説明

アモルファス酸化物薄膜

【課題】電子キャリア濃度が低い、アモルファス酸化物薄膜とそれを用いた薄膜トランジスタの提供。
【解決手段】気相成膜法で成膜され、In、Ga、Zn及びOの元素から構成される透明アモルファス酸化物薄膜であって、該酸化物の組成は、結晶化したときの組成がInGaO(ZnO)(mは6未満の自然数)であり、不純物イオンを添加することなしに、電子移動度が1cm/(V・秒)超、かつ電子キャリヤ濃度が1016/cm以下である半絶縁性であることを特徴とする透明半絶縁性アモルファス酸化物薄膜。この透明半絶縁性アモルファス酸化物薄膜をチャネル層としたことを特徴とする薄膜トランジスタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス酸化物薄膜及び薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor, TFT)は、ゲート端子、ソース端子、及び
、ドレイン端子を備えた3端子素子であり、基板上に成膜した半導体薄膜を、電子又はホ
ールが移動するチャネル層として用い、ゲート端子に電圧を印加して、チャネル層に流れ
る電流を制御し、ソース端子とドレイン端子間の電流をスイッチングする機能を有するア
クテイブ素子である。TFTとして、現在、最も広く使われているのは多結晶シリコン膜
又はアモルファスシリコン膜をチャネル層材料としたMetal-Insulator-Semiconductor Fi
eld Effect Transistor (MIS―FET)素子である。
【0003】
また、最近では、ZnOを用いた透明伝導性酸化物多結晶薄膜をチャネル層に用いたTF
Tの開発が活発に行われている(特許文献1)。上記薄膜は、低温で成膜でき、かつ可視
光に透明であるため、プラスチック板やフィルムなどの基板上にフレキシブルな透明TF
Tを形成することが可能である。
【0004】
しかし、従来のZnOは室温で安定なアモルファス相を形成することができず、殆どのZ
nOは多結晶相を呈するために、多結晶粒子界面の散乱により、電子移動度を大きくする
ことができない。さらに、ZnOは、酸素欠陥が入りやすく、キャリア電子が多数発生し
、電気伝導度を小さくすることが難しい。このために、トランジスタのオン・オフ比を大
きくすることも難しい。
【0005】
また、特許文献2には、アモルファス酸化物として、ZnxMyInzO(x+3y/2+3z/2)(式中、M
はAl及びGaのうち少なくとも一つの元素であり、比率x/yが0.2〜12の範囲であり、
比率z/yが0.4〜1.4の範囲にある。)で表される非晶質酸化物が記載されている。しかし
、ここで得られている非晶質酸化物膜の電子キャリア濃度は、1018/cm3以上であり
、単なる透明電極として用いるには充分であるもののTFTのチャネル層には適用し難い
ものであった。なぜなら、上記非晶質酸化物膜をチャネル層としたTFTでは、オン・オ
フ比が充分にとれず、ノーマリーオフ型のTFTにはふさわしくないことが判明したから
である。
【0006】
【特許文献1】特開2003−298062号公報
【特許文献2】特開2000−044236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、電子キャリア濃度が低い、アモルファス酸化物薄膜を提供すること、
更には当該アモルファス酸化物薄膜をチャネル層に用いた薄膜トランジスタを提供するこ
とを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(1)気相成膜法で成膜され、In、Ga、Zn及びOの元素から構成される
透明アモルファス酸化物薄膜であって、該酸化物の組成は、結晶化したときの組成がIn
GaO(ZnO)(mは6未満の自然数)であり、不純物イオンを添加することなし
に、電子移動度が1cm/(V・秒)超、かつ電子キャリヤ濃度が1016/cm
下である半絶縁性であることを特徴とする透明半絶縁性アモルファス酸化物薄膜、である

【0009】
このアモルファス酸化物薄膜は、電子キャリア濃度が増加すると共に、電子移動度が増加
する特徴を有する。また、縮退伝導を示す特徴を有する。なお、ここでの縮退伝導とは、
電気抵抗の温度依存性における熱活性化エネルギーが、30meV以下の状態をいう。
【0010】
また、本発明は、(2)チャネル層、ゲート絶縁膜、ゲート電極、ソース電極およびドレ
イン電極を有する薄膜トランジスタであって、上記(1)の透明半絶縁性アモルファス酸
化物薄膜をチャネル層としたことを特徴とする薄膜トランジスタ、である。
【0011】
また、本発明は、(3)気相成膜法で成膜され、In、Ga、Zn、Mg及びOの元素か
ら構成される透明アモルファス酸化物薄膜であって、該酸化物の組成は、結晶化したとき
の組成がInGaO(Zn1−xMgO)(mは6未満の自然数、0.80≦x<
0.85)であり、不純物イオンを添加することなしに、電子移動度が1cm/(V・
秒)超、かつ電子キャリヤ濃度が1016/cm以下である半絶縁性であることを特徴
とする透明半絶縁性アモルファス酸化物薄膜、である。
【0012】
また、本発明は、(4)チャネル層、ゲート絶縁膜、ゲート電極、ソース電極およびドレ
イン電極を有する薄膜トランジスタであって、上記(3)の透明半絶縁性アモルファス酸
化物薄膜をチャネル層としたことを特徴とする薄膜トランジスタ、である。
【0013】
また、本発明は、(5)ゲート絶縁膜として、Al,Y,又はHfOのう
ちの1種、またはそれらの化合物を少なくとも2種以上含む混晶化合物を用いたことを特
徴とする上記(2)又は(4)の薄膜トランジスタ、である。
【0014】
また、本発明は、(6)基板として、ガラス基板、プラスチック基板またはプラスチック
