説明

光子エネルギレンジ内サブレンジ毎光子検知

【課題】同一のアレイを構成する複数個のセル間での不均質性による検知結果の相違を補償する。
【解決手段】その部位毎に光子放出量が異なる経路からの光子検知を、行102内にある基準セル及び行104内にあるサブレンジセル106からなりそれら基準セル及びその近傍のサブレンジセル106との対を1個又は複数個含むフォトセンサアレイ100を備える集積回路(IC)68により、経路を構成する複数個のセグメントにて個別に行う。基準セルは適用対象光子エネルギレンジのほぼ全体(λmin〜λmax)を通し入射光子を受け取り、サブレンジセル106は当該適用対象光子エネルギレンジのサブレンジのうち対応するサブレンジ(λp)内の入射光子をその上方の透過構造を介して受け取る。周辺回路110にて前者に基づき後者を調整して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IC(集積回路)上に設けられたフォトセンサアレイにより光子を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献2には、細胞流用長尺状流路(チャネル)からの輻射をモニタできるようアレイ型検知器を配したシステムが記載されている。このシステムによれば、単一の検知器チップを用いて標本及び基準物からのビームをモニタし、各標本における光の吸収や各標本から発せられる蛍光を調べることができる。各画素によって検知された信号をビーム別に総計することによって、各標本及び各基準物からの輻射パワー、ひいてはそれらの比を求めることができる。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5166755号明細書
【特許文献2】米国特許第6580507号明細書
【非特許文献1】S. Devasenathipathy and J. G. Santiago, "Electrokinetic Flow Diagnostics", in K. S. Breuer, Ed. 'Micro and Nano-Scale Diagnostic Techniques', Springer-Verlag, New York, 2003, pp. 113-154
【非特許文献2】M. Koch, A. G. R. Evans and A. Brunnschweiler, "Design and Fabrication of a Micromachined Coulter Counter", J. Micromech. Microeng., Vol. 9, 1999, pp. 159-161
【非特許文献3】V. Sivaprakasam, A. Houston, C. Scotto and J. Eversole, "Multiple UV Wavelength Excitation and Fluorescence of Bioaerosols", Optics Express, Vol. 12, No.9 (2004), pp. 4457-4466
【非特許文献4】Nicholas J. Goddard, Kirat Singh, Fatah Bounaira, Richard J. Holmes, Sara J. Baldock, Lynsay W. Pickering, Peter R. Fielden and Richard D. Snook, "Anti-Resonant Reflecting Optical Waveguies (ARROWs) as Optimal Optical Detectors for MicroTAS Applications", [Online] Internet URL: http://www.dias.umist.ac.uk/NJG/Abstracts/MicroTAS/MicroTas2.htm
【非特許文献5】K. Singh and N.J. Goddard, "Leaky ARROW Waveguides for Optical Chemical and Biosensors", Abstract Submitted to Biosensors 1998, [Online] Internet URL: http://www.dias.umist.ac.uk/NJG/Abstracts/Biosensors/ARROW-Biosensors.htm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここに、複数個のセルからなるアレイを用いた光子検知に際しては、従来から種々の問題が発生していた。そうした問題の一つに、同一のアレイを構成する複数個のセル間での検知結果の相違、という問題があった。これは、専ら各種不均一性、不均質性が原因で生じていた。
【0005】
従って、複数個のICを用いた光子検知技術を改良し、上掲の問題を含め各種問題を解決することが、求められているといえよう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに、本発明の一実施形態に係る適用対象光子エネルギレンジ内光子エネルギ検知方法は、(1)その部位毎に光子放出量が異なる経路からの光子検知を、1個又は複数個の第1及び第2セルを有するフォトセンサアレイ付の集積回路により、当該経路を構成する複数個のセグメントにて個別に行うステップを有し、(2)上記個別セグメント内光子検知を、適用対象光子エネルギレンジのほぼ全体を通じた入射光子量を1個又は複数個の第1セルで、また当該適用対象光子エネルギのサブレンジのうちそのセグメントに対応するサブレンジ内での入射光子量をそのセグメントに対応する1個又は複数個の第2セルで、それぞれ検知することにより行い、(3)そして上記複数個のセグメントのうち少なくとも2個が、対応するサブレンジが互いに異なるセグメントである方法である。
【0007】
本発明の一実施形態に係る適用対象光子エネルギレンジ内光子エネルギ検知システムは、(1)その部位毎に光子放出量が異なる経路沿いに配置されたフォトセンサアレイを有する集積回路と、上記フォトセンサアレイを構成するセルに応答する調整回路と、を備え、(2)上記フォトセンサアレイが、適用対象光子エネルギレンジのほぼ全体を通じた入射光子量を検知する1個又は複数個の第1セルと、当該適用対象光子エネルギのサブレンジのうちそのセグメントに対応するサブレンジ内での入射光子量を検知する1個又は複数個の第2セルとを、上記経路を構成するセグメント毎に且つ複数個のセグメントそれぞれに沿って備え、(3)上記調整回路が、上記経路を構成するセグメントのうち少なくとも1個について、そのセグメントに対応するサブレンジにおける入射光子量を上記適用対象光子エネルギレンジ全体を通じた入射光子量に基づき調整した値を示す信号を、そのセグメントに対応する1個又は複数個の第1及び第2セルによる入射光子量検知結果を双方とも用いて発生させる回路であり、(4)上記複数個のセグメントのうち少なくとも2個のセグメントが、対応するサブレンジが互いに異なるセグメントであるシステムである。
【0008】
そして、本発明の一実施形態に係る適用対象光子エネルギレンジ内光子エネルギセンサは、(1)少なくとも1本の第1ラインに沿って並んだ第1セル及び少なくとも1本の第2ラインに沿って並んだ第2セルを含むフォトセンサアレイであって第1セルとその近傍の第2セルとの対である第1第2セル対を1個又は複数個含むフォトセンサアレイを有する集積回路と、(2)第2ライン上方にあり第2セルに対する光子入射に介在する第2ライン向け透過構造と、を備え、(3)第1第2セル対のうち少なくとも1個にて、第1セルが適用対象光子エネルギレンジのほぼ全体を通し入射光子を受け取り、第2セルが当該適用対象光子エネルギレンジのサブレンジのうち対応するサブレンジ内の入射光子を第2ライン透過構造を介して受け取るセンサである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に、流路付構造物12を支持基体としその上に形成されているアナライザ10について、その構成要素のうち幾つかを模式的に示す。図示の如く、この流路付構造物12には蛇のように曲がりくねったチャネル14が形成されている。また、このチャネル14は、その内部に物体16を通すことができるよう、形成されている。物体16は、例えば、解析対象となる検体を含有する小体積流体乃至液滴であり、適当な物質例えば流体によって、このチャネル14内を運ばれていく。
【0010】
