説明

動力伝達装置およびこれを搭載する車両

【課題】装置の小型化を図る。
【解決手段】ライン圧PLが信号圧用入力ポート52aに入力されているときには機械式オイルポンプ42からの油圧がリニアソレノイドSLC1による調圧を伴ってクラッチC1に供給されると共に電磁ポンプ100からの油圧がブレーキB2に供給され、ライン圧PLが信号圧用入力ポート52aに入力されていないときには電磁ポンプ100からの油圧がクラッチC1に供給されるよう切替バルブ50を形成する。これにより、走行中にLポジションにシフト操作されたときにはポンプ42によりクラッチC1を係合すると共に電磁ポンプ100によりブレーキB2を係合してエンジンブレーキを作用させることができ、エンジンが自動停止中のときには電磁ポンプ100によりクラッチC1に油圧を作用させることができる。この結果、機械式オイルポンプ42の最大負荷を小さくすることができ、装置を小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置およびこれを搭載する車両に関し、詳しくは、車両に搭載され、原動機からの動力を車軸に伝達するための駆動用クラッチおよび該原動機からの制動力を車軸に伝達するための制動用クラッチとを含む複数のクラッチを備える動力伝達装置およびこれを搭載する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の動力伝達装置としては、エンジンからの動力により駆動する第1の油圧ポンプと、シフト操作に連動するマニュアルシフトバルブと、第1の油圧ポンプにマニュアルシフトバルブを介して入力ポートが接続されたソレノイドバルブと、ソレノイドバルブの出力ポートと摩擦係合装置(クラッチ)とを接続する油路に介在しこの油路を連通する第1のポジションと油路を遮断(逆止弁内蔵を含む)する第2のポジションとを選択する2ポジションの電磁弁として構成された選択バルブと、クラッチに吐出圧を直接に供給する第2の油圧ポンプ(電磁ポンプ)と、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、高圧大容量を必要とする摩擦係合装置の作動時には第1の油圧ポンプから選択バルブを介して圧油を供給し、これを保持するときには第2の油圧ポンプから圧油を供給することにより、エネルギーロスを減らし、省エネを図ることができるとしている。
【特許文献1】特開2008−180303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、補助ポンプとして電磁ポンプを用いることにより、動力伝達装置としての機能を発揮させながら、省エネを図ることができるものの、動力伝達装置を車両に搭載することを考えると、その搭載スペースが限られることから、できる限り装置の小型化を図ることが望ましい。
【0004】
本発明の動力伝達装置およびこれを搭載する車両は、装置の性能を発揮させつつ装置の小型化を図ることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の動力伝達装置およびこれを搭載する車両は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の動力伝達装置は、
車両に搭載され、原動機からの動力を車軸に伝達するための駆動用クラッチおよび該原動機からの制動力を車軸に伝達するための制動用クラッチとを含む複数のクラッチを備える動力伝達装置であって、
前記原動機からの動力により駆動して流体圧を発生させる第1のポンプと、
電力の供給により駆動して流体圧を発生させる第2のポンプと、
前記第1のポンプからの流体圧が入力されているときには該第1のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を接続して前記第2のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を遮断すると共に前記第2のポンプと前記制動用クラッチとの流路を接続する第1の状態とし、前記第1のポンプからの流体圧が入力されていないときには該第1のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を遮断して前記第2のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を接続すると共に前記第2のポンプと前記制動用クラッチとの流路を遮断する第2の状態とを切り替える切替バルブと、
を備えることを要旨とする。
【0007】
