説明

内燃機関の制御装置

【課題】イグニッションスイッチがオフ状態且つクランク軸と変速機の出力軸とが連結される状態となった場合においても、クランク軸の回転に伴って動作する機構を好適に制御することのできる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関1の可変動弁機構14では、クランク軸13の回転に伴う吸気カム11aの回転によってコントロールシャフト16と接続された入力アーム17及び出力アーム18が揺動し、吸気バルブ9が開弁する。ブラシレスモータ25が通電制御されて回転すると、コントロールシャフトが軸線方向に変位し、これにより入力アーム17及び出力アーム18との相対位置が変更されて吸気バルブ9のバルブ特性が変更される。電子制御装置30は、イグニッションスイッチ39がオフ状態且つロックアップ状態であったことを条件に、機関始動時にブラシレスモータ25の回転角の学習を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸の回転に伴い動作する機構を備える内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においてクランク軸の回転に伴い動作する各種機構としては、例えば特許文献1に記載されるように、機関バルブのバルブ特性を変更する可変動弁機構が挙げられる。
特許文献1に記載の可変動弁機構においては、コントロールシャフト上に入力アームと出力アームとが設けられている。この可変動弁機構では、クランク軸の回転に伴って吸気カムシャフトが回転することにより入力アームが吸気カムに押されて揺動し、この入力アームの揺動に伴って出力アームが揺動することによって吸気バルブが同出力アームに押されて開弁する。またこの可変動弁機構では、電気モータの回転によりコントロールシャフトが軸線方向に変位することにより入力アームと出力アームとの相対位相差が変更され、これにより出力アームの揺動により開弁する吸気バルブの作用角を変更するようにしている。そこで、この可変動弁機構では、吸気バルブの作用角を可変制御するにあたりコントロールシャフトの位置を所望の位置とすべく、モータの回転角を検出するとともに、検出されるモータの回転角を上記所望の位置に対応する回転角とする通電制御が行われる。
【0003】
なおこの種の可変動弁機構においては一般的に、コントロールシャフトの絶対位置を学習すべく、所定の学習条件が成立するとコントロールシャフトを可動範囲の端である基準位置に変位させ、このときに検出されるモータの回転角を基準回転角に更新する学習制御が行われる。具体的には、機関運転中にこの学習制御が実行されると、検出されるモータの回転角と基準回転角との誤差を補償する学習値を導出して記憶し、次回の機関運転時に学習値の初期値としてこの記憶された学習値を用いるようにしている。
【特許文献1】特開2007−51603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両においては、クランク軸が変速機の入力軸を介して同変速機の出力軸と連結された状態でイグニッションスイッチがオフ状態となる場合がある。具体的には、手動変速機を備える車両においては、例えば登り坂で停車する際にイグニッションスイッチがオフ状態とされた後に変速ギアをローに設定する場合や、下り坂で停車する際にイグニッションスイッチがオフ状態とされた後に変速ギアをバックに設定する場合がある。また、自動変速機を備える車両においては、トルクコンバータのポンプ側とタービン側とが直結したロックアップ状態でエンジンストールが生じた場合、このロックアップ状態でイグニッションスイッチがオフ状態とされることがある。
【0005】
このようにクランク軸と変速機の出力軸とが連結され且つイグニッションスイッチがオフ状態であるときに仮に車両が牽引された場合、牽引による駆動輪の回転が変速機の出力軸及び同変速機の入力軸を通じてクランク軸に伝達されるため、同クランク軸が回転することとなる。そのため、上記特許文献1に記載される可変動弁機構においては、クランク軸の回転に伴ってカムシャフトが回転し、これにより入力アームが吸気カムに押されるためコントロールシャフト及びその周辺機構が振動する。そしてこの振動によりモータの通電制御及び回転角の検出がなされていないにも拘わらず、コントロールシャフトがその軸線方向に変位することがある。このように機関停止中にモータの駆動とは無関係にコントロールシャフトが変位すると、前回の機関運転中に記憶された学習値を用いてモータの回転角を制御しても、コントロールシャフトの変位を適切に制御することができない。
【0006】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、イグニッションスイッチがオフ状態且つクランク軸と変速機の出力軸とが連結される状態となった場合においても、クランク軸の回転に伴って動作する機構を好適に制御することのできる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の制御装置であって、内燃機関においてクランク軸の回転に伴い動作する可動部材と、同可動部材が接続されるとともに、アクチュエータの動作位置の変更に伴い変位する変位部材と、前記アクチュエータの動作位置を検出する検出手段と、前記変位部材を所定位置とすべく前記検出手段により検出される前記アクチュエータの動作位置が前記所定位置に対応した動作位置となるように前記アクチュエータを駆動する駆動手段と、前記変位部材を基準位置に変位させるべく前記アクチュエータの動作位置を変更するとともに、前記検出手段により検出される前記アクチュエータの動作位置を前記基準位置に対応する基準動作位置に更新するための学習制御を実行する学習手段と、イグニッションスイッチがオフ状態且つ前記クランク軸と変速機の出力軸とが連結される状態であったことを条件に、前記機関の始動時において前記学習手段が前記学習制御を実行するように制御する制御手段とを備えることを要旨とする。
【0008】
