説明

ディーゼルエンジンの排気弁制御方法及び排気弁制御装置

【課題】 予混合燃焼モード時においてEGRガスを吸気と混合させることなく且つシリンダ内に拡散させることなくシリンダ内の上部に層状化して配置でき、従来よりも少ないEGRガス量(EGR率)でノッキングを効率よく抑制できるディーゼルエンジンの排気弁制御方法及び排気弁制御装置を提供する。
【解決手段】 運転状態に応じて通常燃焼モードと予混合燃焼モードとを切り替えるディーゼルエンジン6の排気弁制御方法であって、通常燃焼モードにおいては排気弁9を排気行程においてのみ開弁し、予混合燃焼モードにおいては上記排気弁9を排気行程のみならず、吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁する二段開弁制御を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機関の運転状態に応じて通常燃焼モードと予混合燃焼モードとを切り替えるディーゼルエンジンの排気弁制御方法及び排気弁制御装置に係り、特に、予混合燃焼モード時に排気弁の二段開弁制御を行うことで内部EGRするようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)の運転状態に応じて通常燃焼モードと予混合燃焼モードとを切り替えるディーゼルエンジンについて、図9を用いて説明する(特許文献1参照)。
【0003】
通常燃焼モードは、通常のエンジンと同様にピストン1の圧縮上死点近傍のタイミングで燃料噴射ノズル2から燃料をピストン頂面のキャビティ3内に噴射するモードである。図例では、BTDC10°〜0°までのいずれかのタイミングで燃料の噴射を開始している。この通常燃焼モードでは、燃料噴射の初期に噴射した燃料が着火遅れ期間を経て着火し、これによって形成された火炎の中に継続して燃料を噴射することで、この燃料が燃焼するという拡散燃焼の形態を採る。かかる拡散燃焼では、火炎の中に新たな燃料を噴射して燃焼させるため、元々酸素が少ないところに燃料を供給して燃焼させなければならず、スモークが発生し易い。そこで、以下に述べる予混合燃焼モードをエンジンの運転状態に応じて併用するようにしている。
【0004】
予混合燃焼モードは、通常燃焼モードよりも早期のタイミングで、且つ噴射終了まで燃料の着火が生じないようなタイミングで、燃料噴射ノズル2から燃料をキャビティ3内に噴射するモードである。図例では、BTDC50°〜20°のいずれかタイミングで燃料の噴射を開始している。この予混合燃焼モードでは、噴射された全ての燃料が空気と混合され、燃焼室内が略均一に希薄化された後に燃焼するため、燃料の周囲に酸素が十分存在する状態での燃焼となり、スモークの発生を抑制でき、且つ燃焼速度が比較的緩慢で燃焼温度も急激に上昇しないため、NOxの発生も抑制できる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−83119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンの高負荷運転時には、予混合燃焼モードを実行することは困難である。何故なら、高負荷時には多量の燃料が噴射されるため、燃料噴射ノズル2から燃料を通常よりも早期に噴射すると、ピストン1が上死点近傍に到達する前に着火が開始してしまい、ノッキングが激しくなり、エンジンが損傷し兼ねないからである。よって、エンジンの高負荷運転時には通常燃焼モードとし、低中負荷運転時に予混合燃焼モードに切り替えるようにしている。
【0007】
予混合燃焼モード時におけるノッキングの発生について本発明者が研究を重ねた結果、以下の事実が分かった。すなわち、本発明者の実験・シミュレーションによって、ピストン1の圧縮上死点近傍において、スキッシュクリアランスの周辺、すなわちピストン1の頂部のキャビティ3の外周部4の温度が他の部位よりも数十K程度上昇することが判明した。そして、上記ノッキングは、このピストン外周部4における温度上昇域での着火がトリガーとなって発生することが分かった。よって、この外周部4における燃焼反応を抑制すれば、予混合燃焼モードにおいて問題となっているノッキングを抑制することが可能となり、予混合燃焼モードの運転領域をより高負荷側に拡大することが可能となる。
【0008】
燃焼反応を抑制する技術としてEGR(排気ガス再循環)が知られているが、通常のEGRでは排気管と吸気管とをEGR管で連通させ、このEGR管を通じてEGRを行っているため、EGRガス(排気ガス)が吸気(空気)と混合された状態でシリンダ内に導入されてしまい、EGRガスのみをシリンダ内に導入することができない。よって、EGRガスと空気とが混ざったガスでノッキングを抑制することになり、ノッキングを防止するには有る程度以上のEGRガス量(EGR率)が必要となる。従って、その分シリンダ内への吸気量が減り、出力の低下やスモークの発生を招くため、予混合燃焼モードを高負荷運転域に広げることが制限されていた。
【0009】
また、別のEGR方法として、排気弁を排気行程のみならず吸気行程の初期から中期にかけて再び開弁することで排気ポート内の排気ガスの一部をシリンダ内に導入するタイプのEGR(内部EGR)も知られている。しかし、この内部EGRタイプにあっても、排気弁を吸気行程の初期から中期にかけて開弁しているので、シリンダ内に導入されたEGRガスが吸気行程においてシリンダ内にて生じる流動、特にタンブル流の影響を強く受け、シリンダ内にて吸気と混合されてしまうため、EGRガスと空気とが混ざったガスでノッキングを抑制することになる。よって、前段で述べたものと同様の問題が生じる。
【0010】
以上の事情を鑑みて創案された本発明の目的は、予混合燃焼モード時において、EGRガスを吸気と混合させることなく且つシリンダ内に拡散させることなくシリンダ内の上部に層状化して配置でき、従来よりも少ないEGRガス量(EGR率)でノッキングを効率よく抑制できるディーゼルエンジンの排気弁制御方法及び排気弁制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく創案された第一の発明は、運転状態に応じて通常燃焼モードと予混合燃焼モードとを切り替えるディーゼルエンジンの排気弁制御方法であって、通常燃焼モードにおいては排気弁を排気行程においてのみ開弁し、予混合燃焼モードにおいては上記排気弁を排気行程のみならず、吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁する二段開弁制御を行うようにしたものである。
【0012】
