説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、燃料中のアルコール濃度が高い場合でも、気筒間のA/Fインバランスを正確に検出することを目的とする。
【解決手段】ECU50は、クランク角センサ40の出力に基いて回転変動を検出し、回転変動に基いて気筒間のA/Fインバランスを検出するインバランス検出制御を実行する。また、インバランス検出制御の実行時に燃料中のアルコール濃度が所定値B以上である高い場合には、可変動弁機構38を駆動することにより、各気筒のトルクを低減する。これにより、燃料中のアルコール濃度に応じてトルクが増加する分だけ当該トルクを低減し、トルク(回転変動)をガソリン使用時と同等のレベルに保持することができる。従って、リーンインバランス発生時の回転変動と正常時の回転変動とを十分に異ならせることができ、リーンインバランスを高い精度で安定的に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばFFV(Flexible-Fuel Vehicle)等の車両に搭載される内燃機関の制御装置に関し、特に、アルコール燃料を用いる内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2009−257245号公報)に開示されているように、アルコール燃料を用いる内燃機関の制御装置が知られている。従来技術では、燃料中のアルコール濃度を検出する機能と、気筒間の空燃比のばらつき(A/Fインバランス)を検出する機能とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−257245号公報
【特許文献2】特開平6−050202号公報
【特許文献3】特開2007−113513号公報
【特許文献4】特開2006−220133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、アルコール燃料を用いる内燃機関においては、例えば1気筒だけが他の気筒よりもリーンとなるA/Fインバランスが生じた場合に、リーン気筒と他気筒との間に生じるトルクの差がガソリンの使用時と比較して小さくなる傾向がある。この傾向は、燃料中のアルコール濃度が高い場合に顕著となる。このため、従来技術において、例えば機関回転数の変化(回転変動)に基いてA/Fインバランスを検出する場合には、アルコール燃料の使用によりA/Fインバランスの検出精度が低下し、排気エミッションが悪化するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、燃料中のアルコール濃度が高い場合でも、気筒間のA/Fインバランスを高精度で安定的に検出することができ、排気エミッションを良好に保持することが可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、燃料中のアルコール濃度を検出するアルコール濃度検出手段と、
機関回転数の回転変動に基いて複数気筒間のA/Fインバランスを検出するインバランス検出制御を実行するインバランス検出手段と、
前記インバランス検出制御の実行時に燃料中のアルコール濃度が所定値以上である場合に、燃料中のアルコール成分により各気筒のトルクが増加する分だけ当該トルクを低減させるトルク低減手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、吸気バルブの開弁特性を可変に設定することが可能な可変動弁機構を備え、前記トルク低減手段は、前記可変動弁機構により前記吸気バルブの開弁特性を変更してトルクを低減させる構成としている。
【0008】
第3の発明は、吸気通路の少なくとも一部を開閉することにより筒内に吸気されるガスの流れを制御する吸気制御弁を備え、前記トルク低減手段は、前記吸気制御弁を開弁側に駆動してトルクを低減させる構成としている。
【0009】
第4の発明によると、前記インバランス検出手段は、複数気筒のうち1気筒のみの空燃比がリーン側にずれるリーンインバランスを検出する構成としている。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、トルク低減手段は、インバランス検出制御を行うときに燃料中のアルコール濃度が高い場合でも、高いアルコール濃度に応じて増加した分のトルクを低減し、トルク(回転変動)をガソリン使用時と同等のレベルに保持することができる。これにより、高濃度のアルコール燃料を用いた場合でも、A/Fインバランスの発生時と正常時とで回転変動の差分を十分に確保することができ、A/Fインバランスを高い精度で安定的に検出することができる。
