説明

加熱体、及び加熱装置

【課題】過剰電力が投入された時に、ヒーターの抵抗発熱体間でリークが発生することによる熱応力割れの発生を低減する。
【解決手段】ヒーター100の複数の抵抗発熱体102間に空隙Sを形成するように各抵抗発熱体を絶縁層104によって被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱材を加熱する加熱体、及び前記加熱体を具備する加熱装置に関するものであり、特に複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に搭載する加熱装置として用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に使用される定着装置として、被加熱材としての記録材に形成されたトナーを加熱溶融し、記録材上に定着させる熱定着方式が一般的に使用されている。
【0003】
このような、熱定着方式においては、近年、フィルム状のエンドレスベルトを使用した、フィルム定着方式の定着法が提案されている。
【0004】
こうしたフィルム定着装置の例は、特許文献1、特許文献2等において示されている。
【0005】
このような、フィルム定着装置においては、一般的に、絶縁基板上に抵抗発熱体を設けた発熱体たる加熱部材として、セラミックヒーターが用いられている。セラミックヒーターの詳細は、例えば特許文献3において開示されている。
【0006】
図10を用いて、このような加熱部材の一例としての、セラミックヒーターについて説明する。ヒーター900は、基板901、抵抗発熱体902及び電極903により構成される。基板901は、アルミナ等の絶縁性のセラミックよりなり、抵抗発熱体902は、任意の導電材をスクリーン印刷等、既知の方法により塗布または基板901上に固定している。電極903を介して、抵抗発熱体902に電流を流し、該抵抗発熱体が発熱することにより、定着装置の加熱体として作用する。
【0007】
また、ヒーター900には、一般的に不図示の絶縁層(絶縁保護層)が形成される。絶縁保護層の材料としては、樹脂や耐圧ガラスが用いられる。
【0008】
図10に示したヒーター900では、抵抗発熱体902は一本で構成されるが、特許文献4に示されているように、抵抗発熱体を複数設け、基板上を往復させることで、より定着効率やコストに優れたヒーターを供することも可能である。
【0009】
図11に、抵抗発熱体を複数設けたヒーターの一例を示す。ヒーター1000は、二本の抵抗発熱体1002を導電部1004を介して基板1001上を長手方向に沿って往復させる形で構成している。このことにより、基板1001の長手方向と直交(交差)する幅方向(基板の短手方向)に、広く発熱領域が分布することになり、熱効率の観点からより有利である。また、抵抗発熱体1002が、基板1001上を往復しているため、電極1003は長手方向片側に集中することで、該電極に接続するためのコネクタも、端部一箇所に設けるだけでよい。このため、定着装置の小型化や、低コスト化に際して有利となる。
【0010】
更に、抵抗発熱体は、基板の長手方向に均一な幅ではなく、部分的に幅を変化させることで、長手方向の発熱量に分布を持たせることが可能である、このような加熱体は、特許文献5に開示されている。
【0011】
基板の長手方向と直交する短手方向において抵抗発熱体幅を部分的に狭くすることにより、その部分の単位長さあたりの抵抗を大きくし、発熱量を大きくすることが可能である。
【0012】
図12に、基板1101の長手方向において抵抗発熱体1102に発熱量の分布を持たせたヒーター1100の一例を示す。基板1101上において導電部1104を介して接続された二本の抵抗発熱体1102は、長手端部で該長手端部以外の場所よりも幅を小さく構成している。なお1103は電極である。抵抗発熱体の長手端部においては、該発熱体の末端部分において熱が逃げやすい傾向があるため、中央部に比べて温度が低下する傾向がある。このため、長手端部において抵抗発熱体端部の幅を絞り、発熱量を多くすることは、長手端部の定着性能を確保するために有効である。
【特許文献1】特開昭63−313182号公報(フィルム定着装置の例)
【特許文献2】特開平2−157878号公報(フィルム定着装置の例)
【特許文献3】特開2003−17225号公報(往復発熱体を有するセラミックヒータの例)
【特許文献4】特開平5−242958号公報(定着ヒーターの例)
【特許文献5】特登録026008号(長手上の発熱量に分布を持たせた定着ヒータ)
【特許文献6】米国特許第6469279号(温度検出手段ないし安全素子上の抵抗発熱体幅を小さくした定着ヒーターの例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年、画像形成装置の高速化、カラー化が求められている。これに伴い、加熱体たるヒーターにも、より大電力を投入し、発熱量を全体的に大きくする必要が生じている。
【0014】
高速化に際しては、より短い時間でより多くの熱量を転写材に与える必要があるため、ヒーターの発熱量も大きくしなければならない。
【0015】
また、カラー化に際しては、定着フィルム上に弾性層を設けた、定着ベルトを用いる必要がある。これは、トナー画像が定着ベルトと該定着ベルトに加圧された加圧ローラとの間の定着ニップ部を通過する際に、従来のフィルム定着装置では、カラー画像の多重に転写されたトナー像の形状に定着フィルム表面が追随することが出来ずに、部分的に定着性のムラが生じるためである。定着性のムラは、画像の光沢ムラとして現れたり、OHT(オーバーヘッドプロジェクター用透明シート)においては、透過性のムラとなり、投影した際に透過性のムラが画像欠陥として現れる、という問題点があった。
【0016】
定着フィルム上に弾性層を設けることにより、弾性層がトナー層に沿って変形することで、画像上不均一に載っているトナーが弾性層によって包み込まれ、均一に熱を与えることにより、均一な定着が達成されるものの、弾性層を設ける分、定着フィルムとしての熱伝導性は劣るため、その分の熱量を余計に与える必要がある。とりわけ、定着装置のオンデマンド性を確保するためには、定着装置を速やかに所定温度に立ち上げる必要があるため、通常のフィルム定着装置に比べて大きな電力が必要になる。
【0017】
このように、画像形成装置に高速化、カラー化に伴い、ヒーターに投入される電力が大きくなると、定着装置が制御不能となり、大電力が連続して投入された状態に陥った際に、ヒーターが割れる、という問題が顕在化する。
【0018】
ヒーター割れが発生する原因は、抵抗発熱体を保護している耐圧ガラスからなる絶縁保護層が溶融することで低抵抗化し、抵抗発熱体間でリークが生じるためである。このことを図13を用いて説明する。