この本発明の動力伝達装置では、原動機からの動力を車軸に伝達するための駆動用クラッチと原動機からの動力により駆動する第1のポンプとの流路を接続して駆動用クラッチと電力の供給により駆動する第2のポンプとの流路を遮断すると共に制動用クラッチと第2のポンプとの流路を接続する第1の状態と、駆動用クラッチと第1のポンプとの流路を遮断して駆動用クラッチと第2のポンプとの流路を接続すると共に制動用クラッチと第2のポンプとの流路を遮断する第2の状態とを切り替える切替バルブを設ける。これにより、原動機が運転中のときには駆動用クラッチへの流体圧の供給を第1のポンプにより行なうと共に制動用クラッチへの流体圧の供給を第2のポンプにより行ない、原動機が停止中のときには駆動用クラッチへの流体圧の供給を第2のポンプにより行なうことができる。この結果、第1のポンプの最大負荷をより小さくすることができるから、第1のポンプとして小型のものを用いることができ、ひいては装置全体をより小型化することができる。ここで、「原動機」には、自動停止と自動始動とが可能な内燃機関が含まれる他、走行用の動力を出力可能な電動機も含まれる。また、「クラッチ」には、二つの回転系を接続する通常のクラッチが含まれる他、一つの回転系をケースなどの固定系に接続するブレーキが含まれる。また、「クラッチ」には、ワンウェイクラッチも含まれる。なお、この場合、制動用クラッチをワンウェイクラッチに対して並列的に設けることもできる。
【0008】
こうした本発明の動力伝達装置において、前記制動用クラッチは、一つの回転系を固定系に接続するブレーキであるものとすることもできる。一つの回転系を固定系に接続するブレーキは、二つの回転系を接続するクラッチに比して作動流体の漏れが少ないから、第2のポンプを低容量のものを用いることができる。これにより、第2のポンプを小型化することができる。
【0009】
また、駆動用クラッチとして異なる複数の変速比を形成可能な複数のクラッチを備える本発明の動力伝達装置において、前記切替バルブは、前記第1のポンプからの流体圧が入力されているときには前記第2のポンプと前記複数のクラッチのうち車両の発進に用いる発進用クラッチとの流路を遮断すると共に前記第2のポンプと前記制動用クラッチとの流路を接続することにより前記第1の状態とし、前記第1のポンプからの流体圧が入力されていないときには前記第2のポンプと前記発進用クラッチとの流路を接続すると共に前記第2のポンプと前記制動用クラッチとの流路を遮断することにより前記第2の状態とするよう形成されてなるものとすることもできる。こうすれば、原動機が停止している最中に第2のポンプにより発進用クラッチに流体圧を供給することにより、原動機が運転を開始して第1のポンプが作動を開始した直後に発進用クラッチを迅速に係合することができ、車両の発進をスムーズに行なうことができる。
【0010】
本発明の車両は、
原動機と、
上述した各態様のいずれかの本発明の動力伝達装置、即ち、基本的には、車両に搭載され、原動機からの動力を車軸に伝達するための駆動用クラッチおよび該原動機からの制動力を車軸に伝達するための制動用クラッチとを含む複数のクラッチを備える動力伝達装置であって、前記原動機からの動力により駆動して流体圧を発生させる第1のポンプと、電力の供給により駆動して流体圧を発生させる第2のポンプと、前記第1のポンプからの流体圧が入力されているときには該第1のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を接続して前記第2のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を遮断すると共に前記第2のポンプと前記制動用クラッチとの流路を接続する第1の状態とし、前記第1のポンプからの流体圧が入力されていないときには該第1のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を遮断して前記第2のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を接続すると共に前記第2のポンプと前記制動用クラッチとの流路を遮断する第2の状態とを切り替える切替バルブと、を備える動力伝達装置と、
を備えることを要旨とする。
【0011】
この本発明の車両によれば、上述した各態様のいずれかの本発明の動力伝達装置を備えるから、本発明の動力伝達装置が奏する効果、例えば装置全体をより小型化することができる効果などと同様の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は本発明の一実施例としての動力伝達装置20が組み込まれた自動車10の構成の概略を示す構成図であり、図2は動力伝達装置20が備えるオートマチックトランスミッション30の作動表を示す説明図であり、図3はオートマチックトランスミッション30を駆動する油圧回路40の構成の概略を示す構成図である。
【0014】
実施例の自動車10は、図1に示すように、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関としてのエンジン12と、エンジン12を運転制御するエンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)16と、エンジン12のクランクシャフト14に接続されると共に左右の車輪90a,90bの車軸92a,92bに接続されてエンジン12からの動力を車軸92a,92bに伝達する実施例の動力伝達装置20と、を備える。
【0015】