【0011】
第2の発明によれば、トルク低減手段は、可変動弁機構を用いて吸気バルブの開弁特性を変更することにより、他の機構等を用いる場合と比較してトルクを速やかに低減し、高い応答性を得ることができる。
【0012】
第3の発明によれば、トルク低減手段は、例えばスワールコントロールバルブや、タンブルコントロールバルブ等の吸気制御弁を開弁側に駆動して、トルクを低減することができる。これにより、比較的簡単な構造でトルクの低減を実現することができる。
【0013】
第4の発明によれば、リーンインバランスの発生時には、空燃比がリーンとなることによる燃焼悪化と、アルコール濃度が高くなることによる燃焼改善とのバランスにより回転変動が増減する。このため、燃料中のアルコール濃度が高い場合には、リーンバランスの発生時と正常時とで回転変動の差分が小さくなるが、トルク低減手段を用いることによりリーンインバランスを正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【図2】A/Fインバランスの発生により排気エミッションが悪化する様子を示す説明図である。
【図3】燃料中のアルコール濃度と回転変動との関係を示す特性線図である。
【図4】燃料中のアルコール濃度に対するトルクの感度を示す特性線図である。
【図5】筒内の空気流の乱れ及び点火前の筒内温度と、燃焼速度との関係を示す特性線図である。
【図6】トルク低減制御により変更する吸気バルブの開弁特性を示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態2において、エンジンの吸気通路に設けられたTCVを示す断面図である。
【図9】吸気通路をTCVの位置で長さ方向と垂直に破断した断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図7を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。本実施の形態のシステムは、例えばFFV(Flexible Fuel Vehicle)等の車両に搭載される内燃機関として多気筒型のエンジン10を備えている。なお、図1は、エンジン10に搭載された複数気筒のうちの1気筒を例示したものであり、個々の気筒では、ガソリン及びアルコール燃料の使用が可能となっている。エンジン10の各気筒には、ピストン12により燃焼室14が形成されており、ピストン12はクランク軸16に連結されている。また、エンジン10は、各気筒に吸入空気を吸込む吸気通路18を備えており、吸気通路18には、吸入空気量を調整する電子制御式のスロットルバルブ20が設けられている。
【0016】
一方、エンジン10は、各気筒の排気ガスが流通する排気通路22を備えており、その上流側は排気通路マニホールド24により構成されている。排気マニホールド24は、上流側が分岐して各気筒の排気ポートにそれぞれ接続され、下流側が合流している。また、排気通路22には、排気マニホールド24の下流側で排気ガスを浄化する触媒26が設けられている。また、エンジンの各気筒には、吸気ポート及び筒内にそれぞれ燃料を噴射する例えば2つの燃料噴射弁28,30と、混合気に点火する点火プラグ32と、吸気通路18を筒内に対して開閉する吸気バルブ34と、排気通路22を筒内に対して開閉する排気バルブ36とを備えている。なお、本発明では、必ずしも2つの燃料噴射弁28,30を備える必要はなく、少なくとも一方の燃料噴射弁が搭載されていればよい。
【0017】
また、エンジン10は、吸気バルブ34の開弁特性を可変に設定する可変動弁機構38を備えている。可変動弁機構38は、例えば特開2008−45460号公報に記載されているような公知の構成を有し、それぞれ揺動可能に支持された2本のアームと、アクチュエータにより回転駆動される制御軸とを有している。各アームが連結された状態では、吸気バルブ用の駆動カムから一方のアームにカム力が入力されると、このカム力が他方のアームに伝達され、吸気バルブ34が開閉する。また、カム力に対する他方のカムの揺動量は、制御軸の回転角に応じて変化し、これに伴って吸気バルブ34の開弁特性(開閉タイミング及びリフト量)が変化するように構成されている。なお、本発明では、可変動弁機構38として、例えば特開2007−16710号公報に記載されている電磁駆動式の動弁機構等や、特開2000−87769号公報に号公報に記載されているVVT(Variable Valve Timing system)等を用いてもよい。
