説明

シフトダウン制御装置

【課題】補助ブレーキ作動中のシフトダウン時における減速度の抜けを解消するシフトダウン制御装置を提案する。
【解決手段】オートクルーズコントロール中に補助ブレーキを作動させた後(S3)、シフトダウン条件が成立したときに(S7−S8)、機械式自動変速機がシフトダウン動作を開始して終了するまでの変速時間中に、主ブレーキを作動させ(A)、減速度の抜けを補填する。すなわち、クラッチが切れて補助ブレーキが利かなくなる間を、主ブレーキの制動力にて補填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルーズコントロールなどで補助ブレーキにより減速を行うときのシフトダウン制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のトラックなど大型車両は、適度な車間距離を保って定速走行を行うオートクルーズコントロール(ACC)の機能を備えたものが増えている。このACCでは、車間距離が短くなってくると排気ブレーキ等の補助ブレーキを作動させて減速し、適度な車間距離を保つように制御する(特許文献1)。
【0003】
その減速に使用される補助ブレーキは、高速道路などを走行中で変速機(トランスミッション)が高い段数にシフトアップされていると、ギヤ比の関係から、あまり減速作用を得られないことがある。そこで、近年普及してきた機械式自動変速機を備えた車両では、補助ブレーキの作動にあたって自動的にシフトダウンを行い、補助ブレーキの減速作用を高めるシフトダウン制御が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−263098号公報
【特許文献2】実開平06−006815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
補助ブレーキ作動中にシフトダウンを行うとき、機械式自動変速機ではクラッチを切って変速を実行することになるが、そのクラッチを切っているシフトダウン動作の間、すなわち変速時間中は、一時的に補助ブレーキが利かなくなり、いわゆる「減速度の抜け」が生じる。この抜けが運転者に違和感を与え、また、目標車速まで減速するのにかかる距離や時間にも影響している。
【0005】
本発明はこのような技術背景に鑑みたもので、機械式自動変速機のシフトダウン時における減速度の抜けを解消する仕組みを工夫するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、補助ブレーキの作動に伴うシフトダウンを実行可能な機械式自動変速機を備えた車両のシフトダウン制御装置として、前記機械式自動変速機がシフトダウン動作を開始して終了するまでの変速時間中に、主ブレーキを作動させるようにしたシフトダウン制御装置を提案する。
【発明の効果】
【0007】
上記提案に係るシフトダウン制御装置は、減速度の抜けを生じる変速時間中において主ブレーキを作動させ、その制動力により減速度を得るようにしている。すなわち、減速度の抜けを生じる間を主ブレーキにより補って、減速度を継続させるものである。これにより、運転者の違和感を解消することができると共に、結果的に目標速度までの減速にかかる距離や時間も短縮することができるので、ACCによる車間距離制御等にも好都合である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1に、本発明に係るシフトダウン制御装置を適用した車両について、要部構成例を示している。
【0009】
トラック等の大型車両1は、補助ブレーキとして、エンジン2の排気通路に配設した排気シャッタによる排気ブレーキ3を備えており、そのシャッタ開閉を制御する補助ブレーキの制御装置がエンジンECU(電子制御ユニット)4に組み込まれている。また、エンジン1の出力を車輪に伝達する変速機5は、自動変速の制御装置である自動変速ECU6により制御される機械式自動変速機で、上述の特許文献2に記載されているように、車速等の条件に応じて補助ブレーキ3の作動に伴うシフトダウンを実行することが可能となっている。
【0010】
