説明

内燃機関の制御装置

【課題】各気筒ごとに異なる排気ガスの還流量を供給することにより、各気筒ごとに適切な量の排気ガスを還流させることができる内燃機関の制御装置を提供すること。
【解決手段】複数の気筒を有し、排気ガスの一部を各気筒に再循環させるエンジンシステムにおいて、各気筒ごとに設けられ、各気筒の筒内にEGRガスを直接供給するEGRガス噴射弁70,71と、EGRガス噴射弁70,71の開閉タイミングを制御するECU81とを備え、ECU81が、エンジン10の運転条件に応じて各気筒に必要とされる要求EGR量を算出し、そのEGR量となるようにEGRガス噴射弁70,71の開閉タイミングを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の気筒を有し、排気ガスの一部を各気筒に戻す内燃機関の制御装置に関する。特に、運転条件に応じて、火花点火燃焼と予混合圧縮着火燃焼とを切り替える内燃機関に好適な制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては、燃焼室内の燃料温度を低減することにより、排気ガス中のNOx含有量の低減を図るために、排気ガスの一部を各気筒に戻すことが一般的に行われている。
【0003】
そして近年、熱効率が高く燃費を低減でき、また、ススやNOx等の有害物質を低減できる等、様々なメリットがある予混合圧縮着火式内燃機関の研究開発が進められている。この予混合圧縮着火式内燃機関は、シリンダ室の外で燃料と空気とを予め混ぜておいたものをシリンダ室内に流入させ、ピストンの圧縮により圧縮着火させる方式の内燃機関である。この内燃機関は、スパークプラグを使わず圧縮着火させる点ではディーゼルエンジンと共通する一方、着火前に予め燃料と空気を混合しておく(予混合)という点ではガソリンエンジンと共通している。このため、いわばディーゼルエンジンとガソリンエンジンとの中間の性質を有するエンジンといえる。
【0004】
このような予混合圧縮着火式内燃機関では、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切替をスムーズに行うために、排気ガスの還流量を増加させることが行われている。例えば、特許文献1に記載の技術では、EGR量調整弁を働かせて、新気に対する排気ガスの還流量(いわゆる外部EGR量)を増加させる、又は排気弁の閉時期の上死点に対する進角量を徐々に増加させて、新気に対する排気ガスの還流量(いわゆる内部EGR量)を増加させるようにしている。
【特許文献1】特開2004−263663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した技術では、各気筒ごとに要求される排気ガスの還流量を供給することができないという問題があった。なぜなら、多気筒の内燃機関では、4つの行程(吸入、圧縮、膨張、排気)が、各気筒ごとにずれて実行されることや、各気筒への吸気分配がばらつくために、各気筒ごとに要求される排気ガスの還流量が異なる。それにも関わらず、一律に排ガスの還流量が制御されているため、各気筒ごとに要求される排気ガスの還流量を供給することができないのである。
【0006】
特に、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼へ切り替える内燃機関では、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切替時に排気ガスの還流量を増加させることが行われているが、特許文献1に記載の技術でも、一律に排ガスの還流量(外部EGR量又は内部EGR量)が制御されているため、各気筒ごとに要求される排気ガスの還流量となるように増加させることができない。そして、各気筒ごとに要求される排気ガスの還流量が供給されないと、排気ガスの還流量が不足する気筒において、空燃比がリーンとなって失火が発生する。そうすると、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切替をスムーズに行うことができなくなる。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、各気筒ごとに異なる排気ガスの還流量を供給することにより、各気筒ごとに適切な量の排気ガスを還流させることができる内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。