物体16は、図中矢印線20で示されるように、主流体により搬送されてチャネル14内に入っていく。その送給元は例えば補給用リザーバ及び標本ウェルであり、主流体内への入り方は等速送出用電極22によって制御される。補給用リザーバとして用いうる装置としては、例えばセル即ち凝縮(concentration)発生場所を有する生体濃縮装置(bio-enrichment device)があり、そうした装置はマイクロファブリケーション法によって形成できる。また、そうした生体濃縮装置を用いることによって、その装置のセルからチャネル14内へと生体濃縮済標本(bio-enrichment sample)を送り込むこと、特に生体濃縮済標本をその吸収、散乱、蛍光等の帯域により選別、分類してチャネル14内に送り込むことができる。また、ここでは等速送出(metering)の方法として電極22による電気的等速送出を使用しているが、圧力による等速送出も採用可能である。
【0011】
アナライザ10に設けるチャネルの本数は適当な本数にすることができる。各チャネルの構成は図中のチャネル14と同様の構成でよい。各チャネルに対する検体標本供給元例えば標本ウェル、リザーバ、コンテナ等は、チャネル毎に設けてもよいし複数のチャネルで共用してもよい。各標本ウェル内には、定常的に或いは検知後に実施される処理に応じて特定の種類の検体を継続的に収集しておくとよい。更に、各チャネルに設ける部材の個数及び種類は、そのチャネルを用いどのような種類の解析を実施したいかに応じて設定するとよく、従ってそれらはチャネル毎に異なる個数又は種類となりうる。また、1個の広いチャネルを区画して複数本のチャネルを形成すること、例えば互いに平行な数本のチャネルを形成することも可能である。
【0012】
物体16を搬送するための流体は、矢印線24で示すように別の入口からチャネル14内に入れることもできる。矢印線20又は24に沿ってチャネル14内に入った流体が辿る経路は、様々な装置により制御される。例えば、この図のチャネル14に設けられている分岐ジャンクションのうち2個は、それぞれ別のアウトレットにつながっており且つ弁を有している。図中の弁30及び32がそれである。チャネル14内の流体は、矢印線26で示すように弁30に対するトグル制御によって一方のアウトレットから排出させることができ、また、矢印線28で示すように弁32に対するトグル制御によって他方のアウトレットからも排出させることができる。即ち、物体16が到来したとき弁30又は32を開かせることによって、物体16及びそれを搬送する流体を、その弁に対応するアウトレットから排出させることができる。これは物体16を対象とするゲーティングの一形態であり、他の形態によるゲーティングも採用可能である。例えば、帯電している粒子であればクーロン力によって偏向させることができるし、分極可能な粒子であれば誘電泳動力によって偏向させることができる。そして、流体は、矢印線34で示すように、最後段に設けられたアウトレットを介しチャネル14から排出させることができる。
【0013】
流体の流れを維持するには、チャネル14の長手方向に沿って、流体の流れを推進する部材を設ければよい。この推進部材は従来からある種類のものでよく、図示の例では電気浸透ポンプ40が用いられている。推進部材には、流体の流れを維持する機能だけでなく、圧送法によりシステムを洗浄する機能や同じく圧送法により流体を初期充填する機能を持たせることができる。電気浸透ポンプ40を含め、流路付構造物12に設けられた各種部材は、相応の回路を設けることによって、相互に同期をとりつつ動作させることができる。
【0014】
チャネル14は、180度に曲がった屈曲部により複数個の直線部間をつないだ構成を有している。チャネル14沿いには、それぞれ対応する直線部内を移動していく物体16についての情報を取得するため、複数個の検知部材が次から次へと配されている。設けられている検知部材の一つはコールタカウンタ(Coulter counter)50、他の一つはミー散乱センサ(Mie scatter sensor)52であって、これらは何れも既存手法を用いて構成することができる。図中、コールタカウンタ50及びミー散乱センサ52は、チャネル14を構成する同一の直線部沿いに配置されている。コールタカウンタ50は電気式粒子サイズ検知器の一種であり、ミー散乱センサ52は光学式検知器の一種である。ミー散乱センサ52は、側方からチャネル14に入射しチャネル14内の物体16例えば粒子により散乱された光を検知する。
【0015】
チャネル14沿いには、上述の一群の検知部材として、更に、可視光や赤外光に反応する光吸収検知部材54、第1の蛍光検知部材56、第2の蛍光検知部材58、並びにラマン散乱検知部材60が配されている。アナライザ10には、これ以外にも、適宜、様々な検知部材を様々な組合せで設けることができる。全部又は一部の検知部材間に相互直列接続乃至相互縦続関係がない配置としてもよい。また、更に、特性的に所定条件を満たす検体がチャネル14沿いのある位置を通過したとき、そのこと又はその時刻を示す起動信号を出力する光学式又は電気式の起動部品を、検知部材の一種として設けてもよい。こうした起動部品は既存の技術で実現できる。更に、生体粒子サイズ検知用差動抵抗に代え、電子病理学向けEIS(electrical impedance spectroscopy)用検知部材を、設けることもできる。
【0016】
図1に示す一群の検知部材によれば、移動する粒子その他の物体16についてのスペクトラム情報を取得することができる。取得したスペクトラム情報を用いれば、直交性のあるかたちで物体16の特徴を調べることができ、また物体16の識別を信頼性よく行うことができる。直交性のあるかたちで、とは、例えば相異なる光子エネルギレンジでの光子検知により得られた複数種類の情報や、相異なる強度レンジでの光子検知により得られた複数種類の情報のように、その間に直交性が成り立つ複数種類の情報を利用して、という意味である。素材選択が適切であれば、深紫外域から遠赤外域更にはTHz帯の周波数に至る光子エネルギ(光子のエネルギ即ち波長又は周波数のこと)レンジにてくまなく、スペクトラム情報を取得可能である。
【0017】
また、アナライザ10は、用途に応じ多信号解析を実行可能な構成、従って生体物質(bioagent)を試薬なしで識別可能な構成とすることができる。
【0018】
検知部材54、56、58及び60はそれぞれIC64、66、68又は70を有しており、それらIC64、66、68及び70はそれぞれフォトセンサアレイを内蔵しており、各フォトセンサアレイは一群のセルから構成されており、各セル群はある光子エネルギレンジ内の光子を検知するよう構成されている。言い換えれば、検知部材54、56、58及び60は内蔵するセル群により実現されている。更に、IC64、66、68及び70にて光子を検知可能な光子エネルギレンジを互いに同一にしてもよいし違えてもよい。但し、光子を検知可能な光子エネルギレンジが同一の複数のICにて別々の検知結果が得られるような構成とすることもできる。例えば、IC66及び68に係る光子エネルギレンジが互いに同一であるとする。そうした場合でも、それらIC66及び68に対応する励起光源同士を、互いに別々の波長で発光するように構成しておけば、互いに異なる結果が得られる。即ち、そうした構成では、一方の波長の励起光を受けて物体16が発する蛍光が例えばIC66で検知され、他方の波長の励起光を受けて物体16が発する蛍光が例えばIC68で検知されることとなるので、蛍光検知結果が両IC間で異なる結果となりうる。なお、励起光源は、LED(発光ダイオード)、レーザ等によって実現することができる。また、検知部材54、56、58及び60を構成するセル群の光子検知可能波長域即ち光子エネルギレンジは、この例では複数個のサブレンジに分割されており、各サブレンジに属する光子をセルの小群(組)のうち対応するものが検知する構成を採っている。各小群に係るサブレンジは他の小群のそれと同じでもかまわないが、同一フォトセンサアレイ内小群のうち少なくとも2個は、互いに異なるサブレンジにて光子を検知するよう構成しておく。
【0019】
更に、検知部材56、58及び60には励起手段乃至照明手段を併設することができる。励起や照明の手法は、物体16から光を放射させることが可能な手法である限り、どのような手法でもよい。また、単独の粒子又は低濃度の生物学的若しくは化学的物質の特性を調べることができるようアナライザ10を構成する場合には、とりわけ、光標的間相互作用の強化(enhanced light-target interaction)が重要となる。チャネル14は、その内部にあり検体を含む流体を光導波用のコア部とし、それを取り巻く高屈折率の部分をクラッディング部とする反共振光導波構造(anti-resonant waveguide)とすることができるので、概略、その長手方向に沿ってフォトニック相互作用を発生させることができ、これによって光標的間相互作用を強化することができる。また、この反共振光導波構造における光標的間相互作用強化を妨げないようにするため、ここでは更に、IC66、68及び70を複数個のスペーサ72によって支持する構造を採用している。このようにすれば、IC66、68及び70とチャネル14の対応部分との間に適正な幅の間隙が形成されるため、IC66、68及び70が反共振光導波構造と機械的に抵触、競合することを、防ぐことができる。