【0018】
また、本実施の形態のシステムは、エンジンの制御に必要な各種のセンサからなるセンサ系統と、エンジンの運転状態を制御するECU(Engine Control Unit)50とを備えている。まず、センサ系統について述べると、クランク角センサ40は、クランク軸16の回転に同期した信号を出力するもので、エアフローセンサ42は、吸入空気量を検出する。また、空燃比センサ44は、排気空燃比を検出するもので、排気マニホールド24の合流部の下流側かつ触媒26の上流側となる位置で排気通路22に設けられている。また、アルコール濃度センサ46は、燃料中のアルコール濃度(エタノール濃度)を検出するもので、本実施の形態のアルコール濃度検出手段を構成している。センサ系統には、この他にも、エンジン冷却水の温度(エンジン水温)を検出する水温センサ、スロットルバルブ20の開度を検出するスロットルセンサ、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ等が含まれている。これらのセンサはECU50の入力側に接続されている。ECU50の出力側には、スロットルバルブ20、燃料噴射弁28,30、点火プラグ32、可変動弁機構38等のアクチュエータが接続されている。
【0019】
そして、ECU50は、センサ系統により検出したエンジンの運転情報に基いて各アクチュエータを駆動し、運転制御を行う。具体的には、クランク角センサ40の出力に基いてエンジン回転数(機関回転数)とクランク角とを検出し、エアフローセンサ42により吸入空気量を検出する。また、エンジン回転数と吸入空気量とに基いて機関負荷(負荷率)を算出し、吸入空気量、負荷率、燃料中のアルコール濃度等に基いて燃料噴射量を算し、更にクランク角に基いて燃料噴射時期及び点火時期を決定する。そして、燃料噴射時期が到来した時点で燃料噴射弁28,30を駆動し、点火時期が到来した時点で点火プラグ32を駆動する。これにより、各気筒内で混合気を燃焼させ、エンジンを運転することができる。また、ECU50は、空燃比センサ44の出力等に基いて、排気空燃比が目標空燃比(例えば、理論空燃比)と一致するように燃料噴射量をフィードバック制御する空燃比制御を実行する。
【0020】
[実施の形態1の特徴]
一般に、空燃比制御中に気筒間のA/Fインバランスが発生すると、排気エミッションの悪化を招くことが知られている。ここで、A/Fインバランスとは、例えば燃料噴射弁の異常等により、少なくとも1つの気筒の空燃比が他気筒の空燃比に対して許容範囲を超えてずれた状態として定義される。図2は、A/Fインバランスの発生により排気エミッションが悪化する様子を示す説明図である。まず、図2(a)は、#1〜#4気筒を有する4気筒エンジンにおいて、各気筒の空燃比が14.7に揃った状態(正常時)を例示している。この図に示すように、空燃比センサ44は、各気筒の排気ガスが合流した位置で排気空燃比を検出するので、空燃比制御は、全気筒の空燃比の平均値(図中に示す例では、14.7)が目標空燃比となるように空燃比を制御することになる。
【0021】
一方、図2(b)は、例えば1つの気筒(#1気筒)の空燃比が15.8にリーン化し、A/Fインバランスが発生した状態(異常時)を示している。なお、以下の説明では、このように1つの気筒の空燃比だけが許容範囲を超えてリーンとなるA/Fインバランスを「リーンインバランス」と称するものとする。図2(b)に示すように、リーンインバランスが発生した場合には、全体の空燃比の平均値が目標空燃比となるように空燃比制御が行われると、リーン化していない他の気筒の空燃比が目標空燃比よりもリッチ側(例えば14.0)に制御されるようになり、排気エミッションが悪化する。
【0022】
(インバランス検出制御)
上記現象を回避するために、本実施の形態では、以下に述べるインバランス検出制御を実行し、エンジンの回転変動(気筒間のトルクの差)に基いてA/Fインバランスを検出する。具体的に述べると、インバランス検出制御では、例えば各気筒の点火時期等に対応する所定のタイミングが到来する毎に、クランク角(または前記タイミング間の経過時間)を検出し、この検出結果に基いてエンジン回転数の時間的な変化である回転変動を定量的に算出する。一般に、回転変動とA/Fインバランスとの間には相関があるので、A/Fインバランスの発生は回転変動に基いて検出することができる。即ち、インバランス検出制御では、回転変動が許容範囲内に収まっている場合に、A/Fインバランスが発生してないと判定する。
【0023】
