説明

4輪操舵車両

【課題】後輪操舵によって運転性能を高めつつ、後輪操舵を行った際に生じる運転フィールの違和感を低減する。
【解決手段】後輪トー角操舵トルク値設定部32は、操舵トルクTに基づいて、ヨーレイト規範値を設定するヨーレイト規範値設定部、横加速度規範値を設定する横加速度規範値設定部および、ロールレイト規範値を設定するロールレイト規範値設定部と、これら各規範値に基づいてそれぞれ後輪トー角ヨーレイト値を設定する後輪トー角ヨーレイト値設定部、後輪トー角横加速度値を設定する後輪トー角ヨーレイト値設定部および、後輪トー角ロールレイト値を設定する後輪トー角ロールレイト値設定部とを備え、目標後輪トー角設定部33が後輪トー角ロールレイト値を含ませて目標後輪トー角を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪および後輪をともに転舵することのできる4輪操舵車両に関し、4輪操舵によって運転フィールに違和感が生じることを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な4輪車両では、ステアリングホイールの操舵を左右前輪の操舵に変換する前輪操舵装置が搭載され、運転者によるステアリングホイールの操作により前輪のみを操舵する前輪操舵、いわゆる2WSが主流である。一方、車両の運動性能を高めるべく、前輪舵角などに応じて後輪をも操舵する4WS(4 Wheel Steering:4輪操舵)を採用した車両も市販されている。さらに近年では、車両の運動性能だけでなく操縦安定性をも向上させるために、左右後輪のトー角を別々に可変制御する後輪トー角可変装置を備えた4輪操舵車両も開発されている。
【0003】
後輪トー角可変装置としては、後輪を支持する懸架装置におけるラテラルリンクあるいはトレーリングリンクの車体との連結部に直線変位する電動アクチュエータが左右後輪にそれぞれ設けられ、これら電動アクチュエータを伸縮駆動することによって左右両輪のトー角を可変制御できるように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このように左右後輪を個別に操舵できる後輪トー角可変車両においても、一般的に旋回走行時には左右両後輪のトー角が前輪と同相または逆相に制御される。
【0004】
そして、旋回走行時の後輪トー角は、前輪舵角(ステアリングホイールの操舵角)に基づくヨーレイト特性や、前輪舵角に基づく横加速度特性、あるいはこれら両特性に望まれる規範モデルに基づいて、これら規範モデルを実現するように設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−30438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、4WSや後輪トー角可変装置で旋回走行時に後輪を操舵すると、車両の運動性能が従来の前輪操舵車両のものと異なるため、運転フィールを大きく変化させてしまう。特に、車両挙動を予測して運転するような熟練ドライバは、車両挙動の違いから運転フィールに違和感を覚えてしまう。具体的には、後輪を操舵すると、前輪および後輪が発生する横力が変化するため、ステアリングホイールから感じる操舵反力が変化し、ドライバがステアリングフィールの違和感を覚える。また、後輪を操舵すると、前輪軸および後輪軸における横力および横加速度が変化するため、車体のロール挙動が変化し、ドライバが車体挙動として感じ易いロールフィールに違和感を覚える。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、後輪操舵によって運転性能を高めつつ、後輪操舵を行った際に生じる運転フィールの違和感を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、運転者によるステアリングホイール(19a)の操舵を左右前輪(2f)の転舵に変換する前輪操舵手段(19)と、左右後輪(2r)を操舵制御する後輪操舵制御手段(5)とを有する4輪操舵車両(V)において、ステアリングホイール(19a)に加えられる操舵トルク(T)を検出する操舵トルク検出手段(10)を備え、後輪操舵制御手段(5)は、操舵トルク検出手段(10)の検出結果に基づいて車体(1)の運動状態量規範値を設定する規範値設定手段(51,53,55)と、前記運動状態量規範値に基づいて目標後輪操舵角を設定する目標後輪操舵角設定手段(52,54,56,57,33)とを含むことを特徴とする。
