説明

ZnO系半導体膜製造方法、及びZnO系半導体発光素子製造方法

【課題】p型伝導性のNドープZnO系半導体膜の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】ZnO系半導体膜製造方法は、Znソースガン、Oラジカルガン、Nラジカルガン、Mgソースガンを備え、Nラジカルガンが、ラジオ周波が印加されpBNまたは石英を用いた無電極放電管を含む結晶製造装置により、NドープMgZn1−xO膜を成長させる方法であって、基板法線方向から見て、膜の成長表面側上方に、Znソースガン、Oラジカルガン、Nラジカルガン、Mgソースガンが円周方向に並んで配置されており、NラジカルガンとZnソースガンのビーム照射方向の方位角同士のなす角θを90°≦θ≦270°とするとともに、ラジオ周波パワーを、無電極放電管からスパッタリングされたBまたはSiが膜中に取り込まれない程度に低くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnO系半導体膜製造方法、及びZnO系半導体発光素子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、室温で3.37eVのバンドギャップエネルギーを持つ直接遷移型の半導体で、励起子の束縛エネルギーが60meVと他の半導体(例えば、GaN:24meV、ZnSe:18meV)に比べて大きく、室温で励起子発光過程を利用した高効率な紫外発光素子への利用が期待されている。また、原材料が安価であるとともに、環境や人体への悪影響が少ないという特徴を有するため、高効率・低消費電力で環境性に優れた発光素子を実現できる可能性がある。
【0003】
ZnOを用いた発光素子(例えば、特許文献1参照)の構造は、例えば、基板上方にn型ZnO系半導体層、ZnO系半導体発光層、及びp型ZnO系半導体層を順に積層し、n型半導体層表面または(導電性基板を用いる場合)基板裏面上にn側電極を形成し、p型半導体層の表面にp側電極を形成した構造である。基板は特に限定されないが、格子ミスマッチの少ないZnO系半導体基板がもっとも望ましい。
【0004】
p型ZnO系半導体層を得る方法としては、主に、ZnO系半導体中へのV族元素のドープが有効とされ、その中でも、N原子のドープが効果的かつ毒性が少ないので、積極的に試みられている。しかし、Nドープによりp型ZnO系半導体層を得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/018216号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一目的は、p型伝導性を有するNドープZnO系半導体膜の新規な製造方法、及び、p型伝導性を有するNドープZnO系半導体層を有するZnO系半導体発光素子の新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、Znソースガン、Oラジカルガン、Nラジカルガンを備え、さらに、必要に応じてMgソースガンを備え、前記Nラジカルガンは、窒素を含むガスが導入された無電極放電管にラジオ周波を印加してNラジカルを含むプラズマを発生させ、前記無電極放電管の材料としてpBNまたは石英が用いられた結晶製造装置を用い、単結晶基板の表面上方に、Znビーム、Oラジカルビーム、Nラジカルビーム、及び、必要に応じてMgビームを同時照射して、NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を成長させるZnO系半導体膜製造方法であって、前記基板の法線方向から見て、前記NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜の成長表面側上方に、前記Znソースガン、前記Oラジカルガン、前記Nラジカルガン、及び、前記Mgソースガンが円周方向に並んで配置されており、前記Nラジカルガンのビーム照射方向の方位角と、前記Znソースガンのビーム照射方向の方位角とのなす角θを、90°≦θ≦270°の範囲内にするとともに、前記Nラジカルガンの前記無電極放電管に印加されるラジオ周波のパワーを、前記無電極放電管からスパッタリングされたBまたはSiが、前記NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜に取り込まれない程度に低いパワーに抑えるZnO系半導体膜製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
Nラジカルガンのビーム照射方向の方位角と、Znソースガンのビーム照射方向の方位角とのなす角θを、90°≦θ≦270°の範囲内にすることにより、Nラジカルガンの無電極放電管に印加されるラジオ周波のパワーが、無電極放電管からスパッタリングされたBまたはSiがNドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜に取り込まれない程度に低いパワーに抑えられていても、NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜中のN濃度を高めやすい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、MBE装置の全体構造例を示す概略断面図である。
【図2】図2Aは、ソースガンの概略構造例を示す断面図であり、図2Bは、Kセルタイプのクヌーセンセルの例を示す概略断面図である。
【図3】図3は、ラジカルガンの概略構造例を示す断面図である。
【図4】図4A及び図4Bは、それぞれ、例示によるMBE装置における、結晶成長基板と、各ポートに設置されたガンとの配置関係を示す概略平面図及び概略断面図である。
【図5】図5Aは、予備的実験その1におけるNラジカルガンへの印加RFパワーと膜中N濃度との関係を示すグラフであり、図5Bは、予備的実験その2におけるフラックス比と膜中N濃度との関係を示すグラフである。
【図6】図6Aは、第1実験における配置角度θと膜中N濃度との関係を示すグラフであり、図6B及び図6Cは、それぞれ、第1実験の配置角度θが45°のサンプルと、180°のサンプルのAFM像である。
【図7】図7Aは、第2実験における配置角度θと膜中N濃度との関係を示すグラフであり、図7B及び図7Cは、それぞれ、第2実験の配置角度θが45°のサンプルと、180°のサンプルのAFM像である。
【図8】図8は、第3実験におけるZnビームフラックス強度と膜中N濃度との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、第4実験(及び第5、第6実験)のサンプル構造を示す概略断面図である。
