説明

内燃機関の始動制御装置

【課題】始動手段の故障の有無を正確に判定することができる内燃機関の始動制御装置を提供すること。
【解決手段】クランクシャフト8の停止時に記憶されたクランク角度から基準位置までのクランク角度の目標回転角度を演算し、始動装置20によりエンジン1の始動が開始された後、クランクシャフト8の回転停止時からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転したときに、欠歯部が検出されたか否かを判定することより、始動手段20の故障の有無を判定する。そして、クランクシャフト8の回転停止時からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転したときに、欠歯部が検出されない場合には、始動手段20が故障してクランクシャフト8が逆回転した可能性が高いため、始動手段20が故障したものと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動制御装置に関し、特に、内燃機関を始動する始動手段の故障の有無を判定することができる内燃機関の始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては、省エネルギおよび二酸化炭素排出量抑制等の観点から、車両が停止した際に内燃機関を自動的に停止させるアイドリングストップ機能を搭載することが進められている。
【0003】
また、アイドリングストップ機能を搭載した車両に適した始動手段として、スタータモータのピニオン・ギアとクランクシャフトに設けられたリング・ギアとを常時噛み合わせ、内燃機関のクランクシャフトに回転を伝達するのを許容し、クランクシャフトからの動力をスタータモータに伝達するのを阻止するワンウェイクラッチを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、アイドリングストップ機能を有する車両では、内燃機関の始動性を向上させるために、内燃機関の始動時に燃料の噴射および点火を行う気筒を速やかに判別して、その気筒に燃料を噴射・点火する制御を行うものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2に記載されたものは、内燃機関のクランク角、各気筒の上死点(TDC)を検出するNEセンサ(クランク角センサ)およびGセンサ(カムポジションセンサ)と、クランクシャフトに設けられ、等間隔(例えば、10°CA間隔)に形成された第1の歯および1箇所の第1の欠歯部とを有する第1の回転体と、カムシャフトに設けられ、1つの第2の歯およびこの第2の歯以外の外周面によって構成される第2の欠歯部を有する第2の回転体とを備えている。
【0006】
NEセンサは、クランクシャフトの回転に伴い第1の回転体が回転すると、10°CA毎に第1の歯に対応したパルス信号を出力するとともに、第1の欠歯部に対応した基準となる基準位置信号を出力するようになっており、Gセンサは、例えば、360°CA毎に第2の歯に対応したパルス信号を出力するようになっている。
【0007】
そして、これらNEセンサおよびGセンサから出力されるパルス信号に基づき、クランク角と各気筒の上死点(TDC)を求める。例えば、NEセンサにより、第1の欠歯部に対応したパルス信号が出力された場合には、その次の第1の歯に対応したパルス信号が出力されたときが1番気筒♯1または4番気筒♯4のTDCと判定され、そのTDCから180°CA(18パルス)後が3番気筒♯3または2番気筒♯2のTDCと判定される。
【0008】
但し、これのみでは、対応気筒が1番気筒♯1なのか4番気筒♯4なのかを判別できないため、Gセンサにより、第2の回転体の歯に対応したパルス信号が出力された場合には、1番気筒♯1に対応しているものと判定するようになっている。
【0009】
そして、始動手段の作動開始前(アイドリングストップ時)にこのNEセンサとGセンサから出力された各パルス信号に基づいてクランクシャフトとカムシャフトの停止位置を知ることができるため、このクランクシャフトとカムシャフトの停止位置に基づいて燃料の噴射や点火を行う気筒を判別して、始動手段の作動開始時にクランクシャフトの回転が開始された直後から任意の気筒において燃料の噴射や点火を速やかに行って内燃機関の始動を完了させることができる。
【0010】
一方、上述したワンウェイクラッチを備えた始動手段では、内燃機関のクランクシャフトに回転を伝達するのを許容し、クランクシャフトからの動力をスタータモータに伝達するのを阻止することができるため、内燃機関の停止間際のクランクシャフトの揺り返しを防止することができるため、NEセンサとGセンサから出力された各パルス信号に基づいてクランクシャフトとカムシャフトの停止位置をより一層容易に知ることができるようになっている。
【0011】
すなわち、内燃機関の停止直前には、圧縮工程にあるピストンが上死点付近で昇圧された気筒内の空気の圧力で押し戻され、上死点を超えることができないためにクランクシャフトの逆回転が生じる。
【0012】
ところが、ワンウェイクラッチを備えた始動手段では、クランクシャフトからの動力をスタータモータに伝達するのを阻止することができるため、始動手段とクランクシャフトがワンウェイクラッチによりロックされることになり、クランクシャフトに逆回転が生じるのを防止することができる。
【特許文献1】特開2005−9430号公報
【特許文献2】特開平11−13528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような従来のワンウェイクラッチを備えた始動手段にあっては、ワンウェイクラッチに何らかの異常が発生する等してクランクシャフトの逆転を防止することができない事態が発生した場合には、停止間際にNEセンサから出力される信号がクランクシャフトの正転回転および逆転回転を含んだ出力信号となってしまうため、クランクシャフトの停止位置を正確に検出することができない。
【0014】
このため、始動手段の作動開始時に、本来、点火を行うべき気筒以外の他の気筒を点火して、内燃機関に負荷が加わってしまうおそれがあり、始動手段の故障を正確に判定することが望まれる。
【0015】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、始動手段の故障の有無を正確に判定することができる内燃機関の始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る内燃機関の始動制御装置は、上記目的達成のため、(1)始動モータと、前記始動モータの動力を内燃機関のクランクシャフトに伝達するとともに、前記クランクシャフトからの動力を前記始動モータに伝達するのを阻止するワンウェイクラッチとを含んで構成され、前記内燃機関を始動する始動手段と、前記クランクシャフトのクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、前記クランク角度に設定された基準位置を検出する基準位置検出手段と、前記クランクシャフトの回転停止時のクランク角度を記憶するクランク角度記憶手段と、前記クランク角度記憶手段に記憶されたクランク角度に基づいて定まるクランク角度の目標回転角度を演算する目標回転角度演算手段と、前記始動手段により前記内燃機関の始動が開始された後、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、前記基準位置検出手段によって前記基準位置が検出されたか否かを判別することにより、前記始動手段の故障の有無を判定する故障判定手段とを備えたものから構成されている。