【0019】
基板の短手方向において抵抗発熱体幅を絞った箇所においては、大電力が投入された際に、他の部分より発熱量が大きくなり、抵抗発熱体を保護している耐圧ガラス層が溶融しやすくなる。耐圧ガラス層の絶縁ガラス材料は、約700〜750℃近辺で溶融が始まり、溶融した場合には低抵抗化する。図13は、定着ヒーターのガラス表面に熱電対を接触させ、1000Wの電力を投入した場合の定着ヒーター表面温度をモニタ下際の温度推移を示すグラフである。図13によると、約740℃で熱電対の挙動が異常を示している。これは、絶縁ガラスが低抵抗化し、熱電対に電流がリークするために、異常値を示しているものである。
【0020】
絶縁ガラスが溶融し、低抵抗化した場合には、抵抗発熱体間でリークが生じることとなる。抵抗発熱体間でリークが生じた場合、リーク箇所でショート状態となるために、電極間の抵抗は非常に小さくなる。このため、電極とリーク箇所の間で大電流が流れ、そのため、ショート箇所近傍ではさらに大きな発熱が生じ、ヒーターは熱応力割れに到る。特に、抵抗発熱体を長手方向に往復させ、長手片側端のみにコネクタを配置する構成においては、コネクタ側において、往復発熱体間の電位差が最も大きくなるため、耐圧ガラス層が溶融した場合の発熱体間のリークが発生しやすくなるという問題点があった。
【0021】
また、絶縁保護層が、ポリイミド等の樹脂を用いて形成されている場合、予期しない大電力がヒーターに投入された場合には、抵抗発熱体が高温になることによって、絶縁保護層が炭化し、低抵抗化することにより、上記絶縁ガラスが溶融した場合と同様に、発熱体間でリークが生じ、電極とリーク箇所の間で大電流が流れ、ヒーターが熱応力割れに到ることとなる。
【0022】
このように、ヒーター割れが生じた場合、ヒーターが使用不能となり、リサイクル性に劣ることに加え、ヒーターに設置されたサーミスタ等を介して、一次電圧が印加される部位と、二次側回路やGND部位との距離を十分に取れなくなり、場合によっては二次側回路が破壊され、修理費用が余計にかかる、という問題があった。
【0023】
本発明の目的は、過剰電力の投入により複数の抵抗発熱体間でリークが発生することによる熱応力割れの発生を低減できる加熱体を提供することにある。
【0024】
また、本発明の他の目的は、過剰電力の投入により複数の抵抗発熱体間でリークが発生することによる熱応力割れの発生を低減できる加熱体を備える像加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係る加熱体の代表的な構成は、基板と、前記基板の長手方向に沿って設けられた抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体に接続する導体部と、を有し、被加熱材を加熱する加熱装置に用いられる加熱体において、前記基板上に、複数の前記抵抗発熱体と、前記複数の抵抗発熱体に接続する導体部と、前記複数の抵抗発熱体、および前記導体部を被覆する絶縁層と、を有し、前記絶縁層は、前記基板の長手方向において少なくとも前記複数の抵抗発熱体の間と、前記導体部の間とに空隙を形成するように該複数の抵抗発熱体と該導体部の一部を被覆していることを特徴とする加熱体、である。
【0026】
本発明に係る像加熱装置の代表的な構成は、通電により発熱する発熱抵抗体を基板上に有する加熱体と、前記加熱体に接触しつつ移動する可撓性部材と、を有し、前記可撓性部材を介して前記加熱体の熱で被加熱材上の像を加熱する像加熱装置において、前記加熱体は、基板上に、前記基板の長手方向に沿って設けられた複数の前記抵抗発熱体と、前記複数の抵抗発熱体に接続する導体部と、前記複数の抵抗発熱体、および前記導体部を被覆する絶縁層と、を有し、前記絶縁層は、前記基板の長手方向において少なくとも前記複数の抵抗発熱体の間と、前記導体部の間とに空隙を形成するように該複数の抵抗発熱体と該導体部の一部を被覆していることを特徴とする像加熱装置、である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、過剰電力の投入により複数の抵抗発熱体間でリークが発生することによる熱応力割れの発生を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
【実施例1】
【0029】
(1)画像形成装置例
図4は、本発明に係る像加熱装置を定着装置として搭載した画像形成装置の一例の構成模型図である。本実施例に示す画像形成装置は電子写真画像形成プロセス利用のレーザープリンタである。
【0030】
401は像担持体としての回転ドラム型の電子写真感光体(以下「感光ドラム」と記す)であり、矢印の時計方向に所定の周速度にて回転駆動され、まず、その表面は帯電装置としての帯電ローラ402によって所定の極性・電位に一様に帯電処理される。
【0031】
次に、その帯電面に対して露光手段としてのレーザースキャナ403により画像情報の書き込み露光がなされる。即ちレーザスキャナ403は画像情報の時系列電気デジタル画像信号に応じてON/OFF制御(変調制御)されたレーザビームLで回転感光ドラム401の一様帯電処理面を露光する。これにより感光ドラム401の一様帯電面の露光部電位が減衰して感光ドラム面に画像情報の静電潜像が形成される。
【0032】
この静電潜像は、現像装置404でトナー画像として現像、可視化される。可視化されたトナー像は、感光ドラム401とこれに圧接させた接触転写装置としての転写ローラ406との圧接部である転写ニップ部Aにおいて、該転写ニップ部に不図示の給紙機構部から所定の制御タイミングにて給紙された被加熱材としての転写材Pの面に対して感光ドラム401面より転写される。
【0033】
即ち、感光ドラム401上のトナー画像の画像形成位置と転写材Pの先端の書き出し位置が合致するようにレジストローラ406により挟持搬送された転写材Pは転写ニップ部Aにおいて感光ドラム401と転写ローラ406とにより一定の加圧力で挟持搬送され、感光ドラム401面上のトナー画像が転写材P上に電気力と圧力で転写される。
【0034】
転写ニップ部Aを通過した転写材Pは回転する感光ドラム401から分離され、搬送系408により入り口ガイド409を介して定着装置Fへと搬送され、該定着装置によって未定着トナー画像が転写材面に永久画像として加熱定着される。画像定着を受けた転写材は排紙機構部(不図示)に搬送される。
【0035】
一方、転写材分離後の感光ドラム401上に残存する転写残りの残留トナーは、クリーニング装置407により感光ドラム401表面より除去され、感光ドラム401は繰り返して作像に供される。
【0036】
(2)定着装置F
図3は、定着装置Fの一例の構成模型図である。本実施例に示す定着装置は、可撓性部材として定着フィルムを用いた加圧ローラ駆動方式(テンションレスタイプ)の定着装置である。
