駆動力伝達装置
【課題】装置を小型軽量化できると共に応答遅れを極めて少なくでき、さらに前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上できる駆動力伝達装置を提供すること。
【解決手段】駆動源5の駆動トルクは中央差動制限装置7から前部差動装置4及び後部差動装置10に分配され、前部差動装置4及び後部差動装置10に分配された駆動力は、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRに分配される。前部差動装置4及び後部差動装置10の少なくとも一方と、中央差動制限装置7とはトルク感応式の差動制限装置で構成されているので、装置を小型軽量化できる。また、車輪2のスリップ時には、スリップした車輪2の駆動力が、トルク感応式の中央差動制限装置7により前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRに増幅して非差動で分配される。その結果、スリップ時のトラクションを向上できると共に、時間的な応答遅れを極めて少なくできる。
【解決手段】駆動源5の駆動トルクは中央差動制限装置7から前部差動装置4及び後部差動装置10に分配され、前部差動装置4及び後部差動装置10に分配された駆動力は、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRに分配される。前部差動装置4及び後部差動装置10の少なくとも一方と、中央差動制限装置7とはトルク感応式の差動制限装置で構成されているので、装置を小型軽量化できる。また、車輪2のスリップ時には、スリップした車輪2の駆動力が、トルク感応式の中央差動制限装置7により前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRに増幅して非差動で分配される。その結果、スリップ時のトラクションを向上できると共に、時間的な応答遅れを極めて少なくできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は4輪駆動車の駆動力伝達装置に関し、特に、装置を小型軽量化できると共に応答遅れを極めて少なくでき、さらに前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上できる駆動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より4輪駆動車は、一対の前輪および後輪の回転差を吸収するため、前輪および後輪に差動装置(デフ)を備えるものが知られている。また、前輪と後輪との回転差を吸収するため、前後の差動装置の間にもう一つの差動装置(センターデフ)を備えるものも知られている。このような4輪駆動車では、前輪または後輪のスリップ時には非スリップ側の車輪の駆動力が奪われることになって、車輪の駆動力を路面に伝える能力(トラクション)が悪化する問題が生じる。
【0003】
そこで、駆動力を前後輪へ出力するセンターデフを備える4輪駆動車の駆動制御装置において、センターデフに電動発電機を連結する技術が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示される技術では、電動発電機の駆動力を制御することで前後輪のトルク分配比を制御し、前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上させ、走行性能を改善できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4361064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、センターデフに電動発電機を連結するので、装置が複雑になり大型化するという問題点があった。また、電動発電機の制御によって応答遅れが生じ易くなるという問題点があった。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、装置を小型軽量化できると共に応答遅れを極めて少なくでき、さらに前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上できる駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1記載の駆動力伝達装置によれば、駆動源の駆動トルクは中央差動制限装置から前部差動装置および後部差動装置に分配され、前部差動装置および後部差動装置に分配された駆動力は、左右の前輪および後輪に分配される。前部差動装置および後部差動装置の少なくとも一方と、中央差動制限装置とはトルク感応式の差動制限装置で構成されているので、装置を簡素化し小型軽量化できる効果がある。
【0008】
また、前輪または後輪のスリップ時には、スリップした前輪または後輪の駆動力が、トルク感応式の中央差動制限装置により、増幅され非差動で後輪または前輪に分配される。その結果、前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上できると共に、時間的な応答遅れを極めて少なくできる効果がある。
【0009】
さらに、スリップした前輪または後輪にトルク感応式の差動制限装置が配設されていると、スリップした一方の前輪または後輪の駆動力が増幅されて、他方の前輪または後輪に分配される。さらに、その前輪または後輪の駆動力が、トルク感応式の中央差動制限装置により増幅されて後輪または前輪に分配されるので、前輪または後輪のスリップ時のトラクションをさらに向上できる効果がある。
【0010】
請求項2記載の駆動力伝達装置によれば、スリップした一方の前輪または後輪に制動装置により制動力が付与されると、スリップした前輪または後輪の駆動力に制動力を加えた駆動力が、他方の前輪または後輪に分配される。さらに、その前輪または後輪の駆動力が、中央差動制限装置により増幅して後輪または前輪に分配されるので、請求項1の効果に加え、前輪または後輪のスリップ時のトラクションをさらに向上できる効果がある。
【0011】
また、スリップした前輪または後輪に差動制限装置が配設されていると、スリップした一方の前輪または後輪の駆動力および制動力が増幅されて、他方の前輪または後輪に分配される。さらに、その前輪または後輪の駆動力および制動力が、中央差動制限装置により増幅されて後輪または前輪に分配されるので、前輪または後輪のスリップ時のトラクションをさらに向上できる効果がある。
【0012】
さらに、前部差動装置および後部差動装置の少なくとも一方と、中央差動制限装置とはトルク感応式の差動制限装置で構成され、それら差動制限装置により駆動力および制動力が増幅されるので、小さな制動力の付与でトラクションを確保できる。制動力を小さくできるので、制動力による駆動源の出力の損失を小さくできる効果がある。また、制動力が付与されることで生じる振動を抑制できると共に、制動部材の磨耗等を抑制し耐久性を向上できる効果がある。
【0013】
請求項3記載の駆動力伝達装置によれば、スリップ状態取得手段により左右の前輪および後輪のスリップ状態が取得される。第1スリップ状態判断手段により左右の前輪および後輪のスリップ状態が所定のスリップ状態にあるか判断される。判断の結果、所定のスリップ状態にあると判断される車輪に、第1制動力付与手段により制動装置が作動されて制動力が付与される。その結果、スリップ状態にあると判断される車輪に制動力を付与することで、その車輪に対する他方の車輪の駆動力を増幅できる。これにより、請求項2の効果に加え、前輪または後輪のスリップ時のトラクションを確保できる効果がある。
【0014】
請求項4記載の駆動力伝達装置によれば、第1制動力付与手段により車輪に制動力が付与された後、第1代表値判断手段により、左右の前輪のスリップ状態の代表値と左右の後輪のスリップ状態の代表値とが比較され、前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるか判断される。判断の結果、よりスリップ状態にあると判断される前輪または後輪に、第2制動力付与手段により制動装置が作動され制動力が付与される。その結果、第1制動力付与手段により制動力が付与されることで駆動力が増幅された前輪および後輪のスリップ状態が調整されると共に、制動力が付与されることで駆動力がさらに増幅される。これにより、請求項3の効果に加え、前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上できる効果がある。
【0015】
請求項5記載の駆動力伝達装置によれば、第1制動力付与手段により左右の車輪の一方に制動力が付与されると、左右の車輪の他方の駆動力が増幅される。他方の車輪が摩擦抵抗の小さな路面にあると、駆動力が増幅されても他方の車輪はスリップ状態となる。そこで、第2スリップ状態判断手段により他方の車輪が所定のスリップ状態にあるか判断され、第2スリップ状態判断手段により左右の車輪の他方が所定のスリップ状態にあると判断される場合に、第1代表値判断手段により前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるか判断される。その結果、第1代表値判断手段により、よりスリップ状態にあると判断される前輪または後輪に、第2制動力付与手段により制動装置が作動されて制動力が付与される。これにより、よりスリップ状態にないと判断される前輪または後輪の駆動力を増幅させることができ、請求項4の効果に加え、前輪および後輪のトラクションを効率良く向上できる効果がある。
【0016】
請求項6記載の駆動力伝達装置によれば、車両は、中央差動制限装置をロック状態にすることにより、前輪または後輪の一方を駆動輪とし他方を従動輪とする2輪駆動状態に設定可能に構成される。スリップ状態取得手段により左右の前輪および後輪のスリップ状態が取得され、中央差動制限装置をロック状態にするときに、第2代表値判断手段により、左右の前輪のスリップ状態の代表値と左右の後輪のスリップ状態の代表値とが比較され、前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるか判断される。判断の結果、第3制動力付与手段により制動装置が作動され、よりスリップ状態にあると判断される前輪または後輪に制動力が付与される。これにより、第3制動力付与手段により制動装置が作動され、よりスリップ状態にあると判断される前輪または後輪に制動力が付与されることで、中央差動制限装置の回転差を迅速に小さくすることができる。その結果、請求項2の効果に加え、中央差動制限装置を迅速にロック状態にできる効果がある。
【0017】
請求項7記載の駆動力伝達装置によれば、第3制動力付与手段により制動力が付与された前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値と、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値とを比較して、前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値が、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値より小さいかが第3代表値判断手段により判断される。判断の結果、前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値が、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値より小さくなるまで、第3制動力付与手段による制動力の付与は繰り返し実行される。この処理が繰り返し実行される間に前輪および後輪のスリップ状態を等しくできるので、中央制動制限装置の回転差をなくすことができる。これにより、請求項6の効果に加え、中央制動制限装置を確実にロック状態にできる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施の形態における駆動力伝達装置が搭載される車両の模式図である。
【図2】(a)は前輪がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図であり、(b)は後輪がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図である。
【図3】駆動力伝達装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】駆動力制御処理を示すフローチャートである。
【図5】駆動力制御処理を示すフローチャートである。
【図6】駆動力制御処理を示すフローチャートである。
【図7】駆動力制御処理を示すフローチャートである。
【図8】第2実施の形態における駆動力伝達装置が搭載される車両の模式図である。
【図9】(a)は前輪がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図であり、(b)は後輪がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図である。
【図10】第3実施の形態における駆動力伝達装置が搭載される車両の模式図である。
【図11】駆動力伝達装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図12】駆動力制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本発明の第1実施の形態における駆動力伝達装置20について説明する。図1は第1実施の形態における駆動力伝達装置20が搭載される車両1の模式図である。
【0020】
図1に示すように、車両1は、左右の前輪(左前輪2FL、右前輪2FR)及び左右の後輪(左後輪2RL、右後輪2RR)を備えている。左右の前輪2FL,2FRは前輪軸3L,3Rに支持され、前輪軸3L,3Rは、左右の前輪2FL,2FRの回転数を吸収しつつ前輪軸3L,3Rに駆動力を分配する前部差動装置4に連結される。駆動源5からの駆動トルクは、変速機6を介してトルク感応式の中央差動制限装置7に伝達される。中央差動制限装置7は、前部駆動軸8により前部差動装置4に連結され、後部駆動軸9により後部差動装置10に連結される。後部差動装置10は、左右の後輪2RL,2RRを支持する後輪軸11L,11Rに連結される。後部差動装置10は、左右の後輪2RL,2RRの回転数を吸収しつつ後輪軸11L,11Rに駆動力を分配する。
【0021】
後部差動装置10は、本実施の形態では、トルク感応式(シュアトラック式)の差動制限装置で構成されている。また、前部差動装置4は、差動回転が制限されないオープンデフとして差動歯車により構成されている。中央差動制限装置7及び後部差動装置10をトルク感応式の差動制限装置で構成することにより、差動制限装置が非差動でトルク分配するため、時間的な応答遅れを極めて少なくできる。また、粘性抵抗がなく機械的与圧を必要としないため、前部駆動軸8及び後部駆動軸9間、並びに、後輪軸11L,11R間に回転の拘束力が生じないようにでき、エネルギー損失を少なくできる。さらにオイルや粘性流体を使用しないので、温度に依存されることなく特性を安定化できる。
【0022】
左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRには、車輪2を各別に制動可能な制動装置12が配設されている。制動装置12は、左後輪2RLに配設されるFLブレーキ12FL、右後輪2RRに配設されるFRブレーキ、左後輪2RLに配設されるRLブレーキ、右後輪2RRに配設されるRRブレーキ12RRを備えて構成されている。本実施の形態では、制動装置12は液圧式であり、車輪2と共に回転するディスクロータ(図示せず)と、液圧によって摩擦パッドをディスクロータに押圧するアクチュエータ(図示せず)とを備えて構成されている。なお、駆動力伝達装置20は、前部差動装置4、中央差動制限装置7及び後部差動装置10を備えている。
【0023】
次に、図2を参照して、駆動力伝達装置20の動作について説明する。図2(a)は前輪(左前輪2FL)がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図であり、図2(b)は後輪(右後輪2RR)がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図である。
【0024】
図2(a)に示すように、左前輪2FLが摩擦抵抗の小さな路面に入ると、左前輪2FLに対する拘束力が小さくなるため、左前輪2FLの駆動力(TF)が小さくなる。このときに制動装置12を作動させて左前輪2FLに制動力(−TBf)を付与すると、左前輪2FLに対する拘束力を大きくすることができる。その結果、前部差動装置4は右前輪2FRへ駆動力(TBf+TF)を伝える。左右の前輪2FL,2FRの駆動力(2(TBf+TF))は、前部駆動軸8(図1参照)により中央差動制限装置7に伝達され、中央差動制限装置7のトルク分配比(TBR=α)により増幅される。増幅された駆動力(2α(TBf+TF))は後部駆動軸9(図1参照)により後部差動装置10に伝達され、後部差動装置10により分配されて左右の後輪2RL,2RRに駆動力(α(TBf+TF))が伝達される。以上のように駆動力伝達装置20によれば、左前輪2FLの小さな駆動力(TF)を増幅して、左右の後輪2RL,2RRのトラクションを向上できる。
【0025】
