説明

内燃機関の停止方法、内燃機関、及びそれを搭載した車両

【課題】単純な制御で、内燃機関の停止後の振動を抑制すると共に、次回の始動時にかかる時間を短縮することができる内燃機関の停止方法、内燃機関、及びそれを搭載した車両を提供する。
【解決手段】エンジン1の停止要求後に、吸気スロットル30が、各気筒20a〜20dへ送る空気の供給量を減少させて、各気筒20a〜20dの筒内圧を低下させ、エンジン1の回転数が低下する過程で、エンジン1が停止する時に圧縮行程を行う最終圧縮気筒20aと、最終圧縮機筒20aの一つ前の着火順である最終膨張気筒20bを予測し、最終膨張気筒20bの吸気が完了した後に、吸気スロットル30が最終圧縮気筒20aへ送る空気の供給量を増加させて、最終圧縮気筒20aの筒内圧を上昇させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単純な制御で、内燃機関の停止時の振動を抑制すると共に、次回の始動時間を短縮する内燃機関の停止方法、内燃機関、及びそれを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電子制御を採用したエンジン(内燃機関)の運転停止時では、エンジン停止指令によって、各気筒への燃料噴射が停止され、エンジン回転数が徐々に降下して完全停止に至る。また、吸気スロットル(空気調整装置)を備えたエンジンでは、エンジン回転数が降下する過程で、筒内圧により引き起こされるエンジン起振モーメントの主成分(直列4気筒エンジンでは回転2次成分)がエンジンマウント共振と一致する回転数付近で、吸気スロットルの開度を減じることで筒内圧を減少させてエンジンの停止時の振動を抑制する。
【0003】
このようなエンジン停止過程では停止直前に圧縮行程にある気筒のピストンがクランク回転運動及びピストン往復運動の慣性力により押し上げられ、それに伴って上昇した筒内圧が慣性力と釣り合ったところで運動方向を変えて逆回転を始める。その後、筒内圧の持つ内部エネルギを逆回転の運動エネルギと機関フリクションで消費して完全停止する。
【0004】
このとき、場合によっては膨張行程にある他の気筒で、逆回転により押し上げられたピストンによって筒内圧が上昇し、正回転と逆回転を繰り返した後に停止することもある。
【0005】
エンジン停止時のピストン位置は、停止直前の筒内圧および機関フリクションによって決まる。ここで、エンジン停止時の振動抑制を考えると、前述のマウント共振と一致する回転数(以下、共振回転数という)が、アイドリング回転数以下に存在するために、停止時には筒内圧を減少させて起振モーメントを低減することが望ましい。従って、振動抑制と始動時間短縮を同時に実現するには、共振回転数通過時の筒内圧を制御した上で、次回始動時の1圧縮目に着火温度に達することができる位置にピストンを停止させる必要がある。
【0006】
そこで、空気量調節手段を備え、空気量調節手段がエンジン停止要求のあと各気筒に供給する空気量を小さくし、その後、空気量調節手段からエンジンまでの圧力又はその圧力に関する情報の少なくとも一方に基づいて空気量を大きくするように空気量調節手段を制御する装置(例えば、特許文献1参照)や、空気量変更手段が、前記内燃機関の停止操作のあと、吸入空気量を予め設定した所定量まで減らすと共に内燃機関の回転負荷を推定し、次いで内燃機関の回転数が所定回転数に到達したとき、吸入空気量を推定された回転負荷に基づいて設定した所定量に増やすように変更する装置(例えば、特許文献2参照)がある。
【0007】
しかしながら、これらの装置は、筒内圧や回転負荷を検知して、ピストンの停止位置を制御するために、気筒への空気の供給量を算出して、それに基づき空気の供給量を調節する空気調節装置を制御しており、検知から制御するまでに複雑な工程が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006―083788号公報
