ハイブリッド車両の制御装置
【課題】惰性走行中の内燃機関の始動にともなうショック又は車両の押し出し感を抑制する。
【解決手段】内燃機関10と、電動機20と、内燃機関の出力軸及び電動機の出力軸に直接的又は間接的に接続された駆動車輪54と、電動機の出力軸に接続された自動変速機40とを備え、運転操作と走行環境に応じてドライブモードをスポーツ走行モード又は非スポーツ走行モードに設定するハイブリッド車両に対し、制御信号を出力する制御装置であって、車両がEV走行モード及び惰性走行中に、ドライブモードがスポーツ走行モードに設定されたことを検出し、かつ内燃機関の始動要求を検出した場合に、スポーツ走行用変速パターンへの変更禁止を指令する制御手段60を備える。
【解決手段】内燃機関10と、電動機20と、内燃機関の出力軸及び電動機の出力軸に直接的又は間接的に接続された駆動車輪54と、電動機の出力軸に接続された自動変速機40とを備え、運転操作と走行環境に応じてドライブモードをスポーツ走行モード又は非スポーツ走行モードに設定するハイブリッド車両に対し、制御信号を出力する制御装置であって、車両がEV走行モード及び惰性走行中に、ドライブモードがスポーツ走行モードに設定されたことを検出し、かつ内燃機関の始動要求を検出した場合に、スポーツ走行用変速パターンへの変更禁止を指令する制御手段60を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)と電動発電機(モータジェネレータ)とを駆動源とするパラレル式ハイブリッド車両において、旋回走行や加減速走行を繰り返すワインディング走行に適したスポーツ走行モードで走行中は、EV走行モードとHEV走行モードとの切換境界をEV走行モード領域側に変更してHEV走行モード領域を拡大するとともに、自動変速機の変速パターンをダウンシフト側へ移行するものが知られている(特許文献1の請求項1)。
【0003】
ただし、EV走行モードで走行中にスポーツ走行モードに切り換わると、自動変速機の変速パターンがダウンシフト側に移行するのを禁止する(特許文献1の請求項3)。変速パターンをダウンシフト側へ移行するとモータジェネレータの回転数が上昇し、この状態でエンジンを始動すると始動時の回転引き上げ量が大きくなってモータジェネレータのトルクが不足し、始動時間が長くなるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−168700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記ハイブリッド車両においても、アクセルとブレーキとを両方放して走行する惰性走行中にエンジンを始動すると、ショックや車両の押し出し感を抑制することは困難である。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、惰性走行中の内燃機関の始動にともなうショック又は車両の押し出し感を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内燃機関と電動機とを駆動源とし、ドライブモードをスポーツ走行モードに設定できるハイブリッド車両に対し、車両がEV走行モード及び惰性走行中に、ドライブモードがスポーツ走行モードに遷移し、かつ内燃機関の始動要求があった場合は、スポーツ走行用変速パターンへの変更を禁止することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スポーツ走行用変速パターンによる急速なダウンシフトが回避されるので、惰性走行中に電動機の回転数の上昇が抑制され、その結果ショック又は車両の押し出し感が抑制されつつ内燃機関が円滑に始動する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係るハイブリッド車両のパワートレーンを示す図である。
【図3】本発明のさらに他の実施の形態に係るハイブリッド車両のパワートレーンを示す図である。
【図4】図1の統合コントロールユニットの細部を示す制御ブロック図である。
【図5】図4の自動変速機の変速マップの一例を示す図である。
【図6】図4の目標駆動トルク演算部で参照される目標駆動トルクマップの一例を示す図である。
【図7】図4のモード選択部で参照される走行モードマップの一例を示す図である。
【図8】図4の変速制限部の変速マップの変更禁止判定手順を示すフローチャートである。
【図9】図4の変速制限部の変速マップの変更禁止解除判定手順を示すフローチャートである。
【図10】図4の変速制限部の制御を適用した走行例を示すタイムチャートである。
【図11】図4の変速制限部の制御を適用した他の走行例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係るハイブリッド車両1は、内燃機関と電動発電機といった複数の動力源を車両の駆動に使用するパラレル方式自動車であり、図1に示す本例のハイブリッド車両1は、内燃機関(以下、エンジン)10、第1クラッチ15、電動発電機(以下、モータジェネレータ)20、第2クラッチ25、バッテリ30、インバータ35、自動変速機40、プロペラシャフト51、ディファレンシャルギアユニット52、ドライブシャフト53、および左右の駆動輪54を備える。
【0011】
エンジン10は、ガソリン、軽油その他の燃料を燃焼させて駆動エネルギを出力する駆動源の一つであり、エンジンコントロールユニット70からの制御信号に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度や燃料噴射バルブの燃料噴射量等を制御する。
【0012】
第1クラッチ15は、エンジン10の出力軸とモータジェネレータ20の回転軸との間に介装され、エンジン10とモータジェネレータ20との間の動力伝達を断接(ON/OFF)する。第1クラッチ15としては、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチなどを例示することができる。第1クラッチ15において、統合コントロールユニット60からの制御信号に基づいて油圧ユニット16の油圧が制御され、これにより第1クラッチ15のクラッチ板が締結(スリップ状態も含む。)又は解放する。なお、第1クラッチ15に乾式クラッチを採用してもよい。
【0013】
モータジェネレータ20は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルが巻きつけられた同期型モータジェネレータである。このモータジェネレータ20には、ロータ回転角を検出するレゾルバなどの回転角センサ21が設けられている。モータジェネレータ20は、電動機としても機能するし発電機としても機能する。インバータ35から三相交流電力が供給されている場合には、モータジェネレータ20は回転駆動する(力行)。
【0014】
一方、外力によってロータが回転している場合には、モータジェネレータ20は、ステータコイルの両端に起電力を生じさせることで交流電力を生成する(回生)。モータジェネレータ20によって発電された交流電力は、インバータ35によって直流電力に変換された後に、バッテリ30に充電される。また、回生中においてモータジェネレータ20には負のトルクが発生するので、駆動輪に対して制動機能をも奏する。
【0015】
バッテリ30は、複数のリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などを直列又は並列に接続した組電池を例示することができる。バッテリ30には電流・電圧センサ31と内部抵抗値を推定するための温度センサ32が取り付けられ、これらの検出結果をモータコントロールユニット80に出力する。
【0016】
第2クラッチ25は、モータジェネレータ20と左右の駆動輪54との間に介装され、モータジェネレータ20と左右の駆動輪54との間の動力伝達を断接(ON/OFF)する。第2クラッチ25は、上述の第1クラッチ15と同様に、たとえば湿式多板クラッチなどを例示することができる。第2クラッチ25において、トランスミッションコントロールユニット90からの制御信号に基づいて油圧ユニット26の油圧が制御され、これにより第2クラッチ25のクラッチ板が締結(スリップ状態も含む。)/解放する。
【0017】
自動変速機40は、前進7速、後退1速などといった変速比を段階的に切り換える有段式変速機であり、車速やアクセル開度等に応じて変速比を自動的に切り換える。自動変速機40の変速比は、トランスミッションコントロールユニット90からの制御信号に基づいて制御される。
【0018】
第2クラッチ25は、図1に示すように、自動変速機40の各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用したものとすることができる。またこれに代えて第2クラッチ25を自動変速機40とは別の専用のクラッチとしてもよい。たとえば図2に示すように、第2クラッチ25を、モータジェネレータ20の出力軸と自動変速機40の入力軸との間に介装した専用のクラッチとしてもよい。あるいは、図3に示すように、第2クラッチ25を、自動変速機40の出力軸とプロペラシャフト51との間に介装した専用のクラッチとしてもよい。なお、図2及び図3は、他の実施形態に係るハイブリッド車両の構成を示す図であり、図2及び図3においては、パワートレーン以外の構成は図1と同様であるため、パワートレーンのみを示す。
【0019】
なお、本例の自動変速機40は一般的な有段式自動変速機を用いることができるのでその詳細な構成は省略するが、自動変速機40の各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用して第2クラッチ25を構成する場合は、自動変速機40内の摩擦締結要素のうち現変速段で締結させるべき摩擦締結要素を第2クラッチ25として構成する。
【0020】
