説明

ブレーキ制御装置

【課題】 ポンプの作動頻度を抑制できるブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】 2系統のブレーキ配管系のうちP系統に設けられ、マスタシリンダM/Cのプライマリ室15aとホイルシリンダW/Cとの間の第1ブレーキ回路(管路11,18)に配置されたゲートアウトバルブ12と、第1ブレーキ回路であってプライマリ室15aとゲートアウトバルブ12との間から分岐する還流油路部17を有する分岐油路16と、還流油路部17に設けられたストロークシミュレータバルブ27と、ストロークシミュレータバルブ27を経由しマスタシリンダM/Cからのブレーキ液が流れ込むリザーバ34と、リザーバ34を介してブレーキ液を吸入して還流油路部17から分岐油路16に吐出するポンプ35と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ブレーキペダルストロークがストローク開始位置から所定位置までの間に位置する場合はブレーキペダルストロークに応じて立ち上がるマスタシリンダ圧により発生する摩擦制動力を制限することで回生効率を高め、ブレーキペダルストロークが所定位置を越えた場合は摩擦制動力の制限を解除することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4415379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、回生制動不能な状況でブレーキペダルストロークが所定位置に達していない場合は、ドライバの要求制動力に対して摩擦制動力が不足し、ポンプアップにより加圧したブレーキ液をホイルシリンダへ供給しなければならないため、ポンプの作動頻度が高いという問題があった。
本発明の目的は、ポンプの作動頻度を抑制できるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のブレーキ制御装置は、2系統のブレーキ配管系のうちの少なくとも一系統に設けられ、タンデムマスタシリンダの第1の液室とホイルシリンダとの間の第1ブレーキ回路に配置された第1の電磁弁と、第1ブレーキ回路であって第1の液室と第1の電磁弁との間から分岐する還流油路部を有する分岐油路と、還流油路部に設けられた制御弁と、制御弁を経由しタンデムマスタシリンダからのブレーキ液が流れ込むリザーバと、リザーバを介してブレーキ液を吸入して還流油路部から分岐油路に吐出するポンプと、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポンプの作動頻度を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置を適用した車両の制駆動系を示すシステム構成図である。
【図2】実施例1のブレーキ制御装置の回路構成図である。
【図3】通常ブレーキによるホイルシリンダ圧増圧時の油圧回路の動作を示す図である。
【図4】通常ブレーキのタイムチャートである。
【図5】通常ブレーキによるホイルシリンダ圧減圧時の油圧回路の動作を示す図である。
【図6】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧増圧時(ドライバ要求一定、リザーバ23にブレーキ液が貯留されているとき)の油圧回路の動作を示す図である。
【図7】回生協調制御において、中車速域でドライバがブレーキ操作を行った場合のタイムチャートである。
【図8】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧増圧時(ドライバ要求一定、リザーバ23にブレーキ液が貯留されていないとき)の油圧回路の動作を示す図である。
【図9】回生協調制御において、低車速域でドライバがブレーキ操作を行った場合(回生制動力から摩擦制動力へのすり替え完了後にブレーキペダルが踏み戻されたとき)のタイムチャートである。
【図10】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧保持時(ドライバ要求一定)の油圧回路の動作を示す図である。
【図11】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧減圧時(ドライバ要求一定)の油圧回路の動作を示す図である。
【図12】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧増圧時(ドライバ要求増加、リザーバ23にブレーキ液が貯留されているとき)の油圧回路の動作を示す図である。
【図13】回生協調制御において、高速域でドライバがブレーキ操作を行った場合のタイムチャートである。
【図14】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧増圧時(ドライバ要求増加、リザーバ23にブレーキ液が貯留されていないとき)の油圧回路の動作を示す図である。
【図15】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧保持時(ドライバ要求増加)の油圧回路の動作を示す図である。
【図16】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧減圧時(ドライバ要求増加)の油圧回路の動作を示す図である。
【図17】制動初期に回生制動が禁止されている場合のタイムチャートである。
【図18】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧増圧時(ドライバ要求減少、リザーバ23にブレーキ液が貯留されているとき)の油圧回路の動作を示す図である。
【図19】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧増圧時(ドライバ要求減少、リザーバ23にブレーキ液が貯留されているとき)のタイムチャートである。
【図20】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧増圧時(ドライバ要求減少、リザーバ23にブレーキ液が貯留されていないとき)の油圧回路の動作を示す図である。
【図21】回生協調制御において、低車速域でドライバがブレーキ操作を行った場合(回生制動力から摩擦制動力へのすり替え完了前にブレーキペダルが踏み戻されたとき)のタイムチャートである。
【図22】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧保持時(ドライバ要求減少、リザーバ23にブレーキ液が貯留されているとき)の油圧回路の動作を示す図である。
【図23】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧保持時(ドライバ要求減少、リザーバ23にブレーキ液が貯留されていないとき)の油圧回路の動作を示す図である。
