光照射装置、結晶化装置、結晶化方法、およびデバイス
【課題】 例えばTFTの作製に適用した場合に、TFTの移動度の向上およびTFT間の移動度の均一化を実現することのできる結晶化装置。
【解決手段】 光を位相変調する光変調素子(1)と、光変調素子により位相変調された光に基づいて、長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に所定の光強度分布を形成する結像光学系(3)と、非単結晶半導体膜を保持するステージ(5)とを備え、非単結晶半導体膜に所定の光強度分布を有する光を照射して結晶化半導体膜を生成する。所定の光強度分布は、短冊状の繰返し領域の短辺方向の中心線に沿って下に凸で且つ短冊状の繰返し領域の長辺方向の中心線に沿って下に凸の分布を有する。短冊状の繰返し領域の中心から長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線を有し、該凸状に湾曲した等強度線のうち少なくとも1本の先端部の曲率半径は0.3μm以下である。短冊状の繰返し領域の短辺方向のピッチは2μm以下である。
【解決手段】 光を位相変調する光変調素子(1)と、光変調素子により位相変調された光に基づいて、長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に所定の光強度分布を形成する結像光学系(3)と、非単結晶半導体膜を保持するステージ(5)とを備え、非単結晶半導体膜に所定の光強度分布を有する光を照射して結晶化半導体膜を生成する。所定の光強度分布は、短冊状の繰返し領域の短辺方向の中心線に沿って下に凸で且つ短冊状の繰返し領域の長辺方向の中心線に沿って下に凸の分布を有する。短冊状の繰返し領域の中心から長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線を有し、該凸状に湾曲した等強度線のうち少なくとも1本の先端部の曲率半径は0.3μm以下である。短冊状の繰返し領域の短辺方向のピッチは2μm以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射装置、結晶化装置、結晶化方法、およびデバイスに関する。特に、本発明は、所定の光強度分布を有する光を非単結晶半導体膜に照射して結晶化半導体膜を生成する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば液晶表示装置(Liquid-Crystal-Display:LCD)の表示画素を選択するスイッチング素子などに用いられる薄膜トランジスタ(Thin-Film-Transistor:TFT)は、非晶質シリコン(amorphous-Silicon)や多結晶シリコン(poly-Silicon)を用いて形成されている。
【0003】
多結晶シリコンは、非晶質シリコンよりも電子または正孔の移動度が高い。したがって、多結晶シリコンを用いてトランジスタを形成した場合、非晶質シリコンを用いて形成する場合よりも、スイッチング速度が速くなり、ひいてはディスプレイの応答が速くなる。また、周辺LSIを薄膜トランジスタで構成することが可能になる。さらに、他の部品の設計マージンを減らせるなどの利点がある。また、ドライバ回路やDACなどの周辺回路をディスプレイに組み入れる場合に、それらの周辺回路をより高速に動作させることができる。
【0004】
多結晶シリコンは結晶粒の集合からなるため、例えばTFTを形成した場合、チャネル領域に結晶粒界が形成され、この結晶粒界が障壁となり単結晶シリコンに比べると電子または正孔の移動度が低くなる。また、多結晶シリコンの基板に形成された多数の薄膜トランジスタは、チャネル部に形成される結晶粒界数が各薄膜トランジスタ間で異なり、これがバラツキとなって周辺回路であればその設計マージンを狭くしたり、液晶表示装置であれば表示ムラの原因となったりする。そこで、最近、電子または正孔の移動度を向上させるために、チャネル内のキャリア移動方向に粒界のない構造の大粒径の結晶化シリコンを生成する結晶化方法が提案されている。
【0005】
従来、この種の結晶化方法として、位相シフター(光変調素子)にエキシマレーザ光を照射し、それによるフレネル回折像もしくは結像光学系による結像を非単結晶半導体膜(多結晶半導体膜または非単結晶半導体膜)に照射して結晶化半導体膜を生成する「位相制御ELA(Excimer Laser Annealing)法」が知られている。位相制御ELA法の詳細は、たとえば表面科学Vol.21, No.5, pp.278-287, 2000に開示されている。
【0006】
位相制御ELA法では、位相シフターの位相シフト部に対応する点において光強度が周辺よりも低い逆ピークパターン(中心において光強度が最も低く周囲に向かって光強度が急激に増大する、例えば、V字型のパターン)の光強度分布を発生させ、この逆ピーク状の光強度分布を有する光を非単結晶半導体膜に照射する。その結果、被照射領域内において光強度分布に応じて溶融領域に温度勾配が生じ、光強度が最も低い点に対応して最初に凝固する部分もしくは溶融しない部分に結晶核が形成され、その結晶核から周囲に向かって結晶が横方向に成長(以降、「ラテラル成長」または「横方向成長」と呼ぶ)することにより大粒径の単結晶粒が生成される。
【0007】
本出願人は、一方向に沿ってV字状に変化する光強度分布(V字型の光強度分布)を有する光を非単結晶半導体膜に照射することにより、光強度の勾配方向に沿って一次元的に結晶を成長させる技術、すなわち一次元結晶化の手法を提案している(例えば特許文献1を参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2004−343073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、従来技術における一次元結晶化では、後述するように、散乱の原因となる結晶粒界がチャネルにおいてキャリヤの移動方向を横切るため、移動度が低下する。また、移動度を決定する要因である結晶方位が結晶粒毎に異なり且つチャネル内での結晶粒の数が比較的少ないため、複数の結晶粒による平均化効果を十分に得ることができず、移動度がTFT間で均一化されない。
【0010】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであり、例えばTFTの作製に適用した場合に、TFTの移動度の向上およびTFT間の移動度の均一化を実現することのできる結晶化装置および結晶化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明の第1形態では、光を位相変調する光変調素子と、該光変調素子により位相変調された光に基づいて、長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に所定の光強度分布を形成する結像光学系とを備え、
前記所定の光強度分布は、前記短冊状の繰返し領域の短辺方向の中心線に沿って下に凸で且つ前記短冊状の繰返し領域の長辺方向の中心線に沿って下に凸の分布を有し、前記短冊状の繰返し領域の中心から前記長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線を有し、該凸状に湾曲した等強度線のうち少なくとも1本の先端部の曲率半径は0.3μm以下であり、
前記短冊状の繰返し領域の前記短辺方向のピッチは2μm以下である光照射装置を提供する。
【0012】
本発明の第2形態では、光を位相変調する光変調素子と、該光変調素子により位相変調された光に基づいて、長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に所定の光強度分布を形成する結像光学系とを備え、
前記光変調素子は、前記短冊状の繰返し領域の長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第1短冊領域と、前記長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第2短冊領域とが前記短冊状の繰返し領域の短辺方向に繰り返す繰り返し構造を有し、
前記第1短冊領域と前記第2短冊領域との間で複素振幅透過率の要素領域内での平均値の位相が互いに異なり、且つ前記結像光学系のエアリーディスクの半径に対する前記第1短冊領域および前記第2短冊領域の短辺の比率が0.8よりも大きく1.2よりも小さい光照射装置を提供する。
【0013】
本発明の第3形態では、第1形態または第2形態の光照射装置と、非単結晶半導体膜を保持するためのステージとを備え、該ステージによって保持された非単結晶半導体膜に前記所定の光強度分布を有する光を照射して結晶化半導体膜を生成する結晶化装置を提供する。
【0014】
本発明の第4形態では、第1形態または第2形態の光照射装置を用いて、非単結晶半導体膜に前記所定の光強度分布を有する光を照射して結晶化半導体膜を生成する結晶化方法を提供する。
【0015】
本発明の第5形態では、第3形態の結晶化装置または第4形態の結晶化方法を用いて製造されたデバイスを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の結晶化装置および結晶化方法では、例えばV字型の分布と櫛形凹凸状の分布との組み合わせからなる二次元光強度分布を有する光を、非単結晶半導体膜に照射する。その結果、実質的に等間隔に生成された結晶核からの結晶成長が櫛形凹凸状の分布の高強度部(以下、「尾根線」という)により細分化され、幅寸法の小さい細長い結晶粒が、長辺同士が隣り合うようにほぼ平行に生成される。
【0017】
したがって、互いにほぼ平行に生成された複数の細長い結晶粒の領域にTFTを作製すると、散乱の原因となる結晶粒界がチャネルにおいてキャリヤの移動方向を横切ることがないので、移動度が向上する。また、結晶方位が結晶粒毎に異なるが、チャネル内での結晶粒の数が比較的多くなるため、複数の結晶粒による平均化効果を十分に得ることができ、移動度がTFT間で均一化される。換言すれば、TFTの移動度の向上およびTFT間の移動度の均一化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の具体的な説明に先立って、図1および図2を参照して従来技術における一次元結晶化の特徴および不都合について説明する。従来の一次元結晶化では、図1に模式的に示すように、複数の結晶核101が臨界強度Icに対応する等強度線102上にランダムに発生し、これらの結晶核101からV字型の光強度分布103の強度勾配の方向(図中矢印で示す方向)に沿って結晶成長が進行する。
【0019】
結晶の成長速度は、結晶核101の結晶方位により決定され、結晶核101毎に異なる。2つの結晶成長がぶつかる(衝突する)領域では、その点に最初に達した一方の結晶成長が他方の結晶成長に優先して進む。こうして、結晶核101からの結晶成長が妨げられることなく進行した結晶粒104ほど、幅の広い三角形状になる。
【0020】
その結果、図2に模式的に示すように、従来の一次元結晶化により生成された複数の結晶粒104の領域に、ソースS、ドレインDおよびチャネルCからなるTFTを作製すると、散乱の原因となる結晶粒界105がチャネルCにおいてキャリヤの移動方向(図2中水平方向)を斜めに横切ることになり、移動度が低下する。また、結晶方位が結晶粒104毎に異なり且つチャネルC内での結晶粒104の数が比較的少ないため、複数の結晶粒104による平均化効果を十分に得ることができず、移動度がTFT間で均一化されない。
【0021】
次に、図3乃至図14を参照して、本発明の二次元結晶化の特徴について説明する。本発明の二次元結晶化では、図3に模式的に示すように、V字型の分布31と櫛形凹凸状の分布32との組み合わせからなる二次元光強度分布33を有する光を、例えば基板上に形成された非単結晶半導体膜に照射する。具体的には、例えば光変調素子により位相変調された光を、結像光学系を介して非単結晶半導体膜に照射し、図4に模式的に示すように、非単結晶半導体膜上において長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域34に二次元光強度分布33を形成する。
【0022】
