III族窒化物半導体基板の製造方法およびIII族窒化物半導体基板
【課題】手間を要さず、下地基板を剥離することができるIII族窒化物半導体基板の製造方法、およびこの製造方法により製造されたIII族窒化物半導体基板を提供すること。
【解決手段】本実施形態の自立基板の製造方法は、以下の工程を含むものである。(i)下地基板10上に、炭化アルミニウム層11を形成する工程、(ii)上記炭化アルミニウム層11を窒化する工程、(iii)窒化された上記炭化アルミニウム層12の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程、(iv)上記III族窒化物半導体層から、上記下地基板10を除去し、上記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程。
【解決手段】本実施形態の自立基板の製造方法は、以下の工程を含むものである。(i)下地基板10上に、炭化アルミニウム層11を形成する工程、(ii)上記炭化アルミニウム層11を窒化する工程、(iii)窒化された上記炭化アルミニウム層12の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程、(iv)上記III族窒化物半導体層から、上記下地基板10を除去し、上記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体基板の製造方法およびIII族窒化物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ガリウム(GaN)結晶のバルク結晶を、青紫色レーザーや白色発光ダーオード作製用の基板に使用する試みが行なわれている。しかしながら、GaNのような結晶では、窒素の解離圧が高いことにより、GaAsのように溶液から大きなバルク結晶を得ることが難しく、工業的に利用できるバルクGaN半導体結晶の作製は非常に困難である。
【0003】
このため、GaN半導体基板の作製には、HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法が主に用いられている。
特許文献1には、HVPE法を用いたGaN半導体基板の製造方法が開示されている。この製造方法では、サファイア(Al2O3)基板上に、ストライプ状に配置された断面矩形形状の被覆部および被覆部間に形成された開口部を有するマスクを形成する。このマスクの被覆部は、サファイア基板の<11−20>、GaN半導体の<1−100>方向に延在する。
マスク形成後、その開口部からGaN半導体層を成長させ、前記マスクの被覆部上面を、完全には覆わない状態で成長を止める。次に、マスクをドライエッチングにより除去し、GaN半導体層上にさらにGaN半導体層を成長させる。その後、サファイア基板をそのまま剥離し、GaN半導体基板を得る。
ところが、従来のGaN半導体基板の製造方法では、GaN半導体層からサファイア基板を剥離する際、GaN半導体層が損傷を受けることが多く、ひどい場合にはGaN半導体層が粉々に割れてしまうことがあった。
【0004】
そこで、このような課題を解決するために、サファイア基板を剥離する様々な方法が提案されている。
サファイア基板を剥離する従来の方法としては、たとえば、特許文献2に記載の方法が挙げられる。この方法では、GaN半導体層を加熱しながらサファイア基板側からレーザ光を照射する。レーザ光としては、波長が355nmのYAGレーザを用いる。レーザ光はGaN半導体層で吸収され、これによってサファイア基板とGaN半導体層との界面近傍のGaNは熱分解され、剥離が起こる。
【0005】
また、サファイア基板を剥離する従来の方法として、特許文献3に記載された方法もあげられる。
この方法では、サファイア基板上に、金属膜(たとえば、アルミニウム膜)を堆積させ、この金属膜上にGaNを成長させ、GaN半導体層を形成する。そして、金属膜をエッチングすることにより、GaN半導体層からサファイア基板を剥離する。
【特許文献1】特開2003−55097号公報
【特許文献2】特開2002−57119号公報
【特許文献3】特開2002−284600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された技術では、剥離のための高額なレーザ照射装置が必要であり、レーザ光を走査しながらサファイア基板を剥離しなければならないため、サファイア基板の剥離に手間を要する。
同様に、特許文献3に記載された技術においても剥離のためのエッチング設備が必要であり、エッチング液がサファイア基板とGaN膜の界面に浸透しにくく、特に大きな面積の金属膜を完全にエッチングで除去するには長時間を必要とする。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、手間を要さず、下地基板を剥離することができるIII族窒化物半導体基板の製造方法、並びに、この製造方法により製造されたIII族窒化物半導体基板およびこの基板上に形成したデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、下地基板上に、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成する工程と、前記炭化物層を窒化する工程と、窒化された前記炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板を除去し、前記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程と、を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
【0009】
特許文献3では、サファイア基板上に金属膜を形成していたのに対し、本発明では、下地基板上に炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成しており、これら炭化物層を窒化している。炭化アルミニウム層、炭化チタン層、炭化ジルコニウム層、炭化ハフニウム層、炭化バナジウム層、炭化タンタル層の化合物形態としては、それぞれAl4C3、TiC、ZrC、HfC、VC、TaCが主成分である。
【0010】
炭化アルミニウム層は窒化によって(1)式に示すようにAlNとCH4を生成する。一方、炭化チタン層、炭化ジルコニウム層、炭化ハフニウム層、炭化バナジウム層、炭化タンタル層は、(2)式に示すようにTiN、ZrN、HfN、VN、TaNとCH4を生成する。炭化アルミニウム層、炭化チタン層、炭化ジルコニウム層、炭化ハフニウム層、炭化バナジウム層、炭化タンタル層を窒化すると下地基板と接する部分にはAl4C3、TiC、ZrC、HfC、VCまたはTaCが残り、その上にはAl4C3、TiC、ZrC、HfC、VCまたはTaCの結晶情報を引き継いだAlN、TiN、ZrN、HfN、VNまたはTaNを有する、窒化された炭化アルミニウム層が形成される。
【0011】
Al4C3からAlN、TiCからTiN、ZrCからZrN、HfCからHfN、VCからVNまたはTaCからTaNへの結晶情報の引継ぎは、これら炭化物と窒化物の結晶構造が同一で、図1に示すように格子不整合(=((aGaN-a炭化物)/a炭化物)×100、a:格子定数)が小さいため極めて良好である。かつこれらすべての化合物の結晶構造が図2に示すように六方晶あるいは面心立方晶に属するため、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長するのに適している。VCやTaCと同じ遷移金属V族炭化物に属するNbCは、炭化物と窒化物の格子不整合が大きく、さらにGaNとNbNとの格子不整合(%)も大きいことから、炭化物層として適さない。
なお、図2の原子間距離を算出するための格子定数は、joint committee on powder diffraction standards(JCPDS− International Centre for Diffraction Data 1998)および金属データブック(1974)、p275を参照した。
【0012】
Al4C3+4NH3→4AlN+3CH4・・・(1)式
2MC+2NH3+H2→2MN+2CH4・・・(2)式
(2)式において、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Ta
【0013】
窒化された炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長する過程では、AlN、TiN、ZrN、HfN、VNまたはTaN上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させるが、下地基板上に残ったAl4C3、TiC、ZrC、HfC、VCまたはTaCにおいては、III族窒化物半導体から供給される窒素原子がAlN、TiN、ZrN、HfN、VNまたはTaNを介して拡散し、(3)式および(4)式で示す窒化反応が進行する。
III族窒化物半導体をエピタキシャル成長する間にAlN、TiN、ZrN、HfN、VNまたはTaNはIII族窒化物半導体と混晶を形成し、最終的に下地基板との境界面にCが濃縮したIII族窒化物半導体層が形成される。
【0014】
Al4C3+4N→4AlN+3C・・・・・・・・・・・・(3)式
MC+N→MN+C・・・・・・・・・・・・・・・・(4)式
(4)式において、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Ta
【0015】
CはIII族窒化物半導体や下地基板に対して不活性であるため、Cが濃縮した境界面では、III族窒化物半導体層と下地基板との結合強度が低下し、極めて小さな応力で下地基板を分離することが可能となる。
従って、本発明によれば、従来のように手間をかけることなくIII族窒化物半導体層から、下地基板を容易に除去することができ、III族窒化物半導体基板の製造方法が簡便なものとなる。
なお、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタルは、一般的に不定比組成であることが知られており、C/Mモル比(Mは、Al、Ti、Zr、Hf、V、Ta)が3/4あるいは1/1などに限定されるものではない。
【0016】
この際、前記炭化物層を窒化した後、その上にIII族窒化物半導体膜を300℃以上1000℃以下の成長温度で成長させ、その後、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程を実施することが好ましい。
その役割としては主として2点が考えられる。その一つは、バッファ層としての作用で、窒化された炭化物層上にIII族窒化物半導体膜を300℃以上1000℃以下の成長温度で成長させることで、このIII族窒化物半導体膜上に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を高めることができる。もう一つは、保護膜としての作用である。窒化された炭化物層は、Al4C3とAlN、あるいは、MCとMN(Mは、Ti、Zr、Hf、V、Ta)から構成されているが、MCや、Al4C3は水分と接触すると酸化分解が急速に進むことがある。窒化された炭化物層上にIII族窒化物半導体膜を形成することで、MC,Al4C3は水分との接触が断たれ、窒化された炭化物層上へのIII族窒化物半導体層のエピタキシャル成長を良好なものとさせることができる。
【0017】
また、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程は、窒化された前記炭化物層の上部にファセット構造を形成させながら前記III族窒化物半導体層を成長させる工程を含むことが好ましい。
ファセット構造を形成させながらIII族窒化物半導体層を成長させるので、上部のIII族窒化物半導体層中に結晶欠陥が伝達されることが抑制される。これにより、結晶品質のよいIII族窒化物半導体層を得ることができる。
【0018】
また、III族窒化物半導体基板を得る前記工程では、前記下地基板、窒化された前記炭化物層、前記下地基板との境界面にCが濃縮したIII族窒化物半導体層を冷却し、この冷却により、前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板が分離除去されることが好ましい。
この方法によれば、下地基板の熱膨張係数とIII族窒化物半導体層の熱膨張係数の違いにより発生する応力を利用して、下地基板とIII族窒化物半導体層とを容易に分離することができる。
【0019】
また、炭化物層を形成する前記工程では、炭化チタンの炭化物層を形成してもよい。炭化チタンは、スパッタリング装置を利用し、ターゲットして炭化チタンを使用することで下地基板上に形成することができる。スパッタガスとしてはアルゴンが一般的であるが、C/Ti比のずれを抑制するために炭化水素ガスを微量導入するとさらに良い。下地基板は加熱することが好ましい。
さらに、炭化物層を形成する前記工程は、トリメチルアルミニウムを原料ガスとしたMOVPE法を用いるのが好ましい。有機アルミニウムの中でトリメチルアルミニウムは、加熱した下地基板上で容易に分解しAl4C3を形成するので最適である。MOVPE法を用いることで、膜厚制御された良質なAl4C3を形成することが可能となるだけでなく、その後に行う炭化物層の窒化工程、好ましくはIII族窒化物半導体膜を300℃以上1000℃以下の成長温度で成長させる工程までを一つの装置内で連続して行うことが可能である。
【0020】
炭化物層を形成する手段としては、その他に真空蒸着装置、スパッタリング装置などの薄膜形成装置を利用して、下地基板にアルミニウム等の金属膜とカーボン膜を重ねて形成した後で加熱する方法、下地基板を加熱しながら金属膜とカーボン膜を重ねて形成する方法、下地基板に金属膜を形成後、下地基板を加熱しながら炭素源となる炭化水素ガスを供給する方法、炭化水素ガスを微量導入することで金属とカーボンを結合させながら下地基板上に炭化物層として形成する方法(反応性スパッタリング)などがあり、本発明の効果を達成することができれば形成方法を問わない。
【0021】
さらに、炭化物層の厚さは、20nm乃至140nmであることが好ましい。炭化物層の厚さが20nmより薄い場合、炭化物層は殆ど窒化物に変化し、III族窒化物半導体層が窒化物を介して下地基板と強固に結合するため、III族窒化物半導体層から下地基板を分離除去することは困難となる場合がある。一方、140nmより厚い場合、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長後にも炭化物層が残留し、炭化物層によって下地基板とIII族窒化物半導体層が強固に結合するため、III族窒化物半導体層から下地基板を分離除去することは困難となる場合がある。
【0022】