【図24】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧保持時(ドライバ要求減少、リザーバ23にブレーキ液が貯留されていないとき)のタイムチャートである。
【図25】回生協調制御におけるホイルシリンダ圧減圧時の油圧回路の動作を示す図である。
【図26】他の実施例のブレーキ制御装置の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のブレーキ制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
〔実施例1〕
構成を説明する。
図1は実施例1のブレーキ制御装置を適用した車両の制駆動系を示すシステム構成図、図2は実施例1のブレーキ制御装置の回路構成図である。
[システム構成]
液圧制御ユニットHUは、ブレーキコントロールユニットBCUからの摩擦制動力指令に基づいて、左前輪(回生輪)FLのホイルシリンダW/C(FL)、右後輪(非回生輪)RRのホイルシリンダW/C(RR)、右前輪(回生輪)FRのホイルシリンダW/C(FR)、左後輪(非回生輪)RLのホイルシリンダW/C(RL)の各液圧を増減または保持する。
モータジェネレータMGは、三相交流モータであり、左右前輪FL,FRのドライブシャフトDS(FL),DS(FR)とディファレンシャルギアDGを介してそれぞれ連結され、モータコントロールユニットMCUからの指令に基づいて、力行または回生運転し、左右前輪FL,FRに駆動力または回生制動力を付与する。
インバータINVは、モータコントロールユニットMCUからの駆動指令に基づいて、バッテリBATTの直流電力を交流電力に変換しモータジェネレータMGに供給することで、モータジェネレータMGを力行運転する。一方、モータコントロールユニットMCUからの回生指令に基づいて、モータジェネレータMGで発生する交流電力を直流電力に変換してバッテリBATTを充電することで、モータジェネレータMGを回生運転する。
【0009】
モータコントロールユニットMCUは、駆動コントローラ1からの駆動力指令に基づいて、インバータINVに駆動指令を出力する。また、ブレーキコントロールユニットBCUからの回生制動力指令に基づいて、インバータINVに回生指令を出力する。
モータコントロールユニットMCUは、モータジェネレータMGによる駆動力または回生制動力の出力制御の状況と、現時点で発生可能な最大回生制動力を、通信線2を介してブレーキコントロールユニットBCU、駆動コントローラ1へと送る。ここで、「発生可能な最大回生制動力」は、例えば、バッテリBATTの端子間電圧と電流値とから推定されるバッテリSOCや、車輪速センサ3FL,3FR,3RL,3RRにより算出(推定)される車体速(車速)から算出する。また、旋回時には、車両のステア特性も加味して算出する。
すなわち、バッテリSOCが上限値または上限値に近い状態にある満充電時には、バッテリ保護の観点から過充電防止を図る必要がある。また、制動により車速が減少した場合、モータジェネレータMGで発生可能な最大回生制動力は減少する。さらに、高速走行時に回生制動を行うと、インバータINVが高負荷となるため、高速走行時にも最大回生制動力を制限する。
【0010】
加えて、実施例1の車両では、回生制動力を前輪に付与しているため、旋回時に摩擦制動力に対して回生制動力過大、すなわち後輪に対して前輪の制動力が大き過ぎると、車両のステア特性はアンダーステア傾向が顕著となり、旋回挙動が乱れてしまう。このため、アンダーステア傾向が強くなった場合は最大回生制動力を制限し、旋回時における制動力の前後輪配分を、車両の諸元に応じた所定の配分(例えば、前:後=6:4)に近づける。
モータジェネレータMG、インバータINV、バッテリBATTおよびモータコントロールユニットMCUより、車輪(左右前輪FL,FR)に対して回生制動力を発生させる回生制動装置が構成される。
駆動コントローラ1は、直接または通信線2を介して、車輪速センサ3FL,3FR,3RL,3RRにより算出される車速(車体速)、アクセル開度センサ4からのアクセル開度、バッテリSOC等が入力される。
駆動コントローラ1は、各センサからの情報に基づき、モータコントロールユニットMCUへの駆動力指令によるモータジェネレータMGの動作制御とを行う。
【0011】
ブレーキコントロールユニットBCUは、直接または通信線2を介して、マスタシリンダ圧センサ5からのマスタシリンダ圧、ブレーキペダルストロークセンサ6からのブレーキペダルストローク量、操舵角センサ7からのハンドル操舵角、車輪速センサ3FL,3FR,3RL,3RRからの各車輪速、ヨーレートセンサ8からのヨーレート、バッテリSOC等が入力される。
ブレーキコントロールユニットBCUは、上記各センサ等からの情報に基づいて車両に必要な制動力(全ての輪)を算出すると共に、必要な制動力を回生制動力と摩擦制動力とに配分し、ブレーキコントロールユニットBCUへの摩擦制動力指令による液圧制御ユニットHUの動作制御と、モータコントロールユニットMCUへの回生制動力指令によるモータジェネレータMGの動作制御とを行う。
ここで、実施例1では、回生協調制御として、摩擦制動力よりも回生制動力を優先し、必要な制動力を回生分で賄える限りは液圧分を用いることなく、最大限(最大回生制動力)まで回生分の領域を拡大している。これにより、特に加減速を繰り返す走行パターンにおいて、エネルギ回収効率が高く、より低い車速まで回生制動によるエネルギの回収を実現している。なお、ブレーキコントロールユニットBCUは、回生制動中、車速の低下や上昇等に伴い回生制動力が制限される場合には、回生制動力を減少させ、その分だけ摩擦制動力を増加させて車両に必要な制動力を確保する。以下、回生制動力を減少させて摩擦制動力を増加させることを回生制動力から摩擦制動力へのすり替えといい、逆に、摩擦制動力を減少させて回生制動力を増加させることを摩擦制動力から回生制動力へのすり替えという。
【0012】
ブレーキコントロールユニットBCUは、ドライバのブレーキ操作により発生する液圧を用いて直接増圧する(通常ブレーキ)他、ポンプPの吐出圧を用いてホイルシリンダ圧を増減または保持する制御を行う。このホイルシリンダ圧制御により、アンチロックブレーキ制御(以下、ABS制御という)を始めとして、各種車両制御で要求される制動力に基づき自動的にホイルシリンダ圧を増減圧する制御である自動制動制御を実行可能である。
