内燃機関の制御装置
【課題】 繰り返し更新演算を行うことなく、過渡運転状態においても正確な体積効率を算出し、気筒吸入空気量の算出精度を高めることができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 検出される吸気圧PBA及び吸気温THに基づいて理論気筒吸入空気量GAIRSTDが算出され、気筒容積Vcylと吸気管容積Vinとの比、気筒吸入空気量の前回算出値GAIRCYLN(k-1)、理論気筒吸入空気量GAIRSTD、及び推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを用いて、機関の体積効率ηvが算出される。さらに算出された体積効率ηv、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH、及び気筒吸入空気量の前回算出値GAIRCYLN(k-1)を吸気管モデル式に適用して、気筒吸入空気量GAIRCYLNが算出される。
【解決手段】 検出される吸気圧PBA及び吸気温THに基づいて理論気筒吸入空気量GAIRSTDが算出され、気筒容積Vcylと吸気管容積Vinとの比、気筒吸入空気量の前回算出値GAIRCYLN(k-1)、理論気筒吸入空気量GAIRSTD、及び推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを用いて、機関の体積効率ηvが算出される。さらに算出された体積効率ηv、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH、及び気筒吸入空気量の前回算出値GAIRCYLN(k-1)を吸気管モデル式に適用して、気筒吸入空気量GAIRCYLNが算出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に内燃機関の気筒に吸入される気筒吸入空気量を、機関の吸気管をモデル化した吸気管モデルを用いて算出し、算出した気筒吸入空気量を機関制御パラメータの算出に適用する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、予め設定されたマップを使用せずに、機関制御実行中に機関の体積効率を算出し、算出した体積効率を吸気管モデルに適用して気筒吸入空気量を算出する手法が示されている。この手法によれば、検出される吸気温及び吸気圧に基づいて理論気筒吸入空気量が算出され、気筒吸入空気量の前回算出値を理論気筒吸入空気量で除算することにより、体積効率が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2010/095477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示された第3の実施形態に記載されているように、上記体積効率の算出手において、過渡的な運転状態で体積効率の算出精度を高めるためには、繰り返し更新演算を行う必要があり、演算装置の負荷が増大するという課題がある。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、繰り返し更新演算を行うことなく、過渡運転状態においても正確な体積効率を算出し、気筒吸入空気量の算出精度を高めることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の気筒に吸入される新気量である気筒吸入空気量を、前記機関の吸気管(2)をモデル化した吸気管モデル式を用いて算出する気筒吸入空気量算出手段を備える内燃機関の制御装置において、前記吸気管(2)を通過する新気の流量である吸入空気流量(GAIRTH,HGAIRTH)を取得する吸入空気流量取得手段と、前記機関の吸気圧(PBA)を検出する吸気圧検出手段と、前記機関に吸入される空気の温度である吸気温(TA)を検出する吸気温検出手段と、前記吸気圧(PBA)及び吸気温(TA)に基づいて理論気筒吸入空気量(GAIRSTD)を算出する理論気筒吸入空気量算出手段と、前記気筒の容積(Vcyl)と前記吸気管の容積(Vin)との比、前記気筒吸入空気量の前回算出値(GAIRCYLN(k-1))、前記理論気筒吸入空気量(GAIRSTD)、及び前記吸入空気流量(HGAIRTH)を用いて、前記機関の体積効率(ηv)を算出する体積効率算出手段とを備え、前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率(ηv)、前記吸入空気流量(HGAIRTH)、及び前記気筒吸入空気量の前回算出値(GAIRCYLN(k-1))を前記吸気管モデル式に適用して、前記気筒吸入空気量(GAIRCYLN(k))を算出することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸入空気流量の予測値である予測吸入空気流量(HGAIRTHP)を算出する吸入空気流量予測手段と、前記予測吸入空気流量(HGAIRTHP)及び前記気筒吸入空気量(GAIRCYLN)を、前記吸気管モデル式に適用して、前記気筒吸入空気量の予測値である予測気筒吸入空気量(GAIRCYLP)を算出する気筒吸入空気量予測手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置において、前記気筒吸入空気量の目標値である目標気筒吸入空気量(GAIRCYLCMD)を算出する目標気筒吸入空気量算出手段と、前記目標気筒吸入空気量(GAIRCYLCMD)、前記目標気筒吸入空気量の前回算出値(GAIRCYLCMD(k-1))、及び前記体積効率(ηv)を、前記吸気管モデル式の逆モデル式に適用して、前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量(GAIRTHCMD)を算出する目標吸入空気流量算出手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸気管に配置されたスロットル弁の開度(TH)を検出するスロットル弁開度検出手段と、前記目標吸入空気流量(GAIRTHCMD)に応じて前記スロットル弁の目標開度(THCMD)を算出する目標開度算出手段とを備え、前記吸入空気流量取得手段は、前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に、前記スロットル弁開度(TH)を適用して前記吸入空気流量(HGAIRTH)を取得し、前記目標開度算出手段は、前記弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に、前記目標吸入空気流量(GAIRTHCMD)を適用して前記目標開度(THCMD)を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率(ηv)及び前記気筒吸入空気量(GAIRCYLN)を、前記機関の1行程期間より短い演算周期で該1行程期間内に複数回算出することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の内燃機関の制御装置において、前記機関に燃料を供給するための燃料噴射弁(6)と、前記燃料噴射弁(6)による燃料噴射期間を制御する燃料噴射制御手段とを備え、前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率(ηv)及び前記気筒吸入空気量(GAIRCYLN)を、前記機関の吸気行程期間内に複数回算出し、前記燃料噴射制御手段は、前記気筒吸入空気量算出手段により算出される最新の演算結果を用いて前記燃料噴射期間を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、吸気管を通過する新気の流量である吸入空気流量が取得されるとともに、検出される吸気圧及び吸気温に基づいて理論気筒吸入空気量が算出され、気筒の容積と吸気管の容積との比、気筒吸入空気量の前回算出値、理論気筒吸入空気量、及び吸入空気流量を用いて、機関の体積効率が算出される。さらに算出された体積効率、吸入空気流量、及び気筒吸入空気量の前回算出値を吸気管モデル式に適用して、気筒吸入空気量が算出される。気筒容積と吸気管容積との比及び吸入空気流量を用いることによって、繰り返し(更新)演算を行う必要がなくなり、演算装置の負荷の増大を抑制しつつ、体積効率の算出精度を高めることができ、さらにこの体積効率を吸気管モデル式に適用することによって、気筒吸入空気量の算出精度を高めることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、予測吸入空気流量が算出され、予測吸入空気流量及び気筒吸入空気量を、吸気管モデル式に適用して予測気筒吸入空気量が算出されるので、予測気筒吸入空気量の算出精度を高め、特に機関の過渡運転状態において燃料供給量及び点火時期の制御精度を向上させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、目標気筒吸入空気量が算出され、目標気筒吸入空気量、目標気筒吸入空気量の前回算出値、及び体積効率を、吸気管モデル式の逆モデル式に適用して目標吸入空気流量が算出される。したがって、吸入空気流量制御の目標値となる目標吸入空気流量の算出精度を高め、特に機関の過渡運転状態において吸入空気流量の制御精度を向上させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、弁通過空気流量モデル式に、スロットル弁開度を適用して吸入空気流量が取得され、弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に、目標吸入空気流量を適用してスロットル弁の目標開度が算出される。したがって、必要な吸入空気流量を得るための目標開度の算出精度を高め、特に機関の過渡運転状態において吸入空気流量の制御精度を向上させることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、体積効率及び気筒吸入空気量が、機関の1行程期間より短い演算周期で1行程期間内に複数回算出されるので、過渡運転状態において正確な気筒吸入空気量を得ることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、体積効率及び気筒吸入空気量が、機関の吸気行程期間内に複数回算出され、最新の演算結果を用いて燃料噴射期間が制御されるので、過渡運転状態における燃料供給量を、実際の気筒吸入空気量に対応する正確な値に制御し、機関出力トルクの制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】気筒吸入空気量(GAIRCYLN)及びスロットル弁の目標開度(THCMD)を算出するモジュールの構成を示す図である。
【図3】図1に示す内燃機関の構成を模式的に示す図である。
【図4】スロットル弁開度(TH)と、モデルを用いて算出されるスロットル弁通過空気流量の誤差を示すパラメータ(KTHERR)との関係を示す図である。
【図5】推定スロットル弁通過空気流量(HGAIRTH)を算出する処理のフローチャートである。
【図6】図6の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図7】気筒吸入空気量(GAIRCYLN)を算出する処理のフローチャートである。
【図8】弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正する係数(KMDLL,KMDLS)を算出する処理のフローチャートである。
【図9】図9の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図10】弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を示す係数(KTHERR)と、スロットル弁開度(TH)との相関関係を示すモデルパラメータを算出する処理のフローチャートである。
【図11】図10の処理で実行される同定演算を行う処理のフローチャートである。
【図12】目標開度(THCMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図13】図12の処理で実行されるリミット処理のフローチャートである。
【図14】燃料噴射制御の概要を説明するためのタイムチャートである。
【図15】燃料噴射制御処理のフローチャートである。
【図16】機関出力トルクの制御動作例を示すタイムチャートである。
【図17】本発明の第2の実施形態で使用されるテーブルを示す図である。
【図18】図17に示すテーブルを更新する処理のフローチャートである。
【図19】図18の処理で実行される設定更新処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関とその制御装置の構成を示す図であり、図1において、例えば4気筒を有する内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動特性可変機構40を備えている。
【0020】
エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配置されている。また、スロットル弁3にはその開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が連結されており、スロットル弁開度THに応じた電気信号を出力して電子制御ユニット(以下(ECU)という)5に供給する。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7が接続されており、アクチュエータ7は、ECU5によりその作動が制御される。
【0021】
吸気管2には、スロットル弁3を介してエンジン1に吸入される空気(新気)の流量である吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ13が設けられ、さらにスロットル弁3の上流側に吸気温TAを検出する吸気温センサ9が設けられている。これらのセンサ13及び9の検出信号は、ECU5に供給される。
【0022】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0023】
エンジン1の各気筒の点火プラグ12は、ECU5に接続されており、ECU5は点火プラグ12に点火信号を供給し、点火時期制御を行う。
スロットル弁3の下流には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8が取付けられている。またエンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出するエンジン冷却水温センサ10が取り付けられている。これらのセンサ8及び10の検出信号は、ECU5に供給される。
【0024】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0025】
ECU5には、エンジン1によって駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ31、エンジン1により駆動される車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ32、及び大気圧PAを検出する大気圧センサ33が接続されている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0026】
またエンジン1は排気還流機構(図示せず)を備えており、エンジン1の排気が吸気管2のスロットル弁3の下流側に還流される。
【0027】
ECU5は各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、CPUで実行される演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路のほか、アクチュエータ7、燃料噴射弁6、点火プラグ12、弁作動特性可変機構40に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0028】
ECU5のCPUは、上記センサの検出信号に応じて、スロットル弁3の開度制御、エンジン1に供給する燃料量(燃料噴射弁6の開弁時間)の制御、点火時期制御、及び吸気弁の作動位相制御を行う。
【0029】
またECU5のCPUは、スロットル弁3を通過する空気流量の推定値(以下「推定スロットル弁通過空気流量」という)HGAIRTHを算出するとともに、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH、吸気圧PBA、及び吸気温TAに基づいてエンジン1の気筒に吸入される新気量である気筒吸入空気量GAIRCYLN[g/TDC](1TDC期間、すなわち4気筒エンジンであればエンジン1のクランク軸が180度回転するのに要する時間当たりの空気量)を算出する。算出した気筒吸入空気量GAIRCYLNは、燃料供給量や点火時期の制御に適用される。
【0030】
また、ECU5のCPUは、エンジン1の要求出力に応じた目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出し、実際の気筒吸入空気量を目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDに制御するためのスロットル弁3の目標開度THCMDを算出し、検出されるスロットル弁開度THが目標開度THCMDと一致するように、アクチュエータ7の駆動制御を行う。
【0031】
図2は、気筒吸入空気量GAIRCYLN及び目標開度THCMDを算出するモジュールの構成を示すブロック図である。図2に示す各ブロックの機能は、ECU5のCPUによる演算処理により実現される。
【0032】
図2に示す演算モジュールは、スロットル弁通過空気流量算出部51と、気筒吸入空気量算出部52と、モデル補正係数算出部53と、目標気筒吸入空気量算出部54と、リミット処理部55と、目標スロットル弁通過空気流量算出部56と、目標開度算出部57とを備えている。
【0033】
スロットル弁通過空気流量算出部51は、検出されるスロットル弁開度THを、弁通過空気流量モデル式に適用して、推定吸入空気流量HGAIR[g/sec]を算出し、後述する長期モデル補正係数KMDLLを用いて推定吸入空気流量HGAIRを補正することにより、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出する。弁通過空気流量モデル式は、スロットル弁開度THと、スロットル弁3を通過する空気の流量との関係をモデル化したものである。
【0034】
スロットル弁通過空気流量算出部51は、さらに後述する短期モデル補正係数KMDLSを用いて第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを補正することにより、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出し、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLS[g/sec]の単位変換を行って、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]を算出する。
【0035】
気筒吸入空気量算出部52は、吸気管2(より具体的には吸気管2のスロットル弁下流側)をモデル化した吸気管モデル式に、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを適用して、気筒吸入空気量GAIRCYLNを算出する。また、気筒吸入空気量算出部52は、吸気管モデル式のモデルパラメータの1つであるエンジン1の体積効率ηvを算出し、気筒吸入空気量GAIRCYLNの算出に適用する。算出される体積効率ηvは、目標スロットル弁通過空気流量算出部56における演算にも適用される。
