説明

高圧タンクの製造装置並びに製造方法

【課題】金属ライナーに樹脂含浸繊維を巻き付ける際に、ライナーの両端部のドーム部において、繊維の横すべりが生じにくく、理想的な軌道に近い軌道で巻き付けることができる新しい高圧タンクの製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂含浸繊維を金属ライナー1の外面にフープ巻きとヘルカル巻きとを交互に繰り返しながら複数回巻き付ける巻き付け工程を含み、この巻き付け工程の過程で、金属ライナー1の外方に配置した外部加熱装置4により、巻き付けられる樹脂含浸繊維を順次加熱硬化させるようにし、金属ライナー1のドーム部1bに向けて配置した冷却装置5により、ドーム部1bの樹脂含浸繊維を冷却して樹脂の粘度低下を遅らせるようにし、樹脂含浸繊維の横すべりを抑えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ライナーの周面に樹脂含浸繊維からなる補強繊維層を形成した高圧タンクの製造方法に関する。本発明の高圧タンクは、例えば水素ガスを燃料として走行する燃料電池自動車等に搭載可能な車載用高圧タンクとして用いられる。
【背景技術】
【0002】
現在、開発されている燃料電池自動車では、水素燃料を充填する高圧タンクが搭載されている。この高圧タンクとして、アルミ合金製の軽量な金属ライナーの外周に、樹脂含浸繊維を巻き付けて覆った樹脂含浸繊維層を持つタンクが提案されている。
【0003】
金属ライナーに樹脂含浸繊維を巻き付けるのに、一般に、フィラメントワインディング法が用いられる。樹脂含浸繊維として、炭素繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させたものを使用し、フィラメントワインディング法により樹脂含浸繊維を金属ライナーにフープ巻きとヘルカル巻きとを交互に複数回巻き付けながら加熱して含浸樹脂を硬化(ゲル化)させることで、樹脂含浸繊維で補強された繊維層が形成される。
なお、フープ巻きとは、金属ライナーの胴部に繊維を周方向に巻回することをいい、ヘルカル巻きとは、主としてドーム部を巻回するために、金属ライナーの一方のドーム部から胴部を経て他方のドーム部にかけて、たすきがけ状に巻回することをいう。
【0004】
このように、熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を金属ライナーに巻き付けて樹脂含浸繊維層を形成した高圧タンクを製造する方法として、例えば特許文献1並びに特許文献2がある。
【0005】
特許文献1には、金属ライナーの内部に発熱体を配設し、金属ライナーを内部から加熱しながら回転させ、ライナーの外周面に熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けて熱により含浸樹脂を順次硬化(ゲル化)させるようにした高圧タンクの製造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、回転する金属ライナーの外側に電熱ヒータを配設し、この電熱ヒータで外部から加熱しながら、金属ライナーの外周面に熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けて含浸樹脂を順次硬化させるようにした高圧タンクの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−300194号公報
【特許文献2】特許第4284705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1によれば、金属ライナーの内部に発熱体を配設したものであるから、巻き付けの層が重なるにつれて樹脂繊維層が厚くなって表面層への熱伝導が悪くなり、ゲル化に必要な温度まで上昇せず、樹脂含浸繊維が完全に硬化しないといった問題点があった。
【0009】
また、ヘルカル巻きの場合、図3に示すように、ライナー1の両端部のドーム部1b、特に口金1c付近において、加熱硬化による含浸樹脂の粘性低下によって、繊維Aの横すべりが発生し、設定された軌道(図3(a),(b)の仮想線)に沿って正しく巻き付けることができないことがあった。このような繊維の横すべりが発生すると、この部分に膨らみが発生して外観を損なうと共に、繊維方向がドーム部の正しい補強巻き付けラインから外れてしまい、高圧タンクの強度にバラツキが生じる等の大きな問題となる。
