説明

高電子移動度トランジスタ

【課題】 HEMTにおいて、2次元電子ガス層の電気抵抗の増加が抑制された正孔排出用電極を提供すること。
【解決手段】 HEMT10は、ゲート電極34とドレイン電極32の間のヘテロ接合層27に接触する正孔選択通過膜43と、その正孔選択通過膜43に接触する正孔排出用電極46を備えている。正孔選択通過膜43は、へテロ接合層27に接触する第1部分領域42と正孔排出用電極46に接触する第2部分領域44を有している。第2部分領域42のp型不純物の濃度は、第1部分領域44のp型不純物濃度よりも濃い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電子移動度トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
バンドギャップ幅の異なる複数の半導体層で構成されたヘテロ接合層を有する半導体装置が知られている。この種の半導体装置では、ヘテロ接合層内のヘテロ接合近傍に形成される2次元電子ガス層を利用して、ドレイン電極とソース電極の間で電子を移動させる。ゲート電極がドレイン電極とソース電極の間に設けられており、ゲート電極に印加される電圧に基づいて、ゲート電極に対向する2次元電子ガス層の電子濃度が調整される。これにより、ドレイン電極とソース電極の間を流れる電流のオン・オフが制御される。一般的に、この種の半導体装置は、高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:以下、HEMTという)と称される。
【0003】
HEMTでは、様々な要因で素子内に過剰の電子・正孔が生成されることがある。例えば、HEMTに接続される誘導性負荷に蓄積されたエネルギーが放出されると、素子内部に高電界が加わり、素子内部に電子・正孔が生成する。生成した電子は、格子原子に衝突を繰返し、さらに過剰の電子・正孔対が生成される(アバランシェ降伏)。生成した電子は、ドレイン電極を介して排出される。一方、生成した正孔は、素子内の結晶欠陥にトラップされ易いという特徴を有する。このため、例えば、ゲート電極下方の結晶欠陥に正孔がトラップされると、HEMTの特性を大きく変動させるという問題が生じてしまう。このような問題に対策するために、生成した正孔を速やかに排出するための技術が望まれている。
【0004】
特許文献1及び2には、ゲート電極とドレイン電極の間に正孔排出用電極を設ける技術が開示されている。正孔排出用電極は、p型不純物を含む正孔選択通過膜を介してヘテロ接合層に対向している。正孔選択通過膜は、正孔のみを通過させ、電子の通過を阻害する。これにより、正孔排出用電極は、2次元電子ガス層の電子の流れ(電流の流れ)を妨げることなく、正孔のみを選択的に排出させることができる。
【0005】
ゲート電極とドレイン電極の間のヘテロ接合層は、アバランシェ降伏が発生し易い箇所である。このため、特許文献1及び2に開示されるように、ゲート電極とドレイン電極の間に正孔排出用電極が配置されていると、アバランシェ降伏で発生した過剰の正孔を速やかに排出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−252112号公報
【特許文献2】特開2006−513580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
p型不純物を含む正孔選択通過膜を介してヘテロ接合層に対向する正孔排出用電極では、正孔の排出能を高めるために、正孔選択通過膜と正孔排出用電極との接触抵抗を小さくすることが肝要である。接触抵抗を小さくするためには、正孔選択通過膜のp型不純物の濃度を高濃度に調整するのが望ましい。しかしながら、p型不純物が高濃度に調整されていると、正孔選択通過膜から伸びる空乏層によってヘテロ接合層が空乏化され、2次元電子ガス層の電子濃度が低下してしまう。このため、2次元電子ガス層の電気抵抗が増加するという問題がある。
【0008】
