説明

位置調整装置の制御方法、位置調整装置、及び露光装置

【課題】 センサ原点のドリフトを抑制する。
【解決手段】 被計測手段のリファレンスの位置を計測手段で定期的に計測して該計測結果を記憶手段に記録データとして記憶し、システムリセットが発生した時に、前記計測手段を初期化し(S23)、前記記憶手段に記憶された記録データのうち最新の記録データに基づいて原点オフセットを算出し(S25)、被計測手段の位置を前記計測手段で計測し(S26)、当該計測結果及び原点オフセットに基づいて定められる位置を位置調整動作の基準となる原点とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子、液晶表示素子、薄膜磁気ヘッド、その他のマイクロデバイスの製造工程の1つとして設けられるフォトリソグラフィ工程において用いられる露光装置及び該露光装置に用いて好適な位置調整装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路、液晶表示素子、薄膜磁気ヘッド、その他のマイクロデバイスは、一般的にフォトリソグラフィ技術を用いて製造される。フォトリソグラフィ技術は、微細なパターンが形成されたマスク又はレチクル(以下、これらを総称するときには「マスク」という)を照明光で照明し、パターンをフォトレジスト等の感光剤が塗布された半導体ウエハや透明ガラス基板等の基板上に転写し、感光剤を現像することで基板表面にレジストパターンを形成し、その基板に対してエッチング等の各種処理を施す技術である。露光装置はマスクのパターンを基板上に転写する際に用いられる。
【0003】
露光装置としては種々の方式のものが実現されているが、例えば半導体素子を製造する場合には、マスクに形成されたパターン全体を一度に投影し得るイメージフィールドを有する投影光学系を介して基板をステップ・アンド・リピート方式で露光する投影露光装置(所謂、ステッパ)と、マスクと基板とを同期移動させつつ、マスクに形成されたパターンを基板上に逐次走査露光するステップ・アンド・スキャン方式の露光装置とが用いられることが多い。
【0004】
近年のマイクロデバイスの微細化に伴って、上記の何れの露光装置にも高い露光精度が要求されている。露光精度を向上させるためには、マスクのパターンが形成されている面(以下、パターン面という)と基板表面との共役関係を正確に保つとともに、残存収差が極力低減された状態となるように投影光学系を調整する必要がある。マスクのパターン面と基板表面との共役関係を保つ技術として、投影光学系の焦点位置の変動に応じて、焦点位置に対する基板の位置ずれを補正する技術、及び投影光学系の焦点位置変動に応じて投影光学系に含まれる一部のレンズ群を光軸方向に移動させて投影光学系の焦点位置ずれを補正する技術がある。
【0005】
また、例えば、以下の特許文献1は、非露光中には基板を投影光学系の光軸方向に移動させて投影光学系の焦点位置に対する基板の位置ずれを補正し、露光中(走査露光中)には投影光学系の光軸方向における基板の位置を変化させずに投影光学系に含まれる一部の光学素子(レンズ等)を光軸方向に移動させて投影光学系の焦点位置ずれを補正する技術を開示している。
【0006】
このようなレンズ等の可動物体の駆動は、圧電素子等のアクチュエータにより行われ、該可動物体の位置を計測する計測装置の計測結果に基づいて、その駆動をフィードバック制御することにより、該可動物体の位置を正確に位置決めしている。計測装置は、目盛りを有するスケール、該スケールの目盛りを光学的に計測する計測ヘッド、該計測ヘッドの出力を信号処理する制御部等を有するセンサを備えて構成されている。通常、スケールは可動物体に固定され、計測ヘッドは該可動物体を保持する保持部材(鏡筒等)に固定される。計測ヘッドは、照明されたスケールからの反射光を計測するための光学系、受光素子等を備えて構成される。照明光はヘッド外部に設けられたレーザダイオード等の光源から光ファイバを経由してヘッドまで導かれている。
【0007】
スケールには、目盛りとは別にあるいは特定の目盛りが他の目盛りと区別できるように形成された特別の目盛り(以下、リファレンスということがある)が設けられており、システムの運転開始時あるいはシステムリセット時には、該可動物体の可動限界、例えばアクチュエータが最も縮小した位置を基準として、アクチュエータを伸張させ、計測ヘッドが該リファレンスを計測した位置を原点とし、この原点を基準として該可動物体の位置が計測され、該可動物体が所定の目標位置に位置決めされる。
【0008】
上述したセンサにおいては、スケールのリファレンスを計測して得られる位置を原点とするので、見かけ上は原点位置は変動することはない。しかし、計測ヘッド内部に設けられる光学系の歪み、光源の変動、各種部材の固定部の歪み、光ファイバやその他のケーブルのテンションの変動、その他の要因により、その原点位置が経時的にドリフト(変動)することが判明した。即ち、ある時点において計測ヘッドが原点として計測した位置と、その後の時点において計測ヘッドが原点として計測した位置は、絶対的な座標系においては異なっている。
【0009】
ところで、露光装置の運転開始時あるいはエラーその他の要因によるシステムリセット(初期化)時においては、当該センサもリセット(初期化)される。このようなシステムリセットを伴わない場合には、基準としている原点位置は変動しないため、原点ドリフトが発生した場合であっても、その影響はない。しかし、システムリセットが発生すると、原点位置が再計測されるため、原点ドリフト分がその計測値に含まれてしまい、システムリセットが発生する毎に、累積的にその誤差が積算されることになる。
【0010】
このため、可動物体を目標位置に正確に位置決めしたとしても、実際には可動物体の位置は累積されたドリフト分だけ適正な位置からずれてしまうことになり、投影光学系の結像性能を十分に調整することが困難であった。このことは、センサの製造から初期の段階において特に顕著であり、長期間(例えば、2〜3年)の経過により安定することも判明しているが、高精度な露光を実現するために、投影光学系の結像性能の高精度な調整が求められる近時においては問題となる。
【0011】
また、近時においては、原点同期型のセンサが開発されている。このセンサは、上述したリファレンスを計測した位置を、計測ヘッドによる計測信号に対して原点が同期していないという視点から非同期原点と定義し、該非同期原点を計測した後の、指定した位相(以下、指定位相という)の計測信号の出力時における位置を原点(この原点を計測信号の特定の位相に同期しているという視点から同期原点と定義する)とするものである。計測信号の位相情報さえ保持していれば、センサを初期化しても、常に同じ原点(同期原点)を基準とすることができ、非同期原点の計測再現性による誤差や原点ドリフトによる影響を緩和することができる。
【0012】
しかしながら、このような原点同期型センサにおいても、長期間の経過により非同期原点のドリフトが進行して当該同期原点を跨いでしまうと、それまで採用していた同期原点と1周期ずれた位置を同期原点とすることになり、計測信号の周期分だけ原点トビが発生してしまうという問題があった。
【0013】
よって本発明の目的は、経時的に発生する原点ドリフトによる影響を抑制し、可動物体の位置の高精度な位置調整を行えるようにすることである。本発明の他の目的は、高精度な露光を実現できるようにすることである。
【特許文献1】特開平11−274070号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するため、本発明の第1の観点によると、位置調整対象としての可動物体を駆動する駆動手段と、所定のリファレンスを有する被計測手段に対する相対位置を光学的に計測する計測手段とを備え、該被計測手段及び該計測手段の一方が前記可動物体に取り付けられ、該計測手段による計測結果に従って前記可動物体の位置を調整する位置調整装置の制御方法であって、前記リファレンスの位置を前記計測手段で事前に(定期的に及び/又は必要に応じて)計測して該計測結果を記憶手段に記録データとして記憶する事前計測記憶ステップと、システムリセットが発生した時に実行されるリセットステップとを備え、前記リセットステップは、前記計測手段を初期化する初期化ステップと、前記記憶手段に記憶された記録データ(例えば、最新の記録データ)に基づいて原点位置のドリフト量を算出するドリフト量算出ステップと、前記リファレンスの位置を前記計測手段で計測する計測ステップと、並びに前記計測ステップで計測された計測結果及び前記ドリフト量算出ステップで算出されたドリフト量に相当する原点オフセットに基づいて前記可動物体の位置を調整する位置調整ステップとを含む位置調整装置の制御方法が提供される。
【0015】
上述した課題を解決するため、本発明の第2の観点によると、位置調整対象としての可動物体を駆動する駆動手段と、所定のリファレンスを有する被計測手段に対する相対位置を光学的に計測する計測手段とを備え、該被計測手段及び該計測手段の一方が前記可動物体に取り付けられ、該計測手段による計測結果に従って前記可動物体の位置を調整する位置調整装置であって、前記リファレンスの位置を前記計測手段で事前に(定期的に及び/又は必要に応じて)計測して該計測結果を記憶手段に記録データとして記憶する事前計測記憶手段と、システムリセットが発生した時に、前記計測手段を初期化し、前記記憶手段に記憶された記録データ(例えば、最新の記録データ)に基づいて原点位置のドリフト量を算出するドリフト量算出手段と、前記リファレンスの位置を前記計測手段で計測し、当該計測結果及び前記ドリフト量算出手段で算出されたドリフト量に基づいて、前記可動物体の位置を調整する位置調整手段とを備える位置調整装置が提供される。
【0016】
前記第1の観点又は第2の観点に係る発明では、被検出手段のリファレンスの位置を計測して原点とする処理(以下、原点計測処理ともいう)を事前に実施して、記録データとして記憶しておき、システムリセットが発生した時に、記録データ(例えば、最新の記録データ)に基づいて原点位置のドリフト量を算出し、原点計測処理を行って得られる計測結果と該ドリフト量とに基づいて定められる位置を位置調整の基準としたので、システムリセット前における該可動物体の位置とシステムリセット後における該可動物体の位置は絶対座標系において整合がとれたものとなり、原点ドリフトが生じている場合であっても、最適な目標位置に該可動物体を位置決めすることができるようになる。
【0017】
上述した課題を解決するため、本発明の第3の観点によると、位置調整対象としての可動物体を駆動する駆動手段と、所定のリファレンスを有する被計測手段に対する相対位置を光学的に計測する計測手段とを備え、該被計測手段及び該計測手段の一方が前記可動物体に取り付けられ、前記リファレンスの位置を該計測手段により計測した位置を非同期原点とし、該非同期原点を計測した後の指定位相に係る該計測手段の計測信号の出力時における位置を同期原点とし、該同期原点を基準として前記可動物体の位置を調整する位置調整装置の制御方法であって、前記リファレンスの位置を前記計測手段で事前に計測して該計測結果を記憶手段に記録データとして記憶する事前計測記憶ステップと、システムリセットが発生した時に実行されるリセットステップとを備え、前記リセットステップは、前記計測手段を初期化する初期化ステップと、前記リファレンスの位置を前記計測手段で計測する計測ステップと、前記記憶手段に記憶された記録データ(例えば、最新の記録データ)に基づいて、前記非同期原点の位置のドリフト量を算出するドリフト量算出ステップと、前記ドリフト量算出ステップで算出された前記ドリフト量が予め決められた所定の閾値を越えるか否かを判断する判断ステップと、前記判断ステップで越えると判断された場合に、前記記録データに基づく非同期原点の位置を基準として前記指定位相を最適化する最適化ステップと、前記最適化ステップで求められた指定位相及び最適化前の指定位相に基づき原点オフセットを算出するオフセット算出ステップと、前記計測ステップで計測された非同期原点及び最適化後の指定位相により定まる同期原点、並びに前記オフセット算出ステップで算出された原点オフセットに基づいて、前記可動物体の位置を調整する位置調整ステップとを含む位置調整装置の制御方法が提供される。
【0018】
上述した課題を解決するため、本発明の第4の観点によると、位置調整対象としての可動物体を駆動する駆動手段と、所定のリファレンスを有する被計測手段に対する相対位置を光学的に計測する計測手段とを備え、該被計測手段及び該計測手段の一方が前記可動物体に取り付けられ、前記リファレンスの位置を該計測手段により計測した位置を非同期原点とし、該非同期原点を計測した後の指定位相に係る該計測手段の計測信号の出力時における位置を同期原点とし、該同期原点を基準として前記可動物体の位置を調整する位置調整装置であって、前記リファレンスの位置を前記計測手段で事前に計測して該計測結果を記憶手段に記録データとして記憶する事前計測記憶手段と、システムリセットが発生した時に、前記計測手段を初期化し、前記リファレンスの位置を前記計測手段で計測し、前記記憶手段に記憶された記録データ(例えば、最新の記録データ)に基づいて前記非同期原点の位置のドリフト量を算出するドリフト量算出手段と、前記ドリフト量算出手段により算出された前記ドリフト量が予め決められた所定の閾値を越えるか否かを判断し、越えると判断された場合に、前記記録データに基づく非同期原点の位置を基準として前記指定位相を最適化する最適化手段と、前記最適化手段で求められた指定位相及び最適化前の指定位相に基づき原点オフセットを算出し、前記計測された非同期原点及び最適化後の指定位相により定まる同期原点、並びに前記原点オフセットに基づいて、前記可動物体の位置を調整する位置調整手段とを備える位置調整装置が提供される。