【図10】図10は、第4〜第6実験におけるI−V特性及び発光状態(発光の有無とELスペクトル)をまとめて示す。
【図11】図11は、第4〜第6実験におけるAFM像をまとめて示す。
【図12】図12は、Nラジカルガンで形成されるプラズマの発光スペクトルである。
【図13】図13は、ダイオードの一般的なI−V特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、ZnO系化合物半導体膜を成長させる結晶製造装置として、分子線エピタキシー(MBE)装置について説明する。なお、ZnO系半導体は、少なくともZnとOとを含む。
【0011】
図1は、MBE装置の全体構造を示す概略断面図である。真空容器1内に、Znソースガン2、Mgソースガン3、Oラジカルガン4、Nラジカルガン5が備えられている。以下、ソースガンまたはラジカルガンを、単にガンと呼ぶこともある。ガン2〜5は、それぞれ、真空容器1の有するポートに設置される。各ガンの配置関係については、図4A及び図4Bを参照して後述する。図1に示すガン2〜5の配置関係は、概略的断面構造を示すための便宜的なものである。
【0012】
Znソースガン2及びMgソースガン3は、それぞれ、Zn及びMgの固体ソースを収容するクヌーセンセルを含み、それぞれ、Znビーム、Mgビームを出射する。
【0013】
Oラジカルガン4及びNラジカルガン5は、それぞれ、例えば13.56MHzのラジオ周波(RF)が印加される無電極放電管を含み、RFパワーをかけた無電極放電管内で酸素ガス及び窒素ガスをラジカル化して、Oラジカルビーム及びNラジカルビームを出射する。
【0014】
酸素ボンベからマスフローコントローラ4aを介して、酸素ガスがOラジカルガン4に供給される。窒素ボンベからマスフローコントローラ5aを介して、窒素ガスがNラジカルガン5に供給される。
【0015】
真空チャンバ1内に、ヒータを含むステージ6が配置され、ステージ6が、結晶成長基板7を保持する。ステージ6の下面上に基板7が配置され、基板7の下方にガン2〜5が配置されている。各ガン2〜5から出射されたビームが、基板7の下側表面上に、斜めに入射する。基板7の表面上に、所望のビームを供給することにより、所望のZnO系半導体膜を成長させることができる。
【0016】
本MBE装置は、反射高速電子回折(RHEED)用のガン8、RHEED像を映すスクリーン9も備える。RHEED像から、成長した結晶膜の表面平坦性を評価できる。結晶が2次元成長し表面が平坦である場合は、RHEED像がストリークパターンを示し、結晶が3次元成長し表面が平坦でない場合は、RHEED像がスポットパターンを示す。
【0017】
ZnOにMgを添加してMgZnOとすることにより、バンドギャップを広げることができる。ただし、ZnOはウルツ鉱構造で、MgOは岩塩構造であるため、Mg組成が高すぎると相分離を起こしてしまう。MgZnOのMg組成をxと明示したMgZn1−xOにおいて、Mg組成xは、ウルツ鉱構造を保つため0.6以下とするのが好ましい。なお、Mg組成x=0も含めることにより、MgZn1−xOという表記に、Mgの添加されていないZnOも含める。
【0018】
ZnO系半導体のn型伝導性は、n型不純物をドープしなくても得ることができるが、n型キャリア濃度を高めるために、Ga等のn型不純物をドープすることもできる。必要に応じて、真空容器1の空いているポートに、Ga等のソースガンを設置することができる。
【0019】
ZnO系半導体のp型伝導性を得るために、例えばNをドープすることができる。ただし、以下の予備的実験で説明するように、Nドープp型ZnO系半導体膜の作製は難しい。
【0020】
図2Aは、ソースガンの概略構造を示す断面図である。ソースガンの構造は、Znソースガン2とMgラジカルガン3とで同様である。
【0021】
ケース21内に、クヌーセンセル22、及びフィラメントヒーター23が配置されている。ここで例示するMBE装置では、Znソースガン2及びMgソースガン3のクヌーセンセル22として、図2Aに示すようなSUMOセルタイプのクヌーセンセル22Sを用いている。Znソースガン2及びMgソースガン3のクヌーセンセル22として、図2Bに示すような、Kセルタイプのクヌーセンセル22Kを用いてもよい。
【0022】
クヌーセンセル22の外側に、クヌーセンセル22の上部と下部とを取り囲むようにフィラメントヒーター23が配置されている。クヌーセンセル22内に、固体ソース24が収められている。図2Aは、Znソースガン2を例示し、固体ソース24として亜鉛粒(純度7N)を示す。Mgソースガン3の固体ソース24として、例えば、純度6Nのマグネシウム粒を用いることができる。図2Bに示すような、Kセルタイプのクヌーセンセル22Kを用いる場合は、ペレット状の亜鉛やマグネシウムを充填して使用する。
【0023】
フィラメントヒーター23を通電加熱することにより、クヌーセンセル22の温度を上げ、固体ソース24を蒸発させる。蒸発した固体ソース24が、クヌーセンセル22の先端開口部からビームとして出射される。ケース21のビーム出射側の縁部と、クヌーセンセル22との間に、スペーサー25が配置されている。MBE装置固定用フランジ26により、ソースガンが、真空容器のポートに取り付けられる。
【0024】
図3は、ラジカルガンの概略構造を示す断面図である。ラジカルガンの構造は、Oラジカルガン4とNラジカルガン5とで同様である。
【0025】
ケース31内に、無電極放電管32及びRFコイル33が配置されている。無電極放電管32は、例えば、パイロリティック・ボロン・ナイトライド(pBN)や石英により形成される。ここで例示するMBE装置では、Oラジカルガン4の無電極放電管材料として石英を用い、Nラジカルガン5の無電極放電管材料としてpBNを用いている。酸素はpBNを酸化してしまうので、Oラジカルガン4の無電極放電管材料としては石英の方が好ましい。Nラジカルガン5の無電極放電管材料として、石英を用いてもよい。
【0026】
無電極放電管32に、接続部34を介して、ガス供給管35が接続されている。ガス経路を、矢印36で示す。無電極放電管32の外側に巻かれたRFコイル33により、例えば13.56MHzのRFパワーが印加されることにより、無電極放電管32内にプラズマが形成され、生成されたプラズマが、無電極放電管32の先端開口部からビームとして出射される。図3に示す例では、無電極放電管32の開口部は1穴だが、穴の個数や大きさは適宜変更することができる。MBE装置固定用フランジ37により、ラジカルガンが、真空容器のポートに取り付けられる。