一方、回転変動が許容範囲を超えた場合には、何れかの気筒(異常気筒)の空燃比が他の気筒(正常気筒)と比較してずれることにより、A/Fインバランスが発生したと判定する。一例を挙げると、リーンインバランスが発生した場合には、異常気筒で発生するトルクだけが減少する。この結果、異常気筒のトルク発生タイミングにおいてエンジン回転数が低下し、回転変動が許容範囲を超えて増加することになるので、リーンインバランスを検出することができる。なお、インバランス検出制御は、例えばエンジンの暖機が完了して触媒26が活性化した後のアイドル運転中など、所定の実行条件が成立した状態(安定した運転状態)において実行される。
【0024】
ところで、アルコール燃料を用いる場合には、ガソリンの使用時と比較して回転変動の挙動が異なり、燃料中のアルコール濃度に応じて回転変動が変化する特性がある。図3は、燃料中のアルコール濃度と回転変動との関係を示す特性線図である。この特性線図は、暖気完了後のアイドル運転中に得られるものであり、下側(正常時)の特性線は、A/Fインバランスが発生していない場合の回転変動を示し、上側(異常時)の特性線は、リーンインバランスが発生した場合の回転変動を示している。また、図中の「基準」とは、燃料中のアルコール濃度が零(=ガソリン)の場合の回転変動を示している。
【0025】
インバランス検出制御では、例えば回転変動が図3中に示す所定の異常判定値Aよりも小さい場合に、A/Fインバランスが発生していないと判定し、回転変動が異常判定値A以上となった場合には、リーンインバランスが発生したと判定する。ここで、異常判定値Aは、例えばガソリンの使用時にリーンインバランスが発生した場合の回転変動の最小値に応じて設定されている。また、リーンインバランスにより生じる回転変動(異常時の特性線)は、燃料中のアルコール濃度と共に変化する。しかし、アルコール濃度が所定値(図3中の上限判定値B)よりも低い場合には、正常時と異常時とで回転変動の差分が十分に大きくなり、リーンインバランスの発生時にのみ回転変動が異常判定値Aよりも大きくなるので、回転変動に基いてリーンインバランスを検出することができる。
【0026】
これに対し、燃料中のアルコール濃度が上限判定値B以上に高い場合には、図3に示すように、リーンインバランス発生時の回転変動が減少し、正常時と異常時とで回転変動の差分が小さくなる傾向がある。この場合には、リーンインバランス発生時の回転変動が異常判定値Aよりも減少したり、正常時と異常時の回転変動が判別し難い状態となるため、リーンインバランスの検出精度が低下する。この傾向は、空燃比がリーンとなることによる燃焼悪化と、アルコール濃度が高くなることによる燃焼改善とのバランスにより生じると考えられる。図4は、燃料中のアルコール濃度に対するトルクの感度を示す特性線図である。一般に、燃焼速度は、燃料中のアルコール濃度が高いほど速くなるので、トルクもアルコール濃度と共に増加するが、このトルクの増加傾向は、リーンインバランス率が高くなるほど鈍化する。このため、正常時のトルクと異常時のトルクとの差分は、図4に示すように、低アルコール濃度側でガソリン使用時よりも大きくなるが、高アルコール濃度側では、両者の差分が小さくなる傾向が生じる。
【0027】
(トルク低減制御)
そこで、本実施の形態では、インバランス検出制御を実行するときに、燃料中のアルコール濃度と運転条件(エンジン水温、エンジン回転数、負荷率等)とに基いて燃焼速度を制御し、リーンインバランスにより生じる回転変動をガソリン使用時と同等のレベルに調整する。より具体的に述べると、インバランス検出制御の実行時に燃料中のアルコール濃度が上限判定値B以上である場合には、トルク低減制御を実行して各気筒のトルクを低減させる。この場合、トルク低減制御では、燃料中のアルコール濃度に応じてトルクが増加する分だけ当該トルクを低減し、実際に出力されるトルクがガソリン使用時のトルクと同等となるように制御する。
【0028】
次に、トルク低減制御の具体例について説明する。図5は、筒内の空気流の乱れ(筒内乱れ)及び点火前の筒内温度と、燃焼速度との関係を示す特性線図である。前述のように、混合気の燃焼速度とトルクとの間には相関があるが、燃焼速度は、図5に示すように、筒内乱れや点火前の筒内温度に大きく影響される。燃焼速度の制御方法としては、例えば図6に示すように、可変動弁機構38を用いて吸気バルブ34の開弁特性(開閉タイミング、リフト量)を制御する方法がある。
【0029】