さらに、炭化物層を窒化する温度は300℃以上、900℃以下が好ましい。300℃未満では炭化物層の窒化速度が遅い。したがってIII族窒化物半導体層を成長した後でも下地基板とIII族窒化物半導体層の間に炭化物が残留し、強固な結合を保持するためIII族窒化物半導体層を分離除去することが困難となる場合がある。また、900℃より高温にすると炭化物層の窒化が促進されるため、炭化物は殆ど窒化物に変化し、III族窒化物半導体層が窒化物を介して下地基板と強固に結合するため、III族窒化物半導体層から下地基板を分離除去することが困難となる場合がある。
炭化物層を窒化する温度を300℃以上、900℃以下とすることで、III族窒化物半導体層から、下地基板をより容易に除去することができる。
【0023】
なお、炭化物層を窒化した後、その上にIII族窒化物半導体膜を300℃以上、1000℃以下、好ましくは、350℃以上800℃以下の成長温度で成長させ、その後、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程において、III族窒化物半導体膜の厚さを10nmから200nmに制御することが好ましく、20nm以上、140nm以下に制御することが更に好ましい。III族窒化物半導体膜が20nm未満の場合、バッファ層を形成するのに十分な厚さでなく、また窒化した炭化物層の保護皮膜としても十分機能しない場合がある。一方、140nmより厚い場合、窒化した炭化物層の結晶情報を引き継ぎにくくなるだけでなく、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる間に成長層上に割れが発生する場合がある。
【0024】
また、本発明によれば、下地基板上に、金属の炭化物層を形成する工程と、前記炭化物層を窒化する工程と、窒化された前記炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板を除去し、前記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程と、を含み、炭化物層を形成する前記工程では、下地基板との格子不整合率が11%以下である炭化物層を形成することを特徴とするIII族窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
下地基板との格子不整合率が11%以下である金属の炭化物層を形成することで、格子不整合に起因して発生する欠陥を低減でき、さらに、下地基板の結晶情報を引き継ぐことができる。これにより、結晶性の良好な炭化物層を形成することができ、さらには、炭化物層上に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を良好なものとすることができる。
ここで、金属の炭化物層は、遷移金属V族炭化物または遷移金属IV族炭化物であることが好ましい。
【0025】
さらに、炭化物層を形成する前記工程では、立方晶の炭化物層を形成することが好ましい。
立方晶の炭化物層は、窒化した際に、格子定数の変化が小さい。従って、窒化された炭化物層の上部に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を良好なものとすることができる。
【0026】
また、炭化物層を形成する前記工程では、炭化チタンの炭化物層を形成することが好ましい。
炭化チタンは、酸化されにくいという特性を有するため、炭化チタンの炭化物層上に、炭化チタンの炭化物層を保護するようなIII族窒化物半導体膜をしなくてもよい。従って、III族窒化物半導体基板の製造に手間を要しない。
【0027】
また、本発明によれば、上述したいずれかの製造方法により製造されたIII族窒化物半導体基板も提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、手間を要さず、下地基板を剥離することができるIII族窒化物半導体基板の製造方法、および、この製造方法により製造されたIII族窒化物半導体基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、GaN自立基板の製造方法を例に挙げ図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0030】
本実施形態に係る自立基板の製造方法の概要について説明する。本実施形態の自立基板の製造方法は、以下の工程を含むものである。
(i)下地基板上に、炭化物層を形成する工程、
(ii)上記炭化物層を窒化する工程、
(iii)窒化された上記炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程
(iv)上記III族窒化物半導体層から、上記下地基板を除去し、上記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程
【0031】
以下、炭化物層として炭化アルミニウムを使用した場合について、本実施形態の自立基板の製造方法について詳述する。
(炭化アルミニウム層の形成工程)
まず、下地基板として、たとえば、厚さ550μmの3インチφのサファイア(Al2O3)基板10を用意する。次に、このサファイア基板10上に、炭化アルミニウム層11を形成する(図3(A))。炭化アルミニウム層11は、有機アルミニウムガス(例えば、トリメチルアルミニウム)を原料ガスとして形成される。
炭化アルミニウム層11の成膜条件は、例えば以下のようにする。
【0032】
成膜方法:有機金属気相成長(MOVPE)法
原料ガス:トリメチルアルミニウム(TMAl)、水素(H2)ガス、窒素(N2)ガス
成膜温度:300℃〜1000℃
成膜時間:5分〜60分
膜厚:20nm〜140nm
【0033】
キャリアガスとしては、水素、窒素、アルゴンなどトリメチルアルミニウムと反応し難いガスを選択すればよいが、ここでは水素ガスまたは/および窒素ガスをキャリアガスとして使用している。
キャリアガスとして窒素ガスを使用する場合、窒素ガスのモル分圧をTMAlのモル分圧に対して一定以上にすると、炭化アルミニウムでなく、窒化アルミニウム(AlN)が形成されてしまうことがある。そのため、窒素ガスのモル分圧をTMAlのモル分圧に対して所定値以下にする必要がある。本実施形態では、TMAlのモル分圧に対する窒素ガスのモル分圧比を1.8×105以下としている(TMAl、18℃)。好ましくはキャリアガスとして水素ガスのみを使用すればAlNの形成は起こらない。
また、炭化アルミニウム層11の成膜温度は、300℃〜1000℃であればよいが、400℃以上であることが好ましく、600℃以下であることが好ましい。
【0034】
(炭化アルミニウム層を窒化する工程)
次に、図3(B)に示すように、炭化アルミニウム層11を300℃〜900℃の雰囲気下で窒化し、窒化した炭化アルミニウム層12を形成する。
炭化アルミニウム層11の窒化条件は、例えば以下のようにする。
【0035】
窒化ガス:アンモニア(NH3)ガス、H2ガス、N2ガス
窒化温度:300℃〜900℃
窒化時間:5分〜60分
なお、窒化温度は500℃以上700℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは550℃以下である。550℃より高温にすると、(5)式に示すとおりCH4が分解してCが析出し、CがAlNに混入することでIII族窒化物半導体層の結晶性が低下する場合がある。Cの析出を抑制するには、水素の導入やアンモニア分圧を高めるのが有効である。
CH4→C+2H2・・・・・・・・・・・・・・・・(5)式
また、窒化時間は、30分以下であることがより好ましい。窒化時間を30分程度とすることで、炭化アルミニウム層11を適度に窒化することができる。
【0036】
なお、炭化アルミニウム層11を窒化する際の反応ガスとしては、アンモニアが好ましい。反応ガスとしてアンモニア以外に窒素を使用してもAlNを形成できるが、(6)式で示すようにAlNとCが生成し、AlNにCが混入した場合にはIII族窒化物半導体層の結晶品質に影響を与える可能性がある。
Al4C3+2N2→4AlN+3C・・・・・・・・・・・(6)式
炭化アルミニウム層11の窒化は、MOVPE装置内で炭化アルミニウム層の形成工程から連続で行うことができる。
なお、図3(B)に示す符号122は、炭化アルミニウムを示し、符号121は、窒化アルミニウムを示している。すなわち、サファイア基板10と接する部分にはAl4C3が残り、その上にはAl4C3の結晶情報を引き継いだAlN層が形成されていることを示している。
【0037】
(バッファ層の形成工程)
次に、図3(C)に示すように、窒化した炭化アルミニウム層12上にIII族窒化物半導体膜(本実施形態では、GaN膜)であるバッファ層14を形成する。
バッファ層14の成膜条件は、たとえば、以下のようにすることができる。
【0038】
成膜方法:MOVPE法
成膜温度:300℃〜1000℃
成膜ガス:トリメチルガリウム(TMG)ガス、H2ガス、N2ガス、NH3ガス
膜厚:20nm〜140nm
なお、バッファ層14の形成は、MOVPE装置内で炭化アルミニウム層を窒化する工程から連続で行うことができる。
【0039】
(III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程)
次に、図4(A)に示すように、バッファ層14上に、III族窒化物半導体層16をエピタキシャル成長させる。本実施形態では、III族窒化物半導体層16は、GaN半導体層16である。
GaN半導体層16の成長条件は、たとえば、以下のようにすることができる。
【0040】
成膜方法:HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法
成膜温度:1000℃〜1050℃
成膜時間:30分〜270分
膜厚:100μm〜900μm
HVPE装置(図示略)中には、Gaソースが配置され、このGaソースに対し、HClガスを供給する。HClガスと、Gaソースを反応させ、GaClをバッファ層14近傍の領域に輸送する。バッファ層14近傍の領域には、NH3ガスも供給されているので、NH3ガスと、GaClが反応してGaNが成長し、GaN半導体層16が形成されることとなる。GaN半導体層16の膜厚が増加していく過程で窒化された炭化アルミニウム層12の窒化アルミニウム121はGaNと混晶を形成する。炭化アルミニウム122はGaNから供給される窒素原子で窒化され、窒化アルミニウムとカーボンを生成する。窒化アルミニウムはGaNと混晶を形成するため、最終的に図4(B)に示すように、サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17が生成する。なお、図4(B)において、符号171は、Cの濃縮部を示している。
【0041】
(サファイア基板の剥離工程)
次に、図4(C)に示すように、サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17から、サファイア基板10を剥離して除去する。
具体的には、GaN半導体層17を形成したHVPE装置の温度を降温し、前記GaN半導体層17を常温まで、冷却する。
この冷却中に、前記GaN半導体層17とサファイア基板10の熱膨張係数の違いからこれらの積層体に歪みが生じ、前記GaN半導体層17とサファイア基板10とが分離されることとなる。
その後、剥離したGaN半導体層17の表面および裏面を研磨することで、平坦化した自立基板であるGaN基板を作製することができる。
【0042】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
サファイア基板10上に炭化アルミニウム層11を形成し、この炭化アルミニウム層11を窒化している。このようにすることで、サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17から、サファイア基板10を容易に除去することができる。従って、従来のように、レーザ光を使用してGaN膜を熱分解したり、金属膜をエッチングしたりする必要がなく、GaN半導体層17の製造に手間を要しない。
特に、本実施形態では、サファイア基板、サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17を冷却する際に、サファイア基板10の熱膨張係数とGaN半導体層17の熱膨張係数の違いにより発生する応力を利用してサファイア基板10を剥離しているので、サファイア基板10とGaN半導体層17とを容易に分離することができる。
【0043】
また、本実施形態では、炭化アルミニウム層12上にバッファ層14を成長させているため、バッファ層14上に形成するGaN半導体層16の結晶性を高めることができ、最終的に生成するサファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17の結晶性は向上する。
さらに、炭化アルミニウム層12上にバッファ層14を形成することで、Al4C3と、水分との接触が断たれ、窒化された炭化アルミニウム層12上へのGaN半導体層16のエピタキシャル成長を良好なものとさせることができる。
【0044】
さらに、炭化アルミニウム層11を形成する工程では、TMAlのモル分圧に対する窒素ガスのモル分圧比を1.8×105以下としている。
このようにして炭化アルミニウム層11を形成することで、AlN層が形成されてしまうことを防止でき、GaN半導体層17から、サファイア基板10をより容易に除去することができる。
【0045】
さらに、炭化アルミニウム層11の厚みを20〜140nmとすることで、GaN半導体層17から、サファイア基板10をより容易に除去することができる。
【0046】
また、炭化物層を窒化する温度を、300℃以上、900℃以下とすることで、GaN半導体層17から、サファイア基板10をより容易に除去することができる。
特に、500℃以上700℃以下で、反応ガスとしてアンモニアを使用し炭化アルミニウム層11を窒化することで、炭化アルミニウム層11を適度に窒化することができ、サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17から、サファイア基板10をより容易に除去することができる。
さらに、本実施形態では、バッファ層14の厚みを20nm以上としているため、窒化した炭化アルミニウム層12を保護し、Al4C3と水分との接触を防止することができる。また、バッファ層14の厚みを140nm以下としているため、窒化した炭化アルミニウム層12の結晶情報を引き継ぐことができる。さらには、GaN半導体層16をエピタキシャル成長させる間の成長層上に割れが発生することを防止できる。
【0047】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0048】
例えば、上記各実施形態では、下地基板としてサファイア基板10を使用したが、スピネル基板、SiC基板、ZnO基板、シリコン基板、GaAs基板、GaP基板等を用いてもよい。
【0049】
さらに、前記実施形態では、炭化アルミニウム層11、GaN半導体層16等を特定の製造条件で製造したが、特に限定する趣旨ではない。すなわち、上記の膜厚、製造条件は単なる例示に過ぎず、形成する半導体層の組成、構造に応じて適宜変更可能である。