また、自動変速機40として、上述した前進7速、後退1速の有段式自動変速機に特に限定されず、その他のたとえば前進5速、後退1速の有段階の変速機であってもよい。第2クラッチ25を自動変速機40の摩擦締結要素を流用しないで構成する場合は、無段式自動変速機を用いることもできる。図5に本例の自動変速機40の変速マップの一例を示し、実線がアップシフト、点線がダウンシフトの変速線をそれぞれ示す。そして、同図において、「1⇒2」は1速から2速へのアップシフトを示し、「1←2」は2速から1速へのダウンシフトを示す。本例の変速マップは、変速パターンが異なる複数の変速マップを有し、トランスミッションコントロールユニット90(又は統合コントロールユニット60)に格納され、後述するドライブモードに応じて切り換えられる。変速マップの切換制御の詳細については後述する。
【0021】
図1に戻り、自動変速機40の出力軸は、プロペラシャフト51、ディファレンシャルギアユニット52、および左右のドライブシャフト53を介して、左右の駆動輪54に連結されている。なお、図1において55は左右の操舵前輪である。また、図1〜図3においては、後輪駆動のハイブリッド車両を例示したが、前輪駆動のハイブリッド車両や四輪駆動のハイブリッド車両とすることも可能である。
【0022】
本実施形態におけるハイブリッド車両1は、駆動源をエンジン10及び/又はモータジェネレータ20に設定することにより、換言すれば第1および第2のクラッチ15,25の締結(スリップ含む)/解放状態に応じて、以下に説明する各駆動走行モードに切り換えることができる。なお、後述する旋回走行及び加減速走行を繰り返すワインディング走行に適したスポーツ走行モードと、それ以外の通常走行モードなどのモードは、ドライブモードと称し、当該EV走行モードやHEV走行モードを駆動走行モードと称し、両者を区別する。
【0023】
モータジェネレータ使用走行モード(以下、EV走行モード)は、第1クラッチ15を解放させると共に第2クラッチ25を締結させて、モータジェネレータ20の動力のみを駆動源として駆動走行する駆動走行モードである。
【0024】
エンジン使用走行モード(以下、HEV走行モード)は、第1クラッチ15を締結させるとともに第2クラッチ25を締結(スリップを含む)させて、少なくともエンジン10の動力を駆動源に含みながら駆動走行する駆動走行モードである。
【0025】
なお、上記HEV走行モードに、第1クラッチ15を締結させると共に第2クラッチ25をスリップ状態にして、エンジン10の動力を駆動源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、WSC走行モード,Wet Start Clutch)を含んでもよい。WSC走行モードは、特にバッテリ30の充電状態SOC(State of Charge)が低下している場合や、エンジン10の冷却水の温度が低い場合にクリープ走行を達成することができるモードである。
【0026】
また、駆動走行モードは、上記EV走行モード及びHEV走行モード以外に、エンジン10を作動させた状態で第1クラッチ15を解放させると共に、第2クラッチ25をスリップ状態として、モータジェネレータ20の動力のみを動力源として走行するモータ使用スリップ走行モード(以下、MWSC走行モード)を含んでもよい。上述したWSC走行モードにおいて、路面勾配が所定値以上における登坂路等である場合に、ドライバがアクセルペダルを調整し車両停止状態または微速発進状態を維持する状態(いわゆるストール停車状態)が継続すると、第2クラッチ25のスリップ量が過多である状態が継続し、そのため、第2クラッチ25が過熱するおそれがある。エンジン回転数をアイドル回転数よりも小さくすると、エンジンストールが発生するためである。
【0027】
なお、駆動走行モードがEV走行モードからHEV走行モードに移行する際には、解放していた第1クラッチ15を締結し、モータジェネレータ20のトルクを利用することで、エンジン始動を行なうことができる。
【0028】
また、HEV走行モードには、エンジン走行モード、モータアシスト走行モード、および走行発電モードが設定されている。エンジン走行モードでは、モータジェネレータ20を駆動させずに、エンジン10のみを動力源として駆動輪54を動かす。モータアシスト走行モードでは、エンジン10とモータジェネレータ20との両方を駆動させて、これら2つを動力源として駆動輪54を動かす。走行発電モードでは、エンジン10を動力源として駆動輪54を動かすと同時に、モータジェネレータ20を発電機として機能させ、バッテリ30を充電する。
【0029】
なお、以上に説明した駆動走行モードの他に、停車時において、エンジン10の動力を利用してモータジェネレータ20を発電機として機能させ、バッテリ30を充電したり電装品へ電力を供給したりする発電モードを含んでもよい。以下の例では、便宜上、駆動走行モードとしてEV走行モードとHEV走行モードとを有するハイブリッド車両を例に挙げて本発明の実施形態を説明するものとする。
【0030】
本実施形態におけるハイブリッド車両1の制御系は、図1に示すように、統合コントロールユニット60、エンジンコントロールユニット70、モータコントロールユニット80、およびトランスミッションコントロールユニット90を備える。これらの各コントロールユニット60,70,80,90は、たとえばCAN通信を介して相互に接続されている。
【0031】
エンジンコントロールユニット70は、統合コントロールユニット60からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(エンジン回転数Ne、エンジントルクTe)を制御する指令を、エンジン10のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数Ne、エンジントルクTeの情報は、CAN通信線を介して統合コントローラ60へ出力される。
【0032】
モータコントロールユニット80は、モータジェネレータ20に設けられた回転角センサ21からの情報を入力し、統合コントロールユニット60からの目標モータジェネレータトルク指令値等に応じて、モータジェネレータ20の動作点(モータ回転数Nm、モータトルクTm)を制御する指令をインバータ35に出力する。また、モータコントロールユニット80は、電流・電圧センサ31により検出された電流値および電圧値に基づいてバッテリ30のSOCを演算および管理する。このバッテリSOC情報は、モータジェネレータ20の制御情報に用いられると共に、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。さらに、モータコントロールユニット80は、モータジェネレータ20に流れる電流値(電流値の正負によって力行制御トルクと回生制御トルクを区別している)に基づいて、モータジェネレータトルクTmを推定する。このモータジェネレータトルクTmの情報は、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。さらにモータコントロールユニット80は、バッテリ30の内部抵抗値を推定するために温度センサ32により検出されたバッテリ温度を統合コントロールユニット60に送出する。
【0033】
トランスミッションコントロールユニット90は、アクセル開度センサ91、車速センサ92、第2クラッチ油圧センサ93、およびドライバの操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチ94からのセンサ情報を入力し、統合コントロールユニット60からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチ25の締結・解放を制御する指令を、油圧ユニット26に出力する。なお、アクセル開度APO、車速VSP、およびインヒビタスイッチの情報は、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。
【0034】
統合コントロールユニット60は、ハイブリッド車両1全体の消費エネルギを管理することで、ハイブリッド車両1を効率的に走行させるための機能を司る。統合コントロールユニット60は、第2クラッチ25の出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ61、第2クラッチ25の伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ62、ブレーキ油圧センサ63、第2クラッチ25の温度を検知する温度センサ64、および車両の前後加速度および横加速度を検出するGセンサ65からのセンサ情報を取得する。また、統合コントロールユニット60は、これらの情報に加えて、CAN通信を介して得られたセンサ情報の取得も行なう。
【0035】
そして、統合コントロールユニット60は、これらの情報に基づいて、エンジンコントロールユニット70への制御指令によるエンジン10の動作制御、モータコントロールユニット80への制御指令によるモータジェネレータ20の動作制御、トランスミッションコントロールユニット90への制御指令による自動変速機40の動作制御、第1クラッチ15の油圧ユニット16への制御指令による第1クラッチ15の締結・解放制御、および第2クラッチ25の油圧ユニット26への制御指令による第2クラッチ25の締結・解放制御を実行する。
【0036】
次に、統合コントロールユニット60により実行される制御について説明する。図4は、統合コントロールユニット60の細部を示す制御ブロック図である。なお、以下に説明する制御は、たとえば、10msecごとに繰り返し実行される。
【0037】
図4に示すように、統合コントロールユニット60は、目標駆動トルク演算部100、モード選択部200、目標充放電演算部300、動作点指令部400および変速制御部500を備える。
【0038】
目標駆動トルク演算部100は、予め定められた目標駆動力マップを用いて、アクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APO、および車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、目標駆動トルクtFo0を演算する。図6に、目標駆動トルクマップの一例を示す。
【0039】
