説明

分光エリプソメータ

【課題】分光エリプソメータにおいて基板の傾斜角を測定するとともに小型化する。
【解決手段】分光エリプソメータ1の照明部3は測定用光源部31および補助光源部34を有し、補助光源部34からの補助光は測定用光源部31からの光と共にポーラライザ32を介して基板9上へと導かれる。基板9にて反射された補助光はアナライザ41を介して遮光パターン撮像部44にて受光され、遮光パターンの像が取得される。演算部5では、遮光パターンの像に基づいて基板9の傾斜角が求められ、傾斜角を利用しつつ偏光解析が行われる。分光エリプソメータ1では、基板9の傾斜角を測定するための光学系の一部と、偏光状態を取得するための光学系の一部とが共有されるため、小型化可能とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に偏光した光を照射して対象物からの光の偏光状態を取得する分光エリプソメータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体基板(以下、「基板」という。)上に形成される膜の厚さや光学定数等を測定するために、半導体装置の生産現場に分光エリプソメータが設置されて利用されている。分光エリプソメータでは偏光した光を基板上に照射してその反射光の波長毎の偏光状態を取得し、偏光解析することにより単層膜や多層膜に対する各種測定を行う。
【0003】
このような分光エリプソメータとして、特許文献1では、反射ミラーのみを用いてポーラライザからの偏光した光を基板へと導くとともに基板からの反射光をアナライザへと導くことにより、色収差の発生を抑制しつつ反射光の偏光状態を取得するものが開示されている。
【特許文献1】米国特許第5910842号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、半導体装置の回路パターンの微細化・複雑化に伴い、基板上に形成される膜の厚さに精度が求められるため、分光エリプソメータによる測定の高精度化が求められている。同時に、生産現場の省スペース化を図るため、分光エリプソメータの小型化も要求されている。
【0005】
ところが、特許文献1の手法ではポーラライザとアナライザとの間の光路上にミラーが設けられるため、光の偏光状態が変化したり、ミラーの熱歪み等の影響により光の偏光状態が変動する恐れがあり、基板上に照射される光が反射する際の偏光状態の変化(すなわち、反射光の偏光状態)を精度よく取得することが困難である。ミラーへの光の入射角を小さくして偏光状態の変化を抑制する対策も考えられるが、構造上の制約から分光エリプソメータが大型化してしまう。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、偏光解析に利用される情報を精度よく取得することを主たる目的とし、分光エリプソメータの小型化を図ることも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、分光エリプソメータであって、偏光した光を対象物へと導く照明部と、前記対象物からの前記偏光した光の反射光を受光して前記反射光の波長毎の偏光状態を取得する受光部とを備え、前記照明部が、光源部と、前記光源部からの光から前記偏光した光を得る偏光素子であるポーラライザと、補助光を出射するもう1つの光源部と、前記補助光を前記光源部からの光と重ね合わせる光学素子と、前記もう1つの光源部から前記ポーラライザに至る光路上において、前記光源部から前記対象物に至る光学系の開口絞り位置と光学的にほぼ共役な位置に配置された遮光パターンとを有し、前記受光部が、前記反射光が入射する偏光素子であるアナライザと、前記アナライザを経由した前記反射光が入射する分光器と、前記反射光から前記補助光を取り出すもう1つの光学素子と、前記遮光パターンと光学的に共役な位置に配置され、前記もう1つの光学素子からの前記補助光を受光して前記遮光パターンの像を取得する撮像部とを有し、前記照明部または前記受光部が、前記ポーラライザまたは前記アナライザを回転する回転機構を有する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の分光エリプソメータであって、前記撮像部にて取得された前記遮光パターンの前記像から前記対象物上の前記補助光の照射位置における傾斜角を求める演算部をさらに備える。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の分光エリプソメータであって、前記光源部から前記対象物に至る光路上において、少なくとも1つの反射ミラーが前記光源部と前記ポーラライザとの間のみに配置される。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、前記対象物から前記分光器に至る光路上において、少なくとも1つの反射ミラーが前記アナライザと前記分光器との間のみに配置される。