説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、減速時等に燃焼室内が負圧状態となるのを抑制し、負圧によるオイル上がりを低減することを目的とする。
【解決手段】内燃機関10は、各気筒12毎に吸気バルブ34を弁停止状態に保持することが可能な可変動弁機構38を備える。そして、内燃機関の減速時には、複数気筒のうちの一部である制御対象気筒において、吸気バルブ34を弁停止状態に保持すると共に、排気バルブ36を通常の開,閉状態に保持し、かつ燃料噴射を停止する。一方、残りの気筒である非制御対象気筒では、通常の燃焼制御を行う。これにより、減速時に制御対象気筒の筒内圧を上昇させることができるので、エンジンブレーキを十分に効かせながらも、制御対象気筒の筒内に生じる負圧を抑制することができ、負圧によるオイル上がりを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に、バルブを一時的に閉弁状態に保持することが可能な内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2004−137969号公報)に開示されているように、可変動弁機構を備えた内燃機関の制御装置が知られている。従来技術の可変動弁機構は、バルブを一時的な閉弁状態(弁停止状態)に保持することが可能な弁停止機構を備えている。そして、従来技術では、減速時の燃料カットを行うときに、吸気バルブ及び排気バルブを弁停止状態に保持し、エンジンブレーキが必要となった場合に排気バルブの開,閉動作を再開する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−137969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術では、吸気バルブを弁停止状態に保持しつつ、排気バルブの開,閉動作を再開することにより、エンジンブレーキを効かせる構成としている。しかしながら、排気バルブの閉弁後(排気行程の終了後)には、燃焼室内の圧力がほぼ大気圧に等しい状態となる。この状態で次サイクルの吸気行程が開始されると、ピストンの下降動作によって燃焼室内が負圧状態となり、この負圧によりクランクケース側のオイルが燃焼室内に吸引される現象(所謂オイル上がり)が発生するという問題がある。
【0005】
ここで、例えば吸気バルブと排気バルブの両方を弁停止状態とした場合には、クランクケース側から燃焼室内に空気が侵入するので、燃焼室内の負圧は徐々に減少することになり、オイル上がりは時間が経つにつれて減少する。しかし、吸気バルブのみを弁停止状態とした場合には、クランクケース側から燃焼室内に侵入する空気が排気されるので、燃焼室内の負圧状態が十分に解消されず、オイル上がりが継続的に発生してしまう。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、減速時等に燃焼室内が負圧状態となるのを抑制し、負圧によるオイル上がりを低減することが可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、内燃機関の複数気筒のうち少なくとも一部の気筒に設けられ、当該気筒の吸気バルブを弁停止状態に保持することが可能な吸気可変動弁機構と、
内燃機関が減速時を含む特定の運転状態となったときに、前記複数気筒の少なくとも一部である制御対象気筒だけで前記吸気バルブを弁停止状態に保持すると共に排気バルブを通常の開,閉状態に保持し、かつ当該気筒の燃料噴射を停止する部分気筒停止手段と、
前記制御対象気筒の排気行程が行われるときに、内燃機関の排気通路の圧力を増大させる排気圧増大手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明によると、前記排気圧増大手段は、前記制御対象気筒を除く他の気筒から排出される排気ガスである構成としている。
【0009】
第3の発明は、前記他の気筒の排気行程中に前記制御対象気筒の排気バルブが閉弁するように、前記複数気筒の中から前記制御対象気筒を選択する構成としている。
【0010】
第4の発明は、前記複数気筒のうち少なくとも一部の気筒に設けられ、当該気筒の排気バルブを弁停止状態に保持することが可能な排気可変動弁機構と、
前記制御対象気筒を含む一部の気筒で前記吸気バルブ、前記排気バルブ及び燃料噴射を停止させる減筒運転を行う減筒運転手段と、を備え、
前記部分気筒停止手段は、内燃機関が前記減筒運転中に前記特定の運転状態となったときに、前記制御対象気筒の排気バルブを通常の開,閉状態に復帰させる構成としている。
