説明

エリア判定装置及びその判定方法

【課題】 複数のエリアが重なり合う場合であっても、簡素な方法でエリアに対する進入あるいは退出を判定することが可能なエリア判定装置及びその判定方法を提供する。
【解決手段】 所定範囲に設定される複数のエリアに対する移動体の進入あるいは退出を判定するエリア判定装置である。過去の内外判定演算が真となるエリアを要素とする第一の集合を算出し、現在の内外判定演算が真となるエリアを要素とする第二の集合を算出し、前記第二の集合を全集合とする前記第一の集合の補集合に属する要素となるエリアに対して前記移動体が進入したと判定し、前記第一の集合を全集合とする前記第二の集合の補集合に属する要素となるエリアに対して前記移動体が退出したと判定する制御手段4を備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体が所定のエリアに進入したあるいは前記エリアから退出したことを判定するエリア判定装置及びその判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自己の現在位置を測位することができるGPS(Global Positioning System)等の位置検出手段の普及に伴い、前記位置検出手段を保持する移動体(人や自動車あるいは船舶等)が予め定められたエリアに進入したあるいは前記エリアから退出した場合に情報提供や機器制御を行うことが知られている(特許文献1参照)。情報提供及び機器制御の例としては、子供や老人が自宅周辺から退出した場合に保護者に警報を報知する、危険な交差点への進入を警告する、店舗に近接した車両のナビゲーション装置の画面上に広告をポップアップさせる、駐車場への進入/退出に応じてナビゲーション装置のマップマッチングを停止/起動させる等が上げられる。
【特許文献1】特開2004−212199号公報
【0003】
特定のエリアに対する進入/退出の判定方法としては、2つの時刻におけるエリアに対する内外判定によって行われる。すなわち、過去においてエリアの外側に位置すると判定され、現在においてそのエリアの内側に位置すると判定される場合は、前記移動体は前記エリアに進入したと判定することができる。また、過去においてエリアの内側に位置すると判定され、現在においてエリアの外側に位置すると判定される場合は、前記移動体は前記エリアから退出したと判定することができる。
【0004】
しかしながら、前記位置検出手段のよって測位した前記移動体の測位位置には常に誤差が生じているため、本来の位置とはわずかに異なる位置が測位される可能性がある。この測位誤差のため、測位位置に基づいて進入/退出判定を行うと、前記エリアの境界付近で例えば進入と退出とが繰り返し行われる実際の状況とは異なる判定結果が得られるという問題点があった。かかる問題点に対応すべく、特許文献1には、前記測位位置に基づいて前記移動体が前記エリア内に存在する確率(存在確率)を算出し、この存在確率に基づいて内外判定を行う点が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の進入/退出判定方法にあっては、過去の内外判定結果を保持する必要がある。そのため、前記エリアが複数存在し、複数のエリア同士が重なり合う場合は、単一の管理テーブルによっては計算が破綻してしまい、複数のエリアが重ならないようにエリア設定を行うか、管理テーブルを複数用意する必要があり、進入/退出判定に要するプログラミングが複雑になってしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記の課題点に鑑みてなされたものであり、複数のエリアが重なり合う場合であっても、簡素な方法でエリアに対する進入あるいは退出を判定することが可能なエリア判定装置及びその判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエリア判定装置は、前記課題を解決するために、所定範囲に設定される複数のエリアに対する移動体の進入あるいは退出を判定するエリア判定装置であって、所定時間毎に検出される測位位置に基づいて所定時刻において前記移動体が前記各エリア内に位置する確率を示す存在確率を算出し、現在の時刻における存在確率が第一の閾値以上であり、かつ過去の時刻における存在確率が前記第一の閾値より小さい場合に真となる境界内移動演算を前記各エリアについて実行し、前記現在の時刻における存在確率が第二の閾値より小さく、かつ前記過去の時刻における存在確率が前記第二の閾値以上である場合に真となる境界外移動演算を前記各エリアについて実行し、過去の境界内移動演算の結果が真である場合に真となり、過去の境界外移動演算の結果が真である場合に偽となる過去の内外判定演算を前記各エリアについて実行して前記過去の内外判定演算が真となるエリアを要素とする第一の集合を算出し、前記境界内移動演算の結果が真である場合に真となり、前記境界外移動演算の結果が真である場合に偽となり、前記境界内移動演算及び前記境界外移動演算の結果が偽である場合は前記過去の内外判定演算の結果と同等の結果となる現在の内外判定演算を前記各エリアについて実行して前記現在の内外判定演算が真となるエリアを要素とする第二の集合を算出し、前記第二の集合を全集合とする前記第一の集合の補集合に属する要素となるエリアに対して前記移動体が進入したと判定し、前記第一の集合を全集合とする前記第二の集合の補集合に属する要素となるエリアに対して前記移動体が退出したと判定する制御手段を備えてなることを特徴とする。