イグニッションスイッチがオフ状態且つ前記クランク軸と変速機の出力軸とが連結される状態である場合、仮にこの状態で車両が牽引等されると、変速機の出力軸が回転することに伴ってクランク軸が回転するため可動部材が動作する。そのため、駆動手段によるアクチュエータの駆動及び検出位置の検出が行われていないにも拘わらず、可動部材の動作に伴う振動により変位部材が変位する可能性がある。この点、上記構成によれば、イグニッションスイッチがオフ状態且つ前記クランク軸と変速機の出力軸とが連結される状態であったことを条件に、機関始動時において変位部材を基準位置に変位させて検出手段により検出されるアクチュエータの動作位置を基準動作位置に更新する学習制御を実行するようにしている。したがって、機関停止中に駆動手段によるアクチュエータの駆動及び検出位置の検出が行われていないにも拘わらず変位部材が変位した場合であっても、機関始動時に上記学習制御によりアクチュエータの動作位置の更新を行って変位部材の絶対位置が学習されるため、その後にアクチュエータの駆動制御により変位部材を適切に変位させることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記学習手段は、前記学習制御時に前記検出手段により検出される動作位置と前記基準動作位置との誤差を補償する学習値を導出するとともに導出された学習値を記憶し、次回の機関運転おける前記学習値の初期値として前記記憶された学習値を設定することを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、学習制御において導出された学習値が次回の機関運転時における学習値の初期値として設定され、次回運転時にはアクチュエータがこの学習値の初期値に基づいて変位部材を変位させる。またイグニッションスイッチがオフ状態且つ前記クランク軸と変速機の出力軸とが連結される状態であった場合には、機関始動時に改めてこの学習値が導出される。このように上記構成によれば、機関停止中にクランク軸の回転に起因して変位部材が変位した可能性がある場合には改めて学習値が導出され、そのような可能性がない場合には前回の運転で導出された学習値をそのまま用いることができるため、必要に応じて上記学習制御を実行することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記内燃機関は自動変速機に連結され、前記クランク軸と前記変速機の出力軸とが連結される状態は、前記自動変速機のトルクコンバータのロックアップ状態であることを要旨とする。
【0012】
このように内燃機関が自動変速機に連結される場合には、イグニッションスイッチがオフ状態且つロックアップ状態であったことを条件に、機関始動時に前記変位部材の位置とアクチュエータの動作位置との関係が学習される。
【0013】
請求項1〜3に記載の発明は、具体的には請求項4に記載の発明によるように、前記可動部材は前記クランク軸の回転に伴って機関バルブを押圧するものであり、前記アクチュエータによる前記変位部材の変位により前記機関バルブのバルブ特性が変更されるといった態様を採用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明にかかる内燃機関の制御装置を、可変動弁機構を備える車載内燃機関に適用した一実施形態について図1〜図7に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の制御装置が適用される内燃機関、同内燃機関に連結される自動変速機及びその周辺機構を示す模式図であり、内燃機関については部分的にその断面構造を示している。
【0015】
図1に示すように、内燃機関1の内部にはシリンダヘッド2、シリンダブロック3、及びピストン5によって燃焼室6が区画形成されており、この燃焼室6には吸気通路7及び排気通路8が接続されている。そして、燃焼室6と吸気通路7との間は吸気バルブ9の開閉動作によって連通・遮断され、燃焼室6と排気通路8との間は排気バルブ10の開閉動作によって連通・遮断される。
【0016】
シリンダヘッド2には、吸気バルブ9を駆動するための吸気カムシャフト11と排気バルブ10を駆動するための排気カムシャフト12とが設けられている。これら吸気カムシャフト11及び排気カムシャフト12は、内燃機関1のクランク軸13の回転が伝達されることにより回転する。吸気カムシャフト11には吸気カム11aが設けられており、排気カムシャフト12には排気カム12aが設けられている。そして、吸気カムシャフト11と吸気カム11aとの一体回転を通じて吸気バルブ9が開閉動作し、排気カムシャフト12と排気カム12aとの一体回転を通じて排気バルブ10が開閉動作する。また吸気バルブ9と吸気カム11aとの間には、後に詳細に説明する可変動弁機構14が設けられている。
【0017】
内燃機関のクランク軸13は、自動変速機41に接続されている。自動変速機41は変速比を自動的に変更するためのものであり、トルクコンバータ44と変速機構45とを備えている。この車両においては、クランク軸13の回転が自動変速機41の作動状態の変更を通じて変速され、自動変速機41の出力軸45bを通じて車軸42よび駆動輪43に伝達される。
【0018】
また本実施形態のトルクコンバータ44はロックアップクラッチ機構46を備えている。トルクコンバータ44においては、このロックアップクラッチ機構46が以下の3つの状態をとりうる。まずトルクコンバータ44は、このロックアップクラッチ機構46によりクランク軸13と変速機構45の入力軸45aとが直結されるロックアップ状態をとり、このときクランク軸13と変速機構45の入力軸45aとが一体回転する。なおこのロックアップ状態は、換言すれば、クランク軸13と自動変速機41の出力軸45bとが連結される状態である。またトルクコンバータ44は、クランク軸13と変速機構45の入力軸45aとの直結状態が解放される開放状態をとり、このとき流体を介した動力伝達が行われる。さらに、トルクコンバータ44は、上記ロックアップ状態と解放状態との中間の状態、すなわちクランク軸13と変速機構45の入力軸45aとの相対回転をある程度許容しつつ、それらクランク軸13と入力軸45aとが係合されるスリップ状態をとりうる。
【0019】
なお、本実施形態においては、例えば車両の走行速度が所定速度以上であり且つアクセルペダルの踏込み量が所定量以下であるときにトルクコンバータ44がロックアップ状態となり、それ以外のときは、トルクコンバータ44が開放状態又はスリップ状態となるように制御される。
【0020】
次に上記可変動弁機構14について先の図1及び図2に基づいて説明する。可変動弁機構14は、吸気バルブ9のバルブ特性としての最大リフト量及び作用角を可変とするものである。この可変動弁機構14の駆動制御は、例えば吸入空気量を多く必要とする機関運転状態になるほど最大リフト量及び作用角が大きくなるように実行される。
【0021】
可変動弁機構14は、吸気カムシャフト11に対して平行に延びるロッカシャフト15、変位部材としてのコントロールシャフト16、可動部材としてそれらシャフト15,16の軸線を中心に揺動する入力アーム17及び出力アーム18を備えている。そして、クランク軸13の回転に伴い吸気カムシャフト11が回転すると、これに伴って回転する吸気カム11aにより入力アーム17が押されて揺動し、同入力アーム17の揺動に伴って出力アーム18も揺動するように構成される。