実施例の動力伝達装置20は、図1に示すように、エンジン12からの動力を車軸92a,92bに伝達するトランスアクスル装置として構成されており、エンジン12のクランクシャフト14に接続された入力側のポンプインペラ22aと出力側のタービンランナ22bとからなるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ22と、トルクコンバータ22の後段に配置されエンジン12からの動力により作動油を圧送する機械式オイルポンプ42(図3参照)と、トルクコンバータ22のタービンランナ22b側に接続された入力軸36と車軸92a,92b側に接続された出力軸38とを有し入力軸36に入力された動力を変速して出力軸38に出力する油圧駆動の有段のオートマチックトランスミッション30と、このオートマチックトランスミッション30を駆動するアクチュエータとしての油圧回路40と、オートマチックトランスミッション30(油圧回路40)を制御するオートマチックトランスミッション用電子制御ユニット(ATECU)26と、車両全体をコントロールするメイン電子制御ユニット80とを備える。なお、メイン電子制御ユニット80には、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPやアクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込みを検出するブレーキスイッチ86からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ88からの車速Vなどが入力されている。また、メイン電子制御ユニット80は、エンジンECU16やATECU26と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU16やATECU26と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0016】
オートマチックトランスミッション30は、図1に示すように、ラビニヨ式の遊星歯車機構と三つのクラッチC1,C2,C3と二つのブレーキB1,B2とワンウェイクラッチF1とを備える。このラビニヨ式の遊星歯車機構は、外歯歯車の二つのサンギヤ31a,31bと、内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31aに噛合する複数のショートピニオンギヤ33aと、サンギヤ31bおよび複数のショートピニオンギヤ33aに噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のロングピニオンギヤ33bと、複数のショートピニオンギヤ33aおよび複数のロングピニオンギヤ33bとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア34と、を備え、サンギヤ31aはクラッチC1を介して入力軸36に接続されており、サンギヤ31bはクラッチC3を介して入力軸36に接続されると共にブレーキB1を介してケースに固定されており、リングギヤ32は出力軸38に接続されており、キャリア34はクラッチC2を介して入力軸36に接続されている。また、キャリア34は、ワンウェイクラッチF1を介してケースに接続されると共にブレーキB2を介してワンウェイクラッチF1に対して並列的にケースに接続されている。
【0017】
オートマチックトランスミッション30は、図2に示すように、クラッチC1〜C3のオンオフとブレーキB1,B2のオンオフにより前進1速〜4速と後進とを切り替えることができるようになっている。後進の状態は、クラッチC3とブレーキB2とをオンとすると共にクラッチC1,C2とブレーキB1とをオフとすることにより形成することができる。また、前進1速の状態は、クラッチC1をオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができる。この前進1速の状態では、エンジンブレーキ時には、ワンウェイクラッチF1に代えてブレーキB2がオンとされる。前進2速の状態は、クラッチC1とブレーキB1とをオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB2とをオフとすることにより形成することができる。前進3速の状態は、クラッチC1,C2をオンとすると共にクラッチC3とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができる。前進4速の状態は、クラッチC2とブレーキB1とをオンとすると共にクラッチC1,C3とブレーキB2とをオフとすることにより形成することができる。
【0018】
