エンジンのシリンダライナおよびその製造方法、エンジンのシリンダブロック
【課題】鋳包まれたシリンダライナとシリンダブロックとの界面での隙間の発生を防止してシリンダライナの変形を抑えるとともに、硬質メッキの密着性を向上させ、かつ充分良好な加工性が得られるエンジンのシリンダライナを提供する。
【解決手段】7〜12mass%のSiを含むエンジンのシリンダブロック2で鋳包まれるシリンダライナ4である。このシリンダライナ4は、組成が20〜30mass%のSi,0.05〜2.0mass%のCu,0.1〜1.5mass%のMg,0.04〜0.35mass%のCr及び2.0mass%以下のFeを含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金である。また、このシリンダライナ4は、前記組成の急冷凝固粉末を焼結固化後、熱間押出し法により形成され、前記急冷凝固粉末の初晶Si粒子の大きさが最大20μm以下、平均5μm以下であるとともに、熱膨張係数がシリンダブロック2の熱膨張係数の90%以下のものである。
【解決手段】7〜12mass%のSiを含むエンジンのシリンダブロック2で鋳包まれるシリンダライナ4である。このシリンダライナ4は、組成が20〜30mass%のSi,0.05〜2.0mass%のCu,0.1〜1.5mass%のMg,0.04〜0.35mass%のCr及び2.0mass%以下のFeを含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金である。また、このシリンダライナ4は、前記組成の急冷凝固粉末を焼結固化後、熱間押出し法により形成され、前記急冷凝固粉末の初晶Si粒子の大きさが最大20μm以下、平均5μm以下であるとともに、熱膨張係数がシリンダブロック2の熱膨張係数の90%以下のものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳包み構造のエンジンのシリンダライナおよびその製造方法、前記シリンダライナを有するエンジンのシリンダブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン軽量化のためにアルミニウム合金の鋳造体でシリンダブロックを形成し、シリンダボアに耐磨耗性の高いシリンダライナを鋳包み、このシリンダライナの内面に硬質メッキを施したエンジンが用いられている。
【0003】
従来の鋳包み構造のシリンダライナは、アルミニウム合金のダイカスト成形体からなるシリンダブロックに、アルミニウム合金からなる円筒状のシリンダライナを鋳包み、ピストン摺動面に硬質メッキを施したものである。このシリンダライナの母材としては、Si:9-10.5,Fe:0.3,Cu:2.5-3.5,Mg:0.5-0.8,Mn:0.3,Cr:0.2,Zn:0.2,Al:bal.のような組成の溶製押出し材に溶体化時効硬化処理(T6処理など)を施した材料が使用されていた。この場合、熱処理を施す関係上シリンダライナとシリンダブロックの熱膨張係数はなるべく近いものが好ましいと考えられ、シリンダライナの材料選定に関し、シリンダブロックの熱膨張係数に近づくように組成を選んでいた。
【0004】
従来のシリンダライナの化学組成は、Si:10%,Fe:0.3%,Cu:3%,Mg:0.8%,Mn:0.3%,Cr:0.2%,Zn:0.2%,Alおよび不可避的不純物:残部(数値はすべてmass%)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のシリンダライナの材料では、図14に示すように、シリンダライナ10とこれを鋳包むシリンダブロック11との間の接合境界面の一部が剥離したり隙間12を生じることがあった。この原因として、以下のことが考えられる。
【0006】
従来のシリンダライナの材料は、その熱膨張係数が鋳包み材であるアルミニウムダイカスト合金の熱膨張係数とほぼ等しいものであった。そのため、鋳包み工程の冷却過程で、アルミニウムダイカストのシリンダブロック側は凝固収縮(液固変態)と熱収縮により、シリンダライナとの接触界面は内面側へ移動しようとするのに対し、シリンダライナは溶湯からの熱伝導により一旦膨張し、高温でのアルミニウムダイカストの締付けにより降伏して界面が内面側に移動したのち、冷却収縮する。このため常温に戻ったときには、シリンダライナの外表面は鋳包み前の表面位置より内面側に移動している。この移動量が、アルミニウムダイカストの収縮量を上回った場合に、界面に隙間が生じることになる。なお、ここでは、界面に接合力が作用していないと仮定している。界面の接合力が十分大きければ、隙間は生じないでその分の歪が内部応力として材料内に蓄積される。
【0007】
上記のような剥離あるいは隙間12が生じると、鋳包み後のシリンダライナ10の内面加工において、隙間の有無によりシリンダライナを背面から支持するバックアップ力がばらついてシリンダライナの撓み剛性が部分的に異なってくる。これにより、加工の押圧力で隙間部が凹み、内径研削による真円度や円筒度が所定の公差内に入らなくなる。このため、円滑なピストン摺動動作が損なわれるおそれを生じる。
【0008】
さらに、部分的な隙間の存在により、熱伝導が不均一になり、エンジン運転中に、シリンダの内面形状が不均一に熱変形して、オイル消費量の増大やエンジン性能および耐久性の低下を来たす原因となっていた。
【0009】
一方、シリンダライナは鋳包み工程の前に単体でT6処理等による表面硬化処理が施される。この単体での表面硬化処理後に鋳包み工程での熱処理が施されるため、この後工程の熱処理による焼き鈍し作用でシリンダライナ表面硬度が低下する。このような硬度低下を補うために、高温での強度を高めるFe(鉄)やCu(銅)等の硬度増強のための元素が添加される。
【0010】
しかしながら、このような強度を高める添加元素であるFeやCuは、シリンダライナ表面の硬質メッキの密着性を低下させる。したがって、T6処理等による表面硬化状態を維持するためにFeやCuを多く添加すると、硬質メッキが剥がれやすくなって加工中あるいはエンジン運転中にメッキ剥離を起こし、ピストン動作やエンジン性能に悪影響を及ぼすおそれを生じる。このような問題は、製造プロセスの簡素化のためにT6処理を省略してFe等の硬度増強元素を添加する場合にも同様に生じる。
【0011】
また、シリンダライナを形成する場合、FeやCu等の添加元素により強度を高めた場合に、密着性の低下を防止するとともに、被削性等の加工性を高め、かつ十分良好な押出し成形性を維持することが必要である。
【0012】
一方、シリンダライナの内面にメッキを施すことなく、切削加工により摺動面を形成したエンジンのシリンダライナが特許第2932248号公報に記載されている。このように摺動面を切削加工により形成すれば、メッキ剥れの問題は生じない。この公報記載の特許に係るシリンダライナは、3.0〜4.5mass%のCuを含むAl−Si合金により形成されている。また、Feについては、最大0.25mass%の合金または1.0〜1.4mass%の合金を択一的に用いている。
【0013】
しかしながら、上記特許公報記載のシリンダライナでは、CuおよびFeの含有量のバランスから、押出し性が低下し生産性を充分に高めることができず、また鋳込み時に硬度低下のおそれがある。
【0014】
