説明

トルク制御装置及びトルク制御方法

【課題】適切なトルク低減により、好適な変速を達成する。
【解決手段】エンジン(1)と、モータ/ジェネレータ(5)と、前記エンジンのトルクと前記モータ/ジェネレータのトルクが入力する変速機(3)とを有する車両のアップシフト時のイナーシャフェーズにおいて、前記両方のトルクを制御可能なトルク制御装置であって、前記変速機の入力軸の目標角加速度を設定する角加速度設定手段(20;S3)と、前記エンジンのトルクの低減だけで前記目標角加速度が達成できる場合、前記エンジンのトルクを低減させる第一のトルク低減手段(20;S6)と、前記エンジンのトルクの低減だけで前記目標角加速度が達成できない場合、前記エンジンのトルクとモータ/ジェネレータのトルクを低減させる第二のトルク低減手段(20;S7)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機への入力トルクを制御するトルク制御装置及びトルク制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機を低速段から高速段へ変速させるアップシフトに際して、イナーシャフェーズ中において、変速機の出力回転数(車速)が短時間のためほとんど変化しないのに対し変速機の入力回転数がアップシフトに伴うギヤ比変化分だけ低下する。なお、イナーシャフェーズとは、変速機の入出力回転数比で表される実効ギヤ比が変化する状態である。そして、この回転低下分の回転イナーシャがアップシフトショック(変速ショック)の原因になる。特許文献1は、動力源として電気モータとエンジンを有する車両において、モータの回生トルク制御により変速機への入力トルクを低減させ、入力回転数を所望の変化率で変化させることを開示する。所望の変化率は、変速ショックの防止できる範囲で適度に早い変速を達成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−139234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、畜電池が満充電の場合のように回生トルクを大きくできない場合、回生トルク制御だけで、変速機の入力回転数を所望の変化率で変化させるような好適な変速を実現することはできない。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、適切なトルク低減により、好適な変速を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係るトルク制御装置は、エンジンと、モータ/ジェネレータと、前記エンジンのトルクと前記モータ/ジェネレータのトルクが入力する変速機とを有する車両のアップシフト時のイナーシャフェーズにおいて、前記両方のトルクを制御できる。トルク制御装置は、前記変速機の入力軸の目標角加速度を設定する角加速度設定手段を備える。また、トルク制御装置は、前記エンジンのトルクの低減だけで前記目標角加速度が達成できる場合、前記エンジンのトルクを低減させる第一のトルク低減手段を備える。さらに、トルク制御装置は、前記エンジンのトルクの低減だけで前記目標角加速度が達成できない場合、前記エンジンのトルクとモータ/ジェネレータのトルクを低減させる第二のトルク低減手段を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適切なトルク低減により好適な変速が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係るハイブリッド車両の一例を示す概略図である。
【図2】実施形態に係るハイブリッド車両の他の例を示す概略図である。
【図3】実施形態に係るハイブリッド車両のさらに他の例を示す概略図である。
【図4】実施形態に係るトルク制御装置を示す概略図である。
【図5】実施形態に係るトルク制御を示すフローチャートである。
【図6】変速機の実際の入力回転数(実線)と変速機の目標入力回転数(破線)を示す図である。
【図7】(a)第一のトルク低減の様子を示すタイムチャートである。(b)第二のトルク低減の様子を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では図面を参照して本発明を実施するための形態について、さらに詳しく説明する。
【0010】
図1は、実施形態に係るトルク制御装置を適用可能なパワートレーンを備えたハイブリッド車両を示す。ハイブリッド車両は、エンジン1と駆動車輪(後輪)2を備える。
【0011】
図1に示すハイブリッド車両のパワートレーンは、エンジン1、変速機(自動変速機)3、モータ/ジェネレータ5、第一クラッチ6、第二クラッチ7を備える。パワートレーンにおいて、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に変速機3がタンデムに配置される。モータ/ジェネレータ5は、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合する。
【0012】
モータ/ジェネレータ5は、モータ又はジェネレータ(発電機)として機能するもので、エンジン1および変速機3の間に配置される。このモータ/ジェネレータ5およびエンジン1間に、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第一クラッチ6が介挿される。第一クラッチ6は、エンジン1およびモータ/ジェネレータ5の間を切り離し可能に結合する。