【0011】
第5の発明は、前記制御対象気筒の吸気バルブを弁休止状態とするときに、少なくとも前記制御対象気筒の排気バルブの開閉タイミングを通常よりも進角させる排気弁進角手段を備える構成としている。
【0012】
第6の発明によると、前記排気圧増大手段は、前記排気通路に開,閉可能に設けられた排気絞り弁を備える構成としている。
【0013】
第7の発明は、前記複数気筒のうち前記制御対象気筒として選択する気筒を前記特定の運転状態が出現する毎に変更し、前記制御対象気筒以外の気筒では通常の燃焼を実行させる対象気筒切換手段を備える構成としている。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、部分気筒停止手段は、内燃機関が減速状態等となったときに、制御対象気筒の吸気バルブを弁停止状態に保持し、排気バルブを開,閉させることができる。この状態で、排気圧増大手段は、制御対象気筒の排気行程が行われるときに、排気通路の排気圧を増大させることができ、制御対象気筒の筒内圧を上昇させることができる。しかも、制御対象気筒では、排気バルブが開,閉動作を行うから、ポンプ損失を発生させ、エンジンブレーキを効かせることができる。従って、減速時にエンジンブレーキを十分に効かせながらも、制御対象気筒の筒内に生じる負圧を抑制することができ、負圧によるオイル上がりを低減することができる。
【0015】
第2の発明によれば、非制御対象気筒から排出される排気ガスにより排気圧を増大させることができ、この排気圧により制御対象気筒の筒内圧を上昇させることができる。
【0016】
第3の発明によれば、非制御対象気筒の排気行程中に制御対象気筒の排気バルブが閉弁するように、制御対象気筒を選択することができる。従って、非制御対象気筒の排気ガスにより排気圧が高くなるときに、この排気圧を制御対象気筒の筒内に作用させ、制御対象気筒の筒内圧を効率よく上昇させることができる。
【0017】
第4の発明によれば、部分気筒停止手段は、内燃機関が減筒運転中に減速状態等となったときに、制御対象気筒の排気バルブを通常の開,閉状態に復帰させることができる。これにより、制御対象気筒では、通常運転中に減速状態となった場合と同様に、吸気バルブと燃料噴射とを停止状態に保持しつつ、排気バルブを開,閉させることができる。従って、減筒運転を行う気筒に対しても、本願発明を適用することができる。
【0018】
第5の発明によれば、排気弁進角手段は、制御対象気筒の吸気バルブを弁休止状態とするときに、当該気筒の排気バルブの開閉タイミングを通常よりも進角させることができる。これにより、制御対象気筒では、排気バルブの開弁タイミングが早くなる分だけ、より多くの排気ガスを早い時期に燃焼室内に導入することができる。従って、制御対象気筒の筒内圧を確実に高め、オイル上がりを抑制することができる。
【0019】
第6の発明によれば、制御対象気筒の排気バルブが閉弁するときには、排気絞り弁により排気通路の一部を閉塞し、当該閉塞空間内の排気圧を一段と高くすることができる。これにより、制御対象気筒の筒内圧を効率よく上昇させ、オイル上がりを確実に抑制することができる。
【0020】
第7の発明によれば、対象気筒切換手段は、内燃機関が減速状態等となる毎に、制御対象気筒として選択する気筒を変更することができる。これにより、制御対象気筒を順次変更することができるから、オイル上がりの発生頻度及び発生量を各気筒で均等化することができる。従って、例えば特定の気筒でオイル上がりが集中的に発生したり、この気筒内にオイルに起因したデポジット等が堆積するのを回避することができる。つまり、全ての気筒において、オイル上がりを均等に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【図2】内燃機関の各気筒に設けられた吸気可変動弁機構をカムシャフトと垂直に破断した状態で示す断面図である。
【図3】吸気可変動弁機構をカムシャフトの軸方向に沿って破断した状態で示す断面図である。
【図4】減速時の吸気弁停止制御を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御を示すフロチャートである。
【図6】本発明の実施の形態2において、吸気弁停止制御を実行する前の減筒運転を説明するための説明図である。
【図7】本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御を示すフロチャートである。