また、図2(b)に示すように、右後輪2RRが摩擦抵抗の小さな路面に入ると、右後輪2RRに対する拘束力が小さくなるため、右後輪2RRの駆動力(TR)が小さくなる。このときに制動装置12を作動させて右後輪2RRに制動力(−TBr)を付与すると、右後輪2RRに対する拘束力(TBr+TR)を大きくすることができる。その拘束力(TBr+TR)は、後部差動装置10のトルク分配比(TBR=α)により増幅され、左後輪2RLに駆動力(α(TBr+TR))を伝える。左右の後輪2RL,2RRの駆動力((1+α)(TBr+TR))は、後部駆動軸9により中央差動制限装置7に伝達され、中央差動制限装置7のトルク分配比(TBR=α)により増幅される。増幅された駆動力(α(1+α)(TBr+TR))は前部駆動軸8により前部差動装置4に伝達され、前部差動装置4により分配されて左右の前輪2FL,2FRに駆動力(α/2・(1+α)(TBr+TR))が伝達される。以上のように駆動力伝達装置20によれば、右後輪2RRの小さな駆動力(TR)を増幅して、左右の前輪2FL,2FRのトラクションをさらに向上できる。
【0026】
さらに、後部差動装置10と中央差動制限装置7とはトルク感応式の差動制限装置で構成され、それら差動制限装置により駆動力および制動力が増幅されるので、小さな制動力の付与でトラクションを確保できる。制動装置12により付与される制動力を小さくできるので、制動力による駆動源5(図1参照)の出力の損失を小さくできる。また、制動力が付与されることで生じる振動を抑制できると共に、摩擦パッド(図示せず)等の制動部材の磨耗等を抑制し耐久性を向上できる。
【0027】
次に図3を参照して、駆動力伝達装置20の詳細構成について説明する。図3は駆動力伝達装置20の電気的構成を示したブロック図である。駆動力伝達装置20は、図3に示すように、CPU21、ROM22及びRAM23を備え、それらがバスライン24を介して入出力ポート25に接続されている。また、入出力ポート25には制動装置12等の装置が接続されている。
【0028】
CPU21は、バスライン24により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM22は、CPU21により実行される制御プログラム(例えば図4から図7に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。RAM23は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能にするためのメモリである。
【0029】
制動装置12は、上述したように車輪に制動力を付与するための装置であり、FL〜RRブレーキ12FL〜12RRと、それらFL〜RRブレーキ12FL〜12RRをCPU21からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0030】
車輪速度センサ装置30は、車輪2の回転速度を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、右後輪2RRの各回転速度を検出するFLセンサ〜RRセンサ30FL〜30RRと、それらFLセンサ〜RRセンサ30FL〜30RRの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0031】
加速度センサ装置31は、車両1の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、前後方向加速度センサ31a及び左右方向加速度センサ31bと、それら各加速度センサの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0032】
前後方向加速度センサ31aは、車両1の前後方向(図1左右方向)の加速度、いわゆる前後Gを検出するセンサであり、左右方向加速度センサ31bは、車両1の左右方向(図1上下方向)の加速度、いわゆる横Gを検出するセンサである。また、CPU21は、加速度センサ装置31から入力された各加速度センサの検出結果(前後G、横G)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の走行速度を取得することができる。
【0033】
図3に示す他の入出力装置40としては、例えば、ヨーレートセンサ装置、操舵角センサ装置などを挙げることができる。ヨーレートセンサ装置は、車両1のヨーレートを検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、車両1の重心を通る鉛直軸(図1紙面垂直方向軸)回りの車両1の回転角速度を検出するヨーレートセンサと、そのヨーレートセンサの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路とを主に備えている。操舵角センサ装置は、操舵角を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、操舵角を検出する角度センサと、その角度センサの検出結果を処理してCPU21に出力する出力装置とを主に備えている。
【0034】
次いで図4から図7を参照して、駆動力制御処理について説明する。図4から図7は駆動力制御処理を示すフローチャートである。この処理は駆動源5(図1参照)が作動している間、CPU21によって繰り返し(例えば0.2秒間隔で)実行される処理であり、スリップ率に基づいて制動力を付与することにより車輪2の駆動力を制御する処理である。
【0035】
CPU21は駆動力制御処理に関し、各車輪2のスリップ率を取得する(S1)。スリップ率は、車輪速度センサ装置30により検出される各車輪2の車輪速度と、加速度センサ装置31により検出される車両1の走行速度とに基づいて取得できる。CPU21は、取得した右後輪2RRのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率以上であるか否かを判断する(S2)。
【0036】
その結果、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S2:Yes)、次に、右後輪2RRのスリップ率が左後輪2RLのスリップ率以上であるか否かを判断する(S3)。その結果、右後輪2RRのスリップ率が左後輪2RLのスリップ率以上であると判断される場合には(S3:Yes)、RRブレーキ12RRによる右後輪2RRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S4)。ここで、制御パラメータとしては、液圧式の制動装置12におけるアクチュエータのバルブの開閉デューティ比を挙げることができる。次いで、CPU21は制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って右後輪2RRに制動力を付与する(S5)。
【0037】
次に、CPU21は右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断し(S6)、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S6:No)、S3の処理を実行する。即ち、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断されるまで、スリップ率の大きな右後輪2RRに制動力を繰り返し付与することにより、駆動力を効果的に増幅させることができる。
【0038】
これに対し、S6の処理において、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S6:Yes)、次に、CPU21は左後輪2RLのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断する(S7)。即ち、S5の処理において右後輪2RRに制動力が付与されると、図2(a)及び図2(b)を参照して説明したように、左後輪2RLの駆動力が増加する。左後輪2RLに対する路面の摩擦抵抗が小さい場合、左後輪2RLもスリップ状態になるので、S7の処理によりこれを検出できる。
【0039】
S7の処理の結果、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率以上と判断される場合には(S7:No)、CPU21は、左右の後輪2RL,2RRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)と、左右の前輪2FL,2FRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)とを比較し、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率(代表値)が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率(代表値)未満であるか否かを判断する(S8)。その結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S8:No)、RLブレーキ12RLによる左後輪2RLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S9)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左後輪2RLに制動力を付与し(S10)、この駆動力制御処理を終了する。
【0040】
即ち、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S8:No)、後輪2RL,2RRに制動力を付与することにより、前輪2FL,2FRの駆動力を効率良く増幅できる。これにより前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRのトラクションを向上できる。
【0041】
一方、S7の処理の結果、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S7:Yes)、左後輪2RLの駆動力を確保できるので、S8〜S10の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。また、S8の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S8:Yes)、後輪2RL,2RRに制動力を付与する必要はないと判断されるため、S9及びS10の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。
【0042】
S2の処理の結果、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合は(S2:No)、次にCPU21は、取得した左後輪2RLのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率以上であるか否かを判断する(S11)。
【0043】
その結果、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S11:Yes)、RLブレーキ12RLによる左後輪2RLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S12、図5参照)。
【0044】
また、S3(図4参照)の処理の結果、右後輪2RRのスリップ率が左後輪2RLのスリップ率より小さいと判断される場合にも(S3:No)、RLブレーキ12RLによる左後輪2RLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S12)。即ち、右後輪2RRのスリップ率が左後輪2RLのスリップ率より小さいと判断される場合は(S3:No)、右後輪2RRから左後輪2RLへの駆動力の伝達ができないので、左後輪2RLに制動力を付与し、左後輪2RLから右後輪2RRへ駆動力を伝達するように動作する。次いで、CPU21は制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左後輪2RLに制動力を付与する(S13)。
【0045】
次に、CPU21は左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断し(S14)、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S14:No)、S12の処理を実行する。即ち、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断されるまで、スリップ率の大きな左後輪2RLに制動力を繰り返し付与することにより、駆動力を効果的に増幅させることができる。
【0046】
これに対し、S14の処理において、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S14:Yes)、次に、CPU21は右後輪2RRのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断する(S15)。その結果、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率以上と判断される場合には(S15:No)、CPU21は、左右の後輪2RL,2RRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)と、左右の前輪2FL,2FRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)とを比較し、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率(代表値)が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率(代表値)未満であるか否かを判断する(S16)。
【0047】
その結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S16:No)、RRブレーキ12RRによる右後輪2RRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S17)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って右後輪2RRに制動力を付与し(S18)、この駆動力制御処理を終了する。
【0048】
即ち、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S16:No)、後輪2RL,2RRに制動力を付与することにより、前輪2FL,2FRの駆動力を効率良く増幅できる。これにより前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRのトラクションを向上できる。
【0049】
一方、S15の処理の結果、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S15:Yes)、右後輪2RRの駆動力を確保できるので、S16〜S18の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。また、S16の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S16:Yes)、後輪2RL,2RRに制動力を付与する必要はないと判断されるため、S17及びS18の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。
【0050】
S11(図4参照)の処理の結果、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合は(S11:No)、次にCPU21は、取得した右前輪2FRのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率以上であるか否かを判断する(S20)。
【0051】
その結果、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S20:Yes)、次に、右前輪2FRのスリップ率が左前輪2FLのスリップ率以上であるか否かを判断する(S21、図6参照)。その結果、右前輪2FRのスリップ率が左前輪2FLのスリップ率以上であると判断される場合には(S21:Yes)、FRブレーキ12FRによる右前輪2FRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S22)。即ち、右前輪2FRのスリップ率が、所定のスリップ率以上かつ左前輪2FLのスリップ率以上である場合に、右前輪2FRに制動力を付与することで、右前輪2FRから左前輪2FLへ駆動力を伝達できる。次いで、CPU21は制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って右前輪2FRに制動力を付与する(S23)。
【0052】
次に、CPU21は右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断し(S24)、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S24:No)、S22の処理を実行する。即ち、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断されるまで、スリップ率の大きな右前輪2FRに制動力を繰り返し付与することにより、駆動力を効果的に増幅させることができる。
【0053】