【0009】
車両の運動状態に対する運転者の意思は、操舵角だけでなく操舵トルクにも現れる。そしてこの発明によれば、規範値設定手段が、検出した操舵トルクに基づいて運転者の意図する運動状態量規範モデルから運転状態量規範値を設定し、目標後輪操舵角設定手段がこの運転状態量規範値を実現するための目標後輪操舵角を設定するため、ステアリングフィールの違和感を抑制することができる。また、これによってロールフィールの違和感も同時に抑制することができる。さらに、従来の操舵角に基づくヨーレイト特性あるいは横加速度特性の規範モデルを併用し、両規範モデルから設定された目標後輪操舵角を所定の比率で成分に含めれば、車両運動性能と運転フィールとの両立を実現することができる。
【0010】
請求項1の発明に係る4輪操舵車両においては、前記運動状態量を、車体(1)のヨーレイト、車体(1)の横加速度、車体(1)のロール角またはロールレイトの少なくとも1つとするとよい(請求項2)。このようにすれば、運転者の意図する車両挙動を後輪操舵によって実現することが容易である。
【0011】
また、上記課題を解決するために、請求項3の発明は、運転者によるステアリングホイール(19a)の操舵を左右前輪(2f)の転舵に変換する前輪操舵手段(19)と、左右後輪(2r)を操舵制御する後輪操舵制御手段(5)とを有する4輪操舵車両(V)において、ステアリングホイール(19a)の操舵角(δf)を検出する操舵角検出手段(9)とを備え、後輪操舵制御手段(5)は、操舵角検出手段(9)の検出結果に基づいて車体(1)のロール角規範値またはロールレイト規範値を設定するロール規範値設定手段(45)と、ロール角規範値またはロールレイト規範値に基づいて目標後輪操舵角を設定する目標後輪操舵角設定手段(46,47,33)とを含むことを特徴とする。
【0012】
後輪を操舵することにより、運転者が運転フィールとして感じ易い車体のロール挙動が変化するが、この発明によれば、ロール規範値設定手段が、検出した操舵角に基づいて運転者の意図するロール規範モデルからロール角規範値またはロールレイト規範値(以下、ロール規範値と総称する)を設定し、このロール規範値を実現するための目標後輪操舵角が目標後輪操舵角設定手段により設定されるため、ロールフィールの違和感を抑制することができる。また、従来の操舵角に基づくヨーレイト特性あるいは横加速度特性の規範モデルを併用して両者を所定比率の成分として含めることにより、車両運動性能と運転フィールとの両立を実現することができる。
【0013】
請求項3の発明に係る4輪操舵車両においては、車体(1)のロール角またはロールレイトを制御可能なサスペンション装置(3,7)を更に備え、該サスペンション装置(3,7)は、ロール角規範値またはロールレイト規範値に基づいて駆動制御されるものとするとよい(請求項4)。
【0014】
この発明によれば、後輪操舵制御装置とサスペンション装置とを協調させることにより、後輪操舵制御装置によるロール規範制御に加え、サスペンション装置によるロール規範制御が行われるため、更なるロールフィールの向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、後輪操舵制御手段が操舵トルクに基づく運動状態量規範制御または操舵角に基づくロール規範制御を行うことにより、運転性能と運転フィールとの両立を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係る自動車の概略構成を示す平面図である。
【図2】実施形態に係る自動車の概略構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る後輪トー角操舵角値設定部のブロック図である。
【図4】実施形態に係る後輪トー角操舵トルク値設定部のブロック図である。
