説明

化合物半導体の熱処理方法及びその装置

【課題】化合物半導体を用いた半導体デバイスにおける界面準位や結晶欠陥等を低減することが可能な化合物半導体の熱処理方法を提供する。
【解決手段】被処理体Wの表面に電磁波を照射することにより化合物半導体に関する熱処理を施すようにする。これにより、化合物半導体を用いた半導体デバイスにおける界面準位や結晶欠陥等を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaAs(ガリウムヒ素)等の化合物半導体に関する熱処理を施すようにした熱処理方法及びその熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスを製造するには、半導体ウェーハに成膜処理、パターンエッチング処理、酸化拡散処理、改質処理、アニール処理等の各種の熱処理を繰り返し行なって所望のデバイスを製造するようになっている。
この場合、半導体としては、コスト面、製造加工等の容易性等を考慮して、一般的にはシリコンが特に用いられている。例えば半導体デバイスを製造するために、シリコン基板上に、シリコン酸化物、シリコン窒化物、金属シリサイド等のシリコン化合物が主に形成されており、また、これらと金属膜を組み合わせたMOSFET等も製造されている。
【0003】
ところで、最近にあっては、半導体デバイスの更なる高速動作の要求、大電力化の要求及び半導体レーザ素子の開発等に応じて半導体として上記シリコンに代えてGaAs等に代表される化合物半導体が用いられる傾向にある。
【0004】
この化合物半導体を利用する場合には、この化合物半導体よりなる基板上に化合物半導体の薄膜を形成したり、或いは単体の半導体基板であるシリコン基板上に化合物半導体の薄膜を形成したりする方法がある。そして、これらの化合物半導体の薄膜を形成するには、一般的には、MOVPE法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)やHVPE法(Hydride Vapor Phase Epitaxy)やMBE法(Molecular Beam Epitaxy)等が用いられている(特許文献1)。
【0005】
ここで図9を参照して化合物半導体を用いた一般的な半導体素子であるMESFET(Metal Semiconductor FET)の基本構造について説明する。図9は化合物半導体のMESFETの一例であるHEMT(高電子移動度トランジスタ)を示す断面図である。図9に示すように、被処理体である半導体ウェーハWは例えば化合物半導体であるGaAs基板よりなり、この上に不純物を含まない真性のGaAs膜T1及びn型のAlGaAs膜T2を順次形成し、更に、このnAlGaAs膜T2上に、ドレインD、ソースS及びゲートGをそれぞれ金属接合して形成されている。このHEMTは、2種類の異なった半導体を接触させたヘテロ接合を有しており、高速動作等が可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2005−175340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、化合物半導体を用いた半導体デバイスは、高速動作が可能になる等の利点を有している。しかしながら、この種の化合物半導体を用いた半導体デバイスにあっては、格子定数等が異なる2つの原子を化合させて用いていることから、化合物同士の界面等に界面準位や結晶欠陥等が多く発生する、といった問題があった。そして、この欠点を解決するために、化合物半導体の膜厚を、格子定数が出ない臨界膜厚以下に設定したり、膜中に不純物をドープして格子定数の差異を緩和させたり、或いは上記欠陥をチャネル部以外の部分に閉じ込める等の対策を行っているが、十分な効果が得られていないのが現状である。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、化合物半導体を用いた半導体デバイスにおける界面準位や結晶欠陥等を低減することが可能な化合物半導体の熱処理方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、被処理体の表面に電磁波を照射することにより化合物半導体に関する熱処理を施すようにしたことを特徴とする化合物半導体の熱処理方法である。