オートマチックトランスミッション30におけるクラッチC1〜C3のオンオフとブレーキB1,B2のオンオフは、油圧回路40により行なわれる。油圧回路40は、図3に示すように、エンジン12からの動力により駆動する機械式オイルポンプ42からストレーナ41を介して圧送された作動油の圧力(ライン圧PL)を調節するレギュレータバルブ43と、ライン圧PLから図示しないモジュレータバルブを介して生成されるモジュレータ圧PMODを調圧して信号圧として出力することによりレギュレータバルブ43を駆動するリニアソレノイド44と、ライン圧PLを入力する入力ポート45aとD(ドライブ)ポジション用出力ポート45bとR(リバース)ポジション用出力ポート45cとL(ロー)ポジション用出力ポート45dが形成されシフトレバー81がRポジションにシフト操作されたときには入力ポート45aとRポジション用出力ポート45cとを連通しNポジションにシフト操作されたときには入力ポート45aとすべての出力ポート45b〜45dとの連通を遮断しDポジションや2(セカンド)ポジションにシフト操作されたときには入力ポート45aとDポジション用出力ポート45bとを連通しLポジションにシフト操作されたときには入力ポート45aとLポジション用出力ポート45dとを連通するマニュアルバルブ45と、マニュアルバルブ45のDポジション用出力ポート45bから出力された作動油を入力ポート112を介して入力しドレンポート116への一部の排出を伴って調圧して出力ポート114から出力するリニアソレノイドSLC1と、ストレーナ41と機械式オイルポンプ42との間の油路46から吸入ポート102を介して作動油を吸入すると共に吐出ポート104から吐出する電磁ポンプ100と、リニアソレノイドSLC1から出力される作動油をクラッチC1の油路48に供給すると共に電磁ポンプ100の吐出ポート104からの作動油を他方の油路58に供給する状態とリニアソレノイドSLC1からクラッチC1の油路48への作動油の供給を遮断すると共に吐出ポート104からの作動油をクラッチC1の油路48に供給する状態とを切り替える切替バルブ50と、クラッチC1に作用する油圧を蓄圧するアキュムレータ49と、マニュアルバルブ45のDポジション用出力ポート45bから出力された作動油を入力ポート122を介して入力しドレンポート126への一部の排出を伴って調圧して出力ポート124からブレーキB1に出力するリニアソレノイドSLB1と、ブレーキB1に作用する油圧により作動し油路58からの作動油を他方の油路68に供給する状態と油路68からの作動油をドレンする状態とを切り替えるB2カットオフバルブ60と、マニュアルバルブ45のLポジション用出力ポート45dから出力される油圧により作動し油路68からの作動油とRポジション用出力ポート45cから出力された作動油とを選択的にブレーキB2に供給するB2リレーバルブ70などにより構成されている。なお、図3では、クラッチC1とブレーキB1,B2以外のクラッチC2,C3の油圧系については本発明の中核をなさないから省略しているが、これらの油圧系については周知のリニアソレノイドなどを用いて構成することができる。
【0019】
切替バルブ50は、図3に示すように、ライン圧PLを信号圧として入力する信号圧用入力ポート52aとリニアソレノイドSLC1の出力ポート114に接続された入力ポート52bと電磁ポンプ100の吐出ポート104に接続された入力ポート52cとクラッチC1の油路48に接続された出力ポート52dとB2カットオフバルブ60側の油路58に接続された出力ポート52eとドレンポート52fの各種ポートが形成されたスリーブ52と、スリーブ52内を軸方向に摺動するスプール54と、スプール54を軸方向に付勢するスプリング56とにより構成されている。この切替バルブ50は、ライン圧PLが信号圧用入力ポート52aに入力されているときにはスプリング56の付勢力に打ち勝ってスプール54が図中左半分の領域に示す位置に移動し入力ポート52cと出力ポート52dとの連通を遮断して入力ポート52bと出力ポート52dとを連通すると共に入力ポート52cと出力ポート52eを連通することによりリニアソレノイドSLC1の出力ポート114とクラッチC1の油路48とを連通し電磁ポンプ100の吐出ポート104とクラッチC1の油路48との連通を遮断すると共に吐出ポート104とB2カットオフバルブ60側の油路58とを連通し、ライン圧PLが信号圧用入力ポート52aに入力されていないときにはスプリング56の付勢力によりスプール54が図中右半分の領域に示す位置に移動し入力ポート52bと出力ポート52dとの連通を遮断して入力ポート52cと出力ポート52dとを連通すると共に入力ポート52cと出力ポート52eとの連通を遮断することによりリニアソレノイドSLC1の出力ポート114とクラッチC1の油路48との連通を遮断し電磁ポンプ100の吐出ポート104とクラッチC1の油路48とを連通すると共に吐出ポート104と油路58との連通を遮断する。なお、信号圧用入力ポート52aにライン圧PLが入力されていないときには、出力ポート52eとドレンポート52fとが連通し、B2カットオフバルブ60側の油路58の作動油がドレンポート52fを介してドレンされるようになっている。
【0020】