【特許文献2】特許第4550627号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、単純な制御によって、内燃機関の停止時に、エンジンマウントと共振する内燃機関の回転数のときに、内燃機関の各気筒の筒内圧を低減して、内燃機関の振動を低減すると共に、ピストンの停止位置を制御して、次回の始動時間を短縮することができる内燃機関の停止方法、内燃機関、及びそれを搭載した車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を解決するための本発明の内燃機関の停止方法は、空気供給装置が、ピストンを有した複数の気筒へ送る空気の供給量を調整して、前記ピストンの停止位置を制御する内燃機関の停止方法において、内燃機関の停止要求後に、前記空気供給装置が各前記気筒へ送る空気の供給量を減少させて、各前記気筒の筒内圧を低下させ、前記内燃機関の回転数が低下する過程で、前記内燃機関が停止する時に、圧縮行程を行う最終圧縮気筒と膨張行程を行う最終膨張気筒とを予測し、前記最終膨張気筒の吸気が完了した後に、前記空気供給装置が前記最終圧縮気筒へ送る空気の供給量を増加させて、前記最終圧縮気筒の筒内圧を上昇させることを特徴とする方法である。
【0011】
この方法によれば、第1に、空気供給装置が気筒へ送る空気の供給量を減少させて、各気筒の筒内圧が低下するので、内燃機関の回転数が共振回転数を通過するときのローリング起振モーメントを低減することができる。これにより、内燃機関の停止時の振動を抑制することができる。
【0012】
第2に、最終圧縮気筒と最終膨張気筒を予測し、最終膨張気筒への空気の供給が完了してから、最終圧縮気筒への空気の供給量を増加させて、最終圧縮気筒の圧縮行程の筒内圧を上昇させることができる。これにより、最終圧縮気筒の発生するトルクと最終膨張気筒の発生するトルクと機関フリクションのバランスにより、最終圧縮気筒のピストンを1圧縮目に着火温度に達することができる位置に停止することができ、次回の始動時間を短縮することができる。
【0013】
上記の2つの作用効果を単純な制御により行うことができ、特にアイドリングストップシステムによって、停止と始動を繰り返す内燃機関に有効である。
【0014】
また、上記の内燃機関の停止方法において、前記最終膨張気筒が前記内燃機関の停止までに行う最後の吸気弁による吸気行程が完了した後に、前記空気供給装置が空気の供給量を増加し、前記最終圧縮気筒の吸気弁による吸気行程による前記最終圧縮気筒の空気吸気量を増加させて、前記最終圧縮気筒が前記内燃機関の停止までに行う最後の圧縮行程における筒内圧を大きくする。
【0015】
この方法によれば、最終膨張気筒は、内燃機関が停止するときに膨張する最終膨張気筒の筒内圧は最後まで低くすることができ、筒内圧を起因とする起振モーメントを低減することができると共に、最終圧縮気筒の筒内圧のみを空気供給装置で制御して、ピストンを次回始動時の1圧縮目に着火温度に達することができる位置に停止することができる。
【0016】
上記の目的を解決するための内燃機関は、ピストンを有した複数の気筒と、各該気筒へ送る空気の供給量を調整する空気供給装置と、該空気供給装置を制御する制御装置を備え、該制御装置が前記空気供給装置に各前記気筒へ送る空気の供給量を調整させて、前記ピストンの停止位置を制御する内燃機関において、前記制御装置が、内燃機関の停止要求後に、前記空気供給装置に各前記気筒へ送る空気の供給量を減少させる手段と、前記内燃機関の回転数が低下する過程で、前記内燃機関が停止する時に、圧縮行程を行う最終圧縮気筒と膨張行程を行う最終膨張気筒とを予測する手段と、前記最終膨張気筒の吸気が完了した後に、前記空気供給装置に前記最終圧縮気筒へ送る空気の供給量を増加させる手段とを備えて構成される。
【0017】
この構成によれば、共振回転数を通過するときに、空気供給装置からの空気の供給量を減少させることで、各気筒の筒内圧を減少させることができる。また、最終圧縮気筒が最後の圧縮行程を行うときに、空気供給装置からの空気の供給量を増加させることで、最終圧縮気筒の筒内圧を増加させて、逆回転方向のトルクを増加させることができる。これらにより、単純な制御で、共振回転数通過時の各気筒の筒内圧を抑制すると共に、次回始動時の1圧着目に着火温度に達することができる位置にピストンを停止させて、内燃機関を停止することができる。
【0018】