モード選択部200は、図7に示す駆動走行モードの制御マップを参照し、目標駆動走行モードを演算し、選択する。図7の駆動走行モードマップには、車速VSPとアクセル開度APOに応じて、EV走行モードおよびHEV走行モードの領域がそれぞれ設定されている。なお、この駆動走行モードマップの実線が、後述するドライブモードが通常走行モードである場合のエンジン始動線を示し、点線が、ドライブモードがスポーツ走行モードである場合のエンジン始動線を示す。たとえば、通常走行モードが設定されている場合には、実線で示す右及び上の領域、すなわち車速VSP及びアクセル開度APOが大きい領域ではHEV走行モードが選択され、実線の左及び下、すなわち車速VSP及びアクセル開度APOが小さい領域ではEV走行モードが選択される。
【0040】
目標充放電演算部300は、予め定められた目標充放電量マップを用いて、バッテリ30のSOCから、目標充放電電力tPを演算する。
【0041】
動作点指令部400は、アクセルペダル開度APO、目標駆動トルクtFoO、目標モード、車速VSP、および目標充放電電力tPに基づいて、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルク、目標モータジェネレータトルク、目標第2クラッチ伝達トルク容量、自動変速機40の目標変速段、および第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。
【0042】
すなわち、動作点指令部400は、目標駆動トルク演算部100にて演算された目標駆動トルクとモード選択部200にて演算された目標駆動走行モードとに基づいて、エンジンコントロールユニット70に目標エンジントルクを出力するとともに、モータコントロールユニット80へ目標モータジェネレータトルクを出力する。
【0043】
変速制御部500は、図5の変速マップのシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量および目標変速段を達成するように自動変速機40内のソレノイドバルブを駆動制御する。なお、この際に用いられる変速マップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものであり、かつ後述するドライブモードに応じて選択された変速マップである。
【0044】
次に、図4のモード選択部200で処理されるドライブモードについて説明する。ドライブモードとは、運転者によるアクセル操作やブレーキ操作といった運転操作と、走行路の曲率や直線といった走行環境に応じて、運転者に与える走行感覚を異ならしめるモードである。本例の場合は、運転操作と走行環境とに基づいて、車両が直線走行中なのか、あるいは旋回走行中なのか、あるいはワインディング路を走行中なのか、運転者はゆったりした走行性能を所望しているのか、あるいはきびきびした走行性能を所望しているのか、といった車両の走行状態を判断するための指数である運転傾向指数kを求め、これに基づいて通常走行モード又はスポーツ走行モードを選択する。なお、ドライブモードは通常走行モードとスポーツ走行モードにのみ限定されず、燃費を高めるための各種制御をともなうエコ走行モードなどを含んでよい。
【0045】
運転傾向指数kは、加減速が大きかったり、コーナまたはカーブの通過速度が高い走行状態であるスポーツ走行状態になったりすると、k値が増大する。逆に、一定速度や、停止や、コーナまたはカーブの通過速度が低い走行状態である通常走行状態になると、k値が減少する。
【0046】
運転傾向指数kは、たとえば以下のようにして演算する。まず、車両に設けられた加速度センサ、又は速度センサから微分演算することで、車両前後方向の加減速度を求め、車速VSPごとに予め設定された係数を乗じることで加減速走行頻度指数gを求める。一方で、左右の車輪の速度差から、またはナビゲーションシステムの地図情報から走行路の屈曲度Lを演算する。そして、これら加減速走行頻度指数gと屈曲度Lとのそれぞれに予め設定された重み係数を乗じ、加算することで運転傾向指数kを演算する。
[数1]
運転傾向指数k=重み係数m×加減速走行頻度指数g+重み係数n×屈曲度L
【0047】
運転傾向指数kが、所定の閾値で規定される通常の範囲内(例えば0.4以下)である場合には、車両が通常走行状態にあると判断し、図7に示す駆動走行モードマップにおいて、実線にて示す通常走行モードのエンジン始動線がモード選択部200で選択される。これに対し、運転傾向指数kが、例えば0.4を超える通常の範囲外である場合には、車両がスポーツ走行状態にあると判断し、図7に点線で示すスポーツ走行モードのエンジン始動線がモード選択部200で選択される。
【0048】
これら2種のエンジン始動線を比較すると、通常走行モードのエンジン始動線で区画されるEV走行モード領域は、スポーツ走行モードのエンジン始動線で区画されるEV走行モード領域よりも小さい。換言すれば、スポーツ走行モードである場合には、EV走行モード領域とHEV走行モード領域との境界を、通常走行モードに係る原位置からEV走行モード領域側に移動してHEV走行モード領域を拡大するよう、境界が変更される。なお、このようなエンジン始動線の境界の変更は、図7に示すようなアクセル開度APOおよび車速VSPの双方を小さくする移動である他、いずれか一方を小さくする移動であってもよい。
【0049】
また、モード選択部200でスポーツ走行モードが設定されると、変速制御部500に対し、入力回転数Niが通常走行モードよりも高回転になるように変速パターンをダウンシフト側に移行させた変速マップを選択する。なお、詳細な説明は省略するが、目標充放電演算部300は、スポーツ走行モードが設定されると、複数の発電要求出力マップの中から、当該スポーツ走行モードの発電電力が通常走行モードの発電電力より大きくなる発電要求出力マップを選択する。
【0050】
本例の統合コントロールユニット60は変速制限部600をさらに備える。変速制限部600は、アクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APOおよび車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、車両が惰性走行中か否かを検出する。また、モード選択部200から駆動走行モードとドライブモードの情報を読み出す。そして、車両が惰性走行中である場合に、変速マップの変更を禁止する制御と、自動変速機40のダウンシフト制御を実行し、変速制御部500及びモータコントロールユニット80へ制御信号を出力する。なお、惰性走行とは少なくともアクセルが踏まれていない状態で車両が走行することをいい、アクセルもブレーキも踏まれていない状態のほか、アクセルは放されているがブレーキが踏まれている状態をも含む。
【0051】
図8は、変速制限部600の変速マップの変更禁止判定手順を示すフローチャートである。まず変速制限部600は、ステップS11にてアクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APOおよび車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、車両が惰性(コースト)走行中か否かを判断する。惰性走行中でない場合、すなわちアクセルが踏まれたドライブ走行中は、ステップS15へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップへ変更することを禁止するマップ変更禁止要求フラグを0(OFF)に設定し、スポーツ走行用変速マップへの変更を許可する。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグは0(OFF)に設定する。これにより、スポーツ走行モードに遷移して、運転者による加減速の大きな運転傾向に応じた加減速性能を発揮することができ、きびきびとした走行感を運転者に与えることができる。
【0052】
ステップS11にて車両が惰性走行中である場合、すなわちアクセルもブレーキも踏まれていないか、或いはアクセルが放されブレーキが踏まれているコースト走行中は、ステップS12へ進み、上述した運転傾向指数kが予め決められた閾値以上か否かを判断する。運転傾向指数kが閾値以上の場合はステップS13へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止するマップ変更禁止要求フラグを1(ON)に設定し、変速マップがスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止する。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグも1(ON)に設定し、後述する手順でダウンシフト制御を実行する。
【0053】
これに対し、ステップS12にて運転傾向指数kが閾値未満の場合はステップS14へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止するマップ変更禁止要求フラグを1(ON)に設定し、変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止する。ただしこの場合は、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグは0(OFF)に設定する。
【0054】
図9は、変速制限部600の変速マップの変更禁止解除判定手順を示すフローチャートである。まず変速制限部600は、ステップS21にてアクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APOおよび車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、車両が惰性(コースト)走行中か否かを判断する。惰性走行中である場合は、ステップS22へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップへ変更することを禁止するマップ変更要求フラグを1(ON)のまま維持し、スポーツ走行用変速マップへの変更を禁止し続ける。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグは1(ON)に設定したままとする。
【0055】