【0036】
モデル補正係数算出部53は、検出される吸入空気流量GAIR、推定吸入空気流量HGAIR、及び第1補正推定吸入空気流量HGAIRLに基づいて、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSを算出する。長期モデル補正係数KMDLLは、スロットル弁3の特性ばらつき及び経時変化に起因する、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための補正係数であり、短期モデル補正係数KMDLSは、環境(例えば気温や大気圧など)の変化に起因する、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための補正係数である。
【0037】
目標気筒吸入空気量算出部54は、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出する。
【0038】
リミット処理部55は、スロットル弁開度の1制御周期で変更可能なスロットル弁開度変化量(最大変化量)DTHLMTと、検出されるスロットル弁開度TH(現在値)とに応じて、開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLを算出し、スロットル弁開度を開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLに設定したときのスロットル弁通過空気流量に相当する上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLを算出する。この演算には、弁通過空気流量モデル式が適用され、長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSが使用される。
【0039】
リミット処理部55は、さらに上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLに対応する上限気筒吸入空気量GAIRCYLHMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLHMLを算出し、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが上限気筒吸入空気量GAIRCYLHMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLHMLで定義される制限範囲内の値をとるようにリミット処理を行う。
【0040】
目標スロットル弁通過空気流量算出部56は、リミット処理後の目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを吸気管モデル式の逆モデル式に適用し、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDを算出する。
【0041】
目標開度算出部57は、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDを弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に適用し、目標開度THCMDを算出する。この演算には、長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSが適用される。
【0042】
次に、スロットル弁通過空気流量算出部51における推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHの算出手法と、気筒吸入空気量算出部52における気筒吸入空気量GAIRCYLNの算出手法とを詳細に説明する。
【0043】
図3はエンジン1を模式的に示す図であり、スロットル弁3,吸気弁21、排気弁22、及び気筒1aが示されている。
スロットル弁3の開度THと、スロットル弁通過空気流量(吸入空気流量GAIR)の推定値HGAIR[g/sec]との関係は、弁通過空気流量モデルを定義する下記式(1)で表すことができる。式(1)のKCは流量の単位を[g/sec]とするための変換定数であり、KTH(TH)はスロットル弁開度THに応じて算出される開口面積流量関数であり、Ψ(RP)は、スロットル弁3の上流側圧力である大気圧PAと、下流側圧力である吸気圧PBAとの比率RP(=PBA/PA)に応じて算出される圧力比流量関数であり、Rは気体定数である。開口面積流量関数KTH(TH)の値は、予め実験的に求められた図6(a)に示すKTHテーブルを用いて算出される。
【0044】
また圧力比流量関数Ψは、下記式(2)で与えられる。式(2)の「κ」は空気の比熱比である。ただし、空気流速が音速を超えると、圧力比流量関数Ψは圧力比に拘わらず極大値をとるので、実際の演算処理では、圧力比流量関数Ψ(RP)の値も予め設定されたΨ(RP)テーブル(図6(b))を用いて算出される。
【0045】
【数1】
【0046】
本実施形態では、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正する長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(3)に適用し、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出し、式(3)により算出される第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを、エンジン回転数NEを用いて1TDC期間当たりの流量に変換することにより、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]が算出される。
HGAIRLS=HGAIR×KMDLL×KMDLS (3)
【0047】
一方吸気管2のスロットル弁下流側部分2a内の空気量の変化量DGAIRINは、下記式(11)で与えられる。式(11)のVinはスロットル弁下流側部分2aの吸気管容積、TAKは絶対温度に変換した吸気温TA、Rは気体定数、DPBAは吸気圧PBAの変化量(PBA(k)−PBA(k-1))である。また「k」は1行程に相当する期間で離散化した離散化時刻である。
DGAIRIN=Vin×DPBA/(R×TAK) (11)
【0048】
したがって、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]と、気筒吸入空気量GAIRCYLN[g/TDC]の差は、下記式(12)で示されるように上記変化量DGAIRINと等しくなる。
DGAIRIN=HGAIRTH(k)−GAIRCYLN(k-1) (12)
【0049】
一方、気筒吸入空気量GAIRCYLNは、下記式(13)で与えられる。式(13)のVcylは気筒容積であり、ηvは体積効率である。
GAIRCYLN=Vcyl×ηv×PBA/(R×TAK) (13)
【0050】
式(13)を用いると、吸気圧変化量DPBAは、下記式(14)で与えられる。式(14)で与えられるDPBA及び式(12)の関係を式(11)に適用することにより、下記の式(15)(吸気管モデルの定義式)が得られる。
【数2】
【0051】
したがって、遅れ係数CGACYLを下記式(16)で定義すると、式(15)は下記式(15a)で示され、気筒吸入空気量GAIRCYLNは、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを入力とする一次遅れモデルの式を用いて算出することができる。
CGACYL=Vcyl×ηv/Vin (16)
GAIRCYLN(k)=(1−CGACYL)×GAIRCYLN(k-1)
+CGACYL×HGAIRTH(k) (15a)
【0052】
式(16)により遅れ係数CGACYLを算出するためには、体積効率ηvを算出することが必要である。体積効率ηvは、エンジン運転状態(エンジン回転数NE,吸気圧PBA)、吸気弁の作動位相、排気還流率などに依存して変化するものであるため、本実施形態では、下記式(17)により、気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)の算出に用いる体積効率ηvを算出するようにしている。
ηv=GAIRCYLN(k)/GAIRSTD(k) (17)
【0053】
式(17)のGAIRSTD(k)は下記式(18)により算出される理論気筒吸入空気量である。
GAIRSTD(k)=PBA(k)×Vcyl/(R×TAK) (18)
【0054】
式(17)を用いることにより、マップやテーブルを用いることなく体積効率ηvを算出することが可能となり、常に更新されるのでエンジン特性の経時変化の影響を受けることなく最適な値を得ることできる。
【0055】
式(17)による体積効率ηvの演算を、気筒吸入空気量が変化する過渡運転状態において精度よく行うために、特許文献1(第3の実施形態、図7及び図8)に示される手法を採用すると、時刻kにおいて繰り返し更新演算を行う必要があり、CPUの演算負荷が増加するという課題がある。そこで本実施形態では、以下に説明する体積効率算出手法を採用し、過渡運転状態においても正確な体積効率ηvが得られるようにしている。
【0056】
式(17)を用いると遅れ係数CGACYLは、下記式(19)で与えられる。ここで演算パラメータλ(k)を下記式(20)で定義すると、遅れ係数CGACYLは、下記式(21)で与えられる。
【数3】
CGACYL(k)=λ(k)×GAIRCYLN(k) (21)
【0057】
気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)は、下記式(15a)(再掲)で与えられるので、これを式(21)に適用すると、下記式(22)が得られる。
GAIRCYLN(k)=(1−CGACYL(k))×GAIRCYLN(k-1)
+CGACYL(k)×HGAIRTH(k) (15a)
CGACYL(k)
=λ(k)×{(1−CGACYL(k))×GAIRCYLN(k-1)
+CGACYL(k)×HGAIRTH(k)}
=λ(k)×{CGACYL(k)×(HGAIRTH(k)−GAIRCYLN(k-1))
+GAIRCYLN(k-1)}
=λ(k)×(HGAIRTH(k)−GAIRCYLN(k-1))×CGACYL(k)
+λ(k)×GAIRCYLN(k-1) (22)
【0058】
式(22)を用いると、特許文献1に示された繰り返し更新演算の過程で算出される更新遅れ係数CGACYL(i)に相当するパラメータは、下記数式群(23)で与えられる(iはインデクスパラメータ)。
【数4】
【0059】
ここで、演算パラメータΓ(k)及びH(k)を下記式(24)及び(25)で定義すると、数式群(23)は、下記数式群(26)で表される。
Γ(k)=λ(k)×(HGAIRTH(k)−HGAIRCYLN(k-1)) (24)
H(k)=λ(k)×GAIRCYLN(k-1) (25)
【数5】
【0060】
特許文献1に示された繰り返し更新演算の結果得られる遅れ係数CGACYL(k)は、理論的にはインデクスパラメータiを無限大とした極値に相当するので、演算パラメータΓ(k)が「−1」から「1」の間の値をとるという条件の下で、下記式(27)で与えられる。式(27)から明らかなように、遅れ係数CGACYL(k)は、初期値CGACYL(k)0に依存しない。
【数6】
【0061】
式(27)の演算パラメータΓ(k)及びH(k)(並びにΓ(k)及びH(k)に含まれるλ(k))をもとの数式に戻すことにより、下記式(28)が得られる。したがって、繰り返し演算により得られる体積効率ηvは、式(29)で与えられる。
【数7】
【0062】
次に弁通過空気流量モデルの逆モデル、及び吸気管モデルの逆モデルを定義する式について説明する。
弁通過空気流量モデルを定義する式(1)を変形すると下記式(31)が得られる。したがって、弁通過空気流量モデルの逆モデルは、下記式(32)で定義される。
【数8】
【0063】
一方、吸気管モデルを定義する式(15a)を変形すると、下記式(33)が得られる。したがって、吸気管モデルの逆モデルは、式(33)で定義される。
HGAIRTH(k)=
(GAIRCYLN(k)−GAIRCYLN(k-1))/CGACYL
+GAIRCYLN(k-1) (33)
【0064】
目標スロットル弁通過空気流量算出部56では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDから目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDが算出されるので、式(33)のHGAIRTH及びGAIRCYLNを、それぞれGAIRTHCMD及びGAIRCYLCMDに置換した下記式(34)を用いて、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDが算出される。
GAIRTHCMD(k)=
(GAIRCYLCMD(k)−GAIRCYLCMD(k-1))/CGACYL
+GAIRCYLCMD(k-1) (34)
【0065】
また目標開度算出部57では、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD[g/TDC]を単位時間当たりの流量[g/sec]に変換することにより、目標吸入空気流量GAIRCMDが算出され、目標吸入空気流量GAIRCMD、長期モデル補正係数KMDLL、及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(35)に適用して、補正目標吸入空気流量GAIRCMDCが算出される。
GAIRCMDC=GAIRCMD/(KMDLL×KMDLS) (35)
【0066】
さらに、補正目標吸入空気流量GAIRCMDCを下記式(36)に適用して目標開度THCMDが算出される。式(36)は、式(32)のHGAIRをGAIRCMDCに置換したものである。なお、式(36)の演算は、図6(a)に示すKTHテーブルを逆検索することにより行われる。
【数9】
【0067】
次に弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSの算出手法の概要を説明する。モデル化誤差は、基本的には吸入空気流量センサ13により検出される吸入空気流量GAIRと、推定吸入空気流量HGAIRとのずれに相当するものであるが、本実施形態では吸入空気流量センサ13の検出遅れを考慮し、推定吸入空気流量HGAIRについて検出遅れ補正を行って、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを算出し、モデル化誤差を示すパラメータとして、モデル化誤差係数KTHERRを下記式(41)で定義する。
KTHERR=GAIR/HGAIRAFM (41)
【0068】
モデル化誤差がなければ、モデル化誤差係数KTHERRは「1.0」となり、「1.0」との差が大きくなるほど、モデル化誤差が大きいことを示す。そこで、本実施形態では、モデル化誤差係数KTHERRに基づいて長期モデル補正係数KMDLLを算出する。
【0069】
一方短期モデル補正係数KMDLSは、以下のようにして算出する。推定吸入空気流量HGAIRを長期モデル補正係数KMDLLで補正した第1補正推定吸入空気流量HGAIRLについて検出遅れ補正を行って遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを算出し、これを下記式(42)に適用して補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出する。そして、補正モデル化誤差係数KTHERRSを下記式(43)に適用してなまし演算を行うことにより、短期モデル補正係数KMDLSを算出する。式(43)のCSは、例えば「0.02」に設定されるなまし係数である。jは演算周期TS(例えばクランク角30度に相当する期間、1行程期間の1/6に相当する期間に設定される)で離散化した離散化時刻である。
KTHERRS=GAIR/HGAIRLAFM (42)
KMDLS(j)=CS×(1/KTHERRS)+(1−CS)×KMDLS(j-1)
(43)
【0070】
なお、検出吸入空気流量GAIRが脈動しているとき、及び圧力比流量関数Ψに適用される圧力比RPが上限値に到達しているときは、なまし係数CSが「0」に設定され、短期モデル補正係数KMDLSは前回値に維持される。
【0071】
遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM(HGAIRLAFM)を算出するために、吸入空気流量センサ13をモデル化した吸入空気流量センサモデル(以下「AFMモデル」という)が使用される。AFMモデルは、むだ時間要素と一次遅れ要素の結合で近似することができるので、本実施形態では、下記式(44)により、AFMモデルを定義する。式(44)のjTNはむだ時間TNを演算周期TSで離散化した離散化むだ時間であり、CTDは下記式(45)で与えられる遅れ定数である。遅れ定数CTDは「0」より大きく「1」より小さい値をとる。式(45)のTDは一次遅れ要素の遅れ時定数である。遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMは、下記式(44a)で与えられる。
HGAIRAFM(j)=CTD×HGAIR(j-jTN)
+(1−CTD)×HGAIRAFM(j-1) (44)
CTD=1−e-(TS/TD) (45)
HGAIRLAFM(j)=CTD×HGAIRL(j-jTN)
+(1−CTD)×HGAIRLAFM(j-1) (44a)
【0072】
次に長期モデル補正係数KMDLLの算出手法を詳細に説明する。図4は、スロットル弁開度THと、モデル化誤差係数KTHERRとの関係を示す図であり、この図に示す黒丸はモデル化誤差が存在する状態における実験データを示し、実線L1は実験データからスロットル弁開度THとモデル化誤差係数KTHERRとの関係を近似するための曲線を示す。この図から明らかなように、スロットル弁開度THが所定開度THBより大きい範囲では、モデル化誤差係数KTHERRは「1.0」とほぼ等しくなる。そこで、本実施形態では、曲線L1(TH≦THBの範囲)を2次曲線で近似することとし、下記式(46)で誤差モデルを定義する。式(46)のKTHERRCORを以下「誤差パラメータ」という。
KTHERRCOR=KTHERR−1=A×(TH−THB)2 (46)
【0073】
式(46)は、図4に示す破線L2を示す数式に相当し、「A」はモデルパラメータである。式(46)を用いることにより、誤差パラメータKTHERRCORを算出するために必要なモデルパラメータが1つとなり(一般的な2次式では、モデルパラメータは3つである)、モデルパラメータの同定演算を簡単化することができる。
【0074】
モデルパラメータAは、最小二乗法を用いる場合、下記式(47)で与えられる。
【数10】
【0075】
同定されたモデルパラメータA及びスロットル弁開度THを式(46)に適用して、誤差パラメータKTHERRCORを算出し、その誤差パラメータKTHERRCORを下記式(48)に適用することにより、長期モデル補正係数KMDLLが得られる。
KMDLL=1/KTHERR=1/(KTHERRCOR+1) (48)
【0076】
このように長期モデル補正係数KMDLLは、短期モデル補正係数KMDLSに比べて、より長い期間における検出データ(TH,GAIR)を統計処理することにより算出されるモデルパラメータAを用いて算出される。弁通過空気流量モデルのモデル化誤差は、スロットル弁の特性ばらつきや経時変化、有効吸気管断面積の減少などに起因するので、モデルを補正するための補正係数の正確な値を得るためには、比較的長い期間に得られる検出データに基づく演算を行う必要がある。したがって、長期モデル補正係数KMDLLを用いることにより、モデル化誤差をより高い精度で補正することが可能となる。