第二の発明は、運転状態に応じて通常燃焼モードと予混合燃焼モードとを切り替えるディーゼルエンジンの排気弁制御装置であって、排気弁の開閉時期及び期間を変更可能な排気弁駆動装置と、該排気弁駆動装置を制御する制御部とを有し、該制御部は、上記通常燃焼モード時には、上記排気弁を排気行程においてのみ開弁するように上記排気弁駆動装置を制御し、上記予混合燃焼モード時には、上記排気弁を排気行程のみならず吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁する二段開弁制御を行うように上記排気弁駆動装置を制御するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、予混合燃焼モード時に排気弁を吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけて開弁することで、排気ポート内の排気ガスの一部がシリンダ内に緩やかに取り込まれ、吸気と殆ど混合することなく且つ拡散することなくシリンダの上部に層状化した状態で配置されるため、少ないEGRガス量(EGR率)で効率的にノッキングを防止できる。よって、シリンダ内への吸気量を従来よりも増やすことができ、出力低下やスモークの発生を回避できるため、予混合燃焼モードを従来よりも高負荷運転域に広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
本実施形態に係る排気弁制御方法及び排気弁制御装置の概要を説明すると、図2に示すように、本方法及び装置は、燃料噴射ノズル2から噴射される燃料の噴射時期及び期間を、エンジン6の高負荷運転時には通常燃焼モード(既述)とし、低中負荷運転時に予混合燃焼モード(既述)に切り替える切換手段5を備えたディーゼルエンジン6に適用されるものであり、排気弁の開閉時期及び期間を変更可能な排気弁駆動装置7と、排気弁駆動装置7を制御する制御部8とを備えている。
【0016】
制御部8は、高負荷運転時に切換手段5が燃料噴射ノズル2から噴射される燃料の噴射時期及び期間を通常燃焼モードに切り替えたときには、排気弁を排気行程において通常通りに開弁するように排気弁駆動装置7を制御し、内部EGR(既述)を行わない。また、制御部8は、低中負荷運転時に切換手段5が燃料噴射ノズル2から噴射される燃料の噴射時期及び期間を予混合燃焼モードに切り替えたときには、図1に示すように、排気弁を排気行程のみならず吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁する二段開弁制御を行うように排気弁駆動装置7を制御し、内部EGRを行う。
【0017】
排気弁を吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけて開弁すると、図4に示すように排気ポート内の圧力がシリンダ内の圧力よりも僅かに高い期間の開弁となるため、排気ポート内の排気ガスの一部がシリンダ内に緩やかに取り込まれ、しかも図5に示すようにこの期間においては吸気ポートからシリンダ内への吸気が略終了しているため、シリンダ内に取り込まれたEGRガスが吸気(空気)と激しく混じり合うことなく且つシリンダ内に拡散することなくシリンダ内の上部に層状化した状態で配置される。
【0018】
空気が殆ど混ざっていないEGRガスがシリンダ内の上部に層状配置されると、ピストン1の圧縮上死点近傍にて温度上昇が生じてノッキングのトリガーとなるピストン1頂部のキャビティ3の外周部4における燃焼反応が、従来例よりも少ないEGRガス量(EGR率)で効率よく抑制される。よって、ノッキングを防止するために必要なEGRガス量(EGR率)が従来例よりも少なくて済むことになり、その分シリンダ内への吸気量が従来例よりも増え、EGR時の出力低下やスモークの発生が抑えられるので、予混合燃焼モードの運転領域を高負荷側に拡張できる。
【0019】
以下、本実施形態に係る排気弁制御方法及び排気弁制御装置を詳述する。
【0020】
本実施形態では、図2に示す排気弁駆動装置7に機械カムを有しない図6に示すカムレスバルブ駆動装置7aを用いている。この装置7aについては、詳しくは後述するが、排気弁9の開閉時期及び期間を制御部8からの指令に基づいて任意に変更できるようになっている。
【0021】
図2に示すように、エンジン6の吸気管10には、吸気量を測定するMAF(マス・エア・フロー)センサ11と、吸気管10の内圧を測定する吸気管内圧センサ12とが設けられ、エンジン6のシリンダボディ等には、ノッキングの強度を振動の大きさ等に基づいて測定するノッキングセンサ(加速度センサ等)13が設けられ、エンジン6の内部には、クランク軸の角度を検出するクランク角センサ14が設けられ、エンジン6の排気管15には、排気管15の内圧を測定する排気管内圧センサ16が設けられている。
【0022】
また、燃料噴射ノズル2から噴射される燃料噴射量を、目標噴射量等に基づいて求める燃料噴射量検出手段17が設けられ、エンジン6のシリンダ内圧を求めるシリンダ内圧検出手段18が設けられている。シリンダ内圧検出手段18は、上記クランク角センサ14及び上記吸気管内圧センサ12を有し、少なくとも吸気管内圧センサ12で測定した吸気管10の内圧に基づいて各クランク角におけるシリンダ内圧を算出するものである。算出は実験やシミュレーションにより得られたマップや近似式等に基づいて行う。また、シリンダ内圧検出手段18は、上記吸気管10の内圧の他、負荷(アクセル開度)やエンジン回転速度等も、シリンダ内圧を算出するためのパラメータとしてもよい。
【0023】
切換手段5は、燃料噴射ノズル2から噴射される燃料の噴射時期及び期間を、高負荷運転時には通常燃焼モードとし、低中負荷運転時には予混合燃焼モードに切り替えるものであるが、ここで高負荷か低中負荷かの判断は、MAFセンサ11で測定した吸気量と燃料噴射量検出手段17で求めた燃料噴射量とから算出した空気過剰率(空気過剰率λ=(供給A/F値)/(理論A/F値))が所定値(例えば2.5)以上のとき低中負荷と判断し、上記空気過剰率が上記所定値未満のとき高負荷と判断する。すなわち、空気過剰率が上記所定値以上なら低中負荷なので予混合燃焼モードとし、空気過剰率が上記所定値未満なら高負荷なので通常燃焼モードとする。
【0024】
制御部8は、通常燃焼モード時には、排気弁9を排気行程において通常通りに開弁するように排気弁駆動装置7を制御し、予混合燃焼モード時には、排気弁9を排気行程のみならず図1に示すように吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁する二段開弁制御を行うように排気弁駆動装置7を制御する。通常燃焼モード時における排気弁9の開閉時期及び期間については通常のエンジンと同様であるので説明を省略し、予混合燃焼モード時における排気弁9の上記二段開弁制御について以下図3を用いて説明する。