例えば、前記実施形態と同様の方法で形成したバッファ層14上にマスクとなるSiO2膜を作製し、サファイア基板10の<1−100>方向((GaNの<11−20>方向))に沿った方向でストライプ状の開口部を設け、開口部内で{1−101}を側壁とするファセット構造を形成させながらGaN半導体層16を成長させると、最終的に生成するGaN半導体層17中に結晶欠陥が伝達されることが抑制される。このため、得られるGaN半導体基板の品質を向上させることができる。
【0050】
また、前記実施形態のサファイア基板10を剥離する工程では、サファイア基板10、サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17を冷却することで、サファイア基板10が分離されるとしたが、これに限らず、サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17にダメージが加わらない程度の力を加えることで、サファイア基板10を剥離してもよい。
ただし、前記実施形態のように、冷却することにより、ほとんど外力を加えずに、サファイア基板10が分離除去されれば、前記GaN半導体層17に加わるダメージを確実に抑制することができる。このため、損傷の少ない高品質のGaN半導体基板が安定的に得られる。
【0051】
このようなIII族窒化物半導体基板上にIII族窒化物系素子構造を作製すれば、上下にアップダウン電極構造を有する発光ダイオードまたはレーザーダイオード等の発光素子を作ることが可能であり、高性能トランジスタ等の電子デバイスへの適用も可能である。III族窒化物半導体基板は、鏡面に研摩し、ドライエッチングまたはケミカルメカニカルポリッシング(CMP)を施した後に発光ダイオードまたはレーザーダイオード等の発光素子、さらにはトランジスタ等の電子デバイスを作製するのが最良である。また、III族窒化物半導体基板を種結晶として、HVPE法、フラックス法、アモノサーマル法などにより高品質GaN結晶を成長させることが可能である。
【0052】
さらに、前記各実施形態では、サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17を成長させた直後にサファイア基板10を分離していたが、これに限らず、前記GaN半導体層17上に発光ダイオード等の発光素子、さらには、トランジスタ等の電子デバイスを作製した後に、サファイア基板10を除去し、電子デバイスを得てもよい。
【0053】
また、前記実施形態では、単層のサファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17を得たが、これに限られるものではない。本発明で製造されるIII族窒化物半導体基板は多層構造であってもよい。
【0054】
前記実施形態では、下地基板上に形成する炭化物層として、炭化アルミニウムを使用していたが、これに限られるものではない。下地基板上に、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成すればよい。
さらには、炭化物層を形成する工程では、下地基板との格子不整合率が11%以下である金属炭化物層を形成してもよい。金属炭化物層は、遷移金属V族炭化物または遷移金属IV族炭化物であることが好ましい。
ここで、格子不整合率は、下地基板の面方向原子間距離と、炭化物層の面内方向原子間距離との差を下地基板の面方向原子間距離で割った値の百分率として算出される。
具体的には、下地基板をサファイア基板とした場合には、以下のようになる。
(1)サファイア基板の単位格子のa軸長×cos30°×2÷3
(2)六方晶の炭化物層:単位格子のa軸長
(3)面心立方晶の炭化物層:下記の数式
【0055】
【数1】
【0056】
とすると、
格子不整合率=(1)と、(2)または(3)との差を(1)で割った値の百分率
【0057】
下地基板との格子不整合率が11%以下である金属炭化物層を形成することで、格子不整合に起因して発生する欠陥を低減でき、結晶性の良好な炭化物層を形成することができる。これにより、炭化物層上に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を良好なものとすることができる。
【0058】
さらには、炭化物層を形成する工程では、立方晶の炭化物層を形成してもよい。なかでも、炭化物層として炭化チタンの炭化物層を形成することが好ましい。
立方晶の炭化物層は、窒化した際に、格子定数の変化が小さい。従って、窒化された炭化物層の上部に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を良好なものとすることができる。
また、炭化チタンは、酸化されにくいという特性を有するため、炭化チタンの炭化物層上に、炭化チタンの炭化物層を保護するようなバッファ層を形成する必要がない。従って、III族窒化物半導体基板の製造に手間を要しない。
なお、炭化物層として、炭化アルミニウム以外の炭化物層を形成する場合においても、バッファ層の厚み、バッファ層の成膜温度、炭化物層の厚み、炭化物層の窒化温度等の製造条件を前記実施形態と同様とし、III族窒化物半導体層を製造することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例により制限されるものではない。
(実施例1)
前記実施形態(図3〜4)で説明したのと同様のプロセスを行い、膜厚約300μmのGaN結晶を得た。各工程で採用した条件は以下のとおりである。
(炭化アルミニウム層の形成工程)
成膜方法:MOVPE法
成膜温度:500℃
成膜時間:5分
成膜ガス:TMAl20cc/min(18℃)、H2ガス6L/min、N2ガス10.5L/min
膜厚 :70nm
【0060】
(炭化アルミニウム層を窒化する工程)
窒化温度:500℃
窒化時間:30分
窒化ガス:NH3ガス5L/min、H2ガス6L/min、N2ガス4.5L/min
【0061】
(バッファ層の形成工程)
成膜方法:MOVPE法
成膜温度:500℃
成膜ガス:TMG 4cc/min(10℃)、NH3ガス5L/min、H2ガス6L/min、N2ガス4.5L/min
膜厚 : 70 nm
【0062】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)
成膜方法:HVPE法
成膜温度:1040℃
成膜ガス:HClガス 0.15L/min、NH3ガス1.5L/min
ソース :Gaソース(850℃)
膜厚 :310μm
温度プロファイル:図5
なお、図5において、GaClの下側の矢印は、50分〜80分、90〜180分の間でGaClが発生していることを示し、NH3の上側の矢印は、矢印で示す間中、NH3ガスを供給している時間を示している。
【0063】
(サファイア基板の剥離工程)
GaN半導体層を形成したHVPE装置中の温度を降温し、常温まで、冷却した。
【0064】
(比較例1)
炭化アルミニウム層の形成工程および炭化アルミニウム層を窒化する工程を実施しなかったこと以外は、実施形態(図3〜4)で説明したのと同様のプロセスを行い、膜厚310μmのGaN自立基板を得た。
【0065】
(実施例1および比較例1の結果)
GaN半導体層の剥離状況に関して、実施例1の結果を図6に、また比較例の結果を図7に示す。
実施例1では、サファイア基板、サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層を冷却する工程で、サファイア基板が剥離された。そして、実施例1では、クラックのないGaN結晶を得ることができた。また、実施例1では、サファイア基板と、前記サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層との界面からサファイア基板が剥離された。
これに対し、比較例1では、サファイア基板、サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層を冷却する工程でGaN半導体層に割れが生じ、粉々になってしまった。
図8に、実施例1で得られたGaN半導体層の剥離界断面部分のエネルギー分散型X線分析結果を示す。剥離界面にはCと炭化アルミニウム層の窒化によって形成されたCの濃縮が確認された。また、AlはGaN半導体層に向かって拡散が認められた。図9に、実施例1で得られたGaN半導体層の剥離面のX線回折パターンを示した。剥離面には、GaNの(002)と(004)ピークのみが観察されることから、AlNはGaNと混晶を形成している予想される。また、Cはアモルファスであると考えられる。
【0066】
(実施例2)
実施例1において、炭化アルミニウム層を窒化する工程における窒化温度を、550℃、600℃、700℃と変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0067】
(実施例3)
実施例1において、炭化アルミニウム層を窒化する工程における窒化温度を、400℃、800℃、900℃と変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0068】
(実施例2および実施例3の結果)
実施例2,3では、各窒化温度でGaN結晶を7枚作製し、GaN半導体層の剥離状況について評価した。また、窒化温度が500℃、700℃および900℃について剥離面のエネルギー分散型X線分析を実施し、組成の違いを測定した。
GaN半導体層の剥離状況に関しては、以下の結果が得られた。
400℃ 作製したGaN結晶7枚中、1枚でクラックが発生せず剥離した。
550℃ 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
600℃ 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
700℃ 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
800℃ 作製したGaN結晶7枚中、1枚でクラックが発生せず剥離した。
900℃ 作製したGaN結晶7枚中、3枚でクラックが発生せず剥離した。
以上の実施例2および実施例3の結果より、炭化アルミニウム層の窒化温度は500℃以上700℃以下とすることが好ましい。
さらに、図10に窒化温度が500℃(実施例1)、700℃および900℃について剥離面のエネルギー分散型X線分析結果を示した。窒化温度が高くなると共にCが低下し、Nが増加していることから、炭化アルミニウム層の窒化が進み過ぎて、剥離界面部分に形成したAlNが下地基板と強固に結合していると考えられる。
なお、窒化温度500℃、550℃、700℃で作製したGaN基板のX線ロッキングカーブ半値幅を測定したところ、
500℃ 作製したGaN結晶・・・600arcsec
550℃ 作製したGaN結晶・・・600arcsec
700℃ 作製したGaN結晶・・・1800arcsec
となり、550℃以下がより好ましいことがわかった。
【0069】
(実施例4)
実施例1において、炭化アルミニウム層の形成工程における原料ガスとして、トリエチルアルミニウムに変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0070】
(実施例4の結果)
作製したGaN結晶は、クラックが生じたものの、粉々にはならなかった。
実施例1に比べ、サファイア基板とGaN半導体層との密着性が高いと考えられる。
【0071】
(実施例5)
実施例1において、炭化アルミニウム層の形成工程における膜厚を20nm、100nm、140nmに変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0072】
(実施例6)
実施例1において、炭化アルミニウム層の形成工程における膜厚を15nm、200nmに変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0073】
(実施例5と実施例6の結果)
GaN半導体層の剥離状況に関しては、以下の結果が得られた。
15nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生したものの、粉々にはならなかった。
20nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
100nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
140nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
200nm 作製したGaN結晶7枚中、3枚でクラックが発生せず剥離した。
以上の実施例5および実施例6の結果より、炭化アルミニウム層の膜厚は20nmから140nmとすることが好ましい。
【0074】
(実施例7)
実施例1において、バッファ層の形成工程における膜厚を20nm、50nm、100nm、140nmに変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0075】
(実施例8)
実施例1において、バッファ層の形成工程における膜厚を15nm、200nmに変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0076】
(実施例7および実施例8の結果)
GaN半導体層の剥離状況に関しては、以下の結果が得られた。
15nm 作製したGaN結晶7枚中、6枚が剥離したが、結晶のへき開面に沿った小さなクラックが多数生じた。
20nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
50nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
100nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
140nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
200nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚がGaN成長中にクラックを生じたものの、粉々にはならなかった。
以上の実施例7および実施例8の結果より、バッファ層の膜厚は20nm以上、140nm以下とすることが好ましい。
【0077】
実施例1において、GaN半導体層をサファイア基板から剥離して得られたGaN結晶の表面および裏面をダイヤモンドスラリーで研磨することで、平坦化した自立基板である厚さ200μmのGaN自立基板を作製した。図11に作製したGaN自立基板を示す。
【0078】
(実施例9)
本実施例では、炭化物層として、炭化チタン層を形成した。下地基板としては、85mmφサファイア基板を使用している。
(炭化チタン層の形成工程)
成膜方法:スパッタリング
成膜温度:730〜760℃
成膜時間:14分14秒
Ar圧力:0.4Pa
ターゲット:TiC
ターゲット出力:150W
膜厚 :70nm
【0079】