【図5】実施形態に係る自動車による後輪トー角制御のフロー図である。
【図6】実施形態に係る自動車による後輪トー角操舵角値設定処理のフロー図である。
【図7】実施形態に係る自動車による後輪トー角操舵トルク値設定処理のフロー図である。
【図8】実施形態に係る自動車による減衰力制御のフロー図である。
【図9】実施形態に係る自動車によるロール剛性制御のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して実施形態に係る車両挙動制御装置について詳細に説明する。先ず、図1を参照して、車両挙動制御装を搭載した4輪操舵自動車(以下、単に自動車Vと記す)の概略構成について説明する。説明にあたり、4本の車輪やそれらに対して配置された部材、すなわち、タイヤやサスペンション等については、それぞれ数字の符号に前後左右を示す添字を付して、例えば、左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl、右後輪2rrと記すとともに、総称する場合には車輪2、後輪2r等と記す。
【0018】
図1に示すように、自動車Vの車体1にはタイヤが装着された車輪2が前後左右に設置されており、これら各車輪2がナックルやサスペンションアーム、スプリング、減衰力可変ダンパ(以下、単にダンパ3と記す)等からなるサスペンション4によって車体1に懸架されている。
【0019】
自動車Vは、運転者によるステアリングホイール19aの操舵により、ラックアンドピニオン機構19を介して左右の前輪2fl,2frが直接転舵される。また、自動車Vは、車体1と後輪側ナックルとの間にそれぞれ介装された左右の操舵アクチュエータ6l,6rを伸縮駆動することにより、後輪トー角を個別に変化させる後輪トー角可変装置5l,5rを備えている。さらに、自動車Vのフロントサスペンション4fおよびリヤサスペンション4rには、スタビライザアクチュエータ8f,8rを駆動することにより、それぞれフロントサスペンション剛性およびリヤサスペンション剛性を変化させるアクティブスタビライザ(以下、単にスタビライザ7f,7rと記す)が設けられている。
【0020】
そして、自動車Vは、左右の操舵アクチュエータ6l,6rや、各ダンパ3fl〜3rr、フロントおよびリヤスタビライザアクチュエータ8f,8r等を駆動制御するECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)20を備えている。
【0021】
ダンパ3は、MRF(Magneto-Rheological Fluid:磁気粘性流体)を作動液とするテレスコピック型であり、ECU20がピストンに組み込まれた磁気流体バルブへの供給電流を制御することにより、その減衰力が無段階かつ瞬時に変化する。また、操舵アクチュエータ6は、DCモータ、減速機および送りねじ機構からなる直動式であり、ECU20がDCモータへの供給電流を制御することにより、左右後輪2rl,2rrを独立して転舵する。そして、スタビライザアクチュエータ8は、車幅方向に延在するスタビライザ7の中間部に左右のスタビライザ半体を連結するように設けられており、DCモータおよび減速機を備え、ECU20がDCモータへの供給電流を制御することにより、ロール方向に応じて左右のスタビライザ半体間に捩じれ角を与えてサスペンション剛性を無段階に変化させる。
【0022】
自動車Vには、ステアリングホイール19aの操舵角δfを検出する操舵角センサ9、運転者の操舵によってステアリングホイール19aに加わる操舵トルクTを検出する操舵トルクセンサ10、車速vを検出する車速センサ11、横加速度を検出する横Gセンサ12、前後加速度を検出する前後Gセンサ13、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ14等が車体1の適所に設置されるとともに、ホイールハウス付近の車体の上下加速度を検出する上下Gセンサ15と、ダンパ3のストローク速度を検出するストロークセンサ16(図示せず)とが各車輪2ごとに設置されている。また、操舵アクチュエータ6には、その作動量(すなわち、左右後輪2rl,2rrの実トー角)を検出するポジションセンサ17l,17r(図示せず)がそれぞれ設置され、スタビライザアクチュエータ8には、左右のスタビライザ半体間の捩じれ角度を検出する捩じれ角センサ18f,18r(図示せず)がそれぞれ設置されている。