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4にいずれかに記載の分光エリプソメータであって、前記ポーラライザが、シート状の偏光素子である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、前記光源部と前記ポーラライザとの間に複数の反射ミラーが配置される。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の分光エリプソメータであって、前記複数の反射ミラーが、複数の回転楕円体ミラーを含む。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1または2に記載の分光エリプソメータであって、前記照明部が、前記光源部から前記ポーラライザを経由して前記対象物に至る光路上に配置された複数の回転楕円体ミラーをさらに有する。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項1ないし8のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、前記ポーラライザが、透光板上に一定の間隔で複数の金属線を配列形成した透過型のグレーティング偏光素子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、対象物の傾斜角を求めることができるとともに分光エリプソメータの小型化を図ることができる。
【0017】
請求項3の発明では、対象物にポーラライザからの偏光した光をそのままの偏光状態で照射することができ、測定精度を高めることができる。
【0018】
また、請求項4の発明では、対象物からの反射光を偏光状態を変化させることなくアナライザへと導くことができ、測定精度を高めることができる。
【0019】
また、請求項5の発明では色収差の影響を抑制することができる。
【0020】
また、請求項6ないし8の発明では、分光エリプソメータの小型化を図ることができる。
【0021】
また、請求項9の発明では、広範囲の波長帯に属す偏光した光を安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明の一の実施の形態に係る分光エリプソメータ1の構成を示す図である。分光エリプソメータ1は、薄膜(単層膜でも多層膜でもよい。)が形成された基板9が載置されるステージ2、ステージ2を図1中のX方向およびY方向に移動するステージ移動機構21、偏光した光(以下、「偏光光」という。)を基板9上へと導く照明部3、基板9からの偏光光の反射光を受光する受光部4、および、各種演算処理を行うCPUや各種情報を記憶するメモリ等により構成された制御部5を備える。
【0023】
照明部3は偏光解析用の光を出射する高輝度の測定用光源部31を有し、回転する偏光素子である(いわゆる、回転偏光子である)ポーラライザ32により測定用光源部31からの光から偏光光が得られて基板9上へと照射される。また、受光部4は基板9からの反射光が入射する偏光素子である(いわゆる、検光子である)アナライザ41を有し、アナライザ41を経由した反射光が分光器42へと入射して波長毎の偏光状態が取得される。
【0024】
ステージ移動機構21は、ステージ2を図1中のY方向に移動するY方向移動機構22、および、X方向に移動するX方向移動機構23を有する。Y方向移動機構22はモータ221にボールねじ(図示省略)が接続され、モータ221が回転することにより、X方向移動機構23がガイドレール222に沿って図1中のY方向に移動する。X方向移動機構23もY方向移動機構22と同様の構成となっており、モータ231が回転するとボールねじ(図示省略)によりステージ2がガイドレール232に沿ってX方向に移動する。
【0025】
制御部5は、各種演算を行う演算部51を有し、受光部4からの信号が演算部51へと入力される。また、照明部3およびステージ移動機構21も制御部5に接続され、制御部5がこれらの構成を制御するとともに演算を実行することにより基板9上の膜に対する偏光解析に基づく各種測定結果が取得される。
【0026】
次に、照明部3および受光部4の詳細について説明する。測定用光源部31は高輝度キセノン(Xe)ランプを有する光源311およびレンズ群312を有し、光源311からの光がレンズ群312により板状のピンホールミラー331の裏面側に導かれる。なお、光源311は他の種類のランプ等により構成されてもよく、また、必要に応じて熱線カットフィルタや冷却ユニット等が設けられてもよい。
【0027】
ピンホールミラー331は、その反射面の法線がX軸に直交するとともに光軸J1に対して70度だけ傾斜する姿勢にて斜め上向きに固定されており、測定用光源部31からの光はピンホールミラー331の開口部(具体的には、X軸に平行な辺および垂直な辺の長さ150μmの正方形の開口部)を介して開口数(NA)0.02にて漸次広がりつつ非球面ミラー332へと導かれる。このとき、ピンホールミラー331から出射された直後の光の光軸J1に垂直な光束断面の形状は、X軸に平行な辺の長さが他の辺の長さよりも長い150μm×50μmの長方形とされる。
