説明

プレーナ型電磁アクチュエータ及びその製造方法

【課題】駆動コイルと外部接続端子を接続する引出し配線の応力により、トーションバーの動きが阻害されることを防止し、可動部の駆動効率を向上させる。
【解決手段】固定部3、可動部4及びトーションバー3を半導体基板で一体形成し、可動部4に配置した駆動コイル5A、固定部2に配置した外部電極端子7及び駆動コイル5Aと外部電極端子7間を接続するようトーションバー3上を介して配線する引出し配線5Bを含む導電パターン5を、半導体基板表面の絶縁層8上に形成し、駆動コイル5Aに電流供給することにより、可動部4を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータにおいて、トーションバー3上の引出し配線5B部分を除いて、絶縁層8と導電パターン5との間に、絶縁層8に対する密着性が導電パターン5より高い密着層9を設け、密着層9のないトーションバー3上の引出し配線5が絶縁層8と接するよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造技術を利用して製造したプレーナ型電磁アクチュエータ及びその製造方法に関し、特に、可動部の駆動効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のプレーナ型電磁アクチュエータとしては、例えば特許文献1に記載されたように、半導体基板を異方性エッチングして、枠状の固定部と、可動部と、固定部に可動部を揺動可能に軸支するトーションバーとを一体形成し、可動部に駆動コイルを設け、トーションバーの軸方向と平行な可動部両端縁部の駆動コイル部分に静磁界を作用させる静磁界発生手段(例えば永久磁石)を設け、外部の駆動回路から駆動コイルに電流を供給することにより、駆動コイルに発生する磁界と永久磁石の静磁界との相互作用により発生する駆動力(ローレンツ力)を可動部に作用させて可動部をトーションバーの軸回りに駆動する構成のものがある。かかる構成のプレーナ型電磁アクチュエータでは、回動動作する可動部上の駆動コイルへの電流供給は、トーションバー上を経由して配線した引出し配線により固定部に設けた外部接続端子と駆動コイルとを電気的に接続して行うようにしている。この場合、可動部が揺動動作する際に、引出し配線の応力によりトーションバーの動き(捩れ)が阻害され、駆動効率が低下する虞れがある。
【0003】
このため、例えば特許文献2に記載されているように、トーションバー上の引出し配線を、犠牲層エッチング手法を用いてトーションバーから浮かせたり、プレーナ型電磁アクチュエータ形成後に可動部を揺動駆動することでトーションバー上の引出し配線をトーションバーから剥離させたりすることが提案されている。これにより、トーションバー上の引出し配線の応力が電磁アクチュエータの駆動効率を低下させるという問題を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2722314号公報
【特許文献2】特開2009−213296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載されているような犠牲層エッチングの手法を用いて引出し配線をトーションバーから浮かす場合、犠牲層形成工程、犠牲層エッチング時の保護膜形成工程が必要である等、製造工程が複雑化し、歩留まりの低下やスループットの低下等の問題がある。また、アクチュエータ形成後に可動部を搖動駆動して引出し配線をトーションバーから剥離させる場合、剥離の程度を制御することは困難であり、設計通りの特性が得られない虞れがあるという問題がある。
【0006】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、トーションバー上の引出し配線の応力に起因する駆動効率の低下を抑制でき、しかも、製造工程の簡素化、特性の安定化が図れるプレーナ型電磁アクチュエータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータは、固定部と、可動部と、前記固定部に前記可動部を揺動可能に軸支するトーションバーとを半導体基板で一体形成し、前記可動部に配置した駆動コイル部、前記固定部に配置した外部電極端子及び前記駆動コイル部と前記外部電極端子とを電気的に接続するよう前記トーションバー上を介して配線する引出し配線を含む導電パターンを、前記半導体基板表面に設けた絶縁層上に形成し、前記駆動コイル部に電流を供給することにより発生する電磁力により前記可動部を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータにおいて、前記導電パターンのトーションバー上を除いた引出し配線部分、駆動コイル部部分及び外部電極端子部部分と絶縁層との間に、前記絶縁層に対する密着性が前記導電パターンより高い密着層を有し、前記導電パターンのトーションバー上の引出し配線部分と絶縁層との間の少なくとも一部に前記密着層のない部分を設け、トーションバー上の密着層のない引出し配線部分を、前記絶縁層と接するよう形成したことを特徴とする。