フィルムを用いたことを特徴とする上記(2)又は(4)の薄膜トランジスタ、である。
【0015】
本発明の透明半絶縁性アモルファス酸化物薄膜は、電気抵抗を高めるための不純物イオン
を意図的に添加せず、酸素ガスを含む雰囲気中で成膜することにより製造される。
【0016】
本発明によれば、電子キャリア濃度が低い、アモルファス酸化物が提供できるとともに、
それをチャネル層に用いた薄膜トランジスタの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のアモルファス酸化物薄膜は、電子キャリア濃度が1016/cm以下であるこ
とを特徴とする。また、本発明に係る薄膜トランジスタ(TFT)は、そのチャネル層に
電子キャリア濃度が1016/cm以下であるアモルファス酸化物薄膜を用いることを
特徴とする。
【0018】
TFTは、例えば図5に示すように、基板1上にチャネル層2を設け、当該チャネル層2
上にゲート絶縁膜3、ゲート電極4、ソース電極6、ドレイン電極5を設けることにより
構成される。本発明においては、このチャネル層として、電子キャリア濃度が1016
cm以下であるアモルファス酸化物薄膜を成膜して用いる。
【0019】
本発明のTFTの構成は、図5に示したように半導体チャネル層の上にゲート絶縁膜とゲ
ート端子(電極)とを順に形成するスタガ型(トップゲート型)構造に限らず、例えば、
ゲート端子の上にゲート絶縁膜と半導体チャネル層を順に備える逆スタガ型(ボトムゲー
ト型)構造でもよい。前述の電子キャリア濃度は、室温で測定する場合の値である。室温
とは、例えば25℃であり、具体的には0℃から40℃程度の範囲から適宜選択されるあ
る温度である。
【0020】
なお、本発明のアモルファス酸化物薄膜の電子キャリア濃度は、0℃から40℃の範囲全
てにおいて、1016/cm以下を充足する必要はない。例えば、25℃において、キ
ャリア電子密度1016/cm以下が実現されていればよい。電子キャリア濃度を10
16/cm以下にするとノーマリーオフのTFTが歩留まり良く得られる。電子キャリ
ア濃度の測定は、ホール効果測定により求めることが出来る。
【0021】
なお、本発明において、アモルファス酸化物とは、X線回折スペクトルにおいて、ハロー
パターンが観測され、特定の回折線を示さない酸化物をいう。本発明のアモルファス酸化
物における、電子キャリア濃度の下限値は、TFTのチャネル層として適用できれば特に
限定されるものではない。下限値は、例えば、1012/cmである。
【0022】
従って、本発明においては、後述する各実施例のようにアモルファス酸化物の材料、組成
比、製造条件などを制御して、例えば、電子キャリア濃度を、1012/cm以上10
16/cm以下とする。より好ましくは1013/cm以上1016/cm以下、
更には1015/cm以上1016/cm以下の範囲にすることが好ましいものであ
る。
【0023】
なお、電子移動度としては、室温で測定する場合に、0.1cm2/(V・秒)以上、好
ましくは1cm2/(V・秒)、より好適には5cm2/(V・秒)以上となるようにする
ことが好ましい。なお、上記アモルファス酸化物は、電子キャリア濃度が増加するととも
に、電子移動度が増加する。また、その伝導性が縮退伝導を示す傾向にある。縮退伝導と
は、電気抵抗の温度依存性における熱活性化エネルギーが、30meV以下の状態をいう

【0024】
(アモルファス酸化物の材料)
本発明のアモルファス酸化物としては、In、Ga、Zn及びOの元素から構成される透
明アモルファス酸化物薄膜であって、該酸化物の組成は、結晶化したときの組成がInG
aO(ZnO)(mは6未満の自然数)である。また、、In、Ga、Zn、Mg及
びOの元素から構成される透明アモルファス酸化物薄膜であって、該酸化物の組成は、結
晶化したときの組成がInGaO(Zn1−xMgO)(mは6未満の自然数、0
.80≦x<0.85)である。
【0025】
結晶状態における組成がInGaO3(ZnO)m(mは6未満の自然数)で表される透明アモルファス
酸化物薄膜は、mの値が6未満の場合は、800℃以上の高温まで、アモルファス状態が
安定に保たれるが、mの値が大きくなるにつれ、すなわち、InGaO3に対するZnOの比が増
大して、ZnO組成に近づくにつれ、結晶化しやすくなる。したがって、アモルファスT
FTのチャネル層としては、mの値が6未満であることが好ましい。スパッタリング法や
パルスレーザー蒸着法により成膜を行う際のターゲット材料(例えば多結晶体)の組成比
を、上記m<6を満たすようにすれば、所望のアモルファス酸化物が得られる。
【0026】
また、上記アモルファス酸化物としては、上記InGaZnの構成比において、ZnをZ
1-xMgxに置換することもできる。Mgの置換量は、0<x≦1の範囲で可能である。
なお、Mgに置換すると、酸化物膜の電子移動度は、Mg無添加膜に比べて低下するが、
その程度は少なく、一方でさらに、電子キャリア濃度を置換しない場合に比べて下げるこ
とができるので、TFTのチャネル層としてはより好適である。Mgの置換量は、好まし
くは、20%超、85%未満(xにして、0.2<x<0.85)、より好ましくは、0
.5<x<0.85である。
【0027】
(アモルファス酸化物の製造方法)
本発明のアモルファス酸化物は、以下の各実施例に示す条件下において気相成膜法を利用
して形成することができる。例えば、InGaZnアモルファス酸化物を得るには、InGa
O3(ZnO)m組成を有する多結晶焼結体をターゲットとして、スッパタ法(SP法)、パルス
レーザー蒸着法(PLD法)及び電子ビーム蒸着法などの気相法により成膜を行う。尚、
量産性の観点からは、スパッタ法が最も適している。
【0028】
なお、成膜後に電子キャリア濃度を増加させる必要がある場合には、当該膜を還元雰囲気