このように、被処理体の表面に電磁波を照射することにより化合物半導体に関する熱処理を施すようにしたので、化合物半導体を用いた半導体デバイスにおける界面準位や結晶欠陥等を低減することができる。
【0010】
この場合、例えば請求項2に記載したように、前記熱処理は、前記化合物半導体の薄膜を形成するための成膜処理である。
また例えば請求項3に記載したように、前記化合物半導体の薄膜は、SiC、GaAs、InGaAs、GaN、InN、AlN、BN、InP、ZnO、ZnSeよりなる群より選択される1の薄膜である。
また例えば請求項4に記載したように、前記熱処理は、前記被処理体に形成されている化合物半導体よりなる薄膜のアニール処理である。
また例えば請求項5に記載したように、前記被処理体は、単体の半導体基板よりなる。
【0011】
また例えば請求項6に記載したように、前記被処理体は、化合物半導体基板よりなる。
また例えば請求項7に記載したように、前記化合物半導体は、GaAs、InGaAs、Al 、SiC、GaN、AlN、ZnOよりなる群より選択される1の基板である。
また例えば請求項8に記載したように、前記電磁波の周波数は、100Hz〜10THzの範囲内である。
【0012】
請求項9に係る発明は、被処理体に対して電磁波を用いて化合物半導体に関する熱処理を施す熱処理装置において、真空排気可能になされた処理容器と、前記被処理体を載置する載置台と、前記化合物半導体に対する熱処理に必要なガスを供給するガス導入手段と、前記処理容器内へ電磁波を導入する電磁波供給手段と、請求項1乃至8のいずれかに記載の熱処理方法を実行するように制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする化合物半導体の熱処理装置である。
【0013】
この場合、例えば請求項10に記載したように、前記被処理体を所定の温度に維持する温調手段を有している。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る化合物半導体の熱処理方法及びその装置によれば、次のように優れた作用効果を発揮することができる。
被処理体の表面に電磁波を照射することにより化合物半導体に関する熱処理を施すようにしたので、化合物半導体を用いた半導体デバイスにおける界面準位や結晶欠陥等を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明に係る化合物半導体の熱処理方法及びその装置の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。
図1は本発明の熱処理装置の第1実施例を示す断面構成図、図2は熱電変換素子の配列状態を示す平面図である。
【0016】
図1に示すように、この第1実施例の化合物半導体の熱処理装置2は、例えばアルミニウムにより筒体状に成形された処理容器4を有している。この処理容器4は被処理体である基板として例えば直径が300mmである半導体ウェーハWを収容できるような大きさに設定されており、この処理容器4自体は接地されている。この処理容器4の天井部は開口されており、この開口部には、Oリング等のシール部材6を介して後述するように電磁波を透過する天板8が気密に設けられている。この天板8の材料としては、例えば石英や窒化アルミニウム等のセラミック材が用いられる。
【0017】
また、この処理容器4の側壁には、開口10が設けられると共に、この開口10には被処理体として例えば半導体ウェーハWを搬出入する際に開閉されるゲートバルブ12が設けられる。また処理容器4には、処理時に必要なガスを内部へ導入するガス導入手段14が設けられている。このガス導入手段14としては、ここでは処理容器4の側壁に設けた複数本、図示例では2本のガスノズル14A、14Bよりなり、これらの各ガスノズル14A、14Bから処理に必要なガスを供給できるようになっている。尚、ガスノズルの数は2本に限定されず、用いるガス種によって増減することができる。
【0018】