(炭化チタン層を窒化する工程)
窒化温度:600℃〜900℃
窒化時間:17分
窒化ガス:NH3ガス3.3L/min
この工程では、600℃から900℃までの昇温過程で炭化チタン層を窒化した。
【0080】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)
(GaNのファセット構造の形成)
成膜方法:HVPE法
ファセット形成温度:900℃
時間:5分
ファセット形成ガス:HClガス 0.09l/min、NH3ガス3.3L/min
ファセットを形成した後に連続して、GaN半導体層の成膜を行ない膜厚300μmとした。成膜温度の1040℃まで昇温する間もNH3ガスは供給した。
(GaN半導体層の成長)
成膜方法:HVPE法
成膜温度:1040℃
成膜ガス:HClガス 0.15L/min、NH3ガス1.5L/min
ソース :Gaソース(850℃)
膜厚 :300 μm
300μmのGaN半導体層の成膜中には、ジクロロシラン(SiH2Cl2)を用いてSiのドーピングを行ない、キャリヤ濃度1×1018cm−3に制御した。
炭化チタン層を窒化する工程と、GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程の温度プロファイルを図12に示す。なお、図12において、GaClの下側の矢印は、50分〜55分、70〜160分の間でGaClが発生していることを示し、NH3の下側の矢印は、矢印で示す間中、NH3ガスを供給していることを示している。
【0081】
(サファイア基板の剥離工程)
GaN半導体層を形成したHVPE装置の反応管の温度を降温し、常温まで、冷却した。
【0082】
なお、本実施例の参考として、炭化アルミニウム層を形成し、GaN半導体層を得る実験を行った。
炭化アルミニウム層の形成工程、炭化アルミニウム層を窒化する工程、バッファ層の形成工程は実施例1と同じである。GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程は、以下の通りである。
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)
(GaNのファセット構造の形成)
成膜方法:HVPE法
ファセット形成温度:1000℃
時間:30分
ファセット形成ガス:HClガス 0.06l/min、NH3ガス0.9L/min
ファセットを形成した後に連続して、GaN半導体層の成膜を行ない膜厚310μmとした。成膜温度の1040℃まで昇温する間もNH3ガスは供給した。
(GaN半導体層の成長)
成膜方法:HVPE法
成膜温度:1040℃
成膜ガス:HClガス 0.15L/min、NH3ガス1.5L/min
ソース :Gaソース(850℃)
膜厚 :310μm
【0083】
図13(A)、(B)に、それぞれ実施例9のGaN半導体層の表面と、断面の蛍光顕微鏡像を示す。なお、図13(C)、(D)は、それぞれ上記参考実験で得られたGaN半導体層の表面と、断面の蛍光顕微鏡像である。
実施例9で得られたGaN半導体層表面は、上記参考実験で得られたGaN半導体層表面に比べ平坦であり、ピットが少ないことがわかる。GaN半導体層の断面像からは、80μmの成長段階でGaN半導体層が略平坦になっていることがわかる。
さらに、図14(A)、(B)には、実施例9のGaN半導体層と、上記参考実験のGaN半導体層のXRD測定によるロッキングカーブプロファイルを示す。これらのプロファイルからは、上記参考実験のGaN半導体層に比べ実施例9のGaN半導体層の結晶性が改善されていることがわかる。
また、図15に、実施例9のGaN半導体層のカソードルミネッセンスによる像を示す(バンド端365nm発光)。上記参考実験のGaN半導体層では、ネットワーク状の暗線(転位集合部)が観察され、明確な暗点観察はできなかったが、実施例9のGaN半導体層では、暗点のみが観察され、暗点密度は、2×107/cm2であった。
以上より、炭化チタン層のように、下地基板との格子不整合率が11%以下である炭化物層を形成することで、GaN半導体層の結晶性を向上させることができることがわかった。
なお、本実施例では、SiH2Cl2ガスを用いてSiのドーピングを行なったが、O2の導入により酸素(O)、またFeCl2の供給により鉄(Fe)等の不純物をドーピングすることも可能である。
【0084】
(実施例10)
本実施例では、炭化物層として、炭化ジルコニウム層を形成した。下地基板としては、85mmφサファイア基板を使用している。
(炭化ジルコニウム層の形成工程)
成膜方法:スパッタリング
成膜温度:730〜760℃
成膜時間:13分
Ar圧力:0.4Pa
ターゲット:ZrC
ターゲット出力:150W
膜厚 :70nm
【0085】
(炭化ジルコニウム層を窒化する工程)
窒化温度:600℃〜900℃
窒化時間:17分
窒化ガス:NH3ガス3.3L/min
この工程では、600℃から900℃までの昇温過程で炭化ジルコニウム層を窒化した。
【0086】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)および(サファイアの剥離工程)は、実施例9と同じである。
【0087】
GaN半導体層は、クラックを発生せずサファイア基板から剥離した。GaN半導体層の表面および断面を蛍光顕微鏡で観察したところ、表面は平坦であり、断面はピットが多いGaN半導体層であった。
【0088】
(実施例11)
本実施例では、炭化物層として、炭化ハフニウム層を形成した。下地基板としては、85mmφサファイア基板を使用している。
(炭化ハフニウム層の形成工程)
成膜方法:スパッタリング
成膜温度:730〜760℃
成膜時間:12分
Ar圧力:0.4Pa
ターゲット:HfC
ターゲット出力:150W
膜厚 :70nm
【0089】
(炭化ハフニウム層を窒化する工程)
窒化温度:600℃〜900℃
窒化時間:17分
窒化ガス:NH3ガス3.3L/min
この工程では、600℃から900℃までの昇温過程で炭化ハフニウム層を窒化した。
【0090】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)および(サファイアの剥離工程)は、実施例9と同じである。
【0091】
GaN半導体層は、クラックを発生せずサファイア基板から剥離した。GaN半導体層の表面を蛍光顕微鏡で観察したところ、表面は平坦であることがわかった。
また、GaN半導体層の断面を蛍光顕微鏡で観察したところ、ピットが多いGaN半導体層であることがわかった。
【0092】
(実施例12)
本実施例では、炭化物層として、炭化バナジウム層を形成した。下地基板としては、85mmφサファイア基板を使用している。
(炭化バナジウム層の形成工程)
成膜方法:スパッタリング
成膜温度:730〜760℃
成膜時間:13分
Ar圧力:0.4Pa
ターゲット:VC
ターゲット出力:150W
膜厚 :70nm
【0093】
(炭化バナジウム層を窒化する工程)
窒化温度:600℃〜900℃
窒化時間:17分
窒化ガス:NH3ガス3.3L/min
この工程では、600℃から900℃までの昇温過程で炭化バナジウム層を窒化した。
【0094】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)および(サファイアの剥離工程)は、実施例9と同じである。
【0095】
GaN半導体層は、クラックを発生せずサファイア基板から剥離した。GaN半導体層の表面を蛍光顕微鏡で観察したところ、表面は平坦であることがわかった。また、GaN半導体層の断面を蛍光顕微鏡で観察したところピットが少ないGaN半導体層であることがわかった。
【0096】
(実施例13)
本実施例では、炭化物層として、炭化タンタル層を形成した。下地基板としては、85mmφサファイア基板を使用している。
(炭化タンタル層の形成工程)
成膜方法:スパッタリング
成膜温度:730〜760℃
成膜時間:15分
Ar圧力:0.4Pa
ターゲット:TaC
ターゲット出力:150W
膜厚 :70nm
【0097】
(炭化タンタル層を窒化する工程)
窒化温度:600℃〜900℃
窒化時間:17分
窒化ガス:NH3ガス3.3L/min
この工程では、600℃から900℃までの昇温過程で炭化タンタル層を窒化した。
【0098】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)および(サファイアの剥離工程)は、実施例9と同じである。
【0099】
GaN半導体層は、クラックを発生せずサファイア基板から剥離した。GaN半導体層の表面を蛍光顕微鏡で観察したところ、表面は平坦であることがわかった。
また、GaN半導体層の断面を蛍光顕微鏡で観察したところ、ピットが多いGaN半導体層であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の課題を解決するための手段にかかる炭化物に対する窒化物の格子不整合を示す図である。
【図2】本発明の課題を解決するための手段にかかる炭化物および窒化物の結晶構造と格子定数を示す図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるGaN基板の製造工程を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態にかかるGaN基板の製造工程を示す模式図である。
【図5】実施例1のGaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程の温度プロファイルを示す図である。
【図6】本発明の実施例1にかかるGaN自立基板の剥離状況を示す図である。
【図7】本発明の比較例1にかかるGaN自立基板の剥離状況を示す図である。
【図8】本発明の実施例1にかかるGaN自立基板の剥離断面部分のエネルギー分散型X線分析結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例1にかかるGaN自立基板の剥離面のX線回折プロファイルを示した図である。
【図10】本発明の実施例2にかかるGaN半導体層の剥離面のエネルギー分散型X線分析結果を示した図である。
【図11】本発明の実施例1で剥離したGaN半導体層から作製したGaN基板を示す図である。
【図12】実施例9のGaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程の温度プロファイルを示す図である。
【図13】(A)は、実施例9のGaN半導体層の表面の蛍光顕微鏡像を示す図であり、(B)は実施例9のGaN半導体層の断面の蛍光顕微鏡像を示す図である。(C)は、参考実験のGaN半導体層の表面の蛍光顕微鏡像を示す図であり、(D)は参考実験のGaN半導体層の断面の蛍光顕微鏡像を示す図である。
【図14】実施例9のGaN半導体層と、参考実験のGaN半導体層のXRD測定によるロッキングカーブプロファイルを示す図である。
【図15】実施例9のGaN半導体層のカソードルミネッセンスによる像を示す図である。
【符号の説明】
【0101】
10 サファイア基板(下地基板)
11 炭化アルミニウム層
12 窒化された炭化アルミニウム層
121 窒化アルミニウム
122 炭化アルミニウム
14 バッファ層(III族窒化物半導体膜)
16 GaN半導体層(III族窒化物半導体層)
17 サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層
171 Cの濃縮部
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体基板の製造方法およびIII族窒化物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ガリウム(GaN)結晶のバルク結晶を、青紫色レーザーや白色発光ダーオード作製用の基板に使用する試みが行なわれている。しかしながら、GaNのような結晶では、窒素の解離圧が高いことにより、GaAsのように溶液から大きなバルク結晶を得ることが難しく、工業的に利用できるバルクGaN半導体結晶の作製は非常に困難である。
【0003】
このため、GaN半導体基板の作製には、HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法が主に用いられている。
特許文献1には、HVPE法を用いたGaN半導体基板の製造方法が開示されている。この製造方法では、サファイア(Al2O3)基板上に、ストライプ状に配置された断面矩形形状の被覆部および被覆部間に形成された開口部を有するマスクを形成する。このマスクの被覆部は、サファイア基板の<11−20>、GaN半導体の<1−100>方向に延在する。
マスク形成後、その開口部からGaN半導体層を成長させ、前記マスクの被覆部上面を、完全には覆わない状態で成長を止める。次に、マスクをドライエッチングにより除去し、GaN半導体層上にさらにGaN半導体層を成長させる。その後、サファイア基板をそのまま剥離し、GaN半導体基板を得る。
ところが、従来のGaN半導体基板の製造方法では、GaN半導体層からサファイア基板を剥離する際、GaN半導体層が損傷を受けることが多く、ひどい場合にはGaN半導体層が粉々に割れてしまうことがあった。
【0004】
そこで、このような課題を解決するために、サファイア基板を剥離する様々な方法が提案されている。
サファイア基板を剥離する従来の方法としては、たとえば、特許文献2に記載の方法が挙げられる。この方法では、GaN半導体層を加熱しながらサファイア基板側からレーザ光を照射する。レーザ光としては、波長が355nmのYAGレーザを用いる。レーザ光はGaN半導体層で吸収され、これによってサファイア基板とGaN半導体層との界面近傍のGaNは熱分解され、剥離が起こる。
【0005】
また、サファイア基板を剥離する従来の方法として、特許文献3に記載された方法もあげられる。
この方法では、サファイア基板上に、金属膜(たとえば、アルミニウム膜)を堆積させ、この金属膜上にGaNを成長させ、GaN半導体層を形成する。そして、金属膜をエッチングすることにより、GaN半導体層からサファイア基板を剥離する。
【特許文献1】特開2003−55097号公報
【特許文献2】特開2002−57119号公報
【特許文献3】特開2002−284600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された技術では、剥離のための高額なレーザ照射装置が必要であり、レーザ光を走査しながらサファイア基板を剥離しなければならないため、サファイア基板の剥離に手間を要する。