二次元光強度分布33は、短冊状の繰返し領域34の短辺方向の中心線34aに沿って下に凸で、且つ長辺方向の中心線34bに沿って下に凸の分布を有する。さらに詳細には、二次元光強度分布33は、例えば短辺方向の中心線34aに沿ってV字状の分布を有し、且つ長辺方向の中心線34bに沿ってV字状の分布を有する。また、二次元光強度分布33は、短冊状の繰返し領域34の短辺34c上の少なくとも一点において最大光強度を有する。
【0023】
本発明では、図5に模式的に示すように、複数の結晶核35a,35が、二次元光強度分布33の臨界強度線36に沿って生成される。ここで、二次元光強度分布33の谷線37と臨界強度線36との交点付近に生成される結晶核35aが結晶の成長方向に沿って最も進んだ位置にある。この結晶核35aからの結晶成長が他の結晶核35からの結晶成長を抑制するため、結晶成長の起点となる結晶核35aの位置が実質的に等間隔に制御される。
【0024】
結晶核35aからの結晶成長は、温度勾配の緩やかな方向(すなわち光強度の勾配の緩やかな方向:図3の矢印の方向)に進む。すなわち、結晶核35aからの結晶成長は、二次元光強度分布33の尾根線38により短冊状の繰返し領域34の短辺方向への広がりが制御され、短冊状の繰返し領域34の長辺方向に沿って細長く延びるように進む。こうして、実質的に等間隔に生成された結晶核35aからの結晶成長が二次元光強度分布33の尾根線38により細分化され、幅寸法Weの小さい細長い結晶粒39が生成される。
【0025】
すなわち、本発明では、図6に模式的に示すように、二次元光強度分布33の臨界強度線36に対応する微結晶領域40を挟んで短冊状の繰返し領域34の長辺方向に沿って細長く延びる全体的に矩形状の一対の結晶粒39が生成される。一対の結晶粒39は、短冊状の繰返し領域34の短辺方向に隣り合う別の微結晶領域40を挟んで短冊状の繰返し領域34の長辺方向に沿って細長く延びる一対の結晶粒39と、長辺同士が隣り合うようにほぼ平行に生成される。
【0026】
こうして、本発明では、図7に模式的に示すように、互いにほぼ平行に生成された複数の細長い結晶粒39の領域に、ソースS、ドレインDおよびチャネルCからなるTFTを作製すると、散乱の原因となる結晶粒界39aがチャネルCにおいてキャリヤの移動方向(図7中水平方向)を横切ることがないので、移動度が向上する。また、結晶方位が結晶粒39毎に異なるが、チャネルC内での結晶粒39の数が比較的多くなるため、複数の結晶粒39による平均化効果を十分に得ることができ、移動度がTFT間で均一化される。
【0027】
現在の液晶ディスプレイにおけるTFTのチャネルCの幅寸法Wcは、一番小さな所で4μm程度である。従って、複数の結晶粒39による平均化効果を得るには、結晶粒39の幅Weは2μm以下であることが望ましく、1μm以下であることがさらに望ましい。また、別の表現をすれば、複数の結晶粒39による平均化効果を得るために、短冊状の繰返し領域34の短辺方向のピッチは2μm以下であることが望ましく、1μm以下であることがさらに望ましい。具体的には、チャネルC内の結晶粒39の数は2〜4個程度以上であることが望ましい。
【0028】
本発明では、位相段差構造を有する光変調素子を用いて、二次元光強度分布における櫛形凹凸状の分布を生成することが望ましい。クロム膜のような遮光膜を有する光変調素子を用いると、出力パワーの大きいエキシマレーザにより損傷を受けてしまうからである。また、振幅変調よりも位相変調の方が高解像度であるため、櫛形凹凸状の分布のピッチをより小さくすることができる。
【0029】
図8乃至図10に、位相段差により櫛形凹凸状の分布を生成する場合の計算結果を示す。この計算では、光の波長λが308nmであり、結像光学系の像側開口数NAが0.15である。したがって、結像光学系のエアリーディスクの半径Rd(Rd=0.61λ/NA)は、1.25μmである。また、計算に際して、位相段差を構成する短冊領域の短辺の像面換算寸法(以下、単に「位相段差の短辺寸法」ともいう)Lsを、図8では1μm、図9では1.25μm、図10では1.5μmとした。
【0030】
櫛形凹凸状の分布は、結像光学系のエアリーディスクの半径Rdに対する位相段差の短辺寸法Lsの比率Ls/Rdにより決定される。図8に示すように、比率Ls/Rdが0.8の場合、得られる櫛形凹凸状の分布の振幅が小さ過ぎて、結晶成長の細分化効果が発揮されない。図10に示すように、比率Ls/Rdが1.2の場合、得られる櫛形凹凸状の分布の最大強度が1.0を越え、この位置にてSi膜を破壊してしまう可能性が高くなる。図9に示すように、比率Ls/Rdが1.0の場合、所望の振幅を有する櫛形凹凸状の分布が得られる。従って、比率Ls/Rdは、0.8よりも大きく1.2よりも小さいことが望ましい。
【0031】
なお、図4に示すように、本発明の二次元光強度分布33は、短冊状の繰返し領域34の中心から長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線41を有し、この凸状に湾曲した等強度線41の先端部の曲率半径は0.3μm以下であることが望ましい。これは、結晶核35aから十分に大きい放射角で結晶成長させるためである。以下、この点について簡単に説明する。
【0032】
基板上に形成された非単結晶半導体膜(非晶質シリコン)に光を照射すると、溶融温度に対応する光強度以下の光が照射された領域(すなわち非溶融領域)では、非晶質シリコンが完全に溶融することなく、少なくとも一部はそのまま残る。これに対し、非溶融領域の周囲の領域では、非晶質シリコンが完全に溶融する。次いで、基板側への熱伝導等により非単結晶半導体膜の温度が低下するが、先ず、図11に示すように、溶融領域で温度の最も低い領域、すなわち非溶融領域50の近傍に結晶核51が生成される。
【0033】
これら結晶核51の生成に際して、小さな固体粒子が液体中で生成消滅を繰り返し、一定の大きさに達した固体粒子のみが安定となり結晶核51になる。その後、図12に示すように、結晶核51を起点として、図中矢印で示す方向に沿って放射状に結晶は急速に成長する(図では、外側の結晶核51から成長する結晶は省略されている)。これら結晶核51の生成の過程において、液体から固体に相変化するときに潜熱が放出され、近傍の固体粒子を再度溶融させるため、結晶核51は一定の密度でしか生成されないことが知られている。
【0034】
結晶核の生成密度は、文献「J. S. Im and H. J. Kim, "Phase transformation mechanisms involved in excimer laser crystallization of amorphous silicon films”, Appl. Phys. Lett. 63 (14), 4 October 1993」において実験により求められている(特にこの文献の図2を参照)。この実験では、均一強度分布のXeClエキシマレーザを非晶質シリコンにフルエンス(照射強度)を変えて照射したときに得られる夫々の結晶の粒径を測定している。
【0035】
実験の結果、室温において、最適なフルエンスの光を照射することにより、結晶粒径が最大で約0.3μmになることが求められた。一つの結晶粒は一つの結晶核から生成することを考えると、この実験結果は結晶核の生成密度が約0.3μm間隔であることを表す。この間隔は前節で述べたようにミクロな現象により決定されるため、この実験のような均一強度分布の照射であっても、本発明で扱うような勾配を有する光強度分布の照射であっても、共に有効であると考えられる。
【0036】
液晶ディスプレイに用いられる通常のガラス基板は耐熱性を有しないため、室温での加工が必須である。また、結晶核の密度は後述するように大きいことが望ましく、一般には最大の粒径が得られるフルエンスで光照射を行う。このとき、図12に示すように、2つの隣り合う結晶粒界52aにより画成される1つの結晶粒52が1つの結晶核51から成長することを考えると、結晶粒の放射角は結晶核51の密度に対応する。
【0037】
すなわち、室温においてXeClエキシマレーザを非晶質シリコンに照射したときに得られる結晶核51の最大の間隔は、約0.3μmである。換言すると、結晶核51の間隔Dは、図13に示すように、約0.3μmである。図11では、結晶核51を中心として直径が約0.3μmの範囲を、破線の円53により表示している。
【0038】
結晶粒52は結晶核から概ね放射状に得られるが、一片の結晶粒52の放射角θ(全角)は、図13に示すモデルから以下の式(1)で与えられる。式(1)において、R(単位:μm)は、非溶融領域50の外縁に対応する等強度線(溶融温度に対応する光強度の等強度線)50aの当該結晶核51の近傍における曲率半径である。なお、式(1)中の数値0.3は、0.3μmを意味している。
【0039】
【数1】
【0040】
図14は、上記式(1)から計算した、図13のモデルにおける等強度線50aの曲率半径Rと結晶粒52の放射角θとの関係を示す図である。図14を参照すると、非溶融領域50の外縁に対応する等強度線50aの曲率半径Rが0.3μmよりも大きくなると、結晶粒52の放射角θが急激に小さくなることがわかる。
【0041】
曲率半径Rが0.3μmのときに得られる放射角θは約60度である。図5に示したように、短冊領域の内部に結晶粒界を生成させないためには、結晶粒52の放射角θは約60度以上であることが望ましい。このように、本発明において、結晶核から十分に大きい放射角で結晶成長させるために、例えば臨界強度に対応する等強度線の先端部の曲率半径は0.3μm以下であることが望ましい。
【0042】
本発明の実施形態を、添付図面に基づいて説明する。図15は、本発明の実施形態にかかる結晶化装置の構成を概略的に示す図である。図16は、図15の照明系の内部構成を概略的に示す図である。図15および図16を参照すると、本実施形態の結晶化装置は、入射光を位相変調して所定の光強度分布を有する光を形成するための光変調素子1と、光変調素子1を照明するための照明系2と、結像光学系3と、被処理基板4を保持するための基板ステージ5とを備えている。
【0043】
光変調素子1の構成および作用については後述する。照明系2は、たとえば308nmの波長を有するレーザ光を供給するXeClエキシマレーザ光源2aを備えている。光源2aとして、KrFエキシマレーザ光源やYAGレーザ光源のように被処理基板4を溶融するエネルギー光線を出射する性能を有する他の適当な光源を用いることもできる。光源2aから供給されたレーザ光は、ビームエキスパンダ2bを介して拡大された後、第1フライアイレンズ2cに入射する。
【0044】
こうして、第1フライアイレンズ2cの後側焦点面には複数の小光源が形成され、これらの複数の小光源からの光束は第1コンデンサー光学系2dを介して、第2フライアイレンズ2eの入射面を重畳的に照明する。その結果、第2フライアイレンズ2eの後側焦点面には、第1フライアイレンズ2cの後側焦点面よりも多くの複数の小光源が形成される。第2フライアイレンズ2eの後側焦点面に形成された複数の小光源からの光束は、第2コンデンサー光学系2fを介して、光変調素子1を重畳的に照明する。
【0045】
第1フライアイレンズ2cと第1コンデンサー光学系2dとにより、第1ホモジナイザが構成されている。この第1ホモジナイザにより、光源2aから射出されたレーザ光について、光変調素子1上での入射角度に関する均一化が図られる。また、第2フライアイレンズ2eと第2コンデンサー光学系2fとにより、第2ホモジナイザが構成されている。この第2ホモジナイザにより、第1ホモジナイザからの入射角度が均一化されたレーザ光について、光変調素子1上での面内各位置での光強度に関する均一化が図られる。
【0046】
光変調素子1により位相変調されたレーザ光は、結像光学系3を介して、被処理基板4に入射する。ここで、結像光学系3は、光変調素子1の位相パターン面と被処理基板4とを光学的に共役に配置している。換言すれば、被処理基板4(厳密には被処理基板4の被照射面)は、光変調素子1の位相パターン面と光学的に共役な面(結像光学系3の像面)に設定されている。
【0047】
結像光学系3は、例えば、正レンズ群3aと、正レンズ群3bと、これらのレンズ群の間に配置された開口絞り3cとを備えている。開口絞り3cの開口部(光透過部)の大きさ(ひいては結像光学系3の像側開口数NA)は、被処理基板4の半導体膜上(被照射面)において所要の光強度分布を発生させるように設定されている。なお、結像光学系3は、屈折型の光学系であってもよいし、反射型の光学系であってもよいし、屈折反射型の光学系であってもよい。
