説明

イットリア含有膜とその形成方法、並びに半導体製造装置およびプラズマ処理装置

【課題】プラズマ耐性の高いイットリアを含む材料でコーティング膜を形成した場合でも、イットリア粒子の脱粒などによるコーティング膜の劣化を抑えることができる保護膜を提供する。
【解決手段】被膜形成対象上に形成されたイットリア含有膜において、表面から前記イットリア含有膜の厚さの範囲内で、前記イットリア含有膜が溶融後固化された溶融固化膜52を、前記被膜形成対象上の少なくとも一部に有するイットリア含有膜が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、イットリア含有膜とその形成方法、並びに半導体製造装置およびプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置や液晶表示装置などの製造における微細加工プロセスでは、RIE(Reactive Ion Etching)装置が用いられる。RIE装置では、チャンバ内を低圧状態にし、フッ素系ガスや塩素系ガスをチャンバ内に導入してプラズマ化し、エッチングを行っている。このようなRIE装置内部は、プラズマに曝され、腐食されてしまう。そのため、RIE装置の内壁や内部構成部材には、イットリアなどのプラズマ耐性の高い材料をコーティングして保護膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/044555号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、RIE装置の内壁や内部構成部材にイットリア膜をコーティングした場合でも、イットリア粒子が脱粒し、コーティングが劣化してしまうなどの問題点があった。
【0005】
本発明の一つの実施形態は、プラズマ耐性の高いイットリアを含む材料を形成した場合でも、イットリア粒子の脱粒などの劣化を抑えることができるイットリア含有膜とその形成方法、並びに半導体製造装置およびプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの実施形態によれば、被膜形成対象上に形成されたイットリア含有膜において、表面から前記イットリア含有膜の厚さの範囲内で、前記イットリア含有膜が溶融後固化された溶融固化膜を、前記被膜形成対象上の少なくとも一部に有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、第1の実施形態によるプラズマ処理装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、第1の実施形態による保護膜の様子を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、第1の実施形態による保護膜の製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は、比較例によるプラズマ処理装置内でのプラズマ処理時の様子を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、第2の実施形態による部分溶融した構成部材の断面の一例を模式的に示す図である。
【図6】図6は、第2の実施形態による保護膜の形成方法の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかるイットリア含有膜とその形成方法、並びに半導体製造装置およびプラズマ処理装置を詳細に説明する。なお、これらの実施形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の実施形態で用いられる膜の断面図は模式的なものであり、層の厚みと幅との関係や各層の厚みの比率などは現実のものとは異なる。
【0009】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、プラズマの暴露に対して耐性を有する膜をプラズマ処理装置の内壁に適用した場合を例に挙げて説明する。図1は、第1の実施形態によるプラズマ処理装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。ここでは、プラズマ処理装置10として、RIE装置を例示している。プラズマ処理装置10は、気密に構成されたたとえばアルミニウム製のチャンバ11を有している。このチャンバ11は接地されている。
【0010】
チャンバ11内には、処理対象としてのウェハ100を水平に支持するとともに、下部電極として機能する支持テーブル21が設けられている。支持テーブル21の表面上には、図示しないがウェハ100を静電吸着する静電チャック機構など保持機構が設けられている。支持テーブル21の側面および底面の周縁部を覆うように絶縁リング22が設けられており、絶縁リング22で覆われた支持テーブル21の上方の外周には、フォーカスリング23が設けられている。このフォーカスリング23は、ウェハ100のエッチング時に、電界がウェハ100の周縁部で鉛直方向(ウェハ面に垂直な方向)に対して傾かないように電界を調整するために設けられる部材である。