そして、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼へ切り替え可能な内燃機関の場合には、各気筒ごとに適切な量の排気ガスを還流させることにより、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切替をスムーズに行うことができる内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するためになされた本発明は、複数の気筒を有し、排気ガスの一部を各気筒に再循環させる内燃機関の制御装置において、排気ガスを各気筒に再循環させる排気ガス再循環手段と、内燃機関の運転条件に応じて各気筒に必要とされる排気ガスの再循環量を算出する要求再循環量算出手段とを有し、前記排気ガス再循環手段は、各気筒ごとに設けられ、各気筒の筒内に排気ガスを直接供給する排気ガス噴射弁と、前記各排気ガス噴射弁の開閉タイミングを制御するコントローラとを備え、前記コントローラは、前記要求再循環量算出手段が各気筒ごとに算出する排気ガスの再循環量となるように前記各排気ガス噴射弁の開閉タイミングを制御することを特徴とする。
【0009】
この内燃機関の制御装置では、各気筒の筒内に排気ガスを直接供給するために、各気筒ごとに排気ガス噴射弁が設けられている。そして、コントローラにより、これらの排気ガス噴射弁の開閉タイミングが制御される。これにより、各気筒ごとに異なるタイミングで異なる還流量の排気ガスを供給することができる。そこで、コントローラにより、要求再循環量算出手段が各気筒ごとに算出する排気ガスの再循環量となるように、各排気ガス噴射弁の開閉タイミングを制御することにより、各気筒に対して要求される排気ガスの還流量を精度良く供給することができる。なお、この内燃機関の制御装置では、排気ガス噴射弁により排気ガスを気筒内に直接還流させるため、従来のように、吸気バルブにデポジットが付着することがない。
【0010】
特に、内燃機関が、運転条件に応じて火花点火燃焼と予混合圧縮着火燃焼とを切り替え可能なものである場合には、前記コントローラは、前記内燃機関が火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼へ切り替えられるときに、各気筒に供給される排気ガスの再循環量が増量されるように前記各排気ガス噴射弁の開閉タイミングを制御することが望ましい。
【0011】
これにより、内燃機関における火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切替時にも、各気筒に対して要求される排気ガスの還流量を精度良く供給することができる。従って、空燃比がリーンとなる気筒が発生しなくなり失火を防止することができ、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切替をスムーズに行うことができる。その結果、燃焼方式の切替時におけるドライバビリティの悪化や触媒の損傷を防ぐことができる。
【0012】
本発明に係る内燃機関の制御装置においては、前記コントローラは、少なくとも圧縮行程時に排気ガスが気筒内に供給されるように前記各排気ガス噴射弁の開閉タイミングを制御することが望ましい。
【0013】
このような構成により、点火栓近傍に混合気(吸入空気と噴射燃料と排気ガスとの混合気)を導入することができるため、成層燃焼性を向上させることができる。従って、少ない燃料噴射量で燃焼させることができるので、燃費を大幅に低減することができる。
【0014】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置においては、前記排気ガス噴射弁に加圧した排気ガスを供給する加圧手段を有することが望ましい。
【0015】
ここで、圧縮行程時に排気ガスを気筒内に供給するとき、気筒内の圧力が排気ガス噴射弁から噴射される排気ガスの圧力よりも高いと、排気ガスを気筒内に供給することができなくなる。
これに対して本発明では、加圧手段によって加圧された排気ガスが排気ガス噴射弁に供給されるため、圧縮行程時であっても排気ガスを気筒内に確実に供給することができる。その結果、確実に成層燃焼性を向上させることができるので、より確実に燃費を低減することができる。
【0016】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置においては、前記排気ガス噴射弁は、内燃機関の排気通路に接続された排気ガス循環通路に接続されていることが望ましい。