【0025】
先ず、クランク角センサ14によって燃料噴射時のクランク角度を求め、噴射量検出手段17によって燃料噴射量を求め、これらの値に基づいて現在の燃料噴射の時期および量が予混合燃焼モードであるか否かを判断する。また、MAFセンサ11および噴射量検出手段17とから求めた空気過剰率が上記所定値以上か否かによって予混合燃焼モードであるか否か判断してもよい。
【0026】
また、クランク角センサ14から単位時間当たりのクランク軸の回転角度すなわちエンジン回転速度を求め、噴射量検出手段17によって燃料噴射量を求め、これらの値に基づいて予混合燃焼モードであるか否か判断してもよい。例えば、エンジン回転速度が所定速度未満であり、且つ燃料噴射量が所定量未満であれば予混合燃焼モードであると判断し、さもなければ通常燃焼モードであると判断する。
【0027】
予混合燃焼モードと判断された場合、図1に示すように排気弁9を二段開弁制御するのであるが、排気弁9の一段目の開閉時期及び期間は、通常燃焼モード時と同様(通常のエンジンと同様)であり、排気行程において排気が最適となるように予め定められた開閉時期及び期間に制御される。本実施形態の特徴である排気弁9の二段目の開閉時期及び期間は、次のようにして決定される。
【0028】
排気弁9の再開弁時期(EVO)は、新規吸気量に影響を及ぼすため、MAFセンサ11で測定した吸気量と燃料噴射量検出手段17で求めた燃料噴射量とから算出したA/F値(空燃比値)と、ノッキングセンサ13で測定したノッキング強度とに基づいて決定される。具体的には、A/F値が所定値以上で且つノッキング強度が別の所定値以下という条件に基づいて決定される。
【0029】
例えば、排気弁9の開弁時期が適切な時期よりも早すぎると、排気ポートからシリンダ内に導かれるEGRガス量(EGR率)が増えその分吸気量が減るため、A/F値が小さくなる。この場合、開弁時期を遅めてEGRガス量を減らす方向に制御され、これにより、予混合燃焼モードにおいて、A/F値を所定値以上に保つことができ、所定の新規吸気量を確保できるので、出力の低下やスモークの発生が回避される。
【0030】
逆に、排気弁9の開弁時期が遅すぎると、EGRガス量が減るため、ピストン1頂部のキャビティ3の外周部4においてノッキングのトリガーとなる燃焼反応を十分抑えることが出来ず、ノッキングが強くなるため、開弁時期を早めてEGRガス量を増やす方向に制御される。これにより、予混合燃焼モードにおいて、ノッキングを防止できる量のEGRガス量を確保でき、ノッキングを防止できる。
【0031】
排気弁9の閉弁時期(EVC)は、シリンダ内のガスが排気ポートに流出することを防ぐために、排気管内圧センサ16で測定した排気管15の内圧とシリンダ内圧検出手段18で求めたシリンダ内圧とを比較して、適切なEVC時期に決定する。具体的には、排気管内圧センサ16で測定した排気管15の内圧が、シリンダ内圧検出手段18で求めたシリンダ内圧力以上、という条件に基づいて決定される。
【0032】
この点、図4に示すように、圧縮行程初期の排気ポート内圧力は、運転条件によって若干の差違は生じるものの基本的には所定のクランク角度までは、シリンダ内圧力よりも高くなる。よって、排気ポート内圧力がシリンダ内圧力よりも高い間は排気弁9を開弁しておき、これらの圧力の関係が逆転するときに排気弁9を閉弁することにより、シリンダ内に導かれたEGRガスが排気ポートに流出することが防止される。
【0033】
こうして決定された排気弁の開弁時期(EVO)、閉弁時期(EVC)に基づいて、制御部8が排気弁駆動装置7(カムレスバルブ駆動装置7a)を制御することになる。排気弁9の開弁時期(EVO)及び閉弁時期(EVC)の決定は、排気弁9の毎回の開閉毎に行ってもよいし、所定の開閉回数毎に行って制御の簡素化を図ってもよい。
【0034】
以上の排気弁9の開弁時期(EVO)及び閉弁時期(EVC)制御により、既述したように、予混合燃焼モードにおいて、従来例よりも少ないEGRガス量(EGR率)で、出力の低下を回避しつつ、ノッキングを効果的に防止できる。よって、予混合燃焼モードを従来よりも高負荷運転域に広げることが可能となる。
【0035】
カムレスバルブ駆動装置7aについて、図6を用いて説明する。
【0036】
カムレスバルブ駆動装置7aは、排気弁9を閉弁方向に付勢する付勢手段19と、付勢手段19の付勢力に抗して排気弁9を開弁させるために加圧された作動流体が供給される圧力室20と、圧力室20内に上記作動流体を供給するための供給手段21と、圧力室20内から上記作動流体を排出するための排出手段22とを備えている。そして、制御部8が供給手段21による圧力室20内への上記作動流体の供給時期を制御することで排気弁9の開弁時期(EVO)を制御し、制御部8が排出手段22による圧力室20からの上記作動流体の排出時期を制御することで排気弁9の閉弁時期(EVC)を制御するようになっている。
【0037】
上記付勢手段19は、弁バネ室23内に圧縮された状態で収容され排気弁9のステム部9aに設けられたフランジ9bを上方に付勢することで排気弁9を閉弁方向に付勢する弁バネ19aと、弁バネ室23の上方のアクチュエータボディ24内に収容され上記フランジ9bを磁気的に吸引することで排気弁9を閉弁方向に付勢する磁石19b(永久磁石、電磁石等)とを有する。
【0038】
上記圧力室20は、アクチュエータボディ24内に排気弁9のステム部9aをスライド可能に収容するように形成された円穴の上部に形成されており、その底面部分が上記ステム部9aの頂面9cによって区画されている。よって、圧力室20内に供給手段21によって上記作動流体が供給され、圧力室20内の圧力が頂面9cに作用することによる排気弁9を開弁させる力が、弁バネ19a及び磁石19bによる閉弁方向の付勢力を上回ると、排気弁9が開弁される。
【0039】
上記供給手段21は、排気弁9の開弁初期の所定期間において、圧力室20内に高圧の作動流体を供給する高圧作動流体供給手段21aと、上記開弁初期の所定期間の経過後、圧力室20に低圧の作動流体を供給する低圧作動流体供給手段21bとを有する。高圧作動流体供給手段21aは、圧力室20の上方から上記ステム部9aの頂面9cに向けて高圧作動流体を噴射する。これにより、噴射された高圧作動流体が上記ステム部9aの頂面9cに流れ当たってこれを下方に押圧すると共に圧力室20内の圧力が急激に上昇するため、排気弁9に開弁に必要な初期エネルギが与えられ、排気弁9の開弁が勢いよく開始される。