【0028】
非球面ミラー332は回転楕円体面の一部である反射面を有しており、凹面の非球面ミラー332に入射する光は凹面の非球面ミラー333へとさらに導かれる。非球面ミラー333も非球面ミラー332と同様に回転楕円体ミラーであり、非球面ミラー333にて反射された光は開口数0.1にて集光されつつポーラライザ32へと導かれる。
【0029】
ポーラライザ32は、後述するようにシート状(薄板状を含む。)の偏光素子であり、ステッピングモータ321の内側に位置する中空の回転体内に固定される(すなわち、中空タイプのステッピングモータ321の中空部に配置される。)。ステッピングモータ321は制御部5の制御により光軸J1に平行な軸を中心として回転し、これにより、ステッピングモータ321の回転角に応じた偏光光がポーラライザ32から導き出されて70度の入射角にて基板9上に照射される。
【0030】
照明部3では、ピンホールミラー331から基板9に至る光学系は、5対1の縮小光学系となっているため、基板9の表面近傍における偏光光の光軸J1に垂直な光束断面の形状は、X軸に平行な辺の長さが30μmであり、他の辺の長さが10μmである長方形となる。したがって、基板9上における偏光光の照射領域はおよそ30μm×30μmの正方形の微小領域となる。
【0031】
図2は、ポーラライザ32を概念的に示す図であり、図3はポーラライザ32の一部を示す縦断面図である。図2および図3に示すようにポーラライザ32は、ガラスにて形成されるシート状の透光板322を有し、透光板322上には、例えば、タンタル(Ta)を蒸着することにより形成される複数の金属線323が設けられる。複数の金属線323は、図2に示すように、それぞれが矩形の透光板322の表面上において一の辺に沿う方向(以下、「特定方向」という。)に伸びるとともに特定方向に垂直な方向に一定の間隔を空けて配列して形成されており、ポーラライザ32は、ワイヤグリッドポーラライザ(または、グレーティングポーラライザ)と呼ばれる透過型のグレーティング偏光素子となっている。
【0032】
図2のポーラライザ32に対して符号71を付す矢印が示す方向から光が入射すると、特定方向に平行な偏光成分は金属線323により符号72を付す矢印が示す方向に反射され、特定方向に垂直な偏光成分は符号73を付す矢印にて示すようにポーラライザ32を透過し、実際には回転するポーラライザ32の回転角に応じた偏光光が導き出される。なお、入射する光の特定方向に平行な偏光成分の一部は、その電場により金属線323中の電子を特定方向に移動させることによりジュール熱を発生させて金属線323に吸収される。これに対して、特定方向に垂直な偏光成分も、その電場により金属線323中の電子を特定方向に垂直な方向に移動させるが、その距離が制限されるため金属線323に吸収される割合は特定方向に平行な偏光成分よりも少ない。
【0033】
図4は、ポーラライザ32の偏光特性を示す図であり、図3に示す金属線323の高さdが300nm、幅Bが100nmであり、金属線323のピッチAが200nmである場合のものを示している。また、図4の縦軸は透過率を示し、横軸は波長を示す。図4中の線群81は、ポーラライザ32への光の入射角が0度、2.5度、5度、10度および15度の場合の特定方向に平行な偏光成分の分光透過率を示している。また、線群82も同様に、それぞれ入射角0度、2.5度、5度、10度および15度の場合の特定方向に垂直な偏光成分の分光透過率を示している。
【0034】
図4に示すように、ポーラライザ32は200nmから800nmまでの広範囲の周波数帯において線群82に示す特定方向に垂直な偏光成分の透過率が、線群81に示す特定方向に平行な偏光成分の透過率より十分に大きくなっている。また、図4よりポーラライザ32への光の入射角が15度まで傾斜したとしても偏光光を安定して導き出すことができることが判る。換言すれば、光が僅かに斜入射される場合であってもワイヤグリッドポーラライザを分光エリプソメータ用の偏光素子として利用可能であることが判る。なお、ポーラライザ32は図4に示す偏光特性を有するものに限定されず、金属線323もタンタル以外の金属にて形成されてもよい。
【0035】
以上のように、照明部3では測定用光源部31とポーラライザ32との間の光路上にのみ配置される2枚の非球面ミラー332,333により、測定用光源部31からピンホールミラー331を介して出射される光よりも大きな開口数にて光が集光されつつポーラライザ32へと導かれ、ポーラライザ32からの偏光光が比較的高い光量にて基板9上の微小領域に照射される。その際、ポーラライザ32としてシート状であって厚さが薄く、かつ、熱的にも安定しているワイヤグリッドポーラライザが用いられることにより、ポーラライザ32において生じる色収差を許容範囲に抑えつつ、紫外から赤外に亘る広範囲の波長帯に属す偏光光を安定して得ることができる。
【0036】