【0017】
このような構成により、いわゆる外部EGR量によって排気ガスの還流量を正確に制御することができるので、各気筒への排気ガスの還流量をより一層正確に供給することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、上記した通り、各気筒ごとに異なる排気ガスの還流量を供給することにより、各気筒ごとに適切な量の排気ガスを還流させることができる。特に、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼へ切り替え可能な内燃機関の場合には、各気筒ごとに適切な量の排気ガスを還流させることができるので、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切替をスムーズに行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の内燃機関の制御装置を具体化した最も好適な実施の形態について図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態では、本発明を燃焼方式を火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼へ切り替え可能なV型6気筒エンジンに適用した場合を例示する。そこで、本実施の形態に係るエンジンシステムについて、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態に係るエンジンシステムの概略構成を示す断面図である。
【0020】
図1に示すように、エンジン10は、V型6気筒エンジンであり、シリンダブロック11は上部に所定角度で傾斜した左右のバンク12,13を有しており、各バンク12,13に複数の気筒が設けられて2つの気筒群が構成されている。この各バンク12,13は、それぞれ3つのシリンダボア14,15が形成され、各シリンダボア14,15にピストン16,17がそれぞれ上下移動自在に嵌合している。そして、シリンダブロック11の下部に図示しないクランクシャフトが回転自在に支持されており、各ピストン16,17はコネクティングロッド18,19を介してこのクランクシャフトにそれぞれ連結されている。
【0021】
一方、シリンダブロック11の各バンク12,13の上部にはシリンダヘッド20,21が締結されており、シリンダブロック11とピストン16,17とシリンダヘッド20,21により各燃焼室22,23が構成されている。そして、この燃焼室22,23の上部、つまり、シリンダヘッド20,21の下面に吸気ポート24,25及び排気ポート26,27が対向して形成され、この吸気ポート24,25及び排気ポート26,27に対して吸気バルブ28,29及び排気バルブ30,31の下端部が位置している。この吸気バルブ28,29及び排気バルブ30,31は、シリンダヘッド20,21に軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、吸気ポート24,25及び排気ポート26,27を閉止する方向に付勢支持されている。
【0022】
また、シリンダヘッド20,21には、吸気カムシャフト32,33及び排気カムシャフト34,35が回転自在に支持されている。吸気カム36,37及び排気カム38,39は、図示しないローラロッカアームを介して吸気バルブ28,29及び排気バルブ30,31の上端部に接触している。
【0023】
従って、エンジンに同期して吸気カムシャフト32,33及び排気カムシャフト34,35が回転すると、吸気カム36,37及び排気カム38,39がローラロッカアームを作動させ、吸気バルブ28,29及び排気バルブ30,31が所定のタイミングで上下移動することで、吸気ポート24,25及び排気ポート26,27を開閉し、吸気ポート24,25と燃焼室22,23、燃焼室22,23と排気ポート26,27とをそれぞれ連通することができる。
【0024】