B2カットオフバルブ60は、図3に示すように、ブレーキB1に作用している油圧を信号圧として入力する信号圧用入力ポート62aと図示しないクラッチC2に作用している油圧を信号圧として入力する信号圧用入力ポート62bと油路58に接続された入力ポート62cとB2リレーバルブ70側の油路68に接続された出力ポート62dとドレンポート62eの各種ポートが形成されたスリーブ62と、スリーブ62内を軸方向に摺動するスプール64と、スプール64を軸方向に付勢するスプリング66とにより構成されている。このB2カットオフバルブ60は、ブレーキB1の油圧が信号圧用入力ポート62aに入力されているとき或いはクラッチC2の油圧が信号圧用入力ポート62bに入力されているときにはスプリング66の付勢力に打ち勝ってスプール64が図中左半分の領域に示す位置に移動し入力ポート62cと出力ポート62dとの連通を遮断すると共に出力ポート62dとドレンポート62eとを連通することによりB2リレーバルブ70側の油路68の作動油をドレンし、ブレーキB1の油圧が信号圧用入力ポート62aに入力されておらずクラッチC2の油圧が信号圧用入力ポート62bに入力されていないときにはスプリング66の付勢力によりスプール64が図中右半分の領域に示す位置に移動し入力ポート62cと出力ポート62dとを連通すると共に出力ポート62dとドレンポート62eとの連通を遮断することにより油路58と油路68とを連通する。
【0021】
B2リレーバルブ70は、図3に示すように、マニュアルバルブ45のLポジション用出力ポート45dからの油圧を信号圧として入力する信号圧用入力ポート72aとマニュアルバルブ45のRポジション用出力ポート45cに接続された入力ポート72bと油路68に接続された入力ポート72cとブレーキB2の油路78に接続された出力ポート72dとが形成されたスリーブ72と、スリーブ72内を軸方向に摺動するスプール74と、スプール74を軸方向に付勢するスプリング76とにより構成されている。このB2リレーバルブ70は、Lポジション用出力ポート45dからの油圧が信号圧用入力ポート72aに入力されているときにはスプリング76の付勢力に打ち勝ってスプール74が図中右半分の領域に示す位置に移動し入力ポート72bを閉塞して入力ポート72cと出力ポート72dとを連通することにより油路68とブレーキB2の油路78とを連通し、Lポジション用出力ポート45dからの油圧が信号圧用入力ポート72aに入力されていないときにはスプリング76の付勢力によりスプール74が図中左半分の領域に示す位置に移動し入力ポート72cを閉塞して入力ポート72bと出力ポート72dとを連通することによりRポジション用出力ポート45cとブレーキB2の油路78とを連通する。
【0022】
こうして構成された実施例の自動車10では、シフトレバー62を「D(ドライブ)」の走行ポジションとして走行しているときに、車速Vが値0,アクセルオフ,ブレーキスイッチ信号BSWがオンなど予め設定された自動停止条件の全てが成立したときにエンジン12を自動停止する。エンジン12が自動停止されると、その後、ブレーキスイッチ信号BSWがオフなど予め設定された自動始動条件が成立したときに自動停止したエンジン12を自動始動する。
【0023】
実施例の自動車10では、シフトレバー81がDポジションに操作されているとき、自動停止条件が成立してエンジン12が自動停止したときには、これに伴って機械式オイルポンプ42も停止するから、ライン圧PLが抜け、切替バルブ50のスプール54はリニアソレノイドSLC1の出力ポート114とクラッチC1の油路48との接続を遮断すると共にこのクラッチC1の油路48と電磁ポンプ100の吐出ポート104とを連通する。このとき、作動油が圧送されるよう電磁ポンプ100を駆動制御することにより、クラッチC1に油圧を作用させることができる。次に、自動始動条件が成立して停止しているエンジン12が自動始動されると、これに伴って機械式オイルポンプ42が作動するから、ライン圧PLが供給され、切替バルブ50のスプール54はリニアソレノイドSLC1の出力ポート114とクラッチC1の油路48とを連通すると共にこのクラッチC1の油路48と電磁ポンプ100の吐出ポート104との連通を遮断する。このとき、リニアソレノイドSLC1によりマニュアルバルブ45のDポジション用出力ポート45bを介して入力されたライン圧PLを調圧してクラッチC1に供給することにより、クラッチC1を完全に係合して車両を発進させることができる。このようにエンジン12が自動停止している最中に電磁ポンプ100を駆動してクラッチC1に油圧を作用させておくことにより、エンジン12が自動始動した直後にクラッチC1を迅速に係合させることができるから、エンジン12の自動始動を伴う発進をスムーズに行なうことができる。なお、電磁ポンプ100は、実施例では、その圧送性能がクラッチC1のピストンとドラムとの間に設けられたシールリングなどから漏れ出る量だけ作動油が補充できる程度となるよう設計するものとした。
【0024】
また、実施例の自動車10では、エンジン12の運転を伴って走行している最中にシフトレバー81が2ポジションからLポジションにシフト操作された場合には、切替バルブ50は機械式オイルポンプ42の作動によりライン圧PLが信号圧用入力ポート52aに入力されることからリニアソレノイドSLC1とクラッチC1の油路48とを連通し、機械式オイルポンプ42から圧送された油圧はマニュアルバルブ45を介してリニアソレノイドSLC1による調圧を伴ってクラッチC1に作用して、クラッチC1を係合させる。一方、切替バルブ50は電磁ポンプ100の吐出ポート104とB2カットオフバルブ60側の油路58とを連通し、B2カットオフバルブ60はブレーキB1とクラッチC2のいずれにも油圧が作用していないことから油路58とB2リレーバルブ70側の油路68とを連通し、B2リレーバルブ70はマニュアルバルブ45のLポジション用出力ポート45dからの油圧が信号圧用入力ポート72aに入力されることから油路68とブレーキB2の油路78とを連通する。