【0008】
かかる構成では、トーションバー上の引出し配線部分の密着層のない部分では、半導体基板上の絶縁層と引出し配線との密着性が低くいため、トーションバーの動き(捩れ)に対する引出し配線の拘束力が弱く、引出し配線の応力がトーションバーに伝達し難くなる。
【0009】
また、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法は、請求項6のように、固定部と、可動部と、前記固定部に前記可動部を揺動可能に軸支するトーションバーとを半導体基板で一体形成し、前記可動部に配置した駆動コイル部、前記固定部に配置した外部電極端子及び前記駆動コイル部と前記外部電極端子とを電気的に接続するよう前記トーションバー上を介して配線する引出し配線を含む導電パターンを、前記半導体基板表面に設けた絶縁層上に形成し、前記駆動コイル部に電流を供給することにより発生する電磁力により前記可動部を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法において、半導体基板上に形成した前記絶縁層上に、当該絶縁層に対する密着性が前記導電パターンより高い密着層を積層し、前記トーションバー部分の絶縁層上に積層された前記密着層の少なくとも一部を除去処理した後に、前記密着層上及び密着層の除去されたトーションバー部分の絶縁層上に、絶縁層に対する密着性が前記密着層より低い導電層を積層し、前記導電層及び密着層をエッチング処理して前記導電パターンを形成するようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のプレーナ電磁アクチュエータの製造方法は、請求項8のように、固定部と、可動部と、前記固定部に前記可動部を揺動可能に軸支するトーションバーとを半導体基板で一体形成し、前記可動部に配置した駆動コイル部、前記固定部に配置した外部電極端子及び前記駆動コイル部と前記外部電極端子とを電気的に接続するよう前記トーションバー上を介して配線する引出し配線を含む導電パターンを、前記半導体基板表面に設けた絶縁層上に形成し、前記駆動コイル部に電流を供給することにより発生する電磁力により前記可動部を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法において、半導体基板上に形成した前記絶縁層上に、当該絶縁層に対する密着性が前記導電パターンより高い密着層を積層し、該密着層上に絶縁層に対する密着性が前記密着層より低い第1の導電層を積層し、前記トーションバー部分の絶縁層上に積層された前記密着層及び前記第1の導電層の少なくとも一部を除去処理した後に、密着層と第1の導電層が除去されたトーションバー部分の絶縁層上及び前記第1の導電層上に、前記第1の導電層と同一材料の第2の導電層を積層し、前記第1及び第2の導電層と密着層とをエッチング処理して前記導電パターンを形成するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプレーナ型電磁アクチュエータによれば、トーションバーに対する引出し配線の密着力を弱くでき、トーションバーの動き(捩れ)に対する引出し配線の拘束力を弱めることができるので、引出し配線の応力がトーションバーに伝達し難くなる。従って、少ない供給電流で従来と同じ可動部の振れ角を得ることができ、プレーナ型電磁アクチュエータの駆動効率を向上できる。また、密着層のない領域を設定することでトーションバーと引出し配線の密着性を制御できるので、設計通りの特性を容易に得られるようになる。
【0012】
また、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法によれば、各層の積層工程及び所定部分の除去工程を適宜繰返し行うだけなので、従来の犠牲層エッチング手法に比べて製造プロセスが簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るプレーナ型電磁アクチュエータの第1実施形態を示す平面図。
【図2】図1のA−A矢視断面図。
【図3】同上第1実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程の説明図。
【図4】図3に続く製造工程の説明図。
【図5】本発明に係るプレーナ型電磁アクチュエータの第2実施形態の要部の断面図。
【図6】同上第2実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程の説明図。
【図7】図6に続く製造工程の説明図。
【図8】本発明に係るプレーナ型電磁アクチュエータの第3実施形態の要部の断面図。
【図9】同上第3実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程の説明図。
【図10】図9に続く製造工程の説明図。
【図11】図10に続く製造工程の説明図。
【図12】トーションバー上の引出し配線部分の密着層の除去パターン例を示す図。