【0019】
前記第3の観点又は第4の観点に係る発明では、原点同期型を採用した場合において、原点トビの発生の有無を非同期原点のドリフト量と所定の閾値により判断し、原点トビが発生するおそれがある場合に、指定位相を最適化し、計測された非同期原点及び最適化後の指定位相により定まる同期原点と最適化前後の指定位相に基づく原点オフセットとに基づいて定められる位置を位置調整動作の基準としたので、システムリセットの前後において原点トビが発生することがなくなり、システムリセット前における該可動物体の位置とシステムリセット後における該可動物体の位置は絶対座標系において整合がとれたものとなり、原点ドリフトが生じている場合であっても、最適な目標位置に該可動物体を位置決めすることができるようになる。
【0020】
ここで、前記第1〜第4の何れかの観点に係る発明においては、原点位置のドリフト量の算出に、原点計測処理(例えば、システムリセット直前の原点計測処理)により求められた記録データを用いている。ここで、当該位置調整装置が採用される露光装置等においては、計測手段を含む部分の温度、湿度等の環境を高精度に調整してその計測結果の信頼性を向上させるようにしている。しかし、当該露光装置等においてエラーの発生やメンテナンスが実施されると、扉の開放やパージガスの開放等が行われ、その際に該計測手段を含む部分の環境変動(温度、湿度変化等)が生じ、計測結果に誤差が生じる結果、位置調整にも誤差が生じる。例えば、環境温度が変動すると検出用の照明光の波長変動が生じたり、計測手段を構成する金属系の部品の熱膨張により各部の相対位置関係が変動し誤差要因となる。また、湿度が変動すると、計測手段を構成する部品の接着に用いている接着剤の吸湿により計測手段内部の光学部品の位置が変動し誤差要因となる。このような状態で、原点計測処理を実施した場合のその計測結果は信頼性の低いものとなり、装置のメンテナンスの終了後にシステムリセットが発生した場合、前記第1〜第4の観点の何れかに係る発明をそのまま適用したとすると、異常環境下で計測された記録データを用いる場合があり、この場合の記録データは信頼性の低いものであるから、適正な原点位置を得ることができない場合がある。
【0021】
このような環境問題を解決するため、本発明の第5の観点によると、本発明の第1又は第3の観点に係る位置調整装置の制御方法において、前記位置調整装置の周囲の環境を計測して所定の条件に適合する場合を環境正常モード、適合しない場合を環境異常モードとする環境モード設定ステップを備え、前記記録データを前記記憶手段に記憶する際に、当該計測時において前記環境モード設定ステップの判断結果が異常モードである場合に該異常を示す情報を該記録データに関連付けて異常データとして記憶し、前記ドリフト量算出ステップでは、前記記憶手段に記憶された記録データのうち前記異常データを除外した記録データを用いるようにした位置調整装置の制御方法が提供される。この場合において、前記環境モード設定ステップが環境異常モードを設定している場合であって前記システムリセットが発生した場合に原点異常モードを、前記環境モード判断ステップが環境正常モードを設定している場合であって前記システムリセットが発生した場合に原点正常モードを設定する原点モード設定ステップを更に備え、前記記録データを前記記憶手段に記憶する際に、前記原点モード設定ステップの判断結果が異常モードである場合には、該異常を示す情報を該記録データに関連付けて異常データとして記憶するようにできる。
【0022】
また、上述した環境問題を解決するため、本発明の第6の観点によると、本発明の第2又は第4の観点に係る位置調整装置において、前記位置調整装置の周囲の環境を計測して所定の条件に適合する場合を環境正常モード、適合しない場合を環境異常モードとする環境モード設定手段を備え、前記記録データを前記記憶手段に記憶する際に、当該計測時において前記環境モード設定手段の判断結果が異常モードである場合に該異常を示す情報を該記録データに関連付けて異常データとして記憶し、前記ドリフト量算出手段は、前記記憶手段に記憶された記録データのうち、前記異常データを除外した記録データを用いるようにした位置調整装置が提供される。この場合において、前記環境モード設定手段が環境異常モードを設定している場合であって前記システムリセットが発生した場合に原点異常モードを、前記環境モード設定手段が環境正常モードを設定している場合であって前記システムリセットが発生した場合に原点正常モードを設定する原点モード設定手段を更に備え、前記記録データを前記記憶手段に記憶する際に、前記原点モード設定手段の判断結果が異常モードである場合には、該異常を示す情報を該記録データに関連付けて異常データとして記憶するようにできる。
【0023】
本発明の第5又は第6の観点に係る発明によると、環境異常モード又は原点異常モード中に採取された記録データは除外されるので、信頼性の高い記録データを用いることができ、適正な原点を設定することができるため、可動物体の位置調整の精度を向上することができる。
【0024】
ところで、前記ドリフト量算出ステップ又は前記ドリフト量算出手段で用いる記録データの採取の時点から当該システムリセット発生時点までには、例えば最新の記録データを用いたとしてもある程度の時間が経過しており、その間における原点ドリフトが問題となることも考えられる。例えば、システムダウンが比較的に長期に及んだような場合である。このような場合には、前記記憶手段に記憶された複数の記録データ(前記異常データがある場合には該異常データを除外した複数の記録データ)に基づいて、原点位置のドリフト量の推移に関する近似式を算出し、該近似式から現在時点(当該システムリセット発生時点)における原点位置のドリフト量を予測するようにするとよい。この予測に用いる近似式としては、例えば1次近似式又はフーリエ展開式を用いることができる。このような予測を行うことにより、記録データの採取からシステムリセット発生時までにある程度の時間がある場合であっても、現在時点における実際のドリフト量に近いドリフト量を得ることができ、前記可動物体をさらに正確に位置調整できるようになる。
【0025】
上述した課題を解決するため、本発明の第7の観点によると、投影光学系を介してパターン像を物体に投影転写する露光装置において、前記投影光学系内の一部の光学部材を前記可動物体として、該光学部材の位置を調整するため、本発明の第2、第4若しくは第6の観点又はこれらの改良に係る位置調整装置を備える露光装置が提供される。
【0026】
可動物体としての光学部品を高精度に位置決めすることができるので、投影光学系の光学特性を精密に調整することができ、その結果、露光精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る露光装置の全体構成の概略を示す図である。図1に示す露光装置は、図1中の投影光学系PLに対してマスクとしてのレチクルRと基板としてのウエハWとを相対的に移動させつつ、レチクルRに形成されたパターンをウエハWに逐次転写して半導体素子を製造するステップ・アンド・スキャン方式の露光装置である。
【0028】
なお、以下の説明においては、図1中に示したXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。XYZ直交座標系は、X軸及びY軸がウエハWに対して平行となるように設定され、Z軸がウエハWに対して直交する方向に設定されている。図中のXYZ直交座標系は、実際にはXY平面が水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直上方向に設定される。また、本実施形態ではレチクルR及びウエハWを同期移動させる方向(同期移動方向)をY方向に設定している。
【0029】
図1において、1は断面が略長方形状の平行光束である露光光ILを射出する露光光源であり、例えばArFエキシマレーザ光源(波長193nm)である。露光光源1からの波長193nmの紫外パルスよりなる露光光ILは、ビームマッチングユニット(BMU)2を通り、光アッテネータとしての可変減光器3に入射する。露光光源1の発光の開始及び停止、並びに出力(発振周波数、パルスエネルギー、パルス数)は、ウエハW上のフォトレジストに対する露光光の強度(照度)を制御するための露光制御ユニット33が制御する。また、露光制御ユニット33は、可変減光器3における減光率を段階的、又は連続的に調整する。
【0030】
可変減光器3を通った露光光ILは、レンズ系4a,4bよりなるビーム成形系5を経て第1段のオプティカル・インテグレータ(ユニフォマイザ、又はホモジナイザ)としての第1フライアイレンズ6に入射する。この第1フライアイレンズ6から射出された露光光ILは、第1レンズ系7a、光路折り曲げ用のミラー8、及び第2レンズ系7bを介して第2段のオプティカル・インテグレータとしての第2フライアイレンズ9に入射する。
【0031】
第2フライアイレンズ9の射出面(射出側焦点面)、即ちレチクルRのパターン面に対する光学的なフーリエ変換面(照明系の瞳面、投影光学系PLの瞳面と光学的に共役な面)には開口絞り板10が、駆動モータ10cによって回転自在に配置されている。開口絞り板10は回転軸の周りで回転自在に構成された円板からなり、通常照明用の円形の開口絞り10a、輪帯照明用の開口絞り(図示省略)、複数(例えば4極)の偏心した小開口よりなる変形照明用の開口絞り10b、及び小さいコヒーレンスファクタ(σ値)用の小円形の開口絞り(図示省略)が周方向に沿って形成されている。
【0032】
開口絞り板10の回転軸は駆動モータ10cの回転軸に接続されており、駆動モータ10cを駆動して開口絞り板10を回転軸の周りで回転させることにより、第2フライアイレンズ9の射出面に配置する開口絞りを切り替えることができる。第2フライアイレンズ9の射出面に配置される開口絞りに応じて、その射出面における露光光ILの強度分布が変更される。駆動モータ10cの駆動は露光装置の全体の動作を統括制御する主制御系34が制御する。なお、開口絞り板10の代わりに、例えば照明光学系内に交換して配置される複数の回折光学素子、照明光学系の光軸に沿って可動なプリズム(円錐プリズムなど)、及びズーム光学系を含む成形光学系を、光源1と第1フライアイレンズ6との間に配置し、照明光学系の瞳面上での露光光ILの光量分布(2次光源の大きさや形状)、即ちレチクルRの照明条件の変更に伴う光量損失を抑えることが好ましい。なお、第1及び第2段のオプティカル・インテグレータ6、9はそれぞれフライアイレンズに限られるものではなく、その少なくとも一方が内面反射型インテグレータ(ロッドなど)あるいは回折光学素子などでもよい。
【0033】
第2フライアイレンズ9から射出されて開口絞り板10に形成された開口絞りの何れかを通過した露光光ILは、透過率が高く反射率が低いビームスプリッタ11に入射する。ビームスプリッタ11を透過した露光光ILは、光軸IAXに沿ってレンズ系12,13を順次経て、固定ブラインド(固定照明視野絞り)14及び可動ブラインド(可動照明視野絞り)15に入射する。本実施形態では、固定ブラインド14はレチクルRのパターン面(下面)との共役面から光軸IAX方向に所定量だけ離れて配置され、可動ブラインド15は実質的にその共役面に配置されている。レチクルRはそのパターン面が投影光学系PLの物体面(第1面)とほぼ一致するように配置され、このブラインド14,15によって規定される、レチクルRのパターン面上で露光光ILが照射される照明視野領域(照明領域)IAは、投影光学系PLの円形視野内で光軸AXをほぼ中心とし、かつ走査露光時にレチクルRが移動される同期移動方向(以下では走査方向とも呼び、本例ではY方向と一致)と直交する非走査方向(X方向)に伸びる直線スリット状又は矩形状(以下、まとめて「スリット状」という)となっている。
【0034】
なお、照明領域IAは走査方向の幅が固定ブラインド14によって規定されるが、ウエハW上の各ショット領域の走査露光の開始直後及び終了直前の所定期間に、露光対象のショット領域以外が不要に露光されるのを防止するため、可動ブラインド15によって走査方向の幅が変更される。また、可動ブラインド15は照明領域IAの非走査方向の幅を規定するとともに、例えばレチクルRのパターン領域のサイズに応じて非走査方向の幅を可変とする。
【0035】
露光時に可動ブラインド15を通過した露光光ILは、光路折り曲げ用のミラー17、結像用のレンズ系18、コンデンサレンズ19、及び主コンデンサレンズ系20を順次介して、マスクとしてのレチクルRのパターン面(下面)の照明領域(照明視野領域)IAを照明する。露光光ILのもとで、レチクルRの照明領域IA内の回路パターンの像が両側テレセントリックな投影光学系PLを介して所定の投影倍率α(αは例えば1/4又は1/5等)で、投影光学系PLの結像面(第2面)に配置された基板としてのウエハW上のスリット状の露光領域EA(投影光学系PLに関して照明領域IAと共役な領域)に投影される。なお、投影光学系PLは片側テレセントリックであっても良い。
【0036】