【0008】
また、前記第二の閾値は、前記第一の閾値よりも小さい値に設定されてなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のエリア判定装置の判定方法は、前記課題を解決するために、所定範囲に設定される複数のエリアに対する移動体の進入あるいは退出を判定するエリア判定装置の判定方法であって、所定時間毎に検出される測位位置に基づいて所定時刻において前記移動体が前記各エリア内に位置する確率を示す存在確率を算出し、現在の時刻における存在確率が第一の閾値以上であり、かつ過去の時刻における存在確率が前記第一の閾値より小さい場合に真となる境界内移動演算を前記各エリアについて実行し、前記現在の時刻における存在確率が第二の閾値より小さく、かつ前記過去の時刻における存在確率が前記第二の閾値以上である場合に真となる境界外移動演算を前記各エリアについて実行し、過去の境界内移動演算の結果が真である場合に真となり、過去の境界外移動演算の結果が真である場合に偽となる過去の内外判定演算を前記各エリアについて実行して前記過去の内外判定演算が真となるエリアを要素とする第一の集合を算出し、前記境界内移動演算の結果が真である場合に真となり、前記境界外移動演算の結果が真である場合に偽となり、前記境界内移動演算及び前記境界外移動演算の結果が偽である場合は前記過去の内外判定演算の結果と同等の結果となる現在の内外判定演算を前記各エリアについて実行して前記現在の内外判定演算が真となるエリアを要素とする第二の集合を算出し、前記第二の集合を全集合とする前記第一の集合の補集合に属する要素となるエリアに対して前記移動体が進入したと判定し、前記第一の集合を全集合とする前記第二の集合の補集合に属する要素となるエリアに対して前記移動体が退出したと判定することを特徴とする。
【0010】
また、前記第二の閾値は、前記第一の閾値よりも小さい値に設定されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、移動体が所定エリアに進入したあるいは前記エリアから退出したことを判定するエリア判定装置及びその判定方法に関し、複数のエリアが重なり合う場合であっても、簡素な方法でエリアに対する進入あるいは退出を判定することを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を車両用の情報提供装置に適用した実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0013】
図1を用いて情報提供装置の全体構成について説明する。情報提供装置は、通信手段1と、GPS受信部(位置検出手段)2と、操作手段3と、制御手段4と、報知手段5と、から主に構成されている。一方、情報提供装置に後で詳述する情報エリアデータを配信するシステムとして、サーバ6を有している。このサーバ6は、パーソナルコンピュータ(パソコン)7や携帯電話機、あるいは通信機能付きカーナビゲーションシステム等とアクセスして前記情報エリアデータを収集し、Bluetooth等の無線通信機能を有する携帯電話機8を介して情報提供装置に前記情報エリアデータを送信することが可能なものである。
【0014】
前記情報エリアデータは、情報エリアの座標及び報知すべき情報を少なくとも有するものであり、サーバ6内にハードディスク等の記録媒体に記録されるものである。なお、報知すべき情報としては、店舗の宣伝広告,観光情報あるいは運転の注意を促す警告情報等の特定の情報エリアに関する各種情報が上げられる。
【0015】
通信手段1は、携帯電話機8との無線通信が可能であり、前記情報エリアデータをサーバ6から携帯電話機8を介して制御手段4へダウンロードするものである。
【0016】
GPS受信部2は、GPS用受信アンテナを備え、前記受信アンテナで受信した人工衛星からの車両(移動体)の測位位置を制御手段4へ供給するものである。
【0017】
操作手段3は、報知手段5での報知内容等を選択,決定するものであり、操作スイッチやワイヤレスリモコン等の遠隔操作部からなるものである。
【0018】
