説明

III族窒化物半導体の気相成長装置

【課題】 基板を加熱するためのヒータに通電する電流導入端子が、冷媒を導入する冷却容器に備えられた構成を有するIII族窒化物半導体の気相成長装置であって、ヒータからの熱が電流導入端子を介して気相成長装置の各部品に拡散することを、効果的に抑制できるIII族窒化物半導体の気相成長装置を提供する。
【解決手段】 電気絶縁された電流導入端子の少なくとも一部を厚さ0.1〜1mmのフッ素樹脂膜で被覆し、該フッ素樹脂膜を介して該電流導入端子を冷媒により冷却できる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIII族窒化物半導体の気相成長装置に関し、より詳細には、基板加熱用のヒータに通電するために設けられた電流導入端子から外部への熱拡散を効果的に防止できるIII族窒化物半導体の気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶膜を基板上に成長する方法には、化学的気相成長(CVD)法等があり、基板加熱を伴うCVD法には熱CVD法等が知られている。
近年、高温条件(例えば1000℃以上)で基板を加熱して行う気相成長工程が増加しており、青色若しくは紫外LED又は青色若しくは紫外レーザーダイオードを製作するためのIII族窒化物半導体の気相成長工程もその一つである。例えば、III族窒化物半導体結晶膜の成長は、トリメチルガリウム、トリメチルインジウム、又はトリメチルアルミニウム等の有機金属ガスをIII族金属源として、アンモニアを窒素源として用い、1000℃以上の高温に加熱されたシリコン(Si)、サファイア(Al)又は窒化ガリウム(GaN)等の基板上に結晶膜を気相成長する熱CVD法により行われることがある。このような気相成長工程においては基板が高温で加熱されるため、加熱を要しない部分まで熱伝達により加熱されることがある。そのため、例えば特許文献1に記載のように、気相成長装置の少なくとも一部を冷媒により冷却することがある。
【0003】
基板はヒータを用いて結晶膜の成長に必要な温度に加熱され、このような基板を保持するサセプタ及びサセプタの対面から形成される反応炉に原料ガスを流通することにより気相成長反応が行われる。通常、反応炉は反応容器の中に収められ、外部から遮断されて密閉されている。基板を加熱するヒータは反応容器の内部に設置されることが多く、反応容器の内部に設置されたヒータに通電するためには、反応容器の外部から供給される電流を反応容器の内部に導かなければならず、例えば、反応容器の壁面を貫通する電流導入端子等によりヒータに電流が供給される。反応容器の内部には反応性又は腐食性の原料ガスが流通されるため、ヒータの電流導入端子は、反応容器の密閉性を損なわずに電気絶縁されなければならない。
【0004】
【特許文献1】特許3198956号公報
【特許文献2】特許4540830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような電流導入端子は、反応容器の密閉性を損なわずに電気絶縁されるが、電流導入端子を介して熱が外部に拡散し、外部の器具や装置に悪影響を及ぼす虞があるため、電流導入端子は冷却されることが望ましい。また、基板を比較的高温(例えば1000℃以上)に加熱するIII族窒化物半導体の気相成長装置においては、電流導入端子が冷却されることが特に望ましい。例えば特許文献2には、電流導入端子を冷却可能な構造が示されている。しかし、このような構造は、電流導入端子に冷媒が直接接する構造ではないため冷却効率が悪く、III族窒化物半導体の気相成長装置には適用できなかった。