【0040】
その後、排気弁9が慣性運動によってリフトするが、このとき圧力室20の実際の容積増大量は、排気弁9が高圧作動流体の噴射による慣性運動であることに起因して、高圧作動流体の供給量に応じた理論上の圧力室20の容積増大量よりも大きくなり、圧力室20内が負圧となり得るところ、リフトの途中で低圧作動流体供給手段21bにより低圧作動流体が圧力室20内に導入されるため、圧力室20が負圧になることが回避される。よって、排気弁9のリフト動作が安定化し、リフト量を高圧作動流体の供給により与えられた初期エネルギに応じたリフト量に確保できる。
【0041】
高圧作動流体供給手段21aは、圧力室20の上方に出口孔25を介して連通して形成されたバランス弁収容室内に昇降可能に収容されたバランス弁26と、バランス弁26の上方に形成され高圧の作動流体が供給されたときこれをバランス弁26の頂面に作用させることでバランス弁26を出口孔25の周囲にすり鉢状に形成された弁シート27に押し付けるための閉弁室28と、バランス弁26の側方に形成され高圧の作動流体が供給されたときこれをバランス弁26の側部にコーン状に形成された段差部29及びコーン状の底面部に作用させることでバランス弁26を弁シート27からリフトさせるための開弁室30と、開弁室30及び閉弁室28に高圧の作動流体を供給するための高圧供給通路31と、閉弁室28に収容されバランス弁26を弁シート27に軽く押し付けるためのバネ32と、閉弁室28内の圧力を逃がすリリーフ手段33とを有する。高圧供給通路31には、後述するようにコモンレール34に高圧状態(数十〜数百MPa)で貯留された燃料が高圧作動流体として供給される。
【0042】
閉弁室28内の圧力がリリーフ手段33によって解放されておらず密閉されていれば、閉弁室28内の圧力によってバランス弁26を閉弁させるようにバランス弁26の頂面に作用する閉弁力と、開弁室30内の圧力によってバランス弁26を開弁させるようにバランス弁26の段差部29及び底面部に作用する開弁力とが等しくなるため、バネ32の力によってバランス弁26は弁シート27に着座されて閉弁される。そして一旦閉弁されると、バランス弁26の底面部が弁シート27に着座して覆われるため、この底面部に作動流体の圧力が作用しなくなり、上記開弁力が減少して上記閉弁力の方が大きくなるため、バランス弁26はしっかりと弁シート27に着座し閉弁される。閉弁室28内の圧力がリリーフ手段33によって解放されると、上記閉弁力が著しく小さくなり、上記開弁力の方が大きくなるため、バネ32の力を考慮したとしても、バランス弁26が弁シート27から離間して素早くリフトし、開弁される。すると、高圧の作動流体が出口孔25を通って圧力室20内に勢い良く噴射されることになる。
【0043】
上記リリーフ手段33は、閉弁室28の上部を区画する蓋板35に形成されたリリーフ孔36と、リリーフ孔36を開閉するために蓋板35の上面に配置された弁体37と、弁体37を蓋板35に押し付けてリリーフ孔36を覆って閉弁させるためのバネ38と、弁体37を磁気的に吸引してリリーフ孔36を開いて開弁させるための電磁ソレノイド39とを備えている。弁体37は、電磁ソレノイド39が通電されない状態では、バネ38の力によって蓋板35に着座されてリリーフ孔36を塞いで閉弁し、電磁ソレノイド39が通電されると、上方に吸引移動されるため蓋板35から離間してリリーフ孔36を解放して開弁する。
【0044】
電磁ソレノイド39は制御部8(電子制御ユニット)からの指令により通電が適宜オンオフされる。電磁ソレノイド39が通電オンされると、弁体37が吸引移動されて開弁され、バランス弁26が開弁され、高圧作動流体が圧力室20内に噴射され、排気弁9が下降して開弁(リフト)される。これにより、排気弁9の開弁時期(EVO)を制御できる。電磁ソレノイド39が通電オフされると、弁体37がバネ38の力によって閉弁され、バランス弁26が閉弁され、高圧作動流体が圧力室20内へ噴射されなくなるので、排気弁9を開弁(リフト)させる力がなくなる。これにより、排気弁9のリフト量を制御できる。
【0045】
低圧作動流体供給手段21bは、圧力室20内に低圧の作動流体を供給するために圧力室20の側方上部に連通された低圧供給通路40と、低圧供給通路40に介設された逆止弁41とを備えている。低圧供給通路40には、後述するように低圧室42内に低圧状態(例えば0.5MPa)で貯留された燃料が低圧作動流体として供給される。この構成によれば、作動流体は低圧室42から圧力室20へは流れるが逆方向には流れないため、圧力室20内の圧力が逆止弁41の上流側よりも低いときのみ低圧室42内の低圧作動流体が逆止弁41を通って圧力室20に供給され、圧力室20内の圧力が逆止弁41の上流側よりも高いときには逆止弁41は圧力室20を閉塞する。
【0046】
以上の構成からなる供給手段21によれば、高圧作動流体供給手段21aのバランス弁26が開弁されて出口孔25から高圧作動流体が圧力室20内に噴射されると、上述したように排気弁9の開弁が勢いよく開始され排気弁9が慣性運動によってリフトするため、圧力室20の容積増大量が高圧作動流体の供給量に応じた理論上の圧力室20の容積増大量よりも大きくなって圧力室20内が負圧となり得るところ、リフトの途中で圧力室20内の圧力が低圧室42内の圧力よりも低くなると、低圧作動流体供給手段21bによって低圧作動流体が圧力室20内に導入されるため、圧力室20が負圧になることが回避される。よって、排気弁9のリフト動作が安定化し、リフト量を高圧作動流体の供給により与えられた初期エネルギに応じたリフト量に確保できるのである。
【0047】
こうして高圧作動流体供給手段21aによって開弁時期(EVO)が制御されると共に低圧作動流体供給手段に21bよって安定したリフト動作が確保される排気弁9は、排出手段22によって圧力室20内の圧力を解放することで閉弁(上昇)されるので、上記解放の時期を制御することで、閉弁時期(EVC)を制御できる。
【0048】
排出手段22は、圧力室20内の作動流体を排出するために圧力室20の側方上部に連通された排出通路43と、排出通路43に介設された開閉弁44とを備えている。開閉弁44は、制御部8からの指令により適宜開閉される。この開閉弁44は、閉弁時に圧力室20内の圧力を保持して排気弁9をリフトさせる力が抜けないようにし、開弁時に圧力室20内の圧力を解放して排気弁9をリフトさせる力を逃がして排気弁9を閉弁させる。よって、開閉弁44の開弁時期を制御部8によって図1及び図2を用いて既述したように制御することで、排気弁9の閉弁時期(EVC)を制御できる。
【0049】