【0022】
入力アーム17は、吸気カム11aに押しつけられるように図示しないスプリングにより吸気カム11a側に付勢されている。また出力アーム18と吸気バルブ9との間にはロッカアーム21が設けられており、このロッカアーム21の基端部はラッシュアジャスタ22によって支持され、先端部は吸気バルブ9に接触している。さらにロッカアーム21は、吸気バルブ9の図示しないバルブスプリングによって出力アーム18側に付勢されて同出力アーム18に押しつけられている。そして、吸気カム11aの回転に伴って入力アーム17が出力アーム18ともども揺動すると、出力アーム18の揺動がロッカアーム21を介して吸気バルブ9に伝達されて、同吸気バルブ9がリフトされる。
【0023】
可変動弁機構14にあっては、上記ロッカシャフト15がパイプ形状に形成されており、同ロッカシャフト15の内部に上記コントロールシャフト16が軸線方向に変位可能に配設されている。この可変動弁機構14においてコントロールシャフト16は、入力アーム17及び出力アーム18に図示しない連結部材を介して接続されており、ロッカシャフト15に対してコントロールシャフト16が軸線方向に変位することにより、入力アーム17及び出力アーム18の揺動方向についての相対位置の変更が可能となるように構成されている。そして、このように入力アーム17と出力アーム18との揺動方向についての相対位置を変更することによって、吸気カム11aの回転に伴って出力アーム18が揺動したときにおける吸気バルブ9の最大リフト量及び作用角が変更される。具体的には、入力アーム17と出力アーム18とを揺動方向について互いに接近させるほど、吸気バルブ9の最大リフト量及び作用角は小さくなる。
【0024】
次に、可変動弁機構14において上記コントロールシャフト16を軸線方向に変位させるための駆動機構及び同駆動機構の駆動を制御する制御装置について、図2を参照して説明する。
【0025】
図2に示すように、コントロールシャフト16の基端部(図中右端部)は、変換機構26を介してアクチュエータであるブラシレスモータ25の出力軸25aに連結されている。この変換機構26は、出力軸25aの回転運動をコントロールシャフト16の軸線方向への直線運動に変換するためのものである。すなわち、出力軸25aを正・逆回転させると、その回転が変換機構26によってコントロールシャフト16の往復動に変換される。そして、上記ブラシレスモータ25の所定の回転角範囲(例えば10回転分の回転角範囲(0〜3600°))内での回転駆動を通じて、コントロールシャフト16が軸線方向に変位させられ、入力アーム17と出力アーム18との揺動方向についての相対位置が変化する。具体的に、この可変動弁機構14においては、ブラシレスモータ25を正方向に回転させると、コントロールシャフト16がその先端側(図中左端側)に変位し、入力アーム17と出力アーム18との揺動方向についての相対位置が互いに離間するように変更される。一方、ブラシレスモータ25を逆方向に回転させると、コントロールシャフト16は基端側に変位し、入力アーム17と出力アーム18との揺動方向についての相対位置が互いに接近するように変更される。
【0026】
またコントロールシャフト16には、係止部16aが形成されるとともに、内燃機関のシリンダヘッドカバー4には、この係止部16aが当接可能な2つのストッパ27,28が形成されており、同シャフト16はストッパ27,28に係止部16aが当接する状態となる2つの変位限界位置の間(可動範囲)において変位可能となっている。ブラシレスモータ25の回転角にあってはコントロールシャフト16の先端側の変位限界位置に対応する角度と同基端側の変位限界位置に対応する角度とが限界動作角となり、それら限界動作角により上記所定の回転角範囲が定まる。
【0027】
なおコントロールシャフト16が同シャフト16の係止部16aがストッパ27に当接する変位限界位置にあるとき、すなわちその作動範囲の機械的上限位置(以下「Hi端」という)にあるときに吸気バルブ9の最大リフト量がその設計最大値になる。一方、コントロールシャフト16が同シャフト16の係止部16aがストッパ28に当接する変位限界位置にあるとき、すなわちその作動範囲の機械的下限位置(以下「Lo端」という)にあるときに吸気バルブ9の最大リフト量がその設計最小値になる。
【0028】
本実施形態においては、上記ブラシレスモータ25として三相の巻線を有する4極6巻線のものが採用されている。ブラシレスモータ25は電力を供給する相(通電相)の切り換えを通じて回転駆動される。具体的には、ブラシレスモータ25には切り換え可能な6つの通電パターンが設定されており、同ブラシレスモータ25の駆動を制御する際には、それら通電パターンのうちの一つが選択的に設定されて同ブラシレスモータ25の各相の巻線への通電が行われる。
【0029】
車両には、各種の機関制御を実行する電子制御装置30が搭載されている。具体的には、電子制御装置30は、ブラシレスモータ25の駆動制御、上述したロックアップクラッチ機構46の作動状態の制御、同機関1の燃料噴射制御、点火時期制御などを実行する。この電子制御装置30は、各種の演算処理を実行するCPU34、各種の制御に必要なプログラムやデータを記憶する不揮発性メモリ(ROM)35a、入力データや演算結果を一時的に記憶する揮発性メモリ(DRAM)35b、書き換え可能な不揮発性メモリ(EEPROM)35cを備えている。このEEPROM35cには、後述する学習制御により得られた学習値及びイグニッションスイッチ39がオフ状態となったときのロックアップクラッチ機構46の作動状態が記憶される。また、電子制御装置30は、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポートを備えている。
【0030】
電子制御装置30の入力ポートには、3つの電気角センサS1,S2,S3及び2つの位置センサS4,S5が接続されている。本実施形態では、これら各センサS1〜S5及び電子制御装置30によってブラシレスモータ25の動作位置(回転角)を検出する検出手段が構成されている。さらに電子制御装置30の入力ポートには、アクセルペダルの踏込み量を検出するアクセルポジションセンサ36、クランク軸13の回転速度を検出する回転速度センサ37、内燃機関1の冷却水温を検出する水温センサ38、イグニッションスイッチ39及び自動変速機41の出力軸45bに設けられて車速を検出する車速センサ40が接続されている。また電子制御装置30の出力ポートには、ブラシレスモータ25の駆動回路及びロックアップクラッチ機構46の駆動回路等が接続されている。
【0031】
