説明

ブラシレスDCモータの制御装置

【課題】 モータ制御の安定性を確保しつつ、過渡状態での追従性を向上させる。
【解決手段】 相電流微分出力部75は、トルク変動が所定閾値#ΔTqよりも大きい場合あるいはトルク変動が所定閾値#ΔTq以下であっても、トルク変動が所定閾値#ΔTqよりも大きい状態から所定閾値#ΔTq以下の状態に変化してからの経過時間が所定経過時間以内である場合には、各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naを各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして出力する。相電流微分出力部75は、トルク変動が所定閾値#ΔTq以下であって、かつ、トルク変動が所定閾値#ΔTqよりも大きい状態から所定閾値#ΔTq以下の状態に変化してからの経過時間が所定経過時間よりも長い場合には、各平均電流微分値DIu_av,DIv_avを各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスDCモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばブラシレスDCモータ等のモータの制御において、回路方程式に含まれる電流微分値を算出する際に、電流検出値に含まれる雑音の影響を低減するために、例えば最小二乗法や移動平均値算出処理等のフィルタ処理によって、平均的な電流検出値の時間変化を算出する制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−343963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来技術の一例に係るブラシレスDCモータの制御装置において、電流微分値は常に平均的な電流検出値の時間変化に基づき算出されることから、電流微分値には時間的な遅れが生じる。例えば、トルク指令値の急激な変化に応じて電流検出値が急変した場合であっても、この電流検出値が急変したタイミングから遅れたタイミングで電流微分値に変化が生じることになる。しかも、この変化が生じた電流微分値は、トルク指令値が急変したタイミングでの電流検出値と、トルク指令値の変化が相対的に小さい状態での電流検出値とに基づく平均的な値であり、トルク指令値の変化量が適切に反映された値ではないという問題が生じる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、モータ制御の安定性を確保しつつ、過渡状態での追従性を向上させることが可能なブラシレスDCモータの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の本発明のブラシレスDCモータの制御装置は、永久磁石を有するロータと、このロータを回転させる回転磁界を発生する複数相のステータ巻線を有するステータとを備えたブラシレスDCモータを、トルク指令値(例えば、実施の形態でのトルク指令値Tq)に応じて複数のスイッチング素子からなり前記ステータ巻線への通電を順次転流させる通電切換手段(例えば、実施の形態でのPWMインバータ13A)により回転駆動させるブラシレスDCモータの制御装置であって、前記複数相の相電流の電流微分値(例えば、実施の形態での各電流微分値dIv/dt,dIu/dt)に基づき、前記ロータの回転角度(例えば、実施の形態での推定回転角度θ^)を演算する角度演算手段(例えば、実施の形態での高回転時角度演算部52)と、前記トルク指令値の変動量(例えば、実施の形態での差分ΔTq)が所定値(例えば、実施の形態での所定閾値#ΔTq)以上である場合に、前記相電流の瞬時的な変化に基づき算出される瞬時電流微分値(例えば、実施の形態での各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_na)を前記電流微分値として設定する瞬時電流微分値設定手段(例えば、実施の形態での相電流微分出力部75)とを備えることを特徴としている。
【0005】
上記構成のブラシレスDCモータの制御装置によれば、トルク指令値の変動量が所定値以上である場合には相電流の瞬時的な変化に基づき算出される瞬時電流微分値を電流微分値として設定することにより、トルク指令値の急激な変化が生じるタイミングに対して、このトルク指令値の変化に応じて電流微分値が変化するタイミングが遅れてしまうことを防止することができる。さらに、電流微分値にトルク指令値の変化量を適切に反映させることができ、ブラシレスDCモータの過渡状態での追従性を向上させることができる。
【0006】
さらに、請求項2に記載の本発明のブラシレスDCモータの制御装置は、前記トルク指令値の変動が所定値未満である場合に、前記相電流の平均的な変化に基づき算出される平均電流微分値(例えば、実施の形態での各平均電流微分値DIu_av,DIv_av)を前記電流微分値として設定する平均電流微分値設定手段(例えば、実施の形態での相電流微分出力部75)を備えることを特徴としている。
【0007】
上記構成のブラシレスDCモータの制御装置によれば、トルク指令値の変動が所定値未満である場合に、相電流の平均的な変化に基づき算出される平均電流微分値を電流微分値として設定することにより、相電流の検出値に含まれる雑音の影響を低減し、モータ制御の安定性を確保することができる。
【0008】
さらに、請求項3に記載の本発明のブラシレスDCモータの制御装置では、前記瞬時電流微分値設定手は、前記トルク指令値の変動が所定値以上である状態から前記トルク指令値の変動が所定値未満である状態へと変化してからの経過時間が所定時間(例えば、実施の形態での所定経過時間)以内である場合に、前記瞬時電流微分値を前記電流微分値として設定することを特徴としている。
【0009】
上記構成のブラシレスDCモータの制御装置によれば、トルク指令値の変動が所定値以上である状態から所定値未満である状態へと変化した際には、所定時間が経過するまで瞬時電流微分値を電流微分値として設定し、例えば相電流の平均的な変化に基づき電流微分値を設定することを禁止することで、トルク指令値の変動が所定値以上である状態の影響がない電流微分値を設定することができる。