また、このエンジンの動弁機構は、運転状態に応じて吸気バルブ28,29及び排気バルブ30,31を最適な開閉タイミングに制御する吸気可変動弁機構40,41と排気可変動弁機構42,43により構成されている。この吸気可変動弁機構40,41及び排気可変動弁機構42,43は、例えば、吸気カムシャフト32,33及び排気カムシャフト34,35の軸端部に可変動弁コントローラが設けられて構成され、油圧ポンプ(または電動モータ)によりカムスプロケットに対する各カムシャフト32,33,34,35の位相を変更することで、吸気バルブ28,29及び排気バルブ30,31の開閉時期を進角または遅角することができるものである。この場合、各可変動弁機構40,41,42,43は、吸気バルブ28,29及び排気バルブ30,31の作用角(開放期間)を一定としてその開閉時期を進角または遅角する。また、吸気カムシャフト32,33及び排気カムシャフト34,35には、その回転位相を検出するカムポジションセンサ44,45,46,47が設けられている。
【0025】
各シリンダヘッド20,21の吸気ポート24,25には吸気マニホールド48,49を介してサージタンク50が連結されている。一方、吸気管(吸気通路)51の空気取入口にはエアクリーナ52が取付けられており、この吸気管51には、エアクリーナ52の下流側に位置してスロットルバルブ53を有する電子スロットル装置54が設けられている。そして、この吸気管51の下流端部がサージタンク50に連結されている。
【0026】
排気ポート26,27は、各燃焼室22,23から排出される排気ガスが集合する集合通路55,56に連通しており、各集合通路55,56は、第1、第2排気管57,58が連結されている。そして、第1排気管57には、第1三元触媒59が装着される一方、第2排気管58には、第2三元触媒60が装着されている。第1、第2排気管57,58の下流端部は、不図示の排気集合管に合流して連結されており、この排気集合管にNOx吸蔵還元型触媒(不図示)が装着されている。この各三元触媒59,60は、排気空燃比がストイキのときに排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxを酸化還元反応により同時に浄化処理するものである。また、NOx吸蔵還元型触媒は、排気空燃比がストイキのときに排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxを酸化還元反応により同時に浄化処理すると共に、排気空燃比がリーンのときに排気ガス中に含まれるNOxを一旦吸蔵し、排気ガス中の酸素濃度が低下したリッチ燃焼領域にあるときに、吸蔵したNOxを放出し、添加した還元剤としての燃料によりNOxを還元するものである。
【0027】
各シリンダヘッド20,21には、各燃焼室22,23に直接燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ74,75が装着されており、各インジェクタ74,75には各デリバリパイプ(不図示)が連結されており、この各デリバリパイプに燃料ポンプ(不図示)から所定圧の燃料が供給されるようになっている。
また、シリンダヘッド20,21には、燃焼室22,23の上方に位置して混合気に着火する点火プラグ79,80が装着されている。この点火プラグ79,80は、火花点火燃焼を行う際に使用され、予混合圧縮着火燃焼を行う際には使用されない。
【0028】
さらに、シリンダヘッド20,21には、EGRガスを燃焼室22,23に直接噴射するEGRガス噴射弁70,71が設けられている。EGRガス噴射弁70,71には、排気ガス循環通路63が連結されており、第1排気管57及び第2排気管58から循環される排気ガスがEGRガスとして供給されるようになっている。排気ガス循環通路63の途中には、EGRクーラ64及び電動コンプレッサ65が設けられている。EGRクーラ64は、第1排気管57及び第2排気管58から循環される排気ガス(EGRガス)を冷却するものである。電動コンプレッサ65は、第1排気管57及び第2排気管58から循環される排気ガス(EGRガス)を加圧してEGRガス噴射弁70,71に供給するものである。
【0029】
そして、本実施の形態に係るエンジンシステムには、エンジン10を統括的に制御するための電子制御ユニット(ECU)81が備わっている。このECU81は、インジェクタ74,75の燃料噴射タイミング、点火プラグ79,80の点火時期、吸気可変動弁機構40,41及び排気可変動弁機構42,43の動作、EGRガス噴射弁70,71のEGRガス噴射タイミング、及びエンジン10の燃焼方式の切り替えなどを制御している。具体的にECU81は、検出した吸入空気量、吸気温度、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、冷却水温などのエンジン運転状態に基づいて燃料の噴射量・噴射時期、点火時期、吸排気バルブ28〜31の開閉タイミング、EGRガスの噴射量・噴射タイミング、及び燃焼方式の切り替えなどを決定している。