本明細書で開示される技術は、2次元電子ガス層の電気抵抗の増加が抑制された正孔排出用電極を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で開示される技術は、ヘテロ接合層と正孔排出用電極の間に設けられた正孔選択通過膜に関し、ヘテロ接合層と接触する部分ではp型不純物を低濃度(又はp型不純物を含まない)に含んでいることを特徴としている。これにより、正孔選択通過膜からヘテロ接合層に向けて伸びる空乏層によって2次元電子ガス層が空乏化されることが抑制される。本明細書で開示される技術はさらに、ヘテロ接合層と正孔排出用電極の間に設けられた正孔選択通過膜に関し、正孔排出用電極と接触する部分ではp型不純物を高濃度に含んでいることを特徴としている。これにより、正孔選択通過膜と正孔排出用電極との接触抵抗が小さく抑えられる。本明細書で開示される技術によると、2次元電子ガス層の電気抵抗の増加が抑制された正孔排出用電極を提供することができる。
【0010】
本明細書で開示されるHEMTは、ヘテロ接合層と第1主電極と第2主電極とゲート電極と正孔選択通過膜と正孔排出用電極を備えている。ヘテロ接合層は、第1半導体層と第2半導体層で構成されている。第1主電極は、ヘテロ接合層の第2半導体層上に設けられている。第2主電極は、ヘテロ接合層の第2半導体層上に設けられているとともに、第1主電極から離反している。ゲート電極は、第1主電極と第2主電極の間に設けられており、ヘテロ接合層の第2半導体層の表面に対向する。ゲート電極は、ヘテロ接合層の第2半導体層に直接的に接するショットキー型でもよく、ゲート絶縁膜を介してヘテロ接合層の第2半導体層に接するMIS型でもよい。正孔選択通過膜は、ゲート電極と第1主電極の間のヘテロ接合層に接触する。正孔排出用電極は、ヘテロ接合層に接触する。正孔排出用電極は、ヘテロ接合層の第1半導体層の表面に正孔選択通過膜を介して接していてもよく、ヘテロ接合層の第2半導体層の表面に正孔選択通過膜を介して接していてもよい。正孔選択通過膜は、へテロ接合層に接触する第1部分領域と正孔排出用電極に接触する第2部分領域を有している。第2部分領域のp型不純物の濃度は、第1部分領域のp型不純物濃度よりも濃い。上記HEMTでは、第1主電極と第2主電極の間のヘテロ接合層を電流が流れ、その電流はゲート電極によって制御される。正孔排出用電極は、ゲート電極と第1主電極の間のヘテロ接合層に正孔選択通過膜を介して接していることから、ゲート電極と第1主電極の間で生成した正孔を速やかに排出することができる。さらに、上記HEMTでは、正孔選択通過膜が、第1部分領域と第2部分領域を有している。ヘテロ接合層に接触する第1部分領域は、p型不純物が低濃度(又はp型不純物を含まない)である。このため、第1部分領域からヘテロ接合層に向けて伸びる空乏層によって2次元電子ガス層が空乏化されることが抑制され、2次元電子ガス層の電子濃度が高く維持される。また、正孔排出用電極に接触する第2部分領域は、p型不純物が高濃度である。このため、第2部分領域と正孔排出用電極の接触抵抗は小さい。上記HEMTは、2次元電子ガス層の電気抵抗の増加が抑制された正孔排出用電極を備えている。
【0011】
上記HEMTでは、第1半導体層の半導体材料がInXaGaYaAl1−Xa−YaN(0≦Xa≦1、0≦Ya≦1、0≦Xa+Ya≦1)であり、第2半導体層の半導体材料がInXbGaYbAl1−Xb−YbN(0≦Xb≦1、0≦Yb≦1、0≦Xb+Yb≦1)であり、(1−Xa−Ya)<(1−Xb−Yb)であるのが望ましい。すなわち、第1半導体層と第2半導体層のアルミニウムの組成比が異なっており、第2半導体層のアルミニウムの組成比が第1半導体層のアルミニウムの組成比よりも高い。このため、第2半導体層のバンドギャップ幅が第1半導体層のバンドギャップ幅よりも広く、第1半導体層と第2半導体層の間のヘテロ接合近傍に2次元電子ガス層が形成される。
【0012】
上記HEMTでは、正孔排出用電極が、へテロ接合層の第2半導体層の表面に正孔選択通過膜を介して対向しているのが望ましい。すなわち、正孔排出用電極は、第1主電極と第2主電極とゲート電極が設けられているヘテロ接合層の表面と同じ側に設けられているのが望ましい。アバランシェ降伏は、ヘテロ接合層のうち、第1主電極と第2主電極とゲート電極が設けられている表面側で発生し易い。したがって、正孔排出用電極がこれら電極と同じ表面に設けられていると、アバランシェ降伏で発生した正孔を速やかに排出することができる。
【0013】
