説明

プラズマ処理方法

【課題】試料が処理室内に搬入され、プラズマ処理され、処理室内から搬出されるまでの中で処理室内での圧力変動により生じる異物巻上げ等による異物を低減する。
【解決手段】試料を処理する複数のプラズマ処理室と、それぞれの処理室内に連結され試料を搬送するための搬送室を有し、両室内もしくは処理室内のみに搬送室に供給する搬送用ガスと同じガスを供給する供給システムを具備するプラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法であって、処理室内へ搬送用ガスを導入した後処理室内に試料を搬入する工程(イ)、その後処理室内の前記搬送用ガス導入を維持した状態で処理室内の搬送用ガスを利用してプラズマ発生させる工程(ウ)、このプラズマを維持した状態で処理室内に連続してプロセスガスを供給して搬送用ガスからプロセスガスへ切り替える工程(エ)、試料にプラズマ処理を行う工程(オ)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハなどの試料を処理する複数のプラズマ処理室と、それぞれの処理室内に連結され試料を搬送するための搬送室を有し、搬送室から処理室へ試料を搬送する際、両室内もしくは処理室内のみに搬送室に供給する搬送用ガスと同じガスを供給する供給システムを具備するプラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法に係り、特に、上記プラズマ処理方法における半導体ウェハなどの試料の処理室内への搬送および処理室内でのプラズマ処理ならびに処理室からの搬出までの処理において試料へ付着する異物を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プロセスガスと半導体ウェハなどの試料の化学反応を利用し処理するプラズマ処理装置では、反応生成物が生成される処理を連続的に繰り返したときに処理室内側壁に堆積した反応生成物が離脱し試料へと付着することや、処理室内に滞在する残留成分の雰囲気が試料の表面へ悪影響を及ぼすこと等が、異物として半導体配線の短絡や加工形状の異常等、不良を発生させる要因となっている。ところで、プラズマ処理装置では、例えば試料の収納されたカセットから試料を装置内へと搬送できるロードロック室があり、一般的にロードロック室に隣接して装置内に搬送された試料を隣接した複数の処理室へと搬送する搬送室を有する。
【0003】
しかしながら、処理室内に搬入された後プラズマ処理された試料が処理室内から搬出されるまでの一連の処理中に処理室内での圧力変動により生じる異物巻上げ等については、考慮されていなかった。一般的には、試料が処理室内に搬送され、プラズマ処理をするまでに処理室内に搬送用ガスとして導入していたガス導入を止めて、高真空排気処理を実施した後、処理室内にプロセスガスを導入してプラズマを発生させプラズマ処理を実施する。そのため、処理室内では搬送用ガス導入停止からプロセスガスを導入するまでに処理室内に導入された搬送ガスの圧力から高真空排気圧力へ圧力が低下しさらにプロセスガスを用いたプラズマ発生雰囲気の圧力へと圧力変動差が生じ、この圧力変動に伴い処理室内側壁に堆積した異物の巻き上げ等が発生する。プラズマ停止後においては、プラズマ処理用ガス導入を止めて、高真空排気を実施した後搬送用ガスを導入するので、処理室内で同様の圧力変動差を生じ、プラズマ処理開始前と同様に処理室内での圧力変動差による処理室内側壁に堆積した異物の巻き上げ等が発生する。
【0004】
プラズマ処理装置で異物を低減する技術としては、試料を処理室内へ搬出入する際、処理室と搬送室のどちらか一方もしくは両方にガス導入装置によりガスを流し、各室の圧力差を小さくすることにより乱気流による異物巻き上げ等による異物発生を防止している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
出願人は、処理室内に導入する掃気ガスを処理ガスに切り替えた後、処理ガスを用いてプラズマを生成してプラズマ処理を行い、プラズマ処理終了後プラズマを生成したまま掃気ガスに切り替えることを提案している(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この発明では、処理室内に搬送用ガスを導入した状態で搬送室から処理室内に基板を搬入し、その後搬送用ガスを用いてプラズマを生成しこのプラズマを維持した状態で搬送用ガスからプロセスガスに切り替えてプラズマ処理を行うこと、プラズマ処理が終了した後、プロセスガスによるプラズマを維持した状態でプロセスガスから搬送用ガスに切り替えプラズマを停止した後、処理室内から搬送室に基板を搬出することは示していない。
【特許文献1】特開2004−281832公報