従って、作動油が圧送されるよう電磁ポンプ100を駆動制御することにより、電磁ポンプ100の吐出ポート104から吐出される油圧は切替バルブ50、油路58、B2カットオフバルブ60、油路68、B2リレーバルブ70、油路78を順に介してブレーキB2に作用して、ブレーキB2を係合させる。これにより、クラッチC1とブレーキB2とが共に係合され、アクセルオフ時にはエンジンブレーキが動力伝達装置20を介して車軸92a,92bに伝達されることになる。なお、ブレーキB2は、シールリングからの漏れがなく、係合に必要な油圧はクラッチに比して小さいから、電磁ポンプ100からの比較的低い圧送圧力であっても、ブレーキB2を十分に係合させることができる。
【0025】
以上説明した実施例の動力伝達装置20によれば、ライン圧PLが信号圧用入力ポート52aに入力されているときには機械式オイルポンプ42で発生した油圧がリニアソレノイドSLC1による調圧を伴ってクラッチC1に供給されると共に電磁ポンプ100で発生した油圧がブレーキB2に供給され、ライン圧PLが信号圧用入力ポート52aに入力されていないときにはリニアソレノイドSLC1の出力ポート114とクラッチC1の油路48との連通が遮断されて電磁ポンプ100で発生した油圧がクラッチC1に供給されるよう切替バルブ50を形成したから、エンジン12の運転を伴って走行している最中にシフトレバー81がLポジションに操作されたときには機械式オイルポンプ42からの油圧によりクラッチC1を係合すると共に電磁ポンプ100からの油圧によりブレーキB2を係合してエンジンブレーキを作用させることができ、エンジン12が自動停止している最中には電磁ポンプ100によりクラッチC1に油圧を作用させておき次のエンジン12の自動始動を伴う発進の動作に備えておくことができる。この結果、機械式オイルポンプ42の最大負荷を小さくすることができるから、機械式オイルポンプ42の小型化を図ることができ、ひいては、装置をより小型化することができる。
【0026】
実施例の動力伝達装置20では、切替バルブ50をライン圧PLを用いて駆動するものとしたが、ライン圧PLを図示しないモジュレータバルブを介して降圧したモジュレータ圧PMODを用いて駆動するものとしてもよいし、ライン圧PLやモジュレータ圧がソレノイドバルブを介して切替バルブ50に供給されるようにしてこのソレノイドバルブを用いて駆動するものとしても構わない。
【0027】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「原動機」に相当し、オートマチックトランスミッション30と油圧回路40などが「動力伝達装置」に相当し、機械式オイルポンプ42が「第1のポンプ」に相当し、電磁ポンプ100が「第2のポンプ」に相当し、切替バルブ50が「切替バルブ」に相当する。ここで、「原動機」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど、如何なるタイプの内燃機関であっても構わないし、内燃機関以外の電動機など、動力を出力可能なものであれば如何なるタイプの原動機であっても構わない。「動力伝達装置」としては、前進1速〜5速の5段変速のオートマチックトランスミッション30を組み込むものに限定されるものではなく、4段変速や6段変速,8段変速など、如何なる段数の自動変速機を組み込むものであっても構わない。「第2のポンプ」としては、電磁力により作動油を圧送する電磁ポンプに限定されるものではなく、電動機からの動力により作動油を圧送する電動ポンプなど、電力により駆動して流体圧を発生させるものであれば如何なるタイプのポンプであっても構わない。また、「第2のポンプ」としては、前進1速を形成するクラッチC1に作動流体を圧送するものに限定されるものではなく、例えば、運転者の指示や走行状態などにより発進時の変速段が前進1速以外の変速段(前進2速など)に設定されたときにその変速段を形成するクラッチやブレーキに作動油を圧送するものとするなどとしても構わない。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである
【0028】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、自動車産業などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例としての動力伝達装置20が組み込まれた自動車10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】オートマチックトランスミッション30の作動表を示す説明図である。
【図3】油圧回路40の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
【0031】