【0010】
さらに、請求項4に記載の本発明のブラシレスDCモータの制御装置では、前記角度演算手段は、前記電流微分値と、前記ステータ巻線の入力側における前記複数相間の相電圧の差である線間電圧(例えば、実施の形態での各線間電圧Vuw,Vvw)とに基づき、前記ロータの回転角度を演算することを特徴としている。
【0011】
上記構成のブラシレスDCモータの制御装置によれば、トルク指令値が変動する状態であってもロータの回転角度を精度良く算出することができ、ブラシレスDCモータの過渡状態での追従性を向上させることができる。
【0012】
さらに、請求項5に記載の本発明のブラシレスDCモータの制御装置は、前記ロータの回転角度に対する推定回転角度(例えば、実施の形態での推定回転角度θ^)と実回転角度(例えば、実施の形態での実回転角度θ)との角度差の正弦値(例えば、実施の形態での正弦成分Vs)および余弦値(例えば、実施の形態での余弦成分Vc)を算出する角度誤差算出手段(例えば、実施の形態での誘起電圧正弦・余弦成分演算部63)を備え、前記角度演算手段は、前記角度誤差算出手段により算出される前記角度差の正弦値および余弦値に基づき、前記ロータの回転角度を演算することを特徴としている。
【0013】
上記構成のブラシレスDCモータの制御装置によれば、相対的に高い回転数の状態でトルク指令値が変動する場合であってもロータの回転角度を精度良く算出することができ、ブラシレスDCモータの過渡状態での追従性を向上させることができる。
【0014】
さらに、請求項6に記載の本発明のブラシレスDCモータの制御装置では、前記ロータは前記ブラシレスDCモータおよび内燃機関を駆動源として搭載するハイブリッド車両の駆動軸に連結され、前記トルク指令値の変動量を運転者のアクセル操作量の変化に連動して検知する検知手段(例えば、実施の形態でのステップS05)を備えることを特徴とている。
【0015】
上記構成のブラシレスDCモータの制御装置によれば、車両の運転状態に応じてトルク指令値が頻繁に変動する場合であってもロータの回転角度を精度良く算出することができ、ブラシレスDCモータの過渡状態での追従性を向上させることができ、車両の走行状態に運転者の意志を適切に反映させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のブラシレスDCモータの制御装置によれば、トルク指令値の急激な変化が生じるタイミングに対して、このトルク指令値の変化に応じて電流微分値が変化するタイミングが遅れてしまうことを防止することができる。さらに、電流微分値にトルク指令値の変化量を適切に反映させることができ、ブラシレスDCモータの過渡状態での追従性を向上させることができる。
さらに、請求項2に記載の本発明のブラシレスDCモータの制御装置によれば、相電流の検出値に含まれる雑音の影響を低減し、モータ制御の安定性を確保することができる。
さらに、請求項3に記載の本発明のブラシレスDCモータの制御装置によれば、トルク指令値の変動が所定値以上である状態から所定値未満である状態へと変化した際には、トルク指令値の変動が所定値以上である状態の影響がない電流微分値を適切に設定することができる。
【0017】
さらに、請求項4または請求項5に記載の本発明のブラシレスDCモータの制御装置によれば、トルク指令値が変動する状態であってもロータの回転角度を精度良く算出することができ、ブラシレスDCモータの過渡状態での追従性を向上させることができる。
さらに、請求項6に記載の本発明のブラシレスDCモータの制御装置によれば、車両の運転状態に応じてトルク指令値が頻繁に変動する場合であってもロータの回転角度を精度良く算出することができ、車両の走行状態に運転者の意志を適切に反映させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のブラシレスDCモータの制御装置の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
この実施形態によるブラシレスDCモータの制御装置10(以下、単に、モータ制御装置10と呼ぶ)は、例えばハイブリッド車両に内燃機関11と共に駆動源として搭載されるブラシレスDCモータ12(以下、単に、モータ12と呼ぶ)を駆動制御するものであって、このモータ12は、内燃機関11と直列に直結され、界磁に利用する永久磁石を有するロータ(図示略)と、このロータを回転させる回転磁界を発生するステータ(図示略)とを備えて構成されている。
モータ制御装置10は、例えば図1に示すように、パワードライブユニット(PDU)13と、バッテリ14と、制御部15とを備えて構成されている。
【0019】
このモータ制御装置10において、複数相(例えば、U相、V相、W相の3相)のモータ12の駆動および回生作動は制御部15から出力される制御指令を受けてパワードライブユニット(PDU)13により行われる。
PDU13は、例えばトランジスタのスイッチング素子を複数用いてブリッジ接続してなるブリッジ回路を具備するパルス幅変調(PWM)によるPWMインバータを備え、モータ12と電気エネルギーの授受を行う高圧系のバッテリ14が接続されている。
PDU13は、例えばモータ12の駆動時に、制御部15から出力される指令値(U相交流電圧指令値Vu,V相交流電圧指令値Vv,W相交流電圧指令値Vw)に基づき、バッテリ14から供給される直流電力を3相交流電力に変換し、3相のモータ12のステータ巻線への通電を順次転流させることで各電圧指令値Vu,Vv,Vwに応じたU相電流Iu及びV相電流Iv及びW相電流Iwをモータ12の各相へと出力する。
【0020】
制御部15は、回転直交座標をなすdq座標上で電流のフィードバック制御を行うものであり、Id指令及びIq指令に基づいて各電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出し、PDU13へパルス幅変調信号を入力すると共に、実際にPDU13からモータ12に供給される各相電流Iu,Iv,Iwをdq座標上に変換して得たd軸電流Id及びq軸電流Iqと、Id指令及びIq指令との各偏差がゼロとなるように制御を行う。