【0037】
1)定着装置Fの全体的構成
本実施例におけるフィルム方式の定着装置Fは、発熱体としての加熱部材(以下「ヒーター」と記す)100と、ヒーターホルダ115と、サーミスタ113と、定着フィルム111と、加圧ローラ114等を備えている。
【0038】
フィルム方式の定着装置では、薄肉の定着フィルム111を介し、ヒーター100を転写材Pに押し当てて加熱するよう構成された定着フィルムユニットを加熱装置として採用している。
【0039】
定着フィルム111は、基層、導電性プライマ層、および離型性層の三層で構成されている。フィルム基層は、絶縁性の高いポリイミド、ポリアミド、PEEK等が用いられ、高耐熱性を有しており、厚み15〜60ミクロン程度で形成され、定着フィルム111全体の引裂強度等の機械的強度を保っている。本実施例においては、厚み50μmのポリイミド製エンドレスフィルムを基層として用いている。
【0040】
プライマ層は、本実施例においては、ポリアミド樹脂とフッ素樹脂のディスパージョンを混合したものを、ディッピングにて形成しており、厚みは2〜6μm程度である。プライマ層は、基層と、後述する離型性層との接着強度を確保するための層である。
【0041】
離型性層は、PTFE、PFA等のフッ素樹脂をディッピングで形成するか、フッ素チューブの形であらかじめ形成したものを基層に被覆する等の方法により設けられる。フッ素樹脂を用いるのは、トナーとの離型性を確保し、トナー等の付着による定着フィルムの汚れを防止するためである。従って、上記目的を達成することが出来るならば、フッ素樹脂以外の材料を用いても構わない。本実施例においては、PTFEおよびPFAを7:3の割合で混合した水性ディスパージョンに、酸化チタンを30重量%分散したものをディッピング塗工により形成している。
【0042】
ヒーターホルダ115は、断面が略半円弧形状で、樋型の耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂の成型品である。ヒーターホルダ115の下面に該ホルダの長手に沿ってヒーター100が配設してある。定着フィルム111はこのヒーターホルダ115にルーズに外嵌させてある。本実施例のヒーターホルダ115はヒーター100を保持する機能だけでなく、定着フィルム111をガイドする役割を果たす。本実施例においては、液晶ポリマーとして、デュポン社のゼナイト7755(商品名)を使用した。ゼナイト7755の最高使用可能温度(耐熱温度)は、約270℃である。
【0043】
113は温度検知手段としてのサーミスタである。サーミスタ113はヒーター100の裏面に接触させて設置してあり、ヒーター100の温度を検知する。サーミスタ113は、温度制御手段としてのCPU117と電気的に接続されている。CPU117は、サーミスタ113の出力に基づいてヒーター駆動手段としてのトライアック118をON・OFF制御する。トライアック118はサーミスタ117の検知温度が所定の制御温度(目標温度)を維持するようにヒーター100(正確には後述する発熱抵抗体102)への通電を制御している。これにより、ヒーター100の温度が一定に保たれ、転写材P上のトナー像定着に供される。本実施例の制御温度は例えば180℃である。
【0044】
119は安全素子としてのサーモスイッチである。サーモスイッチ119は、ヒーター100の裏面に接触して設置してある。サーモスイッチ119は、定着装置Fが制御不能な状態となった際に、ヒーター100への通電が停止されず、電力が投入されつづけることによる定着装置の破壊を防止するために設けられており、ヒーター100の温度が一定以上になった場合、ヒーター100への通電を遮断し、安全に定着装置を停止させることを目的としている。
【0045】
加圧ローラ114は、ステンレス製の芯金に、射出成形により、厚み約3mmのシリコーンゴム層を形成し、その上に厚み約40μmのPFA樹脂チューブを被覆してなる。この加圧ローラ114は芯金の両端部を装置フレーム116の不図示の奥側と手前側の側板間に回転自由に軸受保持させて配設してある。この加圧ローラ114の上側に、前記のヒーター100・ヒーターホルダ115・定着フィルム111等から成る加熱アセンブリをヒータ4側を下向きにして加圧ローラ114に並行に配置し、ヒーターホルダの両端部を不図示の加圧機構により片側74N(7.5kgf)、総圧147N(15kgf)の力で加圧ローラ2方向に附勢してある。これにより加熱定着に必要な所定幅の定着ニップ部Nを形成させてある。加圧機構は、圧解除機構を有し、ジャム処理時等に、加圧を解除し、転写材Pの除去が容易な構成となっている。
【0046】
120は装置フレーム116に組付けた入り口ガイドであり、121は定着排紙ローラである。入り口ガイド120は、二次転写ニップAを抜けた転写材Pが、定着ニップ部Nに正確に進入するよう、転写材Pを導く役割を果たす。
【0047】
加圧ローラ114は駆動手段Mにより矢印の反時計方向に所定の周速度で回転駆動される。加圧ローラ114が回転すると摩擦力により定着フィルム111が従動回転する。定着フィル111の内面にはグリスが塗布され、ヒーター111やヒーターホルダ115と定着フィルム111内面との摺動性を確保している。
【0048】
トナー像tが形成された転写材Pは定着ニップ部Nで挟持搬送されることにより加熱定着される。定着ニップ部Nを通過した転写材Pは定着フィルム111の曲率により自然に定着フィルムから分離され、定着排紙ローラ121で排出される。
【0049】
2)ヒーター100の説明
図1において、(a)はヒーター100を長手方向上面より見た平面図、(b)はヒーター100を長手方向に直交する短手方向において垂直な面で切断した縦断面図である。
【0050】
ヒーター100は、基板101と、抵抗発熱体102と、導体部としての電極103および導電部105と、絶縁層(絶縁保護層)としての絶縁コート層104等を有している。
【0051】
細長い板状の基板101は、アルミナや窒化アルミ等の、絶縁性のセラミックや、SUS等の金属板にガラスコートを施す等の手段により、絶縁層を設けたものを用いることが出来る。本実施例においては、基板101として、アルミナの厚み1.0mmの板を用いた。
【0052】
基板101上において該基板の長手方向に沿って設けられた抵抗発熱体102については、導電ペーストを基板101上に塗布したり、ニクロム線等を基板101上に接着等既知の方法で固定したものを用いても良い。また、抵抗発熱体102は、基板上に直接形成される必要は無く、例えば、基板101への熱の拡散を防止するためのグレーズ層を介しても良い。本実施例においては、基板101の、転写材Pの画像面側に、銀・パラジウム合金を含んだ導電ペーストをスクリーン印刷法によって均一に、厚み20μmの膜状に塗布した後に焼成を行うことにより、抵抗発熱体102を形成した。