図1に示すように基板9からの反射光は、スリット板431により取り込まれてアナライザ41へと導かれる。スリット板431の開口部は、X軸に平行な辺の長さが他の辺の長さよりも十分に長い長方形とされ、X軸に垂直な方向(ほぼ高さに相当する方向)に関して開口数が0.05とされる。これにより、取り込まれる反射光の基板9上の反射角の範囲が制限される。一方、X方向に関しては反射光はほとんど制限されないため、測定に必要な十分な量の光がアナライザ41へと導かれる。
【0037】
アナライザ41としては、高精度に安定して光を偏光するロションプリズムが使用され(ポーラライザ32と同様にシート状の偏光素子(具体的には、ワイヤグリッドポーラライザ)であってもよい。)、アナライザ41を透過した光は球面ミラー432を介してコールドミラー433にて反射され、スリット板434の開口部を介して分光器42にて受光される。分光器42は、好ましくは、ペルチェ素子等により冷却される裏面照射型の1次元CCDを有するツェルニーターナー型分光器であり、入射する光が高い波長分解能にて分光され、波長毎(例えば、紫外線から近赤外線までの波長毎)の光の強度が高感度に測定される。そして、反射光の波長毎の強度がポーラライザ32の回転角に対応付けられることにより、波長毎の反射光の偏光状態、すなわち、波長毎のp偏光成分とs偏光成分との位相差および反射振幅比角が取得される。
【0038】
基板9から分光器42に至る光学系は1対1の等倍光学系となっており、スリット板434の開口部の断面形状が200μm角の正方形となっている。したがって、分光器42では基板9上において偏光光の照射領域よりも十分に広い200μm×600μmの矩形領域からの光が受光可能とされ、アナライザ41にて色収差が生じたとしても分光器42にて取得される反射光の偏光状態に大きな影響は生じない。
【0039】
照明部3には、さらに、追加的な照明光(本実施の形態では赤外光が使用され、以下、「補助光」という。)を出射する発光ダイオードを有する補助光源部34が設けられ、補助光源部34からの補助光はコンデンサレンズ341を介してパターンプレート35へと導かれる。パターンプレート35には所定の遮光パターン(例えば、十字の標線)が形成されており、補助光は遮光パターンに対応する部分が遮られつつピンホールミラー331へと導かれる。なお、補助光源部34は測定用の光と波長が異なる光を生成するのであれば必ずしも発光ダイオードを有するものである必要はなく、例えば、ランプにより補助光が生成されてもよい。
【0040】
ピンホールミラー331の反射面上には、後述するフォーカス調整に利用されるフォーカス調整用パターン(例えば、開口部から離れた位置に形成された格子状の標線)が形成されており、照射される補助光が測定用光源部31からの光に重ね合わされて非球面ミラー332に向けて反射され、非球面ミラー333およびポーラライザ32を介して基板9上における偏光光の照射位置と同じ照射位置へと導かれる。
【0041】
このとき、ピンホールミラー331の位置と基板9上の照射位置とが光学的に共役とされるため(換言すると、ピンホールミラー331の位置が測定用光源部31から基板9に至る光学系の視野絞り位置に該当するため)、基板9上には偏光光の照射領域の外側においてフォーカス調整用パターンの像が形成される。これに対し、パターンプレート35は測定用光源部31から基板9に至る光学系の開口絞り位置と光学的にほぼ共役な位置に配置されており、基板9上の補助光の照射領域には遮光パターンの影響は現れない。
【0042】
基板9からの反射光は、スリット板431、アナライザ41および球面ミラー432を介してコールドミラー433へと導かれ、コールドミラー433において反射光のうち補助光(すなわち、赤外光)のみが透過されて取り出される。透過した補助光はミラー435にて反射され、ハーフミラー436に導かれる。ハーフミラー436では補助光の一部が反射され、遮光パターン撮像部44にて受光される。遮光パターン撮像部44の位置は、パターンプレート35から基板9の表面を経由して遮光パターン撮像部44に至る光学系においてパターンプレート35と光学的に共役とされるため、遮光パターン撮像部44には遮光パターンの像が結像される。遮光パターン撮像部44からは遮光パターンの画像データが制御部5へと出力される。
【0043】
補助光のうちハーフミラー436を透過したものはレンズ437を介して基板撮像部438へと導かれて受光される。基板撮像部438の位置はピンホールミラー331および基板9の表面の位置と光学的に共役とされ、基板撮像部438により基板9上のフォーカス調整用パターンの像が取得される。分光エリプソメータ1では、取得された基板9上のパターンの画像のコントラストに基づいて制御部5がステージ2に設けられたステージ昇降機構24を昇降し、基板9の表面が一定の高さにされる(すなわち、フォーカス調整が行われる)。
【0044】
分光エリプソメータ1により測定が行われる際には、受光部4により反射光の偏光状態が取得されるのと同時に、基板9が水平面(すなわち、図1中のXY平面)に対して傾斜する傾斜角の測定も行われる。具体的には、測定用光源部31および補助光源部34それぞれからの光の出射が開始され、分光器42により偏光光の反射光の波長毎の偏光状態が取得されつつ遮光パターン撮像部44により遮光パターンの画像が取得される。