【0048】
被処理基板4は、基板上に、下層絶縁膜、非単結晶半導体薄膜、上層絶縁膜の順に成膜することにより構成されている。さらに詳細には、本実施形態では、被処理基板4は、たとえば液晶ディスプレイ用板ガラスの上に、化学気相成長法(CVD)により、下地絶縁膜、非単結晶半導体膜(例えば非晶質シリコン膜)、およびキャップ膜が順次形成されたものである。下地絶縁膜およびキャップ膜は、絶縁膜、例えばSiO2膜である。下地絶縁膜は、非晶質シリコン膜とガラス基板とが直接接触して、ガラス基板中のNaなどの異物が非晶質シリコン膜に混入するのを防止し、非晶質シリコン膜の熱が直接ガラス基板に伝わるのを防止する。
【0049】
非晶質シリコン膜は、結晶化される半導体膜である。キャップ膜は、非晶質シリコン膜に入射する光ビームの一部により加熱され、この加熱された温度を蓄熱する。この蓄熱効果は、光ビームの入射が遮断されたとき、非晶質シリコン膜の被照射面において高温部が相対的に急速に降温するが、この降温勾配を緩和させ、大粒径の横方向の結晶成長を促進させる。被処理基板4は、真空チャックや静電チャックなどにより基板ステージ5上において予め定められた所定の位置に位置決めされて保持されている。
【0050】
図17は、本実施形態の第1実施例における光変調素子の構成を概略的に示す図である。第1実施例の光変調素子1は、X方向に細長く延びる矩形状の第1短冊領域(図中破線で囲まれた矩形状の領域)1Aと、同じくX方向に細長く延びる矩形状の第2短冊領域(図中破線で囲まれた矩形状の領域)1Bとを有する。第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとは長辺同士が隣接するように配置され、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとからなる基本パターンはX方向およびY方向に沿って二次元的に繰り返し形成されている。
【0051】
第1短冊領域1Aでは、図中斜線部で示す矩形状の領域1Aaが+90度の位相値を有し、図中空白部で示す領域1Abが0度の位相値を有する。第2短冊領域1Bでは、図中斜線部で示す矩形状の領域1Baが−90度の位相値を有し、図中空白部で示す領域1Bbが0度の位相値を有する。ここで、基準となる位相値0度に対して、+90度は90度の位相進みを、−90度は90度の位相遅れを意味している。本明細書では、平面波が入射した光変調素子の直後の波面を考え、光の進行方向にシフトしている場合にその領域を「位相進み」側の領域とし、逆に光源側にシフトしている場合にその領域を「位相遅れ」側の領域と定義する。
【0052】
短冊領域1Aおよび1Bでは、結像光学系3の像面換算で、X方向に1μmの長さを有しY方向に1.66μmの長さを有する長方形状のセル(要素領域)1Cが、X方向に沿って16個分並んでいる。結像光学系3の像面換算でのセル1Cの大きさは、結像光学系3のエアリーディスクの半径(点像分布範囲の半径)Rdよりも小さく設定されている。第1短冊領域1Aでは、各セルにおける領域1Aaの占有面積率(すなわち各セルにおいて領域1Aaが占める割合)が、X方向に沿って変化している。具体的には、X方向に沿った領域1Aaの占有面積率は、第1短冊領域1Aの中央において最も大きく、その両端に向かって単調に減少している。
【0053】
第2短冊領域1Bでは、各セルにおける領域1Baの占有面積率(すなわち各セルにおいて領域1Baが占める割合)が、第1短冊領域1Aと同じ様にX方向に沿って変化している。具体的には、X方向に沿った領域1Baの占有面積率は、第2短冊領域1Bの中央において最も大きく、その両端に向かって第1短冊領域1Aと同じ様に単調に減少している。このように、光変調素子1では、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bをつなげた領域において、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bの2つの要素領域をつなげた領域(図17中参照符号1Gで示す)内での複素振幅透過率の平均値の絶対値がX方向に沿って下に凸の分布をなしている。また、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bの2つの要素領域をつなげた領域1G内での複素振幅透過率の平均値の位相が、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとで互いに異なっている。
【0054】
第1実施例では、図17に示す光変調素子1を用いて被処理基板4上に形成される光強度分布を計算により求めた。計算条件は、以下の通りである。すなわち、光の波長は308nm(0.308μm)であり、結像光学系3の像側開口数NAは0.13である。また、照明系2の射出側開口数は0.065である。したがって、コヒーレンスファクター(照明σ値;照明系2の射出側開口数/結像光学系3の物体側開口数)は、0.5(=0.065/0.13)である。
【0055】
また、結像光学系3のエアリーディスクの半径Rd(=0.61λ/NA)は、約1.45μmである。位相段差を構成する短冊領域1A,1Bの短辺の像面換算寸法Lsが1.66μmであるから、結像光学系3のエアリーディスクの半径Rdに対する位相段差の短辺寸法Lsの比率Ls/Rdは1.14であり、0.8よりも大きく1.2よりも小さい値に設定されている。
【0056】
第1実施例では、計算の結果、図18に示すような光強度分布が得られた。図18では、図17に示す光変調素子1を用いて被処理基板4上に形成される光強度分布を、光強度の等高線(すなわち等強度線)で示している。また、図18では、図17の第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとからなる基本パターンに対応して被処理基板4上に形成される光強度分布を、破線で囲んだ矩形状の領域1Dで示している。この領域1D内において図中一点鎖線で囲んだ矩形状の領域1Eは、X方向およびY方向に沿って二次元的に繰り返し形成される光強度分布の単位領域である。ちなみに、例えば2mm×2mmの断面のビームを被処理基板4に照射する場合、200〜300個程度の単位領域1Eが二次元的に繰り返し形成される。
【0057】
換言すると、光変調素子1により位相変調された光に基づいて、被処理基板4上の非晶質シリコン膜(非単結晶半導体膜)において長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域1Eに、所定の光強度分布が形成される。ここで、短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向(Y方向)の長さは1.66μmであり、長辺方向(X方向)の長さは16μmである。短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向の中心線X0に沿った光強度分布は、図19に示すように、下に凸の分布である。図19を参照すると、下に凸の分布がY方向に繰り返されて、櫛形凹凸状の分布を形成していることがわかる。
【0058】
短冊状の繰返し領域1Eの長辺方向の中心線Y0に沿った光強度分布は、図20に示すように、下に凸の分布、さらに詳細にはV字型の分布である。短冊状の繰返し領域1Eの長辺に対応する線Y1(中心線Y0からY方向に1.66/2=0.83μmだけ離れた位置)に沿った光強度分布は、図21に示すように、比較的高い光強度が維持された分布である。短冊状の繰返し領域1Eの短辺に対応する線X1(中心線X0からY方向に16/2=8μmだけ離れた位置)に沿った光強度分布は、図22に示すように、最大光強度が一定に維持された分布(振幅変化のない分布)である。
【0059】
このように、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとの間の実効的な位相段差の作用により、短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向の中心線X0に沿って下に凸の分布が形成される。また、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとの間の実効的な位相段差の線、すなわち短冊状の繰返し領域1Eの長辺方向の中心線Y0に沿って、下に凸の分布(V字型の分布)を有する谷線が形成される。また、短冊状の繰返し領域1Eの長辺に対応する線Y1に沿って、尾根線が形成される。
【0060】
別の表現をすれば、光変調素子1により短冊状の繰返し領域1Eに形成される光強度分布は、その短辺方向の中心線X0に沿って下に凸で且つその長辺方向の中心線Y0に沿って下に凸の分布を有する。さらに具体的には、短冊状の繰返し領域1Eに形成される光強度分布は、その長辺方向の中心線Y0に沿ってV字状の分布を有し、その短辺上において最大光強度を有する。
【0061】
短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向(Y方向)のピッチは1.66μmであり、2μm以下に設定されている。また、短冊状の繰返し領域1Eに形成される光強度分布は、短冊状の繰返し領域1Eの中心から長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線を有し、この凸状に湾曲した等強度線の先端部の曲率半径は0.3μm以下になっている。
【0062】
図23は、第1実施例の光変調素子1を用いて実際に得られた結晶構造を示すSEM像の線画図である。図23において、参照符号35aは結晶核を、参照符号39は結晶粒を、矢印は結晶成長の方向を示している。図23を参照すると、実質的に等間隔に生成された結晶核35aからの結晶成長が光強度分布の尾根線により細分化され、幅寸法の小さい細長い結晶粒39が長辺同士が隣り合うようにほぼ平行に生成されることがわかる。
【0063】
図24は、本実施形態の第2実施例における光変調素子の構成を概略的に示す図である。第2実施例では、第1実施例と類似の構成を有する光変調素子1を用いているが、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bの各セル1Cにおいて、+90度の位相値を有する領域1Aaおよび−90度の位相値を有する領域1BaがY方向に間隔を隔てて2つ配置されていることが第1実施例と相違している。以下、第1実施例との相違点に着目して、第2実施例を説明する。
【0064】
第2実施例の光変調素子1では、X方向に沿った領域1Aaの占有面積率は第1短冊領域1Aの中央において最も大きく両端に向かって単調に減少し、X方向に沿った領域1Baの占有面積率は第2短冊領域1Bの中央において最も大きく両端に向かって単調に減少している。その結果、第2実施例の光変調素子1においても第1実施例の場合と同様に、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bをつなげた領域において、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bの2つの要素領域をつなげた領域(図24中参照符号1Gで示す)内での複素振幅透過率の平均値の絶対値がX方向に沿って下に凸の分布をなしている。また、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bの2つの要素領域をつなげた領域1G内での複素振幅透過率の平均値の位相が、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとで互いに異なっている。
【0065】
第2実施例では、第1実施例と同様の条件に基づく計算の結果、図25に示すような光強度分布が得られた。図25では、図24に示す光変調素子1を用いて被処理基板4上に形成される光強度分布を、光強度の等高線で示している。また、図25では、図24の第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとからなる基本パターンに対応して形成される光強度分布を領域1Dで示し、X方向およびY方向に沿って二次元的に繰り返し形成される光強度分布の単位領域を領域1Eで示している。
【0066】