正孔選択通過膜の第1部分領域の半導体材料が、InXbGaYbAl1−Xb−YbN(0≦Xb≦1、0≦Yb≦1、0≦Xb+Yb≦1)であるのが望ましい。すなわち、正孔選択通過膜の第1部分領域の半導体材料とヘテロ接合層の第2半導体層の半導体材料が同じ組成比であるのが望ましい。この場合、正孔選択通過膜の第1部分領域とヘテロ接合層の第2半導体層の間にエネルギー障壁が形成されない。このため、正孔選択通過膜の第1部分領域とヘテロ接合層の第2半導体層の間の正孔に対する移動度が低く抑えられ、正孔を正孔排出用電極から速やかに排出させることができる。
【0014】
第2部分領域の半導体材料が、InXcGaYcAl1−Xc−YcN(0≦Xc≦1、0≦Yc≦1、0≦Xc+Yc≦1)であり、(1−Xc−Yc)<(1−Xb−Yb)であるのが望ましい。すなわち、第2部分領域のアルミニウムの組成比が、第1部分領域のアルミニウムの組成比よりも小さい。アルミニウムの組成比が小さいと、p型不純物を高濃度に含有することができる。したがって、第2部分領域は、p型不純物の濃度を濃くすることができ、正孔排出用電極との接触抵抗を小さくすることができる。
【0015】
第1部分領域と第2部分領域が接している場合、アルミニウムの組成比は、第1部分領域と第2部分領域において、へテロ接合層側から正孔排出用電極側に向けて連続的に減少するのが望ましい。この場合、正孔選択通過膜内にエネルギー障壁が形成されない。このため、正孔選択通過膜内の正孔に対する移動度が低く抑えられ、正孔を正孔排出用電極から速やかに排出させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本明細書で開示される技術によると、2次元電子ガス層の電気抵抗の増加が抑制された正孔排出用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施例のHEMTの要部平面図を模式的に示す。
【図2】図1のII-II線に対応した縦断面図を模式的に示す。
【図3】(A)第1実施例の正孔選択通過膜のアルミニウムの組成比の分布の一例を示す。(B)第1実施例の正孔選択通過膜のマグネシウムの濃度の分布の一例を示す。
【図4】(A)第1実施例の正孔選択通過膜のアルミニウムの組成比の分布の他の一例を示す。(B)第1実施例の正孔選択通過膜のマグネシウムの濃度の分布の他の一例を示す。
【図5】(A)第1実施例の正孔選択通過膜のアルミニウムの組成比の分布の他の一例を示す。(B)第1実施例の正孔選択通過膜のマグネシウムの濃度の分布の他の一例を示す。
【図6】第2実施例のHEMTの要部平面図を模式的に示す。
【図7】図6のVII-VII線に対応した縦断面図を模式的に示す。
【図8】図6のVIII-VIII線に対応した縦断面図を模式的に示す。
【図9】(A)第21実施例の正孔選択通過膜のアルミニウムの組成比の分布の一例を示す。(B)第2実施例の正孔選択通過膜のマグネシウムの濃度の分布の一例を示す。
【図10】第3実施例のHEMTの要部平面図を模式的に示す。
【図11】図10のXI-XI線に対応した縦断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願明細書で開示される技術を整理して記載する。
(第1特徴) 正孔選択通過膜の第1部分領域の半導体材料は、一般式がAlGa1−XN(0≦X≦1)であるのが望ましい。正孔選択通過膜の第2部分領域の半導体材料は、一般式がAlGa1−YN(0≦Y≦1)であるのが望ましい。さらに、X>Yであるのが望ましい。
(第2特徴) 正孔選択通過膜に含まれるp型不純物は、マグネシウムであるのが望ましい。
(第3特徴) 正孔選択通過膜は、正孔排出用電極と接触する部分において、窒化ガリウム(GaN)であるのが望ましい。
(第4特徴) 正孔選択通過膜の第1部分領域のp型不純物濃度は、1×1017cm-3以下が望ましい。より好ましくは、正孔選択通過膜の第1部分領域は、p型不純物を含まないのが望ましい。
(第5特徴) 正孔選択通過膜の第2部分領域のp型不純物濃度は、1×1019cm-3以上であるのが望ましい。
【実施例1】
【0019】