【図13】トーションバー上の引出し配線部分の密着層の別の除去パターン例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るプレーナ型電磁アクチュエータの第1実施形態の平面図である。図2は、図1のA−A矢視断面図である。
本実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータ1は、枠状の固定部2に一対のトーションバー3,3を介して揺動可能に軸支される可動部4と、通電により磁界を発生する駆動コイル5Aと、駆動コイル5Aに静磁界を作用させる静磁界発生手段として例えば永久磁石6,6とを備え、通電により駆動コイル5Aに発生する磁界と永久磁石6,6の静磁界との相互作用によりトーションバー3,3の軸方向と平行な可動部4の両端縁部に駆動力(ローレンツ力)を作用させて可動部4を回動させるものである。
【0015】
前記固定部2、トーションバー3,3及び可動部4は、半導体基板として例えばSOI基板で一体に形成する。
【0016】
前記駆動コイル5Aは、図1に示すように可動部4の周縁に沿って巻回し、トーションバー3,3部分を介して配線した引出し配線5Bにより、固定部2側に形成した一対の外部接続端子7,7に電気的に接続する。これら駆動コイル5A、引出し配線5B及び外部接続端子7,7は、トーションバー3,3部分を除いて、図2に示すようにSOI基板表面に形成したSiO2絶縁層8上に密着層9を介在させて設けられ、SOI基板と電気的に絶縁されている。前記引出し配線5Bは、図2に示すように、そのトーションバー配線部分が、SiO2絶縁層8に接した状態で設けられている。これら駆動コイル5A、引出し配線5B及び一対の外部接続端子7,7は、例えばフォトリソグラフィ等の半導体製造技術を用いて形成された導電パターン5となっている。図2中、10は、光走査用の反射ミラーであるが、言うまでもないが、光走査が不要な用途に利用する電磁アクチュエータの場合は、反射ミラー10を設ける必要はない。
【0017】
前記永久磁石6,6は、図示のように可動部4を挟んで互いに反対磁極が対向するようにして固定部2の外側に設けられている。尚、静磁界発生手段として電磁石を用いることも可能である。
【0018】
本実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの動作を説明する。
可動部4の駆動原理は従来と同様であり、図示しない外部の駆動回路から、外部接続端子7,7、引出し配線5Bを介して可動部4上の駆動コイル5Aに電流を供給すると磁界が発生する。この磁界と永久磁石6,6による静磁界との相互作用により、トーションバー3,3の軸方向と平行な可動部4の両端縁部に互いに逆方向の駆動力(ローレンツ力)が発生し、トーションバー3,3を軸中心として可動部4が回動する。この回動動作に伴ってトーションバー3,3が捩られトーションバー3,3にばね力が発生し、このばね力と発生した駆動力とが釣合う位置まで可動部4は回動する。駆動コイル5Aに正弦波等の交流電流を流せば可動部4を揺動動作させることができる。これにより、図2のように可動部4に反射ミラー9を設ければ光ビームを偏向走査することが可能となり、駆動コイル5Aに供給する交流電流の周波数を可動部4の揺動運動の共振周波数に設定すれば、一定周期で連続走査可能な光走査デバイスが実現できる。
【0019】
そして、第1実施形態では、図2に示すように、導電パターン5のトーションバー上を除いた引出し配線部分、駆動コイル5A部分及び外部電極端子7,7部分とSOI基板表面に形成したSiO2絶縁層8との間に、SiO2絶縁層8に対する密着性が導電パターン5より高い密着層9を有し、トーションバー3,3上の全域に亘って引出し配線5B部分とSiO2絶縁層8との間には、密着層9を設けず、トーションバー3,3上の引出し配線5B部分がSiO2絶縁層8と接している。前記密着層9としては、絶縁層8との密着性が高い材料、例えばクロム(Cr)、チタン(Ti)、タングステン(W)等を用いるのが望ましい。また、導電パターン5を形成する導電材料としては、密着層9がないトーションバー3,3上の引出し配線5B部分が絶縁層8と接することになるため、絶縁層8との密着性が低い材料、例えば金(Au)、白金(Pt)、銅(Cu)等を用いるのが望ましい。
【0020】
かかる構成のプレーナ型電磁アクチュエータによれば、トーションバー3,3と引出し配線5Bの密着力が弱くなり、引出し配線5Bの捩り応力がトーションバー3,3に伝達し難く、引出し配線5Bの応力によってトーションバー3,3の動き(捩り)が拘束されることがない。このため、従来と同じ供給電流でも大きな振れ角で可動部4を回動することができる。言い換えれば、可動部4を従来と同じ振れ角で駆動する場合に、少ない供給電流で済むことになり、電磁アクチュエータ1の駆動効率が向上し消費電力の低減を図ることができる。また、密着層9のない領域を適宜設定することで、トーションバー3,3と引出し配線5Bの密着力をコントロールすることができ、設計通りのアクチュエータ駆動特性を得ることが容易になる。