【図8】本発明の実施の形態3において、減速時の吸気弁停止制御を説明するための説明図である。
【図9】本発明の実施の形態3において、ECUにより実行される制御を示すフロチャートである。
【図10】本発明の実施の形態4において、ECUにより実行される制御を示すフロチャートである。
【図11】本発明の実施の形態5において、ECUにより実行される制御を示すフロチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図5を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。本実施の形態のシステムは、車両に搭載される内燃機関10を備えており、この内燃機関10は、例えば4つの気筒を有する多気筒エンジンにより構成されている。なお、図1には、内燃機関10の1つの気筒のみを例示している。内燃機関10の各気筒12には、ピストン14の往復動作により拡大,縮小する燃焼室16が設けられている。ピストン14はクランク軸18に連結されている。
【0023】
また、内燃機関10は、気筒12に吸入空気を吸込む吸気通路20と、気筒12から排気ガスを排出する排気通路22とを備えている。吸気通路20には、吸入空気量を検出するエアフローメータ24と、電子制御式のスロットルバルブ26とが設けられている。スロットルバルブ26は、アクセル開度等に基いてスロットルモータ28により駆動され、吸入空気量を増減させる。また、内燃機関の気筒12には、吸気通路20に燃料を噴射する燃料噴射弁30と、燃焼室16内の混合気に点火する点火プラグ32と、吸気通路20を燃焼室16に対して開,閉する吸気バルブ34と、排気通路22を燃焼室16に対して開,閉する排気バルブ36とが設けられている。なお、吸気バルブ34と排気バルブ36は、1気筒当り2つずつ配置されている。
【0024】
また、内燃機関10は、吸気可変動弁機構38、排気可変動弁機構40およびVVT42を備えている。ここで、吸気可変動弁機構38は、吸気バルブ34の開,閉動作を一時的に停止させる(弁停止状態に保持する)機能を有しており、排気可変動弁機構40は、排気バルブ36を弁停止状態に保持する機能を有している。これらの可変動弁機構38,40の構成については後述する。また、VVT42は、例えば特開2003−293711号公報等に記載されているような公知の可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing system)であり、例えば排気バルブ36に設けられている。そして、VVT42は、後述のECU50から入力される制御信号に応じて、排気バルブ36の位相(開弁タイミングと閉弁タイミング)を進角および遅角させる。
【0025】
さらに、本実施の形態のシステムは、クランク角センサ44、アクセルセンサ46、車速センサ48等を含むセンサ系統と、内燃機関10の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)50とを備えている。クランク角センサ44は、クランク軸18の回転に同期した信号を出力するもので、ECU50は、この出力に基いて機関回転数を検出する。また、アクセルセンサ46は運転者のアクセル操作を検出し、車速センサ48は車両の速度を検出するように構成されている。
【0026】
センサ系統には、前述したエアフローメータ24とセンサ44〜48の他に、車両や内燃機関の制御に必要な各種のセンサ(例えば内燃機関の冷却水温を検出する水温センサ、排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ等)が含まれており、これらはECU50の入力側に接続されている。また、ECU50の出力側には、スロットルモータ28、燃料噴射弁30、点火プラグ32、可変動弁機構38,40、VVT42等を含む各種のアクチュエータが接続されている。
【0027】
そして、ECU50は、内燃機関の運転状態をセンサ系統により検出しつつ、各アクチュエータを駆動する。具体的には、センサ系統の出力に基いて、燃料の噴射量及び噴射時期、点火時期、バルブ34,36の作動状態、位相等が設定され、これらの設定内容に応じてアクチュエータが駆動される。このECU50による運転制御には、後述する減速時の吸気弁停止制御が含まれている。
【0028】
次に、図2及び図3を参照して、可変動弁機構38,40の構成について説明する。なお、これらの可変動弁機構は同様の構成を有しているので、吸気可変動弁機構38を例に挙げて説明し、排気可変動弁機構40の説明は省略する。
【0029】