従って、本発明が解決しようとする課題は、ヒータからの熱が電流導入端子を介して気相成長装置の各部品に拡散することを、効果的に抑制できる気相成長装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意検討した結果、基板を加熱するためのヒータに通電する電流導入端子が、冷媒を導入する冷却容器に備えられた構成を有するIII族窒化物半導体の気相成長装置において、電気絶縁された電流導入端子の少なくとも一部を厚さ0.1〜1mmのフッ素樹脂膜で被覆し、該フッ素樹脂膜を介して該電流導入端子を冷媒により冷却することにより、前述の課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、基板を加熱するためのヒータに通電する電流導入端子が、冷媒を導入する冷却容器に備えられた構成を有するIII族窒化物半導体の気相成長装置であって、電気絶縁された電流導入端子の少なくとも一部が厚さ0.1〜1mmのフッ素樹脂膜で被覆され、該フッ素樹脂膜を介して該電流導入端子が冷媒により冷却されるように構成されてなることを特徴とするIII族窒化物半導体の気相成長装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の気相成長装置においては、電気絶縁された電流導入端子の少なくとも一部が厚さ0.1〜1mmのフッ素樹脂膜で被覆され、該フッ素樹脂膜を介して該電流導入端子が冷媒により冷却されるので、電流導入端子は効率よく冷却され、外部への熱伝達を抑制できる。
また、本発明の気相成長装置においては、電流導入端子の少なくとも一部が優れた耐熱性及び電気絶縁性を有するフッ素樹脂膜で被覆されているため、冷媒との接触による漏電も防ぐことができる。特に、冷却容器が金属又は合金からなる場合、又は冷媒として水を用いる場合には、このような構成は漏電防止のためにも有効である。さらに、本発明の気相成長装置においては、前述した膜の材質がフッ素樹脂であるため、膜の劣化やはがれによる漏電を効果的に防止でき、特にフッ素樹脂をテフロン(登録商標)とすることにより膜の劣化やはがれによる漏電をより効果的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、基板を加熱するためのヒータに通電する電流導入端子が、冷媒を導入する冷却容器に備えられた構成を有するIII族窒化物半導体の気相成長装置に適用される。以下、本発明の気相成長装置を、図1〜図5に基づいて詳細に説明するが、本発明がこれらにより限定されることはない。
尚、図1は、本発明の気相成長装置の一例を示す垂直断面構成図であり、図2は、図1に示すA部の部分拡大図であり、図3は、図1のB−B水平断面構成図、図4は、図1のC−C水平断面構成図、図5は、図1のD−D水平断面構成図である。尚、本明細書において、1次側とは、ヒータに電流を供給する電源が接続されている側を指し、2次側とは、ヒータが接続されている側を指すものとする。
【0010】
本発明の気相成長装置は、図1に示すように、基板3を加熱するためのヒータ9に通電する電流導入端子10が、冷媒を導入する冷却容器2に備えられた構成を有する。また、電流導入端子10は電気絶縁されており、電気絶縁端子10の少なくとも一部は厚さ0.1〜1mmのフッ素樹脂膜で被覆されており、電流導入端子10はこのようなフッ素樹脂膜を介して冷媒により冷却される。
【0011】
次に、電流導入端子10及び絶縁材22を図2により詳細に説明する。電流導入端子10の形状は、断面が円形、三角形、四角形又は多角形の棒状であることが好ましく、断面が円形の棒状であることがより好ましいが、このような形状に限定されることはない。また、電流導入端子10には長さ方向の中央に突出部26が設けられていることが好ましいが、このような形状に限定されることはない。電流導入端子10は、直径5〜50mmの円形断面を有し、長さ30〜300mmの棒状であり、断面の半径方向に均等に5〜30mm突出した厚さ2〜50mmの突出部が電流導入端子10の長さ方向の中央に設けられた形状であることがより好ましいが、このような形状に限定されることはない。
【0012】
電流導入端子10を冷媒から電気絶縁するために、電流導入端子10の少なくとも一部がフッ素樹脂膜により被覆されており、少なくとも冷媒に接する部分がフッ素樹脂膜で被覆されていることが好ましく、少なくとも突出部26がフッ素樹脂膜で被覆されていることがより好ましいが、このような形態に限定されることはない。このようなフッ素樹脂膜の厚さは、0.1〜1mmであることが好ましいが、このような厚さに限定されることはない。尚、冷却容器2の外側の電流の流通部は、必要に応じて電気絶縁される。
【0013】