【0021】
次に、図3及び図4を参照して第1実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程について説明する。
本実施形態では、半導体基板として、基板表側と裏側と表側のシリコン層300A,300Bの間にbox層300Cを有するSOI(Silicon On Insulator)基板300を用いた場合について説明する。
【0022】
工程(a)で、SOI基板100表面側のシリコン層100Aの表面を熱酸化してSiO2絶縁層101を形成する。
工程(b)で、SiO2絶縁層101の全面に密着層102をスパッタリング等の既知の成膜技術で成膜し、その上にレジストを塗布し、密着層102を除去するトーションバー3,3に対応する部分以外のレジストを残してレジストパターンを形成する。これをマスクとして密着層102をエッチングし、トーションバー3,3に対応する部分の密着層102を除去する。
【0023】
工程(c)で、密着層102上及び密着層102の除去されたトーションバー部分のSiO2絶縁層101上に、例えばスパッタリングより密着性の弱い蒸着等の既知の成膜技術で導電層103を成膜する。
工程(d)で、導電層103上にレジストを塗布し、駆動コイル5A、引出し配線5B及び外部電極端子部7,7の導電パターン部分のレジストを残してレジストパターンを形成し、これをマスクとして導電層103及び密着層102をエッチングして、SiO2絶縁層8上に駆動コイル5A、引出し配線5B及び外部接続端子7,7からなる導電パターン5を形成する。尚、導電パターン5と同時に図2の密着層9が形成される。
【0024】
工程(e)で、絶縁層101の固定部2、トーションバー3,3及び可動部4に対応する部分をレジストマスクで覆ってエッチングを行い、シリコン層100Aをエッチングする際のマスクとなる絶縁層部分をパターニングする。
工程(f)で、前記絶縁層部分をマスクとしてSOI基板100表面側のシリコン層100Aをエッチングする。
【0025】
工程(g)で、SOI基板100裏側のシリコン層100Bの固定部2に対応する部分をレジストマスクで覆い、シリコン層100Bをエッチングする。
工程(h)で、SOI基板100のbox層100Cをエッチングする。この工程において、電磁アクチュエータ1の固定部2、トーションバー3,3、可動部4が形成され、図1のような平面形状となる。
工程(i)で、光走査用アクチュエータとして使用する場合の反射ミラー10を、例えばステンシルマスク等のマスクを用いて例えばアルミニウムの蒸着等により可動部4裏面側に形成する。これにより、図2に示す断面形状のプレーナ型電磁アクチュエータ1が形成される。
【0026】
この後、ダイシング等によりSOI基板300を個片化し、光走査用アクチュエータとして使用するミラーデバイスが完成する。
【0027】
かかる製造方法によれば、密着層102、導電層103の積層工程及び所定部分の除去工程を順次行うだけなので、従来の犠牲層エッチング手法に比べて製造プロセスが簡略化でき、歩留まりの低下やスループットの低下を回避できる。
【0028】
次に、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第2実施形態について説明する。
第1実施形態の電磁アクチュエータの場合、導電層103の成膜時に密着層102表面が大気に曝露されると、導電層103と密着層102の密着性が、大気の暴露による酸化等により低下し、製品完成後の密着層9と導電パターン5が剥がれ易くなる虞れがある。第2実施形態はこの問題を改善したものである。
【0029】
第2実施形態の平面形状は、図1の第1実施形態と同様であり、図1のA−A矢視断面形状が異なる。
図5に、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第2実施形態の要部断面図を示す。尚、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0030】
第2実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータ20は、図5に示すように、トーションバー3,3上の引出し配線5B部分を除いた導電パターン5部分が、第1の導電層21と第2の導電層22の積層構造になっていることが第1実施形態と異なるだけで、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0031】
次に、図6及び図7を参照して第2実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程について説明する。
【0032】
工程(a)で、第1実施形態と同様にSOI基板200表面側のシリコン層200Aの表面を熱酸化してSiO2絶縁層201を形成する。