【0027】
Oラジカルガン4の無電極放電管32には、例えば純度6Nの酸素ガスが供給され、生成されるプラズマには、活性種として主に、酸素原子ラジカルが含まれる。
【0028】
Nラジカルガン5の無電極放電管32には、例えば純度7Nの窒素ガスが供給され、生成されるプラズマには、活性種として主に、窒素原子ラジカル、窒素分子ラジカル、窒素原子イオン、及び窒素分子イオンが含まれる。図12に、Nラジカルガン5で形成されるプラズマの発光スペクトルを示す。窒素原子ラジカルの照射により、ZnO系半導体のOサイトをN原子で置換して、p型伝導性のZnO系半導体を得ることができる。
【0029】
Nラジカルガン5から出射される活性種のうち、イオンなどは成長する膜にダメージを与え欠陥を誘発する。ケース31のビーム出射側先端部に取り付けられた対向電極38により、対向電極38間を通過するビームに電場を印加し、イオンの出射方向を曲げることにより、成長膜にイオンを照射されにくくすることができる。
【0030】
図4Aは、結晶成長基板と、真空容器の各ポートに設置されたガンとの配置関係を示す概略平面図である。基板7の法線方向上方から見た平面図を示す。ポートと、そのポートに設置されたガンとを同一の参照符号で示す。
【0031】
ここで例示しているMBE装置の真空容器は、8つのポートP1〜P8を備える。ポートP1〜P8は、基板7を中心とする円周方向に並んで配置されている。ビームが基板7の下面上に照射されるように、各ポートに、ガンP1〜P8を設置することができる。
【0032】
ビーム照射方向の方位角により、各ガンの位置が表される。以下、ビーム照射方向の方位角θを、単に方位角、または配置角度と呼ぶこととする。ガンP1の方位角を、方位角の基準(θ=0°)とする。ガンP2〜P8は、それぞれ、方位角θが45°、90°、135°、180°、225°、270°、及び315°となる位置に配置されている。
【0033】
以下に説明する予備的実験、及び、第1〜第6実験では、Nラジカルガン5は、ポートP1(θ=0°)に設置した。Znソースガン2は、ポートP2(θ=45°)、ポートP3(θ=90°)、ポートP4(θ=135°)、または、ポートP5(θ=180°)に設置した。Mgソースガン3は、ポートP6(θ=225°)に、Oラジカルガン4は、ポートP8(θ=315°)に設置した。
【0034】
以下に説明するように、予備的実験では、NラジカルビームとZnビームの、ビーム照射方向の方位角同士がなす角(配置角度)θを45°とした。これは、従来、本願発明者らがNドープZnO系半導体膜を成膜する際に用いていた配置角度設定である。
【0035】
第1〜第6実験では、Nラジカルビームに対するZnビームの配置角度θと、NドープZnO系半導体膜中のN濃度との関係等について調べた。
【0036】
図4Bは、結晶成長基板と、各ポートに設置されたガンとの配置関係を示す概略断面図である。ガンP1/Nラジカルガン5(θ=0°)と、ガンP5/Znソースガン2(θ=180°)とが示されている。基板7の法線方向に対して、ビーム照射方向の極角θが定義される。ここで例示しているMBE装置では、ガンP1〜P8は、ビーム照射方向の極角θが25°となるように設置されている。
【0037】
次に、MgZn1−xO(0≦x≦0.6)結晶の成長におけるVI/II比について説明する。Znビームのフラックス強度をJZnと表し、Mgビームのフラックス強度をJMgと表し、Oラジカルビームのフラックス強度をJと表す。
【0038】
MgZn1−xO(0≦x≦0.6)結晶のO終端面への、Zn及びMgそれぞれの付着しやすさを示す係数(Znの付着係数、Mgの付着係数)をKZn、KMgとする。MgZn1−xO(0≦x≦0.6)結晶のZn終端面へのOの付着しやすさを示す係数(Oの付着係数)をKとする。
【0039】
Znの付着係数KZnとフラックス強度JZnとの積KZn・JZn、Mgの付着係数KMgとフラックス強度JMgとの積KMg・JMg、及びOの付着係数Kとフラックス強度Jとの積K・Jは、それぞれ、基板の単位面積に単位時間当たりに付着するZn原子、Mg原子、及びO原子の個数に対応する。
【0040】
Zn・JZnとKMg・JMgの和に対するK・Jの比(VI/II比)であるK・J/(KZn・JZn+KMg・JMg)を、フラックス比と定義する。フラックス比が1より大きい場合をVI族リッチ条件(あるいはOリッチ条件)、フラックス比が1に等しい場合をストイキオメトリ条件、フラックス比が1より小さい場合をII族リッチ条件と呼ぶ。なお、KZn・JZnをZnビームフラックス量、KMg・JMgをMgビームフラックス量、K・JをOラジカルビームフラックス量と定義する。
【0041】
Zn及びJMgは膜厚モニター等を用いて得られた値を適用する事ができる。また、成長温度(基板表面温度)が850℃以下の場合、Znの付着係数KZn及びMgの付着係数KMgは1と置ける。
【0042】
・Jに関しては、KZn・JZnの分かっている条件(850℃以下のKZn=1とおける条件)で例えばZnO膜を実際に成長し、成長速度Gを求める。ZnO成長膜の成長速度Gは下式(1)によって求める事ができるため、得られた成長速度GとKZn・JZnを式に代入する事で、設定したOラジカルガンの条件(O流量、RFパワー)などにおけるOラジカルビームフラックス量K・Jを導出する事ができる。
G = [(KZn・JZn)−1+(K・J)−1]−1・・・(1)
次に、予備的実験について説明する。予備的実験では、MBEで成長させたNドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)膜中のN濃度について、Nラジカルガンに印加するRFパワーとN濃度との関係を調べた実験(予備的実験その1)と、フラックス比とN濃度との関係を調べた実験(予備的実験その2)とを行った。N濃度は、2次イオン質量分析(SIMS)で測定した。
【0043】
予備的実験その1では、以下のような条件の下、Nラジカルガンへ印加するRFパワーを変化させて、複数のサンプルを作製した。Nラジカルガンへの印加RFパワーを上げて、無電極放電管内のプラズマ密度を増加させることにより、Nラジカルビーム量を増やすことができる。以下の条件は、フラックス比(VI/II比)がほぼ1であり、ほぼストイキオメトリ条件である。
【0044】
・基板:Zn極性面(+c面)ZnO単結晶基板
・基板温度:700℃
・Oラジカルガンへの酸素ガス供給流量:2sccm
・Oラジカルガンへの印加RFパワー:300W
・Oラジカルビームフラックス量(K・J):1.1×1015atoms/(cms)