【0013】
ここで第一クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的または段階的に変更可能である。第一クラッチ6は、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成される。
【0014】
モータ/ジェネレータ5および変速機3間に、より詳しくは、軸4と変速機入力軸3aとの間に第二クラッチ7が介挿される。この第二クラッチ7は、モータ/ジェネレータ5および変速機3間を切り離し可能に結合する。第二クラッチ7も第一クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的または段階的に変更可能である。第二クラッチ7は、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0015】
変速機3は、複数の摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結したり解放することで、これら摩擦要素の締結・解放組み合わせにより伝動系路(変速段)を決定する自動変速機である。従って、変速機3は、入力軸3aからの回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8により左右後輪2へ分配して伝達され、車両の走行に使用される。但し、変速機3は、上記したような有段式の自動変速機に限られず、無段変速機であってもよい。
【0016】
図1のパワートレーンにおいて、電気走行(EV)モードでは、エンジン1は停止され第一クラッチ6は解放され、第二クラッチ7が締結され、変速機3は動力伝達状態になる。電気走行(EV)モードは、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる。
【0017】
この場合、モータ/ジェネレータ5が駆動されると、モータ/ジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達し、変速機3が入力軸3aへの回転を、選択中の変速
段に応じ変化させて変速機出力軸3bから出力する。変速機出力軸3bからの回転は、その後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行(EVモード走行)させる。
【0018】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるハイブリッド走行(HEV)モードでは、第一クラッチ6および第二クラッチ7はともに締結され、変速機3は動力伝達状態になる。この場合、エンジン1からの出力回転、または、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達する。変速機3が入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変化させて、変速機出力軸3bから出力する。変速機出力軸3bからの回転は、その後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ5の双方又は一方によってハイブリッド走行(HEVモード走行)させる。
【0019】
HEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによりモータ/ジェネレータ5を発電機として作動させる。余剰エネルギーはモータ/ジェネレータ5により発電電力に変換され、バッテリ9に蓄電される。これにより、エンジン1の燃費を向上させることができる。
【0020】
なお、図1では、第二クラッチ7は、モータ/ジェネレータ5および変速機3の間に介挿された。しかし、図2に示すように、第二クラッチ7は、変速機3およびディファレンシャルギヤ装置8間に介挿されてもよく、図2のパワートレーンは図1と同様に機能できる。
【0021】
また、第二クラッチ7として、図3に示すように、変速機3内に既存する前進変速段選択用の摩擦要素または後退変速段選択用の摩擦要素を流用するようにしてもよい。この場合、第二クラッチ7が、モード選択機能を果たすのに加えて、締結される時に変速機3を動力伝達状態にすることとなり、専用の第二クラッチが不要となる。
【0022】
図4に示すトルク制御装置(制御システム)は、ハイブリッド車両のパワートレーンを制御する統合コントローラ20を備える。統合コントローラ20は、中央演算処理装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、入出力インターフェース(I/O interface)を有するマイクロコンピュータを備える。
【0023】
統合コントローラ20には、パワートレーンの動作点を決定するために、エンジン回転センサ11、モータ/ジェネレータ回転センサ12、入力回転センサ13、出力回転センサ14、アクセル開度センサ15、蓄電状態センサ16からの信号が入力される。エンジン回転センサ11は、エンジン回転数Neを検出する。モータ/ジェネレータ回転センサ12は、モータ/ジェネレータの回転数Nmを検出する。入力回転センサ13は、変速機の入力回転数Niを検出する。出力回転センサ14は、変速機の出力回転数Noを検出する。アクセル開度センサ15は、エンジン1及び/又はモータ/ジェネレータ5への要求負荷状態を表すアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出する。蓄電状態センサ16は、モータ/ジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ9の蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)を検出する。