また、上記の内燃機関において、前記制御装置が、前記最終膨張気筒の前記内燃機関の停止までに行う最後の吸気弁による吸気行程が完了した後に、前記空気供給装置に前記最終圧縮気筒へ送る空気の供給量を増加させ、前記最終圧縮気筒の吸気弁による吸気行程による前記最終圧縮気筒の空気吸気量を増加させて、前記最終圧縮気筒が前記内燃機関の停止までに行う最後の圧縮行程における筒内圧を大きくする手段を備える。
【0019】
この構成によれば、最終膨張気筒の吸気行程の完了は、通常の内燃機関に設けてあるカム角センサで検知することができ、筒内圧や回転数を比較するなどといった複雑な計算を行わずに、空気調整装置の空気の供給量を増加させるタイミングを決めることができる。そのため、単純な制御で上記の作用効果を得ることができる。
【0020】
加えて、上記の内燃機関において、前記空気供給装置を、各前記気筒に供給される空気の吸気量を調整するための吸気スロットルで形成し、前記制御装置が、前記内燃機関の回転数が、アイドリング回転数から、前記内燃機関の起振モーメントの主成分が前記内燃機関の支持装置との共振と一致する回転数を通過し、前記最終膨張気筒の吸気弁が閉じるまで、前記吸気スロットルの開度を減じる手段を備える。
【0021】
この構成によれば、共振回転数付近で、各気筒の筒内圧を減少させることができる。これにより、共振現象が顕著となるエンジン回転範囲で、筒内圧に起因して発生するローリング起振モーメントを低減させることでマウント共振現象の励起を抑制し、エンジン停止時の振動を改善することができる。その上で、最終膨張気筒及び最終圧縮気筒の筒内圧を調整することができ、次回の始動に対して最適となる位置にピストンを停止させることができる。
【0022】
また、吸気スロットを用いることで、各気筒に対応する個別の吸気制御用の装置が不必要になり、部品点数を少なくし、製造コストを下げることができる。
【0023】
上記の問題を解決するための車両は、上記に記載の内燃機関を搭載して構成される。この構成によれば、エンジン停止時の振動を低減し、アイドリングストップシステムで特に重要となる始動時間を短縮することができる。上記の内燃機関及び制御方法は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンともに適用することができる。ガソリンエンジンの場合は、ピストン停止位置を次回始動時の1圧縮目に火花点火による燃焼開始に適する位置とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、単純な制御によって、内燃機関の停止時に、エンジンマウントと共振する内燃機関の回転数のときに、内燃機関の各気筒の筒内圧を低減して、内燃機関の振動を低減すると共に、ピストンの停止位置を制御して、次回の始動時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る実施の形態の内燃機関を示した断面図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の内燃機関を示した構成図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の内燃機関の停止方法を示したフローチャートである。
【図4】本発明に係る実施の形態の内燃機関の吸気スロットルと吸気弁と排気弁の動作を示した図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の内燃機関の停止時の時間変化を示した図であり、(a)に内燃機関の回転数を示し、(b)に各気筒の筒内圧を示し、(c)にピストンの回転方向を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関の停止方法、内燃機関、及びそれを搭載した車両について、図面を参照しながら説明する。まず、本発明に係る実施の形態の内燃機関について、図1と図2を参照しながら説明する。図1に示すように、エンジン(内燃機関)1は、車体(基台)2にラバーマウント(マウント装置)3を介して固定され、シリンダブロック11とシリンダヘッド12とを備える。シリンダブロック11内にクランクシャフト13と第1気筒20a(他の気筒は図示しない)を備え、シリンダヘッド12に、吸気マニホールド14、第1カム機構15、排気マニホールド16、第2カム機構17を備える。また、ECU(制御装置)40も備える。