本発明は上記従来技術を考慮したものであって、鋳包まれたシリンダライナとシリンダブロックとの界面での隙間の発生を防止してシリンダライナの変形を抑えるとともに、硬質メッキを施した場合にはその密着性を向上させかつ充分良好な加工性が得られるとともに、切削加工摺動面とする場合においても充分良好な押出し性と硬度を備えたエンジンのシリンダライナおよびその製造方法、上記シリンダライナを有するエンジンのシリンダブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、本発明に係るエンジンのシリンダライナは、7〜12mass%のSiを含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金からなるエンジンのシリンダブロックで鋳包まれるシリンダライナであって、組成が20〜30mass%のSi,0.05〜2.0mass%のCu,0.1〜1.5mass%のMg,0.04〜0.35mass%のCr及び2.0mass%以下のFeを含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金であり、前記組成の急冷凝固粉末を焼結固化後、熱間押出し法により形成され、前記急冷凝固粉末の初晶Si粒子の大きさが最大20μm以下、平均5μm以下であるとともに、熱膨張係数が前記シリンダブロックの熱膨張係数の90%以下であることを特徴とするものである。
【0016】
この構成によれば、シリンダライナの熱膨張係数をシリンダブロックの熱膨張係数より10%以上小さくすることにより、アルミニウムダイカストの鋳造体からなるシリンダブロックとこれに鋳包まれたシリンダライナとの間の界面での隙間の発生が防止される。このことは実験的に確認されている。
【0017】
また、この構成によれば、例えばADC10〜12(Si含有量:7〜12mass%)をシリンダブロック材料として用いて、シリンダライナの材料がSiを20〜30mass%を含むアルミニウム合金であることにより、シリンダブロックに対するシリンダライナの熱膨張係数の比率を約90%以下にすることができ、これにより界面での隙間の発生を防止することができる。
さらに、シリンダライナ材料のCu含有量を0.05〜2.0mass%としているから、充分な硬度を維持するとともに、良好な押出し加工性を得ることができる。
【0018】
さらにまた、この構成によれば、Mg,Cr及びFeを所定量含ませることにより適正な強度及び硬度が得られる。特に、Feを充分添加することにより、高温強度を向上させることができるとともに、Fe添加量を2.0mass%以下とすることによりメッキの密着性が良好に維持される。また、含有量がMg:1.5%,Cr:0.35%をそれぞれ越えると加工性や靭性が低下する。
【0019】
請求項2に記載したエンジンのシリンダライナの製造方法は、請求項1記載のエンジンのシリンダライナを得るための製造方法であって、初晶Si粒子の大きさが最大20μm以下、平均5μm以下である急冷凝固粉末を作製するステップと、前記急冷凝固粉末からビレットを成形するステップと、前記ビレットから押出し成形および切断加工により円筒状シリンダライナを形成するステップと、前記シリンダライナを熱処理により表面硬化させるステップと、を有することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、急冷凝固粉末を用いて、これを燒結固化後、熱間押出し法により中空円筒状のシリンダライナを形成することにより、初晶Si粒子の大きさを最大でも20μm以下、平均でほぼ5μm以下とすることができる。このような微細な初晶Si粒により、被削性およびメッキの密着性が向上する。
【0021】
請求項3に記載した発明に係るエンジンのシリンダブロックは、請求項1記載のエンジンのシリンダライナを、熱処理により表面硬化させた後、7〜12mass%のSiを含みかつ残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金で鋳包むことにより形成されているものである。
【0022】
請求項4に記載した発明に係るエンジンのシリンダブロックは、請求項3記載のエンジンのシリンダブロックにおいて、前記シリンダライナを鋳包むアルミニウム合金は、さらに1〜4mass%のCuを含んでいるものである。
【0023】
この構成によれば、シリンダブロックが前述のように7〜12mass%のSiを含むとともに1〜4mass%のCuを含んでいるため、シリンダブロックの加工性を良好に保つとともに充分な強度が得られる。Cuが1mass%未満では強度が不足するおそれが生じ、4mass%を越えると加工性が低下するおそれが生じる。
【0024】
請求項5に記載した発明に係るエンジンのシリンダブロックは、請求項3または請求項4記載のエンジンのシリンダブロックにおいて、前記シリンダライナの内面に切削加工によるピストンとの摺動面が形成されているものである。
【0025】
この構成によれば、切削加工によりシリンダライナの内面にピストン摺動面を形成する場合に、初晶Siが露出するから、摺動面の耐磨耗性を確保するとともに、ピストン表面およびピストンリングに対する磨耗作用の少ない摺動面を得ることができる。
【0026】
請求項6に記載した発明に係るエンジンのシリンダブロックは、請求項5記載のエンジンのシリンダブロックにおいて、ピストンとの摺動面が形成された前記シリンダライナの内面に、さらにSiCを含むNi−Pメッキが施されているものである。
この構成によれば、シリンダライナ内面に、SiCを含むNi−Pメッキによる硬質メッキが、密着性を良好に維持して剥離することなく形成され、ピストンの円滑な摺動動作が得られる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明では、シリンダライナの熱膨張係数をシリンダブロックの熱膨張係数より10%以上小さくすることにより、アルミニウムダイカストの鋳造体からなるシリンダブロックとこれに鋳包まれたシリンダライナとの間の界面での隙間の発生が防止される。これにより、加工時の変形が防止されシリンダライナの真円度や円筒度が向上する。要約すれば以下の通りである。
【0028】
1.シリンダ加工精度の向上:鋳包まれたシリンダライナとシリンダブロックとの界面での隙間の発生を防止して、シリンダライナ内面の切削加工時の押圧力が作用したとしても、シリンダライナの変形を抑えることができる。これにより、シリンダライナがシリンダブロックと良好に密着一体化されるため、シリンダライナの剛性が高まり、加工精度が向上して歩留まりが高まり加工不良率を低減させて生産性を高めることができる。
【0029】
2.シリンダ締付け変形の低減:シリンダライナがシリンダブロックと密着一体化されるため、締付け時の多次変形、特に4次成分が減少する(図10:シリンダ締付け時の本発明材ライナと従来材ライナの変形比較参照)。この結果、ピストンリングの追従性やシール性が向上し、オイル消費量が大幅に低減する。
【0030】
3.熱伝導性の向上:シリンダライナの密着性を向上させたことで、燃焼室からの熱伝達を確実に行うことができ、不均一な変形や局部的な温度上昇による焼付きなどが防止される。また、シリンダライナの材料成分のFeの含有量を制限することにより、熱伝導度を高い水準に維持できる(図11:6061-25SiにおけるFe量と熱伝導率の関係参照)。
【0031】
4.軽量化:従来に比べ、比重が約6%小さい材料を使えるため、そのままの比率での軽量化が可能になる。
【0032】
5.シリンダ剛性の向上:従来に比べ、シリンダライナのヤング率が約9%高い材料を使えるため、加工時やエンジン駆動時の変形が抑制される。さらに、強度低下を来たすことなく、Cuの含有量を小さくして押出性を高め生産性を向上させることができる。また、Feの含有量を適正に調整して鋳込み時の硬度低下を抑え安定した研削加工により摺動面を形成することができる。
【0033】
また、研削加工により摺動面を形成する場合、研削表面にSiの一次結晶およびFe,Al,Siの金属間化合物が露出させることにより、研削加工による摺動面の耐磨耗性を充分確保するとともに、ピストン表面およびピストンリングに対する磨耗作用の少ない摺動面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る鋳包みシリンダライナの構成図。