・Znビームフラックス強度(JZn):9×1014atoms/(cms)
・Mgビームフラックス強度(JMg):2×1014atoms/(cms)
・Nラジカルガンへの窒素ガス供給流量:2sccm
・Nラジカルガンに対するZnソースガンの配置角度(方位角)θ:45°
図5Aは、Nラジカルガンへの印加RFパワーと膜中N濃度との関係を示すグラフである。併せて膜中B濃度も示す。左側の縦軸がN濃度を示し、右側の縦軸がB濃度を示す。N濃度を丸のプロットで、B濃度を三角のプロットで示す。
【0045】
Nラジカルガンへの印加RFパワーは、50W〜300Wの範囲で変化させた。RFパワーの増加とともに膜中N濃度は1018cm−3オーダーから1020cm−3オーダー後半まで増加していることが分かる。
【0046】
ただし、Nラジカルガンに用いられているpBN製の無電極放電管は、印加RFパワーが高いと内部がスパッタリングされてしまう。これに起因して、NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)膜中にBが混入してしまい、結晶性が悪化する。
【0047】
この実験のサンプルでは、Nラジカルガンへの印加RFパワーが130W以上で、膜中にBが検出された。例えばRFパワー200Wでは、B濃度が1017cm−3オーダーに達している。130Wより低いRFパワー(例えば80W)では、B濃度がSIMSの検出下限界(6×1015cm−3)以下であり、膜中にBが取り込まれていなかった。なお、Oラジカルガンにおいては、例えば300WのRFパワーが印加されているが、石英製無電極放電管材料のスパッタリング(膜中へのSiの混入)は、特に問題になっていない。
【0048】
予備的実験その2では、以下のような条件の下、Znビームフラックス強度を変えることによりフラックス比(VI/II比)を変化させて、複数のサンプルを作製した。
【0049】
・基板:Zn極性面(+c面)ZnO単結晶基板
・基板温度:700℃
・Oラジカルビームフラックス量(K・J):1.1×1015atoms/(cms)
・Mgビームフラックス強度(JMg):2×1014atoms/(cms)
・Nラジカルガンへの窒素ガス供給流量:2sccm
・Nラジカルガンへの印加RFパワー:80W
・Nラジカルガンに対するZnソースガンの配置角度(方位角)θ:45°
図5Bは、フラックス比と膜中N濃度との関係を示すグラフである。Znビームフラックス強度を、6.9×1014atoms/(cms)〜2.3×1015atoms/(cms)の範囲で変化させて、フラックス比を1.24〜0.44の範囲で変化させた。Znビームフラックス強度の増加(フラックス比の減少)とともに膜中N濃度は1018cm−3オーダーから1020cm−3オーダーまで増加していることが分かる。1020cm−3以上のN濃度とするためには、Znビームフラックスが1.4×1015atoms/(cms)以上で、フラックス比0.69以下のII族リッチ条件が必要となっている。なお、Nラジカルガンへの印加RFパワーは80Wと低く、無電極放電管のスパッタによるBの取り込みが抑制される条件である。
【0050】
予備的実験その1の結果からわかるように、NラジカルガンのRFパワーを上げプラズマ密度を上げることにより、膜中N濃度を増加させることができる。ただし、この手法では、RFパワーが高くなることに起因して、無電極放電管材料がスパッタされ、成長膜中に取り込まれてしまう。
【0051】
無電極放電管材料に起因する不純物Bは、ZnO系半導体中でドナーとして働き、p型キャリアを補償してしまうので、p型ZnO系半導体を得るという観点からは好ましくない。
【0052】
また。スパッタ粒子は、結晶成長表面において、Znなど構成元素の表面マイグレーションを阻害し、ピット形成の原因となる。得られる膜を発光素子のp型層として使用する場合、この様なピットはリーク電流の原因となり、発光強度を低下させてしまう。
【0053】
一方、予備的実験その2の結果からわかるように、フラックス比を充分にII族リッチ条件とすることにより、膜中N濃度を増加させることができる。この手法では、Nラジカルガンへの印加RFパワーがある程度低い状態でもN濃度を高められ、無電極放電管材料のスパッタリングを抑制できる。ただし、II族リッチ条件では、そもそも供給される酸素ラジカルが不足するため、成長されるNドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)内に酸素欠損が多数発生しやすい。この酸素欠損は、結晶中でドナーとして働き、この場合もまたp型キャリアを補償してしまう。
【0054】
良好なp型伝導性を得るために、Nラジカルガンへの印加RFパワーが抑制され無電極放電管のスパッタリングを抑制できるとともに、過度にII族リッチとならないフラックス比により酸素欠損を抑制できるような、NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜の製造技術が望まれる。
【0055】
次に、このようなNドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜製造技術について検討するために行った第1〜第6実験について説明する。なお、第1〜第6実験の説明では、NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)膜中のN濃度を、単にN濃度と呼び、Nラジカルガンへの印加RFパワーを、単にRFパワーと呼ぶことがある。
【0056】
第1〜第3実験では、NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単膜サンプルを作製した。第1〜第3実験で作製した単膜サンプルに対しては、SIMSによる膜中不純物濃度の確認、及び、原子間力顕微鏡(AFM)による表面性の確認を行った。
【0057】
第4〜第6実験では、p型半導体層としてNドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)膜を含む発光素子を作製した。第4〜第6実験で作製したデバイスサンプルに対しては、AFMによる表面性の確認、I−V特性の測定、および発光状態の確認を行った。
【0058】
AFMによる観察結果からは、ピットの有無を確認した。図13を参照して、ダイオードの一般的なI−V特性について説明する。図13の実線で示す特性は理想的なダイオード特性と言え、順バイアス特性、逆バイアス特性ともにリーク電流が無い。破線で示す特性は、逆バイアス特性においては耐電圧が低く、順バイアス特性においても閾値電圧よりも低い電圧から微小電流が流れ始めており、リーク電流の有る特性と言える。点線で示す特性は、整流性が全くなく短絡を示す。発光状態に関しては、エレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルの測定を行った。