工程(b)で、第1実施形態と同様にしてSiO2絶縁層201の全面に密着層202を成膜し、続いて同一の成膜装置内で真空状態を維持して連続的に第1の導電層203を成膜する。こうすることにより、密着層202が大気に曝露されることで生じる図5の密着層9と第1の導電層21の密着性の低下を回避できる。その後、導電層203の上にレジストを塗布し、第1の導電層203と密着層202を除去するトーションバー3,3に対応する部分以外のレジストを残してレジストパターンを形成し、これをマスクとして第1の導電層203と密着層202をエッチングし、トーションバー3,3に対応する部分の第1の導電層203と密着層202を除去する。
【0033】
工程(c)で、第1の導電層203上及び第1の導電層203と密着層202の除去されたトーションバー部分のSiO2絶縁層201上に、例えばスパッタリング等より密着性の弱い蒸着等の既知の成膜技術で第1の導電層203と同一材料の第2の導電層204を成膜する。
工程(d)で、第2の導電層204上にレジストを塗布し、駆動コイル5A、引出し配線5B及び外部電極端子部7,7の導電パターン部分のレジストを残してレジストパターンを形成し、これをマスクとして第1及び第2の導電層203,204及び密着層202をエッチングして、SiO2絶縁層8上に駆動コイル5A、引出し配線5B及び外部接続端子7,7からなる導電パターン5を形成する。これにより、トーションバー3,3上の引出し配線5B部分を除いた導電パターン5部分が、第1の導電層21と第2の導電層22の積層構造になる。尚、同時に図5の密着層9が形成される。
【0034】
その後の工程(e)〜(i)は、第1実施形態の工程(e)〜(i)と同様であり説明を省略する。そして、工程(i)の終了後、ダイシング等によりSOI基板200を個片化し、ミラーデバイスが完成する。
【0035】
次に、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第3実施形態について説明する。尚、第3実施形態の平面形状は、第1及び第2実施形態と同様であり、図1のA−A矢視断面形状が異なる。
図8に、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第3実施形態の要部断面図を示す。尚、第2実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0036】
第3実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータ30は、図8に示すように、導電パターン5が、第2の導電層22上に積層形成しためっき層31を有することが第2実施形態と異なるだけで、その他の構成は第2実施形態と同様である。
【0037】
次に、図9〜図11を参照して第3実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程について説明する。
【0038】
工程(a)〜(c)は第2実施形態と同様であり、工程(a)で、SOI基板300表面側のシリコン層300Aの表面を熱酸化してSiO2絶縁層301を形成し、工程(b)で、SiO2絶縁層301の全面に密着層302を成膜し、同一の成膜装置内で真空状態を維持して連続的に第1の導電層303を成膜し、第1の導電層303の上にレジストパターンを形成し、これをマスクとして第1の導電層303と密着層302をエッチングしてトーションバー3,3に対応する部分の第1の導電層303と密着層302を除去し、工程(c)で、第1の導電層303上及び第1の導電層303と密着層302の除去されたトーションバー部分のSiO2絶縁層301上に、第1の導電層303と同一材料の第2の導電層304を成膜する。第2実施形態では、導電層203,204自体が導電パターン5となるため、第2の導電層204の膜厚を厚くしたが、第3実施形態では、後述するように更にめっき層306を積層することから、第2の導電層304の膜厚を第2実施形態の場合より薄く成膜する。第3実施形態では、第2の導電層304は一般的な電解めっき工程におけるシード層として機能させるため、比抵抗が低く、めっき材料と親和性の良好な導電材料がよい。このため、めっき材料と同じ導電材料が望ましいが、電解めっきのために必要な比抵抗が得られれば異なる材料でもよい。
【0039】
工程(d)で、第2の導電層304上にレジスト305を厚く塗布し、駆動コイル5A、引出し配線5B及び外部電極端子部7,7の導電パターン部分のレジスト305を除去して導電パターン形成用のレジストパターンを形成する。
【0040】
工程(e)で、第2の導電層304に所定の電圧を印加して電解めっきを行う。これにより、めっき層306が第2の導電層304上に積層形成される。
工程(f)で、レジスト305を除去する。
【0041】
工程(g)で、SOI基板300全面にレジストを塗布し、めっき層306部分のレジストを残してレジストパターンを形成し、これをマスクとして第1及び第2の導電層303,304及び密着層302をエッチングして除去する。尚、めっき層306が密着層302、導電層303,304のマスクとなる場合、レジストパターンを形成せずに、工程(f)でレジスト305を除去した状態から、そのまま第1及び第2の導電層303,304及び密着層302をエッチングしてもよい。これにより、めっき層306が第1及び第2の導電層303,304と密着層302によりショートした状態から分離され、配線として機能し、駆動コイル5A、引出し配線5B及び外部接続端子7,7からなる導電パターン5が形成される。