【0010】
また、特許文献2によれば、回転する金属ライナーの外側に電熱ヒータを配設したものであるから、金属ライナーの内部からの加熱方式のように、巻き付け層が厚くなるにつれて表面層への熱伝導が悪くなるといった問題点は解消できるが、ヘルカル巻きで巻き付ける場合に、ライナーの両端部のドーム部において、加熱硬化による含浸樹脂の粘性低下によって、繊維の横すべりが発生し、設定された軌道に沿って正しく巻き付けることができない問題点は解消されない。
そのため、これまではヘリカル巻きの際に、樹脂含浸繊維を巻く軌道を、横すべりが発生しにくい軌道になるように巻回するようにしていた。したがって、軌道を選択する自由度が制限され、耐圧性能からみて理想的な軌道で巻回することができなかった。
【0011】
そこで本発明は、金属ライナーに樹脂含浸繊維をヘルカル巻きで巻き付ける際に、ライナーの両端部のドーム部において、繊維の横すべりが生じにくく、理想的な軌道に近い軌道で巻き付けることができ、これにより強度にバラツキのない高品質の高圧タンクを製作することのできる新しい製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明は、ドーム部を端部に有する中空状の金属ライナーの外面に樹脂含浸繊維層が設けられる高圧タンクの製造方法であって、樹脂含浸繊維層を形成するために、樹脂含浸繊維を金属ライナーの外面にフープ巻きとヘルカル巻きとを交互に繰り返しながら複数回巻き付ける巻き付け工程を含み、この巻き付け工程の過程で、金属ライナーの外方に配置した外部加熱装置により、巻き付けられる樹脂含浸繊維を順次加熱硬化させるようにし、金属ライナーのドーム部に向けて配置した冷却装置により、ヘルカル巻きで巻き付けられるドーム部の樹脂含浸繊維を冷却して樹脂含浸繊維のドーム部での横すべりを抑えるようにしたものである。
ここで、「ドーム部」とは、タンクの胴部分から口金部分あるいは底部分にかけてタンクの外径が湾曲面を形成するようにして変化する部位を総称していう。湾曲面の形状は特に限定されない。したがって、「ドーム部」には、椀状、半円状、楕円状、放物面状などの湾曲面も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、金属ライナーの外方に配置した外部加熱装置により、樹脂含浸繊維を巻き付けながら含浸樹脂を順次加熱硬化させるものであるから、樹脂含浸繊維が複数回巻き付けられてその層が厚くなっても、巻き付け部における温度低下が生じることなく、常に設定した温度を保持することができて、確実に熱硬化樹脂を順次硬化させることができる。その上で、金属ライナーのドーム部近傍に配置した冷却装置により、ヘルカル巻きで巻き付けられるドーム部での樹脂含浸繊維を冷却して樹脂の粘度低下を遅らせるようにしたので、滑りやすいドーム部での樹脂の粘性を保持できて樹脂含浸繊維の横すべりが抑制され、所望の軌道に沿って正確に樹脂含浸繊維を巻き付けることができ、強度に優れた高品質の高圧タンクを容易に製作することができるといった優れた効果がある。
【0014】
また、上記発明において、冷却装置は、ドーム部の表面温度を計測する温度センサを備え、ドーム部の温度情報と進行中の樹脂含浸繊維の巻き付け位置の情報とに基づいて冷却装置の作動状態を制御するようにしてもよい。
【0015】
これにより、必要な時だけ必要なタイミングで、即ち、樹脂含浸繊維がヘルカル巻きでドーム部に巻回される時だけ、ドーム部の温度が低くなるようにあらかじめライナー表面の温度を調節することができるようになり、冷却が必要でないフープ巻きの時は冷却装置を停止させて外部加熱装置による樹脂硬化のための加熱への影響を最小限に抑えることができ、さらにはエネルギーの効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る高圧タンクを製造するための装置の概要を示す斜視図である。
【図2】金属ライナーに樹脂含浸繊維を巻き付ける工程を示す説明図である。