【図2】シリンダライナの熱膨張係数と隙間量の関係を示すグラフ。
【図3】Al合金におけるSi含有量と熱膨張係数の関係を示すグラフ。
【図4】実機エンジンにおける隙間量の従来材と本発明材を比較した図。
【図5】本発明のシリンダライナ製造方法のフローチャート。
【図6】溶製材と急冷凝固粉末による初晶Si粒子を比較した写真。
【図7】メッキ密着性と初晶Si粒径の関係を示すグラフ。
【図8】素材中のCu含有量と押出し性の関係を示すグラフ。
【図9】Fe含有量とメッキ皮膜の密着性の関係を示すグラフ。
【図10】シリンダ締付け時の変形に及ぼすライナ材変形の効果を示す図。
【図11】6061-25SiにおけるFe含有量と熱伝導率の関係を示すグラフ。
【図12】熱処理による硬度変化のグラフ。
【図13】本発明による開発材の研削加工表面の顕微鏡写真。
【図14】従来のシリンダライナにおける隙間発生を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明に係るシリンダライナが鋳包まれたシリンダブロックの平面図である。
【0036】
多気筒エンジン1のシリンダブロック2の各気筒にピストン(不図示)が摺動するシリンダボア3が形成され、各シリンダボア3にシリンダライナ4が鋳包んで形成される。5はシリンダヘッド(不図示)と結合するためのボルトであり、6は冷却ジャケットである。シリンダライナ4の内面(ピストン摺動面)には硬質メッキ皮膜7が形成される。
【0037】
本発明では、以下に説明するように、シリンダライナ4とこれを鋳包むシリンダブロック2の鋳包み部2aとの間の界面8に隙間が発生せず良好に密着接合している。また、メッキ皮膜7はシリンダライナ4の内面に確実に密着し剥離等は生じない。
【0038】
図2は、シリンダライナの熱膨張係数とこれを鋳包み形成したときの隙間量の関係を示す実験結果のグラフである。実験は、鋳包み側の材料としてアルミニウムダイカスト合金(ADC:熱膨張係数20×10-6/℃) を用い、これに鋳包まれるシリンダライナの材料としてSiを含むアルミニウム合金を用いて、そのSi含有量を変えることにより、シリンダライナの熱膨張係数を変えて行った。縦軸は隙間量(μm)であり、横軸下辺はシリンダライナの熱膨張係数、上辺はADCに対するシリンダライナの熱膨張係数の比率を示す。
【0039】
グラフから分かるように、隙間量はシリンダライナの熱膨張係数が小さい程小さくなり、シリンダライナの熱膨張係数がアルミニウムダイカストの熱膨張係数の90%以下では、加工変形を起すおそれが殆どない程度に小さくなり、80%以下では隙間量がほぼゼロになる。
【0040】
図3は、アルミニウム合金におけるSi含有量と熱膨張係数の関係を示すグラフである。グラフから分かるように、Si量が増える程、熱膨張係数はほぼリニアに低くなる。このグラフと図2の隙間量のグラフとの関係から、アルミニウムダイカスト合金のSi含有量に対しシリンダライナのSi含有量を調整する(Si含有量を多くする)ことにより、隙間量をゼロにできることが分かる。
【0041】
図4は、実機エンジンにおけるシリンダライナを従来材Aと本発明材Bとで構成したときの隙間量を比較した図である。
【0042】
従来材Aの組成は、Si:10%,Fe:0.3%,Cu:3%,Mg:0.8%,Mn:0.3%,Cr:0.2%,Zn:0.2%,Alおよび不可避的不純物:残部(数値はすべてmass%)である。
【0043】
本発明材Bの組成は、
(i)Si:20-30%,Cu:0.05-2.0%(ただし、Cuはメッキ材や他の組成材あるいはメッキ条件等によりメッキの密着性に実用上影響を与えなければ0.2%程度あるいは0.2-2.0%程度が好ましい、Cuを多くすれば硬度・強度が高まる),Fe:2.0%以下,Alおよび不可避的不純物:残部
(ii)Mg:0.1-1.5%を含む上記(i)の素材
(iii)Cr:0.04-0.35%を含む上記(ii)の素材
(iv)Mn:0.1-4%を含む上記(iii)の素材
(v)Ni:1-4%を含む上記(iv)の合金である。
【0044】
ここで、Siは熱膨張係数を調整するため及び耐磨耗性向上のための元素であり、Cu,MgおよびMnは強度および硬度調整用の元素である。Feは一般に高温強度を向上させるが、ここでは不純物元素としてメッキ皮膜の密着性を確保するための含有量の上限を定めたものである。また、Crは靭性の調整用添加元素である。
【0045】
この図4から分かるように、ADC10で鋳包まれるシリンダライナの材料を従来材Aから本発明材Bに代えることにより、隙間量を55〜100μmからほぼゼロにすることができた。
【0046】
実験において、ADC10〜12(Si含有量:7〜12mass%)のアルミニウムダイカスト合金を鋳包み材とし、これによって鋳包まれるシリンダライナの材料として、組成が(Si:20-30%,Cu:0.05-2.0%,Fe:2.0%以下,Alおよび不可避的不純物:残部)となる材料を急冷凝固粉末化し、これを成形固化して用いた。このような材料を用いることにより、アルミニウムダイカスト合金に対するシリンダライナの熱膨張係数の比率がほぼ90%以下になり、隙間が生じることを防止できた。
【0047】
図5は、メッキ処理を行なう場合の本発明の実施形態に係るシリンダライナの製造プロセスを示すフローチャートである。
ステップS1:前述のシリンダライナの材料を用いて急冷凝固粉末を作製する。この急冷凝固粉末とは、毎秒10の2乗K(絶対温度)以上の冷却速度で冷却した急冷固体をいう。このステップS1では、材料成分を調整して溶解し、これをエアアトマイズ法により粉体化して回収、選別、検査を行なう。
【0048】
ステップS2:ビレットを成形する。ここでは、まず粉末の組成や粒度を検査し、これをゴム型に充填し、冷間静水圧加圧を行った後、真空燒結して所定形状のビレットを作製する。このような急冷凝固粉末を燒結固化することにより、初晶Si粒子の大きさが最大でも20μm以下にすることができる。このような微細な初晶Si粒子は、通常の溶製材(鋳造材)では得られない(図6:光学顕微鏡による急冷凝固粉末固化材と溶製材の微細組織写真参照)。Si含有量が同じであれば、初晶Si粒子が微細になればなるほど、被削性およびメッキの密着性が向上する(図7:メッキ密着性と初晶Si平均粒子径の関係参照)。例えば、6000系合金の基本組成に15〜35%のSiを添加した材料において、Si粒径を20μm以下とすることで、良好なメッキ密着性が得られる。
【0049】
ステップS3:ビレットを加熱軟化させて押出し成形により連続した中空円筒状の管体を形成する。このとき加熱温度は425〜520℃である。この管体を切断してシリンダライナの素材を形成する。ここで、シリンダライナの合金成分のうちCuの含有量を2%以下にすることにより、良好な押出し加工性が得られる(図8:Cu含有量と押出し性の関係参照)。また、Cuを低く抑えることにより、固相線を高く保つことができ、テアリングの発生を防止する効果もある。
【0050】
ステップS4:T6処理による表面硬化処理を施す。このT6処理は、まず加熱溶体化し(加熱温度545℃)、これを水焼入れする。その後一旦180℃で時効処理してから自然空冷させる。なお、材料によっては、180℃の時効処理を行わないT4処理を施してもよい。
【0051】
ステップS5:電気伝導度の検査を行なう。
ステップS6:シリンダライナの端面や内面を平滑に加工処理し、必要に応じて外面を加工処理する。
【0052】
ステップS7:シリンダブロックの金型にシリンダライナを装着してアルミニウムダイカスト合金により鋳包み成形加工を行う。このとき溶湯による熱処理を伴うが、前述のように、FeやCu等の適度な強度向上用の元素が添加されているため、硬度は低下しない。
【0053】