【0042】
その後の工程(h)〜(l)は、第2実施形態の工程(e)〜(i)と同様であり説明を省略する。工程(l)の終了後、ダイシング等によりSOI基板を個片化し、ミラーデバイスが完成する。
【0043】
尚、第3実施形態では、第1及び第2の導電層21,22を積層した後にめっき層31を積層する構成としたが、第1実施形態のように1層の導電層上にめっき層を積層する構成としてもよい。
【0044】
図12及び図13は、トーションバー上の引出し配線5B部分の密着性を制御するための密着層9の除去パターンの例を示す図である。尚、(A)は平面図、(B)は(A)図のそれぞれB−B、C−C矢視断面図である。
【0045】
図12は、上述した各実施形態のように、トーションバー3,3上の略全域に亘って密着層9を除去したパターン例である。図12のようにトーションバー3,3上の略全域に亘って密着層9を除去した場合、製造工程において引出し配線5Bの剥離が起こる虞れがある。
【0046】
図13は、トーションバー3,3上の密着層9を離散的に残すように、密着層9を部分的に除去したパターン例である。こうすることにより、製造工程における引出し配線5Bの剥離を回避でき、製造上の安定性を確保することができ、しかも、引出し配線5Bの応力に起因する駆動効率の低下を防止できる。
【0047】
尚、上述した各実施形態では、半導体基板としてSOI基板を用いたが、例えばシリコン基板等の半導体基板の時間制御による異方性エッチングを用いて、固定部2、トーションバー3,3及び可動部4を一体に形成してもよい。
【0048】
また、上述した各実施形態は、1次元駆動型のプレーナ型電磁アクチュエータの例を示したが、トーションバー軸が互いに直交する2対のトーションバーを備える2次元駆動型のプレーナ型電磁アクチュエータにも本発明を適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1、20、30 電磁アクチュエータ
2 固定部
3 トーションバー
4 可動部
5 導電パターン
5A 駆動コイル
5B 引出し配線
6 永久磁石
7 外部接続端子
8 SiO2絶縁層
9、102、202、302 密着層
21、203 第1の導電層
22、204 第2の導電層
31、306 めっき層
103 導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、可動部と、前記固定部に前記可動部を揺動可能に軸支するトーションバーとを半導体基板で一体形成し、前記可動部に配置した駆動コイル部、前記固定部に配置した外部電極端子及び前記駆動コイル部と前記外部電極端子とを電気的に接続するよう前記トーションバー上を介して配線する引出し配線を含む導電パターンを、前記半導体基板表面に設けた絶縁層上に形成し、前記駆動コイル部に電流を供給することにより発生する電磁力により前記可動部を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータにおいて、
前記導電パターンのトーションバー上を除いた引出し配線部分、駆動コイル部部分及び外部電極端子部部分と絶縁層との間に、前記絶縁層に対する密着性が前記導電パターンより高い密着層を有し、前記導電パターンのトーションバー上の引出し配線部分と絶縁層との間の少なくとも一部に前記密着層のない部分を設け、トーションバー上の密着層のない引出し配線部分を、前記絶縁層と接するよう形成したことを特徴とするプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項2】
前記密着層のない部分を、トーションバー全域に亘って設け、トーションバー上の引出し配線部分が前記絶縁層と接するよう形成した請求項1に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項3】
前記導電パターンは、前記絶縁層に対する密着性が低い導電材料で形成した導電層である請求項1又は2に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項4】
前記導電パターンは、前記絶縁層に対する密着性が低い導電材料で形成した導電層上に積層形成しためっき層を有する請求項1又は2に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項5】
前記導電層を形成する前記導電材料として、金、白金及び銅のうちのいずれか1つを用いる請求項3又は4に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項6】
