説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】 排気浄化手段の熱劣化を抑制しつつトルク変動を起こさずに適切な温度範囲に確実に制御できる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】 ディーゼルエンジン1の排気通路11に設けられたLNT17を燃料噴射弁19からのポスト噴射により排気温度を高めてSパージ温度まで昇温させると共に、LNT温度を検出する温度センサ22からの信号に基づきλのリッチ・リーンの切替えを行ってSパージ可能温度範囲にフィードバック制御する。このリッチ・リーンの切替えの際、合計の噴射量は変化させず、ポスト噴射量とメイン噴射量の割合を変化させてポスト噴射によるトルク変動を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(以下単にエンジンと称す)の排気浄化装置に係り、一層詳細には排気系にNOx吸蔵触媒等を備えた排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排気ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)及び粒子状物質(PM:Particulate Matter)等の汚染物質が含まれる。これらの物質による大気汚染を抑制するため、排気ガス還流(以下単にEGRと称す)及びコモンレール式高圧燃料噴射などの燃焼技術、又はディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst:以下単にDOCと称す)、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter:以下単にDPFと称す)、NOx吸蔵触媒(LNT:Lean NOx Trap:以下単にLNTと称す)等による後処理技術が開発されている。
【0003】
しかし、ディーゼルエンジンにLNTを装着した場合、燃料中に含まれるS(サルファ,硫黄分)が触媒に付着して触媒へのNOx付着を阻害する等で触媒機能(浄化効率)が低下するので、付着・堆積したSを定期的に脱離させる、所謂Sパージが必要である。
【0004】
LNTのSパージには、高温かつリッチな雰囲気が必要である。しかし、ディーゼルエンジンは排気温度が低いので、Sパージを行うには強制的に温度を上げる必要がある。また、ディーゼルエンジンは通常リーンで運転しているので、リッチな雰囲気に切り換える必要がある。
【0005】
そこで従来は、主噴射の直後の副噴射で排気温度を高めると共に、LNTをリッチ雰囲気下においていた。
【0006】
【特許文献1】特開2000−54900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した触媒の昇温・活性手法にあっては、図4のSパージに要求される排気温度のグラフに示すように、Sパージしつつ、触媒の熱劣化を避ける温度範囲(Sパージ可能温度範囲)に制御する必要があると共に、Sの放出特性はλ(空気過剰率又は空燃比)によって変化するため、正確にλを制御する必要がある。また、排気温度は吸入空気量と燃料噴射量,λは吸入空気量と燃料噴射量の比に影響されている。これらの条件を同時に満足させつつ、ドライバの要求トルクにエンジントルクを合わせる必要がある。
【0008】
ところで、特許文献1には、筒内噴射型エンジンにおいて、LNTの昇温の際、全体の空燃比を変化させずに主噴射量と副噴射量とを設定する所謂2段噴射の技術が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1においては、昇温だけの制御であり触媒温度を低下させるものではない。従って、温度を低下させる場合、副噴射を止めることになり、急激に温度が低下して適切な温度範囲(Sパージ可能温度範囲)を外れてしまう虞がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、排気浄化手段の熱劣化を抑制しつつトルク変動を起こさずに温度とλとを適切な範囲に確実に制御できる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る内燃機関の排気浄化装置は以下のように構成される。
(1)内燃機関の排気通路に設けられる排気浄化手段と、上記内燃機関への吸入空気量を調整する吸入空気量調整手段と、上記内燃機関の運転状態に応じて吸入空気量を設定する吸入空気量設定手段と、上記吸入空気量に対し目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、上記目標空燃比に対し燃料噴射量を設定する燃料噴射量設定手段と、上記設定された燃料噴射量をメイン噴射とポスト噴射に分割して上記排気浄化手段を昇温させる燃料噴射制御手段と、上記排気浄化手段の温度または近傍の温度を検出する温度検出手段と、を備えた内燃機関の排気浄化装置において、上記目標空燃比設定手段は、上記排気浄化手段の昇温時に上記温度検出手段の検出出力が所定温度範囲になるように目標空燃比を変更する昇温空燃比変更手段を備え、上記燃料噴射制御手段は、変更された目標空燃比に応じて燃料噴射量を内燃機関に要求されたトルクに対応してメイン噴射量を設定することを特徴とする。