図1に、HEMT10の要部平面図を模式的に示す。図2に、図1のII-II線に対応した縦断面図を模式的に示す。図2に示されるように、HEMT10は、サファイア基板22と、そのサファイア基板22上に設けられているバッファ層24と、そのバッファ層24上に設けられている第1半導体層26と、その第1半導体層26上に設けられている第2半導体層28を備えている。一例では、バッファ層24は、窒化ガリウム(GaN)である。第1半導体層26は、不純物を含まない真性の窒化ガリウム(GaN)であり、その厚みは約2μmである。第2半導体層28は、不純物を含まない真性のアルミニウム窒化ガリウム(AlGaN)であり、その厚みは約20nmである。第2半導体層28のアルミニウムの組成比は、0.25以下であるのが望ましい。第2半導体層28はアルミニウムを含んでいることから、第2半導体層28のバンドギャップ幅は第1半導体層26のバンドギャップ幅よりも広い。このため、第1半導体層26と第2半導体層28は、ヘテロ接合層27を構成しており、第1半導体層26と第2半導体層28の間のヘテロ接合近傍に2次元電子ガス層(2DEG)が形成される。バッファ層24、第1半導体層26及び第2半導体層28は、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)技術を利用して、サファイア基板22上に形成することができる。
【0020】
第2半導体層28の表面には、ドレイン電極32(第1主電極の一例)と、正孔排出用電極46と、ゲート電極34と、ソース電極36(第2主電極の一例)が設けられている。図1に示されるように、これらの電極はいずれも、y軸方向に沿って伸びた平面矩形状であり、x軸方向に間隔を置いてストライプ状に配置されている。
【0021】
図2に示されるように、ドレイン電極32とソース電極36は、x軸方向に離反して設けられている。ドレイン電極32とソース電極36には、第2半導体層28とオーミック接触する材料が採用されており、一例ではアルミニウム(Al)である。ドレイン電極32は、図示しない電源の高圧側に接続されており、正電圧が印加されている。ソース電極36は、図示しない電源の低圧側に接続されており、接地電位に固定されている。ゲート電極34は、ドレイン電極32とソース電極36の間に設けられている。ゲート電極34には、第2半導体層28とショットキー接触する材料が採用されており、一例ではNi/Au(下層:Ni、上層:Au)である。ゲート電極34は、図示しないゲート制御回路に接続されており、ゲート制御電圧が入力する。なお、ゲート電極34は、ゲート絶縁膜を介してヘテロ接合に対向するMIS型であってもよい。
【0022】
正孔排出用電極46は、ゲート電極34とドレイン電極32の間に設けられており、正孔選択通過膜43を介して第2半導体層28に対向している。正孔排出用電極46には、正孔選択通過膜43にオーミック接触する材料が採用されており、一例では、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)又はパラジウム(Pb)である。正孔排出用電極46には、対向する第2半導体層28の電位以下の電位となるような電圧が印加されている。一例では、正孔排出用電極46には固定電位が印加されており、好ましくはドレイン電圧よりも小さい固定電位、より好ましくは接地電位が印加されるのが望ましい。また、正孔排出用電極46には、ゲート制御電圧に同期する電圧が印加されてもよい。一例では、正孔排出用電極46には、ゲート制御電圧が印加されてもよい。
【0023】
正孔選択通過膜43の半導体材料には、第2半導体層28と同一組成比のアルミニウム窒化ガリウムが採用されている。正孔選択通過膜43は、第2半導体層28に接触する第1部分領域42と正孔排出用電極46に接触する第2部分領域44を有する。一例では、第1部分領域42の厚みが約30nmであり、第2部分領域44の厚みも30nmである。正孔選択通過膜43の第1部分領域42と第2部分領域44は、例えばMOCVD技術を利用してヘテロ接合層27上に成膜した後に、エッチング技術を利用してパターニングすることで形成することができる。
【0024】
図3(A)に、正孔選択通過膜43の第1部分領域42と第2部分領域44のアルミニウムの組成比の分布を示す。図3(B)に、正孔選択通過膜43の第1部分領域42と第2部分領域44に含まれるマグネシウムの濃度の分布を示す。なお、図3の横軸は、図1及び図2のz軸方向に対応している。図3(A)に示されるように、第1部分領域42と第2部分領域44のアルミニウムの組成比はいずれも約0.25であり、第1部分領域42と第2部分領域44の半導体材料はいずれもアルミニウム窒化ガリウム(Al0.25Ga0.75N)である。図3(B)に示されるように、第1部分領域42にはマグネシウムはほとんど含まれておらず、第2部分領域44にはマグネシウムが約1×1018cm-3で含まれている。このため、第1部分領域42は真性型(i型)であり、第2部分領域44はp型である。第2部分領域44のマグネシウム濃度が高いので、第2部分領域44と正孔排出用電極46の接触抵抗が小さい。
