説明

半導体レーザおよび電子機器

【課題】用途に適合した十分な光出力と寿命を確保でき、また、動作電圧の上昇を防止できる半導体レーザ、およびこのような半導体レーザを適用した電子機器を提供する。
【解決手段】半導体基板100の上にバッファ層101、バッファ層102、第1下側クラッド層103、第2下側クラッド層104、活性層105、第1上側クラッド層106、エッチングストップ層107、第2上側クラッド層108、中間バンドギャップ層109、キャップ層110がこの順で積層してある。共振器長L=1500μmとし、第1下側クラッド層103のドーパント濃度(n型不純物としてのSiの濃度)Nc=4.0×1017/cm3、第2下側クラッド層104のドーパント濃度Nc=4.0×1017/cm3、つまり、下側クラッド層のドーパント濃度Nc=4.0×1017/cm3とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上に、下側クラッド層、活性層、上側クラッド層をこの順に形成した半導体レーザおよびこのような半導体レーザを適用した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板上に、下側クラッド層、活性層、上側クラッド層をこの順に形成した半導体レーザが提案され、光ディスク(書き込み用光ディスク)に光データを書き込んで記録する電子機器に適用されている。
【0003】
従来の半導体レ−ザに対して、光ディスクの書き込み速度の高速化に伴い光出力の増大が要望されている。また、近年の動向として、光ディスクの容量拡大のため記録層を2層とした光ディスクも実用に供されており、半導体レ−ザの高出力化がさらに要望されている。
【0004】
しかしながら、半導体レ−ザの高出力化に伴って次のような問題が生じている。第1の問題は、半導体レーザの光出射端面からの光出力の増大に伴い、光出射端面が劣化するという問題であり、第2の問題は、光出力を増大するために増やされる駆動電流による通電時の特性劣化、つまり信頼性の低下問題である。光出力を増大して光ディスクへ適用するためには、これらの問題を解決する必要がある。
【0005】
光出力の増大による光出射端面の劣化を防止する技術として、光出射端部にバンドギャップを大きくした領域、いわゆる窓領域の形成が有効であることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかし、駆動電流(動作電流)の増大に伴う劣化現象は、窓領域を形成して端面の劣化を防止した状態でも発生している。つまり、駆動電流の増大は、端面での光学的劣化が発生しない状態であっても、半導体レ−ザの内部で結晶が劣化し、駆動電流の増大、光出力の劣化を引き起こしている。また、端面での劣化が発生しない条件の下では、駆動時の動作電流密度が信頼性に影響を及ぼすことが、実験的に確認されている。
【0007】
したがって、光出力を増大した場合でも十分な信頼性を確保するためには、動作電流密度を増大させないことが必要である。光出力を増大したときの駆動電流増大による信頼性低下を防ぐためには、共振器長を長くすることが有効である。つまり、半導体レ−ザの駆動電流を増大させる場合、共振器長を長くすることにより、単位面積あたりの電流値すなわち動作電流密度を低下させることが可能である。
【0008】
ところが、半導体レーザでは、共振器長を長くすると微分効率η(動作電流対光出力特性の傾き:W/A)が低下する。したがって、微分効率ηが低いままでは、所定の光出力を実現するために動作電流を増大しなければならず、結果として動作電流密度を十分低減することができないという問題がある。
【0009】
なお、活性層を上下のクラッド層で挟んだ半導体レーザとして特許文献2、特許文献3が知られている。
【特許文献1】特開2003−124569号公報
【特許文献2】特開2005−101440号公報
【特許文献3】特開2006−128405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明者は、種々検討していく中で、微分効率ηを向上させる対策として下側クラッド層に不純物として導入するドーパントの濃度(ドーパント濃度。キャリア濃度ともいう。)の低減が有効であることを見出した。つまり、共振器長を長くして動作電流密度を低減する場合に、例えば第1導電型としてのn型で構成した下側クラッド層のドーパント濃度を低減することにより、微分効率ηの低下を防止して動作電流密度の増加を抑制し、信頼性の低下を防止することが可能となる。