【0027】
シリンダブロック11には、図2に示すように、直列に4つの気筒20a〜20dが並んでいるが、図1は、その中の一つの第1気筒20aを示している。それぞれの気筒20a〜20dの構成は同様であるため、ここでは第1気筒20aを例にして説明する。
【0028】
図1に示すように、第1気筒20a内には、ピストン21a、燃焼室22a、インジェクタ(燃料噴射装置)23a、吸気弁24a、及び排気弁25aを備える。ピストン21aは、コネクティングロッド26aを介してクランクシャフト13に接合され、燃焼室22aで起こる、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び排気行程により、第1気筒20a内を図中の上下に摺動する。
【0029】
上記の構成は、周知の技術のエンジンを用いることができ、上記の構成に限定しない。例えば、直列6気筒のエンジンでもよく、エンジンの気筒数や気筒配列は直列4気筒に限定しない。また、ディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジンにも適用することができる。加えて、吸気弁24a及び排気弁25aを電磁弁で形成してもよい。
【0030】
吸気マニホールド14は、図2に示すように、吸気管14a、吸気室14b、及び供給管14cを備える。吸気管14aは車外の空気を吸気マニホールド14内に取り込む管であり、吸気室14bは吸気管14aから取り込んだ空気を各気筒へ送る供給管14cとの連絡通路である。
【0031】
上記の吸気管14a内で、吸気室14bの近傍に吸気スロットル(空気調整装置)30を備える。吸気スロットル30は、スロットルバルブ31とスロットルモータ32とを備える。このスロットルバルブ32をスロットルモータ32により、開放又は閉鎖することにより、各気筒20a〜20dへの空気の供給量を増減して、各気筒20a〜20dの空気の比率を変えること、また、各気筒20a〜20dの筒内圧を調整することができる。この吸気スロットル30は、吸気マニホールド14に空気を吸入することができ、各気筒20a〜20dへ送る空気の供給量を調整することができれば、上記の構成に限定しない。
【0032】
ECU40は、エンジンコントロールユニットと呼ばれる制御装置であり、電気回路によってエンジン1の制御を担当している電気的な制御を総合的に行うマイクロコントローラである。オートマチック車においては、ECU40に全ての運転状態における最適制御値を記憶させ、その時々の状態をセンサで検出し、センサからの入力信号により、記憶しているデータの中から最適値を選出し各機構を制御している。また、ECU40は、アイドリングストップシステムも備えており、車両の停止時間などに応じてエンジン1を停止することができる。
【0033】
このECU40は、各気筒20a〜20dのインジェクタ23aを含む各インジェクタとスロットルモータ15の制御を行う。また、クランク角センサ41、カム角センサ42、大気圧センサ43、吸気温度センサ44、吸入空気量センサ45、及び圧力センサ46のそれぞれが検知した情報を受信する。これらのセンサは周知の技術のセンサを用いることができる。
【0034】
また、ECU40は、エンジン1の停止要求を受け取ると、インジェクタ23aを含む各インジェクタの各気筒20a〜20dへの燃料供給を停止する手段と、吸気スロットル30の開度を減じる手段を備える。このエンジン1の停止要求は、運転手の停止操作や、アイドリングストップシステムによる停止要求である。
【0035】
加えて、ECU40は、エンジン1の回転数が低下していく過程で、エンジン1のクランク角センサ41から検知される実回転数の時間変化により、エンジン1が停止する(回転数が0となる)ときに、圧縮行程に該当する最終圧縮気筒を予測する手段を備える。ここではこの最終圧縮気筒を第1気筒20aして説明する。
【0036】
また、この最終圧縮気筒20aを予測する手段は、数式化した回転数予測モデルを利用して、最終圧縮気筒を予測してもよい。この手段に合せて、エンジン1が停止するときに、膨張行程に該当する最終膨張行程を予測する手段も備える。この予測する手段も前述の最終圧縮気筒20aの予測と同様の方法で予測することができる。
【0037】