【図3】従来の巻き付け過程において、樹脂含浸繊維が金属ライナーのドーム部で横すべりした状態を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は口金側からみた正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、本発明に係る高圧タンクの製造方法の詳細を図1並びに図2に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明に係る高圧タンクの製造するための装置の概要を示す図である。この装置は樹脂含浸繊維の巻き付け位置を移動させるトラバース機構を備えたフィラメントワインディング装置を含んだ構成をしている。中空状の金属ライナー1は、タンク軸芯部を支持するシャフト2を介して軸支持部3,3に支持され、軸支持部3に組み込まれた回転機構により回転するようになっている。この金属ライナー1を回転させながら金属ライナー1の周面に、熱硬化性樹脂を含浸させた樹脂含浸繊維Aをフープ巻きとヘルカル巻きとを交互に繰り返して所定回数巻き付ける。即ち、ガイド部材6(図2参照)を金属ライナー1の軸方向に往復移動させながら、ガイド部材6から樹脂含浸繊維Aを回転する金属ライナー1に供給してその周面に巻き付ける。
【0019】
樹脂含浸繊維Aは、炭素繊維等の高剛性繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させたものが使用される。金属ライナー1はアルミ合金(例えばA6061アルミ)で形成され、筒状の胴部1aの両端になめらかな曲面を持つドーム部1b,1bを備えており、ドーム部1bの各頂部に口金1c,1cが設けられている。この口金1c,1cに前記シャフト2がねじで接合されている。
【0020】
樹脂含浸繊維Aを金属ライナーに巻き付けながら含浸樹脂を順次加熱硬化(ゲル化)させる外部加熱装置4が、金属ライナー1の外方に配置されている。この加熱装置4は順次巻き付けられていく樹脂含浸繊維Aの樹脂を硬化(ゲル化)させるに充分な温度を提供できるように設定されており、この温度として具体的には胴部表面温度が80℃以上、好ましくは80℃〜100℃が設定される。
【0021】
さらに、金属ライナー1のドーム部1b,1bの近傍には、ドーム部1bに向けて冷風を吹き付ける冷却装置5,5が配置されている。この冷却装置5はドーム部1bの頂部、即ち、口金1cの部分からドーム部周面を冷却してこの部分にヘルカル巻きで巻回される樹脂含浸繊維Aの樹脂のゲル化を遅らせ、その粘性を保持させるために用いられる。したがって、冷却装置5によるドーム部付近の温度は具体的には70℃程度あるいはそれ以下(ゲル化温度未満、好ましくはゲル化温度−10℃以下)となるように設定してある。
【0022】
金属ライナー1に樹脂含浸繊維Aをフィラメントワインディング法で巻き付けるに際して、フープ巻きとヘルカル巻きを交互に繰り返して複数回行うものであるが、その回数は限定されない。例えば、10〜30回行われる。また、フープ巻き及びヘルカル巻きの順番はいずれが先であってもよい。
【0023】
図2は先ずフープ巻きから先行してヘルカル巻きに移行する場合を示す。図2の(a)並びに(b)で示すように、ガイド部材6を金属ライナー1の軸方向に往復移動させながら、ガイド部材6から樹脂含浸繊維Aを回転する金属ライナー1の胴部に供給してその周面に樹脂含浸繊維Aをフープ巻きで巻回する。この際、金属ライナー1の外部に配置した外部加熱装置4により、樹脂含浸繊維Aが巻き付けられながら樹脂が順次ゲル化し、確実に金属ライナー1の周面に接合することができるとともに繊維相互間を結合することができる。
【0024】
次いで1回目のフープ巻きが終了すると、図2の(c)並びに(d)に示すように、金属ライナー1の胴部1aからドーム部1bに亘ってヘルカル巻きで巻回する。この際、ライナー胴部1aでは、樹脂含浸繊維Aは外部加熱装置4によってゲル化されるが、ドーム部1bでは、冷却装置5により冷却されて樹脂のゲル化が遅滞し、これにより、滑りやすいドーム部1bでの樹脂の粘性を保持できて繊維の横すべりが抑制され、設定された軌道に沿って正確に樹脂含浸繊維Aを巻き付けることができる。この時、冷却装置5によりフープエンド部(図2参照)が70℃程度(ゲル化温度未満)になっても問題を生ずることなく正確に樹脂含浸繊維Aを巻き付けることができる。また、フープ巻きのフープエンド巻回時にフープエンド部がゲル化温度未満になるよう冷却装置5を駆動させることにより、フープエンド部の巻き崩れを防止することもできる。このフープ巻きとヘルカル巻きを複数回繰り返して金属ライナーに樹脂含浸繊維層による補強樹脂層が形成される。