第2実施例においても第1実施例の場合と同様に、短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向(Y方向)の長さは1.66μmであり、長辺方向(X方向)の長さは16μmである。短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向の中心線X0に沿った光強度分布は、図26に示すように、下に凸の分布である。図26を参照すると、下に凸の分布がY方向に繰り返されて、櫛形凹凸状の分布を形成していることがわかる。
【0067】
短冊状の繰返し領域1Eの長辺方向の中心線Y0に沿った光強度分布は、図27に示すように、下に凸の分布、さらに詳細にはV字型の分布である。短冊状の繰返し領域1Eの長辺に対応する線Y1(中心線Y0からY方向に1.66/2=0.83μmだけ離れた位置)に沿った光強度分布は、図28に示すように、比較的高い光強度が維持された分布である。短冊状の繰返し領域1Eの短辺に対応する線X1(中心線X0からY方向に16/2=8μmだけ離れた位置)に沿った光強度分布は、図29に示すように、光強度の変化が比較的小さい(振幅変化の比較的小さい)分布である。
【0068】
このように、第2実施例においても、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとの間の実効的な位相段差の作用により、短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向の中心線X0に沿って下に凸の分布が形成される。また、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとの間の実効的な位相段差の線、すなわち短冊状の繰返し領域1Eの長辺方向の中心線Y0に沿って、下に凸の分布(V字型の分布)を有する谷線が形成される。また、短冊状の繰返し領域1Eの長辺に対応する線Y1に沿って、尾根線が形成される。
【0069】
また、第2実施例においても、短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向(Y方向)のピッチは1.66μmであり、2μm以下に設定されている。また、短冊状の繰返し領域1Eに形成される光強度分布は、短冊状の繰返し領域1Eの中心から長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線を有し、この凸状に湾曲した等強度線の先端部の曲率半径は0.3μm以下になっている。その結果、図示を省略したが、第2実施例の光変調素子1を用いて、第1実施例の場合と類似した結晶構造を実際に得ることができた。
【0070】
図30は、本実施形態の結晶化装置を用いて結晶化された領域に電子デバイスを作製する工程を示す工程断面図である。図30(a)に示すように、透明の絶縁基板80(例えば、アルカリガラス、石英ガラス、プラスチック、ポリイミドなど)の上に、下地膜81(例えば、膜厚50nmのSiNおよび膜厚100nmのSiO2積層膜など)および非晶質半導体膜82(例えば、膜厚50nm〜200nm程度のSi,Ge,SiGeなどの半導体の膜)および不図示のキャップ膜82a(例えば、膜厚30nm〜300nmのSiO2膜など)を、化学気相成長法やスパッタ法などを用いて成膜した被処理基板5を準備する。そして、本実施形態にしたがう結晶化装置を用いて、非晶質半導体膜82の表面の予め定められた領域に、レーザ光83(例えば、KrFエキシマレーザ光やXeClエキシマレーザ光など)を照射する。
【0071】
こうして、図30(b)に示すように、大粒径の結晶を有する多結晶半導体膜または単結晶化半導体膜84が生成される。次に、キャップ膜82aをエッチングにより半導体膜84から除去した後、図30(c)に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて多結晶半導体膜または単結晶化半導体膜84を例えば薄膜トランジスタを形成するための領域となる島状の半導体膜85に加工し、表面にゲート絶縁膜86として膜厚20nm〜100nmのSiO2膜を化学気相成長法やスパッタ法などを用いて成膜する。さらに、図30(d)に示すように、ゲート絶縁膜上にゲート電極87(例えば、シリサイドやMoWなど)を形成し、ゲート電極87をマスクにして不純物イオン88(Nチャネルトランジスタの場合にはリン、Pチャネルトランジスタの場合にはホウ素)をイオン注入する。その後、窒素雰囲気でアニール処理(例えば、450°Cで1時間)を行い、不純物を活性化して島状の半導体膜85にソース領域91、ドレイン領域92を形成する。次に、図30(e)に示すように、層間絶縁膜89を成膜してコンタクト穴をあけ、チャネル90でつながるソース91およびドレイン92に接続するソース電極93およびドレイン電極94を形成する。
【0072】
以上の工程において、図30(a)および(b)に示す工程で生成された多結晶半導体膜または単結晶化半導体膜84の大粒径結晶の位置に合わせて、即ち、平行な短冊状結晶粒アレイの位置にチャネル90を形成する。以上の工程により、多結晶トランジスタまたは単結晶化半導体に薄膜トランジスタ(TFT)を形成することができる。こうして製造された多結晶トランジスタまたは単結晶化トランジスタは、液晶表示装置(ディスプレイ)やEL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどの駆動回路や、メモリ(SRAMやDRAM)やCPUなどの集積回路などに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】従来の一次元結晶化において複数の結晶核がランダムに発生する様子を模式的に示す図である。
【図2】従来の一次元結晶化で生成された複数の結晶粒の領域にTFTを作製した様子を模式的に示す図である。
【図3】V字型の分布と櫛形凹凸状の分布との組み合わせからなる二次元光強度分布を有する光を非単結晶半導体膜に照射する様子を模式的に示す図である。
【図4】非単結晶半導体膜上において長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に二次元光強度分布を形成する様子を模式的に示す図である。
【図5】等間隔に生成された結晶核からの結晶成長が二次元光強度分布の尾根線により細分化されて細長い結晶粒が生成される様子を模式的に示す図である。
【図6】長辺同士が隣り合うように複数の結晶粒が互いにほぼ平行に生成される様子を模式的に示す図である。
【図7】互いにほぼ平行に生成された複数の細長い結晶粒の領域にTFTを作製した様子を模式的に示す図である。
【図8】比率Ls/Rdが0.8のときに生成される櫛形凹凸状の分布の計算結果を示す図である。
【図9】比率Ls/Rdが1.0のときに生成される櫛形凹凸状の分布の計算結果を示す図である。
【図10】比率Ls/Rdが1.2のときに生成される櫛形凹凸状の分布の計算結果を示す図である。
【図11】結晶核が生成された直後の状態を説明するモデルを示す図である。
【図12】結晶核から結晶が成長した後の状態を説明するモデルを示す図である。
【図13】一片の結晶粒の放射角を説明するモデルを示す図である。
【図14】図13のモデルにおける等強度線の曲率半径Rと結晶粒の放射角θとの関係を示す図である。
【図15】本発明の実施形態にかかる結晶化装置の構成を概略的に示す図である。
【図16】図15の照明系の内部構成を概略的に示す図である。
【図17】本実施形態の第1実施例における光変調素子の構成を概略的に示す図である。
【図18】第1実施例で得られる光強度分布の計算結果を示す図である。
【図19】図18の中心線X0に沿った光強度分布を示す図である。
【図20】図18の中心線Y0に沿った光強度分布を示す図である。
【図21】図18の線Y1に沿った光強度分布を示す図である。
【図22】図18の中心線X1に沿った光強度分布を示す図である。
【図23】第1実施例の光変調素子を用いて実際に得られた結晶構造を示すSEM像の線画図である。
【図24】本実施形態の第2実施例における光変調素子の構成を概略的に示す図である。
【図25】第2実施例で得られる光強度分布の計算結果を示す図である。
【図26】図25の中心線X0に沿った光強度分布を示す図である。
【図27】図25の中心線Y0に沿った光強度分布を示す図である。
【図28】図25の線Y1に沿った光強度分布を示す図である。
【図29】図25の中心線X1に沿った光強度分布を示す図である。
【図30】本実施形態の結晶化装置を用いて電子デバイスを作製する工程を示す工程断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 光変調素子
2 照明系
2a 光源
2b ビームエキスパンダ
2c,2e フライアイレンズ
2d,2f コンデンサー光学系
3 結像光学系
4 被処理基板
5 基板ステージ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射装置、結晶化装置、結晶化方法、およびデバイスに関する。特に、本発明は、所定の光強度分布を有する光を非単結晶半導体膜に照射して結晶化半導体膜を生成する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば液晶表示装置(Liquid-Crystal-Display:LCD)の表示画素を選択するスイッチング素子などに用いられる薄膜トランジスタ(Thin-Film-Transistor:TFT)は、非晶質シリコン(amorphous-Silicon)や多結晶シリコン(poly-Silicon)を用いて形成されている。
【0003】
多結晶シリコンは、非晶質シリコンよりも電子または正孔の移動度が高い。したがって、多結晶シリコンを用いてトランジスタを形成した場合、非晶質シリコンを用いて形成する場合よりも、スイッチング速度が速くなり、ひいてはディスプレイの応答が速くなる。また、周辺LSIを薄膜トランジスタで構成することが可能になる。さらに、他の部品の設計マージンを減らせるなどの利点がある。また、ドライバ回路やDACなどの周辺回路をディスプレイに組み入れる場合に、それらの周辺回路をより高速に動作させることができる。
【0004】
多結晶シリコンは結晶粒の集合からなるため、例えばTFTを形成した場合、チャネル領域に結晶粒界が形成され、この結晶粒界が障壁となり単結晶シリコンに比べると電子または正孔の移動度が低くなる。また、多結晶シリコンの基板に形成された多数の薄膜トランジスタは、チャネル部に形成される結晶粒界数が各薄膜トランジスタ間で異なり、これがバラツキとなって周辺回路であればその設計マージンを狭くしたり、液晶表示装置であれば表示ムラの原因となったりする。そこで、最近、電子または正孔の移動度を向上させるために、チャネル内のキャリア移動方向に粒界のない構造の大粒径の結晶化シリコンを生成する結晶化方法が提案されている。
【0005】
従来、この種の結晶化方法として、位相シフター(光変調素子)にエキシマレーザ光を照射し、それによるフレネル回折像もしくは結像光学系による結像を非単結晶半導体膜(多結晶半導体膜または非単結晶半導体膜)に照射して結晶化半導体膜を生成する「位相制御ELA(Excimer Laser Annealing)法」が知られている。位相制御ELA法の詳細は、たとえば表面科学Vol.21, No.5, pp.278-287, 2000に開示されている。
【0006】
位相制御ELA法では、位相シフターの位相シフト部に対応する点において光強度が周辺よりも低い逆ピークパターン(中心において光強度が最も低く周囲に向かって光強度が急激に増大する、例えば、V字型のパターン)の光強度分布を発生させ、この逆ピーク状の光強度分布を有する光を非単結晶半導体膜に照射する。その結果、被照射領域内において光強度分布に応じて溶融領域に温度勾配が生じ、光強度が最も低い点に対応して最初に凝固する部分もしくは溶融しない部分に結晶核が形成され、その結晶核から周囲に向かって結晶が横方向に成長(以降、「ラテラル成長」または「横方向成長」と呼ぶ)することにより大粒径の単結晶粒が生成される。
【0007】