制御手段4は、CPU,ROM,RAM及びI/O(入出力)インターフェイス等を有するマイクロコンピューターから主になるものである。制御手段4は、GPS受信部2によって受信した測位位置を示す位置データと、携帯電話機8を介してダウンロードされた前記情報エリアデータとをマッチング処理する。さらに制御手段4は、このマッチング処理結果に基づき車両が前記情報エリアに対して進入あるいは退出したか否かを判定し、この進入退出判定の結果に基づいて所定の情報を報知手段5によって提供するものである。なお、情報の提供方法としては、進入あるいは退出に応じて情報を提供するものであってもよく、また、進入に応じて情報を提供し、退出に応じて情報提供を停止するものであってもよい。また、制御手段4は、ダウンロードされた前記情報エリアデータを保存するためのフラッシュメモリ等の記録手段4aを有し、前記情報エリアデータを加工し、保存することが可能となっている。
【0019】
報知手段5は、例えばマトリクス型の液晶表示パネルや有機ELパネルからなり情報を表示する視覚情報確認手段である表示部5aと、情報を音声にて報知する聴覚情報確認手段であるスピーカ5bとを有し、制御手段4からの指示信号に応じて表示部5a及びスピーカ5bが動作する構成となっている。
【0020】
次に、図2を用いて制御手段4のエリア判定方法について説明する。
【0021】
制御手段4は、通信手段1によってサーバ6から各情報エリアの範囲を示す情報エリアデータを入力する(ステップS1)。また、GPS受信部2を介して車両の測位位置を示す位置データを入力する(ステップS2)。そして、制御手段4は、入力した前記各情報エリアデータと前記位置データとに基づいて、所定時刻Xにおいて車両が前記各情報エリア内に位置する確率(以下、存在確率p(X)という)を算出する(存在確率算出、ステップS3)。かかる存在確率p(X)の算出方法は、例えば確率モデルを正規分布とし、前記測位位置の前記情報エリアの境界からの深さ(距離)に基づいて存在確率を算出すればよい。また、深さの計算は一般に高コストであるから、簡易的に、車両に固定した座標系においてGPS受信部2の取付位置の他に重み付けされたサンプル点を複数設け、前記情報エリア内に位置するサンプル点の重みの合計によって算出してもよい。図3は情報エリアの形状を円状とした場合を示している。車両にはGPS受信部2の取付位置であるサンプル点M1と、M1を中心とした円周上に位置するサンプル点M2〜M5が設けられている。存在確率p(X)の重み付けとして、それぞれM1=0.4及びM2〜M5=0.15が設定されている。図3においては、サンプル点M1〜M3が情報エリアA内に位置しているため、存在確率p(X)は0.4+0.15+0.15=0.7となる。
【0022】
次いで、制御手段4は、現在の時刻X2における存在確率p(X2)が第一の閾値λ以上であり、かつ過去の時刻X1における存在確率p(X1)が第一の閾値λより小さい場合に真となる境界内移動演算Enter(X1,X2)を前記各情報エリアについて実行する(境界内移動演算、ステップS4)。
【0023】
また、制御手段4は、現在の時刻X2における存在確率p(X2)が第二の閾値μより小さく、かつ過去の時刻X1における存在確率p(X1)が第二の閾値μ以上である場合に真となる境界外移動演算Leave(X1,X2)を前記各情報エリアについて実行する(境界外移動演算、ステップS5)。なお、第二の閾値μは、第一の閾値λよりも小さい値で設定される。
【0024】
境界内移動演算Enter(X1,X2)及び境界外移動演算Leave(X1,X2)は、例えば以下の式によって計算される。
Enter(X1,X2)≡round(p(X2),λ)(1−round(p(X1),λ))
Leave(X1,X2)≡round(p(X1),μ)(1−round(p(X2),μ))
(左辺)≡(右辺):左辺を右辺で定義する。
p(X):時刻Xに情報エリア内に車両が存在する確率(存在確率)
λ>μ
round(p(X),ν)≡1(p(X)≧ν),0(p(X)<ν)
ν:λあるいはμ
【0025】
ここで,制御手段4は、時刻X1における過去の内外判定演算SX1を前記各情報エリアについて実行しており、過去の内外判定演算SX1が真となる情報エリアを要素とする第一の集合C1を算出しているとする。
【0026】
また、制御手段4は、境界内移動演算Enter(X1,X2)の結果が真である場合に真となり、境界外移動演算Leave(X1,X2)の結果が真である場合に偽となり、境界内移動演算Enter(X1,X2)及び境界外移動演算Leave(X1,X2)の結果が共に偽である場合は過去の内外判定演算SX1の結果と同等の結果となる(過去の内外判定演算SX1の結果から更新されない)現在の内外判定演算SX2を前記各情報エリアについて実行する(内外判定の更新、ステップS6)。また、制御手段4は、現在の内外判定演算SX2が真となる情報エリアを要素とする第二の集合C2の算出を実行する。なお、第二の集合C2は、以下の式によって算出される。