【0011】
また、支持テーブル21は、チャンバ11内の水平方向の中央付近に位置するように、チャンバ11の中央付近の底壁から鉛直上方に筒状に突出する支持部12上に、絶縁リング22を介して支持されている。絶縁リング22とチャンバ11の側壁との間には、バッフル板24が設けられている。バッフル板24は、板の厚さ方向を貫通する複数のガス排出孔25を有する。また、支持テーブル21には、高周波電力を供給する給電線31が接続されており、この給電線31にブロッキングコンデンサ32、整合器33および高周波電源34が接続されている。高周波電源33からは所定の周波数の高周波電力が支持テーブル21に供給される。
【0012】
下部電極として機能する支持テーブル21に対向するように、支持テーブル21の上部に上部電極として機能するシャワーヘッド41が設けられている。シャワーヘッド41は支持テーブル21と平行に対向するように、支持テーブル21から所定の距離を隔てたチャンバ11の上部付近の側壁に固定される。このような構造によって、シャワーヘッド41と支持テーブル21とは、一対の平行平板電極を構成している。また、シャワーヘッド41には、板の厚さ方向を貫通する複数のガス吐出口42が設けられている。
【0013】
チャンバ11の上部付近には、プラズマ処理時に使用される処理ガスが供給されるガス供給口13が設けられており、ガス供給口13には配管を通じて図示しないガス供給装置が接続されている。
【0014】
支持テーブル21とバッフル板24よりも下部のチャンバ11にはガス排気口14が設けられており、ガス排気口14には配管を通じて図示しない真空ポンプが接続されている。
【0015】
このように、チャンバ11内の支持テーブル21およびバッフル板24と、シャワーヘッド41とで仕切られた領域は、プラズマ処理室61となり、シャワーヘッド41で仕切られたチャンバ11内の上部の領域は、ガス供給室62となり、支持テーブル21およびバッフル板24で仕切られたチャンバ11内の下部の領域はガス排気室63となる。
【0016】
このように構成されたプラズマ処理装置10での処理の概要について説明する。まず、支持テーブル21上に処理対象であるウェハ100が載置され、たとえば静電チャック機構によって固定される。ついで、ガス排気口14に接続される図示しない真空ポンプでチャンバ11内が真空引きされる。このとき、ガス排気室63とプラズマ処理室61との間は、バッフル板24に設けられたガス排出孔25によって接続されており、プラズマ処理室61とガス供給室62との間は、シャワーヘッド41のガス吐出口42によって接続されているので、ガス排気口14に繋がる真空ポンプによってチャンバ11内全体が真空引きされる。
【0017】
その後、チャンバ11内が所定の圧力に達すると、図示しないガス供給装置からガス供給室62に処理ガスが供給され、シャワーヘッド41のガス吐出口42を介してプラズマ処理室61に供給される。プラズマ処理室61内の圧力が所定の圧力に達すると、シャワーヘッド41(上部電極)を接地した状態で、支持テーブル21(下部電極)に高周波電圧を印加して、プラズマ処理室61内にプラズマを生成させる。ここで、下部電極には高周波電圧が印加されているので、プラズマとウェハとの間に電位勾配が生じ、プラズマガス中のイオンが支持テーブル21へと加速されることになり、エッチング処理が行われる。
【0018】
このような構成のプラズマ処理装置10のプラズマ生成領域に接する側の構成部材の面、すなわちプラズマ処理室61の構成部材の表面に、第1の実施形態による保護膜50が形成される。具体例としては、プラズマ処理室61を構成するチャンバ11の内壁側面、シャワーヘッド41のプラズマ処理室61側の表面、バッフル板24のプラズマ処理室61側の表面、フォーカスリング23の表面、支持テーブル21のウェハ100を載置する側の表面に保護膜50が形成される。
【0019】
図2は、第1の実施形態による保護膜の様子を模式的に示す断面図である。保護膜50は、少なくとも表面層が改質されたイットリアを含む膜(以下、イットリア膜という)によって構成される。たとえば図2(a)に示されるように、被膜形成対象であるプラズマ処理装置10の構成部材55上に、第1の密度を有するイットリア膜からなる下地膜51と、第1の密度よりも高い第2の密度を有するイットリア膜が溶融後固化した溶融固化膜52と、が順に積層された構造を有する。また、図2(b)に示されるように、プラズマ処理装置10の構成部材55上に形成されるすべての保護膜50が、第2の密度を有する溶融固化膜52で構成されるものであってもよい。保護膜50全体の膜厚は10〜200μmである。これは、全体の膜厚が10μm未満の場合には、プラズマ耐性が低下してしまい、200μmよりも厚い場合には、内部応力でクラックが入り易くなるので、好ましくないからである。なお、図では、保護膜50はイットリア膜のみで構成される場合が示されているが、構成部材55上にアルマイト層などの他の保護膜が形成され、この他の保護膜上に下地膜51と溶融固化膜52とが積層される構造であってもよい。
