説明

光電変換素子用基板の製造方法

【課題】Si/Ge系構造のタンデム型光電変換素子の低コスト化を可能とする基板を提供すること。
【解決手段】シリコン基板100の表面にバルクの導電型とは反対の導電型のシリコン層10Bを設け、表面領域の所定の深さ(L)にシリコン層10Bを介して水素イオンを注入して水素イオン注入層11を形成する。続いて、シリコン層10Bと反対の導電型のn型のゲルマニウム系結晶層20A、および、ゲルマニウム系結晶層20Aと反対の導電型のp型のゲルマニウム系結晶層20Bを順次気相成長してゲルマニウム系結晶20を設ける。ゲルマニウム系結晶層20Bの表面と支持基板30の表面とを貼り合わせ、この状態で外部から衝撃を付与して水素イオン注入層11に沿ってシリコン基板100からシリコン結晶10を分離して、ゲルマニウム系結晶20とシリコン結晶10の積層構造体を支持基板30上に転写(剥離)する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持基板上にゲルマニウム系結晶とシリコン結晶の積層体が貼り合わせ技術により形成された太陽電池などの光電変換素子用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子のひとつとして太陽電池があり、その素材としては単結晶や多結晶あるいは非結質のシリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)、GaAsをはじめとするIII−V族化合物半導体、CdSなどのII−VI族化合物半導体などが用いられ、素子構造もpn接合構造やpin接合構造やタンデム構造などが知られている。
【0003】
近年、太陽光の光スペクトルを有効に利用して太陽電池の高効率化を実現化することを目的とするGeを用いた光電変換素子の開発が進められ、例えば、Geを最下層に用いたタンデム型太陽電池(GaInP / GaAs / Ge系)の太陽電池(非特許文献1)や、概ね1.1μm以下の波長の光を光電変換するシリコン結晶セルと、1.1〜1.6μmの波長帯の太陽光を光電変換させるゲルマニウム系結晶セルとを積層させたタンデム構造の光電変換素子が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
図1は、シリコン結晶セルとゲルマニウム系結晶セルを積層させた従来のタンデム構造の光電変換素子の構造を説明するための断面概略図である。この素子は、波長1.1μmを越える波長帯域の光(hν1)を吸収して光電変換するゲルマニウム系結晶セル2と波長1.1μm以下の波長帯域の光(hν2)を吸収して光電変換するシリコン結晶セル1とが積層されたタンデム構造を有し、これらのセルはそれぞれ、互いに反対の導電型(p型またはn型)の層(1Aと1B、および2Aと2B)が積層されたpn接合型のセルであり、シリコン結晶セル1とゲルマニウム系結晶セル2の界面でもpn接合が形成されている。
【0005】
トップセルであるシリコン結晶セル1の上部にはガラス板4に挟まれるかたちで透明電極3が設けられ、ボトムセルであるゲルマニウム系結晶セル2の下部には電極5が設けられている。透明電極3側から入射した光はトップセルおよびボトムセルの内部で光電変換され、発生したキャリアが電極(3,5)を介して電流として外部に取り出される。
【特許文献1】特開平6−291341号公報
【特許文献2】特許第3048201号明細書
【特許文献3】特開平11−145438号公報
【非特許文献1】R. R. King et. Al., "Metamorphic GaInP / GaInAs /Ge Solar Cells." Proc. 28th IEEE Photovoltaic Specialists Conf. (IEEE. New York, 2000), p.982.