中で、熱処理をすることにより電子キャリア濃度を増加させることができる。こうして得
られた電子キャリア濃度の異なるアモルファス酸化物膜について、電子移動度の電子キャ
リア濃度依存性を調べると、電子移動度は電子キャリア濃度が増加すると共に増加してい
る。
【0029】
(基板)
本発明のアモルファス酸化物薄膜を用いた薄膜トランジスタを形成する際の基板としては
、ガラス基板、プラスチック基板、プラスチックフィルムなどを用いることができる。な
お、後述の実施例で説明するように、本発明の成膜方法に係るアモルファス酸化物は、室
温で成膜することができるので、PETフィルムをはじめとするフレキシブル素材上に薄
膜トランジスタを設けることが出来る。また、上述のアモルファス酸化物を適宜選択し、
波長400nm以上の可視光や赤外光に対して透明である材料を用いてTFTを作製すること
もできる。
【0030】
(ゲート絶縁膜)
本発明に係る薄膜トランジスタにおけるゲート絶縁膜としては、Al23,Y23,Hf
2,又はそれらの化合物を少なくとも二つ以上含む混晶化合物をゲート絶縁膜とするこ
とが好ましい。ゲート絶縁薄膜とチャネル層薄膜との界面に欠陥が存在すると、電子移動
度の低下及びトランジスタ特性にヒステリシスが生じる。また、ゲート絶縁膜の種類によ
り、リーク電流が大きく異なる。このために、チャネル層に適合したゲート絶縁膜を選定
する必要がある。
【0031】
Al23膜を用いれば、リーク電流を低減できる。また、Y23膜を用いればヒステリシ
スを小さくできる。さらに、高誘電率のHfO2膜を用いれば、電界効果移動度を大きく
することができる。また、これらの化合物の混晶からなる膜を用いて、リーク電流、ヒス
テリシスが小さく、電界効果移動度の大きなTFTを形成できる。また、ゲート絶縁膜形
成プロセス及びチャネル層形成プロセスは、室温で行うことができるので、TFT構造と
して、スタガ構造及び逆スタガ構造いずれをも形成することができる。
【0032】
(トランジスタ)
電子キャリア濃度が1016/cm以下のアモルファス酸化物膜をチャネル層に用い、
ソース端子、ドレイン端子及びゲート絶縁膜を介してゲート端子を配した電界効果型トラ
ンジスタを構成すると、ソース・ドレイン端子間に5V程度の電圧を印加したとき、ゲー
ト電圧を印加しないときのソース・ドレイン端子間の電流を約10-7アンペヤにすること
ができる。電子キャリア濃度の理論的下限界は、価電子帯の電子が熱的に励起されるとす
ると仮定すると、105/cm3以下であるが、実際的な可能性としては、1012/cm3
程度である。
【0033】
また、Al23,Y23,又はHfO2の1種、又はそれらの化合物を少なくとも二種以
上含む混晶化合物をゲート絶縁層として用いれば、ソース・ゲート端子間及びドレイン・
ゲート端子間のリーク電流を約10-7アンペヤにすることができ、ノーマリーオフ・トラ
ンジスタを実現できる。
【0034】
酸化物結晶の電子移動度は、金属イオンのs軌道の重なりが大きくなるほど、大きくなり
、原子番号の大きなZnの酸化物結晶は、0.1から200cm2/(V・秒)の大きな
電子移動度を持つ。さらに、酸化物では、酸素と金属イオンとがイオン結合しているため
に、化学結合の方向性がなく、構造がランダムで、結合の方向が不均一なアモルファス状
態でも、電子移動度は、結晶状態の電子移動度に比較して、同程度の大きさを有すること
が可能となる。一方で、Znを原子番号の小さな元素で置換することにより、電子移動度
は小さくなる。従って、上記したアモルファス酸化物を用いることにより、電子移動度を
、約0.01cm2/(V・秒)から20cm2/(V・秒)の範囲に制御できる。
【0035】
また、通常の化合物では、キャリア濃度が増加するにつれて、キャリア間の散乱などによ
り、電子移動度は減少するが、それに対して、本発明のアモルファス酸化物では、電子キ
ャリア濃度の増加とともに、電子移動度が増加するが、その物理機構は明確でない。
【0036】
ゲート端子に電圧を印加すると、上記アモルファス酸化物チャネル層に、電子を注入でき
るので、ソース・ドレイン端子間に電流が流れ、両端子間がオン状態になる。本発明のア
モルファス酸化膜は、電子キャリア濃度が増加すると、電子移動度が大きくなるので、ト
ランジスタがオン状態での電流を、より大きくすることができる。すなわち、飽和電流及
びオン・オフ比をより大きくすることができる。電子移動度が大きなアモルファス酸化物
膜をTFTのチャネル層として用いれば、飽和電流を大きくすることができるし、また、
TFTのスウィッチング速度を大きくでき、高速動作が可能となる。
【0037】
例えば、電子移動度が、0.01cm2/(V・秒)程度であれば、液晶表示素子を駆動
するTFTのチャネル層として用いることができる。また、電子移動度が、0.1cm2
/(V・秒)程度であるアモルファス酸化物膜を用いれば、アモルファスシリコン膜を用
いたTFTと同等以上の性能を有し、動画像用表示素子を駆動するTFTを作成すること
ができる。
【0038】
さらに、電流で駆動する有機発光ダイオードを動作させる場合など大きな電流を必要とす
るTFTを実現するためには、電子移動度は、1cm2/(V・秒)超であることが望ま
しい。なお、本発明の縮退伝導を示すアモルファス酸化物をチャネル層に用いた場合、電
子キャリア濃度が多い状態での電流、すなわちトランジスタの飽和電流の温度依存性が小
さくなり、温度特性に優れたTFTを実現できる。
【0039】
実施例
(実施例1:PLD法によるアモルファスIn-Ga-Zn-O薄膜の作製)
図7に示すようなPLD成膜装置を用いて、成膜を行った。同図において、701はRP
(ロータリーポンプ)、702はTMP(ターボ分子ポンプ)、703は準備室、704
はRHEED用電子銃、705は基板を回転、上下移動するための基板保持手段、706