同様に、特許文献3に記載された技術においても剥離のためのエッチング設備が必要であり、エッチング液がサファイア基板とGaN膜の界面に浸透しにくく、特に大きな面積の金属膜を完全にエッチングで除去するには長時間を必要とする。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、手間を要さず、下地基板を剥離することができるIII族窒化物半導体基板の製造方法、並びに、この製造方法により製造されたIII族窒化物半導体基板およびこの基板上に形成したデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、下地基板上に、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成する工程と、前記炭化物層を窒化する工程と、窒化された前記炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板を除去し、前記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程と、を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
【0009】
特許文献3では、サファイア基板上に金属膜を形成していたのに対し、本発明では、下地基板上に炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成しており、これら炭化物層を窒化している。炭化アルミニウム層、炭化チタン層、炭化ジルコニウム層、炭化ハフニウム層、炭化バナジウム層、炭化タンタル層の化合物形態としては、それぞれAl4C3、TiC、ZrC、HfC、VC、TaCが主成分である。
【0010】
炭化アルミニウム層は窒化によって(1)式に示すようにAlNとCH4を生成する。一方、炭化チタン層、炭化ジルコニウム層、炭化ハフニウム層、炭化バナジウム層、炭化タンタル層は、(2)式に示すようにTiN、ZrN、HfN、VN、TaNとCH4を生成する。炭化アルミニウム層、炭化チタン層、炭化ジルコニウム層、炭化ハフニウム層、炭化バナジウム層、炭化タンタル層を窒化すると下地基板と接する部分にはAl4C3、TiC、ZrC、HfC、VCまたはTaCが残り、その上にはAl4C3、TiC、ZrC、HfC、VCまたはTaCの結晶情報を引き継いだAlN、TiN、ZrN、HfN、VNまたはTaNを有する、窒化された炭化アルミニウム層が形成される。
【0011】
Al4C3からAlN、TiCからTiN、ZrCからZrN、HfCからHfN、VCからVNまたはTaCからTaNへの結晶情報の引継ぎは、これら炭化物と窒化物の結晶構造が同一で、図1に示すように格子不整合(=((aGaN-a炭化物)/a炭化物)×100、a:格子定数)が小さいため極めて良好である。かつこれらすべての化合物の結晶構造が図2に示すように六方晶あるいは面心立方晶に属するため、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長するのに適している。VCやTaCと同じ遷移金属V族炭化物に属するNbCは、炭化物と窒化物の格子不整合が大きく、さらにGaNとNbNとの格子不整合(%)も大きいことから、炭化物層として適さない。
なお、図2の原子間距離を算出するための格子定数は、joint committee on powder diffraction standards(JCPDS− International Centre for Diffraction Data 1998)および金属データブック(1974)、p275を参照した。
【0012】
Al4C3+4NH3→4AlN+3CH4・・・(1)式
2MC+2NH3+H2→2MN+2CH4・・・(2)式
(2)式において、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Ta
【0013】
窒化された炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長する過程では、AlN、TiN、ZrN、HfN、VNまたはTaN上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させるが、下地基板上に残ったAl4C3、TiC、ZrC、HfC、VCまたはTaCにおいては、III族窒化物半導体から供給される窒素原子がAlN、TiN、ZrN、HfN、VNまたはTaNを介して拡散し、(3)式および(4)式で示す窒化反応が進行する。
III族窒化物半導体をエピタキシャル成長する間にAlN、TiN、ZrN、HfN、VNまたはTaNはIII族窒化物半導体と混晶を形成し、最終的に下地基板との境界面にCが濃縮したIII族窒化物半導体層が形成される。
【0014】
Al4C3+4N→4AlN+3C・・・・・・・・・・・・(3)式
MC+N→MN+C・・・・・・・・・・・・・・・・(4)式
(4)式において、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Ta
【0015】
CはIII族窒化物半導体や下地基板に対して不活性であるため、Cが濃縮した境界面では、III族窒化物半導体層と下地基板との結合強度が低下し、極めて小さな応力で下地基板を分離することが可能となる。
従って、本発明によれば、従来のように手間をかけることなくIII族窒化物半導体層から、下地基板を容易に除去することができ、III族窒化物半導体基板の製造方法が簡便なものとなる。
なお、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタルは、一般的に不定比組成であることが知られており、C/Mモル比(Mは、Al、Ti、Zr、Hf、V、Ta)が3/4あるいは1/1などに限定されるものではない。
【0016】
この際、前記炭化物層を窒化した後、その上にIII族窒化物半導体膜を300℃以上1000℃以下の成長温度で成長させ、その後、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程を実施することが好ましい。
その役割としては主として2点が考えられる。その一つは、バッファ層としての作用で、窒化された炭化物層上にIII族窒化物半導体膜を300℃以上1000℃以下の成長温度で成長させることで、このIII族窒化物半導体膜上に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を高めることができる。もう一つは、保護膜としての作用である。窒化された炭化物層は、Al4C3とAlN、あるいは、MCとMN(Mは、Ti、Zr、Hf、V、Ta)から構成されているが、MCや、Al4C3は水分と接触すると酸化分解が急速に進むことがある。窒化された炭化物層上にIII族窒化物半導体膜を形成することで、MC,Al4C3は水分との接触が断たれ、窒化された炭化物層上へのIII族窒化物半導体層のエピタキシャル成長を良好なものとさせることができる。
【0017】
また、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程は、窒化された前記炭化物層の上部にファセット構造を形成させながら前記III族窒化物半導体層を成長させる工程を含むことが好ましい。
ファセット構造を形成させながらIII族窒化物半導体層を成長させるので、上部のIII族窒化物半導体層中に結晶欠陥が伝達されることが抑制される。これにより、結晶品質のよいIII族窒化物半導体層を得ることができる。
【0018】
また、III族窒化物半導体基板を得る前記工程では、前記下地基板、窒化された前記炭化物層、前記下地基板との境界面にCが濃縮したIII族窒化物半導体層を冷却し、この冷却により、前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板が分離除去されることが好ましい。
この方法によれば、下地基板の熱膨張係数とIII族窒化物半導体層の熱膨張係数の違いにより発生する応力を利用して、下地基板とIII族窒化物半導体層とを容易に分離することができる。
【0019】
また、炭化物層を形成する前記工程では、炭化チタンの炭化物層を形成してもよい。炭化チタンは、スパッタリング装置を利用し、ターゲットして炭化チタンを使用することで下地基板上に形成することができる。スパッタガスとしてはアルゴンが一般的であるが、C/Ti比のずれを抑制するために炭化水素ガスを微量導入するとさらに良い。下地基板は加熱することが好ましい。
さらに、炭化物層を形成する前記工程は、トリメチルアルミニウムを原料ガスとしたMOVPE法を用いるのが好ましい。有機アルミニウムの中でトリメチルアルミニウムは、加熱した下地基板上で容易に分解しAl4C3を形成するので最適である。MOVPE法を用いることで、膜厚制御された良質なAl4C3を形成することが可能となるだけでなく、その後に行う炭化物層の窒化工程、好ましくはIII族窒化物半導体膜を300℃以上1000℃以下の成長温度で成長させる工程までを一つの装置内で連続して行うことが可能である。
【0020】
炭化物層を形成する手段としては、その他に真空蒸着装置、スパッタリング装置などの薄膜形成装置を利用して、下地基板にアルミニウム等の金属膜とカーボン膜を重ねて形成した後で加熱する方法、下地基板を加熱しながら金属膜とカーボン膜を重ねて形成する方法、下地基板に金属膜を形成後、下地基板を加熱しながら炭素源となる炭化水素ガスを供給する方法、炭化水素ガスを微量導入することで金属とカーボンを結合させながら下地基板上に炭化物層として形成する方法(反応性スパッタリング)などがあり、本発明の効果を達成することができれば形成方法を問わない。
【0021】
さらに、炭化物層の厚さは、20nm乃至140nmであることが好ましい。炭化物層の厚さが20nmより薄い場合、炭化物層は殆ど窒化物に変化し、III族窒化物半導体層が窒化物を介して下地基板と強固に結合するため、III族窒化物半導体層から下地基板を分離除去することは困難となる場合がある。一方、140nmより厚い場合、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長後にも炭化物層が残留し、炭化物層によって下地基板とIII族窒化物半導体層が強固に結合するため、III族窒化物半導体層から下地基板を分離除去することは困難となる場合がある。
【0022】
さらに、炭化物層を窒化する温度は300℃以上、900℃以下が好ましい。300℃未満では炭化物層の窒化速度が遅い。したがってIII族窒化物半導体層を成長した後でも下地基板とIII族窒化物半導体層の間に炭化物が残留し、強固な結合を保持するためIII族窒化物半導体層を分離除去することが困難となる場合がある。また、900℃より高温にすると炭化物層の窒化が促進されるため、炭化物は殆ど窒化物に変化し、III族窒化物半導体層が窒化物を介して下地基板と強固に結合するため、III族窒化物半導体層から下地基板を分離除去することが困難となる場合がある。
炭化物層を窒化する温度を300℃以上、900℃以下とすることで、III族窒化物半導体層から、下地基板をより容易に除去することができる。
【0023】
なお、炭化物層を窒化した後、その上にIII族窒化物半導体膜を300℃以上、1000℃以下、好ましくは、350℃以上800℃以下の成長温度で成長させ、その後、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程において、III族窒化物半導体膜の厚さを10nmから200nmに制御することが好ましく、20nm以上、140nm以下に制御することが更に好ましい。III族窒化物半導体膜が20nm未満の場合、バッファ層を形成するのに十分な厚さでなく、また窒化した炭化物層の保護皮膜としても十分機能しない場合がある。一方、140nmより厚い場合、窒化した炭化物層の結晶情報を引き継ぎにくくなるだけでなく、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる間に成長層上に割れが発生する場合がある。
【0024】
また、本発明によれば、下地基板上に、金属の炭化物層を形成する工程と、前記炭化物層を窒化する工程と、窒化された前記炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板を除去し、前記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程と、を含み、炭化物層を形成する前記工程では、下地基板との格子不整合率が11%以下である炭化物層を形成することを特徴とするIII族窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
下地基板との格子不整合率が11%以下である金属の炭化物層を形成することで、格子不整合に起因して発生する欠陥を低減でき、さらに、下地基板の結晶情報を引き継ぐことができる。これにより、結晶性の良好な炭化物層を形成することができ、さらには、炭化物層上に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を良好なものとすることができる。
ここで、金属の炭化物層は、遷移金属V族炭化物または遷移金属IV族炭化物であることが好ましい。
【0025】
さらに、炭化物層を形成する前記工程では、立方晶の炭化物層を形成することが好ましい。
立方晶の炭化物層は、窒化した際に、格子定数の変化が小さい。従って、窒化された炭化物層の上部に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を良好なものとすることができる。
【0026】
また、炭化物層を形成する前記工程では、炭化チタンの炭化物層を形成することが好ましい。
炭化チタンは、酸化されにくいという特性を有するため、炭化チタンの炭化物層上に、炭化チタンの炭化物層を保護するようなIII族窒化物半導体膜をしなくてもよい。従って、III族窒化物半導体基板の製造に手間を要しない。
【0027】
また、本発明によれば、上述したいずれかの製造方法により製造されたIII族窒化物半導体基板も提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、手間を要さず、下地基板を剥離することができるIII族窒化物半導体基板の製造方法、および、この製造方法により製造されたIII族窒化物半導体基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、GaN自立基板の製造方法を例に挙げ図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0030】
本実施形態に係る自立基板の製造方法の概要について説明する。本実施形態の自立基板の製造方法は、以下の工程を含むものである。
(i)下地基板上に、炭化物層を形成する工程、
(ii)上記炭化物層を窒化する工程、
(iii)窒化された上記炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程
(iv)上記III族窒化物半導体層から、上記下地基板を除去し、上記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程
【0031】
以下、炭化物層として炭化アルミニウムを使用した場合について、本実施形態の自立基板の製造方法について詳述する。
(炭化アルミニウム層の形成工程)