【0012】
(2)上記昇温空燃比変更手段は、上記排気浄化手段の温度を昇温させる第1空燃比と、低下させる第2空燃比を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
(1)の発明によれば、ポスト噴射により排気温度を高めると共に排気浄化手段の温度に応じて空燃比を変更することにより排気浄化手段の温度を制御するようにしたので、昇温させたい温度範囲に確実に制御できると共に、内燃機関に要求されたトルクに対応してメイン噴射量を設定するので、空燃比変更によるトルク変動を抑えることができる。
【0014】
(2)の発明によれば、排気浄化手段の温度を低下させる際の目標空燃比を設定することで、急激な温度低下を防止し、適切な温度範囲に排気浄化手段を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置を実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
図1は本発明の一実施例を示すディーゼルエンジンの排気浄化装置の概略構成図、図2はSパージ時におけるλ制御のフローチャート、図3はLNT温度の制御例を示すグラフである。
【0017】
図1に示すように、多気筒ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)1はシリンダヘッド2とシリンダブロック3とを有し、シリンダブロック3の各シリンダボア内にはピストン4が往復動自在に収装される。このピストン頂面とシリンダボア壁面とシリンダヘッド下面とで燃焼室5が形成される。
【0018】
シリンダヘッド2には、吸気弁6で開閉される吸気ポート7が形成され、この吸気ポート7には吸気マニホールドを含む吸気通路8が接続される。また、シリンダヘッド2には、排気弁9で開閉される排気ポート10が形成され、この排気ポート10には排気マニホールドを含む排気通路11が接続される。
【0019】
吸気通路8と排気通路11との間には可変容量式ターボチャージャ(以下単にVGTと称す)12が介装され、その加圧された吸気がインタークーラ13で冷却されて燃焼室5に供給されるようになっている。また、インタークーラ13下流の吸気通路8とVGT12上流の排気通路11がEGR通路14で接続され、該EGR通路14に介装したEGRバルブ15によりEGR量が制御されるようになっている。
【0020】
さらに、VGT12下流の排気通路11には、排気ガス流れの上流側から順にDOC(排気浄化手段)16とLNT(排気浄化手段)17とが介装される。この際、DOC16及びLNT17は可及的にエンジン1に近づけて配設される。
【0021】
また、シリンダヘッド2には、各気筒の燃焼室5内に燃料を直接噴射する電子制御式の燃料噴射弁19が設けられ、この燃料噴射弁19にはコモンレール20から所定の燃圧に制御された高圧燃料が供給されるようになっている。図中21はコモンレール20に図示しない燃料タンクからの燃料を供給する燃料供給ポンプでエンジン1に連動して回転駆動される。
【0022】
上記燃料噴射弁19は電子制御ユニット(以下単にECUと称す)30により駆動制御される。即ち、ECU30には、アクセル開度を検出するセンサからのアクセル開度信号とエンジン回転数(及びクランク角度)を検出するセンサからのエンジン回転数信号が入力し、これらアクセル開度とエンジン回転数に基づいて目標燃料噴射量、目標噴射時期を検索し、これら目標とする燃料噴射量、噴射時期となるように、燃料噴射弁19における電磁弁の開閉時期を決定している。
【0023】
また、上記ECU30には、LNT17の温度を検出するためにLNT17の入口に取り付けた温度センサ(温度検出手段)22とDOC16上流の排気通路11に介装されてλをリニアに検出するリニア空燃比センサ(以下LAFSと称す)23とVGT12上流の吸気通路8に介装されたエアーフローセンサ24の検出信号が入力される。また、図中25は、上述したEGRバルブ15及びVGT12(ベーン開度)と同様に、ECU30により駆動制御される電子制御式のスロットルバルブ(吸入空気量調整手段)である。
【0024】
そして、上記ECU30は、エアーフローセンサ24で検出される吸入空気量がエンジン1の運転状態に応じた吸入空気量となるようにスロットルバルブ25をフィードバック制御し(吸入空気量設定手段)、かつこの吸入空気量に対し目標λを設定する(目標λ設定手段)と共にこの目標λに対し燃料噴射量を設定する(燃料噴射量設定手段)ようになっている。
【0025】
また、車両走行中に、通常モードからLNT17のSパージを行うSパージモードへの切り替えを適切なインターバルをとって定期的に行うと共に、Sパージモード下では、上記設定された燃料噴射量をピストン4の圧縮上死点(クランク角0°)付近で行われるメイン噴射とこのメイン噴射の直後の比較的早い時期になされるアーリーポスト噴射(以下、単にポスト噴射と称す)とに分割して行い、このポスト噴射により排気温度を上昇させてLNT17を昇温させるようになっている(燃料噴射制御手段)。
【0026】