ここで、ABS制御とは、ドライバのブレーキ操作時に車輪がロック傾向になったことを検知すると、当該車輪に対し、ロックを防止しつつ最大の制動力を発生させるためにホイルシリンダ圧の減圧・保持・増圧を繰り返す制御である。また、上記自動制動制御には、車両旋回時にオーバーステア傾向やアンダーステア傾向が強くなったことを検出すると、所定の制御対象輪のホイルシリンダ圧を制御して車両挙動安定化を図る車両挙動安定制御に加え、ドライバのブレーキ操作時に実際にマスタシリンダM/Cで発生する圧力よりも高い圧力をホイルシリンダW/Cで発生させるブレーキアシスト制御、オートクルーズコントロールにより先行車との相対関係に応じて自動的に制動力を発生させる制御が含まれる。ブレーキコントロールユニットBCUは、ABS制御を実施するアンチロックブレーキ制御部、車両挙動安定化制御を実施する車両挙動安定化制御部を備える。
【0013】
[ブレーキ回路構成]
実施例1の液圧制御ユニットHUは、P系統とS系統との2系統からなる、X配管と呼ばれる配管構造を有している。なお、図2に記載された各部位の符号の末尾に付けられたP,SはP系統、S系統を示し、RL,FR,FL,RRは左後輪、右前輪、左前輪、右後輪に対応することを示す。以下の説明では、P,S系統または各輪を区別しないとき、P,SまたはRL,FR,FL,RRの記載を省略する。
実施例1の液圧制御ユニットHUは、クローズド油圧回路を用いている。ここで、クローズド油圧回路とは、ホイルシリンダW/Cへ供給されたブレーキ液を、マスタシリンダM/Cを介してリザーバタンクRSVへと戻す油圧回路をいう。
ブレーキペダルBPは、インプットロッドIRを介してマスタシリンダM/Cに接続されている。インプットロッドIRには、負圧によりインプットロッドIRの入力を倍力する負圧ブースタ(ブースタ)NPBが設けられている。
マスタシリンダM/Cは、タンデムマスタシリンダであり、プライマリ室(第1の液室)15aとセカンダリ室15bとを構成するプライマリピストン15cおよびセカンダリピストン15dを有し、両ピストン15c,15dがスプリング15eの弾性力を受けることで、ブレーキペダルBPが踏み込まれていないときには各ピストン15c,15dを押してブレーキペダルBPを初期位置側に戻す。プライマリ室15aは液圧制御ユニットHUのP系統と接続され、セカンダリ室15bはS系統と接続されている。
リザーバタンクRSVは、ブレーキペダルBPが初期位置のとき、プライマリ室およびセカンダリ室のそれぞれと図外の管路を介して接続されるもので、インプットロッドIRのストロークに応じてマスタシリンダM/C内にブレーキ液を供給、またはマスタシリンダM/C内の余剰ブレーキ液を貯留する。
【0014】
P系統には、右前輪FRのホイルシリンダW/C(FR)、左後輪RLのホイルシリンダW/C(RL)が接続され、S系統には、左前輪FLのホイルシリンダW/C(FL)、右後輪RRのホイルシリンダW/C(RR)が接続される。P系統、S系統には、ポンプ(第2のポンプ)PP、ポンプ(第2のポンプ)PSが設けられている。ポンプPP、ポンプPSは、例えば、ギヤポンプであって、1つのモータM1により駆動され、吸入部10aから吸入したブレーキ液を加圧して吐出部10bへ吐出する。
マスタシリンダM/CとポンプPの吐出部10bとは、管路11と管路31により接続される。管路11には、常開型(非通電時に全開し、通電時に閉方向へ作動する)の比例電磁弁であるゲートアウトバルブ(第1の電磁弁)12が設けられている。管路11には、ゲートアウトバルブ12を迂回する管路32が設けられている。管路32上には、チェックバルブ13が設けられている。チェックバルブ13は、マスタシリンダM/CからホイルシリンダW/Cへ向かうブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
管路31上には、チェックバルブ20が設けられている。チェックバルブ20は、ポンプPから管路11へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0015】
ポンプPの吐出部10bとホイルシリンダW/Cとは、管路18により接続される。管路18上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型の比例電磁弁であるソレノイドインバルブ(第2の電磁弁)19が設けられている。
管路18上には、ソレノイドインバルブ19を迂回する管路21が設けられ、この管路21には、チェックバルブ22が設けられている。このチェックバルブ22は、ホイルシリンダW/CからポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。管路18は、管路11と管路31との接続点で接続されている。
管路11と管路18とにより、ドライバのブレーキ操作によってブレーキ液圧を発生するマスタシリンダM/Cとブレーキ液圧が作用するように構成されたホイルシリンダW/Cとを接続する第1ブレーキ回路が構成される。
ホイルシリンダW/Cとリザーバ(第2のリザーバ)23とは管路24により接続される。管路24には、常閉型(非通電時に全閉し、通電時に開方向へ作動する)の電磁弁であるソレノイドアウトバルブ25が設けられている。リザーバ23P,23Sは、対応する左右前輪FL,FRの最大回生制動力限界値(モータジェネレータMGの特性により決まる最大回生制動力の上限)相当のブレーキ液量以上を貯留可能である。
マスタシリンダM/Cとリザーバ23とは管路26により接続される。また、リザーバ23とポンプPの吸入部10aとは、管路30により接続される。
管路26,30,31は、分岐油路16の分岐点とゲートアウトバルブ12の一側との間から分岐し、ゲートアウトバルブ12の他側の第1ブレーキ回路(管路11)と接続する第2ブレーキ回路である。
【0016】
リザーバ23は、ピストン23aとピストン23aを付勢するガスばね(バネ部材)23bとを備える。また、リザーバ23は、圧力感応型のチェックバルブ(調整弁)28を管路26上に備える。チェックバルブ28は、リザーバ23の流入口23cに形成されたシート部28aとシート部28aに当接する弁体28bとを有し、弁体28bは、ピストン23aと一体に設けられている。チェックバルブ28は、所定量のブレーキ液が貯留された場合、または、管路26内の圧力が所定圧を超える高圧となった場合、弁体28bがシート部28aに着座して閉弁し、リザーバ23内へのブレーキ液の流入を禁止することで、ポンプPの吸入部10aに高圧が印加されるのを防止する。なお、チェックバルブ28は、ポンプPが作動して管路30内の圧力が低くなった場合には、管路26内の圧力にかかわらず弁体28bがシート部28aから離間して開弁し、リザーバ23内へのブレーキ液の流入を許容する。
P系統の管路11Pには、マスタシリンダM/Cのプライマリ室15aとゲートアウトバルブ12Pとの間から分岐する分岐油路16が設けられている。分岐油路16は、両端が分岐油路16と接続された還流油路部17を有する。