【0059】
第1実験について説明する。第1実験では、高RFパワー条件における、N濃度の、NラジカルガンとZnソースガンとの配置角度(方位角)依存性について調べた。
【0060】
まず、MBE装置内で、+c面ZnO単結晶基板にサーマルアニールを施し、基板表面を洗浄した。サーマルアニールは1×10−9Torrの高真空下において、900℃で30分行った。
【0061】
続いて、基板温度を350℃とし、ZnO基板上に、Znビーム及びOラジカルビームを同時照射して、ZnOバッファー層を成長した。続いて、ZnOバッファー層の結晶性を向上させるため、基板温度を800℃に上げて、20分のアニールを行った。ZnOバッファー層の厚さは30nm程度とした。
【0062】
続いて、基板温度を700℃とし、ZnOバッファー層上に、Znビーム、Mgビーム、Oラジカルビーム、及びNラジカルビームを同時照射して、NドープMgZn1−xO(x=0.25)層を成長した。NドープMgZn1−xO(x=0.25)層成長におけるビーム照射条件は以下のようなものである。
【0063】
Znビームの照射は、固体ソースとして純度7NのZnを用い、フラックス強度を9×1014atoms/(cms)とした。
【0064】
Mgビームの照射は、固体ソースとして純度6NのMgを用い、フラックス強度を2×1014atoms/(cms)とした。
【0065】
Oラジカルビームの照射は、純度6Nの純酸素ガスを2sccmで無電極放電管(石英製)に導入し、RFパワー300Wでプラズマ化して行った。この条件は、Oラジカルビームフラックス量としては1.1×1015atoms/(cms)に相当する。
【0066】
Nラジカルビームの照射は、純度7Nの純窒素ガスを0.5sccmで無電極放電管(pBN製)に導入し、RFパワー200Wの高RFパワー条件でプラズマ化して行った。
【0067】
以上の条件は、フラックス比(VI/II比)がほぼ1であり、ほぼストイキオメトリ条件である。NドープMgZn1−xO(x=0.25)層の厚さは100nmとした。
【0068】
このような条件の下、Nラジカルガンに対するZnソースガンの配置角度θを、45°、90°、135°、180°と変化させ、配置角度θの異なるサンプルを作製した。以下、Nラジカルガンに対するZnソースガンの配置角度θを、単に配置角度θと呼ぶこともある。
【0069】
なお、図1及び図4A、図4Bを参照して説明したように、例示している結晶製造装置において、下方から各ビームが照射されるので、装置に対して(地面に関して)基板下方側に各層が積層されることになる。しかし、説明の便宜上、成膜工程の説明では、成長表面側を「上方」と呼んでいる。従ってこの見方において、各ガンは、基板に対し成長表面側上方に配置されている。
【0070】
図6Aは、第1実験における配置角度θと膜中N濃度との関係を示すグラフである。併せて膜中B濃度も示す。左側の縦軸がN濃度を示し、右側の縦軸がB濃度を示す。N濃度を丸のプロットで、B濃度を三角のプロットで示す。
【0071】
フラックス比(VI/II比)がほぼストイキオメトリ条件でも、NラジカルガンのRFパワーが200Wと高いため、1020cm−3以上の高いN濃度が得られている。N濃度は、配置角度θを変化させても大幅には変化しない。しかし、RFパワーが高いため、pBN製無電極放電管がスパッタされたと考えられ、Bも同時に配置角度θに関係なく1017cm−3オーダーでドープされている。
【0072】
図6B及び図6Cは、それぞれ、第1実験の配置角度θが45°のサンプルと、180°のサンプルのAFM像である。上側に15μm角の観察範囲のAFM像を示し、下側に1μm角の観察範囲のAFM像を示す。
【0073】
配置角度θが45°のサンプルも、180°のサンプルも、膜表面に無数のピットが発生している。これらのピットは、無電極放電管がスパッタされて発生したスパッタ粒子に起因するものと考えられる。
【0074】
第2実験について説明する。第2実験では、低パワー条件におけるN濃度の配置角度依存性について調べた。
【0075】
第2実験のサンプルは、NドープMgZn1−xO(x=0.25)層を形成する際の、NラジカルガンのRFパワーを80Wの低パワーとした以外は、第1実験と同様な条件で作製した。Nラジカルガンに対するZnソースガンの配置角度θを、45°、90°、135°、180°と変化させ、配置角度θの異なるサンプルを作製した。
【0076】
図7Aは、第2実験における配置角度θと膜中N濃度との関係を示すグラフである。併せて膜中B濃度も示す。左側の縦軸がN濃度を示し、右側の縦軸がB濃度を示す。なお、配置角度θが180°〜360°での膜中N濃度を示すグラフは、配置角度θの対称性から、図7Aのグラフを180°で反転させたような形状になると考えられる。
【0077】
NラジカルガンのRFパワーを80Wと低くしたことにより、膜中へのBのドープは、どの配置角度θにおいてもSIMS検出下限界(6×1015cm−3)以下に抑制されている。RFパワーを下げたことにより、無電極放電管内のスパッタが抑制されたと考えられる。なお、B濃度が、SIMS検出下限界(6×1015cm−3)以下に抑制されている場合に、膜中にBが取り込まれていないと判断することができる。
【0078】
一方、膜中のN濃度は、RFパワーを下げたことにより、例えば第1実験に比べて低下する。しかし、低下の度合いは、Nラジカルガンに対するZnソースガンの配置角度θにより異なり、配置角度θが0°(360°)に近いほど膜中のN濃度低下は大きく、配置角度θが180°に近いほど少ない。配置角度θが90°≦θ≦270°の範囲であれば、1020cm−3以上のN濃度が得られるといえる。
【0079】
このように、配置角度θを90°≦θ≦270°の範囲内とすることにより、フラックス比(VI/II比)がストイキオメトリ条件付近でも、無電極放電管のスパッタに起因するBドーピングが抑制されるような低RFパワーで、N濃度が1020cm−3以上のNドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)膜を得られることが分かった。
【0080】
図7B及び図7Cは、それぞれ、第2実験の配置角度θが45°のサンプルと、180°のサンプルのAFM像である。上側に15μm角の観察範囲のAFM像を示し、下側に1μm角の観察範囲のAFM像を示す。