【0011】
また、下側クラッド層でのドーパント濃度の低減は、抵抗を増大させることから動作電圧を増大する必要が生じる。例えば、半導体レ−ザを使用する光ピックアップ(光ディスク装置などの光学ドライブ)では、半導体レ−ザを駆動するためにレ−ザドライバICを使用する。レ−ザドライバICではICの熱損失などを考慮した最大電流の定格がある。また、光学ドライブ内部の電源電圧仕様とレ−ザドライバIC内部での電圧降下とから定まるレ−ザ駆動の最大定格電圧の定格が存在する。したがって、半導体レ−ザを光学ドライブ(レ−ザドライバIC)に適用するためには、レ−ザドライバICの最大定格電流、および最大定格電圧以下とする必要があり、半導体レ−ザの動作電圧の増加は抑える必要がある。
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、量子井戸層を含む活性層を上下のクラッド層で挟んだ半導体レーザの下側クラッド層のドーパント濃度と共振器長を画定することにより、用途に適合した十分な光出力と寿命を確保できる半導体レーザを提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、下側クラッド層の基板側領域でのドーパント濃度を下側クラッド層の活性層側領域でのドーパント濃度より高くすることにより、高出力の光出力での動作状態で高い信頼性(寿命)を確保するため、共振器長を長くし、下側クラッド層のドーパント濃度を低減した場合でも動作電圧の上昇を防止できる半導体レーザを提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、本発明に係る半導体レーザを適用して光ディスクに対する光データの書き込みを行なうことにより、信頼性の高い光データの書き込みが可能な電子機器を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る半導体レーザは、半導体基板に、第1導電型の下側クラッド層、量子井戸層を含む活性層、および第2導電型の上側クラッド層がこの順に形成してある半導体レーザであって、前記下側クラッド層のドーパント濃度は4.0×1017/cm3以下であり、共振器長は1500μm以上としてあることを特徴とする。
【0016】
この構成により、共振器長を長くすることによる微分効率の低減を防止して十分な微分効率を実現することが可能となるので、所望の光出力とした場合の動作電流密度を低減して実用上必要な寿命を確保することができる。
【0017】
また、本発明に係る半導体レーザでは、半導体基板に、第1導電型の下側クラッド層、量子井戸層を含む活性層、および第2導電型の上側クラッド層がこの順に形成してある半導体レーザであって、前記下側クラッド層のドーパント濃度は2.0×1017/cm3以下であり、共振器長は1800μm以上としてあることを特徴とする。
【0018】
この構成により、共振器長を長くすることによる微分効率の低減を防止してさらに十分な微分効率を実現することが可能となるので、所望の高出力の光出力とした場合の動作電流密度をさらに低減して実用上必要な寿命を確保することが可能となる。
【0019】
また、本発明に係る半導体レーザでは、前記下側クラッド層は、前記半導体基板側の第1下側クラッド層と前記活性層側の第2下側クラッド層で構成され、前記第1下側クラッド層の前記半導体基板側に位置する基板側領域でのドーパント濃度は、前記第1下側クラッド層の前記活性層側に位置する活性層側領域でのドーパント濃度より高くしてあることを特徴とする。
【0020】
この構成により、高い微分効率を有し、動作電圧の増大がない半導体レーザを実現することが可能となる。
【0021】
また、本発明に係る半導体レーザでは、前記下側クラッド層は、前記半導体基板側の第1下側クラッド層と前記活性層側の第2下側クラッド層で構成され、前記第1下側クラッド層は、前記半導体基板側に位置して前記活性層で導波される光が分布しない基板側領域と前記活性層側に位置して前記活性層で導波される光が分布する活性層側領域とを備え、前記基板側領域でのドーパント濃度は、前記活性層側領域でのドーパント濃度より高くしてあることを特徴とする。
【0022】
この構成により、高い微分効率を有し、動作電圧の増大がない半導体レーザを実現することが可能となる。
【0023】
