説明

高垂直異方性及び面内平衡磁化を有する自由層を備えたスピン転移磁気素子

【課題】磁気メモリに用い得る磁気素子を作製するための方法及びシステムを提供する。
【解決手段】磁気素子には、固定層と、非磁性スペーサ層と、自由層とが含まれる。スペーサ層は固定層と自由層との間にある。自由層は、書き込み電流が磁気素子を通過する時にスピン転移を用いて切換え得る。磁気素子には更に、バリア層と第2固定層とを含み得る。他の選択肢として、第2固定層と第2スペーサ層と自由層に静磁気的に結合された第2自由層とが含まれる。少なくとも1つの自由層が高垂直異方性を有する。高垂直異方性は、面外減磁エネルギの少なくとも20%であり且つ100パーセント未満である垂直異方性エネルギを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気メモリシステムに関し、特に、スイッチングの際にスピン転移効果を使用する磁気素子であって、より小さいスイッチング電流密度を用いて切換え得る磁気素子を提供するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
図1A及び1Bは、従来の磁気素子10及び10’を示す。従来の磁気素子10はスピンバルブであり、従来の反強磁性(AFM)層12、従来の固定層14、従来の導電性スペーサ層16及び従来の自由層18からなる。シード層又はキャップ層等の他の層(図示せず)も用い得る。従来の固定層14及び従来の自由層18は強磁性である。従って、従来の自由層18は、磁化19の変更が可能である。従来のスペーサ層16は非磁性である。AFM層12は、固定層14の磁化を特定の方向に固定、即ち、ピン止めするために用いられる。通常、自由層18の磁化は外部磁場に応じて自由に回転する。従来の磁気素子10に電流を駆動して流すために用い得る頂部コンタクト20及び底部コンタクト22も示す。図1Bに示す従来の磁気素子10’はスピントンネル接合である。従来のスピントンネル接合10’の複数の部位が従来のスピンバルブ10と同様である。従って、従来の磁気素子10’には、AFM層12’、従来の固定層14’、従来の絶縁バリア層16’及び磁化19’が変更可能な従来の自由層18’が含まれる。従来のバリア層16’は、従来のスピントンネル接合10’において、電子がトンネル通過するのに充分な程薄い。
【0003】
従来の自由層18/18’及び従来の固定層14/14’の磁化19/19’の向きにそれぞれ依存して、従来の磁気素子10/10’の抵抗は、それぞれ変化する。従来の自由層18/18’の磁化19/19’が、従来の固定層14/14’の磁化と平行である場合、従来の磁気素子10/10’の抵抗は低い。従来の自由層18/18’の磁化19/19’が、従来の固定層14/14’の磁化に反平行である場合、従来の磁気素子10/10’の抵抗は高い。従来の磁気素子10/10’の抵抗を検出するためには、電流を駆動して従来の磁気素子10/10’に流す。通常、メモリ用途では、電流は、CPP(面垂直電流)構成において、従来の磁気素子10/10’の層に対して垂直(図1A又は1Bにおいて分かるように上下のz方向)に駆動される。
【0004】
更に、垂直異方性を有する膜が、或る所望の特性を得るために従来のMRAMに用いられてきた。例えば、垂直異方性を有するGdFe及びGdCoFeは、非特許文献1によって開示された磁気素子に用いられてきた。しかしながら、非特許文献1によって開示された構造は、標準磁場ベース書き込みMRAMデバイス用に設計されていた。従って、そのような従来の自由層の磁化は、磁気素子に外部磁場を印加することによって切り替えられる。更に、磁気素子10/10’とは対照的に、非特許文献1によって開示された磁気素子は、それらの平衡磁化が膜面に対し垂直に向いている。従って、自由層の磁化は、そのような従来の磁気素子において、図1A及び1Bに示すように、z方向である。
【0005】
より高い密度のメモリセルを有する磁気メモリに関連する幾つかの問題を克服するために、スピン転移を利用して、従来の自由層10/10’の磁化19/19’を切り換え得る。スピン転移について、従来の磁気素子10’の文脈で説明するが、従来の磁気素子10にも同様に適用可能である。スピン転移に関する現在の知見は、以下の出版物に詳細に記載されている。即ち、非特許文献2、非特許文献3、並びに非特許文献4に記載されている。従って、スピン転移現象の以下の説明は、現在の知見に基づくものであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0006】
スピン分極電流が、CPP構成のスピントンネル接合10’等の磁性多層を横断する場合、強磁性層に入射する電子のスピン角運動量の一部は、強磁性層に転移し得る。特に、従来の自由層18’に入射する電子は、それらのスピン角運動量の一部を従来の自由層18’に転移し得る。その結果、電流密度が充分に高く(約10乃至10A/cm2)、ス
ピントンネル接合の横方向の寸法が小さい(約200ナノメートルより小さい)場合、スピン分極電流は、従来の自由層18’の磁化19’方向を切り換え得る。更に、スピン転移が従来の自由層18’の磁化19’方向を切り換え可能であるためには、従来の自由層18’は、充分に薄い方が良く、例えば、好適には、Coの場合、約10ナノメートル未満が好ましい。スピン転移に基づく磁化のスイッチングは、他のスイッチングメカニズムより優れており、従来の磁気素子10/10’の横方向の寸法が小さく、数百ナノメートルの範囲にある場合、観察可能になる。従って、スピン転移は、より小さい磁気素子10/10’を有する密度が高い磁気メモリに適している。
【0007】
スピン転移の現象は、従来のスピントンネル接合10’の従来の自由層18’の磁化方向を切り換えるために外部スイッチング場を用いることに対する他の選択肢又は追加としてCPP構成に用い得る。例えば、従来の自由層18’の磁化19’は、従来の固定層14’の磁化に反平行な方向から従来の固定層14’の磁化に平行な方向に切り換え得る。電流は、従来の自由層18’から従来の固定層14’に駆動される(伝導電子は、従来の固定層14’から従来の自由層18’に移動する)。従来の固定層14’から移動する多数電子のスピンは、従来の固定層14’の磁化と同じ方向に分極される。これらの電子は、それらの充分な量の角運動量を従来の自由層18’に転移して、従来の自由層18’の磁化19’を従来の固定層14’のそれに平行になるように切り換え得る。他の選択肢として、自由層18’の磁化は、従来の固定層14’の磁化に平行な方向から従来の固定層14’の磁化に反平行に切り換え得る。電流が、従来の固定層14’から従来の自由層18’に駆動される(伝導電子が反対方向に移動する)場合、多数電子のスピンは、従来の自由層18’の磁化の方向に分極される。これら多数電子は、従来の固定層14’によって透過される。少数電子は、従来の固定層14’から反射され、従来の自由層18’に戻り、それらの充分な量の角運動量を転移して、自由層18’の磁化19’を従来の固定層14’のそれに反平行に切り換え得る。
【0008】
スピン転移は、従来の磁気素子10及び10’を切り替えるためのメカニズムとして機能するが、従来の磁気素子10及び10’のスイッチングを誘起するには、通常、高い電流密度が要求されることを当業者は容易に認識されるであろう。特に、スイッチング電流密度は、2乃至3×10A/cm2以上のオーダーである。従って、高い書き込み電流が、
高いスイッチング電流密度を得るために用いられる。高い動作電流によって、高密度MRAMの場合、発熱、高い消費電力、大きなトランジスタサイズ、また更に他の問題等の設計上の問題が生じる。更に、従来の要素10等のスピンバルブを用いる場合は出力信号が小さい。従来の磁気素子10では、総抵抗及びSVベースのスピン転移要素の抵抗の変化は双方共に小さく、通常、それぞれ、2オーム及び5パーセント未満である。
【0009】
出力信号を増大する1つの提案された方法は、スピン転移デバイスに、従来の磁気素子10’等のスピントンネル接合を用いることである。従来の磁気素子10’は、大きな抵抗及び大きな信号を呈し得る。例えば、それぞれ、1千オームを超える抵抗及び40パーセントを超える抵抗変化の割合である。しかしながら、従来の磁気素子10’を用いると、従来の磁気素子10’の劣化又は破壊を防止するために、小さい動作電流が必要なことを当業者は容易に認識されるであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Naoki Nishimura, et al. in “Magnetic tunnel junction device with perpendicular magnetization films for high-density magnetic random access memory”, Journal of Applied Physics, Volume 91, Number 8, pp.5246-5249, 15 April 2002