この制御部15は、例えば、電流指令演算部21と、電流制御演算部22と、角度・回転数算出部23とを備えて構成されている。
【0021】
電流指令演算部21は、例えば、通常時演算部31と、磁極判別時演算部32とを備えて構成され、通常時演算部31は、磁極判別処理の実行時以外でのモータ12の駆動または回生時において、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作に関するアクセル操作量およびモータ12の回転数等に応じて必要とされるトルクをモータ12に発生させるためのトルク指令値Tqおよび後述する角度・回転数算出部23から入力されるモータ回転数Nmに基づき、PDU13からモータ12に供給する各相電流Iu,Iv,Iwを指定するための電流指令を演算しており、この電流指令は、回転する直交座標上でのId指令及びIq指令として電流制御演算部22へ出力されている。
【0022】
この回転直交座標をなすdq座標は、例えばロータの永久磁石による界磁極の磁束方向をd軸(界磁軸)とし、このd軸と直交する方向をq軸(トルク軸)としており、モータ12のロータに同期して電気角速度ω(以下、単に、回転角速度ωと呼ぶ)で回転している。これにより、PDU13からモータ12の各相に供給される交流信号に対する電流指令として、直流的な信号であるId指令及びIq指令を与えるようになっている。
また、磁極判別時演算部32は、例えばイグニッションスイッチがオン状態とされた車両の始動時あるいは内燃機関11のアイドル運転状態からの復帰時でのモータ12の始動時等においてロータの磁極の向きを判別する磁極判別処理の実行時での電流指令を演算する。
【0023】
電流制御演算部22は、例えば電流制御部41と、出力電圧演算部42と、DUTY変換部43と、電流変換部44とを備えて構成されている。
電流制御部41は、Id指令とd軸電流Idとの偏差ΔId、および、Iq指令とq軸電流Iqとの偏差ΔIqを算出し、例えば、後述する角度・回転数算出部23から入力されるモータ回転数Nmに応じたPI(比例積分)動作により、偏差ΔIdを制御増幅してd軸電圧指令値Vdを算出し、偏差ΔIqを制御増幅してq軸電圧指令値Vqを算出する。
【0024】
出力電圧演算部42は、後述する角度・回転数算出部23から入力されるロータの回転角度に対する推定回転角度θ^を用いて、dq座標上でのd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、静止座標である3相交流座標上でのU相交流電圧指令値Vu及びV相交流電圧指令値Vv及びW相交流電圧指令値Vwに変換する。
DUTY変換部43は、出力電圧演算部42から出力される各電圧指令値Vu,Vv,Vwを、後述する角度・回転数算出部23から入力される推定回転角度θ^およびバッテリ14の出力電圧を検出する電圧検出器24から出力されるバッテリ電圧Vbに基づき、PDU13の各スイッチング素子をパルス幅変調(PWM)によりオン/オフ駆動させる各パルスからなるスイッチング指令(つまり、パルス幅変調信号)へと変換する。なお、各パルスのデューティは予めDUTY変換部43に記憶されている。
【0025】
電流変換部44は、後述する角度・回転数算出部23から入力される推定回転角度θ^を用いて、静止座標上における電流である各相電流Iu,Iv,Iwを、モータ12の回転位相による回転座標すなわちdq座標上でのd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。このため、電流変換部44には、モータ12の各相のステータ巻線に供給される各相電流Iu,Iv,Iwを検出する少なくとも2つの相電流検出器25,25から出力される検出値(例えば、U相電流Iu,V相電流Iv)が入力されている。なお、ステータは3相であるため、任意の1相を流れる電流は他の2相を流れる電流によって一義的に決まり、例えばW相電流Iw={−(U相電流Iu+V相電流Iv)}となる。
【0026】
角度・回転数算出部23は、例えば、モータ回転数Nmが相対的に低い状態でロータの回転に伴うインダクタンス変動に基づきロータ角度を検出する低回転時角度演算部51と、モータ回転数Nmが相対的に高い状態で誘起電圧に基づきロータ角度を検出する高回転時角度演算部52と、モータ回転数Nmに応じて低回転時角度演算部51または高回転時角度演算部52を選択して作動させる角度検出切替部53と、低回転時角度演算部51または高回転時角度演算部52から出力される回転角速度推定値ω^に基づきモータ回転数Nmを演算する回転数演算部54とを備えて構成されている。
【0027】
高回転時角度演算部52は、例えば図2に示すように、相電流微分演算部61と、線間電圧演算部62と、誘起電圧正弦・余弦成分演算部(以下、単に、誘起電圧演算部と呼ぶ)63と、角速度状態量算出部64と、正規化部65と、収束演算部66とを備えて構成されている。
【0028】
相電流微分演算部61は、例えば図3に示すように、U相演算部61aと、トルク判定部61bと、V相演算部61cとを備えて構成されている。
各相演算部61a,61cは、例えば、所定時間周期Δt毎に相電流検出器25から出力される相電流の検出値(電流検出値)Imを時系列データとして、現在の時刻t0での電流検出値I0と、過去の時刻における少なくとも2つの電流検出値、例えば時刻t1(=t0−Δt)での電流検出値I1と、時刻t2(=t1−Δt=t0−2Δt)での電流検出値I2と、時刻t3(=t2−Δt=t0−3Δt)での電流検出値I3とからなる4つの電流検出値に基づき、例えば最小二乗法や移動平均値算出処理等のフィルタ処理によって、電流検出値の平均的な時間変化である各平均電流微分値DIu_av,DIv_avを算出する。
【0029】
さらに、各相演算部61a,61cは、現在の時刻t0での電流検出値I0と、直近の過去の時刻における電流検出値、例えば時刻t1(=t0−Δt)での電流検出値I1とからなる2つの電流検出値に基づき、電流検出値の瞬時的な時間変化である各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naを算出する。そして、トルク判定部61bから出力されるトルク変動の判定結果に応じて、各平均電流微分値DIu_av,DIv_avまたは各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naを選択し、各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして出力する。
