説明

コラーゲン受容体のIドメイン結合モジュレータ

本発明は、α2β1インテグリンIドメイン(特にMIDAS)の精巧且つ詳細な分子モデルに関し、また、新規なインテグリンモジュレータ(特にα2β1インテグリンモジュレータ)を設計するための、かかるモデルの使用に関する。更に、本発明は、新規なα2β1インテグリンモジュレータであって、治療可能性を有するモジュレータに関する。更に、本発明は、コラーゲン受容体、四環系ポリケチド及びスルホンアミドと相互作用する、小分子モジュレータの特定のファミリーに関する。更に、本発明は、血栓症、血管疾患、炎症及び/又は癌用の医薬を製造するための、かかるモジュレータの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Iドメイン(特にMIDASと呼ばれる金属イオン依存性接着部位)の、精巧且つ詳細な分子モデルに関し、また、新規なインテグリンモジュレータ(特にα2β1インテグリンモジュレータ)を設計するための、かかるモデルの使用に関する。更に、本発明は、MIDASアミノ酸残基に必要な鍵となる相互作用によって特徴付けられる新規なα2β1インテグリンモジュレータであって、インテグリンのIドメイン相互作用(特にコラーゲン結合及びコラーゲン機能)を調節し、治療可能性を有するモジュレータに関する。更に、本発明は、コラーゲン受容体、四環系ポリケチド及びスルホンアミドと相互作用する、小分子モジュレータの特定のファミリーに関する。更に、本発明は、血栓症、血管疾患、炎症及び/又は癌用の医薬を製造するための、かかるモジュレータの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インテグリンは細胞接着受容体の大ファミリーであって、ヒトのあらゆる細胞において、周囲の細胞外マトリックスへの固定を媒介している。更に、インテグリンは、細胞分裂、細胞分化、細胞移動及び細胞生存等の、他の様々な細胞機能にも関与している。ヒトインテグリン遺伝子ファミリーは、18種のαインテグリン遺伝子及び8種類のβインテグリン遺伝子を含有し、これらは対応するαサブユニット及びβサブユニットをコード化している。各機能細胞表面受容体には、αサブユニット1種とβサブユニット1種とが必要になる。即ち、ヒト細胞には24種の異なるα−βの組み合わせが存在する。αサブユニットのうち9種は、特異的な「挿入」Iドメインを有しており、これがリガンドの認識及び結合に関与している。αIドメイン含有インテグリンサブユニットのうち4種、すなわち、α1、α2、α10及びα11は、コラーゲンの主な細胞受容体となっている。これら4種のαサブユニットは各々、β1サブユニット(これも、別のMIDASを有するI様ドメインを含有している)と共に、ヘテロダイマーを形成する(Springer and Wang, 2004)。即ち、コラーゲン受容体のインテグリンは、α1β1、α2β1、α10β1及びα11β1である(White et al., Int J Biochem Cell Biol, 2004, 36:1405-1410 に概説あり)。コラーゲンは、細胞外マトリックスタンパク質の最も大きいファミリーであり、少なくとも27種の異なるコラーゲンサブタイプ(コラーゲンI〜XXVII)から構成されている。
【0003】
インテグリンα2β1は、上皮細胞、血小板、炎症細胞、並びに多くの間葉細胞(例えば内皮細胞、線維芽細胞、骨芽細胞及び軟骨芽細胞等)で発現している(上掲のWhite et al.,において概説)。疫学的な証拠によれば、血小板におけるα2β1の高い発現レベルは、心筋梗塞及び脳血管発作(Santoso et al., Blood, 1999, Carlsson et al., Blood. 1999, 93:3583-3586)、糖尿病性網膜症(Matsubara et al., Blood. 2000, 95:1560-1564)及び網膜静脈閉鎖症(Dodson et al., Eye. 2003, 17:772-777)のリスク増加と関連付けられる。動物モデルで得られた証拠は、血栓症について提唱されているα2β1の役割を支持している。また、インテグリンα2β1は、浸潤性前立腺癌、悪性メラノーマ、膵癌、胃癌及び卵巣癌等の癌でも過剰発現されている。これらの知見から、α2β1インテグリンは、癌浸潤及び癌転移と関連付けられる。更に、癌関連血管形成は、抗α2機能阻害抗体によって部分的に阻害され得る(Senger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 1997, 94:13612-13617)。最後に、白血球は炎症過程において、α2β1機能に部分依存性を示す(de Fougerolles et al., J. Clin. Invest., 2000, 105:721-729)。組織分布及び実験証拠によれば、炎症、線維症、骨折治癒及び癌血管形成には、α1β1インテグリンが重要であると考えられるのに対して(White et al.、上掲)、骨及び軟骨の調節には、4種のコラーゲン受容体インテグリン全てが関与している可能性がある。
【0004】
種々の病理過程におけるコラーゲン受容体の関与を示す有力な証拠から、コラーゲン受容体は医薬開発の潜在的標的となっている。α1又はα2サブユニットに対する機能阻害抗体は、炎症性疾患及び癌血管形成のモデルを含む幾つかの動物モデルで有効であった。合成ペプチド阻害剤の他に、α1β1及びα2β1の機能を阻害するヘビ毒ペプチドが報告されている(EbIe, Curr Pharm Design 2005, 11 :867-880)。国際特許公報WO99/02551には、α2β1の発現を調節する小分子の薬物候補が1つ開示されているが、これは実際にはインテグリンに結合しない。
【0005】
コラーゲン結合αIドメインは、コラーゲン受容体を標的とした合理的薬物設計において、極めて重要な役割を果たす。α2IドメインがコラーゲンI中の高親和性モチーフの1つに結合する機序が知られている。しかし、αIドメインは他にも、潜在的に薬剤開発の興味の対象となり得る部位を複数有している。
【0006】
α2Iドメインの構造は、非連結型の(unligated)「不活性な」(「閉鎖」)形態については、Emsley et al. in J. Biol. Chem, 1997, 272: 28512-7 に記載されている。Iドメイン及び関連するvWfAドメインの重要な特徴は、これらが5本の平行及び1本の逆平行のβストランドからなる特徴的な集合構造を有し、これらのストランドが安定な構造の骨格を形成することである。Iドメインのもう一つの重大な特徴は、配列DxSxS(xは任意のアミノ酸を表す)で表わされるアミノ酸モチーフを有することである。これらの3つのアミノ酸、D151、S153及びS155は、α2Iドメインの最初のβストランドから延びるN末端ループ内に存在し、近傍のペプチドループ内の他の酸素含有残基と共に、金属イオンに配位結合して金属イオン依存接着部位(MIDAS)を構成する。
【0007】
国際特許公報WO01/73444には、インテグリンα2Iドメインと複合体形成したコラーゲン模倣三重らせんペプチドの結晶構造が記載されている。本文献の開示によれば、この活性化(「開放」)高次構造では、前掲の1997年の不活性構造に記載のように、金属イオンはAsp254ではなくThr221に配位結合する。この配位結合の変化に加えて、WO01/7344には、Cへリックスが巻き戻され、隣のへリックスにおいて更なる巻きが存在することが開示されている。現在までのところ、これが、Iドメイン/コラーゲン複合体構造に対する最も優れた近似である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現時点で本発明者等が知る限りでは、コラーゲン受容体インテグリンα2β1のMIDASに結合することが示された小分子阻害剤は知られていない。インテグリンMIDASのコラーゲン結合部位の表面は非常に大きいため、物理的に結合部位全体を覆う構造の小型(サイズ<600g/mol)分子を設計することは不可能である。即ち、創薬において所望されるコラーゲン21とインテグリンα2β1との相互作用を調節するような、新規な小分子の設計を可能にするために、(インテグリンα2β1のIドメイン)MIDASの改良モデルや、小分子結合の試験法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、表1に示されるアミノ酸座標(amino acid coordinates)、特にアミノ酸座標Asp151、Ser153、Ser155、Thr221、Asp254、Tyr285、Leu286及びLeu296並びにアミノ酸座標Asn154、Gly218、Asp219、Gly255、Glu256、Asn289、Leu291及びAsp292により特徴付けられる、インテグリンIドメインのMIDASの精密なインシリコ(in silico)モデルに関する。更に本発明は、鍵となる水分子W514、W699、W701、W700、W668、W597、W644及びW506によって特徴付けられるモデルに関する。
【0010】