【0017】
この構成により、クランクシャフトの停止時に記憶されたクランク角度から基準位置までのクランク角度の目標回転角度を演算し、始動手段により内燃機関の始動が開始された後、クランクシャフトの回転停止時からクランクシャフトが目標回転角度だけ回転したときに、基準位置が検出されたか否かを判別することにより、ワンウェイクラッチ等に何らかの異常が発生してクランクシャフトが逆転駆動したか否かを判定することができ、始動手段の故障の有無を正確に判定することができる。
【0018】
上記(1)に記載の内燃機関の始動制御装置において、(2)前記内燃機関の停止条件が成立すると、燃料噴射制御および点火制御を停止し、前記始動手段により前記内燃機関の始動が開始されると、気筒に対して燃料噴射制御および点火制御を実行する内燃機関制御手段を備え、前記故障判定手段が、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、前記基準位置検出手段によって前記基準位置が検出されたものと判定した場合には、前記内燃機関制御手段が、点火すべき気筒を判別して前記点火すべき気筒に対して燃料噴射制御および点火制御を実行し、前記故障判定手段が、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、前記基準位置検出手段によって前記基準位置が検出されないものと判定した場合には、前記内燃機関制御手段が、最初に点火すべきと判別した気筒に対して燃料噴射制御および点火制御を行うのを中止するものから構成されている。
【0019】
この構成により、クランクシャフトの回転停止時からクランクシャフトが目標回転角度だけ回転したときに、基準位置が検出された場合には、始動手段が正常であるものと判定し、速やかに点火すべき気筒を判別して、点火すべき気筒に燃料噴射制御および点火制御を実施することができ、内燃機関の始動性を向上させることができる。
また、クランクシャフトの回転停止時からクランクシャフトが目標回転角度だけ回転したときに、基準位置が検出されない場合には、始動手段が故障してクランクシャフトが逆回転した可能性が高いため、最初に点火すべきと判定した気筒に対して燃料噴射制御および点火制御を行うのを中止するので、内燃機関の始動後に誤点火が発生するのを防止することができ、内燃機関の負荷が増大してしまうのを防止することができる。
【0020】
上記(2)に記載の内燃機関の始動制御装置において、(3)前記故障判定手段が、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、前記基準位置検出手段によって前記基準位置が検出されないものと判定した場合には、前記内燃機関制御手段が、前記基準位置検出手段によって検出された基準位置に基づいて点火すべき気筒を再度判別して燃料噴射制御および点火制御を実行するものから構成されている。
【0021】
この構成により、始動手段により内燃機関の始動が開始された後、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、基準位置が検出されない場合には、始動手段が故障してクランクシャフトが逆回転した可能性が高いため、実際に検出されたクランク角度に設定された基準位置に基づいて点火すべき気筒を再度判別して燃料噴射制御および点火制御を行うので、点火すべき気筒を正確に判別して、その気筒に点火を行うことができる。このため、始動手段の故障時であっても点火すべき気筒を正確に判別して、誤点火が発生するのを確実に防止することができる。
【0022】
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の内燃機関の始動制御装置において、(4)前記故障判定手段が、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、前記基準位置検出手段によって基準位置が検出されない回数を予め定められた回数だけ連続して判別した場合に、前記始動手段の故障を報知するものから構成されている。
【0023】
この構成により、始動手段により内燃機関の始動が開始された後、クランクシャフトの回転停止時からクランクシャフトが目標回転角度だけ回転しているにもかかわらず、基準位置検出手段によって基準位置が検出されない事態が繰り返し発生した場合には、始動手段が確実に故障したものと判定して報知することにより、運転者に始動手段が故障したことを通知することができ、速やかな対処を促すことができる。
【0024】
また、始動手段により内燃機関の始動が開始された後、クランクシャフトの回転停止時からクランクシャフトが目標回転角度だけ回転しているにもかかわらず、基準位置検出手段によって基準位置が検出されない事態が予め定められた回数未満だけ連続して発生した場合には、クランク角の検出信号がノイズ等の影響を受けたものと判定して故障の報知を行わないので、始動手段を継続して使用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、始動手段の故障の有無を正確に判定することができる内燃機関の始動制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る内燃機関の始動制御装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図10は本発明に係る内燃機関の始動制御装置の一実施の形態を示す図である。
【0027】
まず、構成を説明する。
図1において、内燃機関としてのエンジン1のシリンダブロック1aは、4つの気筒2を備えており、これらの気筒2は、順に配列された第1気筒♯1、第2気筒♯2、第3気筒♯3および第4気筒♯4を含んでいる。なお、図1では第1気筒#1のみが示されている。
【0028】
各気筒2内にはピストン3が往復動可能に収容されており、各ピストン3はコンロッド7を介してクランクシャフト8に連結されている。ピストン3の往復運動はコンロッド7によってクランクシャフト8の回転運動に変換されるようになっている。なお、クランクシャフト8の回転位置は、クランク角(°CA)で表される。シリンダヘッド1bはシリンダブロック1aの上部に固定されている。また、ピストン3およびシリンダヘッド1bは、各気筒2内において燃焼室4を画成している。
【0029】
吸気カムシャフト13および排気カムシャフト14は、シリンダヘッド1bに回転可能に支持されており、吸気バルブ11および排気バルブ12は、それぞれ各気筒2に対応するように、シリンダヘッド1bに往復動可能に支持され、燃焼室4と吸気通路9および排気通路10との間をそれぞれ開閉するようになっている。
【0030】
また、吸気通路9内にはスロットルバルブ15が設けられており、このスロットルバルブ15は、図示しないアクセルペダルの踏み込み量に応じてその開度が変化するようになっている。