また、直列4気筒のエンジン1の場合は、着火順が、第2気筒20b、第1気筒20a、第3気筒20c、第4気筒20dの順番であることから、最終圧縮気筒20aより着火順序が一つ前の気筒を最終膨張気筒に決定することができる。よって、ここの説明では、最終圧縮気筒20aの一つ前の着火順である第2気筒20bを最終膨張気筒20bとする。
【0038】
さらに、ECU40は、上記のクランク角センサ41の検知した情報に加えて、カム角センサ42から検知された情報より、最終膨張気筒20bの吸気弁24bが閉じたか否かを判定し、最終膨張気筒20bの吸気弁24bが閉じた後に、吸気スロットル30の開度を増す手段を備える。
【0039】
上記の構成によれば、エンジン1の停止要求から、最終膨張気筒20bの吸気工程が完了するまで、吸気スロットル30の開度を減じて、各気筒20a〜20dの筒内圧を低下させることができる。ラバーマウント3とのマウント共振周波数とローリング起振モーメントの主成分が一致するエンジン1の回転数(以下、共振回転数R1という)は、0からアイドリング回転数の範囲にある。この共振回転数R1の近傍で、共振現象が顕著となるエンジン1の回転数の範囲(以下、振動制御回転範囲A1という)で、筒内圧を低くし、筒内圧に起因して発生するローリング起振モーメントを低減して、マウント共振現象の励起を抑制することができる。これにより、エンジン1の停止時の振動を抑制することができる。
【0040】
また、上記の作用効果に加えて、最終膨張気筒20bの吸気行程が完了した後に、吸気スロットル30の開度を増すことで、最終圧縮気筒20aの筒内圧を増加させて、最終圧縮気筒20aのトルクを増加することができる。そのトルクがエンジン1を停止させるように作用することで、最終圧縮気筒20aのピストン21aを次回の始動に対して最適となる位置に停止させることができる。そのため、次回の始動時間を短縮することができる。このピストン21aの最適となる停止位置は、次回始動時の1圧縮目に着火温度に達することができる位置であり、好ましくは下死点から工程中間部の間である。
【0041】
その上、上記の作用効果を得るための制御が、停止要求を受けてから吸気スロットル30の開度を減じること、最終膨張気筒20bの吸気弁24bが閉じてから吸気スロットル30の開度を増すことだけであるので、複雑な計算を必要とせずに単純な制御で行うことができる。さらに、各気筒20a〜20dの筒内圧を検知して、各気筒20a〜20dの筒内圧を個別に制御する必要がない。
【0042】
次に、本発明に係る実施の形態の内燃機関の停止方法について、図3を参照しながら説明する。内燃機関の停止方法S10は、まず、エンジン1の停止要求がされたか否かを判断するステップS11を行う。このエンジン1の停止要求は、運転手の停止操作によるものとアイドリングストップシステムによるものとがある。エンジン1の停止要求があると判断されると、次に、インジェクタ23aを含む各インジェクタから各気筒20a〜20dへの燃料の供給を停止するステップS12を行う。このステップS12で燃料の供給が停止されるため、エンジンの回転数は徐々に低下する。次に、吸気スロットル30の開度を減じるステップS13を行う。このステップS13で吸気スロットル30の開度が減じられるため、各気筒20a〜20dへ供給される空気の供給量が低下して、筒内圧が低下する。
【0043】
次に、エンジン1が停止したときに圧縮行程に該当する最終圧縮気筒を予測するステップS15を行う。ここでは、第1気筒20aを最終圧縮気筒20aとする。このステップS15では、実回転数の時間変化から、最終圧縮気筒を予測する。この方法は、例えば、単位時間あたりに実回転数がどれだけ低下したかを算出して、そこから実回転数が0になるまでに何サイクル行われるかを算出して、最終圧縮気筒を予測する方法である。また、数式化した回転数予測モデルと実回転数とを照らし合わせて予測する方法も用いることができる。このステップS15は最終圧縮気筒を予測することができればよく、上記の方法に限定しない。
【0044】
最終圧縮気筒20aが予測されると、最終圧縮気筒20aの着火順が一つ前の最終膨張気筒を決定するステップS16を行う。ここでは、第2気筒20bを最終膨張気筒20bとする。
【0045】