【0023】
図2に示すように、ECU20は、CPUやROM、RAM、周辺回路、入出力インタフェース、各種ドライバ等から構成されており、通信回線(本実施形態では、CAN(Controller Area Network))を介して各センサ9〜18、ダンパ3、操舵アクチュエータ6およびスタビライザアクチュエータ8等と接続されている。ECU20には、各センサ9〜18の検出信号が入力する入力インタフェース21、操舵アクチュエータ6の駆動制御を行う後輪トー角制御部30、ダンパ3の減衰力制御を行う減衰力制御部60、スタビライザアクチュエータ8の駆動制御を行うロール剛性制御部70、後輪トー角制御部30や減衰力制御部60、ロール剛性制御部70からの駆動電流の出力に供される出力インタフェース22とが内装されている。
【0024】
後輪トー角制御部30は、後輪トー角操舵角値設定部31と、後輪トー角操舵トルク値設定部32と、目標後輪トー角設定部33と、駆動電流出力部34とを有している。
【0025】
後輪トー角操舵角値設定部31は、図3に示すように、ヨーレイト規範値設定部41と、後輪トー角ヨーレイト値設定部42と、横加速度規範値設定部43と、後輪トー角横加速度値設定部44と、ロールレイト規範値設定部45と、後輪トー角ロールレイト値設定部46と、後輪トー角操舵角値算出部47とを備えており、自動車Vの運動性能を高めるべく後記する後輪トー角操舵角値を設定する。
【0026】
ヨーレイト規範値設定部41は、操舵角δfに基づく車体1のヨーレイト規範モデルのマップを有し、操舵角センサ9および車速センサ11の検出信号に基づきヨーレイト規範値を設定する。後輪トー角ヨーレイト値設定部42は、設定されたヨーレイト規範値を実現するために必要な後輪トー角(以下、後輪トー角ヨーレイト値と記す)を設定する。
【0027】
横加速度規範値設定部43は、操舵角δfに基づく車体1の横加速度規範モデルのマップを有し、操舵角センサ9および車速センサ11の検出信号に基づき横加速度規範値を設定する。後輪トー角ヨーレイト値設定部44は、設定された横加速度規範値を実現するために必要な後輪トー角(以下、後輪トー角横加速度値と記す)を設定する。
【0028】
ロールレイト規範値設定部45は、操舵角δfに基づく車体1のロールレイト規範モデルのマップを有し、操舵角センサ9および車速センサ11の検出信号に基づきロールレイト規範値を設定する。後輪トー角ロールレイト値設定部46は、設定されたロールレイト規範値を実現するために必要な後輪トー角(以下、後輪トー角ロールレイト値と記す)を設定する。
【0029】
後輪トー角操舵角値算出部47は、それぞれ設定された後輪トー角ヨーレイト値、後輪トー角横加速度値および後輪トー角ロールレイト値に基づき、各規範値を実現するために最適な後輪トー角(以下、後輪トー角操舵角値と記す)を算出する。なお、後輪トー角操舵角値は、上記3つの後輪トー角値の平均値や、加重平均値、あるいは所定の条件にしたがって選択した1つの後輪トー角値の値とすることなどができる。そして、後輪トー角操舵角値は、原則として、加速時にはトーアウトに、減速時にはトーインに設定され、所定の車速よりも高速での旋回走行時には前輪2fと同相に、所定の車速よりも低速での旋回走行時には前輪2fと逆相に設定される。また、高速走行時に旋回を開始するとヨーレイトの位相が横加速度の位相よりも進むため、後輪トー角操舵角値は横加速度の位相遅れを補償するように設定される。
【0030】
後輪トー角操舵トルク値設定部32は、図4に示すように、ヨーレイト規範値設定部51と、後輪トー角ヨーレイト値設定部52と、横加速度規範値設定部53と、後輪トー角横加速度値設定部54と、ロールレイト規範値設定部55と、後輪トー角ロールレイト値設定部56と、後輪トー角操舵角値算出部57とを備えており、運転フィールを高めるべく後記する後輪トー角操舵トルク値を設定する。
【0031】