【0031】
吸気カムシャフト13および排気カムシャフト14は、タイミングベルト19によってクランクシャフト8に連結されており、クランクシャフト8が2回転する間に、吸気カムシャフト13および排気カムシャフト14が1回転する。
【0032】
そして、吸気カムシャフト13および排気カムシャフト14が回転したとき、吸気バルブ11および排気バルブ12がそれぞれ対応する吸気カムシャフト13および排気カムシャフト14によって駆動される。これらの吸気バルブ11および排気バルブ12の駆動に伴い、吸気ポート16および排気ポート17が所定のタイミングで開閉される。
【0033】
また、吸気カムシャフト13とタイミングベルト19との間には、吸気バルブ11の開閉タイミングを変更するための可変バルブタイミング機構(以下、VVTという)18が設けられており、このVVT18は、吸気バルブ11の開閉タイミングを変更するために、クランクシャフト8に対する吸気カムシャフト13の回転位相を変更するように動作する。このVVT18は、後述するコンピュータ等よりなるECU100によって制御される。
【0034】
また、電磁弁よりなるインジェクタ5は燃料噴射手段として機能し、各気筒2にそれぞれ対応するように、吸気ポート16に設けられ、各インジェクタ5は、対応する吸気ポート16内に燃料を噴射する。
【0035】
燃料の噴射時期および噴射量は、インジェクタ5の開放時期および閉鎖時期がECU100によって制御されることにより調整される。なお、本実施の形態では、燃料を4つの気筒2に順次噴射していくシーケンシャル噴射方式が採用される。勿論、他の噴射方式を採用することも可能であることは言うまでもない。
【0036】
また、点火プラグ6は、各気筒2にそれぞれ対応するように、シリンダヘッド1bに取り付けられており、各点火プラグ6は、それぞれイグニッションコイル50に電気的に接続されている。点火プラグ6は、イグニッションコイル50から供給された高電圧に基づいて、吸気ポート16から燃焼室4に供給される燃料と空気との混合気に点火して、その混合気を燃焼させる。
【0037】
イグニッションコイル50における高電圧の発生時期、すなわち、点火プラグ6による点火時期は、ECU100によってイグナイタ49が制御されることにより調整されるようになっている。
【0038】
また、エンジン1には始動手段としての始動装置20が設けられており、この始動装置20は、図2に示すように始動モータとしてのスタータモータ21と、エンジン1のクランクシャフト8にスタータモータ21の回転を伝達するギヤ列22とを備えている。
【0039】
ギヤ列22は、スタータモータ21の出力軸21aによって駆動されるスタータギヤ23と、クランクシャフト8およびスタータモータ21と平行に設けられた支持軸24上にスタータギヤ23と噛み合うように設けられたドリブンギヤ25と、支持軸24上にクラッチとしてのワンウェイクラッチ26を介して同軸的に設けられた中間ギヤ27と、中間ギヤ27と噛み合うようにしてクランクシャフト8と一体回転可能に設けられたクランクギヤ28とを備えている。
【0040】
スタータギヤ23とドリブンギヤ25、中間ギヤ27とクランクギヤ28との間の歯数比はそれぞれのギヤ間でスタータモータ21の出力軸21a側からクランクシャフト8側に向かって回転が減速して伝達されるように設定されている。したがって、ギヤ列22においては回転が漸次減速されてクランクシャフト8まで伝達される。なお、ドリブンギヤ25は支持軸24と一体回転可能である。
【0041】
ワンウェイクラッチ26は、支持軸24から中間ギヤ27に回転伝達を許容し、中間ギヤ27から支持軸24への回転伝達を阻止するように構成されている。すなわち、ワンウェイクラッチ26は、エンジン1のクランクシャフト8に回転を伝達するのを許容し、クランクシャフト8からの動力をスタータモータ21に伝達するを阻止するようになっている。
【0042】
図3はワンウェイクラッチ26の具体的な構成を示す図である。図3において、ワンウェイクラッチ26は、中間ギヤ27の内周面27bに密着するように嵌合されており、中間ギヤ27の内周面27a、27cには、ワンウェイクラッチ26を挟み込むようにして軸受29、30が嵌合している。
【0043】
軸受29、30およびワンウェイクラッチ26は、中間ギヤ27に組み込まれた状態で支持軸24に一体で嵌合されており、中間ギヤ27を支持軸24の軸端部24e側から嵌合させるために、支持軸24の外周面24a、24b、24cの外径は、外周面24a、24b、24cの順に小さくなるように加工されている。
【0044】
また、支持軸24の軸端部24eには軸受32が圧入されており、この軸受32は、板ばね33を介して中間ギヤ27に抜け止めされている。支持軸24は、軸端部24d、24eに嵌合した軸受31、32によって回転自在に支持されている。
【0045】
一方、図4に示すように、ワンウェイクラッチ26は、一対の内輪41と、内輪41を取り囲むようにして設けられた外輪42と、内輪41および外輪42の隙間に配列された複数のスプラグ43と、内輪41および外輪42と同軸的に配置され、スプラグ43の姿勢を保持する一対のリテーナ44とを備えている。
【0046】
スプラグ43はエンジン1の回転数に応じて回転の伝達方向を切換える伝達要素としての機能を有しており、図4(a)(b)に示すように動作するようになっている。すなわち、エンジン1の始動時には、図4(a)に示すように、内輪41に正方向の回転R1が入力される。このとき、スプラグ43は、内輪41の外周面41aと外輪42の内周面42aとの両方に接触しているので、接触面の摩擦力により外輪42に正方向の回転R2を伝達することができる。
【0047】
一方、エンジン1の運転時には、図4(b)に示すように、クランクシャフト8の回転が外輪42に伝達され、正方向の回転R3が入力される。このとき、スプラグ43は遠心力を受けて矢印r1の方向に回転して傾斜する。スプラグ43の一方の対角方向の長さL1は他方の長さL2よりも短いので、傾斜したスプラグ43は内輪41の外周面41aに接触することができなくなる。
【0048】
外輪42はスプラグ43と共に内輪41の周りを空転することになるので、外輪42の正方向の回転R3の伝達は阻止される。エンジン1の停止寸前には、スプラグ43が受ける遠心力が小さくなるので、スプラグ43は図4(a)に示す姿勢に戻る。この結果、車両の停止時には、ワンウェイクラッチ26によって中間ギヤ27がロックされる。したがって、スタータモータ21とクランクシャフト8もワンウェイクラッチ26によりロックされることになり、クランクシャフト8に逆回転が生じないようにすることができる。
【0049】
一方、図5に示すように、クランクシャフト8が2回転する間に、各気筒#1〜#4ではそれぞれ、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程を含む1つの機関サイクルが実行される。したがって、クランクシャフト8の回転位置は、クランクシャフト8の2回転分の回転角度、すなわち、0°CA〜720°CAを1つのサイクルとして表される。
【0050】