はレーザー入射窓、707は基板、708はターゲット、709はラジカル源、710は
ガス導入口、711はターゲットを回転、上下移動するためのターゲット保持手段、71
2はバイパスライン、713はメインライン、714はTMP(ターボ分子ポンプ)、7
15はRP(ロータリーポンプ)、716はチタンゲッターポンプ、717はシャッター
である。また、図中718はIG(イオン真空計)、719はPG(ピラニ真空計)、7
20はBG(バラトロン真空計)、721は成長室(チャンバー)である。
【0040】
KrFエキシマレーザーを用いたパルスレーザー蒸着法により、SiO2ガラス基板(コーニン
グ社製1737)上にIn-Ga-Zn-O系アモルファス酸化物半導体薄膜を堆積させた。堆積前の処
理として、基板の超音波による脱脂洗浄を、アセトン,エタノール, 超純水を用いて、各5
分間行った後、空気中100℃で乾燥させた。
【0041】
前記多結晶ターゲットには、InGaO3(ZnO)4焼結体ターゲット(サイズ20mmΦ5mmt)を用い
た。これは、出発原料として、In2O3:Ga2O3:ZnO(各4N試薬)を湿式混合した後(溶媒:
エタノール)、仮焼(1000℃: 2h)、乾式粉砕、本焼結(1550 ℃: 2h))を経て得られ
るものである。こうして作製したターゲットの電気伝導度は、90(S/cm)であった。
【0042】
成長室の到達真空を2×10-6(Pa)にして、成長中の酸素分圧を6.5 (Pa)に制御して成膜を
行った。チャンバー721内酸素分圧は6.5Pa、基板温度は25℃である。なお、ターゲ
ット708と被成膜基板707間の距離は、30(mm)であり、入射窓716から入射される
KrFエキシマレーザーのパワーは、1.5-3(mJ/cm2/pulse)の範囲である。また、パルス
幅は、20(nsec)、繰り返し周波数は10(Hz)、そして照射スポット径は、1×1(mm角)とした
。こうして、成膜レート7(nm/min)で成膜を行った。
【0043】
得られた薄膜について、薄膜のすれすれ入射X線回折(薄膜法、入射角0.5度)を行った
ところ、明瞭な回折ピークは認めらなかったことから、作製したIn-Ga-Zn-O系薄膜はアモ
ルファスであるといえる。さらに、X線反射率測定を行い、パターンの解析を行った結果
、薄膜の平均二乗粗さ(Rrms)は約0.5 nmであり、膜厚は約120 nmであることが分かった
。蛍光X線(XRF)分析の結果、薄膜の金属組成比はIn:Ga:Zn=0.98:1.02:4であった
。電気伝導度は、約10-2 S/cm未満であった。電子キャリア濃度は約1016/cm3以下、電子
移動度は約5cm2/(V・秒)と推定される。
【0044】
光吸収スペクトルの解析から、作製したアモルファス薄膜の禁制帯エネルギー幅は、約3
eVと求まった。以上のことから、作製したIn-Ga-Zn-O系薄膜は、結晶のInGaO3(ZnO)4の組
成に近いアモルファス相を呈しており、酸素欠損が少なく、電気伝導度が小さな透明な平
坦薄膜であることが分かった。
【0045】
具体的に図1を用いて説明する。同図は、In-Ga-Zn-Oから構成され、結晶状態を仮定した
時の組成がInGaO3(ZnO)m(mは6未満の数)で表される透明アモルファス酸化物薄膜を本実
施例と同じ条件下で作成する場合に、酸素分圧を変化させた場合に、成膜された酸化物の
電子キャリア濃度の変化を示したものである。
【0046】
本実施例と同じ条件下で酸素分圧を4.5Pa超の高い雰囲気中で、成膜することにより
、図1に示すように、電子キャリア濃度を1018/cm3未満に低下させることができた
。この場合、基板の温度は意図的に加温しない状態で、ほぼ室温に維持されている。フレ
キシブルなプラスチックフィルムを基板として使用するには、基板温度は100℃未満に保
つことが好ましい。
【0047】
酸素分圧をさらに大きくすると、電子キャリア濃度をさらに低下させることができる。例
えば、図1に示す様に、基板温度25℃、酸素分圧5Paで成膜したInGaO3(ZnO)4薄膜で
は、さらに、電子キャリア数を1016/cm3に低下させることができた。
【0048】
得られた薄膜は、図2に示す様に、電子移動度が1cm2/(V・秒)超であった。しか
し、本実施例のパルスレーザー蒸着法では、酸素分圧を6.5Pa以上にすると、堆積し
た膜の表面が凸凹となり、TFTのチャネル層として用いることが困難となる。従って、
酸素分圧4.5Pa超、望ましくは5Pa超、6.5Pa未満の雰囲気で、パルスレーザ
ー蒸着法で作製したIn−Ga−Zn−Oから構成され、結晶状態における組成InGa
3(ZnO)m(mは6未満の数)で表される透明アモルファス酸化物薄膜を用いれば、
ノーマリーオフのトランジスタを構成することができる。
【0049】
また、該薄膜の電子移動度は、1cm2/V・秒超が得られ、オン・オフ比を103超に大
きくすることができた。以上、説明したように、本実施例に示した条件下でPLD法によ
りInGaZn酸化物の成膜を行う場合は、酸素分圧を4.5Pa以上6.5Pa未満に
なるように制御することが望ましい。なお、電子キャリア濃度を1018/cm3未満を実
現するためには、酸素分圧の条件、成膜装置の構成や、成膜する材料や組成などに依存す
る。
【0050】
(実施例2:PLD法によるアモルファスInGaO3(ZnO)及びInGaO3(Zn
O)4酸化物膜の成膜)
KrFエキシマレーザーを用いたPLD法により、InGaO3(ZnO)及びInGa
3(ZnO)4組成を有する多結晶焼結体をそれぞれターゲットとして、ガラス基板(コ
ーニング社製1737)上にIn−Zn−Ga−O系アモルファス酸化物膜を堆積させた
。PLD成膜装置は、実施例1で示したものを用い、成膜条件は上記と同様とした。基板