【0020】
反共振光導波構造においては、長手方向に沿って相互作用が生じることから、光と標的粒子(例えば分子)との間の相互作用が格段に強くなる。反共振光導波構造は、例えば、ガラス毛細管内にエアロゾルを入れた構造や、或いはガラススライド間に液体膜を挟んだ構造によって実現するのが、望ましい。励起は相応の電磁波を照射することによって行うことができる。
【0021】
光標的間相互作用強化用光導波構造例えば反共振光導波構造を採用する場合、背景励起光抑圧機構の付加が必要になるかもしれない。背景励起光抑圧機構としては、例えば波長炉波特性を有する部材を、チャネル14を形成する壁の一部又はフォトセンサアレイの頂部被覆の一部として設ければよい。
【0022】
図2に、図1中の線2−2に沿ったアナライザ10の断面を模式的に示す。図示したのは第2の蛍光検知部材58を含む部分の断面であるが、第1の蛍光検知部材56も本質的にこれと同様の断面を呈する。また、ラマン散乱検知部材60の断面にも、これに類似する部分がある。
【0023】
矢印線82で示す如くチャネル14の構成部分80内を下流へと移動中の物体16は、例えばレーザ光源やLED光源として構成された光源84等の励起部材から、励起光を受光する。チャネル構成部分80は、例えば光源84から発せられた光を受けて反共振光導波路として機能する等して、強化されたかたちで光標的間相互作用を発生させる。
【0024】
光源84からの光が到達すると、物体16に内包されている検体が蛍光、即ち光子エネルギスペクトラムに特徴のある光を放射する。放射された光の一部は光束86となり検知器アセンブリ87に向かう。検知器アセンブリ87は少なくともIC68を有しており(場合によってはそれ以外の構造物も有しており)そのIC68上にはフォトセンサアレイがあるので、光束86内の光子はそのフォトセンサアレイを構成するセル群によって検知されることとなる。なお、検知器アセンブリ87は、IC68上のフォトセンサアレイがチャネル構成部分80内における物体16の移動経路近くに位置し且つ当該フォトセンサアレイが当該移動経路に対して平行になるよう、ひいては集光効率が高まるよう、配置しておく。
【0025】
図中の検知器アセンブリ87は、チャネル14の構成部分80における反共振光導波を邪魔しないよう、複数個のスペーサ72によって支持されている。即ち、複数個のスペーサ72はチャネル構成部分80内に入り込まないように配置されており、それによって検知器アセンブリ87の下方には空隙88が生じているので、チャネル構成部分80内での反共振光導波は阻害されない。これは、空気の屈折率が、導波路(チャネル14)内の液体のそれよりも低いためである。なお、ここでは空隙88を形成しているがこれは反共振光導波が阻害されることを防ぐ方法の一例に過ぎず、十分な幅の間隙又は十分に屈折率の低い層乃至膜でさえあれば、設けるのが空気の層(空隙88)でなくとも、反共振光導波が阻害されることを防止できる。低屈折率の素材を使用する場合、形成乃至使用すべき間隙、層又は膜の幅若しくは厚みは数μm程度、例えば10μmという狭さ乃至薄さになる。
【0026】
また、物体16はチャネル構成部分80内通過中は途切れなしに励起光を受光するので、物体16内の検体からの蛍光もフォトセンサアレイの長手方向に沿って途切れなく発生し続ける。従って、物体16がチャネル構成部分80内を移動する期間を途切れなく利用して、スペクトラム情報を収集することができる。
【0027】
図2に示した構造は、更に、ラマン散乱検知部材60をかたちづくる構造としても用いることができる。図2に示した構造によってラマン散乱検知部材60を構成した場合、その出力信号は、完全なラマンスペクトラムではなく、それぞれ、ラマンスペクトラム間にある狭い間隙の幅なり、指定された複数本のラマンライン間の強度比なりを表す信号になる。
【0028】
図2に示した形態でラマン散乱検知部材60を実現するには、光源84及びIC70を所定の仕様に合致させること、とりわけアナライザ10における感度及び背景光抑圧能力に関する仕様に合致させることが、必要となろう。加えて、光サンプリングを効率的且つ確実に行えるようにするため、IC70を構成するフォトセンサアレイとチャネル14との間に、相応の光学部品を配置することが必要となろう。
【0029】
図2からは、更に、流路付構造物12を実現、形成する手法の例も看取できる。即ち、図中の構成では、例えば光透過性のガラス又はシリコン基板である支持層90の上に、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane;PDMS)によりマイクロモールド層92が形成されており、更にこのマイクロモールド層92内にチャネル14が形成されている。図中の各層例えばマイクロモールド層92をパターニングする際には、検体と検体の間の干渉ができるだけ少なくなるよう、チャネル14のうちの光標的間相互作用発生部分の長さを設定しておくとよい。
【0030】
PDMSからなるパターン化マイクロモールド層92を形成するには、例えば、ガラス等からなる支持層90の上にSU−8ポリマからなるテンプレートを形成し、その上にPDMSを堆積、成長させた上で、テンプレートを除去すればよい。そうすれば、テンプレートがなかった場所にパターン状の構造物が形成される。マイクロモールド層92の上を覆っているのはガラス等により形成された光透過性プレート94である。
【0031】
こうした方法に代え、ガラスをエッチングしチャネルを形成する、という手法も使用できる。また、SU−8等のポリマ素材の層をマイクロファブリケーション法によりパターニングしてチャネルを形成すれば、アスペクト比の高いチャネル壁を形成できる。また、チャネル14内で検体を搬送する媒体に応じ、チャネル14にまつわる各種パラメタを設定すれば、更に好適な結果が得られる。
【0032】
例えば、チャネル壁面等の接着性(adhesiveness)即ち生体粒子、バクテリア、タンパク質等の吸引されやすさによる標本損失を減らす方法が、幾つかある。具体的には、チャネル壁面等に抗接着性被覆を被着形成しておくことで、その壁面への生体粒子等の検体の付着を防止できる。特に、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol;PEG)の浸漬被膜を形成しておけば、大抵の生物系素材はその被着を好適に防止することができ、それでいて水溶液に作用する毛細管力も確保することができる。この他の使用可能な被覆としては、例えばパリレンC(parylene C;商標)や、気相成長テトラグリム(tetraglyme;tetraethylene glycol dimethyl ether;pentaoxa pentadodecan)がある。
【0033】
更に、図2中、支持層90の表面のうちPDMSによるマイクロモールド層92とは逆側の面上には、その一部表面が励起光結合部98として機能するよう光学部品96が設けられている。光源84から発せられた光は、この面98を通ることで、チャネル14の構成部分80内にある反共振光導波路にカップリングされる。面98は良好な結合が実現されるように形成されている。また、適当な素材と適当なプロセスを用いさえすれば、支持層90及び光学部品96を同一の素材による単一の層として形成することもできる。
【0034】
図3に、検知器アセンブリ87の一例構成を模式的に示す。この図の検知器アセンブリ87内のIC68はフォトセンサアレイ100を有しており、更に当該IC68に取り付けられた複数個のスペーサ72を有している。フォトセンサアレイ100は図示の如く二次元アレイであり、少なくとも2個の行に亘り配列されたセル群を有している。そして、各セルにはフォトセンサが内蔵されている。
【0035】
フォトセンサアレイ100は、各部分例えば各行内に位置するセルが他の部分例えば他の行内に位置するセルとは異なる光子エネルギレンジにて光子を検知するように、また同一部分例えば同一行内に位置するセルが互いに異なる光子エネルギサブレンジにて光子を検知するように、例えば部位毎に異なる被覆によって覆われる等、異なる構造とされている。そのため、1個のICから得られる情報だけで、広範な光子エネルギレンジに亘り仔細に入射光子を解析することができる。加えて、基準セル群を設ければ、空間分解能の高いリアルタイムな基準信号を発生させることができる。
【0036】