ヨーレイト規範値設定部51は、操舵トルクTに基づく車体1のヨーレイト規範モデルのマップを有し、操舵トルクセンサ10および車速センサ11の検出信号に基づきヨーレイト規範値を設定する。後輪トー角ヨーレイト値設定部52は、設定されたヨーレイト規範値を実現するために必要な後輪トー角(以下、後輪トー角ヨーレイト値と記す)を設定する。
【0032】
横加速度規範値設定部53は、操舵トルクTに基づく車体1の横加速度規範モデルのマップを有し、操舵トルクセンサ10および車速センサ11の検出信号に基づき横加速度規範値を設定する。後輪トー角横加速度値設定部54は、設定された横加速度規範値を実現するために必要な後輪トー角(以下、後輪トー角横加速度値と記す)を設定する。
【0033】
ロールレイト規範値設定部55は、操舵トルクTに基づく車体1のロールレイト規範モデルのマップを有し、操舵トルクセンサ10および車速センサ11の検出信号に基づきロールレイト規範値を設定する。後輪トー角ロールレイト値設定部56は、設定されたロールレイト規範値を実現するために必要な後輪トー角(以下、後輪トー角ロールレイト値と記す)を設定する。
【0034】
後輪トー角操舵角値算出部57は、それぞれ設定された後輪トー角ヨーレイト値、後輪トー角横加速度値および後輪トー角ロールレイト値に基づき、各規範値を実現するために最適な後輪トー角(以下、後輪トー角操舵トルク値と記す)を算出する。なお、後輪トー角操舵角値は、上記3つの後輪トー角値の平均値や、加重平均値、あるいは所定の条件にしたがって選択した1つの後輪トー角値の値とすることなどができる。
【0035】
ステアリングホイール19aには、サスペンションジオメトリや車速vに応じたセルフアライニングトルクが操舵反力となって作用するが、操舵トルクTと自動車Vの運動状態との間には一定の相関関係がある。そこで、後輪トー角操舵トルク値設定部32では、自動車Vの緒元に基づいて設定された、操舵トルクTに基づくヨーレイト規範マップ、横加速度規範マップおよびロールレイト規範マップを参照することにより、運転者の意思が現れた操舵トルクTに応じて運転フィールに違和感のない後輪トー角操舵トルク値が設定される。
【0036】
図2に戻り、目標後輪トー角設定部33は、後輪トー角操舵角値と後輪トー角操舵トルク値とを所定の成分比率で採用することにより目標後輪トー角を設定する。なお、所定の成分比率は、自動車Vのコンセプトに合わせて後輪トー角舵角値を大きくして運動性能を高めるようにしたり、後輪トー角操舵トルク値を大きくして運転フィールを向上させるようにしたりして定めることができる。また、車両ごとに成分比率を一定に定めなくても、操作ボタンや調整スイッチを設けて運転者が任意に変更できるようにしてもよい。そして、目標後輪トー角設定部33は、後輪トー角操舵トルク値および目標後輪トー角を減衰力制御部60およびロール剛性制御部70へ向けて出力する。
【0037】
駆動電流出力部34は、目標後輪トー角とポジションセンサ17から入力した実後輪トー角との差に基づき操舵アクチュエータ6の目標電流を設定し、目標電流に基づく操舵アクチュエータ6の駆動電流を出力する。
【0038】
減衰力制御部60は、各センサ9〜15の検出信号に基づき各ダンパ3fl〜3rrの目標減衰力を設定する目標減衰力設定部61、目標後輪トー角設定部33から受け取った後輪トー角操舵トルク値と目標後輪トー角との差を求め、この差に基づいて目標減衰力設定部61により設定された目標減衰力を補正する目標減衰力補正部62、目標減衰力とストローク速度とに基づきダンパ3の目標電流を設定し、目標電流に基づくダンパ3の駆動電流を出力する駆動電流出力部63を有している。なお、本実施形態では、目標後輪トー角設定部33が後輪トー角操舵トルク値と目標後輪トー角とを出力し、目標減衰力補正部62がこれらに基づいて目標減衰力を補正することにより、間接的にロールレイト規範値に基づく補正を行っているが、目標後輪トー角設定部33が後輪トー角ロールレイト値を目標後輪トー角に設定する場合には、ロールレイト規範値から直接的に目標減衰力を補正すればよい。
【0039】