以上のカムレスバルブ駆動装置7aは、本実施形態では図6に示すようにディーゼルエンジンのコモンレール式燃料噴射システム45の燃料回路(流路)に組み込まれ、高圧ポンプ46によって昇圧されコモンレール34内に高圧状態(数十〜数百MPa)で貯留された燃料を高圧作動流体供給手段21aの高圧作動流体として用い、フィードポンプ47及びリリーフ弁48によって低圧室42内に低圧状態(例えば0.5MPa)で貯留された燃料を低圧作動流体供給手段21bの低圧作動流体として用いている。
【0050】
コモンレール式燃料噴射システム45について説明すると、エンジン6の各気筒毎に燃料噴射を実行する燃料噴射ノズル2が設けられ、燃料噴射ノズル2には、コモンレール34に高圧状態で貯留された燃料が常時供給されている。コモンレール34には、上述のように高圧ポンプ46によって高圧状態(数十〜数百MPa)にされた燃料が圧送され、高圧ポンプ46には、燃料タンク49の燃料が燃料フィルタ50を通じてフィードポンプ47によって圧送される。フィードポンプ47のフィード圧Pfは、リリーフ弁48によって調整され、一定圧(例えば0.5MPa)に保たれる。
【0051】
図示する装置全体を総括的に制御する装置として制御部8(電子制御ユニット)が設けられ、制御部8にはエンジン6の運転状態(エンジン6のクランク角、回転速度、エンジン負荷等)を検出する各種センサ(図2参照)が接続される。制御部8は、これらセンサの信号に基づいてエンジン6の運転状態を把握し、これに基づいた駆動信号を燃料噴射ノズル2の電磁ソレノイドに送信し、電磁ソレノイドの通電を制御して燃料噴射ノズル2を開閉制御し、燃料噴射の実行・停止を制御する。燃料噴射を停止したときには、燃料噴射ノズル2から常圧程度の燃料がリターン回路51を通して燃料タンク49に戻される。制御部8は、エンジン6の運転状態に応じてコモンレール34内の圧力を目標圧に向けてフィードバック制御する。このため、コモンレール34には、その内部に圧力を検出するためのセンサ52が設けられている。
【0052】
コモンレール式燃料噴射システム45に対するカムレスバルブ駆動装置7aの組込位置を説明すると、フィードポンプ47と高圧ポンプ46との間の回路には、カムレスバルブ駆動装置7aの低圧室42が通路を介して連通されている。よって、低圧室42には、フィード圧Pf(例えば0.5MPa)に相当する低圧の燃料が貯留され、これが低圧作動流体として用いられることになる。また、コモンレール34には、カムレスバルブ駆動装置7aの高圧供給通路31が連通されており、コモンレール34内の高圧(数十〜数百MPa)の燃料が高圧作動流体として用いられることになる。また、カムレスバルブ駆動装置7aの排出通路43の下流側は、リターン回路53を介して燃料タンク49に連通されており、排出通路43から排出された燃料は、リターン回路53を介して燃料タンク49に戻される。
【0053】
なお、コモンレール式燃料噴射システム45は、本実施形態の必須の構成要件ではない。すなわち、カムレスバルブ駆動装置7aの高圧作動流体はコモンレール34内の高圧燃料ではない別の流体を用いてもよく、低圧作動流体は低圧室42内の低圧燃料ではない別の流体を用いてもよい。
【0054】
次に、図2に示す排気弁駆動装置7に、上述したカムレスバルブ駆動装置7aではなく、排気二段カム切換装置7bを用いた場合の実施形態を図7及び図8を用いて説明する。
【0055】
図示するように、排気二段カム切換装置7bは、エンジン6のクランク軸によって回転される排気カム軸60と、このカム軸60に設けられた第一及び第二排気カム61、62と、第一及び第二排気カム61、62に排気行程で排気弁(図示せず)を開弁するように夫々形成された同一形状の第一カム山63と、第二排気カム62に図1に示すように排気弁を吸気行程の後半から圧縮行程に初期にかけて開弁するように形成された第二カム山64と、第一及び第二カム61、62に対応してロッカーシャフト65に別々に揺動可能に挿通された第一及び第二ロッカーアーム66、67と、第一ロッカーアーム66に設けられ第一排気カム61に当接するローラ92と、第二ロッカーアーム67に設けられ第二排気カム62に当接するローラ93とを備えている。
【0056】
排気二段カム切換装置7bは、更に、第一ロッカーアーム66の端部に設けられ排気弁のステム部の頂部を弁バネの力に抗して下方に押し下げてリフトさせる(開弁させる)ための押下部68と、第二ロッカーアーム67の揺動を第一ロッカーアーム66に伝達することで第二カム山64による排気弁の開弁を実行する二段開弁モードと第二ロッカーアーム67の揺動を第一ロッカーアーム66に伝達しないようにして第二カム山64による排気弁の開弁をキャンセルする空振りモードとを切り替えるキャンセル機構69とを備えている。
【0057】
制御部8は、通常燃焼モードの運転のときにはキャンセル機構69を空振りモードにして第二カム山64による排気弁の開弁を中止し、予混合燃焼モードの運転のときにはキャンセル機構69を二段開弁モードにして第二カム山64による排気弁の開弁を実行する(図1参照)。すなわち、通常燃焼モードの運転のときには、キャンセル機構69を空振りモードとすることで、第二ロッカーアーム67の揺動が空振り状態となって第一ロッカーアーム66に伝達されなくなるため、排気弁は、第一ロッカーアーム66によって開閉制御され、通常通りに排気行程で開閉される。予混合燃焼モードの運転のときには、キャンセル機構69を二段開弁モードとすることで、第二ロッカーアーム67の揺動が第一ロッカーアーム66に伝達されるようになるため、排気弁は、第一及び第二ロッカーアーム66、67によって開閉制御され、通常通りの排気行程での開弁に加え、吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁される。
【0058】
予混合燃焼モード時に排気弁を吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけて開弁すると、前実施形態で詳述したように、排気ポート内の排気ガス(EGRガス)がシリンダ内に緩やかに取り込まれ、シリンダ内にて吸気(新気)と殆ど混合することなく且つシリンダ内に拡散することなくシリンダ内の上部に層状化した状態で配置される。よって、従来例よりも少ないEGRガス量(EGR率)で効率よくノッキングを防止でき、ノッキングを防止するために必要なEGRガス量(EGR率)が従来例よりも少なくて済むことになり、その分シリンダ内への吸気量が従来例よりも増え、EGR時の出力低下やスモークの発生が抑えられるので、予混合燃焼モードの運転領域を高負荷側に拡張できる。
【0059】