本出願人は、一方向に沿ってV字状に変化する光強度分布(V字型の光強度分布)を有する光を非単結晶半導体膜に照射することにより、光強度の勾配方向に沿って一次元的に結晶を成長させる技術、すなわち一次元結晶化の手法を提案している(例えば特許文献1を参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2004−343073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、従来技術における一次元結晶化では、後述するように、散乱の原因となる結晶粒界がチャネルにおいてキャリヤの移動方向を横切るため、移動度が低下する。また、移動度を決定する要因である結晶方位が結晶粒毎に異なり且つチャネル内での結晶粒の数が比較的少ないため、複数の結晶粒による平均化効果を十分に得ることができず、移動度がTFT間で均一化されない。
【0010】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであり、例えばTFTの作製に適用した場合に、TFTの移動度の向上およびTFT間の移動度の均一化を実現することのできる結晶化装置および結晶化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明の第1形態では、光を位相変調する光変調素子と、該光変調素子により位相変調された光に基づいて、長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に所定の光強度分布を形成する結像光学系とを備え、
前記所定の光強度分布は、前記短冊状の繰返し領域の短辺方向の中心線に沿って下に凸で且つ前記短冊状の繰返し領域の長辺方向の中心線に沿って下に凸の分布を有し、前記短冊状の繰返し領域の中心から前記長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線を有し、該凸状に湾曲した等強度線のうち少なくとも1本の先端部の曲率半径は0.3μm以下であり、
前記短冊状の繰返し領域の前記短辺方向のピッチは2μm以下である光照射装置を提供する。
【0012】
本発明の第2形態では、光を位相変調する光変調素子と、該光変調素子により位相変調された光に基づいて、長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に所定の光強度分布を形成する結像光学系とを備え、
前記光変調素子は、前記短冊状の繰返し領域の長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第1短冊領域と、前記長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第2短冊領域とが前記短冊状の繰返し領域の短辺方向に繰り返す繰り返し構造を有し、
前記第1短冊領域と前記第2短冊領域との間で複素振幅透過率の要素領域内での平均値の位相が互いに異なり、且つ前記結像光学系のエアリーディスクの半径に対する前記第1短冊領域および前記第2短冊領域の短辺の比率が0.8よりも大きく1.2よりも小さい光照射装置を提供する。
【0013】
本発明の第3形態では、第1形態または第2形態の光照射装置と、非単結晶半導体膜を保持するためのステージとを備え、該ステージによって保持された非単結晶半導体膜に前記所定の光強度分布を有する光を照射して結晶化半導体膜を生成する結晶化装置を提供する。
【0014】
本発明の第4形態では、第1形態または第2形態の光照射装置を用いて、非単結晶半導体膜に前記所定の光強度分布を有する光を照射して結晶化半導体膜を生成する結晶化方法を提供する。
【0015】
本発明の第5形態では、第3形態の結晶化装置または第4形態の結晶化方法を用いて製造されたデバイスを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の結晶化装置および結晶化方法では、例えばV字型の分布と櫛形凹凸状の分布との組み合わせからなる二次元光強度分布を有する光を、非単結晶半導体膜に照射する。その結果、実質的に等間隔に生成された結晶核からの結晶成長が櫛形凹凸状の分布の高強度部(以下、「尾根線」という)により細分化され、幅寸法の小さい細長い結晶粒が、長辺同士が隣り合うようにほぼ平行に生成される。
【0017】
したがって、互いにほぼ平行に生成された複数の細長い結晶粒の領域にTFTを作製すると、散乱の原因となる結晶粒界がチャネルにおいてキャリヤの移動方向を横切ることがないので、移動度が向上する。また、結晶方位が結晶粒毎に異なるが、チャネル内での結晶粒の数が比較的多くなるため、複数の結晶粒による平均化効果を十分に得ることができ、移動度がTFT間で均一化される。換言すれば、TFTの移動度の向上およびTFT間の移動度の均一化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の具体的な説明に先立って、図1および図2を参照して従来技術における一次元結晶化の特徴および不都合について説明する。従来の一次元結晶化では、図1に模式的に示すように、複数の結晶核101が臨界強度Icに対応する等強度線102上にランダムに発生し、これらの結晶核101からV字型の光強度分布103の強度勾配の方向(図中矢印で示す方向)に沿って結晶成長が進行する。
【0019】
結晶の成長速度は、結晶核101の結晶方位により決定され、結晶核101毎に異なる。2つの結晶成長がぶつかる(衝突する)領域では、その点に最初に達した一方の結晶成長が他方の結晶成長に優先して進む。こうして、結晶核101からの結晶成長が妨げられることなく進行した結晶粒104ほど、幅の広い三角形状になる。
【0020】
その結果、図2に模式的に示すように、従来の一次元結晶化により生成された複数の結晶粒104の領域に、ソースS、ドレインDおよびチャネルCからなるTFTを作製すると、散乱の原因となる結晶粒界105がチャネルCにおいてキャリヤの移動方向(図2中水平方向)を斜めに横切ることになり、移動度が低下する。また、結晶方位が結晶粒104毎に異なり且つチャネルC内での結晶粒104の数が比較的少ないため、複数の結晶粒104による平均化効果を十分に得ることができず、移動度がTFT間で均一化されない。
【0021】
次に、図3乃至図14を参照して、本発明の二次元結晶化の特徴について説明する。本発明の二次元結晶化では、図3に模式的に示すように、V字型の分布31と櫛形凹凸状の分布32との組み合わせからなる二次元光強度分布33を有する光を、例えば基板上に形成された非単結晶半導体膜に照射する。具体的には、例えば光変調素子により位相変調された光を、結像光学系を介して非単結晶半導体膜に照射し、図4に模式的に示すように、非単結晶半導体膜上において長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域34に二次元光強度分布33を形成する。
【0022】
二次元光強度分布33は、短冊状の繰返し領域34の短辺方向の中心線34aに沿って下に凸で、且つ長辺方向の中心線34bに沿って下に凸の分布を有する。さらに詳細には、二次元光強度分布33は、例えば短辺方向の中心線34aに沿ってV字状の分布を有し、且つ長辺方向の中心線34bに沿ってV字状の分布を有する。また、二次元光強度分布33は、短冊状の繰返し領域34の短辺34c上の少なくとも一点において最大光強度を有する。
【0023】
本発明では、図5に模式的に示すように、複数の結晶核35a,35が、二次元光強度分布33の臨界強度線36に沿って生成される。ここで、二次元光強度分布33の谷線37と臨界強度線36との交点付近に生成される結晶核35aが結晶の成長方向に沿って最も進んだ位置にある。この結晶核35aからの結晶成長が他の結晶核35からの結晶成長を抑制するため、結晶成長の起点となる結晶核35aの位置が実質的に等間隔に制御される。
【0024】
結晶核35aからの結晶成長は、温度勾配の緩やかな方向(すなわち光強度の勾配の緩やかな方向:図3の矢印の方向)に進む。すなわち、結晶核35aからの結晶成長は、二次元光強度分布33の尾根線38により短冊状の繰返し領域34の短辺方向への広がりが制御され、短冊状の繰返し領域34の長辺方向に沿って細長く延びるように進む。こうして、実質的に等間隔に生成された結晶核35aからの結晶成長が二次元光強度分布33の尾根線38により細分化され、幅寸法Weの小さい細長い結晶粒39が生成される。
【0025】
すなわち、本発明では、図6に模式的に示すように、二次元光強度分布33の臨界強度線36に対応する微結晶領域40を挟んで短冊状の繰返し領域34の長辺方向に沿って細長く延びる全体的に矩形状の一対の結晶粒39が生成される。一対の結晶粒39は、短冊状の繰返し領域34の短辺方向に隣り合う別の微結晶領域40を挟んで短冊状の繰返し領域34の長辺方向に沿って細長く延びる一対の結晶粒39と、長辺同士が隣り合うようにほぼ平行に生成される。
【0026】
こうして、本発明では、図7に模式的に示すように、互いにほぼ平行に生成された複数の細長い結晶粒39の領域に、ソースS、ドレインDおよびチャネルCからなるTFTを作製すると、散乱の原因となる結晶粒界39aがチャネルCにおいてキャリヤの移動方向(図7中水平方向)を横切ることがないので、移動度が向上する。また、結晶方位が結晶粒39毎に異なるが、チャネルC内での結晶粒39の数が比較的多くなるため、複数の結晶粒39による平均化効果を十分に得ることができ、移動度がTFT間で均一化される。
【0027】
現在の液晶ディスプレイにおけるTFTのチャネルCの幅寸法Wcは、一番小さな所で4μm程度である。従って、複数の結晶粒39による平均化効果を得るには、結晶粒39の幅Weは2μm以下であることが望ましく、1μm以下であることがさらに望ましい。また、別の表現をすれば、複数の結晶粒39による平均化効果を得るために、短冊状の繰返し領域34の短辺方向のピッチは2μm以下であることが望ましく、1μm以下であることがさらに望ましい。具体的には、チャネルC内の結晶粒39の数は2〜4個程度以上であることが望ましい。
【0028】
本発明では、位相段差構造を有する光変調素子を用いて、二次元光強度分布における櫛形凹凸状の分布を生成することが望ましい。クロム膜のような遮光膜を有する光変調素子を用いると、出力パワーの大きいエキシマレーザにより損傷を受けてしまうからである。また、振幅変調よりも位相変調の方が高解像度であるため、櫛形凹凸状の分布のピッチをより小さくすることができる。
【0029】
図8乃至図10に、位相段差により櫛形凹凸状の分布を生成する場合の計算結果を示す。この計算では、光の波長λが308nmであり、結像光学系の像側開口数NAが0.15である。したがって、結像光学系のエアリーディスクの半径Rd(Rd=0.61λ/NA)は、1.25μmである。また、計算に際して、位相段差を構成する短冊領域の短辺の像面換算寸法(以下、単に「位相段差の短辺寸法」ともいう)Lsを、図8では1μm、図9では1.25μm、図10では1.5μmとした。
【0030】
櫛形凹凸状の分布は、結像光学系のエアリーディスクの半径Rdに対する位相段差の短辺寸法Lsの比率Ls/Rdにより決定される。図8に示すように、比率Ls/Rdが0.8の場合、得られる櫛形凹凸状の分布の振幅が小さ過ぎて、結晶成長の細分化効果が発揮されない。図10に示すように、比率Ls/Rdが1.2の場合、得られる櫛形凹凸状の分布の最大強度が1.0を越え、この位置にてSi膜を破壊してしまう可能性が高くなる。図9に示すように、比率Ls/Rdが1.0の場合、所望の振幅を有する櫛形凹凸状の分布が得られる。従って、比率Ls/Rdは、0.8よりも大きく1.2よりも小さいことが望ましい。
【0031】
なお、図4に示すように、本発明の二次元光強度分布33は、短冊状の繰返し領域34の中心から長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線41を有し、この凸状に湾曲した等強度線41の先端部の曲率半径は0.3μm以下であることが望ましい。これは、結晶核35aから十分に大きい放射角で結晶成長させるためである。以下、この点について簡単に説明する。
【0032】
基板上に形成された非単結晶半導体膜(非晶質シリコン)に光を照射すると、溶融温度に対応する光強度以下の光が照射された領域(すなわち非溶融領域)では、非晶質シリコンが完全に溶融することなく、少なくとも一部はそのまま残る。これに対し、非溶融領域の周囲の領域では、非晶質シリコンが完全に溶融する。次いで、基板側への熱伝導等により非単結晶半導体膜の温度が低下するが、先ず、図11に示すように、溶融領域で温度の最も低い領域、すなわち非溶融領域50の近傍に結晶核51が生成される。