更に、Sパージモード下では、図2のSパージ時におけるλ制御のフローチャートと図3のLNT雰囲気温度の制御例を示すグラフに示すように、LAFS23で検出したλが目標とするλになるようにポスト噴射量をフィードバック制御すると共に、この目標λをリッチ・リーンに切り替えることでLNT17の温度を制御するようになっている(昇温空燃比変更手段)。
【0027】
即ち、Sパージ可能なリッチなλ1(第1空燃比)での昇温時に温度センサ22で検出した温度が目標温度を超えると、リーンなλ2(第2空燃比)に切り替えてLNT17の温度を低下させる(図2のステップP2〜ステップP4参照)一方上記温度が所定値以下になると、λ2からSパージ可能なλ1に切り替えてLNT17の温度を上昇させる(図2のステップP5〜ステップP7参照)のである。
【0028】
そして、この際、メイン噴射量において、Qmain+Qpost=一定 となるようにかつ、エンジントルクが変化しないようにQmainが求められる。つまり、合計の燃料噴射量は変化させず、ポスト噴射量とメイン噴射量の割合を変化させて、ポスト噴射によるトルク変動を低減するのである。単純にトルクが増えた分メイン噴射量を減らすと、λが合わなくなるのである。
【0029】
このようにして本実施例では、ポスト噴射により排気温度を高めると共にLNT17の雰囲気温度に応じてλを変更することによりLNT17の温度を制御するようにしたので、LNT17の熱劣化を抑制しつつSパージ可能な温度範囲に確実に制御できる。
【0030】
また、エンジンに要求されたトルクに対応してメイン噴射量とポスト噴射量とに分割噴射するので、λ変更によるトルク変動を抑えることができる。
【0031】
また、LNT17の温度を低下させる際にもポスト噴射させるので、LNT17の急激な温度低下を防止し、適切な温度範囲にLNT17を維持することができる。勿論、昇温に要する燃料噴射量も低減でき、燃費が向上する。
【0032】
尚、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種変更が可能であることは言うまでもない。例えば、DOC16は特になくても良い。また、ECU30における通常モードからSパージモードへの切り替えは、適切なインターバルをとって定期的に行うようにしたが、運転履歴からS被毒量を推定したりしてモード切り替えを行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例を示すディーゼルエンジンの排気浄化装置の概略構成図である。
【図2】Sパージ時におけるλ制御のフローチャートである。
【図3】LNT雰囲気温度の制御例を示すグラフである。
【図4】Sパージに要求される排気温度のグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 多気筒ディーゼルエンジン(エンジン)、2 シリンダヘッド、3 シリンダブロック、4 ピストン、5 燃焼室、6 吸気弁、7 吸気ポート、8 吸気通路、9 排気弁、10 排気ポート、11 排気通路、12 可変容量式ターボチャージャ(VGT)、13 インタークーラ、14 EGR通路、15 EGRバルブ、16 ディーゼル酸化触媒(DOC)、17 NOx吸蔵触媒(LNT)、19 燃料噴射弁、20 コモンレール、21 燃料供給ポンプ、22 温度センサ、23 空燃比センサ(LAFS)、24 エアーフローセンサ、25 電子制御式のスロットルバルブ、30 電子制御ユニット(ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられる排気浄化手段と、
上記内燃機関への吸入空気量を調整する吸入空気量調整手段と、
上記内燃機関の運転状態に応じて吸入空気量を設定する吸入空気量設定手段と、
上記吸入空気量に対し目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、
上記目標空燃比に対し燃料噴射量を設定する燃料噴射量設定手段と、
上記設定された燃料噴射量をメイン噴射とポスト噴射に分割して上記排気浄化手段を昇温させる燃料噴射制御手段と、
上記排気浄化手段の温度または近傍の温度を検出する温度検出手段と、
を備えた内燃機関の排気浄化装置において、
上記目標空燃比設定手段は、上記排気浄化手段の昇温時に上記温度検出手段の検出出力が所定温度範囲になるように目標空燃比を変更する昇温空燃比変更手段を備え、
上記燃料噴射制御手段は、変更された目標空燃比に応じて燃料噴射量を設定すると共に内燃機関に要求されたトルクに対応してメイン噴射量を設定することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
上記昇温空燃比変更手段は、上記排気浄化手段の温度を昇温させる第1空燃比と、低下させる第2空燃比を備えたことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−144659(P2006−144659A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335482(P2004−335482)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】