更には、ガス導入手段14として、上記ガスノズルに代えて、処理容器4の天井部の直下に、電磁波に対して透明な材料である例えば石英製のシャワーヘッドを設けるようにしてもよい。また処理容器4の底部の周辺部には、排気口16が形成されており、この排気口16には、排気通路18に圧力制御弁20や真空ポンプ等の排気ポンプ22等を介設してなる排気系24が接続されており、処理容器4内の雰囲気を真空を含む減圧雰囲気に排気可能としている。またこの処理容器4の底部は大きく開口され、この開口に例えばOリング等のシール部材26を介在させて底部を兼ねる肉厚な載置台28が気密に取り付け固定されていると共に、この載置台28も接地されている。
【0019】
この載置台28は、例えばアルミニウム製の肉厚な載置台本体30と、この上部に設けられる温調手段としての複数の熱電変換素子32と、この熱電変換素子32の上面側に設置される薄い円板状の載置板34とにより構成され、この載置板34上に被処理体である半導体ウェーハWを直接的に載置するようになっている。具体的には、上記熱電変換素子32としては、例えばペルチェ素子が用いられる。このペルチェ素子は、異種の導体や半導体を電極によって直列に接続し電流を流すと接点間でジュール熱以外に熱の発生や吸熱が生じる素子であり、例えば200℃以下の温度での使用に耐え得るBi Te (ビスマス・テルル)素子、より高温で使用できるPbTe(鉛・テルル)素子、SiGe(シリコン・ゲルマニウム)素子等によって形成されており、熱電変換素子制御部36にリード線38を介して電気的に接続されている。熱電変換素子制御部36は、前記ウェーハWの熱処理時に熱電変換素子に供給される電流の方向や大きさを制御する。
【0020】
図2にペルチェ素子よりなる熱電変換素子32の配列の一例を示す。図2においては、直径が300mmのウェーハWに対して60個の熱電変換素子32を前記載置板34の裏面側(載置台本体30の上面側)に略全面にわたってほとんど隙間なく敷き詰めた例を示している。このように熱電変換素子32を密接させて配置すると、ウェーハWと載置板34を均一に加熱することができる。熱電変換素子32の形状は、四角形に限らず、円形や六角形であってもよい。ここで熱電変換とは、熱エネルギーを電気エネルギーに、また電気エネルギーを熱エネルギーに変換することを言う。
【0021】
ここで上記各熱電変換素子32は、全体で一体的に温度制御を行うようにしてもよいが、グループ化して複数の加熱用ゾーンに区画し、各ゾーン毎に個別独立的に温度制御を行うようにしてもよい。尚、この温調手段としての熱電変換素子32は必要な場合に設けるようにし、後述する電磁波による加熱が十分な場合には設けなくてもよい。
【0022】
図1に戻って上記載置台本体30の内部には、熱媒体流路40がその平面方向の略全面に亘って形成されている。この熱媒体流路40は、上記熱電変換素子32の下部に設けられており、ウェーハWの降温時に熱媒体として冷媒(水)が供給されることにより、上記熱電変換素子32の下面から温熱を奪ってこれを冷却するように構成されている。また、ウェーハWの昇温時には必要に応じて温媒が供給されることにより、熱電変換素子32の下面から冷熱を奪ってこれを加熱するように構成されている。この熱媒体流路40は、熱媒体を送給する媒体循環器42に熱媒体導入管44と熱媒体排出管46を介して接続されており、これにより、媒体循環器42は熱媒体を熱媒体流路40に循環供給する。
【0023】
また上記熱電変換素子32上に設置される載置板34の材料としては、例えばSiO 材、AlN材、SiC材、Ge材、Si材、金属材等によって製作される。また載置台28にはウェーハWを昇降する図示しない昇降機構が設けられ、この昇降機構は、載置台本体30及び載置板34を貫通してウェーハWを下から支持する複数本の昇降自在な支持ピンと、これらの支持ピンを昇降させる駆動装置等で構成されている。尚、上記載置板34上に静電チャックを設けるようにしてもよい。
【0024】
また、載置台本体30には、これを上下方向に貫通する貫通孔48が形成されており、ここに放射温度計50が設置される。具体的には、上記貫通孔48に上記載置板34の下面まで延びる光ファイバ52を気密状態で挿通して載置板34からの輻射光を案内し得るようになっている。そして、この光ファイバ52の端部には放射温度計本体54が接続されており、所定の測定波長帯域の光より載置板34の温度、すなわちウェーハ温度を測定できるようになっている。
【0025】