ステップS8:シリンダライナの内面に機械研削加工を施して平滑化する。
ステップS9:酸による洗浄後アルカリ脱脂を行い、下地処理としてアルマイト皮膜を形成し、Ni−P−SiCの分散メッキ処理を施す。この場合、シリンダライナ合金のFeの含有量を2%以下とすることで、良好なメッキ密着性が得られる(図9:Fe含有量とメッキ密着性の関係参照)。
【0054】
ステップS10:シリンダライナの内面をホーニング加工により精密な寸法公差に仕上げる。このメッキ皮膜の硬度、被削性およびホーニング性については、以下の表1に示すように、充分良好な実験結果が得られた。
【0055】
【表1】
【0056】
次に本発明によるシリンダライナの機械的性質について説明する。本発明材料として、25%Si,0.7%Fe,0.25%Cu,0.7%Mg,0.2%Crを添加したアルミニウム合金製シリンダライナ用材料のT6材について、その機械的性質は前述の表1に示されている。
【0057】
アルミニウム合金は、T6処理を施さなければ、マトリクスの硬度が充分に高くないため使用上支障を来たす場合がある。また、たとえシリンダライナ素材形状の単体状態でT6処理を施しても、その後の鋳包み工程において、再度溶体化された状態に近い状態になり、以下の表2に示すように、充分な硬度・強度が得られなくなる。
【0058】
【表2】
【0059】
この問題に対する対策として、Cu,Fe,Ni,Mnなどを添加することが有効である。これらの添加元素は、固溶強化によってマトリクスの硬度を底上げする効果がある。このため、T6処理後の鋳包み工程を経た後も十分な硬度・強度を維持することができるばかりでなく、T6処理そのものを省略することも可能である。熱処理を省略すれば、単に熱処理コストを低減できるばかりでなく、熱処理に伴う歪や矯正の廃止、不均一性の解消が図れることになり、品質の向上をも同時に実現できる。
【0060】
しかし、実験結果より、Feの添加は、以下の表3に示すように、メッキの密着性を損なうことが判明した。これは、メッキの下地処理として行っているアルマイト皮膜形成の過程で、母材へのFe添加の影響が現れていることが考えられる。
【0061】
【表3】
【0062】
本実施形態では、このFe含有量を2mass%以下、あるいは無添加とすることにより、メッキの密着性を良好に維持している。
【0063】
次に、本発明のシリンダライナの物理的性質について説明する。本発明のシリンダライナを構成する6061−25Siは、前述の表1に示したように、従来のシリンダライナの材料に比べ、密度は−6%、ヤング率は+9%、熱伝導度は−22%となっている。密度が小さいことで軽量化が図られる。ヤング率が高いことは、剛性を向上させ変形に対し有利に作用する。また、熱伝導度が低下しているが、エンジン性能に影響を及ぼさないことが実機での温度測定により確認されている。
【0064】
本発明は、ピストン摺動面にメッキ処理を施すシリンダライナだけでなく、ピストン摺動面を切削加工により形成しメッキ層を設けないシリンダライナに対しても適用可能である。
【0065】
これは、本発明のシリンダライナ合金の押出し性が良好で熱処理による硬度変化が小さく、加工性が優れているため、切削加工により充分円滑な摺動面が得られるとともに、加工により表面に後述のように初晶SiやFe,Al,Siの金属間化合物が露出するためである。
【0066】
押出し性についてみれば、日本金属学会会報第21巻第1号(1982)P11〜P18「アルミニウム合金の押出加工性とそれを支配する因子」時沢貢によれば、その表2に各種アルミニウム合金の相対押出性が記載されている。この表によれば、従来材のベース合金となる合金2014および合金2024の押出性がそれぞれ20および15であるのに対し、本発明の開発材のベース合金となる合金6061の押出性は60であり、従来材に比べ良好な押出性が得られ生産性を高めることができる。この原因の1つとして、本発明の開発材のCu含有量が、従来材(例えば前述の特許第2932248の組成)に比べ少ないので押出し性が向上すると考えられる。
【0067】
熱処理による硬度変化についてみれば、図12に示すように、焼鈍しによる本発明の開発材の硬度変化aは、従来材の硬度変化bに比べ小さい。また、硬度値自体も従来材に比べ向上している。なお、焼鈍しは、鋳包みを想定した熱処理である。このように、硬度変化が抑えられることにより、充分な硬度を維持して安定した加工ができる。
【0068】
図13は、シリンダライナのピストン摺動面を研削加工により形成した場合の研削表面の光学顕微鏡による微細組織写真である。写真に示されるように、研削表面にSiの一次結晶およびFe,Al,Siの金属間化合物が露出している。これにより、研削加工による摺動面の耐磨耗性を充分確保するとともに、ピストン表面およびピストンリングに対する磨耗作用の少ない摺動面を得ることができる。
【0069】
なお、従来材と本発明の開発材の磨耗量の比較のために、従来材の試験プレートと開発材の試験プレートの各々に対し、SKD11からなるピンを擦りつけて磨耗量を測定する摩耗試験を行ったところ、従来材は約5.5μm摩耗したのに対し本発明の開発材の摩耗量は約4μmであり、本発明の開発材は耐摩耗性に優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0070】
1:エンジン、2:シリンダブロック、2a:鋳包み部、3:シリンダボア、4:シリンダライナ、5:ボルト、6:冷却ジャケット、7:硬質メッキ皮膜、8:界面、10:シリンダライナ、11:シリンダブロック、12:隙間。
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳包み構造のエンジンのシリンダライナおよびその製造方法、前記シリンダライナを有するエンジンのシリンダブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン軽量化のためにアルミニウム合金の鋳造体でシリンダブロックを形成し、シリンダボアに耐磨耗性の高いシリンダライナを鋳包み、このシリンダライナの内面に硬質メッキを施したエンジンが用いられている。
【0003】
従来の鋳包み構造のシリンダライナは、アルミニウム合金のダイカスト成形体からなるシリンダブロックに、アルミニウム合金からなる円筒状のシリンダライナを鋳包み、ピストン摺動面に硬質メッキを施したものである。このシリンダライナの母材としては、Si:9-10.5,Fe:0.3,Cu:2.5-3.5,Mg:0.5-0.8,Mn:0.3,Cr:0.2,Zn:0.2,Al:bal.のような組成の溶製押出し材に溶体化時効硬化処理(T6処理など)を施した材料が使用されていた。この場合、熱処理を施す関係上シリンダライナとシリンダブロックの熱膨張係数はなるべく近いものが好ましいと考えられ、シリンダライナの材料選定に関し、シリンダブロックの熱膨張係数に近づくように組成を選んでいた。
【0004】
従来のシリンダライナの化学組成は、Si:10%,Fe:0.3%,Cu:3%,Mg:0.8%,Mn:0.3%,Cr:0.2%,Zn:0.2%,Alおよび不可避的不純物:残部(数値はすべてmass%)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のシリンダライナの材料では、図14に示すように、シリンダライナ10とこれを鋳包むシリンダブロック11との間の接合境界面の一部が剥離したり隙間12を生じることがあった。この原因として、以下のことが考えられる。
【0006】