このフォトセンサアレイ100の特徴の一つは、サブレンジセルの近傍に何個かの基準セルが設けられていることである。
【0037】
即ち、行102に属する各セルは、波長λallによって代表されるある適切な光子エネルギレンジ全体に亘り光子の検知を行いその結果を信号として出力する。この信号は、行104に属する近傍のセル用の基準信号として使用される。なお、セルの構成次第で出力信号の強度が異なるので、行102に属するセルから得られる信号の強度と、行104に属するセルのうちこれと対をなすセルから得られる信号の強度は、一般に異なるものになる。望みであれば、行102内のセルと行104内のセルの構成をそれ相応に異なる構成とすることによって、両信号強度を同じオーダにすることができる。
【0038】
他方、行104内にある各セルは、所定光子エネルギレンジを構成するサブレンジのうち、何れかのサブレンジにて光子を検知する。図示の例では、当該所定光子エネルギレンジの最短波長はλmin、最長波長はλmaxであり、これらの波長により光子エネルギレンジの広がりが定まっている。図中、セル106を例として示されているように、各セルはその光子エネルギレンジのサブレンジ例えば波長λpを中心とするサブレンジにて光子を検知する。IC68は、更に、これらのセルをアレイ化するためのアレイ回路や、フォトセンサアレイ100からの検知結果情報の読出に関連する各種機能を実行する周辺回路110を、内蔵している。
【0039】
図4に検知器アセンブリ87の構成例を示す。この図には、フォトセンサアレイを構成する幾つかのセル(例えば図3中の行104内のセル)及びそれらにより光子が検知されるサブレンジが、より詳細に示されている。この図に示す検知器アセンブリ87は、図中の上方向を空隙88側に向け、複数個のスペーサ72によって空隙88上方に支持することができる。
【0040】
図4に示されているのはフォトセンサアレイの一部分150の断面であり、この部分150内のセル群152の断面が模式的に示されている。セル群152の上方にあるのは、レンズアレイ部164からの入射光162を受け入れるための透過構造160である。レンズアレイ部164は、例えばSelfocレンズアレイ等のGRIN(gradient index)レンズアレイとして形成できる部材であり、この部材を設けることは必須ではない。レンズアレイ部164は、例えば、図2に示した空隙88を介して光を受け取ることができるよう、また透過構造160に対し平行ビームを供給できるよう、構成するとよい。平行ビームを供給することによってスペクトラム分解能が向上する。なお、Selfocは登録商標、GRINは商標である。煩雑さを避けるため、以下の記載ではこれらについての登録商標表記及び商標表記を省略する。
【0041】
透過構造160は例えば光透過横変(laterally varying;「横方向位置により異なる」の意)特性を有する膜とすることができる。透過構造160のうち図4に示されている部分は、楔状透過型(空胴)共振子170を反射膜172と反射膜174の間に挟み込んだ構造、即ち楔状ファブリペローエタロンを形成している。透過構造160の各部の厚みはx軸沿い位置の関数であり、当該x軸沿い位置によって異なる厚みであるので、透過構造160を透過する波長も当該x軸沿い位置の関数となり、各部位毎に異なる波長になる。
【0042】
透過構造160は、フォトセンサアレイ150の上又は上方に複数層に及ぶ適当な被覆、即ち図中の反射膜172及び174並びに共振子170を形成することによって形成できる。これら反射膜172及び174並びに共振子170は何れも、蒸着室内で堆積ビームにさらすことにより形成することができる。また、その均一厚み部分は軸揃え堆積法(on-axis deposition)により、厚み横変部分即ちその厚みが各部位の横方向位置により異なる部分は適当に軸を外した堆積法即ち軸外し堆積法(off-axis deposition)により、それぞれ形成することができる。更に、図4に例示した反射膜172及び174は共振子170に比べて厚みがある。SiO2、TiO2、Ta25等の非金属素材の層によりそれらを形成する場合、こうした厚みになる。反射性のある金属により形成する場合は、反射膜172及び174は図示の例よりかなり薄くてもよい。
【0043】
共振子170並びに反射膜172及び174の具体的な厚みは、所望透過波長λ及び共振子170の屈折率nから決定できる。まず、共振子170の厚みは典型的にはλ/(2n)又はその整数倍に設定し、反射膜172及び174内のブラッグミラー層の厚みは典型的にはλ/(4n)に設定する。各反射膜172,174を構成するブラッグミラー層のペア数は、それらを形成する二種類の素材間の屈折率差、所望透過波長域幅、並びに所望阻止波長域内反射率に応じ、例えば2〜5ペアという少数から20〜30ペアに至るまでの数値範囲内で、適宜設定することができる。そのため、この構成を実施する場合、反射膜172及び174は大抵は共振子170に比べかなり厚くなる。
【0044】
図5に透過構造160の光透過横変特性を示す。共振子170の厚みがx軸沿い位置の関数でありその値が部位間で相違しているため、共振子170を透過する波長もx軸沿い位置の関数となり部位毎に異なっている。図4に示した部分150内にあるセル群152は、x方向及びこれに直交するy方向に沿って二次元的に並んだセルをそのx軸沿い位置毎にまとめたものであり、図示されているセル群152の個数は9である。図5においては、これら9組のセル群152へと大部分の光子が透過する波長が反射率極小点として示されており、各反射率極小点に1〜9の符号が付されている。このように、透過構造160が高い光透過率を呈するサブレンジは、横方向位置に応じて部位毎に異なっている。
【0045】
図6に検知器アセンブリ87の別例構成を示す。この検知器アセンブリ87は透過構造180を備えている。透過構造180は例えば横グレーデッドブラッグミラーとして形成する。ここでいう横グレーデッドブラッグミラーとは、それを構成する層182、184、186及び188それぞれに横方向の勾配が付されているブラッグミラーのことである。層182、184、186及び188は、先の例で共振子170の形成に使用されていた手法と同様の手法で形成することができる。
【0046】
図7に透過構造180の光透過横変特性を示す。透過構造180の反射波長はx軸沿い位置の関数であり、部位毎に異なる波長の光が反射される。図7中の曲線200、202、204及び206は透過構造180各部の反射率、即ち図6に示された部分150内に存するセル群152のうち4個の上方にある部位での反射率を表している。例えば曲線200は図6で最左端にあるセル群152上方の部分の反射率であり、曲線206は4個のセル群152のうちの最右端の(即ち最左端から4個目の)セル群152上方の部分の反射率である。このように、透過構造180が高い反射率を呈するサブレンジは、各部横方向位置により異なっている。
【0047】
図8に透過構造形成手法の他の例を示す。この手法により形成される透過構造210は、光透過横変特性を呈する点で図5及び図7に示した構成と共通しているが、そうした光透過横変特性が二方向それぞれに沿って現れる点で異なっている。
【0048】
透過構造210は、フォトセンサアレイ100(図ではその一部分150)の上又は上方に形成される。その際には、堆積源212から透過構造210の表面に向けて堆積ビーム214を出射する。この堆積ビーム214はその方向によって特徴付けうる。即ち、図8の右半分に示すx方向断面及び左半分に示すy方向断面双方において、透過構造210の表面に対する堆積ビーム214の射突方向が傾いている。従って、堆積ビーム214の方向はそれら二種類の傾き角で記述でき、記述される堆積ビーム214の方向はx軸沿い位置及びy軸沿い位置に応じ各部毎に異なるものになる。このように堆積ビーム214のy方向断面内射突方向及びy方向断面内射突方向が共に傾いているため(それに伴い各部位から見た堆積ビーム214の到来方向が二次元的に異なっているため)、透過構造210においては、x軸沿い及びy軸沿い共に、程度の差はあるが、同じ傾向の厚み勾配が現れる。従って、ある方向に沿って並べられたセル間で光子検知可能なサブレンジが部位毎に異なることは図7に示したものと同様であるが、この例では更に、他方の方向に沿って並べられたセル間にも光子検知可能なサブレンジの部位間相違が生じる。
【0049】
図9に、光透過横変特性を呈する透過構造220をその物理的厚みに差を付けることなく形成する手法を示す。この図に示した手法の特徴は、実際の即ち物理的な厚みdに差を付けることなく、物理的な厚みdと屈折率nの積である光学的厚みd×nを横方向位置に応じ変化させ得るようにしたことである。
【0050】