【0053】
本実施例に用いた発熱抵抗体102の抵抗値は、14Ωとした。これにより、120Vの電圧が投入された際の定着ヒーター100の消費電力は、1029Wとなる。
【0054】
抵抗発熱体102は、長手中央部の幅1.5mmの太さで、長手方向に二本、並行に形成されている。二本の抵抗発熱体102間の距離は0.7mmである。二本の抵抗発熱体102において電極103の反対側の長手端部は導電部105を介して電気的に接続されている。導電部105も基板上にスクリーン印刷法によって形成されている。
【0055】
抵抗発熱体102は、長手両端部及び上記のサーモスイッチ接触部となる長手中央部において、他の部分よりも幅の狭い領域(以下「絞り部」と記す)102a,102bを有する。基板101の短手方向において抵抗発熱体102の幅を狭く絞ることによって、絞り部102a,102bで抵抗発熱体102の抵抗が大きくなり、同じ値の電流が流れた際の発熱量が大きくなる。これにより、絞り部102aを有する長手端部においては、基板101を通じて長手端部方向へ逃げる熱を補い、また、絞り部102bを有するサーモスイッチ接触部においては、サーモスイッチ119に奪われる熱を補うことで、長手に均一な温度に発熱するようにしている。本実施例においては、絞り部分の発熱体幅をその他の部分に対して7%狭くし、発熱体幅を1.395mmとしている。
【0056】
電極103は、定着装置や画像形成装置の電源より、抵抗発熱体102に電力を供給するための接点として機能するものである。本実施例においては、銀ペーストを、抵抗発熱体102と同様、スクリーン印刷法により均一に、厚み20μmの膜状に塗布した後に焼成を行うことにより形成した。電極103は、基板101上に二箇所形成され、それぞれ抵抗発熱体102に接続されることにより、電極を通してAC電圧が抵抗発熱体102に印加される。
【0057】
絶縁コート層104は、ガラスや樹脂等の絶縁物により形成され、抵抗発熱体102、電極103および導電部105の絶縁耐圧を確保するために設けられる。本実施例においては、絶縁ガラスによるコート層を80μmの厚みでスクリーン印刷を行うことにより、抵抗発熱体102と、電極103および導電部105の一部を被覆している。すなわち、絶縁コート層104は、基板101の長手方向において各抵抗発熱体102と、各抵抗発熱体と接続する電極103および導電部105の一部を個別に被覆する形状に形成され、該基板の短手方向において発熱体102間に0.3mmの空隙Sを有する様形成される。
【0058】
本実施例の画像形成装置には、ヒーター100に電力を供給するための電源回路およびヒーター100への電力供給を制御するための制御回路等からなる電力制御系が内蔵されている。図4は、電力制御系の一例のブロック図である。
【0059】
このヒーター温度制御系において、一方の電源回路では、ACの電源501と、リレー502と、トライアック118と、電源501からの供給電力により発熱するヒーター100とが直列に接続されて回路が構成されている。
【0060】
また他方の制御回路では、サーミスタ113と、A/D変換器504と、CPU117と、トライアック503が直列に接続された回路が構成されている。
【0061】
リレー502は、CPU117とリレー信号線505を介して接続されている。そして、CPU117からの指令信号によりオープン状態となり、電源501とヒーター100の間を遮断するものである。
【0062】
3)定着過剰電力投入試験についての詳述
本実施例に示す定着装置Fを用いて、定着過剰電力投入試験を実施した。
【0063】
過剰電力投入試験条件としては、ヒーター100の昇温が最も急速になるモードを選択した。すなわち、制御回路のトライアック503を双方向導通状態となるように、故意に破壊し、さらにリレー502をショートさせた。
【0064】
この状態で、AC電源からの通電を行い、最大電力が連続して入力される状態とした。電圧は、120V圏で最も電圧の高い地域の定格127Vに対し、10%増しの電圧、すなわち、約140Vを印加した。
【0065】
また、定着装置Fは、加圧ローラ駆動状態(回転状態)でなく、加圧ローラ停止状態とした。これは、停止状態と比較して、回転状態においては、ヒーター100に投入されたエネルギーが、加圧ローラ114の回転に伴い奪われることから、停止状態よりも定着装置Fに対するダメージが少ないためである。
【0066】
4)定着過剰電力投入試験結果
上記条件にて、5回の過剰電力投入試験を実施したところ、いずれの試験においても、ヒーター100の割れは発生しなかった。このとき、サーモスイッチ119が切れ、ヒーター100への通電が遮断されるまでの時間を計測したところ、最大4.0秒、最小3.2秒、平均3.5秒であった。
【0067】
また、過剰電力投入試験時に、ヒーター100が割れるまでの時間を計測するため、サーモスイッチ119をショートさせ、ヒーター100が割れるまで電力投入を継続する試験を3回実施したところ、ヒーター100が割れるまでの時間はそれぞれ、5.4秒、5.4秒、5.0秒であった。このことから、本実施例のヒーター100、定着装置F、画像形成装置においては、最も厳しいモードにおいても、ヒーター100が割れる前に、サーモスイッチ119が動作し、十分な安全性が確保されていると言える。
【0068】
5)比較例1
図5に、比較例1において使用するヒーター600の縦断面形状を示す。
【0069】
図5に示すように、本比較例におけるヒーター600の抵抗発熱体602は、ほぼ実施例1におけるヒーター100の場合と同様に形成されるが、絶縁層としての絶縁ガラス層604に空隙を設けていないことが異なる。すなわち、抵抗発熱体602間にも絶縁ガラス層が充填された構成となっている。
【0070】
本比較例1のヒーター600を、実施例1と同様の定着装置および画像形成装置にセットし、実施例1と同様5回の過剰電力投入試験を実施した。
【0071】
その結果、5回中4回の試験で、ヒーター600の割れが生じた。割れの生じた箇所は、全て、給電側の抵抗発熱体602の絞り形状の部分であった。また、ヒーター600に流れる電流値をモニターしたところ、ヒーター600の割れが発生する直前に、40Aを超える大電流が流れていることが計測された。
【0072】
このとき、過剰電力投入試験終了までの時間を計測したところ、最大4.0秒、最小3.3秒、平均3.5秒であった。
【0073】
また、過剰電力投入試験時に、ヒーター600が割れるまでの時間を計測するため、サーモスイッチ119をショートさせ、ヒーター600が割れるまで電力投入を継続する試験を3回実施したところ、ヒーター600が割れるまでの時間はそれぞれ、4.1秒、3.7秒、3.4秒であった。