本実施形態の投影光学系PLは、ジオプトリック系(屈折系)であるが、カタジオプトリック系(反射屈折系)や反射系も使用できることはいうまでもない。また、投影光学系PLは、所定の気温(例えば、25℃)、所定の大気圧(例えば、1気圧)の下で露光光ILの波長に関して最良に収差補正されており、かかる条件下においてレチクルRとウエハWとは互いに共役になっている。また、本例の露光装置ではケーラー照明が採用されており、前述した照明光学系の瞳面に形成される2次光源(多数の光源像からなる面光源)が投影光学系PLの瞳面に結像される。なお、投影光学系PLは複数のレンズ等の光学素子を有し、その光学素子の硝材としては露光光ILの波長に応じて石英、蛍石等の光学材料から選択される。
【0037】
図1において、レチクルRは、マスクステージとしてのレチクルステージ21上に吸着保持され、レチクルステージ21は、レチクルベース22上でY方向に等速移動できると共に、X方向、Y方向、及びZ軸回りの回転方向にレチクルRを微動できるようになっている。レチクルステージ21には移動鏡23が取り付けられており、移動鏡23の鏡面に対面してレーザ干渉計24が設けられている。このレーザ干渉計24によってレチクルステージ21(レチクルR)の2次元的な位置及び回転角がリアルタイムに計測されている。このレーザ干渉計24の計測結果及び主制御系34からの制御情報に基づいて、駆動制御ユニット25がレチクルステージ21の走査速度、及び位置の制御を行う。
【0038】
一方、ウエハWは、ウエハホルダ26を介して基板ステージとしてのウエハステージ27上に吸着保持され、ウエハステージ27は、ウエハベース28上で投影光学系PLの像面と平行なXY平面に沿って2次元移動する。即ち、ウエハステージ27は、ウエハベース28上でY方向に一定速度で移動すると共に、X方向、Y方向にステップ移動する。更に、ウエハステージ27には、ウエハWのZ方向の位置(フォーカス位置)、並びにX軸及びY軸の回りの傾斜角(θx及びθy方向の回転量)を制御するZレベリング機構も組み込まれている。なお、Zレベリング機構は上記3つの方向に加えてX方向、Y方向、及びZ軸回りのθz方向にもウエハWを微動可能としてもよい。
【0039】
ウエハステージ27には移動鏡29が取り付けられており、移動鏡29の鏡面に対面してレーザ干渉計30が設けられている。このレーザ干渉計30によってウエハステージ27のX方向、Y方向の位置、及びX軸、Y軸、Z軸の回りの回転角がリアルタイムに計測されている。レーザ干渉計30の計測結果及び主制御系34からの制御情報に基づいて、駆動制御ユニット(リニアモータ、ボイスコイルモータなどのアクチュエータを含む)31がウエハステージ27の走査速度、及び位置の制御を行う。なお、移動鏡29を設ける代わりに、例えばウエハステージ27の端面(側面)を鏡面加工して形成される反射面を用いてもよい。
【0040】
また、ウエハステージ27上のウエハWの近傍には、ウエハWの露光面と同じ高さの受光面を有する光電検出器からなる照射量センサ32が設置されている。この照射量センサ32は、前述の露光領域EAと同程度以上の大きさの受光面を有し、その受光面に設けられた透過部から露光光ILを受光して露光領域EA内での照射量を検出するものであり、照射量を測定するときには、ウエハステージ27を駆動して受光面が露光領域EAとほぼ一致するように照射量センサ32を配置する。さらに、ウエハステージ27は固定したままレチクルステージ21を駆動し、レチクルRのパターン領域及び投影光学系PLを通過する露光光ILが照射量センサ32で受光され、照射量センサ32から出力される検出信号は露光制御ユニット33に供給される。
【0041】
また、前述したビームスプリッタ11で反射された光は、集光レンズ35を介して光電検出器よりなるインテグレータセンサ36の受光面に集光されている。インテグレータセンサ36の受光面は、一例としてレチクルRのパターン形成面及びウエハWの露光面とほぼ共役であり、インテグレータセンサ36の検出信号(光電変換信号)は、露光制御ユニット33に供給されている。
【0042】
露光制御ユニット33にはインテグレータセンサ36の出力信号からウエハW上での照射量(単位時間当たりの露光量)を求めるための変換係数等が格納されている。インテグレータセンサ36の受光面はレチクルRのパターン面とほぼ共役な位置に配置されているので、第2フライアイレンズ9の射出面に配置された開口絞り板10により照明条件を変更した場合でも、インテグレータセンサ36の検出信号に誤差が生じないようになっている。なお、インテグレータセンサ36の受光面を、投影光学系PLにおけるレチクルRのパターンのフーリエ変換面(瞳面)と実質的に共役な観察面に配置して、この観察面を通過する全光束を受光できるようにしても構わない。
【0043】
更に、本実施形態では、ビームスプリッタ11に関してインテグレータセンサ36と反対側に集光レンズ37と光電検出器よりなるウエハ反射率センサ38とが設置されており、ウエハ反射率センサ38の受光面は集光レンズ37によりウエハWの表面とほぼ共役になっている。この場合、レチクルRを透過して投影光学系PLを介してウエハW上に照射される露光光ILのうちで、ウエハWでの反射光が、投影光学糸PL、レチクルR等を介してウエハ反射率センサ38で受光され、この検出信号(光電変換信号)が露光制御ユニット33に供給される。
【0044】
露光制御ユニット33は、照射量センサ32の検出信号などから算出される、レチクルRを介して投影光学系PLに入射する露光光ILの単位時間当たりの光エネルギー、及びウエハ反射率センサ38の検出信号から算出されるウエハWでの反射光の単位時間当たりの光エネルギーを算出する。算出された光エネルギーは主制御系34に出力される。主制御系34は、この光エネルギーに基づいて、投影光学系PLを通過する露光光ILの単位時間当たりの光エネルギーを求める。更に、このように求められた光エネルギーに露光時間を乗じて得られる熱エネルギーと所定のパラメータ(時定数)に基づいて、主制御系34は投影光学系PLの各結像特性の変化量を求める。なお、露光光ILの入射に起因して生じる投影光学系PLの結像特性の変化量を計算するために、例えば露光装置の立ち上げ時に、投影光学系PLに露光光ILを長時間(1時間以上)に渡って照射しながら所定間隔でその結像特性(倍率、フォーカス、収差など)を計測して前述のパラメータを決定しているが、結像特性が短期的に大きく変動する所定期間(例えば、照射開始から20〜30分程度)内でのみ、短い間隔で多数回、結像特性の計測を行い、その計測値の移動平均に基づいて前述のパラメータを決定するようにしてもよい。
【0045】
また、投影光学系PLの鏡筒付近には環境センサ(温度センサ、湿度センサ、大気圧センサ等)39が設けられており、主制御系34は環境センサ39の検出結果に基づいて環境変動による投影光学系PLの各結像特性の変化量を求める。そして、主制御系34は、結像特性制御部40を介して投影光学系PLに設けられた結像特性調整部41を制御することで、露光光ILの入射及び環境(大気圧など)の変動による投影光学系PLの各結像特性の変化を補正する。なお、投影光学系PLの結像特性の調整についての詳細は後述する。
【0046】
なお、環境センサ39は投影光学系PLの鏡筒の内部と鏡筒の外部との2箇所に設けることが好ましい。このように投影光学系PLの内部と外部との2箇所に環境センサ39を設けるのは、投影光学系PL内部には、投影光学系PL外部の空気とは別の気体(例えば、窒素又はヘリウム)が充填又はフロー供給される場合があるからである。この投影光学系PLの鏡筒の内部に設けられる環境センサ39は、後述する異常/正常モードの設定にも利用される。
【0047】
また、本実施形態においては、投影光学系PLの結像面に向けてピンホール又はスリット状の像を形成するための結像光束を、投影光学系PLの光軸AXに対して斜め方向から供給する照射光学系42aと、その結像光束のウエハW表面での反射光束を受光する受光光学系42bとからなる斜入射方式の焦点位置検出系42が設けられている。この焦点位置検出系42により、ウエハW表面の結像面に対するZ方向の位置及び傾斜角を検出してウエハWと投影光学系PLとの合焦状態を検出することができるようになっている。
【0048】
更に、レチクルR裏面側には、スリット状の像を形成するための結像光束を、投影光学系PLの光軸AXに対して斜め方向から供給する照射光学系43aと、その結像光束のレチクルR裏面での反射光束を受光する受光光学系43bとからなる斜入射方式の焦点位置検出系43が設けられている。この焦点位置検出系43により、投影光学系PLの物体面(即ち、結像面)に対するレチクルR裏面(パターン面)のZ方向の位置及び傾斜角を検出してウエハWとレチクルRとの共役関係の状態を検出することができるようになっている。
【0049】
次に、投影光学系PLに設けられた結像特性調整部41の概略構成及び動作について説明する。図2は、本実施形態の露光装置が備える投影光学系PLの概略構成を示す図であり、図3は、投影光学系の分割鏡筒のうちの一つの分割鏡筒を示す上面図である。なお、図2及び図3においても、図1に示したXYZ直交座標系と同様のXYZ直交座標系を設定して各部材の位置関係について説明する。
【0050】
図2に示すように、投影光学系PLの鏡筒50は複数の分割鏡筒50a〜50lを備えており、フランジ51を介して、図示せぬ露光装置のフレームに支持されている。これら複数の分割鏡筒50a〜50lは、光軸AX方向に積層されている。そして、本実施形態では、複数の分割鏡筒50a〜50lのうち、分割鏡筒50b,50d,50e,50f,50gにより支持されているレンズ52b,52d,52e,52f,52gは、光軸AX方向(Z方向)に移動可能かつX方向又はY方向を軸として傾斜(チルト)可能な可動レンズとなっている。レンズ52b,52d,52e,52f,52gを保持している分割鏡筒50b,50d,50e,50f,50gの構成につき、分割鏡筒50bの構成を代表させて説明する。なお、他の分割鏡筒50d,50e,50f,50gの構成については、分割鏡筒50bの構成とほぼ同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0051】
分割鏡筒50bは、分割鏡筒50bの(Z方向)上下に位置する分割鏡筒50a,50cと接続される外側環53bと、レンズ52bを保持するレンズ枠54bとを備えている。このレンズ枠54bは、外側環53bに対して光軸方向(Z方向)に移動可能かつX軸に平行な軸又はY軸に平行な軸の周りでチルト可能となるように、外側環53bに連結されている。また、分割鏡筒50bは、外側環53bに取り付けられたアクチュエータ55bを備えている。このアクチュエータ55bとしては、例えば圧電素子を適用することができる。アクチュエータ55bは、図1に示す結像特性制御部40の制御の下で、例えば弾性ヒンジから構成される変位拡大機構としてのリンク機構を介してレンズ枠54bを駆動する。このアクチュエータ55bは、分割鏡筒50bの3箇所に取り付けられており、これにより、レンズ枠54bの3箇所が独立に光軸方向(Z方向)へ移動する。
【0052】
図3を参照して詳述する。なお、以下の説明では分割鏡筒50b,50d,50e,50f,50g及びそれを構成する各部材を区別せずにそれらの何れかを指定する場合には、符号の末尾に付される記号「a」〜「g」を省略して説明する。図3において、レンズ52の周縁には、3つの鍔部61a〜61cがXY平面内における方位角120°毎に設けられている。そして、レンズ枠54は、クランプ部62a〜62cを備えており、これらがレンズ52の3つの鍔部61a〜61cを保持している。そして、レンズ枠54は、XY平面内における方位角120°ごとの駆動点DP1〜DP3の位置で、リンク機構を介して3つのアクチュエータ(不図示)によりZ方向に沿って独立に駆動される。
【0053】
ここで、3つのアクチュエータによるZ方向の駆動量が同じ量である場合は、レンズ枠54は外側環53に対しZ方向(光軸方向)へ移動することとなり、3つのアクチュエータによるZ方向の駆動量が異なる量である場合は、レンズ枠54は外側環53に対しX軸に平行な軸又はY軸に平行な軸の周りで傾くこととなる。図1に示す結像特性調整部41は以上の構成により実現されている。
【0054】
さて、図2に戻り、分割鏡筒50bは、外側環53bに取り付けられ、例えば光学式エンコーダからなる駆動量計測部56bを備えている。この駆動量計測部56bは、図3に示した方位角120°ごとの3つの計測点MP1〜MP3の位置における外側環53bに対するレンズ枠54bのZ方向(光軸方向)の移動量を計測する。従って、アクチュエータ55b及び駆動量計測部56bにより、レンズ枠54bの移動、ひいてはレンズ52bの移動をクローズドループで制御することができる。この駆動量計測部56bの構成については後に詳述する。
【0055】
図2に示した分割鏡筒50a〜50lのうち、分割鏡筒50a,50c,50h,50i,50j,50k,50lにより支持されているレンズ52a,52c,52h,52i,52j,52k,52lは、固定レンズとなっている。これらの固定レンズ52a,52c,52h,52i,52j,52k,52lを保持している分割鏡筒50a,50c,50h,50i,50j,50k,50lの構成につき、分割鏡筒50cの構成を代表させて説明する。なお、分割鏡筒50c以外の他の分割鏡筒50a,50h,50i,50j,50k,50lの構成については、分割鏡筒50cの構成とほぼ同様であるため、ここでは説明を省略する。分割鏡筒50cは、分割鏡筒50cの(Z方向)上下に位置する分割鏡筒50b,50dと接続される外側環53cと、当該外側環53cに取り付けられてレンズ52cを保持するレンズ枠54cとを備えて構成される。