【0020】
プラズマ処理装置10の構成部材55としては、チャンバ11やチャンバ11内の部品であり、これらはアルミニウム、アルミナ、石英、ステンレスなどの材料によって構成される。下地膜51は、膜を構成する粒子間に空隙が存在し、また各粒子間に段差が存在している状態であり、比較的密度が低い。密度範囲として、2.0〜4.0g/cm3であることが望ましい。また、膜厚としては、保護膜50の全体の膜厚d0の8〜9割であることが望ましいが、図2(b)に示されるように、下地膜51が設けられなくてもよい。さらに、構成部材55との界面での密着性が高いことが望ましい。
【0021】
また、溶融固化膜52は、下地膜51に比して粒子間の空隙が抑制され、緻密であり、表面が平坦化された状態を有し、下地膜51に比して密度が高い。密度範囲としては、4.0〜5.0g/cm3であることが望ましい。また、膜厚としては、1〜20μmであることが望ましい。これは、溶融固化膜52の膜厚d1が、1μm未満の薄さであるとプラズマ耐性が低下してしまい、また20μmよりも厚い場合には、内部応力でクラックが入り易くなるので、好ましくないからである。
【0022】
つぎに、このような保護膜50の製造方法について説明する。図3は、第1の実施形態による保護膜の製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である。まず、図3(a)に示されるように、プラズマに曝される箇所の構成部材55上に、下地膜51を10〜200μmの厚さで形成する。下地膜51の形成方法としては、溶射法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、エアロゾルデポジション(Aerosol Deposition)法、コールドスプレー法、ガスデポジション法、静電微粒子衝撃コーティング法、衝撃焼結法などを用いることができる。
【0023】
ついで、図3(b)に示されるように、下地膜51の表面改質処理を行う。表面改質処理は、下地膜51の表面から、下地膜51の厚さ以下の所定の深さの範囲の領域にエネルギを与えて、下地膜51を溶融させた後冷却することで行われる。これによって、溶融された領域には溶融固化膜52が形成される。表面改質処理として、たとえばレーザアニール処理やプラズマジェット処理などの選択的に表面を熱溶融できる方法を用いることができる。この表面改質処理では、下地膜51を一度溶融した後に固化して溶融固化膜52を形成しているので、溶融固化膜52は、下地膜51に比して空隙が少なく、表面が平坦化された緻密な膜となる。その結果、下地膜51に比して密度を高くすることができる。なお、溶融固化膜52の形成深さは、表面改質処理を行う時間によって制御することができる。以上によって、第1の実施形態による保護膜50が形成される。
【0024】
つぎに、比較例と比較した場合の第1の実施形態による効果について説明する。図4は、比較例によるプラズマ処理装置内でのプラズマ処理時の様子を模式的に示す断面図である。ここでは、プラズマ処理室61内の構成部材に、保護膜として溶射法によって形成したイットリア膜(以下、イットリア溶射膜という)70をコーティングした場合を例に挙げている。また、図1と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。
【0025】
この図に示されるように、従来のプラズマ処理装置10Aでたとえばフッ素を含む処理ガスを用いたエッチングを行う場合には、ウェハ100のエッチングとともにフォーカスリング23もエッチングされる。このとき、イットリア溶射膜70からダスト111が発生してしまうという問題点があった。
【0026】
これは、イットリア溶射膜70は、一般的にイットリア粒子同士の表面を融着させることによって形成されるために、膜中に気孔が含まれやすいことが原因の一つであると考えられる。つまり、気孔の多い膜質では、表面積が大きくなるので、エッチング時に反応ガスとの間で反応しやすくなり、ダスト111が発生しやすくなる。そして、ダスト111によってウェハ100上やチャンバ11の内壁に被膜が形成されてしまう。また、イットリア溶射膜70に気孔が多いことから、複数の気孔を介して下地であるプラズマ処理装置10Aの構成部材が露出している領域が存在し、長期間の使用によってプラズマ処理装置10Aの構成部材が腐食されることによっても、ダスト111が生じやすくなる。
【0027】
さらに、従来のプラズマ処理装置10Aでエッチングを行う場合には、イットリアもダスト111としてウェハ100上に落下してしまうことがあった。これは、イットリア溶射膜70は、粒子同士が部分的に溶融して結合しているだけであるので、膜強度が低くクラックが発生しやすいことが原因の一つであると考えられる。たとえば、母材(チャンバ11)がアルミニウムで構成される場合、アルミニウムの線膨張係数は、24×10-6/℃程度であり、イットリアの線膨張係数は、7×10-6/℃程度であり、両者の線膨張係数の差が大きい。そのため、プラズマ処理中の加熱で熱膨張が生じる際に、イットリア溶射膜70にクラックが発生しやすくなる。そして、上記のようなイットリアを含むダスト111がウェハ100上に落下する虞がある。