【非特許文献2】J.C. Slonczewski, “Current-driven Excitation of Magnetic Multilayers,” Journal of Magnetism and Magnetic Materials, vol.159, p.L1 (1996)
【非特許文献3】L. Berger, “Emission of Spin Waves by a Magnetic Multilayer Traversed by a Current,” Phys. Rev. B, vol.54, p.9353 (1996)
【非特許文献4】F.J. Albert, J.A. Katine and R.A. Buhrman, “Spin-polarized Current Switching of a Co Thin Film Nanomagnet,” Appl. Phys. Lett., vol.77, No.23, p.3809 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、必要とされるものは、より小さい電流密度でスピン転移を用いて切換えることができ、また、消費電力が小さい要素を有する磁気メモリ素子を提供するためのシステム及び方法である。本発明は、そのようなニーズに対処する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、磁気メモリに用い得る磁気素子を提供するための方法及びシステムを提供する。本磁気素子には、少なくとも固定層、非磁性スペーサ層、及び自由層が含まれる。スペーサ層は、固定層と自由層との間にある。磁気素子は、書き込み電流が磁気素子を通過する時、スピン転移を用いて自由層が切り替えられるように構成される。幾つかの態様において、磁気素子には、更に、バリア層、第2固定層が含まれる。他の態様において、磁気素子には、更に、第2スペーサ層と、第2固定層と、第1自由層に静磁気的に結合された第2自由層と、が含まれる。そのような態様において、第2スペーサ層は、第2固定層と第2自由層との間にあり、好適には、分離層が第1自由層と第2自由層との間に提供され、それらが静磁気的に結合されることを保証する。自由層(1つ又は複数)は、高垂直異方性を有する。1つ又は複数の自由層の場合、垂直異方性は、面外減磁エネルギの少なくとも20パーセントであり且つ100パーセント未満である高垂直異方性エネルギを有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】従来の磁気素子であるスピンバルブを示す図。
【図1B】他の従来の磁気素子であるスピントンネル接合を示す図。
【図2A】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第1実施形態を示す図。
【図2B】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第1実施形態における他のバージョンを示す図。
【図3A】少なくとも高垂直異方性によるスピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第1実施形態における第2バージョンを示す図。
【図3B】少なくとも高垂直異方性によるスピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第1実施形態における第3バージョンを示す図。
【図4】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の第2実施形態を示す図。
【図5A】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の第2実施形態の好適なバージョンを示す図。
【図5B】高垂直異方性によるスピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第2実施形態における第2バージョンを示す図。
【図5C】高垂直異方性によるスピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第2実施形態における第3バージョンを示す図。
【図6】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第3実施形態を示す図。
【図7A】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の第3実施形態の好適なバージョンを示す図。
【図7B】少なくとも高垂直異方性によるスピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第3実施形態における他のバージョンを示す図。
【図7C】少なくとも高垂直異方性によるスピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第3実施形態における他のバージョンを示す図。
【図8】スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一実施形態を提供するための本発明に基づく方法の一実施形態のフローチャートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に開示するシステム及び方法によれば、本発明は、より小さい電流密度を用いたスピン転移により切換え得る磁気素子、及びその小さいスイッチング電流密度に伴う利点を提供する。
【0015】
本発明は、磁気素子及びMRAM等の磁気メモリの改善に関する。以下の説明は、当業者が本発明を実現し用いるために提示し、また、特許出願及びその要求事項という文脈で提供する。好適な実施形態に対する様々な修正は、当業者には容易に明らかであり、また、本明細書における一般的な原理は、他の実施形態にも適用し得る。従って、本発明は、例示した実施形態に限定することを意図するものではなく、本明細書に述べる原理及び特徴に合致する最も広い範囲に適合するものである。
【0016】
本発明は、磁気メモリに用い得る磁気素子を提供するための方法及びシステムを提供する。本磁気素子には、少なくとも固定層、非磁性スペーサ層、及び自由層が含まれる。スペーサ層は、固定層と自由層との間にある。磁気素子は、書き込み電流が磁気素子を通過する時、スピン転移を用いて自由層が切り替えられるように構成される。幾つかの態様において、磁気素子には、更に、バリア層、第2固定層が含まれる。他の態様において、磁気素子には、更に、第2スペーサ層と、第2固定層と、第1自由層に静磁気的に結合された第2自由層と、が含まれる。そのような態様において、第2スペーサ層は、第2固定層と第2自由層との間にあり、好適には、分離層が第1自由層と第2自由層との間に提供され、それらが静磁気的に結合されることを保証する。一態様において、1つ又は複数の自由層が、高垂直異方性を有する。垂直異方性は、面外減磁エネルギの少なくとも20パーセントであり、一般的に、100パーセント未満の垂直異方性エネルギを有する。
【0017】
本発明について、特定の磁気メモリ及び或る構成要素を有する特定の磁気素子の観点で説明する。しかしながら、当業者は、本方法及びシステムは、異なる及び/もしくは追加の構成要素を有する他の磁気メモリ要素並びに/又は本発明と矛盾しない異なる及び/もしくは他の特徴を有する他の磁気メモリに対して有効に作用することを容易に認識されるであろう。また、本発明について、スピン転移現象に関する現在の理解の文脈で説明する。従って、本方法及びシステムの振る舞いの理論的な説明は、このスピン転移の現在の理解に基づき行われることを当業者は容易に認識されるであろう。また、本方法及びシステ
ムは、基板との特定の関係を有する構造という文脈で説明されることを当業者は容易に認識されるであろう。例えば、図面に示すように、構造の底部は、通常、構造の頂部に対してよりも下層の基板に近い。しかしながら、本方法及びシステムは、基板に対して異なる関係を有する他の構造と整合性があることを当業者は容易に認識されるであろう。更に、本方法及びシステムは、或る層が合成及び/又は単一であるという文脈で説明される。しかしながら、これらの層は、他の構造を有し得ることを当業者は容易に認識されるであろう。例えば、本方法及びシステムは、単一自由層の文脈で説明されるが、本発明を合成自由層に用いることを妨げない。更に、本発明は、磁気素子が特定の層を有するという文脈で述べる。しかしながら、当業者は、本発明と整合性のある追加の及び/又は異なる層を有する磁気素子も用い得ることを容易に認識されるであろう。更に、或る構成要素は、強磁性であると説明される。しかしながら、本明細書に用いる用語“強磁性”には、フェリ磁性又は同様な構造を含み得る。従って、本明細書に用いる用語“強磁性”には、これに限定するものではないが、強磁性体及びフェリ磁性体が含まれる。また、本発明について、単一の要素という文脈で説明する。しかしながら、本発明は、多数の要素、ビットライン、及びワードラインを有する磁気メモリの用途と整合性があることを当業者は容易に認識されるであろう。また、本発明について、より小さいスイッチング電流密度を提供するための特定のメカニズム、高異方性という文脈で説明する。しかしながら、本明細書で述べる方法及びシステムは、低飽和磁化自由層等のスイッチング電流密度を低減するための他のメカニズムと組み合わせ得ることを当業者は容易に認識されるであろう。