図2は、内燃機関の各気筒に設けられた吸気可変動弁機構をカムシャフトと垂直に破断した状態で示す断面図である。また、図3は、吸気可変動弁機構をカムシャフトの軸方向に沿って破断した状態で示す断面図である。これらの図に示すように、吸気可変動弁機構38は、内燃機関のカムシャフト60と吸気バルブ34との間に配置されている。カムシャフト60には、偏心した通常のカムからなる1つの主カム62と、円形状のゼロリフトカムからなる2つの副カム64とが各気筒毎に設けられている。
【0030】
吸気可変動弁機構38は、1つの駆動アーム66と、駆動アーム66の両側に配置された左,右の従動アーム68L,68R(場合によっては、両者をまとめて従動アーム68と表記)とを備えており、これらのアーム66,68は、支軸70により揺動可能に支持されている。そして、駆動アーム66は、ローラを介して主カム62に当接しており、主カム62の作用力を受けて揺動するように構成されている。従動アーム68は、ローラを介して副カム64に当接すると共に、吸気バルブ34のバルブステムに当接している。また、アーム66,68には、両者の連結状態を切換える切換機構72が設けられている。
【0031】
切換機構72は、アーム66,68R,68Lにそれぞれ設けられたスリーブ74,76L,76Rと、2つの切換ピン78,80と、戻しばね82と、アクチュエータ84とを備えている。そして、中央の切換ピン78は、中央のスリーブ74だけに挿入された連結解除位置と、2つのスリーブ74,76Lに跨って挿入された連結位置の何れかに変位する。また、右側の切換ピン80は、右側のスリーブ76Rだけに挿入された連結解除位置と、2つのスリーブ74,76Rに跨って挿入された連結位置の何れかに変位する。一方、戻しばね82は、切換ピン78,80を連結解除位置に向けて付勢している。また、アクチュエータ84は、ECU50により制御され、切換ピン78,80を連結位置に向けて押動するものである。
【0032】
上記構成によれば、アクチュエータ84の作動時には、アクチュエータ84により押動された切換ピン78,80が戻しばね82のばね力に抗して連結位置に変位する。これにより、各アーム66,68が切換ピン78,80により連結され、主カム62の作用力が駆動アーム66から従動アーム68に伝達されるので、排気バルブ34は通常の開,閉を行う。また、アクチュエータ84の停止時には、図3に示すように、切換ピン78,80が戻しばね82のばね力により連結解除位置に変位し、アーム66,68の連結が解除されるので、駆動アーム66が揺動しても従動アーム68は静止した状態となり、排気バルブ34は開,閉動作を停止した弁停止状態となる。従って、ECU50は、各気筒のアクチュエータ84を制御することにより、各気筒の吸気バルブ34を所望のタイミングで弁停止状態に切換えることができる。
【0033】
(減速時の吸気弁停止制御)
次に、ECU50により実行される減速時の吸気弁停止制御について説明する。内燃機関の減速時に行うバルブ制御としては、エンジンブレーキを十分に効かせるために、吸気バルブ34を弁停止状態に保持しつつ、排気バルブ36を開,閉させる制御方法が知られている。しかしながら、この方法では、排気行程の終了後に燃焼室16内の圧力がほぼ大気圧に等しい状態となる。この状態で次サイクルの吸気行程が開始されると、ピストン14の下降動作によって燃焼室16内が負圧状態となり、この負圧によりクランクケース側のオイルが燃焼室16内に吸引される現象(オイル上がり)が発生してしまう。一方、例えば減速時の燃料カット中に両方のバルブ34,36を開,閉させた場合には、排気触媒の劣化が促進される虞れがあり、両方のバルブ34,36を弁停止状態とした場合には、エンジンブレーキが不足する虞れがある。
【0034】
これらの問題を解決するために、本実施の形態では、減速時の吸気弁停止制御を実行する構成としている。図4は、減速時の吸気弁停止制御を説明するための説明図である。この図に示すように、内燃機関10の各気筒12には、吸気バルブ34と排気バルブ36が1気筒当り2つずつ配置されている。そして、これら4つのバルブ34,36のうち、黒丸(●)は、吸気可変動弁機構38により弁停止状態に保持された吸気バルブを示し、白丸(○)は、通常の開,閉動作を行っているバルブを示している。
【0035】
図4に示すように、吸気弁停止制御では、内燃機関が減速状態となったときに、特定の制御対象気筒(例えば、#1気筒と#4気筒)の吸気バルブ34を弁停止状態に保持する。また、制御対象気筒では、燃料噴射及び点火も停止するが、排気バルブ36だけは通常通り開,閉させる。なお、制御対象気筒とは、後述の選択方法により4気筒の中から予め選択された一部の気筒である。一方、制御対象気筒を除く他の気筒(例えば、#2気筒と#3気筒)では、吸気バルブ34と排気バルブ36の開,閉動作、燃料噴射及び点火を通常通りに実行し、燃焼室16内で混合気を燃焼させる。