この車両1の主ブレーキとしては、ブレーキECU7により制動力を制御可能なドラムブレーキなどが使用されている。当該車両1にはさらに、ACC機能を実行するオートクルーズECU8が備えられており、該オートクルーズECU8は、先行車等の前方障害物を検知するミリ波レーダ等の車間距離レーダ9に従って、先行車との車間距離や相対速度、方位を判断する。
【0011】
これら各ECU4,6,7,8、及びレーダ8は、CAN(Controller Area Network)を介して交信する。
【0012】
シフトダウン制御装置は、別途専用のECUを設けるなどしてもよいが、本実施形態の場合はオートクルーズECU8において実現されている。すなわち、オートクルーズECU8がプログラムに従いシフトダウン制御装置として動作する。このシフトダウン制御装置の機能も含んだオートクルーズECU8は、エンジンECU4、自動変速ECU6及びブレーキECU7と共に図2のフローチャートに示す制御フローを実行する。
【0013】
まず最初にオートクルーズECU8は、運転者のACCスイッチ操作等でACCの実行が選択されるか否かを監視しており、ACCが選択されると、ACCシステムを立ち上げる(ステップS1)。そして、レーダ9により、先行車との車間距離、相対速度を検出する(ステップS2)。これら情報を得たオートクルーズECU8は、図3のACCマップに基づいて、補助ブレーキ作動条件が成立するか否か判定する(ステップS3)。
【0014】
図3のACCマップは、レーダ9から得られる先行車との車間距離及び相対速度の情報を基に、主ブレーキ、補助ブレーキ、シフトダウン、エンジンブレーキ、あるいは加速のいずれを実行するか決定するためのマップで、設定車間距離と実車間距離との差を横軸に、相対速度を縦軸にとってある。設定車間距離は予め決められた例えば40mの値で、レーダ9により測定された実車間距離が40mであれば、横軸はゼロとなり、設定車間距離に対し実際の車間距離が遠ければ+(右)に、近ければ−(左)に寄っていく。縦軸は、先行車との相対速度が等速であればゼロで、+が接近(上)、−が離間(下)である。したがって、マップ中、左上に行くほど先行車に急接近していることになり、その程度に合わせて強いブレーキに切り換えていく。その中で、図中網掛けで示してある領域が、補助ブレーキ+シフトダウンを実行する判定領域である。なお、各制御切換の境界部分は、ヒステリシス特性をもたせることができる。
【0015】
オートクルーズECU8は、このACCマップに基づいた補助ブレーキ作動条件判定の結果、条件にあてはまらない場合は、補助ブレーキ3及び主ブレーキを解除とし(ステップS4,S5)、レーダ9からの情報に従うエンジン制御をエンジンECU4と共に実行する(ステップS6)。
【0016】
一方、補助ブレーキ作動条件が成立していれば、オートクルーズECU8は、レーダ9から得られた車間距離及び相対速度に基づいて、シフトダウン実行条件が成立するか否か判定する(ステップS7)。このときには図3のACCマップにおいて、図中の網掛けで示す補助ブレーキ+シフトダウンの領域か否かを判定する。その結果、シフトダウン実行条件が成立していれば、先にシフトダウン済みか否か、すなわち既に補助ブレーキ+シフトダウンで減速の最中であるか否かを確認する(ステップS8)。また、シフトダウン実行条件が成立していなかった場合も、オートクルーズECU8は、既にシフトダウン済みか否かを確認し(ステップS9)、シフトダウン済みであった場合は、シフトアップ制御を自動変速ECU6と共に実行する(ステップS10)。このときのシフトアップ制御は、シフトダウンする前に自動変速ECU6が指示していた元の段数に戻す制御である。このシフトアップ制御後、又はステップS9でシフトダウン済みでなかった場合は、主ブレーキ作動条件の成立が判定される(ステップS11)。
【0017】
オートクルーズECU8は、シフトダウン実行条件が成立し且つシフトダウン済みでなかった場合は(ステップS7,S8)、自動変速ECU6及びブレーキECU7と共に機械式自動変速機5のシフトダウンを実行する(ステップA)。
【0018】
このシフトダウン制御において、オートクルーズECU8は、機械式自動変速機5がシフトダウン動作を開始して終了するまでの変速時間中に、主ブレーキを作動させ、減速度の抜けを補填する。その作動イメージについて、図4に示している。
【0019】