【0018】
次に、本発明に基づく方法及びシステムを更に詳細に示すために、図2Aを参照して、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子100の一部の第1実施形態を示す。磁気素子100は、好適には、MRAM等の磁気メモリに用いられる。従って、磁気素子100は、絶縁トランジスタ(図示せず)を含むメモリセル、また更に、他の構成の磁気メモリに用い得る。更に、磁気素子100は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。磁気素子100には、固定層110、スペーサ層120、自由層130が含まれる。後述するように、自由層130は、高垂直異方性を有するように構成される。また、磁気素子100には、一般的に、固定層110の磁化111をピン止めするために用いられるAFM層(図示せず)と、また更に、シード層(図示せず)と、キャップ層(図示せず)と、が含まれる。更に、磁気素子100は、スピン転移を用いて自由層130に書き込み得るように構成される。従って、好適な実施形態において、自由層130の幅w等の横方向の寸法は、小さく、好適には、200ナノメートルより小さい。更に、好適には、自由層130が、自由層130の面内で確実に特定の容易軸を有するように、何らかの差異が横方向の寸法間に提供される。
【0019】
固定層110は、強磁性である。一実施形態において、固定層110は、合成である。そのような実施形態において、固定層110には、非磁性層によって分離された強磁性層が含まれ、また、それら強磁性層が反平行に向くように構成される。固定層110は、磁気素子100の巨大比抵抗のスピン依存性を増加させるように構成し得る。例えば、固定層110又はその強磁性層は、繰返される二分子層から成る多層であってよい(図2Aには明示せず)。そのような一実施形態において、固定層110は、(FeCo1−x/Cu)nの多層であってよく、ここで、nは、FeCo1−x/Cu二分子層の繰返し回数である。そのような実施形態において、nは、1より大きく、好適には、二分子層のCu層は、1乃至8オングストローム厚である。スペーサ層120は、非磁性である。一実施形態において、スペーサ層120は、導電性であってよく、例えば、Cuを含み得る。他の実施形態において、スペーサ層120は、アルミナ等の絶縁体を含むバリア層である。そのような実施形態において、バリア層120は、電荷キャリアが自由層130と固定層110との間をトンネル通過し得るように、2ナノメートル厚より小さい。
【0020】
自由層130は、強磁性であり、高垂直異方性を有するように構成される。本明細書に用いられる高垂直異方性は、自由層130の垂直異方性が減磁エネルギの少なくとも20パーセントであり且つ100パーセント未満である対応する垂直異方性エネルギを有する場合、単一の自由層130に対して発生する。図2Bは、磁気素子100と同様な磁気素子100’を示す。従って、同様な構成要素は、同様にラベル表示する。従って、磁気素子100’には、スピン転移を用いて書き込むことができ、また、高垂直異方性を有する自由層130’が含まれる。しかしながら、自由層130’は、合成であり、好適には、Ruである非磁性層134によって分離された2つの強磁性層132及び136を含む。非磁性層134は、自由層130’の磁化133及び137が反平行に向くように構成される。自由層130’は、強磁性層132及び136が高垂直異方性を有することから、高垂直異方性を有する。従って、強磁性層132及び136の垂直異方性は、それぞれ強磁性層132及び136の減磁エネルギの少なくとも20パーセントであり且つ100パーセント未満である垂直異方性エネルギに対応する。図2A及び2Bにおいて、高垂直異方性は、減磁エネルギの少なくとも20パーセントであるが100パーセントより小さい垂直異方性エネルギを有すると定義される。その結果、垂直異方性は、相当なものであるが、自由層130又は構成要素の強磁性層132及び136の平衡磁化は、面内にある(図2A及び2Bにおいて、上又は下の構成要素はない)。理解しやすいように、以下の議論は、基本的に、自由層130を参照する。しかしながら、議論する原理は、強磁性層132及び136を含む自由層130’並びに磁気素子100’にも当てはまる。
【0021】
高垂直異方性は、自由層130の垂直異方性エネルギが自由層130の面外減磁エネルギの20パーセントより大きいが100パーセントより小さい場合発生する。その結果、自由層130の磁化131は、平衡状態で(書き込み電流又は充分な外部磁場が無い状態で)面内にある。好適には、高垂直異方性は、高垂直結晶異方性を有する材料を用いて、及び/又は、何らかのやり方で層に応力をかけることによって、提供される。高垂直異方性は、スピン転移により自由層130の磁化を切り替えるのに必要な臨界スイッチング電流密度Jcを低減する。
【0022】
スイッチング電流密度を低減する高垂直異方性自由層の能力は、J.C. Slonczewski, “Current-driven Excitation of Magnetic Multilayers,” Journal of Magnetism and Magnetic Materials, vol.159, p.L1 to L5 (1996)に記載された一般的なスピン転移スピントルクモデルを用いて、理解し得る。スロンチェウスキのモデルによれば、スピン転移積層用の自由層のスイッチング電流密度Jcは、以下の式に比例する。即ち、
αtMs[Heff−2πMs]/g(θ)
上式において、
α=現象学的ギルバート(Gilbert)減衰定数
t=自由層の厚さ
Ms=自由層の飽和磁化
Heff=自由層の有効磁場
g(θ)=スピン転移効率を反映する。
有効磁場Heffには、外部磁場、形状異方性磁場、面内及び面外(即ち、垂直な)異方性、及び双極及び交換磁場が含まれる。垂直異方性は、通常、結晶の異方性から生じる。項g(θ)は、固定層110及び自由層130の磁化の相対的な角度方位に依存する。
【0023】
スイッチング電流密度を低減する高垂直異方性の能力については、次のように説明し得る。大抵の磁性材料の場合、面外減磁項2πMsは、Heffよりかなり大きい。例えば、長軸200nm、短軸100nm、及び厚さ20Aを有するCoの薄膜楕円の場合、項2πMsは、約8kOeであり、これは、数百Oeより小さいHeffよりかなり大きい。一般的に結晶異方性である高垂直異方性は、面外減磁の全てではないがほとんどを相殺する
ために自由層130に導入し得る。従って、上記の如く定義されたように、高垂直異方性は、減磁エネルギの100パーセントより小さい垂直異方性エネルギを有する。高垂直異方性は、好適には、減磁エネルギの20と95パーセントとの間にある(好適な実施形態では、90パーセントである)垂直異方性エネルギを有する。そして、面外減磁エネルギは、依然として垂直異方性エネルギより大きいことから、自由層130の平衡磁化131は、面内に留まる。しかしながら、垂直異方性が大きく増加したことから、(垂直異方性が含まれる)有効磁場Heffと減磁項2πMsとの間の差異が減少する。従って、自由層130の平衡磁気モーメントは、面内に留まるが、より小さいスイッチング電流密度を用いて切換え得る。つまり、自由層130の磁化131のスピン転移誘起スイッチングのためのスイッチング電流密度を低減するためには、高垂直異方性を自由層130に提供すべきである。
【0024】
自由層130の高垂直異方性は、多くのやり方で提供し得る。高垂直異方性を提供するために、自由層130に用いられる材料、又は構成要素である強磁性層132及び136には、それらの結晶構造による高垂直異方性を有する材料を含み得る。一実施形態において、自由層130又は強磁性層132及び136には、Cr、Pt及び/又はPdと合金化されるCo及びCoFe又はCo及びCoFeが含まれ、この場合、Cr、Pt、及びPdの組成は、上記の如く定義されたように、高垂直異方性を与えるために選択される。好適な実施形態において、Co及びCoFeにおけるCr、Pt、及び/又はPdの組成は、垂直異方性エネルギが、面外減磁エネルギの20と95パーセントとの間にあり、好適には、90パーセントであるという条件を満たすように調整される。
