説明

3−5族化合物半導体

【課題】窒化物系化合物半導体において埋め込み電極として利用可能な特定のパターン形状の導電性材料を埋め込んだ構造を実現し、SIT等のデバイスを作製可能にする。
【解決手段】(1)一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される第1の3−5族化合物半導体と、(2)これに接して該第1の3−5族化合物半導体表面の一部を特定のパターン形状で被覆するSiOと、(3)該SiOに接して積層された導電性材料と、)該SiOと該導電性材料との積層体で被覆されてない該第1の3−5族化合物半導体表面の露出部と該導電性材料とを共に被覆する一般式InuGavAlwN(ただし、u+v+w=1、0≦u≦1、0≦v≦1、0≦w≦1)で表される第2の3−5族化合物半導体と、からなり、該導電性材料の層厚が5nm以上100nm以下であることを特徴とする3−5族化合物半導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される3−5族化合物半導体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される3−5族化合物半導体は、3族元素の組成により紫外から赤色に対応するバンドギャップが調整可能な直接遷移型の半導体であるため、紫外から可視領域にわたる高効率の発光素子用材料として利用可能である。
また、従来用いられているSiあるいはGaAsなどの半導体に比べて大きなバンドギャップを持つために、従来の半導体では動作できないような高温においても動作可能な、耐環境性に優れた電子素子の作製が原理的に可能である。
【0003】
ところで、従来のトランジスタよりも高周波動作が原理的に可能なデバイスといわれている静電誘導トランジスタ(SIT)の作製のためには、半導体結晶内部に埋め込まれたゲート電極の作製が重要である。
【0004】
従来窒化物系化合物半導体では結晶内部に酸化珪素(SiO2)膜を埋め込んだ構造を形成することが可能であることが知られている。酸化珪素(SiO2)膜マスクパターンを形成した窒化物系化合物半導体上に窒化物系化合物半導体を再度成長させると、通常はいわゆる選択成長がおこり、SiO2膜マスク上では結晶成長がおこらず、下地結晶の露出部分だけに結晶成長がおこる。しかし選択成長の結晶成長条件を適当に選べば、結晶成長部での横方向の成長速度を大きくすることができてSiO2膜マスクを被覆することが可能になる。
【0005】
この横方向の結晶成長を利用して異種材料を埋め込んだ構造を作製することは、酸化珪素(SiO2)の他に窒化珪素でも可能なことが知られているが、これらはいずれも絶縁体であった。すなわち電極に利用できる導電性材料を埋め込んだ構造を作製することは、従来できていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、窒化物系化合物半導体において埋め込み電極として利用可能な特定のパターン形状の導電性材料を埋め込んだ構造を実現し、静電誘導トランジスタ(SIT)等のデバイスを作製可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような状況を見て、本発明者らは鋭意検討した結果、窒化物系化合物半導体の成長条件に耐える、耐熱性、耐反応性の優れた導電性材料を選択し、導電性材料の形成、窒化物系化合物半導体の再成長を行なうことにより、再現性よく埋め込みが起こることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明は、〔1〕(1)一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される第1の3−5族化合物半導体と、(2)これに接して該第1の3−5族化合物半導体表面の一部を特定のパターン形状で被覆するSiOと、(3)該SiOに接して積層された導電性材料と、)該SiOと該導電性材料との積層体で被覆されてない該第1の3−5族化合物半導体表面の露出部と該導電性材料とを共に被覆する一般式InuGavAlwN(ただし、u+v+w=1、0≦u≦1、0≦v≦1、0≦w≦1)で表される第2の3−5族化合物半導体と、からなり、該導電性材料の層厚が5nm以上100nm以下である3−5族化合物半導体に係るものである。