本実施形態において電子制御装置30によって実行される制御については、まずブラシレスモータ25の回転角制御について説明し、後にロックアップクラッチ機構46の制御について説明する。
【0032】
電子制御装置30は、各種センサの出力信号に基づいて機関運転状態に応じた吸気バルブ9の最大リフト量及び作用角制御を実行すべくブラシレスモータ25の目標回転角TAを設定し、駆動手段として同ブラシレスモータ25の回転角がこの目標回転角TAとなるように制御する。このようにして電子制御装置30によるブラシレスモータ25の駆動制御によりコントロールシャフト16の軸線方向の位置が制御され、これにより吸気バルブ9のバルブ特性が制御される。こうして吸気バルブ9のバルブ特性は、コントロールシャフト16の軸線方向位置、換言すれば、ブラシレスモータ25の上記所定の回転角範囲内での回転角に対応したものとなる。そのため、吸気バルブ9のバルブ特性を精度良く制御するためには、ブラシレスモータ25の回転角を正確に検出し、その回転角が目標とするバルブ特性に対応する角度となるようにブラシレスモータ25を駆動することが重要になる。
【0033】
そこで、本実施形態では、上述した電気角センサS1〜S3及び位置センサS4,S5の出力信号に基づいて、ブラシレスモータ25の回転角を検出するようにしている。以下、ブラシレスモータ25の回転角の検出手順について説明する。
【0034】
まず、各センサS1〜S5の出力信号について説明する。図3は、ブラシレスモータ25の回転角の変化に伴う各センサS1〜S5の出力信号の推移(同図(a)〜(e))、及びそれら出力信号の変化に応じて変更される各種カウンタのカウント値の推移を示している(同図(f)〜(h))。
【0035】
図3に示すように、各電気角センサS1〜S3(同図(a)〜(c))はそれぞれ、ブラシレスモータ25の回転時において、同ブラシレスモータ25の出力軸25aと一体回転する8極の多極マグネットの磁気に応じてパルス状の信号、すなわちハイ信号「H」とロー信号「L」とを交互に周期的に出力する。これら電気角センサS1〜S3は、同各電気角センサS1〜S3からのパルス信号が互いにずれたタイミングで出力されるように出力軸25aの周方向において120°毎に配置されている。なお各電気角センサS1〜S3から出力されるパルス信号のエッジはそれぞれブラシレスモータ25の45°回転毎に発生する。また、各電気角センサS1〜S3のうちの一つのセンサからのパルス信号は、他の二つのセンサからのパルス信号に対して、ブラシレスモータ25の30°回転分だけ進んだ回転角あるいは遅れた回転角で発生する。
【0036】
一方、各位置センサS4,S5(同図(d),(e))はそれぞれ、ブラシレスモータ25の回転時において、同ブラシレスモータ25の出力軸25aと一体回転する48極の多極マグネットの磁気に応じてパルス状の信号、すなわちハイ信号「H」とロー信号「L」とを交互に周期的に出力する。こうしたパルス信号の波形が得られるよう、それら位置センサS4,S5は出力軸25aの周方向において176.25°を隔てて配置されている。なお、各位置センサS4,S5から出力されるパルス信号のエッジはそれぞれブラシレスモータ25の7.5°回転毎に発生する。また、各位置センサS4,S5のうちの一つのセンサからのパルス信号は、他のセンサからのパルス信号に対して、ブラシレスモータ25の3.75°回転分ずれた回転角で発生する。
【0037】
このように、位置センサS4,S5からのパルス信号のエッジ間隔は、電気角センサS1〜S3からのパルス信号のエッジ間隔(15°)よりも短い間隔(3.75°)となる。また、位置センサS4,S5からのパルス信号のエッジが4回発生する毎に、電気角センサS1〜S3からのパルス信号のエッジが1回発生する。
【0038】
次に、こうした各センサS1〜S5の出力信号に応じて変更される各種カウンタのカウント値について、図3及び図4に基づいて説明する。
図4は、各種カウンタのカウント値を変更する処理(カウント処理)の具体的な処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、電子制御装置30により、位置センサS4,S5からのパルス信号のエッジ間隔よりも短い間隔をもって周期的に実行される。
【0039】
同図4に示すように、この処理では、まずステップS11において、各電気角センサS1〜S3からのパルス信号(図3(a)〜(c))の出力パターンに基づいて電気角カウンタのカウント値Ce(図3(f))が変更される。具体的には、図5(a)に示されるように、各電気角センサS1〜S3から各々ハイ信号「H」とロー信号「L」との何れが出力されているかに応じて、カウント値Ceが「0」〜「5」範囲内の連続した整数値のうちの何れかに設定されてDRAM35bに記憶される。なおブラシレスモータ25の正回転時には、電気角カウンタのカウント値Ceは「0」→「1」→「2」→「3」→「4」→「5」→「0」といった順序で順方向に変化する。一方、ブラシレスモータ25の逆回転時には、電気角カウンタのカウント値Ceは「5」→「4」→「3」→「2」→「1」→「0」→「5」といった順序で逆方向に変化する。
【0040】
なお、このカウント値Ceとして設定される各値(0,1,2,3,4,5)は、前述したブラシレスモータ25の6つの通電パターンに各別に対応している。本実施形態では、そうした電気角カウンタのカウント値Ceに基づいてブラシレスモータ25の各相の巻線に対する通電パターンが切り換えられることによって、同ブラシレスモータ25の回転が制御される。
【0041】
そしてステップS12において、各位置センサS4,S5(図3(d),(e))からのパルス信号の出力パターンに基づいて位置カウンタのカウント値Cp(図3(g))が増減される。この位置カウンタのカウント値Cpは、位置センサS4,S5の一方のセンサの出力信号が立ち上がりエッジ、または立ち下がりエッジになったタイミングで増減される。詳しくは、図5(b)に位置カウンタのカウント値Cpと上記出力パターンとの関係を示すように、位置センサS4,S5の一方のセンサの出力信号が立ち上がりエッジ「↑」あるいは立ち下がりエッジ「↓」のいずれであるか、また他方のセンサの出力信号がハイ信号「H」とロー信号「L」とのいずれであるかに応じて、位置カウンタのカウント値Cpに「+1」または「−1」が加算される。
【0042】