これに対し、S24の処理において、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S24:Yes)、次に、CPU21は左前輪2FLのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断する(S25)。その結果、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率以上と判断される場合には(S25:No)、CPU21は、左右の前輪2FL,2FRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)と、左右の後輪2RL,2RRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)とを比較し、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率(代表値)が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率(代表値)未満であるか否かを判断する(S26)。
【0054】
その結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S26:No)、FLブレーキ12FLによる左前輪2FLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S27)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左前輪2FLに制動力を付与し(S28)、この駆動力制御処理を終了する。
【0055】
一方、S25の処理の結果、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S25:Yes)、左前輪2FLの駆動力を確保できるので、S26〜S28の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。また、S26の処理の結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S26:Yes)、前輪2FL,2FRに制動力を付与する必要はないと判断されるため、S27及びS28の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。
【0056】
S20(図4参照)の処理の結果、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合は(S20:No)、次にCPU21は、取得した左前輪2FLのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率以上であるか否かを判断する(S30)。その結果、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S30:Yes)、FLブレーキ12FLによる左前輪2FLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S31、図7参照)。
【0057】
また、S21(図6参照)の処理の結果、右前輪2FRのスリップ率が左前輪2FLのスリップ率より小さいと判断される場合にも(S21:No)、FLブレーキ12FLによる左前輪2FLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S31)。即ち、右前輪2FRのスリップ率が左前輪2FLのスリップ率より小さいと判断される場合は(S21:No)、右前輪2FRから左前輪2FLへの駆動力の伝達ができないので、左前輪2FLに制動力を付与し、左前輪2FLから右前輪2FRへ駆動力を伝達するように動作する。次いで、CPU21は制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左前輪2FLに制動力を付与する(S32)。
【0058】
次に、CPU21は左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断し(S33)、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S33:No)、S31の処理を実行する。即ち、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断されるまで、スリップ率の大きな左前輪2FLに制動力を繰り返し付与することにより、駆動力を効果的に増幅させることができる。
【0059】
これに対し、S33の処理において、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S33:Yes)、次に、CPU21は右前輪2FRのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断する(S34)。その結果、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率以上と判断される場合には(S34:No)、CPU21は、左右の前輪2FL,2FRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)と、左右の後輪2RL,2RRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)とを比較し、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率(代表値)が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率(代表値)未満であるか否かを判断する(S35)。
【0060】
その結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S35:No)、FRブレーキ12FRによる右前輪2FRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S36)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って右前輪2FRに制動力を付与し(S37)、この駆動力制御処理を終了する。
【0061】
一方、S34の処理の結果、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S34:Yes)、右前輪2FRの駆動力を確保できるので、S35〜S37の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。また、S35の処理の結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S35:Yes)、前輪2FL,2FRに制動力を付与する必要はないと判断されるため、S36及びS37の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。
【0062】
以上の駆動力伝達装置によれば、S2,S11,S20,S30の処理により、左右の前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRのスリップ状態が所定のスリップ状態にあるか判断される。判断の結果、所定のスリップ状態にあると判断される車輪2に、S5,S13,S23,S32の処理により制動装置12が作動されて制動力が付与される。その結果、スリップ状態にあると判断される車輪2に制動力を付与することで、その車輪2に対する他方の車輪2(例えば、左前輪2FLに対する右前輪2FR、右後輪2RRに対する左後輪2RL)の駆動力を増幅できる。これにより、前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRのスリップ時のトラクションを確保できる。また、車輪2に制動力を付与した後、その車輪2が所定のスリップ状態になる(スリップ率が小さくなる)まで繰り返し制動力を付与することで、駆動力を効果的に増幅できる。
【0063】
また、S3又はS21の処理により、左右の車輪2の一方のスリップ率が、所定のスリップ率以上であり、かつ、左右の車輪2の他方のスリップ率以上である場合に(S3,S21:Yes)、左右の車輪2の一方に制動力を付与するので、左右の車輪2の一方から他方へ駆動力を確実に伝達できる。
【0064】
また、S5,S13,S23,S32の処理により車輪2に制動力が付与された後、左右の前輪2FL,2FRのスリップ状態の代表値と左右の後輪2RL,2RRのスリップ状態の代表値とが比較され、前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRのいずれがよりスリップ状態にあるか判断される。判断の結果、よりスリップ状態にあると判断される前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRに、S10,S18,S28,S37の処理により制動装置12が作動され制動力が付与される。その結果、制動力が付与されることで駆動力が増幅された前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRのスリップ状態が調整されると共に、制動力が付与されることで車輪2の全体の駆動力がさらに増幅される。これにより、前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRのスリップ時のトラクションを向上できる。
【0065】
また、S5,S13,S23,S32の処理により左右の車輪2の一方に制動力が付与されると、左右の車輪2の他方(例えば、左前輪2FLに対する右前輪2FR、右後輪2RRに対する左後輪2RL)の駆動力が増幅される。他方の車輪2が摩擦抵抗の小さな路面にあると、駆動力が増幅されても他方の車輪2はスリップ状態となる。そこで、S7,S15,S25,S34の処理により他方の車輪2が所定のスリップ状態にあるか判断され、判断の結果、所定のスリップ状態にある場合に、S8,S16,S26,S35の処理により前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRのいずれがよりスリップ状態にあるか判断される。その結果、よりスリップ状態にあると判断される前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRに、S10,S18,S28,S37の処理により制動装置12が作動されて制動力が付与される。これにより、よりスリップ状態にないと判断される前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRの駆動力を増幅させることができ、トラクションを効率良く向上できる。
【0066】
また、車輪2のスリップ状態は垂直荷重の大きさによっても変化する。各車輪2に作用する垂直荷重の大きさは、車両1に積載される荷物の積載バランスや搭乗者の体重等によって変化し、各車輪2のスリップ状態が変化する。この場合にも、車輪2のスリップ率(スリップ状態)に基づいて車輪2に付与する制動力を制御するので、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRのトラクションを確保できる。
【0067】
ここで、図4から図7に示すフローチャート(駆動力制御手段)において、請求項3記載のスリップ状態取得手段としてはS1の処理が、第1スリップ状態判断手段としてはS2,S11,S20,S30の処理が、第1制動力付与手段としてはS5,S13,S23,S32の処理が、それぞれ該当する。請求項4記載の第1代表値判断手段としてはS8,S16,S26,S35の処理が、第2制動力付与手段としてはS10,S18,S28,S37の処理が、それぞれ該当する。請求項5記載の第2スリップ状態判断手段としてはS7,S15,S25,S34の処理が該当する。
【0068】
次に、図8を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、車輪2に制動力を付与する制動装置12を車両1が備える場合について説明した。これに対し、第2実施の形態では、制動装置12が省略される場合について説明する。図8は第2実施の形態における駆動力伝達装置120が搭載される車両101の模式図である。なお、車両101は制動装置12が省略されている以外は第1実施の形態と同一であるので、第1実施の形態と同一の部分に同じ符号を付して、以下の説明を省略する。
【0069】
次いで図9を参照して、駆動力伝達装置120の動作について説明する。図9(a)は前輪(左前輪2FL)がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図であり、図9(b)は後輪(右後輪2RR)がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図である。
【0070】
図9(a)に示すように、左前輪2FLが摩擦抵抗の小さな路面に入ると、左前輪2FLに対する拘束力が小さくなるため、左前輪2FLの駆動力(TF)が小さくなる。前部差動装置4は左前輪2FLの駆動力(TF)を右前輪2FRに伝える。左右の前輪2FL,2FRの駆動力(2TF))は、前部駆動軸8(図8参照)により中央差動制限装置7に伝達され、中央差動制限装置7のトルク分配比(TBR=α)により増幅される。増幅された駆動力(2αTF)は後部駆動軸9(図8参照)により後部差動装置10に伝達され、後部差動装置10により分配されて左右の後輪2RL,2RRに駆動力(αTF)が伝達される。以上のように駆動力伝達装置20によれば、左前輪2FLの小さな駆動力(TF)を増幅して、左右の後輪2RL,2RRのトラクションを向上できる。
【0071】
また、図9(b)に示すように、右後輪2RRが摩擦抵抗の小さな路面に入ると、右後輪2RRに対する拘束力が小さくなるため、右後輪2RRの駆動力(TR)が小さくなる。右後輪2RRの駆動力(TR)は、後部差動装置10のトルク分配比(TBR=α)により増幅され、左後輪2RLに駆動力(αTR)を伝える。左右の後輪2RL,2RRの駆動力((1+α)TR)は、後部駆動軸9により中央差動制限装置7に伝達され、中央差動制限装置7のトルク分配比(TBR=α)により増幅される。増幅された駆動力(α(1+α)TR)は前部駆動軸8により前部差動装置4に伝達され、前部差動装置4により分配されて左右の前輪2FL,2FRに駆動力(α/2・(1+α)TR)が伝達される。以上のように駆動力伝達装置120によれば、右後輪2RRの小さな駆動力(TR)を増幅することができ、左右の前輪2FL,2FRのトラクションをさらに向上できる。
【0072】
さらに、中央差動制限装置7及び後部差動装置10はトルク感応式の差動制限装置で構成されているので、小型軽量化できると共に、非差動でトルク分配され、時間的な応答遅れを極めて少なくできる。また、トルク感応式の差動制限装置は粘性抵抗がなく機械的与圧を必要としないため、前部駆動軸8及び後部駆動軸9間、並びに、後輪軸11L,11R間に回転の拘束力が生じないようにでき、エネルギー損失を少なくできる。さらにオイルや粘性流体を使用しないので、温度に依存されることなく特性を安定化できる。
【0073】
次に、図10を参照して、第3実施の形態について説明する。第1実施の形態および第2実施の形態では、4輪駆動の車両1,101における駆動力伝達装置20,120の動作について説明した。これに対し、第3実施の形態では、中央差動制限装置207をロック状態にすることにより、4輪駆動状態から2輪駆動状態に設定可能に構成される車両201に搭載される駆動力伝達装置220の動作について説明する。図10は第3実施の形態における駆動力伝達装置220が搭載される車両201の模式図である。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同じ符号を付して以下の説明を省略する。
【0074】
図10に示すように、前輪軸3Lに断続装置202が配設されている。断続装置202は、後述する中央差動制限装置207の操作と連動して自動的に断続するための装置であり、中央差動制限装置207をロック状態にした後に、前輪2FL,2FRと前部駆動軸8との動力の伝達を遮断する。本実施の形態では、断続装置202はフリーホイールハブにより構成されており、フリー状態とロック状態とを切換可能に構成されている。
【0075】
中央差動制限装置207は、前部差動装置4及び後部差動装置10と駆動源5とを連結する動力伝達経路に配設されるトルク感応式の機構を有する装置であり、前部駆動軸8と後部駆動軸9との差動回転を制限する状態(4輪駆動状態)と、その差動回転を制限する機能をロックし前部駆動軸8と後部駆動軸9との回転差をゼロにするロック状態(2輪駆動状態)とを切換可能に構成されている。4輪駆動状態では、断続装置202をロック状態にすることにより、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRに駆動源5からの駆動トルクが伝達される。一方、2輪駆動状態では、断続装置202をフリー状態にすることにより、後輪2RL,2RR(駆動輪)に駆動源5からの駆動トルクが伝達され、前輪2FL,2FRを従動輪にできる。
【0076】
次に図11を参照して、駆動力伝達装置220の詳細構成について説明する。図11は駆動力伝達装置220の電気的構成を示したブロック図である。駆動力伝達装置220は、図11に示すように、CPU21、ROM22及びRAM23を備え、それらがバスライン24を介して入出力ポート25に接続されている。また、入出力ポート25には断続装置202等の装置が接続されている。