【特許文献2】特願2006−162612
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、処理室内への試料の搬入、プラズマ処理、試料搬出の一連の処理の中で処理室内での圧力変動差を少なくし試料への異物の付着を低減できるプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、本発明は、搬送室から処理室内へ試料を搬送するにあたり処理室内へ搬送用ガスを導入し、試料搬送後も処理室内での搬送用ガス導入を維持する。プラズマ処理では、処理室内に導入されたこの搬送用ガスを利用してプラズマを生成し、このプラズマを維持した状態で搬送用ガスを処理用ガスへと連続して切り替えてプラズマ処理を開始する。また、プラズマ処理の最後にはプラズマを維持した状態で処理室内へ導入する処理ガスを搬送用ガスに連続して切り替え、その後プラズマを停止させ、プラズマ停止後も搬送用ガスの導入を維持して試料を搬出する。
【発明の効果】
【0008】
上記手法によれば、搬送用ガスでプラズマを発生させ、そのプラズマを維持した状態で連続してプロセスガスに切り替えるとともに、プラズマ処理終了後プラズマを維持した状態で搬送用ガスに切り替え搬送用ガスの導入を計測した状態で試料を搬出するので、処理室内での圧力変動差を少なくすることができ、異物巻上げ等による試料への異物の付着の低減と、プラズマ処理停止時にプラズマ中に滞在していた異物をプラズマ停止後、搬送用ガスの気流により排気し異物の付着を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1を用いて、本発明を実施するプラズマ処理装置全体の構成を示す。図1(a)はプラズマ処理装置の上面断面図、図1(b)はその斜側面図である。このプラズマ処理装置は、大気ブロック101と処理ブロック102に別れている。大気ブロック101は、大気圧下でウェハを搬送し収納位置決め等をする部分であり、処理ブロック102は、大気圧から減圧された圧力下でウェハ等の試料を搬送し、処理等を行ない、試料を載置した状態で圧力を上下させる部分である。
【0010】
大気ブロック101は、内部に搬送ロボット109を備えた筐体106を有し、この筐体106に取付けられ、処理用又はクリーニング用の試料が収納されているカセット107−1〜107−3を備えている。
【0011】
処理ブロック102は、減圧して試料を処理する処理室103−1、103−2、103−3と、これらの処理室内に試料を搬送する搬送室104およびこの搬送室104と大気ブロック101を接続するロック室105、105’を備えている。この処理ブロック102は減圧されて高い真空度の圧力に維持可能なユニットである。処理ブロック102は、さらに、搬送室ガス供給システム110と処理室ガス供給システム111−1、111−2、111−3、111−4を備えている。搬送室ガス供給システム110と処理室ガス供給システム111−1〜111−4は、搬送室104と処理室103−1〜103−4へ試料の搬出入においてマスフローコントローラーを介して不活性ガスを導入し、各室の圧力差を小さくして異物の巻き上げや処理室103から搬送室104への気流による反応性生物雰囲気等、異物要因の流れ込みを防止するシステムとなっている。
【0012】
図2を用いて、上記処理室103における処理容器内部およびガス供給系の構成の概略を説明する。それぞれの真空処理室は、蓋201、ガス導入リング202、真空容器壁203により形成される。処理室内部の空間は真空ポンプ204により高い真空度を保持される。ウェハを載置する試料台205は真空処理室の内部に搭載される。プラズマ処理を行う際は被処理物であるウェハは前記試料台の上に載せられた状態で処理が行われる。
【0013】
ウェハ搬送に使用するガス(搬送用ガス)は、不活性ガス例えばアルゴン(Ar)、窒素(N)等を用い、プラズマ処理に使用する処理用ガスには、各プロセス条件毎に応じた複数のプロセスガスを用いる。ウェハ搬入時に搬送用ガスは、マスフローコントローラー210で流量を制御され、バルブ212、213を開いた状態、バルブ217、216を閉じた状態としてガス導入リング202から蓋201とガス拡散板206の間の空間に導入され、前記ガス拡散板206に設けられた複数の小径孔207を通して真空処理室内部に導入される。処理室内に搬送ガスが導入される状態で搬送室から処理室内にウェハを搬入する。ウェハを試料台に搬入後も、処理室内への搬送用ガスの導入を維持する。
【0014】
