説明

フレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔及びその表面処理銅箔を用いて得られるフレキシブル銅張積層板

【課題】フレキシブル銅張積層板の銅層形成に用いる銅箔であって、ファインピッチ回路形成が可能で、加熱後の接着強度が良好な表面処理銅箔の提供を目的とする。
【解決手段】上記課題を達成するため、ポリイミド樹脂層の表面に銅層を形成するための銅箔において、当該銅箔はポリイミド樹脂層との接着面に、コバルト層又はコバルト層とニッケル−亜鉛合金層とが積層した状態のいずれかの表面処理層を備えることを特徴とするフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、フレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔及びその表面処理銅箔を用いて得られフレキシブル銅張積層板に関する。特に、導体層である金属層とフレキシブル樹脂基材との間の加熱による接着強度の低下を防止したフレキシブル銅張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フレキシブルプリント配線板には、電子機器デバイスの小型化、高密度化、高機能化の歩みに合わせて、リジットプリント配線板を超えるファインピッチ回路の形成が求められてきた。このファインピッチ化の要求に応えるべく、フレキシブルプリント配線板の導体を形成する金属層の薄層化と当該金属層のフレキシブル樹脂基材と接する表面形状のロープロファイル化が進行してきた。
【0003】
しかし、前記ロープロファイル化が進行すると、金属層のフレキシブル樹脂基材に対する物理的接着効果が小さくなり、金属層とフレキシブル樹脂基材との接着強度が低下するのが一般的である。しかも、フレキシブル銅張積層板の状態から、エッチングプロセスを経て回路を作成し、その回路上に半田のリフロー工程を経る等して電子部品の実装を行い部品実装フレキシブル基板とする過程では、加熱による前記接着強度が顕著に低下する場合があり、このような加工プロセスを経て、金属層とフレキシブル樹脂基材との接着強度が顕著に低下する場合には、部品実装条件に細心の注意を払わざるを得ず、部品実装条件が大きな制約を受ける。また、電子機器デバイスに搭載されたフレキシブルプリント配線板が、電子機器の通電使用時の発熱、使用環境の大気湿度等による負荷に耐えきれず、回路剥離を起こす場合もあり、特に金属層とフレキシブル樹脂基材との接着強度の耐熱特性に対する要求が存在している。
【0004】
金属層とフレキシブル樹脂基材との接着強度の耐熱特性(以下、単に「耐熱特性」と称する。)を向上させるために、フレキシブル樹脂基材の素材であるポリイミド樹脂の組成に改良を施している。例えば、特許文献1に開示されているように、耐熱性ポリイミドフィルムの片面に、耐熱性接着層を介して金属箔を積層させたフレキシブル金属箔ポリイミド積層板であって、該耐熱性接着層がシランカップリング剤を添加したポリアミック酸ワニスを200℃〜400℃の範囲で加熱イミド化させたポリイミド接着層であり、且つ得られる積層板のポリイミド接着層のガラス転移点Tgが400℃以上であることを特徴とするフレキシブル金属箔ポリイミド積層板を採用している。
【0005】
また、特許文献2では、耐熱性接着フィルムに含まれる水分の蒸発によるシワ・発泡などを抑制し、外観良好でハンダ耐熱性の高い耐熱性フレキシブル積層板の製造方法を提供することを目的として、耐熱性接着フィルムと金属箔とを積層して得られる耐熱性フレキシブル積層板の製造方法であって、前記耐熱性接着フィルムの水分率を0.7%以下にした後に該耐熱性接着フィルムと金属箔とを積層することを特徴とする耐熱性フレキシブル積層板の製造方法が開示されている。
【0006】
ところが、上述のようにフレキシブル樹脂基材の素材に関してのみ改良を施しても、耐熱特性の向上及び安定化には限界が生じてきた。そこで、フレキシブル樹脂基材と金属層との界面に、樹脂との密着性を向上させる観点から相性の良い金属素材で形成した層を配置することが試みられてきた。例えば、特許文献3には、ポリイミド層の少なくとも片面に、スパッタリング法又はスパッタリング法で形成された金属層の上に電解メッキ法で形成した金属層を有する積層板であり、金属層を幅8〜50μmに加工して、その引き剥がし強度を測定した場合に、ポリイミドと金属層間の初期接着強度が450N/m以上であり、且つ、大気中で150℃、168hr熱処理した後のポリイミドと金属層間の熱処理後接着強度が初期接着強度の80%以上で、400N/m以上であることを特徴とする金属−ポリイミド基板を採用している。即ち、ポリイミド層の上に、スパッタリング法又はスパッタリング法で形成された金属層の上に電解メッキ法を用いて金属層を設けるのであり、スパッタリング法を用いることが特徴である。