また、本実施の形態のエンジン1では、図5に示すように、クランクシャフト8が180°CA回転する毎に、第1気筒#1内のピストン3、第3気筒#3内のピストン3、第4気筒#4内のピストン3、第2気筒#2内のピストン3が順に、圧縮行程における上死点(図5では、単にTDCと略記する)に配置される。
【0051】
換言すれば、各気筒2内のピストン3は、第1気筒#1、第3気筒#3、第4気筒#4および第2気筒#2の順で、180°CAずつ位相がずれた状態で往復動する。したがって、0°CA〜720°CAの角度範囲においてクランクシャフト8の回転位置を特定することにより、各気筒2内におけるピストン3の行程位置の判別、すなわち、気筒判別を行うことができる。
【0052】
なお、図5において、各気筒#1〜#4の吸気行程に主に対応して示された斜線領域は、吸気バルブ11の開放期間を示し、その上の斜線領域は噴射期間を示す。吸気ポート16に噴射された燃料と空気との混合気は、吸気バルブ11の開放に伴い、対応する気筒2に導入される。
【0053】
また、図6に示すように、クランクシャフト8にはクランクロータ45が設けられており、このクランクロータ45は、クランクシャフト8と一体回転するようになっている。また、クランクロータ45の近傍にはクランク角センサ46が設けられており、このクランクロータ45の外周面に対向するように、エンジン1のシリンダブロック1aに取り付けられている。
【0054】
クランクロータ45の外周面には、34個の突起部45aが等間隔(本実施の形態では10°CA)で設けられている。但し、クランクロータ45の外周面上の一箇所のみ、隣接する2つの突起部45aの配設間隔が30°CAとなっている。
【0055】
したがって、クランクロータ45は、36個の突起を等間隔で有するクランクロータから、連続する2つの突起を削除した形状となっている。この2つの突起が削除された部分に相当する箇所を、クランクロータ45上における気筒2の判別を行う基準位置としての欠歯部45bという。
【0056】
クランクロータ45の回転に伴い各突起部45aがクランク角センサ46との対向位置を通過する毎に、クランク角センサ46は1つのNEパルス信号(クランクパルス)を発生するようになっている。
【0057】
クランク角センサ46としては、半導体式センサ、例えば、ホール素子および磁気抵抗素子等の磁気センサ、あるいは、各種の光学式センサを用いることができる。また、クランク角センサ46としては、電磁ピックアップコイルを用いることもできる。
【0058】
クランクロータ45は、適用されるクランク角センサ46においてパルスが誘起され得るように、その材質または形状が決定される。したがって、クランクロータ45上には、適用されるクランク角センサ46の種類に応じて、突起部45a以外の指標、例えば凹部や孔が設けられてもよい。
【0059】
また、クランク角センサ46から出力されるNEパルス信号は、ECU(Electric Control Unit)100に出力されるようになっており、ECU100は、クランク角センサ46から入力されるNEパルス信号に基づいて10°CA刻みのクランク角度やエンジン1の回転速度を演算するようになっている。
【0060】
また、ECU100は、突起部45aと隣接する突起部45aの間隔が長いNEパルス信号が入力されると、欠歯部45bを検出したものとして、この欠歯部45bをクランクシャフト8の基準位置と判定し、この基準位置に基づいて燃料の噴射制御および点火制御を行う気筒2を判別するようになっている。
【0061】
本実施の形態では、クランク角センサ46およびECU100がクランクシャフト8のクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、クランク角度に設定された基準位置を検出する基準位置検出手段とを構成している。
【0062】
また、図7に示すように、吸気カムシャフト13にはカムロータ47が設けられており、このカムロータ47は吸気カムシャフト13と一体的に回転するようになっている。また、吸気カムシャフト13の近傍にはカムポジションセンサ48が設けられており、このカムポジションセンサ48は、カムロータ47の外周面に対向するように、エンジン1のシリンダヘッド1bに取り付けられている。
【0063】
また、カムロータ47の外周面には、第1突起部47a、第2突起部47b、第3突起部47cが設けられており、補助指標としての第2突起部47bおよび第3突起部47cは、互いに180°の角度間隔を以て配置されている。
【0064】
また、気筒判別のために用いられる判別指標としての第1突起部47aは、第2突起部47bおよび第3突起部47cに対して90°の角度間隔を以て配置されており、第1突起部47aから180°離れた位置には突起が存在しない。
【0065】
カムロータ47の回転に伴い第1突起部47a、第2突起部47b、第3突起部47cがカムポジションセンサ48との対向位置を通過する毎に、カムポジションセンサ48は1つのNEパルス信号(カムパルス)を発生する。
【0066】
カムポジションセンサ48としては、クランク角センサ46と同様に、例えば、磁気センサや光学式センサ等の半導体式センサ、または、電磁ピックアップコイルを用いることができる。カムロータ47についても、適用されるカムポジションセンサ48においてパルスが誘起され得るように、その材質または形状が決定される。したがって、カムロータ47上には、適用されるカムポジションセンサ48の種類に応じて、第1突起部47a、第2突起部47b、第3突起部47c以外の指標、例えば凹部や孔が設けられてもよい。
【0067】
また、ECU100は、CPU(Central Processing Unit)100a、RAM(Random Access Memory)100b、ROM(Read Only Memory)100cを含んだコンピュータから構成されており、ROM100cに記憶されたプログラムに従ってエンジン1の運転状態を制御するために必要な各種の処理を実行するようになっている。
【0068】
また、ECU100は、クランク角センサ46およびカムポジションセンサ48からの信号が入力される図示しない入力回路と、インジェクタ5およびイグナイタ49に駆動信号を出力する図示しない出力回路とを備えている。また、イグナイタ49は、点火プラグ6による点火時期を制御する機能を有している。
【0069】
クランクシャフト8と共にクランクロータ45が回転したとき、クランク角センサ46は図5に示すようなクランクパルスの列を発生してECU100に出力する。図6に示すように、クランクロータ45上の突起部45aの配列に対応して、クランク角センサ46が10°CA回転する毎に1つのクランクパルスを発生する。
【0070】
但し、クランクロータ45が1回転する間にクランクロータ45上の欠歯部45bがクランク角センサ46を1回通過するので、そのときには欠歯部45bの前後の突起部45aのクランクパルスの間隔が30°CAとなり、10°CAのクランク角パルスと明らかに異なるクランクパルスが入力される。したがって、ECU100は、この30°CA間隔のクランクパルスの入力に基づいてクランクロータ45上の欠歯部45bの通過を検出することができる。
【0071】