【非特許文献2】M. L. Hammond, "Silicon epitaxy", Solid State Technol., Nov., pp.68-75 (1978).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコン結晶セルとゲルマニウム系結晶セルとをタンデム構造とする場合には、ゲルマニウム系結晶セルをボトムセルとして構成する。これは、相対的に高エネルギの光(hν2)をシリコン結晶セルで効率よく光電変換させ、シリコン結晶セルでは光電変換されない相対的に低エネルギの光(hν1)をゲルマニウム系結晶セルで光電変換させるためである。
【0007】
このため、図1に示したような構造のタンデム型光電変換素子を作製する場合には、単結晶のゲルマニウム系基板の上にシリコン層をエピタキシャル成長させるのが一般的である。
【0008】
しかしながら、単結晶のゲルマニウム系基板は高価で希少なことに加え、大口径の基板が得られないなどの問題がある。
【0009】
このような問題を解決する手段として、シリコン(Si)単結晶基板上にゲルマニウム系(Ge系)結晶をエピタキシャル成長させた基板を用いてSi/Ge系構造のタンデム型光電変換素子を作製することも可能であるが、その場合には、以下のような問題がある。
【0010】
第1に、シリコン(Si)基板上にエピタキシャル成長させたゲルマニウム(Ge)の上に、さらにSiをエピタキシャル成長させることが極めて困難である点である。これは、Geの融点(910℃程度)がSiのエピタキシャル成長に通常必要とされる温度よりも著しく低いことによる。
【0011】
Siのエピタキシャル成長に用いられるガスとしては、SiH4、SiH2Cl2、SiHCl3、SiCl4などがあるが、これらのガスの最適な分解温度はそれぞれ、SiH4:950〜1000℃、SiH2Cl2:1050〜1150℃、SiHCl3:1100〜1200℃、SiCl4:1150〜1250℃とされている(非特許文献2による)。従って、このような温度でSiをエピタキシャル成長させた場合には下地のGeエピタキシャル層は融解してしまうこととなる結果、最適分解温度以下の温度でSiのエピタキシャル成長を行わざるを得ず、結晶性の高いSi層を得ることが困難である。
【0012】
また、図2に示すように、シリコン単結晶基板1A上に当該基板と反対の導電型のシリコン層1Bを形成しておき、この上に、互いに導電型の異なるゲルマニウム系結晶の層(2A、2B)を積層させ(図2(A))、ゲルマニウム系結晶層2の表面に支持基板6を貼り付けて(図2(B))ハンドリング可能な状態とし、シリコン単結晶基板1Aの裏面を研磨して(図2(C))所定の膜厚とすれば、シリコン結晶セルをトップセルとしゲルマニウム系結晶セルをボトムセルとして構成するに適する光電素子用基板が得られる(図2(D))が、このようなプロセスでは、シリコン単結晶基板1Aの裏面を研磨しさらに研磨後に基板を洗浄する工程が必須となり、光電変換素子用基板の製造工程が煩雑となるばかりが製造コストも高くなってしまい、特に、太陽電池に求められる「低コスト化」という要求に応えることが困難となってしまう。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、Si/Ge系構造の光電変換素子を低コストで提供可能な基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、このような課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、光電変換素子用基板の製造方法であって、第1の導電型のシリコン基板の表層に前記第1の導電型と逆の第2の導電型のシリコン層を形成する第1のステップと、前記第2の導電型のシリコン層を介して前記第1の導電型のシリコン結晶領域にイオン打ち込みして水素イオン注入層を形成する第2のステップと、前記第2の導電型のシリコン層上に前記第1および第2の導電型のゲルマニウム結晶もしくはシリコン・ゲルマニウム混晶を順次積層させてゲルマニウム系結晶層を気相成長させる第3のステップと、支持基板の表面及び前記ゲルマニウム系結晶層の表面の少なくとも一方に表面活性化処理を施す第4のステップと、前記ゲルマニウム系結晶層の表面と前記支持基板の表面とを貼り合わせる第5のステップと、前記水素イオン注入層に沿って前記シリコン基板の表層を剥離して前記支持基板上にゲルマニウム系結晶とシリコン結晶の積層体を形成する第6のステップと、を備えていることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