【0074】
本比較例1においては、抵抗発熱体602の絞り部分において、過剰電力投入試験時に、表面の絶縁ガラス層604が溶けた際、絶縁ガラス材料が低抵抗化し、抵抗発熱体602の間でリークが発生し、給電側発熱体間でショート状態になった。このため、見かけ上のヒーター600抵抗値が著しく低下し、大電流が流れたことにより、給電側付近の発熱体で過剰な発熱が起こったことで、大きな熱応力が加わった。これが、ヒーター600が割れに到った原因である。
【0075】
これに対して、本実施例のヒーター100では、基板101の長手方向において各抵抗発熱体102と、該各抵抗発熱体に接続する電極103および導電部105の一部を個別に絶縁コート層104で被覆して、該基板の短手方向において各抵抗発熱体間と、各電極間、および各導電部間に空隙Sを設けているため、過剰電力投入に絶縁コート層104が溶融し、絶縁ガラス材料が低抵抗化し、抵抗発熱体間、電極間、および導電部間でリークが発生する事態を回避することができる。これにより安全性・リサイクル性に優れた定着ヒーターを提供することが可能となる。
【0076】
本実施例のヒーター100においては、二本の抵抗発熱体102は、いずれも同じ抵抗値を持ち、同じ抵抗発熱体幅を有する系としたが、抵抗発熱体102の幅、ペーストの材料及び抵抗値は異なるものとしても構わない。例えば、転写材搬送方向(図1(a))において上流側(図の上方側)の抵抗発熱体102の発熱体幅を全体的に細くする、あるいは、単位面積あたりの抵抗値の大きなペースト材料を用いて、抵抗を大きくすることにより、上流側発熱量の大きな構成とすることも可能である。
【0077】
更には、複数本の抵抗発熱体102のうち一本を完全に導電パターンとすることも可能である。
【0078】
また、本実施例のヒーター100においては、抵抗発熱体102の本数は二本としたが、無論、四本またはそれ以上の本数の抵抗発熱体を基板101上に形成したり、三本の抵抗発熱体に、更に一本の導電パターンを加えて、往復させる構成等を取っても構わない。
【0079】
さらに、本実施例においては、絶縁保護層として、絶縁ガラス材料を用いたが、ポリイミド等の樹脂材料を用いても差し支えない。
【実施例2】
【0080】
本実施例では、加熱体としてのヒーターの他の実施例を示す。本実施例のヒーターは、実施例1で用いたアルミナヒーターの代わりとして、基板の材質に窒化アルミを用いた、窒化アルミヒーターを使用したことが実施例1と異なる。
【0081】
1)窒化アルミヒーターの説明
図6(a)に、本実施例における窒化アルミヒーター200を長手方向上面より見た平面図を示す。
【0082】
本実施例に用いるヒーター200は、実施例1におけるヒーター100とほぼ同様の構成であるが、基板201の材料として、窒化アルミを用い、厚みを0.6mmとした。
【0083】
窒化アルミは、熱伝導率がアルミナの約20W/m・Kに対して、約95W/m・Kと非常に大きいため、ヒーター200の熱応力割れに対して有利である抵抗発熱体202から、定着フィルム111に対する熱伝達効率が高い、といった利点がある。
【0084】
また、抵抗発熱体202の形状については、後述するように、サーモスイッチ119をヒーター面に接触させない構成とし、サーモスイッチ119相当位置の抵抗発熱体202も、その他の部分と同じ幅としたことが異なる。すなわち、抵抗発熱体幅を絞るのは、長手両端部202aのみとなる。なお、図6(a)において、204は電極、205は導体部である。
【0085】
図6(b)に、本実施例における窒化アルミヒーター200の縦断面図を示す。
【0086】
本実施例においては、抵抗発熱体202は、転写材Pの画像面から見て裏側に形成されていることを特徴としている。これは、窒化アルミの熱伝導率が高いため、絶縁層(絶縁保護層)としての耐圧ガラス層204よりも基板201側への熱伝導の方が大きくなることから、熱効率の観点から、ヒーター200裏面に抵抗発熱体202を設けた方が有利であるためである。
【0087】
また、ヒーター200において転写材P側の面は、定着フィルムとの摺動性を確保するための、摺動ガラスや、樹脂によるコーティングを施しても良い。本実施例においては、ポリイミド樹脂を約6μmの厚みでコーティングした摺動層205を設けている。
【0088】
本実施例のヒーター200を搭載する定着装置は、基本的に実施例1と同様の定着装置Fを用いる。ただし、サーモスイッチ119は、ヒーター200には接触せずに、ヒーターホルダ115に一体化して設けられたスペーサ(不図示)により、0.5mm程度の空隙を介してヒーター面に対向して配置されている。サーモスイッチ119をヒーター200に直接接触させないことにより、通常の画像形成時に、サーモスイッチ119が誤って動作し、画像形成装置が停止してしまうという不具合を防止することが出来る。
【0089】
2)定着過剰電力投入試験結果
実施例1と同様の条件にて、5回の過剰電力投入試験を実施したところ、いずれの試験においても、ヒーター200の割れは発生しなかった。このとき、サーモスイッチ119が切れ、ヒーター200への通電が遮断されるまでの時間を計測したところ、最大7.1秒、最小6.5秒、平均6.8秒であった。
【0090】
また、電力投入時にヒーター200が割れるまでの時間を計測するため、サーモスイッチ119をショートさせ、ヒーターが割れるまで継続する試験を3回行ったところ、ヒーターが割れるまでの時間は、それぞれ7.7秒、7.5秒、7.6秒であった。
【0091】
このことから、本実施例のヒーター200、定着装置、画像形成装置においては、最も厳しいモードにおいても、ヒーターが割れる前に、サーモスイッチ119が動作し、十分な安全性が確保されていると言える。
【0092】
上記に示したように、ヒーター基板201の材質として窒化アルミを用いることにより、定着フィルムへの熱伝達効率を向上し、定着性を確保しつつ、安全性のマージンも十分確保することが可能となる。
【実施例3】
【0093】
本実施例では、加熱体としてのヒーターの他の実施例を示す。本実施例のヒーターは、実施例1のヒーターに対して、空隙を設ける場所を、抵抗発熱体を絞った部分のみとしたことを特徴とする。
【0094】
1)ヒーターの説明
図7に、本実施例のヒーター300を長手上面から見た平面図を示す。図7に示すとおり、絶縁層(絶縁保護層)としての絶縁ガラス層304に空隙Sを設ける場所は、抵抗発熱体302の長手両端部の絞り部302aおよび、サーモスイッチ当接部(接触部)となる長手中央部の絞り部302bのみとした。
【0095】