【0077】
断続装置202は、上述したように前輪2FL,2FRと前部駆動軸8との動力の伝達を遮断するための装置であり、動力の伝達を断続する部材(図示せず)と、その部材をCPUからの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0078】
切換装置203は、運転席(図示せず)に設けられ車輪2の4輪駆動状態と2輪駆動状態との切換を入力するスイッチ(図示せず)と、そのスイッチによる入力結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0079】
中央差動制限装置207は、切換装置203からの入力により4輪駆動状態と2輪駆動状態(ロック状態)とが切り換えられる装置であり、ロック状態にあるか否かを検出するセンサ(図示せず)と、その検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0080】
次いで図12を参照して、駆動力制御処理について説明する。図12は駆動力制御処理を示すフローチャートである。この処理は、駆動源5(図10参照)が作動しているときに、4輪駆動状態から2輪駆動状態への切換が切換装置203(図11参照)から入力された後、CPU21によって繰り返し(例えば0.2秒間隔で)実行される処理であり、車輪2に制動力を付与することによりスリップ率を制御し、前部駆動軸8と後部駆動軸9との回転差を調整する処理である。
【0081】
CPU21は駆動力制御処理に関し、まず、中央差動制限装置207はロック状態にあるか否かを判断する(S41)。その結果、中央差動制限装置207はロック状態にあると判断される場合には(S41:Yes)、2輪駆動状態への切換は終了しているので、この駆動力制御処理を終了する。一方、S41の処理の結果、中央差動制限装置207はロック状態にないと判断される場合には(S41:No)、各車輪2のスリップ率を取得する(S42)。
【0082】
次いで、CPU21は、左右の後輪2RL,2RRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)と、左右の前輪2FL,2FRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)とを比較し、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率(代表値)が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率(代表値)より大きいか否かを判断する(S43)。その結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率より大きいと判断される場合には(S43:Yes)、FLブレーキ12FLによる左前輪2FL及びFRブレーキ12FRにより右前輪2FRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S44)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左前輪2FL及び右前輪2FRに制動力を付与する(S45)。
【0083】
次にCPU21は、各車輪2のスリップ率を取得し(S46)、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率未満であるか否かを判断する(S47)。その結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S47:Yes)、この駆動力制御処理を終了する。これに対し、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率以上であると判断される場合には(S47:No)、S44の処理を実行する。
【0084】
即ち、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率と左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率とが異なっているときは、前部駆動軸8と後部駆動軸9とに回転差が生じているため、トルク感応式の中央差動制限装置207をロック状態にすることができない。しかし、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率と左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率とが異なっていても、車輪2に制動力を付与することにより左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率と左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率との差を漸次小さくできる。その結果、S44〜S47の処理の間にその差をゼロすることができ、それに伴い、前部駆動軸8と後部駆動軸9との回転差をゼロにできる。これにより中央差動制限装置207を迅速にロック状態にすることができる。
【0085】
なお、この駆動力制御処理が終了した後、CPU21は断続装置202を作動して断続装置202をロック状態からフリー状態に切り換える。これにより、車両201を4輪駆動状態から、後輪2RL,2RRを駆動輪とし前輪2FL,2FRを従動輪とする2輪駆動状態に変更できる。
【0086】
S43の処理の結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率以下であると判断される場合には(S43:No)、次に、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率より大きいか否かを判断する(S48)。その結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率より大きいと判断される場合には(S48:Yes)、RLブレーキ12RLによる左後輪2RL及びRRブレーキ12RRによる右後輪2RRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S49)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左後輪2RL及び右後輪2RRに制動力を付与する(S50)。
【0087】
次にCPU21は、各車輪2のスリップ率を取得し(S51)、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率未満であるか否かを判断する(S52)。その結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S52:Yes)、この駆動力制御処理を終了する。これに対し、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率以上であると判断される場合には(S52:No)、S49の処理を実行する。
【0088】
この場合も上述したように、車輪2に制動力を付与することにより左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率と左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率との差を漸次小さくできる。その結果、S49〜S52の処理の間にその差をゼロすることができ、それに伴い、前部駆動軸8と後部駆動軸9との回転差をゼロにできる。これにより中央差動制限装置207を迅速にロック状態にすることができる。
【0089】
一方、S48の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率と左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率とが等しいと判断される場合には(S48:No)、この駆動力制御処理を終了する。即ち、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率と左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率とが等しい場合、前部駆動軸8と後部駆動軸9との回転差はゼロなので、制動装置12を作動させて車輪2に制動力を付与しなくても、中央差動制限装置207を迅速にロック状態にすることができる。以上のように駆動力伝達装置220によれば、よりスリップ状態にあると判断される前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRに制動力が付与されることで、中央差動制限装置207の回転差を迅速に小さくすることができ、中央差動制限装置207を迅速にロック状態にできる。
【0090】
ここで、図12に示すフローチャート(駆動力制御手段)において、請求項6記載のスリップ状態取得手段としてはS42,S46,S51の処理が、第2代表値判断手段としてはS43,S48の処理が、第3制動力付与手段としてはS45,S50の処理が、それぞれ該当する。請求項7記載の第3代表値判断手段としてはS47,S52の処理が該当する。
【0091】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0092】
上記各実施の形態では、前部差動装置4及び後部差動装置10の内、後部作動装置10がトルク感応式の差動制限装置である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、後部差動装置10に代えて前部差動装置4をトルク感応式の差動制限装置で構成することは当然可能である。また、前部差動装置4及び後部差動装置10の両方をトルク感応式の差動制限装置で構成することも当然可能である。
【0093】
また、上記各実施の形態では、後部差動装置10はシュアトラック式(カム面摩擦力を利用する機構)の差動制限装置である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、トルク感応式の他の機構とすることは当然可能である。他の機構としては、例えば、機械式やセレクティブ式(多板クラッチを利用する機構)、クワイフ式やヘリカル式(遊星歯車機構)、トルセン式(複数のギヤの歯面抵抗を利用する機構)、ボールテック式、ベベルギヤを利用する機構などが挙げられる。
【0094】
上記各実施の形態では、制動装置12がディスクブレーキにより構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ドラムブレーキ等により構成することは当然可能である。
【0095】
上記各実施の形態では、スリップ率に基づいて車輪2がスリップ状態にあるか否かを判断する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、スリップ状態を表す他の指標を採用することは当然可能である。他の指標としては、例えばスリップ量が挙げられる。
【0096】
上記各実施の形態では、車輪2がスリップ状態にあるか否かを判断する閾値が、予めROM22に記憶された所定値である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、車両1,201が走行している路面の摩擦係数を推定し、推定された摩擦係数に応じて閾値を変更することは可能である。路面の摩擦係数を推定する手段としては、特開2008−143380号公報等に開示される公知の手段を用いることが可能である。例えば、実験的に得られたマップから操舵角と横加速度とに基づいて摩擦係数を推定する手段、車両1,201の走行速度および操舵角を基に推定した横加速度と、加速度センサ装置で検出した横加速度との偏差に基づいて摩擦係数を推定する手段等を挙げることができる。
【0097】
上記各実施の形態では、制動装置12の制動力を変更する制御パラメータとして、アクチュエータのバルブの開閉デューティ比を用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の制御パラメータを用いることは当然可能である。他の制御パラメータとしては、例えば、液圧、アクチュエータの作動量等が挙げられる。
【0098】
上記各実施の形態では、スリップ状態の代表値として左右の車輪2のスリップ率の平均値(算術平均値)を用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の代表値を用いることは当然可能である。他の代表値としては、例えば、左右の車輪2のスリップ率の合計値を挙げることができる。
【0099】
上記第3実施の形態では、断続装置202が前輪軸3Lに配設される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、前輪軸3Rに配設したり前部駆動軸8に配設したりすることは当然可能である。また、前輪2FL,2FRを駆動輪とし後輪2RL,2RRを従動輪とする場合には、断続装置202を後輪軸11L,11Rに配設したり後部駆動軸9に配設したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1,101,201 車両
2 車輪
2FL 左前輪(前輪の一部)
2FR 右前輪(前輪の一部)
2RL 左後輪(後輪の一部)
2RR 右後輪(後輪の一部)
3L,3R 前輪軸
4 前部差動装置
5 駆動源
7,207 中央差動制限装置
10 後部差動装置
11L,11R 後輪軸
12 制動装置
20,120,220 駆動力伝達装置
【技術分野】
【0001】
本発明は4輪駆動車の駆動力伝達装置に関し、特に、装置を小型軽量化できると共に応答遅れを極めて少なくでき、さらに前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上できる駆動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より4輪駆動車は、一対の前輪および後輪の回転差を吸収するため、前輪および後輪に差動装置(デフ)を備えるものが知られている。また、前輪と後輪との回転差を吸収するため、前後の差動装置の間にもう一つの差動装置(センターデフ)を備えるものも知られている。このような4輪駆動車では、前輪または後輪のスリップ時には非スリップ側の車輪の駆動力が奪われることになって、車輪の駆動力を路面に伝える能力(トラクション)が悪化する問題が生じる。
【0003】
そこで、駆動力を前後輪へ出力するセンターデフを備える4輪駆動車の駆動制御装置において、センターデフに電動発電機を連結する技術が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示される技術では、電動発電機の駆動力を制御することで前後輪のトルク分配比を制御し、前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上させ、走行性能を改善できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4361064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、センターデフに電動発電機を連結するので、装置が複雑になり大型化するという問題点があった。また、電動発電機の制御によって応答遅れが生じ易くなるという問題点があった。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、装置を小型軽量化できると共に応答遅れを極めて少なくでき、さらに前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上できる駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1記載の駆動力伝達装置によれば、駆動源の駆動トルクは中央差動制限装置から前部差動装置および後部差動装置に分配され、前部差動装置および後部差動装置に分配された駆動力は、左右の前輪および後輪に分配される。前部差動装置および後部差動装置の少なくとも一方と、中央差動制限装置とはトルク感応式の差動制限装置で構成されているので、装置を簡素化し小型軽量化できる効果がある。
【0008】
また、前輪または後輪のスリップ時には、スリップした前輪または後輪の駆動力が、トルク感応式の中央差動制限装置により、増幅され非差動で後輪または前輪に分配される。その結果、前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上できると共に、時間的な応答遅れを極めて少なくできる効果がある。
【0009】
さらに、スリップした前輪または後輪にトルク感応式の差動制限装置が配設されていると、スリップした一方の前輪または後輪の駆動力が増幅されて、他方の前輪または後輪に分配される。さらに、その前輪または後輪の駆動力が、トルク感応式の中央差動制限装置により増幅されて後輪または前輪に分配されるので、前輪または後輪のスリップ時のトラクションをさらに向上できる効果がある。
【0010】
請求項2記載の駆動力伝達装置によれば、スリップした一方の前輪または後輪に制動装置により制動力が付与されると、スリップした前輪または後輪の駆動力に制動力を加えた駆動力が、他方の前輪または後輪に分配される。さらに、その前輪または後輪の駆動力が、中央差動制限装置により増幅して後輪または前輪に分配されるので、請求項1の効果に加え、前輪または後輪のスリップ時のトラクションをさらに向上できる効果がある。