【0030】
そのため、吸気管51の上流側にはエアフローセンサ82及び吸気温センサ83が装着され、計測した吸入空気量及び吸気温度をECU81に出力している。また、電子スロットル装置54にはスロットルポジションセンサ84が設けられており、現在のスロットル開度をECU81に出力している。さらに、クランクシャフトにはクランク角センサ86が設けられ、検出したクランク角度をECU81に出力し、ECU81はクランク角度に基づいてエンジン回転数を算出する。また、シリンダブロック11には水温センサ87が設けられており、検出したエンジン冷却水温をECU81に出力している。
【0031】
また、各排気管57,58における各三元触媒59,60よりも上流側には、空燃比(A/F)センサ88,89が設けられている。このA/Fセンサ88,89は、各燃焼室22,23から各排気ポート26,27を通して各排気管57,58に排気された排気ガスの排気空燃比を検出し、検出した排気空燃比をECU81に出力している。ECU81は、A/Fセンサ88,89が検出した排気空燃比をフィードバックし、エンジン運転状態に応じて設定された目標空燃比と比較することで、燃料噴射量を補正している。
【0032】
続いて、上記のように構成されたエンジンシステムの動作について簡単に説明する。エンジン10にて、エアクリーナ52を通して吸気管51に導入された空気は、スロットルバルブ53に調量されてからサージタンク50に流れ、各吸気マニホールド48,49を介して各吸気ポート24,25に至り、吸気バルブ28,29の開放時に、吸気ポート24,25の空気が燃焼室22,23に吸入される。
【0033】
そして、この吸気行程時またはピストン16,17が上昇して吸入空気を圧縮する圧縮行程時に、インジェクタ74,75から燃焼室22,23に対して所定量の燃料が噴射される。また、EGRが必要なときには、EGRガス噴射弁70,71から燃焼室22,23に対して所定量のEGRガスが噴射される。これにより、燃焼室22,23にて、高圧空気と霧状の燃料(場合によってはさらにEGRガス)が混合されて混合気が形成される。そして、火花点火燃焼の場合には、混合気に対して点火プラグ79,80が着火して爆発させる。一方、予混合圧縮着火燃焼の場合には、点火プラグを用いずに混合気を自己着火させて爆発させる。
【0034】
混合気が爆発することで、ピストン16,17が押し下げられて駆動力を出力する一方、排気バルブ30,31の開放時に、燃焼室22,23の排気ガスが排気ポート26,27から集合通路55,56で集合されてから第1排気管57及び第2排気管58に排出される。そして、左バンク12にて、燃焼室22から排気ポート26及び集合通路55を通して第1排気管57に排出された排気ガスは、第1三元触媒59の通過時に、含有する有害物質が浄化処理されて不図示の排気集合管に流れる。一方、右バンク13にて、燃焼室23から排気ポート27及び集合通路56を通して第2排気管58に排出された排気ガスは、第2三元触媒60の通過時に、含有する有害物質が浄化処理されて不図示の排気集合管に流れる。そして、排気集合管に流れ込んだ排気ガスは、不図示のNOx吸蔵還元型触媒の通過時に含有する有害物質が適正に浄化処理されてから大気に放出される。
【0035】
ここで、排気ガスの一部は、EGRガスとして排気ガス循環通路63を介してEGRガス噴射弁70,71に供給される。そして、ECU81において、エンジン回転数とエンジン負荷(アクセル開度や吸気負圧などから算出)に基づき、予めECU81内に記憶されているマップデータからEGR噴射基本量t_egrbaseが算出される。すると、そのEGR噴射基本量となるようにEGRガス噴射弁70,71の開閉動作が制御され、エンジン10の運転状態に見合った適正量のEGRガスがEGRガス噴射弁70,71から燃焼室22,23へ噴射供給される。
【0036】
このEGRガス噴射弁70,71によるEGR制御について、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、各気筒におけるEGRガス噴射タイミング等を示す図である。図3は、吸気バルブ及びEGRガス噴射弁における開弁タイミングを示す図である。
【0037】