まず、下地基板として、たとえば、厚さ550μmの3インチφのサファイア(Al2O3)基板10を用意する。次に、このサファイア基板10上に、炭化アルミニウム層11を形成する(図3(A))。炭化アルミニウム層11は、有機アルミニウムガス(例えば、トリメチルアルミニウム)を原料ガスとして形成される。
炭化アルミニウム層11の成膜条件は、例えば以下のようにする。
【0032】
成膜方法:有機金属気相成長(MOVPE)法
原料ガス:トリメチルアルミニウム(TMAl)、水素(H2)ガス、窒素(N2)ガス
成膜温度:300℃〜1000℃
成膜時間:5分〜60分
膜厚:20nm〜140nm
【0033】
キャリアガスとしては、水素、窒素、アルゴンなどトリメチルアルミニウムと反応し難いガスを選択すればよいが、ここでは水素ガスまたは/および窒素ガスをキャリアガスとして使用している。
キャリアガスとして窒素ガスを使用する場合、窒素ガスのモル分圧をTMAlのモル分圧に対して一定以上にすると、炭化アルミニウムでなく、窒化アルミニウム(AlN)が形成されてしまうことがある。そのため、窒素ガスのモル分圧をTMAlのモル分圧に対して所定値以下にする必要がある。本実施形態では、TMAlのモル分圧に対する窒素ガスのモル分圧比を1.8×105以下としている(TMAl、18℃)。好ましくはキャリアガスとして水素ガスのみを使用すればAlNの形成は起こらない。
また、炭化アルミニウム層11の成膜温度は、300℃〜1000℃であればよいが、400℃以上であることが好ましく、600℃以下であることが好ましい。
【0034】
(炭化アルミニウム層を窒化する工程)
次に、図3(B)に示すように、炭化アルミニウム層11を300℃〜900℃の雰囲気下で窒化し、窒化した炭化アルミニウム層12を形成する。
炭化アルミニウム層11の窒化条件は、例えば以下のようにする。
【0035】
窒化ガス:アンモニア(NH3)ガス、H2ガス、N2ガス
窒化温度:300℃〜900℃
窒化時間:5分〜60分
なお、窒化温度は500℃以上700℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは550℃以下である。550℃より高温にすると、(5)式に示すとおりCH4が分解してCが析出し、CがAlNに混入することでIII族窒化物半導体層の結晶性が低下する場合がある。Cの析出を抑制するには、水素の導入やアンモニア分圧を高めるのが有効である。
CH4→C+2H2・・・・・・・・・・・・・・・・(5)式
また、窒化時間は、30分以下であることがより好ましい。窒化時間を30分程度とすることで、炭化アルミニウム層11を適度に窒化することができる。
【0036】
なお、炭化アルミニウム層11を窒化する際の反応ガスとしては、アンモニアが好ましい。反応ガスとしてアンモニア以外に窒素を使用してもAlNを形成できるが、(6)式で示すようにAlNとCが生成し、AlNにCが混入した場合にはIII族窒化物半導体層の結晶品質に影響を与える可能性がある。
Al4C3+2N2→4AlN+3C・・・・・・・・・・・(6)式
炭化アルミニウム層11の窒化は、MOVPE装置内で炭化アルミニウム層の形成工程から連続で行うことができる。
なお、図3(B)に示す符号122は、炭化アルミニウムを示し、符号121は、窒化アルミニウムを示している。すなわち、サファイア基板10と接する部分にはAl4C3が残り、その上にはAl4C3の結晶情報を引き継いだAlN層が形成されていることを示している。
【0037】
(バッファ層の形成工程)
次に、図3(C)に示すように、窒化した炭化アルミニウム層12上にIII族窒化物半導体膜(本実施形態では、GaN膜)であるバッファ層14を形成する。
バッファ層14の成膜条件は、たとえば、以下のようにすることができる。
【0038】
成膜方法:MOVPE法
成膜温度:300℃〜1000℃
成膜ガス:トリメチルガリウム(TMG)ガス、H2ガス、N2ガス、NH3ガス
膜厚:20nm〜140nm
なお、バッファ層14の形成は、MOVPE装置内で炭化アルミニウム層を窒化する工程から連続で行うことができる。
【0039】
(III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程)
次に、図4(A)に示すように、バッファ層14上に、III族窒化物半導体層16をエピタキシャル成長させる。本実施形態では、III族窒化物半導体層16は、GaN半導体層16である。
GaN半導体層16の成長条件は、たとえば、以下のようにすることができる。
【0040】
成膜方法:HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法
成膜温度:1000℃〜1050℃
成膜時間:30分〜270分
膜厚:100μm〜900μm
HVPE装置(図示略)中には、Gaソースが配置され、このGaソースに対し、HClガスを供給する。HClガスと、Gaソースを反応させ、GaClをバッファ層14近傍の領域に輸送する。バッファ層14近傍の領域には、NH3ガスも供給されているので、NH3ガスと、GaClが反応してGaNが成長し、GaN半導体層16が形成されることとなる。GaN半導体層16の膜厚が増加していく過程で窒化された炭化アルミニウム層12の窒化アルミニウム121はGaNと混晶を形成する。炭化アルミニウム122はGaNから供給される窒素原子で窒化され、窒化アルミニウムとカーボンを生成する。窒化アルミニウムはGaNと混晶を形成するため、最終的に図4(B)に示すように、サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17が生成する。なお、図4(B)において、符号171は、Cの濃縮部を示している。
【0041】
(サファイア基板の剥離工程)
次に、図4(C)に示すように、サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17から、サファイア基板10を剥離して除去する。
具体的には、GaN半導体層17を形成したHVPE装置の温度を降温し、前記GaN半導体層17を常温まで、冷却する。
この冷却中に、前記GaN半導体層17とサファイア基板10の熱膨張係数の違いからこれらの積層体に歪みが生じ、前記GaN半導体層17とサファイア基板10とが分離されることとなる。
その後、剥離したGaN半導体層17の表面および裏面を研磨することで、平坦化した自立基板であるGaN基板を作製することができる。
【0042】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
サファイア基板10上に炭化アルミニウム層11を形成し、この炭化アルミニウム層11を窒化している。このようにすることで、サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17から、サファイア基板10を容易に除去することができる。従って、従来のように、レーザ光を使用してGaN膜を熱分解したり、金属膜をエッチングしたりする必要がなく、GaN半導体層17の製造に手間を要しない。
特に、本実施形態では、サファイア基板、サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17を冷却する際に、サファイア基板10の熱膨張係数とGaN半導体層17の熱膨張係数の違いにより発生する応力を利用してサファイア基板10を剥離しているので、サファイア基板10とGaN半導体層17とを容易に分離することができる。
【0043】
また、本実施形態では、炭化アルミニウム層12上にバッファ層14を成長させているため、バッファ層14上に形成するGaN半導体層16の結晶性を高めることができ、最終的に生成するサファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17の結晶性は向上する。
さらに、炭化アルミニウム層12上にバッファ層14を形成することで、Al4C3と、水分との接触が断たれ、窒化された炭化アルミニウム層12上へのGaN半導体層16のエピタキシャル成長を良好なものとさせることができる。
【0044】
さらに、炭化アルミニウム層11を形成する工程では、TMAlのモル分圧に対する窒素ガスのモル分圧比を1.8×105以下としている。
このようにして炭化アルミニウム層11を形成することで、AlN層が形成されてしまうことを防止でき、GaN半導体層17から、サファイア基板10をより容易に除去することができる。
【0045】
さらに、炭化アルミニウム層11の厚みを20〜140nmとすることで、GaN半導体層17から、サファイア基板10をより容易に除去することができる。
【0046】
また、炭化物層を窒化する温度を、300℃以上、900℃以下とすることで、GaN半導体層17から、サファイア基板10をより容易に除去することができる。
特に、500℃以上700℃以下で、反応ガスとしてアンモニアを使用し炭化アルミニウム層11を窒化することで、炭化アルミニウム層11を適度に窒化することができ、サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17から、サファイア基板10をより容易に除去することができる。
さらに、本実施形態では、バッファ層14の厚みを20nm以上としているため、窒化した炭化アルミニウム層12を保護し、Al4C3と水分との接触を防止することができる。また、バッファ層14の厚みを140nm以下としているため、窒化した炭化アルミニウム層12の結晶情報を引き継ぐことができる。さらには、GaN半導体層16をエピタキシャル成長させる間の成長層上に割れが発生することを防止できる。
【0047】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0048】
例えば、上記各実施形態では、下地基板としてサファイア基板10を使用したが、スピネル基板、SiC基板、ZnO基板、シリコン基板、GaAs基板、GaP基板等を用いてもよい。
【0049】
さらに、前記実施形態では、炭化アルミニウム層11、GaN半導体層16等を特定の製造条件で製造したが、特に限定する趣旨ではない。すなわち、上記の膜厚、製造条件は単なる例示に過ぎず、形成する半導体層の組成、構造に応じて適宜変更可能である。
例えば、前記実施形態と同様の方法で形成したバッファ層14上にマスクとなるSiO2膜を作製し、サファイア基板10の<1−100>方向((GaNの<11−20>方向))に沿った方向でストライプ状の開口部を設け、開口部内で{1−101}を側壁とするファセット構造を形成させながらGaN半導体層16を成長させると、最終的に生成するGaN半導体層17中に結晶欠陥が伝達されることが抑制される。このため、得られるGaN半導体基板の品質を向上させることができる。
【0050】
また、前記実施形態のサファイア基板10を剥離する工程では、サファイア基板10、サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17を冷却することで、サファイア基板10が分離されるとしたが、これに限らず、サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17にダメージが加わらない程度の力を加えることで、サファイア基板10を剥離してもよい。
ただし、前記実施形態のように、冷却することにより、ほとんど外力を加えずに、サファイア基板10が分離除去されれば、前記GaN半導体層17に加わるダメージを確実に抑制することができる。このため、損傷の少ない高品質のGaN半導体基板が安定的に得られる。
【0051】
このようなIII族窒化物半導体基板上にIII族窒化物系素子構造を作製すれば、上下にアップダウン電極構造を有する発光ダイオードまたはレーザーダイオード等の発光素子を作ることが可能であり、高性能トランジスタ等の電子デバイスへの適用も可能である。III族窒化物半導体基板は、鏡面に研摩し、ドライエッチングまたはケミカルメカニカルポリッシング(CMP)を施した後に発光ダイオードまたはレーザーダイオード等の発光素子、さらにはトランジスタ等の電子デバイスを作製するのが最良である。また、III族窒化物半導体基板を種結晶として、HVPE法、フラックス法、アモノサーマル法などにより高品質GaN結晶を成長させることが可能である。
【0052】
さらに、前記各実施形態では、サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17を成長させた直後にサファイア基板10を分離していたが、これに限らず、前記GaN半導体層17上に発光ダイオード等の発光素子、さらには、トランジスタ等の電子デバイスを作製した後に、サファイア基板10を除去し、電子デバイスを得てもよい。
【0053】
また、前記実施形態では、単層のサファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層17を得たが、これに限られるものではない。本発明で製造されるIII族窒化物半導体基板は多層構造であってもよい。
【0054】
前記実施形態では、下地基板上に形成する炭化物層として、炭化アルミニウムを使用していたが、これに限られるものではない。下地基板上に、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成すればよい。
さらには、炭化物層を形成する工程では、下地基板との格子不整合率が11%以下である金属炭化物層を形成してもよい。金属炭化物層は、遷移金属V族炭化物または遷移金属IV族炭化物であることが好ましい。
ここで、格子不整合率は、下地基板の面方向原子間距離と、炭化物層の面内方向原子間距離との差を下地基板の面方向原子間距離で割った値の百分率として算出される。
具体的には、下地基板をサファイア基板とした場合には、以下のようになる。
(1)サファイア基板の単位格子のa軸長×cos30°×2÷3
(2)六方晶の炭化物層:単位格子のa軸長
(3)面心立方晶の炭化物層:下記の数式
【0055】
【数1】
【0056】
とすると、
格子不整合率=(1)と、(2)または(3)との差を(1)で割った値の百分率
【0057】
下地基板との格子不整合率が11%以下である金属炭化物層を形成することで、格子不整合に起因して発生する欠陥を低減でき、結晶性の良好な炭化物層を形成することができる。これにより、炭化物層上に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を良好なものとすることができる。
【0058】
さらには、炭化物層を形成する工程では、立方晶の炭化物層を形成してもよい。なかでも、炭化物層として炭化チタンの炭化物層を形成することが好ましい。
立方晶の炭化物層は、窒化した際に、格子定数の変化が小さい。従って、窒化された炭化物層の上部に形成されるIII族窒化物半導体層の結晶性を良好なものとすることができる。
また、炭化チタンは、酸化されにくいという特性を有するため、炭化チタンの炭化物層上に、炭化チタンの炭化物層を保護するようなバッファ層を形成する必要がない。従って、III族窒化物半導体基板の製造に手間を要しない。