【0011】
また、スリップした前輪または後輪に差動制限装置が配設されていると、スリップした一方の前輪または後輪の駆動力および制動力が増幅されて、他方の前輪または後輪に分配される。さらに、その前輪または後輪の駆動力および制動力が、中央差動制限装置により増幅されて後輪または前輪に分配されるので、前輪または後輪のスリップ時のトラクションをさらに向上できる効果がある。
【0012】
さらに、前部差動装置および後部差動装置の少なくとも一方と、中央差動制限装置とはトルク感応式の差動制限装置で構成され、それら差動制限装置により駆動力および制動力が増幅されるので、小さな制動力の付与でトラクションを確保できる。制動力を小さくできるので、制動力による駆動源の出力の損失を小さくできる効果がある。また、制動力が付与されることで生じる振動を抑制できると共に、制動部材の磨耗等を抑制し耐久性を向上できる効果がある。
【0013】
請求項3記載の駆動力伝達装置によれば、スリップ状態取得手段により左右の前輪および後輪のスリップ状態が取得される。第1スリップ状態判断手段により左右の前輪および後輪のスリップ状態が所定のスリップ状態にあるか判断される。判断の結果、所定のスリップ状態にあると判断される車輪に、第1制動力付与手段により制動装置が作動されて制動力が付与される。その結果、スリップ状態にあると判断される車輪に制動力を付与することで、その車輪に対する他方の車輪の駆動力を増幅できる。これにより、請求項2の効果に加え、前輪または後輪のスリップ時のトラクションを確保できる効果がある。
【0014】
請求項4記載の駆動力伝達装置によれば、第1制動力付与手段により車輪に制動力が付与された後、第1代表値判断手段により、左右の前輪のスリップ状態の代表値と左右の後輪のスリップ状態の代表値とが比較され、前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるか判断される。判断の結果、よりスリップ状態にあると判断される前輪または後輪に、第2制動力付与手段により制動装置が作動され制動力が付与される。その結果、第1制動力付与手段により制動力が付与されることで駆動力が増幅された前輪および後輪のスリップ状態が調整されると共に、制動力が付与されることで駆動力がさらに増幅される。これにより、請求項3の効果に加え、前輪または後輪のスリップ時のトラクションを向上できる効果がある。
【0015】
請求項5記載の駆動力伝達装置によれば、第1制動力付与手段により左右の車輪の一方に制動力が付与されると、左右の車輪の他方の駆動力が増幅される。他方の車輪が摩擦抵抗の小さな路面にあると、駆動力が増幅されても他方の車輪はスリップ状態となる。そこで、第2スリップ状態判断手段により他方の車輪が所定のスリップ状態にあるか判断され、第2スリップ状態判断手段により左右の車輪の他方が所定のスリップ状態にあると判断される場合に、第1代表値判断手段により前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるか判断される。その結果、第1代表値判断手段により、よりスリップ状態にあると判断される前輪または後輪に、第2制動力付与手段により制動装置が作動されて制動力が付与される。これにより、よりスリップ状態にないと判断される前輪または後輪の駆動力を増幅させることができ、請求項4の効果に加え、前輪および後輪のトラクションを効率良く向上できる効果がある。
【0016】
請求項6記載の駆動力伝達装置によれば、車両は、中央差動制限装置をロック状態にすることにより、前輪または後輪の一方を駆動輪とし他方を従動輪とする2輪駆動状態に設定可能に構成される。スリップ状態取得手段により左右の前輪および後輪のスリップ状態が取得され、中央差動制限装置をロック状態にするときに、第2代表値判断手段により、左右の前輪のスリップ状態の代表値と左右の後輪のスリップ状態の代表値とが比較され、前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるか判断される。判断の結果、第3制動力付与手段により制動装置が作動され、よりスリップ状態にあると判断される前輪または後輪に制動力が付与される。これにより、第3制動力付与手段により制動装置が作動され、よりスリップ状態にあると判断される前輪または後輪に制動力が付与されることで、中央差動制限装置の回転差を迅速に小さくすることができる。その結果、請求項2の効果に加え、中央差動制限装置を迅速にロック状態にできる効果がある。
【0017】
請求項7記載の駆動力伝達装置によれば、第3制動力付与手段により制動力が付与された前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値と、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値とを比較して、前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値が、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値より小さいかが第3代表値判断手段により判断される。判断の結果、前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値が、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値より小さくなるまで、第3制動力付与手段による制動力の付与は繰り返し実行される。この処理が繰り返し実行される間に前輪および後輪のスリップ状態を等しくできるので、中央制動制限装置の回転差をなくすことができる。これにより、請求項6の効果に加え、中央制動制限装置を確実にロック状態にできる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施の形態における駆動力伝達装置が搭載される車両の模式図である。
【図2】(a)は前輪がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図であり、(b)は後輪がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図である。
【図3】駆動力伝達装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】駆動力制御処理を示すフローチャートである。
【図5】駆動力制御処理を示すフローチャートである。
【図6】駆動力制御処理を示すフローチャートである。
【図7】駆動力制御処理を示すフローチャートである。
【図8】第2実施の形態における駆動力伝達装置が搭載される車両の模式図である。
【図9】(a)は前輪がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図であり、(b)は後輪がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図である。
【図10】第3実施の形態における駆動力伝達装置が搭載される車両の模式図である。
【図11】駆動力伝達装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図12】駆動力制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本発明の第1実施の形態における駆動力伝達装置20について説明する。図1は第1実施の形態における駆動力伝達装置20が搭載される車両1の模式図である。
【0020】
図1に示すように、車両1は、左右の前輪(左前輪2FL、右前輪2FR)及び左右の後輪(左後輪2RL、右後輪2RR)を備えている。左右の前輪2FL,2FRは前輪軸3L,3Rに支持され、前輪軸3L,3Rは、左右の前輪2FL,2FRの回転数を吸収しつつ前輪軸3L,3Rに駆動力を分配する前部差動装置4に連結される。駆動源5からの駆動トルクは、変速機6を介してトルク感応式の中央差動制限装置7に伝達される。中央差動制限装置7は、前部駆動軸8により前部差動装置4に連結され、後部駆動軸9により後部差動装置10に連結される。後部差動装置10は、左右の後輪2RL,2RRを支持する後輪軸11L,11Rに連結される。後部差動装置10は、左右の後輪2RL,2RRの回転数を吸収しつつ後輪軸11L,11Rに駆動力を分配する。
【0021】
後部差動装置10は、本実施の形態では、トルク感応式(シュアトラック式)の差動制限装置で構成されている。また、前部差動装置4は、差動回転が制限されないオープンデフとして差動歯車により構成されている。中央差動制限装置7及び後部差動装置10をトルク感応式の差動制限装置で構成することにより、差動制限装置が非差動でトルク分配するため、時間的な応答遅れを極めて少なくできる。また、粘性抵抗がなく機械的与圧を必要としないため、前部駆動軸8及び後部駆動軸9間、並びに、後輪軸11L,11R間に回転の拘束力が生じないようにでき、エネルギー損失を少なくできる。さらにオイルや粘性流体を使用しないので、温度に依存されることなく特性を安定化できる。
【0022】
左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRには、車輪2を各別に制動可能な制動装置12が配設されている。制動装置12は、左後輪2RLに配設されるFLブレーキ12FL、右後輪2RRに配設されるFRブレーキ、左後輪2RLに配設されるRLブレーキ、右後輪2RRに配設されるRRブレーキ12RRを備えて構成されている。本実施の形態では、制動装置12は液圧式であり、車輪2と共に回転するディスクロータ(図示せず)と、液圧によって摩擦パッドをディスクロータに押圧するアクチュエータ(図示せず)とを備えて構成されている。なお、駆動力伝達装置20は、前部差動装置4、中央差動制限装置7及び後部差動装置10を備えている。
【0023】
次に、図2を参照して、駆動力伝達装置20の動作について説明する。図2(a)は前輪(左前輪2FL)がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図であり、図2(b)は後輪(右後輪2RR)がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図である。
【0024】
図2(a)に示すように、左前輪2FLが摩擦抵抗の小さな路面に入ると、左前輪2FLに対する拘束力が小さくなるため、左前輪2FLの駆動力(TF)が小さくなる。このときに制動装置12を作動させて左前輪2FLに制動力(−TBf)を付与すると、左前輪2FLに対する拘束力を大きくすることができる。その結果、前部差動装置4は右前輪2FRへ駆動力(TBf+TF)を伝える。左右の前輪2FL,2FRの駆動力(2(TBf+TF))は、前部駆動軸8(図1参照)により中央差動制限装置7に伝達され、中央差動制限装置7のトルク分配比(TBR=α)により増幅される。増幅された駆動力(2α(TBf+TF))は後部駆動軸9(図1参照)により後部差動装置10に伝達され、後部差動装置10により分配されて左右の後輪2RL,2RRに駆動力(α(TBf+TF))が伝達される。以上のように駆動力伝達装置20によれば、左前輪2FLの小さな駆動力(TF)を増幅して、左右の後輪2RL,2RRのトラクションを向上できる。
【0025】
また、図2(b)に示すように、右後輪2RRが摩擦抵抗の小さな路面に入ると、右後輪2RRに対する拘束力が小さくなるため、右後輪2RRの駆動力(TR)が小さくなる。このときに制動装置12を作動させて右後輪2RRに制動力(−TBr)を付与すると、右後輪2RRに対する拘束力(TBr+TR)を大きくすることができる。その拘束力(TBr+TR)は、後部差動装置10のトルク分配比(TBR=α)により増幅され、左後輪2RLに駆動力(α(TBr+TR))を伝える。左右の後輪2RL,2RRの駆動力((1+α)(TBr+TR))は、後部駆動軸9により中央差動制限装置7に伝達され、中央差動制限装置7のトルク分配比(TBR=α)により増幅される。増幅された駆動力(α(1+α)(TBr+TR))は前部駆動軸8により前部差動装置4に伝達され、前部差動装置4により分配されて左右の前輪2FL,2FRに駆動力(α/2・(1+α)(TBr+TR))が伝達される。以上のように駆動力伝達装置20によれば、右後輪2RRの小さな駆動力(TR)を増幅して、左右の前輪2FL,2FRのトラクションをさらに向上できる。
【0026】
さらに、後部差動装置10と中央差動制限装置7とはトルク感応式の差動制限装置で構成され、それら差動制限装置により駆動力および制動力が増幅されるので、小さな制動力の付与でトラクションを確保できる。制動装置12により付与される制動力を小さくできるので、制動力による駆動源5(図1参照)の出力の損失を小さくできる。また、制動力が付与されることで生じる振動を抑制できると共に、摩擦パッド(図示せず)等の制動部材の磨耗等を抑制し耐久性を向上できる。
【0027】
次に図3を参照して、駆動力伝達装置20の詳細構成について説明する。図3は駆動力伝達装置20の電気的構成を示したブロック図である。駆動力伝達装置20は、図3に示すように、CPU21、ROM22及びRAM23を備え、それらがバスライン24を介して入出力ポート25に接続されている。また、入出力ポート25には制動装置12等の装置が接続されている。
【0028】
CPU21は、バスライン24により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM22は、CPU21により実行される制御プログラム(例えば図4から図7に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。RAM23は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能にするためのメモリである。
【0029】
制動装置12は、上述したように車輪に制動力を付与するための装置であり、FL〜RRブレーキ12FL〜12RRと、それらFL〜RRブレーキ12FL〜12RRをCPU21からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0030】
車輪速度センサ装置30は、車輪2の回転速度を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、右後輪2RRの各回転速度を検出するFLセンサ〜RRセンサ30FL〜30RRと、それらFLセンサ〜RRセンサ30FL〜30RRの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0031】
加速度センサ装置31は、車両1の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、前後方向加速度センサ31a及び左右方向加速度センサ31bと、それら各加速度センサの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0032】
前後方向加速度センサ31aは、車両1の前後方向(図1左右方向)の加速度、いわゆる前後Gを検出するセンサであり、左右方向加速度センサ31bは、車両1の左右方向(図1上下方向)の加速度、いわゆる横Gを検出するセンサである。また、CPU21は、加速度センサ装置31から入力された各加速度センサの検出結果(前後G、横G)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の走行速度を取得することができる。
【0033】
図3に示す他の入出力装置40としては、例えば、ヨーレートセンサ装置、操舵角センサ装置などを挙げることができる。ヨーレートセンサ装置は、車両1のヨーレートを検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、車両1の重心を通る鉛直軸(図1紙面垂直方向軸)回りの車両1の回転角速度を検出するヨーレートセンサと、そのヨーレートセンサの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路とを主に備えている。操舵角センサ装置は、操舵角を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、操舵角を検出する角度センサと、その角度センサの検出結果を処理してCPU21に出力する出力装置とを主に備えている。
【0034】
次いで図4から図7を参照して、駆動力制御処理について説明する。図4から図7は駆動力制御処理を示すフローチャートである。この処理は駆動源5(図1参照)が作動している間、CPU21によって繰り返し(例えば0.2秒間隔で)実行される処理であり、スリップ率に基づいて制動力を付与することにより車輪2の駆動力を制御する処理である。
【0035】
CPU21は駆動力制御処理に関し、各車輪2のスリップ率を取得する(S1)。スリップ率は、車輪速度センサ装置30により検出される各車輪2の車輪速度と、加速度センサ装置31により検出される車両1の走行速度とに基づいて取得できる。CPU21は、取得した右後輪2RRのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率以上であるか否かを判断する(S2)。
【0036】