還流油路部17には、ストロークシミュレータバルブ(制御弁)27とリザーバ34とポンプ(第1のポンプ)35とチェックバルブ36とが設けられている。ストロークシミュレータバルブ27は、常閉型の比例電磁弁である。リザーバ34は、ストロークシミュレータバルブ27を経由しマスタシリンダM/Cからのブレーキ液が流れ込む。リザーバ34は、左右前輪FL,FRの最大回生制動力限界値(モータジェネレータMGの特性により決まる最大回生制動力の上限)相当のブレーキ液量以上を貯留可能である。ポンプ35は、例えば、ギヤポンプであって、モータM2により駆動され、吸入部35aから吸入したブレーキ液を加圧して吐出部35bへ吐出する。これにより、リザーバ34に貯留したブレーキ液が還流油路部17から分岐油路16へ吐出される。チェックバルブ36は、ポンプ35から分岐油路16へ向かうブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
ブレーキコントロールユニットBCUは、回生制動装置(モータジェネレータMG,インバータINV,バッテリBATT)の回生状態に応じて各バルブ12,19,25,27と、モータM1,M2とを作動させ、ブレーキ液圧を制御する。
【0017】
以下、回生協調制御の各シーンにおける液圧制御ユニットHUの各バルブおよび各ポンプの動作およびその作用を、油圧回路とタイムチャートを用いて説明する。油圧回路上では、ブレーキ液の流れを太線で示す。また、タイムチャート上では、「ブレーキペダルストロークから決まる車両に必要な制動力」を「ドライバ要求」、「回生制動力」を「回生」、「回生輪の摩擦制動力を「摩擦(回生輪)」、「マスタシリンダ圧」を「MC圧」、非回生輪である「左右後輪RL,RRのホイルシリンダ圧」を「WC圧(非回生輪)」、回生輪である「左右前輪FL,FRのホイルシリンダ圧」を「WC(回生輪)」、リザーバ34に貯留されたブレーキ液量を「ストローク吸収用」、リザーバ23に貯留されたブレーキ液量を「減圧用」、ストロークシミュレータバルブ27を「SS」、ソレノイドインバルブ19を「S-in」、ソレノイドアウトバルブ25を「S-out」と記す。
[通常ブレーキ]
(ホイルシリンダ圧増圧)
通常ブレーキによるホイルシリンダ圧増圧時には、図3に示すように、各バルブおよび各ポンプは全て非制御であり、負圧ブースタNPBの倍力のみでマスタシリンダM/CからホイルシリンダW/Cへブレーキ液を送り、ホイルシリンダ圧を増圧する(図4の時点t1からt2までの期間)。
(ホイルシリンダ圧保持)
通常ブレーキによるホイルシリンダ圧保持時には、負圧ブースタNPBの倍力のみでホイルシリンダ圧を保持する(図4の時点t2からt3までの期間)。油圧回路上でブレーキ液の流れは生じない。よって、油圧回路は図2の状態である。
(ホイルシリンダ圧減圧)
通常ブレーキによるホイルシリンダ圧減圧時には、図5に示すように、各バルブおよび各ポンプは全て非制御であり、負圧ブースタNPBの倍力のみでホイルシリンダW/CからマスタシリンダM/Cへブレーキ液を戻し、ホイルシリンダ圧を減圧する(図4の時点t3からt4までの期間)。
【0018】
[回生協調制御]
(ドライバ要求一定、回生輪増圧)
回生制動制御において、ドライバ要求が一定であり、回生制動力の減少によりホイルシリンダ圧を増圧する場合であって、リザーバ23にブレーキ液が貯留されているときには、図6に示すように、ポンプ35でリザーバ34からマスタシリンダM/C経由でブレーキ2系統の回生輪にブレーキ液を送り、回生輪のホイルシリンダ圧を増圧する。詳述すると、ポンプ35の吐出圧はP系統のホイルシリンダW/C(FR),W/C(RL)に送られると同時にマスタシリンダM/Cのプライマリ室15aにも送られる。これに応じてセカンダリピストン15dが図中右側に移動し、セカンダリ室15bが狭くなるため、その分だけS系統にブレーキ液が供給される。つまり、P系統のホイルシリンダW/C(FR),W/C(RL)に送られたブレーキ液と同量のブレーキ液をS系統のホイルシリンダW/C(FL),W/C(RR)に送ることができる。
また、ポンプPでリザーバ23からブレーキ2系統の回生輪にブレーキ液を送り、回生輪のホイルシリンダ圧を増圧する。このとき、回生輪の増圧量は、ソレノイドインバルブ19FL,19FRを比例制御して調整する。また、ストロークシミュレータバルブ27でポンプ35およびポンプPの余剰吐出量をリークし、ブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当(通常ブレーキにおけるブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧との関係)に調整する(図7の時点t5からt6までの期間)。
一方、リザーバ23にブレーキ液が貯留されていないときには、図8に示すように、ポンプ35でリザーバ34からマスタシリンダM/C経由でブレーキ2系統の回生輪にブレーキ液を送り、回生輪のホイルシリンダ圧を増圧する。このとき、回生輪の増圧量は、ソレノイドインバルブ19FL,19FRを比例制御して調整する。また、ストロークシミュレータバルブ27でポンプ35の余剰吐出量をリークする(図9の時点t3からt4までの期間)。
(ドライバ要求一定、回生輪保持)
回生協調制御において、ドライバ要求と回生制動力とが共に一定であり、ホイルシリンダ圧を保持する場合には、図10に示すように、ポンプ35とストロークシミュレータバルブ27によりリザーバ34のブレーキ液を還流油路部17内で循環させ、ドライバ要求増減に即対応できるよう準備しておく。また、ソレノイドインバルブ19FL,19FRを閉じてマスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとを遮断し、回生輪のブレーキ液圧を保持する(図9の時点t2からt3までの期間)。
(ドライバ要求一定、回生輪減圧)
回生協調制御において、ドライバ要求が一定であり、回生制動力の増加によりホイルシリンダ圧を減圧する場合には、図11に示すように、ポンプ35とストロークシミュレータバルブ27によりリザーバ34のブレーキ液を還流油路部17内で循環させ、ドライバ要求増減に即対応できるよう準備しておく。また、ソレノイドインバルブ19FL,19FRを閉じてマスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとを遮断し、ソレノイドアウトバルブ25FL,25FRを開いて回生輪の液圧を減圧する(図7の時点t3からt4までの期間)。
【0019】
(ドライバ要求増加、回生輪増圧)
回生協調制御において、ドライバ要求が増加し、ホイルシリンダ圧を増圧する場合であって、リザーバ23にブレーキ液が貯留されているときには、図12に示すように、非回生輪はドライバ要求圧と同圧で増圧し、回生輪はソレノイドインバルブ19FL,19FRを比例制御して調整する。また、ポンプPでリザーバ23からブレーキ2系統の回生輪にブレーキ液を送り、回生輪のホイルシリンダ圧を増圧する。このとき、ストロークシミュレータバルブ27とポンプ35によりブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整する(図13の時点t4からt5までの期間)。