ロール剛性制御部70は、横Gセンサ12の検出信号に基づき車体1に作用するロールモーメントを推定し、このロールモーメントが基準値以上である場合、基準値を超えるロールモーメントを打ち消すアンチロールモーメントを発生させるための目標ロール剛性(捩じれ角)を設定する目標ロール剛性設定部71、目標後輪トー角設定部33から受け取った後輪トー角操舵トルク値と目標後輪トー角との差を求め、この差に基づいて目標ロール剛性設定部71により設定された目標ロール剛性を補正する目標ロール剛性補正部72、目標ロール剛性と捩じれ角センサ18から入力した実捩じれ角との差に基づきスタビライザアクチュエータ8の目標電流を設定し、目標電流に基づきスタビライザアクチュエータ8の駆動電流を出力する駆動電流出力部73を有している。
【0040】
次に、図5〜図7を参照して、本実施形態に係る4輪操舵車両による後輪トー角制御の処理手順について説明する。自動車Vが運転を開始すると、ECU20は、所定の制御インターバル(例えば、2ms)をもって、以下に示す後輪トー角制御を実行する。
【0041】
図5に示すように、ECU20はまず、後輪トー角操舵角値設定部31において、操舵角δfおよび車速vに基づく後輪トー角操舵角値設定処理(詳細は後記する)を行って後輪トー角操舵角値を設定する(ステップS1)。次にECU20は、後輪トー角操舵トルク値設定部32において、操舵トルクTおよび車速vに基づく後輪トー角操舵トルク値設定処理(詳細は後記する)を行って後輪トー角操舵トルク値を設定する(ステップS2)。そしてECU20は、目標後輪トー角設定部33において、後輪トー角操舵角値と後輪トー角操舵トルク値とを所定の成分比率で採用することにより目標後輪トー角を設定し(ステップS3)、目標後輪トー角と実トー角との差に基づいて操舵アクチュエータ6の駆動電流を出力し(ステップS4)、本処理を終了する。
【0042】
後輪トー角操舵角値設定処理では、図6に示すように、まず、ヨーレイト規範値設定部51が操舵角δfおよび車速vに基づいてヨーレイト規範値を設定し(ステップS11)、後輪トー角ヨーレイト値設定部52がヨーレイト規範値に基づいて後輪トー角ヨーレイト値を設定する(ステップS12)。また、横加速度規範値設定部53が操舵角δfおよび車速vに基づいて横加速度規範値を設定し(ステップS13)、後輪トー角横加速度値設定部54が横加速度規範値に基づいて後輪トー角横加速度値を設定する(ステップS14)。さらに、ロールレイト規範値設定部55が操舵角δfおよび車速vに基づいてロールレイト規範値を設定し(ステップS15)、後輪トー角ロールレイト値設定部56がロールレイト規範値に基づいて後輪トー角ロールレイト値を設定する(ステップS16)。その後、後輪トー角操舵角値算出部57が、後輪トー角ヨーレイト値、後輪トー角横加速度値および後輪トー角ロールレイト値に基づき、後輪トー角操舵角値を算出する(ステップS17)。
【0043】
後輪トー角操舵トルク値設定処理では、図7に示すように、まず、ヨーレイト規範値設定部51が操舵トルクTおよび車速vに基づいてヨーレイト規範値を設定し(ステップS21)、後輪トー角ヨーレイト値設定部52がヨーレイト規範値に基づいて後輪トー角ヨーレイト値を設定する(ステップS22)。また、横加速度規範値設定部53が操舵トルクTおよび車速vに基づいて横加速度規範値を設定し(ステップS23)、後輪トー角横加速度値設定部54が横加速度規範値に基づいて後輪トー角横加速度値を設定する(ステップS24)。さらに、ロールレイト規範値設定部55が操舵トルクTおよび車速vに基づいてロールレイト規範値を設定し(ステップS25)、後輪トー角ロールレイト値設定部56がロールレイト規範値に基づいて後輪トー角ロールレイト値を設定する(ステップS26)。その後、後輪トー角操舵トルク値算出部57が、後輪トー角ヨーレイト値、後輪トー角横加速度値および後輪トー角ロールレイト値に基づき、後輪トー角操舵トルク値を算出する(ステップS27)。
【0044】
次に、図8を参照して、本実施形態に係る4輪操舵車両による減衰力制御の処理手順について説明する。自動車Vが運転を開始すると、ECU20は、所定の制御インターバル(例えば、2ms)をもって、以下に示す減衰力制御を実行する。
【0045】