【0025】
他の一実施形態において、自由層130又は強磁性層132及び136には、nが、1と10との間にあり、Coが3A乃至20A、CoFeが3A乃至20A、CoCrが3A乃至20A、Pdが10A乃至100A、Ptが10A乃至100Aである時、多層[Co/Pd]n/Co、[Co/Pt]n/Co、[CoFe/Pd]n/CoFe、[CoFe/Pt]n/CoFe、[CoCr/Pd]n/CoCr、又は[CoCr/Pt]n/CoCrを含み得る。Co、CoFe、CoCr、Pd、及びPtの厳密な厚さは、垂直異方性エネルギが、多層の面外減磁エネルギの20と95パーセントとの間にあるように選択される。これら多層における垂直異方性は、強磁性/Pd又はPt界面における表面異方性及び薄膜Co層における歪みに帰する。
【0026】
図3Aは、スピン転移スイッチングのための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第1実施形態における他のバージョン100’’を示す。磁気素子100’’は、磁気素子100と同様である。従って、同様な構成要素は、同様にラベル表示する。従って、磁気素子には、高垂直異方性を有し、また、スピン転移を用いて書き込まれる自由層130’’が含まれる。更に、磁気素子100’’は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。好適な実施形態において、自由層130’’には、Co、CoCr、CoPt、CoCrPt、CoFe、CoFeCr、CoFePt、CoFeCrPt、又はそれらの多層組合せが含まれ、これらは、固有の高垂直異方性を有する。また、磁気素子100’’には、オプションの応力引上げ層152及び154が含まれる。応力引上げ層152及び154の内の一方又は双方を用いてよい。層154は、自由層130’’の応力表面異方性を変えるために用いられ、総垂直異方性が更に強化される。応力引上げ層152も、自由層130’’の総垂直異方性を強化するシード層である。応力引上げ層152は、スペーサ層120が導電性である場合、スペーサ層120の一部としての役割を果たし得る。しかしながら、スペーサ層120’’が絶縁バリア層である場合、応力引上げ層152を含むと信号が大幅に劣化し得る。従って、そのような実施形態では、応力引上げ層152は望ましくない。応力引上げ層152及び154には、自由層130’’における垂直異方性を
更に促進するPt、Pd、Cr、Ta、Au、及びCu等の数オングストロームの材料を含み得る。しかしながら、自由層130’’又は隣接する層152及び154のいずれかにおいてPt及びPdを用いると、現象学的ギルバート減衰定数αを増大し得ることに留意されたい。αが大きくなると、自由層130における高垂直異方性によってもたらされる一部の又は全てのスイッチング電流密度低減を打ち消し得る。更に、Co、CoCr、CoPt、CoCrPt、CoFe、CoFeCr、CoFePt、及びCoFeCrPt等の上記材料の垂直異方性は、膜それ自体における固有応力によって更に増加し得る。この固有応力は、膜成膜時、及び/又は、高い圧縮応力の絶縁体(誘電体)で(自由層130’’を含む)スピン転移積層を取り囲むことによって誘起し得る。
【0027】
図3Bは、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部における第1実施形態他のバージョン100’’’を示す。磁気素子100’’’は、磁気素子100と同様である。従って、磁気素子には、高垂直異方性、オプションの低飽和磁化を有し、また、スピン転移を用いて書き込まれる自由層130’’が含まれる。更に、磁気素子100’’’は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。
【0028】
自由層130’’’は、上記の如く定義されたように、高垂直異方性を有する。自由層130’’’には、また、超高垂直異方性強磁性層160及び強磁性層162が含まれる。好適な実施形態において、自由層130’’’の高垂直異方性は、超高垂直異方性強磁性層160により少なくとも部分的に提供される。超高垂直異方性強磁性層160は、超高垂直異方性を有する。本明細書において用いる超高垂直異方性は、面外減磁エネルギを超える垂直異方性エネルギを有する。その結果、超高垂直異方性を有する膜は、単独状態時、その平衡磁化が面に対し垂直になる。超高垂直異方性強磁性層160は、好適には、GdFe及びGdCoFe等の希土類遷移金属合金であり、この場合、希土類遷移金属合金は、5乃至60原子パーセントの範囲にあってよい。そのような希土類遷移金属合金は、相対的に大きい減衰定数及び高又は超高垂直異方性を有する。超高垂直異方性強磁性層160は、好適には、それ自体の面外減磁エネルギより大きい垂直異方性エネルギを有する。強磁性層162は、高いスピン分極を有する。従って、強磁性層162には、好適には、Co、Fe、又はCoFe等の1つ又は複数の高スピン分極材料が含まれる。強磁性層162は、その面外減磁エネルギより小さい垂直異方性エネルギを有する。超高垂直異方性強磁性層160及び強磁性層162は、交換結合される。
【0029】
超高垂直異方性副層160と高スピン分極強磁性層との交換結合の組合せは、自由層130’’’に総高垂直異方性を提供する。超高垂直異方性強磁性層160のより大きな厚さにおいて、超高垂直異方性強磁性層160と強磁性層162との組合せの総垂直異方性エネルギは、超高垂直異方性強磁性層160及び強磁性層162の総面外減磁エネルギを超える。そのような場合、超高垂直異方性強磁性層160及び強磁性層162の双方の磁化、従って、自由層130’’’の磁化は、膜面に対し垂直に向く。しかしながら、超高垂直異方性強磁性層160の厚さが薄くなると、超高垂直異方性強磁性層160及び強磁性層162の総垂直異方性エネルギは、超高垂直異方性強磁性層160及び強磁性層162の総面外減磁エネルギより速く減少する。言い換えると、自由層130’’’の総垂直異方性エネルギは、自由層130’’’の総面外減磁エネルギより速く減少する。他の選択肢として、高スピン分極強磁性層162の厚さが大きくなると、超高垂直異方性強磁性層160及び強磁性層162の総垂直異方性エネルギは、超高垂直異方性強磁性層160及び強磁性層162の総面外減磁エネルギよりゆっくりと増加する。言い換えると、自由層130’’’の総垂直異方性エネルギは、自由層130’’’の面外減磁エネルギよりゆっくりと増加する。総垂直異方性エネルギが、総面外減磁エネルギより小さくなった場合、超高垂直異方性強磁性層160及び強磁性層162の平衡磁化は、回転して膜面に入
り込む。言い換えると、自由層130’’’の垂直異方性エネルギは、自由層130’’’の面外減磁エネルギより小さく、自由層130’’’の磁化は、自由層130’’’が高垂直異方性を有するにもかかわらず、面内にある。従って、スピン転移スイッチング電流を低減するために、超高垂直異方性強磁性層160及び強磁性層162の厚さは、総垂直結晶異方性が大きくなるように調整される。言い換えると、層160及び162の組合せの垂直異方性は、減磁エネルギの少なくとも20であり且つ100パーセント未満である垂直異方性エネルギを有する。好適な実施形態において、この異方性エネルギは、総面外減磁エネルギの90パーセントである。例えば、一実施形態において、磁気素子100’’’は、基板に最も近い底部に自由層130’’’、スペーサ又はバリア層120’’及び頂部に固定層110’’を有する頂部MTJであってよい。そのような磁気素子には、超高垂直異方性強磁性層160/強磁性層162/スペーサ(障壁)層120’’’/固定層110’’’/ピン止め又はAFM層(図示せず)が含まれる。従って、磁気素子100’’’の例は、AlCu[250A]/GdFeCo[t]/CoFe[10A]/Al2O3[8A]/CoFe[30A]/PtMn[150A]によって与えられ、ここで、GdFeCoの厚さtは、好適には、総垂直な結晶異方性エネルギが、総面外減磁エネルギの少なくとも20と100パーセント未満との間にあって、好適には、90パーセントであるように、10と400オングストロームとの間に調整される。従って、自由層130’’’の平衡磁気モーメントは、面内に留まる。
【0030】