また、本発明は、〔2〕導電性材料がタングステン、レニウム、モリブデン、クロム、コバルト、珪素、金、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、ニッケル、白金、バナジウム、ハフニウム、パラジウム、またはそれらの合金である〔1〕に記載の3−5族化合物半導体に係るものである。
〔3〕導電性材料がタングステンの窒化物、チタンの窒化物、ジルコニウムの窒化物、ハフニウムの窒化物、バナジウムの窒化物、ニオブの窒化物、タンタルの窒化物、クロムの窒化物、モリブデンの窒化物、レニウムの窒化物、または鉄の窒化物である〔1〕に記載の3−5族化合物半導体に係るものである。
さらに、本発明は、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の3−5族化合物半導体を用いてなる静電誘導トランジスタに係るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電性材料膜のパターンを窒化物系化合物半導体中に埋め込んだ構造を作製できる。これにより静電誘導トランジスタ(SIT)などの電子デバイスをはじめ複合型のオプトエレクトロニクスデバイスも作製できるのでその工業的価値はきわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における埋め込み構造を用いた静電誘導トランジスタの構造例を示す図
【図2】本発明における電極のアニール処理によるショットキー性改善の効果の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される第1の3−5族化合物半導体および一般式InuGavAlwN(ただし、u+v+w=1、0≦u≦1、0≦v≦1、0≦w≦1)で表される第2の3−5族化合物半導体の成長方法としては、ハイドライド気相成長法(以下、HVPE法と略記することがある)、または有機金属気相成長法(以下、MOVPE法と略記する場合がある)が挙げられる。
【0011】
導電性材料をその上に成長する第1の窒化物系化合物半導体の成長は、薄い膜でも優れた結晶品質の得られるMOVPE法を用いる方がより好ましい。第2の窒化物系化合物半導体の成長(以下、再成長という場合がある)ではどちらの成長方法も利用可能である。HVPE法は、大きな成長速度が得られるため、短時間で良好な結晶を得ることができ、本発明における再成長に好適に用いることができる。また、MOVPE法は、多数の基板に均一性良く結晶成長を行なうことができ、やはり本発明の再成長に好適に用いることができる。
【0012】
再成長を行なう条件としては、温度、圧力、キャリアガス、原料などが挙げられる。これらの条件については、従来より公知のものを用いることができる。具体的には、成長温度については、成長する該化合物半導体の物性にも依存するが、Inを構成元素として含まない場合には、600℃以上1200℃以下が好ましい。再成長温度が600℃より低い場合、あるいは1200℃より高い場合には、再成長による良好な結晶が得られにくい。また、該化合物半導体がInを構成元素として含む場合には、熱的安定性が低下するため、再成長温度は、600℃以上900℃以下が好ましい。
【0013】
本発明における再成長に用いることができる成長圧力としては、100Pa以上が挙げられる。再成長での圧力が100Pa未満の場合、良好な結晶を得ることが難しい。該圧力は、好ましくは500Pa以上、さらに好ましくは1kPa以上である。なお、成長圧力が高くなるにつれて場合、結晶性が改善される場合があるが、一般的に結晶成長に用いるMOVPE装置あるいはHVPE装置は、工業的にあまり高い成長圧力では用いられないので、再成長における成長圧力は、10気圧以下が好ましい。
【0014】
本発明における再成長に用いることができるキャリアガスは、水素、窒素、ヘリウム、アルゴン等、通常のMOVPE法またはHVPE法で用いられているものを用いることができる。
【0015】
MOVPE法による3−5族化合物半導体の製造には、以下のような原料を用いることができる。