通常燃焼モードと予混合燃焼モードとで、第二ロッカーアーム67の揺動を第一ロッカーアーム66に伝達するかしないかを切り替える、即ち、第二カム山64による排気弁の開弁を行うか行わないかを切り替えるキャンセル機構69は、図7及び図8に示すように、第二ロッカーアーム67のアームボディ70の内部に右方から左方に向けて略水平方向に形成されたシリンダ71と、シリンダ71内に右方からスライド可能に装着されたプランジャボディ72と、プランジャボディ72に左方から右方に向けてシリンダ70と同心的に形成されたプランジャ穴73と、プランジャ穴73に左方からスライド可能に収容されたプランジャ74とを備えている。プランジャボディ72とアームボディ70との間には、プランジャボディ72を右方に付勢して第一ロッカーアーム66のパッド75に押しつけるためのバネ76が設けられている。
【0060】
プランジャ74にはその左右を連通する通路77が形成されており、通路77にはピストン78に設けられたニードル79が挿通されている。ピストン78はバネ80によって右方に軽く付勢されており、バネ80を収容するバネ室81はアームボディ70に形成された空気通路82を介して大気と連通されている。また、ニードル79の右端には、通路77の端部を閉塞するための球状の閉止弁83が、リテーナ84を介してバネ85によって左方に押圧されて配置されている。閉止弁83の右方の密閉空間はロック用油室86であり、閉止弁83の左方の密閉空間は作動油室87である。作動油室87は、スプール弁からなる切換弁88を介してアームボディ70に形成された作動油供給路89に連通され、作動油供給路89は、ロッカーシャフト65の内部に形成された油路90に連通されている。また、切換弁88は、空気通路82を横切って配置されている。
【0061】
以上のキャンセル機構69は、第二ロッカーアーム67の揺動を第一ロッカーアーム66に伝達する場合、即ち第二カム山64による排気弁の開弁を実行する場合には、制御部8が油圧油量制御弁91を制御することで油路90に作動油を供給し、油路90および作動油供給路89の油圧を高くする。制御弁91には、オイルタンク92の作動油(潤滑油)がポンプ93で汲み上げられ、オイルギャラリ94を介して供給されるようになっている。油路90に高い油圧が供給されると、この高い油圧による力により、切替弁88がバネ95に抗して左方に後退されて作動油供給路89が作動油室87と連通される。
【0062】
すると、高圧の作動油が作動油室87に流入し、ピストン78がバネ80に抗してパッド75とは反対側に移動され、プランジャボディ72がパッド75の側に移動される。このとき、ロック用油室86は密閉状態であるので、閉止弁83が吸引されて開き、作動油室87の作動油がロック用油室86に流入し、作動油の圧力でプランジャボディ72がパッド75に押し付けられる。ここで、プランジャボディ72が作動油の圧力による力よりも大きな力でパッド75から押されると、ロック用油室86の油圧が上昇し、閉止弁83が押し込まれて閉じるので、ロック用油室86が密閉され、プランジャボディ72の動きがロックされる。
【0063】
こうして、プランジャボディ72が押し出された状態でロックされ、パッド75に当接されるので、第二ロッカーアーム67の揺動が第一ロッカーアーム66に伝達される。よって、排気弁は、第一カム山63によって通常通りに排気行程にて開弁されるのみならず、第二カム山64によって吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁される。かかる排気二段開弁を予混合燃焼モード時に行うことで、既述のように従来例よりも少ないEGRガス量(EGR率)で効率よくノッキングを防止できる。
【0064】
なお、切換弁88が左方に移動して作動油供給路89と作動油室87とを連通したとき、切替弁88の側部に周方向に沿って形成されたリング溝によってバネ室81が空気通路82を通して大気と連通されるので、バネ室81が負圧になることなくピストン78の右方への移動が許容される。
【0065】
他方、キャンセル機構69によって、第二ロッカーアーム67の揺動を第一ロッカーアーム66に伝達しない場合、即ち第二カム山64による排気弁の開弁をキャンセルする場合には、油路90に供給される作動油の圧力を制御弁91を絞って低くする。油路90の油圧が低くなると、ピストン78がバネ80の付勢力によりパッド75の側に移動し、ピストン78に連結しているニードル79が閉止弁83を押し開き、ロック用油室86に溜まっていた作動油が作動油室87に戻る。よって、プランジャボディ72のロックが外れ、プランジャボディ72がパッド75によって押されると、左方に後退することになる。
【0066】
このときに、作動油の圧力は徐々に下がるが、バネ95の付勢力よりも切換弁88を押す力が強い間は、油路90、作動油供給路89、作動油室87およびロック用油室86が連通しているので、作動油は油路90に戻る。さらに作動油の圧力が下がると、バネ95の付勢力によって切換弁88が前進し、作動油室87と作動油供給路89とを遮断し、作動油室87とロック用油室86とが連通した状態で両室が密閉状態となる。この結果、プランジャボディ72が引き込んだ状態でロックされる。また、切換弁88の側部に形成されたリング溝が空気通路82からずれてバネ室81を密閉する。
【0067】
こうして、プランジャボディ72が引き込まれた状態でロックされるので、第二ロッカーアーム67が第二排気カム62の第二カム山64によって揺動されてもパッド75を押し込むことができず、第二ロッカーアーム67の揺動が第一ロッカーアーム66に伝達されることはない。よって、排気弁は、第一カム山63のみによって通常通りに排気行程にて開弁される。かかる開弁を通常燃焼モード時に行うことで、通常の運転を実行できる。
【0068】
通常燃焼モードと予混合燃焼モード運転との切換は、図2を用いて説明した前実施形態で述べた切換手段5によって行い、この切換手段5は、例えば、MAFセンサ11で測定した吸気量と燃料噴射量検出手段17で求めた燃料噴射量とから算出した空気過剰率が所定値(例えば2.5)以上のとき燃料噴射ノズル2からの噴射時期及び期間を予混合燃焼モードとし、上記空気過剰率が上記所定値未満のとき燃料噴射ノズル2からの噴射時期及び期間を通常燃焼モードとする。
【0069】
なお、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された発明から逸脱しない範囲であれば、あらゆる実施形態が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の好適実施形態に係るディーゼルエンジンの排気弁制御方法を示す弁リフトカーブ線図である。