従来のシリンダライナの材料は、その熱膨張係数が鋳包み材であるアルミニウムダイカスト合金の熱膨張係数とほぼ等しいものであった。そのため、鋳包み工程の冷却過程で、アルミニウムダイカストのシリンダブロック側は凝固収縮(液固変態)と熱収縮により、シリンダライナとの接触界面は内面側へ移動しようとするのに対し、シリンダライナは溶湯からの熱伝導により一旦膨張し、高温でのアルミニウムダイカストの締付けにより降伏して界面が内面側に移動したのち、冷却収縮する。このため常温に戻ったときには、シリンダライナの外表面は鋳包み前の表面位置より内面側に移動している。この移動量が、アルミニウムダイカストの収縮量を上回った場合に、界面に隙間が生じることになる。なお、ここでは、界面に接合力が作用していないと仮定している。界面の接合力が十分大きければ、隙間は生じないでその分の歪が内部応力として材料内に蓄積される。
【0007】
上記のような剥離あるいは隙間12が生じると、鋳包み後のシリンダライナ10の内面加工において、隙間の有無によりシリンダライナを背面から支持するバックアップ力がばらついてシリンダライナの撓み剛性が部分的に異なってくる。これにより、加工の押圧力で隙間部が凹み、内径研削による真円度や円筒度が所定の公差内に入らなくなる。このため、円滑なピストン摺動動作が損なわれるおそれを生じる。
【0008】
さらに、部分的な隙間の存在により、熱伝導が不均一になり、エンジン運転中に、シリンダの内面形状が不均一に熱変形して、オイル消費量の増大やエンジン性能および耐久性の低下を来たす原因となっていた。
【0009】
一方、シリンダライナは鋳包み工程の前に単体でT6処理等による表面硬化処理が施される。この単体での表面硬化処理後に鋳包み工程での熱処理が施されるため、この後工程の熱処理による焼き鈍し作用でシリンダライナ表面硬度が低下する。このような硬度低下を補うために、高温での強度を高めるFe(鉄)やCu(銅)等の硬度増強のための元素が添加される。
【0010】
しかしながら、このような強度を高める添加元素であるFeやCuは、シリンダライナ表面の硬質メッキの密着性を低下させる。したがって、T6処理等による表面硬化状態を維持するためにFeやCuを多く添加すると、硬質メッキが剥がれやすくなって加工中あるいはエンジン運転中にメッキ剥離を起こし、ピストン動作やエンジン性能に悪影響を及ぼすおそれを生じる。このような問題は、製造プロセスの簡素化のためにT6処理を省略してFe等の硬度増強元素を添加する場合にも同様に生じる。
【0011】
また、シリンダライナを形成する場合、FeやCu等の添加元素により強度を高めた場合に、密着性の低下を防止するとともに、被削性等の加工性を高め、かつ十分良好な押出し成形性を維持することが必要である。
【0012】
一方、シリンダライナの内面にメッキを施すことなく、切削加工により摺動面を形成したエンジンのシリンダライナが特許第2932248号公報に記載されている。このように摺動面を切削加工により形成すれば、メッキ剥れの問題は生じない。この公報記載の特許に係るシリンダライナは、3.0〜4.5mass%のCuを含むAl−Si合金により形成されている。また、Feについては、最大0.25mass%の合金または1.0〜1.4mass%の合金を択一的に用いている。
【0013】
しかしながら、上記特許公報記載のシリンダライナでは、CuおよびFeの含有量のバランスから、押出し性が低下し生産性を充分に高めることができず、また鋳込み時に硬度低下のおそれがある。
【0014】
本発明は上記従来技術を考慮したものであって、鋳包まれたシリンダライナとシリンダブロックとの界面での隙間の発生を防止してシリンダライナの変形を抑えるとともに、硬質メッキを施した場合にはその密着性を向上させかつ充分良好な加工性が得られるとともに、切削加工摺動面とする場合においても充分良好な押出し性と硬度を備えたエンジンのシリンダライナおよびその製造方法、上記シリンダライナを有するエンジンのシリンダブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、本発明に係るエンジンのシリンダライナは、7〜12mass%のSiを含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金からなるエンジンのシリンダブロックで鋳包まれるシリンダライナであって、組成が20〜30mass%のSi,0.05〜2.0mass%のCu,0.1〜1.5mass%のMg,0.04〜0.35mass%のCr及び2.0mass%以下のFeを含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金であり、前記組成の急冷凝固粉末を焼結固化後、熱間押出し法により形成され、前記急冷凝固粉末の初晶Si粒子の大きさが最大20μm以下、平均5μm以下であるとともに、熱膨張係数が前記シリンダブロックの熱膨張係数の90%以下であることを特徴とするものである。
【0016】
この構成によれば、シリンダライナの熱膨張係数をシリンダブロックの熱膨張係数より10%以上小さくすることにより、アルミニウムダイカストの鋳造体からなるシリンダブロックとこれに鋳包まれたシリンダライナとの間の界面での隙間の発生が防止される。このことは実験的に確認されている。
【0017】
また、この構成によれば、例えばADC10〜12(Si含有量:7〜12mass%)をシリンダブロック材料として用いて、シリンダライナの材料がSiを20〜30mass%を含むアルミニウム合金であることにより、シリンダブロックに対するシリンダライナの熱膨張係数の比率を約90%以下にすることができ、これにより界面での隙間の発生を防止することができる。
さらに、シリンダライナ材料のCu含有量を0.05〜2.0mass%としているから、充分な硬度を維持するとともに、良好な押出し加工性を得ることができる。
【0018】
さらにまた、この構成によれば、Mg,Cr及びFeを所定量含ませることにより適正な強度及び硬度が得られる。特に、Feを充分添加することにより、高温強度を向上させることができるとともに、Fe添加量を2.0mass%以下とすることによりメッキの密着性が良好に維持される。また、含有量がMg:1.5%,Cr:0.35%をそれぞれ越えると加工性や靭性が低下する。
【0019】
請求項2に記載したエンジンのシリンダライナの製造方法は、請求項1記載のエンジンのシリンダライナを得るための製造方法であって、初晶Si粒子の大きさが最大20μm以下、平均5μm以下である急冷凝固粉末を作製するステップと、前記急冷凝固粉末からビレットを成形するステップと、前記ビレットから押出し成形および切断加工により円筒状シリンダライナを形成するステップと、前記シリンダライナを熱処理により表面硬化させるステップと、を有することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、急冷凝固粉末を用いて、これを燒結固化後、熱間押出し法により中空円筒状のシリンダライナを形成することにより、初晶Si粒子の大きさを最大でも20μm以下、平均でほぼ5μm以下とすることができる。このような微細な初晶Si粒により、被削性およびメッキの密着性が向上する。
【0021】
請求項3に記載した発明に係るエンジンのシリンダブロックは、請求項1記載のエンジンのシリンダライナを、熱処理により表面硬化させた後、7〜12mass%のSiを含みかつ残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金で鋳包むことにより形成されているものである。
【0022】
請求項4に記載した発明に係るエンジンのシリンダブロックは、請求項3記載のエンジンのシリンダブロックにおいて、前記シリンダライナを鋳包むアルミニウム合金は、さらに1〜4mass%のCuを含んでいるものである。
【0023】
この構成によれば、シリンダブロックが前述のように7〜12mass%のSiを含むとともに1〜4mass%のCuを含んでいるため、シリンダブロックの加工性を良好に保つとともに充分な強度が得られる。Cuが1mass%未満では強度が不足するおそれが生じ、4mass%を越えると加工性が低下するおそれが生じる。