3族原料としては、トリメチルガリウム[(CH33Ga、以下TMGと記すことがある。]、トリエチルガリウム[(C253Ga、以下TEGと記すことがある。]等の一般式R123Ga(ここで、R1、R2、R3は、低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルガリウム;トリメチルアルミニウム[(CH33Al]、トリエチルアルミニウム[(C253Al、以下TEAと記すことがある。]、トリイソブチルアルミニウム[(i−C493Al]等の一般式R123Al(ここで、R1、R2、R3は、低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルアルミニウム;トリメチルアミンアラン[(CH33N:AlH3];トリメチルインジウム[(CH33In、以下TMIと記すことがある。]、トリエチルインジウム[(C253In]等の一般式R123In(ここで、R1、R2、R3は、低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルインジウム等が挙げられる。これらは、単独でまたは混合して用いられる。
【0016】
次に、5族原料としては、アンモニア、ヒドラジン、メチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、t−ブチルアミン、エチレンジアミンなどが挙げられる。これらは単独でまたは混合して用いられる。
これらの原料のうち、アンモニアとヒドラジンは、分子中に炭素原子を含まないため、半導体中への炭素の汚染が少なく好適である。
【0017】
3−5族化合物半導体のn型ドーパントとして、Si、Ge、Oが用いられる。この中で、低抵抗のn型をつくりやすく、原料純度の高いものが得られるSiが好ましい。Siのドーピング用の原料としては、シラン(SiH4)、ジシラン(Si26)、モノメチルシラン(Si(CH3)H3)などが用いられる。
【0018】
HVPE法による3−5族化合物半導体の製造には、以下のような原料を用いることができる。
3族原料としては、金属Ga、金属In等に塩化水素ガスを反応させ、GaCl、InClを発生させて用いることができる。また、TMG、TEG等の一般式R123Ga(ここで、R1、R2、R3は、低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルガリウム;TMI、トリエチルインジウム等の一般式R123In(ここで、R1、R2、R3は、低級アルキル基を示す。)で表されるトリアルキルインジウム等を高温で塩化水素ガスと反応させ、GaCl、InCl等を発生させて用いることができる。また、ジメチルガリウムクロライド(Ga(CH32Cl)、ジエチルガリウムクロライド(Ga(C252Cl)、ジメチルインジウムクロライド(In(CH32Cl)、ジエチルインジウムクロライド(In(C252Cl)等を高温で分解させ、GaCl、あるいはInClを発生させて用いることもできる。また、常温で安定な、GaCl3、InCl3などにキャリアガスをバブリングして供給することもできる。これらは、単独でまたは混合して用いられる。
【0019】
次に、5族原料としては、アンモニア、ヒドラジン、メチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、t−ブチルアミン、エチレンジアミンなどが挙げられる。これらは単独でまたは混合して用いられる。
これらの原料のうち、アンモニアとヒドラジンは、分子中に炭素原子を含まないため、半導体中への炭素の汚染が少なく好適である。
【0020】
3−5族化合物半導体のn型ドーパントとして、Si、Ge、Oが用いられる。この中で、低抵抗のn型をつくりやすく、原料純度の高いものが得られるSiが好ましい。Siのドーピング用の原料としては、モノクロルシラン(SiH3Cl)、ジクロルシラン(SiH2Cl2)などが用いられる。
【0021】
本発明に用いられる導電性材料は、再成長時に高温の反応性ガス雰囲気にさらされるので、耐熱性、耐反応性にすぐれたものが必要である。具体的には、タングステン(W)、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、珪素(Si)、金(Au)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)、パラジウム(Pd)、またはこれらの合金などが挙げられる。これらの中でもタングステン(W)が特に好ましい。
また、導電性材料が化合物の例としては、Wの窒化物、Tiの窒化物、Zrの窒化物、Hfの窒化物、Vの窒化物、Nbの窒化物、Taの窒化物、Crの窒化物、Moの窒化物、Reの窒化物、またはFeの窒化物が挙げられる。
【0022】