この手法においては、まず、図9の上半分に示す如く、堆積源224からフォトセンサアレイ100(図ではその一部分150)の表面に向け堆積ビーム226を照射する。この照射は、均質且つ均一厚の被覆222が堆積し成長するように行う。
【0051】
次いで、図9の下半分に示す如く光源230から輻射232を発してフォトセンサアレイ100(図ではその一部分150)上の表面を横断走査する。これによって、屈折率がその横方向位置により異なる透過構造220が形成される。そのために使用する光源230は、例えば、y軸と平行な(即ち図9の紙面に垂直な)線上では発光出力強度Iが一定だが、それらの線同士では発光出力強度Iが異なる紫外光源とする。図中の線の中では、最左端の線上の発光出力強度Iが最低値Iminであり、最右端の線上の発光出力強度Iが最高値Imaxである。従って、フォトセンサアレイ100(図ではその一部分150)内に存するセル群に向け透過する光の波長も、図中最左端における最短波長λminから最右端における最長波長λmaxまで、x軸沿い位置によって異なる長さになる。また、複数個のフォトセンサアレイを並べ、それら複数個のフォトセンサアレイに対し単一の光源230から同時に同一強度パターンで光を当てて横断走査することもできる。並べ方等が適切であれば、この手法により複数個のフォトセンサアレイをバッチ生産することができる。更に、図8に示した手法で得られる二次元横変構造も、この手法を応用して実現することが可能である。
【0052】
図6〜図8に示すように、フォトダイオードアレイ等のフォトンセンサアレイ100の上方に1個のDBR(分布型ブラッグ反射)ミラーが組み込まれており、且つそのミラーの光透過特性が僅かに横変している構成においては、各セルに流れる光電流の大きさがそのセルへの入射光のスペクトラムによって異なり、従って例えばその隣にある別のセルに流れる光電流と比べても僅かに異なる大きさになる。そのため、DBRミラーのうちセル上方に位置する部分での光透過特性がセル毎に解っていれば、各セルに流れる光電流に基づきそもそもの入射光スペクトラムを再現することができる。このとき、セルの個数によってスペクトラム再現用スペクトラム点数が決まり、ひいてはスペクトラム分解能が決まる。こうした手順によるスペクトラム再現が最もうまくいくのは、あるセルでは良好な透過特性を示すがその隣のセルでは示さない、というようにセル間で急峻な透過特性変化を呈する波長である。
【0053】
図4に示した被覆を試作してみたところ、個々のサブレンジにおける光子透過率として約60%という典型値が得られた。また、各サブレンジの幅は、波長でいうなら例えば0.01〜数十nmの範囲内の広さにするとよい。どの程度の幅にするかはそのフォトセンサアレイにおける被覆の構造及び勾配並びにセルのサイズによって変わる。また、フォトセンサとして高感度のもの例えばアバランシェフォトセンサアレイを使用することによって、受光出力強度を格段に高めることができる。
【0054】
行104の上又は上方にある透過構造160、180、210及び220と違い、行102の上又は上方にある透過構造その他の被覆は、波長λallによって代表される光子エネルギレンジ全体に亘ってグレイフィルタとして機能させる必要がある。それは、好適な基準信号が得られるようにするためである。用途によっては、行102を被覆しないようにしてもよかろう。
【0055】
図10に、線10−10(図1参照)に沿ったアナライザ10の断面、即ち光吸収検知部材54の特徴的構成例えばIC64の断面を、模式的に示す。
【0056】
矢印線242で示すようにチャネル14の構成部分240内を下流へと移動中の物体16は、図中光源244として示されている励起部材から励起光を受光する。光源244としては、その発光波長域が広い適当な照明部材、例えばLEDやハロゲンランプ等の白色光源を使用する。チャネル構成部分240は、光標的間相互作用を強化する機能を有する。例えば、光源244からの光に対し反共振光導波路として機能することによって、その光と物体16内の検体との間の相互作用を強化する。
【0057】
光源244から励起光を受光した物体16はその光を吸収し又は散乱させる。その結果生じる反射光は、励起光のスペクトラム分布とは異なったスペクトラム分布を有しており、IC64上のフォトセンサアレイ100を構成するセル群により検知される。例えば、物体16に含有される検体がある特定のサブレンジに属する光子を吸収する検体である場合、当該吸収を表すスペクトラム分布即ち吸収性スペクトラム分布が検知されることとなる。また、物体16は、チャネル構成部分240内を通り抜ける間、途切れなしに励起光を受光し続ける。そのため、物体16がチャネル14の構成部分240内を通っている間、物体16からの反射光が途切れなしに且つIC64上の何れかのセルによって受光され続け、その結果として得られる検知結果はスペクトラム分布例えば吸収性スペクトラム分布の再現に使用できる内容になる。その後物体16が湾曲部246に着きチャネル構成部分240ひいては光吸収検知部材54から出ていくと、セル群により検知される光は励起光になり、再現できるスペクトラム情報も元々の即ち励起光のスペクトラムを示すものに戻る。
【0058】
図11に、図10に示したものと同様の線に沿ったアナライザ10の断面を模式的に示す。但し、この図に示したのはラマン後方散乱を検知するラマン散乱検知部材60の断面である。同図中に示した特徴的構成の多くは、光吸収検知部材54内対応部分と同様にして実現されている。
【0059】
この図の構成では光源244からの励起光が上流から入射される。この励起光は、湾曲部250からチャネル構成部分240内に入ってきた物体16により受光され、その物体16又はその内部の検体によってラマン散乱される。その結果生じる後方散乱光におけるスペクトラム分布は、励起光におけるスペクトラム分布とは異なるものになる。この後方散乱光は、アセンブリ252に内蔵されるIC70上のフォトセンサアレイ100を構成するセル群によって、検知される。なお、ここでは励起光を上流から入射しているので、チャネル14の構成部分240の上流端、チャネル14外の場所にセル群を配置してあるが、チャネル構成部分240の下流側から光源244によりチャネル構成部分240を照明する構成を採る場合は、セル群もチャネル構成部分240の下流端、チャネル14外の場所に配置する。アセンブリ252の構成は相応の構成にすればよい。チャネル構成部分240内を通っている間中、物体16は途切れなく励起光を受光し続けるので、アセンブリ252に内蔵されるIC上のセル群も、物体16がチャネル14の構成部分240内を通っている間中、後方散乱光スペクトラムを検知し続ける。物体16がラマン散乱検知部材60から出ていくと、セル群により検知される光のスペクトラム分布は元々の即ち励起光のそれに戻る。
【0060】
また、フォトセンサアレイ100を構成するセルのうち行102内のセルは基準情報を得るのに使用される。得られる基準情報は、チャネル14の特性に起因して生じる不均一性乃至不均質性、特に位置に依存した不均一性乃至不均質性の補正に使用される。更に、アセンブリ252に内蔵されるIC70を構成するフォトセンサアレイ100は、チャネル壁を含め図中のチャネル14の切り子全体を覆うように設けるとよい。
【0061】
図12に、フォトセンサアレイ上に透過構造を形成する方法の一例を示す。この方法によりその上に透過構造が形成されるフォトセンサアレイは、適用対象とする光子エネルギレンジのほぼ全体に亘り光子を検知する基準セルと、当該光子エネルギレンジのうちの対応するサブレンジにて光子を検知するサブレンジ検知セル即ちサブレンジセルと、を有するフォトセンサアレイ、即ちサブレンジセルによる光子量検知結果を表す信号を基準セルによる光子量検知結果に基づき調整できるフォトセンサアレイである。
【0062】
このフォトセンサアレイを作動させると、光子量検知結果として、適用対象光子エネルギレンジ中の個々のサブレンジにおける光子量検知結果即ち第1光子量検知結果と、当該適用対象光子エネルギレンジ全体を通した光子量検知結果即ち第2光子量検知結果とが得られ、更には第2光子量検知結果に基づき第1光子量検知結果を調整した値を有する信号が得られる。得られる信号の値は従って第1及び第2光子量検知結果双方に依存している。また、第2光子量検知結果に基づく第1光子量検知結果の調整は、第1光子量検知結果に対する近似値を与え更にその近似値に対し第2光子量検知結果に依存するかたちで修正を施す関数に従い、行われる。この関数としては、例えば、第2光子量検知結果に基づき第1光子量検知結果を正規化する関数を使用できる。但し、正規化は好適に使用できる関数の一例に過ぎず、使用することができる関数は数多くある。
【0063】