ステップS21にて車両が惰性走行中でない場合、すなわちアクセルが踏まれたら、ステップS23へ進み、上述した運転傾向指数kが予め決められた閾値以上か否かを判断する。運転傾向指数kが閾値未満の場合はステップS27へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止するマップ変更禁止要求フラグをO(OFF)に設定し、スポーツ走行用変速マップに変更することを許可する。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグも0(OFF)に設定し、ダウンシフト制御を終了する。
【0056】
これに対し、ステップS23にて運転傾向指数kが閾値以上の場合はステップS24へ進み、エンジン10の始動要求の有無を判断する。エンジン10の始動要求があった場合はステップS25へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止するマップ変更禁止要求フラグを0(OFF)に設定し、スポーツ走行用変速マップに変更することを許可する。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグの0(OFF)に設定し、ダウンシフト制御を終了する。
【0057】
ステップS24にてエンジン10の始動要求がない場合はステップS26へ進み、ステップS22と同様に変速マップをスポーツ走行用変速マップへ変更することを禁止するマップ変更要求フラグを1(ON)のまま維持し、スポーツ走行用変速マップへの変更を禁止し続ける。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグは1(ON)に設定したままとする。
【0058】
図10は、上述した惰性走行時の具体例を示すタイムチャートであり、平坦路を第7速で走行中にアクセルを放してブレーキを踏んだ惰性走行中の制御例を示す。実線が本例の制御を示し、点線は本例の制御がない場合の比較例を示す。同図のアクセル開度APOがゼロになってブレーキがONすると、運転傾向指数kの減速度項が増加し、これがドライブモードのスポーツ走行モード遷移閾値を超えると、比較例では、変速マップ変更要求のグラフに点線で示すようにスポーツ走行モードに遷移する。
【0059】
しかしながら、本例の制御装置では、図8のステップS13と図10のP1に示すように、変速マップをスポーツ走行用変速マップへ変更することを禁止し、通常走行用変速マップをそのまま維持する。そして、エンジン始動要求があったときにこれと時間的に同期して変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更し(P2)、エンジン10を始動する。これにより、エンジン始動要求があるまでの間はスポーツ走行用変速パターンによる急速なダウンシフトが回避されるので、惰性走行中にモータジェネレータ20の回転数の上昇が抑制され、その結果、エンジン10の始動時にショック又は車両の押し出し感が抑制されつつエンジン10が円滑に始動することになる。
【0060】
なお本例の走行パターンでは、アクセルが放され、かつブレーキが踏まれた状態の惰性走行であるので、運転者からの減速要求があるものと判断される。したがって、ドライブモードをスポーツ走行モードに変更することによる変速マップはスポーツ走行用変速マップに変更しないが、自動変速機40を第7速から第4速までダウンシフト制御し、モータジェネレータ20を回生駆動することでモータジェネレータ20の回生制動トルクによる減速を実施する(P3)。
【0061】
この場合のダウンシフトは、スポーツ走行用変速パターンに変更したら得られたであろう制動トルクと同等の制動トルクが発生するように自動変速機40をダウンシフトし、モータジェネレータ20の回生制動トルクを発生させる。また、ダウンシフトの下限は、モータジェネレータ20の回転数が、エンジン10の始動に影響のない、たとえば2000rpmを超えない範囲で実施することが望ましい。
【0062】
図11は、上述した惰性走行時の他の具体例を示すタイムチャートであり、下り坂道を第7速で走行中にアクセルを放してブレーキを踏まない惰性走行中の制御例を示す。実線が本例の制御を示し、点線は本例の制御がない場合の比較例を示す。同図のアクセル開度APOがゼロになると、運転傾向指数kの下り勾配項が増加し、これがドライブモードのスポーツ走行モード遷移閾値を超えると、比較例では、変速マップ変更要求のグラフに点線で示すようにスポーツ走行モードに遷移する。
【0063】
しかしながら、本例の制御装置では、図8のステップS13と図11のP1に示すように、変速マップをスポーツ走行用変速マップへ変更することを禁止し、通常走行用変速マップをそのまま維持する。またこの場合は、下り勾配を検出しているにも拘らずブレーキが踏まれていないので、運転者からの減速要求は小さいと判断し、自動変速機40のダウンシフトによるモータジェネレータ20の回生制動トルクの発生も実施しない。
【0064】
以上のとおり本例のハイブリッド車両の制御装置によれば、車両がEV走行モード及び惰性走行中に、ドライブモードがスポーツ走行モードに設定されたことを検出し、かつエンジン10の始動要求を検出した場合に、スポーツ走行用変速パターンへの変更禁止を指令するので、エンジン始動要求があるまでの間はスポーツ走行用変速パターンによる急速なダウンシフトが回避される。その結果、惰性走行中にモータジェネレータ20の回転数の上昇が抑制され、エンジン10の始動時にショック又は車両の押し出し感が抑制されつつエンジン10が円滑に始動することになる。
【0065】
また、アクセルの踏込みによるエンジン10の始動要求を検出した場合に、当該アクセルの踏込みによるエンジン10の始動要求に時間的に同期してスポーツ走行用変速パターンへの変更禁止を解除するので、運転者の駆動トルク要求に極めて近いタイミングでエンジン10を始動させることができ、運転者に対する違和感を抑制することができる。
【0066】
また、スポーツ走行用変速パターンへの変更禁止の指令中に、スポーツ走行用変速パターンに変更していたら得られたであろう制動パターンと同程度にモータジェネレータ20の回生制動トルクを発生させるので、スポーツ走行モードと同等の変速度変化を実現することができる。
【0067】
このモータジェネレータ20の回生制動トルクによる制御は、エンジン10の始動可能回転数を超えない範囲で実行されるので、再加速時などに急激に目的とする変速段までダウンシフトすることが防止できる。また、モータジェネレータ20の回転数を極力高く維持できるので、より多くの回生エネルギが得られ、その後のスポーツ走行モードなどに利用することができる。
【0068】
また、走行路の下り勾配が所定値以上の場合はスポーツ走行用変速パターンのうちエンジン10の始動可能回転数を超えない範囲の変速制御を禁止するので、モータジェネレータ20の回生によりバッテリ30の充電速度を遅くし、高いSOCによる回生トルクの不回収を抑制することができる。
【0069】
上記エンジン10が本発明に係る内燃機関に相当し、上記モータジェネレータ20が本発明に係る電動機に相当し、上記モード選択部200が本発明に係る走行モード検出手段、ドライブモード検出手段及び始動要求検出手段に相当し、上記変速制御部500が本発明に係る変速パターン変更手段に相当し、上記変速制限部600が本発明に係る制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0070】
1…ハイブリッド車両
10…エンジン
15…第1クラッチ
20…モータジェネレータ
25…第2クラッチ
30…バッテリ
35…インバータ
40…自動変速機
60…統合コントロールユニット
70…エンジンコントロールユニット
80…モータコントロールユニット
90…トランスミッションコントロールユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)と電動発電機(モータジェネレータ)とを駆動源とするパラレル式ハイブリッド車両において、旋回走行や加減速走行を繰り返すワインディング走行に適したスポーツ走行モードで走行中は、EV走行モードとHEV走行モードとの切換境界をEV走行モード領域側に変更してHEV走行モード領域を拡大するとともに、自動変速機の変速パターンをダウンシフト側へ移行するものが知られている(特許文献1の請求項1)。
【0003】
ただし、EV走行モードで走行中にスポーツ走行モードに切り換わると、自動変速機の変速パターンがダウンシフト側に移行するのを禁止する(特許文献1の請求項3)。変速パターンをダウンシフト側へ移行するとモータジェネレータの回転数が上昇し、この状態でエンジンを始動すると始動時の回転引き上げ量が大きくなってモータジェネレータのトルクが不足し、始動時間が長くなるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−168700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記ハイブリッド車両においても、アクセルとブレーキとを両方放して走行する惰性走行中にエンジンを始動すると、ショックや車両の押し出し感を抑制することは困難である。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、惰性走行中の内燃機関の始動にともなうショック又は車両の押し出し感を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内燃機関と電動機とを駆動源とし、ドライブモードをスポーツ走行モードに設定できるハイブリッド車両に対し、車両がEV走行モード及び惰性走行中に、ドライブモードがスポーツ走行モードに遷移し、かつ内燃機関の始動要求があった場合は、スポーツ走行用変速パターンへの変更を禁止することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スポーツ走行用変速パターンによる急速なダウンシフトが回避されるので、惰性走行中に電動機の回転数の上昇が抑制され、その結果ショック又は車両の押し出し感が抑制されつつ内燃機関が円滑に始動する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係るハイブリッド車両のパワートレーンを示す図である。