絶縁材22は、外径15〜110mm、内径5〜50mm、長さ5〜150mmの円筒形であることが好ましいが、このような形状に限定されることはない。電流導入端子10及び絶縁材22が前述のような形状の場合、電流導入端子10は、絶縁材22に挿入されることにより電気絶縁される。尚、絶縁材22の内径は、電流導入端子の直径より大きく、突出部の直径より小さいことが好ましい。また、絶縁材22には、後述する1次側孔部23又は2次側孔部24のように冷却容器2に設けられた孔部の側面と電流導入端子10を電気絶縁するために孔部の側面と電流導入端子10の間に挿入される挿入部28をさらに有してもよいが、孔部の側面と電流導入端子10の間に空隙29を設けることにより電気絶縁することも可能である。絶縁材22が前述のような形状及び大きさである場合、挿入部28は、外径10〜100mm、内径5〜50mm、長さ5〜50mmの円筒形であり、前述の円柱形の上面又は下面に設けられていることが好ましい。
【0014】
一方、結晶膜を生成するための気相成長反応は反応容器1の内部で行われる。本発明に用いられる反応容器1及びその内部の構成に限定はないが、その一例を図1に示す。反応容器1の内部には、結晶膜を気相成長させるための基板3、基板を加熱するためのヒータ9、基板3を保持するリング状の基板ホルダー4、基板ホルダー4を保持する円盤状のサセプタ6、ベアリング13によりサセプタ6を回転自在に保持するリング状の架台18が備えられており、これらの部材は外形が円盤状の反応容器1の中に収められている。基板3は結晶膜の成長が行われる成長面を下向きにして配置されているが、本発明は下向きの配置に限定されることはなく、例えば、基板3は上向き又は横向きに配置されてもよい。基板3を裏面から加熱するヒータ9は反応容器内の上部に設置されるため、冷却容器2も反応容器1の上方に配置され、ここでは反応容器1及び冷却容器2は一体として製作されている。また、本発明は、反応容器の中央部から原料ガスを供給し、周辺部から外部に排出する気相成長装置に限定されることなく、例えば反応容器の一端から原料ガスを供給し、反応後のガスを他の一端から外部に排出する気相成長装置に適用することもできる。
【0015】
次に、冷却容器2の内部を図1により詳細に説明する。電流導入端子10は各ヒータ9に対して2個ずつ接続されている。電流導入端子10は冷却容器2に収納され、冷却容器2に設けられた通電用の1次側孔部23と2次側孔部24に固定された絶縁材22により挟持されている。電流導入端子10の上端及び下端は、それぞれ1次側孔部23及び2次側孔部24から冷却容器2の外部に露出している。冷却容器2の下方には反応容器1が設けられており、1次側孔部23から冷却容器2の外部に露出した電流導入端子10の上端は電源及び電流制御装置(図示しない)に接続され、2次側孔部24から冷却容器2の外部に露出した電流導入端子10の下端は、反応容器1の内部に設けられたヒータ9に接続され、ヒータ9に通電がなされる。また、電流導入端子10の長さ方向の中央に突出部26が設けられているので、突出部26の上面と冷却容器2の上部壁面との間に挟持された絶縁材22、及び突出部26の下面と冷却容器2の下部壁面との間に挟持された絶縁材22により、電流導入端子10から冷却容器2を電気絶縁することができる。1次側孔部23及び2次側孔部24は、電流導入端子10の直径よりも大きい直径を有する円形であることが好ましく、絶縁材22の外径より小さく、絶縁材22の挿入部27の外径より大きい直径を有する円形であることが好ましいが、特に限定されることはない。1次側孔部23及び2次側孔部24は、直径10〜100mmの円形であることがより好ましいが、特に限定されることはない。例えば、図2においては、1次側孔部23に固定される絶縁材22として挿入部28を有するものを用い、2次側孔部24に固定される絶縁材22として挿入部28を有さないものを用い、2次側孔部24の側面と電流導入端子10の間には空隙29を設けた。冷却容器2の内部と反応容器1の内部を遮断し、冷却容器2を外部から遮断し、反応容器1及び冷却容器2をそれぞれ密閉するために、シール部材、特に環状の樹脂製シール部材を用いることが好ましい。例えば、図2においては、突出部26の上面と絶縁材22の間、冷却容器2の上部壁面と絶縁材22の間、及び突出部26の下面と絶縁材22の間、冷却容器2の下部壁面と絶縁材22の間に、それぞれ環状のシール部材26が挿入されている。このようにして電流導入端子10は、冷却容器2に設けられた通電用の1次側孔部25と2次側孔部24に固定された絶縁材22により挟持される。