【図2】本発明の好適実施形態に係るディーゼルエンジンの排気弁制御装置の全体を示すシステム図である。
【図3】上記方法および装置において、排気弁の二段目の開弁時期と閉弁時期とを定めるフローを示す説明図である。
【図4】シリンダ圧力と吸気ポート圧力と排気ポート圧力との関係を示す説明図である。
【図5】排気流量と吸気流量との関係を示す説明図である。
【図6】排気弁駆動装置としてのカムレスバルブ機構を示す側断面図である。
【図7】排気弁駆動装置としての排気二段カム切換装置を示す斜視図である。
【図8】上記排気二段カム切換装置の側断面図である。
【図9】予混合燃焼モードでの燃料噴射を示すエンジンの側断面図である。
【符号の説明】
【0071】
5 切換手段
6 ディーゼルエンジン
9 排気弁
7 排気弁駆動装置
7a カムレスバルブ駆動装置
7b 排気二段カム切換装置
8 制御部
10 吸気管
11 MAFセンサ
12 吸気管内圧センサ
13 ノッキングセンサ
14 クランク角センサ
16 排気管内圧センサ
17 噴射量検出手段
18 シリンダ内圧検出手段
19 付勢手段
20 圧力室
21 供給手段
22 排出手段
61 第一排気カム
62 第二排気カム
63 第一カム山
64 第二カム山
69 キャンセル機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転状態に応じて通常燃焼モードと予混合燃焼モードとを切り替えるディーゼルエンジンの排気弁制御方法であって、
通常燃焼モードにおいては排気弁を排気行程においてのみ開弁し、予混合燃焼モードにおいては上記排気弁を排気行程のみならず、吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁する二段開弁制御を行うようにしたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気弁制御方法。
【請求項2】
A/F値、ノッキング強度、排気管内圧及びシリンダ内圧を夫々検出する検出手段を有する請求項1記載のディーゼルエンジンの排気弁制御方法において、
上記排気弁の吸気行程の後半における開弁時期は、上記検出手段によって検出するA/F値が所定値以上且つノッキング強度が別の所定値以下となる時期に決定し、
上記排気弁の圧縮行程の初期における閉弁時期は、上記検出手段によって検出する排気管内圧がシリンダ内圧以上となる時期に決定する請求項1記載のディーゼルエンジンの排気弁制御方法。
【請求項3】
高負荷運転時には通常燃焼モードで運転し、低中負荷運転時には予混合燃焼モードで運転するようにした請求項1又は2記載のディーゼルエンジンの排気弁制御方法。
【請求項4】
運転状態に応じて通常燃焼モードと予混合燃焼モードとを切り替えるディーゼルエンジンの排気弁制御装置であって、
排気弁の開閉時期及び期間を変更可能な排気弁駆動装置と、
該排気弁駆動装置を制御する制御部とを有し、
該制御部は、上記通常燃焼モード時には、上記排気弁を排気行程においてのみ開弁するように上記排気弁駆動装置を制御し、上記予混合燃焼モード時には、上記排気弁を排気行程のみならず吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁する二段開弁制御を行うように上記排気弁駆動装置を制御するものであることを特徴とするディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【請求項5】
上記排気弁駆動装置は、機械カムを有しないカムレスバルブ駆動装置であって、
上記排気弁を閉弁方向に付勢する付勢手段と、該付勢手段の付勢力に抗して上記排気弁を開弁させるために加圧された作動流体が供給される圧力室と、該圧力室内に上記作動流体を供給するための供給手段と、上記圧力室内から上記作動流体を排出するための排出手段とを備え、
上記制御部は、上記供給手段による上記圧力室内への上記作動流体の供給時期を制御すると共に、上記排出手段による上記圧力室からの上記作動流体の排出時期を制御するものである請求項4記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【請求項6】
吸気量を測定するMAFセンサと、ノッキングの強度を測定するノッキングセンサと、燃料噴射量を求める噴射量検出手段と、排気管内圧を測定する排気管内圧センサと、シリンダ内圧力を求めるシリンダ内圧検出手段とを更に備え、
上記制御部は、
上記排気弁の吸気行程の後半における開弁時期を、上記MAFセンサで測定した吸気量と上記燃料噴射量検出手段で求めた燃料噴射量とから算出したA/F値が所定値以上で、且つ上記ノッキングセンサで測定したノッキング強度が別の所定値以下という条件に基づいて決定し、
上記排気弁の圧縮行程の初期における閉弁時期を、上記排気管内圧センサで測定した排気管内圧が上記シリンダ内圧検出手段で求めたシリンダ内圧力よりも高いという条件に基づいて決定するものである請求項4又は5記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【請求項7】
上記シリンダ内圧検出手段は、クランク軸の角度を検出するクランク角センサと、吸気管の内圧を測定する吸気管内圧センサとを有し、少なくとも該吸気管内圧センサで測定した吸気管内圧に基づいて各クランク角におけるシリンダ内圧を算出するものである請求項6記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【請求項8】
上記MAFセンサで測定した吸気量と上記燃料噴射量検出手段で求めた燃料噴射量とから算出した空気過剰率が所定値以上のとき予混合燃焼モードの運転を行い、上記空気過剰率が上記所定値未満のとき通常燃焼モードの運転に切り替える切換手段を備えた請求項6又は7記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【請求項9】
上記排気弁駆動装置は、排気二段カム切換装置であって、
クランク軸によって回転される排気カムに上記排気弁を排気行程にて開弁するように形成された第一カム山と、上記排気カムに上記排気弁を吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけて開弁するように形成された第二カム山と、該第二カム山による上記排気弁の開弁をキャンセルするキャンセル機構とを備え、