一方、リザーバ23にブレーキ液が貯留されていないときには、図14に示すように、非回生輪はドライバ要求圧と同圧で増圧し、回生輪はソレノイドインバルブ19FL,19FRを比例制御して調整する。このとき、ストロークシミュレータバルブ27とポンプ35によりブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整する(図13の時点t2からt3までの期間)。
(ドライバ要求増加、回生輪保持)
回生協調制御において、ドライバ要求が増加している場合にホイルシリンダ圧を保持する場合には、図15に示すように、非回生輪はドライバ要求圧と同圧で増圧し、回生輪はソレノイドインバルブ19FL,19FRを閉じてマスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとを遮断し、回生輪のブレーキ液圧を保持する。このとき、ストロークシミュレータバルブ27とポンプ35によりブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整する(図13の時点t1からt2までの期間)。
(ドライバ要求増加、回生輪減圧)
回生協調制御において、ドライバ要求と回生制動力が共に増加している場合にホイルシリンダ圧を減圧する場合には、図16に示すように、非回生輪はドライバ要求圧と同圧で増圧し、ソレノイドインバルブ19FL,19FRを閉じてマスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとを遮断し、ソレノイドアウトバルブ25FL,25FRを開いて回生輪の液圧を減圧する。このとき、ストロークシミュレータバルブ27とポンプ35によりブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整する(図17の時点t2からt3までの期間)。
【0020】
(ドライバ要求減少、回生輪増圧)
回生協調制御において、ドライバ要求が減少し、ホイルシリンダ圧を増圧する場合であって、リザーバ23にブレーキ液が貯留されているときには、図18に示すように、非回生輪はドライバ要求圧と同圧で減圧する。また、ポンプPでリザーバ23からブレーキ2系統の回生輪にブレーキ液を送り、回生輪のホイルシリンダ圧を増圧する。このとき、回生輪の増圧量は、ソレノイドインバルブ19FL,19FRを比例制御して調整する。また、ストロークシミュレータバルブ27とポンプ35によりブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整する(図19の時点t1からt2までの期間)。
一方、リザーバ23にブレーキ液が貯留されていないときには、図20に示すように、非回生輪はドライバ要求圧と同圧で減圧する。このとき、回生輪の増圧量は、ソレノイドインバルブ19FL,19FRを比例制御して調整する。また、ストロークシミュレータバルブ27とポンプ35によりブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整する(図21の時点t4からt5までの期間)。
(ドライバ要求減少、回生輪保持)
回生協調制御において、ドライバ要求が減少し、ホイルシリンダ圧を保持する場合であって、リザーバ23にブレーキ液が貯留されているときには、図22に示すように、非回生輪はドライバ要求圧と同圧で減圧し、ポンプPでリザーバ23からマスタシリンダM/Cにブレーキ液を送る。また、ソレノイドインバルブ19FL,19FRを閉じてマスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとを遮断し、回生輪の液圧を保持する。また、ストロークシミュレータバルブ27でポンプ35とポンプPの余剰吐出量をリークし、ストロークシミュレータバルブ27とポンプ35でブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整する(図13の時点t7からt8までの期間)。
一方、リザーバ23にブレーキ液が貯留されていないときには、図23に示すように、非回生輪はドライバ要求圧と同圧で減圧する。また、ソレノイドインバルブ19FL,19FRを閉じてマスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとを遮断し、回生輪の液圧を保持する。また、ストロークシミュレータバルブ27とポンプ35でブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整する(図24の時点t1からt2までの期間)。
(ドライバ要求減少、回生輪減圧)
回生協調制御において、ドライバ要求が減少し、ホイルシリンダ圧を減圧する場合には、図25に示すように、非回生輪はドライバ要求圧と同圧で減圧し、ポンプPでリザーバ23からマスタシリンダM/Cにブレーキ液を送る。また、ソレノイドインバルブ19FL,19FRを閉じてマスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとを遮断し、ソレノイドアウトバルブ25FL,25FRを開いて回生輪の液圧を減圧する。このとき、ストロークシミュレータバルブ27でポンプ35とポンプPの余剰吐出量をリークし、ストロークシミュレータバルブ27とポンプ35でブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整する(図13の時点t6からt7までの期間)。
【0021】
[低車速域の回生協調制御]
図9は、回生協調制御において、低車速域でドライバがブレーキ操作を行った場合(回生制動力から摩擦制動力へのすり替え完了後にブレーキペダルが踏み戻されたとき)のタイムチャートである。
時点t1では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み込みを開始したため、時点t1からt2までの期間では、油圧回路を図15の状態とし、ドライバ要求の増加に応じて回生制動力が立ち上がるのに対し、摩擦制動力を保持することで、摩擦制動力の増加を抑え、回生効率を高めることができる。
時点t2では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み込みを停止し、ブレーキペダルストロークが一定となったため、時点t2からt3までの期間では、油圧回路を図10の状態とし、制動力を一定に維持する。
時点t3では、減速による最大回生制動力の低下に伴い回生制動力が減少し始めるため、時点t3からt4までの期間では、油圧回路を図6の状態とし、回生制動力の減少に応じて摩擦制動力を立ち上げることで、回生制動力から摩擦制動力へのすり替えを行う。