エンジン10の各気筒では、図2に示すように、吸気行程A、圧縮行程B、燃焼行程C、排気行程Dが順次繰り返されている。そして、エンジン10が火花点火(SI)燃焼をしているとき、EGRガスは圧縮行程B(図中のハッチング部)にて燃焼室22,23のそれぞれに供給される。より詳細には、図2に示すように、吸気行程Aの終わりから圧縮行程Bの終わりにかけてEGRガスが燃焼室22,23に供給される。つまり、図3に破線矢印Eで示すように、EGRガス噴射弁70,71が吸気行程の終わりから圧縮行程の終わりにかけて開弁状態にされる。このとき、吸気バルブ28,29は、図3に矢印Fで示すように、吸気行程及び圧縮行程の始めまで開弁状態とされている。
【0038】
このようなタイミングでEGRガスを燃焼室22,23のぞれぞれに噴射供給することにより、点火プラグ79,80近傍に混合気(吸入空気と燃料噴霧とEGRガスとの混合気)を導入することができるため、成層燃焼性を向上させることができる。その結果、少ない燃料噴射量で燃焼させることができるため、燃費を大幅に低減することができる。なお、後述する燃焼方式の切替後においては、吸入行程時にEGRガスが導入されるようにEGRガス噴射弁70,71の開閉動作が制御される。
【0039】
ここで、圧縮行程時には燃焼室22,23内の圧力が高くなっている。このため、EGRガス噴射弁70,71からEGRガスを噴射しても、燃焼室22,23内に精度良くEGRガスを供給することができないおそれがある。しかしながら、本実施の形態では、電動コンプレッサ65により加圧されたEGRガスがEGRガス噴射弁70,71に供給されている。なお、EGRガス噴射弁70,71に供給するEGRガスは、電動コンプレッサ65により、EGRガスの圧力が圧縮行程における燃焼室内の圧力よりも高くなるように加圧されていればよい。これにより、圧縮行程時であってもEGRガス噴射弁70,71から噴射したEGRガスを燃焼室22,23内に確実に供給することができる。よって、確実に成層燃焼性を向上させることができる。
【0040】
このように本実施の形態では、左バンク12における各気筒の燃焼室22に対してEGRガスを直接供給可能なEGRガス噴射弁70が設けられ、右バンク13における各気筒の燃焼室23に対してEGRガスを直接供給可能なEGRガス噴射弁71が設けられている。そして、EGRガス噴射弁70,71の開閉タイミングは、ECU81により自由に制御することができる。これにより、各気筒ごとに異なるタイミングで異なる還流量のEGRガスを供給することができる結果、各気筒に対して要求されるEGRガスの還流量を精度良く供給することができる。そして、EGRガス噴射弁70,71によりEGRガスが気筒内に直接還流されるため、吸気バルブ28,29にデポジットが付着することがない。
【0041】
そして、エンジン10において、燃焼方式が火花点火(SI)燃焼から予混合圧縮着火(HCCI)燃焼に切り替わるときには、ECU81により、各気筒に供給されるEGRガス量が増量されるようにEGRガス噴射弁70,71の開閉タイミングが制御される。そこで、SI燃焼からHCCI燃焼への切替時におけるEGR制御について、図4及び図5を参照しながら説明する。図4は、燃焼方式の切替時におけるEGR制御の内容を示すフローチャートである。図5は、圧縮比補正係数と圧縮比との関係を示す図である。
【0042】
まず、エンジン10においてSI燃焼が行われているか否かが判断される(ステップ1)。具体的には、ECU81により、点火プラグ79,80による点火が行われているか否か(点火プラグへの電流供給が行われているか否か)が判断される。このとき、SI燃焼が行われている判断された場合には(S1:YES)、HCCI燃焼への切り替え要求が有るか否かが判断される(ステップ2)。具体的には、ECU81により、HCCI燃焼切替フラグがONにされているか否かが判断される。なお、本実施の形態では高負荷域(例えば、スロットル開度が全開にされ、かつ吸気管圧力が変化したとき)においてHCCI燃焼切替フラグがONにされる。
一方、ステップ1の処理において、SI燃焼が行われていないと判断された場合には(S1:NO)、この処理ルーチンは終了する。
【0043】
ステップ2において、HCCI燃焼切替フラグがONされていると判断された場合には(S2:YES)、ECU81によりEGR噴射量が算出される(ステップ3)。このEGR噴射量は、EGR噴射基本量t_egrbaseに圧縮比補正係数t_kcomegrを乗じて算出される。圧縮比補正係数t_kcomegrは、図5に示すように、圧縮比が高くなるにつれて大きくないように設定されている。これにより、HCCI燃焼への切替時に圧縮比が高くなるので、EGRガスの噴射量(還流量)が増量される。