本発明における導電性材料の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法、化学気相堆積法(CVD法)、メッキ等、公知のものを用いることができる。タングステン(W)の場合、製膜性に優れたスパッタ法および蒸着法が好ましい。また、単体の材料の薄膜を形成した後、これを化学反応で所望の導電性化合物材料としてもよい。具体例としては、タングステンの薄膜を形成後、アンモニアを含む雰囲気で熱処理することで、窒化タングステンとする方法が挙げられる。あるいは、窒素を含む雰囲気中でタングステンをターゲットとしてスパッタリングすることで、窒化タングステン層を形成することもできる。
また、SiO2などの絶縁材料、あるいは再成長条件で安定でないものの上に本発明における導電性材料を積層して用いることもできる。また、本発明に用いる導電性材料によっては、再成長後に下地層に窪みが生じ、平坦性が悪化する場合がある。このような場合には、下地層に窪みを生じることが少ないマスク材料上に、本発明の導電性材料を積層してもよい。具体的には、SiO2とWを積層した構造が挙げられる。
【0023】
スパッタ法で製膜する場合、スパッタ装置に試料をセットして、真空中で熱処理した後に製膜することにより再成長時の導電性材料膜の耐久性が向上し本発明の効果がより大きい場合がある。好ましい熱処理温度は、200℃以上500℃以下であり、好ましい熱処理時間は、熱処理温度によって変わるが、400℃の場合の例では5分以上1時間以下である。
【0024】
導電性材料の好ましい膜厚は、用いる材料によって異なるが、概ね2nm以上5μm以下である。該膜厚は、タングステン(W)の場合、5nm以上100nm以下が好ましい。該膜厚が5nm未満の場合には、再成長時の雰囲気により化学変化を受け消失する場合があるので好ましくなく、100nmより厚い場合には剥がれやすくなりやはり好ましくない。
【0025】
導電性材料膜を特定の形状にパターニングするには、公知のフォトリソグラフィ法を利用して行なうことができる。タングステン(W)の場合には、スパッタ法で形成したタングステン膜上にフォトリソグラフィ法によってフォトレジストパターンを形成し、例えば過酸化水素(H22)およびフッ酸と硝酸の1:1の混合酸でエッチングすることによりパターン形成をすることができる。
【0026】
本発明で用いる形状のパターンとしては、公知のものを用いることができる。
具体的には被覆部または開口部が一定幅のストライプ状のもの;円形、多角形状に下地結晶を露出(または被覆)させたもの;円形リング、多角形リング状に下地結晶を露出(または被覆)させたものなどが挙げられる。中でもストライプ状のパターンを用いると本発明における埋め込み構造が再現性よく作製できるので好ましい。
【0027】
ストライプ状パターンは、導電性材料膜(マスク)部分の幅と下地結晶の露出部分の幅の和(すなわち周期)と、導電性材料膜(マスク)部分の幅の2つで規定できる。本発明における埋め込み構造を再現性よく作製させるためには、特に導電性材料膜(マスク)部分の幅の制御が重要であり、好ましい導電性材料膜(マスク)部分の幅は、0.05μm以上20μm以下である。0.05μmより小さい幅は作製するのが困難で実用的ではなく、20μmより大きいと埋め込みに要する時間が長くなりすぎてやはり実用的ではない。
【0028】
導電性材料膜(マスク)のストライプの方向としては、窒化物系化合物半導体結晶の<1−100>、および<11−20>方向およびこれらに結晶学的に等価な方向が好ましい。<1−100>方向に結晶学的に等価な方向とは<−1100>、<10−10>、<−1010>、<01−10>、<0−110>であり、これらは(0001)面内に含まれ互いに60°の角度をなしている。また<11−20>方向に結晶学的に等価な方向とは、<−1−120>、<1−210>、<−12−10>、<−2110>、<2−1−10>であり、これらも(0001)面内に含まれ、互いに60°の角度をなしている。<1−100>に結晶学的に等価な方向群と<11−20>に結晶学的に等価な方向群とは、互いに30°角度がずれている。従って(0001)面内に30°ごとに好ましい方向がある。
【0029】
<1−100>に結晶学的に等価な方向に導電性材料膜(マスク)のストライプを作製した場合には、横方向の成長速度が最大になり、マスクの埋め込みを最も短時間で行なうことができる。一方、<11−20>に結晶学的に等価な方向に導電性材料膜(マスク)のストライプを作製した場合には、横方向の成長速度は最小になるので埋め込みに長時間を要するが、横方向成長時の成長面(ファセット)が平坦である特徴があり、結晶欠陥の少ない品質のよい結晶を作ることができる。
【0030】