【0056】
本実施形態においては、アクチュエータ55として、高精度、低発熱、高剛性及び高クリーン度の圧電素子を使用して、この圧電素子の駆動力を弾性ヒンジからなるリンク機構により拡大させる構成としているため、圧電素子自体のコンパクト化を図れる利点がある。なお、アクチュエータ55を圧電素子で構成する代わりに、磁歪アクチュエータや流体圧アクチュエータで構成しても良い。また、上記レンズ52a〜52lは単一のレンズ素子から構成されることもあり、複数のレンズ素子を組み合わせたレンズ群からなることもある。
【0057】
以上の構成の投影光学系PLにおいては、レンズ52a,52c,52h,52i,52j,52k,52lの姿勢(光軸AX方向の位置及びXY平面に対する傾斜)を変えることなくレンズ52b,52d,52e,52f,52gの姿勢を可変することができる。本例では結像特性制御部40によりこれらのレンズの内、1つのレンズの姿勢を調整することにより、又は複数のレンズの姿勢を互いに関連付けて調整することにより、投影光学系PLの少なくとも1つの結像特性を制御することができる。本例では、5つの回転対称な結像特性、即ち倍率、ディストーション(歪曲収差)、コマ収差、像面湾曲、及び球面収差を個別に調整可能となっており、これに加えて偏心収差(例えば、偏心ディストーション(偏心歪曲収差)、偏心コマ収差、偏心非点収差、及び偏心球面収差の少なくとも1つ)の調整も行うようにしてもよい。
【0058】
次に、駆動量計測部56(56b,56d,56e,56f,56d)並びに結像特性制御部40及び結像特性調整部41を備えて構成される結像特性調整装置について、図4及び図5を参照して説明する。まず、駆動量計測部56に採用される計測手段としてのセンサSは、図4に示されているように、レンズ52が固定されたレンズ枠54に取り付けられたスケール100、外側環53に支持部材117を介して取り付けられた計測ヘッド110及びセンサ制御ユニット120を備えて構成されている。スケール100には光学的に検出可能な目盛り101が一定の間隔で周期的に形成されている。また、スケール100の中央部近傍には、目盛り101とは区別可能な基準となる目盛り(リファレンス)102が形成されている。計測ヘッド110は、レンズ系111、112、113、及びビームスプリッタ114等から構成される検出光学系及び受光素子115を備えており、外部のレーザダイオード等からなる光源から光ファイバ116を経由して供給される検出用照明光はレンズ系113を介してビームスプリッタ114に導かれ、該ビームスプリッタ114で反射されてレンズ系111を介してスケール100に照射される。
【0059】
スケール100で反射された反射光はレンズ系111を介してビームスプリッタ114に導かれ、該ビームスプリッタ114を透過してレンズ系112を介してフォートダイオード等からなる受光素子115に入射され、光電変換されてその計測信号がセンサ制御ユニット120に供給される。この計測信号はセンサ制御ユニット120において、所定の分解能となるように分周されて結像特性制御部40が備える制御ユニット130(図5参照)に供給される。
【0060】
結像特性制御部40は、図5に示されているように、結像特性制御ユニット130、及びレンズ枠54を介してレンズ52を駆動するアクチュエータ55を制御するアクチュエータ制御ユニット140を備えて構成されている。結像特性制御ユニット130とアクチュエータ制御ユニット140、及び結像特性制御ユニット130とセンサ制御ユニット120とは、それぞれ信号線を介してデータ通信できるように構成されている。
【0061】
結像特性制御ユニット130は、CPUユニット、I/Oユニット、及び電源投入判断デバイス131を備えて構成されている。電源投入判断デバイス131は、電源切断されない限り、その保持するデータの内容が変更されないデバイスであり、電源投入後のシステムリセットの後に、所定のデータをセットすると、このデバイスの保持内容を参照することにより、受け取ったシステムリセット信号が電源の投入によるものか、又はエラー等に起因するシステムリセットによるものであるかを判断することができる。
【0062】
また、結像特性制御ユニット130は、露光装置の主制御系34等と信号線を介してデータ通信可能に接続されている。露光装置において電源投入時や何らかのエラーが発生した場合には、露光装置の主制御系34からシステムリセット信号が結像特性制御ユニット130及びアクチュエータ制御ユニット140に送られ、結像特性制御ユニット130及びアクチュエータ制御ユニット140において、初期化のための所定のシーケンスが実行されるようになっている。また、結像特性制御ユニット130は、露光装置の主制御系34からシステムリセット信号を受け取った時に、必要に応じてセンサ制御ユニット120に対してセンサ制御系リセット信号を送るようになっている。
【0063】
[原点ドリフト対策1]
次に、本実施形態の結像特性調整装置の原点ドリフトを補正するための第1の対策について説明する。この対策は、スケール100に形成されたリファレンス102の位置を計測して得られる位置を位置調整の基準とする非同期型原点を採用する場合の対策である。
【0064】
図6及び図7は、結像特性制御部40によるシステムリセットに関する処理を示すフローチャートである。まず、図6に示されているように、原点位置定期計測シーケンス(原点位置事前計測シーケンス)が実行される。
【0065】
図6において、露光装置の主制御系34は、何らかのエラーが発生した場合又は電源が投入された場合に、システムリセット信号を結像特性制御部40の結像特性制御ユニット130に送るので、当該リセット信号の有無を監視・判断し(S11)、システムリセットが発生していない場合(Noの場合)には、予め定められた一定期間が経過したか否かが判断される(S12)。このS12における判断基準とされる当該一定期間は、任意に定められるが、一例として、1日(24時間)を例示することができる。S12において、一定期間が経過していないと判断された場合(Noの場合)にはS11に戻り、システムリセットの発生の有無の監視が継続される。S12において、一定期間が経過したと判断された場合(Yesの場合)には、センサ原点位置計測が実行される(S13)。
【0066】
S13で実行されるセンサ原点位置計測は、まず、アクチュエータ55を駆動して該アクチュエータの物理的可動限界で定まる上限位置又は下限位置(ここでは、アクチュエータが最も縮小した下限位置とする)を初期位置に設定し、次いで、計測ヘッド110の計測信号をモニタしつつアクチュエータ55を駆動してスケール100のリファレンス102を探索し、該リファレンス102の形状等に起因する特徴波形が得られた位置を求める処理である。次いで、得られた計測結果を記録データとして記憶保持するため、この計測データを主制御系34に転送する。主制御部34は、これを受けて、送られた記録データを自らが備える記憶装置、あるいは該主制御系34にデータ通信可能に接続されたファイルサーバ等が備える記憶装置に記憶保持する(S14)。記録データが記憶される記憶装置は、例えばハードディスク装置を例示することができる。この記憶装置は、かかるハードディスク装置に限られず、システムの電源切断やエラー等に伴うシステムリセットが実行された場合であっても、その記憶内容を保持できる記憶装置であれば、どのようなものでもよい。
【0067】
なお、ここでは、記録データの保存先は、露光装置の主制御系34等のこの結像特性制御部40の外部の装置としたが、例えば結像特性制御ユニット130内にフラッシュメモリ等の記憶手段(電源供給が停止されても記憶内容を保持できるものに限る)を設けて、これに記憶保持させるようにしてもよい。S14で、記録データを主制御系34に転送した後は、S11に戻ってシステムリセット信号の監視が継続される。上述した原点位置定期計測シーケンスが実行されることにより、システムリセットが発生しない場合には、予め定められた一定期間毎に、原点位置計測が行われ、記録データとして蓄積保存される。なお、ここでは、センサやその他の装置の健全性の判断の基礎データとなり得るので、記録データの全てを記憶保持するものとするが、この処理においては、最新の記録データと、露光装置の立ち上げ時に最初になされる原点位置計測に係る記録データ又はこれを再現できるデータがあれば十分である。
【0068】
S11において、システムリセット信号を検出した場合(Yesの場合)には、リセットシーケンスが実行される。このリセットシーケンスの内容は、図7に示されている。図7において、まず、装置の状態チェック処理が実行される(S21)。この状態チェック処理は、システムリセット信号の発生原因をチェックする処理である。この状態チェック処理では、結像特性制御ユニット130内の電源投入判断デバイス131の設定内容が参照されるとともに、センサ制御ユニット120にセンサエラーの発生の有無が問い合わせされ、システムリセット信号が電源投入によるものであるか、露光装置側のエラー等に起因するシステムリセットによるものであるか、センサエラーに起因するシステムリセットによるものであるかが調査される。次いで、状態チェック処理の調査内容が判断され(S22)、システムリセット信号が電源投入に起因するものである場合、又はセンサエラーに起因するものである場合には、イニシャルシーケンスが実行され(S23〜S29)、システムリセット信号が露光装置側のエラー等に起因するシステムリセットによるものである場合であって、センサエラーに起因するものでない場合には、ノーマルシーケンスが実行される(S30〜S33)。
【0069】
イニシャルシーケンスは、センサ制御系の初期化を伴うシーケンスである。イニシャルシーケンスにおいては、まず、センサ制御ユニット120に対してセンサ制御系リセット信号が出力され、センサ制御ユニット120を含むセンサ制御系が全て初期化される(S23)。次いで、主制御系34等が備える外部の記憶装置から最新の記録データ(直前の記録データ)及び露光装置の立ち上げ時に記憶された初期記録データ等が読み込まれ(S24)、読み込んだ記録データに基づいて原点位置のドリフト量が算出される(S25)。このS25では、露光装置の立ち上げ時における初期記録データと最終記録に係る最新の記録データの差分が算出される。つまり、このドリフト量は、露光装置立ち上げ時から直前の原点位置計測時までのセンサのドリフト量である。次いで、S13と同様のセンサ原点位置計測が実施され(S26)、S26で計測された計測結果をS25で算出されたドリフト量に相当する原点オフセット(ここでは、ドリフト量=原点オフセット)で補正して得られる位置を基準としてサーボオン(即ち、位置調整制御が開始)される(S27)。リセット発生前に基準としていたセンサ原点に近いセンサ原点を基準として制御されることになるので、センサの原点ドリフト分は計測値に僅かしか反映されることはないことになる。
【0070】
その後、S26で計測した上述した所定の初期位置を基準としたリファレンスの位置を記録データとして記憶するため、S14と同様に主制御系34に送り(S28)、更に電源投入デバイス131に、電源がオンされた状態であることを示す所定のデータがセットされ(S29)、システムリセット処理が終了される。なお、S29の後には、S11に戻ってシステムリセット信号の有無の監視が継続される。
【0071】
ノーマルシーケンスは、上述のイニシャルシーケンスとは異なり、センサ制御系の初期化を伴わないシーケンスである。このノーマルシーケンスにおいては、まず、主制御系34等が備える外部の記憶装置から最新の記録データ(直前の記録データ)が読み込まれ、センサ原点位置計測が実行される(S31)。S31で行われるセンサ原点位置計測は、図6のS13又は図7のS26で行われるセンサ原点位置計測と同様である。次いで、S30で読み込んだ最終記録に係る記録データに基づいて定まるセンサ原点位置を基準としてサーボオン(位置調整制御が開始)される(S32)。つまり、リセット発生前に基準としていたセンサ原点と同じセンサ原点を基準として制御されることになるので、センサの原点ドリフト分は計測値に反映されることはない。その後、S31で計測した上述した所定の初期位置を基準としたリファレンスの位置を記録データとして記憶するため、S14と同様に主制御系34に送り(S33)、システムリセット処理が終了される。なお、S33の後には、S11に戻ってシステムリセット信号の有無の監視が継続される。
【0072】
このノーマルシーケンスでは、センサ制御ユニット120を含むセンサ制御系はリセットされていないので、直前に実行されたイニシャルシーケンスで採用されたセンサ原点が継続的に使用されることになる。
【0073】
なお、イニシャルシーケンスにおいて、当該イニシャルシーケンスの実行直前に行われた記録データ採取のためのセンサ原点位置計測の実行時から当該イニシャルシーケンスの実行時までの経過時間に応じた原点ドリフトに伴う誤差は計測値に含まれてしまうことになる。これを抑制するためには、図6のS12における定期計測の一定時間を短くして、計測頻度を多くすれば、記録データの採取の間隔が短くなり、イニシャルシーケンスが実行された際の前回の記録データの採取からの経過時間を短くすることができ、計測結果に含まれる原点ドリフトに伴う誤差を小さくすることが可能である。但し、原点ドリフトは短期間のうちに大きく発生することは稀であり、またセンサ原点計測処理を頻繁に繰り返すと、露光処理のスループットを低下させるおそれがあるので、原点ドリフトの発生の傾向とスループットの観点から適宜な期間に設定するのがよい。