【0030】
このため、各相演算部61a,61cは、例えば、3サンプル前までの各電流検出値I1,I2,I3を記憶する電流記憶部71と、現在の時刻t0での電流検出値I0を取得する電流取得部72と、各電流検出値I0,I1,I2,I3に基づき、所定時間周期Δt毎の電流検出値の時間変化ΔI01(=I0―I1)/Δt,ΔI12(=I1―I2)/Δt,ΔI23(=I2―I3)/Δtを算出する微分値演算部73aと、各時間変化ΔI01/Δt,ΔI12/Δt,ΔI23/Δtから各平均電流微分値DIu_av,DIv_avを算出する平均化処理部74と、各電流検出値I0,I1に基づき、例えば所定時間周期Δtでの電流検出値の時間変化ΔI01(=I0―I1)/Δtを算出し、各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naとして設定する微分値演算部73bと、トルク判定部61bから出力されるトルク変動の判定結果に応じて、各平均電流微分値DIu_av,DIv_avまたは各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naを選択し、各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして出力する相電流微分出力部75とを備えて構成されている。
【0031】
さらに、トルク判定部61bは、現在の時刻t0でのトルク指令値Tq0を取得するトルク取得部76と、直近の過去の時刻におけるトルク指令値、例えば時刻t1(=t0−Δt)でのトルク指令値Tq1を記憶するトルク記憶部77と、各トルク指令値Tq0,Tq1に基づき、トルク指令値の時間変化であるトルク変動(差分ΔTq=T10―Tq1)を算出するトルク変動演算部78と、トルク変動が所定閾値#ΔTqよりも大きいか否か、さらに、トルク変動が所定閾値#ΔTqよりも大きい状態からトルク変動が所定閾値#ΔTq以下の状態に変化してからの経過時間が所定経過時間以内か否かを判定し、各判定結果を各相演算部61a,61cの相電流微分出力部75へ出力するトルク変動判定部79とを備えて構成されている。
【0032】
例えば、各相演算部61a,61cの相電流微分出力部75は、トルク変動が所定閾値#ΔTqよりも大きい場合、あるいは、トルク変動が所定閾値#ΔTq以下であっても、トルク変動が所定閾値#ΔTqよりも大きい状態から所定閾値#ΔTq以下の状態に変化してからの経過時間が所定経過時間以内である場合には、各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naを各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして出力する。
一方、トルク変動が所定閾値#ΔTq以下であって、かつ、トルク変動が所定閾値#ΔTqよりも大きい状態から所定閾値#ΔTq以下の状態に変化してからの経過時間が所定経過時間よりも長い場合には、各平均電流微分値DIu_av,DIv_avを各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして出力する。
【0033】
なお、例えば4つの時刻t0,t1,t2,t3における各電流検出値I0,I1,I2,I3に対する最小二乗法によって得られる所定時間周期Δtにおける平均的な電流検出値の時間変化ΔIは、例えば図4に示すように、現在の時刻t0よりも時間遅れTd(=係数kd×所定時間周期Δt、例えば、kd=1.5)だけ過去の時刻(t1+t2)/2における値となる。なお、図4において、Lは最小二乗法によって得られる電流検出値の時間変化を示す近似直線である。
この時間変化ΔIと、この時間変化ΔIに対応する電流検出値Im、つまり時刻(t1+t2)/2における電流検出値Imとは、各電流検出値I0,I1,I2,I3によって、例えば下記数式(1)に示すように記述され、この数式(1)は下記数式(2)に示すように変形される。
【0034】
【数1】

【0035】
【数2】

【0036】
すなわち、上記数式(2)によって所定時間周期Δtにおける平均的な電流検出値の時間変化ΔIを算出し、この時間変化ΔIを所定時間周期Δtで除算して得た単位時間あたりの電流検出値の時間変化ΔI/Δtを、各相演算部61a,61cにおいて算出される各平均電流微分値DIu_av,DIv_avとして設定する。
また、各電流検出値I0,I1に基づき算出される各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naは、現在の時刻t0よりも時間遅れTd(=係数kd×所定時間周期Δt、例えば、kd=0.5)だけ過去の時刻(t0+t1)/2における値となる。
【0037】
線間電圧演算部62は、先ず、相電流微分演算部61でのフィルタ処理に応じて、線間電圧(例えば、線間電圧Vuw,Vvw)を算出するための各電圧指令値Vu,Vw,Vvを補正する。
すなわち、相電流微分演算部61にて算出される各平均電流微分値DIu_av,DIv_avまたは各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naが過去の時刻(t1+t2)/2または時刻(t0+t1)/2における値であることに対応して、時刻(t1+t2)/2または時刻(t0+t1)/2での各相電圧指令値(例えば、図4に示す相電圧指令値V1またはV0)を各電圧指令値Vu,Vw,Vvとして設定する。
【0038】