図12に示す形成方法を用いることによって、図3に示したフォトセンサアレイ100用の透過構造を、好適に形成することができる。即ち、行102には基準セル群が含まれ行104にはサブレンジセル群が含まれるフォトセンサアレイ100を、好適に形成することができる。但し、それ以外の透過構造も形成可能である。
【0064】
図12中、ステップ300においては基準セル用被覆が形成される。被覆を形成するに際しては、フォトセンサアレイ100上に直に当該被覆を形成してもよいし、或いは光透過性を有する基板上に当該被覆を形成しその基板をフォトセンサアレイ100上に配置するようにしてもよい。被覆形成手法としては、例えば、基準セル領域のみが露出されるようフォトリソグラフィによってマスクを形成し、次いで例えば誘電体多層構造又は金属薄膜群の電子ビーム成長法等により基準セル用被覆をマスク上に均一且つ均質に堆積乃至成長させ、そしてリフトオフ処置によってマスク及び非露出部分の被覆を除去する、という手法を使用することができる。或いは、フォトセンサアレイ上又は光透過性基板上全体に均一且つ均質な被覆を(例えば誘電体多層構造又は金属薄膜群の電子ビーム成長法によって)堆積乃至成長させ、そしてその均一均質比被覆に関し次に述べる一連の処置を施す、という手法も使用することができる。
【0065】
ステップ300を終えたら、次いでステップ302、304及び306に係る処置を実施してサブレンジセル用被覆を形成する。即ち、まずステップ302にて、一部サブレンジセル群が露出されるよう、例えばフォトリソグラフィによってマスクを形成する。
【0066】
次のステップ304ではマスク上に別の層を堆積、成長させる。このとき、ステップ300にてどのような被覆が形成されているかによって、ステップ304にて実施する処置の内容を変えるとよい。例えば、ステップ300にて均一被覆が形成されたのが基準セル上方だけであり残りが未被覆のまま残されているのであれば、ステップ304では、例えば誘電体多層構造又は金属薄膜群の電子ビーム成長法によって、その光学的厚みが横変する被覆例えば楔状被覆を堆積、成長させればよい。逆に、ステップ300にて全セル上方に均一均質被覆が形成されているのであれば、ステップ304では、まずその光学的厚みが横変する被覆例えば楔状被覆を堆積、成長させ、次いで均一均質被覆をもう一層堆積、成長させればよい。後者の場合、機能的には、ステップ304で形成した光学的厚み横変被覆が空胴(共振子)となり、ステップ300で形成した下側の均一均質被覆が共振子下側のミラーとなり、ステップ304で形成した上側の均一均質被覆が共振子上側のミラーとなる。
【0067】
ステップ304に係る処置が終了したら、次いでステップ306に係る処置を実施することにより、ステップ302にて露出させたサブレンジセル群を除く全領域から、ステップ302にて形成した被覆を除去する。この処置は、例えば、ステップ302にて形成したマスクをその上に堆積、成長させた被覆素材もろともに除去するリフトオフ処置によって、実施するとよい。ステップ306からステップ302に戻る破線で示されているように、ステップ302、304及び306に係る一連の処置は、全てのサブレンジセルが好適に被覆されるに至るまで、サブレンジセル群毎に且つ繰り返し実施される。
【0068】
ステップ308では必要な処置を実施し組立を終了させる。例えば、フォトセンサアレイ等を含むICに対し被覆を位置決めし実装する、IC上の回路と外部回路との間で通信を実行することができるようコネクタその他の回路を付加する、被覆付ICの上方或いはこれを取り巻くようにハウジングを付加する等々の処置を実施する。
【0069】
また、先に図3に示した例では、サブレンジセルとこれと対をなす基準セルとが互いに別々の行内に隣り合って配されるよう、それぞれ複数個のセルからなる複数個の行が並べて形成されている。こうした構成においては、行104に属するセルによる光子量検知結果即ちIsubrangeを、これと対をなす基準セルによる光子量検知結果即ちIrefに基づき、例えば比を演算する簡単な式Inorm=Isubrange/Irefを用いて正規化することができる。この要領による正規化は、基準セルが被覆されているか否かを問わず適用することができる。また、対をなす基準セル同士が互いに同じ検知領域面積を有し且つ互いに同じ入射光減衰量を呈しているサブレンジ群に対しては、入射光減衰量が光子エネルギに依存していない場合、この要領による正規化を適用することができる。光子エネルギに対する入射光減衰量の依存性を抑えるには、例えばグレイフィルタリングを施せばよい。グレイフィルタリングには、更に、受光強度が1/10〜1/100倍に抑制されるためサブレンジセル間信号値相違に比べ基準セル間信号値相違が小さくなる、という効果もある。従って、グレイフィルタリングを実施することによって信号に対する処置をより好適に行うことが可能になり、例えばCCD(電荷結合デバイス)オーバフロー等の問題を回避することができる。
【0070】
図13〜図15に、それぞれ、上述した単純な手法による正規化だけでなくそれ以外の手法による正規化も実施可能なサブレンジセル及び基準セル配置の例を示す。各図中、波長を示す符号λn(λ1、λ2、…)が付されているのがサブレンジセル、付されていないのが基準セルである。また、先に図8に示した構成では、同一列に属する複数個のサブレンジセルが互いに異なるサブレンジにて光子を検知していたが、図13〜図15に示した構成では、同一列に属するサブレンジセルが、互いに概ね同一のサブレンジにて光子を検知する。
【0071】
まず、図13に示すアレイセグメント330は、図示の如く、フォトセンサアレイのうち5個の行340、342、344、346及び348(符号:R1〜R5)並びに5個の列350、352、354、356及び358(符号:C1〜C5)からなる部分である。そのうち、行340、344及び348に属するセルが適用対象光子エネルギレンジのほぼ全体を通して光子を検知する基準セルであるのに対し、行342及び346に属するセルは、当該適用対象光子エネルギレンジのうちの個々のサブレンジにて光子を検知するサブレンジセルである。また、同じ行342,346に属するセル同士は互いに異なるサブレンジにて光子を検知する。
【0072】
図中のアレイセグメント330においては、一直線に並んだサブレンジセル群と一直線に並んだ別のサブレンジセル群の間に基準セル群が一直線に並んでおり(即ち行342と行346の間に行344があり)、更に、一直線に並んだ基準セル群と一直線に並んだ別の基準セル群の間にサブレンジセル群が一直線に並んでいる(即ち行340と行344の間に行342があり行344と行348の間に行346がある)。更に、図中のセルは皆、実質的に同じ広さの検知領域を有している。
【0073】
次に、図14に示すアレイセグメント370は、行380、384及び388が基準セルからなり行382及び386がサブレンジセルからなる点ではアレイセグメント330と同様であるが、図示の如く、行380、384又は388に属する各基準セルの検知領域が、行382又は386に属する各サブレンジセルの検知領域に比べかなり狭くなっている。例えば、基準セルにおける光子量検知結果とサブレンジセルにおける光子量検知結果がおよそ等しい振幅になるようにするには、こうした手法を用いて各セルにおける光子量検知結果を調整すればよい。基準セル対サブレンジセル検知領域面積比の具体的な値は、用途に応じて設定すればよい。通常、サブレンジセルへの入射光は、その上方の透過構造にて光反射が生じている分、弱くなっているので、この入射光強度低下分を考慮に入れて、当該比の値を設定するとよい。
【0074】
図13及び図14に示した例においては、i番目の行及びj番目の列に属するサブレンジセルによる光子量検知結果を示す強度値I(i,j)を、その近傍にある基準セル乃至基準セル群による光子量検知結果に基づき、また様々な手法で、正規化することができる。即ち、r番目の行(即ち行342、346、382又は386)及びc番目の列に属するセルによる光子量検知結果についての正規化後強度値Inorm(r,c)は、次に例示する何れの式によっても算出することができる。また、これらの式のうち幾つかは、図3に示した構成にも適用することができる。
[数1]
I(r,c)/I(r−1,c)
[数2]
I(r,c)/I(r+1,c)
[数3]
2・I(r,c)/{I(r−1,c)+I(r+1,c)}
[数4]
6・I(r,c)/Σ{I(r−1,j)+I(r+1,j)}
(但しΣはj=c−1からj=c+1までの総和)
なお、これらの式は一例に過ぎず、基準セルによる光子量検知結果に基づく正規化その他の調整は、他の式乃至手法によっても好適に実施することができる。
【0075】