【0077】
図5は、スロットル弁通過空気流量算出部51における演算処理のフローチャートである。
ステップS11では、スロットル弁開度THに応じて図6(a)に示す開口面積流量関数テーブルを検索し、開口面積流量関数値KTH(TH)を算出する。ステップS12では、圧力比RP(=PBA/PA)に応じて図6(b)に示す圧力比流量関数テーブルを検索し、圧力比流量関数値Ψ(RP)を算出する。
【0078】
ステップS13では、開口面積流量関数値KTH(TH)、圧力比流量関数値Ψ(RP)、及び吸気温TAを前記式(1)に適用し、推定吸入空気流量HGAIRを算出する。ステップS14では、推定吸入空気流量HGAIR及び長期モデル補正係数KMDLLを下記式(51)に適用して、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出し、さらに第1補正推定吸入空気流量HGAIRL及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(52)に適用して、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出する。
HGAIRL=HGAIR×KMDLL (51)
HGAIRLS=HGAIRL×KMDLS (52)
【0079】
ステップS15では、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLS[g/sec]及びエンジン回転数NEを下記式(53)に適用し、1TDC期間当たりの吸入空気量である推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]を算出する。式(53)のKCVは変換係数である。
HGAIRTH=HGAIRLS×KCV/NE (53)
【0080】
図7は、気筒吸入空気量算出部52における演算処理のフローチャートである。ECU5のCPUにおいて演算周期TSで実行される。
ステップS21では前記式(29)を用いて体積効率ηvを算出する。なお、この算出には、気筒吸入空気量GAIRCYLNの前回値を用いるため、気筒吸入空気量GAIRCYLNの初期値GAIRCYLNINIの設定が必要である。本実施形態では、初期値GAIRCYLNINIは、下記式(54)により、理論気筒吸入空気量GAIRSTDに設定される。よって体積効率ηvの初期値は「1」となる(式(17)参照)。
GAIRCYLNINI=GAIRSTD
=PBA×Vcyl/(R×TAK) (54)
【0081】
ステップS22では、算出された体積効率ηvを前記式(16)に適用し、遅れ係数CGACYLを算出する。ステップS23では、算出された遅れ係数CGACYLを前記式(15a)に適用し、気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)を算出する。
【0082】
図8は、図2のモデル補正係数算出部53において、短期モデル補正係数KMDLS及び長期モデル補正係数KMDLLを算出する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで、演算周期TSで実行される。
ステップS101では、前記式(1)を用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出する。ステップS102では、推定吸入空気流量HGAIRに応じて図9(a)に示すTNテーブルを検索し、無駄時間TNを算出するとともに、推定吸入空気流量HGAIRに応じて図9(b)に示すTDテーブルを検索し、遅れ時定数TDを算出する。なお、無駄時間TN及び遅れ時定数TDは、検出される吸入空気流量GAIRに応じて算出するようにしてもよい。
【0083】
ステップS103では、スロットル弁開度THを式(46)に適用して、誤差パラメータKTHERRCORを算出し、その誤差パラメータKTHERRCORを式(48)に適用することにより、長期モデル補正係数KMDLLを算出する。
【0084】
ステップS104では、長期モデル補正係数KMDLL及び推定吸入空気流量HGAIRを式(51)に適用し、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出する。ステップS105では、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを式(44a)に適用して、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを算出し、ステップS106では、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを式(42)に適用して、補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出し、ステップS107では、補正モデル化誤差係数KTHERRSを式(43)に適用して、短期モデル補正係数KMDLSを算出する。
【0085】
図10は、モデルパラメータAを算出する学習処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで、演算周期TSで実行される。
ステップS110では、学習実行フラグFLEARNが「1」であるか否かを判別する。学習実行フラグFLEARNは、エンジン1の今回の運転開始(エンジン始動)時点からの走行距離DISTが所定値DLEARN未満であるとき「1」に設定される。
【0086】
ステップS110の答が否定(NO)であるときは、直ちに処理を終了する。学習実行フラグFLEARNが「1」であるときは、ステップS111〜S116の学習処理を実行する。ステップS111及びS112における演算は、図8のステップS101及びS102における演算と同一である。
【0087】
ステップS113では、式(44)により遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを算出し、算出した遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM及び検出吸入空気流量GAIRを式(41)に適用して、モデル化誤差係数KTHERRを算出する(ステップS114)。
【0088】
ステップS115では、スロットル弁開度THが所定開度THBより小さいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは図11に示す同定演算を実行し(ステップS116)、スロットル弁開度THが所定開度THB以上であるときは直ちに処理を終了する。
【0089】
図11は図10のステップS116で実行される同定演算処理のフローチャートである。
ステップS140では、モデル化誤差係数KTHERRから「1」を減算して、誤差パラメータKTHERRCORを算出する。S141〜S143では、スロットル弁開度THが、所定開度TH1〜TH3(TH1<TH2<TH3)によって定義される第1〜第4領域のいずれにあるかを判別し、スロットル弁開度THが第1領域(TH<TH1)にあるときは領域パラメータnを「1」に設定し(ステップS144)、スロットル弁開度THが第2領域(TH1≦TH<TH2)にあるときは領域パラメータnを「2」に設定し(ステップS145)、スロットル弁開度THが第3領域(TH2≦TH<TH3)にあるときは領域パラメータnを「3」に設定し(ステップS146)、スロットル弁開度THが第4領域(TH3≦TH)にあるときは領域パラメータnを「4」に設定する(ステップS147)。
【0090】
ステップS148では、下記式(61)により第n領域の分母積算値XXXX[n]を算出する。分母積算値XXXX[n]は、式(47)の分母に対応するものであり、式(61)のXXXX[n]zは、分母積算値XXXX[n]の前回算出値である。
XXXX[n]=XXXX[n]z+(TH−THB)4 (61)
【0091】
ステップS149では、分子積算値XXY[n]を下記式(62)により算出する。分子積算値XXY[n]は、式(47)の分子に対応するものであり、式(62)のXXY[n]zは、分子積算値XXY[n]の前回算出値である。
XXY[n]=XXY[n]z+KTHERRCOR×(TH−THB)2 (62)
【0092】
ステップS150では、第n領域のサンプリング数NSAMPL[n]を「1」だけインクリメントする(前回値NSAMPL[n]zに「1」を加算する)。ステップS151では、下記式(63)により、分母加重平均値XXXXTTLを算出する。式(63)によれば、4つの領域毎に算出される分母平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分母加重平均値XXXXTTLが算出される。
【数11】
【0093】
ステップS152では、下記式(64)により、分子加重平均値XXYTTLを算出する。式(64)によれば、4つの領域毎に算出される分子平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分子加重平均値XXYTTLが算出される。
【数12】
【0094】
ステップS153では、分子加重平均値XXYTTLを分母加重平均値XXXXTTLで除算することにより、モデルパラメータAを算出する。
【0095】
図11に示す処理によれば、スロットル弁開度THの変化範囲が4つの領域に分割され、各領域毎の分子平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分子加重平均値XXYTTLが算出されるとともに、各領域毎の分母平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分母加重平均値XXXXTTLが算出され、分子加重平均値XXYTTLを分母加重平均値XXXXTTLで除算してモデルパラメータAが算出される。これにより、サンプリングされるスロットル弁開度THの値に偏りがある場合でも、高い精度を確保することができる。
【0096】
図11の処理により算出されるモデルパラメータAは、エンジン運転期間(エンジン始動時点からイグニッションスイッチがオフされるまでの期間)の終了時点でメモリに格納され、次のエンジン運転期間において式(46)の演算に適用される。
【0097】
図12は、図2の目標気筒吸入空気量算出部54、リミット処理部55、目標スロットル弁通過空気流量算出部56、及び目標開度算出部57における処理のフローチャートである。
【0098】
ステップS31では、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出する。ステップS32では、図13に示すリミット処理を実行し、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを、上限値GAIRCYLLMH及び下限値GAIRCYLLMLの範囲内の値に制限する。
【0099】
ステップS33では、吸気管モデル式の逆モデル式(式(34))にリミット処理後の目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMD(k)及びGAIRCYLCMD(k-1)を適用し、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD(k)を算出する。
【0100】
ステップS34では、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD(k)[g/TDC]を下記式(65)に適用し、目標吸入空気流量GAIRCMD(k)[g/sec]に変換する。
GAIRCMD(k)=GAIRTHCMD(k)×NE/KCV (65)
【0101】
ステップS35では、目標吸入空気流量GAIRCMD(k)を前記式(35)に適用し、補正目標吸入空気流量GAIRCMDC(k)を算出する。ステップS36では、式(31)の「HGAIR」として補正目標吸入空気流量GAIRCMDC(k)を適用し、開口面積流量関数値KTH(TH)を算出する。ステップS37では、ステップS36で算出した開口面積流量関数値KTH(TH)に応じて、図6(a)に示す開口面積流量関数テーブルを逆検索し、目標開度THCMD(k)を算出する(式(36)の演算を行う)。
【0102】
図13は、図12のステップS32におけるリミット処理のフローチャートである。
ステップS41では、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7の電源電圧VBDBWに応じて、スロットル弁開度の単位時間当たりの最大変化量DTHlmt[deg/ms]を算出し、スロットル弁3の制御周期TCTL(例えば2ms)当たりの最大変化量DTHLMT[deg/TCTL]に変換する。なお、最大変化量DTHLMTは、予め設定した値を用いてもよい。
【0103】
ステップS42では、検出スロットル弁開度TH及び最大変化量DTHLMTを下記式(66)に適用し、基本開き側限界値THOFHBを算出する。式(66)は、THMAXと(TH+DTHLMT)の小さい方を選択する演算を行うものであり、THMAXは所定最大開度(例えば85deg)である。
THOFHB=Min(THMAX,TH+DTHLMT) (66)
【0104】
ステップS43では、検出スロットル弁開度TH及び最大変化量DTHLMTを下記式(67)に適用し、基本閉じ側限界値THOFLBを算出する。式(67)は、THMINと(TH−DTHLMT)の大きい方を選択する演算を行うものであり、THMINは所定最小開度(例えば0.5deg)である。
THOFLB=Max(THMIN,TH−DTHLMT) (67)
【0105】
ステップS44では、検出スロットル弁開度TH及び基本開き側限界値THOFHBを下記式(68)に適用し、開き側限界値THOFHを算出する。式(68)のCTHADDは、0から1の間の値に設定される開き側なまし係数である。
THOFH=TH+CTHADD×(THOFHB−TH) (68)
【0106】
ステップS45では、検出スロットル弁開度TH及び基本閉じ側限界値THOFLBを下記式(69)に適用し、閉じ側限界値THOFLを算出する。式(69)のCTHDECは、0から1の間の値に設定される閉じ側なまし係数である。
THOFL=TH+CTHDEC×(THOFLB−TH) (69)
【0107】
閉じ側なまし係数CTHDECは、開き側なまし係数CTHADDより大きな値に設定され、かつなまし係数CTHDEC及びCTHADDは、ともに制御周期TCTLが長くなるほどより大きな値をとるように設定される。
【0108】
ステップS46では、開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLを、弁通過空気流量モデル式(式(1))に適用し、対応する上限吸入空気流量GAIRLMH[g/sec]及び下限吸入空気流量GAIRLML[g/sec]を算出する。さらに上限吸入空気流量GAIRLMH及び下限吸入空気流量GAIRLMLを下記式(70)及び(71)に適用し、補正上限吸入空気流量GAIRLMHLS及び補正下限吸入空気流量GAIRLMLLSを算出する。
GAIRLMHLS=GAIRLMH×KMDLL×KMDLS (70)
GAIRLMLLS=GAIRLML×KMDLL×KMDLS (71)
【0109】
ステップS47では、補正上限吸入空気流量GAIRLMHLS[g/sec]及び補正下限吸入空気流量GAIRLMLLS[g/sec]に(KCV/NE)を乗算して、上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH[g/TDC]及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLML[g/TDC]を算出する。
【0110】
ステップS48では、上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLを吸気管モデル式(式(15a))に適用し、上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLを算出する。
【0111】
ステップS49では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMHより大きいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMHに設定し(ステップS50)、ステップS51に進む。ステップS49の答が否定(NO)であるときは直ちにステップS51に進む。
【0112】
ステップS51では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLより小さいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLに設定し(ステップS52)、処理を終了する。ステップS51の答が否定(NO)であるときは直ちに処理を終了する。
【0113】
次に本実施形態における燃料噴射制御を説明する。図14は、気筒吸入空気量及び燃料噴射時間の演算処理(以下単に「演算処理PS」という)の実行タイミングと、燃料噴射実行期間との関係を説明するためのタイムチャートであり、特定気筒(例えば#1気筒)の排気行程及び吸気行程が示されている。図14(a)には、排気弁及び吸気弁のリフトカーブが示されており、同図(b)には演算処理PSの実行期間が示され、同図(c)には#1気筒に対応する燃料噴射弁の開弁期間(燃料噴射実行期間)が示されている。演算処理PSは、クランク角度30度毎に実行される(1行程期間中に6回実行される)。
【0114】
この図に示された例では、演算処理PS1で算出される燃料噴射開始時期INJOBJstart及び燃料噴射終了時期INJOBJendに基づいて燃料噴射が開始され、燃料噴射実行中に実行される演算処理PS2及びPS3においても、気筒吸入空気量GAIRCYLNの最新の演算結果に応じて算出される燃料噴射時間TOUTに応じて、燃料噴射終了時期INJOBJendの修正演算が実行され、実際の燃料噴射実行期間の修正が行われる。これにより、エンジン1の過渡運転状態においても、実際の気筒吸入空気量に対応する燃料量を精度良く供給することができる。
【0115】
図15は、演算処理PSに含まれる燃料噴射制御処理のフローチャートである。
ステップS61では、図7の処理で算出される最新の気筒吸入空気量GAIRCYLNを読み込み、ステップS62では、下記式(81)により燃料噴射弁6の開弁時間、すなわち燃料噴射時間TOUTを算出する。
TOUT=TIMAFM×KPA×KTA×KTW×KCMD+TIVB (81)
【0116】
式(81)のTIMAFMは、基本燃料噴射時間であり、気筒吸入空気量GAIRCYLNに比例するように(空燃比が理論空燃比となるように)設定される。KPA,KTA,及びKTWは、それぞれ大気圧PA、吸気温TA、及び冷却水温TWに応じて設定される環境補正係数であり、KCMDはエンジン運転状態に応じて設定される目標当量比である。またTIVBは、燃料噴射弁6に電源を供給するバッテリの出力電圧に応じて設定される電圧補正項である。基本燃料噴射時間TIMAFMの算出には、気筒吸入空気量GAIRCYLNの最新の算出値が適用される。
【0117】
ステップS63では、燃料噴射実行中であるか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、ステップS62で算出した燃料噴射時間TOUT[sec]を、エンジン回転数NEに応じて燃料噴射期間TOUTdeg[deg]に変換する。燃料噴射期間TOUTdegは、燃料噴射時間TOUTをクランク角度で示される期間に変換したものである。