【図3】本発明のさらに他の実施の形態に係るハイブリッド車両のパワートレーンを示す図である。
【図4】図1の統合コントロールユニットの細部を示す制御ブロック図である。
【図5】図4の自動変速機の変速マップの一例を示す図である。
【図6】図4の目標駆動トルク演算部で参照される目標駆動トルクマップの一例を示す図である。
【図7】図4のモード選択部で参照される走行モードマップの一例を示す図である。
【図8】図4の変速制限部の変速マップの変更禁止判定手順を示すフローチャートである。
【図9】図4の変速制限部の変速マップの変更禁止解除判定手順を示すフローチャートである。
【図10】図4の変速制限部の制御を適用した走行例を示すタイムチャートである。
【図11】図4の変速制限部の制御を適用した他の走行例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係るハイブリッド車両1は、内燃機関と電動発電機といった複数の動力源を車両の駆動に使用するパラレル方式自動車であり、図1に示す本例のハイブリッド車両1は、内燃機関(以下、エンジン)10、第1クラッチ15、電動発電機(以下、モータジェネレータ)20、第2クラッチ25、バッテリ30、インバータ35、自動変速機40、プロペラシャフト51、ディファレンシャルギアユニット52、ドライブシャフト53、および左右の駆動輪54を備える。
【0011】
エンジン10は、ガソリン、軽油その他の燃料を燃焼させて駆動エネルギを出力する駆動源の一つであり、エンジンコントロールユニット70からの制御信号に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度や燃料噴射バルブの燃料噴射量等を制御する。
【0012】
第1クラッチ15は、エンジン10の出力軸とモータジェネレータ20の回転軸との間に介装され、エンジン10とモータジェネレータ20との間の動力伝達を断接(ON/OFF)する。第1クラッチ15としては、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチなどを例示することができる。第1クラッチ15において、統合コントロールユニット60からの制御信号に基づいて油圧ユニット16の油圧が制御され、これにより第1クラッチ15のクラッチ板が締結(スリップ状態も含む。)又は解放する。なお、第1クラッチ15に乾式クラッチを採用してもよい。
【0013】
モータジェネレータ20は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルが巻きつけられた同期型モータジェネレータである。このモータジェネレータ20には、ロータ回転角を検出するレゾルバなどの回転角センサ21が設けられている。モータジェネレータ20は、電動機としても機能するし発電機としても機能する。インバータ35から三相交流電力が供給されている場合には、モータジェネレータ20は回転駆動する(力行)。
【0014】
一方、外力によってロータが回転している場合には、モータジェネレータ20は、ステータコイルの両端に起電力を生じさせることで交流電力を生成する(回生)。モータジェネレータ20によって発電された交流電力は、インバータ35によって直流電力に変換された後に、バッテリ30に充電される。また、回生中においてモータジェネレータ20には負のトルクが発生するので、駆動輪に対して制動機能をも奏する。
【0015】
バッテリ30は、複数のリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などを直列又は並列に接続した組電池を例示することができる。バッテリ30には電流・電圧センサ31と内部抵抗値を推定するための温度センサ32が取り付けられ、これらの検出結果をモータコントロールユニット80に出力する。
【0016】
第2クラッチ25は、モータジェネレータ20と左右の駆動輪54との間に介装され、モータジェネレータ20と左右の駆動輪54との間の動力伝達を断接(ON/OFF)する。第2クラッチ25は、上述の第1クラッチ15と同様に、たとえば湿式多板クラッチなどを例示することができる。第2クラッチ25において、トランスミッションコントロールユニット90からの制御信号に基づいて油圧ユニット26の油圧が制御され、これにより第2クラッチ25のクラッチ板が締結(スリップ状態も含む。)/解放する。
【0017】
自動変速機40は、前進7速、後退1速などといった変速比を段階的に切り換える有段式変速機であり、車速やアクセル開度等に応じて変速比を自動的に切り換える。自動変速機40の変速比は、トランスミッションコントロールユニット90からの制御信号に基づいて制御される。
【0018】
第2クラッチ25は、図1に示すように、自動変速機40の各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用したものとすることができる。またこれに代えて第2クラッチ25を自動変速機40とは別の専用のクラッチとしてもよい。たとえば図2に示すように、第2クラッチ25を、モータジェネレータ20の出力軸と自動変速機40の入力軸との間に介装した専用のクラッチとしてもよい。あるいは、図3に示すように、第2クラッチ25を、自動変速機40の出力軸とプロペラシャフト51との間に介装した専用のクラッチとしてもよい。なお、図2及び図3は、他の実施形態に係るハイブリッド車両の構成を示す図であり、図2及び図3においては、パワートレーン以外の構成は図1と同様であるため、パワートレーンのみを示す。
【0019】
なお、本例の自動変速機40は一般的な有段式自動変速機を用いることができるのでその詳細な構成は省略するが、自動変速機40の各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用して第2クラッチ25を構成する場合は、自動変速機40内の摩擦締結要素のうち現変速段で締結させるべき摩擦締結要素を第2クラッチ25として構成する。
【0020】
また、自動変速機40として、上述した前進7速、後退1速の有段式自動変速機に特に限定されず、その他のたとえば前進5速、後退1速の有段階の変速機であってもよい。第2クラッチ25を自動変速機40の摩擦締結要素を流用しないで構成する場合は、無段式自動変速機を用いることもできる。図5に本例の自動変速機40の変速マップの一例を示し、実線がアップシフト、点線がダウンシフトの変速線をそれぞれ示す。そして、同図において、「1⇒2」は1速から2速へのアップシフトを示し、「1←2」は2速から1速へのダウンシフトを示す。本例の変速マップは、変速パターンが異なる複数の変速マップを有し、トランスミッションコントロールユニット90(又は統合コントロールユニット60)に格納され、後述するドライブモードに応じて切り換えられる。変速マップの切換制御の詳細については後述する。
【0021】
図1に戻り、自動変速機40の出力軸は、プロペラシャフト51、ディファレンシャルギアユニット52、および左右のドライブシャフト53を介して、左右の駆動輪54に連結されている。なお、図1において55は左右の操舵前輪である。また、図1〜図3においては、後輪駆動のハイブリッド車両を例示したが、前輪駆動のハイブリッド車両や四輪駆動のハイブリッド車両とすることも可能である。
【0022】
本実施形態におけるハイブリッド車両1は、駆動源をエンジン10及び/又はモータジェネレータ20に設定することにより、換言すれば第1および第2のクラッチ15,25の締結(スリップ含む)/解放状態に応じて、以下に説明する各駆動走行モードに切り換えることができる。なお、後述する旋回走行及び加減速走行を繰り返すワインディング走行に適したスポーツ走行モードと、それ以外の通常走行モードなどのモードは、ドライブモードと称し、当該EV走行モードやHEV走行モードを駆動走行モードと称し、両者を区別する。
【0023】
モータジェネレータ使用走行モード(以下、EV走行モード)は、第1クラッチ15を解放させると共に第2クラッチ25を締結させて、モータジェネレータ20の動力のみを駆動源として駆動走行する駆動走行モードである。
【0024】
エンジン使用走行モード(以下、HEV走行モード)は、第1クラッチ15を締結させるとともに第2クラッチ25を締結(スリップを含む)させて、少なくともエンジン10の動力を駆動源に含みながら駆動走行する駆動走行モードである。
【0025】
なお、上記HEV走行モードに、第1クラッチ15を締結させると共に第2クラッチ25をスリップ状態にして、エンジン10の動力を駆動源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、WSC走行モード,Wet Start Clutch)を含んでもよい。WSC走行モードは、特にバッテリ30の充電状態SOC(State of Charge)が低下している場合や、エンジン10の冷却水の温度が低い場合にクリープ走行を達成することができるモードである。
【0026】
また、駆動走行モードは、上記EV走行モード及びHEV走行モード以外に、エンジン10を作動させた状態で第1クラッチ15を解放させると共に、第2クラッチ25をスリップ状態として、モータジェネレータ20の動力のみを動力源として走行するモータ使用スリップ走行モード(以下、MWSC走行モード)を含んでもよい。上述したWSC走行モードにおいて、路面勾配が所定値以上における登坂路等である場合に、ドライバがアクセルペダルを調整し車両停止状態または微速発進状態を維持する状態(いわゆるストール停車状態)が継続すると、第2クラッチ25のスリップ量が過多である状態が継続し、そのため、第2クラッチ25が過熱するおそれがある。エンジン回転数をアイドル回転数よりも小さくすると、エンジンストールが発生するためである。
【0027】
なお、駆動走行モードがEV走行モードからHEV走行モードに移行する際には、解放していた第1クラッチ15を締結し、モータジェネレータ20のトルクを利用することで、エンジン始動を行なうことができる。
【0028】