10 自動車、12 エンジン、14 クランクシャフト、16 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、20 動力伝達装置、22 トルクコンバータ、22a ポンプインペラ、22b タービンランナ、26 オートマチックトランスミッション用電子制御ユニット(ATECU)、30 オートマチックトランスミッション、31a,31b サンギヤ、32 リングギヤ、33a ショートピニオンギヤ、33b ロングピニオンギヤ、34 キャリア,36 入力軸、38 出力軸、40 油圧回路、41 ストレーナ、42 機械式オイルポンプ、43 レギュレータバルブ、44 リニアソレノイド、45 マニュアルバルブ、45a 入力ポート、45b D(ドライブ)ポジション用出力ポート、45c R(リバース)ポジション用出力ポート、45d L(ロー)ポジション用出力ポート、46,48 油路、49 アキュムレータ、50 切替バルブ、52 スリーブ、52a 信号圧用入力ポート、52b 入力ポート、52c 入力ポート、52d 出力ポート、52e 出力ポート、52f ドレンポート、54 スプール、56 スプリング、58 油路、60 B2カットオフバルブ、62 スリーブ、62a,62b 信号圧用入力ポート、62c 入力ポート、62d 出力ポート、62e ドレンポート、64 スプール、66 スプリング、68 油路、70 B2リレーバルブ、72 スリーブ、72a 信号圧用入力ポート、72b 入力ポート、72c 入力ポート、72d 出力ポート、74 スプール、76 スプリング、80 メイン電子制御ユニット、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキスイッチ、88 車速センサ、、90a,90b 車輪、92a,92b 車軸、100 電磁ポンプ、102 吸入ポート、104 吐出ポート、C1〜C3 クラッチ、B1,B2 ブレーキ、F1 ワンウェイクラッチ、SLC1,SLB1 リニアソレノイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、原動機からの動力を車軸に伝達するための駆動用クラッチおよび該原動機からの制動力を車軸に伝達するための制動用クラッチとを含む複数のクラッチを備える動力伝達装置であって、
前記原動機からの動力により駆動して流体圧を発生させる第1のポンプと、
電力の供給により駆動して流体圧を発生させる第2のポンプと、
前記第1のポンプからの流体圧が入力されているときには該第1のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を接続して前記第2のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を遮断すると共に前記第2のポンプと前記制動用クラッチとの流路を接続する第1の状態とし、前記第1のポンプからの流体圧が入力されていないときには該第1のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を遮断して前記第2のポンプと前記駆動用クラッチとの流路を接続すると共に前記第2のポンプと前記制動用クラッチとの流路を遮断する第2の状態とを切り替える切替バルブと、
を備える動力伝達装置。
【請求項2】
前記制動用クラッチは、一つの回転系を固定系に接続するブレーキである請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第2のポンプは、電磁力により流体圧を発生させる電磁ポンプである請求項1または2記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記駆動用クラッチとして異なる複数の変速比を形成可能な複数のクラッチを備える請求項1ないし3いずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記切替バルブは、前記第1のポンプからの流体圧が入力されているときには前記第2のポンプと前記複数のクラッチのうち車両の発進に用いる発進用クラッチとの流路を遮断すると共に前記第2のポンプと前記制動用クラッチとの流路を接続することにより前記第1の状態とし、前記第1のポンプからの流体圧が入力されていないときには前記第2のポンプと前記発進用クラッチとの流路を接続すると共に前記第2のポンプと前記制動用クラッチとの流路を遮断することにより前記第2の状態とするよう形成されてなる
動力伝達装置。
【請求項5】
前記原動機は、自動停止と自動始動とが可能な内燃機関である請求項1ないし4いずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
原動機と、
請求項1ないし5いずれか1項に記載の動力伝達装置と、
を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−151234(P2010−151234A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330069(P2008−330069)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】