【0118】
ステップS65では、エンジン運転状態に応じて燃料噴射終了時期INJOBJendを算出する。具体的には、冷却水温TWが低いときは、燃料が気化し難いため、燃料噴射終了時期INJOBJendは、高水温時より進角させた値に設定され、またエンジン負荷が増加するほど遅角するように設定される。
【0119】
ステップS66では、燃料噴射期間TOUTdeg及び燃料噴射終了時期INJOBJendを下記式(82)に適用し、燃料噴射開始時期INJOBJstartを算出する。
INJOBJstart=INJOBJend−TOUTdeg (82)
【0120】
ステップS63の答が肯定(YES)、すなわち燃料噴射実行中であるときは、最新の燃料噴射時間TOUTをステップS64と同様に、燃料噴射期間TOUTdegに変換する(ステップS67)。ステップS68では、燃料噴射期間TOUTdeg及びステップS66で算出した燃料噴射開始時期INJOBJstartを下記式(83)に適用し、燃料噴射終了時期INJOBJendを修正する。
INJOBJend=INJOBJstart+TOUTdeg (83)
【0121】
図15の処理により、図14を参照して説明した燃料噴射制御が行われる。すなわち、気筒吸入空気量GAIRCYLNの最新の演算結果を用いて、燃料噴射実行中においても燃料噴射終了時期INJOBJendを修正することによって、過渡運転状態における燃料噴射量の制御精度を向上させることができる。
【0122】
図16は、要求トルクTRQCMDが急激に増加する過渡状態における動作例のタイムチャートである。図16の破線が要求トルクTRQCMDの推移を示し、実線が実出力トルクTRQの推移を示す。このように、本実施形態に示した体積効率ηv及び気筒吸入空気量GAIRCYLNの算出手法、並びに燃料噴射制御手法を採用することにより、良好なトルク制御性能を得ることができる。
【0123】
以上のように本実施形態では、図7のステップS21において式(29)を用いて体積効率ηvを算出するようにしている。式(29)を用いることにより、気筒吸入空気量GAIRCYLN及び理論気筒吸入空気量GAIRSTDとともに、気筒容積Vcylと吸気管容積Vinとの比、及び推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHをさらに用いて体積効率ηvが算出され、繰り返し(更新)演算を行うことなく、すなわちCPUの負荷の大幅に増加させることなく、体積効率ηvの算出精度を高めることができる。
【0124】
また目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが算出され、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMD、目標気筒吸入空気量の前回算出値GAIRCYLCMD(k-1)、及び体積効率ηvを、吸気管モデル式の逆モデル式である式(34)に適用して目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDが算出されるので、吸入空気流量制御の目標値となる目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDの算出精度を高め、特にエンジンの過渡運転状態において吸入空気流量の制御精度を向上させることができる。
【0125】
また弁通過空気流量モデル式である式(1)に、スロットル弁開度THを適用して推定吸入空気流量HGAIRが出され、弁通過空気流量モデル式の逆モデル式である式(32)に、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDから変換された目標吸入空気流量GAIRCMDを適用してスロットル弁の目標開度THCMDが算出される。したがって、必要な吸入空気流量を得るための目標開度THCMDの算出精度を高め、特にエンジンの過渡運転状態において吸入空気流量の制御精度を向上させることができる。
【0126】
また体積効率ηv及び気筒吸入空気量GAIRCYLNが、エンジンの1行程期間より短い演算周期、すなわちクランク角30度周期で、1行程期間内において複数回算出されるので、過渡運転状態において正確な気筒吸入空気量GAIRCYLNを得ることができる。
【0127】
また算出される気筒吸入空気量GAIRCYLNの最新の演算結果を用いて燃料噴射期間(燃料噴射開始時期INJOBJstart,INJOBJend)が制御されるので、過渡運転状態における燃料供給量を、実際の気筒吸入空気量に対応する正確な値に制御し、エンジン出力トルクの制御性を向上させることができる。
【0128】
本実施形態では、スロットル弁開度センサ4、吸気圧センサ8、及び吸気温センサ9、がそれぞれスロットル弁開度検出手段、吸気圧検出手段、及び吸気温検出手段に相当し、ECU5が、吸入空気流量取得手段、理論気筒吸入空気量算出手段、体積効率算出手段、気筒吸入空気量算出手段、目標気筒吸入空気量算出手段、目標吸入空気流量算出手段、目標開度算出手段、及び燃料噴射制御手段を構成する。具体的には、図5の処理が吸入空気流量取得手段に相当し、図7のステップS21が体積効率算出手段に相当し、ステップS23が気筒吸入空気量算出手段に相当し、図12のステップS31が目標気筒吸入空気量算出手段に相当し、ステップS33が目標吸入空気流量算出手段に相当し、ステップS34〜S37が目標開度算出手段に相当し、図15の処理が燃料噴射制御手段に相当する。
【0129】
[変形例1]
上述した実施形態では、長期モデル補正係数KMDLLの算出に適用するモデル化誤差係数KTHERRを、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを用いて算出するようにしたが(式(41))、定常的なエンジン運転状態においてモデルパラメータAの学習を行うことにより、吸入空気流量センサ13の検出遅れの影響を排除することができる。したがって、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMに代えて、検出遅れ補正を行わない推定吸入空気流量HGAIRを用いてモデル化誤差係数KTHERRを算出するようにしてもよい。
【0130】
[変形例2]
上述した実施形態では、モデルパラメータAの算出に適用される分母加重平均値XXXTTL及び分子加重平均値XXYTTLを、それぞれ式(63)及び(64)により算出するようにしたが、これらの数式に代えて、下記式(63a)及び(64a)を用いて算出するようにしてもよい。
【0131】
【数13】
【数14】
【0132】
式(63a)及び(64a)のKG1〜KG4は、重み係数であり下記式(91)及び(92)を満たすように設定される。
KG1>KG2>KG3>KG4 (91)
KG1+KG2+KG3+KG4=1 (92)
【0133】
弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差は、図4に示したように、スロットル弁開度THが低下するほど増加する傾向がある。したがって、式(91)を満たすように設定される重み係数KG1〜KG4を用いることにより、モデルパラメータAの同定演算に上記傾向を適切に反映させ、長期モデル補正係数KMDLLの算出精度を高めることができる。
なお、重み係数KG1〜KG4は、これらのうちいずれかが同じ値となるように設定してもよい。
【0134】
[変形例3]
理論気筒吸入空気量GAIRSTDの算出方法として、特許文献1の段落0083〜0089に開示された以下の手法を用いてもよい。この場合には、吸気圧PBAが基準大気圧PA0に等しくかつ吸気温TAが基準温度TA0に等しい状態における最大気筒吸入空気量GAIRWOTを、エンジン回転数NEに対応して(複数の所定エンジン回転数毎に)予め求めてテーブルとして記憶しておき、エンジン運転時にはエンジン回転数NEに応じたテーブル検索により最大気筒吸入空気量GAIRWOTを算出し、検出される吸気圧PBA、基準大気圧PA0、及び最大気筒吸入空気量GAIRWOTを特許文献1の式(21)に適用して基準理論気筒吸入空気量GAIRSTDBを算出し、さらに検出される吸気温TA及びエンジン冷却水温TWに応じて基準理論気筒吸入空気量GAIRSTDBを補正することにより、理論気筒吸入空気量GAIRSTDを算出することができる。
【0135】
[第2の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態における長期モデル補正係数KMDLLの算出手法を変更したものである。以下に説明する点以外は第1の実施形態と同一である。
第1の実施形態では、スロットル弁開度THを式(46)に適用して誤差パラメータKTHERRCORを算出したが、本実施形態では、式(46)で示される関係をKTHERRCORテーブルとして設定し、テーブル検索により誤差パラメータKTHERRCORを算出するようにしたものである。
【0136】
図17は、KTHERRCORテーブルを表形式で示す図である。KTHERRCORテーブルには、スロットル弁開度THについて1[deg]から(THB−1)[deg]に対応して、テーブル設定値KTHERRCOR[1],KTHERRCOR[2],…,KTHERRCOR[THB-1](KTHERRCOR[p],p=1〜(THB−1))が設定され、所定開度THBに対応して「1」が設定されている。
【0137】
図18は、KTHERRCORテーブルを更新する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで演算周期TSで実行される。
ステップS161〜S165は、図10のステップS111〜S115と同一である。
ステップS166では、図19に示す設定値更新処理を実行し、テーブル設定値KTHERRCOR[p](p=1〜(THB−1))の更新を行う。
【0138】
図19のステップS171では、図18のステップS164で算出されたモデル化誤差係数KTHERRから「1」を減算して誤差パラメータKTHERRCORを算出する。ステップS172では、スロットル弁開度THに応じて更新すべきテーブル設定値KTHERRCOR[pS]を選択する。例えばスロットル弁開度THが0.3[deg]であるときは、テーブル設定値KTHERRCOR[1](pS=1)が選択され、スロットル弁開度THが1.8[deg]であるときは、テーブル設定値KTHERRCOR[2](pS=2)が選択される。
【0139】
ステップS173では、更新すべきテーブル設定値KTHERRCOR[pS]の算出に適用されたデータ数NDATA[pS]を「1」だけインクリメントする。NDATA[pS]zは、前回更新時のデータ数である。ステップS174では、ステップS171で算出した誤差パラメータKTHERRCORを下記式(101)に適用し、テーブル設定値KTHERRCOR[pS]の更新を行う。式(101)のKTHERRCOR[pS]zは、更新前のテーブル設定値である。
【数15】
【0140】
図19の処理により、テーブル設定値KTHERRCOR[p]の更新を行うことにより、スロットル弁開度THの1[deg]から(THB−1)[deg]までの範囲において、テーブルの設定格子点(TH=1,2,…,(THB−1))毎に設定値の更新が行われ、更新回数が増加するほど各格子点におけるテーブル設定値KTHERRCOR[p]の精度を高め、長期モデル補正係数KMDLLの算出精度を高めることができる。
【0141】
[変形例]
上述した第2の実施形態では、誤差パラメータKTHERRCORが設定されたKTHERRCORテーブルを使用するようにしたが、誤差パラメータKTHERRCORに代えて長期モデル補正係数KMDLLが設定されたKMDLLテーブルを使用し、KMDLLテーブルの設定値を更新するようにしてもよい。
【0142】
また、KTHERRCORテーブルにおけるスロットル弁開度THの格子点は1[deg]間隔で設定したが、これに限るものではなく、1[deg]より大きい間隔または小さい間隔で設定するようにしてもよい。
【0143】
[第3の実施形態]
本実施形態では、気筒吸入空気量GAIRCYLNの1行程期間後の予測値である予測気筒吸入空気量GAIRCYLPを算出し、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPに応じて燃料噴射時間TOUTを算出するようにしたものである。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0144】
先ず推定スロットル弁通過空気流量の今回値HGAIRTH(k)及び前回値HGAIRTH(k-1)を下記式(111)に適用し、予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHP(k)を算出する。式(111)のKPは、実験により設定される所定予測ゲインである。
HGAIRTHP(k)=HGAIRTH(k)
+{HGAIRTH(k)−HGAIRTH(k-1)}×KP (111)
【0145】
次に下記式(112)により予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)を算出する。式(112)は、式(15a)と同形式の吸気管モデル式であり、式(15a)のGAIRCYLN(k-1)及びHGAIRTH(k)を、それぞれGAIRCYLN(k)及びHGAIRTHP(k)に代えたものである。
GAIRCYLP(k)=(1−CGACYL)×GAIRCYLN(k)
+CGACYL×HGAIRTHP(k) (112)
【0146】
そして、算出される予測気筒吸入空気量GAIRCYLPを燃料噴射時時間TOUTの算出に適用する。なお、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPを算出し、これを燃料噴射時時間TOUTに適用する場合には、予測気筒吸入空気量GAIRCYLP及び燃料噴射時間TOUTの演算処理は、TDCパルスの発生に同期して実行される。
【0147】
本実施形態によれば、予測スロットル弁通過流量HGARITHPが算出され、予測スロットル弁通過流量HGARITHP及び気筒吸入空気量GAIRCYLNを、吸気管モデル式(式(112))に適用して予測気筒吸入空気量GAIRCYLPが算出されるので、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの算出精度を高め、特にエンジンの過渡運転状態において燃料供給量の制御精度を向上させることができる。また、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPを点火時期制御にも適用することにより、点火時期の制御精度も向上させることができる。
【0148】
本実施形態では、式(111)の演算が吸入空気流量予測手段に相当し、式(112)の演算が気筒吸入空気量予測手段に相当する。
【0149】
なお上述した第1〜第3実施形態は、種々の他の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、気筒吸入空気量GAIRCYLN(及び予測気筒吸入空気量GAIRCYLP)の算出には、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを使用したが、吸入空気流量センサ13により検出される吸入空気流量GAIR[g/sec]を1TDC期間毎の流量に変換した検出スロットル弁通過空気流量GAIRTHを使用するようにしてもよい。
【0150】
また、上述した実施形態では大気圧センサ33により検出した大気圧PAを用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出するようにしたが、公知の大気圧推定手法(例えば米国特許第6016460号公報参照)を用いて算出した推定大気圧HPAを用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出するようにしてもよい。
【0151】
また上述した実施形態では、本発明をガソリン内燃エンジンに適用した例を示したが、本発明はディーゼル内燃エンジンにも適用可能である。また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0152】
1 内燃機関
1a 気筒
2 吸気管
3 スロットル弁
4 スロットル弁開度センサ(スロットル弁開度検出手段)
5 電子制御ユニット(吸入空気流量取得手段、理論気筒吸入空気量算出手段、体積効率算出手段、気筒吸入空気量算出手段、吸入空気流量予測手段、気筒吸入空気量予測手段、目標気筒吸入空気量算出手段、目標吸入空気流量算出手段、目標開度算出手段、燃料噴射制御手段)
8 吸気圧センサ(吸気圧検出手段)
9 吸気温センサ(吸気温検出手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に内燃機関の気筒に吸入される気筒吸入空気量を、機関の吸気管をモデル化した吸気管モデルを用いて算出し、算出した気筒吸入空気量を機関制御パラメータの算出に適用する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、予め設定されたマップを使用せずに、機関制御実行中に機関の体積効率を算出し、算出した体積効率を吸気管モデルに適用して気筒吸入空気量を算出する手法が示されている。この手法によれば、検出される吸気温及び吸気圧に基づいて理論気筒吸入空気量が算出され、気筒吸入空気量の前回算出値を理論気筒吸入空気量で除算することにより、体積効率が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2010/095477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示された第3の実施形態に記載されているように、上記体積効率の算出手において、過渡的な運転状態で体積効率の算出精度を高めるためには、繰り返し更新演算を行う必要があり、演算装置の負荷が増大するという課題がある。