換言すれば、ECU100は、30°CA間隔のクランクパルスの入力に基づき、クランクシャフト8が特定の回転角度にあることを認識することができる。この30°CA間隔となるクランクパルスの発生からクランクシャフト8が所定角度だけ回転するまでの間の期間は、気筒を判別するための判別期間G(判別角度範囲)として設定されている。
【0072】
本実施の形態では、この判別期間Gが、30°CA間隔となるクランクパルスを1番目としてそこから13番目のクランクパルスが発生するまでの期間、すなわち、欠歯部45bの検出からクランクシャフト8が120°CAだけ回転するまでの角度範囲に設定される。
【0073】
一方、吸気カムシャフト13と共にカムロータ47が回転したとき、カムポジションセンサ48は図5に示すように、カムロータ47上の第1突起部47a、第2突起部47b、第3突起部47cにそれぞれ対応する第1カムパルスCP1、第2カムパルスCP2、第3カムパルスCP3を発生してECU100に出力する。
【0074】
図5に示すように、第1突起部47aに対応する第1カムパルスCP1が判別期間G中に発生するよう、クランク角センサ46およびカムポジションセンサ48とクランクロータ45およびカムロータ47の位置関係が設定されている。
【0075】
なお、吸気カムシャフト13が1回転する間に、クランクシャフト8が2回転して判別期間Gが2回出現する。判別カム信号としての第1カムパルスCP1は、吸気カムシャフト13が1回転する間に出現する2回の判別期間Gのうちの一方に同期して発生する。判別期間G中に第1カムパルスCP1が発生したか否かに基づき、クランクシャフト8の2回転中における回転位置を特定して、気筒判別を行うことができる。
【0076】
本実施の形態では、図5に示すように、判別期間G中に第1カムパルスCP1が発生する場合には、判別期間Gの終了時期に対応するクランクパルスを1番目としてそこから10番目のクランクパルスが発生するタイミングで、すなわち、判別期間Gが終了してからクランクシャフト8が90°CAだけ回転した後に、第1気筒#1のピストン3が圧縮行程における上死点に配置される。
【0077】
一方、判別期間G中に第1カムパルスCP1が発生しない場合には、判別期間Gの終了時期に対応するクランクパルスを1番目としてそこから10番目のクランクパルスが発生するタイミングで、第4気筒#4のピストン3が圧縮行程における上死点に配置される。
【0078】
第1気筒#1のピストン3が圧縮行程における上死点に配置されたとき、クランク角を示す値として用いられるクランクカウンタ値CCRが「0」に設定される。このクランクカウンタ値CCRは、クランクシャフト8が30°CA回転する毎に「1」ずつインクリメントされ、「23」に達すると次は再び「0」に戻るようになっている。
【0079】
したがって、このクランクカウンタ値CCRに基づいて、クランクシャフト8の2回転中における回転位置を特定して、各気筒2内におけるピストン3の行程位置の判別、すなわち、気筒判別を行うことができる。そして、気筒の判別をした結果、ピストン3が上死点に位置したタイミングで点火制御を行うようになっている。
【0080】
また、第2突起部47bに対応する第2カムパルスCP2は、第1カムパルスCP1の発生を伴う判別期間Gが終了してから次に欠歯部45bが検出されるまでの期間に発生する。具体的には、第2カムパルスCP2は、第1カムパルスCP1が発生してから吸気カムシャフト13が90°(180°CAに相当)回転した後に発生する。第3突起部47cに対応する第3カムパルスCP3は、第1カムパルスCP1の発生を伴わない判別期間Gが終了してから次に欠歯部45bが検出されるまでの期間に発生する。
【0081】
具体的には、第3カムパルスCP3は、第2カムパルスCP2が発生してから吸気カムシャフト13が180°(360°CAに相当)回転した後に発生する。
【0082】
さらに、第1カムパルスCP1、第2カムパルスCP2、第3カムパルスCP3の発生タイミングの何れも、全ての気筒#1〜#4における噴射禁止期間を外すことにより、第1カムパルスCP1、第2カムパルスCP2、第3カムパルスCP3の何れの発生タイミングであっても、全ての気筒#1〜#4に対して燃料噴射を実行することが可能である。
【0083】
一方、ECU100には、スロットルバルブ15の開度を検出するスロットルセンサ51および運転手によって操作されるシフトレバーのシフト位置を検出するシフトポジションセンサ52からの出力信号が入力されるようになっており、ECU100は、スロットルセンサ51からアクセル開度が"0"であることを示す信号が入力され、かつ、シフトポジションセンサ52からシフト位置が"ニュートラル位置"または"パーキング位置"であることを示す信号が入力されたときに、アイドリングストップ条件が成立したものと判定して、燃料噴射制御および点火制御を停止するようになっている。
【0084】
なお、アイドリングストップ条件の成立する態様としては、クランク角センサ46からの出力信号に基づいて車速が"0"で、その時間が一定時間継続したこと等を条件としてもよい。
【0085】
また、ECU100は、クランクシャフト8の回転停止時に、クランクシャフト8のクランク角度を10°CA刻みで記憶するようになっている。例えば、クランク角センサ46が検出したクランク角度が50°CAであれば、クランクカウンタ値として「1」を記憶している。本実施の形態では、ECU100がクランク角度記憶手段を構成している。
【0086】
また、本実施の形態では、アイドリングストップ時に、アクセルペダルが操作されることにより、スロットルセンサ51からアクセル開度が"0"でないことを示す信号が入力されたときには、アイドリングストップ条件が非成立となったものと判定して、始動装置20を作動する。
【0087】
また、ECU100は、RAM100bに記憶されたクランク角度から予め定められたクランク角度の目標回転角度として欠歯検出目標位置を演算するようになっている。
【0088】
そして、ECU100は、始動装置20によりエンジン1の始動が開始された後、クランク角センサ46によって検出されたNEパルス信号が欠歯検出目標位置に相当するクランク角度だけカウントアップされたときに、すなわち、クランクシャフト8の回転停止時からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転したときに、クランク角センサ46によって欠歯部45bが検出されたか否かを判別することにより、始動装置20の故障の有無を判定するようになっている。
【0089】
そして、ECU100は、始動装置20によりエンジン1の始動が開始された後に、始動装置20の故障の有無の判定結果に基づいて点火すべき気筒を判別し、点火すべき気筒に対して燃料噴射制御および点火制御を実行する。
【0090】
本実施の形態のECU100は、クランク角センサ46によって検出されたNEパルス信号のカウントアップ値が欠歯検出目標位置に相当するパルス値になったときに、欠歯部45bが検出されない場合には、始動装置20が故障してクランクシャフト8の逆回転が発生した可能性が高いものと判定するようになっている。
【0091】