そして、処理容器4の天板8の上方には、上記ウェーハWに向けて電磁波を照射する電磁波供給手段56が設けられている。ここで電磁波としては、周波数が100MHz〜12GHzの範囲の電磁波を用いることができ、ここでは一例として2.45GHzのマイクロ波を用いた場合を例にとって説明する。
【0026】
具体的には、この電磁波供給手段56は、上記天板8の上面に設けられた円板状の平面アンテナ部材58を有しており、この平面アンテナ部材58上に遅波材60が設けられる。この遅波材60は、マイクロ波の波長を短縮するために高誘電率特性を有している。上記平面アンテナ部材58は、上記遅波材60の上方全面を覆う導電性の中空円筒状容器よりなる導波箱62の底板として構成され、前記処理容器4内の上記載置台28に対向させて設けられる。この導波箱62の上部には、これを冷却するために冷媒を流す冷却ジャケット64が設けられる。
【0027】
この導波箱62及び平面アンテナ部材58の周辺部は共に処理容器4に導通されると共に、この導波箱62の上部の中心には、同軸導波管66の外管66Aが接続され、内側の内部導体66Bは、上記遅波材60の中心の貫通孔を通って上記平面アンテナ部材58の中心部に接続される。そして、この同軸導波管66は、モード変換器68及び導波管72を介してマッチング回路70を有する例えば2.45GHzの電磁波(マイクロ波)を発生する電磁波発生源74に接続されており、上記平面アンテナ部材58へ電磁波としてマイクロ波を伝搬するようになっている。
【0028】
この周波数は2.45GHzに限定されず、他の周波数、例えば5.25GHzを用いてもよい。この導波管72としては、断面円形或いは矩形の導波管や同軸導波管を用いることができる。そして、上記遅波材60としては、例えば窒化アルミニウム等を用いることができる。また上記電磁波発生源74として、マグネトロン、クライストロンや進行波管等を用いることができる。
【0029】
上記平面アンテナ部材58は、大きさが300mmサイズのウェーハ対応の場合には、例えば直径が400〜500mm、厚みが1〜数mmの導電性材料よりなる、例えば表面が銀メッキされた銅板或いはアルミニウム板よりなり、この円板には、例えば長溝状の貫通孔よりなる多数のマイクロ波放射孔76が形成されている。このマイクロ波放射孔76の配置形態は、特に限定されず、例えば同心円状、渦巻状、或いは放射状に配置させてもよいし、アンテナ部材全面に均一になるように分布させてもよい。一般的には、マイクロ波放射孔76は、この2個のマイクロ波放射孔76を僅かに離間させて略Tの字状に配置して一対の組を形成して同心円状に配置している。このように形成することにより、この平面アンテナ部材58は、いわゆるRLSA(Radial Line Slot Antenna)方式のアンテナ構造となっている。
【0030】
そして、この熱処理装置2の全体の動作は、例えばマイクロコンピュータ等よりなる制御手段78により制御されるようになっており、この動作を行うコンピュータのプログラムはフレキシブルディスクやCD(Compact Disc)やフラッシュメモリやハードディスク等の記憶媒体80に記憶されている。具体的には、この制御手段78からの指令により、ガスの供給や流量制御、マイクロ波の供給や電力制御、プロセス温度やプロセス圧力の制御等が行われる。
【0031】
次に、以上のように構成された熱処理装置2を用いて行なわれる熱処理方法について説明する。ここでは熱処理として化合物半導体よりなる薄膜が形成された半導体基板をアニールする場合を例にとって説明する。
【0032】
まず、ゲートバルブ12を介して半導体ウェーハWを搬送アーム(図示せず)により処理容器4内に収容し、図示しない昇降ピンを上下動させることによりウェーハWを載置台28の載置板34上に載置し、ゲートバルブ12を閉じて処理容器4内を密閉する。この場合、上記半導体ウェーハWとしては、単体の半導体基板、例えばシリコン基板を用いてもよいし、化合物半導体基板、例えばGaAs基板等を用いてもよいし、いずれにしてもこの基板上に図9にて説明したような化合物半導体(例えばGaAs)や後述するAlGaAs、InGaAs等よりなる薄膜が前工程にて予め形成されている。
【0033】