すなわち、絶縁ガラス層304に設けた空隙部Sは、該絶縁ガラス層に対して凹となるため、ヒーター300から定着フィルムへの熱伝達効率が低下する傾向がある。本実施例により、全体としてはヒーター300と定着フィルムの接触面積を十分確保することができるため、定着性を十分確保することができる。なお図7において、301は基板、303は電極、305は導体部である。
【0096】
2)定着過剰電力投入試験結果
実施例1と同様の条件にて、5回の過剰電力投入試験を実施したところ、いずれの試験においても、ヒーター300の割れは発生しなかった。このとき、サーモスイッチ119が切れ、ヒーター300への通電が遮断されるまでの時間を計測したところ、最大4.3秒、最小3.0秒、平均3.2秒であった。
【0097】
また、電力投入時にヒーター300が割れるまでの時間を計測するため、サーモスイッチ119をショートさせ、ヒーターが割れるまで電力投入状態を継続する試験を3回行ったところ、ヒーターが割れるまでの時間は、それぞれ5.4秒、5.5秒、5.1秒であった。
【0098】
このことから、本実施例のヒーター300、定着装置、画像形成装置においては、最も厳しいモードにおいても、ヒーターが割れる前に、サーモスイッチ119が動作し、十分な安全性が確保されていると言える。
【0099】
上記示したように、ヒーター300と定着フィルムの接触面積を十分確保するため、抵抗発熱体間の大部分に空隙を設けずに、絶縁ガラス材料を充填した構成においても、抵抗発熱体302間の長手方向において発熱量が大きくなる箇所のみ空隙Sを設けることにより、定着過剰電力投入時の安全性マージンを向上することができた。
【実施例4】
【0100】
本実施例は、実施例1の定着装置・画像形成装置とは異なり、カラー画像形成装置、及び、カラー画像定着に適した定着装置を用いることを特徴とする。
【0101】
1)カラー定着装置の説明
カラー化に際しては、定着フィルム上に弾性層を設けた、定着ベルトを用いた定着装置が有効である。定着フィルム上に弾性層を設けた構成については、特開平10−10893号公報、特開平11−15303号公報等に開示されている。
【0102】
弾性層を有する定着ベルトを用いることにより、トナー画像が定着ニップ部を通過する際に、弾性層がトナー層に沿って変形することで、画像上不均一に載っているトナーが弾性層によって包み込まれ、均一に熱を与えられることにより、均一な定着が達成される。
【0103】
このように均一に定着された画像は、光沢ムラがなく、特にOHT(オーバーヘッドプロジェクター用透明シート)にカラー画像を定着した際に、画像の光透過性が優れるという特徴をもつ。定着ベルトに弾性層を設ける際、弾性層の材料としては、シリコーンゴム等のゴム材料が用いられるのが一般的である。
【0104】
しかしながら、定着ベルトの弾性層に使用されるシリコーンゴム等の熱伝導率はあまり高くなく、また、定着ベルト表面からヒーター、及びヒーター裏面に設けられたサーミスタまでに多くの部材が入るため、応答性が悪く、温度検知手段がヒーター裏面に設置された系においては、定着ベルトの温度制御を行うことが難しい。特に、定着装置を転写材Pが通過して、定着ベルト表面の熱を奪い、定着ベルト表面の温度が低下したことを、ヒーター裏面に設置されたサーミスタで検出することは困難であり、応答に時間がかかりすぎてしまう。
【0105】
このとき、定着ベルトの基層として、金属ベルトを使用することに加えて、温度制御用サーミスタを定着ベルト裏面に配置し、より直接的に定着ベルト温度を検知する系が有効である。
【0106】
しかしながら、金属ベルトを用いた定着装置において、ヒーター割れが発生した場合、金属ベルトからサーミスタ等を介して二次回路に一次電流が流れ込み、二次回路の破壊につながる確立が高くなる。
【0107】
本実施例は、そのような場合においても、安全性のマージンを向上することを可能とする。
【0108】
図8に、本実施例における定着装置の構成模型図を示す。
【0109】
本実施例における定着装置Fは、実施例2で使用したものと同様のヒーター200、ヒーターホルダ17、サーミスタ18、定着ベルト20、加圧ローラ22、入り口ガイド23、定着排紙ローラ25等により構成される。
【0110】
ヒーターホルダ17は、耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂で形成し、ヒーター200を保持し、定着ベルト20をガイドする役割を果たす。
【0111】
本実施例においては、液晶ポリマーとして、デュポン社のゼナイト7755M(商品名)を使用した。ゼナイト7755Mの最大使用可能温度は、約270℃である。
【0112】
サーミスタ18は、定着ベルト20内面の温度を検知し、温調制御を行うために配設されている。このサーミスタ18は、ステンレス製のアーム19の先端にサーミスタ素子が取り付けられ、アーム19が揺動することにより、定着ベルト20内面の動きが不安定になった状態においても、サーミスタ素子が定着ベルト20内面に常に接する状態に保たれる。
【0113】
メインサーミスタ18は、実施例1と同様、CPU117に接続され、CPU117は、メインサーミスタ18の出力をもとに、ヒーター200の温調制御内容を決定し、ヒーター200への通電を制御する。
【0114】
定着ベルト20は、SUSの素管を引き抜き加工により、厚さ50μmの厚みのシームレスベルト状に形成した、SUSベルト上に、シリコーンゴム層を、リングコート法により形成した上に、厚み30μmのPFA樹脂チューブを被覆してなる。シリコーンゴム層には、極力熱伝導率の高い材質を用い、定着ベルト20の熱容量を小さくすることが、温度立上げの観点からは望ましい。本実施例においては、熱伝導率が約1.0×10−3cal/sec・cm・Kと、シリコーンゴムとしては、熱伝導率が高い部類に属する材質を用いた。
【0115】
一方、OHT透過性や、画像上の「す」(微小なグロスムラ)といった、画質の観点からは、定着ベルト20のゴム層を極力厚くすることが望ましい。本発明者らの検討によれば、満足のいくレベルの画質を得るためには、200μm以上のゴム厚みが必要であることが分かっている。本実施例におけるシリコーンゴム層は、厚み250μmとした。
【0116】
こうして形成した定着ベルト20の熱容量を測定したところ、2.8×10−2cal/cmK(定着ベルト1cmあたりの熱容量)であった。一般に、定着ベルト20の熱容量が1.0cal/cmK以上となると、温度立ち上がりが鈍くなり、オンデマンド性が損なわれる。また、逆に1.0×10−2cal/cmK以下にしようとすると、定着ベルト20のゴム層が極端に薄くせざるを得なくなり、OHT透過性や「す」のレベル等、画質を維持するために必要なゴム層の厚みを確保できない。このため、オンデマンド性と、画質の両方を満足する定着ベルト20の熱容量は、1.0×10−2cal/cmK以上1.0cal・cmK以下の範囲に含まれることが分かる。