すなわち、始動装置20のワンウェイクラッチ26等に何らかの理由によって異常が発生すると、アイドリングストップ時にクランクシャフト8が停止する間際にクランクシャフト8が逆回転してしまうため、クランクシャフトの揺り返しが発生してしまうことがある。
【0092】
この現象は、圧縮工程にあるピストン3が上死点付近で昇圧された気筒2内の空気の圧力で押し戻され、上死点を超えることができないためにクランクシャフト8に逆回転を生じてしまうために生じる。
【0093】
この場合には、クランクシャフト8の停止時に記憶したクランク角度が実際のクランク角度と異なってしまい、このクランク角度に基づいて気筒判別して燃料噴射制御および点火制御を実行すると、誤点火が発生するおそれがある。
【0094】
そこで、本実施の形態のECU100は、クランク角センサ46によって検出されたNEパルス信号のカウントアップ値が欠歯検出目標位置に相当するパルス値になったときに、欠歯部45bが検出されない場合には、始動装置20が故障してクランクシャフト8の逆回転が発生した可能性が高いものと判定し、本来点火すべき気筒、すなわち、最初に点火すべきと判定した気筒に対して燃料噴射制御および点火制御を行うのを中止する制御を行う。
【0095】
また、ECU100は、始動装置20が故障したものと判定したときには、クランク角センサ46が実際に欠歯部45bを検出したときに、この欠歯部45bを基準位置に設定し直して再度、点火すべき気筒を判別して燃料噴射制御および点火制御を実行するようにしている。
【0096】
また、ECU100は、クランク角センサ46によって検出されたNEパルス信号のカウントアップ値が欠歯検出目標位置に相当するパルス値になった場合に欠歯部45bが検出されない回数が予め定められた回数だけ連続した場合に、始動装置20の故障を報知するようになっている。
【0097】
ECU100は、エコラン表示器53を点灯または点滅表示させることにより、始動装置20の故障を報知するようになっている。この報知態様としては、音声やブザー等を用いた聴覚に訴えるような報知態様でもよい。なお、本実施の形態では、ECU100が目標回転角度演算手段および故障判定手段を構成している。
【0098】
次に、図8、図9のフローチャートに基づいて始動装置20の故障検出方法を説明する。なお、図8、図9に示すフローチャートは、ECU100のROM100cに記憶され、CPU100aによって実行される始動装置20の異常検出プログラムである。
【0099】
まず、ECU100のCPU100aは、アイドリングストップ条件が成立したか否かを判別する(ステップS1)。ステップS1では、スロットルセンサ51およびシフトポジションセンサ52からの出力信号に基づいて、アクセル開度が"0"で、かつシフト位置が"ニュートラル位置"または"パーキング位置"である場合に、アイドリングストップ条件が成立したものと判定して燃料噴射制御および点火制御を停止することにより、エンジン1を停止する。
【0100】
次いで、CPU100aは、エンジン1が停止されているか否かを判別し(ステップS2)、エンジンが停止しているものと判定した場合には、停止クランク位置を記憶する(ステップS3)。ここでは、クランクシャフト8の回転停止時に、クランクシャフト8のクランク角度を10°CA刻みで記憶する。図5に示すように、クランク角センサ46が検出した突起部45aから突起部45aまでクランク角度が50°CAであれば、クランクカウンタ値として「1」を記憶する。
【0101】
次いで、始動装置20が"オン"になったか否か、すなわち、スタータモータ21が作動したか否かを判別する(ステップS4)。すなわち、少なくともアクセルペダルが操作されてスロットルセンサ51からアクセル開度が"0"でない信号入力されると、アイドリングストップ条件が非成立となるため、始動装置20が"オン"になる。
【0102】
CPU100aは、始動装置20が"オン"になったものと判定した場合には、図10のマップを用いて欠歯検出目標位置を演算する(ステップS5)。この欠歯検出目標位置を演算するためのマップは、ECU100のROM100cに記憶されている。
【0103】
図10は、クランクシャフト8の停止位置とその停止位置から欠歯部45bを検出するまでの欠歯検出目標位置、すなわち、クランク角の目標回転角度の関係を示す図である。図10において、クランクシャフト8の停止位置が0°〜60°の範囲にある場合には、欠歯検出目標位置は210°の位置に設定されている。例えば、クランク停止位置が10°CAであれば、その位置から210°CAだけクランクロータ45が回転したときに欠歯部45bが検出されるものと予測される。
【0104】
また、クランクシャフト8の停止位置が70°〜420°の範囲にある場合には、欠歯検出目標位置は570°の位置に設定されている。例えば、クランク停止位置が50°CAであれば、そのクランク停止位置から210°CAだけクランクロータ45が回転したときには既に欠歯部45bが検出されるものと予測される。
【0105】
なお、図5から明らかなように、クランク停止位置が、例えば、100°CAや110°CAにあっては、そのクランク停止位置から570°CAだけクランクロータ45が回転したときに、欠歯部45bが2回検出されることになる。
【0106】
そして、1回目の欠歯部45bが検出されるパルス信号は、100°CAの場合には20°CA、110°CAの場合には10°CAであり、始動直後の非常に不安定な信号となるため、ECU100は、1回目にクランク角センサ46から入力される30°CAのパルス信号を無視している。
【0107】
このように欠歯検出目標位置に対してクランクシャフト8の停止位置の幅を持たせたのは、クランクシャフト8の逆回転が発生しない場合に、クランクシャフト8の停止位置から欠歯検出目標位置までの間で欠歯部45bを確実に検出することができるようにするためである。
【0108】
次いで、クランク角センサ46からの出力信号に基づいてNEパルス信号の割込みを行い(ステップS6)、RAM100bに記憶されている停止クランク位置からNEパルス信号をカウントアップする(ステップS7)。
【0109】
次いで、RAM100bに記憶されたクランクシャフト8の停止位置に基づいて点火すべき気筒を判別し、燃料の噴射を実施する(ステップS8)。図5において、RAM100bに記憶されているクランクカウンタ値が「1」の場合には、第4気筒♯4に燃料を噴射する。
【0110】
また、図5から明らかなように、クランクシャフト8が50°CAを含むクランクカウンタ値「1」に相当する停止位置である場合には、第4気筒♯4から後の気筒の燃料噴射順序は、第2気筒♯2、第1気筒♯1、第3気筒♯3の順になる。
【0111】
次いで、クランクシャフト8の停止位置からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転したときに、欠歯部45bを検出するべき位置にあるか否かを判別する(ステップS9)。ステップS9では、クランクシャフト8の回転停止時からのNEパルス信号が欠歯検出目標位置に相当するカウントアップ値になったか否かを判別する。図10では、クランクシャフト8の停止位置のNEパルス信号が50°CAであれば、欠歯検出目標位置が210°になったか否かを判別する。
【0112】