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、繰り返し更新演算を行うことなく、過渡運転状態においても正確な体積効率を算出し、気筒吸入空気量の算出精度を高めることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の気筒に吸入される新気量である気筒吸入空気量を、前記機関の吸気管(2)をモデル化した吸気管モデル式を用いて算出する気筒吸入空気量算出手段を備える内燃機関の制御装置において、前記吸気管(2)を通過する新気の流量である吸入空気流量(GAIRTH,HGAIRTH)を取得する吸入空気流量取得手段と、前記機関の吸気圧(PBA)を検出する吸気圧検出手段と、前記機関に吸入される空気の温度である吸気温(TA)を検出する吸気温検出手段と、前記吸気圧(PBA)及び吸気温(TA)に基づいて理論気筒吸入空気量(GAIRSTD)を算出する理論気筒吸入空気量算出手段と、前記気筒の容積(Vcyl)と前記吸気管の容積(Vin)との比、前記気筒吸入空気量の前回算出値(GAIRCYLN(k-1))、前記理論気筒吸入空気量(GAIRSTD)、及び前記吸入空気流量(HGAIRTH)を用いて、前記機関の体積効率(ηv)を算出する体積効率算出手段とを備え、前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率(ηv)、前記吸入空気流量(HGAIRTH)、及び前記気筒吸入空気量の前回算出値(GAIRCYLN(k-1))を前記吸気管モデル式に適用して、前記気筒吸入空気量(GAIRCYLN(k))を算出することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸入空気流量の予測値である予測吸入空気流量(HGAIRTHP)を算出する吸入空気流量予測手段と、前記予測吸入空気流量(HGAIRTHP)及び前記気筒吸入空気量(GAIRCYLN)を、前記吸気管モデル式に適用して、前記気筒吸入空気量の予測値である予測気筒吸入空気量(GAIRCYLP)を算出する気筒吸入空気量予測手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置において、前記気筒吸入空気量の目標値である目標気筒吸入空気量(GAIRCYLCMD)を算出する目標気筒吸入空気量算出手段と、前記目標気筒吸入空気量(GAIRCYLCMD)、前記目標気筒吸入空気量の前回算出値(GAIRCYLCMD(k-1))、及び前記体積効率(ηv)を、前記吸気管モデル式の逆モデル式に適用して、前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量(GAIRTHCMD)を算出する目標吸入空気流量算出手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸気管に配置されたスロットル弁の開度(TH)を検出するスロットル弁開度検出手段と、前記目標吸入空気流量(GAIRTHCMD)に応じて前記スロットル弁の目標開度(THCMD)を算出する目標開度算出手段とを備え、前記吸入空気流量取得手段は、前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に、前記スロットル弁開度(TH)を適用して前記吸入空気流量(HGAIRTH)を取得し、前記目標開度算出手段は、前記弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に、前記目標吸入空気流量(GAIRTHCMD)を適用して前記目標開度(THCMD)を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率(ηv)及び前記気筒吸入空気量(GAIRCYLN)を、前記機関の1行程期間より短い演算周期で該1行程期間内に複数回算出することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の内燃機関の制御装置において、前記機関に燃料を供給するための燃料噴射弁(6)と、前記燃料噴射弁(6)による燃料噴射期間を制御する燃料噴射制御手段とを備え、前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率(ηv)及び前記気筒吸入空気量(GAIRCYLN)を、前記機関の吸気行程期間内に複数回算出し、前記燃料噴射制御手段は、前記気筒吸入空気量算出手段により算出される最新の演算結果を用いて前記燃料噴射期間を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、吸気管を通過する新気の流量である吸入空気流量が取得されるとともに、検出される吸気圧及び吸気温に基づいて理論気筒吸入空気量が算出され、気筒の容積と吸気管の容積との比、気筒吸入空気量の前回算出値、理論気筒吸入空気量、及び吸入空気流量を用いて、機関の体積効率が算出される。さらに算出された体積効率、吸入空気流量、及び気筒吸入空気量の前回算出値を吸気管モデル式に適用して、気筒吸入空気量が算出される。気筒容積と吸気管容積との比及び吸入空気流量を用いることによって、繰り返し(更新)演算を行う必要がなくなり、演算装置の負荷の増大を抑制しつつ、体積効率の算出精度を高めることができ、さらにこの体積効率を吸気管モデル式に適用することによって、気筒吸入空気量の算出精度を高めることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、予測吸入空気流量が算出され、予測吸入空気流量及び気筒吸入空気量を、吸気管モデル式に適用して予測気筒吸入空気量が算出されるので、予測気筒吸入空気量の算出精度を高め、特に機関の過渡運転状態において燃料供給量及び点火時期の制御精度を向上させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、目標気筒吸入空気量が算出され、目標気筒吸入空気量、目標気筒吸入空気量の前回算出値、及び体積効率を、吸気管モデル式の逆モデル式に適用して目標吸入空気流量が算出される。したがって、吸入空気流量制御の目標値となる目標吸入空気流量の算出精度を高め、特に機関の過渡運転状態において吸入空気流量の制御精度を向上させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、弁通過空気流量モデル式に、スロットル弁開度を適用して吸入空気流量が取得され、弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に、目標吸入空気流量を適用してスロットル弁の目標開度が算出される。したがって、必要な吸入空気流量を得るための目標開度の算出精度を高め、特に機関の過渡運転状態において吸入空気流量の制御精度を向上させることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、体積効率及び気筒吸入空気量が、機関の1行程期間より短い演算周期で1行程期間内に複数回算出されるので、過渡運転状態において正確な気筒吸入空気量を得ることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、体積効率及び気筒吸入空気量が、機関の吸気行程期間内に複数回算出され、最新の演算結果を用いて燃料噴射期間が制御されるので、過渡運転状態における燃料供給量を、実際の気筒吸入空気量に対応する正確な値に制御し、機関出力トルクの制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】気筒吸入空気量(GAIRCYLN)及びスロットル弁の目標開度(THCMD)を算出するモジュールの構成を示す図である。
【図3】図1に示す内燃機関の構成を模式的に示す図である。
【図4】スロットル弁開度(TH)と、モデルを用いて算出されるスロットル弁通過空気流量の誤差を示すパラメータ(KTHERR)との関係を示す図である。
【図5】推定スロットル弁通過空気流量(HGAIRTH)を算出する処理のフローチャートである。
【図6】図6の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図7】気筒吸入空気量(GAIRCYLN)を算出する処理のフローチャートである。
【図8】弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正する係数(KMDLL,KMDLS)を算出する処理のフローチャートである。
【図9】図9の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図10】弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を示す係数(KTHERR)と、スロットル弁開度(TH)との相関関係を示すモデルパラメータを算出する処理のフローチャートである。
【図11】図10の処理で実行される同定演算を行う処理のフローチャートである。
【図12】目標開度(THCMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図13】図12の処理で実行されるリミット処理のフローチャートである。
【図14】燃料噴射制御の概要を説明するためのタイムチャートである。
【図15】燃料噴射制御処理のフローチャートである。
【図16】機関出力トルクの制御動作例を示すタイムチャートである。
【図17】本発明の第2の実施形態で使用されるテーブルを示す図である。
【図18】図17に示すテーブルを更新する処理のフローチャートである。
【図19】図18の処理で実行される設定更新処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関とその制御装置の構成を示す図であり、図1において、例えば4気筒を有する内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動特性可変機構40を備えている。
【0020】
エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配置されている。また、スロットル弁3にはその開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が連結されており、スロットル弁開度THに応じた電気信号を出力して電子制御ユニット(以下(ECU)という)5に供給する。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7が接続されており、アクチュエータ7は、ECU5によりその作動が制御される。
【0021】
吸気管2には、スロットル弁3を介してエンジン1に吸入される空気(新気)の流量である吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ13が設けられ、さらにスロットル弁3の上流側に吸気温TAを検出する吸気温センサ9が設けられている。これらのセンサ13及び9の検出信号は、ECU5に供給される。
【0022】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0023】
エンジン1の各気筒の点火プラグ12は、ECU5に接続されており、ECU5は点火プラグ12に点火信号を供給し、点火時期制御を行う。
スロットル弁3の下流には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8が取付けられている。またエンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出するエンジン冷却水温センサ10が取り付けられている。これらのセンサ8及び10の検出信号は、ECU5に供給される。
【0024】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0025】
ECU5には、エンジン1によって駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ31、エンジン1により駆動される車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ32、及び大気圧PAを検出する大気圧センサ33が接続されている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0026】
またエンジン1は排気還流機構(図示せず)を備えており、エンジン1の排気が吸気管2のスロットル弁3の下流側に還流される。
【0027】
ECU5は各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、CPUで実行される演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路のほか、アクチュエータ7、燃料噴射弁6、点火プラグ12、弁作動特性可変機構40に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0028】
ECU5のCPUは、上記センサの検出信号に応じて、スロットル弁3の開度制御、エンジン1に供給する燃料量(燃料噴射弁6の開弁時間)の制御、点火時期制御、及び吸気弁の作動位相制御を行う。
【0029】
またECU5のCPUは、スロットル弁3を通過する空気流量の推定値(以下「推定スロットル弁通過空気流量」という)HGAIRTHを算出するとともに、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH、吸気圧PBA、及び吸気温TAに基づいてエンジン1の気筒に吸入される新気量である気筒吸入空気量GAIRCYLN[g/TDC](1TDC期間、すなわち4気筒エンジンであればエンジン1のクランク軸が180度回転するのに要する時間当たりの空気量)を算出する。算出した気筒吸入空気量GAIRCYLNは、燃料供給量や点火時期の制御に適用される。
【0030】
また、ECU5のCPUは、エンジン1の要求出力に応じた目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出し、実際の気筒吸入空気量を目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDに制御するためのスロットル弁3の目標開度THCMDを算出し、検出されるスロットル弁開度THが目標開度THCMDと一致するように、アクチュエータ7の駆動制御を行う。
【0031】
図2は、気筒吸入空気量GAIRCYLN及び目標開度THCMDを算出するモジュールの構成を示すブロック図である。図2に示す各ブロックの機能は、ECU5のCPUによる演算処理により実現される。
【0032】
図2に示す演算モジュールは、スロットル弁通過空気流量算出部51と、気筒吸入空気量算出部52と、モデル補正係数算出部53と、目標気筒吸入空気量算出部54と、リミット処理部55と、目標スロットル弁通過空気流量算出部56と、目標開度算出部57とを備えている。
【0033】
スロットル弁通過空気流量算出部51は、検出されるスロットル弁開度THを、弁通過空気流量モデル式に適用して、推定吸入空気流量HGAIR[g/sec]を算出し、後述する長期モデル補正係数KMDLLを用いて推定吸入空気流量HGAIRを補正することにより、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出する。弁通過空気流量モデル式は、スロットル弁開度THと、スロットル弁3を通過する空気の流量との関係をモデル化したものである。
【0034】
スロットル弁通過空気流量算出部51は、さらに後述する短期モデル補正係数KMDLSを用いて第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを補正することにより、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出し、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLS[g/sec]の単位変換を行って、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]を算出する。
【0035】
気筒吸入空気量算出部52は、吸気管2(より具体的には吸気管2のスロットル弁下流側)をモデル化した吸気管モデル式に、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを適用して、気筒吸入空気量GAIRCYLNを算出する。また、気筒吸入空気量算出部52は、吸気管モデル式のモデルパラメータの1つであるエンジン1の体積効率ηvを算出し、気筒吸入空気量GAIRCYLNの算出に適用する。算出される体積効率ηvは、目標スロットル弁通過空気流量算出部56における演算にも適用される。
【0036】
モデル補正係数算出部53は、検出される吸入空気流量GAIR、推定吸入空気流量HGAIR、及び第1補正推定吸入空気流量HGAIRLに基づいて、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSを算出する。長期モデル補正係数KMDLLは、スロットル弁3の特性ばらつき及び経時変化に起因する、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための補正係数であり、短期モデル補正係数KMDLSは、環境(例えば気温や大気圧など)の変化に起因する、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための補正係数である。
【0037】
目標気筒吸入空気量算出部54は、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出する。
【0038】
リミット処理部55は、スロットル弁開度の1制御周期で変更可能なスロットル弁開度変化量(最大変化量)DTHLMTと、検出されるスロットル弁開度TH(現在値)とに応じて、開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLを算出し、スロットル弁開度を開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLに設定したときのスロットル弁通過空気流量に相当する上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLを算出する。この演算には、弁通過空気流量モデル式が適用され、長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSが使用される。
【0039】
リミット処理部55は、さらに上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLに対応する上限気筒吸入空気量GAIRCYLHMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLHMLを算出し、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが上限気筒吸入空気量GAIRCYLHMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLHMLで定義される制限範囲内の値をとるようにリミット処理を行う。
【0040】
目標スロットル弁通過空気流量算出部56は、リミット処理後の目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを吸気管モデル式の逆モデル式に適用し、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDを算出する。
【0041】
目標開度算出部57は、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDを弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に適用し、目標開度THCMDを算出する。この演算には、長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSが適用される。
【0042】
次に、スロットル弁通過空気流量算出部51における推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHの算出手法と、気筒吸入空気量算出部52における気筒吸入空気量GAIRCYLNの算出手法とを詳細に説明する。
【0043】
図3はエンジン1を模式的に示す図であり、スロットル弁3,吸気弁21、排気弁22、及び気筒1aが示されている。
スロットル弁3の開度THと、スロットル弁通過空気流量(吸入空気流量GAIR)の推定値HGAIR[g/sec]との関係は、弁通過空気流量モデルを定義する下記式(1)で表すことができる。式(1)のKCは流量の単位を[g/sec]とするための変換定数であり、KTH(TH)はスロットル弁開度THに応じて算出される開口面積流量関数であり、Ψ(RP)は、スロットル弁3の上流側圧力である大気圧PAと、下流側圧力である吸気圧PBAとの比率RP(=PBA/PA)に応じて算出される圧力比流量関数であり、Rは気体定数である。開口面積流量関数KTH(TH)の値は、予め実験的に求められた図6(a)に示すKTHテーブルを用いて算出される。
【0044】
また圧力比流量関数Ψは、下記式(2)で与えられる。式(2)の「κ」は空気の比熱比である。ただし、空気流速が音速を超えると、圧力比流量関数Ψは圧力比に拘わらず極大値をとるので、実際の演算処理では、圧力比流量関数Ψ(RP)の値も予め設定されたΨ(RP)テーブル(図6(b))を用いて算出される。