他の一実施形態において、超高垂直異方性強磁性層160には、nが、1と10との間にあり、Coが3A乃至20A、CoFeが3A乃至20A、CoCrが3A乃至20A、Pdが10A乃至100A、Ptが10A乃至100Aである時、多層[Co/Pd]n/Co、[Co/Pt]n/Co、[CoFe/Pd]n/CoFe、[CoFe/Pt]n/CoFe、[CoCr/Pd]n/CoCr、又は[CoCr/Pt]n/CoCrを含み得る。繰り返し数n及びCo、CoFe、CoCr、Pd、及びPtの厳密な厚さは、総垂直異方性エネルギが、自由層130’’’の総面外減磁エネルギの20と95パーセントとの間にあるように選択される。
【0031】
従って、磁気素子100、100’、100’’、及び100’’’は、高垂直異方性を有する自由層を利用する。その結果、磁気素子100、100’、100’’、及び100’’’は、より小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。更に、磁気素子100、100’、100’’、及び100’’’の態様は、組み合わせて、更に、垂直異方性を引き上げ得る。従って、電流の更なる低減又は磁気素子100、100’、100’’、及び/又は100’’’の特性における他の改善を達成し得る。
【0032】
図4は、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子200の第2実施形態を示す。磁気素子200には、自由層230を共有するスピンバルブ部204及びスピントンネル接合部202が含まれる。スピンバルブ部204には、好適には、反強磁性の(AFM)層260であるピン止め層260と、固定層250、Cu等の導電性スペーサ層240、及び自由層230が含まれる。他の一実施形態において、導電性スペーサ層240は、バリア層によって置き換え得る。スピントンネル接合部202には、好適には、反強磁性(AFM)層206であるピン止め層206、固定層210、電子がそれをトンネル通過し得るように構成された絶縁体であるバリア層220、及び自由層230が含まれる。図2A及び4において、層250、240、及び230は、スペーサ層120が導通している場合、磁気素子100における層110、120、及び130と同様である。同様に、層210、220、及び230は、スペーサ層120が絶縁バリア層である場合、層110、120、及び130とそれぞれ同様である。従って、固定層210及び250は、好適には、固定層110に対応し、同様な材料、層、及び/又はプロセスを用いて構成し得る。例えば、固定層210及び/又は固定層250には、nを1より大きい繰り返し数とすると、多層(FeCo1−x/Cu)nを含み得る
。更に、Fe原子パーセントxは、好適には、約0.5であり、Cu層は、好適には、1乃至8オングストローム厚である。自由層230は、スピン転移を用いて書き込まれるように構成され、また、高垂直異方性を有する。更に、磁気素子200は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子200の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。また、磁気素子200には、好適には、それぞれ固定層210及び250の磁化のピン止めに用いられるAFM層であるピン止め層206及び260が含まれる。
【0033】
自由層230は、好適には、自由層130、130’、130’’及び/又は130’’’と同様なやり方で構成される。従って、上述したものと同様な材料及び原理を用いて、自由層230の高垂直異方性を達成し得る。高結晶垂直異方性及び/又は応力等の他の条件を有する材料を用いて、自由層330の高垂直異方性を達成し得る。更に、自由層130’を基にして上述したように、自由層230は、合成であってよい。その結果、磁気素子200は、より小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。言い換えると、磁気素子200は、磁気素子100、100’、100’’、100’’’及び/又はそれらの組合せの恩恵を共有し得る。更に、固定層210及び250が反平行に向く場合、スピンバルブ部204及びスピントンネル接合部202双方が、自由層230の書き込みに寄与し得る。バリア層220を用いることから、磁気素子200は、より高い抵抗及び磁気抵抗効果を有する。その結果、読み出し中、より高い信号を得ることができる。
【0034】
図5Aは、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子300の第2実施形態における好適なバージョンである。磁気素子300は、図4に示す磁気素子200と同様である。従って、同様な構成要素は、同様にラベル表示する。従って、磁気素子には、自由層230に対応する自由層330が含まれ、これは、高垂直異方性を有し、スピン転移を用いて書き込まれる。更に、磁気素子300は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。
【0035】
自由層330は、好適には、自由層130、130’、130’’、130’’’及び/又は自由層230と同様なやり方で構成される。従って、上述したものと同様な材料及び原理を用いて、自由層330の高垂直異方性を達成し得る。例えば、高い結晶垂直異方性及び/又は応力等の他の条件を有する材料を用いて、自由層330の高垂直異方性を達成し得る。従って、自由層130、130’、130’’、及び130’’’を基にして上述した材料が、好ましい。更に、自由層130’を基にして上述したように、自由層230は、合成であってよい。高垂直異方性のために、磁気素子300は、より小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。言い換えると、磁気素子300は、磁気素子100、100’、100’’、100’’’及び/又はそれらの組合せの恩恵を共有し得る。バリア層340を用いることから、磁気素子300は、より高い抵抗及び磁気抵抗効果を有する。その結果、読み出し中、より大きい信号を得ることができる。他の一実施形態において、バリア層320は、導電層によって置き換え得る。しかしながら、そのような実施形態では、読み出し信号は、所定の読み出し電流に対して、小さくなる。
【0036】
磁気素子300において、固定層310は、合成である。従って、固定層310には、好適にはRuである非磁性層314によって分離された強磁性層312及び316が含まれる。非磁性層314は、強磁性層312及び316が反強磁性的に並ぶように構成される。更に、磁気素子300は、強磁性層316及び固定層350が反平行であるように構成される。その結果、スピンバルブ部304及びスピントンネル接合部310は、双方共、磁気素子300に書き込むために用いられるスピン転移に寄与し得る。従って、更に小
さいスイッチング電流を用いて、磁気素子300に書き込み得る。更に、AFM層306及び360は、隣接する層312及び350の磁化が平行に向いていることから、同じ方向に向き得る。従って、AFM層306及び360は、同一ステップで並べ得る。従って、処理が更に簡略化される。
【0037】
自由層230及び330並びに磁気素子200及び300は、上述したものと同様なやり方で構成し得る。例えば、図5Bは、少なくとも高垂直異方性によるスピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一部の第2実施形態300’における他のバージョンを示す。磁気素子300’は、磁気素子300と同様であり、従って、その利点を共有する。例えば、自由層330’は、高垂直異方性を有する。更に、磁気素子100’’と同様なやり方で、磁気素子300’には、応力引上げ層154と同様な応力引上げ層380が含まれる。応力引上げ層380だけを示すが、自由層330’とバリア層320’との間において他の応力引上げ層を用い得る。しかしながら、そのような層は、トンネル磁気抵抗効果を大幅に低減するが、このことは、この層がバリア層320に隣接して存在するためである。応力引上げ層380及び/又は、他の一実施形態において、自由層330’とバリア層320’との間に応力引上げ層を用いると、自由層330’の高垂直異方性を得ることができる。従って、磁気素子100’’の恩恵も達成し得る。
【0038】
図5Cは、少なくとも高垂直異方性によるスピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子300’’の一部の第2実施形態における第3バージョンを示す。磁気素子300’’は、磁気素子300と同様であり、従って、その利点を共有する。例えば、自由層330’’は、高垂直異方性を有する。更に、磁気素子100’’’と同様なやり方で、磁気素子300’’には、好適には、図3Bに示す超高垂直異方性強磁性層160と同様な超高垂直異方性強磁性層390と、高スピン分極層162と同様な高スピン分極強磁性層391及び393と、が含まれる。従って、超高垂直異方性強磁性層390は、好適には、希土類遷移金属合金である。更に、超高垂直異方性強磁性層390及び強磁性層391及び393の厚さは、好適には、図示するように、超高垂直異方性強磁性層390及び強磁性層391及び393の平衡磁化が、面内になるように調整される。従って、自由層130’’’と同様な自由層330’’の高垂直異方性を達成し得る。その結果、磁気素子100’’’の恩恵も実現し得る。