【0024】
請求項5に記載した発明に係るエンジンのシリンダブロックは、請求項3または請求項4記載のエンジンのシリンダブロックにおいて、前記シリンダライナの内面に切削加工によるピストンとの摺動面が形成されているものである。
【0025】
この構成によれば、切削加工によりシリンダライナの内面にピストン摺動面を形成する場合に、初晶Siが露出するから、摺動面の耐磨耗性を確保するとともに、ピストン表面およびピストンリングに対する磨耗作用の少ない摺動面を得ることができる。
【0026】
請求項6に記載した発明に係るエンジンのシリンダブロックは、請求項5記載のエンジンのシリンダブロックにおいて、ピストンとの摺動面が形成された前記シリンダライナの内面に、さらにSiCを含むNi−Pメッキが施されているものである。
この構成によれば、シリンダライナ内面に、SiCを含むNi−Pメッキによる硬質メッキが、密着性を良好に維持して剥離することなく形成され、ピストンの円滑な摺動動作が得られる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明では、シリンダライナの熱膨張係数をシリンダブロックの熱膨張係数より10%以上小さくすることにより、アルミニウムダイカストの鋳造体からなるシリンダブロックとこれに鋳包まれたシリンダライナとの間の界面での隙間の発生が防止される。これにより、加工時の変形が防止されシリンダライナの真円度や円筒度が向上する。要約すれば以下の通りである。
【0028】
1.シリンダ加工精度の向上:鋳包まれたシリンダライナとシリンダブロックとの界面での隙間の発生を防止して、シリンダライナ内面の切削加工時の押圧力が作用したとしても、シリンダライナの変形を抑えることができる。これにより、シリンダライナがシリンダブロックと良好に密着一体化されるため、シリンダライナの剛性が高まり、加工精度が向上して歩留まりが高まり加工不良率を低減させて生産性を高めることができる。
【0029】
2.シリンダ締付け変形の低減:シリンダライナがシリンダブロックと密着一体化されるため、締付け時の多次変形、特に4次成分が減少する(図10:シリンダ締付け時の本発明材ライナと従来材ライナの変形比較参照)。この結果、ピストンリングの追従性やシール性が向上し、オイル消費量が大幅に低減する。
【0030】
3.熱伝導性の向上:シリンダライナの密着性を向上させたことで、燃焼室からの熱伝達を確実に行うことができ、不均一な変形や局部的な温度上昇による焼付きなどが防止される。また、シリンダライナの材料成分のFeの含有量を制限することにより、熱伝導度を高い水準に維持できる(図11:6061-25SiにおけるFe量と熱伝導率の関係参照)。
【0031】
4.軽量化:従来に比べ、比重が約6%小さい材料を使えるため、そのままの比率での軽量化が可能になる。
【0032】
5.シリンダ剛性の向上:従来に比べ、シリンダライナのヤング率が約9%高い材料を使えるため、加工時やエンジン駆動時の変形が抑制される。さらに、強度低下を来たすことなく、Cuの含有量を小さくして押出性を高め生産性を向上させることができる。また、Feの含有量を適正に調整して鋳込み時の硬度低下を抑え安定した研削加工により摺動面を形成することができる。
【0033】
また、研削加工により摺動面を形成する場合、研削表面にSiの一次結晶およびFe,Al,Siの金属間化合物が露出させることにより、研削加工による摺動面の耐磨耗性を充分確保するとともに、ピストン表面およびピストンリングに対する磨耗作用の少ない摺動面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る鋳包みシリンダライナの構成図。
【図2】シリンダライナの熱膨張係数と隙間量の関係を示すグラフ。
【図3】Al合金におけるSi含有量と熱膨張係数の関係を示すグラフ。
【図4】実機エンジンにおける隙間量の従来材と本発明材を比較した図。
【図5】本発明のシリンダライナ製造方法のフローチャート。
【図6】溶製材と急冷凝固粉末による初晶Si粒子を比較した写真。
【図7】メッキ密着性と初晶Si粒径の関係を示すグラフ。
【図8】素材中のCu含有量と押出し性の関係を示すグラフ。
【図9】Fe含有量とメッキ皮膜の密着性の関係を示すグラフ。
【図10】シリンダ締付け時の変形に及ぼすライナ材変形の効果を示す図。
【図11】6061-25SiにおけるFe含有量と熱伝導率の関係を示すグラフ。
【図12】熱処理による硬度変化のグラフ。
【図13】本発明による開発材の研削加工表面の顕微鏡写真。
【図14】従来のシリンダライナにおける隙間発生を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明に係るシリンダライナが鋳包まれたシリンダブロックの平面図である。
【0036】
多気筒エンジン1のシリンダブロック2の各気筒にピストン(不図示)が摺動するシリンダボア3が形成され、各シリンダボア3にシリンダライナ4が鋳包んで形成される。5はシリンダヘッド(不図示)と結合するためのボルトであり、6は冷却ジャケットである。シリンダライナ4の内面(ピストン摺動面)には硬質メッキ皮膜7が形成される。
【0037】
本発明では、以下に説明するように、シリンダライナ4とこれを鋳包むシリンダブロック2の鋳包み部2aとの間の界面8に隙間が発生せず良好に密着接合している。また、メッキ皮膜7はシリンダライナ4の内面に確実に密着し剥離等は生じない。
【0038】
図2は、シリンダライナの熱膨張係数とこれを鋳包み形成したときの隙間量の関係を示す実験結果のグラフである。実験は、鋳包み側の材料としてアルミニウムダイカスト合金(ADC:熱膨張係数20×10-6/℃) を用い、これに鋳包まれるシリンダライナの材料としてSiを含むアルミニウム合金を用いて、そのSi含有量を変えることにより、シリンダライナの熱膨張係数を変えて行った。縦軸は隙間量(μm)であり、横軸下辺はシリンダライナの熱膨張係数、上辺はADCに対するシリンダライナの熱膨張係数の比率を示す。
【0039】
グラフから分かるように、隙間量はシリンダライナの熱膨張係数が小さい程小さくなり、シリンダライナの熱膨張係数がアルミニウムダイカストの熱膨張係数の90%以下では、加工変形を起すおそれが殆どない程度に小さくなり、80%以下では隙間量がほぼゼロになる。
【0040】
図3は、アルミニウム合金におけるSi含有量と熱膨張係数の関係を示すグラフである。グラフから分かるように、Si量が増える程、熱膨張係数はほぼリニアに低くなる。このグラフと図2の隙間量のグラフとの関係から、アルミニウムダイカスト合金のSi含有量に対しシリンダライナのSi含有量を調整する(Si含有量を多くする)ことにより、隙間量をゼロにできることが分かる。
【0041】
図4は、実機エンジンにおけるシリンダライナを従来材Aと本発明材Bとで構成したときの隙間量を比較した図である。
【0042】
従来材Aの組成は、Si:10%,Fe:0.3%,Cu:3%,Mg:0.8%,Mn:0.3%,Cr:0.2%,Zn:0.2%,Alおよび不可避的不純物:残部(数値はすべてmass%)である。
【0043】
本発明材Bの組成は、
(i)Si:20-30%,Cu:0.05-2.0%(ただし、Cuはメッキ材や他の組成材あるいはメッキ条件等によりメッキの密着性に実用上影響を与えなければ0.2%程度あるいは0.2-2.0%程度が好ましい、Cuを多くすれば硬度・強度が高まる),Fe:2.0%以下,Alおよび不可避的不純物:残部
(ii)Mg:0.1-1.5%を含む上記(i)の素材
(iii)Cr:0.04-0.35%を含む上記(ii)の素材
(iv)Mn:0.1-4%を含む上記(iii)の素材
(v)Ni:1-4%を含む上記(iv)の合金である。
【0044】