【0025】
なお、正孔選択通過膜43の第1部分領域42と第2部分領域44は、図4に示される態様でもよい。この態様では、図4(A)に示されるように、第1部分領域42のアルミニウムの組成比が約0.25であり、第2部分領域44のアルミニウムの組成比は約0であることを特徴としている。すなわち、第1部分領域42の半導体材料がアルミニウム窒化ガリウム(Al0.25Ga0.75N)であり、第2部分領域44の半導体材料が窒化ガリウム(GaN)である。第2部分領域44の半導体材料が窒化ガリウムであると、図4(B)に示されるように、マグネシウムの濃度を1×1019cm-3にまで濃くすることができる。このため、第2部分領域44と正孔排出用電極46の接触抵抗をさらに小さくすることができる。一方で、第1部分領域42の半導体材料は、ヘテロ接合層27の第2半導体層28の半導体材料と同一である。このため、第1部分領域42と第2半導体層28の間にエネルギー障壁が形成されない。したがって、第1部分領域42と第2半導体層28の間の正孔に対する移動度が高くなる。
【0026】
また、正孔選択通過膜43の第1部分領域42と第2部分領域44は、図5に示される態様でもよい。この態様では、図5(A)に示されるように、第1部分領域42と第2部分領域44のアルミニウムの組成比が傾斜していることを特徴としている。すなわち、アルミニウムの組成比は、第1部分領域42と第2部分領域44において、へテロ接合層27側から正孔排出用電極46側に向けて連続的に減少している。特に、第2部分領域44が正孔排出用電極46と接触する面では、アルミニウムの組成比が約0である。この態様によると、正孔選択通過膜43内のアルミニウムの組成比が連続的に変化しているので、正孔選択通過膜43内では明白に組成比が変化する部分が存在しない。このため、正孔選択通過膜43内にエネルギー障壁が形成されない。正孔選択通過膜43内における正孔に対する移動度が高くなる。
【0027】
次に、HEMT10の動作を説明する。第1半導体層26と第2半導体層28の間のヘテロ接合面近傍には、2次元電子ガス層(2DEG)が発生しており、HEMT10はノーマリオンで動作する。ドレイン電極32に正電圧が印加されているとともにソース電極36に接地電圧が印加された状態で、ゲート電極34に接地電圧が印加されると、HEMT10がオンする。HEMT10がオンすると、ソース電極36から注入された電子は、2次元電子ガスを経由してドレイン電極32に向けて流れる。正孔選択通過膜43は、電子の通過を阻害するので、2次元電子ガス層を流れる電子は、正孔選択通過膜43を通過して正孔排出用電極46に流れ込むことがない。ゲート電極34とドレイン電極32の間に正孔排出用電極46が設けられていたとしても、HEMT10のオン動作を妨げることがない。
【0028】
ゲート電極34に印加されている接地電圧が負電圧に切換わると、ゲート電極34が対向するヘテロ接合の2次元電子ガス層が消失し、HEMT10がオフする。HEMT10がオフすると、HEMT10に接続される誘導性負荷に蓄積されたエネルギーが放出され、素子内部に高電界が加わり、素子内部に電子・正孔が生成する。生成した電子は、格子原子に衝突を繰返し、さらに過剰の電子・正孔対が生成される(アバランシェ降伏)。このようなアバランシェ降伏は、ゲート電極34とドレイン電極32の間のヘテロ接合近傍、又はゲート電極34とドレイン電極32の間で発生することが多い。
【0029】
HEMT10では、アバランシェ降伏が発生する箇所近傍に、正孔排出用電極46が配置されている。このため、ゲート電極34とドレイン電極32の間で発生した正孔は、正孔選択通過膜43を介して正孔排出用電極46に速やかに排出される。この結果、HEMT10の破壊が顕著に抑制される。
【0030】