【0045】
【数1】
【0046】
本実施形態では、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正する長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(3)に適用し、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出し、式(3)により算出される第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを、エンジン回転数NEを用いて1TDC期間当たりの流量に変換することにより、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]が算出される。
HGAIRLS=HGAIR×KMDLL×KMDLS (3)
【0047】
一方吸気管2のスロットル弁下流側部分2a内の空気量の変化量DGAIRINは、下記式(11)で与えられる。式(11)のVinはスロットル弁下流側部分2aの吸気管容積、TAKは絶対温度に変換した吸気温TA、Rは気体定数、DPBAは吸気圧PBAの変化量(PBA(k)−PBA(k-1))である。また「k」は1行程に相当する期間で離散化した離散化時刻である。
DGAIRIN=Vin×DPBA/(R×TAK) (11)
【0048】
したがって、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]と、気筒吸入空気量GAIRCYLN[g/TDC]の差は、下記式(12)で示されるように上記変化量DGAIRINと等しくなる。
DGAIRIN=HGAIRTH(k)−GAIRCYLN(k-1) (12)
【0049】
一方、気筒吸入空気量GAIRCYLNは、下記式(13)で与えられる。式(13)のVcylは気筒容積であり、ηvは体積効率である。
GAIRCYLN=Vcyl×ηv×PBA/(R×TAK) (13)
【0050】
式(13)を用いると、吸気圧変化量DPBAは、下記式(14)で与えられる。式(14)で与えられるDPBA及び式(12)の関係を式(11)に適用することにより、下記の式(15)(吸気管モデルの定義式)が得られる。
【数2】
【0051】
したがって、遅れ係数CGACYLを下記式(16)で定義すると、式(15)は下記式(15a)で示され、気筒吸入空気量GAIRCYLNは、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを入力とする一次遅れモデルの式を用いて算出することができる。
CGACYL=Vcyl×ηv/Vin (16)
GAIRCYLN(k)=(1−CGACYL)×GAIRCYLN(k-1)
+CGACYL×HGAIRTH(k) (15a)
【0052】
式(16)により遅れ係数CGACYLを算出するためには、体積効率ηvを算出することが必要である。体積効率ηvは、エンジン運転状態(エンジン回転数NE,吸気圧PBA)、吸気弁の作動位相、排気還流率などに依存して変化するものであるため、本実施形態では、下記式(17)により、気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)の算出に用いる体積効率ηvを算出するようにしている。
ηv=GAIRCYLN(k)/GAIRSTD(k) (17)
【0053】
式(17)のGAIRSTD(k)は下記式(18)により算出される理論気筒吸入空気量である。
GAIRSTD(k)=PBA(k)×Vcyl/(R×TAK) (18)
【0054】
式(17)を用いることにより、マップやテーブルを用いることなく体積効率ηvを算出することが可能となり、常に更新されるのでエンジン特性の経時変化の影響を受けることなく最適な値を得ることできる。
【0055】
式(17)による体積効率ηvの演算を、気筒吸入空気量が変化する過渡運転状態において精度よく行うために、特許文献1(第3の実施形態、図7及び図8)に示される手法を採用すると、時刻kにおいて繰り返し更新演算を行う必要があり、CPUの演算負荷が増加するという課題がある。そこで本実施形態では、以下に説明する体積効率算出手法を採用し、過渡運転状態においても正確な体積効率ηvが得られるようにしている。
【0056】
式(17)を用いると遅れ係数CGACYLは、下記式(19)で与えられる。ここで演算パラメータλ(k)を下記式(20)で定義すると、遅れ係数CGACYLは、下記式(21)で与えられる。
【数3】
CGACYL(k)=λ(k)×GAIRCYLN(k) (21)
【0057】
気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)は、下記式(15a)(再掲)で与えられるので、これを式(21)に適用すると、下記式(22)が得られる。
GAIRCYLN(k)=(1−CGACYL(k))×GAIRCYLN(k-1)
+CGACYL(k)×HGAIRTH(k) (15a)
CGACYL(k)
=λ(k)×{(1−CGACYL(k))×GAIRCYLN(k-1)
+CGACYL(k)×HGAIRTH(k)}
=λ(k)×{CGACYL(k)×(HGAIRTH(k)−GAIRCYLN(k-1))
+GAIRCYLN(k-1)}
=λ(k)×(HGAIRTH(k)−GAIRCYLN(k-1))×CGACYL(k)
+λ(k)×GAIRCYLN(k-1) (22)
【0058】
式(22)を用いると、特許文献1に示された繰り返し更新演算の過程で算出される更新遅れ係数CGACYL(i)に相当するパラメータは、下記数式群(23)で与えられる(iはインデクスパラメータ)。
【数4】
【0059】
ここで、演算パラメータΓ(k)及びH(k)を下記式(24)及び(25)で定義すると、数式群(23)は、下記数式群(26)で表される。
Γ(k)=λ(k)×(HGAIRTH(k)−HGAIRCYLN(k-1)) (24)
H(k)=λ(k)×GAIRCYLN(k-1) (25)
【数5】
【0060】
特許文献1に示された繰り返し更新演算の結果得られる遅れ係数CGACYL(k)は、理論的にはインデクスパラメータiを無限大とした極値に相当するので、演算パラメータΓ(k)が「−1」から「1」の間の値をとるという条件の下で、下記式(27)で与えられる。式(27)から明らかなように、遅れ係数CGACYL(k)は、初期値CGACYL(k)0に依存しない。
【数6】
【0061】
式(27)の演算パラメータΓ(k)及びH(k)(並びにΓ(k)及びH(k)に含まれるλ(k))をもとの数式に戻すことにより、下記式(28)が得られる。したがって、繰り返し演算により得られる体積効率ηvは、式(29)で与えられる。
【数7】
【0062】
次に弁通過空気流量モデルの逆モデル、及び吸気管モデルの逆モデルを定義する式について説明する。
弁通過空気流量モデルを定義する式(1)を変形すると下記式(31)が得られる。したがって、弁通過空気流量モデルの逆モデルは、下記式(32)で定義される。
【数8】
【0063】
一方、吸気管モデルを定義する式(15a)を変形すると、下記式(33)が得られる。したがって、吸気管モデルの逆モデルは、式(33)で定義される。
HGAIRTH(k)=
(GAIRCYLN(k)−GAIRCYLN(k-1))/CGACYL
+GAIRCYLN(k-1) (33)
【0064】
目標スロットル弁通過空気流量算出部56では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDから目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDが算出されるので、式(33)のHGAIRTH及びGAIRCYLNを、それぞれGAIRTHCMD及びGAIRCYLCMDに置換した下記式(34)を用いて、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDが算出される。
GAIRTHCMD(k)=
(GAIRCYLCMD(k)−GAIRCYLCMD(k-1))/CGACYL
+GAIRCYLCMD(k-1) (34)
【0065】
また目標開度算出部57では、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD[g/TDC]を単位時間当たりの流量[g/sec]に変換することにより、目標吸入空気流量GAIRCMDが算出され、目標吸入空気流量GAIRCMD、長期モデル補正係数KMDLL、及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(35)に適用して、補正目標吸入空気流量GAIRCMDCが算出される。
GAIRCMDC=GAIRCMD/(KMDLL×KMDLS) (35)
【0066】
さらに、補正目標吸入空気流量GAIRCMDCを下記式(36)に適用して目標開度THCMDが算出される。式(36)は、式(32)のHGAIRをGAIRCMDCに置換したものである。なお、式(36)の演算は、図6(a)に示すKTHテーブルを逆検索することにより行われる。
【数9】
【0067】
次に弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSの算出手法の概要を説明する。モデル化誤差は、基本的には吸入空気流量センサ13により検出される吸入空気流量GAIRと、推定吸入空気流量HGAIRとのずれに相当するものであるが、本実施形態では吸入空気流量センサ13の検出遅れを考慮し、推定吸入空気流量HGAIRについて検出遅れ補正を行って、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを算出し、モデル化誤差を示すパラメータとして、モデル化誤差係数KTHERRを下記式(41)で定義する。
KTHERR=GAIR/HGAIRAFM (41)
【0068】
モデル化誤差がなければ、モデル化誤差係数KTHERRは「1.0」となり、「1.0」との差が大きくなるほど、モデル化誤差が大きいことを示す。そこで、本実施形態では、モデル化誤差係数KTHERRに基づいて長期モデル補正係数KMDLLを算出する。
【0069】
一方短期モデル補正係数KMDLSは、以下のようにして算出する。推定吸入空気流量HGAIRを長期モデル補正係数KMDLLで補正した第1補正推定吸入空気流量HGAIRLについて検出遅れ補正を行って遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを算出し、これを下記式(42)に適用して補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出する。そして、補正モデル化誤差係数KTHERRSを下記式(43)に適用してなまし演算を行うことにより、短期モデル補正係数KMDLSを算出する。式(43)のCSは、例えば「0.02」に設定されるなまし係数である。jは演算周期TS(例えばクランク角30度に相当する期間、1行程期間の1/6に相当する期間に設定される)で離散化した離散化時刻である。
KTHERRS=GAIR/HGAIRLAFM (42)
KMDLS(j)=CS×(1/KTHERRS)+(1−CS)×KMDLS(j-1)
(43)
【0070】
なお、検出吸入空気流量GAIRが脈動しているとき、及び圧力比流量関数Ψに適用される圧力比RPが上限値に到達しているときは、なまし係数CSが「0」に設定され、短期モデル補正係数KMDLSは前回値に維持される。
【0071】
遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM(HGAIRLAFM)を算出するために、吸入空気流量センサ13をモデル化した吸入空気流量センサモデル(以下「AFMモデル」という)が使用される。AFMモデルは、むだ時間要素と一次遅れ要素の結合で近似することができるので、本実施形態では、下記式(44)により、AFMモデルを定義する。式(44)のjTNはむだ時間TNを演算周期TSで離散化した離散化むだ時間であり、CTDは下記式(45)で与えられる遅れ定数である。遅れ定数CTDは「0」より大きく「1」より小さい値をとる。式(45)のTDは一次遅れ要素の遅れ時定数である。遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMは、下記式(44a)で与えられる。
HGAIRAFM(j)=CTD×HGAIR(j-jTN)
+(1−CTD)×HGAIRAFM(j-1) (44)
CTD=1−e-(TS/TD) (45)
HGAIRLAFM(j)=CTD×HGAIRL(j-jTN)
+(1−CTD)×HGAIRLAFM(j-1) (44a)
【0072】
次に長期モデル補正係数KMDLLの算出手法を詳細に説明する。図4は、スロットル弁開度THと、モデル化誤差係数KTHERRとの関係を示す図であり、この図に示す黒丸はモデル化誤差が存在する状態における実験データを示し、実線L1は実験データからスロットル弁開度THとモデル化誤差係数KTHERRとの関係を近似するための曲線を示す。この図から明らかなように、スロットル弁開度THが所定開度THBより大きい範囲では、モデル化誤差係数KTHERRは「1.0」とほぼ等しくなる。そこで、本実施形態では、曲線L1(TH≦THBの範囲)を2次曲線で近似することとし、下記式(46)で誤差モデルを定義する。式(46)のKTHERRCORを以下「誤差パラメータ」という。
KTHERRCOR=KTHERR−1=A×(TH−THB)2 (46)
【0073】
式(46)は、図4に示す破線L2を示す数式に相当し、「A」はモデルパラメータである。式(46)を用いることにより、誤差パラメータKTHERRCORを算出するために必要なモデルパラメータが1つとなり(一般的な2次式では、モデルパラメータは3つである)、モデルパラメータの同定演算を簡単化することができる。
【0074】
モデルパラメータAは、最小二乗法を用いる場合、下記式(47)で与えられる。
【数10】
【0075】
同定されたモデルパラメータA及びスロットル弁開度THを式(46)に適用して、誤差パラメータKTHERRCORを算出し、その誤差パラメータKTHERRCORを下記式(48)に適用することにより、長期モデル補正係数KMDLLが得られる。
KMDLL=1/KTHERR=1/(KTHERRCOR+1) (48)
【0076】
このように長期モデル補正係数KMDLLは、短期モデル補正係数KMDLSに比べて、より長い期間における検出データ(TH,GAIR)を統計処理することにより算出されるモデルパラメータAを用いて算出される。弁通過空気流量モデルのモデル化誤差は、スロットル弁の特性ばらつきや経時変化、有効吸気管断面積の減少などに起因するので、モデルを補正するための補正係数の正確な値を得るためには、比較的長い期間に得られる検出データに基づく演算を行う必要がある。したがって、長期モデル補正係数KMDLLを用いることにより、モデル化誤差をより高い精度で補正することが可能となる。
【0077】
図5は、スロットル弁通過空気流量算出部51における演算処理のフローチャートである。
ステップS11では、スロットル弁開度THに応じて図6(a)に示す開口面積流量関数テーブルを検索し、開口面積流量関数値KTH(TH)を算出する。ステップS12では、圧力比RP(=PBA/PA)に応じて図6(b)に示す圧力比流量関数テーブルを検索し、圧力比流量関数値Ψ(RP)を算出する。
【0078】
ステップS13では、開口面積流量関数値KTH(TH)、圧力比流量関数値Ψ(RP)、及び吸気温TAを前記式(1)に適用し、推定吸入空気流量HGAIRを算出する。ステップS14では、推定吸入空気流量HGAIR及び長期モデル補正係数KMDLLを下記式(51)に適用して、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出し、さらに第1補正推定吸入空気流量HGAIRL及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(52)に適用して、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出する。
HGAIRL=HGAIR×KMDLL (51)
HGAIRLS=HGAIRL×KMDLS (52)
【0079】
ステップS15では、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLS[g/sec]及びエンジン回転数NEを下記式(53)に適用し、1TDC期間当たりの吸入空気量である推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]を算出する。式(53)のKCVは変換係数である。
HGAIRTH=HGAIRLS×KCV/NE (53)
【0080】
図7は、気筒吸入空気量算出部52における演算処理のフローチャートである。ECU5のCPUにおいて演算周期TSで実行される。
ステップS21では前記式(29)を用いて体積効率ηvを算出する。なお、この算出には、気筒吸入空気量GAIRCYLNの前回値を用いるため、気筒吸入空気量GAIRCYLNの初期値GAIRCYLNINIの設定が必要である。本実施形態では、初期値GAIRCYLNINIは、下記式(54)により、理論気筒吸入空気量GAIRSTDに設定される。よって体積効率ηvの初期値は「1」となる(式(17)参照)。
GAIRCYLNINI=GAIRSTD
=PBA×Vcyl/(R×TAK) (54)
【0081】
ステップS22では、算出された体積効率ηvを前記式(16)に適用し、遅れ係数CGACYLを算出する。ステップS23では、算出された遅れ係数CGACYLを前記式(15a)に適用し、気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)を算出する。
【0082】
図8は、図2のモデル補正係数算出部53において、短期モデル補正係数KMDLS及び長期モデル補正係数KMDLLを算出する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで、演算周期TSで実行される。
ステップS101では、前記式(1)を用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出する。ステップS102では、推定吸入空気流量HGAIRに応じて図9(a)に示すTNテーブルを検索し、無駄時間TNを算出するとともに、推定吸入空気流量HGAIRに応じて図9(b)に示すTDテーブルを検索し、遅れ時定数TDを算出する。なお、無駄時間TN及び遅れ時定数TDは、検出される吸入空気流量GAIRに応じて算出するようにしてもよい。
【0083】
ステップS103では、スロットル弁開度THを式(46)に適用して、誤差パラメータKTHERRCORを算出し、その誤差パラメータKTHERRCORを式(48)に適用することにより、長期モデル補正係数KMDLLを算出する。
【0084】
ステップS104では、長期モデル補正係数KMDLL及び推定吸入空気流量HGAIRを式(51)に適用し、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出する。ステップS105では、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを式(44a)に適用して、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを算出し、ステップS106では、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを式(42)に適用して、補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出し、ステップS107では、補正モデル化誤差係数KTHERRSを式(43)に適用して、短期モデル補正係数KMDLSを算出する。