温度は25℃で成膜を行った。
【0051】
得られた膜に関し、膜面にすれすれ入射X線回折(薄膜法、入射角0.5度)を行ったと
ころ、明瞭な回折ピークは検出されず、2種類のターゲットから作製したIn−Zn−G
a−O系膜は、いずれもアモルファス膜であることが示された。
【0052】
さらに、ガラス基板上のIn−Zn−Ga−O系アモルファス酸化物膜のX線反射率測定
を行い、パターンの解析を行った結果、薄膜の平均二乗粗さ(Rrms)は約0.5nm
であり、膜厚は約120nmであることが分かった。蛍光X線(XRF)分析の結果、I
nGaO3(ZnO)組成を有する多結晶焼結体をターゲットとして得られた膜の金属原
子組成比はIn:Ga:Zn=1.1:1.1:0.9であった。また、InGaO3
ZnO)4組成を有する多結晶焼結体をターゲットとして得られた膜の金属原子組成比は
、In:Ga:Zn=0.98:1.02:4であった。
【0053】
成膜時の雰囲気の酸素分圧を変化させ、InGaO3(ZnO)4組成を有する多結晶焼結
体をターゲットとして得られたアモルファス酸化物膜の電子キャリア濃度を測定した。そ
の結果を図1に示す。酸素分圧が4.5Pa超の雰囲気中で成膜することにより、電子キ
ャリア濃度を1018/cm3未満に低下させることができた。この場合、基板の温度は意
図的に加温しない状態でほぼ室温に維持されている。また、酸素分圧が6.5Pa未満の
時は、得られたアモルファス酸化物膜の表面は平坦であった。
【0054】
酸素分圧が5Paの時、InGaO3(ZnO)4組成を有する多結晶焼結体をターゲット
として得られたアモルファス酸化膜の電子キャリア濃度は1016/cm3、電気伝導度は
、10-2S/cmであった。また、電子移動度は、約5cm2/V・秒と推測された。光
吸収スペクトルの解析から、作製したアモルファス酸化物膜の禁制帯エネルギー幅は、約
3eVと求まった。酸素分圧を5Paからさらに大きくすると、電子キャリア濃度をさら
に低下させることができた。
【0055】
図1に示す様に、基板温度25℃、酸素分圧6Paで成膜したIn−Zn−Ga−O系ア
モルファス酸化物膜では、電子キャリア濃度を8×1015/cm3(電気伝導度:約8×
10-3S/cm)に低下させることができた。得られた膜は、電子移動度が1cm2/(
V・秒)超と推測された。しかし、PLD法では、酸素分圧を6.5Pa以上にすると、
堆積した膜の表面が凸凹となり、TFTのチャネル層として用いることが困難となった。
【0056】
InGaO3(ZnO)4組成を有する多結晶焼結体をターゲットとし、異なる酸素分圧で
成膜したIn−Zn−Ga−O系アモルファス酸化物膜に関して、電子キャリア濃度と電
子移動度の関係を調べた。その結果を図2に示す。電子キャリア濃度が、1016/cm3
から1020/cm3に増加すると、電子移動度は、約3cm2/(V・秒)から約11cm
2/(V・秒)に増加ことが示された。また、InGaO3(ZnO)組成を有する多結晶
焼結体をターゲットとして得られたアモルファス酸化膜に関しても、同様の傾向が見られ
た。
【0057】
ガラス基板の代わりに厚さ200μmのポリエチレン・テレフタレート(PET)フィル
ムを用いた場合にも、得られたIn−Zn−Ga−O系アモルファス酸化物膜は、同様の
特性を示した。
【0058】
(実施例3:SP法によるIn−Zn−Ga−O系アモルファス酸化物膜の成膜)
雰囲気ガスとしてアルゴンガスを用いた高周波SP法により、成膜する場合について説明
する。SP法は、図8に示す装置を用いて行った。同図において、807は被成膜基板、
808はターゲット、805は冷却機構付き基板保持手段、814は、ターボ分子ポンプ
、815はロータリーポンプ、817はシャッター、818はイオン真空計、819はピ
ラニ真空計、821は成長室(チャンバー)、830はゲートバルブである。被成膜基板
807としては、SiO2ガラス基板(コーニング社製1737)を用意した。成膜前処
理として、この基板の超音波脱脂洗浄を、アセトン、エタノール、超純水により各5分ず
つ行った後、空気中100℃で乾燥させた。
【0059】
ターゲット材料としては、InGaO3(ZnO)4組成を有する多結晶焼結体(サイズ2
0mmΦ5mmt)を用いた。この焼結体は、出発原料として、In23:Ga23:Z
nO(各4N試薬)を湿式混合(溶媒:エタノール)し、仮焼(1000℃:2h)、乾
式粉砕、本焼結(1550℃:2h)を経て作製した。このターゲット808の電気伝導
度は90(S/cm)であり、半絶縁体状態であった。
【0060】
成長室821内の到達真空は、1×10-4(Pa)であり、成長中の酸素ガスとアルゴン
ガスの全圧は、4〜0.1x10-1(Pa)の範囲での一定の値とし、アルゴンガスと酸
素との分圧比を変えて、酸素分圧を、10-3〜2x10-1(Pa)の範囲で変化させた。
また、基板温度は、室温とし、ターゲット808と被成膜基板807間の距離は、30(
mm)であった。投入電力は、RF180Wであり、成膜レートは、10(nm/min
)で行った。
【0061】
得られた膜に関し、膜面にすれすれ入射X線回折(薄膜法、入射角=0.5度)を行った
ところ、明瞭な回折ピークは検出されず、作製したIn−Zn−Ga−O系膜はアモルフ
ァス膜であることが示された。さらに、X線反射率測定を行い、パターンの解析を行った
結果、薄膜の平均二乗粗さ(Rrms)は約0.5nmであり、膜厚は約120nmであ
ることが分かった。蛍光X線(XRF)分析の結果、薄膜の金属組成比はIn: Ga : Zn
= 0.98 : 1.02 : 4であった。
【0062】
成膜時の雰囲気の酸素分圧を変化させて得られたアモルファス酸化物膜の電気伝導度を測
定した。その結果を図3に示す。図3に示すように、酸素分圧を3×10-2Pa超の高い