【0036】
また、制御対象気筒の選択時には、各気筒の点火順序(燃焼サイクルの順番及び位相差)を考慮することにより、例えば非制御対象気筒(#2,#3気筒)の排気行程中に制御対象気筒(#1,#4気筒)の排気バルブ36が閉弁するように、制御対象気筒を決定する。このように制御対象気筒を選択すれば、非制御対象気筒から排出される排気ガスにより排気通路22の圧力(排気圧)が高くなるときに、この排気圧を制御対象気筒の筒内に作用させることができ、制御対象気筒の筒内圧を効率よく上昇させることができる。即ち、非制御対象気筒から排出される排気ガスは、制御対象気筒の排気行程が行われるときに排気圧を増大させる排気圧増大手段を構成している。
【0037】
従って、上記構成によれば、吸気弁停止制御を実行しない場合と比較して、制御対象気筒の筒内圧を高くすることができる。しかも、制御対象気筒では、吸気バルブ34が弁停止状態でも、排気バルブ36は開,閉動作を行うから、ポンプ損失を発生させ、エンジンブレーキを効かせることができる。このように、本実施の形態では、減速時にエンジンブレーキを十分に効かせながらも、制御対象気筒の筒内に生じる負圧を抑制することができ、負圧によるオイル上がりを低減することができる。従って、オイル上がりが生じることにより、オイルパン内のオイルが無駄に消費されるのを回避することができる。
【0038】
また、吸気弁停止制御では、減速時に制御対象気筒の吸気バルブ34を弁停止状態とするので、制御対象気筒から排気触媒に空気(酸素)が供給されることはない。しかも、非制御対象気筒は、筒内での燃焼によりほぼ無酸素状態となった排気ガスを排気触媒に向けて排出する。従って、減速時には、高温の排気触媒に対して酸素が供給されるのを防止し、触媒の劣化を抑制することができる。
【0039】
さらに、本実施の形態では、非制御対象気筒において、燃焼が成立する範囲で吸入空気量を可能な限り減少させ、この吸入空気量に応じて燃料噴射量を制御する構成としている。具体的には、スロットルバルブ26の開度(スロットル開度)を適度に絞ることにより、非制御対象気筒の吸入空気量を減少させる。ここで、吸気弁停止制御を実行していない場合には、減速時にスロットル開度を絞ると、1気筒当りの吸入空気量が燃料噴射弁30の最小噴射量と比較して過少となる。この結果、吸入空気量に応じた量の燃料を正確に噴射することができず、A/Fのずれや失火等が生じ易くなる。一方、失火の回避や噴射弁の最小噴射量を考慮して、減速時のスロットル開度を増大させると、エンジンブレーキの効きが悪くなり、運転性が低下する。
【0040】
これに対し、本実施の形態では、減速時にスロットル開度を絞ることにより全体の吸入空気量を減少させても、制御対象気筒が弁停止状態となる分だけ、非制御対象気筒の1気筒当りの吸入空気量を増大させることができる。この結果、個々の非制御対象気筒では、吸入空気量に応じて正確な燃料噴射を行うことができ、A/Fのずれや失火等を防止することができる。また、失火の回避や噴射弁の最小噴射量を考慮して、減速時のスロットル開度を増大させずに済むから、エンジンブレーキ力を十分に確保することができる。
【0041】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
図5は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御を示すフロチャートである。図5に示すルーチンでは、まず、ステップ100,102において、車両が減速状態となったか否かを判定する。即ち、ステップ100では、車速センサ48により車速を検出し、この車速が走行中に対応する所定値以上であるか否かを判定する。ステップ102では、アクセルセンサ46により運転者のアクセル操作量を検出し、このアクセル操作量が零に近い所定値以下であるか否かを判定する。
【0042】
そして、ステップ100,102の判定が両方とも成立したときには、車両が減速状態であると判断し、前述した減速時の吸気弁停止制御を実行する(ステップ104)。一方、ステップ100,102の何れかで判定が不成立のときには、減速状態ではないので通常の運転を実施する(ステップ106)。このように、車両の減速状態を検出したときには、吸気弁停止制御を行うことができる。
【0043】
実施の形態2.