導電性材料膜(マスク)のストライプの方向の上記の方向からのずれが大きくなると、横方向成長時の成長面に凹凸ができ、結晶品質が劣るものができる場合がある。ずれの範囲は小さいほどよいが、上記の好ましい方向からのずれが10°以下であることが好ましく、より好ましくは5°以下である。
【0031】
導電性材料膜(マスク)のストライプを形成した試料の上に再成長を行なう際に、真空中または不活性雰囲気中で熱処理を行ない、しかる後に公知の成長条件で窒化物系化合物半導体の再成長を行なうことにより、再成長時の導電性材料膜の耐久性が向上し、本発明における埋め込み構造をより再現性よく作製することができるようになる。
【0032】
熱処理温度は、使用する導電性材料によって変わるが、概ね300℃以上1000℃以下が好ましい。また、熱処理時間は1分以上60分以下が好ましい。該熱処理温度が300℃よりも低い場合には再成長時の導電性材料膜の耐久性の向上効果が小さい場合があり、1000℃よりも高い場合には導電性材料膜が剥がれやすくなる場合がある。
【0033】
次に、本発明の3−5族化合物半導体を利用して作製できる素子の例として、図1に示す静電誘導トランジスタ(SIT)について説明する。
【0034】
サファイア基板1上に、Siドープn+型GaN層2、Siドープn-型GaN層3の積層構造からなる第1の3−5族化合物半導体4を成長する。次に、タングステン(W)をスパッタ法で形成した後、第1の3−5族化合物半導体の結晶方位<1−100>方向のストライプ状電極8を、フォトリソグラフィの手法によって形成する。ストライプ状電極8は広い面積を有するゲート電極9に連結している。
ストライプ状電極を形成した試料の上に、Siドープn-型GaN層5、およびSiドープn+型GaN層6の積層構造からなる第2の3−5族化合物半導体7を成長する。この成長によってタングステン(W)電極8の埋め込み構造ができる。なお、広い面積を有するゲート電極9は、再成長によっても埋め込まれることはなく、このまま取り出し電極として利用できる場合がある。
【0035】
次に、ドライエッチング法によって、一部をSiドープn+型GaN層2まで掘り、Siドープn+型GaN層2を露出させる。露出したSiドープn+型GaN層2の上に電極11、さらに再成長表面に露出しているSiドープn+型GaN層6の上に電極10を形成する。
【0036】
この構造では、上から(または下から)ソース電極、ゲート電極、ドレイン電極として利用できる。タングステン(W)は、窒化物系化合物半導体に対してショットキー特性を示すので、このままゲート電極として利用できる。ゲート電圧を調整することにより、埋め込まれたストライプ状のタングステン(W)電極の周囲の電荷空乏層の厚さを変化させ、電子の走行チャンネルの断面積が変化し、電流のオン・オフ制御ができる。すなわちゲート電圧により、ソース・ドレイン間の電流が変調され、デバイスは3端子動作をする。
【0037】
次にSITを動作させるための各層の層厚、物性の好ましい範囲に関して説明する。電子走行チャンネルに利用される、Siドープn型GaN層3、5のキャリア濃度は、ストライプ状タングステン(W)電極の間隔に応じて適当な範囲があり、ストライプの間隔が大きくなるに従い、キャリア濃度を小さくする必要がある。好ましいストライプの間隔は、0.1μm以上5μm以下であり、これに応じて好ましいキャリア濃度は、2×1018から1×1015cm-3まで変化する。
Siドープn+型GaN層2および6は、それぞれ電極11および10に対するコンタクト層として作用するので、そのキャリア濃度は、十分なオーミック電極特性を得るために結晶性を損なわない範囲で高い方が良い。該キャリア濃度は好ましくは1×1017cm-3以上1×1021cm-3以下であり、より好ましくは1×1018cm-3以上1×1020cm-3以下である。
【0038】
ソース電極とドレイン電極は、オーミック電極であることが好ましい。n型GaNに対するオーミック電極材料としては、Al、In、TiAu、TiAlCrAu等を好適に用いることができる。
【0039】