【0007】
近年では、銅箔等の金属箔を用いて、その表面にポリイミド樹脂層を形成するための樹脂成分を塗布して、300℃前後の加熱を行うことにより、金属箔の表面にポリイミド樹脂層を形成してフレキシブル銅張積層板を得るキャスティング法と称する製造方法が広く採用されてきた。金属箔とポリイミド樹脂フィルムとを直接的に張り合わせる方法と比べ、製造プロセスの簡素化ができ、製造コストの抑制も可能だからである。例えば、特許文献4には、キャスティング法で得られたポリイミド樹脂層と銅箔との間の初期接着力を高め、熱負荷後の接着力低下を低減でき、ファインピッチ配線加工にも対応できるフレキシブルプリント配線板用積層体として、少なくとも表面にNi及びZnが付着された銅箔にポリイミド前駆体樹脂溶液を塗工し、酸素濃度1〜10vol%を有する雰囲気下で加熱処理することにより上記ポリイミド前駆体樹脂溶液を乾燥及び硬化させて銅箔上にポリイミド樹脂層を形成するフレキシブルプリント配線板用積層体の製造方法であって、上記で得られた積層板を150℃で168時間保持した後の銅箔の90°方向引き剥がし接着力が1.0kN/m以上を有することを特徴とするフレキシブルプリント配線板用積層体の製造方法が開示されている。そして、その銅箔の表面におけるNiの付着量が2.5〜5.0μg/cmであり、NiとZnの付着量割合を表すNi/(Ni+Zn)が0.70〜0.90であることが好ましいと開示している。この特許文献4のNiは、銅箔とポリイミド樹脂層との間において酸化物を形成して、このニッケル酸化物の存在によって銅箔とポリイミド樹脂層との界面が安定化されると共に、このニッケル酸化物が銅箔側からポリイミド樹脂層側へのCu(I)の拡散を防止するバリアー層として働き、ポリイミド樹脂の劣化を防ぐ役割をするという知見を得た。
【0008】
【特許文献1】特開2006−7632号公報
【特許文献2】特開2006−255920号公報
【特許文献3】特開2006−175634号公報
【特許文献4】特開2006−261270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
確かに、特許文献4に開示の製造方法で得られるフレキシブルプリント配線板用積層体(フレキシブル銅張積層板)は、フレキシブル樹脂基材と銅層との接着強度の向上に一定の効果を発揮してきた。しかしながら、加熱後のフレキシブル樹脂基材と銅層との接着強度の製造ロット間のバラツキが大きく、安定性に欠ける傾向にあった。
【0010】
よって、市場では、フレキシブル樹脂基材と銅層との接着強度の向上をより安定化させ、且つ、ファインピッチ回路形成の可能なフレキシブル銅張積層板が求められた。このようなフレキシブル銅張積層板を提供するために、加熱後のフレキシブル樹脂基材と銅層との良好な接着強度の維持(耐熱特性)が可能な表面処理銅箔が必要となる。特に、キャスティング法で用いる表面処理銅箔に対する要求が顕著であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、以下に述べる表面処理銅箔等を採用することにより、上記課題を解決できることに想到した。
【0012】
本件発明に係る表面処理銅箔: 本件発明に係る表面処理銅箔は、フレキシブル銅張積層板製造に用いられるものであり、ポリイミド樹脂層の表面に銅層を形成するための銅箔において、当該銅箔はポリイミド樹脂層との接着面に表面処理層としてコバルト層を備えることを特徴とするものである。
【0013】
また、本件発明に係る表面処理銅箔は、前記コバルト層の上にニッケル−亜鉛合金層が積層した状態の表面処理層を備えることも好ましい。
【0014】
そして、本件発明に係る表面処理銅箔は、その表面処理層を構成する前記コバルト層が、厚さ3nm〜15nmであることが好ましい。
【0015】
一方、本件発明に係る表面処理銅箔の前記ニッケル−亜鉛合金層は、不可避不純物を除きニッケルを50wt%〜99wt%、亜鉛を1wt%〜50wt%含有するものであることが好ましい。