次に、排気系24によって処理容器4内を排気すると共に、ガス導入手段14の各ガスノズル14A、14Bから化合物半導体より薄膜のアニール処理に必要なガスを処理容器4内へ供給する。この場合、処理容器4内は、プラズマが立たないようなプロセス圧力に維持する。このようなプロセス圧力は、例えば1.3Pa以下の圧力、或いは0.13Pa以上の圧力である。また、上記アニール処理に必要なガスとしては、例えばAr、He等の希ガスやN 等を用いることができる。
【0034】
上記操作と同時に、ペルチェ素子よりなる熱電変換素子32に通電してウェーハWを加熱し、更に電磁波供給手段56の電磁波発生源74を駆動することにより、この電磁波発生源74にて発生したマイクロ波を、導波管72及び同軸導波管66を介して平面アンテナ部材58に供給して遅波材60によって波長が短くされたマイクロ波をマイクロ波放射孔76から放射させて天板8を透過し、これにより処理空間Sにマイクロ波を導入させる。処理空間Sに導入されたマイクロ波はウェーハWの表面に照射される。
【0035】
これにより、このマイクロ波の照射により、ウェーハ全体が加熱されるが、それ以上に化合物半導体よりなる薄膜が選択的に加熱されることになり、この化合物半導体よりなる薄膜をアニール処理することができる。特に半導体ウェーハWが例えば単体の半導体であるシリコン基板の場合には、ウェーハ自体の温度をそれ程上げることなく、化合物半導体よりなる薄膜を選択的に加熱して、これをアニール処理することができる。
【0036】
ここで化合物半導体を選択的に加熱することができる理由及びそれに伴う利点について図3乃至図5を参照して説明する。図3は2.45GHzのマイクロ波に対する各材料の比誘電率、誘電損失及び誘電損の値を示す図、図4は化合物半導体を含む各材料に関する構成原子間の電気陰性度差、双極子モーメント及び自発分極の値を示す図、図5は化合物半導体を含む各材料の融点及び一般的なプロセス温度例を示す図である。
【0037】
上述したような高い周波数での電磁波の照射は、誘導加熱及び誘電加熱を起こす。この場合、図3に示すように、双極子モーメントの大きな極性分子、例えば水(H O)やエチルアルコール等は上記誘電加熱によって急激に加熱されるが、双極子モーメントを持たない非極性分子、例えばクォーツ(SiO )やテフロン(登録商標)などは誘電加熱されない。図3において、2.45GHzのマイクロ波の照射時の吸収エネルギーは比誘電率と誘電損失との積である誘電損に比例するので、この誘電損の数値が大きい程、加熱され易い材料となる。従って、図3中に示すように、誘電損が”2.4”のエチルアルコールや誘電損が”16”のH Oは特に加熱され易い材料である。この点は、家庭用の電子レンジの作用と同じである。
【0038】
そして、本発明にて用いられる化合物半導体を含む各材料に関する構成原子間の電気陰性度差、双極子モーメント及び自発分極の値が図4に示されている。一般的に、双極子モーメントが大きい極性分子ほど、比誘電率や誘電損失が大きくなって加熱され易い。従って、双極子モーメントが”0”であるクォーツやSiと比較して、双極子モーメントが”0”より大きい化合物半導体であるSiC、GaAs、InGaAs、InN、GaN、AlN、ZnO等は加熱され易く、特にInN、GaN、AlNは、エチルアルコールやH O並みに加熱され易いことが判る。
【0039】
従って、半導体ウェーハであるシリコン基板上に化合物半導体よりなる薄膜が形成されている場合には、誘電加熱によって化合物半導体のみを選択加熱することができる。尚、この場合、半導体ウェーハが化合物半導体よりなる基板の場合には、この基板自体も加熱されるのは勿論である。
【0040】
ここで図5にシリコンと、それ以外の半導体化合物の融点及び一般的に用いられるプロセス温度の一例を示している。各材料の良好な物性を得るためにはそれなりの高温処理が必要であるが、半導体ウェーハとしてシリコン基板を用いた場合には、このシリコン基板上での処理では当然ながらSiの融点以上に温度を上げることはできない。そして、図5中に示す化合物半導体の多くは、融点が高く、Siの融点に近い、またはこの融点よりも高い温度で処理するのが好ましい場合がある。このような状況下で、上述のように本発明方法では、化合物半導体よりなる薄膜を選択的に加熱することができるので、この化合物半導体の薄膜部分のみをSiの融点に近い、またはこの融点よりも高い温度であって、その化合物半導体の良好な物性を得るための高温熱処理、例えばアニール処理を行うことができる。