【0117】
さらに、定着ベルト20表面にフッ素樹脂層を設けることで、表面の離型性を向上し、定着ベルト20表面にトナーが一旦付着し、再度転写材Pに移動することで発生するオフセット現象を防止することができる。
【0118】
また、定着ベルト20表面のフッ素樹脂層を、PFAチューブとすることで、より簡便に、均一なフッ素樹脂層を形成することが可能となる。
【0119】
加圧ローラ22は、ステンレス製の芯金に、射出成形により、厚み約3mmのシリコーンゴム層を形成し、その上に厚み約40μmのPFA樹脂チューブを被覆してなる。
【0120】
入り口ガイド23は、二次転写ニップ(不図示)を抜けた転写材Pが、定着ニップ部Nに正確にガイドされるよう、転写材を導く役割を果たす。本実施例の入り口ガイド23は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂により形成されている。
【0121】
加圧ローラ22、入り口ガイド23は、それぞれフレーム24に組みつけられ、その上にヒーターホルダ17に接着された定着ヒーター200を内蔵した定着ベルト20が置かれ、不図示の加圧機構により、196.1N(20kgf(片側10kgf))の力で加圧されている。加圧機構は、不図示の圧解除機構を有し、ジャム処理時等に、加圧を解除し、転写材Pの除去が容易な構成となっている。
【0122】
本実施例の定着装置Fにおいては、加圧ローラ22が回転することによって、定着ベルト20が従動回転する。その際、定着ベルト20内面とヒーターホルダ17は摺動する構成となっている。定着ベルト20内面にはグリスが塗布され、ヒーターホルダ17と定着ベルト20内面との摺動性を確保している。
【0123】
通常使用においては、定着装置Fの加圧ローラ駆動開始とともに、定着ベルト20の従動回転が開始し、ヒーター200の温度の上昇とともに、定着ベルト20内面温度も上昇していく。
【0124】
本実施例の定着装置Fにおいても、実施例1の定着装置と同様、ヒーター200の裏面に安全素子としてのサーモスイッチ119が設置されている。実施例2と同様、サーモスイッチ119はヒーター200には直接接触せずに、ヒーターホルダ17に一体化して設けられたスペーサ(不図示)により、0.5mm程度の空隙を介してヒーター面に対向して配置されている。
【0125】
2)カラー画像形成装置の説明
図9に、本実施例におけるカラー画像形成装置の構成模型図を示す。
【0126】
本実施例における画像形成装置は、電子写真方式を用いて、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの4色のトナー像を重ね合わせることでフルカラー画像を得る、フルカラー画像形成装置に、本発明の定着装置を組み込んだものである。
【0127】
本実施の形態における、フルカラー画像形成装置のプロセススピードは、90mm/sec、一分間の印字枚数はUSレターサイズ紙で16枚である。また、一枚目プリント(First Page Out)までの時間(FPOT)は約15秒である。
【0128】
Y・C・M・Kはそれぞれイエロー・シアン・マゼンタ・ブラックの色トナー像を形成する4つのプロセスカートリッジであり、下から上に順に配列してある。各プロセスカートリッジY・C・M・Kは、それぞれ、像担持体たる感光体ドラム1、帯電手段たる帯電ローラ2、静電潜像を顕像化するための現像手段3、感光体ドラムのクリーニング手段4等をひとつの容器にまとめた、いわゆるオールインワンカートリッジを使用している。
【0129】
イエローのプロセスカートリッジYの現像手段3にはイエロトナーを、シアンのプロセスカートリッジCの現像手段3にはシアントナーを、マゼンタのプロセスカートリッジMの現像手段3にはマゼンタトナーを、ブラックのプロセスカートリッジKの現像手段3にはブラックトナーを、それぞれ充填してある。
【0130】
感光体ドラム1に露光を行うことにより静電潜像を形成する光学系5が上記4色のプロセスカートリッジY・C・M・Kに対応して設けられている。光学系としては、レーザー走査露光光学系を用いている。
【0131】
各プロセスカートリッジY・C・M・Kにおいて、光学系5より、画像データに基づいた走査光が、帯電手段2により一様に帯電された感光体ドラム1上を露光することにより、感光体ドラム表面に走査露光画像に対応する静電潜像が形成される。不図示のバイアス電源より現像手段3の現像ローラに印加される現像バイアスを、帯電電位と潜像(露後部)電位の間の適切な値に設定することで、負の極性に帯電されたトナーが感光体ドラム1上の静電潜像に選択的に付着して現像が行われる。
【0132】
すなわち、イエローのプロセスカートリッジYの感光体ドラム1にはイエロートナー像が、シアンのプロセスカートリッジCの感光体ドラム1にはシアントナー像が、マゼンタのプロセスカートリッジMの感光体ドラム1にはマゼンタトナー像が、ブラックのプロセスカートリッジKの感光体ドラム1にはブラックトナー像が、それぞれ形成される。
【0133】
各プロセスカートリッジY・C・M・Kの感光体ドラム1上に現像形成された上記の単色トナー画像は各感光体ドラム1の回転と同期して、略等速で回転する中間転写体6上へ所定の位置合わせ状態で順に重畳されて一次転写されることで、中間転写体6上に未定着のフルカラートナー画像が合成形成される。
【0134】
本実施例においては、中間転写体6として、エンドレスの中間転写ベルトを用いており、駆動ローラ7、二次転写ローラ対向ローラ14、テンションローラ8の3本のローラに巻きかけて張架してあり、駆動ローラ7によって駆動される。
【0135】
各プロセスカートリッジY・C・M・Kの感光体ドラム1上から中間転写ベルト6上へのトナー像の一次転写手段としては、一次転写ローラ9を用いている。一次転写ローラ9に対して、不図示のバイアス電源より、トナーと逆極性の一次転写バイアスを印加することにより、各プロセスカートリッジY・C・M・Kの感光体ドラム1上から中間転写ベルト6に対して、トナー像が一次転写される。
【0136】
各プロセスカートリッジY・C・M・Kにおいて感光体ドラム1上から中間転写ベルト6への一次転写後、感光体ドラム1上に転写残として残ったトナーは、クリーニング手段4により除去される。本実施例においては、クリーニング手段4として、ウレタンブレードによるブレードクリーニングを用いている。
【0137】
上記工程を中間転写ベルト6の回転に同調して、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色に対して行い、中間転写ベルト6上に、各色の一次転写トナー画像を順次重ねて形成していく。なお、単色のみの画像形成(単色モード)時には、上記工程は、目的の色についてのみ行われる。