また、HEV走行モードには、エンジン走行モード、モータアシスト走行モード、および走行発電モードが設定されている。エンジン走行モードでは、モータジェネレータ20を駆動させずに、エンジン10のみを動力源として駆動輪54を動かす。モータアシスト走行モードでは、エンジン10とモータジェネレータ20との両方を駆動させて、これら2つを動力源として駆動輪54を動かす。走行発電モードでは、エンジン10を動力源として駆動輪54を動かすと同時に、モータジェネレータ20を発電機として機能させ、バッテリ30を充電する。
【0029】
なお、以上に説明した駆動走行モードの他に、停車時において、エンジン10の動力を利用してモータジェネレータ20を発電機として機能させ、バッテリ30を充電したり電装品へ電力を供給したりする発電モードを含んでもよい。以下の例では、便宜上、駆動走行モードとしてEV走行モードとHEV走行モードとを有するハイブリッド車両を例に挙げて本発明の実施形態を説明するものとする。
【0030】
本実施形態におけるハイブリッド車両1の制御系は、図1に示すように、統合コントロールユニット60、エンジンコントロールユニット70、モータコントロールユニット80、およびトランスミッションコントロールユニット90を備える。これらの各コントロールユニット60,70,80,90は、たとえばCAN通信を介して相互に接続されている。
【0031】
エンジンコントロールユニット70は、統合コントロールユニット60からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(エンジン回転数Ne、エンジントルクTe)を制御する指令を、エンジン10のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数Ne、エンジントルクTeの情報は、CAN通信線を介して統合コントローラ60へ出力される。
【0032】
モータコントロールユニット80は、モータジェネレータ20に設けられた回転角センサ21からの情報を入力し、統合コントロールユニット60からの目標モータジェネレータトルク指令値等に応じて、モータジェネレータ20の動作点(モータ回転数Nm、モータトルクTm)を制御する指令をインバータ35に出力する。また、モータコントロールユニット80は、電流・電圧センサ31により検出された電流値および電圧値に基づいてバッテリ30のSOCを演算および管理する。このバッテリSOC情報は、モータジェネレータ20の制御情報に用いられると共に、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。さらに、モータコントロールユニット80は、モータジェネレータ20に流れる電流値(電流値の正負によって力行制御トルクと回生制御トルクを区別している)に基づいて、モータジェネレータトルクTmを推定する。このモータジェネレータトルクTmの情報は、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。さらにモータコントロールユニット80は、バッテリ30の内部抵抗値を推定するために温度センサ32により検出されたバッテリ温度を統合コントロールユニット60に送出する。
【0033】
トランスミッションコントロールユニット90は、アクセル開度センサ91、車速センサ92、第2クラッチ油圧センサ93、およびドライバの操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチ94からのセンサ情報を入力し、統合コントロールユニット60からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチ25の締結・解放を制御する指令を、油圧ユニット26に出力する。なお、アクセル開度APO、車速VSP、およびインヒビタスイッチの情報は、CAN通信を介して統合コントロールユニット60に送出される。
【0034】
統合コントロールユニット60は、ハイブリッド車両1全体の消費エネルギを管理することで、ハイブリッド車両1を効率的に走行させるための機能を司る。統合コントロールユニット60は、第2クラッチ25の出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ61、第2クラッチ25の伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ62、ブレーキ油圧センサ63、第2クラッチ25の温度を検知する温度センサ64、および車両の前後加速度および横加速度を検出するGセンサ65からのセンサ情報を取得する。また、統合コントロールユニット60は、これらの情報に加えて、CAN通信を介して得られたセンサ情報の取得も行なう。
【0035】
そして、統合コントロールユニット60は、これらの情報に基づいて、エンジンコントロールユニット70への制御指令によるエンジン10の動作制御、モータコントロールユニット80への制御指令によるモータジェネレータ20の動作制御、トランスミッションコントロールユニット90への制御指令による自動変速機40の動作制御、第1クラッチ15の油圧ユニット16への制御指令による第1クラッチ15の締結・解放制御、および第2クラッチ25の油圧ユニット26への制御指令による第2クラッチ25の締結・解放制御を実行する。
【0036】
次に、統合コントロールユニット60により実行される制御について説明する。図4は、統合コントロールユニット60の細部を示す制御ブロック図である。なお、以下に説明する制御は、たとえば、10msecごとに繰り返し実行される。
【0037】
図4に示すように、統合コントロールユニット60は、目標駆動トルク演算部100、モード選択部200、目標充放電演算部300、動作点指令部400および変速制御部500を備える。
【0038】
目標駆動トルク演算部100は、予め定められた目標駆動力マップを用いて、アクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APO、および車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、目標駆動トルクtFo0を演算する。図6に、目標駆動トルクマップの一例を示す。
【0039】
モード選択部200は、図7に示す駆動走行モードの制御マップを参照し、目標駆動走行モードを演算し、選択する。図7の駆動走行モードマップには、車速VSPとアクセル開度APOに応じて、EV走行モードおよびHEV走行モードの領域がそれぞれ設定されている。なお、この駆動走行モードマップの実線が、後述するドライブモードが通常走行モードである場合のエンジン始動線を示し、点線が、ドライブモードがスポーツ走行モードである場合のエンジン始動線を示す。たとえば、通常走行モードが設定されている場合には、実線で示す右及び上の領域、すなわち車速VSP及びアクセル開度APOが大きい領域ではHEV走行モードが選択され、実線の左及び下、すなわち車速VSP及びアクセル開度APOが小さい領域ではEV走行モードが選択される。
【0040】
目標充放電演算部300は、予め定められた目標充放電量マップを用いて、バッテリ30のSOCから、目標充放電電力tPを演算する。
【0041】
動作点指令部400は、アクセルペダル開度APO、目標駆動トルクtFoO、目標モード、車速VSP、および目標充放電電力tPに基づいて、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルク、目標モータジェネレータトルク、目標第2クラッチ伝達トルク容量、自動変速機40の目標変速段、および第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。
【0042】
すなわち、動作点指令部400は、目標駆動トルク演算部100にて演算された目標駆動トルクとモード選択部200にて演算された目標駆動走行モードとに基づいて、エンジンコントロールユニット70に目標エンジントルクを出力するとともに、モータコントロールユニット80へ目標モータジェネレータトルクを出力する。
【0043】
変速制御部500は、図5の変速マップのシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量および目標変速段を達成するように自動変速機40内のソレノイドバルブを駆動制御する。なお、この際に用いられる変速マップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものであり、かつ後述するドライブモードに応じて選択された変速マップである。
【0044】
次に、図4のモード選択部200で処理されるドライブモードについて説明する。ドライブモードとは、運転者によるアクセル操作やブレーキ操作といった運転操作と、走行路の曲率や直線といった走行環境に応じて、運転者に与える走行感覚を異ならしめるモードである。本例の場合は、運転操作と走行環境とに基づいて、車両が直線走行中なのか、あるいは旋回走行中なのか、あるいはワインディング路を走行中なのか、運転者はゆったりした走行性能を所望しているのか、あるいはきびきびした走行性能を所望しているのか、といった車両の走行状態を判断するための指数である運転傾向指数kを求め、これに基づいて通常走行モード又はスポーツ走行モードを選択する。なお、ドライブモードは通常走行モードとスポーツ走行モードにのみ限定されず、燃費を高めるための各種制御をともなうエコ走行モードなどを含んでよい。
【0045】
運転傾向指数kは、加減速が大きかったり、コーナまたはカーブの通過速度が高い走行状態であるスポーツ走行状態になったりすると、k値が増大する。逆に、一定速度や、停止や、コーナまたはカーブの通過速度が低い走行状態である通常走行状態になると、k値が減少する。
【0046】
運転傾向指数kは、たとえば以下のようにして演算する。まず、車両に設けられた加速度センサ、又は速度センサから微分演算することで、車両前後方向の加減速度を求め、車速VSPごとに予め設定された係数を乗じることで加減速走行頻度指数gを求める。一方で、左右の車輪の速度差から、またはナビゲーションシステムの地図情報から走行路の屈曲度Lを演算する。そして、これら加減速走行頻度指数gと屈曲度Lとのそれぞれに予め設定された重み係数を乗じ、加算することで運転傾向指数kを演算する。
[数1]