【0033】
これら結晶核51の生成に際して、小さな固体粒子が液体中で生成消滅を繰り返し、一定の大きさに達した固体粒子のみが安定となり結晶核51になる。その後、図12に示すように、結晶核51を起点として、図中矢印で示す方向に沿って放射状に結晶は急速に成長する(図では、外側の結晶核51から成長する結晶は省略されている)。これら結晶核51の生成の過程において、液体から固体に相変化するときに潜熱が放出され、近傍の固体粒子を再度溶融させるため、結晶核51は一定の密度でしか生成されないことが知られている。
【0034】
結晶核の生成密度は、文献「J. S. Im and H. J. Kim, "Phase transformation mechanisms involved in excimer laser crystallization of amorphous silicon films”, Appl. Phys. Lett. 63 (14), 4 October 1993」において実験により求められている(特にこの文献の図2を参照)。この実験では、均一強度分布のXeClエキシマレーザを非晶質シリコンにフルエンス(照射強度)を変えて照射したときに得られる夫々の結晶の粒径を測定している。
【0035】
実験の結果、室温において、最適なフルエンスの光を照射することにより、結晶粒径が最大で約0.3μmになることが求められた。一つの結晶粒は一つの結晶核から生成することを考えると、この実験結果は結晶核の生成密度が約0.3μm間隔であることを表す。この間隔は前節で述べたようにミクロな現象により決定されるため、この実験のような均一強度分布の照射であっても、本発明で扱うような勾配を有する光強度分布の照射であっても、共に有効であると考えられる。
【0036】
液晶ディスプレイに用いられる通常のガラス基板は耐熱性を有しないため、室温での加工が必須である。また、結晶核の密度は後述するように大きいことが望ましく、一般には最大の粒径が得られるフルエンスで光照射を行う。このとき、図12に示すように、2つの隣り合う結晶粒界52aにより画成される1つの結晶粒52が1つの結晶核51から成長することを考えると、結晶粒の放射角は結晶核51の密度に対応する。
【0037】
すなわち、室温においてXeClエキシマレーザを非晶質シリコンに照射したときに得られる結晶核51の最大の間隔は、約0.3μmである。換言すると、結晶核51の間隔Dは、図13に示すように、約0.3μmである。図11では、結晶核51を中心として直径が約0.3μmの範囲を、破線の円53により表示している。
【0038】
結晶粒52は結晶核から概ね放射状に得られるが、一片の結晶粒52の放射角θ(全角)は、図13に示すモデルから以下の式(1)で与えられる。式(1)において、R(単位:μm)は、非溶融領域50の外縁に対応する等強度線(溶融温度に対応する光強度の等強度線)50aの当該結晶核51の近傍における曲率半径である。なお、式(1)中の数値0.3は、0.3μmを意味している。
【0039】
【数1】
【0040】
図14は、上記式(1)から計算した、図13のモデルにおける等強度線50aの曲率半径Rと結晶粒52の放射角θとの関係を示す図である。図14を参照すると、非溶融領域50の外縁に対応する等強度線50aの曲率半径Rが0.3μmよりも大きくなると、結晶粒52の放射角θが急激に小さくなることがわかる。
【0041】
曲率半径Rが0.3μmのときに得られる放射角θは約60度である。図5に示したように、短冊領域の内部に結晶粒界を生成させないためには、結晶粒52の放射角θは約60度以上であることが望ましい。このように、本発明において、結晶核から十分に大きい放射角で結晶成長させるために、例えば臨界強度に対応する等強度線の先端部の曲率半径は0.3μm以下であることが望ましい。
【0042】
本発明の実施形態を、添付図面に基づいて説明する。図15は、本発明の実施形態にかかる結晶化装置の構成を概略的に示す図である。図16は、図15の照明系の内部構成を概略的に示す図である。図15および図16を参照すると、本実施形態の結晶化装置は、入射光を位相変調して所定の光強度分布を有する光を形成するための光変調素子1と、光変調素子1を照明するための照明系2と、結像光学系3と、被処理基板4を保持するための基板ステージ5とを備えている。
【0043】
光変調素子1の構成および作用については後述する。照明系2は、たとえば308nmの波長を有するレーザ光を供給するXeClエキシマレーザ光源2aを備えている。光源2aとして、KrFエキシマレーザ光源やYAGレーザ光源のように被処理基板4を溶融するエネルギー光線を出射する性能を有する他の適当な光源を用いることもできる。光源2aから供給されたレーザ光は、ビームエキスパンダ2bを介して拡大された後、第1フライアイレンズ2cに入射する。
【0044】
こうして、第1フライアイレンズ2cの後側焦点面には複数の小光源が形成され、これらの複数の小光源からの光束は第1コンデンサー光学系2dを介して、第2フライアイレンズ2eの入射面を重畳的に照明する。その結果、第2フライアイレンズ2eの後側焦点面には、第1フライアイレンズ2cの後側焦点面よりも多くの複数の小光源が形成される。第2フライアイレンズ2eの後側焦点面に形成された複数の小光源からの光束は、第2コンデンサー光学系2fを介して、光変調素子1を重畳的に照明する。
【0045】
第1フライアイレンズ2cと第1コンデンサー光学系2dとにより、第1ホモジナイザが構成されている。この第1ホモジナイザにより、光源2aから射出されたレーザ光について、光変調素子1上での入射角度に関する均一化が図られる。また、第2フライアイレンズ2eと第2コンデンサー光学系2fとにより、第2ホモジナイザが構成されている。この第2ホモジナイザにより、第1ホモジナイザからの入射角度が均一化されたレーザ光について、光変調素子1上での面内各位置での光強度に関する均一化が図られる。
【0046】
光変調素子1により位相変調されたレーザ光は、結像光学系3を介して、被処理基板4に入射する。ここで、結像光学系3は、光変調素子1の位相パターン面と被処理基板4とを光学的に共役に配置している。換言すれば、被処理基板4(厳密には被処理基板4の被照射面)は、光変調素子1の位相パターン面と光学的に共役な面(結像光学系3の像面)に設定されている。
【0047】
結像光学系3は、例えば、正レンズ群3aと、正レンズ群3bと、これらのレンズ群の間に配置された開口絞り3cとを備えている。開口絞り3cの開口部(光透過部)の大きさ(ひいては結像光学系3の像側開口数NA)は、被処理基板4の半導体膜上(被照射面)において所要の光強度分布を発生させるように設定されている。なお、結像光学系3は、屈折型の光学系であってもよいし、反射型の光学系であってもよいし、屈折反射型の光学系であってもよい。
【0048】
被処理基板4は、基板上に、下層絶縁膜、非単結晶半導体薄膜、上層絶縁膜の順に成膜することにより構成されている。さらに詳細には、本実施形態では、被処理基板4は、たとえば液晶ディスプレイ用板ガラスの上に、化学気相成長法(CVD)により、下地絶縁膜、非単結晶半導体膜(例えば非晶質シリコン膜)、およびキャップ膜が順次形成されたものである。下地絶縁膜およびキャップ膜は、絶縁膜、例えばSiO2膜である。下地絶縁膜は、非晶質シリコン膜とガラス基板とが直接接触して、ガラス基板中のNaなどの異物が非晶質シリコン膜に混入するのを防止し、非晶質シリコン膜の熱が直接ガラス基板に伝わるのを防止する。
【0049】
非晶質シリコン膜は、結晶化される半導体膜である。キャップ膜は、非晶質シリコン膜に入射する光ビームの一部により加熱され、この加熱された温度を蓄熱する。この蓄熱効果は、光ビームの入射が遮断されたとき、非晶質シリコン膜の被照射面において高温部が相対的に急速に降温するが、この降温勾配を緩和させ、大粒径の横方向の結晶成長を促進させる。被処理基板4は、真空チャックや静電チャックなどにより基板ステージ5上において予め定められた所定の位置に位置決めされて保持されている。
【0050】
図17は、本実施形態の第1実施例における光変調素子の構成を概略的に示す図である。第1実施例の光変調素子1は、X方向に細長く延びる矩形状の第1短冊領域(図中破線で囲まれた矩形状の領域)1Aと、同じくX方向に細長く延びる矩形状の第2短冊領域(図中破線で囲まれた矩形状の領域)1Bとを有する。第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとは長辺同士が隣接するように配置され、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとからなる基本パターンはX方向およびY方向に沿って二次元的に繰り返し形成されている。
【0051】
第1短冊領域1Aでは、図中斜線部で示す矩形状の領域1Aaが+90度の位相値を有し、図中空白部で示す領域1Abが0度の位相値を有する。第2短冊領域1Bでは、図中斜線部で示す矩形状の領域1Baが−90度の位相値を有し、図中空白部で示す領域1Bbが0度の位相値を有する。ここで、基準となる位相値0度に対して、+90度は90度の位相進みを、−90度は90度の位相遅れを意味している。本明細書では、平面波が入射した光変調素子の直後の波面を考え、光の進行方向にシフトしている場合にその領域を「位相進み」側の領域とし、逆に光源側にシフトしている場合にその領域を「位相遅れ」側の領域と定義する。
【0052】
短冊領域1Aおよび1Bでは、結像光学系3の像面換算で、X方向に1μmの長さを有しY方向に1.66μmの長さを有する長方形状のセル(要素領域)1Cが、X方向に沿って16個分並んでいる。結像光学系3の像面換算でのセル1Cの大きさは、結像光学系3のエアリーディスクの半径(点像分布範囲の半径)Rdよりも小さく設定されている。第1短冊領域1Aでは、各セルにおける領域1Aaの占有面積率(すなわち各セルにおいて領域1Aaが占める割合)が、X方向に沿って変化している。具体的には、X方向に沿った領域1Aaの占有面積率は、第1短冊領域1Aの中央において最も大きく、その両端に向かって単調に減少している。
【0053】
第2短冊領域1Bでは、各セルにおける領域1Baの占有面積率(すなわち各セルにおいて領域1Baが占める割合)が、第1短冊領域1Aと同じ様にX方向に沿って変化している。具体的には、X方向に沿った領域1Baの占有面積率は、第2短冊領域1Bの中央において最も大きく、その両端に向かって第1短冊領域1Aと同じ様に単調に減少している。このように、光変調素子1では、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bをつなげた領域において、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bの2つの要素領域をつなげた領域(図17中参照符号1Gで示す)内での複素振幅透過率の平均値の絶対値がX方向に沿って下に凸の分布をなしている。また、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bの2つの要素領域をつなげた領域1G内での複素振幅透過率の平均値の位相が、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとで互いに異なっている。
【0054】
第1実施例では、図17に示す光変調素子1を用いて被処理基板4上に形成される光強度分布を計算により求めた。計算条件は、以下の通りである。すなわち、光の波長は308nm(0.308μm)であり、結像光学系3の像側開口数NAは0.13である。また、照明系2の射出側開口数は0.065である。したがって、コヒーレンスファクター(照明σ値;照明系2の射出側開口数/結像光学系3の物体側開口数)は、0.5(=0.065/0.13)である。
【0055】
また、結像光学系3のエアリーディスクの半径Rd(=0.61λ/NA)は、約1.45μmである。位相段差を構成する短冊領域1A,1Bの短辺の像面換算寸法Lsが1.66μmであるから、結像光学系3のエアリーディスクの半径Rdに対する位相段差の短辺寸法Lsの比率Ls/Rdは1.14であり、0.8よりも大きく1.2よりも小さい値に設定されている。
【0056】