ここで、Siは熱膨張係数を調整するため及び耐磨耗性向上のための元素であり、Cu,MgおよびMnは強度および硬度調整用の元素である。Feは一般に高温強度を向上させるが、ここでは不純物元素としてメッキ皮膜の密着性を確保するための含有量の上限を定めたものである。また、Crは靭性の調整用添加元素である。
【0045】
この図4から分かるように、ADC10で鋳包まれるシリンダライナの材料を従来材Aから本発明材Bに代えることにより、隙間量を55〜100μmからほぼゼロにすることができた。
【0046】
実験において、ADC10〜12(Si含有量:7〜12mass%)のアルミニウムダイカスト合金を鋳包み材とし、これによって鋳包まれるシリンダライナの材料として、組成が(Si:20-30%,Cu:0.05-2.0%,Fe:2.0%以下,Alおよび不可避的不純物:残部)となる材料を急冷凝固粉末化し、これを成形固化して用いた。このような材料を用いることにより、アルミニウムダイカスト合金に対するシリンダライナの熱膨張係数の比率がほぼ90%以下になり、隙間が生じることを防止できた。
【0047】
図5は、メッキ処理を行なう場合の本発明の実施形態に係るシリンダライナの製造プロセスを示すフローチャートである。
ステップS1:前述のシリンダライナの材料を用いて急冷凝固粉末を作製する。この急冷凝固粉末とは、毎秒10の2乗K(絶対温度)以上の冷却速度で冷却した急冷固体をいう。このステップS1では、材料成分を調整して溶解し、これをエアアトマイズ法により粉体化して回収、選別、検査を行なう。
【0048】
ステップS2:ビレットを成形する。ここでは、まず粉末の組成や粒度を検査し、これをゴム型に充填し、冷間静水圧加圧を行った後、真空燒結して所定形状のビレットを作製する。このような急冷凝固粉末を燒結固化することにより、初晶Si粒子の大きさが最大でも20μm以下にすることができる。このような微細な初晶Si粒子は、通常の溶製材(鋳造材)では得られない(図6:光学顕微鏡による急冷凝固粉末固化材と溶製材の微細組織写真参照)。Si含有量が同じであれば、初晶Si粒子が微細になればなるほど、被削性およびメッキの密着性が向上する(図7:メッキ密着性と初晶Si平均粒子径の関係参照)。例えば、6000系合金の基本組成に15〜35%のSiを添加した材料において、Si粒径を20μm以下とすることで、良好なメッキ密着性が得られる。
【0049】
ステップS3:ビレットを加熱軟化させて押出し成形により連続した中空円筒状の管体を形成する。このとき加熱温度は425〜520℃である。この管体を切断してシリンダライナの素材を形成する。ここで、シリンダライナの合金成分のうちCuの含有量を2%以下にすることにより、良好な押出し加工性が得られる(図8:Cu含有量と押出し性の関係参照)。また、Cuを低く抑えることにより、固相線を高く保つことができ、テアリングの発生を防止する効果もある。
【0050】
ステップS4:T6処理による表面硬化処理を施す。このT6処理は、まず加熱溶体化し(加熱温度545℃)、これを水焼入れする。その後一旦180℃で時効処理してから自然空冷させる。なお、材料によっては、180℃の時効処理を行わないT4処理を施してもよい。
【0051】
ステップS5:電気伝導度の検査を行なう。
ステップS6:シリンダライナの端面や内面を平滑に加工処理し、必要に応じて外面を加工処理する。
【0052】
ステップS7:シリンダブロックの金型にシリンダライナを装着してアルミニウムダイカスト合金により鋳包み成形加工を行う。このとき溶湯による熱処理を伴うが、前述のように、FeやCu等の適度な強度向上用の元素が添加されているため、硬度は低下しない。
【0053】
ステップS8:シリンダライナの内面に機械研削加工を施して平滑化する。
ステップS9:酸による洗浄後アルカリ脱脂を行い、下地処理としてアルマイト皮膜を形成し、Ni−P−SiCの分散メッキ処理を施す。この場合、シリンダライナ合金のFeの含有量を2%以下とすることで、良好なメッキ密着性が得られる(図9:Fe含有量とメッキ密着性の関係参照)。
【0054】
ステップS10:シリンダライナの内面をホーニング加工により精密な寸法公差に仕上げる。このメッキ皮膜の硬度、被削性およびホーニング性については、以下の表1に示すように、充分良好な実験結果が得られた。
【0055】
【表1】
【0056】
次に本発明によるシリンダライナの機械的性質について説明する。本発明材料として、25%Si,0.7%Fe,0.25%Cu,0.7%Mg,0.2%Crを添加したアルミニウム合金製シリンダライナ用材料のT6材について、その機械的性質は前述の表1に示されている。
【0057】
アルミニウム合金は、T6処理を施さなければ、マトリクスの硬度が充分に高くないため使用上支障を来たす場合がある。また、たとえシリンダライナ素材形状の単体状態でT6処理を施しても、その後の鋳包み工程において、再度溶体化された状態に近い状態になり、以下の表2に示すように、充分な硬度・強度が得られなくなる。
【0058】
【表2】
【0059】
この問題に対する対策として、Cu,Fe,Ni,Mnなどを添加することが有効である。これらの添加元素は、固溶強化によってマトリクスの硬度を底上げする効果がある。このため、T6処理後の鋳包み工程を経た後も十分な硬度・強度を維持することができるばかりでなく、T6処理そのものを省略することも可能である。熱処理を省略すれば、単に熱処理コストを低減できるばかりでなく、熱処理に伴う歪や矯正の廃止、不均一性の解消が図れることになり、品質の向上をも同時に実現できる。
【0060】
しかし、実験結果より、Feの添加は、以下の表3に示すように、メッキの密着性を損なうことが判明した。これは、メッキの下地処理として行っているアルマイト皮膜形成の過程で、母材へのFe添加の影響が現れていることが考えられる。
【0061】
【表3】
【0062】
本実施形態では、このFe含有量を2mass%以下、あるいは無添加とすることにより、メッキの密着性を良好に維持している。
【0063】
次に、本発明のシリンダライナの物理的性質について説明する。本発明のシリンダライナを構成する6061−25Siは、前述の表1に示したように、従来のシリンダライナの材料に比べ、密度は−6%、ヤング率は+9%、熱伝導度は−22%となっている。密度が小さいことで軽量化が図られる。ヤング率が高いことは、剛性を向上させ変形に対し有利に作用する。また、熱伝導度が低下しているが、エンジン性能に影響を及ぼさないことが実機での温度測定により確認されている。
【0064】
本発明は、ピストン摺動面にメッキ処理を施すシリンダライナだけでなく、ピストン摺動面を切削加工により形成しメッキ層を設けないシリンダライナに対しても適用可能である。
【0065】
これは、本発明のシリンダライナ合金の押出し性が良好で熱処理による硬度変化が小さく、加工性が優れているため、切削加工により充分円滑な摺動面が得られるとともに、加工により表面に後述のように初晶SiやFe,Al,Siの金属間化合物が露出するためである。
【0066】
押出し性についてみれば、日本金属学会会報第21巻第1号(1982)P11〜P18「アルミニウム合金の押出加工性とそれを支配する因子」時沢貢によれば、その表2に各種アルミニウム合金の相対押出性が記載されている。この表によれば、従来材のベース合金となる合金2014および合金2024の押出性がそれぞれ20および15であるのに対し、本発明の開発材のベース合金となる合金6061の押出性は60であり、従来材に比べ良好な押出性が得られ生産性を高めることができる。この原因の1つとして、本発明の開発材のCu含有量が、従来材(例えば前述の特許第2932248の組成)に比べ少ないので押出し性が向上すると考えられる。
【0067】