CPU100aは、NEパルス信号のカウントアップ値が欠歯検出目標位置に達していないものと判定した場合には、ステップS5に処理を戻す。また、CPU100aは、クランク角度が欠歯部45bを検出するべき位置にあるものと判定した場合には、30°CA信号が検出されているか、すなわち、欠歯検出が既に行われているか否かを判別する(ステップS10)。
【0113】
ステップS10では、クランクシャフト8の停止位置からクランク角センサ46によって検出されたNEパルス信号のカウントアップ値が欠歯検出目標位置に達したときに欠歯部45bを検出したものと判定してエコラン用始動制御を実行して(ステップS11)、今回の処理を終了する。
【0114】
例えば、クランクシャフト8の停止位置が50°CAのときに、ステップS10の判別結果が"YES"の場合には、この停止位置からNEパルス信号が210°CAだけカウントアップされたときに、欠歯部45bが既に検出されたものと判定して、始動装置20が正常であるものと判定し、ステップS11で第4気筒♯4に点火を行う。また、第4気筒♯4から後の気筒の点火順序は、燃料噴射順序は、第2気筒♯2、第1気筒♯1、第3気筒♯3の順になる。
【0115】
一方、CPU100aは、ステップS10で欠歯検出が行われていないものと判定した場合には、クランクシャフト8の停止位置からクランク角センサ46によって検出されたNEパルス信号のカウントアップ値が欠歯検出目標位置に達しているのにもかかわらず、欠歯部45bが検出されないため、始動装置20の故障の可能性があるものと判定して、図9に示すように最初に点火すべきと判定した気筒に対して燃料噴射および点火をリセットする(ステップS21)。
【0116】
ここで、始動装置20は、クランクシャフト8の逆転防止機構としてワンウェイクラッチ26を有するので、支持軸24から中間ギヤ27に回転伝達を許容し、中間ギヤ27から支持軸24への回転伝達を阻止するようになっている。
【0117】
ところが、クランクシャフト8の停止位置からクランク角センサ46によって検出されたNEパルス信号のカウントアップ値が欠歯検出目標位置に達しているのにもかかわらず、欠歯部45bが検出しない場合には、ワンウェイクラッチ26等に何らかの異常が発生してクランクシャフト8が逆転してしまった可能性があるため、正確なクランク角度を検出することができないおそれがある。したがって、ステップS21では、燃料噴射および点火をリセットして、点火すべき気筒以外の気筒に点火されてしまう誤点火を未然に防ぐ処理を実行するのである。
【0118】
次いで、クランク角センサ46からの出力信号に基づいてNEパルス信号の割込みを行い(ステップS22)、30°CA信号が検出されたか否か、すなわち、欠歯検出が行われたか否かを判別する(ステップS23)。
【0119】
CPU100aは、ステップS23で欠歯検出が行われたものと判定した場合には、クランク角センサ46によって検出された欠歯部45bに基づいてクランク位置を修正し(ステップS24)、この修正されたクランク位置に基づいて点火すべき気筒を判別し、燃料の噴射制御および点火制御を実行する(ステップS25)。
【0120】
次いで、CPU100aは、RAM100bに設けられた異常検出カウンタをカウントアップした後(ステップS26)、この異常検出カウンタのカウントアップ値が、予め定められた値、例えば、"5"以上であるか否かを判別する(ステップS27)。
【0121】
CPU100aは、異常検出カウンタのカウントアップ値が"5"未満であるものと判定した場合には、今回の処理を終了し、異常検出カウンタのカウントアップ値が"5"以上であるものと判定した場合には、クランク角センサ46によって検出されたNEパルス信号のカウントアップ値が欠歯検出目標位置に相当するパルス値になったのにもかかわらずに、欠歯部45bが検出されない回数が連続して5回発生したことから、始動装置20の故障が発生したものと判定して、エコラン表示器53を点灯または点滅表示させることにより、始動装置20の故障を報知する(ステップS28)。次いで、異常検出カウンタの値をリセットして(ステップS29)今回の処理を終了する。
【0122】
このように本実施の形態では、クランクシャフト8の停止時に記憶されたクランク角度から基準位置までのクランク角度の目標回転角度を演算し、始動装置20によりエンジン1の始動が開始された後に、クランクシャフト8の回転停止時からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転したときに、欠歯部45bが検出されたか否かを判定することにより、ワンウェイクラッチ26等にクランクシャフト8が逆転駆動したか否かを判定することができ、始動装置20の故障の有無を正確に判定することができる。
【0123】
また、本実施の形態では、始動装置20によりエンジン1の始動が開始された後に、クランクシャフト8の回転停止時からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転したときに、欠歯部45bが検出された場合には、始動装置20が正常であるものと判定し、点火すべき気筒を判別して燃料噴射制御および点火制御を実施するので、エンジン1の始動性を向上させることができる。
【0124】
また、本実施の形態では、CPU100aが、始動装置20によってエンジン1の始動が開始された後に、始動装置20によりエンジン1の始動が開始された後に、クランクシャフト8の回転停止時からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転したときに、欠歯部45bが検出されない場合には、始動装置20が故障してクランクシャフト8が逆回転した可能性が高いため、最初に気筒すべきと判定した気筒に対して燃料噴射制御および点火制御を行うのを中止するようにしたので、始動装置20の作動開始後に誤点火が発生するのを防止することができ、エンジン1の負荷が増大してしまうのを防止することができる。
【0125】
また、本実施の形態では、CPU100aが、始動装置20によりエンジン1の始動が開始された後に、クランクシャフト8の回転停止時からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転したときに、クランク角センサ46によって欠歯部45bが検出されない場合には、始動装置20が故障してクランクシャフト8が逆回転した可能性が高いため、クランク角センサ46によって検出された欠歯部45bを基準にして点火すべき気筒を再度判別して燃料噴射制御および点火制御を実行するようにしたので、始動装置20の故障時であっても点火すべき気筒を正確に判別して、誤点火が発生するのを確実に防止することができる。
【0126】
また、本実施の形態では、始動装置20によりエンジン1の始動が開始された後に、クランクシャフト8の回転停止時からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転したときに、クランク角センサ46によって欠歯部45bが検出されない回数が5回連続した場合に、エコラン表示器53に始動装置20の故障が発生したことを報知するようにした。
【0127】