第1実施例では、計算の結果、図18に示すような光強度分布が得られた。図18では、図17に示す光変調素子1を用いて被処理基板4上に形成される光強度分布を、光強度の等高線(すなわち等強度線)で示している。また、図18では、図17の第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとからなる基本パターンに対応して被処理基板4上に形成される光強度分布を、破線で囲んだ矩形状の領域1Dで示している。この領域1D内において図中一点鎖線で囲んだ矩形状の領域1Eは、X方向およびY方向に沿って二次元的に繰り返し形成される光強度分布の単位領域である。ちなみに、例えば2mm×2mmの断面のビームを被処理基板4に照射する場合、200〜300個程度の単位領域1Eが二次元的に繰り返し形成される。
【0057】
換言すると、光変調素子1により位相変調された光に基づいて、被処理基板4上の非晶質シリコン膜(非単結晶半導体膜)において長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域1Eに、所定の光強度分布が形成される。ここで、短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向(Y方向)の長さは1.66μmであり、長辺方向(X方向)の長さは16μmである。短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向の中心線X0に沿った光強度分布は、図19に示すように、下に凸の分布である。図19を参照すると、下に凸の分布がY方向に繰り返されて、櫛形凹凸状の分布を形成していることがわかる。
【0058】
短冊状の繰返し領域1Eの長辺方向の中心線Y0に沿った光強度分布は、図20に示すように、下に凸の分布、さらに詳細にはV字型の分布である。短冊状の繰返し領域1Eの長辺に対応する線Y1(中心線Y0からY方向に1.66/2=0.83μmだけ離れた位置)に沿った光強度分布は、図21に示すように、比較的高い光強度が維持された分布である。短冊状の繰返し領域1Eの短辺に対応する線X1(中心線X0からY方向に16/2=8μmだけ離れた位置)に沿った光強度分布は、図22に示すように、最大光強度が一定に維持された分布(振幅変化のない分布)である。
【0059】
このように、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとの間の実効的な位相段差の作用により、短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向の中心線X0に沿って下に凸の分布が形成される。また、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとの間の実効的な位相段差の線、すなわち短冊状の繰返し領域1Eの長辺方向の中心線Y0に沿って、下に凸の分布(V字型の分布)を有する谷線が形成される。また、短冊状の繰返し領域1Eの長辺に対応する線Y1に沿って、尾根線が形成される。
【0060】
別の表現をすれば、光変調素子1により短冊状の繰返し領域1Eに形成される光強度分布は、その短辺方向の中心線X0に沿って下に凸で且つその長辺方向の中心線Y0に沿って下に凸の分布を有する。さらに具体的には、短冊状の繰返し領域1Eに形成される光強度分布は、その長辺方向の中心線Y0に沿ってV字状の分布を有し、その短辺上において最大光強度を有する。
【0061】
短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向(Y方向)のピッチは1.66μmであり、2μm以下に設定されている。また、短冊状の繰返し領域1Eに形成される光強度分布は、短冊状の繰返し領域1Eの中心から長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線を有し、この凸状に湾曲した等強度線の先端部の曲率半径は0.3μm以下になっている。
【0062】
図23は、第1実施例の光変調素子1を用いて実際に得られた結晶構造を示すSEM像の線画図である。図23において、参照符号35aは結晶核を、参照符号39は結晶粒を、矢印は結晶成長の方向を示している。図23を参照すると、実質的に等間隔に生成された結晶核35aからの結晶成長が光強度分布の尾根線により細分化され、幅寸法の小さい細長い結晶粒39が長辺同士が隣り合うようにほぼ平行に生成されることがわかる。
【0063】
図24は、本実施形態の第2実施例における光変調素子の構成を概略的に示す図である。第2実施例では、第1実施例と類似の構成を有する光変調素子1を用いているが、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bの各セル1Cにおいて、+90度の位相値を有する領域1Aaおよび−90度の位相値を有する領域1BaがY方向に間隔を隔てて2つ配置されていることが第1実施例と相違している。以下、第1実施例との相違点に着目して、第2実施例を説明する。
【0064】
第2実施例の光変調素子1では、X方向に沿った領域1Aaの占有面積率は第1短冊領域1Aの中央において最も大きく両端に向かって単調に減少し、X方向に沿った領域1Baの占有面積率は第2短冊領域1Bの中央において最も大きく両端に向かって単調に減少している。その結果、第2実施例の光変調素子1においても第1実施例の場合と同様に、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bをつなげた領域において、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bの2つの要素領域をつなげた領域(図24中参照符号1Gで示す)内での複素振幅透過率の平均値の絶対値がX方向に沿って下に凸の分布をなしている。また、第1短冊領域1Aおよび第2短冊領域1Bの2つの要素領域をつなげた領域1G内での複素振幅透過率の平均値の位相が、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとで互いに異なっている。
【0065】
第2実施例では、第1実施例と同様の条件に基づく計算の結果、図25に示すような光強度分布が得られた。図25では、図24に示す光変調素子1を用いて被処理基板4上に形成される光強度分布を、光強度の等高線で示している。また、図25では、図24の第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとからなる基本パターンに対応して形成される光強度分布を領域1Dで示し、X方向およびY方向に沿って二次元的に繰り返し形成される光強度分布の単位領域を領域1Eで示している。
【0066】
第2実施例においても第1実施例の場合と同様に、短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向(Y方向)の長さは1.66μmであり、長辺方向(X方向)の長さは16μmである。短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向の中心線X0に沿った光強度分布は、図26に示すように、下に凸の分布である。図26を参照すると、下に凸の分布がY方向に繰り返されて、櫛形凹凸状の分布を形成していることがわかる。
【0067】
短冊状の繰返し領域1Eの長辺方向の中心線Y0に沿った光強度分布は、図27に示すように、下に凸の分布、さらに詳細にはV字型の分布である。短冊状の繰返し領域1Eの長辺に対応する線Y1(中心線Y0からY方向に1.66/2=0.83μmだけ離れた位置)に沿った光強度分布は、図28に示すように、比較的高い光強度が維持された分布である。短冊状の繰返し領域1Eの短辺に対応する線X1(中心線X0からY方向に16/2=8μmだけ離れた位置)に沿った光強度分布は、図29に示すように、光強度の変化が比較的小さい(振幅変化の比較的小さい)分布である。
【0068】
このように、第2実施例においても、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとの間の実効的な位相段差の作用により、短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向の中心線X0に沿って下に凸の分布が形成される。また、第1短冊領域1Aと第2短冊領域1Bとの間の実効的な位相段差の線、すなわち短冊状の繰返し領域1Eの長辺方向の中心線Y0に沿って、下に凸の分布(V字型の分布)を有する谷線が形成される。また、短冊状の繰返し領域1Eの長辺に対応する線Y1に沿って、尾根線が形成される。
【0069】
また、第2実施例においても、短冊状の繰返し領域1Eの短辺方向(Y方向)のピッチは1.66μmであり、2μm以下に設定されている。また、短冊状の繰返し領域1Eに形成される光強度分布は、短冊状の繰返し領域1Eの中心から長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線を有し、この凸状に湾曲した等強度線の先端部の曲率半径は0.3μm以下になっている。その結果、図示を省略したが、第2実施例の光変調素子1を用いて、第1実施例の場合と類似した結晶構造を実際に得ることができた。
【0070】
図30は、本実施形態の結晶化装置を用いて結晶化された領域に電子デバイスを作製する工程を示す工程断面図である。図30(a)に示すように、透明の絶縁基板80(例えば、アルカリガラス、石英ガラス、プラスチック、ポリイミドなど)の上に、下地膜81(例えば、膜厚50nmのSiNおよび膜厚100nmのSiO2積層膜など)および非晶質半導体膜82(例えば、膜厚50nm〜200nm程度のSi,Ge,SiGeなどの半導体の膜)および不図示のキャップ膜82a(例えば、膜厚30nm〜300nmのSiO2膜など)を、化学気相成長法やスパッタ法などを用いて成膜した被処理基板5を準備する。そして、本実施形態にしたがう結晶化装置を用いて、非晶質半導体膜82の表面の予め定められた領域に、レーザ光83(例えば、KrFエキシマレーザ光やXeClエキシマレーザ光など)を照射する。
【0071】
こうして、図30(b)に示すように、大粒径の結晶を有する多結晶半導体膜または単結晶化半導体膜84が生成される。次に、キャップ膜82aをエッチングにより半導体膜84から除去した後、図30(c)に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて多結晶半導体膜または単結晶化半導体膜84を例えば薄膜トランジスタを形成するための領域となる島状の半導体膜85に加工し、表面にゲート絶縁膜86として膜厚20nm〜100nmのSiO2膜を化学気相成長法やスパッタ法などを用いて成膜する。さらに、図30(d)に示すように、ゲート絶縁膜上にゲート電極87(例えば、シリサイドやMoWなど)を形成し、ゲート電極87をマスクにして不純物イオン88(Nチャネルトランジスタの場合にはリン、Pチャネルトランジスタの場合にはホウ素)をイオン注入する。その後、窒素雰囲気でアニール処理(例えば、450°Cで1時間)を行い、不純物を活性化して島状の半導体膜85にソース領域91、ドレイン領域92を形成する。次に、図30(e)に示すように、層間絶縁膜89を成膜してコンタクト穴をあけ、チャネル90でつながるソース91およびドレイン92に接続するソース電極93およびドレイン電極94を形成する。
【0072】
以上の工程において、図30(a)および(b)に示す工程で生成された多結晶半導体膜または単結晶化半導体膜84の大粒径結晶の位置に合わせて、即ち、平行な短冊状結晶粒アレイの位置にチャネル90を形成する。以上の工程により、多結晶トランジスタまたは単結晶化半導体に薄膜トランジスタ(TFT)を形成することができる。こうして製造された多結晶トランジスタまたは単結晶化トランジスタは、液晶表示装置(ディスプレイ)やEL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどの駆動回路や、メモリ(SRAMやDRAM)やCPUなどの集積回路などに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】従来の一次元結晶化において複数の結晶核がランダムに発生する様子を模式的に示す図である。
【図2】従来の一次元結晶化で生成された複数の結晶粒の領域にTFTを作製した様子を模式的に示す図である。