【0027】
X2=(1−Leave(X1,X2))SX1(1−Enter(X1,X2))+Enter(X1,X2)
C2:SX2=1となる情報エリアを要素とする集合
【0028】
また、境界内移動演算Enter(X1,X2)が真である情報エリアを要素とする集合を第三の集合C3とし、境界外移動演算Leave(X1,X2)が真である情報エリアを要素とする集合を第四の集合C4とすると、第二の集合C2は、以下の集合演算によって算出することができる。
【0029】
C2=(C1\C4)∪C3
【0030】
次いで、制御手段4は、第二の集合C2を全集合とする第一の集合C1の補集合(以下、第一の補集合C5という)を算出し、また、第一の集合C1を全集合とする第二の集合C2の補集合(以下、第二の補集合C6という)を算出する(補集合算出、ステップS7)。なお、第一,第二の補集合C5,C6は、以下の式によって算出される。
【0031】
C5=C2\C1
C6=C1\C2
【0032】
次いで、制御手段4は、第一の補集合C5に属する要素となる情報エリアに対して車両が進入したと判定し、また、第二の補集合C6に属する要素となる情報エリアに対して車両が退出したと判定する(進入/退出判定、ステップS8)。
【0033】
なお、内外判定演算は,過去の内外判定演算を境界内移動演算および境界外移動演算の結果によって更新していくから、初期値が必要である。制御手段4は、計算開始時に単純な内外判定を行い、過去の内外判定演算の初期値とする。
【0034】
図4は車両の重なり合う複数の情報エリアへの進入及び情報エリアからの退出の一例を示している。図4において、情報エリアA1,A2は互いに一部が重なり合って設定されている。車両10は所定時間間隔で測位される測位位置がP1からP3に移動する間に情報エリアA1,A2に対して進入あるいは退出をしている。なお、測位位置がP1〜P3である時刻をそれぞれT1〜T3とする。また、説明を簡略化するため、ステップS3において各時刻T1〜T3における存在確率p(T1)〜p(T3)を算出すると図5に示す結果が得られるものとする。すなわち、時刻T1(測位位置P1)においては、情報エリアA1内に位置する存在確率p(T1)=1であって、情報エリアA2内に位置する存在確率p(T1)=0である。また、時刻T2(測位位置P2)においては、情報エリアA1内に位置する存在確率p(T2)=0.8であって、情報エリアA2内に位置する存在確率p(T2)=0.9である。また、時刻T3(測位位置P3)においては、情報エリアA1内に位置する存在確率p(T3)=0であって、情報エリアA2内に位置する存在確率p(T3)=1である。
【0035】
まず、時刻T1から時刻T2の間の(測位位置がP1からP2に移動した際の)進入/退出判定について説明する。すなわち、現在の時刻が時刻T2となり、過去の時刻が時刻T1となる。上述した存在確率の算出結果に基づいてステップS4〜S6における演算処理を行うと、以下の結果が得られる。なお、時刻T1において、過去の内外判定演算ST1は、情報エリアA1については真(ST1=1)であり、情報エリアA2については偽(ST1=0)であるものとする。また、第一の閾値λ=0.9544とし、第二の閾値μ=0.5とする。
【0036】
まず、情報エリアA1については、以下の演算結果が得られる。
Enter(T1,T2)=round(p(T2),λ)(1−round(p(T1),λ))=round(0.8,0.9544)(1−round(1,0.9544))=0
Leave(T1,T2)=round(p(T1),μ)(1−round(p(T2),μ))=round(1,0.5)(1−round(0.8,0.5))=0
T1=1
T2=(1−Leave(T1,T2))ST1(1−Enter(T1,T2))+Enter(T1,T2)=1
【0037】
また、情報エリアA2については、以下の演算結果が得られる。
Enter(T1,T2)=round(p(T2),λ)(1−round(p(T1),λ))=round(0.9,0.9544)(1−round(0,0.9544))=0
Leave(T1,T2)=round(p(T1),μ)(1−round(p(T2),μ))=round(0,0.5)(1−round(0.9,0.5))=0
T1=0
T2=(1−Leave(T1,T2))ST1(1−Enter(T1,T2))+Enter(T1,T2)=0
【0038】
また、第一,第二の集合C1,C2については以下の演算結果が得られる。
C1={A1}
C2={A1}
【0039】
さらに算出された第一,第二の集合C1,C2に基づいてステップS7における第一,第二の補集合C5,C6の算出を行うと以下の結果が得られる。