真空容器内部に導入された搬送用ガスは、マグネトロン208により発生する電磁波とソレノイドコイル209により発生する磁場によりプラズマ化される。このとき、ガス分子は電子とラジカルに解離される。この間、プラズマ処理に使用する複数のプロセスガスはマスフローコントローラー211a、211bで実際に使用する流量に制御され、バルブ215a,215b、214を開いた状態、バルブ216、217を閉じた状態として、プロセスガスを排ガスシステム218に流しながら安定した設定流量に制御する。プロセスガス流量が安定した後には、バルブ213、214を閉じた状態に、バルブ216、217を開いた状態にすることで処理室内へのガス導入を搬送用ガスからプロセスガスに切り替え、安定した設定流量で搬送用ガスからプロセスガスへの連続したプラズマ処理切り替えを可能にする。この切り替えの間、処理室内のプラズマは搬送用ガスのプラズマからプロセスガスのプラズマに切り替わり、プラズマ状態は維持され、ウェハ(試料)のプラズマ処理が実行される。
【0015】
プラズマ処理停止前までには、搬送用ガスはマスフローコントローラー210で流量制御されバルブ212、217を開いた状態、バルブ213を閉じた状態として排ガスシステム218に流しながら安定した設定流量に制御する。プロセスガスによるプラズマ処理の終了後にはプラズマを維持した状態で、バルブ216、217を閉じた状態、バルブ213、214を開いた状態にすることで、プロセスガスから搬送用ガスの処理室内ガス導入を安定した設定流量でプロセスガスから搬送用ガスへ切り替え、処理室内の連続したプラズマの維持を可能にする。その後、プラズマを停止させた後、処理室内への搬送用ガス導入を維持した状態で、試料を搬送室へと搬出する。
【0016】
図3のタイミングチャートを用いて、処理室内に試料が搬入されてから搬出されるまでの搬送用ガスおよびプロセスガス処理室内導入、プラズマ処理、圧力のタイミングを説明する。図3(a)は一般的な従来のタイミングチャート、図3(b)は本発明によるタイミングチャートである。図3(a)では、タイミング301で処理室内搬送用ガス導入を停止し、その後搬送用ガスを排気した後、プロセスガスを導入してからプラズマを点火してプラズマ処理を開始し、タイミング302でプロセスガスの導入を停止しそれと同時にプラズマを消滅させてプラズマ処理を終了し、プロセスガスを排気した後、搬送用ガスを導入している。このため、タイミング301、302で、プロセスガスまたは搬送用ガスが導入されるまでの間に処理室内の圧力変動差が生じていた。
【0017】
図3(b)に示すように、本発明では、以下のアからクの工程を順治実行する。
ア.処理室内に試料を搬入するに先立って処理室内に搬送用ガスを導入する工程、
イ.処理室内に搬送用ガスを導入した状態で搬送室から処理室内に試料を搬送する工程、
ウ.処理室内にプラズマ生成用高周波を供給するとともに処理室内に磁場を形成することにより、導入された搬送用ガスをプラズマ化する工程、
エ.このプラズマを維持した状態で処理室内に導入されるガスを搬送用ガスからプロセスガスに切り替える工程、
オ.試料台にバイアス電圧を印加することによりプロセスガスのプラズマによって試料をプラズマ処理する工程、
カ.バイアス電圧の印加を停止してプラズマ処理を終了するとともに、プラズマを維持した状態で処理室内に導入するガスをプロセスガスから搬送用ガスに切り替える工程、
キ.搬送用ガスのプラズマを維持して吸着電極を除電する工程、
ク.搬送用ガスのプラズマを停止させた後搬送用ガスの処理室内への導入を継続した状態で試料を処理室内から搬送室へ搬出する工程。
【0018】
このプラズマ処理方法によると、イの工程によって、処理室と搬送室の間の圧力差が少ない状態で試料を処理室内に搬入することが可能となり、異物の巻上げ等による異物の試料への付着を低減することができる。また、ウおよびエの工程によって、プラズマ処理を迅速に開始することができるとともに、処理室内の圧力の変動を小さく抑えることができ、スループットの向上と、異物の巻上げによる異物の試料への付着を低減することができる。ささらに、カの工程によって、プラズマ処理終了時の圧力の変動を小さくすることが可能となり、異物の巻上げ等による異物の試料への付着を低減することができる。加えて、キの工程によって、吸着電極の働きによる試料の静電気を除電することができる。そしてクの工程によって、処理室と搬送室の間の圧力差が少ない状態で試料を搬送室に搬出することが可能となり、異物の巻上げ等による異物の試料への付着を低減することができる。
【0019】
すなわち、本発明によれば、タイミング303で処理室内に搬送ガスを導入した後試料を処理室内に搬入し、搬送用ガスをプラズマ化し、このプラズマを維持した状態で処理室内の導入するガスをプロセスガスに切り替えてプラズマ処理を実行し、プラズマ処理が終了した後、タイミング304でプラズマを維持した状態でプロセスガスから搬送用ガスへ切り替え、プラズマ停止後試料の搬出の間の処理室内の圧力変動差を低減でき、異物の巻上げによる異物の付着を低減できた。