ECU20はまず、目標減衰力設定部61において、各センサ9〜15の検出信号に基づき目標減衰力を設定するを設定する(ステップS31)。目標減衰力の設定にあたり、目標減衰力設定部61は、各センサ9〜15の検出信号に基づき自動車Vの運動状態を判定した後、その判定結果からスカイフック制御値とロール制御値とピッチ制御値とを各車輪2についてそれぞれ算出する。そして、目標減衰力設定部61は、これら3つの制御値から、ダンパ3のストローク速度の方向と符号が等しく、絶対値が最も大きいものを目標減衰力として選択する。
【0046】
次にECU20は、目標減衰力補正部62において、目標後輪トー角設定部33から受け取った後輪トー角操舵トルク値と目標後輪トー角との差に基づいて目標減衰力を補正する(ステップS32)。なお、運転フィールに違和感が生じないように設定された後輪トー角操舵トルク値と設定された目標後輪トー角との差から、運転フィールに違和感を生じさせるタイヤ横力が求まり、タイヤ横力および自動車1の緒元から車体1に加わるロールモーメントおよびロールレイトの変化量が求まるため、目標減衰力補正部62は、予め設定されたマップを参照することによりダンパ3の減衰力変化量を求め、この減衰力変化量を加算することで目標減衰力を補正する。
【0047】
そしてECU20は、駆動電流出力部63において、目標減衰力に基づいてダンパ3の駆動電流を出力し(ステップS33)、本処理を終了する。
【0048】
また、自動車Vが運転を開始すると、ECU20は、所定の制御インターバル(例えば、2ms)をもって、以下に示すロール剛性制御を実行する。
【0049】
図9に示すように、ECU20はまず、目標ロール剛性設定部71において、横Gセンサ12の検出信号に基づき目標ロール剛性を設定するを設定する(ステップS41)。次にECU20は、目標ロール剛性補正部72において、目標後輪トー角設定部33から受け取った後輪トー角操舵トルク値と目標後輪トー角との差に基づいて目標ロール剛性を補正する(ステップS42)。なお、目標ロール剛性補正部72で行われる補正は、目標減衰力補正部62で行われる補正と同様である。そしてECU20は、駆動電流出力部73において、目標ロール剛性に基づいてスタビライザアクチュエータ8の駆動電流を出力し(ステップS43)、本処理を終了する。
【0050】
このように、後輪トー角操舵トルク値設定部32が、操舵トルクTに基づいて運転者の意図するヨーレイト、横加速度およびロールレイトの各規範モデルからそれぞれ規範値を設定し、この規範値を実現するための後輪トー角操舵トルク値を設定し、所定の比率で目標後輪トー角に含まれるため、ステアリングフィールに違和感が生ずることが抑制される。また、これにより、同時にロールフィールの違和感も抑制される。
【0051】
そして、目標後輪トー角設定部33が、操舵角に基づくヨーレイト特性、横加速度特性およびロールレイト特性の規範モデルから設定された後輪トー角操舵角値を所定の比率で採用して目標後輪トー角の成分に含めることにより、車両運動性能と運転フィールとの両立が実現される。
【0052】
また、ロールレイト規範値設定部45が、操舵角δfに基づいて運転者の意図するロール規範モデルからロールレイト規範値を設定し、後輪トー角ロールレイト値設定部46がこのロールレイト規範値を実現するための後輪トー角ロールレイト値を設定し、この後輪トー角ロールレイト値所定を所定の比率で目標後輪トー角の成分に含ませるため、ロールフィールに違和感が生じることが抑制される。また、後輪トー角ヨーレイト値設定部42により設定された後輪トー角ヨーレイト値および、後輪トー角横加速度値設定部44により設定された後輪トー角横加速度値もが所定の比率で目標後輪トー角の成分に含まれるため、車両運動性能と運転フィールとの両立が実現される。
【0053】
さらに、ダンパ3およびスタビライザ7が後輪トー角可変装置5と協調して制御されることにより、後輪トー角制御部30によるロール規範制御に加え、これらダンパ3およびスタビライザ7によるロール規範制御が行われるため、更なるロールフィールの向上が実現される。