また、冷却容器2には、反応炉の中心から周縁に向けて冷媒が流れるように冷媒の出入口が設けられているが、中心から周縁に向けて冷媒が流れる構成に限定されることはない。冷却容器2の各所で冷却が均一に行われるために、流路の途中に仕切板を設けて冷媒の流れを均一にすることもできる。図1に示すように、電流導入端子10を冷却するために反応容器1の上方に設けられた冷却容器2以外に、サセプタの対面7を冷却するために反応容器1の下方にも別の冷却容器を設けることができる。
【0016】
次に、結晶膜を生成するための気相成長反応が行われる反応容器1及びその内部を図1により詳細に説明する。基板3は成長面を下向きにした状態で基板ホルダー4により保持されているが、上向きに保持される構造でもよく、成長面の向きは特に限定されない。基板ホルダー7は、直径が2インチ、3インチ、4インチ又は6インチの基板を1枚保持できるが、特にこれらの大きさの基板に限定されない。回転自在に保持されたサセプタ6を回転駆動器15から伝達される回転駆動力により回転させることができる。サセプタ6を回転させる場合には、回転駆動器15からの回転駆動力は、磁性流体シール等の手段により反応容器1の密封性を損なわないように回転自在にシールされた回転駆動軸16を介して、回転駆動軸16のサセプタ側先端に固定された回転板17に伝達される。サセプタ6の周縁部及び回転板17の周縁部にはそれぞれ歯車が設けられており、それらが互いに噛み合わさることにより回転駆動器15からの回転駆動力はサセプタ6に伝達されて、サセプタ6は回転する。このようにしてサセプタを回転させることにより均一な膜質及び膜厚の結晶膜を得ることができる。
【0017】
サセプタ6は、サセプタの対面7とともに反応炉8を形成し、反応炉8は、反応容器1に収められ密封され、反応炉8には原料ガス導入部11が設けられている。気相成長反応は、電流導入端子10から導入される電流により発熱するヒータ9で基板3を加熱しながら、原料ガス導入部11から原料ガスを供給することにより行われ、基板3の成長面には結晶膜が形成される。気相成長反応に用いられた原料ガスは、そのまま反応ガスとして反応ガス排出部12から排出される。例えば、図2において、反応炉8の中心部に設けられた原料ガス導入部11からの原料ガスは、原料ガス導入部11から放射状に吹き出し、基板3の成長面に対して水平に供給されるが、このような形態に限定されることはない。基板ホルダー4には、ヒータ9からの熱を基板3に均一に熱を伝達するために均熱板5を設けてもよい。気相成長反応中、サセプタ6を常時回転させることが好ましく、サセプタ6の回転方向及び回転速度は、回転駆動器15の回転方向及び回転速度を変化させることにより、任意に設定することができる。各基板間において均一な膜厚及び膜質を得るためには、各基板ホルダー4を反応炉の中心に対して同一円周上に配置して、原料ガス導入部11からの距離を等しくすることが好ましいが、特に限定されない。
【0018】
反応容器1及び冷却容器2を構成する材質には、金属又は合金が挙げられるが、これらの材質に限定されることはない。反応容器1は、内部が高温になり、内部に反応性又は腐食性の原料ガスが流通され、反応炉を外気から遮断し、気相成長反応を制御するために反応炉の圧力を減圧、常圧または加圧に変化させる場合があるので、その材質は耐熱性、耐食性及び強度を備えた金属又は合金であることが好ましいが、これらの材質に限定されることはない。冷却容器2は、反応性又は腐食性の原料ガスが流通される反応容器1に隣接し、冷媒が高温になることが想定されるので、その材質は耐熱性、耐食性及び強度を備えた金属又は合金であることが好ましいが、これらの材質に限定されることはない。基板ホルダー4、サセプタ6、サセプタの対面7及び回転板17は、カーボン系材料又はカーボン系材料をセラミック材料でコーティングしたものが好ましいが、特に限定されない。回転駆動軸16は、金属、合金、金属酸化物、カーボン系材料、セラミック系材料、カーボン系材料をセラミック材料でコーティングしたもの、又はこれらの組み合わせが好ましいが、特に限定されない。ヒータ9はカーボンヒータ又はセラミックヒータが好ましいが、これらのヒータに限定されることはない。電流導入端子10は、導電性を有する金属又は合金が好ましく、耐食性向上のために表面全体が導電性のめっき層で被覆された金属又は合金がより好ましいが、特に限定されることはない。ベアリング13は、セラミック材料であることが好ましいが、セラミック材料に限定されることはない。絶縁材22は、電気絶縁性を有する樹脂又はセラミック材料であることが好ましいが、これらの材質に限定されることはない。電流導入端子10のシール部材25は、電気絶縁性及び耐熱性を有する樹脂であることが好ましいがこのような材質に限定されることはない。