一例を挙げると、トルク低減制御では、吸気バルブの閉弁時期(IVC)を遅角する構成としてもよい。これにより、実圧縮比が低くなり、筒内温度(圧縮端温度)及び燃焼速度が低下するので、トルクを低減することができる。また、トルク低減制御では、吸気バルブのリフト量を増加させたり、吸気バルブの開弁時期(IVO)を進角する構成としてもよい。これにより、吸入空気の流速が低下し、筒内乱れが減少するので、トルクを低減することができる。このように、可変動弁機構38を用いて吸気バルブ34の開弁特性を変更することにより、吸気流制御弁等を用いる場合と比較してトルクを速やかに低減し、高い応答性を得ることができる。
【0030】
従って、トルク低減制御によれば、インバランス検出制御を行うときに燃料中のアルコール濃度が高い場合でも、高いアルコール濃度に応じて増加した分のトルクを低減し、トルク(回転変動)をガソリン使用時と同等のレベルに保持することができる。これにより、高濃度のアルコール燃料を用いた場合でも、リーンインバランスの発生時と正常時とで回転変動の差分を十分に確保することができ、リーンインバランスを高い精度で安定的に検出することができる。なお、上記トルク低減制御の実行時には、燃焼が緩慢となるために筒内から排出されるガスのエミッションが悪化する。しかし、トルク低減制御は、インバランス検出制御の実行時、即ち、触媒26が活性化した状態で実行されるので、触媒26の下流側では排気エミッションを良好に保持することができる。
【0031】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
次に、図7を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図7は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰り返し実行されるものとする。図7に示すルーチンでは、まず、ステップ100において、アルコール濃度センサ46の出力に基いて燃料中のアルコール濃度を取得する。
【0032】
また、ステップ102では、インバランス検出制御を実行する所定の実行条件が成立したか否かを判定する。即ち、ステップ102では、エンジン水温が暖気完了後に対応する所定値以上であり、かつ、エンジン回転数が所定範囲内であり、かつ、空燃比制御の実行中であり、かつ、吸気系に還流される蒸発燃料の濃度(パージ濃度)が所定値以下であり、かつ、アイドル運転の実行条件が成立している場合に、エンジン回転が安定しているので、インバランス検出制御の実行条件が成立したものと判定する。そして、ステップ102の判定が成立した場合には、ステップ104において、前述のインバランス検出制御(リーンインバランスモニタ)を開始する。一方、ステップ102の判定が不成立の場合には、成立するまで待機する。
【0033】
次に、ステップ106では、燃料中のアルコール濃度が上限判定値B以上であるか否を判定し、この判定が成立した場合には、ステップ108〜112においてトルク低減制御を実行する。具体的に述べると、ステップ108では、エンジンの運転状態、燃料中のアルコール濃度等に基いてIVC、IVO及び吸気バルブリフト量の要求値を算出し、ステップ110では、この算出結果に基いて可変動弁機構38のアクチュエータの制御目標値を決定する。そして、ステップ112では、可変動弁機構38のアクチュエータを駆動することにより、吸気バルブ34の開弁特性を変更し、各気筒のトルクがガソリン使用時と同等のレベルとなるようにトルクを低減させる。一方、ステップ106の判定が不成立の場合には、トルク低減制御が必要となるほど燃料中のアルコール濃度が高くないので、ステップ108〜112を実行せずに、ステップ114に移行する。
【0034】
次に、ステップ114では、インバランス検出制御により回転変動を検出し、ステップ116では、検出した回転変動が異常判定値Aよりも小さいか否かを判定する。この判定が成立した場合には、ステップ118において、リーンインバランスが発生していない正常な状態と判定し、ステップ120では、吸気バルブ34の開弁特性を変更前の状態に戻した後に、本ルーチンを終了して通常の制御に移行する。一方、ステップ116の判定が不成立の場合には、ステップ122において、リーンインバランスが発生した異常な状態と判定し、ステップ124では、MILの点灯等によりA/Fインバランスが発生したことを車両の運転者等に報知する。
【0035】
なお、前記実施の形態1では、図7中のステップ104,114,116が請求項1におけるインバランス検出手段の具体例を示し、ステップステップ106〜112が請求項1,2におけるトルク低減手段の具体例を示している。
【0036】
実施の形態2.