【0041】
このように、本発明によれば、被処理体で有る半導体ウェーハWの表面に電磁波を照射することにより化合物半導体に関する熱処理を施すようにしたので、化合物半導体を用いた半導体デバイスにおける界面準位や結晶欠陥等を低減することができる。
【0042】
また、上記熱処理では化合物半導体よりなる薄膜のアニールを例にとって説明したが、これに限定されず、化合物半導体の薄膜を成膜する場合にも本発明を適用することができる。この場合、処理容器4内へ導入する複数のガスを別々に導入する必要がある時には、2つのガスノズル14A、14B以外に別のガスノズルを増設するようにすればよい。
【0043】
ここで用いる原料ガスは、成膜すべき半導体化合物の種類によるが、例えばAl(CH 、Al(C 、Ga(CH 、Ga(C 、GaCl(C 、In(CH 、In(C 、Zn(CH 、Zn(C 、NH 、PH 、AsH 、H Se、SiH 、CH 等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0044】
この場合にも、熱CVDによって化合物半導体よりなる薄膜が形成されると、この薄膜が選択的に加熱されて成膜処理が促進されて行く。そして、この場合にも、成膜された化合物半導体の薄膜は選択加熱されるので、化合物半導体を用いた半導体デバイスにおける界面準位や結晶欠陥等を低減することができる。
【0045】
<第2実施例>
次に本発明に係る熱処理装置の第2実施例について説明する。図6は本発明の熱処理装置の第2実施例を示す断面構成図である。尚、図1中に示す構成部分と同一構成部分については同一参照符号を付して、その説明を省略する。
【0046】
図1に示す場合には、電磁波供給手段56として例えば100MHz〜12GHzの電磁波を用いた場合を例にとって説明したが、この第2実施例では、上記第1実施例よりも周波数が高くて電磁波として光の性質により近い性質をもった12GHz〜10THzの周波数の電磁波を用いるようにしている。具体的には、この電磁波供給手段56は、例えば12GHz〜10THzの範囲内の周波数の電磁波を発生することができる電磁波発生源90を有している。この電磁波発生源90としては、例えばジャイロトロン等を用いることができ、具体的には82.9GHzを用いることができ、この他に28GHz、110GHz、168GHz、874GHz等の周波数の電磁波を用いることができる。
【0047】
そして、この電磁波発生源90より出力された電磁波は、例えば矩形導波管やコルゲート導波管等よりなる導波路92により天板8上に設けた入射アンテナ部94に導かれる。そして、この入射アンテナ部94には、図示しない複数の鏡面反射レンズや反射ミラーが設けられており、上記導かれた電磁波を処理容器4内の処理空間Sに向けて反射して導入できるようになっている。
【0048】
この場合にも、上記反射された電磁波は天板8を透過して処理空間Sに導入されてウェーハWの表面に直接的に照射されることになり、これにより、化合物半導体を選択的に加熱することができる。従って、この場合にも、第1実施例と同様な作用効果を発揮することができる。
【0049】
<第3実施例>
次に本発明に係る熱処理装置の第3実施例について説明する。図7は本発明の熱処理装置の第3実施例を示す断面構成図である。尚、図1中に示す構成部分と同一構成部分については同一参照符号を付して、その説明を省略する。
【0050】
図1に示す場合には、電磁波供給手段56として例えば100MHz〜12GHzの電磁波を用いた場合を例にとって説明したが、この第3実施例では、上記第1実施例よりも周波数が低い高周波領域である100Hz〜100MHzの周波数の電磁波を用いるようにしている。具体的には、この電磁波供給手段56は、例えば100Hz〜100MHzの範囲内の周波数の電磁波を発生することができる電磁波発生源100を有している。この電磁波発生源100としては、例えば高周波発生器を用いることができ、具体的には13.56MHz等の周波数の電磁波を用いることができる。そして、この電磁波発生源100より出力された電磁波は、途中にマッチング回路102を介設した高周波ケーブル104により処理容器4の天井部へ接続されている。
【0051】