【0045】
このとき、前述のように補助光の照射位置における基板9の表面の高さが一定に保たれるとともに、遮光パターン撮像部44の位置がパターンプレート35に対して基板9の表面を経由して光学的に共役となる位置とされるため、遮光パターン撮像部44にて取得される画像中の遮光パターンの位置は、基板9の傾斜角(正確には、補助光の照射位置における傾斜角)に対応した位置となる。したがって、演算部51により取得された画像中の遮光パターンの重心位置と予め記憶された傾斜角が0度のときの画像中の遮光パターンの重心位置との間の距離(ベクトル)が算出されることにより、基板9の傾斜角(例えば、基板9の法線方向を示すベクトル)が求められる。
【0046】
基板9の傾斜角と反射光の偏光状態とが取得されると、演算部51では、傾斜角(および、傾斜方向)から求められる正確な入射角を用いつつ取得された偏光状態に基づいて基板9上の膜に対して偏光解析が行われ、膜の光学定数や厚さ等の測定結果が取得される。
【0047】
以上に説明したように、図1の分光エリプソメータ1では、測定用光源部31から基板9の表面を経由して分光器42に至る光路上において、反射ミラーがポーラライザ32とアナライザ41との間には設けられず、測定用光源部31とポーラライザ32との間、および、アナライザ41と分光器42との間のそれぞれにのみ配置される。これにより、ポーラライザ32からの偏光光をそのままの偏光状態で基板9の表面へと照射するとともに、偏光光の反射光を偏光状態を変化させることなくアナライザ41へと導くことができる。その結果、分光エリプソメータ1では反射による偏光光の偏光状態の変化および偏光光の反射光の偏光状態を精度よくかつ安定して取得することができ、基板9上の膜に対する偏光解析を高精度に行うことができる。
【0048】
また、測定用光源部31とポーラライザ32との間に複数の反射ミラー(特に、2つの非球面ミラー332,333)が配置されることにより、光路を複数回折り曲げて照明部3をコンパクトにすることも実現される。さらに、分光エリプソメータ1では、基板9の傾斜角を測定するために用いられる光学系(すなわち、補助光源部34から基板9の表面を経由して遮光パターン撮像部44へと至る光学系)の一部と、偏光状態を取得するために用いられる光学系の一部(すなわち、測定用光源部31から基板9の表面を経由して分光器42へと至る光学系)とが共有されるため、分光エリプソメータ1の小型化を図ることができる。なお、測定用光源部31とポーラライザ32との間の複数の反射ミラーには、折り返しミラー等の他の種類のミラーが適宜含められてもよい。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0050】
上記実施の形態では、ポーラライザ32にステッピングモータ321が取り付けられるが、アナライザ41にステッピングモータが設けられてもよい。この場合、受光部4にて取得される反射光の波長毎の偏光状態は、アナライザ41の回転角に対応付けて取得される。また、ポーラライザ32またはアナライザ41には他の手法による回転機構が設けられてもよい。
【0051】
上記実施の形態では、測定用光源部31から基板9の表面を経由して分光器42に至る光路上において、ポーラライザ32とアナライザ41との間に反射ミラーが配置されないが、分光エリプソメータの要求される測定精度や設計上の都合等によってはポーラライザ32と基板9との間、および、基板9とアナライザ41と間のいずれか一方のみに反射ミラーが配置されてもよい。特に、分光エリプソメータの小型化のみを目的とする場合、複数の回転楕円体ミラー(3以上であってもよい。)は測定用光源部31からポーラライザ32を経由して基板9に至る光路上のいずれの位置に配置されてもよい。
【0052】
パターンプレート35は必ずしも補助光源部34とピンホールミラー331との間に配置される必要はなく、補助光源部34からポーラライザ32に至る光路上において、測定用光源部31から基板9に至る光学系の開口絞り位置と光学的にほぼ共役な位置であればいずれの位置に配置されてもよい。
【0053】
補助光を測定用光源部31からの光と重ね合わせる光学素子は、ピンホールミラー331以外であってもよく、例えば、ハーフミラーでもよい。同様に、反射光から補助光を取り出す光学素子もコールドミラー433とは異なるものであってもよい。
【0054】
分光エリプソメータ1の構造(特に、冷却構造)や測定に利用する偏光光が属す波長帯によっては、例えば、石英ガラスにPVC(ポリ塩化ビニル)膜等を塗布して2色性膜を形成した(すなわち、高分子材料の異方性を利用した)シート状の偏光素子をポーラライザ32として用いることもできる。
【0055】
基板9は、半導体基板に限定されず、例えば、液晶表示装置やその他のフラットパネル表示装置等に使用されるガラス基板であってもよい。さらに、分光エリプソメータ1による測定対象は、微細パターンが形成される基板以外の物に形成された膜であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】分光エリプソメータの構成を示す図である。