次に、図8乃至図10を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態は、前記実施の形態1の可変動弁機構に代えて、吸気制御弁を用いることを特徴としている。なお、本実施の形態では、実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0037】
[実施の形態2の特徴]
本実施の形態では、トルクを低減するためのアクチュエータとして、吸気制御弁を用いる構成としている。吸気制御弁は、吸気通路18の少なくとも一部を開閉することにより、筒内に吸気されるガスの流れを制御するもので、筒内にスワール流を形成するスワールコントロールバルブ(SCV)や、筒内にタンブル流を形成するタンブルコントロールバルブ(TCV)等を含んでいる。本実施の形態では、吸気制御弁としてTCVを例に挙げて説明する。
【0038】
図8は、本発明の実施の形態2において、エンジンの吸気通路18に設けられたTCV60を示す断面図である。この図は、TCV60を吸気通路18の長さ方向に沿って破断している。また、図9は、吸気通路18をTCV60の位置で長さ方向と垂直に破断した断面図である。これらの図に示すように、TCV60は、吸気通路18の少なくとも一部を開閉する弁板により構成され、ECU50により駆動される。
【0039】
次に、TCV60の動作について説明すると、まず、TCV60を閉弁側に駆動した場合には、図8及び図9中に実線で示すように、吸気通路18内の偏った位置に小さな開口部が形成される。そして、吸入空気は、この開口部を介して筒内に流入することにより筒内にタンブル流を形成する。この結果、タンブル流により筒内乱れが増加し、燃焼速度が向上するので、トルクを増加させることができる。一方、TCV60を開弁側に駆動した場合には、点線で示すように、吸気通路18の開口部が大きくなる。これにより、筒内のタンブル流が弱くなり、燃焼速度が低下するので、トルクを低減させることができる。
【0040】
そして、本実施の形態では、インバランス検出制御の実行時に燃料中のアルコール濃度が上限判定値B以上である場合に、トルク低減制御によりTCV60を開弁側に駆動してトルクを低減する。これにより、弁板等からなる比較的簡単な構造を用いて、前記実施の形態1とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、本実施の形態では、トルク低減制御によりSCVを開弁側に駆動して筒内のスワール流を弱くし、これによりトルクを低減する構成としてもよい。
【0041】
[実施の形態2を実現するための具体的な処理]
次に、図10を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図10は、本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、実施の形態1(図7)のステップ108,110,112,120を、ステップ208,210,212,220に置き換えたものであり、これらのステップについてのみ説明する。
【0042】
まず、ステップ208では、エンジンの運転状態、燃料中のアルコール濃度等に基いてTCV60の要求開度を算出し、ステップ210では、この算出結果に基いてTCV60のアクチュエータの制御目標値を決定する。そして、ステップ212では、TCV60のアクチュエータを駆動することにより、TCV60のバルブ開度を変更し、各気筒のトルクがガソリン使用時と同等のレベルとなるようにトルクを低減させる。また、ステップ220では、TCV60のバルブ開度を変更前の状態に戻した後に、本ルーチンを終了して通常の制御に移行する。
【0043】
なお、前記実施の形態2では、図10中のステップ104,114,116が請求項1におけるインバランス検出手段の具体例を示し、ステップ106,208〜212が請求項1,3におけるトルク低減手段の具体例を示している。
【0044】
また、前記実施の形態1,2では、アルコール濃度検出手段として、アルコール濃度センサ46を用いるものとしたが、本発明はこれに限らず、アルコール濃度検出手段として空燃比センサ44を採用し、空燃比センサ44の出力に基いてアルコール濃度を推定する構成としてもよい。
【0045】
また、前記各実施の形態では、アルコール燃料としてエタノール燃料を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、エタノール以外の他のアルコール成分にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 エンジン
12 ピストン
14 燃焼室
16 クランク軸
18 吸気通路
20 スロットルバルブ
22 排気通路
24 排気マニホールド
26 触媒
28,30 燃料噴射弁
32 点火プラグ
34 吸気バルブ
36 排気バルブ
38 可変動弁機構
40 クランク角センサ
42 エアフローセンサ
44 空燃比センサ
46 アルコール濃度センサ(アルコール濃度検出手段)
50 ECU
60 タンブルコントロールバルブ(吸気制御弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料中のアルコール濃度を検出するアルコール濃度検出手段と、
機関回転数の回転変動に基いて複数気筒間のA/Fインバランスを検出するインバランス検出制御を実行するインバランス検出手段と、
前記インバランス検出制御の実行時に燃料中のアルコール濃度が所定値以上である場合に、燃料中のアルコール成分により各気筒のトルクが増加する分だけ当該トルクを低減させるトルク低減手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
吸気バルブの開弁特性を可変に設定することが可能な可変動弁機構を備え、
前記トルク低減手段は、前記可変動弁機構により前記吸気バルブの開弁特性を変更してトルクを低減させる構成としてなる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
吸気通路の少なくとも一部を開閉することにより筒内に吸気されるガスの流れを制御する吸気制御弁を備え、
前記トルク低減手段は、前記吸気制御弁を開弁側に駆動してトルクを低減させる構成としてなる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記インバランス検出手段は、複数気筒のうち1気筒のみの空燃比がリーン側にずれるリーンインバランスを検出する構成としてなる請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−255398(P2012−255398A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129349(P2011−129349)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】