次に、図6及び図7を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態の特徴は、減筒運転を行うシステムに対して本願発明を適用したことにある。なお、本実施の形態では、前記実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0044】
図6は、本発明の実施の形態2において、吸気弁停止制御を実行する前の減筒運転を説明するための説明図である。この図に示すように、減筒運転では、吸気側と排気側の可変動弁機構38,40を用いることにより、制御対象気筒(または、これを含む一部の気筒)において吸気バルブ34と排気バルブ36とを弁停止状態に保持し、かつ当該気筒の燃料噴射を停止させる。この減筒運転は、内燃機関の運転状態に応じて、例えば軽負荷運転時等に実行される。
【0045】
そして、本実施の形態では、内燃機関が減筒運転中に減速状態となったときに、制御対象気筒の排気バルブ36を通常の開,閉状態に復帰させる構成としている。このとき、制御対象気筒の吸気バルブ34と燃料噴射とは停止状態に保持されているので、制御対象気筒では、実施の形態1と同様の吸気弁停止制御が実行された状態となる。一方、非制御対象気筒では、実施の形態1と同様に、燃焼が成立する範囲で吸入空気量を可能な限り減少させ、この吸入空気量に応じて燃料噴射量を制御する。
【0046】
[実施の形態2を実現するための具体的な処理]
図7は、本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御を示すフロチャートである。図7に示すルーチンでは、まず、ステップ200,202において、実施の形態1のステップ100,102と同様の処理を行うことにより、車両が減速状態となったか否かを判定する。そして、車両が減速状態であると判定したときには、減筒運転中である気筒の排気バルブ36を通常の開,閉状態に復帰させることにより、当該気筒において吸気弁停止制御を実行する(ステップ204)。一方、車両が減速状態ではないと判定したときには、通常の減筒運転を継続する(ステップ206)。
【0047】
このように構成される本実施の形態でも、前記実施の形態1とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、減筒運転を行う気筒に対しても、本願発明を適用することができる。
【0048】
実施の形態3.
次に、図8及び図9を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態の特徴は、排気圧増大手段の一つとして、排気通路に排気絞り弁を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0049】
図8は、本発明の実施の形態3において、減速時の吸気弁停止制御を説明するための説明図である。図8に示すように、排気通路22には、電動式の排気絞り弁90が設けられており、この排気絞り弁90は、ECU50から入力される制御信号に応じて排気通路22を開,閉するように構成されている。また、排気絞り弁90は、排気通路22のうち各気筒に接続された排気管が合流した合流部位に設けられている。
【0050】
そして、本実施の形態では、内燃機関が減速状態となったときに、実施の形態1と同様の吸気弁停止制御を実行しつつ、更に排気絞り弁90を閉弁させる。より詳しく述べると、制御対象気筒の排気バルブ36が閉弁するときに排気絞り弁90を閉弁させ、このタイミングで排気圧が一段と高くなるようにする。
【0051】
[実施の形態3を実現するための具体的な処理]
図9は、本発明の実施の形態3において、ECUにより実行される制御を示すフロチャートである。図9に示すルーチンでは、まず、ステップ300,302において、実施の形態1のステップ100,102と同様の処理を行うことにより、車両が減速状態となったか否かを判定する。そして、車両が減速状態であると判定したときには、吸気弁停止制御を実行すると共に、制御対象気筒の排気バルブ36が閉弁するタイミングで排気絞り弁90を閉弁する。一方、車両が減速状態ではないと判定したときには、排気絞り弁90を開弁状態に保持しつつ、通常の運転状態を継続する(ステップ306)。
【0052】
このように構成される本実施の形態でも、前記実施の形態1とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、排気絞り弁90を設けているので、制御対象気筒の排気バルブ36が閉弁するときには、排気絞り弁90により排気通路22の一部を閉塞し、当該閉塞空間内の排気圧を一段と高くすることができる。これにより、制御対象気筒の筒内圧を効率よく上昇させ、オイル上がりを確実に抑制することができる。
【0053】
実施の形態4.