【0024】
なお、上記したセンサのうち、エンジン回転センサ11、モータ/ジェネレータ回転センサ12、入力回転センサ13、および出力回転センサ14はそれぞれ、図1〜3に示すように配置することができる。
【0025】
統合コントローラ20は、入力情報のうちアクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および変速機出力回転数No(車速VSP)から、運転者が希望している車両の駆動
力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択する。さらに、統合コントローラ20は、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(目標モータ/ジェネレータ回転数tNmでもよい)、目標第一クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第二クラッチ伝達トルク容量tTc2をそれぞれ演算する。
【0026】
目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ21に供給され、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(目標モータ/ジェネレータ回転数tNmでもよい)はモータ/ジェネレータコントローラ22に供給される。エンジンコントローラ21は、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御する。モータ/ジェネレータコントローラ22はモータ/ジェネレータ5のトルクTm(または回転数Nm)が目標モータ/ジェネレータトルクtTm(または目標モータ/ジェネレータ回転数tNm)となるよう、バッテリ9およびインバータ10を介してモータ/ジェネレータ5を制御する。
【0027】
統合コントローラ20は、例えば、目標第一クラッチ伝達トルク容量tTc1および目標第二クラッチ伝達トルク容量tTc2に対応したソレノイド電流を第一クラッチ6および第二クラッチ7のソレノイドに供給する。さらに、統合コントローラ20は、第一クラッチ6の伝達トルク容量Tc1が目標伝達トルク容量tTc1に一致するよう第一クラッチ6の締結力を制御する。また、統合コントローラ20は、第二クラッチ7の伝達トルク容量Tc2が目標第二クラッチ伝達トルク容量tTc2に一致するよう第二クラッチ7の締結力を制御する。
【0028】
また、統合コントローラ20は、変速制御において、変速機3の締結すべき摩擦要素である締結要素(締結クラッチ)3cと変速機3の解放すべき摩擦要素である解放要素(解放クラッチ)3dを例えば油圧により制御する。
【0029】
図5のフローチャートは、ハイブリッド走行(HEV)モードで変速機3のアップシフト時において、統合コントローラ20が実行するトルク制御(トルク減少制御)を示す。なお、ハイブリッド走行(HEV)モードで、第一クラッチ6および第二クラッチ7はともに締結されている。
【0030】
ステップS1において、変速機3の締結要素3cと解放要素3dが油圧制御により作動される。また、アクセルペダル踏み込み量APOと変速機入力回転数Niなどの車両状態に基づいて、目標エンジントルクtTeと目標モータ/ジェネレータトルクtTmが、最適燃費が実現される値に設定される。エンジントルクとモータ/ジェネレータトルクは、目標エンジントルクtTeと目標モータ/ジェネレータトルクtTmに制御される。
【0031】
ステップS2において、変速機3の変速状態がイナーシャフェーズに入ったか否か判断される。例えば、変速機入力回転数Niが減少し始めた場合に、イナーシャフェーズに入ったと判断できる。変速状態がイナーシャフェーズである場合、ルーチンはステップS3に進む。変速状態がイナーシャフェーズでない場合、ルーチンはステップS1に戻る。イナーシャフェーズにおいて、図6の破線のように、変速機の目標入力回転数が設定される。制御の結果、図6の実線のように、変速機の実際の入力回転数Niが減少する。なお、ステップS2のイナーシャフェーズの開始判定は、他の公知の方法を用いても良い。
【0032】
ステップS3において、変速機3の入力軸3aの目標角加速度dotw1が、変速機の目標入力回転数の時間変化率(図6の破線の傾き)から設定される。目標入力回転数の時間変化(つまり、目標角加速度dotw1)は、入力回転数を変速ショックの防止できる範囲で適度に早い変速を達成するように設定されている。時間変化が過度に急であると変速ショックが大きくなり、時間変化が過度に緩いと変速の完了が遅くなる。目標入力回転数の時間
変化のマップ(図6の破線)は、統合コントローラ20のメモリに記憶されており、統合コントローラ20は、このマップに基づいて目標角加速度dotw1を設定できる。
【0033】
ステップS4において、変速機3の入力軸3aの目標角加速度dotw1から、変速機3の入力トルク低減量Δ(入力トルクの低減量)が演算される。
【0034】
入力軸3aの目標角加速度dotw1は、変速中の変速機3への目標入力トルクTinと変速機3の摩擦要素の締結トルクTtcの差に対応するため、数式(1)が成立する。
【0035】
【数1】

【0036】