図4は、横軸に時間、縦軸に減速度をとって示したイメージ図で、上側半分が減速度の抜けを生じる従来技術、下側半分がこれを補填した本実施形態の場合である。シフトダウンする前の変速前時点に比べて、シフトダウンした後の変速後時点では減速度が高くなるが、そのシフトダウンに要する動作の時間、すなわちクラッチを切って、変速し、クラッチをつなげるまでの変速時間においては、補助ブレーキ3が利かなくなる(従来)。そこで、本実施形態では、その変速時間において主ブレーキを作動させ、その制動力により、点線で示す如く減速度を補填する。その際、シフトダウン前の減速度から、より利きの強いシフトダウン後の減速度へ、ぎくしゃくすることなく滑らかにつながるように、主ブレーキの制動力を調整する。
【0020】
すなわち、シフトダウンする前の機械式自動変速機5の段数及びエンジンECU4から得られるそのときのエンジン回転速度に基づいて、オートクルーズECU8は、図5に一例を示すような補助ブレーキ減速度マップをアクセスし、補助ブレーキ3による変速前減速度を演算する(ステップA1)。さらに、オートクルーズECU8は、同じく図5のような補助ブレーキ減速度マップを利用し、シフトダウンした後の機械式自動変速機5の段数及びシフトダウン後に予想されるエンジン回転速度に基づいて、補助ブレーキ3による変速後減速度を演算する(ステップA2)。
【0021】
シフトダウン後の予想エンジン回転速度は、シフトダウン前のエンジン回転速度から変速時間中の回転速度増加分を予測して加算した値である。これを加味したエンジン回転速度(横軸)と補助ブレーキ減速度(縦軸)の段数毎マップついて、図6に示す。一例として、シフト段数を12段から9段へシフトダウンするときの変速前減速度と変速後減速度とが示してある。シフトダウンと共に減速度はアップするが、変速中、つまりクラッチを切っている間にエンジン回転速度の増加分(一例として100〜200rpm程度)が生じるので、これに基づいて変速後減速度を決定する。オートクルーズECU8は、この図6のマップを段数毎にもち、該マップをアクセスすることで減速度を決定してもよい。
【0022】
変速前後の減速度を算出したオートクルーズECU8は、ブレーキECU7へ主ブレーキ作動の指令を出し(ステップA3)、その後に、自動変速ECU6へシフトダウンの指示を出してシフトダウンを実行する(ステップA4)。
【0023】
本実施形態ではこのように、シフトダウン動作の開始前に主ブレーキを作動させ始めるものとしている。大型車両に使用される空気圧を使用した主ブレーキシステムの場合、ブレーキECU7が主ブレーキ制御を開始してから実際に制動力が発生するまでに、数百ms程度の時間差がある。この遅延時間をオートクルーズECU8がパラメータとしてもち、該遅延時間を見越してシフトダウンよりも先に主ブレーキの作動指令を出すようにすることで、補助ブレーキ3から主ブレーキへの移行を運転者に感じさせないような滑らかな制御を実施することができる。
【0024】
シフトダウンの実行と並行してオートクルーズECU8は、主ブレーキ制動力の経過時間制御を行う(ステップA5)。すなわち、ステップA1の変速前減速度に相当する制動力で主ブレーキの作動を開始し、変速時間中に、ステップA2の変速後減速度に相当する制動力へ、主ブレーキの制動力を強くしていく制御を実行する。具体的には、ステップA1の変速前減速度と、シフトダウン動作を開始してからの経過時間と、機械式自動変速機5がシフトダウンに要する変速時間(好ましくはクラッチが切れている時間)と、ステップA1の変速前減速度及びステップA2の変速後減速度の差により決まる変数Kと、により、数式[主ブレーキ減速度(m/s)=変速前減速度(m/s)+K{経過時間(s)/変速時間(s)}]に基づいて、主ブレーキの制動力を制御するように、ブレーキECU7へ指示する。この式は、“経過時間/変速時間”が1になると終了し、オートクルーズECU8は、主ブレーキを解除とする(ステップA6)。変数Kは、図6のマップからわかるようなシフトダウン前後の減速度の違いに応じて決定される変数で、“経過時間/変速時間”が1となったときに“主ブレーキ減速度”が変速後減速度に一致するような値をもつように決められ、減速度差に応じて予めマッピングしたマップを記憶しておくようにしておけばよい。
【0025】