【0081】
配置角度θが45°のサンプルも、180°のサンプルも、ピットが少ない。低RFパワーによりNラジカルガンの無電極放電管のスパッタが抑制され、スパッタ粒子が低減したためと考えられる。
【0082】
発光ダイオード(LED)などの発光素子を作製する場合、ホールキャリア密度は1×1016cm−3以上は必要であるとされる。MgZn1−xO(0≦x≦0.6)中にアクセプタとしてドーピングされるN元素は活性化率が低く、少なくとも1×1019cm−3以上ドーピングしなければ有効なホールキャリアが得られない。ただし、Nの濃度が5×1020cm−3より多くドーピングされるとp型MgZn1−xO(0≦x≦0.6)膜中に多くの欠陥が発生してしまい、素子に電流を流した場合のリークの原因となってしまう場合もある。そのため、Nの濃度は1×1019cm−3〜5×1020cm−3の範囲が好ましい。より好適には、1×1020cm−3〜3×1020cm−3の範囲が良い。
【0083】
第3実験について説明する。第3実験では、低パワー条件における、N濃度のフラックス比依存性について調べた。
【0084】
第3実験のサンプルは、Nラジカルガンに対するZnソースガンの配置角度θを45°及び180°とし、第2実験と同様な低パワー条件で作製した。ただし、NドープMgZn1−xO(x=0.25)層を形成する際のZnビームフラックス強度(これは、KZn=1よりビームフラックス量に等しい)を、5×1014atoms/(cms)〜2×1015atoms/(cms)の範囲で変化させた。これにより、フラックス比(VI/II比)を、1.6〜0.5の範囲で変化させた。
【0085】
図8は、第3実験におけるZnビームフラックス強度と膜中N濃度との関係を示すグラフである。配置角度θが45°の結果を三角のプロットで示し、配置角度θが180°の結果を丸のプロットで示す。
【0086】
配置角度θが45°の場合も180°の場合も、Znビームフラックス強度の増加とともに(フラックス比の減少とともに)膜中N濃度が増加し、充分にII族リッチ条件側では、どちらの場合もN濃度が1020cm−3以上となっている。
【0087】
ただし、配置角度θが45°の場合は、II族リッチ条件側からストイキオメトリ条件側に近づくにつれてN濃度が急激に低下しており、ストイキオメトリ条件では、1019cm−3のオーダーのN濃度となっている。
【0088】
一方、配置角度θが180°の場合は、フラックス比が1.1以下の領域で、1020cm−3以上のN濃度が得られており、フラックス比が1より大きいVI族リッチ(Oリッチ)条件においても、N濃度が1020cm−3以上となる領域が存在している。これにより、フラックス比が1以上であるストイキオメトリ条件またはVI族リッチ(Oリッチ)条件での高濃度Nドープが可能となり、酸素欠損の抑制されたNドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)を得ることができる。
【0089】
なお、第2実験では、配置角度θが90°≦θ≦270°の範囲において、ほぼストイキオメトリ条件の下、1020cm−3以上のN濃度が得られている。これを踏まえると、第3実験で配置角度θが180°の場合に得られたフラックス比とN濃度との関係は、広く90°≦θ≦270°の範囲で同様に成り立つのではないかと考えられる。
【0090】
第4実験について説明する。第4実験では、シングルヘテロ接合型のZnO系半導体発光素子を作製し、p型層とするNドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)膜を、Nラジカルガンへの印加RFパワーが200Wと高く、配置角度θが45°の条件で形成した。
【0091】
図9は、第4実験(及び第5、第6実験)のサンプル構造を示す概略断面図である。まず、n型伝導性を有する+c面ZnO単結晶基板41にサーマルアニールを施し、基板表面を洗浄した。サーマルアニールは1×10−9Torrの高真空下において、900℃で30分行った。
【0092】
続いて、基板温度を350℃とし、ZnO基板41上に、Znビーム及びOラジカルビームを同時照射して、ZnOバッファー層42を成長した。続いて、ZnOバッファー層42の結晶性を向上させるため、基板温度を800℃に上げて、20分のアニールを行った。ZnOバッファー層42の厚さは30nm程度とした。
【0093】
次に、基板温度を900℃とし、ZnOバッファー層42上に、Znビーム及びOラジカルビームを同時照射して、n型ZnO層43を成長した。Znビームの照射は、固体ソースとして純度7NのZnを用い、フラックス強度を8×1014atoms/(cms)とした。Oラジカルビームの照射は、純度6Nの純酸素ガスを1sccmで無電極放電管に導入し、RFパワー300Wでプラズマ化して行った。この条件は、Oラジカルビーム量(K・J)としては7.5×1014atoms/(cms)に相当する。n型ZnO層43の厚さは200nmとした。
【0094】
次に、基板温度を700℃とし、n型ZnO層43上に、Znビーム及びOラジカルビームを同時照射して、ZnO活性層44を成長した。Znビームの照射は、フラックス強度を1.6×1014atoms/(cms)とした。Oラジカルビームの照射は、純酸素ガスを3sccmで無電極放電管に導入し、RFパワー300Wでプラズマ化して行った。この条件は、Oラジカルビーム量(K・J)としては1.2×1015atoms/(cms)に相当する。ZnO活性層44の厚さは10nmとした。
【0095】
続いて、基板温度700℃のまま、ZnO活性層44上に、Znビーム、Mgビーム、Oラジカルビーム、及びNラジカルビームを同時照射し、p型層として、NドープMgZn1−xO(x=0.25)層45を、厚さ40nm成長した。Znビーム、Mgビーム、Oラジカルビーム、及びNラジカルビームの照射条件は、第1実験と同様とした。Nラジカルガンへの印加RFパワーは200Wであり、Nラジカルガンに対するZnソースガンの配置角度θは45°とした。
【0096】
つぎに、ZnO基板41の裏面上に、厚さ10nmのチタン層を堆積し、チタン層上に、厚さ500nmのアルミニウム層を堆積して、n側電極46を形成した。また、p型層45上に、厚さ1nmのニッケル層を堆積し、ニッケル層上に厚さ10nmの金層を堆積して、p側透明電極47を形成し、さらに、p側透明電極47の一部上に、厚さ500nmの金層を堆積して、p側ボンディング電極48を作製した。この後、例えば、400℃の酸素雰囲気中で、処理時間2分の電極合金化処理を行った。このようにして、第4実験によるZnO系発光ダイオードを作製した(ただし、後述のように、第4実験による発光素子は、実際には発光を示さなかった)。