雰囲気中で、成膜することにより、電気伝導度を10S/cm未満に低下させることがで
きた。
【0063】
酸素分圧をさらに大きくすることにより、電子キャリア数を低下させることができた。
例えば、図3に示す様に、基板温度25℃、酸素分圧10-1Paで成膜したInGaO3(ZnO)4
薄膜では、さらに、電気伝導度を約10-10S/cmに低下させることができた。また、
酸素分圧10-1Pa超で成膜したInGaO3(ZnO)4薄膜は、電気抵抗が高すぎて電気伝導度は
測定できなかった。この場合、電子移動度は測定できなかったが、電子キャリア濃度が大
きな膜での値から外挿して、電子移動度は、約1cm2/V・秒と推定された。
【0064】
すなわち、酸素分圧3×10-2Pa超、望ましくは5×10-1Pa超のアルゴンガス雰囲
気で、スパッタ蒸着法で作製したIn-Ga-Zn-Oから構成され、結晶状態における組成InGaO3
(ZnO)m(mは6未満の自然数)で表される透明アモルファス酸化物薄膜を用い、ノーマリー
オフで、かつオン・オフ比を103超のトランジスタを構成することができた。
【0065】
本実施例で示した装置、材料を用いる場合は、スパッタによる成膜の際の酸素分圧として
は、例えば、3×10-2Pa以上、5×10-1Pa以下の範囲である。なお、パルスレー
ザー蒸着法およびスパッタ法で作成された薄膜では、図2に示す様に、伝導電子数の増加
と共に、電子移動度が増加する。
【0066】
上記のとおり、酸素分圧を制御することにより、酸素欠陥を低減でき、その結果、電子キ
ャリア濃度を減少できる。また、アモルファス状態では、多結晶状態とは異なり、本質的
に粒子界面が存在しないために、高電子移動度のアモルファス薄膜を得ることができる。
なお、ガラス基板の代わりに厚さ200μmのポリエチレン・テレフタレート(PET)
フィルムを用いた場合にも、得られたInGaO3(ZnO)4アモルファス酸化物膜は、
同様の特性を示した。
【0067】
(実施例4:PLD法によるIn−Zn−Ga−Mg−O系アモルファス酸化物膜の成膜

次に、PLD法により、ガラス基板上にInGaO3 (Zn1-xMgxO)4(0<x<1)膜を成
膜する場合について説明する。成膜装置としては、図7に記載の成膜装置を用いて行った
。被成膜基板としては、SiO2ガラス基板(コーニング社製1737)を用意した。その基板に
前処理として、超音波脱脂洗浄を、アセトン、エタノール、超純水により各5分間ずつ行
った後、空気中100℃で.乾燥させた。
【0068】
ターゲットとしては、InGa(Zn1-xMgxO)4(x=1-0)焼結体(サイズ20mmΦ5mmt)を用いた。
ターゲットは、出発原料In2O3:Ga2O3:ZnO:MgO(各4N試薬)を、湿式混合(溶媒:エタ
ノール)、仮焼(1000℃:2h)、乾式粉砕、本焼結(1550℃:2h)を経て作製した。
【0069】
成長室到達真空は、2×10-6(Pa)であり、成長中の酸素分圧は、0.8(Pa)とした。基板温度
は、室温(25℃)で行い、ターゲットと被成膜基板間の距離は、30(mm)であった。なお
、KrFエキシマレーザーのパワーは、1.5(mJ/cm2/pulse)、パルス幅は、20(nsec)、繰
り返し周波数は、10(Hz)、照射スポット径は、1×1(mm角)とした。成膜レートは、7(nm/m
in)であった。
【0070】
このようにして得られた膜に関し、膜面にすれすれ入射X線回折(薄膜法、入射角 0.5度
)を行ったところ、明瞭な回折ピークは検出されず、作製したIn−Zn−Ga−Mg−
O系膜はアモルファス膜であることが示された。得られた膜の表面は平坦であった。
【0071】
異なるx値のターゲットを用いて、酸素分圧0.8Paの雰囲気中で成膜したIn−Zn
−Ga−Mg−O系アモルファス酸化物膜の電気伝導度、電子キャリア濃度及び電子移動
度のx値依存性を調べた。尚、ターゲットとして、多結晶InGaO3(Zn1-xMgxO)m(mは6未
満の自然数、0<x≦1を用いれば、1Pa未満の酸素分圧下でも、高抵抗アモルファスInGa
O3(Zn1-xMgxO)m膜を得ることができた。
【0072】
その結果を、図4に示す。x値が0.4超のとき、酸素分圧0.8Paの雰囲気中で、P
LD法により成膜したアモルファス酸化物膜では、電子キャリア濃度を1018/cm3
満にできることが示された。また、x値が0.4超のアモルファス酸化物膜では、電子移
動度は、1cm2/V・秒超であった。図4に示すように、Znを80原子%のMgで置
換したターゲットを使用した場合、酸素分圧0.8Paの雰囲気で、パルスレーザー堆積
法で得られた膜の電子キャリア濃度を1016/cm3未満とすることができる。
【0073】
こうした膜の電子移動度は、Mg無添加膜に比べて低下するが、その程度は少なく、室温
での電子移動度は約5cm2/(V・秒)で、アモルファスシリコンに比べて、1桁程度
大きな値を示す。同じ条件で成膜した場合、Mg含有量の増加に対して、電気伝導度と電
子移動度は、共に低下するので、Mgの含有量は、好ましくは、20原子%超、85原子
%未満(xにして、0.2<x<0.85)、より好適には0.5<x<0.85である

【0074】
なお、ガラス基板の代わりに厚さ200μmのポリエチレン・テレフタレート(PET)
フィルムを用いた場合にも、得られたInGaO3 (Zn1-xMgxO)4(0<x≦1)アモルフ
ァス酸化物膜は、同様の特性を示した。
【0075】
(実施例5:In−Zn−Ga−O系アモルファス酸化物膜を用いたTFT
素子の作製(ガラス基板))
図5に示すトップゲート型TFT素子を作製した。まず、ガラス基板(1)上に、In
GaO3(ZnO)4組成を有する多結晶焼結体をターゲットとし、酸素分圧5Paの条