【0016】
そして、本件発明に係る表面処理銅箔の前記ニッケル−亜鉛合金層は、厚さ2nm〜10nmであることが好ましい。
【0017】
更に、前記表面処理層の表面に、防錆処理層としてクロメート層を備えることも好ましい。
【0018】
そして、本件発明に係る表面処理銅箔のポリイミド樹脂基材との接着面の最外層に、シランカップリング剤処理層を備えることも好ましい。
【0019】
前記シランカップリング剤処理層は、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤のいずれかを用いて形成することが好ましい。
【0020】
また、本件発明に係る表面処理銅箔のポリイミド樹脂層との接着面の表面粗さ(Rzjis)が、2.0μm以下であることが好ましい。
【0021】
そして、本件発明に係る表面処理銅箔のポリイミド樹脂層との接着面の光沢度[Gs(60°)]が70以上であることが好ましい。
【0022】
本件発明に係るフレキシブル銅張積層板: 本件発明に係るフレキシブル銅張積層板は、上記のいずれかに記載の表面処理銅箔を用いて得られることを特徴とするものである。また、本件発明に係るフレキシブル銅張積層板は、上記表面処理銅箔とフィルムキャリアテープ状のポリイミド樹脂層とが積層状態にあるチップ オン フィルム製造用のテープ状のフレキシブル銅張積層板として用いることも好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本件発明に係る表面処理銅箔は、そのポリイミド樹脂層との接着面に、ニッケル−亜鉛合金層を備え、その上にコバルト層を備えているため、ニッケル−亜鉛合金層を単独で用いた場合に比べ、より優れた耐熱特性を示す。しかも、その表面処理銅箔が、ポリイミド樹脂層との接着面の表面粗さ(Rzjis)を2.0μm以下、又は当該接着面の光沢度[Gs(60°)]が70以上とすることでファインピッチ回路の形成が可能となる。従って、本件発明に係るフレキシブル銅張積層板を用いることで、本件発明に係るフレキシブル銅張積層板は、ファインピッチ回路の形成が可能で、且つ、耐熱特性に優れたものになる。更に、本件発明に係るフレキシブル銅張積層板は、チップ オン フィルム製造用のテープ状のフレキシブル銅張積層板として好適となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本件発明に係る表面処理銅箔の形態及びフレキシブル銅張積層板の形態に関して説明する。
【0025】
本件発明に係る表面処理銅箔の形態: 本件発明に係る表面処理銅箔は、フレキシブル銅張積層板製造に用いられるポリイミド樹脂層の表面に導体層として銅層を形成するためのものである。図1に、本件発明に係る表面処理銅箔の模式断面図を示す。この図1から分かるように、本件発明に係る表面処理銅箔1の層構成は、銅層2の表面に表面処理層3が存在する。そして、この表面処理層が、図1(a)のようにコバルト層4の単独層の場合(以下、「タイプI」と称する。)と、図1(b)のようにコバルト層4とニッケル−亜鉛合金層5との2層で構成される場合(以下、「タイプII」と称する。)とがある。なお、各図面中の各層の厚さは、説明を分かりやすくするために用いたものであり、現実の製品の層厚を反映させたものではない。
【0026】
最初に、表面処理銅箔の製造に用いる銅箔に関して説明しておく。ここで言う銅箔とは、圧延法又は電解法で製造した銅箔の全てを含む概念として記載しており、その製造方法、厚さ、表面粗さ等に関して特段の限定はない。しかし、厚さに関して言えば、50μmピッチ以下のファインピッチ回路の形成を意図すれば、18μm以下、好ましくは12μm以下の厚さの銅箔を用いることが好ましい。そして、5μm以下の銅箔を用いる場合には、キャリア箔付銅箔を用いて、ハンドリングによる銅箔のシワ、折れ不良等の発生を防止することが好ましい。ただし、50μmピッチ以下のファインピッチ回路を形成する場合、光学式自動検査(AOI検査)時に求められる良好な光透過性を確保するためには、後述の条件が求められる。
【0027】