その結果、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S2:Yes)、次に、右後輪2RRのスリップ率が左後輪2RLのスリップ率以上であるか否かを判断する(S3)。その結果、右後輪2RRのスリップ率が左後輪2RLのスリップ率以上であると判断される場合には(S3:Yes)、RRブレーキ12RRによる右後輪2RRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S4)。ここで、制御パラメータとしては、液圧式の制動装置12におけるアクチュエータのバルブの開閉デューティ比を挙げることができる。次いで、CPU21は制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って右後輪2RRに制動力を付与する(S5)。
【0037】
次に、CPU21は右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断し(S6)、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S6:No)、S3の処理を実行する。即ち、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断されるまで、スリップ率の大きな右後輪2RRに制動力を繰り返し付与することにより、駆動力を効果的に増幅させることができる。
【0038】
これに対し、S6の処理において、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S6:Yes)、次に、CPU21は左後輪2RLのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断する(S7)。即ち、S5の処理において右後輪2RRに制動力が付与されると、図2(a)及び図2(b)を参照して説明したように、左後輪2RLの駆動力が増加する。左後輪2RLに対する路面の摩擦抵抗が小さい場合、左後輪2RLもスリップ状態になるので、S7の処理によりこれを検出できる。
【0039】
S7の処理の結果、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率以上と判断される場合には(S7:No)、CPU21は、左右の後輪2RL,2RRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)と、左右の前輪2FL,2FRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)とを比較し、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率(代表値)が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率(代表値)未満であるか否かを判断する(S8)。その結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S8:No)、RLブレーキ12RLによる左後輪2RLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S9)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左後輪2RLに制動力を付与し(S10)、この駆動力制御処理を終了する。
【0040】
即ち、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S8:No)、後輪2RL,2RRに制動力を付与することにより、前輪2FL,2FRの駆動力を効率良く増幅できる。これにより前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRのトラクションを向上できる。
【0041】
一方、S7の処理の結果、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S7:Yes)、左後輪2RLの駆動力を確保できるので、S8〜S10の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。また、S8の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S8:Yes)、後輪2RL,2RRに制動力を付与する必要はないと判断されるため、S9及びS10の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。
【0042】
S2の処理の結果、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合は(S2:No)、次にCPU21は、取得した左後輪2RLのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率以上であるか否かを判断する(S11)。
【0043】
その結果、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S11:Yes)、RLブレーキ12RLによる左後輪2RLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S12、図5参照)。
【0044】
また、S3(図4参照)の処理の結果、右後輪2RRのスリップ率が左後輪2RLのスリップ率より小さいと判断される場合にも(S3:No)、RLブレーキ12RLによる左後輪2RLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S12)。即ち、右後輪2RRのスリップ率が左後輪2RLのスリップ率より小さいと判断される場合は(S3:No)、右後輪2RRから左後輪2RLへの駆動力の伝達ができないので、左後輪2RLに制動力を付与し、左後輪2RLから右後輪2RRへ駆動力を伝達するように動作する。次いで、CPU21は制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左後輪2RLに制動力を付与する(S13)。
【0045】
次に、CPU21は左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断し(S14)、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S14:No)、S12の処理を実行する。即ち、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断されるまで、スリップ率の大きな左後輪2RLに制動力を繰り返し付与することにより、駆動力を効果的に増幅させることができる。
【0046】
これに対し、S14の処理において、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S14:Yes)、次に、CPU21は右後輪2RRのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断する(S15)。その結果、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率以上と判断される場合には(S15:No)、CPU21は、左右の後輪2RL,2RRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)と、左右の前輪2FL,2FRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)とを比較し、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率(代表値)が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率(代表値)未満であるか否かを判断する(S16)。
【0047】
その結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S16:No)、RRブレーキ12RRによる右後輪2RRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S17)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って右後輪2RRに制動力を付与し(S18)、この駆動力制御処理を終了する。
【0048】
即ち、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S16:No)、後輪2RL,2RRに制動力を付与することにより、前輪2FL,2FRの駆動力を効率良く増幅できる。これにより前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRのトラクションを向上できる。
【0049】
一方、S15の処理の結果、右後輪2RRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S15:Yes)、右後輪2RRの駆動力を確保できるので、S16〜S18の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。また、S16の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S16:Yes)、後輪2RL,2RRに制動力を付与する必要はないと判断されるため、S17及びS18の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。
【0050】
S11(図4参照)の処理の結果、左後輪2RLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合は(S11:No)、次にCPU21は、取得した右前輪2FRのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率以上であるか否かを判断する(S20)。
【0051】
その結果、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S20:Yes)、次に、右前輪2FRのスリップ率が左前輪2FLのスリップ率以上であるか否かを判断する(S21、図6参照)。その結果、右前輪2FRのスリップ率が左前輪2FLのスリップ率以上であると判断される場合には(S21:Yes)、FRブレーキ12FRによる右前輪2FRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S22)。即ち、右前輪2FRのスリップ率が、所定のスリップ率以上かつ左前輪2FLのスリップ率以上である場合に、右前輪2FRに制動力を付与することで、右前輪2FRから左前輪2FLへ駆動力を伝達できる。次いで、CPU21は制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って右前輪2FRに制動力を付与する(S23)。
【0052】
次に、CPU21は右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断し(S24)、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S24:No)、S22の処理を実行する。即ち、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断されるまで、スリップ率の大きな右前輪2FRに制動力を繰り返し付与することにより、駆動力を効果的に増幅させることができる。
【0053】
これに対し、S24の処理において、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S24:Yes)、次に、CPU21は左前輪2FLのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断する(S25)。その結果、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率以上と判断される場合には(S25:No)、CPU21は、左右の前輪2FL,2FRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)と、左右の後輪2RL,2RRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)とを比較し、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率(代表値)が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率(代表値)未満であるか否かを判断する(S26)。
【0054】
その結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S26:No)、FLブレーキ12FLによる左前輪2FLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S27)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左前輪2FLに制動力を付与し(S28)、この駆動力制御処理を終了する。
【0055】
一方、S25の処理の結果、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S25:Yes)、左前輪2FLの駆動力を確保できるので、S26〜S28の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。また、S26の処理の結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S26:Yes)、前輪2FL,2FRに制動力を付与する必要はないと判断されるため、S27及びS28の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。
【0056】
S20(図4参照)の処理の結果、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合は(S20:No)、次にCPU21は、取得した左前輪2FLのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率以上であるか否かを判断する(S30)。その結果、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S30:Yes)、FLブレーキ12FLによる左前輪2FLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S31、図7参照)。
【0057】
また、S21(図6参照)の処理の結果、右前輪2FRのスリップ率が左前輪2FLのスリップ率より小さいと判断される場合にも(S21:No)、FLブレーキ12FLによる左前輪2FLの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S31)。即ち、右前輪2FRのスリップ率が左前輪2FLのスリップ率より小さいと判断される場合は(S21:No)、右前輪2FRから左前輪2FLへの駆動力の伝達ができないので、左前輪2FLに制動力を付与し、左前輪2FLから右前輪2FRへ駆動力を伝達するように動作する。次いで、CPU21は制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左前輪2FLに制動力を付与する(S32)。
【0058】
次に、CPU21は左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断し(S33)、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率以上であると判断される場合には(S33:No)、S31の処理を実行する。即ち、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断されるまで、スリップ率の大きな左前輪2FLに制動力を繰り返し付与することにより、駆動力を効果的に増幅させることができる。
【0059】
これに対し、S33の処理において、左前輪2FLのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S33:Yes)、次に、CPU21は右前輪2FRのスリップ率と、ROM22に予め記憶されている閾値(所定のスリップ率)とを比較して、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であるか否かを判断する(S34)。その結果、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率以上と判断される場合には(S34:No)、CPU21は、左右の前輪2FL,2FRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)と、左右の後輪2RL,2RRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)とを比較し、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率(代表値)が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率(代表値)未満であるか否かを判断する(S35)。
