することができる。
【0046】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態は、前述の第1の実施の形態に係る電力用半導体装置1のカスコード素子20において、金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタの直列接続個数を変えた例を説明するものである。図3に示すように、電力用半導体装置1においては、カスコード素子20の電力用半導体スイッチング素子21のソース領域と負極端子11との間に、3個の第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23、第3の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ24のそれぞれが電気的に直列に接続されている。第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のそれぞれの構成は、前述の第1の実施の形態に係る電力用半導体装置1の第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のそれぞれの構成と同一である。
【0047】
第3の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ24は、基本的には、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22と同一構造において構成されている。第3の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ24においては、ソース領域が第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23のドレイン領域に接続され、ドレイン領域が電力用半導体スイッチング素子21のソース領域に接続され、ゲート電極が抵抗56及びツェナーダイオード57を介在して駆動回路60に接続されている。第3の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ24のゲート電極とソース領域との間は抵抗58を介在して接続されている。また、第3の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ24のソース領域とドレイン領域との間には寄生ダイオード27が電気的に並列に接続されている。
【0048】
このように構成される第3の実施の形態に係る電力用半導体装置1においては、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22及び第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23に加えて更に第3の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ24を備え、合計3個の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタを電気的に直列に接続することにより、第1の実施の形態に係る電力用半導体装置1と同様に、逆回復電流に起因するスイッチング損失を減少することができる。更に、第3の実施の形態に係る電力用半導体装置1においては、スイッチング損失並びに発熱損失を減少することができ、小型にすることができる。
【0049】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態は、前述の第2の実施の形態に係る電力用半導体装置1と第3の実施の形態に係る電力用半導体装置1とを組み合わせた例を説明するものである。図4に示すように、電力用半導体装置1においては、前述の図3に示す第3の実施の形態に係る電力用半導体装置1と同様に、カスコード素子20の電力用半導体スイッチング素子21のソース領域と負極端子11との間に、第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22、第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23及び第3の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ24が直列に接続されている。
【0050】
第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ22及び第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ23と駆動回路60との回路接続構造は前述の第3の実施の形態に係る電力用半導体装置1と同様である。第3の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ24のゲート電極は、抵抗56、ツェナーダイオード57及び55を介在して駆動回路60に接続されている。
【0051】
このように構成される第4の実施の形態に係る電力用半導体装置1においては、前述の第3の実施の形態に係る電力用半導体装置1と同様の効果を奏することができる。
【0052】
(その他の実施の形態)
本発明は、上記複数の実施の形態に限定されるものではない。例えば、本発明は、カスコード素子20の電力用半導体スイッチング素子21のソース領域と負極端子11との間に4個以上の直列接続された金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタを備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電力用半導体装置の回路図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る電力用半導体装置の回路図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る電力用半導体装置の回路図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係る電力用半導体装置の回路図である。
【図5】本発明の先行技術に係る電力用半導体装置の回路図である。
【符号の説明】
【0054】
1 電力用半導体装置
10 正極端子
11 負極端子
20 カスコード素子
21 電力用半導体スイッチング素子
22 第1の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ
23 第2の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ
24 第3の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタ
25〜27 寄生ダイオード
30 高速ダイオード
60 駆動回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極端子に主電極の一方が接続されたノーマリーオン型の電力用半導体スイッチング素子と、
前記電力用半導体スイッチング素子の主電極の他方と負極端子との間に電気的に直列に接続されたノーマリーオフ型の複数の金属絶縁膜半導体型電界効果トランジスタと、を備えたカスコード素子と、
前記カスコード素子と電気的に並列に接続され、前記正極端子にカソード領域が接続され、前記負極端子にアノード領域が接続された高速ダイオードと、
を備えたことを特徴とする電力用半導体装置。
【請求項2】
前記電力用半導体スイッチング素子は接合型電界効果トランジスタ又は静電誘導型トランジスタであることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項3】
前記高速ダイオードはユニポーラダイオードであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電力用半導体装置。
【請求項4】
前記ユニポーラダイオードはショットキーバリアダイオード又はジャンクションバリアダイオードであることを特徴とする請求項3に記載の電力用半導体装置。
【請求項5】
前記電力用半導体スイッチング素子はワイドギャップ半導体により構成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電力用半導体装置。
【請求項6】
前記高速ダイオードはワイドギャップ半導体により構成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電力用半導体装置。
【請求項7】
前記ワイドギャップ半導体はシリコンカーバイド、ガリウムナイトライド又はダイアモンドであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の電力用半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−158185(P2006−158185A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304774(P2005−304774)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】