以下、銅箔層の表面に設ける表面処理層に関して述べるが、表面処理層は銅箔の片面にのみ設けるのではなく、銅箔の両面に設ける事も可能である。図1(a)に示したタイプIのコバルト層及び図1(b)に示したタイプIIのコバルト層の形成には、無電解メッキ法、電解メッキ法、物理蒸着法等の任意の方法を採用することが出来る。このコバルト層は、本件発明に係る表面処理銅箔が加熱を受け、銅の拡散が促進されたときに、銅成分がポリイミド樹脂側に拡散するのを確実に防止するための層である。従って、加熱により拡散挙動を起こしにくいコバルトを用いたのである。
【0028】
しかし、このコバルト層は、銅エッチング液には溶解しにくいという特性を備える。従って、銅エッチング液で溶解可能で、且つ、銅成分及び亜鉛成分の拡散防止効果を発揮する適正な厚さの層とすべきである。従って、本件発明に係る表面処理銅箔は、その表面処理層を構成する前記コバルト層が、厚さ3nm〜15nmであることが好ましい。コバルト層の厚さ3nm未満の場合には、キャスティング法に用いられる300℃を超える温度で加熱を受けた場合、亜鉛成分の銅箔側への拡散及び銅成分のポリイミド樹脂側への拡散を防止し得ない。一方、コバルト層の厚さ15nmを超える場合には、銅エッチング液による良好な除去が出来ないため、ファインピッチ回路形成が困難となるばかりでなく、回路間にコバルト成分が残留するため耐マイグレーション性能が悪くなる。
【0029】
そして、タイプIIの表面処理銅箔の場合には、コバルト層の上にニッケル−亜鉛合金層を設ける。このニッケル−亜鉛合金は、耐食性に優れたニッケルと、一般的に卑金属と言われ酸溶液に溶解しやすい亜鉛とを組み合わせることで、単体では銅エッチング液に溶解し難いニッケルの溶解除去を促進し、銅エッチング液の使用を容易にする。そして、このニッケル−亜鉛合金は、銅層とポリイミド樹脂層との密着性を改善するように機能する。このときニッケル−亜鉛合金として、不可避不純物を除きニッケルを50wt%〜99wt%、亜鉛を1wt%〜50wt%含有する組成が望ましい。ここで亜鉛の含有割合が1wt%未満の場合には、銅エッチング液によるニッケル−亜鉛合金の溶解が困難となり、ニッケル−亜鉛合金層の厚さに拘わらず、ファインピッチ回路形成が困難となり、回路間にニッケル成分が残留し回路ショート、耐マイグレーション性能が悪くなる。これに対し、亜鉛の含有割合が50wt%を超えると、エッチングにより形成した回路とポリイミド樹脂基材との密着性が低下する。即ち、コバルト層の厚さに関係なく、耐薬品性が低下して、形成した回路とポリイミド樹脂基材との接触端部からエッチング液が侵入して浸食され、回路の引き剥がし強さが低下すると共に、事後的に錫メッキを施す場合等に浸食部分に錫の潜り込み現象が発生しやすくなり好ましくない。また、ニッケル−亜鉛合金の組成は、より確実にエッチング残の発生を防止して、ファインピッチ回路形成を行うためには、ニッケル60wt%〜95wt%、亜鉛を40wt%〜5wt%、更に好ましくはニッケル65wt%〜90wt%、亜鉛を35wt%〜10wt%の組成を採用する。
【0030】
そして、前記ニッケル−亜鉛合金層は、厚さ2nm〜10nmであることが好ましい。このニッケル−亜鉛合金層は、亜鉛を含んでおり、銅エッチング液による溶解が容易である。そして、このニッケル−亜鉛合金層に含まれる亜鉛は、コバルト層の溶解プロモータとしても機能する。また、コバルトよりも溶解の速いニッケル−亜鉛合金層を、銅層側からエッチングする最終段階に配置することで、僅かではあるがオーバーエッチングタイムを短縮し、結果としてエッチング液との接触時間が短縮化でき、形成した回路とポリイミド樹脂基材との接触端部へのエッチング液の侵入を可能な限り軽減できる。ニッケル−亜鉛合金層の厚さが2nm未満の場合には、上記組成のニッケル−亜鉛合金層であることを前提として、トータル亜鉛量が少なくなり、コバルト層を溶解させるプロモータとしての機能を発揮しないため、ファインピッチ回路の形成が困難となる。一方、ニッケル−亜鉛合金層の厚さが10nmを超える場合には、上記ニッケル−亜鉛合金組成を採用しても、上述の耐薬品性が低下するため好ましくない。以上に述べたニッケル−亜鉛合金層の形成は、銅箔の表面に電解法、物理蒸着法のいずれも用いることが可能である。
【0031】
そして、上記表面処理層の上に、防錆処理層としてクロメート層を備えることも好ましい。クロメート層を設けても、ポリイミド樹脂基材との密着性を向上させ、且つ、表面処理銅箔としての長期保存性の確保を確実にする。
【0032】