件で、実施例1のIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物膜の作製法により、チャン
ネル層(2)として用いる厚さ120nmのIn−Ga−Zn−O系アモルファス膜を形
成した。
【0076】
さらにその上に、チャンバー内の酸素分圧を1Pa未満にして、PLD法により電気伝導
度の大きなIn−Ga−Zn−O系アモルファス膜及び金膜をそれぞれ30nm積層し、
フォトリゾグラフィー法とリフトオフ法により、ドレイン端子(5)及びソース端子(6
)を形成した。
【0077】
最後にゲート絶縁膜(3)として用いるY23膜を電子ビーム蒸着法により成膜し(厚み
:90nm、比誘電率:約15、リーク電流密度:0.5MV/cm印加時に10-3A/
cm2)、その上に金を成膜し、フォトリソグラフィー法とリフトオフ法により、ゲート
端子(4)を形成した。チャネル長は、50μmで、チャネル幅は、200μmであった

【0078】
(TFT素子の特性評価)
図6に、室温下で測定したTFT素子の電流−電圧特性を示す。ドレイン電圧VDSの増加
に伴い、ドレイン電流IDSが増加したことからチャネルがn型伝導であることが分かる。
これは、アモルファスIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物膜がn型伝導体である
という事実と矛盾しない。IDSはVDS=6V程度で飽和(ピンチオフ)する典型的な半導
体トランジスタの挙動を示した。利得特性を調べたところ、VDS=4V印加時におけるゲ
ート電圧VGSの閾値は約−0.5Vであった。また、VGS=6V印加時には、VDS=10
V時には、IDS=1.0×10-5Aの電流が流れた。これはゲートバイアスにより絶縁体
のIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物膜内にキャリアを誘起できたことに対応す
る。トランジスタのオン・オフ比は、103超であった。また、出力特性から電界効果移
動度を算出したところ、飽和領域において約7cm2(Vs)-1の電界効果移動度が得ら
れた。
【0079】
作製した素子に可視光を照射して同様の測定を行なったが、トランジスタ特性の変化は認
められなかった。なお、アモルファス酸化物の電子キャリア濃度を1018/cm3未満に
することでTFTのチャネル層として適用できる。この電子キャリア濃度としては、017
/cm3以下がより好ましく、1016/cm3以下にすると更に好ましかった。
【0080】
本実施例によれば、電子キャリア濃度が小さく、したがって、電気抵抗が高く、かつ電
子移動度が大きいチャネル層を有する薄膜トランジスタを実現でさる。なお、上記したア
モルファス酸化物は、電子キャリア濃度の増加と共に、電子移動度が増加し、さらに縮退
伝導を示すという優れた特性を備えていた。本実施例では、ガラス基板上に薄膜トランジ
スタを作製したが、成膜自体が室温で行えるので、プラスチック板やフィルムなどの基板
が使用可能である。また、本実施例で得られたアモルファス酸化物は、可視光の光吸収が
殆どなく、透明なフレキシブルTFTを実現できる。
【0081】
(実施例6:In−Zn−Ga−O系アモルファス酸化物膜を用いたTFT
素子の作製)
図5に示すトップゲート型TFT素子を作製した。具体的には、ポリエチレン・テレフ
タレート(PET)フィルム(1)上に、実施例2に示した成膜法により、InGaO3
(ZnO)組成を有する多結晶焼結体をターゲットとし、酸素分圧5Paの雰囲気で、チ
ャンネル層(2)として用いる厚さ120nmのIn−Zn−Ga−O系アモルファス酸
化物膜を形成した。
【0082】
さらにその上に、チャンバー内酸素分圧を1Pa未満にして、PLD法により電気伝導度
の大きなIn−Zr−Ga−O糸アモルファス酸化物膜及び金膜をそれぞれ30nm積層
し、フォトリゾグラフィー法とリフトオフ法により、ドレイン端子(5)及びソース端子
(6)を形成した。
【0083】
最後にゲート絶縁膜(3)を電子ビーム蒸着法により成膜して、その上に金を成膜し、フ
ォトリソグラフィー法とリフトオフ法により、ゲート端子(4)を形成した。チャネル長
は、50μmで、チャネル幅は、200μmであった。ゲート絶縁膜として、Y23(厚
さ:140nm),Al23(厚さ:130nm)及びHfO2(厚さ:140nm)を
用いた3種類の上記の構造を有するTFTを作成した。
【0084】
(TFT素子の特性評価)
PETフィルム上に形成したTFTの室温下で測定した電流−電圧特性は、図6と同様
であった。すなわち、ドレイン電圧VDSの増加に伴い、ドレイン電流IDSが増加したこと
から、チャネルがn型伝導であることが分かる。これは、アモルファスIn−Ga−
Zn−O系アモルファス酸化物膜がn型伝導体であるという事実と矛盾しない。IDS
DS=6V程度で飽和(ピンチオフ)する典型的なトランジスタの挙動を示した。また、
GS=6V印加時には、VDS=10V時には、IDS=1.0×10-5Aの電流が流れた。
これはゲートバイアスにより絶縁体のIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物膜内に
電子キャリアを誘起できたことに対応する。トランジスタのオン・オフ比は、103超で
あった。また、出力特性から電界効果移動度を算出したところ、飽和領域において約7c
2(Vs)-1の電界効果移動度が得られた。
【0085】
PETフィルム上に作成した素子を、曲率半径30mmで屈曲させ、同様のトランジスタ
特性の測定を行ったが、トランジスタ特性に大幅な変化は認められなかった。また、可視
光を照射して同様の測定を行なったが、トランジスタ特性の変化は認められなかった。
【0086】
ゲート絶縁膜としてAl23膜を用いたTFTでも、図6に示したものと類似のトランジ