上記制御部は、上記通常燃焼モードの運転のときには上記キャンセル機構を作動させて上記第二カム山による上記排気弁の開弁を中止し、上記予混合燃焼モードの運転のときには上記キャンセル機構を停止させて上記第二カム山による上記排気弁の開弁を実行させるものである請求項4記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【請求項10】
吸気量を測定するMAFセンサと、燃料噴射量を求める噴射量検出手段とを更に備え、且つ
上記MAFセンサで測定した吸気量と上記燃料噴射量検出手段で求めた燃料噴射量とから算出した空気過剰率が所定値以上のとき予混合燃焼モードの運転を行い、上記空気過剰率が上記所定値未満のとき通常燃焼モードの運転に切り替える切換手段を備えた請求項9記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転状態に応じて通常燃焼モードと予混合燃焼モードとを切り替えるディーゼルエンジンの排気弁制御方法であって、
A/F値、ノッキング強度、排気管内圧及びシリンダ内圧を夫々検出する検出手段を有し、
通常燃焼モードにおいては排気弁を排気行程においてのみ開弁し、予混合燃焼モードにおいては上記排気弁を排気行程のみならず、吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁する二段開弁制御を行うようにし
上記排気弁の吸気行程の後半における開弁時期は、上記検出手段によって検出するA/F値が所定値以上且つノッキング強度が別の所定値以下となる時期に決定し、
上記排気弁の圧縮行程の初期における閉弁時期は、上記検出手段によって検出する排気管内圧がシリンダ内圧以上となる時期に決定することを特徴とするディーゼルエンジンの排気弁制御方法。
【請求項2】
高負荷運転時には通常燃焼モードで運転し、低中負荷運転時には予混合燃焼モードで運転するようにした請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気弁制御方法。
【請求項3】
運転状態に応じて通常燃焼モードと予混合燃焼モードとを切り替えるディーゼルエンジンの排気弁制御装置であって、
吸気量を測定するMAFセンサと、ノッキングの強度を測定するノッキングセンサと、燃料噴射量を求める噴射量検出手段と、排気管内圧を測定する排気管内圧センサと、シリンダ内圧力を求めるシリンダ内圧検出手段と、排気弁の開閉時期及び期間を変更可能な排気弁駆動装置と、該排気弁駆動装置を制御する制御部とを有し、
該制御部は、
上記通常燃焼モード時には、上記排気弁を排気行程においてのみ開弁するように上記排気弁駆動装置を制御し、上記予混合燃焼モード時には、上記排気弁を排気行程のみならず吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけても開弁する二段開弁制御を行うように上記排気弁駆動装置を制御するものであり、
上記排気弁の吸気行程の後半における開弁時期を、上記MAFセンサで測定した吸気量と上記燃料噴射量検出手段で求めた燃料噴射量とから算出したA/F値が所定値以上で、且つ上記ノッキングセンサで測定したノッキング強度が別の所定値以下という条件に基づいて決定し、
上記排気弁の圧縮行程の初期における閉弁時期を、上記排気管内圧センサで測定した排気管内圧が上記シリンダ内圧検出手段で求めたシリンダ内圧力よりも高いという条件に基づいて決定するものであることを特徴とするディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【請求項4】
上記排気弁駆動装置は、機械カムを有しないカムレスバルブ駆動装置であって、
上記排気弁を閉弁方向に付勢する付勢手段と、該付勢手段の付勢力に抗して上記排気弁を開弁させるために加圧された作動流体が供給される圧力室と、該圧力室内に上記作動流体を供給するための供給手段と、上記圧力室内から上記作動流体を排出するための排出手段とを備え、
上記制御部は、上記供給手段による上記圧力室内への上記作動流体の供給時期を制御すると共に、上記排出手段による上記圧力室からの上記作動流体の排出時期を制御するものである請求項3に記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置
【請求項5】
上記シリンダ内圧検出手段は、クランク軸の角度を検出するクランク角センサと、吸気管の内圧を測定する吸気管内圧センサとを有し、少なくとも該吸気管内圧センサで測定した吸気管内圧に基づいて各クランク角におけるシリンダ内圧を算出するものである請求項3又は記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【請求項6】
上記MAFセンサで測定した吸気量と上記燃料噴射量検出手段で求めた燃料噴射量とから算出した空気過剰率が所定値以上のとき予混合燃焼モードの運転を行い、上記空気過剰率が上記所定値未満のとき通常燃焼モードの運転に切り替える切換手段を備えた請求項3〜5のいずれかに記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【請求項7】
上記排気弁駆動装置は、排気二段カム切換装置であって、
クランク軸によって回転される排気カムに上記排気弁を排気行程にて開弁するように形成された第一カム山と、上記排気カムに上記排気弁を吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけて開弁するように形成された第二カム山と、該第二カム山による上記排気弁の開弁をキャンセルするキャンセル機構とを備え、
上記制御部は、上記通常燃焼モードの運転のときには上記キャンセル機構を作動させて上記第二カム山による上記排気弁の開弁を中止し、上記予混合燃焼モードの運転のときには上記キャンセル機構を停止させて上記第二カム山による上記排気弁の開弁を実行させるものである請求項3に記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置。
【請求項8】
上記MAFセンサで測定した吸気量と上記燃料噴射量検出手段で求めた燃料噴射量とから算出した空気過剰率が所定値以上のとき予混合燃焼モードの運転を行い、上記空気過剰率が上記所定値未満のとき通常燃焼モードの運転に切り替える切換手段を備えた請求項7に記載のディーゼルエンジンの排気弁制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−214374(P2006−214374A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28827(P2005−28827)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】