こうした処理を通じて、位置カウンタのカウント値Cpは、各位置センサS4,S5からのパルス信号がエッジになる毎に、ブラシレスモータ25の正回転時には「1」ずつ加算されるとともに逆回転時には「1」ずつ減算される。なお、この位置カウンタのカウント値Cpは、イグニッションスイッチ39がオフ操作される度に「0」にリセットされる。したがって、位置カウンタのカウント値Cpは、イグニッションスイッチ39がオン操作された後におけるブラシレスモータ25の回転角の変化量に相当する値になる。また、位置カウンタのカウント値Cpは、可変動弁機構14の駆動に基づいて迅速に加減算する必要があるためDRAM35bに記憶される。
【0043】
その後、ステップS13において、そのように変化する位置カウンタのカウント値Cpに応じてストロークカウンタのカウント値Cs(図3(h))が変更される。具体的には、位置カウンタのカウント値Cpに後述する学習値Prを加算した値(=Cp+Pr)がストロークカウンタのカウント値Csとして設定される。そしてこのステップS13において導出されるストロークカウンタのカウント値Csが、ブラシレスモータ25の検出された動作位置である検出回転角MAに相当する。なお学習値Prは、EEPROM35cに記憶されており、後述する学習制御において新たな学習値Prが導出される毎にEEPROM35cに書き換えられて記憶される。また、カウント値Csはイグニッションスイッチ39がオフ操作されてもその値が保存される。
【0044】
本実施形態では、このように求められた電気角カウンタのカウント値Ceやストロークカウンタのカウント値Csがブラシレスモータ25の回転角として用いられて、同回転角に基づく同ブラシレスモータ25の駆動制御が実行される。以下、そうしたブラシレスモータ25の駆動制御にかかる処理について説明する。
【0045】
この制御にかかる処理ではまず、機関運転状態に応じた吸気バルブ9の最大リフト量及び作用角制御を実行すべく、同機関運転状態に応じた吸気バルブ9のバルブ特性が得られるようにコントロールシャフト16を変位させるためにブラシレスモータ25の目標回転角TAが導出される。次に、この目標回転角TAと上述のように検出される検出回転角MA(ストロークカウンタのカウント値Cs)との偏差が求められるとともに、同偏差に基づいてモータ制御量が導出される。そして、このモータ制御量に応じてブラシレスモータ25の各相の巻線に対する供給電力量や電力供給時間が調節され、こうした処理を通じてブラシレスモータ25の回転トルクが機関運転状態に見合うように調節される。なお、目標回転角TAと検出回転角MAとが一致している場合には、このとき設定されている通電パターンに対応する各巻線に対して、ブラシレスモータ25の回転角を現状の角度で維持することの可能な所定量の電力が供給される。
【0046】
また、ブラシレスモータ25への供給電力量の調節は、上記モータ制御量に応じてブラシレスモータ25の駆動回路に出力されるデューティ信号を設定することによって行われる。このデューティ信号は、予め定められたごく短い単位時間において、ブラシレスモータ25に電力が供給される時間と同電力が供給されない時間との比(デューティ比)を規定する信号であり、同デューティ比が高くなるほどブラシレスモータ25に供給される電力が多くなる。また上記目標回転角TAと検出回転角MAとが異なる場合には、それら目標回転角TA及び検出回転角MAの関係によって定まる回転方向にブラシレスモータ25が回転するように、前述した通電パターンが順次切り換えられる。
【0047】
こうしてストロークカウンタのカウント値Csや電気角センサのカウント値Ceに基づいてブラシレスモータ25の駆動制御を実行することにより、検出回転角MAを目標回転角TAとする制御が行われ、吸気バルブ9のバルブ特性が目標とする特性となるように制御される。
【0048】
ここで本実施形態では、イグニッションスイッチ39がオン状態からオフ状態に変更された場合、電子制御装置30が学習手段として、通常、以下のHi端学習制御を実行した後に内燃機関1の運転を停止するようにしている。このHi端学習制御では、コントロールシャフト16が上記Hi端に達したときに同シャフト16が基準位置に達したものとして、ブラシレスモータ25の検出回転角MAを上記Hi端に対応した基準回転角に更新することにより、コントロールシャフト16の絶対位置を学習する。本実施形態においては、このようなコントロールシャフト16の絶対位置の学習を行うことにより、仮にブラシレスモータ25の検出回転角MAとしてのストロークカウンタのカウント値Csと実際の回転角との間にずれが生じている場合であっても、ブラシレスモータ25の検出回転角MAと実際の回転角とを一致させることができる。
【0049】
このHi端学習制御においては、具体的には、まずコントロールシャフト16をその可動範囲における先端側のストッパ27に当接させて変位限界位置とすべくブラシレスモータ25への供給電力量が調節される。なおこのとき、ブラシレスモータ25の目標回転角TAとしてコントロールシャフト16の位置を上記Hi端とするための回転角よりもブラシレスモータ25をさらに正方向に回転させるような目標回転角TAが設定される。これは、仮にストロークカウンタのカウント値Csと実際の回転角との間にずれが生じてコントロールシャフト16の実際の位置がストロークカウンタのカウント値Csの示す同シャフト16の位置よりも基端側にある場合であっても、コントロールシャフト16を確実にHi端に変位させるためである。
【0050】
このようにして目標回転角TAが設定されると、目標回転角TAと現在の検出回転角MA(ストロークカウンタのカウント値Cs)とを一致させるべく、ブラシレスモータ25の通電制御が行われコントロールシャフト16が先端側に変位する。そしてコントロールシャフト16がストッパ27に当接して停止したとき、すなわち位置センサS4,S5の出力に基づいて算出される同コントロールシャフト16の位置が変化しなくなったときにHi端に達した旨が判断され、その絶対位置が学習される。具体的には、その時点のストロークカウンタのカウント値CsがROM35aに記憶されたHi端に対応するカウント値(本実施形態では例えば「100」)に直ちに更新される。そして、このときの位置カウンタのカウント値Cpと更新されたストロークカウンタのカウント値「100」とを下式(1)に適用することにより学習値Prが導出され、導出された学習値PrがEEPROM35cに新たな学習値として記憶される。
【0051】
Pr←Cs−Cp …(1)
このようにしてHi端学習を実行することにより、ストロークカウンタのカウント値Cs、すなわち検出回転角MAとブラシレスモータ25の実際の回転角とを一致させることができる。そして、このようにして導出された学習値が電子制御装置30のEEPROM35cに記憶され、次回の機関運転時においてはこの学習値Prを用いてブラシレスモータ25の回転角制御を行うことにより、機関運転状態に対応した吸気バルブ9のバルブ特性が得られるようコントロールシャフト16を適切に変位させることができる。