なお、炭化物層として、炭化アルミニウム以外の炭化物層を形成する場合においても、バッファ層の厚み、バッファ層の成膜温度、炭化物層の厚み、炭化物層の窒化温度等の製造条件を前記実施形態と同様とし、III族窒化物半導体層を製造することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例により制限されるものではない。
(実施例1)
前記実施形態(図3〜4)で説明したのと同様のプロセスを行い、膜厚約300μmのGaN結晶を得た。各工程で採用した条件は以下のとおりである。
(炭化アルミニウム層の形成工程)
成膜方法:MOVPE法
成膜温度:500℃
成膜時間:5分
成膜ガス:TMAl20cc/min(18℃)、H2ガス6L/min、N2ガス10.5L/min
膜厚 :70nm
【0060】
(炭化アルミニウム層を窒化する工程)
窒化温度:500℃
窒化時間:30分
窒化ガス:NH3ガス5L/min、H2ガス6L/min、N2ガス4.5L/min
【0061】
(バッファ層の形成工程)
成膜方法:MOVPE法
成膜温度:500℃
成膜ガス:TMG 4cc/min(10℃)、NH3ガス5L/min、H2ガス6L/min、N2ガス4.5L/min
膜厚 : 70 nm
【0062】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)
成膜方法:HVPE法
成膜温度:1040℃
成膜ガス:HClガス 0.15L/min、NH3ガス1.5L/min
ソース :Gaソース(850℃)
膜厚 :310μm
温度プロファイル:図5
なお、図5において、GaClの下側の矢印は、50分〜80分、90〜180分の間でGaClが発生していることを示し、NH3の上側の矢印は、矢印で示す間中、NH3ガスを供給している時間を示している。
【0063】
(サファイア基板の剥離工程)
GaN半導体層を形成したHVPE装置中の温度を降温し、常温まで、冷却した。
【0064】
(比較例1)
炭化アルミニウム層の形成工程および炭化アルミニウム層を窒化する工程を実施しなかったこと以外は、実施形態(図3〜4)で説明したのと同様のプロセスを行い、膜厚310μmのGaN自立基板を得た。
【0065】
(実施例1および比較例1の結果)
GaN半導体層の剥離状況に関して、実施例1の結果を図6に、また比較例の結果を図7に示す。
実施例1では、サファイア基板、サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層を冷却する工程で、サファイア基板が剥離された。そして、実施例1では、クラックのないGaN結晶を得ることができた。また、実施例1では、サファイア基板と、前記サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層との界面からサファイア基板が剥離された。
これに対し、比較例1では、サファイア基板、サファイア基板との境界面にCが濃縮したGaN半導体層を冷却する工程でGaN半導体層に割れが生じ、粉々になってしまった。
図8に、実施例1で得られたGaN半導体層の剥離界断面部分のエネルギー分散型X線分析結果を示す。剥離界面にはCと炭化アルミニウム層の窒化によって形成されたCの濃縮が確認された。また、AlはGaN半導体層に向かって拡散が認められた。図9に、実施例1で得られたGaN半導体層の剥離面のX線回折パターンを示した。剥離面には、GaNの(002)と(004)ピークのみが観察されることから、AlNはGaNと混晶を形成している予想される。また、Cはアモルファスであると考えられる。
【0066】
(実施例2)
実施例1において、炭化アルミニウム層を窒化する工程における窒化温度を、550℃、600℃、700℃と変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0067】
(実施例3)
実施例1において、炭化アルミニウム層を窒化する工程における窒化温度を、400℃、800℃、900℃と変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0068】
(実施例2および実施例3の結果)
実施例2,3では、各窒化温度でGaN結晶を7枚作製し、GaN半導体層の剥離状況について評価した。また、窒化温度が500℃、700℃および900℃について剥離面のエネルギー分散型X線分析を実施し、組成の違いを測定した。
GaN半導体層の剥離状況に関しては、以下の結果が得られた。
400℃ 作製したGaN結晶7枚中、1枚でクラックが発生せず剥離した。
550℃ 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
600℃ 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
700℃ 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
800℃ 作製したGaN結晶7枚中、1枚でクラックが発生せず剥離した。
900℃ 作製したGaN結晶7枚中、3枚でクラックが発生せず剥離した。
以上の実施例2および実施例3の結果より、炭化アルミニウム層の窒化温度は500℃以上700℃以下とすることが好ましい。
さらに、図10に窒化温度が500℃(実施例1)、700℃および900℃について剥離面のエネルギー分散型X線分析結果を示した。窒化温度が高くなると共にCが低下し、Nが増加していることから、炭化アルミニウム層の窒化が進み過ぎて、剥離界面部分に形成したAlNが下地基板と強固に結合していると考えられる。
なお、窒化温度500℃、550℃、700℃で作製したGaN基板のX線ロッキングカーブ半値幅を測定したところ、
500℃ 作製したGaN結晶・・・600arcsec
550℃ 作製したGaN結晶・・・600arcsec
700℃ 作製したGaN結晶・・・1800arcsec
となり、550℃以下がより好ましいことがわかった。
【0069】
(実施例4)
実施例1において、炭化アルミニウム層の形成工程における原料ガスとして、トリエチルアルミニウムに変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0070】
(実施例4の結果)
作製したGaN結晶は、クラックが生じたものの、粉々にはならなかった。
実施例1に比べ、サファイア基板とGaN半導体層との密着性が高いと考えられる。
【0071】
(実施例5)
実施例1において、炭化アルミニウム層の形成工程における膜厚を20nm、100nm、140nmに変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0072】
(実施例6)
実施例1において、炭化アルミニウム層の形成工程における膜厚を15nm、200nmに変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0073】
(実施例5と実施例6の結果)
GaN半導体層の剥離状況に関しては、以下の結果が得られた。
15nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生したものの、粉々にはならなかった。
20nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
100nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
140nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
200nm 作製したGaN結晶7枚中、3枚でクラックが発生せず剥離した。
以上の実施例5および実施例6の結果より、炭化アルミニウム層の膜厚は20nmから140nmとすることが好ましい。
【0074】
(実施例7)
実施例1において、バッファ層の形成工程における膜厚を20nm、50nm、100nm、140nmに変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0075】
(実施例8)
実施例1において、バッファ層の形成工程における膜厚を15nm、200nmに変更した。他の点は実施例1と同じである。
【0076】
(実施例7および実施例8の結果)
GaN半導体層の剥離状況に関しては、以下の結果が得られた。
15nm 作製したGaN結晶7枚中、6枚が剥離したが、結晶のへき開面に沿った小さなクラックが多数生じた。
20nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
50nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
100nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
140nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚でクラックが発生せず剥離した。
200nm 作製したGaN結晶7枚中、7枚がGaN成長中にクラックを生じたものの、粉々にはならなかった。
以上の実施例7および実施例8の結果より、バッファ層の膜厚は20nm以上、140nm以下とすることが好ましい。
【0077】
実施例1において、GaN半導体層をサファイア基板から剥離して得られたGaN結晶の表面および裏面をダイヤモンドスラリーで研磨することで、平坦化した自立基板である厚さ200μmのGaN自立基板を作製した。図11に作製したGaN自立基板を示す。
【0078】
(実施例9)
本実施例では、炭化物層として、炭化チタン層を形成した。下地基板としては、85mmφサファイア基板を使用している。
(炭化チタン層の形成工程)
成膜方法:スパッタリング
成膜温度:730〜760℃
成膜時間:14分14秒
Ar圧力:0.4Pa
ターゲット:TiC
ターゲット出力:150W
膜厚 :70nm
【0079】
(炭化チタン層を窒化する工程)
窒化温度:600℃〜900℃
窒化時間:17分
窒化ガス:NH3ガス3.3L/min
この工程では、600℃から900℃までの昇温過程で炭化チタン層を窒化した。
【0080】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)
(GaNのファセット構造の形成)
成膜方法:HVPE法
ファセット形成温度:900℃
時間:5分
ファセット形成ガス:HClガス 0.09l/min、NH3ガス3.3L/min
ファセットを形成した後に連続して、GaN半導体層の成膜を行ない膜厚300μmとした。成膜温度の1040℃まで昇温する間もNH3ガスは供給した。
(GaN半導体層の成長)
成膜方法:HVPE法
成膜温度:1040℃
成膜ガス:HClガス 0.15L/min、NH3ガス1.5L/min
ソース :Gaソース(850℃)
膜厚 :300 μm
300μmのGaN半導体層の成膜中には、ジクロロシラン(SiH2Cl2)を用いてSiのドーピングを行ない、キャリヤ濃度1×1018cm−3に制御した。
炭化チタン層を窒化する工程と、GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程の温度プロファイルを図12に示す。なお、図12において、GaClの下側の矢印は、50分〜55分、70〜160分の間でGaClが発生していることを示し、NH3の下側の矢印は、矢印で示す間中、NH3ガスを供給していることを示している。
【0081】
(サファイア基板の剥離工程)
GaN半導体層を形成したHVPE装置の反応管の温度を降温し、常温まで、冷却した。
【0082】
なお、本実施例の参考として、炭化アルミニウム層を形成し、GaN半導体層を得る実験を行った。
炭化アルミニウム層の形成工程、炭化アルミニウム層を窒化する工程、バッファ層の形成工程は実施例1と同じである。GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程は、以下の通りである。
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)
(GaNのファセット構造の形成)
成膜方法:HVPE法
ファセット形成温度:1000℃
時間:30分
ファセット形成ガス:HClガス 0.06l/min、NH3ガス0.9L/min
ファセットを形成した後に連続して、GaN半導体層の成膜を行ない膜厚310μmとした。成膜温度の1040℃まで昇温する間もNH3ガスは供給した。
(GaN半導体層の成長)
成膜方法:HVPE法
成膜温度:1040℃
成膜ガス:HClガス 0.15L/min、NH3ガス1.5L/min
ソース :Gaソース(850℃)
膜厚 :310μm
【0083】
図13(A)、(B)に、それぞれ実施例9のGaN半導体層の表面と、断面の蛍光顕微鏡像を示す。なお、図13(C)、(D)は、それぞれ上記参考実験で得られたGaN半導体層の表面と、断面の蛍光顕微鏡像である。
実施例9で得られたGaN半導体層表面は、上記参考実験で得られたGaN半導体層表面に比べ平坦であり、ピットが少ないことがわかる。GaN半導体層の断面像からは、80μmの成長段階でGaN半導体層が略平坦になっていることがわかる。
さらに、図14(A)、(B)には、実施例9のGaN半導体層と、上記参考実験のGaN半導体層のXRD測定によるロッキングカーブプロファイルを示す。これらのプロファイルからは、上記参考実験のGaN半導体層に比べ実施例9のGaN半導体層の結晶性が改善されていることがわかる。
また、図15に、実施例9のGaN半導体層のカソードルミネッセンスによる像を示す(バンド端365nm発光)。上記参考実験のGaN半導体層では、ネットワーク状の暗線(転位集合部)が観察され、明確な暗点観察はできなかったが、実施例9のGaN半導体層では、暗点のみが観察され、暗点密度は、2×107/cm2であった。
以上より、炭化チタン層のように、下地基板との格子不整合率が11%以下である炭化物層を形成することで、GaN半導体層の結晶性を向上させることができることがわかった。
なお、本実施例では、SiH2Cl2ガスを用いてSiのドーピングを行なったが、O2の導入により酸素(O)、またFeCl2の供給により鉄(Fe)等の不純物をドーピングすることも可能である。
【0084】
(実施例10)
本実施例では、炭化物層として、炭化ジルコニウム層を形成した。下地基板としては、85mmφサファイア基板を使用している。
(炭化ジルコニウム層の形成工程)
成膜方法:スパッタリング
成膜温度:730〜760℃
成膜時間:13分
Ar圧力:0.4Pa
ターゲット:ZrC
ターゲット出力:150W
膜厚 :70nm
【0085】
(炭化ジルコニウム層を窒化する工程)
窒化温度:600℃〜900℃
窒化時間:17分
窒化ガス:NH3ガス3.3L/min
この工程では、600℃から900℃までの昇温過程で炭化ジルコニウム層を窒化した。
【0086】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)および(サファイアの剥離工程)は、実施例9と同じである。