また、本発明は、潜在的なモジュレータを設計又は選択するべく、前記モデルを用いてIドメイン含有インテグリンの潜在的なモジュレータを同定する方法に関する。
【0011】
更に、本発明は、α2β1インテグリンを調節する化合物、好ましくはα2β1インテグリン阻害剤を同定する方法に関する。前記方法では、空間配座Iドメイン含有インテグリンの原子座標に3次元分子モデル用のアルゴリズムを適用し、該インテグリンのMIDASの空間配座を決定する。続いて、保存された一組の候補化合物の立体座標を、前記空間座標に対するインシリコスクリーニングにかける。この比較に基づいて、前記インテグリンのMIDASに結合できる化合物が同定される。かかる化合物としては、インテグリン阻害剤が好ましい。
【0012】
更に、本発明は、本発明の方法により同定又は取得される、Iドメイン含有インテグリンの新規なモジュレータにも関する。本発明のインテグリンモジュレータは、水素結合ドナー又はアクセプターの相互作用、疎水性相互作用、水素結合ドナー相互作用及び金属イオン相互作用等の、MIDASのアミノ酸残基に必要な鍵となる相互作用により特徴付けられる。
【0013】
更に、本発明は、四環系ポリケチド及びスルホンアミド誘導体等の新規なインテグリン阻害剤に関する。
【0014】
更に、本発明は、本発明のモジュレータの使用に関し、好ましくは、血栓症、癌、線維症又は炎症の治療用の医薬組成物を製造するための阻害剤の使用に関する。
【0015】
更に、本発明は、本発明の阻害剤を有効量投与することによる、血栓症、血管疾患、癌、線維症又は炎症の治療方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、新たなモジュレータと複合体形成したIドメイン(特にMIDAS)の、精巧且つ詳細な分子モデルに関し、また、新規なインテグリンの小分子モジュレータ(特にα2β1インテグリンモジュレータ)を設計するための、かかる分子モデルの使用に関する。かかる小分子インテグリンモジュレータは、コラーゲン模倣ペプチドについて現在知られている結合メカニズとは、異なる結合メカニズムに従ってインテグリンと結合する。
【0017】
更に、本発明は、Iドメインの金属イオン依存接着部位(MIDAS)の分子モデル、並びに、この結合部位の原子と、この部位に結合した小分子モジュレータとの間における相互作用の原子的詳細に関する。より具体的に、本発明は、αIドメインとモジュレータ(合成四環系ポリケチド及びスルホンアミドインテグリンモジュレータ等)との間の複合体形成に関与する、重要なアミノ酸、ペプチド主鎖原子及び水分子について説明する。構造に基づく小分子設計を用いて見出された四環系ポリケチド化合物が、α2Iドメインに結合することを実験により示す。
【0018】
更に、本発明は、公に入手可能なX線データ由来のαIドメイン構造モデルに基づいて新規なα2インテグリン結合性小分子を設計するための、構造に基づく基準に関する。
【0019】
本発明で報告するMIDASアミノ酸結合性小分子の基準は、リガンドがIドメインに結合する際に重要であると認められている既報の分子間相互作用を満足する限りにおいて、四環系ポリケチド又はスルホンアミド以外の化学物質の結合にも適用することが可能である。
【0020】
更に、本発明の方法は、α2β1インテグリンの他に、コラーゲン受容体インテグリンα1β1、α10β1及びα11β1に結合する阻害剤を設計し、スクリーニングする上でも有用であることを示す。
【0021】
更に、本発明は、MIDASのアミノ酸残基に必要な、鍵となる相互作用により特徴付けられる、新規なαIドメインモジュレータに関する。かかる相互作用としては、水素結合ドナー又はアクセプター(HBDA)の相互作用、疎水性(HYD)相互作用、水素結合ドナー(HBD)相互作用及び金属イオン(Mg)相互作用が挙げられる。また、本発明のモジュレータは、MIDAS内に存在する水分子と相互作用し、又はこれを置換することも可能である。
【0022】
本発明のインテグリンモジュレータは、直接IドメインMIDAS結合性モジュレータと、アロステリックI様ドメインMIDAS結合性モジュレータとを包含する。かかるモジュレータは阻害剤であることが好ましい。
【0023】
即ち、本発明は、四環系ポリケチド及びスルホンアミド誘導体等の新規なインテグリン阻害剤を提供する。
【0024】
本発明は、血栓症、癌、線維症及び炎症に関連する疾患の治療用医薬の製造における、かかるインテグリンモジュレータの使用を提供する。
【0025】
Iドメインの構造上の特徴の説明
現在のα2インテグリンの構造に関する知見は、Iドメインの2つの静的構造である閉鎖構造及び開放構造について記載された、上述の刊行物に基づくものである。実際には、Iドメイン、特にMIDASの種々の部分は動的である。Iドメインは、細胞内における分子環境に応じてその高次構造を変化させる。MIDASに別の分子が結合すると、異なる高次構造が生じ得る。生体分子と競合的に結合することで、生物学的に重要な分子実体とMIDASとの相互作用を調節可能な小分子の設計には、単に2つの静的受容体モデルからは導き出すことのできない受容体−リガンド相互作用の動態に関する詳細な情報が必要となる。
【0026】
前述した既報の2つの構造は、可動ドメインの2つの「写真」と比較することができる。本発明では、結晶構造から得られた情報を分子モデリングによって拡張し、いわゆるアンサンブルモデル(ensemble-models)を作成した。Iドメイン(特にMIDAS)が結合リガンドの構造と一致する可能性を、Bodil Modeling Environment(Lehtonen et. al. 2004)を用いて検討した。更に、リガンドの高次構造空間及び受容体誘導性高次構造変化について、フレキシブルドッキング試験(flexible docking study)(Sybyl, Tripos Inc.製プログラムFlexX )を用いて検討した。
【0027】
Iドメインのコラーゲンとの相互作用は、以前から変異実験によって研究されており、コラーゲンのα2Iドメインとの接触を構成する部位は、β A−鎖及びαへリックス1と結合するAsn154;αへリックス3及び4と結合するAsp219及びLeu200;β D−鎖及びαへリックス5と結合するGlu256、His258;Cへリックス、αへリックス6、β C−鎖及びαへリックス6と結合するTyr285、Asn289、Leu291、Asn295及びLys298であることが示されている。Glu256及びAsn295におけるAla変異では、コラーゲン結合に変化が生じないことも知られている。
【0028】
Asp151、SeM53、Thr221及びAsp254に影響する変異は、コラーゲン結合に変化を引き起こすことが知られている。かかる効果の主な原因は、これらのアミノ酸がコラーゲン結合に不可欠なIドメインの金属イオンに結合する、という事実にある。
【0029】
国際特許公報WO01/73444は、α2Iドメインに結合する3量体コラーゲン模倣GFOGER−ペプチドが、以下のアミノ酸の影響を受けることを開示している。即ち、へリックス1の中央ストランドでは、グルタミン酸が金属に配位結合し、ArgがAspと塩橋を形成し、フェニルアラニンがGln215とAsn154との間に位置する。最外側へリックス2の垂下ストランドでは、フェニルアラニンがTyr157、Leu286と接触し、アルギニンがGlu256と近接しているが、結晶構造中で塩橋を形成しない。へリックス3の主鎖では、Asn154とTyr157との間に水素結合が存在してコンタクトループ1を形成し、ループ3にHis258が存在する。
【0030】
コラーゲン模倣ペプチドがMIDASに結合する際には、明らかな高次構造変化が生じる。Mg2+金属配位が変化し、IドメインのCへリックスは金属に配位結合するためにコラーゲンから離れて行く。この移動の結果生じる構造変化によって、Iドメインの対極にまで構造衝撃が伝わる。
【0031】
国際特許公報WO01/73444に記載のように、Iドメインが閉鎖形から開放形に変化するとき、コラーゲンは金属をアミノ酸Thr221側に「押す(pushes)」。この動きにMIDAS内ループも伴動する。Ser153及びSer155の金属配位結合は変化しないが、Asp254金属結合は切断される。Gly255ペプチド結合が180度回転し、金属から離れる。Glu256は水を介して金属と結合を形成する。Tyr175及びHis258は、少なくともコラーゲン模倣ペプチドとの関係で、コラーゲン3量体へリックスストランドに沈みこむ。
【0032】
この結果、へリックス7は劇的に変化し、MIDASのCへリックスが巻き戻され、αへリックス6内に新たなコイルが形成される。錯体形成の観点から最も重要な高次構造変化は、コラーゲンのグルタミン酸が金属に向かって移動し、その金属に配位結合することである。コラーゲンがIドメインMIDAS金属と接触可能になるには、Tyr285側鎖による立体阻害を克服しなければならない。このアミノ酸は、IドメインのCへリックス内に位置する。
【0033】
αIドメインの高次構造変化によって、αβヘテロ2量体全体に別の高次構造変化が生じ、これによって更に細胞内信号経路の活性化が生じる。これはおそらく、αサブユニット及びβサブユニットの細胞質ドメインが互いに離れるためであると考えられる。