一方、ステップ2の処理において、HCCI燃焼切替フラグがONにされていないと判断された場合には(S2:NO)、この処理ルーチンは終了する。
【0044】
EGR噴射量が算出されると、ECU81により、そのEGR噴射量が要求EGR量であるか否かが判断される(ステップ4)。なお、要求EGR量は、マップデータとしてECU81内に予め記憶されている。そして、算出されたEGR噴射量が要求GER量に達していると(S4:YES)、算出されたEGR噴射量が燃焼室22,23内に供給されるように、ECU81によりEGRガス噴射弁70,71の動作が制御され、HCCI燃焼に切り替えられる(ステップ5)。
一方、ステップ4の処理において、算出されたEGR噴射量が要求EGR量に達していない場合には(S4:NO)、この処理ルーチンは終了する。
【0045】
ここで、上記した制御を実施した場合における各種制御信号及びエンジンの状態を示す各種指標の変化について、図6を参照しながら説明する。図6は、燃焼方式を切り替える際における各種制御信号及びエンジンの状態を表す各種指標の変化を示すタイミングチャートである。
【0046】
時刻t0以前においてはSI燃焼が行われている。このため、図4のステップ1において「YES」と判断される。なお、このときの要求空燃比(A/F)は14.7であり、圧縮比は10.5であり、スロットル開度が10°である。そして、時刻t0においてスロットル開度が全開にされる。このスロットル開度の変化に伴い、時刻t1において吸気管負圧が変化し始める。このとき、時刻t2においてHCCI燃焼切替フラグがONされる。これにより、図4のステップ2において「YES」と判断される。そして、時刻t1以降において圧縮比が高くなるについて圧縮比補正係数t_kcomegrが大きくなる(図5参照)。これに伴って、図4のステップ3で算出されるEGR噴射量が増加していく。その結果、時刻t1からEGR量が増量される。そして、時刻t3においてEGR量が要求量に達すると(図4のステップ4でYESと判断)、エンジン10の燃焼方式がSI燃焼からHCCI燃焼に切り替えられる(図4のステップ5)。なお、HCCI燃焼における要求A/Fは18.5であり、圧縮比は14.8である。
【0047】
このように、SI燃焼からHCCI燃焼に切り替える際に、EGR量を増量して要求されるEGR量を確実にEGRガス噴射弁70,71から燃焼室22,23に対して噴射供給することができる。また、燃焼方式の切替時においても、圧縮行程時にEGRガス噴射弁70,71から燃焼室22,23に対して増量されたEGRガスが供給されるため、燃焼室22,23内の温度を高めて燃料の自己着火を促進しつつ、ノッキングの発生を防止することができる。これにより、図6に破線で示すように、EGR量が不足してA/Fがリーン化することを確実に防止することができる。従って、燃焼方式の切替時に、失火を防止することができ、SI燃焼からHCCI燃焼への切替をスムーズに行うことができる。その結果、燃焼方式の切替時におけるドライバビリティの悪化や触媒の損傷を防ぐことができる。
【0048】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係るエンジンシステムによれば、各気筒の燃焼室22,23にEGRガスを直接供給するために、各気筒ごとにEGRガス噴射弁70,71が設けられている。そして、ECU81により、これらのEGRガス噴射弁70,71の開閉タイミングが制御される。これにより、各気筒ごとに異なるタイミングで異なる還流量のEGRガスを供給することができる。そして、ECU81により、要求EGR量となるように、EGRガス噴射弁70,71の開閉タイミングを制御することにより、各気筒に対して要求されるEGR量を精度良く供給することができる。つまり、EGR制御の精度を向上させることができる。
【0049】
また、SI燃焼からHCCI燃焼へ切り替える際に、ECU81により、各気筒に供給されるEGR量が増量されるようにEGR排気ガス噴射弁70,71の開閉タイミングを制御される。これにより、燃焼方式の切替時に、空燃比がリーンとなる気筒が発生しなくなり失火を防止することができ、SI燃焼からHCCI燃焼への切替をスムーズに行うことができる。その結果、燃焼方式の切替時におけるドライバビリティの悪化や触媒の損傷を防ぐことができる。
【0050】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、火花点火燃焼と予混合圧縮着火燃焼とを切り替え可能なエンジンに本発明を適用した場合を例示したが、本発明は通常のガソリンエンジンやディーゼルエンジンに適用することもできる。