本発明においてはパターンの作製条件、熱処理条件、再成長条件によっては再成長後に第1の3−5族化合物半導体4に窪みが発生する場合がある。GaN層3をGaAlN層またはGaN層上にGaAlNを積層した構造とすることにより再成長後に発生する窪みを低減することができる。ただし、GaAlN層のAlN混晶比および膜厚は結晶品質を低下させることがなく、SITを作製した場合、素子の性能を損なうことのない範囲とする。具体的なAlN混晶比の範囲としては1%以上、好ましくは5%以上が挙げられる。ただし、AlN混晶比が高い場合、絶縁性になる傾向があるため、素子としての特性を低下させないAlN混晶比の範囲としては、60%以下、好ましくは40%以下が挙げられる。また、具体的なGaAlN層の層厚の範囲としては0.3nm以上、好ましくは1nm以上が挙げられる。ただし、GaAlN層の層厚が厚い場合、絶縁性になる傾向があるため、素子としての特性を低下させないGaAlN層の層厚の範囲としては、5μm以下、好ましくは3μm以下が挙げられる。
【実施例】
【0040】
実験例
まず下地結晶を次のようにして作製した。MOVPE法により基板であるサファイア(0001)面上に、バッファ層としてGaNを550℃で50nm成長し、さらにGaNを約1100℃で4μm成長した。この下地結晶試料を、スパッタ装置にセットし、真空中で400℃30分の熱処理を行なったのち、タングステン(W)をスパッタ法により20nm成膜した。通常のフォトリソグラフィ法を用いて、<1−100>方向にマスク幅5μm、開口部幅5μmとなるフォトレジストパターンを形成し、次に湿式エッチングによってタングステン(W)の不要部分を除去し、タングステン(W)のストライプパターンを作製した。次に、この試料をHVPE装置にセットし、真空中で600℃10分間の熱処理を行なった後、窒素をキャリアガスに用いてHVPE法により再成長を35μm行なった。再成長により得られた結晶は、鏡面状の表面であり、タングステン(W)のストライプパターンが埋め込まれた構造が作製できた。
【0041】
実験例
タングステン(W)のストライプパターンがマスク幅3μm、開口部幅3μmであることを除いて、実験例1と同様の方法でタングステン(W)のストライプパターンを作製した。次に、この試料をMOVPE装置にセットし、真空中で600℃10分間の熱処理を行なった後、MOVPE法により再成長を約7μm行なった。再成長により得られた結晶は、鏡面状の表面であり、タングステン(W)のストライプパターンが埋め込まれた構造が作製できた。
【0042】
実験例
タングステン(W)のストライプパターンの方向が<11−20>であることを除いては実験例2と同様の方法でタングステン(W)のストライプパターンの作製、MOVPE法による再成長を行なった。再成長により得られた結晶は鏡面状の表面であり、タングステン(W)のストライプパターンが埋め込まれた構造が作製できた。
【0043】
実験例
タングステン(W)のパターンが直径200μmの円形および膜厚が50nmであることを除いて実験例1と同様の方法でタングステンパターンを作製した。
この試料を真空中および窒素中で600℃および900℃において熱処理を行なった。いずれの場合も、熱処理なしのものより、大幅に整流特性が向上した。さらに、同じ熱処理温度なら窒素中よりも真空中が、同じ熱処理雰囲気なら600℃よりも900℃の方が良い整流特性が確認された。結果を図2に示す。
【0044】
実験例
実験例1と同様にGaNを4μm成長し、さらにGaAlNを成長した。この層のAlN混晶比は、約15%、厚さは30nmである。この上にタングステン(W)を電子ビーム蒸着により成膜し、通常のリソグラフィー法を用いてストライプ状パターンを作製した。ストライプ方向は<1-100>方向、ストライプ幅およびストライプ間隔は、ともに5μmである。次に、MOVPE法により再成長を行なった。成長圧力は、40kPaであり、成長膜厚は約3μmであった。再成長により得られた結晶の表面は、鏡面状であった。実験例1および本実験例で得られた試料をストライプパターンと垂直方向に劈開を行い、断面を走査電子顕微鏡で観察したところ、実験例1で得られた試料には下地結晶に損傷が確認できる部分があったが、実験例5で得られた試料では下地結晶に損傷は確認されなかった。
【0045】
実験例
実験例1と同様にGaNを4μm成長した。この下地結晶にSiO2をスパッタ法により50〜70nm成膜し、引き続きタングステン(W)をスパッタ法にて50nm成膜した。これを通常のリソグラフィー法を用いてストライプパターンを作製した。ストライプ方向は、<1−100>および<11−20>方向である。ストライプ幅およびストライプ間隔は、ともに3μmである。次に、常圧MOVPE法により再成長を行なった。再成長膜厚は、約8μmである。得られた結晶は、鏡面状の表面であり、タングステンストライプパターンの埋め込まれた構造が作製できた。実験例1のWのみをマスクとしたものでは、マスク下部に窪みの生じた部分が見られたが、本実験例の積層構造によるマスクの場合には、いずれのストライプ方向のマスクを用いたものでもマスク下部の窪みの発生は大幅に低減された。