【0019】
ここで、樹脂の例には、フッ素樹脂が挙げられるが、フッ素樹脂に限定されることはない。フッ素樹脂の例には、テフロン(登録商標)又はバイトン(登録商標)が挙げられるが、これらに限定されることはない。金属の例には、アルミニウム又は銅があるが、これらに限定されることはない。合金の例には、ステンレス又はインコネルがあるが、これらに限定されることはない。カーボン系材料の例には、カーボン、パイオロリティックグラファイト(PG)、グラッシカーボン(GC)等があるが、これらに限定されることはない。セラミックス系材料の例には、アルミナ、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)、窒化ホウ素(BN)等があるが、これらに限定されることはない。
【0020】
反応容器1及び冷却容器2を構成する材質はステンレスが特に好ましい。電流導入端子10は、表面全体が無電解ニッケルめっき層で被覆された銅が特に好ましく、フッ素樹脂膜はテフロン(登録商標)が特に好ましい。基板ホルダー4、サセプタ6、サセプタの対面7及び回転板17は、SiCコートカーボン、ヒータ9はカーボンヒータ、ベアリング13はアルミナ、回転駆動軸16はステンレス、絶縁材22はテフロン(登録商標)、シール部材25はバイトン(登録商標)であることが特に好ましい。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明がこれらにより限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
(気相成長装置の製作)
図1〜5に示すような気相成長装置を製作した。サセプタ6(SiCコートカーボン製、直径720mm、厚さ11mm、6インチの基板を6枚保持可能)を製作し、直径6インチのサファイア基板を1枚保持可能である基板ホルダー4(SiCコートカーボン製)6個を上記のサセプタ6により保持した。電流導入端子10は、直径19.8mmの円形断面を有する長さ100mmの棒状であり、断面の半径方向に均等に15mm突出した厚さ20mmの突出部26を電流導入端子10の長さ方向の中央に設けた。電流導入端子10は、表面全体が無電解ニッケルめっき(厚さ5μm)層で被覆された銅からなるが、さらに突出部26の表面を、厚さ0.4mmのフッ素樹脂膜で被覆することにより、電流導入端子10が冷媒に接触する部分を電気絶縁した。次に、外径48mm、内径20mm、長さ12mmの円筒形の絶縁材22を各電流導入端子10に対して2個ずつ用意した。ただし、1次側孔部23に固定される絶縁材22の上面には、直径24.8mm、内径20mm、長さ17mmの円筒形の挿入部28が設けられている。冷却容器2には、直径25mmの円形を有する1次側孔部23及び2次側孔部24を各電流導入端子10について1つずつ設けた。次に、電流導入端子10を冷却容器2に収納し、電流導入端子10の上端及び下端を、それぞれ1次側孔部23及び2次側孔部24から冷却容器2の外部に15mmずつ露出させた。各電流導入端子10において、突出部26の上面と冷却容器2の上部壁面との間、及び突出部26の下面と冷却容器2の下部壁面との間に絶縁材22を1個ずつ挟持させ、1次側孔部23の側面と電流導入端子10の間には挿入部28が挿入され、2次側孔部24の側面と電流導入端子10の間には空隙29が生じた。突出部26の上面と絶縁材22の間、冷却容器2の上部壁面と絶縁材22の間、及び突出部26の下面と絶縁材22の間、冷却容器2の下部壁面と絶縁材22の間に、それぞれ環状でバイトン(登録商標)製のシール部材25を挿入した。電流導入端子10の上端にヒータ9に電流を供給する電源及び電流制御装置(図示しない)に接続し、電流導入端子10の下端にヒータ9を接続し、ヒータ9の発熱により基板3を加熱できるようにした。