【0034】
既存モデルのモデリング及び改善時には、モジュレータ設計に関する以下の所見が得られた。
【0035】
Iドメイン内Cへリックスの生物学的役割として、コラーゲンの金属への結合を阻害するという点が考えられる。コラーゲン結合の小分子モジュレータを設計する場合、この事実を考慮に入れることが重要である。受容体の閉鎖形Iドメインへのコラーゲンの結合は、Cへリックス高次構造によって阻害される。従って、閉鎖形にあるCへリックスを更に安定化できるというモジュレータ特性は、新規な小分子のコラーゲン結合モジュレータを設計する場合には重要な特性となる。この特性を考慮して設計されたモジュレータは、コラーゲンの結合を阻害する。これは、本発明者等の実験が示す通りである。図2では、Iドメインの閉鎖形を灰色で示し、コラーゲン模倣GFOGERペプチドの結合した開放形を黒色で示している(明確化のため、コラーゲンペプチドは図示を省略している)。コラーゲン結合阻害モジュレータを設計する場合、モジュレータの結合によってIドメインの閉鎖形が安定化され、コラーゲン結合が阻害されるようにすべきである。
【0036】
MIDASの構造に基づくモジュレータの設計のための一般的な観察及び基準
過去に報告されたコラーゲン模倣薬結合時の構造変化に関する解釈とは異なり、本発明者等は、新規コラーゲン結合モジュレータの設計に重要な、鍵となるMIDASアミノ酸であるセリン及びトレオニン(Ser153、Ser155及びThr221)の位置及び距離(ジオメトリ)に関する特徴も見出した。剛性タンパク質座標における変化の解釈は、座標の上書き(superimposing)に用いられる方法に依存するため、重ね合わせ(superposition)の解釈に影響を与える。本モデリングでは、タンパク質の全体構造を上書きの手段として用いるのではなく、MIDAS構造のみに限定して上書きに供した。驚くべきことに、これによって、コラーゲン模倣GFOGERペプチドの結合時に生じる構造変化の新規な解釈が得られる。本発明において、開放形と閉鎖形との重ね合わせは、鍵となるアミノ酸Ser153(及びSer155)側鎖の座標を用いて行なう。すると、過去の解釈とは反対に、MIDASの金属イオンは移動することなく、原位置付近に留まる。むしろ、金属を取り囲むタンパク質の主鎖が再構成され、Iドメインの開放高次構造では閉鎖形に比べて、互いにより近接した位置に移動する。
【0037】
Mg2+金属配位に変化が生じる。Thr221が金属に配位結合し、配位結合していた水分子1つが除去される。この別の重ね合わせから得られる知見は、開放高次構造では同時に、金属を取り囲むタンパク質の主鎖が、互いに新しい接触を形成するということである。Ser153とThr221とは、閉鎖形よりも開放形において、互いにより近接している。即ち、閉鎖形を安定化することを目的とした調節剤の特性は、Thr221が水分子を介して金属と配位結合し続けるように、閉鎖形におけるThr221の位置を安定化することに重点を置いたものとすべきである。これによって、Thr221が金属イオンに向かって移動し、Iドメインの開放形との間で典型的な金属配位を取るのを防止できる。結晶水W597は、Iドメインの閉鎖形では、受容体及びThr221に強く結合している。モジュレータは、例えばW597から水素結合を受容し、Thr221近傍の結晶水を補足することで作用を及ぼす(後に詳細を記載する)。開放高次構造では、水W597は除去される。Thr221−結晶水−金属安定化モジュレータはこのように閉鎖形を安定化することにより、コラーゲン結合を阻害し得るのである。
【0038】
更に、IドメインのCへリックス内の結合ポケットの壁部にあるアミノ酸の特定の特徴が、モジュレータの構造設計に有用であることが見出された。モジュレータがIドメインの閉鎖形のCへリックス(例えば、図1のCへリックスの疎水面)と構成的に相互作用すれば、それによってCへリックス構造が安定化し、コラーゲン結合の更なる調節が可能となる。
【0039】
図1において、MIDASのリガンド結合キャビティーの疎水面(白い部分)は、結合リガンドによって埋められることが好ましい。このリガンド部位は、マグネシウムイオンとGlu256(HBD)の主鎖アミノ基及びTyr285の水酸基との、鍵となる相互作用によって安定化され得る。これらの相互作用は、受容体を「閉鎖」高次構造に維持するための鍵となる安定化相互作用であり、これによって新規リガンド発見の基礎となるファルマコフォアが形成される。
【0040】
例えば、四環系ポリケチドはCへリックス内のTyr285と、芳香族−芳香族(π−π)相互作用を形成し得る。図3に、CへリックスにおけるTyr285の位置が、リガンドの結合高次構造を安定化することを示す(ドッキングしたリガンド全てを線モデルで示している)。シミュレーション実験によれば、このクラスのモジュレータ内の水素結合アクセプターがチロシンの水酸基との間で水素結合を形成し、また、モジュレータの水酸基とカルボニル基との間にも水素結合を形成することが示された。
【0041】
シミュレーションにおいて、Cヘリックス及びヘリックス6のアミノ酸Leu286及びLeu291が、モジュレータの疎水性イソプロピルエチル基、及び該構造の芳香族末端基とで疎水性相互作用を形成することが示された。この相互作用はCへリックスの安定化に重要であることも判明した。
【0042】
α2Iドメインと潜在的なモジュレータとの間の特異的な相互作用
本発明は、Iドメインの閉鎖形のMIDASの一般的な3次元形態を提供する。MIDASの形状は、モジュレータを設計する上で重要である。また、閉鎖形のタンパク質−モジュレータ間の形状適合性によって、可溶性、吸収性又は代謝等の薬理学的特性等の改善のために追加される新たな化学基の導入/除去が制限される。これらの改善によって、化合物の結合親和性が過度に妨げられるべきではない。このことは、首尾よくリード化合物を得るための最優先の要件である。
【0043】
表1並びに図5及び図11Bに、2α2Iドメイン結合部位のアミノ酸、主鎖の原子及び結晶水を詳細に記載する。これらは何れも、α2Iドメインと相互作用するモジュレータを設計する際に、構造上重要である。
【0044】
Bodil Modeling Environment(Lehtonen et al., al. http://www.abo.fi/fak/mnf/bkf/research/iohnson/bodil.html: 2004)及びSybyl(6.9.1. St. Louis, MO, USA, Tripos Inc.)を用いたドッキングシミュレーション実験によれば、表1に示す以下のアミノ酸が同定される。表1では、モジュレータに対する各アミノ酸の相対距離を記す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に列挙するアミノ酸は、四環系ポリケチドを用いた分子ドッキング実験において、重要な相互作用を生じたものである。MIDASアミノ酸を三層に分割した。これらの層はそれぞれ、図4及び図5における白色、灰色及び黒色に対応する。層1は、ドッキングしたリガンドから4Å以内のMIDASアミノ酸を挙げたものであり、図4及び図5では黒色で示す。層2(図4及び図5の灰色)は、ドッキングしたリガンドから4〜8Åの範囲内の距離にあるMIDASアミノ酸を挙げたものである。層3(図4及び図5の白色)は、ドッキングしたリガンドから8Åを超えるMIDASのアミノ酸を挙げたものである。結合部位アミノ酸側鎖の最も重要な相互作用は、リガンド構造との直接的な相互作用である(層1、図4及び図5における黒色)。また、他の層も、層1のアミノ酸を「押す(pushing)」ことにより、或いは層1のアミノ酸への影響を通じて、MIDASへのリガンドの結合に影響し得る。結合部位は柔軟であるため、異なる層に存在するアミノ酸の位置や向きが、結合リガンドに応じて動的に変化し得る。リガンドは受容体に複数の異なる高次構造を生じさせ得る。本発明のリガンド設計ストラテジーは、生物学的に重要な分子(コラーゲン)のMIDASへの結合の調節を可能にする点に焦点を絞っている。従って、新規リガンドの設計には、3層全てが重要である。
【0047】
閉鎖形を安定化する更なる潜在的相互作用
モジュレータ/リガンドと、タンパク質主鎖原子及び官能基との間の相互作用は、構造設計過程において重要である。アミノ酸の主鎖原子は側鎖原子に比べて可動性が低いので、これを用いれば、モジュレータを構成的相互作用によって、タンパク質に効果的に固定することができる。新規小分子コラーゲン結合モジュレータの構造を設計する際に使用可能な主鎖相互作用のリストを以下に提供する。殆どの場合、相互作用形成には、MIDASの結晶水分子の置換が必要となる。本リストでは以下の定義を使用する。−NH−は主鎖アミノ基を規定し、O=は主鎖のカルボニル基を規定する。本発明者等は、主鎖の相互作用の番号付けの際に、PDB構造PDB:1aoxにおいて既報の、Iドメインの閉鎖高次構造からの番号付けを用いた。
【0048】
・Ser155、−NH−は、一つの水素結合をモジュレータに供与可能。例えば水素結合ドナー(1*HBD)。
【0049】
・Gly218、O=は、一つの自由非共有電子対が、モジュレータからの水素結合を自由に受容。例えば水素結合アクセプター(1*HBA)。