なお、a、bは定数である。締結トルクTtcは、イナーシャフェーズに入る時点の目標駆動トルクに相当し、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、回生トルクに基づいて演算される。簡単には、締結トルクTtcは、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、回生トルクの和に設定される。
【0037】
従って、変速中の目標入力トルクTinは、数式(2)のように算出される。
【0038】
【数2】

【0039】
変速機3への入力トルクに関する入力トルク低減量Δは、数式(3)のように、変速状態がイナーシャフェーズに入る時点の変速機入力トルクTin0から変速中の目標入力トルクTinを減算した量になる。変速機入力トルクTin0は、イナーシャフェーズに入る時点の入力トルク目標値(tTe+tTm)としてよい(Tin0=tTe+tTm)。
【0040】
【数3】

【0041】
このように、入力トルク低減量Δは、目標角加速度dotw1に基づいて算出される。詳細には、入力トルク低減量Δは、目標角加速度dotw1に比例するよう算出される。
【0042】
ステップS5において、エンジントルクを低減するだけで目標角加速度が達成できるか判定される(判定手段)。具体的には、入力トルク低減量Δが、イナーシャフェーズに入る時点のエンジントルクtTe0以下であるか否か判断される。入力トルク低減量Δが、イナーシャフェーズに入る時点のエンジントルク目標値tTe0以下である場合(Δ≦tTe0)、エンジントルクを低減するだけで目標角加速度が達成できるため、ルーチンはステップS6に進む。一方、入力トルク低減量Δが、イナーシャフェーズに入る時点のエンジントルク目標値tTe0より大きい場合(Δ>tTe0)、エンジントルクを低減するだけでは目標角加速度が達成できないため、ルーチンはステップS7に進む。
【0043】
ステップS6において、第一のトルク低減として、入力トルク低減量Δだけエンジントルクのみが低減される。例えば、エンジントルクの低減は、エンジン点火時期の遅角(リタード)制御により行われる。その他、エンジントルクの低減は、排気ガス還流量の制御により行うこともできる。図7(a)のように、イナーシャフェーズに入ると同時に、エンジントルクが低減されることになるが、モータ/ジェネレータトルクは、低減されない。例えば、車両が主にエンジントルクで走行している状況でのアップシフトの際、エンジントルクが大きいため、第一のトルク低減が実行される。
【0044】
ステップS7において、第二のトルク低減として、エンジントルクとモータ/ジェネレータトルクの両方が低減されて、入力トルク低減量Δが達成される。エンジントルク低減量Δ1とモータ/ジェネレータトルク低減量Δ2の合計が、入力トルク低減量Δになる(Δ=Δ1+Δ2)。例えば、エンジントルクは、イナーシャフェーズに入る時点のエンジントルクtTe0分だけ低減されてゼロになる一方で、モータ/ジェネレータトルクは、Δ−tTe0だけ低減される(Δ1=tTe0、Δ2=Δ−tTe0)。図7(b)のように、イナーシャフェーズに入ると同時に、エンジントルクとモータ/ジェネレータトルクの両方が低減されることになる。例えば、アクセル全開時に車両がエンジントルクとモータ/ジェネレータのアシストトルクで走行している状況でのアップシフトの際、エンジントルクが小さく、第二のトルク低減が実行される。
【0045】
なお、第一のトルク低減と第二のトルク低減において、エンジントルクとモータ/ジェネレータトルクの合計トルクが同じであっても、車両の走行状態に応じて、エンジントルクとモータ/ジェネレータトルクの合計トルクに対する割合が変わる。しかし、第一のトルク低減と第二のトルク低減において、目標角加速度、即ち変速機の目標入力回転数の時間変化(図6の破線)は同じに設定されている。従って、実際の入力回転数の時間変化も、エンジントルクとモータ/ジェネレータトルクの大きさの比率に依存しない(図7(a)(b)参照)。このため、車両の走行状態に応じてエンジントルクとモータ/ジェネレータトルクの大きさの比率が変わっても、車両の運転者に違和感が生じない態様で、変速機への入力トルクが低減できる。また、第一のトルク低減が行われる変速制御と第二のトルク低減が行われる変速制御との間で、解放クラッチトルクと締結クラッチトルクの時間変化も、同じである。
【0046】
ステップS8において、変速機3の変速状態がイナーシャフェーズが終了したか否か判断される。例えば、変速機入力回転数Niの変化率が所定値以下になった場合や変速機入力回転数Niが所定値以下になった場合に、イナーシャフェーズが終了したと判断される。イナーシャフェーズが終了していない場合、トルク減少制御は継続され、ルーチンはステップS5に戻る。イナーシャフェーズが終了した場合、トルク減少制御は終了する。なお、ステップS8のイナーシャフェーズの終了判定は、他の公知の方法を用いても良い。
【0047】
なお、変形例として、例えば、ステップS5において、検出した変速機入力回転数Niから実際の角加速度を算出し、実際の角加速度(絶対値)が目標角加速度(絶対値)より大きいか否か判定されてよい。そして、この実際の角加速度が目標角加速度より小さい場合に、ステップS7において、目標角加速度が達成されるようにエンジントルクだけでなくモータ/ジェネレータトルクが低減されてもよい。
【0048】
−作用効果−