あるいは、線間電圧演算部62は、各平均電流微分値DIu_av,DIv_avまたは各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naが過去の時刻(t1+t2)/2または時刻(t0+t1)/2における平均的な値であることに対応して、例えば時刻t0から時刻t1における相電圧指令値V0および時刻t1から時刻t2における相電圧指令値V1および時刻t2から時刻t3における相電圧指令値V2に対して、最小二乗法や移動平均値算出処理等のフィルタ処理を行い、過去の時刻(t1+t2)/2における平均的な相電圧指令値(例えば、移動平均値(V0+V1+V2)/3等)または過去の時刻(t0+t1)/2における平均的な相電圧指令値(例えば、移動平均値(V0+V1)/2等)を算出し、各電圧指令値Vu,Vw,Vvとして設定する。
【0039】
さらに、線間電圧演算部62は、例えば図5に示すように、U相実電圧演算部62aと、V相実電圧演算部62bと、W相実電圧演算部62cと、第1減算部62dと、第2減算部62eとを備えて構成され、PDU13に具備されるパルス幅変調(PWM)によるPWMインバータ13AのデッドタイムTとPDU13からモータ12に供給される各相電流Iu,Iv,Iwの極性とに応じて各電圧指令値Vu,Vw,Vvを補正し、補正後の各電圧指令値Vu,Vw,Vvにより線間電圧(例えば、線間電圧Vuw,Vvw)を算出する。
【0040】
例えば図6に示すように、PDU13に具備されるPWMインバータ13Aは、各相毎に対をなす第1,第2U相トランジスタTU1,TU2および第1,第2V相トランジスタTV1,TV2および第1,第2W相トランジスタTW1,TW2をブリッジ接続してなるブリッジ回路13aと、平滑コンデンサCとを備えて構成され、各トランジスタTU1,TV1,TW1はバッテリ14の正極側端子に接続され、各トランジスタTU2,TV2,TW2はバッテリ14の負極側端子に接続され、各相毎に対をなす各トランジスタTU1,TU2およびTV1,TV2およびTW1,TW2はバッテリ14に対して直列に接続され、各トランジスタTU1,TU2,TV1,TV2,TW1,TW2のコレクタ−エミッタ間には、エミッタからコレクタに向けて順方向となるようにして、各ダイオードDU1,DU2,DV1,DV2,DW1,DW2が接続されている。
【0041】
そして、PWMインバータ13Aは、各相毎に対をなす各トランジスタTU1,TU2および各トランジスタTV1,TV2および各トランジスタTW1,TW2のオン/オフを切り替えることによって、各相のステータ巻線に交流の各相電流Iu,Iv,Iwを通電するようになっている。
このPWMインバータ13Aでは、相短絡が発生することを防止するために、各相毎に対をなす各トランジスタTU1,TU2およびTV1,TV2およびTW1,TW2を、両方ともオフに設定するデッドタイムTが設けられている。そして、このデッドタイムTにおいては、各相電流Iu,Iv,Iwの極性に応じて、各相毎に対をなす各ダイオードDU1,DU2およびDV1,DV2およびDW1,DW2の何れか一方に電流が転流し、PWMインバータ13Aの出力電圧が変化する。
【0042】
例えば図7に示すように、第1,第2U相トランジスタTU1,TU2およびダイオードDU1,DU2に対して、U相電流Iuの極性が正である場合(つまり、PWMインバータ13Aからモータ12へ向かう方向にU相電流Iuが流れている場合)に第1,第2U相トランジスタTU1,TU2がオフ状態に設定されると、バッテリ14の負極側端子に接続されたダイオードDU2に電流が転流し、出力電圧が低下する。一方、U相電流Iuの極性が負である場合(つまり、モータ12からPWMインバータ13Aへ向かう方向にU相電流Iuが流れている場合)に第1,第2U相トランジスタTU1,TU2がオフ状態に設定されると、バッテリ14の正極側端子に接続されたダイオードDU1に電流が転流し、出力電圧が増大する。
【0043】
このため、各相実電圧演算部62a,62b,62cは、例えば、乗算部81と、符号判定部82と、加算部83とを備えて構成されている。
乗算部81は、キャリア周波数出力部15Aから出力されるPDU13のPWMインバータ13Aのパルス幅変調(PWM)の周期Tと、デッドタイム出力部15Bから出力されるPDU13のPWMインバータ13AのデッドタイムTと、電圧検出器24から出力されるバッテリ電圧Vbとを乗算する。
【0044】
符号判定部82は、乗算部81の算出結果を加算部83に出力する際に付与する正負の符号を、各相電流Iu,Iv,Iwの極性に応じて設定する。
加算部83は、各電圧指令値Vu,Vw,Vvと、各相電流Iu,Iv,Iwの極性に応じて付与された正負の符号を有する乗算部81の算出結果とを加算して得た値を、新たに、線間電圧(例えば、線間電圧Vuw,Vvw)を算出するための各電圧指令値Vu,Vw,Vvとして設定する。
【0045】
つまり、PWMインバータ13Aの各相の実際の出力電圧(実電圧)Vは、相電圧指令値Vmと、パルス幅変調(PWM)の周期Tと、デッドタイムTと、バッテリ14の端子間電圧Vbとに応じて、例えば下記数式(3)に示すように記述される。
各相実電圧演算部62a,62b,62cは、各相毎に下記数式(3)に基づき実電圧Vを算出し、線間電圧(例えば、線間電圧Vuw,Vvw)を算出するための各電圧指令値Vu,Vw,Vvとして設定する。
【0046】
【数3】

【0047】
そして、第1減算部62dは、補正後の各電圧指令値Vu,VwからU相−W相間の線間電圧Vuw(=Vu−Vw)を算出し、第2減算部62eは、補正後の各電圧指令値Vv,VwからV相−W相間の線間電圧Vvw(=Vv−Vw)を算出する。
【0048】
誘起電圧演算部63は、出力電圧演算部42から出力されるU相交流電圧指令値Vu及びV相交流電圧指令値Vv及びW相交流電圧指令値Vwと、2つの相電流検出器25,25から出力される検出値(例えば、U相電流Iu,V相電流Iv)とに基づき、例えば下記数式(4)に示すように記述される線間電圧モデルでの回路方程式に基づき、ロータの回転角度に対する推定回転角度θ^と実回転角度θとの角度差θe(=θ−θ^)の正弦値sinθeおよび余弦値cosθeからなる誘起電圧の正弦成分Vs及び余弦成分Vcを算出する。
【0049】
【数4】

【0050】