明は、光電変換素子用基板の製造方法であって、第1の導電型のシリコン基板の表層に前記第1の導電型と逆の第2の導電型のシリコン層を形成する第1のステップと、前記第2の導電型のシリコン層上に前記第1および第2の導電型のゲルマニウム結晶もしくはシリコン・ゲルマニウム混晶を順次積層させてゲルマニウム系結晶層を気相成長させる第2のステップと、前記ゲルマニウム系結晶層を介して前記第1の導電型のシリコン結晶領域にイオン打ち込みして水素イオン注入層を形成する第3のステップと、支持基板の表面及び前記ゲルマニウム系結晶層の表面の少なくとも一方に表面活性化処理を施す第4のステップと、前記ゲルマニウム系結晶層の表面と前記支持基板の表面とを貼り合わせる第5のステップと、前記水素イオン注入層に沿って前記シリコン基板の表層を剥離して前記支持基板上にゲルマニウム系結晶とシリコン結晶の積層体を形成する第6のステップと、を備えていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の光電変換素子用基板の製造方法において、前記第4のステップの表面活性化処理は、プラズマ処理又はオゾン処理の少なくとも一方で実行されることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の光電変換素子用基板の製造方法において、前記第5のステップは、前記貼り合わせ後に、前記ゲルマニウム系結晶層と前記支持基板を貼り合わせた状態で熱処理するサブステップを備えていることを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の光電変換素子用基板の製造方法において、前記サブステップの熱処理は、100℃以上300℃以下の温度で実行されることを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の光電変換素子用基板の製造方法において、前記積層体のシリコン結晶上に、前記第2および第1の導電型のIII−V族系化合物半導体結晶を順次気相成長させる第7のステップ
を備えていることを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の光電変換素子用基板の製造方法において、前記第1の導電型のシリコン基板の表層と前記第2の導電型のシリコン層との間に真性導電型のシリコン層を形成するステップを備えていることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7の何れか1項に記載の光電変換素子用基板の製造方法において、前記第1の導電型のゲルマニウム系結晶と第2の導電型のゲルマニウム系結晶との間に真性導電型のゲルマニウム系結晶層を形成するステップを備えていることを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の発明は、請求項6乃至8の何れか1項に記載の光電変換素子用基板の製造方法において、前記第1の導電型のIII−V族系化合物半導体結晶と
第2の導電型のIII−V族系化合物半導体結晶との間に真性導電型のIII−V族系化
合物半導体結晶層を形成するステップを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、高価なゲルマニウム基板を用いることなくSi/Ge系構造のタンデム型光電変換素子製造用基板の提供が可能となるので、Si/Ge系構造のタンデム型光電変換素子製造の低コスト化に寄与できる。
【0024】
また、本発明においては高温処理(例えば1000℃以上)を必要としないため、低融点のゲルマニウム系結晶基板や結晶成長を必須のものとするSi/Ge系構造の基板製造に何ら支障を生じない。
【0025】
さらに、低温プロセスのみで接合・剥離が可能であるということは、結晶中の不純物(ドーパント)プロファイルにも大きな影響を与えないという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0027】
〔光電変換素子用基板の基本構造〕
図3は、本発明の方法により得られる光電変換素子用基板の断面を概念的に説明するために例示する図である。
【0028】
図3(A)に示した例では、支持基板30の上に、後述する剥離法により形成された、ゲルマニウム系結晶20とシリコン結晶10の積層体が設けられている。このうち、シリコン結晶10は鏡面研磨された単結晶Si基板の表面側の所定の厚みの領域を後述の手順により剥離して得られるもので、単結晶Si基板は、例えば、CZ法(チョクラルスキ法)により育成された一般に市販されているSi基板であり、その導電型や比抵抗率などの電気特性値や結晶方位や結晶径は、本発明の方法で製造される基板が供される光電変換素子に依存して適宜選択される。