【0097】
第5実験について説明する。第5実験では、シングルヘテロ接合型のZnO系半導体発光素子を作製し、p型層とするNドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)膜を、Nラジカルガンへの印加RFパワーが80Wと低く、配置角度θが45°の条件で形成した。
【0098】
第5実験の発光素子は、NドープMgZn1−xO(x=0.25)層45を、Nラジカルガンへの印加RFパワーを80Wとしたこと以外は、第4実験の発光素子と同様な条件で作製した。
【0099】
第6実験について説明する。第6実験では、シングルヘテロ接合型のZnO系半導体発光素子を作製し、p型層とするNドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)膜を、Nラジカルガンへの印加RFパワーが80Wと低く、配置角度θが180°の条件で形成した。
【0100】
第6実験の発光素子は、NドープMgZn1−xO(x=0.25)層45を、Nラジカルガンへの印加RFパワーを80Wとし、Nラジカルガンに対するZnソースガンの配置角度θを180°としたこと以外は、第4実験の発光素子と同様な条件で作製した。
【0101】
図10及び図11に、第4〜第6実験で得られた発光素子の特性をまとめる。図10には、I−V特性及び発光状態(発光の有無とELスペクトル)を示し、図11には、AFM像を示す。
【0102】
I−V特性及び発光状態は、以下のようなものである。第4実験のサンプルは、電流のリークが激しいI−V特性を示し、発光は示さなかった。第5及び第6実験のサンプルは、ダイオードとしてのI−V特性を示し、発光を示した。
【0103】
第5実験のサンプルは、発光を確認できたものの、紫外発光のピークが見られず、波長580nm付近をピークとするブロードなスペクトルの白色発光を示した。第6実験のサンプルは、波長380nmをピークとする紫外発光が見られるとともに、波長580nm付近をピークとするブロードなスペクトルの白色発光も示した。
【0104】
AFM観察結果は、以下のようなものである。第4実験のサンプルは、小さなピットが多数見られる。このピットは、NドープMgZn1−xO(x=0.25)層成長時にNラジカルガンから発生したスパッタ粒子に起因していると考えられ、このピットを介してリーク電流が流れているものと思われる。一方、第5及び第6実験のサンプルは、ピットが非常に少ない。NラジカルガンのRFパワーを下げた効果と思われる。
【0105】
第5実験及び第6実験のサンプルは、発光を示し、NドープMgZn1−xO(x=0.25)層がp型層となっていることが確認された。しかし、第5実験のサンプルのI−V特性は、電流が流れにくく、p型層の抵抗が高いことを示している。これは、p型層の膜中N濃度が低いためと考えられる。第5実験のサンプルのp型層は、Nラジカルガンに対するZnソースガンの配置角度θが45°の条件で形成されている。これに起因して、第2実験で説明したように、p型層の膜中N濃度が低かったものと考えられる。
【0106】
一方、第6実験のサンプルは、第5実験のサンプルに比べて、p型層に電流が流れやすくなっている。第6実験のサンプルのp型層は、配置角度θが180°の条件で形成されており、第2実験で説明したように、p型層の膜中N濃度が1020cm−3オーダーまで高くなっていると考えられる。さらに、Nラジカルガンへの印加RFパワーが充分低いことにより、Bのドープやピット形成が抑制され、また、フラックス比をほぼストイキオメトリ条件とすることにより、酸素欠損が低減されていると考えられる。
【0107】
以上説明した第1〜第6実験より、NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜の成長時に、Nラジカルガンの無電極放電管のスパッタリングを抑制するような低いRFパワーであっても、Nラジカルガンのビーム照射方向の方位角とZnソースガンのビーム照射方向の方位角とのなす角(配置角度)θを90°≦θ≦270°の範囲内とすることにより、膜中N濃度を例えば1×1020cm−3以上に高めることができることがわかった。
【0108】
また、配置角度θを90°≦θ≦270°の範囲内とすることにより、フラックス比が1以上(ストイキオメトリ条件またはOリッチ条件)でも、膜中N濃度を例えば1×1020cm−3以上に高めることができることがわかった。
【0109】
なお、上記実験では、NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜の成長温度を700℃としたが、成長温度が700℃近傍であれば、同様な傾向が得られると考えられる。NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜の成長温度は、例えば、600℃〜800℃の範囲とすることができるであろう。
【0110】
なお、上記実験では、Mgを添加したNドープMgZnO単結晶膜を成長させたが、Mgを添加しないNドープZnO単結晶膜の成長についても、同様な傾向が得られると考えられる。Mgは、必要に応じて添加することができる。
【0111】
なお、上記実験では、Nラジカルガンに窒素ガスを導入してプラズマ化し、Nラジカルを得たが、Nラジカル源は、窒素ガスに限定されないと思われる。窒素原子を含む化合物として、例えば、NO、NO、NO、N、N等の窒素酸化物を、1種あるいは複数種組み合わせて用いることもできるであろう。
【0112】
なお、上記実験では、Nラジカルガンの無電極放電管として、pBN製のものを用いたが、石英製のものを用いることもできる。石英製無電極放電管を用いる場合も、RFパワーが高すぎると、無電極放電管内部がスパッタされて、スパッタ粒子によるピット形成と、膜中へのSiドープによるアクセプタの補償が生じてしまう。
【0113】
Nラジカルガンに石英製無電極放電管を用いる場合は、無電極放電管のスパッタリングに起因するSiが膜中へ取り込まれない程度に、Nラジカルガンへの印加RFパワーを抑制することが好ましい。なお、Si濃度がSIMS検出下限界(5×1016cm−3)以下に抑制されている場合に、膜中にSiが取り込まれていないと判断することができる。
【0114】
なお、Nラジカルガンの無電極放電管がスパッタされる印加RFパワーの下限は、結晶製造装置によって変わり得る。Nラジカルガンの無電極放電管がスパッタされない程度(Nラジカルガンの無電極放電管のスパッタリングに起因する不純物が膜中に取り込まれない程度)のRFパワーは、実験的に求めることができる。