本実施形態によると、トルク制御装置は、変速機3の入力軸の目標角加速度を設定する角加速度設定手段(20;S3)を備える。トルク制御装置は、エンジン1のトルクの低減だけで目標角加速度が達成できる場合、エンジン1のトルクを低減させる第一のトルク低減手段(20;S6)を備える。また、トルク制御装置は、エンジン1のトルクの低減だけで目標角加速度が達成できない場合、エンジン1のトルクとモータ/ジェネレータ5のトルクを低減させる第二のトルク低減手段(20;S7)を備える。このため、車両の走行状態に応じてエンジントルクとモータ/ジェネレータトルクの大きさの比率が変わっても、適切な入力トルク低減により好適な変速を実現できる。
【0049】
角加速度設定手段は、第一のトルク低減手段と第二のトルク低減手段に対して変速機の目標入力回転数の時間変化(図6)を同じに設定し、この時間変化に基づいて目標角加速度を設定する。このため、車両の運転者に違和感が生じない態様で、変速機への入力トルクが低減できる。
【0050】
トルク制御装置は、目標角加速度に基づいて変速機への入力トルク低減量Δを算出する手段(20;S4)を備える。第一のトルク低減手段は、算出された入力トルク低減量Δがイナーシャフェーズ開始時のエンジンのトルクtTe0以下の場合に、エンジン1のトルクを低減させる。第二のトルク低減手段は、算出された入力トルク低減量Δがイナーシャフェーズ開始時のエンジンのトルクtTe0より大きい場合に、エンジン1のトルクとモータ/ジェネレータ5のトルクを低減させる。このため、目標角加速度を実現する入力トルク低減量Δをエンジンのトルク低減で実現できない場合に、モータ/ジェネレータ5のトルクを低減させて、適切に変速機の入力トルクを低減できる。
【0051】
トルク制御方法は、変速機3の入力軸の目標角加速度を設定する角加速度設定ステップS3を含む。また、トルク制御方法は、目標角加速度が達成するためにエンジンのトルクを低減させる第一のトルク低減ステップS6を含む。さらに、トルク制御方法は、第一のトルク低減ステップにおいて目標角加速度が達成できないと判断される場合に、エンジンのトルクとモータ/ジェネレータのトルクの両方を低減させる第二のトルク低減ステップS7を含む。このため、車両の走行状態に応じてエンジントルクとモータ/ジェネレータトルクの大きさの比率が変わっても、適切な入力トルク低減により好適な変速を実現できる。
【0052】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン
3 変速機
3a 入力軸
3b 出力軸
5 モータ/ジェネレータ
9 バッテリ
11 エンジン回転センサ
12 モータ/ジェネレータ回転センサ
13 入力回転センサ
14 出力回転センサ
15 アクセル開度センサ
20 統合コントローラ
21 エンジンコントローラ
22 モータ/ジェネレータコントローラ
S3 角加速度設定手段
S5 判定手段
S6 第一のトルク低減手段
S7 第二のトルク低減手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータ/ジェネレータと、前記エンジンのトルクと前記モータ/ジェネレータのトルクが入力する変速機とを有する車両のアップシフト時のイナーシャフェーズにおいて、前記両方のトルクを制御可能なトルク制御装置であって、
前記変速機の入力軸の目標角加速度を設定する角加速度設定手段と、
前記エンジンのトルクの低減だけで前記目標角加速度が達成できる場合、前記エンジンのトルクを低減させる第一のトルク低減手段と、
前記エンジンのトルクの低減だけで前記目標角加速度が達成できない場合、前記エンジンのトルクとモータ/ジェネレータのトルクを低減させる第二のトルク低減手段と、
を備えることを特徴とするトルク制御装置。
【請求項2】
前記角加速度設定手段は、前記第一のトルク低減手段と前記第二のトルク低減手段に対して前記変速機の目標入力回転数の時間変化を同じに設定し、この時間変化に基づいて前記目標角加速度を設定することを特徴とする、請求項1に記載のトルク制御装置。
【請求項3】
前記目標角加速度に基づいて変速機への入力トルク低減量を算出する手段を備え、
前記第一のトルク低減手段は、前記算出された入力トルク低減量がイナーシャフェーズ開始時の前記エンジンのトルク以下の場合に、前記エンジンのトルクを低減させ、
前記第二のトルク低減手段は、前記算出された入力トルク低減量がイナーシャフェーズ開始時の前記エンジンのトルクより大きい場合に、前記エンジンのトルクとモータ/ジェネレータのトルクを低減させることを特徴とする、請求項1に記載のトルク制御装置。
【請求項4】
エンジンと、モータ/ジェネレータと、前記エンジンのトルクと前記モータ/ジェネレータのトルクが入力する変速機とを有する車両のアップシフト時のイナーシャフェーズにおいて、前記両方のトルクを制御可能なトルク制御方法であって、
前記変速機の入力軸の目標角加速度を設定する角加速度設定ステップと、
前記目標角加速度が達成するために前記エンジンのトルクを低減させる第一のトルク低減ステップと、
前記第一のトルク低減ステップにおいて前記目標角加速度が達成できないと判断される場合に、前記エンジンのトルクとモータ/ジェネレータのトルクの両方を低減させる第二のトルク低減ステップと、
を含むことを特徴とするトルク制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−91573(P2012−91573A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238527(P2010−238527)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】