【0050】
・Asp219、O=、1*HBA、一つの非共有電子対が水素結合を許容可能。Asp219の2つ目の非共有電子対へのリガンドの接触は、鍵となるアミノ酸His258のイミダゾール環による立体障害を受ける。
【0051】
・Asp254、O=、1*HBA、第2の位置は結晶水W701により占有され、さもなくばその位置は埋没し、モジュレータが接近し難い。
【0052】
・Glu256は、モデリングによれば、結合モジュレータの鍵となる接点の一つである。
【0053】
・更なる定義:Glu256、−NH−、1*HBD、Glu256アミノ酸側鎖の向きの変化により、それ自体が回転し、モジュレータのOH基等との間で相互作用を形成可能。幾何学的にも物理的にも、モジュレータのOH基は同時に、Glu256の−NH−とも接触を形成し得る。近傍には結晶水も存在し、それによって更に、Glu256アミノ酸側鎖の再配置が安定化され得る。
【0054】
・Ser257、O=、2*HBA、結晶水W650は、この官能基に最も近接した可能な相互作用。
【0055】
・Gly260、−NH−、1*HBD、Ser257(埋没)の側鎖酸素と弱い相互作用。
【0056】
・Asp292、O=、任意により2*HBA、−NH− 1HBD、閉鎖形において、本アミノ酸は疎水性ポケット内に位置し、W506に水素結合している。弱結合水をモジュレータの適切な官能基で置換することが推奨される。この相互作用は更に結晶水により定義される。
【0057】
・Asn295、−NH−、1HBD、埋没しており、モジュレータが接近し難い。
【0058】
・Leu296、−NH−、1HBD、埋没しており、モジュレータが接近し難い。
【0059】
結晶水分子
水分子を対応するモジュレータ置換基(例えば−OH)で置換するのは、モジュレータの結合を改善するための選択肢の一つである。コラーゲン結合事象の際に、水分子が積極的な役割を果たすことも示されている。本明細書に詳細に記載するように、水分子は鍵となる分子間相互作用の媒体として、重要な役割を果たし得る。結晶水の番号付けは、PDB構造PDB:1aox中の、既報の閉鎖高次構造のIドメインの番号付けに対応する。
【0060】
シミュレーション実験において、更に以下の知見が得られた。即ち、正しい結晶水分子を安定化させるモジュレータは、閉鎖形の安定化に機能的な役割を有し得る。なぜなら、結晶水分子は、MIDASが開放形に向けて再組織化する際にその位置を変えるアミノ酸の、複数の原子と水素結合を形成するからである。α2β1インテグリンIドメイン内の鍵となる水分子の位置を図4に示す。
【0061】
アミノ酸Glu256は、閉鎖形で水分子W514と配位結合している。試験/設計されたα2Iドメイン4環系及びスルホンアミドモジュレータは、そのOH基を置換することが可能である。
【0062】
金属に配位結合する水は、W699、W701及びW700である。水W699は、トレオニンThr221の位置も安定化させる。結合リガンドは、水の出口の経路を封鎖することにより、この水位置を間接的に安定化し得る。これによって、Thr221が開放形の金属配位位置を取ることが、物理的に防止される。分析によれば、水W699の他方の非共有電子対は、閉鎖高次構造では不飽和であり、モジュレータからの水素結合ドナー相互作用の影響を受けているものと思われる。
【0063】
水W700は、多くのモジュレータによって結合時に置換される傾向があるが、Ser155の主鎖のアミノ基及び金属と配位結合している。Ser155の主鎖アミノ基は、モジュレータに強い水素結合を供与し得る部位である。この水分子は、開放形のIドメインへのコラーゲン模倣体の結合により置換される。モジュレータを設計する際には、2つのアプローチを選択可能である。水素結合アクセプターをこの位置に導入することによって、モジュレータの結合を改善するべく水を置き換えてもよく、或いは、閉鎖形の安定化に水が重要である場合には、モジュレータによって水を保持してもよい。
【0064】
水W668は他の水分子のみに配位結合し、モジュレータの結合によって、通常はMIDASから置き換えられる。
【0065】
水W597は3つの部位に水素結合している。水W668、及び、主鎖Glu256のO=である。更に、この水はThr211からの水素結合を受容する。この水分子がトレオニンThr221の位置を安定化するのは明らかである。分子設計において、この水は閉鎖高次構造を安定化させるために重要であることから、コラーゲン結合の調節に関して鍵となる機能性を有することが示唆される。水W597は、モジュレータに水素結合を供与するのに適した位置にあり、この水は3つの水素結合によってその位置に固定されることになる。
【0066】
水W644及びW506はAsp292と近接している。これらの水分子はAsp292のカルボキシル基に水素結合を供与する。水W506は溝に位置し、この溝はAsp292の主鎖の酸素の近傍を除いて基本的に疎水性である。この溝については上にも述べたように、以下によって定義可能である。MIDAS上のタンパク質の主鎖(アミノ酸255及び256);Leu286(疎水側鎖);Asp292(O=及び−NH−、主鎖のC−β炭素);Thr293(主鎖、ペプチド結合面);Lys294(トレオニンとのペプチド結合);Asn295(主鎖−NH−、C−β炭素、溝に向かって回転可能);Leu296(主鎖−NH−、C−β炭素);及びGlu256(カルボキシル基がモジュレータへ向かって回転可能)。
【0067】
潜在的Iドメイン結合モジュレータの特性決定
Iドメイン結合モジュレータの化学構造には相当なばらつきが許容されるが、その何れもが、上述の結合部位のアミノ酸、主鎖の原子及び結晶水分子と形成する接点においては、構造的及び化学的類似性を有している必要がある。
【0068】
また、小分子結合部位の一般的構造を考慮に入れることも重要である。特定エネルギー窓におけるIドメイン構造と一致し得ないモジュレータは、Iドメインに結合することができないからである。
【0069】
四環系ポリケチドのシミュレーションに基づき、Iドメインを標的とするモジュレータが通常占有し得る形状及び体積を図5に示す。MIDASアミノ酸を3層に分割した。これらは図4及び図5の白色、灰色、及び黒色に対応する。これらの層は、ドッキングしたリガンドからのアミノ酸の距離を示している(表1も参照)。最も重要な結合部位アミノ酸側鎖相互作用は、リガンド構造と直接相互作用するものである(図4及び図5の層1、黒色)。他の層も、層1のアミノ酸を「押す(pushing)」ことにより、さもなくば層1のアミノ酸への影響を通じて、MIDASへのリガンドの結合に影響を与え得る。結合部位は柔軟であるため、異なる層に存在するアミノ酸の位置や向きが、結合リガンドに応じて動的に変化し得る。リガンドは受容体に複数の異なる高次構造を生じさせ得る。本発明のリガンド設計ストラテジーは、生物学的に重要な分子(コラーゲン)のMIDASへの結合の調節を可能にする点に焦点を絞っている。従って、新規リガンドの設計には、3層全てが重要である。
【0070】
図1は、リガンド結合溝の疎水面が、リガンドにより埋められていることを示している。更に、このリガンド位置は、マグネシウムイオンとGlu256(HBD)の主鎖アミノ基及びTyr285の水酸基との、鍵となる相互作用によって安定化されている。これらの相互作用は、受容体を「閉鎖」高次構造に維持するための鍵となる安定化相互作用であり、これによってリガンド発見の基礎となるファルマコフォアが形成される。
【0071】
Iドメイン含有インテグリン機能を調節し得る潜在化合物は、仮想的なスクリーニング技術を、インテグリンIドメインのMIDASの3次元座標に基づくファルマコフォアモデルと組み合わせて用いることにより同定した。ファルマコフォアモデルはモジュレータ結合のための鍵となる上記の相互作用部位を含んでいた。
【0072】
上述した改良コンピュータ支援分子モデルに基づいて、本発明は、MIDASを受容するα2Iドメイン表面の谷間に適合する分子を提供する。より具体的には、インシリコで設計されウェットラボで試験された化合物であって、Mgと相互作用し、高い親和性をもって結合し、コラーゲン結合を阻害する化合物を提供する。
【0073】
MIDASと相互作用しそうな適切な酸素原子を含有する扁平四環系化合物であるストレプトミセス由来の香族ポリケチドを、スクリーニング用の適切なライブラリーとして選択した。谷間及び第2環内の酸素に適合するようモデリングされた化合物は、MIDAS内のMgイオンと相互作用すると推定された(図6)。これらの化合物を固相α2Iドメイン結合アッセイでスクリーニングし、試験仮説を確認した。4つのαIドメイン全てによるコラーゲンI結合が、これらの化合物によって阻害されたという事実から、これらの化合物が共通の結合メカニズムを有することが示された。
【0074】
更に前記インシリコモデルを用いて、新規なコラーゲン受容体モジュレータを同定した。スルホンアミド誘導体は、本発明に係るインシリコの方法を用いて同定した化合物の例であり、上記の基準を満たしている。本明細書に記載のアッセイを用いて、かかる化合物がコラーゲン受容体モジュレータであることを更に確認した。
【0075】
本発明の方法により同定されたスルホンアミド誘導体は、例えば式(I)によって表わされる。