次に、クランク角センサ41で検知されるエンジン1の回転数が、振動制御回転範囲A1の下限よりも小さいか否かを判断するステップS17を行う。このステップS17では、振動制御回転範囲A1を予め定めて、ECU40に登録しておく。この振動制御回転範囲A1を、共振回転数R1が0からアイドリング回転数の範囲にあることから、予備実験あるいは数値シミュレーションで共振現象が顕著となるエンジン1の回転数の範囲として定める。
【0046】
本発明の制御では、この振動制御回転範囲A1と、クランク角センサ41から検知される実回転数とを比較することで制御モードを判定して、少なくともエンジン1の停止要求から振動制御回転範囲A1の下限までを吸気スロットル30の開度を減じることによる制御を行う。
【0047】
次にエンジン1の実回転数が振動制御回転範囲A1よりも小さくなったと判断されると、最終膨張気筒20bの最終サイクルを検出するステップS18を行う。次に、最終膨張気筒20bの吸気弁24bが閉じることを検知するステップS19を行う。このステップS19ではカム角センサ42が検知する情報から吸気弁24bが閉じたことを検知することができる。吸気弁24bが閉じると、次に、吸気スロットル30の開度を増すステップS20を行う。このステップS20により、最終圧縮気筒20aは、吸気スロットル30の開度が増したことにより、供給される空気量が増えて、筒内圧が大きくなる。
【0048】
ここで、ステップS20について、図4を参照しながら説明する。最終膨張気筒20bの最終吸気行程が完了するまで、つまり最終膨張気筒20bの吸気弁24bが閉じるまで、吸気スロットル30の開度は減じられた状態である。よって、最終膨張気筒20bの圧縮行程及び膨張行程でのトルク変動は小さい。最終膨張気筒20bの吸気弁24bが閉じると、吸気スロットル30を開き、圧縮行程中の最終圧縮気筒20aへの空気の供給量を増加することで、最終圧縮気筒20aの圧縮行程での筒内圧を大きくすることができる。
【0049】
次に、最終圧縮気筒20aの筒内圧が、ピストン21aの目標停止位置に必要な筒内圧であるか否かを判断するステップS21を行う。現時点の筒内圧が、目標停止位置に必要な筒内圧であれば、吸気スロットル30の開度を補正することなく、ステップS23へと進む。現時点の筒内圧が、目標停止位置に必要な筒内圧でないならば、次の吸気スロットル30の目標開度を補正するステップS22を行う。
【0050】
このステップS22の目標開度の補正は、大気圧センサ43、吸気温度センサ44、吸入空気量センサ45、及び圧力センサ46の検出する数値を基に行う。ピストン21aは、クランク回転運動及びピストン往復運動の慣性力により押し上げられ、それに伴って上昇した筒内圧が慣性力と釣り合ったところで運動方向を変えて逆回転を始め、その後、筒内圧の持つ内部エネルギを逆回転の運動エネルギと機関フリクションで消費して停止する。よって、目標停止位置に必要な筒内圧を、機関フリクションを考慮して算出する。
【0051】
目標停止位置に必要な筒内圧と、圧力センサ46が検知する実筒内圧との差を算出する。その差分を補正することができる空気の吸入量を、大気圧センサ43、吸気温度センサ44、及び吸入空気量センサ45の検知する情報から決定する。決定された吸入量に基づいて、吸気スロットル30の開度を増減させて、最終圧縮気筒20aの筒内圧を補正していく。
【0052】
詳しく説明すると、最終圧縮気筒20aの発生するトルク、最終膨張気筒20bの発生するトルク、及び機関フリクションのバランスにより、ピストン21aの停止位置を制御できる。ここで、最終圧縮気筒20aと最終膨張気筒20bの発生するトルクは、筒内圧によりピストン21aに作用する力が元になるので、吸気スロットル30によって吸入空気量を調整し、筒内圧を制御することで停止位置を制御する。
【0053】
筒内圧をp、シリンダ体積をv、ポリトロープ指数をnとすると、ポリトロープ変化は、熱力学的関係から、以下の数式1が成り立つ。
【0054】
【数1】

【0055】
ある時点での筒内圧pとシリンダ体積vが決まれば、停止時の筒内圧pは大気圧センサ43により検知される大気圧と等しくなるため、シリンダ体積vが決まり、シリンダ体積