【0025】
本発明において、繊維の横すべりを抑制する冷却装置5は、ドーム部1bの表面温度をモニタするための温度センサ7からの温度情報と、樹脂含浸繊維Aの巻き付け位置の情報(具体的にはトラバース機構のガイド部材6の位置情報)とにより、ドーム部1bが適正な温度となるように冷却装置のON,OFF動作をコンピュータ制御するようにするのがよい。
例えば、ドーム部近傍に温度センサ7を設置して、この部分の温度を監視制御するようにし、フープ巻きの時は冷却装置5を停止して待機させるようにする。
そしてフープ巻きからヘルカル巻きに移行する際に、ガイド部材6の位置からフープ巻きの終了時期を算出し、事前に冷却装置5をONにしてドーム部近傍を70度℃程度(ゲル化温度未満)まで引き下げるようにする。
【0026】
これにより、必要な時だけ、即ち、樹脂含浸繊維Aがヘルカル巻きでドーム部に巻き付けられる時だけ、必要なタイミングで冷却装置が動作するようにすることができ、外部加熱装置の加熱効果を損なうのを最小限に抑えることができ、しかも熱エネルギーのロスを抑えることができる。
【0027】
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記実施例のみに特定されるものではない。例えば、樹脂含浸繊維Aの繊維として、炭素繊維の他に、金属繊維、ガラス繊維、アラミド繊維もしくはこれらの混合繊維が使用できる。また熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂の他に、例えば不飽和ポリエステル樹脂等がある。
また、樹脂含浸繊維Aの巻き付け方法として上記したフィラメントワインディング法の他に、ハンドレイアップ法、テープワインディング法があるが、そのいずれの方法も利用することができる。
その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、水素その他のガスを加圧充填するために使用される高圧タンク、特に、燃料電池自動車の水素用燃料用高圧タンクの製造に利用される。
【符号の説明】
【0029】
A 樹脂含浸繊維
1 金属ライナー
1a 筒状胴部
1b ドーム部
1c 口金
4 外部加熱装置
5 冷却装置
6 ガイド部材
7 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーム状の端部を有する中空状の金属ライナーの外面に樹脂含浸繊維層が設けられる高圧タンクの製造方法であって、
樹脂含浸繊維層を形成するために、樹脂含浸繊維を金属ライナーの外面にフープ巻きとヘルカル巻きとを交互に繰り返しながら複数回巻き付ける巻き付け工程を含み、
この巻き付け工程の過程で、金属ライナーの外方に配置した外部加熱装置により、巻き付けられる樹脂含浸繊維を順次加熱硬化させるようにし、金属ライナーのドーム部に向けて配置した冷却装置により、ヘルカル巻きで巻き付けられるドーム部の樹脂含浸繊維を冷却して樹脂含浸繊維のドーム部での横すべりを抑えるようにした高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
前記冷却装置は、ドーム部の表面温度を計測する温度センサを備え、ドーム部の温度情報と進行中の樹脂含浸繊維の巻き付け位置の情報とに基づいて冷却装置の作動状態を制御するようにした請求後1に記載の高圧タンクの製造方法。
【請求項3】
外部加熱装置にて胴部表面温度が前記樹脂のゲル化温度以上になるように設定され、ドーム部を巻き付ける時のドーム部表面温度が前記樹脂のゲル化温度未満になるように設定される請求項1または請求項2に記載の高圧タンクの製造方法。
【請求項4】
外部加熱装置により前記胴部表面温度は80℃以上に設定され、ドーム部を巻き付ける時のドーム部表面温度が70度以下に設定される請求項1または請求項2に記載の高圧タンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−179638(P2011−179638A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46415(P2010−46415)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(593166462)サムテック株式会社 (12)
【Fターム(参考)】