【0054】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、自動車Vは、操舵アクチュエータ6を左右後輪2rにそれぞれ有する後輪トー角可変装置5を備えているが、後輪操舵機能のみを有する従来の4WS方式であってもよい。また、上記実施形態では、自動車Vが減衰力可変ダンパ3およびアクティブスタビライザ7を搭載しているが、サスペンション装置としてアクティブ制御式のエアサスペンションやハイドロニューマチックサスペンション等を搭載する形態も可能である。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、自動車や制御装置の具体的構成、制御の具体的手順等について適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 車体
2 車輪
3 減衰力可変ダンパ(サスペンション装置)
5 後輪トー角可変装置
7 アクティブスタビライザ(サスペンション装置)
9 操舵角センサ
10 操舵トルクセンサ
19 ステアリングホイール
20 ECU
30 後輪トー角制御部
31 後輪トー角操舵角値設定部
32 後輪トー角操舵トルク値設定部
33 目標後輪トー角設定部(目標後輪操舵角設定手段)
45 ロールレイト規範値設定部(ロール規範値設定手段)
46 後輪トー角ロールレイト値設定部(目標後輪操舵角設定手段)
47 後輪トー角操舵トルク値算出部(目標後輪操舵角設定手段)
51 ヨーレイト規範値設定部(規範値設定手段)
52 後輪トー角ヨーレイト値設定部(目標後輪操舵角設定手段)
53 横加速度規範値設定部(規範値設定手段)
54 後輪トー角横加速度値設定部(目標後輪操舵角設定手段)
55 ロールレイト規範値設定部(規範値設定手段)
56 後輪トー角ロールレイト値設定部(目標後輪操舵角設定手段)
57 後輪トー角操舵トルク値算出部(目標後輪操舵角設定手段)
60 減衰力制御部
62 目標減衰力補正部
70 ロール剛性制御部
72 目標ロール剛性補正部
V 自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるステアリングホイールの操舵を左右前輪の転舵に変換する前輪操舵手段と、左右後輪を操舵制御する後輪操舵制御手段とを有する4輪操舵車両であって、
前記ステアリングホイールに加えられる操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段を備え、
前記後輪操舵制御手段は、
前記操舵トルク検出手段の検出結果に基づいて車体の運動状態量規範値を設定する規範値設定手段と、
前記運動状態量規範値に基づいて目標後輪操舵角を設定する目標後輪操舵角設定手段とを含むことを特徴とする4輪操舵車両。
【請求項2】
前記運動状態量が、車体のヨーレイトと、車体の横加速度と、車体のロール角またはロールレイトとの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の後輪操舵制御装置。
【請求項3】
運転者によるステアリングホイールの操舵を左右前輪の転舵に変換する前輪操舵手段と、左右後輪を操舵制御する後輪操舵制御手段とを有する4輪操舵車両であって、
前記ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角検出手段とを備え、
前記後輪操舵制御手段は、
前記操舵角検出手段の検出結果に基づいて車体のロール角規範値またはロールレイト規範値を設定するロール規範値設定手段と、
前記ロール角規範値またはロールレイト規範値に基づいて目標後輪操舵角を設定する目標後輪操舵角設定手段とを含むことを特徴とする4輪操舵車両。
【請求項4】
車体のロール角またはロールレイトを制御可能なサスペンション装置を更に備え、該サスペンション装置は、前記ロール角規範値またはロールレイト規範値に基づいて駆動制御されることを特徴とする、請求項3に記載の4輪操舵車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−234869(P2010−234869A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82807(P2009−82807)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】