【0076】
【化1】

【0077】
式中、
Cは、ジアルキルアミノ、NO2、CN、アミノカルボニル、モノアルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルカノイル、オキサゾル−2−イル、オキサゾリルアミノカルボニル、アリール、アロイル、アリール−CH(OH)−、アリールアミノカルボニル、フラニル、グアニジニル−(CH2Z−N(R’)−、Het−(CH2Z−N(R’)−、Het−CO−N(R’)−、Het−CH(OH)−及びHet−CO−からなる群より選択され、ここで、アリール、アロイル及びフラニル部分は置換されていてもよく、Hetは、N、O及びSから選択される1又は2以上のヘテロ原子を有する、置換されていてもよい4員〜6員の複素環式環であり、R’は水素又はアルキルであり、zは1〜5の整数であり;
Aは、式
【化2】

を有する基
(式中、
3及びR4はそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、アリール、アルコキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニル、シアノ、トリフルオロメチル、アルカノイル、アルカノイルアミノ、トリフルオロメトキシ、置換されていてもよいアリール基を表わす)であり;
Bは、水素、アルキル、アルカノイル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニル、アルコキシカルボニルアルキル、アミノアルキル、モノ−又はジ−アルキルアミノアルキル又はHet−アルキルであり、ここでHetは上で定義された通りであり;
但し、
(iv)RCがジアルキルアミノの場合、RBは水素又はアルキルではなく;
(v)RAが式(C)の基であり、R3が水素であり、R4がメトキシである場合、RCはHet−CO−N(R’)−ではなく;
(vi)RAが式(C)の基であり、R3及びR4が水素又はハロゲンである場合、RCはニトロではない。
【0078】
本発明の典型的なスルホンアミド化合物を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【0084】
好ましい化合物の具体例としては、4’−フルオロビフェニル3−スルホン酸(4−ベンゾイルフェニル)アミド、4’−フルオロビフェニル3−スルホン酸(3−ベンゾイルフェニル)アミド、4’−フルオロビフェニル3−スルホン酸(α−ヒドロキシベンジルフェニル)アミド、2−オキソイミダゾリジン−1−カルボン酸{4−[(4’−フルオロビフェニル3−スルホニル)メチルアミノ]フェニル}アミドが挙げられる。
【0085】
即ち、本発明は、改良インシリコモデルに記載のような、MIDASアミノ酸残基に必要な鍵となる相互作用を満たす、新規なインテグリン阻害剤を提供する。好ましいインテグリン阻害剤としては、表2に列挙するスルホンアミド誘導体、及び、表3に列挙する四環系ポリケチドが挙げられる。
【0086】
本発明は、血栓症、癌、線維症及び炎症に関連する疾患の治療用医薬の製造のための、かかるインテグリンモジュレータの使用を提供する。
【0087】
本発明の化合物は強力なコラーゲン受容体モジュレータであり、インビボ又はインビトロにおけるコラーゲンへの細胞の接着、又はコラーゲンを通じた細胞の遊走及び浸潤を防止又は予防するのに有用である。本明細書に記載の化合物は、悪性細胞の遊走を阻害することから、例えば前立腺癌、胃癌、膵癌及び子宮癌等の癌や、メラノーマ等を治療するのに有用であり、中でもα2β1インテグリン依存細胞の接着/浸潤/遊走が、悪性化機序、癌浸潤、並びに癌転移又は血管形成に寄与している可能性がある場合に、とりわけ有用である。
【0088】
また、本発明の化合物は、血小板のコラーゲンへの接着及びコラーゲン誘導性の血小板凝集を阻害する。即ち、本発明の化合物は、血栓塞栓症状態(即ち、コラーゲンへの血小板の接着及びコラーゲン誘導性血小板凝集を防止する必要性を特徴とする疾患)の予防的又は寛解的治療(例えば、脳卒中、心筋梗塞、不安定狭心症、糖尿病性網膜症又は網膜静脈閉塞症等の治療及び予防)を必要とする患者の治療に有用である。更に、本発明の化合物は、炎症、線維症及び骨折等の炎症性過程を特徴とする疾病の患者を治療するための医薬として有用である。
【0089】
結論として、本発明は、αIドメインのMIDASを標的とするコラーゲン受容体インテグリン阻害剤を設計するための、優れたストラテジーを提供する。芳香族ポリケチド及びスルホンアミドは、コラーゲン受容体αIドメインの潜在的遮断薬の基準を満たし、これらはコラーゲンへの細胞接着をも防止するが、改良インシリコモデルによって定義される基準を満たす他の化合物についても、本発明に係る化合物として考慮される。
【実施例】
【0090】
本発明を例示するために以下の実施例を示すが、これらは本発明の範囲の制限を意図するものではない。
【0091】
実施例1
四環系生合成
四環系化合物ライブラリーを、変異ストレプトミセス株の発酵によって作製した。発酵は、5リットルのバッチで6日間かけて、E1培地中で30℃にて、280rpmでの攪拌下、5l/hで通気しながら行なった。
【0092】
代謝産物をメタノール抽出により細胞分画から回収し、その後、ジクロロメタンで細胞を抽出し、分解して蒸散させた。
【0093】
2度のクロマトグラフィー処理によって化合物の予備精製を行なった後、沈殿形成を行なった。精製を薄層クロマトグラフィー(TLC)によりモニターした。最初のクロマトグラフィー分離は、クロロホルム:メタノール:酢酸中にシリカを含むカラムを用いて行なった。2%メタノールで画分を溶離した。画分を纏めて更にシリカカラムで精製し、トルエン:MeOH:HCOOHにより溶離した。
【0094】
回収した分画を纏め、少量のクロロホルムで希釈し、ヘキサンで沈殿させた。四環系化合物はヘキサン相に濃縮された。ヘキサンを蒸散させ、この画分を更なる精製の出発物質として用いた。
【0095】
予備精製により得られた画分を、オキサレート処理シリカカラムで更に精製し、クロロホルム中40%ヘキサンで溶離した。四環系化合物を含む画分を、調製用C18 HPLCカラムでアセトニトリル:水:蟻酸を用いて更に精製した。純粋な画分を纏め、クロロホルムに溶解させ、蒸散させた。
【0096】
以上により取得し、更なる試験に供した化合物は、メチル2−エチル−2,5,7,12−テトラヒドロキシ−4,6,11−トリオキソ−1,2,3−トリヒドロナフタセンカルボキシレート(L3007)、メチル2−エチル−4,5,7,12−テトラヒドロキシ−6,11−ジオキソナフタセンカルボキシレート(L3008)、メチル4,5,7,12−テトラヒドロキシ−2−(メチルエチル)−6,11−ジオキソナフタセンカルボキシレート(L3009)、及びメチル2−エチル−4,5,7−トリヒドロキシ−6,11ジオキソナフタセンカルボキシレート(L3015)であった。これらの化合物の構造を表3に示す。
【0097】
【表7】

【0098】
実施例2
ヒト組み換えインテグリンIドメイン
【0099】
ヒトインテグリンαIドメインのクローニング − α1Iドメイン及びα2IドメインをコードするcDNAは、ヒトインテグリンα1及びα2のcDNAを鋳型として用いて、先行技術文献に記載のようにPCRによって生成した。pGEX−4T−3ベクター及びpGEX−2Tベクター(Pharmacia)を用いて、それぞれヒトα1Iドメイン及びα2Iドメインの組み換えによるグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質を生成した。α10IドメインのcDNAは、KHOS−240細胞(ヒトコーカサス骨肉腫)から単離されたRNAから、RT−PCRによって生成した。細胞の全RNAは、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて単離した。RT−PCRはGene Amp PCR KIT(Perkin Elmer)を用いて行なった。クローニングの詳細は先行技術文献に記載されている(Tulla et al., 2001)。増幅したα10IドメインcDNAは、pGEX−2T発現ベクター(Amersham Pharmacia Biotech)と共にBamHI及びEcoRI制限酵素(Promega)を用いて消化した。SureClone Ligation Kit(Amersham Phamacia Biotech)を用いて、α10cDNAをpGEX−2Tベクターにライゲーションした。構築物は、産生のためE. coli BL21株内へと形質転換した。構築物のDNA配列をDNAシーケンシングにより確認し、既報のα10DNA配列(Camper et al., 1998)と比較した。α11IドメインをPCRで生成した場合には、ヒトインテグリンα11のcDNAを鋳型として用いた。
【0100】