【0039】
他の一実施形態において、超高垂直異方性強磁性層390には、nが、1と10との間にあり、Coが3A乃至20A、CoFeが3A乃至20A、CoCrが3A乃至20A、Pdが10A乃至100A、Ptが10A乃至100Aである時、多層[Co/Pd]n/Co、[Co/Pt]n/Co、[CoFe/Pd]n/CoFe、[CoFe/Pt]n/CoFe、[CoCr/Pd]n/CoCr、又は[CoCr/Pt]n/CoCrを含み得る。繰り返し数n及びCo、CoFe、CoCr、Pd、及びPtの厳密な厚さは、総垂直異方性エネルギが、自由層330’’の総面外減磁エネルギの20と95パーセントとの間にあるように選択される。
【0040】
図6は、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子400の一部の第3実施形態を示す。磁気素子には、各々、磁気素子100、100’、100’’及び/又は100’’’と同様な2つの構造402及び404が含まれる。従って、構造402には、例えば、それぞれ磁気素子100の層110、120、及び130と同様な固定層410、スペーサ層420、及び自由層430が含まれる。構造402には、また、好適には、AFM層であるピン止め層406が含まれる。同様に、構造404には、例えば、それぞれ磁気素子100の層110、120、及び130と同様な固定層470、スペーサ層460、及び自由層450が含まれる。また、構造404には、好適には、AFM層であるピン止め層480が含まれる。自由層430及び450の一
方又は双方が、高垂直異方性を有する。自由層430及び/又は450も合成であってよい。そのような場合には、自由層430及び/又は450内の強磁性層(明示せず)は、高垂直異方性を有する。更に、磁気素子400の自由層430及び450は、好適には、層430及び450が反強磁性的に並ぶように静磁気的に結合される。本実施形態において、磁気素子400には、分離層440が含まれる。分離層440は、自由層430及び450が静磁気的に結合されることのみを保証するように構成される。例えば、好適には非磁性導体である分離層440の厚さは、好適には、静磁気的な相互作用により自由層430及び450が反強磁性的に並ぶことを保証するように構成される。特に、分離層440は、それを通過するスピンの分極をランダム化する役割を果たす。例えば、分離層440には、Cu、Ag、Au、Pt、Mn、CuPt、CuMn、Cu/Pt[1乃至20A]/Cuサンドイッチ構造体、Cu/Mn[1乃至20A]/Cuサンドイッチ構造体、又はCu/PtMn[1乃至20A]/Cuサンドイッチ構造体等の材料が含まれる。分離層は磁気素子400に用いられるが、他のメカニズムを用いることを妨げない。例えば、一実施形態において、構造402は、第2固定層(図示せず)、第2スペーサ層(図示せず)、及びピン止め層(図示せず)を含む二重構造であってよい。第2固定層及びスペーサ層、また更に、ピン止め層の厚さは、自由層430及び450が静磁気的に結合されることを保証するように構成し得る。
【0041】
自由層430及び/又は自由層450は、上記の如く定義されたように、高垂直異方性を有するように構成される。従って、自由層430及び/又は450は、自由層130、130’、130’’及び/又は130’’’に対応し得る。言い換えると、自由層430及び/又は自由層450に用いられる材料及び/又は特性は、磁気素子100、100’、100’’、及び100’’’を基にして前述したものと同じ又は同様である。従って、磁気素子400は、磁気素子100、100’、100’’、及び100’’’の多くの恩恵を共有する。特に、磁気素子は、より小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。
【0042】
自由層430と450との間の静磁気的な結合は、更なる恩恵を提供する。自由層450及び430が静磁気的に結合されることから、自由層450の磁化の変化が、自由層430に反映される。スペーサ層420は、大きい信号を提供する導電性層又はバリア層のいずれかであってよい。更に、別個の自由層450及び430を有することから、スピンバルブ404及びスピントンネル接合402の特性をそれぞれ別個に調整して、スピンバルブ及びスピントンネル接合のそれらの機能をそれぞれ改善し得る。
【0043】
図7Aは、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子500の第3実施形態における好適なバージョンである。磁気素子500は、図6に示す磁気素子400と同様である。従って、同様な構成要素は、同様にラベル表示する。従って、磁気素子には、それぞれ自由層430及び450に対応する自由層530及び550が含まれ、これらのいずれか又は両方が、高垂直異方性を有し、双方共、スピン転移を用いて書き込まれる。自由層530及び/又は550も合成であってよい。そのような場合には、自由層530及び/又は550内における強磁性層(明示せず)は、高垂直異方性を有する。更に、磁気素子500は、好適には、磁気素子の頂部及び底部付近にある2つの端子(図示せず)を利用する。しかしながら、他の数の端子、例えば、磁気素子500の中心付近にある第3端子を用いることを妨げない。
【0044】
固定層510及び570は、合成である。従って、固定層510には、好適にはRuである非磁性層514によって分離された強磁性層512及び516が含まれる。強磁性層512及び516磁化も反平行に向く。同様に、固定層570には、好適にはRuである非磁性層574によって分離された強磁性層572及び576が含まれる。強磁性層572及び576の磁化も反平行に向く。更に、スペーサ層520は、好適には、絶縁であり
ながら、強磁性層516と自由層530との間を電子が通過し得るバリア層である。スペーサ層560は、好適には、導電性層である。従って、構造502は、スピントンネル接合であり、構造504は、スピンバルブである。
【0045】
自由層530及び/又は550は、好適には、自由層130、130’、130’’、130’’’及び/又は自由層430及び450と同様なやり方でそれぞれ構成される。従って、上述したものと同様な材料及び原理を用いて、自由層530及び/又は550の高垂直異方性を達成し得る。例えば、高結晶垂直異方性及び/又は応力等の他の条件を有する材料を用いて、自由層530及び/又は550用の高垂直異方性を達成し得る。従って、自由層130、130’、130’’、及び130’’’を基にして上述した材料が好ましい。更に、自由層130’を基にして上述したように、自由層530及び/又は550は、合成であってよい。高垂直異方性のために、磁気素子500は、より小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。言い換えると、磁気素子500は、磁気素子100、100’、100’’、100’’’及び/又はそれらの組合せの恩恵を共有し得る。
【0046】
更に、自由層530及び550が静磁気的に結合されることから、例えば、スピン転移で誘起された書き込みによる自由層550の磁化方向の変化が、自由層530の磁化に反映される。バリア層520により、スピントンネル接合502は、大きい信号を提供する。他の一実施形態において、バリア層320は、導電層によって置き換え得る。しかしながら、そのような実施形態では、読み出し信号は、所定の読み出し電流に対して小さくなる。
【0047】
上述したように、自由層530及び550並びに磁気素子500は、上述したものと同様なやり方で構成し得る。例えば、図7Bは、少なくとも高垂直異方性によるスピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子500’の第3実施形態における他のバージョンである。磁気素子500’は、磁気素子500と同様であり、従って、その利点を共有する。例えば、自由層530’及び/又は550’は、高垂直異方性を有する。更に、磁気素子100’’と同様なやり方で、磁気素子500’には、オプションの応力引上げ層152及び154と同様であるオプションの応力引上げ層582、584及び586が含まれる。オプションの応力引上げ層582、584、及び586の底部、頂部、又は双方を用い得る。図示していないが、オプションの応力引上げ層は、自由層530’とバリア層520’との間に配置し得る。しかしながら、そのようなオプションの応力引上げ層によって、磁気抵抗効果が小さくなり得る。更に、オプションの応力引上げ層586を用いると、スピン転移に対してはスピントルクが小さくなり、また更に、スピンバルブ504に対しては磁気抵抗効果が小さくなり得る。従って、自由層530’’及び/又は550’’の高垂直異方性を得ることができる。従って、磁気素子100’’’の恩恵も達成し得る。