更に、ポリイミド樹脂基材との接着面となる上記表面処理層又は表面処理層上に形成したクロメート層の上に、シランカップリング処理層を備えることも好ましい。シランカップリング処理層を設けることで、金属と有機材との濡れ性を改善し、積層状態としたときの両者の密着性を改善することが可能になる。そして、このときのシランカップリング剤層の形成には、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤を用いることが好ましい。シランカップリング剤の中でも、これらが銅箔層とポリイミド樹脂基材との密着性の向上に効果的に寄与するからである。
【0033】
また、本件発明に係る表面処理銅箔のポリイミド樹脂層との接着面の表面粗さ(Rzjis)が、2.0μm以下であることが好ましい。ファインピッチ回路を形成するという観点から、可能な限りオーバーエッチングタイムを短縮して、回路のエッチングファクターを向上させるためである。そして、より好ましくは、当該表面粗さが1.5μm以下である。更に、表面粗さが1.0μm未満になると回路のエッチングファクターが飛躍的に向上する。ここで下限値は、特に規定していないが、実用可能なポリイミド樹脂基材との密着性を確保するためには、表面粗さ(Rzjis)が0.2μm以上であることが好ましい。
【0034】
更に、当該表面処理銅箔のポリイミド樹脂基材との接着面は、光沢度[Gs(60°)]が70以上である事が好ましい。良好なファインピッチ回路形成能及び光学式自動検査(AOI検査)のときに求められる良好な光透過性を確保するためである。例えば、この表面処理層をメッキ法で形成すると、形成した析出面の表面は、光沢状態から艶消し状態に到るまでの広範な範囲の態様を示す。これは、表面処理層の表面状態が極めて滑らかな状態を持つのか、極めて微細な凹凸形状を持つ表面かによって異なる。しかしながら、このようなレベルの凹凸は、表面粗度計を用いて測定する事は困難であり、差異を見いだし得ない。そこで、本件発明者等は、その表面状態の代替え指標として、光沢度を用いた。本件発明では、光沢度[Gs(60°)]が70以上としているが、光沢度が70未満の場合には、良好なファインピッチ回路形成能が得られず、光学式自動検査装置(AOI装置)による検査時に求められる良好な光透過性の確保も困難となる。そして、より好ましくは400以上であると、ファインピッチ回路形成能が飛躍的に向上するため好ましい。この場合の上限値に関しては、表面処理層の製造条件により変動するため、特に規定していない。しかし、経験的には900程度である。
【0035】
本件発明に係るフレキシブル銅張積層板の形態: 本件発明に係るフレキシブル銅張積層板は、上記のいずれかに記載の表面処理銅箔を用いて得られることを特徴とするものである。本件発明に係る表面処理銅箔を用いたフレキシブル銅張積層板の製造方法に関して、特段の限定はなく、従来から公知のキャスティング法、連続ラミネート法、プレス成型法等を用いることが可能である。しかし、そのフレキシブル銅張積層板の製造方法の内、高温負荷がなされる製造方法であるほど、本件発明に係る表面処理銅箔を用いることが好ましい。例えば、この高温負荷が行われるフレキシブル銅張積層板の製造方法として、キャスティング法を用いる場合を取り上げる。このキャスティング法においては、表面処理箔の表面に、硬化後のポリイミド膜厚が所定の厚さになるように、ポリアミック酸溶液を塗布して大気雰囲気で120℃〜150℃の温度で30分程度乾燥させる。場合によっては、ポリアミック酸溶液の複数回の塗布を行っても良い。次に、ポリアミック酸の乾燥膜を備える表面処理銅箔を、160℃〜350℃×10分〜30分程度の加熱処理を行い硬化させてフレキシブル銅張積層板を得ることができる。また、ポリイミド樹脂基材の表面に、物理蒸着法を用いて、ニッケル−亜鉛合金層、コバルト層、銅層を順次形成する方法を採用してもフレキシブル銅張積層板を得ることが出来る。図2に、図1(b)に示したタイプIIの表面処理銅箔の片面側にポリイミド樹脂層6が在る状態のフレキシブル銅張積層板7の模式断面図を示した。この状態から表面処理銅箔1の表面にエッチングレジストパターンを設け、エッチング処理する事により、不要な部分の銅層2と表面処理層3のコバルト層4とニッケル−亜鉛合金層5とを同時に除去して、回路の形成を行い、フレキシブルプリント配線板となる。
【0036】