ここでは、処理容器4の天井部には、絶縁部材106及びOリング等のシール部材108を介してガス導入手段14としてシャワーヘッド部14Cが設けられている。そして、このシャワーヘッド部14Cに上記高周波ケーブル104が接続されており、このシャワーヘッド部14Cは上部電極としての機能も兼ね備えている。尚、この上部電極に対して、これに対向する載置台28が下部電極として機能することになる。
【0052】
そして、このシャワーヘッド部14C内には、複数の、図示例では2つの互いに区画されたガス拡散室110A、110Bが設けられており、各ガス拡散室110A、110Bに連通するようにしてシャワーヘッド部14Cの下面には、ガス噴射孔112A、112Bがそれぞれ設けられている。そして、上記ガス拡散室110A、110Bに連通される各ガス導入口114A、114Bより導入した原料ガス等と、各ガス拡散室110A、110Bにて拡散した後に対応する各ガス噴射孔112A、112Bより各ガスを処理空間Sに向けて均等に噴射できるようになっている。
【0053】
この場合には、下部電極である載置台28と上部電極であるシャワーヘッド部14Cとの間に13.56MHzの高周波電圧が印加されて、この電磁波がウェーハWの表面に直接的に照射されることになり、これにより、化合物半導体を選択的に加熱することができる。従って、この場合にも先の第1実施例と同様な作用効果を発揮することができる。
【0054】
尚、上記各実施例では、用いる半導体ウェーハとして図9に示すようなHEMTを有する半導体ウェーハを例にとって説明したが、図8に示すようなCMOS−FET(Complementary Metal Oxide Semiconductor FET)を有する化合物半導体にも本発明を適用できるのは勿論である。すなわち、図8はチャネル層に化合物半導体を用いたCMOS−FETの構造を示す断面図である。
【0055】
図8に示すように、このCMOS−FETは、例えばシリコン基板よりなる半導体ウェーハWの上面にGeよりなるバッファ層Buが形成されており、このバッファ層Buは、STI(Shallow Trench Isolation)により複数の分離領域に区分されている。この1つの分離領域内に、n−FETとp−FETとが形成されている。そして、n−FETのチャネル層CH1として、ここでは化合物半導体であるInGaAsが用いられ、その両側にn のソースSとドレインDとが形成されている。また、チャンネル層CH1上には、High−k(高誘電率)の絶縁膜を介してメタルゲートGが形成されている。
【0056】
また、p−FETのチャネル層CH2として、ここでは半導体であるGeが用いられ、その両側にp のソースSとドレインDとが形成されている。また、チャンネル層CH2上には、High−k(高誘電率)の絶縁膜を介してメタルゲートGが形成されている。このような化合物半導体を用いたデバイスも、Si−CMOSFETと同様に、省エネルギー動作が可能になる。
【0057】
また、ここで用いる単体の半導体としては、シリコン基板の他にゲルマニウム基板も用いることができる。
また、化合物半導体としては、GaAs、InGaAs、Al 、SiC、GaN、AlN、ZnOよりなる群より選択される1の基板を用いることができる。
更に、ここで形成される化合物半導体の薄膜としては、SiC、GaAs、InGaAs、GaN、InN、AlN、BN、InP、ZnO、ZnSeよりなる群より選択される1の薄膜を用いることができる。
【0058】
また、この熱処理装置では、温調手段32として熱電変換素子を用いる場合を例にとって説明したが、これに代えて抵抗加熱ヒータや加熱ランプ等も用いることができる。
また、ここでは被処理体として半導体ウェーハを例にとって説明したが、これに限定されず、ガラス基板、LCD基板、セラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の熱処理装置の第1実施例を示す断面構成図である。
【図2】熱電変換素子の配列状態を示す平面図である。
【図3】2.45GHzのマイクロ波に対する各材料の比誘電率、誘電損失及び誘電損の値を示す図である。
【図4】化合物半導体を含む各材料の電気陰性度差、双極子モーメント及び自発分極の値を示す図である。