運転傾向指数k=重み係数m×加減速走行頻度指数g+重み係数n×屈曲度L
【0047】
運転傾向指数kが、所定の閾値で規定される通常の範囲内(例えば0.4以下)である場合には、車両が通常走行状態にあると判断し、図7に示す駆動走行モードマップにおいて、実線にて示す通常走行モードのエンジン始動線がモード選択部200で選択される。これに対し、運転傾向指数kが、例えば0.4を超える通常の範囲外である場合には、車両がスポーツ走行状態にあると判断し、図7に点線で示すスポーツ走行モードのエンジン始動線がモード選択部200で選択される。
【0048】
これら2種のエンジン始動線を比較すると、通常走行モードのエンジン始動線で区画されるEV走行モード領域は、スポーツ走行モードのエンジン始動線で区画されるEV走行モード領域よりも小さい。換言すれば、スポーツ走行モードである場合には、EV走行モード領域とHEV走行モード領域との境界を、通常走行モードに係る原位置からEV走行モード領域側に移動してHEV走行モード領域を拡大するよう、境界が変更される。なお、このようなエンジン始動線の境界の変更は、図7に示すようなアクセル開度APOおよび車速VSPの双方を小さくする移動である他、いずれか一方を小さくする移動であってもよい。
【0049】
また、モード選択部200でスポーツ走行モードが設定されると、変速制御部500に対し、入力回転数Niが通常走行モードよりも高回転になるように変速パターンをダウンシフト側に移行させた変速マップを選択する。なお、詳細な説明は省略するが、目標充放電演算部300は、スポーツ走行モードが設定されると、複数の発電要求出力マップの中から、当該スポーツ走行モードの発電電力が通常走行モードの発電電力より大きくなる発電要求出力マップを選択する。
【0050】
本例の統合コントロールユニット60は変速制限部600をさらに備える。変速制限部600は、アクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APOおよび車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、車両が惰性走行中か否かを検出する。また、モード選択部200から駆動走行モードとドライブモードの情報を読み出す。そして、車両が惰性走行中である場合に、変速マップの変更を禁止する制御と、自動変速機40のダウンシフト制御を実行し、変速制御部500及びモータコントロールユニット80へ制御信号を出力する。なお、惰性走行とは少なくともアクセルが踏まれていない状態で車両が走行することをいい、アクセルもブレーキも踏まれていない状態のほか、アクセルは放されているがブレーキが踏まれている状態をも含む。
【0051】
図8は、変速制限部600の変速マップの変更禁止判定手順を示すフローチャートである。まず変速制限部600は、ステップS11にてアクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APOおよび車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、車両が惰性(コースト)走行中か否かを判断する。惰性走行中でない場合、すなわちアクセルが踏まれたドライブ走行中は、ステップS15へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップへ変更することを禁止するマップ変更禁止要求フラグを0(OFF)に設定し、スポーツ走行用変速マップへの変更を許可する。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグは0(OFF)に設定する。これにより、スポーツ走行モードに遷移して、運転者による加減速の大きな運転傾向に応じた加減速性能を発揮することができ、きびきびとした走行感を運転者に与えることができる。
【0052】
ステップS11にて車両が惰性走行中である場合、すなわちアクセルもブレーキも踏まれていないか、或いはアクセルが放されブレーキが踏まれているコースト走行中は、ステップS12へ進み、上述した運転傾向指数kが予め決められた閾値以上か否かを判断する。運転傾向指数kが閾値以上の場合はステップS13へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止するマップ変更禁止要求フラグを1(ON)に設定し、変速マップがスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止する。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグも1(ON)に設定し、後述する手順でダウンシフト制御を実行する。
【0053】
これに対し、ステップS12にて運転傾向指数kが閾値未満の場合はステップS14へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止するマップ変更禁止要求フラグを1(ON)に設定し、変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止する。ただしこの場合は、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグは0(OFF)に設定する。
【0054】
図9は、変速制限部600の変速マップの変更禁止解除判定手順を示すフローチャートである。まず変速制限部600は、ステップS21にてアクセル開度センサ91により検出されたアクセル開度APOおよび車速センサ92により検出された車速VSPに基づいて、車両が惰性(コースト)走行中か否かを判断する。惰性走行中である場合は、ステップS22へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップへ変更することを禁止するマップ変更要求フラグを1(ON)のまま維持し、スポーツ走行用変速マップへの変更を禁止し続ける。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグは1(ON)に設定したままとする。
【0055】
ステップS21にて車両が惰性走行中でない場合、すなわちアクセルが踏まれたら、ステップS23へ進み、上述した運転傾向指数kが予め決められた閾値以上か否かを判断する。運転傾向指数kが閾値未満の場合はステップS27へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止するマップ変更禁止要求フラグをO(OFF)に設定し、スポーツ走行用変速マップに変更することを許可する。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグも0(OFF)に設定し、ダウンシフト制御を終了する。
【0056】
これに対し、ステップS23にて運転傾向指数kが閾値以上の場合はステップS24へ進み、エンジン10の始動要求の有無を判断する。エンジン10の始動要求があった場合はステップS25へ進み、変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更することを禁止するマップ変更禁止要求フラグを0(OFF)に設定し、スポーツ走行用変速マップに変更することを許可する。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグの0(OFF)に設定し、ダウンシフト制御を終了する。
【0057】
ステップS24にてエンジン10の始動要求がない場合はステップS26へ進み、ステップS22と同様に変速マップをスポーツ走行用変速マップへ変更することを禁止するマップ変更要求フラグを1(ON)のまま維持し、スポーツ走行用変速マップへの変更を禁止し続ける。また、自動変速機40のダウンシフト制御への要求フラグは1(ON)に設定したままとする。
【0058】
図10は、上述した惰性走行時の具体例を示すタイムチャートであり、平坦路を第7速で走行中にアクセルを放してブレーキを踏んだ惰性走行中の制御例を示す。実線が本例の制御を示し、点線は本例の制御がない場合の比較例を示す。同図のアクセル開度APOがゼロになってブレーキがONすると、運転傾向指数kの減速度項が増加し、これがドライブモードのスポーツ走行モード遷移閾値を超えると、比較例では、変速マップ変更要求のグラフに点線で示すようにスポーツ走行モードに遷移する。
【0059】
しかしながら、本例の制御装置では、図8のステップS13と図10のP1に示すように、変速マップをスポーツ走行用変速マップへ変更することを禁止し、通常走行用変速マップをそのまま維持する。そして、エンジン始動要求があったときにこれと時間的に同期して変速マップをスポーツ走行用変速マップに変更し(P2)、エンジン10を始動する。これにより、エンジン始動要求があるまでの間はスポーツ走行用変速パターンによる急速なダウンシフトが回避されるので、惰性走行中にモータジェネレータ20の回転数の上昇が抑制され、その結果、エンジン10の始動時にショック又は車両の押し出し感が抑制されつつエンジン10が円滑に始動することになる。
【0060】
なお本例の走行パターンでは、アクセルが放され、かつブレーキが踏まれた状態の惰性走行であるので、運転者からの減速要求があるものと判断される。したがって、ドライブモードをスポーツ走行モードに変更することによる変速マップはスポーツ走行用変速マップに変更しないが、自動変速機40を第7速から第4速までダウンシフト制御し、モータジェネレータ20を回生駆動することでモータジェネレータ20の回生制動トルクによる減速を実施する(P3)。
【0061】
この場合のダウンシフトは、スポーツ走行用変速パターンに変更したら得られたであろう制動トルクと同等の制動トルクが発生するように自動変速機40をダウンシフトし、モータジェネレータ20の回生制動トルクを発生させる。また、ダウンシフトの下限は、モータジェネレータ20の回転数が、エンジン10の始動に影響のない、たとえば2000rpmを超えない範囲で実施することが望ましい。
【0062】