【0028】
このように、イットリア溶射膜70は、膜内部に気孔が混在しやすく、また膜強度が弱いのでクラックが発生しやすいという問題点を有していた。
【0029】
一方、第1の実施形態の保護膜50では、保護膜50を構成するイットリア膜のうち、表面側の溶融固化膜52は緻密で表面が滑らかであるので、比較例に比して膜の表面積が小さくなり、また表面の段差も小さくなる。これによって、溶融固化膜52はエッチングされにくくなるとともに、反応ガスとの間の反応も生じにくくなる。その結果、エッチング処理中に発生するダスト111を抑えることができるという効果を有する。
【0030】
また、溶融固化膜52の表面を溶融させて緻密な膜としたので、保護膜50の表面では、隣接する粒子同士が互いに強固に結合した状態となり、膜強度が強く、クラックが発生しにくくなる。これによって、イットリアからなるダスト111がウェハ100に落下することを抑えることができるという効果も有する。このとき、下地膜51をプラズマ処理装置10の構成部材に対して密着性の高い方法で成膜することで、プラズマ処理中の加熱で生じる熱膨張によるクラックの発生も抑えることができる。
【0031】
以上のように第1の実施形態によれば、ダスト低減による歩留りが向上し、プラズマ処理室61の構成部材の寿命が延び、コスト削減に対して非常に高い効果が得られる。
【0032】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、プラズマ処理室内の構成部材全体に対して、表面改質処理を行った保護膜でコーティングする場合を示したが、プラズマ処理室内の構成部材に形成された下地膜の一部だけ表面改質処理を行った保護膜、つまり部分溶融した保護膜でコーティングするようにしてもよい。
【0033】
部分溶融した保護膜でコーティングする領域としては、プラズマ処理中に電界が集中する箇所や、応力が集中するためにクラックが発生しやすい箇所を例示することができる。このような場所として、たとえば周辺と比較して曲率の大きい箇所や凸状構造などの凸部や、屈曲した部分などの角部を挙げることができる。このとき、凸部や角部を曲面で近似したときの曲面の曲率半径は2mm以下であることが望ましい。曲率半径が2mmよりも大きければ、表面溶融処理を施さないイットリア膜のみでも、クラックの発生が抑えられるからである。
【0034】
たとえば、チャンバ11の内壁、下部電極である支持テーブル21、ウェハ100の周辺部材(フォーカスリング23)、バッフル板24、支持テーブル21中の静電チャックなどの保護膜50の表面を部分溶融すると有効であるが、特にシャワーヘッド41のガス吐出口42近辺の保護膜50の表面を部分溶融すると効果が高い。そこで、以下では、シャワーヘッド41のガス吐出口42近辺の保護膜50を部分溶融した場合を例に挙げて説明する。
【0035】
図5は、第2の実施形態による部分溶融した保護膜でコーティングされた構成部材の断面の一例を模式的に示す図である。ここでは、上記したように、シャワーヘッド41を例示している。この図に示されるように、シャワーヘッド41のガス吐出口42とその周辺の領域のみ表面改質処理を行った保護膜50でコーティングし、他の部分(たとえばガス吐出口42間の領域やチャンバ11の内壁など)は表面改質処理を行っていない下地膜51からなる保護膜50でコーティングされる場合を示している。つまり、保護膜50は、ガス吐出口42周辺付近のみ下地膜51と、下地膜51に比して密度の高い溶融固化膜52との積層膜で構成され、他の領域では下地膜51で構成される。
【0036】
ガス吐出口42は、一般的に数mm程度の大きさで、処理ガスがチャンバ11内で均一かつ安定して供給できるように複雑な形状を有している。このため、ガス吐出口42付近にイットリア系の保護膜50を形成すると、曲率が大きい箇所で応力が集中するためにクラックが発生しやすい。また、シャワーヘッド41は上部電極でもあり、このように電極にガス吐出口42が設けられている場合では、曲率が大きい箇所に電界が集中するため、特に高いプラズマ耐性が要求される。
【0037】
そこで、ガス吐出口42付近のみ部分溶融した保護膜50を形成することで、表面が平坦化し、ダストの発生を抑制することができる。また、曲率の大きい領域にのみ表面溶融処理を行うことで、イットリア粒子の結合力が高まり、クラックの発生が抑えられた平滑な溶融固化膜52を得ることができる。
【0038】
図6は、第2の実施形態による保護膜の形成方法の一例を模式的に示す断面図である。ここでは、シャワーヘッド41のガス吐出口42に保護膜50を形成する場合を例に挙げる。まず、図6(a)に示されるように、シャワーヘッド41に、第1の実施形態と同様に溶射法、CVD法、エアロゾルデポジション法、コールドスプレー法、ガスデポジション法、静電微粒子衝撃コーティング法、衝撃焼結法などの方法を用いて、下地膜51を10〜200μmの厚さで形成する。なお、ガス吐出口42は、板状のシャワーヘッド41を厚さ方向に所定の径で貫く第1の孔部421と、第1の孔部421からプラズマ処理室61側に向かって徐々に開口径が大きくなる第2の孔部422と、から構成され、シャワーヘッド41のプラズマ処理室61に対向する側の表面と第2の孔部422の内壁にかけて下地膜51が形成される。しかし、第1の孔部421は、シャワーヘッド41のガス吐出口42の形成面に対して垂直となっているので、第1の孔部421の内壁に下地膜51はほとんど形成されない。