また、本件発明に係るフレキシブル銅張積層板には、上記表面処理銅箔とフィルムキャリアテープ状のポリイミド樹脂層とが積層状態にあるチップ オン フィルム(COF)製造用のテープ状のフレキシブル銅張積層板も含まれる。係る場合のフレキシブル銅張積層板の製造方法も、形状がテープ状というのみであり、上記フレキシブル銅張積層板の製造方法と同様の製造方法が採用できる。そして、上記COFを製造するには、テープ状の前記フレキシブル銅張積層板に、打ち抜き加工によりスプロケットホール及び必要に応じて貫通孔等を形成して、COFテープ製造のエッチングラインで回路パターン形成、その他加工が施される。
【0037】
以下、実施例及び比較例に関して説明する。なお、ポリイミド樹脂基材との密着性評価は、ポリイミド樹脂基材に表面処理銅箔を張り合わせて行った。即ち、実施例及び比較例で製造した表面処理銅箔を、熱間プレス法で熱圧着層を有するポリイミド樹脂基材と張り合わせて、所謂2層のフレキシブル銅張積層板とし、これを用いて90°方向での引き剥がし強さの測定を行った。
【実施例1】
【0038】
この実施例では、12μm厚さの電解銅箔の無粗化の析出面に、硫酸コバルトを用いコバルト濃度が2g/l、リン酸カリウム80g/l、液温40℃、pH10、電流密度8A/dmの条件で電解してコバルト層を形成し、コバルト層単独のタイプIの表面処理銅箔であって、コバルト付着量の異なる2種類の表面処理銅箔を製造した。
【0039】
そして、当該表面処理層上に防錆処理層としてクロメート層を電解で形成した。このときの電解条件は、クロム酸1.0g/l、液温35℃、電流密度8A/dm、電解時間5秒とした。以下、クロメート層を形成する場合には、同様の条件を採用した。更に、当該、クロメート処理層の上にシランカップリング処理層を形成した。シランカップリング処理層の形成は、イオン交換水を溶媒として、γ−アミノプロピルトリメトキシシランを5g/lの濃度となるよう加えたものをシャワーリングにてクロメート層表面に吹き付けることにより吸着処理し、乾燥炉内で箔温度が150℃となる雰囲気内に4秒間保持し、水分をとばし、シランカップリング剤の縮合反応を促進する事により行った。以下、シランカップリング剤処理を行う場合には、同様の条件を採用した。以上のようにして、2種類の表面処理銅箔を製造した。以下の表1に2種類の表面処理銅箔(E1−1、E1−2)の概要に関して示す。
【0040】
【表1】

【0041】
そして、上記試料E1−1、E1−2を、厚さ25μmの宇部興産株式会社製のユーピレックスVTの片面に、熱間プレス成型して張り合わせた。そして、引き剥がし強さ測定試料として、0.8mm幅の直線回路をエッチング形成し、JIS C6481に準拠して、引きはがした銅箔の一端を引張り試験機に固定し、銅箔面に垂直になる方向に引張って、そのときの強さを引き剥がし強さとして測定した。このとき常態引き剥がし強さ(表4では、単に「常態」と記載)と、260℃の半田バスに20秒間フローティングさせた後、室温にして測定した引き剥がし強さ(表4では、単に「半田後」と記載)を測定した。また、耐塩酸性劣化率(表4では、単に「耐塩酸性」と記載)として、前記0.2mm幅回路を形成した引き剥がし強さ測定試料を、塩酸:水=1:1の溶液に室温で1時間浸漬し、引き上げた後水洗し、乾燥後、直ちに引き剥がし強さを測定し、常態の引き剥がし強さから何%劣化したかを算出した。そして、耐湿性劣化率(表4では、単に「耐湿性」と記載)として、前記0.8mm幅回路を形成した引き剥がし強さ測定試料を、沸騰したイオン交換水(純水)中に2時間浸漬し、引き上げた後乾燥し、直ちに引き剥がし強さを測定し、常態の引き剥がし強さから何%劣化したかを算出した。更に、前述と同様にして、1mm幅の引き剥がし強さ測定試料を作成し、常態引き剥がし強さを測定し、その試料を150℃×168時間保持した後に、耐熱特性を測るため耐熱引き剥がし強さを測定し、加熱による劣化率を算出した。これらの結果を、表5に、比較例と対比可能なように示す。なお、表5では、これらの値を「耐熱特性」の項目として、単に「常態」、「熱後」、「劣化率」と記載して示している。
【実施例2】
【0042】
この実施例では、12μm厚さの電解銅箔の無粗化の析出面に、実施例1と同様にして、コバルト層を形成した。そして、そのコバルト層の上に、硫酸ニッケル2g/l、ピロリン酸亜鉛0.5g/l、ピロリン酸カリウム80g/lを含み、液温40℃、pH10としたメッキ液を用いて、これを電流密度0.5A/dmの条件で電解して、コバルト層の上にニッケル−亜鉛合金層を形成し、タイプIIの表面処理銅箔であって、表面処理成分量の異なる3種類の表面処理銅箔を製造した。