時点t4では、回生制動力から摩擦制動力へのすり替えが完了したため、油圧回路を図2の状態としてストロークシミュレータバルブ27、ソレノイドインバルブ19、ポンプ35を非制御とし、通常ブレーキへと移行する。よって、時点t4からt5の期間では、負圧ブースタNPBの倍力のみでホイルシリンダ圧を保持する。
時点t5では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み戻しを開始したため、時点t5からt6までの期間では、油圧回路を図5の状態とし、負圧ブースタNPBの倍力のみでホイルシリンダW/CからマスタシリンダM/Cへブレーキ液を戻し、ホイルシリンダ圧を減圧する。
図21は、回生協調制御において、低車速域でドライバがブレーキ操作を行った場合(回生制動力から摩擦制動力へのすり替え完了前にブレーキペダルが踏み戻されたとき)のタイムチャートである。
時点t1からt3までの期間は図9と同じであるため、説明を省略する。
時点t3では、減速による最大回生制動力の低下に伴い回生制動力が減少し始めるため、時点t3からt4までの期間では、油圧回路を図8の状態とし、回生制動力の減少に応じて摩擦制動力を立ち上げることで、回生制動力から摩擦制動力へのすり替えを行う。
時点t4では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み戻しを開始したため、時点t4からt5までの期間では、油圧回路を図20に示した状態とし、回生制動力から摩擦制動力へのすり替えを継続する。
時点t5では、回生制動力から摩擦制動力へのすり替えが完了したため、油圧回路を図5の状態としてストロークシミュレータバルブ27、ソレノイドインバルブ19、ポンプ35を非制御とし、通常ブレーキへと移行する。よって、時点t5からt6の期間では、負圧ブースタNPBの倍力のみでホイルシリンダW/CからマスタシリンダM/Cへブレーキ液を戻し、ホイルシリンダ圧を減圧する。
【0022】
[中車速域の回生協調制御]
図7は、回生協調制御において、中車速域でドライバがブレーキ操作を行った場合のタイムチャートである。
時点t2までの期間は図9と同じであるため、説明を省略する。
時点t2では、回生制動力が最大回生制動力に達したため、時点t2からt3の期間では、油圧回路を図14の状態とし、増加するドライバ要求と回生制動力に応じて摩擦制動力を立ち上げる。
時点t3では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み込みを停止し、ブレーキペダルストロークが一定となったため、時点t3からt4までの期間では、油圧回路を図11の状態とし、増加する回生制動力に応じて摩擦制動力を減少させる。
時点t4では、回生制動力が最大制動力に達したため、時点t4からt5の期間では、油圧回路を図10の状態とし、制動力を保持する。
時点t5では、減速による最大回生制動力の低下に伴い回生制動力が減少し始めるため、時点t5からt6までの期間では、油圧回路を図6の状態とし、回生制動力の減少に応じて摩擦制動力を立ち上げる。
時点t6からt8までの期間は、図9の時点t4からt6までの期間と同じであるため、説明を省略する。
[高車速域の回生協調制御]
図13は、回生協調制御において、高速域でドライバがブレーキ操作を行った場合のタイムチャートである。
時点t4までの期間は図7と同じであるため、説明を省略する。
時点t4では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み増しを開始したため、時点t4からt5までの期間では、油圧回路を図12の状態とし、増加するドライバ要求と回生制動力とに応じて摩擦制動力を増加させる。
時点t5では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み増しを停止し、ブレーキペダルストロークが一定となったため、時点t5からt6までの期間では、油圧回路を図11の状態とし、増加する回生制動力に応じて摩擦制動力を減少させる。
時点t6では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み戻しを開始したため、時点t6からt7までの期間では、油圧回路を図25の状態とし、減少するドライバ要求と増加する回生制動力とに応じて摩擦制動力を減少させる。
時点t7では、回生輪の摩擦制動力がゼロとなったため、時点t7からt8までの期間では、油圧回路を図22の状態とし、回生輪の摩擦制動力をゼロに維持しつつ、非回生輪の摩擦制動力をドライバ要求に応じて減少させる。
【0023】
[回生制動が禁止されている場合]
図4は、通常ブレーキのタイムチャートである。
時点t1では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み増しを開始したため、時点t1からt2までの期間では、油圧回路を図3の状態とし、負圧ブースタNPBの倍力のみでホイルシリンダ圧を増圧する。
時点t2では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み増しを停止し、ブレーキペダルストロークが一定となったため、油圧回路を図2の状態とし、時点t2からt3までの期間では、負圧ブースタNPBの倍力のみでホイルシリンダ圧を保持する。
時点t3では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み戻しを開始したため、時点t3からt4までの期間では、油圧回路を図5の状態とし、負圧ブースタの倍力のみでホイルシリンダ圧を減圧する。
[制動初期に回生制動が禁止されている場合]
図17は、制動初期に回生制動が禁止されている場合のタイムチャートである。
時点t1では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み増しを開始したが、回生制動が禁止されているため、時点t1からt2までの期間では、油圧回路を図3の状態とし、通常ブレーキにより摩擦制動力を立ち上げる。
時点t2では、回生制動が立ち上がり始めたため、時点t2からt3までの期間では、油圧回路を図16の状態とし、回生制動力の増加に応じて摩擦制動力を減少させる。
時点t3では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み増しを停止し、ブレーキペダルストロークが一定となったため、時点t3からt4までの期間では、油圧回路を図11の状態とし、増加する回生制動力に応じて摩擦制動力を減少させる。
時点t4では、回生制動力が最大回生制動力に達したため、時点t4からt5までの期間では、油圧回路を図10の状態とし、制動力を保持する。
時点t5では、減速による最大回生制動力の低下に伴い回生制動力が減少し始めるため、時点t5からt6までの期間では、油圧回路を図6の状態とし、回生制動力の減少に応じて摩擦制動力を立ち上げる。