vとボア断面積、ストローク、及び圧縮比からクランク角、つまりピストン21aの停止位置が算出することができる。ここでポリトロープ指数nは温度によって影響を受けるので、吸気温度センサ44の検知する吸気温度によりポリトロープ指数nを修正する。
【0056】
数式1と各センサ41〜46の出力を用いて吸気スロットルによる吸入量を算出する。
【0057】
そして、最終圧縮気筒20aのピストン21aが目標停止位置で停止するステップS23を行い、完了する。この目標停止位置は、次回の始動時に1圧縮目に着火温度に達することができる位置であり、好ましくは、上死点と下死点の中位と下死点との間である。
【0058】
上記の内燃機関の停止方法によれば、振動制御回転範囲A1において、吸気スロットル30の開度を制御することで、筒内圧に起因して発生するローリング起振モーメントを低減させることで、マウント共振現象の励起を抑制し、エンジン1の停止時の振動を改善することができる。その上で、停止制御回転範囲A1において、最終膨張気筒20b及び最終圧縮気筒20aの筒内圧を調整することで、次回の始動に対して最適となる位置にピストン21aを停止させることができ、アイドリングストップシステムで特に重要となる始動時間を短縮することができる。
【0059】
また、吸気スロットル30の制御のみで、上記の作用効果を得ることができる。そのため、従来の方法に比べて制御を容易にすることができる。
【0060】
次に、本発明に係る実施の形態のエンジン1の停止時の時間経過に共なる回転数と筒内圧の関係について、図5を参照しながら説明する。ここで、エンジン1の停止要求を行った時間をt1、実回転数が共振回転数数R1に到達する時間をt2、最終膨張気筒20bの吸気弁24bが閉じる時間をt3、エンジン1が停止する時間をt4とする。図5の(a)に示すように、ECU40は、時間t1から、インジェクタ24aを含むインジェクタから各気筒20a〜20dへの燃料供給を停止する。これにより、エンジン1の回転数は徐々に低下していく。同時に、吸気スロットル30の開度を減じる。これにより、図5の(b)に示すように、各気筒20a〜20dへの空気の供給量が減少し、筒内圧が低下する。
【0061】
図5の(a)に示すように、共振現象が顕著となる振動制御回転範囲A1では、各気筒20a〜20dの筒内圧が低くなっていることが分かる。これにより、筒内圧を起因とするローリングモーメントを抑制することで、ラバーマウント3との共振を低減することができる。吸気スロットル30の開度は、時間t3まで、閉じた状態にしておく。
【0062】
時間t3から、吸気スロットルの開度を増すことで、図5の(b)に示すように、最終圧縮気筒20aの筒内圧が大きくなる。これにより、図5の(c)に示すように、逆回転方向のトルクが発生してピストン21aを予め定めた所定の位置に停止することができる。
【0063】
上記の動作によれば、吸気スロットル30の開度を制御するだけで、エンジン1とラバーマウント3とのマウント共振の励起を抑制すると共に、次回の始動時間を短縮できるように、ピストン21aを所定の位置に停止することができる。また、各気筒20a〜20dの筒内圧を個別に制御せずに、1つの吸気スロットル30を用いて調整することができるため、その制御を容易に行うことができる。加えて、ピストン21aを所定の位置に停止する制御を、単純化することができる。これは、制御する装置が吸気スロットル30だけであること、また、吸気スロットル30の開度を増すタイミングを最終膨張気筒20bの吸気弁24bが閉じたときにすることで可能となる。
【0064】
本発明に係る実施の形態は、ディーゼルエンジンを例に説明したが、ガソリンエンジンにも適用することができる。ガソリンエンジンの場合は、ピストンの停止位置を次回始動時の1圧縮目に火花点火による燃焼開始に適する位置とする。
【0065】
上記のエンジン1を搭載した車両は、エンジン1の停止時の振動を低減し、アイドリングストップシステムで特に重要となる始動時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の内燃機関は、筒内圧に起因して発生するローリング起振モーメントを低減させ、内燃機関停止時の振動を改善すると共に、次回の始動に対して最適となる位置にピストンを停止させることができ、始動時間を短縮することができるため、特にアイドリングストップシステムを搭載した車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 エンジン(内燃機関)