【0043】
そして、実施例1と同様に、当該表面処理層上に防錆処理層としてクロメート層を電解で形成し、クロメート処理層の上にシランカップリング処理層を形成した。
以上のようにして、3種類の表面処理銅箔を製造した。以下の表2に3種類の表面処理銅箔(E2−1、E2−2、E2−3)の概要に関して示す。
【0044】
【表2】

【比較例】
【0045】
[比較例1]
この比較例では、上記実施例1のコバルト層を省略し、ニッケル−亜鉛合金層のみで表面処理層を形成した。その他は上記実施例と同様である。以上のようにして、ニッケル−亜鉛合金層のみの表面処理層を備える表面処理銅箔を製造した。以下の表3に、この表面処理銅箔(C1−1、C1−2、C1−3)の概要に関して示す。
【0046】
【表3】

【0047】
そして、上記試料C1−1、C1−2、C1−3を用いて、実施例1と同様にして、常態引き剥がし強さ、半田後引き剥がし強さ、耐熱引き剥がし強さ、耐塩酸性劣化率、耐湿性劣化率を測定した。これらの結果を、表5に、実施例と対比可能なように示す。
【0048】
[比較例2]
この比較例では、実施例1で用いたと同様の12μm厚さの電解銅箔の無粗化の析出面に、硫酸コバルトを用いコバルト濃度が2g/l、ピロリン酸亜鉛が0.5g/l、リン酸カリウム80g/l、液温40℃、pH10、電流密度8A/dmの条件で電解してニッケル−コバルト−亜鉛合金層を形成し、タイプIの表面処理銅箔と同様の2種類の表面処理銅箔を製造した。その他は上記実施例と同様である。以下の表4に、この表面処理銅箔(C2−1、C2−2)の概要に関して示す。
【0049】
【表4】

【0050】
そして、上記試料C2−1、C2−2を用いて、実施例1と同様にして、常態引き剥がし強さ、半田後引き剥がし強さ、耐熱引き剥がし強さ、耐塩酸性劣化率、耐湿性劣化率を測定した。これらの結果を、表5に、実施例と対比可能なように示す。
【0051】
実施例と比較例との対比: 実施例と比較例との対比が容易となるように、以下の表5に各実施例及び比較例の常態引き剥がし強さ、半田後引き剥がし強さ、耐熱引き剥がし強さ、耐塩酸性劣化率、耐湿性劣化率を掲載する。
【0052】
【表5】

【0053】
この表5を参照しつつ実施例と比較例との対比を行う。この表5から理解できるように、単なる「常態引き剥がし強さ」及び「半田後引き剥がし強さ」の2項目においては、実施例と比較例とでは大きな差異は見られない。しかし、耐熱特性の「劣化率」の項目を見ると、明らかに実施例の方が比較例よりも低い値となっており、加熱による劣化が小さいことが分かる。この劣化率は、{[常態引き剥がし強さ(kgf/cm)]−[耐熱引き剥がし強さ(kgf/cm)]}/[常態引き剥がし強さ(kgf/cm)]として算出される値に100を掛けた値であり、この値が40%以下であれば良好と言われる。比較例の場合でも劣化率として要求される基準は満足している。しかし、上記実施例の場合の劣化率の値は、全て10%以下の範囲になり、比較例に比べ遙かに低い値となっている。このことから、本件発明に係る表面処理銅箔を使用することで、フレキシブルプリント配線板の耐熱特性が顕著に向上することが理解できる。また、耐塩酸性劣化率及び耐湿性劣化率の評価結果を見るに、実施例の方が安定した性能を示していると言える。特に、比較例の耐塩酸性劣化率は、非常に大きなバラツキのある結果が得られている。これに対し、実施例の方は、プリント配線板の回路に要求される規格範囲内の耐塩酸性能を示しつつ、安定した性能を示している。従って、比較例の表面処理銅箔と比べて、実施例の表面処理銅箔の方が品質安定性に優れ、ファインピッチ回路の形成に好適であることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本件発明に係る表面処理銅箔は、ポリイミド樹脂層との接着性に優れ、特に優れた耐熱特性を示す。従って、電子機器デバイスに組み込まれて通電使用中の回路剥離の発生を防止して、電子機器デバイスの長寿命化を図ることが出来る。しかも、その表面処理銅箔を用いて製造されるフレキシブル銅張積層板は、高品質の性能を備えるものとなる。このフレキシブル銅張積層板を用いて、エッチング加工により回路形成する際の薬液に対し、良好な耐薬品性能及び耐吸湿性能を示すので、容易にファインピッチ回路を備えるフレキシブルプリント配線板の提供が可能となる。特に、本件発明に係るフレキシブル銅張積層板は、チップ オン フィルム製造用のテープ状のフレキシブル銅張積層板として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本件発明に係る表面処理銅箔の模式断面図である。