主ブレーキを解除とした後、又はステップS8でシフトダウン済みであった場合のオートクルーズECU8は、主ブレーキ作動条件成立を判定する(ステップS11)。この主ブレーキ作動条件は、レーダ9の情報に基づいて図3のACCマップから判定し、条件成立の場合は的確な主ブレーキ制動を実行し(ステップS12)、成立しない場合は主ブレーキを解除とする(ステップS13)。
【0026】
この後、オートクルーズECU8は、ACC終了条件が成立するか否か判定する(ステップS14)。ACCの終了条件は、ACCスイッチがオフを示している、フットブレーキの操作有り、故障検知などで、これが成立した場合は、ACCシステムを停止させる(ステップS15)。終了条件が成立しなければ、ステップS2から繰り返す。
【0027】
本実施形態において、オートクルーズECU8内に実現したシステム制御装置がステップAのシフトダウン制御を実行することで、減速度の抜けを生じる変速時間中において主ブレーキを作動させ、その制動力により減速度を補填できる。これにより、減速度を継続させることができ、運転者の違和感を解消することができると共に、結果的に目標速度までの減速にかかる距離や時間も短縮することができる。補助ブレーキによる減速効果を高めることによって、結果的に主ブレーキの使用頻度を減らすことにつなげられるので、主ブレーキのライニング摩耗を抑制することにもなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】シフトダウン制御装置を適用した車両の要部構成例を示した概略図。
【図2】本発明に係るシフトダウン制御を含んだACCの制御フローを示したフローチャート。
【図3】ブレーキ作動条件を判定するACCマップの例。
【図4】本発明に係るシフトダウン制御の概念を表した図。
【図5】補助ブレーキの減速度を算出するマップの例。
【図6】変速前後の減速度に関するマップの例。
【符号の説明】
【0029】
2 エンジン
3 補助ブレーキ
4 エンジンECU
5 機械式自動変速機
6 自動変速ECU
7 ブレーキECU
8 オートクルーズECU
9 レーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補助ブレーキの作動に伴うシフトダウンを実行可能な機械式自動変速機を備えた車両のシフトダウン制御装置であって、
前記機械式自動変速機がシフトダウン動作を開始して終了するまでの変速時間中に、主ブレーキを作動させることを特徴とするシフトダウン制御装置。
【請求項2】
前記シフトダウン動作の開始前に前記主ブレーキを作動させ始めることを特徴とする請求項1記載のシフトダウン制御装置。
【請求項3】
レーダから得られる先行車との車間距離及び相対速度に基づいて、前記シフトダウンの実行条件を判断することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のシフトダウン制御装置。
【請求項4】
前記シフトダウン前の段数及びエンジン回転速度に基づいて得られる前記補助ブレーキの変速前減速度に相当する制動力で前記主ブレーキの作動を開始し、
前記変速時間中に、前記シフトダウン後の段数及び予想エンジン回転速度に基づいて得られる前記補助ブレーキの変速後減速度に相当する制動力へ、前記主ブレーキの制動力を強くしていくことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のシフトダウン制御装置。
【請求項5】
前記予想エンジン回転速度は、前記シフトダウン前のエンジン回転速度から前記変速時間中の回転速度増加分を加算した値をもつことを特徴とする請求項4記載のシフトダウン制御装置。
【請求項6】
前記変速前減速度と、前記シフトダウン動作を開始してからの経過時間と、前記変速時間と、前記変速前減速度及び前記変速後減速度の差により決まる変数Kと、による数式[主ブレーキ減速度=変速前減速度+K(経過時間/変速時間)]に基づいて、前記主ブレーキの制動力を制御することを特徴とする請求項4又は請求項5記載のシフトダウン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−154606(P2009−154606A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332788(P2007−332788)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】