さらに、HEMT10では、正孔選択通過膜43がヘテロ接合層27に接触する第1部分領域42と正孔排出用電極46に接触する第2部分領域44を有していることを特徴としている。ヘテロ接合層27に接触する第1部分領域42は、p型不純物をほとんど含んでいない。このため、正孔選択通過膜43からヘテロ接合層27に向けて伸びる空乏層によって2次元電子ガス層が空乏化されることが抑制されており、2次元電子ガス層の電子濃度が高く維持される。このため、正孔選択通過膜43がヘテロ接合層27に接触して設けられていても、2次元電子ガス層の電気抵抗が増加することが抑制されている。また、正孔排出用電極46に接触する第2部分領域44は、p型不純物が高濃度である。このため、第2部分領域44と正孔排出用電極46の接触抵抗は小さい。正孔排出用電極46の正孔排出能は高い。
【実施例2】
【0031】
図6に、HEMT100の要部平面図を模式的に示す。図7に、図6のVII-VII線に対応した縦断面図を模式的に示す。図8に、図6のVIII-VIII線に対応した縦断面図を模式的に示す。なお、第1実施例のHEMT10と実質的に共通する構成要素に関しては共通の符号を付し、その説明を省略する。
【0032】
HEMT100は、図7及び図8に示されるように、正孔選択通過膜143が、ヘテロ接合層27の第1半導体層26の裏面に設けられていることを特徴としている。正孔選択通過膜143は、第1部分領域142と第2部分領域144を有している。さらに、図6及び図8に示されるように、正孔選択通過膜143はy軸方向に沿って伸びており、正孔選択通過膜143の第2部分領域144がヘテロ接合層27を超えて外部に露出している。正孔排出用電極146は、外部に露出する正孔選択通過膜143の第2部分領域144に接触していることを特徴としている。
【0033】
正孔選択通過膜143の半導体材料には、第1半導体層26と同一組成比の窒化ガリウムが採用されている。図9(A)に、正孔選択通過膜143の第1部分領域142と第2部分領域144のアルミニウムの組成比の分布を示す。図9(B)に、正孔選択通過膜143の第1部分領域142と第2部分領域144に含まれるマグネシウムの濃度の分布を示す。図9(A)に示されるように、第1部分領域142と第2部分領域144のアルミニウムの組成比はいずれも約0であり、第1部分領域142と第2部分領域144の半導体材料はいずれも窒化ガリウム(GaN)である。図9(B)に示されるように、第1部分領域142にはマグネシウムが約1×1015cm-3で含まれており、第2部分領域144にはマグネシウムが約1×1019cm-3で含まれている。このため、第1部分領域142はp型であり、第2部分領域144はp型である。第2部分領域144のマグネシウム濃度が高いので、第2部分領域144と正孔排出用電極146の接触抵抗が小さい。
【0034】
HEMT100でも、アバランシェ降伏が発生する箇所近傍に、正孔排出用電極146が配置されている。このため、ゲート電極34とドレイン電極32の間で発生した正孔は、正孔選択通過膜143を介して正孔排出用電極146に速やかに排出される。この結果、HEMT100の破壊が顕著に抑制される。
【0035】
さらに、HEMT100でも、正孔選択通過膜143がヘテロ接合層27に接触する第1部分領域142と正孔排出用電極146に接触する第2部分領域144を有していることを特徴としている。ヘテロ接合層27に接触する第1部分領域142は、p型不純物を低濃度に含んでいる。このため、正孔選択通過膜143からヘテロ接合層27に向けて伸びる空乏層によって2次元電子ガス層が空乏化されることが抑制されており、2次元電子ガス層の電子濃度が高く維持される。このため、正孔選択通過膜143がヘテロ接合層27に接して設けられていても、2次元電子ガス層の電気抵抗が増加することが抑制されている。また、正孔排出用電極146に接触する第2部分領域144は、p型不純物が高濃度である。このため、第2部分領域144と正孔排出用電極146の接触抵抗は小さい。正孔排出用電極146の正孔排出能は高い。
【実施例3】
【0036】
図10に、HEMT200の要部平面図を模式的に示す。図11に、図10のXI-XI線に対応した縦断面図を模式的に示す。なお、第1実施例のHEMT10と実質的に共通する構成要素に関しては共通の符号を付し、その説明を省略する。
【0037】