時点t6では、回生制動力から摩擦制動力へのすり替えが完了したため、油圧回路を図2の状態として通常ブレーキへと移行する。よって、時点t6からt7までの期間では、負圧ブースタNPBの倍力のみでホイルシリンダ圧を保持する。
時点t7では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み戻しを開始したため、時点t7からt8までの期間では、油圧回路を図5の状態とし、負圧ブースタNPBの倍力のみでホイルシリンダ圧を減圧する。
【0024】
以上説明したように、実施例1のブレーキ制御装置では、P系統の管路11PのマスタシリンダM/Cとゲートアウトバルブ12Pとの間の位置から分岐する分岐油路16を設け、この分岐油路16にストロークシミュレータバルブ27とリザーバ34とポンプ35を有する還流油路部17を設けた。
従来のブレーキ制御装置では、停車時等の回生制動不能な状況、または、回生制動力が大きく制限された状況でブレーキペダルストロークが所定位置に達していない場合は、ドライバ要求に対して摩擦制動力が不足し、ポンプアップにより加圧したブレーキ液をホイルシリンダへ供給しなければならないため、ポンプの作動頻度が高くなる。また、ポンプアップが不能となる電気失陥時には、ブレーキペダルストロークが所定位置に達するまで制動力が発生せず、ドライバに違和感を与えてしまう。さらに、回生制動の有無により、ブレーキペダルストロークと制動力(減速度)との関係に差が生じるため、ドライバに違和感を与えてしまう。
これに対し、実施例1のブレーキ制御装置では、回生制動不能な状況ではストロークシミュレータバルブ27を非制御としてマスタシリンダM/Cからリザーバ34へのブレーキ液の流入を規制することで、通常ブレーキによりポンプPを作動させることなくマスタシリンダ圧とホイルシリンダ圧とを一致させることができるため、ドライバ要求に応じた摩擦制動力を発生できる。なお、ストロークシミュレータバルブ27は常閉型の比例電磁弁であるから、電気失陥時には閉弁状態を維持でき、ブレーキ液がリザーバ34へ貯留されてしまうことはない。さらに、回生協調制御中は、ストロークシミュレータバルブ27とポンプ35を常時制御してブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整するため、ブレーキペダルストロークと制動力との関係を通常ブレーキのブレーキペダルストロークと制動力との関係にコントロールでき、通常ブレーキと同様の良好かペダルフィールを実現できる。
【0025】
ポンプ35は、マスタシリンダM/Cを介してS系統のブレーキ配管系のブレーキ液圧を制御するため、1つのポンプ35を用いて2系統のブレーキ液圧を調整できる。
ゲートアウトバルブ12は、回生協調制御中は常に非制御であるため、従来のブレーキ制御装置よりも制御を簡素化できる。
左右後輪RL,RRのホイルシリンダW/C(RL),W/C(RR)に対応するソレノイドインバルブ19RL,19RRは、回生協調制御時は常に非制御である。つまり、マスタシリンダM/Cと左右後輪RL,RRのホイルシリンダW/C(RL),W/C(RR)とを常に連通させた状態とし、マスタシリンダ側のブレーキ剛性を下げておくことで、ドライバがブレーキペダルBPを踏み増ししたときの過剰な反力増加を低減でき、ペダルフィールの悪化を抑制できる。
実施例1では、回生協調制御時はポンプ35およびポンプPの余剰吐出量を、ストロークシミュレータバルブ27からリークさせるため、ブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整でき、良好なペダルフィールを実現できる。
リザーバ34は、左右前輪FL,FRの最大回生制動力限界値相当のブレーキ液量以上を貯留可能であるため、回生制動力が最大回生制動力に達するまではマスタシリンダM/Cから流出したブレーキ液をリザーバ34に逃がすことができ、回生効率を最大限まで高めることができる。
また、リザーバ23P,23Sは、対応する左右前輪FL,FRの最大回生制動力限界値相当のブレーキ液量以上を貯留可能であるため、摩擦制動力から回生制動力へすり替える際、回生制動力が最大回生制動力に達するまではホイルシリンダW/C(FL),W/C(FR)から流出したブレーキ液をリザーバ23P,23Sに貯留でき、回生効率を最大限まで高めることができる。
【0026】
次に、効果を説明する。
実施例1のブレーキ制御装置では、以下に列挙する効果を奏する。
(1) ドライバのブレーキペダルストロークに対応したブレーキ操作力を増幅する負圧ブースタNPBと、負圧ブースタNPBにより増幅された操作力に応じたブレーキ液圧を車両に設けられた2系統(P系統、S系統)のブレーキ配管系に備えられたホイルシリンダW/Cに供給して制動力を発生させるマスタシリンダM/Cと、ホイルシリンダW/Cに付属する左右前輪FL,FRに対して回生制動力を発生する回生制動装置(モータジェネレータMG,インバータINV,バッテリBATT)と、を有する車両に用いられるブレーキ制御装置であって、2系統のブレーキ配管系のうちの少なくとも一系統(P系統)に設けられ、マスタシリンダM/Cのプライマリ室15aとホイルシリンダW/Cとの間の第1ブレーキ回路(管路11,18)に配置されたゲートアウトバルブ12と、第1ブレーキ回路であってプライマリ室15aとゲートアウトバルブ12との間から分岐する還流油路部17を有する分岐油路16と、還流油路部17に設けられたストロークシミュレータバルブ27と、ストロークシミュレータバルブ27を経由しマスタシリンダM/Cからのブレーキ液が流れ込むリザーバ34と、リザーバ34を介してブレーキ液を吸入して還流油路部17から分岐油路16に吐出するポンプ35と、を備えた。
よって、回生制動不能な状況ではストロークシミュレータバルブ27を非制御としてマスタシリンダM/Cからリザーバ34へのブレーキ液の流入を規制することで、通常ブレーキによりポンプPを作動させることなくマスタシリンダ圧とホイルシリンダ圧とを一致させることができるため、ドライバ要求に応じた摩擦制動力を発生でき、ポンプPの作動頻度を抑制できる。
(2) ポンプ35は、回生制動装置作動時に駆動しマスタシリンダM/Cを介して他方の系統(S系統)のブレーキ配管系のブレーキ液圧を制御するため、1つのポンプ35を用いて2系統のブレーキ液圧を調整できる。
(3) 分岐油路16の分岐点とゲートアウトバルブ12の一側との間から分岐し、ゲートアウトバルブ12の他側の第1ブレーキ回路と接続する第2ブレーキ回路(管路26,30,31)と、第2ブレーキ回路に設けられ、第1ブレーキ回路と第2ブレーキ回路の接続点に向けてブレーキ液を吐出するポンプPと、を備え、各ポンプP,35とストロークシミュレータバルブ27とを用いて回生制動装置作動時のマスタシリンダM/Cのブレーキ液圧とブレーキペダルストロークを所定の関係(通常ブレーキにおけるマスタシリンダ圧とブレーキペダルストロークとの関係)にコントロールする。
よって、回生協調制御中も通常ブレーキと同様の良好なペダルフィールを得ることができる。