【図2】ポーラライザを概念的に示す図である。
【図3】ポーラライザの一部を示す縦断面図である。
【図4】ポーラライザの偏光特性を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 分光エリプソメータ
3 照明部
4 受光部
5 演算部
9 基板
31 測定用光源部
32 ポーラライザ
34 補助光源部
35 パターンプレート
41 アナライザ
42 分光器
44 遮光パターン撮像部
321 ステッピングモータ
322 透光板
323 金属線
331 ピンホールミラー
332,333 非球面ミラー
432 球面ミラー
433 コールドミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光エリプソメータであって、
偏光した光を対象物へと導く照明部と、
前記対象物からの前記偏光した光の反射光を受光して前記反射光の波長毎の偏光状態を取得する受光部と、
を備え、
前記照明部が、
光源部と、
前記光源部からの光から前記偏光した光を得る偏光素子であるポーラライザと、
補助光を出射するもう1つの光源部と、
前記補助光を前記光源部からの光と重ね合わせる光学素子と、
前記もう1つの光源部から前記ポーラライザに至る光路上において、前記光源部から前記対象物に至る光学系の開口絞り位置と光学的にほぼ共役な位置に配置された遮光パターンと、
を有し、
前記受光部が、
前記反射光が入射する偏光素子であるアナライザと、
前記アナライザを経由した前記反射光が入射する分光器と、
前記反射光から前記補助光を取り出すもう1つの光学素子と、
前記遮光パターンと光学的に共役な位置に配置され、前記もう1つの光学素子からの前記補助光を受光して前記遮光パターンの像を取得する撮像部と、
を有し、
前記照明部または前記受光部が、前記ポーラライザまたは前記アナライザを回転する回転機構を有することを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項2】
請求項1に記載の分光エリプソメータであって、
前記撮像部にて取得された前記遮光パターンの前記像から前記対象物上の前記補助光の照射位置における傾斜角を求める演算部をさらに備えることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分光エリプソメータであって、
前記光源部から前記対象物に至る光路上において、少なくとも1つの反射ミラーが前記光源部と前記ポーラライザとの間のみに配置されることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、
前記対象物から前記分光器に至る光路上において、少なくとも1つの反射ミラーが前記アナライザと前記分光器との間のみに配置されることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項5】
請求項1ないし4にいずれかに記載の分光エリプソメータであって、
前記ポーラライザが、シート状の偏光素子であることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、
前記光源部と前記ポーラライザとの間に複数の反射ミラーが配置されることを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項7】
請求項6に記載の分光エリプソメータであって、
前記複数の反射ミラーが、複数の回転楕円体ミラーを含むことを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項8】
請求項1または2に記載の分光エリプソメータであって、
前記照明部が、前記光源部から前記ポーラライザを経由して前記対象物に至る光路上に配置された複数の回転楕円体ミラーをさらに有することを特徴とする分光エリプソメータ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の分光エリプソメータであって、
前記ポーラライザが、透光板上に一定の間隔で複数の金属線を配列形成した透過型のグレーティング偏光素子であることを特徴とする分光エリプソメータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−275632(P2008−275632A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147579(P2008−147579)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【分割の表示】特願2003−395259(P2003−395259)の分割
【原出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】