C5=C2\C1={A1}\{A1}={}(空集合)
C6=C1\C2={A1}\{A1}={}(空集合)
【0040】
さらに算出された第一,第二の補集合C5,C6に基づいてステップS8の進入/退出判定を行う。この場合、第一,第二の補集合C5,C6の要素となる情報エリアがないため、車両10の進入あるいは退出が判定される情報エリアはないと判定される。測位位置P2は情報エリアA2内に位置しているものの、存在確率p(T2)が境界内への移動を判定するための第一の閾値λより小さい、すなわち、実際に車両10が情報エリアA2内に位置する確率が低いため、進入判定が行われない。
【0041】
次に、時刻T2から時刻T3の間の(測位位置がP2からP3に移動した際の)進入/退出判定について説明する。すなわち、現在の時刻が時刻T3となり、過去の時刻が時刻T2となる。上述した存在確率の算出結果に基づいてステップS4〜S6における演算処理を行うと、以下の結果が得られる。なお、前述のように時刻T2において過去の境界内移動演算となる境界内移動演算Enter(T1,T2)と過去の境界外移動演算となる境界外移動演算Leave(T1,T2)の演算結果が何れも偽であったため、過去の内外判定演算ST1は更新されず、情報エリアA1については真(ST2=1)であり、情報エリアA2については偽(ST2=0)であるものとする。
【0042】
まず、情報エリアA1については、以下の演算結果が得られる。
Enter(T2,T3)=round(p(T3),λ)(1−round(p(T2),λ))=round(0,0.9544)(1−round(0.8,0.9544))=0
Leave(T2,T3)=round(p(T2),μ)(1−round(p(T3),μ))=round(0.8,0.5)(1−round(0,0.5))=1
T2=1
T3=(1−Leave(T2,T3))ST2(1−Enter(T2,T3))+Enter(T2,T3)=0
【0043】
また、情報エリアA2については、以下の演算結果が得られる。
Enter(T2,T3)=round(p(T3),λ)(1−round(p(T2),λ))=round(1,0.9544)(1−round(0.9,0.9544))=1
Leave(T2,T3)=round(p(T2),μ)(1−round(p(T3),μ))=round(0.9,0.5)(1−round(1,0.5))=0
T2=0
T3=(1−Leave(T1,T2))ST2(1−Enter(T1,T2))+Enter(T1,T2)=1
【0044】
また、第一,第二の集合C1,C2については以下の演算結果が得られる。
C1={A1}
C2={A2}
【0045】
さらに算出された第一,第二の集合C1,C2に基づいてステップS8における第一,第二の補集合C5,C6の算出を行うと以下の結果が得られる。
C5=C2\C1={A2}\{A1}={A2}
C6=C1\C2={A1}\{A2}={A1}
【0046】
さらに算出された第一,第二の補集合C5,C6に基づいてステップS8の進入/退出判定を行う。この場合、第一の補集合C5の要素となる情報エリアA2に対して車両10が進入したと判定され、第二の補集合C6の要素となる情報エリアA1に対して車両10が退出したと判定される。測位位置P3は情報エリアA1内に位置する存在確率p(T3)が境界外への移動を判定する第二の閾値μの値よりも小さい、すなわち、実際に車両が情報エリアA1外に位置する確率が十分に高く、また、情報エリアA2内に位置する存在確率p(T3)が第一の閾値λより小さい、すなわち、実際に車両10が情報エリアA2内に位置する確率が十分に高いため、それぞれ退出あるいは進入が判定されている。したがって、制御手段4は、上述した判定処理を行うことによって測位誤差によって実際とは異なる判定結果が生じることを抑制し、精度よく進入/退出判定を行うことが可能となっている。
【0047】
以上の処理を実行することによって、情報提供装置は、複数の情報エリアが重なり合う場合であっても前記情報エリアに対する進入及び退出を判定することができ、情報エリアの設定の自由度を向上させることができるとともに、補集合の演算によってかかるエリア判定を行うことによって、管理テーブルを複数用意する等のプログラムの複雑化を抑制でき、より簡素な方法でエリア判定を実施することが可能となる。
【0048】
なお、本実施形態においては移動体は車両であったが、本発明における移動体は車両に限定されず、人や船舶等であってもよい。また、本実施形態は本発明を情報提供装置に適用したものであったが、本発明は、移動体が所定のエリアに進入したあるいは前記エリアから退出したことを判定するエリア判定装置に広く適用可能であり、進入あるいは退出に応じてナビゲーション装置等の制御を行うものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態における情報提供装置の全体構成を示す図である。