図11は、上述した惰性走行時の他の具体例を示すタイムチャートであり、下り坂道を第7速で走行中にアクセルを放してブレーキを踏まない惰性走行中の制御例を示す。実線が本例の制御を示し、点線は本例の制御がない場合の比較例を示す。同図のアクセル開度APOがゼロになると、運転傾向指数kの下り勾配項が増加し、これがドライブモードのスポーツ走行モード遷移閾値を超えると、比較例では、変速マップ変更要求のグラフに点線で示すようにスポーツ走行モードに遷移する。
【0063】
しかしながら、本例の制御装置では、図8のステップS13と図11のP1に示すように、変速マップをスポーツ走行用変速マップへ変更することを禁止し、通常走行用変速マップをそのまま維持する。またこの場合は、下り勾配を検出しているにも拘らずブレーキが踏まれていないので、運転者からの減速要求は小さいと判断し、自動変速機40のダウンシフトによるモータジェネレータ20の回生制動トルクの発生も実施しない。
【0064】
以上のとおり本例のハイブリッド車両の制御装置によれば、車両がEV走行モード及び惰性走行中に、ドライブモードがスポーツ走行モードに設定されたことを検出し、かつエンジン10の始動要求を検出した場合に、スポーツ走行用変速パターンへの変更禁止を指令するので、エンジン始動要求があるまでの間はスポーツ走行用変速パターンによる急速なダウンシフトが回避される。その結果、惰性走行中にモータジェネレータ20の回転数の上昇が抑制され、エンジン10の始動時にショック又は車両の押し出し感が抑制されつつエンジン10が円滑に始動することになる。
【0065】
また、アクセルの踏込みによるエンジン10の始動要求を検出した場合に、当該アクセルの踏込みによるエンジン10の始動要求に時間的に同期してスポーツ走行用変速パターンへの変更禁止を解除するので、運転者の駆動トルク要求に極めて近いタイミングでエンジン10を始動させることができ、運転者に対する違和感を抑制することができる。
【0066】
また、スポーツ走行用変速パターンへの変更禁止の指令中に、スポーツ走行用変速パターンに変更していたら得られたであろう制動パターンと同程度にモータジェネレータ20の回生制動トルクを発生させるので、スポーツ走行モードと同等の変速度変化を実現することができる。
【0067】
このモータジェネレータ20の回生制動トルクによる制御は、エンジン10の始動可能回転数を超えない範囲で実行されるので、再加速時などに急激に目的とする変速段までダウンシフトすることが防止できる。また、モータジェネレータ20の回転数を極力高く維持できるので、より多くの回生エネルギが得られ、その後のスポーツ走行モードなどに利用することができる。
【0068】
また、走行路の下り勾配が所定値以上の場合はスポーツ走行用変速パターンのうちエンジン10の始動可能回転数を超えない範囲の変速制御を禁止するので、モータジェネレータ20の回生によりバッテリ30の充電速度を遅くし、高いSOCによる回生トルクの不回収を抑制することができる。
【0069】
上記エンジン10が本発明に係る内燃機関に相当し、上記モータジェネレータ20が本発明に係る電動機に相当し、上記モード選択部200が本発明に係る走行モード検出手段、ドライブモード検出手段及び始動要求検出手段に相当し、上記変速制御部500が本発明に係る変速パターン変更手段に相当し、上記変速制限部600が本発明に係る制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0070】
1…ハイブリッド車両
10…エンジン
15…第1クラッチ
20…モータジェネレータ
25…第2クラッチ
30…バッテリ
35…インバータ
40…自動変速機
60…統合コントロールユニット
70…エンジンコントロールユニット
80…モータコントロールユニット
90…トランスミッションコントロールユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、電動機と、前記内燃機関の出力軸及び前記電動機の出力軸に直接的又は間接的に接続された駆動車輪と、前記電動機の出力軸に接続された自動変速機とを備え、運転操作と走行環境に応じてドライブモードをスポーツ走行モード又は非スポーツ走行モードに設定するハイブリッド車両に対し、制御信号を出力する制御装置であって、
前記電動機のみを駆動源とするEV走行モードであるか否かを検出する走行モード検出手段と、
少なくともアクセルが踏まれていない車両の惰性走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記ドライブモードがスポーツ走行モードか非スポーツ走行モードかを検出するドライブモード検出手段と、
前記スポーツ走行モードが設定された場合に前記自動変速機の変速パターンをスポーツ走行用変速パターンに変更する変速パターン変更手段と、
前記内燃機関の始動要求を検出する始動要求検出手段と、
前記車両がEV走行モード及び惰性走行中に、前記ドライブモードがスポーツ走行モードに設定されたことを検出し、かつ前記内燃機関の始動要求を検出した場合に、前記変速パターン変更手段に対して前記スポーツ走行用変速パターンへの変更禁止を指令する制御手段と、
を備えるハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記車両のアクセルの踏込みを検出するアクセル検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記アクセルの踏込みによる内燃機関の始動要求を検出した場合に、当該アクセルの踏込みによる内燃機関の始動要求に時間的に同期して前記変速パターン変更手段に対する前記変更禁止の指令を解除するハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記制御手段は、前記変速パターン変更手段に対する前記変更禁止の指令中に、前記スポーツ走行用変速パターンによる制動パターンにしたがって前記電動機の制動トルクを制御するハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
運転者の減速要求を検出する減速要求検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記減速要求が所定値以上である場合は、前記変速パターン変更手段に対する前記変更禁止の指令中に、前記内燃機関の始動可能回転数を超えない範囲で前記自動変速機の変速制御を実行するハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
走行路の下り勾配を検出する下り勾配検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記下り勾配が所定値以上の場合は、前記内燃機関の始動可能回転数を超えない範囲の前記自動変速機の変速制御を禁止するハイブリッド車両の制御装置。
【請求項1】
内燃機関と、電動機と、前記内燃機関の出力軸及び前記電動機の出力軸に直接的又は間接的に接続された駆動車輪と、前記電動機の出力軸に接続された自動変速機とを備え、運転操作と走行環境に応じてドライブモードをスポーツ走行モード又は非スポーツ走行モードに設定するハイブリッド車両に対し、制御信号を出力する制御装置であって、
前記電動機のみを駆動源とするEV走行モードであるか否かを検出する走行モード検出手段と、
少なくともアクセルが踏まれていない車両の惰性走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記ドライブモードがスポーツ走行モードか非スポーツ走行モードかを検出するドライブモード検出手段と、
前記スポーツ走行モードが設定された場合に前記自動変速機の変速パターンをスポーツ走行用変速パターンに変更する変速パターン変更手段と、
前記内燃機関の始動要求を検出する始動要求検出手段と、
前記車両がEV走行モード及び惰性走行中に、前記ドライブモードがスポーツ走行モードに設定されたことを検出し、かつ前記内燃機関の始動要求を検出した場合に、前記変速パターン変更手段に対して前記スポーツ走行用変速パターンへの変更禁止を指令する制御手段と、
を備えるハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記車両のアクセルの踏込みを検出するアクセル検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記アクセルの踏込みによる内燃機関の始動要求を検出した場合に、当該アクセルの踏込みによる内燃機関の始動要求に時間的に同期して前記変速パターン変更手段に対する前記変更禁止の指令を解除するハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記制御手段は、前記変速パターン変更手段に対する前記変更禁止の指令中に、前記スポーツ走行用変速パターンによる制動パターンにしたがって前記電動機の制動トルクを制御するハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
運転者の減速要求を検出する減速要求検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記減速要求が所定値以上である場合は、前記変速パターン変更手段に対する前記変更禁止の指令中に、前記内燃機関の始動可能回転数を超えない範囲で前記自動変速機の変速制御を実行するハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
走行路の下り勾配を検出する下り勾配検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記下り勾配が所定値以上の場合は、前記内燃機関の始動可能回転数を超えない範囲の前記自動変速機の変速制御を禁止するハイブリッド車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−91563(P2012−91563A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238418(P2010−238418)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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