【0115】
なお、ZnO系半導体発光素子の作製に用いられる基板には、酸化亜鉛(ZnO)基板、サファイア(Al)基板、炭化珪素(SiC)基板、窒化ガリウム(GaN)基板、MgZn1−xO基板(0<x≦0.6)などがある。結晶性の良いZnO系半導体層を得るためには、格子不整合の小さい基板ほどよく、特に好ましいのはZnO基板である。また、発光素子を作製する場合は、基板が活性層からの放射光を吸収しないように、ZnOに比べてバンドギャップが大きなMgZn1−xO基板(0<x≦0.6)を用いるのも好ましい。
【0116】
ZnO基板やMgZn1−xO基板(0<x≦0.6)などのZnO系半導体基板は、+c面、−c面、a面、m面など種々の面を用いて、その上にZnO系化合物半導体層を成長させることができる。さらに、m方向やa方向などにオフ角をつけた種々の基板を用いることもできる。
【0117】
なお、ZnO系半導体発光素子のn型ZnO系半導体層として、上記実験ではアンドープのものを形成したが、GaドープあるいはAlドープのZnO層またはMgZnO層でも良いし、ZnO層及びMgZnO層の積層構造でも良い。p型ZnO系半導体層として、上記実験ではNドープMgZnO層を形成したが、NドープZnO層でも良いし、両者の積層構造でも良い。
【0118】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0119】
1 真空容器
2 Znソースガン
3 Mgソースガン
4 Oラジカルガン
5 Nラジカルガン
6 ステージ
7 基板
8 RHEED用ガン
9 スクリーン
21 ケース
22 クヌーセンセル
22S SUMOセル
22K Kセル
23 フィラメントヒーター
24 固体ソース
25 スペーサー
26 MBE装置固定用フランジ
31 ケース
32 無電極放電管
33 RFコイル
34 接続部
35 ガス供給管
36 MBE装置固定用フランジ
37 対向電極
P1〜P8 ポート、または、ポートに設置されたソースガン/ラジカルガン
41 ZnO基板
42 ZnOバッファー層
43 n型ZnO層
44 ZnO活性層
45 NドープMgZn1−xO層
46 n側電極
47 p側透明電極
48 p側ボンディング電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znソースガン、Oラジカルガン、Nラジカルガンを備え、さらに、必要に応じてMgソースガンを備え、前記Nラジカルガンは、窒素を含むガスが導入された無電極放電管にラジオ周波を印加してNラジカルを含むプラズマを発生させ、前記無電極放電管の材料としてpBNまたは石英が用いられた結晶製造装置を用い、単結晶基板の表面上方に、Znビーム、Oラジカルビーム、Nラジカルビーム、及び、必要に応じてMgビームを同時照射して、NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を成長させるZnO系半導体膜製造方法であって、
前記基板の法線方向から見て、前記NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜の成長表面側上方に、前記Znソースガン、前記Oラジカルガン、前記Nラジカルガン、及び、前記Mgソースガンが円周方向に並んで配置されており、前記Nラジカルガンのビーム照射方向の方位角と、前記Znソースガンのビーム照射方向の方位角とのなす角θを、90°≦θ≦270°の範囲内にするとともに、前記Nラジカルガンの前記無電極放電管に印加されるラジオ周波のパワーを、前記無電極放電管からスパッタリングされたBまたはSiが、前記NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜に取り込まれない程度に低いパワーに抑えるZnO系半導体膜製造方法。
【請求項2】
フラックス比がストイキオメトリ条件またはOリッチ条件となるように、前記Znビーム、前記Oラジカルビーム、及び、必要に応じて前記Mgビームを照射する請求項1に記載のZnO系半導体膜製造方法。
【請求項3】
前記NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜中のN濃度が1×1020cm−3以上となるように、前記Nラジカルビームが照射される請求項1または2に記載のZnO系半導体膜製造方法。
【請求項4】
単結晶基板の表面上方に、n型ZnO系半導体層を形成する工程と、
前記n型ZnO系半導体層の表面上方に、p型ZnO系半導体層を形成する工程と
を有し、
前記p型ZnO系半導体層を形成する工程は、
Znソースガン、Oラジカルガン、Nラジカルガンを備え、さらに、必要に応じてMgソースガンを備え、前記Nラジカルガンは、窒素を含むガスが導入された無電極放電管にラジオ周波を印加してNラジカルを含むプラズマを発生させ、前記無電極放電管の材料としてpBNまたは石英が用いられた結晶製造装置を用い、前記n型ZnO系半導体層の表面上方に、Znビーム、Oラジカルビーム、Nラジカルビーム、及び、必要に応じてMgビームを同時照射して、NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を成長させ、
前記基板の法線方向から見て、前記NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜の成長表面側上方に、前記Znソースガン、前記Oラジカルガン、前記Nラジカルガン、及び、前記Mgソースガンが円周方向に並んで配置されており、前記Nラジカルガンのビーム照射方向の方位角と、前記Znソースガンのビーム照射方向の方位角とのなす角θを、90°≦θ≦270°の範囲内にするとともに、前記Nラジカルガンの前記無電極放電管に印加されるラジオ周波のパワーを、前記無電極放電管からスパッタリングされたBまたはSiが、前記NドープMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜に取り込まれない程度に低いパワーに抑える、ZnO系半導体発光素子製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−201537(P2012−201537A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66310(P2011−66310)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】