【図2】同上情報提供装置のエリア判定方法を説明するための図である。
【図3】同上情報提供装置における情報エリアを説明するための図である。
【図4】同上情報提供装置における複数の情報エリアを説明するための図である。
【図5】同上情報提供装置における存在確率の例を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
A 情報提供装置
1 通信手段
2 GPS受信部
3 操作手段
4 制御手段
4a 記録手段
5 報知手段
5a 表示部
5b スピーカ
6 サーバ
7 パソコン
8 携帯電話機
10 車両
A,A1,A2 情報エリア
M1〜M5 サンプル点
P1〜P3 測位位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定範囲に設定される複数のエリアに対する移動体の進入あるいは退出を判定するエリア判定装置であって、
所定時間毎に検出される測位位置に基づいて所定時刻において前記移動体が前記各エリア内に位置する確率を示す存在確率を算出し、
現在の時刻における存在確率が第一の閾値以上であり、かつ過去の時刻における存在確率が前記第一の閾値より小さい場合に真となる境界内移動演算を前記各エリアについて実行し、
前記現在の時刻における存在確率が第二の閾値より小さく、かつ前記過去の時刻における存在確率が前記第二の閾値以上である場合に真となる境界外移動演算を前記各エリアについて実行し、
過去の境界内移動演算の結果が真である場合に真となり、過去の境界外移動演算の結果が真である場合に偽となる過去の内外判定演算を前記各エリアについて実行して前記過去の内外判定演算が真となるエリアを要素とする第一の集合を算出し、
前記境界内移動演算の結果が真である場合に真となり、前記境界外移動演算の結果が真である場合に偽となり、前記境界内移動演算及び前記境界外移動演算の結果が偽である場合は前記過去の内外判定演算の結果と同等の結果となる現在の内外判定演算を前記各エリアについて実行して前記現在の内外判定演算が真となるエリアを要素とする第二の集合を算出し、
前記第二の集合を全集合とする前記第一の集合の補集合に属する要素となるエリアに対して前記移動体が進入したと判定し、前記第一の集合を全集合とする前記第二の集合の補集合に属する要素となるエリアに対して前記移動体が退出したと判定する制御手段を備えてなることを特徴とするエリア判定装置。
【請求項2】
前記第二の閾値は、前記第一の閾値よりも小さい値に設定されてなることを特徴とする請求項1に記載のエリア判定装置。
【請求項3】
所定範囲に設定される複数のエリアに対する移動体の進入あるいは退出を判定するエリア判定装置の判定方法であって、
所定時間毎に検出される測位位置に基づいて所定時刻において前記移動体が前記各エリア内に位置する確率を示す存在確率を算出し、
現在の時刻における存在確率が第一の閾値以上であり、かつ過去の時刻における存在確率が前記第一の閾値より小さい場合に真となる境界内移動演算を前記各エリアについて実行し、
前記現在の時刻における存在確率が第二の閾値より小さく、かつ前記過去の時刻における存在確率が前記第二の閾値以上である場合に真となる境界外移動演算を前記各エリアについて実行し、
過去の境界内移動演算の結果が真である場合に真となり、過去の境界外移動演算の結果が真である場合に偽となる過去の内外判定演算を前記各エリアについて実行して前記過去の内外判定演算が真となるエリアを要素とする第一の集合を算出し、
前記境界内移動演算の結果が真である場合に真となり、前記境界外移動演算の結果が真である場合に偽となり、前記境界内移動演算及び前記境界外移動演算の結果が偽である場合は前記過去の内外判定演算の結果と同等の結果となる現在の内外判定演算を前記各エリアについて実行して前記現在の内外判定演算が真となるエリアを要素とする第二の集合を算出し、
前記第二の集合を全集合とする前記第一の集合の補集合に属する要素となるエリアに対して前記移動体が進入したと判定し、前記第一の集合を全集合とする前記第二の集合の補集合に属する要素となるエリアに対して前記移動体が退出したと判定することを特徴とするエリア判定装置の判定方法。
【請求項4】
前記第二の閾値は、前記第一の閾値よりも小さい値に設定されてなることを特徴とする請求項1に記載のエリア判定装置の判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−8696(P2008−8696A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177550(P2006−177550)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】