次に、図10を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態の特徴は、前記実施の形態1乃至3の何れかにおいて、吸気弁停止制御を実行するときに、各気筒の排気バルブの開閉タイミング(位相)を進角させる構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0054】
[実施の形態4を実現するための具体的な処理]
図10は、本発明の実施の形態4において、ECUにより実行される制御を示すフロチャートである。この図に示すルーチンは、実施の形態1乃至3の制御ルーチン(図5,図7,図9)の何れかと並行して行われる。そして、図10に示すルーチンでは、まず、吸気弁停止制御の実行タイミングであるか否かを判定する(ステップ400)。そして、この判定成立時には、VVT42を作動させることにより、全ての気筒において排気バルブ36の開閉タイミングを通常よりも進角させる(ステップ402)。一方、ステップ400の判定が不成立のときには、排気バルブ36を通常の開閉タイミングで作動させる(ステップ404)。
【0055】
このように構成される本実施の形態によれば、前記実施の形態1〜3の作用効果に加えて、以下の効果を得ることができる。即ち、制御対象気筒では、排気バルブ36の開弁タイミングが早くなる分だけ、より多くの排気ガスを早い時期に燃焼室16内に導入することができる。これにより、制御対象気筒の筒内圧を確実に高め、オイル上がりを抑制することができる。
【0056】
また、非制御対象気筒では、排気バルブ36の開弁タイミングが早くなる分だけ、より高圧の排気ガスを排気通路22に排出することができる。これにより、高圧の排気ガスを制御対象気筒に供給することができる。なお、本実施の形態では、全ての気筒において排気バルブ36の開閉タイミングを通常よりも進角させる構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、制御対象気筒だけで排気バルブ36の開閉タイミングを進角させ、非制御対象気筒では、排気バルブ36を通常の開閉タイミングで作動させる構成としてもよい。
【0057】
実施の形態5.
次に、図11を参照して、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態の特徴は、前記実施の形態1乃至3の何れかにおいて、吸気弁停止制御を実行する毎に、制御対象気筒として選択する気筒を変更する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0058】
[実施の形態5を実現するための具体的な処理]
図11は、本発明の実施の形態5において、ECUにより実行される制御を示すフロチャートである。この図に示すルーチンは、実施の形態1乃至3の制御ルーチン(図5,図7,図9)の何れかと並行して行われる。そして、図11に示すルーチンでは、まず、吸気弁停止制御の実行タイミングであるか否かを判定する(ステップ500)。そして、この判定成立時には、今回の吸気弁停止制御において制御対象気筒となる気筒を、4気筒の中から選択する(ステップ502)。
【0059】
ここで、ステップ502の選択処理では、今回の制御対象気筒が前回の吸気弁停止制御の実行時における制御対象気筒と異なるように、制御対象気筒を変更する。一例を挙げれば、前回の制御対象気筒が#1気筒と#4気筒であった場合には、今回の制御対象気筒として#2気筒と#3気筒を選択し、残りの#1気筒と#4気筒は、今回の吸気弁停止制御において非制御対象気筒とする。なお、ECU50は、吸気弁停止制御を実行する毎に、そのときの制御対象気筒を記憶しておくように構成されている。
【0060】
このように構成される本実施の形態によれば、前記実施の形態1〜3の作用効果に加えて、以下の効果を得ることができる。即ち、減速時の吸気弁停止制御が行われる毎に、制御対象気筒を順次変更することができるから、オイル上がりの発生頻度及び発生量を各気筒で均等化することができる。これにより、例えば特定の気筒でオイル上がりが集中的に発生したり、この気筒内にオイルに起因したデポジット等が堆積するのを回避することができる。つまり、全ての気筒において、オイル上がりを均等に抑制することができ、前記実施の形態1〜3による作用効果を各気筒で安定的に発揮することができる。
【0061】