【0074】
本実施形態では、定期的に行うセンサ原点位置計測は、1日1回程度の必要性を考慮して、当該一定期間を24時間に設定しているとともに、ノーマルシーケンス又はイニシャルシーケンスが実行された場合には、S24とS30において、センサ原点位置計測が行われるので、図6のS12における一定時間は、ノーマルシーケンス又はイニシャルシーケンスで行われるセンサ原点位置計測の実施から起算するようにしている。原点位置定期計測を前回の原点位置定期計測の実行時を起算時として一定期間の経過毎に実行するようにし、あるいは露光装置の運転状況等に応じて当該一定期間を変化させるようにしてもよい。また、このセンサ原点位置計測は、ここでは定期的に実施するものとしたが、必ずしも定期的である必要はなく、事前に(システムリセットが発生する前に)行われていさえすれば、不定期的であってもよい。例えば、露光処理との関係でスループットを低下させないように適宜にタイミングをずらしてもよい。つまり、例えば1日1回の計測を実施する場合には、常に厳密に同じ時刻に行う必要はなく、多少ずれていても問題はない。
【0075】
上述したような処理を実行することにより、原点ドリフトの影響を極めて小さくすることができる。ここで、図8及び図9に示す本実施形態のような原点ドリフトの補正のあるシステムの状態を、図10及び図11に示す従来の補正のないシステムの状態と比較して説明する。図8及び図10において、縦軸は絶対座標におけるセンサ原点位置(単位nm)を、横軸は時間の経過を表している。
【0076】
図8中の線分L1及びL2、図10中の線分L3は原点ドリフトを示している。原点ドリフトは、実際には複雑に変化するものであるが、図8及び図10では説明のために単純なものとして表示している。図9は図8中の初期原点開始位置a1、定期原点位置計測a2、a3、ノーマルリセットa4、定期原点位置計測a5、ノーマルリセットa6、イニシャルリセットa7、ノーマルリセットa8、定期原点位置計測a9、ノーマルリセットa10、及び定期原点位置計測a11に対応して、絶対座標位置(単位nm)、センサ原点位置(単位nm)、絶対座標からの偏差(単位nm)、及び原点オフセット(単位nm)を例示したものである。図11は図10中の初期原点開始位置b1、システムリセットb2〜b6に対応して、絶対座標位置(単位nm)、センサ原点位置(単位nm)、及び絶対座標からの偏差(単位nm)を例示したものである。
【0077】
図10及び図11に示すように、従来は、システムリセットが発生すると、常にセンサ制御系も初期化され、初期化の前後において、センサ原点の関連性はなくなり、スケールのリファレンスを計測したその計測値をセンサ原点とするため、センサ原点は常に「0」であるが、これは計測ヘッドからの出力が見かけ上「0」なだけであって、絶対座標系においては、原点オフセットの変動に応じた偏差が発生していることがわかる。このため、露光処理時において、投影光学系の収差等の結像特性の調整のために、同じ目標位置にレンズを位置合わせしたとしても、システムリセットが発生する毎に、センサ原点の絶対座標系における位置が累積的に変動し、その結果、実際のレンズの位置は原点ドリフト量に応じてずれた位置となり、これでは投影光学系の結像性能を最適な状態に調整することができないことがわかる。
【0078】
これに対して、本実施形態を採用すると、以下のような改善が見られる。まず、図8において、システムリセットは、a4、a6、a7、a8、a10にて生じているが、上述したようにシステムリセットが発生した場合に、センサ制御系のリセットが必要か否かをチェックし(図7のS21,S22における状態チェック及び判断)、センサ制御系の初期化を行うイニシャルリセットと、センサ制御系の初期化を行わないノーマルリセットに分けて、センサ制御系のリセット回数を従来よりも少なくしている。センサ制御系のリセットを行わなければ、前回のセンサ制御系のリセット時(イニシャルリセット時)のセンサ原点をそのまま用いることができるので、例えば図9においてa1〜a6に対応する絶対座標からの偏差が、全て初期原点開始位置に等しい「0」となっていることからもわかるように、原点ドリフトが生じていても、計測結果にその誤差が含まれることはない。
【0079】
電源投入時又はセンサエラーが発生した場合には、センサリセットを避けることはできないので、この場合には、センサリセットによりそれより以前に使用していたセンサ原点をそのまま使用することはできない。このため、原点ドリフト量に相当する原点オフセットを算出して補正するようにしている。この原点オフセットをセンサ原点に対する補正値とすることにより、それ以前に使用していたセンサ原点に極めて近いセンサ原点を設定することができ、従来と比較して、原点ドリフトによる結像特性の悪化を極めて小さくすることができる。なお、図9において、図8のa6、a7に対応する絶対座標からの偏差を比較するとわかるように、当該偏差として10nmが発生している。これは、前回の原点位置計測(ノーマルリセットa6)の時点からイニシャルリセットa7が実施されるまでの間の時間においても、原点ドリフトが生じており、この間の原点ドリフトは補正することができないためである。しかし、その誤差は、上述したように、原点位置定期計測の実行間隔を適宜に短く設定することにより小さくすることができ、実用範囲内に収めることが可能である。
【0080】
[原点ドリフト対策2]
次に、本実施形態の結像特性調整装置の原点ドリフトを補正するための第2の対策について説明する。上述した第1の対策では、スケール100に形成されたリファレンス102の位置を計測して得られる位置を結像特性を調整するための基準とする非同期型原点を採用する場合の対策について説明したが、この第2の対策は、同期型原点を採用する場合の対策である。なお、上述した所定の初期位置を基準としてリファレンスを計測した位置により定まる原点を、計測ヘッドによる計測信号に対して原点が同期していないという視点から非同期原点と呼んでいるのに対し、該非同期原点を計測した後の、指定された位相の計測信号の出力時における位置を原点とする、即ち計測信号の特定の位相に同期しているという視点から同期原点と呼んでいる。
【0081】
まず、原点同期型のセンサについて、図12及び図13を参照して簡単に説明する。上述したリファレンスの位置計測においては、計測毎にその再現性に伴う誤差が生じ得る。この影響を抑制するために原点同期型センサが開発されている。
【0082】
図12及び図13において、(A)は計測ヘッドから出力される信号周期α(μm)の計測信号(メジャーメント信号)であり、(B)は非同期原点信号を表している。図12に示されているように、原点同期型センサにおいては、非同期原点検出信号が検出された後の、計測信号の所定の位相、図12(A)ではx°に係る計測信号の最初の出力時の位置を同期原点とするものである。計測の再現性等により非同期原点の計測位置に多少のバラツキがある場合であっても、常に同じ原点(図12(A)の符号aで示す同期原点)を得ることができることがわかる。
【0083】
しかしながら、図13に示されているように、センサ制御系を初期化した場合には、非同期原点の検出信号に原点ドリフトによる変動分が乗ってしまうことは、上述した非同期型の場合と同様であり、それが大きくなると、非同期原点の検出位置が同期原点の検出位置(図13(A)中符号aで示す位置)を越えてしまい、この場合には、非同期原点検出信号が検出された後の、計測信号の所定の位相(x°)に係る計測信号の最初の出力時の位置が同期原点とされるため、図13(A)において符号bで示す位置が同期原点となる。即ち、信号周期αだけ同期原点位置の原点トビが発生する。この状態で、レンズの位置調整を行うと、目標値から当該原点トビに相当する分だけずれた位置にレンズを位置決めしてしまうことになり、投影光学系の結像特性の調整を十分に行うことができない。
【0084】
この問題を解決するために、この第2の対策では、図6及び図14に示すようなシーケンスを実行する。まず、上述した第1の対策と同じように、図6に示す原点位置定期計測シーケンスが実行される。なお、この計測により求められる原点は、非同期原点である。
【0085】
図6のS11において、システムリセット信号を検出した場合(Yesの場合)には、リセットシーケンスが実行される。このリセットシーケンスの内容は、図14に示されている。図14において、まず、装置の状態チェック処理が実行される(S51)。この状態チェック処理は、システムリセット信号の発生原因をチェックする処理である。この状態チェック処理では、結像特性制御ユニット130内の電源投入判断デバイスの設定内容が参照されるとともに、センサ制御ユニット120にセンサエラーの発生の有無が問い合わせされ、システムリセット信号が電源投入によるものであるか、露光装置側のエラー等に起因するシステムリセットによるものであるか、センサエラーに起因するシステムリセットによるものであるかが調査される。次いで、状態チェック処理の調査内容が判断され(S52)、システムリセット信号が電源投入に起因するものである場合、又はセンサエラーに起因するものである場合には、イニシャルシーケンスが実行され(S53〜S67)、システムリセット信号が露光装置側のエラー等に起因するシステムリセットによるものである場合であって、センサエラーに起因するものでない場合には、ノーマルシーケンスが実行される(S68〜S73)。
【0086】
イニシャルシーケンスは、センサ制御系の初期化を伴うシーケンスである。イニシャルシーケンスにおいては、まず、センサ制御ユニット120に対してセンサ制御系リセット信号が出力され、センサ制御ユニット120を含むセンサ制御系が全て初期化される(S53)。次いで、主制御系34等が備える外部の記憶装置から最新の記録データ(直前の記録データ)及び前回のセンサキャリブレーション(後述のS58)を伴うイニシャルシーケンスにおいて行われたセンサ原点位置計測(後述するS56)に係る記録データが読み込まれ(S54)、この記録データに基づいて原点ドリフト量が算出される(S55)。このS55では、前回のセンサキャリブレーションの実行を伴うイニシャルシーケンスの実行時に採取した記録データと最終記録に係る最新の記録データの差分が算出される。つまり、この原点ドリフト量は、前回のセンサキャリブレーションを伴うイニシャルシーケンス実行時から直前の原点位置計測時までのセンサの原点ドリフト量である。次いで、S13と同様のセンサ原点位置計測が実施される(S56)。なお、この計測により求められる原点は、非同期原点である。
【0087】
次いで、S55で求められた原点ドリフト量が予め決められた所定の閾値を越えているか否かが判断される(S57)。この閾値は、計測信号の信号周期及び原点ドリフトの進行傾向等に基づいて適宜な値に予め定められ、当該原点ドリフト量が当該閾値を越えていると判断した場合(Yesの場合)には、センサキャリブレーションが実行される(S58)。このセンサキャリブレーションは、直前の記録データにより定まる非同期原点の位置を基準として、同期原点を定める際の上述した指定位相が最適値となるように取り直す処理である。即ち、当該非同期原点を挟んで直前の指定位相に係る位置と直後の指定位相(直前の指定位相から1周期後の指定位相)に係る位置のほぼ中央に当該非同期原点が位置するように、当該指定位相を定める処理である。従って、従前の指定位相とは異なる指定位相が定められる。
【0088】
このセンサキャリブレーションを、図15を参照してさらに詳細に説明する。図15において、(A)は計測ヘッドから出力される信号周期α(μm)の計測信号(メジャーメント信号)であり、(B)は非同期原点の検出信号であって初期の状態を、(C)は非同期原点の検出信号であって原点ドリフトによりシフトした状態を表している。原点同期型センサにおいては、上述したように非同期原点検出信号が検出された後の、指定位相(例えば、図15(A)では指定位相x°とする)に係る計測信号の最初の出力時の位置(同図中符号aの位置)が同期原点とされる。原点ドリフトが進行し、検出される非同期原点の位置が例えば同図中の右側にシフトし、同期原点に係る指定位相(図15(A)中に符号aで示す)を越えると原点トビが発生する。そこで、非同期原点検出信号の位置が当該指定位相を越えないように適宜に閾値を設定して(例えば、当該指定位相に対して±z°:図15中符号bで示す)、非同期原点検出信号がシフトして、図15(C)に示すように、この閾値を越えた場合に、指定位相を取り直す。即ち、図15(D)に示されているように、当該非同期原点検出信号(図15(C))を挟んで直前の指定位相(求めるべき新たな指定位相)に係る位置cと直後の指定位相(直前の指定位相から1周期後の指定位相)に係る位置の中央に当該非同期原点検出信号が位置するように、当該指定位相y°を定める。
【0089】
図14に戻り、その後、露光装置の立ち上げ時におけるイニシャルシーケンスの実行時の指定位相と新たな指定位相との差分に係る距離を算出してこれを原点オフセットとし(S59)、当該原点オフセット及びS58で求められた指定位相を記憶保持し(S60)、S56で計測された非同期原点及びS58で求められた新たな指定位相に基づいて同期原点が定めされる(S61)。原点オフセット及び指定位相の記憶保持は、記録データの記憶保持と同様に主制御系34の記憶装置等の外部の記憶装置になされる。次いで、S61で定められた同期原点をS59で算出された原点オフセットで補正して得られる位置を基準としてサーボオン(即ち、位置調整制御が開始)される(S62)。
【0090】