【図2】本件発明に係る表面処理銅箔を用いたフレキシブル銅張積層板の模式断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 表面処理銅箔
2 銅層
3 表面処理層
4 コバルト層
5 ニッケル−亜鉛合金層
6 ポリイミド樹脂層
7 フレキシブル銅張積層板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂層の表面に銅層を形成するための銅箔において、
当該銅箔はポリイミド樹脂層との接着面に表面処理層としてコバルト層を備えることを特徴とするフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔。
【請求項2】
前記コバルト層の上にニッケル−亜鉛合金層が積層した状態の表面処理層を備えることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記コバルト層は、厚さ3nm〜15nmである請求項1又は請求項2に記載のフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔。
【請求項4】
前記ニッケル−亜鉛合金層は、不可避不純物を除きニッケルを50wt%〜99wt%、亜鉛を1wt%〜50wt%含有するものである請求項2又は請求項3に記載のフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔。
【請求項5】
前記ニッケル−亜鉛合金層は、厚さ2nm〜10nmである請求項2〜請求項4のいずれかに記載のフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔。
【請求項6】
前記表面処理層の表面に、防錆処理層としてクロメート層を備えるものである請求項1〜請求項5のいずれかに記載のフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔。
【請求項7】
前記表面処理銅箔のポリイミド樹脂基材との接着面の最外層に、シランカップリング剤処理層を備える請求項1〜請求項6のいずれかに記載のフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔。
【請求項8】
前記シランカップリング剤処理層は、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤を用いて形成したものである請求項7に記載のフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔。
【請求項9】
ポリイミド樹脂層との接着面の表面粗さ(Rzjis)が、2.0μm以下である請求項1〜請求項8のいずれかに記載のフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔。
【請求項10】
ポリイミド樹脂層との接着面の光沢度[Gs(60°)]が70以上である請求項1〜請求項9のいずれかに記載のフレキシブル銅張積層板製造用の表面処理銅箔。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれかに記載の表面処理銅箔を用いて得られることを特徴とするフレキシブル銅張積層板。
【請求項12】
請求項1〜請求項10のいずれかに記載の表面処理銅箔とフィルムキャリアテープ状のポリイミド樹脂層とが積層状態にあるチップ オン フィルム製造用のテープ状のフレキシブル銅張積層板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−132757(P2008−132757A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165581(P2007−165581)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】