そして、図15に示すアレイセグメント400は、行410、414及び418が基準セルからなり行412及び416がサブレンジセルからなる点でアレイセグメント330及び370と同様であり、また行410、414又は418に属する各基準セルの検知領域が行412又は416に属する各サブレンジセルの検知領域に比べかなり狭いという点でアレイセグメント370と同様であるが、行410又は418に属する各基準セルの検知領域が行414に属する各基準セルの検知領域に比べかなり狭く、図示の如く前者に対し後者が実質的に2倍の広さになっている。この例においては、正規化後強度値Inorm(r,c)を、次に例示する何れの式によっても算出することができる。
[数5]
I(r,c)/I(r−1,c)
[数6]
I(r,c)/I(r+1,c)
[数7]
3・I(2,c)/{2・I(1,c)+I(3,c)}
[数8]
3・I(4,c)/{2・I(5,c)+I(3,c)}
この式中、数5及び数6は行412及び416の何れに属するサブレンジセルに対しても好適に適用できるが、数7は行412に属するサブレンジセルのみ、数8は行416に属するサブレンジセルのみに対して好適に適用できる。
【0076】
図13〜図15中の行342、346、382、386、412及び416におけるセル間のサブレンジの相違は、上述した何れの手法によっても実現できるが、上述した手法以外にもそうした相違を実現できる手法がある。例えば、図16に例示するフォトセンサアレイ150では、その基準セル(図示せず)には被覆を施さないか或いはグレイフィルタを付すこととする一方、そのサブレンジセル152に対する光の入射は、DBRミラー442とDBRミラー444とに挟まれた均一均質なファブリペロー(空胴)共振子440を介して行うようにしている。また、この例における共振子440並びにミラー442及び444は、光透過横変特性が生じないよう形成されているが、光入射角によってミラー442及び444の透過特性及び反射特性が異なるため、各セル152は互いに異なるサブレンジにて光子を検知することとなる。即ち、各セルを照明する光の入射角が各セル毎に有意に異なるので、各セルに対しその前段の透過構造が呈する特性は、互いに隣り合うセル同士で異なる特性となる。
【0077】
この例においては、例えば点状又はスリット状の光源450をアセンブリ87の上方に配置する。図16には、この光源450から発せられる光線のうち3本が例示されている。そのうち光線452は、法線に対する入射角の傾きが0°であるので、図中最左端にあるサブレンジセルに向かい透過構造を最短光路で通過していく。これに対し、光線454は法線に対する入射角の傾きが30°(即ち図示の通り透過構造表面に対する傾きが60°)であり、光線456は法線に対する入射角の傾きが60°であるので、光線454及び456は光線45が透過構造内で辿る経路に比べて長い経路を透過構造内で辿ることとなる。そのため、波長に対する反射率の関係をグラフにすると先に図5に示したものとよく似たグラフになる。即ち、ある特定の光子エネルギを有する光子は、その入射角範囲に応じ、サブレンジセルのうち1個又は数個だけを照明する。
【0078】
図17に、アナライザ10を動作させうるシステム500を示す。この図のシステム500は、バス504を介し各種部材をCPU(中央処理ユニット)502に接続した構成を有している。
【0079】
システム500は、共にバス504に接続された外部I/O(入出力部)506及びメモリ508を備えている。外部I/O506は、CPU502がシステム500外の装置と通信できるようにする部材である。
【0080】
バス504にはこれら以外にも様々な部材が接続されている。まず、集積回路I/O510は、CPU502がアナライザ10内のICと通信できるようにする部材であり、この図にはICとして第0IC512から第M−1IC514に至るΜ個のICが示されている。また、それらIC512〜514はフォトセンサアレイを内蔵している。この図では、第mIC516の内部にフォトセンサアレイ518が描かれている。フォトセンサアレイ518は、先に述べた通りサブレンジ群及び基準セル群を有している。同様に、流路形成装置I/O520もCPU502が各種流路形成装置と通信できるようにする部材であり、この図には流路形成装置として第0装置522から第N−1装置524に至るN個の装置が示されている。
【0081】
メモリ408としてはプログラムメモリ430等が設けられている。プログラムメモリ430内には、図示の如く、検知光子量ルーチン532等のルーチンが格納されている。検知光子量ルーチン532は、実行時にサブルーチン534、536及び538を呼び出す。サブルーチン534はサブレンジセル群及び基準セル群から光子量検知結果を取得するサブルーチンであり、サブルーチン536はサブレンジセルによる光子量検知結果をその近傍にある1個又は複数個の基準セルによる光子量検知結果に基づき調整する際等に呼び出されるサブルーチンであり、サブルーチン538はサブルーチン534にて取得された未調整の光子量検知結果或いはサブルーチン536にて調整された光子量検知結果を外部I/O506を介し出力するサブルーチンである。
【0082】
また、システム500内のIC例えば第mIC516に、サブルーチン534及び536の機能を実現する周辺回路110を内蔵させてもよい。このようにすると、CPU502は第mIC516から直に調整済の光子量検知結果を取得でき、従ってCPU502にて光子量検知結果を調整する必要がなくなる。この場合、周辺回路110は、例えば、個々のサブレンジセルから光子量検知結果を読み出しそれをアナログ出力する部材542、これと対をなす基準セルから光子量検知結果を読み出しそれをアナログ出力する部材544、これら部材542及び544のアナログ出力間の差又は比を求める差動増幅器を有する回路546、部材542及び544のアナログ出力をディジタル化して出力する部材540及び548等を、備える構成とする。また、この場合、CPU502は、図17中のサブルーチンを図示の順序とは異なる順序で実行する。即ち、CPU502はまずサブルーチン536を実行する。この場合におけるサブルーチン536は先の動作と異なっており、フォトセンサアレイ518が光子を検知する検知周期の間待機し周辺回路110により各サブレンジの光子量検知結果を調整させる動作を含んでいる。次いで、CPU502は、サブルーチン534を実行してフォトセンサアレイ518から調整済の光子量検知結果を取得する。そして、CPU502はサブルーチン538を実行する。
【0083】
図18に、サブルーチン534にて取得された光子量検知結果と、サブルーチン536にて調整された光子量検知結果との関係を、グラフにより示す。これらの光子量検知結果は共にサブルーチン538にて出力することができる。図中の曲線560は、多数のサブレンジセルから受け取った光子エネルギの関数である未調整の受光強度を示す曲線であり、曲線562は、光子エネルギの関数である調整済の受光強度、即ち近傍の基準セル又は基準セル群による光子量検知結果に基づく調整を受けた受光強度を示す曲線である。
【0084】
以上例示説明した構成によれば、コンパクト且つ安価なコンポーネントが得られる。また、得られるコンポーネントを使用すれば分光分析等の機能を実現でき、その際、概ね、機械部品や光学部品を別途追加する必要もない。検知結果の読出は多数のICから迅速且つ並列的に行うことができる。好適な被覆素材を用いまた相応の個数のICを用いているため、広範囲に亘る光子エネルギに対処することができる。対処できる光子エネルギレンジは、おおよそ、紫外域から遠赤外域更にはTHz周波数域に及ぶ。また、それらのICは流路形成システム等のより複雑な又はより大規模なシステム内に統合することができ、分光分析や波長偏倚検知等を含め複数の機能の実現に使用することができる。こうしたICがとりわけ有用なのは、フォトセンサアレイ上に光が均一に拡散していかない分光分析の分野である。それは、近傍の基準セル又は基準セル群を使用して正規化その他の調整を光子量検知結果に施すことができるためである。
【0085】
また、以上説明した各種部材は、様々な形状、寸法、特性数値、質的特性等を有し又は呈するものとすることができる。
【0086】
更に、上の説明では、流路付構造物、フォトセンサアレイ、透過構造等を構成する素材として特定の素材を示したが、使用できる素材は多様であり、また別々の素材により形成された副層を様々に組み合わせて層構造としたものを使用することもできる。
【0087】
上の説明では、それぞれ特定の種類の透過構造を有する構成を示したが、説明した各種の透過構造はそれぞれ一例に過ぎず、横方向位置によるエネルギ分布の違い或いは光透過横変特性例えば光学的厚みの横方向位置による違いを実現できる限り、どのような構成の透過構造でも使用可能である。横変性のある透過構造は、説明していないものも含め、様々な手法により形成することができる。
【0088】