S57において、当該原点ドリフト量が当該閾値を越えていないと判断した場合(Noの場合)には、前回のイニシャルシーケンスの実行時に主制御系34の記憶装置等に記憶された原点オフセット及び指定位相が読み込まれ(S63)、S56で計測された非同期原点及び読み込んだ指定位相に基づいて、同期原点が定められる(S64)。次いで、S64で定められた同期原点をS63で読み込まれた原点オフセットで補正して得られる位置を基準としてサーボオン(即ち、位置調整制御が開始)される(S65)。この場合の同期原点は、当該リセット前に用いられていた同期原点と同じである。
【0091】
その後、S56で計測した上述した所定の初期位置を基準としたリファレンスの位置を記録データとして記憶するため、S14と同様に主制御系34に送り(S66)、更に電源投入デバイスに、電源がオンされた状態であることを示す所定のデータがセットされ(S67)、システムリセット処理が終了される。なお、S67の後には、図6のS11に戻ってシステムリセット信号の有無の監視が継続される。
【0092】
ノーマルシーケンスは、上述のイニシャルシーケンスとは異なり、センサ制御系の初期化を伴わないシーケンスである。このノーマルシーケンスにおいては、まず、S54と同様に主制御系34等が備える外部の記憶装置から最新の記録データ(直前の記録データ)が読み込まれ、センサ原点位置計測が実行される(S69)。S69で行われるセンサ原点位置計測は、S56で行われるセンサ原点位置計測と同様である。次いで、前回のイニシャルシーケンスの実行時に主制御系34の記憶装置等に記憶された原点オフセット及び指定位相が読み込まれ(S70)、S69で計測された非同期原点及び読み込んだ指定位相に基づいて、同期原点が定められる(S71)。次いで、S71で定められた同期原点をS70で読み込まれた原点オフセットで補正して得られる位置を基準としてサーボオン(即ち、位置調整制御が開始)される(S73)。この場合の同期原点は、当該リセット前に用いられていた同期原点と同じである。
【0093】
上述したような処理を実行することにより、原点ドリフトの影響を殆ど皆無にすることができる。ここで、図16及び図17に示す本実施形態の第2の対策ような原点ドリフトの補正のあるシステムの状態を、図18及び図19に示す従来の補正のないシステムの状態と比較して説明する。図16及び図18において、縦軸は絶対座標におけるセンサ原点位置(単位nm)を、横軸は時間の経過を表している。
【0094】
図16中の線分L1、図18中の線分L2は原点ドリフトを示している。原点ドリフトは、実際には複雑に変化するものであるが、図16及び図18では説明のために単純なものとして表示している。図17は図16中の初期原点開始位置c1、システムリセットc2〜c6に対応して、絶対座標位置(単位nm)、センサ同期原点位置(単位nm)、絶対座標からの偏差(単位nm)、及び原点オフセット(単位nm)を例示したものである。なお、図16におけるシステムリセットは、イニシャルリセットを意味するものとする。図19は図18中の初期原点開始位置d1、システムリセットd2〜d6に対応して、絶対座標位置(単位nm)、センサ同期原点位置(単位nm)、及び絶対座標からの偏差(単位nm)を例示したものである。
【0095】
図18及び図19に示すように、従来は、システムリセット(同図のd2〜d4)が発生しても、原点ドリフトにより非同期原点が同期原点を越えない限り、常に同一の同期原点が生成され、この場合には問題は生じない。原点ドリフトが大きくなり、非同期原点が同期原点を越えてしまった場合には、あるシステムリセット(同図ではd5)において、原点トビが発生する。原点トビが発生した場合であっても、その原点トビが生じた同期原点がセンサ原点とされるため、センサ同期原点位置は常に「0」であるが、これは見かけ上「0」なだけであって、絶対座標系においては、原点トビに応じた偏差(計測信号の周期α)が発生していることがわかる。このため、露光処理時において、投影光学系の収差等の結像特性の調整のために、同じ目標位置にレンズを位置合わせしたとしても、原点トビが発生したシステムリセットの前後において、当該原点トビに応じた誤差が発生し、これでは投影光学系の結像性能を最適な状態に調整することができないことがわかる。
【0096】
これに対して、本実施形態の第2の対策を採用すると、以下のような改善が見られる。まず、図16において、システムリセットc2、c3、c5においては上述した同期原点の原理により原点トビは発生しないが、システムリセットc4、c6において原点トビが生じている。この原点トビは、従前の指定位相とキャリブレーションにより最適化された新たな指定位相との差に相当する。この場合においても、原点トビが発生した前後で同じ同期原点を用いているので、図17のセンサ同期原点位置は「0」のままであるが、原点トビによりずれた量が原点オフセット(β、β+γ)として管理され、当該原点トビに相当する分だけこの原点オフセットにより補正するようにしたので、絶対座標からの偏差を原点トビの発生の有無にかかわらず、「0」とすることができることがわかる。
【0097】
[原点ドリフト対策3]
次に、本実施形態の結像特性調整装置の原点ドリフトを補正するための第3の対策について説明する。上述した第1及び第2の対策では、センサの周囲環境(温度、圧力等)は正常であることを前提としていた。しかし、実際の露光装置の環境は通常は厳密に管理されているが、何らかの障害や異常が発生した場合(例えば、温湿度が制御されたパージガスの供給停止、メンテナンスのための扉開放等)には、センサ周囲の環境は変化し、センサを構成する各種部材の熱膨張や部材を接着する接着剤の吸湿による形状変化等により、原点ドリフトが急激に生じ得る。この第3の対策は、このような環境異常が発生した場合を考慮した対策である。
【0098】
この第3の対策を実施するため、センサ(結像特性調整装置の計測ヘッド)の周囲の環境(温度センサ、湿度センサ)を検出する環境センサを設ける。この実施形態の露光装置は、投影光学系PLの内外に環境センサ39(図1参照)を備えているので、この環境センサ39(鏡筒内部に設けられたもの)を用いる。
【0099】
これらの環境センサの検出結果がそれぞれについて予め定められた所定の条件を満たすか否かを判断し、何れか一方又は双方が当該所定の条件を満たさない場合には環境異常モードを設定し、双方が当該所定の条件を満たす場合には環境正常モードを設定する。これらのモードは相反するモードが設定されない限り継続する。
【0100】
また、環境異常モードにおいて、上述したイニシャルリセット(センサ制御系の初期化を伴うリセット)が発生した場合には、原点異常モードを設定し、環境異常モードがその後環境正常モードになった後にイニシャルリセットが発生した場合には原点正常モードを設定する。これらのモードは相反するモードが設定されない限り継続する。
【0101】
上述した第1及び第2の対策においてセンサ原点位置計測が実行され、その計測結果を記録データとして記録する際に、当該計測実行時において、前記環境異常モード若しくは前記原点異常モード又は双方である場合には、異常を示す情報(異常フラグ)を、その余の場合には、正常を示す情報(正常フラグ)を該記録データに関連付けて記憶させる。そして、当該記録データのうち最新の記録データを用いて処理を行う場合には、前記第1又は第2の対策における説明では、全ての記録データのうち最新のものを用いるものとしたが、異常フラグを伴う記録データを除外した記録データ(即ち、正常フラグを伴う記録データ)のうち最新の記録データを用いるものとする。このようにすることで、信頼性に欠ける異常フラグが設定された記録データを用いて処理することが防止される。
【0102】
図20はこの第3の対策の具体例を説明するための図である。同図(A)は、センサ周囲の環境(温度、湿度)状態を示しており、温度及び湿度の両方が正常な期間e1の後、露光装置の瞬停等に伴い温度又は湿度の一方又は双方が異常な期間e2となり、その後回復し、温度及び湿度の両方が正常な期間e3となっている。一例として、正常な期間e1ではノーマルリセット(1)、イニシャルリセット(2)、原点位置計測(3)が発生し、異常な期間e2ではノーマルリセット(4)、原点位置計測(5)、イニシャルリセット(6)が発生し、その後の正常な期間e3ではイニシャルリセット(7)が発生している。
【0103】
同図(B)は(A)の環境状態に従って設定された環境モード(温度・湿度正常/異常モード)を示しており、正常な期間e1に対応して温度・湿度正常モードが、異常な期間e2に対応して温度・湿度異常モードが、その後の正常な期間e3に対応して温度・湿度正常モードが設定されている。また、同図(C)は原点モード(原点正常/異常モード)を示しており、正常な期間e1に対応して原点正常モードが設定されているとともに、異常な期間e2に入ってもイニシャルリセットが発生するまでは原点正常モードが続いており、イニシャルリセット(6)が発生した時点で原点異常モードとなっている。この原点異常モードはその後の正常な期間e3になってもすぐには解除されず、正常な期間e3になった後の最初のイニシャルリセット(7)の発生により原点正常モードとなる。同図(D)は装置異常をオペレータ等に通知(警告)するための状態を示しており、温度・湿度異常モード又は原点異常モードである場合に装置異常とされ、その他のときには装置正常とされている。装置異常時には、継続的に警告が発せられ、又は露光動作の開始操作等が行われたときに警告が発せられる(例えば、警告ダイアログの表示などが行われる)。なお、温度・湿度異常モードにおいてイニシャルリセットが一度も発生しないで温度・湿度正常モードになった場合には、原点異常モードになることはない。
【0104】
ノーマルリセット(1)、イニシャルリセット(2)及び原点位置計測(3)については、こられが発生した時点のモードは温度・湿度正常モードであり且つ原点正常モードであるから、これらの処理に伴い採取された記録データには正常フラグが付与されて正常データとして記憶保持される。ノーマルリセット(4)、原点位置計測(5)及びイニシャルリセット(6)については温度・湿度異常モード又は原点異常モードであるから、これらの処理に伴い採取された記録データには異常フラグが付与されて異常データとして記憶保持される。イニシャルリセット(7)については温度・湿度正常モードであり、原点正常モードに復帰しているので、これに伴い採取される記録データには正常フラグが付与されて正常データとして記憶保持される。
【0105】
例えば、イニシャルリセット(7)においては、この処理で用いる最新の記録データは、イニシャルリセット(6)で採取された記録データではなく(本第3の対策を採用しない場合には(6)で採取された記録データが用いられる)、正常フラグが付与された最新の記録データ、即ち原点位置計測(3)で採取された記録データである。なお、温度・湿度異常モードにおいてイニシャルリセットが発生しなかった場合にはその後の温度・湿度正常モードにおいてシステムリセットが発生した場合には、前記第1又は第2対策において常に、即ちノーマルシーケンスを実行すべきと判断される場合であっても、イニシャルシーケンスが実行される。これは、環境異常によりセンサに予期せぬ障害が発生している可能性があり、これを復帰させるためにセンサ制御系のリセットが必要だからである。また、原点異常モードの期間においてシステムリセット(例えば、(6))が発生した場合には、それ以降、温度・湿度正常モードになってイニシャルシーケンスが実行されるまでの間のシステムリセットは同様にノーマルシーケンスを実行すべきと判断される場合であっても、全てイニシャルシーケンスを実行する。なお、エラーなどによるチャンバの停止、メンテナンス時などにおけるチャンバの扉やパネルの開放などに起因したチャンバ内の温度変化によって、前述したセンサ制御ユニット120(例えば中継アンプ部など)の温度が変動する。この温度が通常時の温度に対して大きく変動した状態でこの第3の対策を実行しても原点位置が誤った位置に設定される可能性があるので、結像特性制御ユニット130は原点異常の内部ステータスをオンにするとともに、主制御系34は各種コマンドの開始のタイミングでそのステータスがオンとなっているか否かをチェックするようにし、原点異常のステータスがオンであるときは、各種計測(また露光)の開始前に、処理開始不可能として警告ダイアログを表示することが好ましい。この場合、前述の温度が正常に戻った後にこの第3の対策が実行され、原点位置が再設定されたら結像特性制御ユニット130は原点異常の内部ステータスをオフにする。
【0106】
この第3の対策によれば、装置異常時に採取した記録データを用いず、装置正常時に採取した記録データが用いられるので、レンズの位置調整の基準となる原点位置をより正確に定めることができ、位置調整の高精度化を図ることができる。
【0107】
[原点ドリフト対策4]
次に、本実施形態の結像特性調整装置の原点ドリフトを補正するための第4の対策について説明する。上述した第1の対策において、例えば、図8のa6のノーマルリセット(前回の原点位置計測)の時点からイニシャルリセットa7が実施されるまでの間に10nmの偏差が発生しており、この間に発生した原点ドリフトは補正できない、と説明した。この第4の対策は、複数の記録データに基づいてこの間に発生する原点ドリフトを予測して、この間の原点ドリフトについても補正するようにしたものであり、半導体製造工場の停電等で露光装置(結像特性調整装置)を長期間停止させたような場合に特に有効な対策である。なお、この第4の実施形態は、上述した第1〜第3の実施形態の改良であり、以下では改良点のみ説明することにする。