【0052】
本実施形態では、このようにイグニッションスイッチ39がオフ状態となった場合、通常はHi端学習制御を実行して学習値Prを導出し、この学習値PrをEEPROM35cに記憶させるようにしている。しかしながら、内燃機関1がストールするなどの異常が発生してイグニッションスイッチ39がオフ状態となる場合には、このイグニッションスイッチ39がオフ状態に変更された後のHi端学習を実行しないようにしている。ここで、内燃機関1に連結される自動変速機41においてトルクコンバータ44がロックアップ状態をとるように構成されており、例えばロックアップ状態において内燃機関1のストールが生じた場合には以下の問題が生じる。
【0053】
すなわち、自動変速機41のトルクコンバータ44がロックアップ状態であるときに内燃機関1のストールが生じた場合、そのままイグニッションスイッチ39がオフ状態とされると、イグニッションスイッチ39がオフ状態且つクランク軸13と自動変速機41の出力軸45bとが連結される状態となる。そして、このような状態において仮に車両が牽引された場合、牽引による駆動輪の回転が変速機構45の出力軸45b及び入力軸45aを通じてクランク軸13に伝達されるため、同クランク軸13が回転することとなる。このようにクランク軸13が回転すると、これに伴って吸気カムシャフト11が回転して吸気カム11aが回転するため、可変動弁機構14においては、入力アーム17が吸気カム11aに押されることとなり、これによりコントロールシャフト16が振動する。このようにコントロールシャフト16の振動が生じると、ブラシレスモータ25及び変換機構26が回転していないにも拘わらずコントロールシャフト16がこの振動により軸線方向に変位するといった事態や、この振動によりブラシレスモータ25が回転してコントロールシャフト16が軸線方向に変位するといった事態が生じうる。すなわち、イグニッションスイッチ39がオフ状態且つクランク軸13と自動変速機41の出力軸45bとが連結される状態では、ブラシレスモータ25の通電制御や検出回転角MAの検出などが行われていないにも拘わらず、コントロールシャフト16が軸線方向に変位するといった事態が生じうる。そのため、次回の内燃機関1の運転時において、同機関1の始動前にEEPROM35cに既に記憶されている学習値Prを用いてブラシレスモータ25の検出回転角MAを導出しても、検出回転角MAと実際のモータ25の実際の回転角にずれが発生するといった事態や、コントロールシャフト16がブラシレスモータ25の検出回転角MAに対応した位置にないといった事態が生じうる。このような場合、ブラシレスモータ25の回転角制御によってコントロールシャフト16の変位、すなわち吸気バルブ9のバルブ特性の変更を適切に行うことができない。
【0054】
そこで、本実施形態では、電子制御装置30が制御手段として、イグニッションスイッチ39がオフ状態且つロックアップ状態であったことを条件に、機関始動時に上述したHi端学習をするようにしている。以下に電子制御装置30により実行される機関始動時のHi端学習について説明する。
【0055】
まず、電子制御装置30によるロックアップクラッチ機構46の制御及びロックアップ状態の検出処理について図6に基づいて説明する。
上述したように本実施形態では、車両の走行速度が所定の所定速度以上であり且つアクセルペダルの踏込み量が所定量以下であるときにロックアップクラッチ機構46が作動してロックアップ状態となる。そこで、電子制御装置30は、車速センサ40から入力される車速が所定量以上及びアクセルポジションセンサ36から入力されるアクセル踏込み量が所定量以上であると、ロックアップクラッチ機構46にロックアップ状態を維持すべくロックアップクラッチ機構46の駆動回路にオン信号を送る。また電子制御装置30は、車速が所定量未満又はアクセル踏込み量が所定量未満に運転状態が変化すると、ロックアップ状態を解除すべくロックアップクラッチ機構46の駆動回路にオフ信号を送る。そして電子制御装置30は、このロックアップクラッチ機構46の駆動回路にオン信号を送るときにロックアップフラグを「1」に設定し、ロックアップクラッチ機構46の駆動回路にオフ信号を送るときにロックアップフラグを「0」に設定する。
【0056】
このようにして図6(a)に示すように、トルクコンバータ44のロックアップクラッチ機構46がロックアップ状態である場合には、フラグ「1」が設定され、トルクコンバータ44のロックアップクラッチ機構46が解除状態又はスリップ状態である場合にはフラグ「0」が設定される。すなわち、図6(b)はイグニッションスイッチ39の状態を示しており、図6(b)に示すようにイグニッションスイッチ39がオン状態であるときには、図6(a)に示すようにロックアップフラグが車速及びアクセル踏込み量に基づくロックアップクラッチ機構46の駆動信号に対応して「1」と「0」とに変化する。そして本実施形態では、ロックアップ状態に維持された状態で内燃機関1のストールが発生した場合にはロックアップフラグが電子制御装置30のEEPROM35cに記憶される。
【0057】
ここで、例えば図6に示す時刻t1においてロックアップ状態に維持された状態で内燃機関1のストールが発生した場合、このストールの影響によりロックアップクラッチ機構46が正常に機能せず、車速などが低下してもロックアップ状態が維持されることがある。そしてこのような異常状態でイグニッションスイッチ39をオフ状態とされると、このロックアップ状態が維持されたままイグニッションスイッチ39がオフ状態となる。なおこのような異常状態においては、上述したイグニッションスイッチ39がオフ状態に変更された後のHi端学習は実行されない。
【0058】
そしてこのような事態が生じた場合に、機関始動時にHi端学習が実行される。以下電子制御装置30により実行される機関始動時のHi端学習ルーチンについて図7に基づいて説明する。なお、この制御は所定周期毎の時間割り込みにて行われる。
【0059】
本処理が開始すると、まずステップS21において、現在が機関始動時であるか否かが判定される。具体的には、例えば水温センサ38によって検出された内燃機関1の冷却水温が所定温度以下であるか否かの判定が行われる。そしてステップS21において内燃機関1の冷却水温が所定温度を超えていると判定されると、現在が機関始動時でないと判定されてエンドに移り本処理を終了する。一方ステップS21において内燃機関1の冷却水温が所定温度以下であると判定されると機関始動時であると判定され、ステップS22に移る。
【0060】