【図5】化合物半導体を含む各材料の融点及びプロセス温度例を示す図である。
【図6】本発明の熱処理装置の第2実施例を示す断面構成図である。
【図7】本発明の熱処理装置の第3実施例を示す断面構成図である。
【図8】チャネル層に化合物半導体を用いたCMOS−FETの構造を示す断面図である。
【図9】化合物半導体のMESFETの一例であるHEMTを示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
2 熱処理装置
4 処理容器
14 ガス導入手段
24 排気系
28 載置台
32 温調手段(熱電変換素子)
56 電磁波供給手段
58 平面アンテナ部材
66 同軸導波管
72 導波管
74,90,100 電磁波発生源
78 制御手段
80 記憶媒体
92 導波路
94 入射アンテナ部
104 高周波ケーブル
W 半導体ウェーハ(被処理体)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体の表面に電磁波を照射することにより化合物半導体に関する熱処理を施すようにしたことを特徴とする化合物半導体の熱処理方法。
【請求項2】
前記熱処理は、前記化合物半導体の薄膜を形成するための成膜処理であることを特徴とする請求項1記載の化合物半導体の熱処理方法。
【請求項3】
前記化合物半導体の薄膜は、SiC、GaAs、InGaAs、GaN、InN、AlN、BN、InP、ZnO、ZnSeよりなる群より選択される1の薄膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の化合物半導体の熱処理方法。
【請求項4】
前記熱処理は、前記被処理体に形成されている化合物半導体よりなる薄膜のアニール処理であることを特徴とする請求項1記載の化合物半導体の熱処理方法。
【請求項5】
前記被処理体は、単体の半導体基板よりなることを特徴とする請求項4記載の化合物半導体の熱処理方法。
【請求項6】
前記被処理体は、化合物半導体基板よりなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の化合物半導体の熱処理方法。
【請求項7】
前記化合物半導体は、GaAs、InGaAs、Al 、SiC、GaN、AlN、ZnOよりなる群より選択される1の基板であることを特徴とする請求項6記載の化合物半導体の熱処理方法。
【請求項8】
前記電磁波の周波数は、100Hz〜10THzの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の化合物半導体の熱処理方法。
【請求項9】
被処理体に対して電磁波を用いて化合物半導体に関する熱処理を施す熱処理装置において、
真空排気可能になされた処理容器と、
前記被処理体を載置する載置台と、
前記化合物半導体に対する熱処理に必要なガスを供給するガス導入手段と、
前記処理容器内へ電磁波を導入する電磁波供給手段と、
請求項1乃至8のいずれかに記載の熱処理方法を実行するように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする化合物半導体の熱処理装置。
【請求項10】
前記被処理体を所定の温度に維持する温調手段を有していることを特徴とする請求項9記載の化合物半導体の熱処理装置。
【請求項11】
真空排気可能になされた処理容器と、
被処理体を載置する載置台と、
前記化合物半導体に対する熱処理に必要なガスを供給するガス導入手段と、
前記処理容器内へ電磁波を導入する電磁波供給手段と、
装置全体を制御する制御手段と、を備えた熱処理装置を用いて前記被処理体に対して電磁波を用いて化合物半導体に対する熱処理を施すに際して、
請求項1乃至8のいずれかに記載の熱処理方法を実行するように前記熱処理装置を制御するコンピュータ読み取り可能なプログラムを記憶する記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−306176(P2008−306176A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121733(P2008−121733)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】