前記密着層を形成する材料として、クロム、チタン及びタングステンのうちのいずれか1つを用いる請求項1〜5のいずれか1つに記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項7】
固定部と、可動部と、前記固定部に前記可動部を揺動可能に軸支するトーションバーとを半導体基板で一体形成し、前記可動部に配置した駆動コイル部、前記固定部に配置した外部電極端子及び前記駆動コイル部と前記外部電極端子とを電気的に接続するよう前記トーションバー上を介して配線する引出し配線を含む導電パターンを、前記半導体基板表面に設けた絶縁層上に形成し、前記駆動コイル部に電流を供給することにより発生する電磁力により前記可動部を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法において、
半導体基板上に形成した前記絶縁層上に、当該絶縁層に対する密着性が前記導電パターンより高い密着層を積層し、前記トーションバー部分の絶縁層上に積層された前記密着層の少なくとも一部を除去処理した後に、前記密着層上及び密着層の除去されたトーションバー部分の絶縁層上に、絶縁層に対する密着性が前記密着層より低い導電層を積層し、前記導電層及び密着層をエッチング処理して前記導電パターンを形成するようにしたことを特徴とするプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項8】
前記トーションバー部分の絶縁層上に積層された前記密着層の全てを除去処理するようにした請求項7に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項9】
前記導電層の積層後に、前記導電層上に前記導電パターン形状のめっき層を積層形成し、その後に前記導電層及び密着層をエッチング処理して前記導電パターンを形成するようにした請求項7又は8に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項10】
前記導電層として、金、白金及び銅のうちのいずれか1つを用いる請求項7〜9のいずれか1つに記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項11】
固定部と、可動部と、前記固定部に前記可動部を揺動可能に軸支するトーションバーとを半導体基板で一体形成し、前記可動部に配置した駆動コイル部、前記固定部に配置した外部電極端子及び前記駆動コイル部と前記外部電極端子とを電気的に接続するよう前記トーションバー上を介して配線する引出し配線を含む導電パターンを、前記半導体基板表面に設けた絶縁層上に形成し、前記駆動コイル部に電流を供給することにより発生する電磁力により前記可動部を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法において、
半導体基板上に形成した前記絶縁層上に、当該絶縁層に対する密着性が前記導電パターンより高い密着層を積層し、該密着層上に絶縁層に対する密着性が前記密着層より低い第1の導電層を積層し、前記トーションバー部分の絶縁層上に積層された前記密着層及び前記第1の導電層の少なくとも一部を除去処理した後に、密着層と第1の導電層が除去されたトーションバー部分の絶縁層上及び前記第1の導電層上に、前記第1の導電層と同一材料の第2の導電層を積層し、前記第1及び第2の導電層と密着層とをエッチング処理して前記導電パターンを形成するようにしたことを特徴とするプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項12】
前記トーションバー部分の絶縁層上に積層された前記密着層及び前記第1の導電層の全てを除去処理するようにした請求項11に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項13】
前記第2の導電層の積層後に、前記第2の導電層上に前記導電パターン形状のめっき層を積層形成し、その後に前記第1及び第2の導電層と密着層とをエッチング処理して前記導電パターンを形成するようにした請求項11又は12に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項14】
前記第1及び第2の導電層として、金、白金及び銅のうちのいずれか1つを用いる請求項11〜13のいずれか1つに記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項15】
前記密着層を形成する材料として、クロム、チタン及びタングステンのうちのいずれか1つを用いる請求項7〜14のいずれか1つに記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−210055(P2012−210055A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73592(P2011−73592)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】