【0023】
(気相成長実験)
このような気相成長装置を用いて、基板3の表面に窒化ガリウム(GaN)を成長させた。まず、水を冷媒として用い、これを19L/minの流量で反応容器1の上方に設けた冷却容器2に流通させ、すべての成長が終了するまで、水の流通を継続し、反応容器内を大気圧に保った。
次に、原料ガス導入部11から水素を流しながらヒータ9の温度を1050℃まで昇温させ、基板のクリーニングを行った。続いて、ヒータ9の温度を510℃まで下げて、原料ガスとしてトリメチルガリウム(TMG)とアンモニア、キャリアガスとして水素を用いて、基板上にGaNからなる膜厚20μmのバッファー層の成長を行い、バッファー層成長後に、TMGのみ供給を停止し、ヒータ9の温度を1050℃まで上昇させた。その後、原料ガス導入部11から、TMGとアンモニアの他に、キャリアガスとして水素と窒素を供給して、アンドープGaNの成長を1時間行った。アンドープGaN成長終了直前、冷却容器2に流通されている水の温度は、反応容器上流で28℃であり、反応容器下流で38℃であった。アンドープGaNの成長が終了した後、基板を室温付近まで放冷させ、反応容器から取り出した。
【0024】
以上のようなGaNの気相成長を10回繰り返したが、すべての成長において気相成長装置は正常に作動し、ヒータに接続された電源及び電流制御装置等の外部の機器に異常はなく、漏電等の異常もなかった。次に、電流導入端子10を気相成長装置から取り外し、突出部26のフッ素樹脂膜の厚さを測定したところ0.4mmであり、フッ素樹脂膜のはがれ等の異常も確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、青色又は紫外の発光ダイオード又はレーザーダイオード等の製造に用いられるIII族窒化物半導体の気相成長装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の気相成長装置の一例を示す垂直断面構成図
【図2】図1に示すA部の部分拡大図
【図3】図1のB−B水平断面構成図である。
【図4】図1のC−C水平断面構成図である。
【図5】図1のD−D水平断面構成図である。
【符号の説明】
【0027】
1 反応容器
2 冷却容器
3 基板
4 基板ホルダー
5 均熱板
6 サセプタ
7 サセプタの対面
8 反応炉
9 ヒータ
10 電流導入端子
11 原料ガス導入部
12 反応ガス排出部
13 ベアリング
14 ベアリング溝
15 回転駆動器
16 回転駆動軸
17 回転板
18 架台
19 冷媒の流れ
20 冷媒入口
21 冷媒出口
22 絶縁材
23 1次側孔部
24 2次側孔部
25 シール部材
26 突出部
27 フッ素樹脂膜
28 挿入部
29 空隙


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を加熱するためのヒータに通電する電流導入端子が、冷媒を導入する冷却容器に備えられた構成を有するIII族窒化物半導体の気相成長装置であって、電気絶縁された電流導入端子の少なくとも一部が厚さ0.1〜1mmのフッ素樹脂膜で被覆され、該フッ素樹脂膜を介して該電流導入端子が冷媒により冷却されるように構成されてなることを特徴とするIII族窒化物半導体の気相成長装置。
【請求項2】
冷却容器が金属または合金からなる請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
フッ素樹脂がテフロン(登録商標)樹脂である請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項4】
冷媒が水であることを特徴とする請求項2に記載の気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−73986(P2013−73986A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210073(P2011−210073)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000229601)日本パイオニクス株式会社 (96)
【Fターム(参考)】