【0029】
また、ゲルマニウム系結晶20は、シリコン結晶10の上に予め、UHVCVDやLPCVDあるいはMOVPEなどの気相法により結晶成長させて得られたもので、シリコン結晶10が剥離されることによりこのシリコン結晶10に積層された状態で支持基板30上に貼り合わせ接合されることになる。
【0030】
これらのシリコン結晶10とゲルマニウム系結晶20は何れも、互いに導電型の異なる層(10Aと10B、および20Aと20B)からなり、このうちシリコン結晶層10Bは、ゲルマニウム系結晶20の気相成長に先立ってシリコン基板上に設けられてシリコン結晶層10Aとの界面でpn接合をなし、シリコン結晶10とゲルマニウム系結晶20の界面(すなわち、10Bと20Aの界面)にもpn接合が形成されている。
【0031】
図3(B)に示した例では、図3(A)に示した構成において、シリコン結晶10とゲルマニウム系結晶20のp層とn層の間(すなわち、10Aと10Bの間、および20Aと20Bの間)に、シリコン結晶10とゲルマニウム系結晶20のそれぞれにセルを形成した場合の光電変換効率を高めるための真性導電型の層(i層)が気相成長により設けられている(10C、20C)。
【0032】
図3(C)に示した例では、図3(A)に示した構成において、シリコン結晶10の上に、さらに気相成長によりIII−V族系化合物半導体結晶40が形成されている。このIII−V族系化合物半導体結晶40もまた互いに導電型の異なる層(40Aと40B)からなり、その界面でpn接合が形成されると共に、シリコン結晶10との界面(すなわち、10Aと40Bの界面)にもpn接合が形成されている。なお、この図に示されたIII−V族系化合物半導体結晶40を、図3(B)に図示した構造のシリコン結晶10A上に設けるようにしてもよい。
【0033】
ゲルマニウム系結晶20は、ゲルマニウム単体結晶はもちろんのこと、ゲルマニウムとシリコンの混晶(SixGe1-x)でもあり得る。この場合、ゲルマニウムとシリコンの混晶比をゲルマニウム系結晶層(20Aおよび/または20B)中で変化させて、シリコン結晶層10Bとの間の格子不整合を緩和させるためのバッファ層として機能させたり、結晶層のバンドギャップを所定の値に設計させるようにしてもよい。
【0034】
また、支持基板30は、後述の手法によりゲルマニウム系結晶20との貼り合わせが可能な基板であれば特別な制限はなく、シリコン基板やガラス基板などのほか、石英基板、サファイア(アルミナ)基板、セラミックス基板などの基板とすることができる。
【0035】
〔光電変換素子用基板の製造方法例1〕
図4は、本発明の光電変換素子用基板の製造方法の第1例を説明するための工程図である。図4(A)において、符号100は、その表面にバルクの導電型とは反対の導電型のシリコン層10Bが設けられた単結晶シリコン基板である。このシリコン層10Bは、MOVPE法などの方法で気相成長される。本方法例では、シリコン基板100の導電型は燐(P)をドープしたn型であり、この上に気相法によりエピタキシャル成長により形成されたシリコン層10Bには硼素(B)がドーピングされてp型の導電型とされている。
【0036】
シリコン基板100の表面領域の所定の深さ(L)に、シリコン層10Bを介して水素イオンを注入して水素イオン注入層11を形成する(図4(B))。水素のイオン注入時のドーズ量は1016〜1017atoms/cm2程度とされ、平均イオン注入深さL(シリコン層10Bの表面からの深さ)は、後に剥離により得られることとなるシリコン層(10A)の厚みに概ね等しい値とされる。
【0037】
続いて、シリコン層10Bと反対の導電型のn型のゲルマニウム系結晶層20A、および、ゲルマニウム系結晶層20Aと反対の導電型のp型のゲルマニウム系結晶層20Bを順次気相成長してゲルマニウム系結晶20を設ける(図4(C))。
【0038】
このようにして得られたゲルマニウム系結晶20の表面(すなわち、ゲルマニウム系結晶層20Bの表面)と、別途用意された支持基板30の表面とを貼り合わせ(図4(D))、この状態で外部から衝撃を付与して水素イオン注入層11に沿ってシリコン基板100からシリコン結晶10を分離して、ゲルマニウム系結晶20とシリコン結晶10の積層構造体を支持基板30上に転写(剥離)し(図4(E))、図3(A)に図示した構造の基板を得る。
【0039】
〔光電変換素子用基板の製造方法例2〕
図5は、本発明の光電変換素子用基板の製造方法の第2例を説明するための工程図である。図4で説明した第1例との相違は、水素イオンの打ち込みをゲルマニウム系結晶20の成長後に行う点である。