αIドメインの発現及び精製− E. coli BL21のコンピテントセルを、タンパク質産生用のプラスミドで形質転換した。100μg/mlのアンピシリンを含む500mlのLB培地(Biokar)に、野生型又は変異型のBL21/palの一晩培養物50mlを播種し、懸濁物のO.D.600が0.6〜1.0になるまで37℃で培養物を増殖させた。細胞をIPTGによって誘発し、典型的には室温で更に4時間から6時間成長させた後、遠心分離によって回収した。ペレット状にした細胞をPBS(pH7.4)に再懸濁し、超音波処理によって溶解し、その後、Triton X-100を加え、終濃度2%とした。氷上で30分間インキュベートした後、懸濁物を遠心分離し、上清をプールした。グルタチオンセファローズ(登録商標)4B(Amersham Pharmacia Biotech)をライセートに加え、穏やかに攪拌しながら30分間室温でインキュベートした。次いで、ライセートを遠心し、上清を除去し、融合タンパク質が結合したグルタチオンセファローズ(登録商標)4Bを使い捨てのクロマトグラフィーカラム(Bio-Rad)に移した。カラムをPBSで洗浄し、融合タンパク質を30mMの還元グルタチオンを用いて溶離した。
【0101】
精製した組み換え及びグルタチオンタグ化αIドメインを、SDS及び非変性ポリアクリルアミドゲルの電気泳動(PAGE)で分析した。タンパク質濃度をブラッドフォード法(Bradford, 1976)で計測した。産生された組み換えαIドメインは長さ227アミノ酸で、α1インテグリン全体のアミノ酸123〜338に相当し、α2Iドメインは長さ223アミノ酸で、α2インテグリン全体のアミノ酸123〜338に相当するものであった。α1Iドメイン及びα2Iドメインのカルボキシル末端は、それぞれ非インテグリンアミノ酸を10個及び6個含有していた(Kapyla et al., 2000, Tulla et al., 2001)。産生した組み換えα10Iドメインは長さ197アミノ酸で、α10インテグリン全体のアミノ酸141〜337に相当するものであった。アミノ末端は2つの非インテグリン残基を含み、α10Iのカルボキシ末端は6つの非インテグリンアミノ酸を含んでいた(Tulla et al., 2001)。組み換えα11Iドメインは、全体で204個のアミノ酸を有する。アミノ末端には、残基159〜354のα11Iの前に、2つの付加的な残基が存在し、カルボキシル末端には、6つの付加的なアミノ酸が存在する。組み換えα11Iドメインは、発現及び精製時の内在性プロテアーゼ活性により、不純物として一定のGSTを含有する(Zhang et al., 2003)。組み換えαIドメインを、コラーゲン結合実験のためのGST融合タンパク質として用いた。
【0102】
部位特異的変異導入− pGEX−2T又はpGEX−4T−3ベクターへのαIドメインcDNAの部位特異的変異導入は、PCRを用いて、StratageneのQuickChange Mutagenesis Kitの使用説明書に従って行なった。変異の存在はDNAシーケンシングにより確認した。続いて、変異導入した構築物を、組み換えタンパク質の産生のため、大腸菌株BL21へと形質転換した(Kapyla et al., 2000; Tulla et al., 2001)。
【0103】
実施例3
α2Iドメインの突然変異体の生成
α2Iドメイン中の部位特異的変異導入は、Stratagene QuickChange mutagenesis kitを用いて、製造者の使用説明書に従って行なった。両DNA鎖に所望の変異を有するPCRプライマーを設計した。PCRはPfuポリメラーゼ(Stratagene)を用いて行なった。これは68℃において、α2Iドメイン配列を含むGEX−2Tベクター(Amersham Pharmacia Biotech)全体のコピーを1つ作製する。PCR産物をDpnlで処理した。これはメチル化DNAのみを切断する。その後、所望の変異を有するPCR産物のDNA鎖をペア化した。
【0104】
実施例4
αIドメイン結合アッセイ
αIドメインの固相結合アッセイ− 5μg/cm2(15μg/ml)コラーゲン又は20μg/mlの3本鎖らせんペプチドを含む0.1mlのPBSに、96ウェル高結合性マイクロタイタープレート(Nunc)を4℃で一晩暴露することにより被覆した。ブランク用のウェルはDelfia(登録商標)Diluent II(Wallac)及びPBSの1:1溶液でコーティングした。全ウェル上の残余タンパク質吸着部位を、Delfia(登録商標)Diluent II(Wallac)及びPBSの1:1溶液0.1mlでブロックした。組み換えタンパク質(αI-GST)をDelfia(登録商標)アッセイバッファーで所望の濃度とし、前記の被覆ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。次に、ユーロピウム標識抗GST抗体(Wallac)を加え(典型的には1:1000)、混合物を室温で1時間インキュベートした。上記のインキュベーションは何れも、2mMのMgCl2存在下で行なった。Delfia(登録商標)強化溶液(enhancement solution)(Wallac)を各ウェルに加え、ユーロピウム信号を時間分解蛍光測定法(Victor2 multilabel counter, Wallac)により測定した。少なくとも3つの平行するウェルで分析した。一部の場合では、多少の変更を加えた固相アッセイを用いた。これはTulla et al, 2001に従って行なった。これはユーロピウム標識抗GST抗体の代わりに、抗GST及びユーロピウム標識Gタンパク質を用いる。
【0105】
実施例5
細胞接着アッセイ
野生型α2インテグリンを発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を細胞接着アッセイに用いた。0.1mg/mlのシクロヘキシミド(Sigma)を含む無血清培地に細胞を懸濁させ、この細胞と共に化合物をプレインキュベートしてからウェルに移送した。細胞(150000/ウェル)を、コラーゲンI型被覆ウェルに、(阻害化合物の存在下及び不在下で)37℃で2時間付着させた後、非接着細胞を除去した。新鮮な無血清培地を加え、cell viability kit(Roche)を用いて、製造者のプロトコルに従って生細胞を検出した。
【0106】
実施例6
分子モデリング
発見された四環系ポリケチド及びスルホンアミドα2インテグリンIドメインモジュレータの結合様式は、本研究以前は公知ではなかった。本発明者等は、標準的及び独自仕様の分子モデリングツールを実験による証拠と併用し、α2インテグリンリガンド結合(MIDAS)部位と複合体形成した四環系ポリケチド及びスルホンアミドの生物活性高次構造を同定した。MIDAS構造はBODILを用いてモデリングした。モデリングしたMIDAS構造を用い、構造的及び機能的に多様なモジュレータを重ね合わせた。モデリングシミュレーションにおいて、本発明者等はMIDASの化学的及び構造的特徴を考慮しながら、モジュレータの立体座標空間を探索した。この過程によって、各リガンド構造にとって好ましい結合高次構造が与えられた。次いで、この情報を用いて、α2インテグリンMIDASを介してコラーゲン結合を調節する小分子に必要な相互作用の構造上の基準を導き出した。
【0107】
分子モデリングの出発点として用いたIドメインの開放形(PDB ID:1dzi)及び閉鎖形(PDB ID:1aox)の結晶構造は、Protein Data Bankから検索した。BODILソフトウェア中でアミノ酸側鎖高次構造を変化させ、BODILロータマーライブラリーを用いてタンパク質高次構造のアンサンブルを作成した。MIDASに結合した鍵となる構造水は、結晶構造の一部としてドッキングシミュレーションに含ませた。タンパク質構造及び水分子の全ての水素原子は、Sybyl6.9.1(rotate)を用いて追加した。SYBYL6.9.1のFlexX及びBODILの自動回転−並進方法を用いてドッキングを行ない、これによって、SY-BYL6.9.1のComfort/Concordを用いて作成した非束縛性のリガンド高次構造をドッキングした。FlexXスコアリングに加え、Xscoreを用いて、ドッキングしたリガンド構造の各々について、結合の自由エネルギーを評価した(Wang et al., 2002)。
【0108】
実施例7
インシリコで同定した化合物によるコラーゲン結合の阻害
実施例4に記載したαIドメインアッセイを用いて、α1Iドメイン及びα2Iドメインへのコラーゲン結合の阻害について、実施例1で合成した四環系ストレプトミセス化合物をスクリーニングした。四環系ポリケチドL3015は、I型コラーゲンへのα2Iドメインの結合に対する比較的強力な阻害剤であった。I型コラーゲンへのα2Iドメインの結合にたいする用量依存的な阻害が示された(濃度0.003mMで約50%の阻害;図6A)。L3015は、α1Iドメイン及びα2Iドメインの双方のI型及びIV型コラーゲンへの結合を阻害できた(図6B)。
【0109】
RKKペプチドはα2IドメインのMIDASへ結合することが知られている(Ivaska et al., 1999)。L3015の存在下でのインテグリンα2IドメインのRKK−ペプチドへの結合を、実施例4に記載するユーロピウム標識Gタンパク質アッセイで試験した。その結果は、L3015がMIDASのRKKペプチドを置換可能であることを示している。
【0110】