熱処理による硬度変化についてみれば、図12に示すように、焼鈍しによる本発明の開発材の硬度変化aは、従来材の硬度変化bに比べ小さい。また、硬度値自体も従来材に比べ向上している。なお、焼鈍しは、鋳包みを想定した熱処理である。このように、硬度変化が抑えられることにより、充分な硬度を維持して安定した加工ができる。
【0068】
図13は、シリンダライナのピストン摺動面を研削加工により形成した場合の研削表面の光学顕微鏡による微細組織写真である。写真に示されるように、研削表面にSiの一次結晶およびFe,Al,Siの金属間化合物が露出している。これにより、研削加工による摺動面の耐磨耗性を充分確保するとともに、ピストン表面およびピストンリングに対する磨耗作用の少ない摺動面を得ることができる。
【0069】
なお、従来材と本発明の開発材の磨耗量の比較のために、従来材の試験プレートと開発材の試験プレートの各々に対し、SKD11からなるピンを擦りつけて磨耗量を測定する摩耗試験を行ったところ、従来材は約5.5μm摩耗したのに対し本発明の開発材の摩耗量は約4μmであり、本発明の開発材は耐摩耗性に優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0070】
1:エンジン、2:シリンダブロック、2a:鋳包み部、3:シリンダボア、4:シリンダライナ、5:ボルト、6:冷却ジャケット、7:硬質メッキ皮膜、8:界面、10:シリンダライナ、11:シリンダブロック、12:隙間。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
7〜12mass%のSiを含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金からなるエンジンのシリンダブロックで鋳包まれるシリンダライナであって、
組成が20〜30mass%のSi,0.05〜2.0mass%のCu,0.1〜1.5mass%のMg,0.04〜0.35mass%のCr及び2.0mass%以下のFeを含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金であり、前記組成の急冷凝固粉末を焼結固化後、熱間押出し法により形成され、前記急冷凝固粉末の初晶Si粒子の大きさが最大20μm以下、平均5μm以下であるとともに、熱膨張係数が前記シリンダブロックの熱膨張係数の90%以下であることを特徴とするエンジンのシリンダライナ。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンのシリンダライナを得るための製造方法であって、
初晶Si粒子の大きさが最大20μm以下、平均5μm以下である急冷凝固粉末を作製するステップと、
前記急冷凝固粉末からビレットを成形するステップと、
前記ビレットから押出し成形および切断加工により円筒状シリンダライナを形成するステップと、
前記シリンダライナを熱処理により表面硬化させるステップと、
を有することを特徴とするエンジンのシリンダライナの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のエンジンのシリンダライナを、熱処理により表面硬化させた後、7〜12mass%のSiを含みかつ残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金で鋳包むことにより形成されていることを特徴とするエンジンのシリンダブロック。
【請求項4】
前記シリンダライナを鋳包むアルミニウム合金は、さらに1〜4mass%のCuを含むことを特徴とする請求項3に記載のエンジンのシリンダブロック。
【請求項5】
前記シリンダライナの内面に切削加工によるピストンとの摺動面が形成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のエンジンのシリンダブロック。
【請求項6】
ピストンとの摺動面が形成された前記シリンダライナの内面に、さらにSiCを含むNi−Pメッキが施されていることを特徴とする請求項5に記載のエンジンのシリンダブロック。
【請求項1】
7〜12mass%のSiを含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金からなるエンジンのシリンダブロックで鋳包まれるシリンダライナであって、
組成が20〜30mass%のSi,0.05〜2.0mass%のCu,0.1〜1.5mass%のMg,0.04〜0.35mass%のCr及び2.0mass%以下のFeを含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金であり、前記組成の急冷凝固粉末を焼結固化後、熱間押出し法により形成され、前記急冷凝固粉末の初晶Si粒子の大きさが最大20μm以下、平均5μm以下であるとともに、熱膨張係数が前記シリンダブロックの熱膨張係数の90%以下であることを特徴とするエンジンのシリンダライナ。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンのシリンダライナを得るための製造方法であって、
初晶Si粒子の大きさが最大20μm以下、平均5μm以下である急冷凝固粉末を作製するステップと、
前記急冷凝固粉末からビレットを成形するステップと、
前記ビレットから押出し成形および切断加工により円筒状シリンダライナを形成するステップと、
前記シリンダライナを熱処理により表面硬化させるステップと、
を有することを特徴とするエンジンのシリンダライナの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のエンジンのシリンダライナを、熱処理により表面硬化させた後、7〜12mass%のSiを含みかつ残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム合金で鋳包むことにより形成されていることを特徴とするエンジンのシリンダブロック。
【請求項4】
前記シリンダライナを鋳包むアルミニウム合金は、さらに1〜4mass%のCuを含むことを特徴とする請求項3に記載のエンジンのシリンダブロック。
【請求項5】
前記シリンダライナの内面に切削加工によるピストンとの摺動面が形成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のエンジンのシリンダブロック。
【請求項6】
ピストンとの摺動面が形成された前記シリンダライナの内面に、さらにSiCを含むNi−Pメッキが施されていることを特徴とする請求項5に記載のエンジンのシリンダブロック。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図6】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図6】
【図13】
【公開番号】特開2010−174374(P2010−174374A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9946(P2010−9946)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【分割の表示】特願2001−250294(P2001−250294)の分割
【原出願日】平成13年8月21日(2001.8.21)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【分割の表示】特願2001−250294(P2001−250294)の分割
【原出願日】平成13年8月21日(2001.8.21)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
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