【0085】
図10は、モデルパラメータAを算出する学習処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで、演算周期TSで実行される。
ステップS110では、学習実行フラグFLEARNが「1」であるか否かを判別する。学習実行フラグFLEARNは、エンジン1の今回の運転開始(エンジン始動)時点からの走行距離DISTが所定値DLEARN未満であるとき「1」に設定される。
【0086】
ステップS110の答が否定(NO)であるときは、直ちに処理を終了する。学習実行フラグFLEARNが「1」であるときは、ステップS111〜S116の学習処理を実行する。ステップS111及びS112における演算は、図8のステップS101及びS102における演算と同一である。
【0087】
ステップS113では、式(44)により遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを算出し、算出した遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM及び検出吸入空気流量GAIRを式(41)に適用して、モデル化誤差係数KTHERRを算出する(ステップS114)。
【0088】
ステップS115では、スロットル弁開度THが所定開度THBより小さいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは図11に示す同定演算を実行し(ステップS116)、スロットル弁開度THが所定開度THB以上であるときは直ちに処理を終了する。
【0089】
図11は図10のステップS116で実行される同定演算処理のフローチャートである。
ステップS140では、モデル化誤差係数KTHERRから「1」を減算して、誤差パラメータKTHERRCORを算出する。S141〜S143では、スロットル弁開度THが、所定開度TH1〜TH3(TH1<TH2<TH3)によって定義される第1〜第4領域のいずれにあるかを判別し、スロットル弁開度THが第1領域(TH<TH1)にあるときは領域パラメータnを「1」に設定し(ステップS144)、スロットル弁開度THが第2領域(TH1≦TH<TH2)にあるときは領域パラメータnを「2」に設定し(ステップS145)、スロットル弁開度THが第3領域(TH2≦TH<TH3)にあるときは領域パラメータnを「3」に設定し(ステップS146)、スロットル弁開度THが第4領域(TH3≦TH)にあるときは領域パラメータnを「4」に設定する(ステップS147)。
【0090】
ステップS148では、下記式(61)により第n領域の分母積算値XXXX[n]を算出する。分母積算値XXXX[n]は、式(47)の分母に対応するものであり、式(61)のXXXX[n]zは、分母積算値XXXX[n]の前回算出値である。
XXXX[n]=XXXX[n]z+(TH−THB)4 (61)
【0091】
ステップS149では、分子積算値XXY[n]を下記式(62)により算出する。分子積算値XXY[n]は、式(47)の分子に対応するものであり、式(62)のXXY[n]zは、分子積算値XXY[n]の前回算出値である。
XXY[n]=XXY[n]z+KTHERRCOR×(TH−THB)2 (62)
【0092】
ステップS150では、第n領域のサンプリング数NSAMPL[n]を「1」だけインクリメントする(前回値NSAMPL[n]zに「1」を加算する)。ステップS151では、下記式(63)により、分母加重平均値XXXXTTLを算出する。式(63)によれば、4つの領域毎に算出される分母平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分母加重平均値XXXXTTLが算出される。
【数11】
【0093】
ステップS152では、下記式(64)により、分子加重平均値XXYTTLを算出する。式(64)によれば、4つの領域毎に算出される分子平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分子加重平均値XXYTTLが算出される。
【数12】
【0094】
ステップS153では、分子加重平均値XXYTTLを分母加重平均値XXXXTTLで除算することにより、モデルパラメータAを算出する。
【0095】
図11に示す処理によれば、スロットル弁開度THの変化範囲が4つの領域に分割され、各領域毎の分子平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分子加重平均値XXYTTLが算出されるとともに、各領域毎の分母平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分母加重平均値XXXXTTLが算出され、分子加重平均値XXYTTLを分母加重平均値XXXXTTLで除算してモデルパラメータAが算出される。これにより、サンプリングされるスロットル弁開度THの値に偏りがある場合でも、高い精度を確保することができる。
【0096】
図11の処理により算出されるモデルパラメータAは、エンジン運転期間(エンジン始動時点からイグニッションスイッチがオフされるまでの期間)の終了時点でメモリに格納され、次のエンジン運転期間において式(46)の演算に適用される。
【0097】
図12は、図2の目標気筒吸入空気量算出部54、リミット処理部55、目標スロットル弁通過空気流量算出部56、及び目標開度算出部57における処理のフローチャートである。
【0098】
ステップS31では、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出する。ステップS32では、図13に示すリミット処理を実行し、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを、上限値GAIRCYLLMH及び下限値GAIRCYLLMLの範囲内の値に制限する。
【0099】
ステップS33では、吸気管モデル式の逆モデル式(式(34))にリミット処理後の目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMD(k)及びGAIRCYLCMD(k-1)を適用し、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD(k)を算出する。
【0100】
ステップS34では、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD(k)[g/TDC]を下記式(65)に適用し、目標吸入空気流量GAIRCMD(k)[g/sec]に変換する。
GAIRCMD(k)=GAIRTHCMD(k)×NE/KCV (65)
【0101】
ステップS35では、目標吸入空気流量GAIRCMD(k)を前記式(35)に適用し、補正目標吸入空気流量GAIRCMDC(k)を算出する。ステップS36では、式(31)の「HGAIR」として補正目標吸入空気流量GAIRCMDC(k)を適用し、開口面積流量関数値KTH(TH)を算出する。ステップS37では、ステップS36で算出した開口面積流量関数値KTH(TH)に応じて、図6(a)に示す開口面積流量関数テーブルを逆検索し、目標開度THCMD(k)を算出する(式(36)の演算を行う)。
【0102】
図13は、図12のステップS32におけるリミット処理のフローチャートである。
ステップS41では、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7の電源電圧VBDBWに応じて、スロットル弁開度の単位時間当たりの最大変化量DTHlmt[deg/ms]を算出し、スロットル弁3の制御周期TCTL(例えば2ms)当たりの最大変化量DTHLMT[deg/TCTL]に変換する。なお、最大変化量DTHLMTは、予め設定した値を用いてもよい。
【0103】
ステップS42では、検出スロットル弁開度TH及び最大変化量DTHLMTを下記式(66)に適用し、基本開き側限界値THOFHBを算出する。式(66)は、THMAXと(TH+DTHLMT)の小さい方を選択する演算を行うものであり、THMAXは所定最大開度(例えば85deg)である。
THOFHB=Min(THMAX,TH+DTHLMT) (66)
【0104】
ステップS43では、検出スロットル弁開度TH及び最大変化量DTHLMTを下記式(67)に適用し、基本閉じ側限界値THOFLBを算出する。式(67)は、THMINと(TH−DTHLMT)の大きい方を選択する演算を行うものであり、THMINは所定最小開度(例えば0.5deg)である。
THOFLB=Max(THMIN,TH−DTHLMT) (67)
【0105】
ステップS44では、検出スロットル弁開度TH及び基本開き側限界値THOFHBを下記式(68)に適用し、開き側限界値THOFHを算出する。式(68)のCTHADDは、0から1の間の値に設定される開き側なまし係数である。
THOFH=TH+CTHADD×(THOFHB−TH) (68)
【0106】
ステップS45では、検出スロットル弁開度TH及び基本閉じ側限界値THOFLBを下記式(69)に適用し、閉じ側限界値THOFLを算出する。式(69)のCTHDECは、0から1の間の値に設定される閉じ側なまし係数である。
THOFL=TH+CTHDEC×(THOFLB−TH) (69)
【0107】
閉じ側なまし係数CTHDECは、開き側なまし係数CTHADDより大きな値に設定され、かつなまし係数CTHDEC及びCTHADDは、ともに制御周期TCTLが長くなるほどより大きな値をとるように設定される。
【0108】
ステップS46では、開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLを、弁通過空気流量モデル式(式(1))に適用し、対応する上限吸入空気流量GAIRLMH[g/sec]及び下限吸入空気流量GAIRLML[g/sec]を算出する。さらに上限吸入空気流量GAIRLMH及び下限吸入空気流量GAIRLMLを下記式(70)及び(71)に適用し、補正上限吸入空気流量GAIRLMHLS及び補正下限吸入空気流量GAIRLMLLSを算出する。
GAIRLMHLS=GAIRLMH×KMDLL×KMDLS (70)
GAIRLMLLS=GAIRLML×KMDLL×KMDLS (71)
【0109】
ステップS47では、補正上限吸入空気流量GAIRLMHLS[g/sec]及び補正下限吸入空気流量GAIRLMLLS[g/sec]に(KCV/NE)を乗算して、上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH[g/TDC]及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLML[g/TDC]を算出する。
【0110】
ステップS48では、上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLを吸気管モデル式(式(15a))に適用し、上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLを算出する。
【0111】
ステップS49では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMHより大きいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMHに設定し(ステップS50)、ステップS51に進む。ステップS49の答が否定(NO)であるときは直ちにステップS51に進む。
【0112】
ステップS51では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLより小さいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLに設定し(ステップS52)、処理を終了する。ステップS51の答が否定(NO)であるときは直ちに処理を終了する。
【0113】
次に本実施形態における燃料噴射制御を説明する。図14は、気筒吸入空気量及び燃料噴射時間の演算処理(以下単に「演算処理PS」という)の実行タイミングと、燃料噴射実行期間との関係を説明するためのタイムチャートであり、特定気筒(例えば#1気筒)の排気行程及び吸気行程が示されている。図14(a)には、排気弁及び吸気弁のリフトカーブが示されており、同図(b)には演算処理PSの実行期間が示され、同図(c)には#1気筒に対応する燃料噴射弁の開弁期間(燃料噴射実行期間)が示されている。演算処理PSは、クランク角度30度毎に実行される(1行程期間中に6回実行される)。
【0114】
この図に示された例では、演算処理PS1で算出される燃料噴射開始時期INJOBJstart及び燃料噴射終了時期INJOBJendに基づいて燃料噴射が開始され、燃料噴射実行中に実行される演算処理PS2及びPS3においても、気筒吸入空気量GAIRCYLNの最新の演算結果に応じて算出される燃料噴射時間TOUTに応じて、燃料噴射終了時期INJOBJendの修正演算が実行され、実際の燃料噴射実行期間の修正が行われる。これにより、エンジン1の過渡運転状態においても、実際の気筒吸入空気量に対応する燃料量を精度良く供給することができる。
【0115】
図15は、演算処理PSに含まれる燃料噴射制御処理のフローチャートである。
ステップS61では、図7の処理で算出される最新の気筒吸入空気量GAIRCYLNを読み込み、ステップS62では、下記式(81)により燃料噴射弁6の開弁時間、すなわち燃料噴射時間TOUTを算出する。
TOUT=TIMAFM×KPA×KTA×KTW×KCMD+TIVB (81)
【0116】
式(81)のTIMAFMは、基本燃料噴射時間であり、気筒吸入空気量GAIRCYLNに比例するように(空燃比が理論空燃比となるように)設定される。KPA,KTA,及びKTWは、それぞれ大気圧PA、吸気温TA、及び冷却水温TWに応じて設定される環境補正係数であり、KCMDはエンジン運転状態に応じて設定される目標当量比である。またTIVBは、燃料噴射弁6に電源を供給するバッテリの出力電圧に応じて設定される電圧補正項である。基本燃料噴射時間TIMAFMの算出には、気筒吸入空気量GAIRCYLNの最新の算出値が適用される。
【0117】
ステップS63では、燃料噴射実行中であるか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、ステップS62で算出した燃料噴射時間TOUT[sec]を、エンジン回転数NEに応じて燃料噴射期間TOUTdeg[deg]に変換する。燃料噴射期間TOUTdegは、燃料噴射時間TOUTをクランク角度で示される期間に変換したものである。
【0118】
ステップS65では、エンジン運転状態に応じて燃料噴射終了時期INJOBJendを算出する。具体的には、冷却水温TWが低いときは、燃料が気化し難いため、燃料噴射終了時期INJOBJendは、高水温時より進角させた値に設定され、またエンジン負荷が増加するほど遅角するように設定される。
【0119】
ステップS66では、燃料噴射期間TOUTdeg及び燃料噴射終了時期INJOBJendを下記式(82)に適用し、燃料噴射開始時期INJOBJstartを算出する。
INJOBJstart=INJOBJend−TOUTdeg (82)
【0120】
ステップS63の答が肯定(YES)、すなわち燃料噴射実行中であるときは、最新の燃料噴射時間TOUTをステップS64と同様に、燃料噴射期間TOUTdegに変換する(ステップS67)。ステップS68では、燃料噴射期間TOUTdeg及びステップS66で算出した燃料噴射開始時期INJOBJstartを下記式(83)に適用し、燃料噴射終了時期INJOBJendを修正する。
INJOBJend=INJOBJstart+TOUTdeg (83)
【0121】
図15の処理により、図14を参照して説明した燃料噴射制御が行われる。すなわち、気筒吸入空気量GAIRCYLNの最新の演算結果を用いて、燃料噴射実行中においても燃料噴射終了時期INJOBJendを修正することによって、過渡運転状態における燃料噴射量の制御精度を向上させることができる。
【0122】
図16は、要求トルクTRQCMDが急激に増加する過渡状態における動作例のタイムチャートである。図16の破線が要求トルクTRQCMDの推移を示し、実線が実出力トルクTRQの推移を示す。このように、本実施形態に示した体積効率ηv及び気筒吸入空気量GAIRCYLNの算出手法、並びに燃料噴射制御手法を採用することにより、良好なトルク制御性能を得ることができる。
【0123】
以上のように本実施形態では、図7のステップS21において式(29)を用いて体積効率ηvを算出するようにしている。式(29)を用いることにより、気筒吸入空気量GAIRCYLN及び理論気筒吸入空気量GAIRSTDとともに、気筒容積Vcylと吸気管容積Vinとの比、及び推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHをさらに用いて体積効率ηvが算出され、繰り返し(更新)演算を行うことなく、すなわちCPUの負荷の大幅に増加させることなく、体積効率ηvの算出精度を高めることができる。
【0124】
また目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが算出され、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMD、目標気筒吸入空気量の前回算出値GAIRCYLCMD(k-1)、及び体積効率ηvを、吸気管モデル式の逆モデル式である式(34)に適用して目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDが算出されるので、吸入空気流量制御の目標値となる目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDの算出精度を高め、特にエンジンの過渡運転状態において吸入空気流量の制御精度を向上させることができる。
【0125】
また弁通過空気流量モデル式である式(1)に、スロットル弁開度THを適用して推定吸入空気流量HGAIRが出され、弁通過空気流量モデル式の逆モデル式である式(32)に、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDから変換された目標吸入空気流量GAIRCMDを適用してスロットル弁の目標開度THCMDが算出される。したがって、必要な吸入空気流量を得るための目標開度THCMDの算出精度を高め、特にエンジンの過渡運転状態において吸入空気流量の制御精度を向上させることができる。
【0126】
また体積効率ηv及び気筒吸入空気量GAIRCYLNが、エンジンの1行程期間より短い演算周期、すなわちクランク角30度周期で、1行程期間内において複数回算出されるので、過渡運転状態において正確な気筒吸入空気量GAIRCYLNを得ることができる。
【0127】
また算出される気筒吸入空気量GAIRCYLNの最新の演算結果を用いて燃料噴射期間(燃料噴射開始時期INJOBJstart,INJOBJend)が制御されるので、過渡運転状態における燃料供給量を、実際の気筒吸入空気量に対応する正確な値に制御し、エンジン出力トルクの制御性を向上させることができる。
【0128】