【0039】
ついで、図6(b)に示されるように、ガス吐出口42の第2の孔部422内とその付近の領域に形成された下地膜51表面付近の下地膜51を溶融した後冷却して表面改質処理を行い、溶融固化膜52を形成する。表面改質処理として、たとえばレーザアニール処理やプラズマジェット処理などの選択的に表面を熱溶融できる方法を用いることができる。また、溶融固化膜52が1〜20μmの厚さとなるように表面改質処理が行われることが望ましいが、下地膜51の厚さのすべての範囲内で下地膜51を溶融し、表面改質処理を行うようにしてもよい。
【0040】
この表面改質処理は、構成部材上に形成された凸部や角部を有する下地膜51のうち、その凸部や角部や、その周辺部に対して施され、その他の部分、たとえばガス吐出口42とガス吐出口42との間の領域などには表面改質処理が行われない。これによって、部分溶融状態の保護膜50が形成される。
【0041】
第2の実施形態では、プラズマ処理装置の構成部材をイットリア膜で被覆し、さらに凸部または角部とその周囲にのみ表面溶融した保護膜50を形成した。これによって、凸部または角部に形成される保護膜50に応力が集中する傾向があるが、表面が平滑化された緻密な膜となっているので、この部分でのクラックの発生を抑制することができるという効果を有する。
【0042】
また、上部電極でもあるシャワーヘッド41のガス吐出口42のような部分では、応力のほかにプラズマ処理中に電界も集中するが、この部分にのみ表面改質処理を施した保護膜50を形成することで、プラズマによるダストの発生を抑えることもできるという効果も有する。
【0043】
なお、上記した説明では、プラズマ処理装置10としてRIE装置を例に挙げて説明したが、アッシング装置、CDE(Chemical Dry Etching)装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置などプラズマを用いる処理装置全般に、上記した実施形態を適用することができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10…プラズマ処理装置、11…チャンバ、12…支持部、13…ガス供給口、14…ガス排気口、21…支持テーブル、22…絶縁リング、23…フォーカスリング、24…バッフル板、25…ガス排出孔、31…給電線、32…ブロッキングコンデンサ、33…整合器、34…高周波電源、41…シャワーヘッド、42…ガス吐出口、50…保護膜、51…下地膜、52…溶融固化膜、55…構成部材、61…プラズマ処理室、62…ガス供給室、63…ガス排気室、100…ウェハ、421…第1の孔部、422…第2の孔部、252…イットリア膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜形成対象上に形成されたイットリア含有膜において、
表面から前記イットリア含有膜の厚さの範囲内で、前記イットリア含有膜が溶融後固化された溶融固化膜を、前記被膜形成対象上の少なくとも一部に有することを特徴とするイットリア含有膜。
【請求項2】
前記イットリア含有膜の一部のみが前記溶融固化膜であることを特徴とする請求項1に記載のイットリア含有膜。
【請求項3】
前記イットリア含有膜のうち、前記溶融固化膜部分は、その他の前記イットリア含有膜部分に比して高い密度を有することを特徴とする請求項1または2に記載のイットリア含有膜。
【請求項4】
前記溶融固化膜は、4.0〜5.0g/cm3の密度を有し、
前記その他のイットリア含有膜は、2.0〜4.0g/cm3での密度を有することを特徴とする請求項3に記載のイットリア含有膜。
【請求項5】
前記イットリア含有膜が角部または凸部を有する場合に、前記イットリア含有膜は、前記角部または凸部とその周囲の領域にのみ前記溶融固化膜を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のイットリア含有膜。
【請求項6】
前記被膜形成対象が角部または凸部を有する場合に、前記角部または前記凸部は、前記角部または前記凸部の表面を曲面で近似したときの曲率半径が2mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のイットリア含有膜。
【請求項7】
前記イットリア含有膜の厚さは、10〜200μmであり、
前記溶融固化膜の厚さは、1〜200μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のイットリア含有膜。
【請求項8】
被膜形成対象上に形成されたイットリア含有膜において、