ステップS22においては、今回の学習ルーチンが機関始動後における初回の学習ルーチンであるか否かが判定される。すなわち、ステップS21において現在の冷却水温が低く未だ機関始動時であると判定される場合であっても、既に本ルーチンが実行されている場合にはステップS22からエンドに移って本処理を終了し、機関始動後のHi端学習が再度実行されないようにする。そして、ステップS22において今回が機関始動後における初回の学習ルーチンであると判定されれば、ステップS23に移る。
【0061】
ステップS23においては、イグニッションスイッチ39がオフ状態且つロックアップ状態のときがあったかが判定される。ここでは、上述したように電子制御装置30が、ロックアップ状態に維持された状態で内燃機関1のストールが発生した場合にはロックアップフラグをEEPROM35cに記憶するようにしているため、前回のイグニッションスイッチ39がオフ状態となったときのロックアップフラグが「0」であれば否定判定がなされてエンドに移り、本処理を終了する。すなわち、ステップS23において否定判定がなされれば、前回イグニッションスイッチ39がオフ状態に変更された際には正常にHi端学習が実行されていると考えられるため、エンドに移り始動時のHi端学習を実行しないようにする。一方、ステップ23において肯定判定された場合は、ステップS24に移り、Hi端学習が実行される。すなわち、上述したように、まずコントロールシャフト16を先端側のストッパ27に当接させるべくブラシレスモータ25を通電制御し、コントロールシャフト16がHi端に達した旨が判断されると、その時点のストロークカウンタのカウント値Csを「100」に更新する。そしてこのときの位置カウンタのカウント値Cpと更新されたストロークカウンタのカウント値「100」とから上式(1)に適用して新たな学習値Prを導出し、導出された学習値PrをEEPROM35cに記憶する。
【0062】
このようにして本実施形態では、イグニッションスイッチがオフ状態且つロックアップ状態があった場合には、機関始動時にHi端学習をするようにしている。したがって、ブラシレスモータ25の通電制御がなされていないにも拘わらずイグニッションスイッチ39がオフ状態でコントロールシャフト16が変位することがあっても、同Hi端学習後にはブラシレスモータ25の回転角制御によってコントロールシャフト16の変位、すなわち吸気バルブ9のバルブ特性の変更を適切に制御することができる。
【0063】
以上詳述した上記実施形態によれば以下の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、イグニッションスイッチ39がオフ状態且つロックアップ状態であったことを条件に、機関始動時において可変動弁機構14のコントロールシャフト16をHi端に変位させ、ブラシレスモータ25の検出回転角MA(ストロークカウンタのカウント値Cs)を基準値「100」に更新するHi端学習を実行するようにしている。ここで、イグニッションスイッチ39がオフ状態且つロックアップ状態である場合、仮にこの状態で車両が牽引等されると、自動変速機41の出力軸45bが回転することに伴ってクランク軸13が回転するため入力アーム17及び出力アーム18が動作する。そのため、電子制御装置30によるブラシレスモータ25の通電制御及び検出回転角MA(ストロークカウンタのカウント値Cs)の検出が行われていないにも拘わらず、入力アーム17及び出力アーム18の動作に伴う振動によりコントロールシャフト16が変位する可能性がある。この点、本実施形態では、イグニッションスイッチ39がオフ状態且つロックアップ状態であったことを条件に機関始動時においてHi端学習が実行される。したがって、機関停止中にブラシレスモータ25の通電制御や回転角の検出が行われていないにも拘わらずコントロールシャフト16が変位した場合であっても、機関始動時におけるHi端学習によってその後にブラシレスモータ25の回転角制御によりコントロールシャフト16を適切に変位させることができる。
【0064】
(2)本実施形態では、電子制御装置30がブラシレスモータ25の検出回転角MA(ストロークカウンタのカウント値Cs)と実際の回転角との誤差を補償する学習値Prを導出するとともに、この学習値PrをEEPROM35cに記憶し、次回の機関運転おける学習値Prの初期値として設定するようにしている。したがって、内燃機関1の次回運転時にはブラシレスモータ25が、予め記憶された学習値Prの初期値に基づいてコントロールシャフト16を変位させることができる。またイグニッションスイッチ39がオフ状態且つロックアップ状態であった場合には、機関始動時に改めてこの学習値Prが導出される。そのため、機関停止中のクランク軸13の回転に起因してコントロールシャフト16が変位した可能性がある場合には改めて学習値Prが導出されそのような可能性がない場合には前回運転中の学習値Prをそのまま用いることができるため、必要に応じてコントロールシャフト16の絶対位置の学習を行うことができる。
【0065】
(その他の実施形態)
なお上記実施形態は以下のように適宜変更してもよい。
・上記実施形態では、内燃機関1のストールなどの異常が生じてイグニッションスイッチ39がオフ状態となった場合にはHi端学習を実行しないようにしていたが、このような異常が生じた後にイグニッションスイッチ39をオフ状態とする場合であってもHi端学習を実行するようにしてもよい。
【0066】
・上記各実施形態では、イグニッションスイッチ39がオフ状態且つロックアップ状態であった後の機関始動時以外にも、イグニッションスイッチ39がオフ状態とされた後にHi端学習を実行するようにしている。しかしながら、可変動弁機構のHi端学習をその他の前提条件が成立した際に行うようにしてもよい。具体的には、例えば電子制御装置がブラシレスモータのモータロックなどの異常を検知するようにしている場合には、このような異常が検知されたことを条件にHi端学習を行うようにしてもよい。また、所定時間が経過する毎にHi端学習を行うようにしてもよい。そして、そのようなHi端学習を行う毎に導出される学習値PrをEEPROM35cに記憶させるようにしてもよい。
【0067】
・上記各実施形態では、学習制御としてコントロールシャフト16をHi端に変位させたときにブラシレスモータ25の回転角を示すストロークカウンタのカウント値Csを「100」に更新するHi端学習を行うようにしている。しかしながら、学習制御としてコントロールシャフト16をLo端に変位させたときにブラシレスモータ25の回転角を示すストロークカウンタのカウント値CsをLo端に対応する基準値(例えば「0」)に更新するLo端学習を行うようにしてもよい。
【0068】