なお、上記数式(4)においては、ステータ巻線の回転位置に応じてインダクタンス成分値が変化するようなモータ12の突極性を無視しており、VuwはU相−W相間の線間電圧(=Vu−Vw)、VvwはV相−W相間の線間電圧(=Vv−Vw)、rは相抵抗値、Lはインダクタンス成分(例えば、L=(自己インダクタンスl−相互インダクタンスm)等)、ωはロータの回転角速度、Keは誘起電圧定数である。
なお、各相電圧指令値Vu,Vv,Vwは、例えば下記数式(5)に示すように正弦波状である。
【0051】
【数5】

【0052】
すなわち、誘起電圧演算部63は、上記数式(4)に基づき、各線間電圧Vuw,Vvwから相抵抗値rに係る電圧降下とインダクタンス成分Lに係る電圧降下とを減算して得た誘起電圧成分に対し、例えば下記数式(6),(7)に示すように、所定の推定回転角度θ^を含む行列Aを左から作用させ、角度差θeの正弦値sinθe及び余弦値cosθeに比例した値として誘起電圧の正弦成分Vs及び余弦成分Vcを算出する。
【0053】
【数6】

【0054】
【数7】

【0055】
このため、誘起電圧演算部63は、例えば図8に示すように、各電流微分値dIu/dt,dIv/dtの2倍の値を出力する増幅部91a,91bと、各増幅部91a,91bの出力値と各電流微分値dIv/dt,dIu/dtとを加算する各加算部92a,92bと、各加算部92a,92bの出力値とインダクタンス出力部15Cから出力されるインダクタンス成分Lとを乗算する各乗算部93a,93bと、各乗算部93a,93bの出力値とキャリア周波数出力部15Aから出力されるPDU13のPWMインバータ13Aのパルス幅変調(PWM)の周期Tとを乗算する各乗算部94a,94bと、線間電圧Vuw,Vvwから各乗算部94a,94bの出力値を減算する減算部95a,95bと、前回の処理において後述する収束演算部66により算出された推定回転角度θ^に応じた各係数K1(例えば、cosθ^),K3(例えば、sinθ^)と減算部95aの出力値とを乗算する各乗算部96a,96cと、推定回転角度θ^に応じた各係数K2(例えば、sin(θ^−π/6)),K4(例えば、−cos(θ^−π/6))と減算部95bの出力値とを乗算する各乗算部96b,96dと、各乗算部96a,96dの出力値を互いに加算して誘起電圧の正弦成分Vsとして出力する加算部97aと、各乗算部96b,96cの出力値を互いに加算して誘起電圧の余弦成分Vcとして出力する加算部97bとを備えて構成されている。
【0056】
角速度状態量算出部64は、下記数式(8)に示すように、回転角速度ωに比例する状態量として、回転角速度ωと誘起電圧定数Keとを乗算して得た値(ωKe)を、誘起電圧演算部63にて算出される誘起電圧の正弦成分Vsおよび余弦成分Vcに基づき算出し、正規化部65へ出力する。
【0057】
【数8】

【0058】
正規化部65は、誘起電圧演算部63にて算出される誘起電圧の正弦成分Vsを、角速度状態量算出部64にて算出される回転角速度ωに比例する状態量(例えば、ωKe)によって除算することで角度差θeに近似される角度差近似値(−Vs/(Vs+Vc1/2≒θe)を算出し、収束演算部66へ入力する。
すなわち、角度差θeに回転角速度ω及び誘起電圧定数Keを乗算して得た値として角度差推定値θesを設定すると、この角度差推定値θesは、上記数式(7)での誘起電圧の正弦成分Vsにおいて、正弦値sinθeを角度差θeで近似(θe≒sinθe)し、さらに、相抵抗値rによる電圧降下を無視して、例えば下記数式(9)に示すように記述される。
【0059】
【数9】

【0060】
ここで、上記数式(9)において、例えばインダクタンス成分値Lに誤差ΔLがあると、角度差推定値θesは、例えば下記数式(10)に示すように記述され、たとえ角度差θeが一定値であっても、回転角速度ωに比例して誤差が増大することになる。
すなわち、下記数式(10)において、誤差ΔLを含む項(ωΔLIq)は、角度差θeがゼロのときの角度差推定値θesの誤差であって、回転角速度ωに比例して増大する。このため、モータ12の相対的に高回転状態おいては、モータ12の相対的に低回転状態に比べて、角度差推定値θesの誤差が増大する。
【0061】
【数10】

【0062】
ここで、上記数式(10)による角度差推定値θesを、回転角速度ωに比例する値ωK(Kは任意の定数)で除算すると、下記数式(11)に示すように、角度差推定値θesの誤差が回転角速度ωに依存しない値となる。
【0063】
【数11】

【0064】
このため、収束演算部66は、上記数式(9)に示すように角度差推定値θesに近似される誘起電圧の正弦成分Vsを、上記数式(8)に示すように角速度状態量算出部32にて算出される回転角速度ωに比例する状態量(例えば、ωKe)によって除算して得た値(Vs/(Vs+Vc1/2)、つまり角度差θeに近似される角度差近似値(−Vs/(Vs+Vc1/2≒θe)を追従演算処理に対する入力値とする。
そして、収束演算部66は、例えば下記数式(12)に示すように、この入力値(つまり角度差θe)をゼロに収束させるようにして追従演算処理を行うことによって、推定回転角度θ^および回転角速度推定値ω^を逐次更新しつつ算出し、推定回転角度θ^および回転角速度推定値ω^の収束値を電流制御演算部22の出力電圧演算部42および電流変換部44へ出力する。
【0065】
【数12】

【0066】
なお、上記数式(12)において、nは所定時間周期Δtにて繰り返し実行される追従演算処理の実行回数を示す任意の自然数であり、K1は推定回転角度θ^に係る制御ゲイン(フィードバックゲイン)であり、K2は回転角速度推定値ω^に係る制御ゲイン(フィードバックゲイン)であり、Kは正負の符号を含む適宜の比例係数である。
また、上記数式(12)において、offsetは、例えばモータ12の相対的に低回転状態、あるいは、例えば実回転角度θを算出する際等において適宜に設定されるロータの回転角度である。
【0067】
本実施形態によるモータ制御装置10は上記構成を備えており、次に、このモータ制御装置10の動作、特に、dq軸演算モデルによるセンサレス制御において各電流微分値dIu/dt,dIv/dtに基づき推定回転角度θ^を算出する際に、各平均電流微分値DIu_av,DIv_avまたは各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naを選択する処理について添付図面を参照しながら説明する。