【0048】
図7Cは、高垂直異方性によるスピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子500’’の一部の第2実施形態における第3バージョンを示す。磁気素子500’’は、磁気素子500と同様であり、従って、その利点を共有する。例えば、自由層530’’及び/又は550’’は、高垂直異方性を有する。更に、磁気素子100’’’と同様なやり方で、自由層(1つ又は複数)530’’及び550’’には、好適には、図3Cに示す超高垂直異方性強磁性層160と同様な超高垂直異方性強磁性層(1つ又は複数)590及び591がそれぞれ含まれる。また、自由層(1つ又は複数)530’’及び550’’には、高スピン分極を有する強磁性層592及び593が含まれる。更に、AlCu25nm等のシード層は、層591の垂直異方性の強化を支援するために、層540’’と591との間にオプションとして挿入し得る。更に、それぞれ、超高垂直異方性強磁性層(1つ又は複数)590及び591及び強磁性層(1つ又
は複数)592及び593の厚さは、好適には、図示したように、超高垂直異方性強磁性層(1つ又は複数)590及び591及び強磁性層(1つ又は複数)592及び593の平衡磁化が、面内にあるように調整される。従って、超高垂直異方性強磁性層590及び591は、好適には、希土類遷移金属合金である。
【0049】
他の選択肢として、超高垂直異方性強磁性層(1つ又は複数)590及び591は、nが、1と10との間にあり、Coが3A乃至20A、CoFeが3A乃至20A、CoCrが3A乃至20A、Pdが10A乃至100A、Ptが10A乃至100Aである時、多層[Co/Pd]n/Co、[Co/Pt]n/Co、[CoFe/Pd]n/CoFe、[CoFe/Pt]n/CoFe、[CoCr/Pd]n/CoCr、又は[CoCr/Pt]n/CoCrであってよい。繰り返し数n及びCo、CoFe、CoCr、Pd、及びPtの厳密な厚さは、総垂直異方性エネルギが自由層130’’’の総面外減磁エネルギの20と95パーセントとの間にあるように選択される。従って、自由層530’’及び/又は550’’の高垂直異方性を達成し得る。その結果、磁気素子100’’’の恩恵も提供し得る。
【0050】
従って、磁気素子100、100’、100’’、100’’’、200、300、300’、300’’、400、500、500’、及び500’’は、高垂直異方性及び/又は少なくとも1つの自由層における低い飽和磁化によるより小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る。更に、磁気素子100、100’、100’’、100’’’、200、300、300’、300’’、400、500、500’、及び500’’の態様を組み合わせて、更なる恩典を提供し得る。
【0051】
図8は、スピン転移のための低減された書き込み電流密度を有する本発明に基づく磁気素子の一実施形態を提供するための本発明に基づく方法600の一実施形態のフローチャートを示す。方法600について、磁気素子100の文脈で述べる。しかしながら、方法600が、磁気素子100’、100’’、100’’’、200、300、300’、300’’、400、500、500’及び/又は500’’を提供するように構成することを妨げるものではない。ステップ602を介して、固定層110等の固定層を提供する。一実施形態において、ステップ602には、合成固定層を提供する段階が含まれる。スペーサ層120は、ステップ604を介して提供される。ステップ604には、バリア層又は導電層を提供する段階を含み得る。高垂直異方性を有する自由層130が、ステップ606を介して提供される。幾つかの実施形態において、ステップ606に先立って、超高垂直異方性強磁性層又は応力誘起層を提供し得る。ステップ606には、合成自由層を提供する段階を含み得る。そのような実施形態において、ステップ606には、更に、自由層の強磁性層間に高スピン分極層を提供する段階を含み得る。磁気素子200、300、300’、300’’、400、500、500’、及び/又は500’’が提供される場合、追加の固定層、スペーサ層及び幾つかの実施形態では、自由層が、ステップ608を介して提供される。そのような実施形態では、自由層は、高垂直異方性を有し得る。従って、磁気素子100’、100’’、100’’’、100’’’’、200、300、300’、300’’、300’’’、400、500、500’、500’’及び/又は500’’’を提供し得る。
【0052】
より小さいスイッチング電流密度でスピン転移を用いて書き込み得る磁気素子を提供するための方法及びシステムを開示した。本発明について、例示した実施形態に基づき説明したが、当業者は、実施形態に対する変形が存在し得ること、また、これらの変形は、本発明の精神及び範囲内にあることを容易に認識されるであろう。従って、多くの修正が、添付された請求項の精神及び範囲から逸脱することなく当業者によって行い得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定層と、
非磁性であるスペーサ層と、
自由層磁化を有する自由層と、
が含まれ、前記スペーサ層が、前記固定層と前記自由層との間にあり、前記自由層が、高垂直異方性及び面外減磁エネルギを有し、前記高垂直異方性が、前記面外減磁エネルギの少なくとも20パーセントであり且つ100パーセント未満である垂直異方性エネルギを有し、
前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成される磁気素子。
【請求項2】
第1固定層と、
非磁性であるスペーサ層と、
自由層磁化を有する自由層であって、前記スペーサ層が、前記第1固定層と前記自由層との間にあり、前記自由層が、高垂直異方性及び面外減磁エネルギを有し、前記高垂直異方性が、前記面外減磁エネルギの100パーセント未満の垂直異方性エネルギを有する前記自由層と、
絶縁体であり、また、トンネル通過可能な厚さを有するバリア層と、
前記バリア層が前記自由層と第2固定層との間にある前記2固定層と、が含まれ、
前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成される磁気素子。
【請求項3】
前記自由層は、単一の自由層である請求項2に記載の磁気素子。
【請求項4】
前記第1固定層は、前記スペーサ層に隣接する強磁性層を含む第1合成固定層であり、前記強磁性層は第1磁化を有し、前記第2固定層は第2磁化を有し、また、前記第1磁化及び前記第2磁化は逆方向に向いている請求項2に記載の磁気素子。
【請求項5】
前記第2固定層は第2合成固定層である請求項4に記載の磁気素子。
【請求項6】
前記第2合成固定層には、前記バリア層に隣接する第2強磁性層が含まれ、前記第2強磁性層は第2磁化を有し、また、前記第1磁化及び前記第2磁化は逆方向に向いている請求項5に記載の磁気素子。
【請求項7】
前記第1固定層及び前記第2固定層は、前記第1固定層及び前記第2固定層の双方からの電荷キャリアが、スピン転移による前記自由層磁化のスイッチングに寄与し得るように構成される請求項2に記載の磁気素子。
【請求項8】
前記垂直異方性エネルギは、前記面外減磁エネルギの少なくとも20パーセントである請求項2に記載の磁気素子。
【請求項9】
前記垂直異方性エネルギが、前記面外減磁エネルギの95パーセント未満である請求項8に記載の磁気素子。
【請求項10】
前記垂直異方性エネルギが、前記自由層の面外減磁エネルギの90パーセントである請求項2に記載の磁気素子。
【請求項11】
前記自由層には、Co、CoCr、CoPt、CoCrPt、CoFe、CoFeCr、CoFePt及び/又はCoFeCrPtが含まれる請求項2に記載の磁気素子。
【請求項12】
Cr及び/又はPtの量は、前記垂直異方性エネルギが、前記自由層の前記面外減磁エネルギの少なくとも20パーセントであり且つ95パーセント以下であるように調整される請求項11に記載の磁気素子。
【請求項13】
前記自由層に隣接するシード層が更に含まれており、前記シード層には、Pt、Pd、Cr、Au、Cuが含まれており、前記自由層には、Co、CoCr、CoPt、CoCrPt、Fe、CoFe、CoFeCr、CoFePt及び/もしくはCoFeCrPtが含まれ、又は、Co、CoCr、CoPt、CoCrPt、Fe、CoFe、CoFeCr、CoFePt及び/もしくはCoFeCrPtを含む多層が含まれる請求項2に記載の磁気素子。