2 車体(基台)
3 ラバーマウント(マウント装置)
11 シリンダブロック
12 シリンダヘッド
13 クランクシャフト
14 吸気マニホールド
15 第1カム機構
16 排気マニホールド
17 第2カム機構
20a〜20d 気筒
21a ピストン
22a 燃焼室
23a インジェクタ(燃料噴射装置)
24a 吸気弁
25a 排気弁
30 吸気スロットル
40 ECU(制御装置)
41 クランク角センサ
42 カム角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気供給装置が、ピストンを有した複数の気筒へ送る空気の供給量を調整して、前記ピストンの停止位置を制御する内燃機関の停止方法において、
内燃機関の停止要求後に、前記空気供給装置が各前記気筒へ送る空気の供給量を減少させて、各前記気筒の筒内圧を低下させ、
前記内燃機関の回転数が低下する過程で、前記内燃機関が停止する時に、圧縮行程を行う最終圧縮気筒と膨張行程を行う最終膨張気筒とを予測し、
前記最終膨張気筒の吸気が完了した後に、前記空気供給装置が前記最終圧縮気筒へ送る空気の供給量を増加させて、前記最終圧縮気筒の筒内圧を上昇させることを特徴とする内燃機関の停止方法。
【請求項2】
前記最終膨張気筒が前記内燃機関の停止までに行う最後の吸気弁による吸気行程が完了した後に、前記空気供給装置が空気の供給量を増加し、前記最終圧縮気筒の吸気弁による吸気行程による前記最終圧縮気筒の空気吸気量を増加させて、前記最終圧縮気筒が前記内燃機関の停止までに行う最後の圧縮行程における筒内圧を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の停止方法。
【請求項3】
ピストンを有した複数の気筒と、各該気筒へ送る空気の供給量を調整する空気供給装置と、該空気供給装置を制御する制御装置を備え、該制御装置が前記空気供給装置に各前記気筒へ送る空気の供給量を調整させて、前記ピストンの停止位置を制御する内燃機関において、
前記制御装置が、内燃機関の停止要求後に、前記空気供給装置に各前記気筒へ送る空気の供給量を減少させる手段と、
前記内燃機関の回転数が低下する過程で、前記内燃機関が停止する時に、圧縮行程を行う最終圧縮気筒と膨張行程を行う最終膨張気筒とを予測する手段と、
前記最終膨張気筒の吸気が完了した後に、前記空気供給装置に前記最終圧縮気筒へ送る空気の供給量を増加させる手段とを備えることを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
前記制御装置が、前記最終膨張気筒の前記内燃機関の停止までに行う最後の吸気弁による吸気行程が完了した後に、前記空気供給装置に前記最終圧縮気筒へ送る空気の供給量を増加させ、前記最終圧縮気筒の吸気弁による吸気行程による前記最終圧縮気筒の空気吸気量を増加させて、前記最終圧縮気筒が前記内燃機関の停止までに行う最後の圧縮行程における筒内圧を大きくする手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記空気供給装置を、各前記気筒に供給される空気の吸気量を調整するための吸気スロットルで形成し、
前記制御装置が、前記内燃機関の回転数が、アイドリング回転数から、前記内燃機関の起振モーメントの主成分が前記内燃機関の支持装置との共振と一致する回転数を通過し、前記最終膨張気筒の吸気弁が閉じるまで、前記吸気スロットルの開度を減じる手段を備えることを特徴とする請求項3又は4に記載の内燃機関。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の内燃機関を搭載することを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60827(P2013−60827A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198428(P2011−198428)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】