【0060】
その結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率以上と判断される場合には(S35:No)、FRブレーキ12FRによる右前輪2FRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S36)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って右前輪2FRに制動力を付与し(S37)、この駆動力制御処理を終了する。
【0061】
一方、S34の処理の結果、右前輪2FRのスリップ率が所定のスリップ率未満であると判断される場合には(S34:Yes)、右前輪2FRの駆動力を確保できるので、S35〜S37の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。また、S35の処理の結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S35:Yes)、前輪2FL,2FRに制動力を付与する必要はないと判断されるため、S36及びS37の処理をスキップして、この駆動力制御処理を終了する。
【0062】
以上の駆動力伝達装置によれば、S2,S11,S20,S30の処理により、左右の前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRのスリップ状態が所定のスリップ状態にあるか判断される。判断の結果、所定のスリップ状態にあると判断される車輪2に、S5,S13,S23,S32の処理により制動装置12が作動されて制動力が付与される。その結果、スリップ状態にあると判断される車輪2に制動力を付与することで、その車輪2に対する他方の車輪2(例えば、左前輪2FLに対する右前輪2FR、右後輪2RRに対する左後輪2RL)の駆動力を増幅できる。これにより、前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRのスリップ時のトラクションを確保できる。また、車輪2に制動力を付与した後、その車輪2が所定のスリップ状態になる(スリップ率が小さくなる)まで繰り返し制動力を付与することで、駆動力を効果的に増幅できる。
【0063】
また、S3又はS21の処理により、左右の車輪2の一方のスリップ率が、所定のスリップ率以上であり、かつ、左右の車輪2の他方のスリップ率以上である場合に(S3,S21:Yes)、左右の車輪2の一方に制動力を付与するので、左右の車輪2の一方から他方へ駆動力を確実に伝達できる。
【0064】
また、S5,S13,S23,S32の処理により車輪2に制動力が付与された後、左右の前輪2FL,2FRのスリップ状態の代表値と左右の後輪2RL,2RRのスリップ状態の代表値とが比較され、前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRのいずれがよりスリップ状態にあるか判断される。判断の結果、よりスリップ状態にあると判断される前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRに、S10,S18,S28,S37の処理により制動装置12が作動され制動力が付与される。その結果、制動力が付与されることで駆動力が増幅された前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRのスリップ状態が調整されると共に、制動力が付与されることで車輪2の全体の駆動力がさらに増幅される。これにより、前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRのスリップ時のトラクションを向上できる。
【0065】
また、S5,S13,S23,S32の処理により左右の車輪2の一方に制動力が付与されると、左右の車輪2の他方(例えば、左前輪2FLに対する右前輪2FR、右後輪2RRに対する左後輪2RL)の駆動力が増幅される。他方の車輪2が摩擦抵抗の小さな路面にあると、駆動力が増幅されても他方の車輪2はスリップ状態となる。そこで、S7,S15,S25,S34の処理により他方の車輪2が所定のスリップ状態にあるか判断され、判断の結果、所定のスリップ状態にある場合に、S8,S16,S26,S35の処理により前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRのいずれがよりスリップ状態にあるか判断される。その結果、よりスリップ状態にあると判断される前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRに、S10,S18,S28,S37の処理により制動装置12が作動されて制動力が付与される。これにより、よりスリップ状態にないと判断される前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRの駆動力を増幅させることができ、トラクションを効率良く向上できる。
【0066】
また、車輪2のスリップ状態は垂直荷重の大きさによっても変化する。各車輪2に作用する垂直荷重の大きさは、車両1に積載される荷物の積載バランスや搭乗者の体重等によって変化し、各車輪2のスリップ状態が変化する。この場合にも、車輪2のスリップ率(スリップ状態)に基づいて車輪2に付与する制動力を制御するので、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRのトラクションを確保できる。
【0067】
ここで、図4から図7に示すフローチャート(駆動力制御手段)において、請求項3記載のスリップ状態取得手段としてはS1の処理が、第1スリップ状態判断手段としてはS2,S11,S20,S30の処理が、第1制動力付与手段としてはS5,S13,S23,S32の処理が、それぞれ該当する。請求項4記載の第1代表値判断手段としてはS8,S16,S26,S35の処理が、第2制動力付与手段としてはS10,S18,S28,S37の処理が、それぞれ該当する。請求項5記載の第2スリップ状態判断手段としてはS7,S15,S25,S34の処理が該当する。
【0068】
次に、図8を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、車輪2に制動力を付与する制動装置12を車両1が備える場合について説明した。これに対し、第2実施の形態では、制動装置12が省略される場合について説明する。図8は第2実施の形態における駆動力伝達装置120が搭載される車両101の模式図である。なお、車両101は制動装置12が省略されている以外は第1実施の形態と同一であるので、第1実施の形態と同一の部分に同じ符号を付して、以下の説明を省略する。
【0069】
次いで図9を参照して、駆動力伝達装置120の動作について説明する。図9(a)は前輪(左前輪2FL)がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図であり、図9(b)は後輪(右後輪2RR)がスリップ状態にあるときに分配される駆動力を示す模式図である。
【0070】
図9(a)に示すように、左前輪2FLが摩擦抵抗の小さな路面に入ると、左前輪2FLに対する拘束力が小さくなるため、左前輪2FLの駆動力(TF)が小さくなる。前部差動装置4は左前輪2FLの駆動力(TF)を右前輪2FRに伝える。左右の前輪2FL,2FRの駆動力(2TF))は、前部駆動軸8(図8参照)により中央差動制限装置7に伝達され、中央差動制限装置7のトルク分配比(TBR=α)により増幅される。増幅された駆動力(2αTF)は後部駆動軸9(図8参照)により後部差動装置10に伝達され、後部差動装置10により分配されて左右の後輪2RL,2RRに駆動力(αTF)が伝達される。以上のように駆動力伝達装置20によれば、左前輪2FLの小さな駆動力(TF)を増幅して、左右の後輪2RL,2RRのトラクションを向上できる。
【0071】
また、図9(b)に示すように、右後輪2RRが摩擦抵抗の小さな路面に入ると、右後輪2RRに対する拘束力が小さくなるため、右後輪2RRの駆動力(TR)が小さくなる。右後輪2RRの駆動力(TR)は、後部差動装置10のトルク分配比(TBR=α)により増幅され、左後輪2RLに駆動力(αTR)を伝える。左右の後輪2RL,2RRの駆動力((1+α)TR)は、後部駆動軸9により中央差動制限装置7に伝達され、中央差動制限装置7のトルク分配比(TBR=α)により増幅される。増幅された駆動力(α(1+α)TR)は前部駆動軸8により前部差動装置4に伝達され、前部差動装置4により分配されて左右の前輪2FL,2FRに駆動力(α/2・(1+α)TR)が伝達される。以上のように駆動力伝達装置120によれば、右後輪2RRの小さな駆動力(TR)を増幅することができ、左右の前輪2FL,2FRのトラクションをさらに向上できる。
【0072】
さらに、中央差動制限装置7及び後部差動装置10はトルク感応式の差動制限装置で構成されているので、小型軽量化できると共に、非差動でトルク分配され、時間的な応答遅れを極めて少なくできる。また、トルク感応式の差動制限装置は粘性抵抗がなく機械的与圧を必要としないため、前部駆動軸8及び後部駆動軸9間、並びに、後輪軸11L,11R間に回転の拘束力が生じないようにでき、エネルギー損失を少なくできる。さらにオイルや粘性流体を使用しないので、温度に依存されることなく特性を安定化できる。
【0073】
次に、図10を参照して、第3実施の形態について説明する。第1実施の形態および第2実施の形態では、4輪駆動の車両1,101における駆動力伝達装置20,120の動作について説明した。これに対し、第3実施の形態では、中央差動制限装置207をロック状態にすることにより、4輪駆動状態から2輪駆動状態に設定可能に構成される車両201に搭載される駆動力伝達装置220の動作について説明する。図10は第3実施の形態における駆動力伝達装置220が搭載される車両201の模式図である。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同じ符号を付して以下の説明を省略する。
【0074】
図10に示すように、前輪軸3Lに断続装置202が配設されている。断続装置202は、後述する中央差動制限装置207の操作と連動して自動的に断続するための装置であり、中央差動制限装置207をロック状態にした後に、前輪2FL,2FRと前部駆動軸8との動力の伝達を遮断する。本実施の形態では、断続装置202はフリーホイールハブにより構成されており、フリー状態とロック状態とを切換可能に構成されている。
【0075】
中央差動制限装置207は、前部差動装置4及び後部差動装置10と駆動源5とを連結する動力伝達経路に配設されるトルク感応式の機構を有する装置であり、前部駆動軸8と後部駆動軸9との差動回転を制限する状態(4輪駆動状態)と、その差動回転を制限する機能をロックし前部駆動軸8と後部駆動軸9との回転差をゼロにするロック状態(2輪駆動状態)とを切換可能に構成されている。4輪駆動状態では、断続装置202をロック状態にすることにより、前輪2FL,2FR及び後輪2RL,2RRに駆動源5からの駆動トルクが伝達される。一方、2輪駆動状態では、断続装置202をフリー状態にすることにより、後輪2RL,2RR(駆動輪)に駆動源5からの駆動トルクが伝達され、前輪2FL,2FRを従動輪にできる。
【0076】
次に図11を参照して、駆動力伝達装置220の詳細構成について説明する。図11は駆動力伝達装置220の電気的構成を示したブロック図である。駆動力伝達装置220は、図11に示すように、CPU21、ROM22及びRAM23を備え、それらがバスライン24を介して入出力ポート25に接続されている。また、入出力ポート25には断続装置202等の装置が接続されている。
【0077】
断続装置202は、上述したように前輪2FL,2FRと前部駆動軸8との動力の伝達を遮断するための装置であり、動力の伝達を断続する部材(図示せず)と、その部材をCPUからの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0078】
切換装置203は、運転席(図示せず)に設けられ車輪2の4輪駆動状態と2輪駆動状態との切換を入力するスイッチ(図示せず)と、そのスイッチによる入力結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0079】
中央差動制限装置207は、切換装置203からの入力により4輪駆動状態と2輪駆動状態(ロック状態)とが切り換えられる装置であり、ロック状態にあるか否かを検出するセンサ(図示せず)と、その検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0080】
次いで図12を参照して、駆動力制御処理について説明する。図12は駆動力制御処理を示すフローチャートである。この処理は、駆動源5(図10参照)が作動しているときに、4輪駆動状態から2輪駆動状態への切換が切換装置203(図11参照)から入力された後、CPU21によって繰り返し(例えば0.2秒間隔で)実行される処理であり、車輪2に制動力を付与することによりスリップ率を制御し、前部駆動軸8と後部駆動軸9との回転差を調整する処理である。
【0081】
CPU21は駆動力制御処理に関し、まず、中央差動制限装置207はロック状態にあるか否かを判断する(S41)。その結果、中央差動制限装置207はロック状態にあると判断される場合には(S41:Yes)、2輪駆動状態への切換は終了しているので、この駆動力制御処理を終了する。一方、S41の処理の結果、中央差動制限装置207はロック状態にないと判断される場合には(S41:No)、各車輪2のスリップ率を取得する(S42)。
【0082】
次いで、CPU21は、左右の後輪2RL,2RRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)と、左右の前輪2FL,2FRのスリップ率の平均値(平均スリップ率)とを比較し、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率(代表値)が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率(代表値)より大きいか否かを判断する(S43)。その結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率より大きいと判断される場合には(S43:Yes)、FLブレーキ12FLによる左前輪2FL及びFRブレーキ12FRにより右前輪2FRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S44)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左前輪2FL及び右前輪2FRに制動力を付与する(S45)。
【0083】
次にCPU21は、各車輪2のスリップ率を取得し(S46)、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率未満であるか否かを判断する(S47)。その結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S47:Yes)、この駆動力制御処理を終了する。これに対し、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率以上であると判断される場合には(S47:No)、S44の処理を実行する。
【0084】
即ち、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率と左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率とが異なっているときは、前部駆動軸8と後部駆動軸9とに回転差が生じているため、トルク感応式の中央差動制限装置207をロック状態にすることができない。しかし、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率と左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率とが異なっていても、車輪2に制動力を付与することにより左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率と左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率との差を漸次小さくできる。その結果、S44〜S47の処理の間にその差をゼロすることができ、それに伴い、前部駆動軸8と後部駆動軸9との回転差をゼロにできる。これにより中央差動制限装置207を迅速にロック状態にすることができる。
【0085】
なお、この駆動力制御処理が終了した後、CPU21は断続装置202を作動して断続装置202をロック状態からフリー状態に切り換える。これにより、車両201を4輪駆動状態から、後輪2RL,2RRを駆動輪とし前輪2FL,2FRを従動輪とする2輪駆動状態に変更できる。
【0086】