【0087】
GaN半導体層は、クラックを発生せずサファイア基板から剥離した。GaN半導体層の表面および断面を蛍光顕微鏡で観察したところ、表面は平坦であり、断面はピットが多いGaN半導体層であった。
【0088】
(実施例11)
本実施例では、炭化物層として、炭化ハフニウム層を形成した。下地基板としては、85mmφサファイア基板を使用している。
(炭化ハフニウム層の形成工程)
成膜方法:スパッタリング
成膜温度:730〜760℃
成膜時間:12分
Ar圧力:0.4Pa
ターゲット:HfC
ターゲット出力:150W
膜厚 :70nm
【0089】
(炭化ハフニウム層を窒化する工程)
窒化温度:600℃〜900℃
窒化時間:17分
窒化ガス:NH3ガス3.3L/min
この工程では、600℃から900℃までの昇温過程で炭化ハフニウム層を窒化した。
【0090】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)および(サファイアの剥離工程)は、実施例9と同じである。
【0091】
GaN半導体層は、クラックを発生せずサファイア基板から剥離した。GaN半導体層の表面を蛍光顕微鏡で観察したところ、表面は平坦であることがわかった。
また、GaN半導体層の断面を蛍光顕微鏡で観察したところ、ピットが多いGaN半導体層であることがわかった。
【0092】
(実施例12)
本実施例では、炭化物層として、炭化バナジウム層を形成した。下地基板としては、85mmφサファイア基板を使用している。
(炭化バナジウム層の形成工程)
成膜方法:スパッタリング
成膜温度:730〜760℃
成膜時間:13分
Ar圧力:0.4Pa
ターゲット:VC
ターゲット出力:150W
膜厚 :70nm
【0093】
(炭化バナジウム層を窒化する工程)
窒化温度:600℃〜900℃
窒化時間:17分
窒化ガス:NH3ガス3.3L/min
この工程では、600℃から900℃までの昇温過程で炭化バナジウム層を窒化した。
【0094】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)および(サファイアの剥離工程)は、実施例9と同じである。
【0095】
GaN半導体層は、クラックを発生せずサファイア基板から剥離した。GaN半導体層の表面を蛍光顕微鏡で観察したところ、表面は平坦であることがわかった。また、GaN半導体層の断面を蛍光顕微鏡で観察したところピットが少ないGaN半導体層であることがわかった。
【0096】
(実施例13)
本実施例では、炭化物層として、炭化タンタル層を形成した。下地基板としては、85mmφサファイア基板を使用している。
(炭化タンタル層の形成工程)
成膜方法:スパッタリング
成膜温度:730〜760℃
成膜時間:15分
Ar圧力:0.4Pa
ターゲット:TaC
ターゲット出力:150W
膜厚 :70nm
【0097】
(炭化タンタル層を窒化する工程)
窒化温度:600℃〜900℃
窒化時間:17分
窒化ガス:NH3ガス3.3L/min
この工程では、600℃から900℃までの昇温過程で炭化タンタル層を窒化した。
【0098】
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)および(サファイアの剥離工程)は、実施例9と同じである。
【0099】
GaN半導体層は、クラックを発生せずサファイア基板から剥離した。GaN半導体層の表面を蛍光顕微鏡で観察したところ、表面は平坦であることがわかった。
また、GaN半導体層の断面を蛍光顕微鏡で観察したところ、ピットが多いGaN半導体層であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の課題を解決するための手段にかかる炭化物に対する窒化物の格子不整合を示す図である。
【図2】本発明の課題を解決するための手段にかかる炭化物および窒化物の結晶構造と格子定数を示す図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるGaN基板の製造工程を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態にかかるGaN基板の製造工程を示す模式図である。
【図5】実施例1のGaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程の温度プロファイルを示す図である。
【図6】本発明の実施例1にかかるGaN自立基板の剥離状況を示す図である。
【図7】本発明の比較例1にかかるGaN自立基板の剥離状況を示す図である。
【図8】本発明の実施例1にかかるGaN自立基板の剥離断面部分のエネルギー分散型X線分析結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例1にかかるGaN自立基板の剥離面のX線回折プロファイルを示した図である。
【図10】本発明の実施例2にかかるGaN半導体層の剥離面のエネルギー分散型X線分析結果を示した図である。
【図11】本発明の実施例1で剥離したGaN半導体層から作製したGaN基板を示す図である。
【図12】実施例9のGaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程の温度プロファイルを示す図である。
【図13】(A)は、実施例9のGaN半導体層の表面の蛍光顕微鏡像を示す図であり、(B)は実施例9のGaN半導体層の断面の蛍光顕微鏡像を示す図である。(C)は、参考実験のGaN半導体層の表面の蛍光顕微鏡像を示す図であり、(D)は参考実験のGaN半導体層の断面の蛍光顕微鏡像を示す図である。
【図14】実施例9のGaN半導体層と、参考実験のGaN半導体層のXRD測定によるロッキングカーブプロファイルを示す図である。
【図15】実施例9のGaN半導体層のカソードルミネッセンスによる像を示す図である。
【符号の説明】
【0101】
10 サファイア基板(下地基板)
11 炭化アルミニウム層
12 窒化された炭化アルミニウム層
121 窒化アルミニウム
122 炭化アルミニウム
14 バッファ層(III族窒化物半導体膜)
16 GaN半導体層(III族窒化物半導体層)
17 サファイア基板10との境界面にCが濃縮したGaN半導体層
171 Cの濃縮部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板上に、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成する工程と、
前記炭化物層を窒化する工程と、
窒化された前記炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板を除去し、前記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程と、
を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記炭化物層を窒化した後、その上にIII族窒化物半導体膜を300℃以上1000℃以下の成長温度で成長させ、その後、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程を実施することを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程は、窒化された前記炭化物層の上部にファセット構造を形成させながら前記III族窒化物半導体層を成長させる工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項4】
III族窒化物半導体基板を得る前記工程では、前記下地基板、前記窒化された炭化物層、前記III族窒化物半導体層を冷却し、この冷却過程で、前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板が分離除去されることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭化物層は、炭化アルミニウムであり、
前記炭化アルミニウムの炭化物層を形成する手段として、トリメチルアルミニウムを原料ガスとしたMOVPE法を用いることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記炭化物層の厚さが20nm以上、140nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記炭化物層を窒化する前記工程では、300℃以上900℃以下で前記炭化物層を窒化することを特徴とする請求項1乃至6に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項8】
300℃以上1000℃以下の成長温度で成長した前記III族窒化物半導体膜の厚さを20nm以上、140nm以下に制御することを特徴とする請求項2に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法により得られることを特徴とするIII族窒化物半導体基板。
【請求項10】
下地基板上に、金属の炭化物層を形成する工程と、
前記炭化物層を窒化する工程と、
窒化された前記炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板を除去し、前記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程と、
を含み、
炭化物層を形成する前記工程では、前記下地基板との格子不整合率が11%以下である炭化物層を形成することを特徴とするIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項11】
炭化物層を形成する前記工程では、立方晶の前記炭化物層を形成することを特徴とする請求項10に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項12】
炭化物層を形成する前記工程では、炭化チタンの前記炭化物層を形成することを特徴とする請求項10または11に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項13】
請求項10乃至12いずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法により得られることを特徴とするIII族窒化物半導体基板。
【請求項1】
下地基板上に、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成する工程と、
前記炭化物層を窒化する工程と、
窒化された前記炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板を除去し、前記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程と、
を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記炭化物層を窒化した後、その上にIII族窒化物半導体膜を300℃以上1000℃以下の成長温度で成長させ、その後、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程を実施することを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程は、窒化された前記炭化物層の上部にファセット構造を形成させながら前記III族窒化物半導体層を成長させる工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項4】
III族窒化物半導体基板を得る前記工程では、前記下地基板、前記窒化された炭化物層、前記III族窒化物半導体層を冷却し、この冷却過程で、前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板が分離除去されることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭化物層は、炭化アルミニウムであり、
前記炭化アルミニウムの炭化物層を形成する手段として、トリメチルアルミニウムを原料ガスとしたMOVPE法を用いることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記炭化物層の厚さが20nm以上、140nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記炭化物層を窒化する前記工程では、300℃以上900℃以下で前記炭化物層を窒化することを特徴とする請求項1乃至6に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項8】
300℃以上1000℃以下の成長温度で成長した前記III族窒化物半導体膜の厚さを20nm以上、140nm以下に制御することを特徴とする請求項2に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法により得られることを特徴とするIII族窒化物半導体基板。
【請求項10】
下地基板上に、金属の炭化物層を形成する工程と、
前記炭化物層を窒化する工程と、
窒化された前記炭化物層の上部にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記III族窒化物半導体層から、前記下地基板を除去し、前記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程と、
を含み、
炭化物層を形成する前記工程では、前記下地基板との格子不整合率が11%以下である炭化物層を形成することを特徴とするIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項11】
炭化物層を形成する前記工程では、立方晶の前記炭化物層を形成することを特徴とする請求項10に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項12】
炭化物層を形成する前記工程では、炭化チタンの前記炭化物層を形成することを特徴とする請求項10または11に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項13】
請求項10乃至12いずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法により得られることを特徴とするIII族窒化物半導体基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図8】
【公開番号】特開2008−120670(P2008−120670A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158815(P2007−158815)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]