すなわち、始動装置20によりエンジン1の始動が開始された後に、クランクシャフト8の回転停止時からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転しているにもかかわらず、クランク角センサ46によって欠歯部45bが検出されない事態が繰り返し発生した場合には、始動装置20が確実に故障したものと判定してエコラン表示器53によって報知することにより、運転者に始動装置20が故障したことを通知することができ、速やかな対処を促すことができる。
【0128】
また、始動装置20によりエンジン1の始動が開始された後に、クランクシャフト8の回転停止時からクランクシャフト8が目標回転角度だけ回転しているにもかかわらず、クランク角センサ46によって欠歯部45bが検出されない事態が5回未満連続して発生しただけの場合には、クランク角の検出信号がノイズ等の影響を受けたものと判定して故障の報知を行わないので、始動装置20を継続して使用することができる。
【0129】
なお、本実施の形態のワンウェイクラッチは、スプラグを用いているが、噛み込み部材としてのコロおよびコロを付勢するばねを有するコロ式のものであってもよい。また、外輪に平面または曲面のカム面が設けられた外輪カム式であってもよく、内輪にカム面が設けられた内輪式であってもよい。
【0130】
また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0131】
以上のように、本発明に係る内燃機関の始動制御装置は、始動手段の故障の有無を正確に判定することができるという効果を有し、内燃機関を始動する始動手段の故障の有無を判定することができる内燃機関の始動制御装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明に係る内燃機関の始動制御装置の一実施の形態を示す図であり、内燃機関の要部断面図である。
【図2】本発明に係る内燃機関の始動制御装置の一実施の形態を示す図であり、エンジンに設けられた始動装置の要部を示す部分断面図である。
【図3】本発明に係る内燃機関の始動制御装置の一実施の形態を示す図であり、図2のIIIで示す部分の拡大図である。
【図4】本発明に係る内燃機関の始動制御装置の一実施の形態を示す図であり、ワンウェイクラッチの作動状態を示す図である。
【図5】本発明に係る内燃機関の始動制御装置の一実施の形態を示す図であり、内燃機関の動作を示すタイミングチャートである。
【図6】本発明に係る内燃機関の始動制御装置の一実施の形態を示す図であり、クランクロータを示す図である。
【図7】本発明に係る内燃機関の始動制御装置の一実施の形態を示す図であり、カムロータを示す図である。
【図8】本発明に係る内燃機関の始動制御装置の一実施の形態を示す図であり、始動装置の異常検出プログラムである。
【図9】図8に後続する始動装置の異常検出プログラムである。
【図10】本発明に係る内燃機関の始動制御装置の一実施の形態を示す図であり、欠歯検出目標位置とクランクシャフトの停止位置との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0133】
1 エンジン(内燃機関)
2 気筒
8 クランクシャフト
20 始動装置(始動手段)
21 スタータモータ(始動モータ)
26 ワンウェイクラッチ(クラッチ)
46 クランク角センサ(クランク角度検出手段、基準位置検出手段、目標基準位置演算手段、故障判定手段)
100 ECU(クランク角度検出手段、基準位置検出手段、内燃機関制御手段、目標回転角度演算手段、故障判定手段)
100b RAM(クランク角度記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
始動モータと、前記始動モータの動力を内燃機関のクランクシャフトに伝達するとともに、前記クランクシャフトからの動力を前記始動モータに伝達するのを阻止するワンウェイクラッチとを含んで構成され、前記内燃機関を始動する始動手段と、
前記クランクシャフトのクランク角度を検出するクランク角度検出手段と、
前記クランク角度に設定された基準位置を検出する基準位置検出手段と、
前記クランクシャフトの回転停止時のクランク角度を記憶するクランク角度記憶手段と、
前記クランク角度記憶手段に記憶されたクランク角度に基づいて定まるクランク角度の目標回転角度を演算する目標回転角度演算手段と、
前記始動手段により前記内燃機関の始動が開始された後、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、前記基準位置検出手段によって前記基準位置が検出されたか否かを判別することにより、前記始動手段の故障の有無を判定する故障判定手段とを備えたことを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の停止条件が成立すると、燃料噴射制御および点火制御を停止し、前記始動手段により前記内燃機関の始動が開始されると、気筒に対して燃料噴射制御および点火制御を実行する内燃機関制御手段を備え、
前記故障判定手段が、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、前記基準位置検出手段によって前記基準位置が検出されたものと判定した場合には、前記内燃機関制御手段が、点火すべき気筒を判別して前記点火すべき気筒に対して燃料噴射制御および点火制御を実行し、
前記故障判定手段が、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、前記基準位置検出手段によって前記基準位置が検出されないものと判定した場合には、前記内燃機関制御手段が、最初に点火すべきと判別した気筒に対して燃料噴射制御および点火制御を行うのを中止することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項3】
前記故障判定手段が、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、前記基準位置検出手段によって前記基準位置が検出されないものと判定した場合には、前記内燃機関制御手段が、前記基準位置検出手段によって検出された基準位置に基づいて点火すべき気筒を再度判別して燃料噴射制御および点火制御を実行することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項4】
前記故障判定手段が、前記クランクシャフトの回転停止時から前記クランクシャフトが前記目標回転角度だけ回転したときに、前記基準位置検出手段によって基準位置が検出されない回数を予め定められた回数だけ連続して判別した場合に、前記始動手段の故障を報知することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の内燃機関の始動制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−68425(P2009−68425A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238162(P2007−238162)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】