更に、互いに異なるサブレンジにて光子を検知する複数個のセルからなるフォトセンサアレイが得られるものであれば、透過構造を使用しない構成でもよく、使用できる構成は種々あろう。
【0089】
以上の説明においては、その内部を流体が流れ物体が運ばれる流路を有する構造物に対し特定の形態でICを配置した例を示したが、流路付構造物に対するICの配置の仕方、設け方は説明したもの以外にも色々あろう。流路付構造物を伴わない構成とすることもできる。また、一例を挙げると、まずは400〜700nmの波長域に属する蛍光又は散乱光を検知すべく、透過域が400〜700nmで光透過横変特性を有するフィルタを備えたICによって検体の事前検査を行い、その後、別のICを用いてより細かな検査例えば100〜数千cm-1レンジでのラマン分光分析を行うこともできる。また、ある単一のIC上にある単一の二次元フォトセンサアレイ内で、ある行と別の行とに別様の被覆を施し、別々の光子エネルギレンジにて光子検知を行わせるようにしてもよい。
【0090】
また、上述した構成のうち幾つかにおいては、蛍光を生成、検知できるよう光標的間相互作用を強化する機能を備えた流路付構造物を用いている。こうした手法は、総じて、自己発光(self-emitting)乃至自発蛍光(auto-fluorescing)する物体例えば粒子に対しても、適用できる。更に、その発光機構は、蛍光、フォトルミネッセンス、ケモルミネッセンス、非弾性散乱等、様々な機構の何れであってもよい。また、上述した反共振光導波という手法は光標的間相互作用を強化するのに使用できる多様な手法の一例に過ぎず、反共振光導波以外の励起手法を経路沿いの随所で、また隣り合った場所でも、使用することができる。更に、反共振光導波を実現すべく調整することが可能なパラメタは幾つかあるが、そのうち一つはチャネルを取り巻く水晶乃至ガラスの形状である。この構造は全体として薄い方がよく、またその表面がチャネルに対して平行であることが求められることが多かろう。
【0091】
また、図17に例示した構成ではCPUが用いられているが、これは、適当なものである限り、マイクロプロセッサその他の部材に置き換えてもよい。更に、光子量検知結果の調整はディジタル的に行ってもアナログ信号により行ってもよいし、またその光子量検知結果が得られたフォトセンサアレイがあるのと同じIC上で行っても他の部材上で行ってもそれらの組合せにより行ってもよい。これは、各種のソフトウェアやハードウェアを適宜組み合わせて実行すればよい。
【0092】
上に例示した各種構成では、各種構成部材が特定の形態で動作するように製造及び使用されているが、本発明の技術的範囲に属する限り、説明した動作とは異なる動作を実行するようにしてもよいし、説明した順序とは異なる順序で動作を実行させてもよいし、説明外の動作を実行するようにしてもよい。例えば、ICから調整済の又は未調整の光子量検知結果を読み出す動作は、順次読出として実行してもよいし並列読出として実行してもよい。また、セル毎の読出として実行してもよいしストリーミング読出として実行してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】流路付構造物上のアナライザを示す模式図である。
【図2】上記アナライザの2−2断面を示す模式的断面図である。
【図3】上記アナライザにて使用しうるアセンブリの一例構成を示す模式的平面図である。
【図4】上記アナライザにて使用しうるアセンブリの一例構成を示す模式的断面図である。
【図5】図4中の透過構造の光透過横変特性を示すグラフである。
【図6】上記アナライザにて使用しうるアセンブリの別例構成を示す模式的断面図である。
【図7】図6中の透過構造の光透過横変特性を示すグラフである。
【図8】上記各アセンブリにて使用しうる透過構造の一例形成方法を示す図である。
【図9】上記各アセンブリにて使用しうる透過構造の別例形成方法を示す図である。
【図10】上記アナライザの10−10断面を示す模式的断面図である。
【図11】後方散乱検知部材について同様の断面を示す模式的断面図である。
【図12】上記各透過構造の概略製造手順を示すフローチャートである。
【図13】上記アセンブリにて使用しうるフォトセンサアレイの一例セグメントを示す模式的平面図である。
【図14】上記アセンブリにて使用しうるフォトセンサアレイの別例セグメントを示す模式的平面図である。
【図15】上記アセンブリにて使用しうるフォトセンサアレイの別例セグメントを示す模式的平面図である。
【図16】上記アナライザにて使用しうるアセンブリの一例構成を示す模式的断面図である。
【図17】上記アナライザを制御するシステムを示す模式的ブロック図である。
【図18】上記システム内のCPUから得られる出力を示すグラフである。
【符号の説明】
【0094】
10 アナライザ、14 チャネル、16 物体、64〜70,512〜516 IC(集積回路)、80,240 チャネル構成部分、86,162,452〜456 入射光(光線,光束)、87,252 検知器アセンブリ、100,518 フォトセンサアレイ、102,104,340〜348,380〜388,410〜418,R1〜R5 行、106 セル、110 周辺回路、150,330,370,400 フォトセンサアレイの一部分(セグメント)、152 セル群、160,180,210,220 透過構造、350〜358,C1〜C5 列、502 CPU、532 検知光子量ルーチン、560 未調整受光強度、562 調整済受光強度、λall 基準セルの代表波長、λp,λ1〜λ5 サブレンジセルの代表波長、λmin 最短波長、λmax 最長波長。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その部位毎に光子放出量が異なる経路からの光子検知を、1個又は複数個の第1及び第2セルを有するフォトセンサアレイ付の集積回路により、当該経路を構成する複数個のセグメントにて個別に行うステップを有し、
上記個別セグメント内光子検知を、適用対象光子エネルギレンジのほぼ全体を通じた入射光子量を1個又は複数個の第1セルで、また当該適用対象光子エネルギのサブレンジのうちそのセグメントに対応するサブレンジ内での入射光子量をそのセグメントに対応する1個又は複数個の第2セルで、それぞれ検知することにより行い、
そして上記複数個のセグメントのうち少なくとも2個が、対応するサブレンジが互いに異なるセグメントである適用対象光子エネルギレンジ内光子エネルギ検知方法。
【請求項2】
その部位毎に光子放出量が異なる経路沿いに配置されたフォトセンサアレイを有する集積回路と、上記フォトセンサアレイを構成するセルに応答する調整回路と、を備え、
上記フォトセンサアレイが、適用対象光子エネルギレンジのほぼ全体を通じた入射光子量を検知する1個又は複数個の第1セルと、当該適用対象光子エネルギのサブレンジのうちそのセグメントに対応するサブレンジ内での入射光子量を検知する1個又は複数個の第2セルとを、上記経路を構成するセグメント毎に且つ複数個のセグメントそれぞれに沿って備え、
上記調整回路が、上記経路を構成するセグメントのうち少なくとも1個について、そのセグメントに対応するサブレンジにおける入射光子量を上記適用対象光子エネルギレンジ全体を通じた入射光子量に基づき調整した値を示す信号を、そのセグメントに対応する1個又は複数個の第1及び第2セルによる入射光子量検知結果を双方とも用いて発生させる回路であり、
上記複数個のセグメントのうち少なくとも2個のセグメントが、対応するサブレンジが互いに異なるセグメントである適用対象光子エネルギレンジ内光子エネルギ検知システム。
【請求項3】
少なくとも1本の第1ラインに沿って並んだ第1セル及び少なくとも1本の第2ラインに沿って並んだ第2セルを含むフォトセンサアレイであって第1セルとその近傍の第2セルとの対である第1第2セル対を1個又は複数個含むフォトセンサアレイを有する集積回路と、
第2ライン上方にあり第2セルに対する光子入射に介在する第2ライン向け透過構造と、
を備え、
第1第2セル対のうち少なくとも1個にて、第1セルが適用対象光子エネルギレンジのほぼ全体を通し入射光子を受け取り、第2セルが当該適用対象光子エネルギレンジのサブレンジのうち対応するサブレンジ内の入射光子を第2ライン透過構造を介して受け取る適用対象光子エネルギレンジ内光子エネルギセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−171191(P2007−171191A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342377(P2006−342377)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】