【図3】V字型の分布と櫛形凹凸状の分布との組み合わせからなる二次元光強度分布を有する光を非単結晶半導体膜に照射する様子を模式的に示す図である。
【図4】非単結晶半導体膜上において長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に二次元光強度分布を形成する様子を模式的に示す図である。
【図5】等間隔に生成された結晶核からの結晶成長が二次元光強度分布の尾根線により細分化されて細長い結晶粒が生成される様子を模式的に示す図である。
【図6】長辺同士が隣り合うように複数の結晶粒が互いにほぼ平行に生成される様子を模式的に示す図である。
【図7】互いにほぼ平行に生成された複数の細長い結晶粒の領域にTFTを作製した様子を模式的に示す図である。
【図8】比率Ls/Rdが0.8のときに生成される櫛形凹凸状の分布の計算結果を示す図である。
【図9】比率Ls/Rdが1.0のときに生成される櫛形凹凸状の分布の計算結果を示す図である。
【図10】比率Ls/Rdが1.2のときに生成される櫛形凹凸状の分布の計算結果を示す図である。
【図11】結晶核が生成された直後の状態を説明するモデルを示す図である。
【図12】結晶核から結晶が成長した後の状態を説明するモデルを示す図である。
【図13】一片の結晶粒の放射角を説明するモデルを示す図である。
【図14】図13のモデルにおける等強度線の曲率半径Rと結晶粒の放射角θとの関係を示す図である。
【図15】本発明の実施形態にかかる結晶化装置の構成を概略的に示す図である。
【図16】図15の照明系の内部構成を概略的に示す図である。
【図17】本実施形態の第1実施例における光変調素子の構成を概略的に示す図である。
【図18】第1実施例で得られる光強度分布の計算結果を示す図である。
【図19】図18の中心線X0に沿った光強度分布を示す図である。
【図20】図18の中心線Y0に沿った光強度分布を示す図である。
【図21】図18の線Y1に沿った光強度分布を示す図である。
【図22】図18の中心線X1に沿った光強度分布を示す図である。
【図23】第1実施例の光変調素子を用いて実際に得られた結晶構造を示すSEM像の線画図である。
【図24】本実施形態の第2実施例における光変調素子の構成を概略的に示す図である。
【図25】第2実施例で得られる光強度分布の計算結果を示す図である。
【図26】図25の中心線X0に沿った光強度分布を示す図である。
【図27】図25の中心線Y0に沿った光強度分布を示す図である。
【図28】図25の線Y1に沿った光強度分布を示す図である。
【図29】図25の中心線X1に沿った光強度分布を示す図である。
【図30】本実施形態の結晶化装置を用いて電子デバイスを作製する工程を示す工程断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 光変調素子
2 照明系
2a 光源
2b ビームエキスパンダ
2c,2e フライアイレンズ
2d,2f コンデンサー光学系
3 結像光学系
4 被処理基板
5 基板ステージ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を位相変調する光変調素子と、該光変調素子により位相変調された光に基づいて、長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に所定の光強度分布を形成する結像光学系とを備え、
前記所定の光強度分布は、前記短冊状の繰返し領域の短辺方向の中心線に沿って下に凸で且つ前記短冊状の繰返し領域の長辺方向の中心線に沿って下に凸の分布を有し、前記短冊状の繰返し領域の中心から前記長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線を有し、該凸状に湾曲した等強度線のうち少なくとも1本の先端部の曲率半径は0.3μm以下であり、
前記短冊状の繰返し領域の前記短辺方向のピッチは2μm以下である光照射装置。
【請求項2】
前記所定の光強度分布は、前記長辺方向の中心線に沿ってV字状の分布を有する請求項1に記載の光照射装置。
【請求項3】
前記所定の光強度分布は、前記短冊状の繰返し領域の短辺上の少なくとも一点において最大光強度を有する請求項1または2に記載の光照射装置。
【請求項4】
前記光変調素子は、前記長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第1短冊領域と、前記長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第2短冊領域とが前記短辺方向に繰り返す繰り返し構造を有し、
前記第1短冊領域と前記第2短冊領域との間で複素振幅透過率の要素領域内での平均値の位相が互いに異なり、且つ前記結像光学系のエアリーディスクの半径に対する前記第1短冊領域および前記第2短冊領域の短辺の比率が0.8よりも大きく1.2よりも小さい請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光照射装置。
【請求項5】
前記第1短冊領域および前記第2短冊領域をつなげた領域において、前記第1短冊領域および前記第2短冊領域の2つの要素領域をつなげた領域内での複素振幅透過率の平均値の絶対値が各短冊領域の長手方向に沿って下に凸の分布をなしている請求項4に記載の光照射装置。
【請求項6】
光を位相変調する光変調素子と、該光変調素子により位相変調された光に基づいて、長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に所定の光強度分布を形成する結像光学系とを備え、
前記光変調素子は、前記短冊状の繰返し領域の長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第1短冊領域と、前記長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第2短冊領域とが前記短冊状の繰返し領域の短辺方向に繰り返す繰り返し構造を有し、
前記第1短冊領域と前記第2短冊領域との間で複素振幅透過率の要素領域内での平均値の位相が互いに異なり、且つ前記結像光学系のエアリーディスクの半径に対する前記第1短冊領域および前記第2短冊領域の短辺の比率が0.8よりも大きく1.2よりも小さい光照射装置。
【請求項7】
前記第1短冊領域および前記第2短冊領域をつなげた領域において、前記第1短冊領域および前記第2短冊領域の2つの要素領域をつなげた領域内での複素振幅透過率の平均値の絶対値が各短冊領域の長手方向に沿って下に凸の分布をなしている請求項6に記載の光照射装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光照射装置と、非単結晶半導体膜を保持するためのステージとを備え、該ステージによって保持された非単結晶半導体膜に前記所定の光強度分布を有する光を照射して結晶化半導体膜を生成する結晶化装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光照射装置を用いて、非単結晶半導体膜に前記所定の光強度分布を有する光を照射して結晶化半導体膜を生成する結晶化方法。
【請求項10】
請求項8に記載の結晶化装置または請求項9に記載の結晶化方法を用いて製造されたデバイス。
【請求項1】
光を位相変調する光変調素子と、該光変調素子により位相変調された光に基づいて、長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に所定の光強度分布を形成する結像光学系とを備え、
前記所定の光強度分布は、前記短冊状の繰返し領域の短辺方向の中心線に沿って下に凸で且つ前記短冊状の繰返し領域の長辺方向の中心線に沿って下に凸の分布を有し、前記短冊状の繰返し領域の中心から前記長辺方向の外側に向けて凸状に湾曲した等強度線を有し、該凸状に湾曲した等強度線のうち少なくとも1本の先端部の曲率半径は0.3μm以下であり、
前記短冊状の繰返し領域の前記短辺方向のピッチは2μm以下である光照射装置。
【請求項2】
前記所定の光強度分布は、前記長辺方向の中心線に沿ってV字状の分布を有する請求項1に記載の光照射装置。
【請求項3】
前記所定の光強度分布は、前記短冊状の繰返し領域の短辺上の少なくとも一点において最大光強度を有する請求項1または2に記載の光照射装置。
【請求項4】
前記光変調素子は、前記長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第1短冊領域と、前記長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第2短冊領域とが前記短辺方向に繰り返す繰り返し構造を有し、
前記第1短冊領域と前記第2短冊領域との間で複素振幅透過率の要素領域内での平均値の位相が互いに異なり、且つ前記結像光学系のエアリーディスクの半径に対する前記第1短冊領域および前記第2短冊領域の短辺の比率が0.8よりも大きく1.2よりも小さい請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光照射装置。
【請求項5】
前記第1短冊領域および前記第2短冊領域をつなげた領域において、前記第1短冊領域および前記第2短冊領域の2つの要素領域をつなげた領域内での複素振幅透過率の平均値の絶対値が各短冊領域の長手方向に沿って下に凸の分布をなしている請求項4に記載の光照射装置。
【請求項6】
光を位相変調する光変調素子と、該光変調素子により位相変調された光に基づいて、長辺同士が隣接する短冊状の繰返し領域に所定の光強度分布を形成する結像光学系とを備え、
前記光変調素子は、前記短冊状の繰返し領域の長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第1短冊領域と、前記長辺方向に並んだ複数の要素領域から構成される第2短冊領域とが前記短冊状の繰返し領域の短辺方向に繰り返す繰り返し構造を有し、
前記第1短冊領域と前記第2短冊領域との間で複素振幅透過率の要素領域内での平均値の位相が互いに異なり、且つ前記結像光学系のエアリーディスクの半径に対する前記第1短冊領域および前記第2短冊領域の短辺の比率が0.8よりも大きく1.2よりも小さい光照射装置。
【請求項7】
前記第1短冊領域および前記第2短冊領域をつなげた領域において、前記第1短冊領域および前記第2短冊領域の2つの要素領域をつなげた領域内での複素振幅透過率の平均値の絶対値が各短冊領域の長手方向に沿って下に凸の分布をなしている請求項6に記載の光照射装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光照射装置と、非単結晶半導体膜を保持するためのステージとを備え、該ステージによって保持された非単結晶半導体膜に前記所定の光強度分布を有する光を照射して結晶化半導体膜を生成する結晶化装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光照射装置を用いて、非単結晶半導体膜に前記所定の光強度分布を有する光を照射して結晶化半導体膜を生成する結晶化方法。
【請求項10】
請求項8に記載の結晶化装置または請求項9に記載の結晶化方法を用いて製造されたデバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
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【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2009−272509(P2009−272509A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122946(P2008−122946)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(501286657)株式会社 液晶先端技術開発センター (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(501286657)株式会社 液晶先端技術開発センター (161)
【Fターム(参考)】
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