【0040】
図5(A)は、その表面にバルクの導電型とは反対の導電型のシリコン層10Bが設けられた単結晶シリコン基板100を示しており、本方法例でも、シリコン基板100の導電型は燐(P)をドープしたn型であり、この上に気相法によりエピタキシャル成長により形成されたシリコン層10Bには硼素(B)がドーピングされてp型の導電型とされている。
【0041】
このシリコン層10Bの上に、シリコン層10Bと反対の導電型のn型のゲルマニウム系結晶層20A、および、ゲルマニウム系結晶層20Aと反対の導電型のp型のゲルマニウム系結晶層20Bを順次気相成長してゲルマニウム系結晶20を設け(図5(B))、このゲルマニウム系結晶20を介して水素イオンを注入し、シリコン基板100の表面領域の所定の深さ(L)に、水素イオン注入層11を形成する(図5(C))。この場合も、水素のイオン注入時のドーズ量は1016〜1017atoms/cm2程度とされ、平均イオン注入深さL(シリコン層10Bの表面からの深さ)は、後に剥離により得られることとなるシリコン層(10A)の厚みに概ね等しい値とされる。
【0042】
そして、ゲルマニウム系結晶20の表面(ゲルマニウム系結晶層20Bの表面)と支持基板30の表面とを貼り合わせ(図5(D))、外部衝撃を付与して水素イオン注入層11に沿ってシリコン基板100からシリコン結晶10を分離し、ゲルマニウム系結晶20とシリコン結晶10の積層構造体を支持基板30上に転写(剥離)して(図5(E))、図3(A)に図示した構造の基板を得る。
【0043】
以下に、実施例により、本発明の光電変換素子用基板の製造方法について説明する。
【実施例】
【0044】
図6は、本実施例のプロセスを説明するための図で、図6(A)に図示されているように、n型の導電型のシリコン基板100の一方表面にはp型のシリコン層10Bが気相成長法により設けられるとともに、ドーズ量1×1017atoms/cm2の水素イオン注入により平均イオン注入深さ2μmの水素イオン注入層11が形成されている。そして、シリコン層10Bの上には、ゲルマニウム系結晶層20Aと20Bを順次積層させたゲルマニウム結晶20が気相成長で形成されている。
【0045】
本実施例では、ゲルマニウム系結晶20をゲルマニウムとシリコンの混晶(SixGe1-x)とし、かつ、ゲルマニウムとシリコンの混晶比をゲルマニウム系結晶層(20Aおよび/または20B)中で変化させ、シリコン結晶層10Bとの間の格子不整合を緩和させるためのバッファ層としての機能ももたせている。
【0046】
また、後の貼り合わせで用いる支持基板30を準備する。本実施例では、支持基板30はシリコン基板とした。
【0047】
次に、ゲルマニウム系結晶層20Bの表面(接合面)と支持基板30の接合面に、表面清浄化や表面活性化などを目的としたプラズマ処理やオゾン処理を施す(図6(B))。なお、このような表面処理は、接合面となる表面の有機物除去や表面上のOH基を増大させて表面活性化を図るなどの目的で行われるものであり、ゲルマニウム系結晶層20Bの表面と支持基板30の表面の双方に処理を施す必要は必ずしもなく、何れか一方の接合面にのみ施すこととしてもよい。
【0048】
この表面処理をプラズマ処理により実行する場合には、予めRCA洗浄等を施した基板を真空チャンバ内の試料ステージに載置し、当該真空チャンバ内にプラズマ用ガスを所定の真空度となるように導入する。なお、ここで用いられるプラズマ用ガス種としては、酸素ガス、水素ガス、アルゴンガス、またはこれらの混合ガス、あるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガスなどがあり、基板の表面状態や目的などにより適宜変更され得る。プラズマ用ガスの導入後、100W程度の電力の高周波プラズマを発生させ、プラズマ処理される基板の表面に5〜10秒程度の処理を施して終了する。
【0049】
表面処理をオゾン処理で実行する場合には、予めRCA洗浄等を施した表面清浄な基板を酸素含有の雰囲気とされたチャンバ内の試料ステージに載置し、当該チャンバ内に窒素ガスやアルゴンガスなどのプラズマ用ガスを導入した後に所定の電力の高周波プラズマを発生させ、当該プラズマにより雰囲気中の酸素をオゾンに変換させ、処理される基板の表面に所定の時間の処理が施される。
【0050】