【0046】
実験例
実験例1と同様にGaNを4μm成長した。この下地結晶にWを電子ビーム蒸着により20nm成膜した。この試料を水素中400℃で10分保持し、つぎに水素・アンモニア混合ガス中600℃で5分保持した後、さらに水素・アンモニア混合ガス中で950℃まで昇温した後、すぐに冷却を行なった。この試料の表面をXPS(X線光電子分光法)により元素分析したところ、W層中に均一に窒化タングステン層が形成されていることが確認された。こうして得られたマスク材料をパターニングし、実験例1と同様にして再成長を行なったところ、実験例1と同様の良好な埋め込み構造が形成された。
【0047】
実験例において、アンモニアを含む処理する雰囲気としては、水素とアンモニアの混合ガス以外にも、アンモニアと不活性ガスの混合ガスを用いてもよい。
また、実験例1と同様にして成長したGaN層上に、タングステンをターゲットとして、窒素とアルゴンの1:1の体積混合比の雰囲気中でスパッタリングを行なうことで50nm堆積した窒化タングステン層を用いても同様の結果が得られた。
実験例で述べた窒化タングステンは、GaN層に対してショットキー接合を形成する電極として作用した。
【符号の説明】
【0048】
1...基板
2...n+GaN
3...n-GaN
4...第1の3−5族化合物半導体
5...n-GaN
6...n+GaN
7...第2の3−5族化合物半導体
8...埋め込まれたストライプ状ゲート電極
9...ゲート電極
10...電極
11...電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)一般式InxGayAlzN(ただし、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される第1の3−5族化合物半導体と、(2)これに接して該第1の3−5族化合物半導体表面の一部を特定のパターン形状で被覆するSiOと、(3)該SiOに接して積層された導電性材料と、)該SiOと該導電性材料との積層体で被覆されてない該第1の3−5族化合物半導体表面の露出部と該導電性材料とを共に被覆する一般式InuGavAlwN(ただし、u+v+w=1、0≦u≦1、0≦v≦1、0≦w≦1)で表される第2の3−5族化合物半導体と、からなり、該導電性材料の層厚が5nm以上100nm以下である3−5族化合物半導体。
【請求項2】
導電性材料がタングステン、レニウム、モリブデン、クロム、コバルト、珪素、金、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、ニッケル、白金、バナジウム、ハフニウム、パラジウム、またはそれらの合金である請求項1に記載の3−5族化合物半導体。
【請求項3】
導電性材料がタングステンの窒化物、チタンの窒化物、ジルコニウムの窒化物、ハフニウムの窒化物、バナジウムの窒化物、ニオブの窒化物、タンタルの窒化物、クロムの窒化物、モリブデンの窒化物、レニウムの窒化物、または鉄の窒化物である請求項1に記載の3−5族化合物半導体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の3−5族化合物半導体を用いてなる静電誘導トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−272888(P2010−272888A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180025(P2010−180025)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【分割の表示】特願2000−33292(P2000−33292)の分割
【原出願日】平成12年2月10日(2000.2.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1998年9月15日 (社)応用物理学会発行の「1998年(平成10年)秋季 第59回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第1分冊」に発表
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】