本実施形態では、スロットル弁開度センサ4、吸気圧センサ8、及び吸気温センサ9、がそれぞれスロットル弁開度検出手段、吸気圧検出手段、及び吸気温検出手段に相当し、ECU5が、吸入空気流量取得手段、理論気筒吸入空気量算出手段、体積効率算出手段、気筒吸入空気量算出手段、目標気筒吸入空気量算出手段、目標吸入空気流量算出手段、目標開度算出手段、及び燃料噴射制御手段を構成する。具体的には、図5の処理が吸入空気流量取得手段に相当し、図7のステップS21が体積効率算出手段に相当し、ステップS23が気筒吸入空気量算出手段に相当し、図12のステップS31が目標気筒吸入空気量算出手段に相当し、ステップS33が目標吸入空気流量算出手段に相当し、ステップS34〜S37が目標開度算出手段に相当し、図15の処理が燃料噴射制御手段に相当する。
【0129】
[変形例1]
上述した実施形態では、長期モデル補正係数KMDLLの算出に適用するモデル化誤差係数KTHERRを、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを用いて算出するようにしたが(式(41))、定常的なエンジン運転状態においてモデルパラメータAの学習を行うことにより、吸入空気流量センサ13の検出遅れの影響を排除することができる。したがって、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMに代えて、検出遅れ補正を行わない推定吸入空気流量HGAIRを用いてモデル化誤差係数KTHERRを算出するようにしてもよい。
【0130】
[変形例2]
上述した実施形態では、モデルパラメータAの算出に適用される分母加重平均値XXXTTL及び分子加重平均値XXYTTLを、それぞれ式(63)及び(64)により算出するようにしたが、これらの数式に代えて、下記式(63a)及び(64a)を用いて算出するようにしてもよい。
【0131】
【数13】
【数14】
【0132】
式(63a)及び(64a)のKG1〜KG4は、重み係数であり下記式(91)及び(92)を満たすように設定される。
KG1>KG2>KG3>KG4 (91)
KG1+KG2+KG3+KG4=1 (92)
【0133】
弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差は、図4に示したように、スロットル弁開度THが低下するほど増加する傾向がある。したがって、式(91)を満たすように設定される重み係数KG1〜KG4を用いることにより、モデルパラメータAの同定演算に上記傾向を適切に反映させ、長期モデル補正係数KMDLLの算出精度を高めることができる。
なお、重み係数KG1〜KG4は、これらのうちいずれかが同じ値となるように設定してもよい。
【0134】
[変形例3]
理論気筒吸入空気量GAIRSTDの算出方法として、特許文献1の段落0083〜0089に開示された以下の手法を用いてもよい。この場合には、吸気圧PBAが基準大気圧PA0に等しくかつ吸気温TAが基準温度TA0に等しい状態における最大気筒吸入空気量GAIRWOTを、エンジン回転数NEに対応して(複数の所定エンジン回転数毎に)予め求めてテーブルとして記憶しておき、エンジン運転時にはエンジン回転数NEに応じたテーブル検索により最大気筒吸入空気量GAIRWOTを算出し、検出される吸気圧PBA、基準大気圧PA0、及び最大気筒吸入空気量GAIRWOTを特許文献1の式(21)に適用して基準理論気筒吸入空気量GAIRSTDBを算出し、さらに検出される吸気温TA及びエンジン冷却水温TWに応じて基準理論気筒吸入空気量GAIRSTDBを補正することにより、理論気筒吸入空気量GAIRSTDを算出することができる。
【0135】
[第2の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態における長期モデル補正係数KMDLLの算出手法を変更したものである。以下に説明する点以外は第1の実施形態と同一である。
第1の実施形態では、スロットル弁開度THを式(46)に適用して誤差パラメータKTHERRCORを算出したが、本実施形態では、式(46)で示される関係をKTHERRCORテーブルとして設定し、テーブル検索により誤差パラメータKTHERRCORを算出するようにしたものである。
【0136】
図17は、KTHERRCORテーブルを表形式で示す図である。KTHERRCORテーブルには、スロットル弁開度THについて1[deg]から(THB−1)[deg]に対応して、テーブル設定値KTHERRCOR[1],KTHERRCOR[2],…,KTHERRCOR[THB-1](KTHERRCOR[p],p=1〜(THB−1))が設定され、所定開度THBに対応して「1」が設定されている。
【0137】
図18は、KTHERRCORテーブルを更新する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで演算周期TSで実行される。
ステップS161〜S165は、図10のステップS111〜S115と同一である。
ステップS166では、図19に示す設定値更新処理を実行し、テーブル設定値KTHERRCOR[p](p=1〜(THB−1))の更新を行う。
【0138】
図19のステップS171では、図18のステップS164で算出されたモデル化誤差係数KTHERRから「1」を減算して誤差パラメータKTHERRCORを算出する。ステップS172では、スロットル弁開度THに応じて更新すべきテーブル設定値KTHERRCOR[pS]を選択する。例えばスロットル弁開度THが0.3[deg]であるときは、テーブル設定値KTHERRCOR[1](pS=1)が選択され、スロットル弁開度THが1.8[deg]であるときは、テーブル設定値KTHERRCOR[2](pS=2)が選択される。
【0139】
ステップS173では、更新すべきテーブル設定値KTHERRCOR[pS]の算出に適用されたデータ数NDATA[pS]を「1」だけインクリメントする。NDATA[pS]zは、前回更新時のデータ数である。ステップS174では、ステップS171で算出した誤差パラメータKTHERRCORを下記式(101)に適用し、テーブル設定値KTHERRCOR[pS]の更新を行う。式(101)のKTHERRCOR[pS]zは、更新前のテーブル設定値である。
【数15】
【0140】
図19の処理により、テーブル設定値KTHERRCOR[p]の更新を行うことにより、スロットル弁開度THの1[deg]から(THB−1)[deg]までの範囲において、テーブルの設定格子点(TH=1,2,…,(THB−1))毎に設定値の更新が行われ、更新回数が増加するほど各格子点におけるテーブル設定値KTHERRCOR[p]の精度を高め、長期モデル補正係数KMDLLの算出精度を高めることができる。
【0141】
[変形例]
上述した第2の実施形態では、誤差パラメータKTHERRCORが設定されたKTHERRCORテーブルを使用するようにしたが、誤差パラメータKTHERRCORに代えて長期モデル補正係数KMDLLが設定されたKMDLLテーブルを使用し、KMDLLテーブルの設定値を更新するようにしてもよい。
【0142】
また、KTHERRCORテーブルにおけるスロットル弁開度THの格子点は1[deg]間隔で設定したが、これに限るものではなく、1[deg]より大きい間隔または小さい間隔で設定するようにしてもよい。
【0143】
[第3の実施形態]
本実施形態では、気筒吸入空気量GAIRCYLNの1行程期間後の予測値である予測気筒吸入空気量GAIRCYLPを算出し、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPに応じて燃料噴射時間TOUTを算出するようにしたものである。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0144】
先ず推定スロットル弁通過空気流量の今回値HGAIRTH(k)及び前回値HGAIRTH(k-1)を下記式(111)に適用し、予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHP(k)を算出する。式(111)のKPは、実験により設定される所定予測ゲインである。
HGAIRTHP(k)=HGAIRTH(k)
+{HGAIRTH(k)−HGAIRTH(k-1)}×KP (111)
【0145】
次に下記式(112)により予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)を算出する。式(112)は、式(15a)と同形式の吸気管モデル式であり、式(15a)のGAIRCYLN(k-1)及びHGAIRTH(k)を、それぞれGAIRCYLN(k)及びHGAIRTHP(k)に代えたものである。
GAIRCYLP(k)=(1−CGACYL)×GAIRCYLN(k)
+CGACYL×HGAIRTHP(k) (112)
【0146】
そして、算出される予測気筒吸入空気量GAIRCYLPを燃料噴射時時間TOUTの算出に適用する。なお、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPを算出し、これを燃料噴射時時間TOUTに適用する場合には、予測気筒吸入空気量GAIRCYLP及び燃料噴射時間TOUTの演算処理は、TDCパルスの発生に同期して実行される。
【0147】
本実施形態によれば、予測スロットル弁通過流量HGARITHPが算出され、予測スロットル弁通過流量HGARITHP及び気筒吸入空気量GAIRCYLNを、吸気管モデル式(式(112))に適用して予測気筒吸入空気量GAIRCYLPが算出されるので、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの算出精度を高め、特にエンジンの過渡運転状態において燃料供給量の制御精度を向上させることができる。また、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPを点火時期制御にも適用することにより、点火時期の制御精度も向上させることができる。
【0148】
本実施形態では、式(111)の演算が吸入空気流量予測手段に相当し、式(112)の演算が気筒吸入空気量予測手段に相当する。
【0149】
なお上述した第1〜第3実施形態は、種々の他の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、気筒吸入空気量GAIRCYLN(及び予測気筒吸入空気量GAIRCYLP)の算出には、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを使用したが、吸入空気流量センサ13により検出される吸入空気流量GAIR[g/sec]を1TDC期間毎の流量に変換した検出スロットル弁通過空気流量GAIRTHを使用するようにしてもよい。
【0150】
また、上述した実施形態では大気圧センサ33により検出した大気圧PAを用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出するようにしたが、公知の大気圧推定手法(例えば米国特許第6016460号公報参照)を用いて算出した推定大気圧HPAを用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出するようにしてもよい。
【0151】
また上述した実施形態では、本発明をガソリン内燃エンジンに適用した例を示したが、本発明はディーゼル内燃エンジンにも適用可能である。また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0152】
1 内燃機関
1a 気筒
2 吸気管
3 スロットル弁
4 スロットル弁開度センサ(スロットル弁開度検出手段)
5 電子制御ユニット(吸入空気流量取得手段、理論気筒吸入空気量算出手段、体積効率算出手段、気筒吸入空気量算出手段、吸入空気流量予測手段、気筒吸入空気量予測手段、目標気筒吸入空気量算出手段、目標吸入空気流量算出手段、目標開度算出手段、燃料噴射制御手段)
8 吸気圧センサ(吸気圧検出手段)
9 吸気温センサ(吸気温検出手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒に吸入される新気量である気筒吸入空気量を、前記機関の吸気管をモデル化した吸気管モデル式を用いて算出する気筒吸入空気量算出手段を備える内燃機関の制御装置において、
前記吸気管を通過する新気の流量である吸入空気流量を取得する吸入空気流量取得手段と、
前記機関の吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、
前記機関に吸入される空気の温度である吸気温を検出する吸気温検出手段と、
前記吸気圧及び吸気温に基づいて理論気筒吸入空気量を算出する理論気筒吸入空気量算出手段と、
前記気筒の容積と前記吸気管の容積との比、前記気筒吸入空気量の前回算出値、前記理論気筒吸入空気量、及び前記吸入空気流量を用いて、前記機関の体積効率を算出する体積効率算出手段とを備え、
前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率、前記吸入空気流量、及び前記気筒吸入空気量の前回算出値を前記吸気管モデル式に適用して、前記気筒吸入空気量を算出することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記吸入空気流量の予測値である予測吸入空気流量を算出する吸入空気流量予測手段と、
前記予測吸入空気流量及び前記気筒吸入空気量を、前記吸気管モデル式に適用して、前記気筒吸入空気量の予測値である予測気筒吸入空気量を算出する気筒吸入空気量予測手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記気筒吸入空気量の目標値である目標気筒吸入空気量を算出する目標気筒吸入空気量算出手段と、
前記目標気筒吸入空気量、前記目標気筒吸入空気量の前回算出値、及び前記体積効率を、前記吸気管モデル式の逆モデル式に適用して、前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量を算出する目標吸入空気流量算出手段とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記吸気管に配置されたスロットル弁の開度を検出するスロットル弁開度検出手段と、
前記目標吸入空気流量に応じて前記スロットル弁の目標開度を算出する目標開度算出手段とを備え、
前記吸入空気流量取得手段は、前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に、前記スロットル弁開度を適用して前記吸入空気流量を取得し、
前記目標開度算出手段は、前記弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に、前記目標吸入空気流量を適用して前記目標開度を算出することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率及び前記気筒吸入空気量を、前記機関の1行程期間より短い演算周期で該1行程期間内に複数回算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記機関に燃料を供給するための燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁による燃料噴射期間を制御する燃料噴射制御手段とを備え、
前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率及び前記気筒吸入空気量を、前記機関の吸気行程期間内に複数回算出し、
前記燃料噴射制御手段は、前記気筒吸入空気量算出手段により算出される最新の演算結果を用いて前記燃料噴射期間を制御することを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項1】
内燃機関の気筒に吸入される新気量である気筒吸入空気量を、前記機関の吸気管をモデル化した吸気管モデル式を用いて算出する気筒吸入空気量算出手段を備える内燃機関の制御装置において、
前記吸気管を通過する新気の流量である吸入空気流量を取得する吸入空気流量取得手段と、
前記機関の吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、
前記機関に吸入される空気の温度である吸気温を検出する吸気温検出手段と、
前記吸気圧及び吸気温に基づいて理論気筒吸入空気量を算出する理論気筒吸入空気量算出手段と、
前記気筒の容積と前記吸気管の容積との比、前記気筒吸入空気量の前回算出値、前記理論気筒吸入空気量、及び前記吸入空気流量を用いて、前記機関の体積効率を算出する体積効率算出手段とを備え、
前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率、前記吸入空気流量、及び前記気筒吸入空気量の前回算出値を前記吸気管モデル式に適用して、前記気筒吸入空気量を算出することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記吸入空気流量の予測値である予測吸入空気流量を算出する吸入空気流量予測手段と、
前記予測吸入空気流量及び前記気筒吸入空気量を、前記吸気管モデル式に適用して、前記気筒吸入空気量の予測値である予測気筒吸入空気量を算出する気筒吸入空気量予測手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記気筒吸入空気量の目標値である目標気筒吸入空気量を算出する目標気筒吸入空気量算出手段と、
前記目標気筒吸入空気量、前記目標気筒吸入空気量の前回算出値、及び前記体積効率を、前記吸気管モデル式の逆モデル式に適用して、前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量を算出する目標吸入空気流量算出手段とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記吸気管に配置されたスロットル弁の開度を検出するスロットル弁開度検出手段と、
前記目標吸入空気流量に応じて前記スロットル弁の目標開度を算出する目標開度算出手段とを備え、
前記吸入空気流量取得手段は、前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に、前記スロットル弁開度を適用して前記吸入空気流量を取得し、
前記目標開度算出手段は、前記弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に、前記目標吸入空気流量を適用して前記目標開度を算出することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率及び前記気筒吸入空気量を、前記機関の1行程期間より短い演算周期で該1行程期間内に複数回算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記機関に燃料を供給するための燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁による燃料噴射期間を制御する燃料噴射制御手段とを備え、
前記気筒吸入空気量算出手段は、前記体積効率及び前記気筒吸入空気量を、前記機関の吸気行程期間内に複数回算出し、
前記燃料噴射制御手段は、前記気筒吸入空気量算出手段により算出される最新の演算結果を用いて前記燃料噴射期間を制御することを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−154289(P2012−154289A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15937(P2011−15937)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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