このような表面処理の後に、ゲルマニウム系結晶層20Bの表面と支持基板30の表面を密着させて貼り合わせる(図6(C))。上述したように、ゲルマニウム系結晶層20Bの表面と支持基板30の表面の少なくとも一方は、プラズマ処理やオゾン処理などの処理が施されて活性化しているために、室温で密着(貼り合せ)した状態でも後工程での機械的剥離や機械研磨に十分耐え得るレベルの接合強度を得ることができるが、より高い貼り合せ強度をもたせる場合には比較的低温で加熱処理(接合処理)を施すようにしてもよい。
【0051】
このときの接合処理温度は、貼り合せに用いられている基板の種類等に応じて適宜選択されるが、両基板間の熱膨張係数が大きく異なるような場合には、450℃以下の温度、例えば200〜450℃の温度範囲とする。
【0052】
このような処理に続いて、貼り合わされた基板に何らかの手法により外部衝撃を付与し、水素イオン注入層11に沿ってシリコン薄膜(シリコン層10A)を剥離し(図6(D))、支持基板30上にゲルマニウム系結晶20とシリコン結晶10の積層構造体を得る(図6(E))。
【0053】
ここで、シリコン薄膜(シリコン層10A)の剥離のための外部からの衝撃付与の手法としては種々のものがあり得る。図7は、シリコン薄膜の剥離のための種々の手法を例示するための概念図で、図7(A)は熱衝撃により剥離を行う例、図7(B)は機械的衝撃により剥離を行う例、そして図7(C)は振動衝撃により剥離を行う例を図示している。
【0054】
図7(A)において、符号40は平滑な面を有するホットプレートなどの加熱部であり、貼り合わされた基板を例えば300℃程度に保持した加熱部40の平滑面上に載置する。図7(A)では、支持基板30としてはガラス基板が用いられており、シリコン基板100が加熱部40と密着するように載置されている。シリコン基板100は熱伝導により加熱され、支持基板30との間に生じる温度差によって両基板間で応力が発生し、この応力によって水素イオン注入層11に沿ったシリコン薄膜の剥離が生じることとなる。
【0055】
図7(B)に図示した例では、機械的衝撃付与のために流体の噴出を利用しており、ガスや液体などの流体をノズル50の先端部からジェット状に噴出させてシリコン基板100の側面(水素イオン注入層11近傍)から吹き付けることで衝撃を与えている。この他にも、ブレードの先端部を水素イオン注入層11の近傍領域に押し当てるなどして衝撃を付与するなどの手法によることもできる。
【0056】
さらに、図7(C)に図示したように、超音波発振器の振動板60から発振される超音波で振動衝撃を付与してシリコン薄膜の剥離を生じさせるようにしてもよい。
【0057】
なお、従来の「貼り合わせ法」では、十分な接合強度を得る目的やシリコン原子の結合手切断のために高温熱処理を必要とする(例えば、特許文献2および特許文献3を参照)が、本発明においてはこのような高温処理(例えば1000℃以上)は必要としないため、低融点のゲルマニウム系結晶を必須のものとするSi/Ge系構造の基板製造に何ら支障が生じない。また、低温プロセスのみで接合・剥離が可能であるということは、結晶中の不純物(ドーパント)プロファイルにも大きな影響を与えないという利点もある。
【0058】
上述したように、本発明においては、高価なゲルマニウム基板を用いることなくSi/Ge系構造のタンデム型光電変換素子製造用基板の提供が可能となり、その結果、Si/Ge系タンデム型光電変換素子の製造コストの低減化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、Si/Ge系構造のタンデム型光電変換素子製造の低コスト化を実現する基板を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】シリコン結晶セルゲルマニウム系結晶セルを積層させた従来のタンデム構造の光電変換素子の構造を説明するための断面概略図である。
【図2】Si基板上にGe系結晶をエピタキシャル成長させた基板を用いてSi/Ge系構造のタンデム型光電変換素子用基板を得るプロセス例を説明するための図である。
【図3】本発明の方法により得られる光電変換素子用基板の断面を概念的に説明するために例示する図である。
【図4】本発明の光電変換素子用基板の製造方法の第1例を説明するための工程図である。
【図5】本発明の光電変換素子用基板の製造方法の第2例を説明するための工程図である。
【図6】本発明の光電変換素子用基板の製造方法の実施例のプロセスを説明するための図である。
【図7】シリコン薄膜の剥離のための種々の手法を例示するための概念図で、(A)は熱衝撃により剥離を行う例、(B)は機械的衝撃により剥離を行う例、そして(C)は振動衝撃により剥離を行う例である。
【符号の説明】
【0061】
10 シリコン結晶
10A、10B シリコン層
11 水素イオン注入層
20 ゲルマニウム系結晶
20A、20B ゲルマニウム系結晶層