【0051】
また、上記した実施の形態では、燃料を筒内噴射するタイプのエンジンを例示したが、本発明は燃料を吸気ポートに噴射するタイプのエンジンに適用することもできる。さらに、上記した実施の形態では、内燃機関としてV型6気筒エンジンを例示したが、エンジン形式や気筒数などはこれに限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施の形態に係るエンジンシステムの概略構成を示す断面図である。
【図2】各気筒におけるEGRガス噴射タイミング等を示す図である。
【図3】吸気バルブ及びEGRガス噴射弁における開弁タイミングを示す図である。
【図4】燃焼方式の切替時におけるEGR制御の内容を示すフローチャートである。
【図5】圧縮比補正係数と圧縮比との関係を示す図である。
【図6】燃焼方式を切り替える際における各種制御信号及びエンジンの状態を表す各種指標の変化を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0053】
10 エンジン
11 シリンダブロック
12 左バンク
13 右バンク
22 燃焼室
23 燃焼室
51 吸気管
53 スロットルバルブ
54 電子スロットル装置
57 第1排気管
58 第2排気管
63 排気ガス循環通路
65 電動コンプレッサ
70 EGRガス噴射弁
71 EGRガス噴射弁
74 インジェクタ
75 インジェクタ
79 点火プラグ
80 点火プラグ
81 ECU
82 エアフローセンサ
83 吸気温センサ
84 スロットルポジションセンサ
86 クランク角センサ
88 A/Fセンサ
89 A/Fセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有し、排気ガスの一部を各気筒に再循環させる内燃機関の制御装置において、
排気ガスを各気筒に再循環させる排気ガス再循環手段と、
内燃機関の運転条件に応じて各気筒に必要とされる排気ガスの再循環量を算出する要求再循環量算出手段とを有し、
前記排気ガス再循環手段は、
各気筒ごとに設けられ、各気筒の筒内に排気ガスを直接供給する排気ガス噴射弁と、
前記各排気ガス噴射弁の開閉タイミングを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記要求再循環量算出手段が各気筒ごとに算出する排気ガスの再循環量となるように前記各排気ガス噴射弁の開閉タイミングを制御する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載する内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関は、運転条件に応じて火花点火燃焼と予混合圧縮着火燃焼とを切り替え可能なものであり、
前記コントローラは、前記内燃機関が火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼へ切り替えられるときに、各気筒に供給される排気ガスの再循環量が増量されるように前記各排気ガス噴射弁の開閉タイミングを制御する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載する内燃機関の制御装置において、
前記コントローラは、少なくとも圧縮行程時に排気ガスが気筒内に供給されるように前記各排気ガス噴射弁の開閉タイミングを制御する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載する内燃機関の制御装置において、
前記排気ガス噴射弁に加圧した排気ガスを供給する加圧手段を有する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載するいずれか1つの内燃機関の制御装置において、
前記排気ガス噴射弁は、内燃機関の排気通路に接続された排気ガス循環通路に接続されている
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90867(P2010−90867A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264342(P2008−264342)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】