HEMT200は、図10及び図11に示されるように、正孔選択通過膜243が、ヘテロ接合層27の第1半導体層26の裏面に設けられていることを特徴としている。正孔選択通過膜243は、第1部分領域242と第2部分領域244を有している。さらに、図10及び図11に示されるように、正孔選択通過膜243はx軸方向に沿って伸びており、ゲート電極34及びソース電極36の下方を通過して伸びているとともに、正孔選択通過膜243の第2部分領域244がヘテロ接合層27を超えて外部に露出している。正孔排出用電極246は、外部に露出する正孔選択通過膜243の第2部分領域244に接触していることを特徴としている。
【0038】
HEMT200では、正孔選択通過膜243及び正孔排出用電極246の配置が、第2実施例のHEMT100と異なっていることを特徴としている。正孔選択通過膜243及び正孔排出用電極246の配置は、要求されるレイアウトに応じて変更することが可能である。
【0039】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
22:サファイア基板
24:バッファ層
26:第1半導体層
27:ヘテロ接合層
28:第2半導体層
32:ドレイン電極
34:ゲート電極
36:ソース電極
42,142,242:第1部分領域
43,143,243:正孔選択通過膜
44,144,244:第2部分領域
46,146,246:正孔排出用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1半導体層と第2半導体層でヘテロ接合を構成するヘテロ接合層と、
前記ヘテロ接合層の前記第2半導体層上に設けられている第1主電極と、
前記ヘテロ接合層の前記第2半導体層上に設けられているとともに、前記第1主電極から離反している第2主電極と、
前記第1主電極と前記第2主電極の間に設けられており、前記ヘテロ接合層の前記第2半導体層の表面に対向するゲート電極と、
前記ゲート電極と前記第1主電極の間の前記ヘテロ接合層に接触する正孔選択通過膜と、
前記正孔選択通過膜に接触する正孔排出用電極と、を備えており、
前記正孔選択通過膜は、前記へテロ接合層に接触する第1部分領域と前記正孔排出用電極に接触する第2部分領域を有しており、
前記第2部分領域のp型不純物の濃度は、前記第1部分領域のp型不純物濃度よりも濃い高電子移動度トランジスタ。
【請求項2】
前記第1半導体層の半導体材料は、InXaGaYaAl1−Xa−YaN(0≦Xa≦1、0≦Ya≦1、0≦Xa+Ya≦1)であり、
前記第2半導体層の半導体材料は、InXbGaYbAl1−Xb−YbN(0≦Xb≦1、0≦Yb≦1、0≦Xb+Yb≦1)であり、
(1−Xa−Ya)<(1−Xb−Yb)である請求項1に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項3】
前記正孔排出電極が、前記へテロ接合層の前記第2半導体層の表面に前記正孔選択通過膜を介して対向している請求項1又は2に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項4】
前記第1部分領域の半導体材料は、InXbGaYbAl1−Xb−YbN(0≦Xb≦1、0≦Yb≦1、0≦Xb+Yb≦1)である請求項3に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項5】
前記第2部分領域の半導体材料は、InXcGaYcAl1−Xc−YcN(0≦Xc≦1、0≦Yc≦1、0≦Xc+Yc≦1)であり、
(1−Xc−Yc)<(1−Xb−Yb)である請求項4に記載の高電子移動度トランジスタ。
【請求項6】
前記第1部分領域と第2部分領域は接しており、
アルミニウムの組成比は、前記第1部分領域と前記第2部分領域において、前記へテロ接合層側から前記正孔排出用電極側に向けて連続的に減少する請求項5に記載の高電子移動度トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−151176(P2011−151176A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10769(P2010−10769)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】