なお、前記実施の形態1乃至3では、図5中のステップ104、図7中のステップ204、図9中のステップ304が部分気筒停止手段の具体例をそれぞれ示している。また、実施の形態2では、図7中のステップ206が減筒運転手段の具体例を示している。さらに、実施の形態4では、図10中のステップ402が排気弁進角手段の具体例を示し、実施の形態5では、図11中のステップ502が対象気筒切換手段の具体例を示している。
【0062】
また、実施の形態では、4気筒型の内燃機関を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、3気筒以下または5気筒以上の内燃機関にも適用することができる。また、本発明は、全気筒数に対する制御対象気筒の個数や、制御対象気筒とする気筒の組合わせについても、実施の形態に限定するものではない。即ち、例えば#1気筒と#2気筒とを組合わせて制御対象気筒としてもよく、あるいは4気筒のうち1気筒だけを制御対象気筒としてもよい。この点については、本発明を4気筒以外の多気筒エンジンに適用する場合も同様である。
【符号の説明】
【0063】
10 内燃機関
12 気筒
16 燃焼室
20 吸気通路
22 排気通路
26 スロットルバルブ
30 燃料噴射弁
32 点火プラグ
34 吸気バルブ
36 排気バルブ
38 吸気可変動弁機構
40 排気可変動弁機構
42 VVT
46 アクセルセンサ
48 車速センサ
50 ECU
90 排気絞り弁(排気圧増大手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の複数気筒のうち少なくとも一部の気筒に設けられ、当該気筒の吸気バルブを弁停止状態に保持することが可能な吸気可変動弁機構と、
内燃機関が減速時を含む特定の運転状態となったときに、前記複数気筒の少なくとも一部である制御対象気筒だけで前記吸気バルブを弁停止状態に保持すると共に排気バルブを通常の開,閉状態に保持し、かつ当該気筒の燃料噴射を停止する部分気筒停止手段と、
前記制御対象気筒の排気行程が行われるときに、内燃機関の排気通路の圧力を増大させる排気圧増大手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記排気圧増大手段は、前記制御対象気筒を除く他の気筒から排出される排気ガスである請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記他の気筒の排気行程中に前記制御対象気筒の排気バルブが閉弁するように、前記複数気筒の中から前記制御対象気筒を選択する構成としてなる請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記複数気筒のうち少なくとも一部の気筒に設けられ、当該気筒の排気バルブを弁停止状態に保持することが可能な排気可変動弁機構と、
前記制御対象気筒を含む一部の気筒で前記吸気バルブ、前記排気バルブ及び燃料噴射を停止させる減筒運転を行う減筒運転手段と、を備え、
前記部分気筒停止手段は、内燃機関が前記減筒運転中に前記特定の運転状態となったときに、前記制御対象気筒の排気バルブを通常の開,閉状態に復帰させる構成としてなる請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記制御対象気筒の吸気バルブを弁休止状態とするときに、少なくとも前記制御対象気筒の排気バルブの開閉タイミングを通常よりも進角させる排気弁進角手段を備えてなる請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記排気圧増大手段は、前記排気通路に開,閉可能に設けられた排気絞り弁を備えてなる請求項1乃至5のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記複数気筒のうち前記制御対象気筒として選択する気筒を前記特定の運転状態が出現する毎に変更し、前記制御対象気筒以外の気筒では通常の燃焼を実行させる対象気筒切換手段を備えてなる請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−223126(P2010−223126A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72263(P2009−72263)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】