前記イットリア含有膜は、表面から所定の厚さの範囲で前記イットリア含有膜が表面処理された表面処理膜部分を有し、前記表面処理膜部分は前記表面処理が施されていないイットリア含有膜部分よりも密度が大きいことを特徴とするイットリア含有膜。
【請求項9】
前記表面処理膜部分は、4.0〜5.0g/cm3の密度を有し、
前記その他の表面処理膜部分は、2.0〜4.0g/cm3での密度を有することを特徴とする請求項8に記載のイットリア含有膜。
【請求項10】
前記被膜形成対象は、半導体製造装置の構成部材であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載のイットリア含有膜。
【請求項11】
前記被膜形成対象は、プラズマ処理装置の構成部材であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載のイットリア含有膜。
【請求項12】
前記被膜形成対象は、プラズマ処理装置のチャンバ内壁、シャワーヘッド、バッフル板、フォーカスリング、プラズマ処理対象を保持する支持テーブルのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載のイットリア含有膜。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1つに記載のイットリア含有膜が構成部材に形成されていることを特徴とする半導体製造装置。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1つに記載のイットリア含有膜が構成部材に形成されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項15】
チャンバ内に、処理対象を保持する処理対象保持手段と、前記チャンバ内に導入されたガスをプラズマ化するプラズマ生成手段と、を備え、生成されたプラズマを用いて前記処理対象を処理するプラズマ処理装置において、
前記チャンバの内壁と前記チャンバ内の構成部材の前記プラズマ生成手段で生成されるプラズマの生成領域側の表面には、イットリア含有膜が形成され、
前記イットリア含有膜は、該イットリア含有膜の表面からの厚さの範囲内で、前記イットリア含有膜が溶融後固化された溶融固化膜を、前記チャンバの内壁と前記チャンバ内の構成部材の少なくとも一部に有することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項16】
前記チャンバの内壁および前記チャンバ内の構成部材の表面に角部または凹部が形成されている場合に、前記角部または凸部とその周囲の領域に形成されている前記イットリア含有膜に選択的に前記溶融固化膜が形成されることを特徴とする請求項15に記載のプラズマ処理装置。
【請求項17】
前記処理対象保持手段は、第1の電極を構成し、
前記プラズマ生成手段は、前記処理対象保持手段に対向して配置され、第2の電極を構成するとともに、前記ガスを前記処理対象保持手段側に吐出する複数の吐出口を有し、
前記第1および第2の電極間に電圧を印加する電圧印加手段をさらに備え、
前記プラズマ生成手段の前記吐出口の周囲に形成されている前記イットリア含有膜に選択的に前記溶融固化膜が形成されることを特徴とする請求項15に記載のプラズマ処理装置。
【請求項18】
被膜形成対象上にイットリア含有膜を形成した後、前記イットリア含有膜の表面から所定の深さの範囲を、溶融した後に固化させることを特徴とするイットリア含有膜の形成方法。
【請求項19】
前記イットリア含有膜の角部または凸部とその周囲の領域の前記イットリア含有膜の表面から所定の深さの範囲を溶融した後に固化させることを特徴とする請求項18に記載のイットリア含有膜の形成方法。
【請求項20】
前記被膜形成対象が角部または凸部を有する場合に、前記角部または前記凸部は、その表面を曲面で近似したときの曲率半径が2mm以下であることを特徴とする請求項18または19に記載のイットリア含有膜の形成方法。
【請求項21】
前記イットリア含有膜を10〜200μmの厚さで形成し、
前記イットリア含有膜の表面から1〜200μmの深さの範囲を溶融することを特徴とする請求項18〜20のいずれか1つに記載のイットリア含有膜の形成方法。
【請求項22】
前記イットリア含有膜の表面の溶融は、レーザアニール法またはプラズマジェット法を用いて行われることを特徴とする請求項18〜21のいずれか1つに記載のイットリア含有膜の形成方法。
【請求項23】
被膜形成対象上にイットリア含有膜を形成した後、前記イットリア含有膜の表面から所定の深さの範囲を、表面処理することを特徴とするイットリア含有膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−36487(P2012−36487A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180168(P2010−180168)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】