【0020】
さらに、本発明によれば、処理室内のガスを、搬送用ガスからプロセスガスに、もしくはプロセスガスから搬送用ガスに切り替えるときの排気工程が不要となり、全体のスループットを向上させることができる。
また、本発明は、処理室内のガスを、搬送用ガスからプロセスガスに、もしくはプロセスガスから搬送用ガスに切り替えるのみで、プラズマをたてなくても圧力差を小さくでき有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1(a)】本発明を実施するためのプラズマ処理装置の構成を説明する平面断面図 である。
【図1(b)】本発明を実施するためのプラズマ処理装置の構成を説明する上面斜視図である。
【図2】本発明を実施するためのプラズマ処理装置の真空処理室およびガス供給システムの構成を模式的に説明する断面図である。
【図3(a)】一般的な従来技術による処理室内における処理および圧力変動を説明するタイミングチャートである。
【図3(b)】本発明の実施例による処理室内における処理および圧力変動を説明するタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0022】
101…大気ブロック、102…処理ブロック、103処理室、104…真空搬送室、105…ロック室、106…大気搬送室筐体、107…カセット、108…搬送ロボット、109…搬送ロボット、110…搬送室ガス供給システム、111…処理室ガス供給システム、201…蓋、202…ガス導入リング、203…真空容器壁、204…真空ポンプ、205…試料台、206…ガス拡散板、207…小径穴、208…高周波電源、209…ソレノイドコイル、210…マスフローコントローラー、211…マスフローコントローラー、212〜217…バルブ、218…排ガスシステム、301、302…圧力差の大きいタイミング、303、304…圧力差の小さいタイミング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をプラズマ処理する処理室と、該処理室に連結され試料を搬送するための搬送室を有し、搬送室から処理室へ試料を搬送する際、両室内もしくは処理室内のみに搬送室に供給する搬送用ガスと同じガスを供給する供給システムを具備するプラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法であって、
処理室内へ搬送用ガスを導入した後処理室内に試料を搬入する工程と、
その後処理室内の前記搬送用ガス導入を維持した状態で処理室内の搬送用ガスを利用してプラズマ発生させる工程と、
このプラズマを維持した状態でプラズマ処理室内に連続してプロセスガスを供給して搬送用ガスからプロセスガスへ切り替えて試料にプラズマ処理を行う工程
とを有することを特徴としたプラズマ処理方法。
【請求項2】
試料をプラズマ処理する処理室と、該処理室に連結され試料を搬送するための搬送室を有し、前記処理室から搬送室へ試料を搬送する際、両室内もしくは処理室内のみに搬送室に供給する搬送用ガスと同じガスを供給する供給システムを具備するプラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法であって、
処理室内でプロセスガスによる試料のプラズマ処理停止前にプラズマを維持した状態でプロセスガスから搬送用ガスに連続して切り替えて処理室内に導入する工程と、
その後搬送用ガスによるプラズマを停止する工程と、
プラズマ停止後に前記搬送用ガスの導入を維持して処理室から搬送室へ処理済みの試料を搬出する工程
とを有することを特徴としたプラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項1および請求項2記載のプラズマ処理方法の両方の機能を有することを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のプラズマ処理方法において、
前記搬送用ガスは、アルゴンガスまたは窒素ガスまたは両者の混合ガスであることを特徴とするプラズマ処理方法。

【図1(a)】
image rotate

【図1(b)】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3(a)】
image rotate

【図3(b)】
image rotate


【公開番号】特開2008−226891(P2008−226891A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58664(P2007−58664)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】