スタ特性を示したが、VGS=6V印加時には、VDS=0のときには、IDS=10-8A,V
DS=10V時には、IDS=5.0×10-6Aの電流が流れた。トランジスタのオン・オフ
比は、102超であった。また、出力特性から電界効果移動度を算出したところ、飽和領
域において約2cm2(Vs)-1の電界効果移動度が得られた。
【0087】
ゲート絶縁膜としてHfO2膜を用いたTFTでも、図6に示したものと類似のトランジ
スタ特性を示したが、VGS=6V印加時には、VDS=0のときには、IDS=10-8A,V
DS=10V時には、IDS=1.0×10-6Aの電流が流れた。トランジスタのオン・オフ
比は、102超であった。また、出力特性から電界効果移動度を算出したところ、飽和領
域において約10cm2(Vs)-1の電界効果移動度が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るアモルファス酸化物は、薄膜トランジスタなどの半導体デバイスに利用でき
る。そして、この薄膜トランジスタは、例えば、LCDや有機ELディスプレイのスイッ
チング素子として応用することができ、フレキシブル・ディスプレイをはじめ、シースル
ー型のディスプレイ、ICカードやIDタグなどに幅広く応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】第1図は、パルスレーザー蒸着法で成膜したIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物の電子キャリア濃度と成膜中の酸素分圧の関係を示すグラフである。
【図2】第2図は、パルスレーザー蒸着法で成膜したIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物膜の電子キャリアの濃度と電子移動度の関係を示すグラフである。
【図3】第3図は、高周波スパッタ法で成膜したIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物膜の電気伝導度と成膜中の酸素分圧の関係を示すグラフである。
【図4】第4図は、パルスレーザー蒸着法により成膜したInGaO3(Zn1-xMgxO)4のxの値に対する電気伝導度、電子キャリア濃度、電子移動度の変化を示すグラフである。
【図5】第5図は、トップゲート型TFT素子構造を示す模式図である。
【図6】第6図は、トップゲート型TFT素子の電流−電圧特性を示すグラフである。
【図7】第7図は、パルスレーザー蒸着装置を示す模式図である。
【図8】第8図は、スパッタ製膜装置を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成膜法で成膜され、In、Ga、Zn及びOの元素から構成される透明アモルファス
酸化物薄膜であって、該酸化物の組成は、結晶化したときの組成がInGaO(ZnO
(mは6未満の自然数)であり、不純物イオンを添加することなしに、電子移動度が
1cm/(V・秒)超、かつ電子キャリヤ濃度が1016/cm以下である半絶縁性
であることを特徴とする透明半絶縁性アモルファス酸化物薄膜。
【請求項2】
チャネル層、ゲート絶縁膜、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する薄膜ト
ランジスタであって、請求項1に記載の透明半絶縁性アモルファス酸化物薄膜をチャネル
層としたことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項3】
気相成膜法で成膜され、In、Ga、Zn、Mg及びOの元素から構成される透明アモル
ファス酸化物薄膜であって、該酸化物の組成は、結晶化したときの組成がInGaO
Zn1−xMgO)(mは6未満の自然数、0.80≦x<0.85)であり、不純
物イオンを添加することなしに、電子移動度が1cm/(V・秒)超、かつ電子キャリ
ヤ濃度が1016/cm以下である半絶縁性であることを特徴とする透明半絶縁性アモ
ルファス酸化物薄膜。
【請求項4】
チャネル層、ゲート絶縁膜、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する薄膜ト
ランジスタであって、請求項3に記載の透明半絶縁性アモルファス酸化物薄膜をチャネル
層としたことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項5】
ゲート絶縁膜として、Al,Y,又はHfOのうちの1種、またはそれら
の化合物を少なくとも2種以上含む混晶化合物を用いたことを特徴とする請求項2又は4
記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
基板として、ガラス基板、プラスチック基板またはプラスチックフィルムを用いたことを
特徴とする請求項2又は4記載の薄膜トランジスタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−219538(P2010−219538A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68708(P2010−68708)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【分割の表示】特願2006−510907(P2006−510907)の分割
【原出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 社団法人応用物理学会発行の「2004年(平成16年)秋季第65回応用物理学会学術講演会講演予稿集(No.2)」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】