更に、ロバスタチン存在下でのα1Iドメイン及びα2IドメインのコラーゲンIへの結合を、実施例4に記載するユーロピウム標識抗GSTアッセイで試験した。ロバスタチンは、白血球のインテグリンαIドメイン(例えば、αL Iドメイン)のアロステリック阻害剤であり、ロバスタチンの結合部位は、存在しうるモジュレータのオプション的な結合部位を表す。しかし、ロバスタチンは、αIドメインのコラーゲンI型への結合に対して何らの影響も有しないことが示された(図7A)。これらの生物学的試験により、四環系ポリケチドによるMIDAS表面上の直接的なブロックによりコラーゲン受容体αIドメインが阻害されるという更なる証拠が得られた。
【0111】
3次元モデルを利用して、ポリケチドファミリーの他の化合物を試験した。これらの化合物は、実施例4に記載するユーロピウム標識抗GSTアッセイで試験した。四環系ポリケチドL3007、L3008、L3009はI型コラーゲンに結合するα2Iドメインを阻害可能であった(図8A)。最も活性の高い構造の一つであるL3009の一つの用量依存的な阻害効果が、図8Bに示されている。
【0112】
L3009の阻害効果を、実施例4の記載と同様に、コラーゲン結合インテグリンαIドメイン、α1I、α2I、α10I、及びα11Iの全てについて試験した。L3009は、濃度0.05mMにおいて、4つ全てのαIドメインのコラーゲンI結合を阻害できた(図9)。
【0113】
細胞表面上のインテグリンヘテロ二量体の機能を調べるために、最も強力な化合物L3009を、実施例5に記載した機能細胞接着アッセイで更に試験した。この目的のため、CHO細胞をトランスフェクトして、α2β1インテグリンを唯一のコラーゲン受容体として表面に発現させた。
【0114】
L3009は、EC50値が約20μMで、I型コラーゲンへの細胞接着の強力な阻害剤であった(図10A)。
【0115】
インシリコモデルを用いて、新規なコラーゲン受容体モジュレータを同定した。スルホンアミド誘導体である化合物434及び化合物161は、この方法により同定した新規な分子の例である。化合物434を、実施例5に記載した機能細胞接着アッセイで試験した。図10B及び表4には、化合物434がコラーゲンI型への細胞接着の強力な阻害剤であることが示されている。
【0116】
【表8】

【0117】
実施例8
インテグリンα2Iドメイン突然変異体
モジュレータ結合におけるα2β1インテグリンα2Iドメインのアミノ酸の役割を確認するために、部位特異的変異導入アプローチを用いた。選択したアミノ酸変異を、実施例3の記載と同様に導入した。α2Iドメイン領域内の単一アミノ酸を変異させ、変異α2β1インテグリンを発現するCHOを用いた接着実験で試験した。野生型α2β1発現細胞をコントロールとして用いた。細胞接着実験を実施例5の記載と同様に行なった。試験の結果、α2Iドメインの3つのアミノ酸(即ち、チロシン285、ロイシン286及びロイシン296)が、L3008の阻害機能にとって重要であることが明らかとなった。これらのアミノ酸の変異は、α2β1を発現するCHO細胞のコラーゲンIへの結合における四環系ポリケチドL3008、スルホンアミド化合物161及びスルホンアミド化合物434の阻害効果を顕著に減少させた(データは示さず)。
【0118】
実施例9
インビトロでの阻害剤の抗癌剤としての能力を示すための細胞浸潤アッセイ
細胞外マトリックス基底膜と相互作用する能力は、悪性癌細胞表現型及び癌転移において必須である。α2β1レベルは腫瘍化した細胞において上方制御されていることが知られている。過剰発現により、細胞外マトリックスへの細胞接着及び移動並びに細胞外マトリックスを介した浸潤が制御される。コラーゲン等の細胞外マトリックス構成要素とα2β1との間の相互作用をブロックすることにより、インビトロで癌細胞の移動及び浸潤をブロックすることが可能である。α2β1を内在的に発現する前立腺癌細胞(PC−3)を用いて、本発明のモジュレータによるインビトロでの抗癌剤としての能力を試験した。
【0119】
実験方法。BD Biocoat浸潤インサート(BD Biocoat invasion insert:BD Biosciences)を用いて、マトリゲル中のPC-3細胞(CRL-1435、ATCC)の浸潤を試験した。インサートは−20℃で保存した。実験前にインサートを室温に調整した。500μlの無血清培地(ハムF12K培地、2mM L−グルタミン、1.5g/lの炭酸水素ナトリウム)をインサートに加え、セルインキュベータ内で、37℃で2時間かけて再水和した。残存する培地をアスピレートした。PC-3細胞を剥離し、ペレット化させ、無血清培地に懸濁させた(50000細胞/500μl)。300μlの細胞懸濁液を、本発明の阻害剤が存在しない状態(コントロール)又は存在する状態でインサートに加えた。インサートを24ウェルプレート上に播種した;各ウェルは、化学誘引物質としてウシ胎児血清3%を含有する700μlの細胞培養培地を含む。細胞をセルインキュベータ内で37℃にて72時間かけて浸潤させた。インサートを700μlのPBSで洗浄し、4%のパラホルムアルデヒドで10分間かけて固定した。パラホルムアルデヒドをアスピレートし、細胞を700μlのPBSで洗浄し、インサートをヘマトキシリンと共に1分間インキュベーションすることにより染色した。インサートを700μlのPBSで洗浄することにより染料を除去した。インサートを乾燥させた。固定された浸潤した細胞を顕微鏡下で計算した。浸潤%を、コントロールとの比較として計算した。
【0120】
この細胞浸潤アッセイをインビトロでの癌転移モデルとして用いた。スルホンアミド分子が、インビトロで腫瘍細胞の浸潤を阻害することが示された(表4)。マイクロモル以下の濃度であっても浸潤を阻害する構造もある。
【0121】
実施例10
血小板機能分析機PFA−100を用いたα2β1モジュレータの抗血栓能の実証
血小板機能分析機PFA−100を用いてα2β1モジュレータの潜在的な抗血栓症効果を示した。PFA−100は、小血管損傷後の一次止血を促進する、高せん断誘導装置である。この装置は、コラーゲンとエピネフリンでコーティングした生物活性膜を含む試験カートリッジを有する。定常的な真空状態の下、抗凝集全血サンプルを毛細管に通した。膜上の血小板アゴニスト(エピネフリン)及び高せん断速度により血小板の凝集が活性化され、安定な血小板血栓による開口の閉塞が生じた。開口の完全な閉塞を達成するために必要な時間を、「閉塞時間」と定めた。良好な各化合物を全血サンプルに添加し、PFA−100で閉塞時間を計測した。コントロールサンプルと比較して閉塞時間が増加した場合、前記良好な化合物は抗血栓活性を有すると示唆された。
【0122】
実験方法。静脈穿刺によりドナーから抗凝集物質として3.2%の緩衝クエン酸ナトリウムを含んだ回収チューブに血液を回収した。血液を15mLチューブに分注し、阻害化合物又はコントロール(DMSO)の何れかで処理した。サンプルを回転させながら10分間室温に保ち、その後その血液の閉塞時間を計測した。
【0123】
機器の測定範囲を超える結果(300秒を超える)が得られた場合には、300秒の値を割り当てた。各処理について平均偏差及び標準偏差を計算した。得られたデータにスチューデントt検定を施した。
【0124】
化合物434が、血液の閉塞時間を増加させることが示された(図12)。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1(Figure 1)は、分子のコア構造のドッキング及びIドメインMIDASの内部の四環系化合物の鍵となる分子間相互作用を示す。
【図2】図2A及び2B(Figures 2A and 2b)は、α2Iドメインの「開放」(黒色)及び「閉鎖」(灰色)高次構造を示す。重ね合わせ(superposition)は、マグネシウムイオン(黒球)に配位結合した2つのセリン残基(153及び155;球棒)に基づく。「開放」高次構造では、Thr221は金属イオンに配位結合するのに対し、閉鎖高次構造にはこの相互作用が存在しない。図2AはMIDAS上方から見た図を示し、図2Bは側面から見た図を示す。
【図3】CへリックスにおけるTyr285の位置により、阻害リガンドの結合高次構造が安定化される(結合した四環系ポリケチドリガンド全てを線モデルで示す)。
【図4】インテグリンα2Iドメイン内部の鍵となる水分子の位置。ドッキングシミュレーションの結果から導き出されたMIDASアミノ酸を、黒色(結合した四環系ポリケチドから4Å以内)、灰色(結合した四環系ポリケチドから4〜8Åの距離)、又は白色(結合した四環系ポリケチドから8Åを超える)で色分けして示す。
【図5】コラーゲン結合性の小分子モジュレータのアンサンブルがα2IドメインMIDAS内に占める形状及び大きさ。ドッキングシミュレーションの結果から得られるMIDASアミノ酸を、黒色(結合した四環系ポリケチドから4Å以内)、灰色(結合した四環系ポリケチドから4〜8Åの距離)、又は白色(結合した四環系ポリケチドから8Åを超える)で色分けして示す。
【図6A】図6A(Figure 6A)は、タイプIコラーゲンへのα2Iドメイン(200ng)の結合に対する四環系ポリケチドL3015の用量依存的な効果を示す。