【0108】
ここで、原点ドリフトの発生要因の主たるものを、簡単にまとめておくと、以下の3つの形態に分類することができる。
(1)一方向的(線形的)な変動
センサ内の光学系や該光学系を保持する部材、その他の部材の機械的な歪みによる変動、光源の変動等
(2)周期的な変動
センサ内の光ファイバに与えられているテンション又はその開放による変動等
(3)無相関的な変動
他の不確定な要素による変動
【0109】
この第4の対策では、上述の3つの形態について、以下のような予測処理を実施する。これを図21を参照して説明する。図21は、原点ドリフトの予測処理を示すフローチャートであり、この予測処理は、図7のS24及びS25又は図14のS54及びS55と置き換えて行われる処理である。なお、この対策では、記録データの記憶ステップ(図6のS14、図7のS28,S33、図14のS66,S73)において記憶される記録データは、累積的に全て記憶保持されているものとする。
【0110】
まず、この処理が開始されると、過去N日間に採取された記録データが読み込まれる(S101)。このNは、この結像特性調整装置の仕様や特性等に応じて予め決められた日数であり、例えばN=30〜90日程度に設定される。定期原点計測処理(図6のS13)を1日1回実施するものとすると、通常はシステムリセットの発生によっても原点計測処理が行われるので、記憶されるデータ数はNよりも多くなる。
【0111】
次に、データ数が(N/X)日間分(Xはこの結像特性調整装置の仕様や特性等に応じて予め決められた数であり、例えばX=2程度に設定される)以上であるか否かを判断し(S102)、満たないと判断した場合(Noの場合)には、上記(3)の無相関的な変動と判断し、図7のS25、図14のS55と同様に最新の記録データに基づいてドリフト量を算出して(S103)、図7のS26又は図14のS56に戻る。従って、この場合には、ドリフト量の予測は行われず、上述した第1〜第3の実施形態と同様の処理となる。
【0112】
ここで、図22に示すように、例えば、N=30日、X=2として、過去30日間に採取されたデータ数が9個の場合、(データ数)<(N/X)であるため、データ不足として予測処理を実施しない。なお、図22において、縦軸は原点変動量(ドリフト量[nm])、横軸は時間(day)であり、システムリセットの発生日(同図で30日)から遡って30日目を初日(0)として、初日から21日までに9個の記録データが採取され、22〜27日まで装置が停止し、30日目にシステムリセットが発生して、本処理が行われることが示されている。
【0113】
S102において、データ数が(N/X)以上であると判断した場合(Yesの場合)には、読み込んだ記録データに基づく原点ドリフトが一方向的な変動か否かを判断する(S104)。この判断は、読み込んだ複数の記録データに基づいて最小自乗法等を用いて1次元近似式及び分散を算出し、該分散が予め決められた所定の規定値以上であるか否かにより行う。S104において、該分散が該規定値未満である場合(Noの場合)には、上記(2)の一方向的な変動と判断し、該1次元近似式にシステムリセットの発生日を代入して当該システムリセット発生日における原点位置のドリフト量を算出し(S105)、図7のS26又は図14のS56に戻る。
【0114】
図23に示すように、例えば、N=30日、X=2として、過去30日間に採取されたデータ数が21個の場合、(データ数)≧(N/X)であるため、1次元近似式EQ1が算出され、その分散が所定の規定値未満である場合に、1次元近似による予測が行われる。なお、図23において、縦軸は原点変動量(ドリフト量[nm])、横軸は時間(day)であり、システムリセットの発生日(同図で30日)から遡って30日目を初日(0)として、初日から21日までに21個の記録データが採取され、22〜27日まで装置が停止し、30日目にシステムリセットが発生して、1次元近似式EQ1に30日が代入されてドリフト量が求められることが示されている。
【0115】
S104において、該分散が該規定値以上と判断された場合(Yesの場合)には、読み込んだ記録データに基づく原点ドリフトが周期的な変動か否かを判断する(S106)。この判断は、読み込んだ複数の記録データに基づいてフーリエ展開して各係数と周波数毎のパワー(振幅)を求め、最大パワーに係る周波数を決定し、当該最大パワーに係る周波数が最小周波数であるか否かにより行う。例えば、読み込んだ記録データが、図24に示すようなものである場合に、これをフーリエ展開すると、図25に示すような結果を得ることができる。
【0116】
なお、図24において、縦軸は原点変動量(ドリフト量[nm])、横軸は時間(day)であり、システムリセットの発生日(同図で30日)から遡って30日目を初日(0)として、初日から21日までに21個の記録データが採取され、22〜27日まで装置が停止し、30日目にシステムリセットが発生して、この処理が行われることが示されている。また、図25において、縦軸は振幅(パワー[nm])、横軸は周波数(Hz)であり、最大パワーに係る周波数は同図中FE1で示され、最小周波数は同図中FE2で示されており、最大パワーに係る周波数FE1は最小周波数FE2に一致していないので、周期性を有すると判断される。周期性を有しない場合には、最大パワーに係る周波数FE1は最小周波数FE2に一致することになる。
【0117】
S106において、周期性を有しないと判断された場合(Noの場合)には、上記(3)の無相関的な変動と判断し、図7のS25、図14のS55と同様に最新の記録データに基づいてドリフト量を算出して(S103)、図7のS26又は図14のS56に戻る。従って、この場合には、ドリフト量の予測は行われず、上述した第1〜第3の実施形態と同様に、最新の記録データに基づく処理となる。これは、無相関的な変動の場合には、予測処理を行うと予測値が大幅に変化してしまう可能性が高いため、予測処理は実施しない方がよいと考えられるからである。
【0118】
S106において、周期性を有すると判断した場合(Yesの場合)には、周期的な変動予測が行われる(S107)。この周期的な変動予測は、読み込んだ複数の記録データに基づき決定されたフーリエ展開式にシステムリセットの発生日を代入して当該システムリセット発生日における原点位置のドリフト量を算出することにより行う。ここで、例えば、図24に示すような記録データが読み込まれた場合には、図26に示すように、フーリエ展開式EQ2が算出され、このフーリエ展開式EQ2に30日が代入されて、当該システムリセット発生時におけるドリフト量が求められることになる。この予測処理の後は、図7のS26又は図14のS56に戻る。
【0119】
なお、この第4の対策において、上述した第3の対策を併用する場合には、S101において読み込まれる記録データは、異常データ(異常フラグが設定された記録データ)を除外した正常データ(正常フラグが設定された記録データ又は異常フラグが設定されていない記録データ)とする。
【0120】
上述した第4の対策によると、原点ドリフトの推移が一方向的である場合又は周期性を有する場合には、それぞれに対応した1次元近似又はフーリエ展開による予測処理を実施して、システムリセット発生時におけるドリフト量を予測するようにしたので、直前の記録データの採取からシステムリセットの発生までの間に発生する原点ドリフトをも補正することができるようになる。従って、上述した第1又は第2の対策よりも、原点ドリフトによる結像特性の悪化をさらに小さくすることができる。
【0121】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0122】
例えば、上記実施形態では結像特性調整部41によって投影光学系PLの5つのレンズを移動するものとしたが、可動とするレンズの数は4つ以下または6つ以上でも良いし、調整対象とする結像性能も前述した倍率及び4つの収差に限定されるものではなく任意で構わない。また、投影光学系PLが光学素子としてレンズ以外、例えば反射素子(ミラー、凹面鏡など)あるいは平行平面板などを含み、かつそのレンズ以外の光学素子を可動とする場合には、上記第1〜第4の対策のいずれか1つを適用して同様の効果を得るようにしてもよい。さらに、照明光学系を構成する少なくとも1つの光学素子、例えばオプティカル・インテグレータ、ズームレンズ、プリズム、コンデンサーレンズ、あるいは視野絞り(スリット)などを可動とする場合にも、上記第1〜第4の対策のいずれか1つを適用して同様の効果を得るようにしてもよい。また、投影光学系または照明光学系などを構成する光学部材だけでなく、これ以外に高精度の駆動が要求される可動部材、あるいは露光装置以外の光学装置などに対しても、上記第1〜第4の対策のいずれか1つを適用して同様の効果を得るようにしてもよい。
【0123】
また、上記実施形態では本発明をステップ・アンド・スキャン方式の露光装置に適用した場合を例に挙げて説明したが、ステップ・アンド・リピート方式の露光装置(ステッパー)にも適用することができる。さらに、ミラープロジェクション・アライナー、ステップ・アンド・スティッチ方式、プロキシミティ方式あるいはコンタクト方式の露光装置、例えば投影光学系の物体面上での露光光の強度分布を可変とする可変成形マスクを用いるマスクレス露光装置などにも本発明を適用することができる。
【0124】
また、上記実施形態では露光光ILとしてArFエキシマレーザから射出されるレーザ光(波長193nm)を用いていたが、超高圧水銀ランプから射出されるg線(波長436nm)及びi線(波長365nm)又は、KrFエキシマレーザ(波長248nm)若しくはFレーザ(波長157nm)から射出されるレーザ光、又は金属蒸気レーザやYAGレーザの高調波等を用いても良い。
【0125】
さらに、例えば国際公開(WO)99/46835号に開示されているように、DFB半導体レーザ又はファイバーレーザから発振される赤外域、又は可視域の単一波長レーザを、例えばエルビウム(又はエルビウムとイットリビウムの両方)がドープされたファイバーアンプで増幅し、非線形光学結晶を用いて紫外光に波長変換した高調波を用いてもよい。
【0126】
また、レーザプラズマ光源、又はSORから発生する軟X線領域、例えば波長13.4nm、又は11.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet)光を用いるようにしてもよい。さらに、投影光学系は、反射光学系、屈折光学系、及び反射屈折光学系のいずれを用いてもよいし、縮小系、等倍系、及び拡大系のいずれを用いてもよい。
【0127】
さらに、半導体素子の製造に用いられるデバイスパターンをウエハ上に転写する露光装置だけでなく、液晶表示素子などを含むディスプレイの製造に用いられるデバイスパターンをガラスプレート上に転写する露光装置、薄膜磁気ヘッドの製造に用いられるデバイスパターンをセラミックウエハ上に転写する露光装置、撮像素子(CCDなど)、マイクロマシン、及びDNAチップなどの製造に用いられる露光装置等にも本発明を適用することができる。また、露光装置で使用するマスク(レチクル)の製造に用いられる露光装置にも本発明を適用することができる。さらに、例えば国際公開(WO)99/49504号に開示される液浸型露光装置にも本発明を適用することができる。また、例えば国際公開(WO)98/24115号、98/40791号に開示されるように、露光動作とアライメント動作(マーク検出動作)とをほぼ並行に可能な2つのウエハステージを備える露光装置にも本発明を適用することができる。
【0128】
複数のレンズから構成される照明光学系、投影光学系を露光装置本体に組み込み光学調整をするとともに、多数の機械部品からなるレチクルステージや基板ステージを露光装置本体に取り付けて配線や配管を接続し、さらに総合調整(電気調整、動作確認等)をすることにより本実施形態の露光装置を製造することができる。なお、露光装置の製造は温度及びクリーン度等が管理されたクリーンルーム内で行うことが望ましい。
【0129】
半導体素子は、デバイスの機能・性能設計を行うステップ、この設計ステップに基づいて、レチクルを製造するステップ、シリコン材料からウエハを製造するステップ、上述した実施形態の露光装置等によりレチクルのパターンをウエハに露光転写するステップ、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程を含む)、検査ステップ等を経て製造される。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の実施形態に係る露光装置の全体構成の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る露光装置が備える投影光学系の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態の投影光学系の分割鏡筒のうちの一つの分割鏡筒を示す上面図である。
【図4】本発明の実施形態の結像特性調整装置の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態の結像特性調整装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施形態の第1又は第2の対策における原点位置定期計測シーケンスを示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態の第1の対策におけるリセットシーケンスを示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態の第1の対策を採用したシステムの状態を説明するための図である。