【0068】
先ず、図9に示すステップS01においては、トルク指令値Tqを取得する。
次に、ステップS02においては、前回の処理での回転角速度推定値ω^に基づき、モータ12の回転数Nmを算出する。
次に、ステップS03においては、少なくとも2つの相電流検出器25,25から出力される各相電流検出値(例えば、U相電流Iu,V相電流Iv)を取得する。
次に、ステップS04においては、PDU13に具備されるパルス幅変調(PWM)によるPWMインバータ13AのデッドタイムTとPDU13からモータ12に供給される各相電流Iu,Iv,Iwの極性とに応じて、線間電圧(例えば、線間電圧Vuw,Vvw)を算出するための各電圧指令値Vu,Vw,Vvを補正して、補正後の各電圧指令値Vu,Vw,Vvを、各相の実電圧として設定する。
【0069】
次に、ステップS05においては、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作に関するアクセル操作量およびモータ12の回転数Nm等に応じたトルク指令値Tqの現在値、つまり今回の処理で取得した現在の時刻t0でのトルク指令値Tq0と、1サンプル前の過去値、つまり直近の過去の時刻(例えば時刻t1(=t0−Δt))でのトルク指令値Tq1とに基づき、トルク指令値の時間変化であるトルク変動(差分ΔTq=T10―Tq1)を算出する。
そして、ステップS06においては、差分ΔTqが所定閾値#ΔTqよりも大きいか否かを判定する。
この判定結果が「NO」の場合には、後述するステップS09に進む。
一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS07に進む。
【0070】
そして、ステップS07においては、現在の時刻t0での電流検出値I0と、直近の過去の時刻(例えば時刻t1(=t0−Δt))における電流検出値I1とからなる2つの電流検出値に基づき、例えば所定時間周期Δtでの電流検出値の時間変化ΔI01(=I0―I1)/Δtを算出し、電流検出値の瞬時的な時間変化である各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naとして設定する。
そして、ステップS08においては、各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naを各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして設定し、後述するステップS12に進む。
【0071】
また、ステップS09においては、差分ΔTqが所定閾値#ΔTq以下である場合に、差分ΔTqが所定閾値#ΔTqよりも大きい状態から所定閾値#ΔTq以下の状態に変化してからの経過時間が所定経過時間以内か否かを判定する。
この判定結果が「YES」の場合には、上述したステップS07に進む。
一方、この判定結果が「NO」の場合には、ステップS10に進む。
【0072】
そして、ステップS10においては、現在の時刻t0での電流検出値I0と、3サンプル前までの過去値、つまり時刻t1(=t0−Δt)での電流検出値I1と、時刻t2(=t1−Δt=t0−2Δt)での電流検出値I2と、時刻t3(=t2−Δt=t0−3Δt)での電流検出値I3とに基づき、上記数式(2)によって所定時間周期Δtにおける平均的な電流検出値の時間変化ΔIを算出し、この時間変化ΔIを所定時間周期Δtで除算して得た単位時間あたりの電流検出値の時間変化ΔI/Δtを、電流検出値の平均的な時間変化である各平均電流微分値DIu_av,DIv_avとして設定する。
そして、ステップS11においては、各平均電流微分値DIu_av,DIv_avを各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして設定し、ステップS12に進む。
【0073】
そして、ステップS12においては、設定した各電流微分値dIu/dt,dIv/dtと、各相の実電圧に基づき算出した線間電圧(例えば、線間電圧Vuw,Vvw)とに基づき、ロータの回転角度に対する推定回転角度θ^と実回転角度θとの角度差θe(=θ−θ^)の正弦値sinθe及び余弦値cosθeに比例した値として誘起電圧の正弦成分Vs及び余弦成分Vcを算出する。
【0074】
そして、ステップS13においては、誘起電圧の正弦成分Vsを、角速度状態量算出部64にて算出される回転角速度ωに比例する状態量(例えば、ωKe)によって除算することで角度差θeに近似される角度差近似値(−Vs/(Vs+Vc1/2≒θe)を算出する。
そして、ステップS14においては、角度差θeに近似される角度差近似値(−Vs/(Vs+Vc1/2≒θe)をゼロに収束させるようにして追従演算処理を行うことによって、推定回転角度θ^および回転角速度推定値ω^を逐次更新しつつ算出し、一連の処理を終了する。
【0075】
上述したように、本実施形態によるブラシレスDCモータの制御装置10によれば、トルク指令値Tqの変動量が所定閾値#ΔTq以上である場合には電流検出値の瞬時的な時間変化である各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naを各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして設定として設定することにより、トルク指令値Tqの急激な変化が生じるタイミングに対して、このトルク指令値Tqの変化に応じて電流微分値各電流微分値dIu/dt,dIv/dtが変化するタイミングが遅れてしまうことを防止することができる。さらに、各電流微分値dIu/dt,dIv/dtにトルク指令値Tqの変化量を適切に反映させることができ、ブラシレスDCモータ12の過渡状態での追従性を向上させることができる。
【0076】