・上記各実施形態では、内燃機関1のクランク軸13が自動変速機41に接続されている。しかしながら、内燃機関のクランク軸は手動変速機に接続されていてもよい。すなわち、手動変速機を備える車両においては、例えば登り坂で停車する際にイグニッションスイッチがオフ状態とされた後にギアをローに設定する場合や、下り坂で停車する際にイグニッションスイッチがオフ状態とされた後にギアをバックに設定する場合がある。したがって、このような場合において仮に車両が牽引された場合に、上記各実施形態と同様に機関停止中にコントロールシャフト16が変位するといった事態が生じうる。そのため、クランク軸が手動変速機に接続される内燃機関に、本発明にかかる制御装置を適用するようにしてもよい。
【0069】
・上記各実施形態では、可変動弁機構14が、動作部材としての入力アーム17及び出力アーム18と変位部材としてのコントロールシャフト16とを備え、コントロールシャフト16の軸線方向の変位により入力アーム17と出力アーム18との相対位置が変化するようにしている。しかしながら、例えばコントロールシャフトは周方向に回転することにより入力アームと出力アームの相対位置が変化するものであってもよい。また、可変動弁機構として、カムシャフトを軸線方向に変位させるとカムプロフィールが変更する3次元カムを備える場合には、このカムシャフトを変位部材、吸気カムを可動部材とし、カムシャフトを変位させるためにアクチュエータとして上述した態様のブラシレスモータを用い、本発明にかかる制御装置を適用してもよい。また可変動弁機構に限らず、クランク軸の回転に伴い動作する可動部材が接続される変位部材を備え、変位部材を変位させるアクチュエータを備える場合において、本発明の制御装置を適用するようにしてもよい。
【0070】
・上記各実施形態では、アクチュエータであるブラシレスモータ25の回転トルクの調節を同モータ25への供給電力量のデューティ比を調整することにより行うようにしている。しかしながら、アクチュエータとしてステッピングモータを用い、同モータに入力されるパルス信号のステップ数をモータの検出回転角として用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明を具体化した一実施形態にかかる内燃機関の制御装置が適用される内燃機関及び同機関に接続される自動変速機及びその周辺機構を示す模式図。
【図2】同実施形態において、可変動弁機構の駆動機構及び同駆動機構の駆動を制御する制御装置を示す模式図。
【図3】(a)〜(h)ブラシレスモータの各種センサの出力信号の推移及びそれら出力信号の変化に応じて変更される各種カウンタのカウント値の推移を示すタイミングチャート。
【図4】カウント処理の具体的な処理手順を示すフローチャート。
【図5】(a)電気角カウンタのカウント値と各電気角センサからのパルス信号の出力パターンとの関係を示す表、(b)位置カウンタのカウント値と各位置センサからの出力パターンとの関係を示す表。
【図6】(a)はロックアップフラグの変化を示すタイミングチャートであり、(b)はイグニッションスイッチの変化を示すタイミングチャート。
【図7】機関始動時のHi端学習ルーチンの実行手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0072】
1…内燃機関、2…シリンダヘッド、3…シリンダブロック、4…シリンダヘッドカバー、5…ピストン、6…燃焼室、7…吸気通路、8…排気通路、9…吸気バルブ、10…排気バルブ、11…吸気カムシャフト、11a…吸気カム、12…排気カムシャフト、12a…排気カム、13…クランク軸、14…可変動弁機構、15…ロッカシャフト、16…コントロールシャフト、16a…係止部、17…入力アーム、18…出力アーム、21…ロッカアーム、22…ラッシュアジャスタ、25…ブラシレスモータ、25a…モータの出力軸、26…変換機構、27,28…ストッパ、30…電子制御装置、34…CPU、35a…不揮発性メモリ(ROM)、35b…揮発性メモリ(DRAM)、35c…不揮発性メモリ(EEPROM)、36…アクセルポジションセンサ、37…回転速度センサ、38…水温センサ、39…イグニッションスイッチ、40…車速センサ、41…自動変速機、42…車軸、43…駆動輪、44…トルクコンバータ、45…変速機構、45a…入力軸、45b…出力軸、46…ロックアップクラッチ機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関においてクランク軸の回転に伴い動作する可動部材と、
同可動部材が接続されるとともに、アクチュエータの動作位置の変更に伴い変位する変位部材と、
前記アクチュエータの動作位置を検出する検出手段と、
前記変位部材を所定位置とすべく前記検出手段により検出される前記アクチュエータの動作位置が前記所定位置に対応した動作位置となるように前記アクチュエータを駆動する駆動手段と、
前記変位部材を基準位置に変位させるべく前記アクチュエータの動作位置を変更するとともに、前記検出手段により検出される前記アクチュエータの動作位置を前記基準位置に対応する基準動作位置に更新するための学習制御を実行する学習手段と、
イグニッションスイッチがオフ状態且つ前記クランク軸と変速機の出力軸とが連結される状態であったことを条件に、前記機関の始動時において前記学習手段が前記学習制御を実行するように制御する制御手段とを備える
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記学習手段は、前記学習制御時に前記検出手段により検出される動作位置と前記基準動作位置との誤差を補償する学習値を導出するとともに導出された学習値を記憶し、次回の機関運転おける前記学習値の初期値として前記記憶された学習値を設定する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記内燃機関は自動変速機に連結され、前記クランク軸と前記変速機の出力軸とが連結される状態は、前記自動変速機のトルクコンバータのロックアップ状態である
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記可動部材は前記クランク軸の回転に伴って機関バルブを押圧するものであり、前記アクチュエータによる前記変位部材の変位により前記機関バルブのバルブ特性が変更される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−281359(P2009−281359A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136928(P2008−136928)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】