【請求項14】
前記自由層には、Co、CoCr、CoPt、CoCrPt、CoFe、CoFeCr、CoFePt及び/又はCoFeCrPtが含まれ、また、前記磁気素子は、前記自由層の高異方性の少なくとも一部を提供する前記自由層の固有応力を含むように構成される請求項2に記載の磁気素子。
【請求項15】
前記自由層上に応力引上げ層が更に含まれ、前記応力引上げ層がCu、Au、Pt及び/又はPtを含む請求項14に記載の磁気素子。
【請求項16】
前記自由層には更に、
超高垂直異方性強磁性層と、
高いスピン分極を有する強磁性層と、
が含まれ、前記超高垂直異方性強磁性層は、前記強磁性層と前記超高垂直異方性強磁性層との組合せが前記高垂直異方性を有することを保証するためのものである請求項2に記載の磁気素子。
【請求項17】
前記超高垂直異方性強磁性層には、GdFe及び/又はGdCoFeが含まれる請求項16に記載の磁気素子。
【請求項18】
前記超高垂直異方性強磁性層には、nが、1と10との間にあり、Coが3A乃至20A、CoFeが3A乃至20A、CoCrが3A乃至20A、Pdが10A乃至100A、Ptが10A乃至100Aである時、[Co/Pd]n/Co、[Co/Pt]n/Co、[CoFe/Pd]n/CoFe、[CoFe/Pt]n/CoFe、[CoCr/Pd]n/CoCr又は[CoCr/Pt]n/CoCrからなる多層が含まれる請求項16に記載の磁気素子。
【請求項19】
nは、前記自由層の総垂直異方性エネルギが前記総面外減磁エネルギの20と95パーセントとの間にあるように選択される請求項18に記載の磁気素子。
【請求項20】
第1固定層と、
非磁性であるスペーサ層と、
第1面外減磁エネルギを有する第1自由層であって、前記第1スペーサ層が前記第1固定層と前記第1自由層との間にある前記第1自由層と、
第2自由層磁化を有し、また、第2面外減磁エネルギを有する第2自由層であって、前記第1自由層及び前記第2自由層が静磁気的に結合されている前記第2自由層と、
非磁性である第2スペーサ層と、
第2固定層であって、前記第2スペーサ層が前記第2自由層と前記第2固定層との間にある前記第2固定層と、が含まれ、
前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン
転移により切り替えられるように構成され、
前記第1自由層が、前記第1面外減磁エネルギの100パーセント未満の第1垂直異方性エネルギを有する第1高垂直異方性を有するように構成され、及び/又は、前記第2自由層が、前記第2面外減磁エネルギの100パーセント未満の第2垂直異方性エネルギを有する第2高垂直異方性を有するように構成される磁気素子。
【請求項21】
前記第1自由層と前記第2自由層との間に更に分離層が含まれ、前記第1自由層及び前記第2自由層が静磁気的に結合されるように構成される請求項20に記載の磁気素子。
【請求項22】
前記第1垂直異方性エネルギは、前記第1面外減磁エネルギの少なくとも20パーセントであり、及び/又は、前記第2垂直異方性エネルギは、前記第2面外減磁エネルギの少なくとも20パーセントである請求項20に記載の磁気素子。
【請求項23】
前記第1垂直異方性エネルギは、前記第1面外減磁エネルギの95パーセント以下であり、及び/又は、前記第2垂直異方性エネルギは、前記第2面外減磁エネルギの95パーセント以下である請求項22に記載の磁気素子。
【請求項24】
前記第1垂直異方性エネルギは、前記第1面外減磁エネルギの90パーセントであり、及び/又は、前記第2垂直異方性エネルギは、前記第2面外減磁エネルギの90パーセントである請求項22に記載の磁気素子。
【請求項25】
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層には、Co、CoCr、CoPt、CoCrPt、CoFe、CoFeCr、CoFePt及び/又はCoFeCrPtが含まれる請求項20に記載の磁気素子。
【請求項26】
Cr及び/又はPtの量は、前記第1高垂直異方性が、前記第1面外減磁エネルギの少なくとも20パーセントであり且つ95パーセント以下である第1垂直異方性エネルギを有するように、及び/又は、前記第2高垂直異方性が、前記第2面外減磁エネルギの少なくとも20パーセントであり且つ95パーセント以下である第2垂直異方性エネルギを有するように調整される請求項25に記載の磁気素子。
【請求項27】
更に、前記第1自由層及び/又は前記第2自由層に隣接する少なくとも1つのシード層であって、Pt、Pd、Cr、Au、Cuを含む前記少なくとも1つのシード層が含まれており、前記第1自由層及び/又は前記第2自由層には、Co、CoCr、CoPt、CoCrPt、CoFe、CoFeCr、CoFePt、及び/もしくはCoFeCrPtが含まれ、又は、Co、CoCr、CoPt、CoCrPt、Fe、CoFe、CoFeCr、CoFePt、及び/もしくはCoFeCrPtを含む多層が含まれる請求項20に記載の磁気素子。
【請求項28】
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層には、Co、CoCr、CoPt、CoCrPt、CoFe、CoFeCr、CoFePt、CoFeCrPtが含まれ、前記第1自由層は、前記第1高垂直異方性の少なくとも一部を提供する第1固有応力が含まれるように構成され、及び/又は、前記第2自由層は、前記第2高垂直異方性の少なくとも一部を提供する第2固有応力が含まれるように構成される請求項20に記載の磁気素子。
【請求項29】
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層上に少なくとも1つの応力引上げ層が更に含まれ、前記少なくとも1つの応力引上げ層は、Cu、Au、Pt及び/又はPtを含む請求項20に記載の磁気素子。
【請求項30】
前記第1自由層及び/又は前記第2自由層には更に、
超高垂直異方性強磁性層と、
高いスピン分極を有する強磁性層と、が含まれ、前記超高垂直異方性強磁性層は、前記第1自由層用の前記超高垂直異方性強磁性層と前記強磁性層との組合せが、前記第1高垂直異方性を有すること、及び/又は、前記第2自由層用の前記超高垂直異方性強磁性層と前記強磁性層の前記組合せが、前記第2高垂直異方性を有すること、を保証するためのものである請求項20に記載の磁気素子。
【請求項31】
前記超高垂直異方性強磁性層には、GdFe及び/又はGdCoFeが含まれる請求項30に記載の磁気素子。
【請求項32】
前記超高垂直異方性強磁性層には、nが、1と10との間にあり、Coが3A乃至20A、CoFeが3A乃至20A、CoCrが3A乃至20A、Pdが10A乃至100A、Ptが10A乃至100Aである時、[Co/Pd]n/Co、[Co/Pt]n/Co、[CoFe/Pd]n/CoFe、[CoFe/Pt]n/CoFe、[CoCr/Pd]n/CoCr、又は[CoCr/Pt]n/CoCrからなる多層が含まれる請求項30に記載の磁気素子。
【請求項33】
nは、前記第1垂直異方性エネルギが、前記第1面外減磁エネルギの20と95パーセントとの間にあるように、及び/又は、前記第2垂直異方性エネルギが、前記第2面外減磁エネルギの20と95パーセントとの間にあるように、選択される請求項32に記載の磁気素子。
【請求項34】
磁気素子を作製するための方法であって、
固定層を作製する段階と、
スペーサ層であって、非磁性である前記スペーサ層を作製する段階と、
自由層磁化を有する自由層を作製する段階であって、前記スペーサ層が、前記固定層と前記自由層との間にあり、前記自由層が、前記自由層の面外減磁エネルギの少なくとも20パーセントであり且つ100パーセント未満である垂直異方性エネルギを有する高垂直異方性を有する前記段階と、が含まれ、
前記磁気素子は、書き込み電流が前記磁気素子を通過する時、前記自由層磁化がスピン転移により切り替えられるように構成される方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−119715(P2012−119715A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22427(P2012−22427)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2007−501017(P2007−501017)の分割
【原出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(505045621)グランディス インコーポレイテッド (37)
【氏名又は名称原語表記】GRANDIS,INC.
【Fターム(参考)】