S43の処理の結果、左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率が左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率以下であると判断される場合には(S43:No)、次に、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率より大きいか否かを判断する(S48)。その結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率より大きいと判断される場合には(S48:Yes)、RLブレーキ12RLによる左後輪2RL及びRRブレーキ12RRによる右後輪2RRの制動力を増加させるように制御パラメータを変更する(S49)。次いで、制動装置12を作動させて、変更した制御パラメータに従って左後輪2RL及び右後輪2RRに制動力を付与する(S50)。
【0087】
次にCPU21は、各車輪2のスリップ率を取得し(S51)、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率未満であるか否かを判断する(S52)。その結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率未満であると判断される場合には(S52:Yes)、この駆動力制御処理を終了する。これに対し、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率が左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率以上であると判断される場合には(S52:No)、S49の処理を実行する。
【0088】
この場合も上述したように、車輪2に制動力を付与することにより左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率と左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率との差を漸次小さくできる。その結果、S49〜S52の処理の間にその差をゼロすることができ、それに伴い、前部駆動軸8と後部駆動軸9との回転差をゼロにできる。これにより中央差動制限装置207を迅速にロック状態にすることができる。
【0089】
一方、S48の処理の結果、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率と左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率とが等しいと判断される場合には(S48:No)、この駆動力制御処理を終了する。即ち、左右の後輪2RL,2RRの平均スリップ率と左右の前輪2FL,2FRの平均スリップ率とが等しい場合、前部駆動軸8と後部駆動軸9との回転差はゼロなので、制動装置12を作動させて車輪2に制動力を付与しなくても、中央差動制限装置207を迅速にロック状態にすることができる。以上のように駆動力伝達装置220によれば、よりスリップ状態にあると判断される前輪2FL,2FR又は後輪2RL,2RRに制動力が付与されることで、中央差動制限装置207の回転差を迅速に小さくすることができ、中央差動制限装置207を迅速にロック状態にできる。
【0090】
ここで、図12に示すフローチャート(駆動力制御手段)において、請求項6記載のスリップ状態取得手段としてはS42,S46,S51の処理が、第2代表値判断手段としてはS43,S48の処理が、第3制動力付与手段としてはS45,S50の処理が、それぞれ該当する。請求項7記載の第3代表値判断手段としてはS47,S52の処理が該当する。
【0091】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0092】
上記各実施の形態では、前部差動装置4及び後部差動装置10の内、後部作動装置10がトルク感応式の差動制限装置である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、後部差動装置10に代えて前部差動装置4をトルク感応式の差動制限装置で構成することは当然可能である。また、前部差動装置4及び後部差動装置10の両方をトルク感応式の差動制限装置で構成することも当然可能である。
【0093】
また、上記各実施の形態では、後部差動装置10はシュアトラック式(カム面摩擦力を利用する機構)の差動制限装置である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、トルク感応式の他の機構とすることは当然可能である。他の機構としては、例えば、機械式やセレクティブ式(多板クラッチを利用する機構)、クワイフ式やヘリカル式(遊星歯車機構)、トルセン式(複数のギヤの歯面抵抗を利用する機構)、ボールテック式、ベベルギヤを利用する機構などが挙げられる。
【0094】
上記各実施の形態では、制動装置12がディスクブレーキにより構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ドラムブレーキ等により構成することは当然可能である。
【0095】
上記各実施の形態では、スリップ率に基づいて車輪2がスリップ状態にあるか否かを判断する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、スリップ状態を表す他の指標を採用することは当然可能である。他の指標としては、例えばスリップ量が挙げられる。
【0096】
上記各実施の形態では、車輪2がスリップ状態にあるか否かを判断する閾値が、予めROM22に記憶された所定値である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、車両1,201が走行している路面の摩擦係数を推定し、推定された摩擦係数に応じて閾値を変更することは可能である。路面の摩擦係数を推定する手段としては、特開2008−143380号公報等に開示される公知の手段を用いることが可能である。例えば、実験的に得られたマップから操舵角と横加速度とに基づいて摩擦係数を推定する手段、車両1,201の走行速度および操舵角を基に推定した横加速度と、加速度センサ装置で検出した横加速度との偏差に基づいて摩擦係数を推定する手段等を挙げることができる。
【0097】
上記各実施の形態では、制動装置12の制動力を変更する制御パラメータとして、アクチュエータのバルブの開閉デューティ比を用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の制御パラメータを用いることは当然可能である。他の制御パラメータとしては、例えば、液圧、アクチュエータの作動量等が挙げられる。
【0098】
上記各実施の形態では、スリップ状態の代表値として左右の車輪2のスリップ率の平均値(算術平均値)を用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の代表値を用いることは当然可能である。他の代表値としては、例えば、左右の車輪2のスリップ率の合計値を挙げることができる。
【0099】
上記第3実施の形態では、断続装置202が前輪軸3Lに配設される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、前輪軸3Rに配設したり前部駆動軸8に配設したりすることは当然可能である。また、前輪2FL,2FRを駆動輪とし後輪2RL,2RRを従動輪とする場合には、断続装置202を後輪軸11L,11Rに配設したり後部駆動軸9に配設したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1,101,201 車両
2 車輪
2FL 左前輪(前輪の一部)
2FR 右前輪(前輪の一部)
2RL 左後輪(後輪の一部)
2RR 右後輪(後輪の一部)
3L,3R 前輪軸
4 前部差動装置
5 駆動源
7,207 中央差動制限装置
10 後部差動装置
11L,11R 後輪軸
12 制動装置
20,120,220 駆動力伝達装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの駆動トルクを受ける前輪軸および後輪軸と、その前輪軸および後輪軸に支持される左右の前輪および後輪とを備える車両に用いられる駆動力伝達装置であって、
前記前輪軸および前記後輪軸に配設され左右に駆動力を分配する前部差動装置および後部差動装置と、
その前部差動装置および後部差動装置と前記駆動源とを連結する動力伝達経路に配設され差動回転を制限するトルク感応式の中央差動制限装置とを備え、
前記前部差動装置および前記後部差動装置の少なくとも一方は、差動回転を制限するトルク感応式の差動制限装置で構成されていることを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記車両は、前記左右の前輪および後輪に制動力をそれぞれ付与する制動装置を備えていることを特徴とする請求項1記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記左右の前輪および後輪のスリップ状態を取得するスリップ状態取得手段と、
そのスリップ状態取得手段により取得される左右の前輪および後輪のスリップ状態が所定のスリップ状態にあるかを判断する第1スリップ状態判断手段と、
その第1スリップ状態判断手段により所定のスリップ状態にあると判断される車輪に、前記制動装置を作動させて制動力を付与する第1制動力付与手段とを備えていることを特徴とする請求項2記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1制動力付与手段により車輪に制動力が付与された後、前記左右の前輪のスリップ状態の代表値と前記左右の後輪のスリップ状態の代表値とを比較して、前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるかを判断する第1代表値判断手段と、
その第1代表値判断手段により、よりスリップ状態にあると判断される前記前輪または前記後輪に前記制動装置を作動させて制動力を付与する第2制動力付与手段とを備えていることを特徴とする請求項3記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記第1制動力付与手段により制動力が付与された車輪に対する左右の車輪の他方が所定のスリップ状態にあるかを判断する第2スリップ状態判断手段を備え、
その第2スリップ状態判断手段により前記左右の車輪の他方が所定のスリップ状態にあると判断される場合に、前記第1代表値判断手段により前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるかを判断することを特徴とする請求項4記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記車両は、前記中央差動制限装置をロック状態にすることにより、前記前輪または前記後輪の一方を駆動輪とし他方を従動輪とする2輪駆動状態を設定可能に構成されるものであり、
前記左右の前輪および後輪のスリップ状態を取得するスリップ状態取得手段と、
そのスリップ状態取得手段により取得された前記左右の前輪および後輪のスリップ状態に基づいて、前記中央差動制限装置をロック状態にするときに、前記左右の前輪のスリップ状態の代表値と前記左右の後輪のスリップ状態の代表値とを比較して、前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるかを判断する第2代表値判断手段と、
その第2代表値判断手段により、よりスリップ状態にあると判断される前記前輪または前記後輪に前記制動装置を作動させて制動力を付与する第3制動力付与手段とを備えていることを特徴とする請求項2記載の駆動力伝達装置。
【請求項7】
前記第3制動力付与手段により制動力が付与された前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値と、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値とを比較して、前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値が、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値より小さいかを判断する第3代表値判断手段を備え、
前記第3制動力付与手段による制動力の付与は、前記第3代表値判断手段により前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値が、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値より小さいと判断されるまで繰り返し実行されることを特徴とする請求項6記載の駆動力伝達装置。
【請求項1】
駆動源からの駆動トルクを受ける前輪軸および後輪軸と、その前輪軸および後輪軸に支持される左右の前輪および後輪とを備える車両に用いられる駆動力伝達装置であって、
前記前輪軸および前記後輪軸に配設され左右に駆動力を分配する前部差動装置および後部差動装置と、
その前部差動装置および後部差動装置と前記駆動源とを連結する動力伝達経路に配設され差動回転を制限するトルク感応式の中央差動制限装置とを備え、
前記前部差動装置および前記後部差動装置の少なくとも一方は、差動回転を制限するトルク感応式の差動制限装置で構成されていることを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記車両は、前記左右の前輪および後輪に制動力をそれぞれ付与する制動装置を備えていることを特徴とする請求項1記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記左右の前輪および後輪のスリップ状態を取得するスリップ状態取得手段と、
そのスリップ状態取得手段により取得される左右の前輪および後輪のスリップ状態が所定のスリップ状態にあるかを判断する第1スリップ状態判断手段と、
その第1スリップ状態判断手段により所定のスリップ状態にあると判断される車輪に、前記制動装置を作動させて制動力を付与する第1制動力付与手段とを備えていることを特徴とする請求項2記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1制動力付与手段により車輪に制動力が付与された後、前記左右の前輪のスリップ状態の代表値と前記左右の後輪のスリップ状態の代表値とを比較して、前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるかを判断する第1代表値判断手段と、
その第1代表値判断手段により、よりスリップ状態にあると判断される前記前輪または前記後輪に前記制動装置を作動させて制動力を付与する第2制動力付与手段とを備えていることを特徴とする請求項3記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記第1制動力付与手段により制動力が付与された車輪に対する左右の車輪の他方が所定のスリップ状態にあるかを判断する第2スリップ状態判断手段を備え、
その第2スリップ状態判断手段により前記左右の車輪の他方が所定のスリップ状態にあると判断される場合に、前記第1代表値判断手段により前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるかを判断することを特徴とする請求項4記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記車両は、前記中央差動制限装置をロック状態にすることにより、前記前輪または前記後輪の一方を駆動輪とし他方を従動輪とする2輪駆動状態を設定可能に構成されるものであり、
前記左右の前輪および後輪のスリップ状態を取得するスリップ状態取得手段と、
そのスリップ状態取得手段により取得された前記左右の前輪および後輪のスリップ状態に基づいて、前記中央差動制限装置をロック状態にするときに、前記左右の前輪のスリップ状態の代表値と前記左右の後輪のスリップ状態の代表値とを比較して、前輪または後輪のいずれがよりスリップ状態にあるかを判断する第2代表値判断手段と、
その第2代表値判断手段により、よりスリップ状態にあると判断される前記前輪または前記後輪に前記制動装置を作動させて制動力を付与する第3制動力付与手段とを備えていることを特徴とする請求項2記載の駆動力伝達装置。
【請求項7】
前記第3制動力付与手段により制動力が付与された前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値と、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値とを比較して、前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値が、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値より小さいかを判断する第3代表値判断手段を備え、
前記第3制動力付与手段による制動力の付与は、前記第3代表値判断手段により前輪または後輪の一方のスリップ状態の代表値が、前輪または後輪の他方のスリップ状態の代表値より小さいと判断されるまで繰り返し実行されることを特徴とする請求項6記載の駆動力伝達装置。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−148663(P2012−148663A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8502(P2011−8502)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】
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