さらに、トルク指令値Tqの変動が所定閾値#ΔTq以上である状態から所定閾値#ΔTq未満である状態へと変化した際には、所定経過時間が経過するまで各瞬時電流微分値DIu_na,DIv_naを各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして設定し、各平均電流微分値DIu_av,DIv_avを各電流微分値dIu/dt,dIv/dtとして設定することを禁止することで、トルク指令値Tqの変動が所定閾値#ΔTq以上である状態の影響がない各電流微分値dIu/dt,dIv/dtを適切に設定することができる。
【0077】
例えば図10に示すように、トルク指令値Tqの増大に応じて相電流がステップ状に増大した場合、相電流の検出値の現在値と3サンプル前までの過去値とからなる4つの電流検出値に基づき、平均値算出処理または最小二乗法により算出した平均的な電流微分値(例えば、図10に示す4点平均または最小二乗法)では、トルク指令値Tqの急激な変化が生じるタイミングに対して、このトルク指令値Tqの変化に応じて電流微分値が変化するタイミングが遅れ、電流微分値が相対的に小さな値となっている。
これに対して、相電流の検出値の現在値と直近の過去での過去値とに基づき算出した瞬時的な電流微分値(例えば、図10に示す瞬時値)では、トルク指令値Tqの急激な変化が生じるタイミングと、このトルク指令値Tqの変化に応じて電流微分値が変化するタイミングとが同等になり、電流微分値が相電流の変動量に応じた相対的に大きな値となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施形態に係るブラシレスDCモータの制御装置の構成図である。
【図2】図1に示す高回転時角度演算部の構成図である。
【図3】図2に示す相電流微分演算部の構成図である。
【図4】時系列データをなす相電圧指令値V1,V2,V3および電流検出値I0,I1,I2,I3の時間変化の一例を示すグラフ図である。
【図5】図2に示す線間電圧演算部の構成図である。
【図6】図1に示すPDUに具備されるPWMインバータの構成図である。
【図7】PWMインバータのデッドタイムにおいて発生する電流の転流を示す図である。
【図8】図2に示す誘起電圧正弦・余弦成分演算部の構成図である。
【図9】本発明の実施形態に係るブラシレスDCモータの制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】相電流の変化と、瞬時値による相電流微分値と、4点平均による相電流微分値と、最小二乗法による相電流微分値との変化の各一例を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0079】
10 ブラシレスDCモータの制御装置
13A PWMインバータ(通電切換手段)
52 高回転時角度演算部(角度演算手段)
63 誘起電圧正弦・余弦成分演算部(角度誤差算出手段)
75 相電流微分出力部(瞬時電流微分値設定手段、平均電流微分値設定手段)
ステップS05 検知手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を有するロータと、このロータを回転させる回転磁界を発生する複数相のステータ巻線を有するステータとを備えたブラシレスDCモータを、トルク指令値に応じて複数のスイッチング素子からなり前記ステータ巻線への通電を順次転流させる通電切換手段により回転駆動させるブラシレスDCモータの制御装置であって、
前記複数相の相電流の電流微分値に基づき、前記ロータの回転角度を演算する角度演算手段と、
前記トルク指令値の変動量が所定値以上である場合に、前記相電流の瞬時的な変化に基づき算出される瞬時電流微分値を前記電流微分値として設定する瞬時電流微分値設定手段と
を備えることを特徴とするブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項2】
前記トルク指令値の変動が所定値未満である場合に、前記相電流の平均的な変化に基づき算出される平均電流微分値を前記電流微分値として設定する平均電流微分値設定手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項3】
前記瞬時電流微分値設定手段は、前記トルク指令値の変動が所定値以上である状態から前記トルク指令値の変動が所定値未満である状態へと変化してからの経過時間が所定時間以内である場合に、前記瞬時電流微分値を前記電流微分値として設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項4】
前記角度演算手段は、前記電流微分値と、前記ステータ巻線の入力側における前記複数相間の相電圧の差である線間電圧とに基づき、前記ロータの回転角度を演算することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかひとつに記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項5】
前記ロータの回転角度に対する推定回転角度と実回転角度との角度差の正弦値および余弦値を算出する角度誤差算出手段を備え、
前記角度演算手段は、前記角度誤差算出手段により算出される前記角度差の正弦値および余弦値に基づき、前記ロータの回転角度を演算することを特徴とする請求項1から請求項4の何れかひとつに記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項6】
前記ロータは前記ブラシレスDCモータおよび内燃機関を駆動源として搭載するハイブリッド車両の駆動軸に連結され、
前記トルク指令値の変動量を運転者のアクセル操作量の変化に連動して検知する検知手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のブラシレスDCモータの制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−262590(P2006−262590A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74904(P2005−74904)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】