30 支持基板
40 加熱部
50 ノズル
60 超音波発信器の振動板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電型のシリコン基板の表層に前記第1の導電型と逆の第2の導電型のシリコン層を形成する第1のステップと、
前記第2の導電型のシリコン層を介して前記第1の導電型のシリコン結晶領域にイオン打ち込みして水素イオン注入層を形成する第2のステップと、
前記第2の導電型のシリコン層上に前記第1および第2の導電型のゲルマニウム結晶もしくはシリコン・ゲルマニウム混晶を順次積層させてゲルマニウム系結晶層を気相成長させる第3のステップと、
支持基板の表面及び前記ゲルマニウム系結晶層の表面の少なくとも一方に表面活性化処理を施す第4のステップと、
前記ゲルマニウム系結晶層の表面と前記支持基板の表面とを貼り合わせる第5のステップと、
前記水素イオン注入層に沿って前記シリコン基板の表層を剥離して前記支持基板上にゲルマニウム系結晶とシリコン結晶の積層体を形成する第6のステップと、
を備えていることを特徴とする光電変換素子用基板の製造方法。
【請求項2】
第1の導電型のシリコン基板の表層に前記第1の導電型と逆の第2の導電型のシリコン層を形成する第1のステップと、
前記第2の導電型のシリコン層上に前記第1および第2の導電型のゲルマニウム結晶もしくはシリコン・ゲルマニウム混晶を順次積層させてゲルマニウム系結晶層を気相成長させる第2のステップと、
前記ゲルマニウム系結晶層を介して前記第1の導電型のシリコン結晶領域にイオン打ち込みして水素イオン注入層を形成する第3のステップと、
支持基板の表面及び前記ゲルマニウム系結晶層の表面の少なくとも一方に表面活性化処理を施す第4のステップと、
前記ゲルマニウム系結晶層の表面と前記支持基板の表面とを貼り合わせる第5のステップと、
前記水素イオン注入層に沿って前記シリコン基板の表層を剥離して前記支持基板上にゲルマニウム系結晶とシリコン結晶の積層体を形成する第6のステップと、
を備えていることを特徴とする光電変換素子用基板の製造方法。
【請求項3】
前記第4のステップの表面活性化処理は、プラズマ処理又はオゾン処理の少なくとも一方で実行されることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子用基板の製造方法。
【請求項4】
前記第5のステップは、前記貼り合わせ後に、前記ゲルマニウム系結晶層と前記支持基板を貼り合わせた状態で熱処理するサブステップを備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の光電変換素子用基板の製造方法。
【請求項5】
前記サブステップの熱処理は、100℃以上300℃以下の温度で実行されることを特徴とする請求項4に記載の光電変換素子用基板の製造方法。
【請求項6】
前記積層体のシリコン結晶上に、前記第2および第1の導電型のIII−V族系化合物半導体結晶を順次気相成長させる第7のステップを備えている
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の光電変換素子用基板の製造方法。
【請求項7】
前記第1の導電型のシリコン基板の表層と前記第2の導電型のシリコン層との間に真性導電型のシリコン層を形成するステップを備えていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の光電変換素子用基板の製造方法。
【請求項8】
前記第1の導電型のゲルマニウム系結晶と第2の導電型のゲルマニウム系結晶との間に真性導電型のゲルマニウム系結晶層を形成するステップを備えていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の光電変換素子用基板の製造方法。
【請求項9】
前記第1の導電型のIII−V族系化合物半導体結晶と第2の導電型
のIII−V族系化合物半導体結晶との間に真性導電型のIII−V族系化合物半導体結
晶層を形成するステップを備えていることを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の光電変換素子用基板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−250575(P2007−250575A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67792(P2006−67792)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】