【図9】図7に対応する具体例を示す図である。
【図10】従来の非同期原点型のシステムの状態を説明するための図である。
【図11】図10に対応する具体例を示す図である。
【図12】原点同期型センサの原理を説明するための図である。
【図13】原点同期型センサの原点ドリフトによる原点トビの発生を説明するための図である。
【図14】本発明の実施形態の第2の対策におけるリセットシーケンスを示すフローチャートである。
【図15】本発明の実施形態の第2の対策におけるキャリブレーションを説明するための図である。
【図16】本発明の実施形態の第2の対策を採用したシステムの状態を説明するための図である。
【図17】図16に対応する具体例を示す図である。
【図18】従来の原点同期型を採用したシステムの状態を説明するための図である。
【図19】図18に対応する具体例を示す図である。
【図20】本発明の実施形態の第3の対策を説明するための図である。
【図21】本発明の実施形態の第4の対策における予測処理を示すフローチャートである。
【図22】本発明の実施形態の第4の対策の具体例を説明するための図であり、データ不足の場合を示す図である。
【図23】本発明の実施形態の第4の対策の具体例を説明するための図であり、1次元近似によりドリフト量を予測する場合を示す図である。
【図24】本発明の実施形態の第4の対策の具体例を説明するための図であり、採取された記録データの一例を示す図である。
【図25】本発明の実施形態の第4の対策の具体例を説明するための図であり、周期性の有無の判断を説明するための図である。
【図26】本発明の実施形態の第4の対策の具体例を説明するための図であり、フーリエ展開によりドリフト量を予測する場合を示す図である。
【符号の説明】
【0131】
34…主制御系
40…結像特性制御部
41…結像特性調整部
52b,52d,52e,52f,52g…レンズ
55b,55d,55e,55f,55g…アクチュエータ
56b,56d,56e,56f,56d…駆動量計測部
PL…投影光学系
R…レチクル(マスク)
W…ウエハ(基板)
S…センサ
100…スケール
102…リファレンス
110…計測ヘッド
120…センサ制御ユニット
130…結像特性制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置調整対象としての可動物体を駆動する駆動手段と、所定のリファレンスを有する被計測手段に対する相対位置を光学的に計測する計測手段とを備え、該被計測手段及び該計測手段の一方が前記可動物体に取り付けられ、該計測手段による計測結果に従って前記可動物体の位置を調整する位置調整装置の制御方法であって、
前記リファレンスの位置を前記計測手段で事前に計測して該計測結果を記憶手段に記録データとして記憶する事前計測記憶ステップと、
システムリセットが発生した時に実行されるリセットステップとを備え、
前記リセットステップは、
前記計測手段を初期化する初期化ステップと、
前記記憶手段に記憶された記録データに基づいて原点位置のドリフト量を算出するドリフト量算出ステップと、
前記リファレンスの位置を前記計測手段で計測する計測ステップと、
並びに前記計測ステップで計測された計測結果及び前記ドリフト量算出ステップで算出されたドリフト量に相当する原点オフセットに基づいて前記可動物体の位置を調整する位置調整ステップと
を含むことを特徴とする位置調整装置の制御方法。
【請求項2】
位置調整対象としての可動物体を駆動する駆動手段と、所定のリファレンスを有する被計測手段に対する相対位置を光学的に計測する計測手段とを備え、該被計測手段及び該計測手段の一方が前記可動物体に取り付けられ、前記リファレンスの位置を該計測手段により計測した位置を非同期原点とし、該非同期原点を計測した後の指定位相に係る該計測手段の計測信号の出力時における位置を同期原点とし、該同期原点を基準として前記可動物体の位置を調整する位置調整装置の制御方法であって、
前記リファレンスの位置を前記計測手段で事前に計測して該計測結果を記憶手段に記録データとして記憶する事前計測記憶ステップと、
システムリセットが発生した時に実行されるリセットステップとを備え、
前記リセットステップは、
前記計測手段を初期化する初期化ステップと、
前記リファレンスの位置を前記計測手段で計測する計測ステップと、
前記記憶手段に記憶された記録データに基づいて、前記非同期原点の位置のドリフト量を算出するドリフト量算出ステップと、
前記ドリフト量算出ステップで算出された前記ドリフト量が予め決められた所定の閾値を越えるか否かを判断する判断ステップと、
前記判断ステップで越えると判断された場合に、前記記録データに基づく非同期原点の位置を基準として前記指定位相を最適化する最適化ステップと、
前記最適化ステップで求められた指定位相及び最適化前の指定位相に基づき原点オフセットを算出するオフセット算出ステップと、
前記計測ステップで計測された非同期原点及び最適化後の指定位相により定まる同期原点、並びに前記オフセット算出ステップで算出された原点オフセットに基づいて、前記可動物体の位置を調整する位置調整ステップと
を含むことを特徴とする位置調整装置の制御方法。
【請求項3】
前記位置調整装置の周囲の環境を計測して所定の条件に適合する場合を環境正常モード、適合しない場合を環境異常モードとする環境モード設定ステップを備え、
前記記録データを前記記憶手段に記憶する際に、当該計測時において前記環境モード設定ステップの判断結果が異常モードである場合に該異常を示す情報を該記録データに関連付けて異常データとして記憶し、
前記ドリフト量算出ステップでは、前記記憶手段に記憶された記録データのうち前記異常データを除外した記録データを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の位置調整装置の制御方法。
【請求項4】
前記環境モード設定ステップが環境異常モードを設定している場合であって前記システムリセットが発生した場合に原点異常モードを、前記環境モード判断ステップが環境正常モードを設定している場合であって前記システムリセットが発生した場合に原点正常モードを設定する原点モード設定ステップを更に備え、
前記記録データを前記記憶手段に記憶する際に、前記原点モード設定ステップの判断結果が異常モードである場合には、該異常を示す情報を該記録データに関連付けて異常データとして記憶することを特徴とする請求項3に記載の位置調整装置の制御方法。
【請求項5】
前記ドリフト量算出ステップでは、前記記憶手段に記憶された記録データ又は前記異常データがある場合には該異常データを除外した記録データのうち、最新の記録データを用いることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の位置調整装置の制御方法。
【請求項6】
前記ドリフト量算出ステップは、前記記憶手段に記憶された複数の記録データ又は前記異常データがある場合には該異常データを除外した複数の記録データに基づいて、原点位置のドリフト量の推移に関する近似式を算出し、該近似式から現在時点における原点位置のドリフト量を予測する予測ステップを含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の位置調整装置の制御方法。
【請求項7】
前記ドリフト量予測ステップでは、前記近似式として1次近似式を用い、該1次近似式に関する前記記録データの分散が予め決められた規定値未満である場合に、該1次近似式を用いて前記ドリフト量を予測することを特徴とする請求項6に記載の位置調整装置の制御方法。
【請求項8】
前記ドリフト量予測ステップでは、前記近似式としてフーリエ展開式を用い、該フーリエ展開式に周期性が認められる場合に、該フーリエ展開式を用いて前記ドリフト量を予測することを特徴とする請求項6に記載の位置調整装置の制御方法。
【請求項9】
位置調整対象としての可動物体を駆動する駆動手段と、所定のリファレンスを有する被計測手段に対する相対位置を光学的に計測する計測手段とを備え、該被計測手段及び該計測手段の一方が前記可動物体に取り付けられ、該計測手段による計測結果に従って前記可動物体の位置を調整する位置調整装置であって、
前記リファレンスの位置を前記計測手段で事前に計測して該計測結果を記憶手段に記録データとして記憶する事前計測記憶手段と、
システムリセットが発生した時に、前記計測手段を初期化し、前記記憶手段に記憶された記録データに基づいて原点位置のドリフト量を算出するドリフト量算出手段と、
前記リファレンスの位置を前記計測手段で計測し、当該計測結果及び前記ドリフト量算出手段で算出されたドリフト量に基づいて、前記可動物体の位置を調整する位置調整手段と
を備えることを特徴とする位置調整装置。
【請求項10】
位置調整対象としての可動物体を駆動する駆動手段と、所定のリファレンスを有する被計測手段に対する相対位置を光学的に計測する計測手段とを備え、該被計測手段及び該計測手段の一方が前記可動物体に取り付けられ、前記リファレンスの位置を該計測手段により計測した位置を非同期原点とし、該非同期原点を計測した後の指定位相に係る該計測手段の計測信号の出力時における位置を同期原点とし、該同期原点を基準として前記可動物体の位置を調整する位置調整装置であって、
前記リファレンスの位置を前記計測手段で事前に計測して該計測結果を記憶手段に記録データとして記憶する事前計測記憶手段と、
システムリセットが発生した時に、前記計測手段を初期化し、前記リファレンスの位置を前記計測手段で計測し、前記記憶手段に記憶された記録データに基づいて前記非同期原点の位置のドリフト量を算出するドリフト量算出手段と、
前記ドリフト量算出手段により算出された前記ドリフト量が予め決められた所定の閾値を越えるか否かを判断し、越えると判断された場合に、前記記録データに基づく非同期原点の位置を基準として前記指定位相を最適化する最適化手段と、
前記最適化手段で求められた指定位相及び最適化前の指定位相に基づき原点オフセットを算出し、前記計測された非同期原点及び最適化後の指定位相により定まる同期原点、並びに前記原点オフセットに基づいて、前記可動物体の位置を調整する位置調整手段と
を備えることを特徴とする位置調整装置。
【請求項11】
前記位置調整装置の周囲の環境を計測して所定の条件に適合する場合を環境正常モード、適合しない場合を環境異常モードとする環境モード設定手段を備え、
前記記録データを前記記憶手段に記憶する際に、当該計測時において前記環境モード設定手段の判断結果が異常モードである場合に該異常を示す情報を該記録データに関連付けて異常データとして記憶し、
前記ドリフト量算出手段は、前記記憶手段に記憶された記録データのうち、前記異常データを除外した記録データを用いることを特徴とする請求項9又は10に記載の位置調整装置。
【請求項12】
前記環境モード設定手段が環境異常モードを設定している場合であって前記システムリセットが発生した場合に原点異常モードを、前記環境モード設定手段が環境正常モードを設定している場合であって前記システムリセットが発生した場合に原点正常モードを設定する原点モード設定手段を更に備え、
前記記録データを前記記憶手段に記憶する際に、前記原点モード設定手段の判断結果が異常モードである場合には、該異常を示す情報を該記録データに関連付けて異常データとして記憶することを特徴とする請求項11に記載の位置調整装置。
【請求項13】
前記ドリフト量算出手段は、前記記憶手段に記憶された記録データ又は前記異常データがある場合には該異常データを除外した記録データのうち、最新の記録データを用いることを特徴とする請求項9〜12の何れか一項に記載の位置調整装置。
【請求項14】
前記ドリフト量算出手段は、前記記憶手段に記憶された複数の記録データ又は前記異常データがある場合には該異常データを除外した複数の記録データに基づいて、原点位置のドリフト量の推移に関する近似式を算出し、該近似式から現在時点における原点位置のドリフト量を予測するドリフト量予測手段を含むことを特徴とする請求項9〜12の何れか一項に記載の位置調整装置。
【請求項15】
前記ドリフト量予測手段は、前記近似式として1次近似式を用い、該1次近似式に関する前記記録データの分散が予め決められた規定値未満である場合に、該1次近似式を用いて前記ドリフト量を予測することを特徴とする請求項14に記載の位置調整装置。
【請求項16】
前記ドリフト量予測手段は、前記近似式としてフーリエ展開式を用い、該フーリエ展開式に周期性が認められる場合に、該フーリエ展開式を用いて前記ドリフト量を予測することを特徴とする請求項14に記載の位置調整装置。
【請求項17】
投影光学系を介してパターン像を物体に投影転写する露光装置において、
前記投影光学系内の一部の光学部材を前記可動物体として、該光学部材の位置を調整するため、請求項9〜16の何れか一項に記載の位置調整装置を備えることを特徴とする露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2006−210858(P2006−210858A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49539(P2005−49539)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】