【図6B】図6B(Figure 6B)は、タイプI及びタイプIVコラーゲンへのα1I及びα2Iドメイン(800ng)の結合に対する四環系ポリケチドL3015の効果を示す。
【図7A】図7A(Figure 7A)は、α1I及びα2IドメインのタイプIコラーゲンへの結合に対するロバスタチンの効果を示す。
【図7B】図7B(Figure 7B)は、α2IドメインのRKKペプチド(約0.5mM)への結合に対する四環系ポリケチドL3015の効果を示す。
【図8A】図8A(Figure 8A)は、α2Iドメイン(800ng)のタイプIコラーゲンへの結合に対する四環系ポリケチドL3007、L3008及びL3009の効果を示す。
【図8B】図8B(Figure 8B)は、4タイプIコラーゲンに対するα2Iドメイン(800ng)の結合を四環系ポリケチドL3009の濃度の関数として示す。
【図9】図9(Figure 9)は、四環系ポリケチドL3009による、α1I、α2I、α10I及びα11IドメインのタイプIコラーゲンへの結合の阻害を示す。
【図10A】図10A(Figure 10A)は、四環系ポリケチドL3009によるCHO−α2細胞のコラーゲンタイプIへの接着の用量依存的な阻害を示す。
【図10B】図10B(Figure 10B)は、スルホンアミド誘導体である化合物434による阻害を示す。
【図11A】本研究で報告する化合物内に存在する四環系の小分子の構造のMIDAS内での好ましい位置を示すα2Iドメインの構造。
【図11B】Iドメインの閉鎖形(非コラーゲン結合性)内の潜在的なIドメインリガンドの近傍のアミノ酸配列。半径4Å以内の鍵となる残基を黒色、4〜8Åの範囲内の残基を灰色、8〜12Åの範囲内の残基を白色で示す。
【図12】図12(Figure 12)は、化合物434が血液の閉塞時間を上昇させることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸座標(amino acid coordinates)Asp151、Ser153、Ser155、Thr221、Asp254、Tyr285、Leu286及びLeu296により特徴付けられる、α2β1インテグリンIドメインのMIDASの精巧なインシリコ(in silico)モデル。
【請求項2】
アミノ酸座標Asn154、Gly218、Asp219、Gly255、Glu256、Asn289、Leu291及びAsp292により特徴付けられる、請求項1記載のモデル。
【請求項3】
表1に示すアミノ酸座標により特徴付けられる、請求項2記載のモデル。
【請求項4】
鍵となる水分子W514、W699、W701、W700、W668、W597、W644及びW506によって特徴付けられる、請求項1〜3の何れか一項に記載のモデル。
【請求項5】
α2β1インテグリンを調節する化合物を同定する方法であって:
(a)α2β1Iドメイン含有インテグリンの原子座標に、3次元分子モデリング用アルゴリズムを適用して、前記インテグリンの金属イオン依存結合部位(MIDAS)の空間座標を決定する工程;及び
(b)保存された一組の候補化合物の立体座標を、工程(a)で決定された前記空間座標に対するインシリコ(in silico)スクリーニングにかけ、前記インテグリンのMIDASに結合可能な化合物を同定する工程;
を含んでなる方法。
【請求項6】
(c)前記モデルで使用されたアミノ酸残基を含有する、インテグリンα2Iドメインの断片を提供する工程;
(d)前記断片を前記候補モジュレータに接触させる工程;及び
e)前記ペプチド断片の前記潜在的阻害剤との結合能力を決定する工程
を更に含んでなる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記化合物が、インテグリン阻害剤である、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
請求項5〜7の何れか一項に記載の方法により同定又は取得される、α2β1Iドメイン含有インテグリン調節化合物。
【請求項9】
一般式(I)を有する
【化1】

(式中、
Cは、ジアルキルアミノ、NO2、CN、アミノカルボニル、モノアルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルカノイル、オキサゾル−2−イル、オキサゾリルアミノカルボニル、アリール、アロイル、アリール−CH(OH)−、アリールアミノカルボニル、フラニル、グアニジニル−(CH2Z−N(R’)−、Het−(CH2Z−N(R’)−、Het−CO−N(R’)−、Het−CH(OH)−及びHet−CO−からなる群より選択され、ここで、アリール、アロイル及びフラニル部分は置換されていてもよく、Hetは、N、O及びSから選択される1又は2以上のヘテロ原子を有する、置換されていてもよい4員〜6員の複素環式環であり、R’は水素又はアルキルであり、zは1〜5の整数であり;
Aは、式
【化2】

を有する基
(式中、
3及びR4はそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、アリール、アルコキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニル、シアノ、トリフルオロメチル、アルカノイル、アルカノイルアミノ、トリフルオロメトキシ、置換されていてもよいアリール基を表わす)であり;
Bは、水素、アルキル、アルカノイル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニル、アルコキシカルボニルアルキル、アミノアルキル、モノ−又はジ−アルキルアミノアルキル又はHet−アルキルであり、ここでHetは上で定義された通りであり;
但し、
(iv)RCがジアルキルアミノの場合、RBは水素又はアルキルではなく;
(v)RAが式(C)の基であり、R3が水素であり、R4がメトキシである場合、RCはHet−CO−N(R’)−ではなく;
(vi)RAが式(C)の基であり、R3及びR4が水素又はハロゲンである場合、RCはニトロではない)、
請求項8記載の化合物。
【請求項10】
インテグリン阻害剤である、請求項7記載の化合物。
【請求項11】
4’−フルオロビフェニル−3−スルホン酸(4−ベンゾイルフェニル)アミドである、請求項8記載の化合物。
【請求項12】
4’−フルオロビフェニル−3−スルホン酸(3−ベンゾイルフェニル)アミドである、請求項8記載の化合物。
【請求項13】
4’−フルオロビフェニル−3−スルホン酸(α−ヒドロキシベンジルフェニル)アミドである、請求項8記載の化合物。
【請求項14】
2−オキソ−イミダゾリジン−1−カルボン酸{4−[(4’−フルオロ−ビフェニル−3−スルホニル)−メチル−アミノ]−フェニル}−アミドである、請求項8記載の化合物。
【請求項15】
四環系ポリケチドである、請求項8記載の化合物。
【請求項16】
メチル2−エチル−2,5,7,12−テトラヒドロキシ−4,6,11−トリオキソ−1,2,3−トリヒドロナフタセンカルボキシレートの式を有する、請求項14記載の化合物。
【請求項17】
メチル2−エチル−4,5,7,12−テトラヒドロキシ−6,11−ジオキソナフタセンカルボキシレートの式を有する、請求項14記載の化合物。
【請求項18】
メチル4,5,7,12−テトラヒドロキシ−2−(メチルエチル)−6,11−ジオキソナフタセンカルボキシレートの式を有する、請求項14記載の化合物。
【請求項19】
メチル2−エチル−4,5,7−トリヒドロキシ−6,11ジオキソナフタセンカルボキシレートの式を有する、請求項14記載の化合物。
【請求項20】
請求項8〜18の何れか一項に記載の化合物の使用であって、血栓症、血管疾患、癌、線維症及び炎症の治療用の医薬組成物を製造するための使用。
【請求項21】
前立腺癌、胃癌、膵又は子宮癌、又はメラノーマの治療用、並びに腫瘍血管形成の予防用の医薬組成物を製造するための、請求項19記載の使用。
【請求項22】
転移の予防又は治療用の医薬組成物を製造するための、請求項10記載の使用。
【請求項23】
脳卒中、心筋梗塞、糖尿病性網膜症又は網膜静脈閉鎖症の治療用の医薬組成物を製造するための、請求項19記載の使用。
【請求項24】
線維症及び骨折に関連する炎症疾患の治療用医薬組成物を製造するための、請求項19記載の使用。
【請求項25】
血栓症、癌、線維症及び炎症を治療する方法であって、かかる治療を必要とする患者に、請求項8〜18の何れか一項に記載の化合物を有効量投与することによる、方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−509939(P2009−509939A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530558(P2008−530558)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/FI2006/050396
【国際公開番号】WO2007/031608
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(500021583)バイオティ セラピーズ コーポレイション (7)
【Fターム(参考)】