【0138】
一方、転写材(被加熱材)供給部となる転写材カセット10にセットされた転写材Pは、給送ローラ11により給送され、レジストローラ12により所定のタイミングで、二次転写ローラ対向ローラ14に巻きかけられている中間転写ベルト6部分と二次転写手段としての二次転写ローラ13との転写ニップ部Aに搬送される。
【0139】
中間転写ベルト6上に形成された一次転写トナー像は、二次転写手段たる二次転写ローラ13に不図示のバイアス印加手段より印加されるトナーと逆極性のバイアスにより、転写材P上に一括転写される。
【0140】
二次転写後に中間転写ベルト6上に残った二次転写残トナーは中間転写ベルトクリーニング手段15により除去される。本実施例においては、感光体ドラム1のクリーニング手段と同様、ウレタンブレードによる中間転写体クリーニングを行っている。
【0141】
転写材P上に二次転写されたトナー画像は、定着手段たる定着装置Fを通過することで、転写材P上に溶融定着され、排紙パス31を通って排紙トレイ32に送り出されて画像形成装置の出力画像(フルカラープリント、もしくはものカラープリント)となる。
【0142】
また、本実施例におけるカラー画像形成装置は、実施例1と同様の電力制御系を用いて、ヒーター200に投入される電力を制御している。
【0143】
3)過剰電力投入試験結果
本実施例におけるカラー画像形成装置および定着装置を用いて、実施例1と同様の過剰電力投入試験を行った。
【0144】
5回の過剰電力投入試験を実施したところ、いずれの試験においても、ヒーター200の割れは発生しなかった。このとき、サーモスイッチ119が切れ、ヒーター700への通電が遮断されるまでの時間を計測したところ、最大7.0秒、最小6,6秒、平均6.7秒であった。
【0145】
また、過剰電力投入試験時にヒーター200が割れるまでの時間を計測するため、サーモスイッチ119をショートさせ、ヒーターが割れるまで電力投入状態を継続する試験を3回行ったところ、ヒーターが割れるまでの時間は、それぞれ7.5秒、7.6秒、7.9秒であった。
【0146】
このことから、本実施例のヒーター200、定着装置F、カラー画像形成装置においては、最も厳しいモードにおいても、ヒーター200が割れる前に、サーモスイッチ119が動作し、十分な安全性が確保されていると言える。
【0147】
以上の様に、金属ベルトを用いたカラー画像定着装置においても、本実施例を適用することにより、安全性マージンを向上することが可能となる。
【0148】
〔その他〕
1)本発明の像加熱装置は、画像加熱定着装置としてばかりでなく、たとえば,一度定着された画像を担持した被記録材を加熱してつや等の表面性を改質する像加熱装置、仮定着処理する像加熱装置、シート状物を供給して乾燥処理・ラミネート処理する等の像加熱装置、インクジェットプリンタ等に用いられる乾燥用の像加熱装置等として広く使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】第1実施例のヒーターの構成を示す説明図である。
【図2】第1実施例の定着装置の構成模型図である。
【図3】第1実施例の画像形成装置の構成模型図である。
【図4】第1実施例のヒーターに用いられる電力制御系回路を示す回路図である。
【図5】比較例のヒーターの縦断面図である。
【図6】第2実施例のヒーターの構成を示す説明図である。
【図7】第3実施例のヒーターの構成を示す説明図である。
【図8】第4実施例の定着装置の構成模型図である。
【図9】第4実施例のカラー画像定着装置の構成模型図である。
【図10】従来のセラミックヒーター(発熱体一本タイプ)の平面図である。
【図11】従来のセラミックヒーター(往復発熱体タイプ)の平面図である。
【図12】ヒーター長手方向で発熱分布のあるヒーターの平面図である。
【図13】ヒーター上の熱電対の、1000W投入時の温度推移を示す図である。
【符号の説明】
【0150】
100,200,300:ヒーター
101,201,301:基板
102,202,302:抵抗発熱体
103,203,303:電極部
104,204,205:絶縁保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の長手方向に沿って設けられた抵抗発熱体と、前記抵抗発熱体に接続する導体部と、を有し、被加熱材を加熱する加熱装置に用いられる加熱体において、
前記基板上に、複数の前記抵抗発熱体と、前記複数の抵抗発熱体に接続する導体部と、前記複数の抵抗発熱体、および前記導体部を被覆する絶縁層と、を有し、前記絶縁層は、前記基板の長手方向において少なくとも前記複数の抵抗発熱体の間と、前記導体部の間とに空隙を形成するように該複数の抵抗発熱体と該導体部の一部を被覆していることを特徴とする加熱体。
【請求項2】
前記空隙は、少なくとも前記抵抗発熱体の発熱量が最大となる個所に形成されることを特徴とする請求項1に記載の加熱体。
【請求項3】
前記基板は電気絶縁材料よりなることを特徴とする請求項1または2に記載の加熱体。
【請求項4】
前記電気絶縁材料として、セラミック、アルミナ、若しくは窒化アルミが用いられることを特徴とする、請求項4に記載の加熱体。
【請求項5】
前記絶縁層は、絶縁ガラス材料よりなることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の加熱体。
【請求項6】
通電により発熱する発熱抵抗体を基板上に有する加熱体と、前記加熱体に接触しつつ移動する可撓性部材と、を有し、前記可撓性部材を介して前記加熱体の熱で被加熱材上の像を加熱する像加熱装置において、
前記加熱体は、基板上に、前記基板の長手方向に沿って設けられた複数の前記抵抗発熱体と、前記複数の抵抗発熱体に接続する導体部と、前記複数の抵抗発熱体、および前記導体部を被覆する絶縁層と、を有し、前記絶縁層は、前記基板の長手方向において少なくとも前記複数の抵抗発熱体の間と、前記導体部の間とに空隙を形成するように該複数の抵抗発熱体と該導体部の一部を被覆していることを特徴とする像加熱装置。
【請求項7】
前記加熱体に安全素子が接触して配置されることを特徴とする請求項6に記載の像加熱装置。
【請求項8】
前記加熱体に安全素子が非接触に配置されることを特徴とする請求項6に記載の像加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−179303(P2006−179303A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371336(P2004−371336)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】