【0027】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、実施例では、分岐油路をP系統に設けた例を示したが、S系統に設けてもよい。また、両系統に設けてもよい。
実施例では、回生輪を前輪、非回生輪を後輪としたが、回生輪を後輪、非回生輪を前輪としてもよい。
実施例では、本発明のブレーキ制御装置を電気自動車に適用した例を示したが、ハイブリッド車両にも適用できる。
また、本発明は、以下の3条件を満たす油圧回路に適用できる。
1.リザーバにブレーキ液を貯留可能
2.ソレノイドアウトバルブで回生輪のホイルシリンダ圧を減圧可能
3.ポンプでリザーバの液を掻出可能
上記3条件を満たす油圧回路を図26に示す。図26は一般的なABSユニットの油圧回路であり、図2のリザーバ23、ソレノイドインバルブ19、ポンプPに代えて、リザーバ37、常開の電磁弁であるソレノイドインバルブ38、プランジャポンプ39を設け、ゲートアウトバルブ12、管路26、チェックバルブ20を削除した構成である。この構成においても、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【0028】
以下に、実施例から把握される特許請求の範囲に記載した発明以外の技術的思想について説明する。
(a) 請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
非回生輪に設けられたホイルシリンダと前記第1の電磁弁との間に、常開型の第2の電磁弁を備え、
前記第2の電磁弁は、前記回生制動装置作動時は常時開方向に作動させることを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、マスタシリンダと非回生輪のホイルシリンダとを常に連通させた状態とし、マスタシリンダ側のブレーキ剛性を下げておくことで、ドライバがブレーキペダルを踏み増ししたときの過剰な反力増加を低減でき、ペダルフィールの悪化を抑制できる。
(b) 請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
前記回生制動装置作動時は前記第1のポンプおよび前記第2のポンプの余剰吐出量を、前記制御弁からリークさせることを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、ブレーキペダルストロークとマスタシリンダ圧をドライバ要求相当に調整でき、良好なペダリフィールを実現できる。
(c) 請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
前記リザーバは、回生輪2輪の最大回生制動力限界値相当のブレーキ液量以上を貯留可能であることを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、制動初期から回生制動力を発生させる際の回生効率を最大限まで高めることができる。
(d) 請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
前記第2ブレーキ回路の前記第2のポンプの吸入側に第2のリザーバを設け、
前記第2のリザーバは、回生輪1輪の最大回生制動力限界値相当のブレーキ液量以上を貯留可能であることを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、摩擦制動力から回生制動力へすり替える際の回生効率を最大限まで高めることができる。
【符号の説明】
【0029】
BATT バッテリ(回生制動装置)
INV インバータ(回生制動装置)
M/C マスタシリンダ(タンデムマスタシリンダ)
MCU モータコントロールユニット(回生制動装置)
MG モータジェネレータ(回生制動装置)
NPB 負圧ブースタ(ブースタ)
P ポンプ(第2のポンプ)
W/C ホイルシリンダ
11 管路(第1ブレーキ回路)
12 ゲートアウトバルブ(第1の電磁弁)
15a プライマリ室(第1の液室)
16 分岐油路
17 還流油路部
18 管路(第1ブレーキ回路)
26 管路(第2ブレーキ回路)
27 ストロークシミュレータバルブ(制御弁)
30 管路(第2ブレーキ回路)
31 管路(第2ブレーキ回路)
34 リザーバ
35 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバのブレーキペダルストロークに対応したブレーキ操作力を増幅するブースタと、
前記ブースタにより増幅された操作力に応じたブレーキ液圧を車両に設けられた2系統のブレーキ配管系に備えられたホイルシリンダに供給して制動力を発生させるタンデムマスタシリンダと、
前記ホイルシリンダに付属する車輪に対して回生制動力を発生する回生制動装置と、
を有する車両に用いられるブレーキ制御装置であって、
前記2系統のブレーキ配管系のうちの少なくとも一系統に設けられ、前記タンデムマスタシリンダの第1の液室と前記ホイルシリンダとの間の第1ブレーキ回路に配置された第1の電磁弁と、
前記第1ブレーキ回路であって前記第1の液室と前記第1の電磁弁との間から分岐する還流油路部を有する分岐油路と、
前記還流油路部に設けられた制御弁と、
前記制御弁を経由し前記タンデムマスタシリンダからのブレーキ液が流れ込むリザーバと、
前記リザーバを介してブレーキ液を吸入して前記還流油路部から前記分岐油路に吐出するポンプと、
を備えたことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
前記ポンプは、前記回生制動装置作動時に駆動し前記タンデムマスタシリンダを介して他方の系統のブレーキ配管系のブレーキ液圧を制御することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキ制御装置において、
前記分岐油路の分岐点と前記第1の電磁弁の一側との間から分岐し、前記第1の電磁弁の他側の前記第1ブレーキ回路と接続する第2ブレーキ回路と、
前記第2ブレーキ回路に設けられ、前記第1ブレーキ回路と前記第2ブレーキ回路の接続点に向けてブレーキ液を吐出する第2のポンプと、
を備え、
前記各ポンプと前記制御弁とを用いて前記回生制動装置作動時の前記タンデムマスタシリンダのブレーキ液圧と前記ブレーキペダルストロークを所定の関係にコントロールすることを特徴とするブレーキ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate


【公開番号】特開2012−153204(P2012−153204A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12456(P2011−12456)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】