また、本発明に係る半導体レーザでは、前記下側クラッド層は、前記半導体基板側の第1下側クラッド層と前記活性層側の第2下側クラッド層で構成され、前記第1下側クラッド層は、前記半導体基板側に位置して前記活性層で導波される光が分布しない基板側領域と前記活性層側に位置して前記活性層で導波される光が分布する活性層側領域とを備え、前記基板側領域でのドーパント濃度は、前記活性層側でのドーパント濃度に対して前記活性層側から徐々に増加させてあることを特徴とする。
【0024】
この構成により、高い微分効率を有し、動作電圧の増大がない半導体レーザを実現することが可能となる。
【0025】
また、本発明に係る半導体レーザでは、前記基板側領域のドーパント濃度は、4.0×1017/cm3以上としてあることを特徴とする。
【0026】
この構成により、高い微分効率を保持し、素子抵抗の増大を防止して、高い光出力を確実に実現することが可能となる。
【0027】
また、本発明に係る半導体レーザでは、前記基板側領域の厚さは、30nm以上300nm以下としてあることを特徴とする。
【0028】
この構成により、高い微分効率を有し、動作電圧の増大がない半導体レーザを確実に実現することが可能となる。
【0029】
また、本発明に係る半導体レーザでは、前記活性層の光出射端部は、窓構造を有することを特徴とする。
【0030】
この構成により、光出射端面の劣化を確実に防止することができる。
【0031】
また、本発明に係る半導体レーザでは、前記下側クラッド層のドーパントは、シリコンであることを特徴とする。
【0032】
この構成により、高精度で容易にドーパント濃度を制御でき、下側クラッド層を高精度に形成することが可能となる。
【0033】
また、本発明に係る電子機器は、半導体レーザを用いて光データの書き込みを行なう電子機器であって、前記半導体レーザは、本発明に係る半導体レーザであることを特徴とする。
【0034】
この構成により、光ディスクに対する光データの書き込みを長期間にわたって信頼性良く行なうことが可能な電子機器となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る半導体レーザによれば、下側クラッド層のドーパント濃度と共振器長を画定することから、用途に適合した十分な光出力と寿命を確保できるという効果を奏する。
【0036】
また、下側クラッド層のドーパント濃度を4.0×1017/cm3以下とし、共振器長を1500μm以上とすることから、共振器長を長くすることによる微分効率の低減を防止し、所望の光出力とした場合の動作電流密度を低減して実用上必要な寿命を確保することができるという効果を奏する。
【0037】
また、下側クラッド層のドーパント濃度を2.0×1017/cm3以下とし、共振器長を1800μm以上とすることから、共振器長を長くすることによる微分効率の低減を防止し、さらに高出力の所望の光出力とした場合の動作電流密度を低減して実用上必要な寿命を確保することができるという効果を奏する。
【0038】
また、本発明に係る半導体レーザによれば、下側クラッド層の基板側領域でのドーパント濃度を下側クラッド層の活性層側領域でのドーパント濃度より高くすることから、高出力の光出力での動作状態で高い信頼性(寿命)を確保するため、共振器長を長くし、下側クラッド層のドーパント濃度を低減した場合でも動作電圧の上昇を防止でき、動作電圧が低く一般的なレーザドライバICによる駆動が可能になるという効果を奏する。
【0039】
また、本発明に係る電子機器によれば、本発明に係る半導体レーザを適用することから、光ディスクに対する光データの書き込みを長期間にわたって信頼性良く行なうことが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0041】
なお、(AlxGa1-xyIn1-yP(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1である。)をAlGaInPと、GazIn1-zP(ただし、0≦z≦1である。)をGaInPと、AlrGa1-rAs(ただし、0≦r≦1である。)をAlGaAsとそれぞれ略記することがある。また、第1導電型として例えばn型、第2導電型として例えばp型を例示するが逆の導電型とすることも可能である。
【0042】
<実施の形態1>
図1Aは、本発明の実施の形態1に係る半導体レーザの構造例の概略を示す斜視図である。
【0043】
本実施の形態に係る半導体レーザは、半導体基板100の上にバッファ層101、バッファ層102、第1下側クラッド層103、第2下側クラッド層104、活性層105、第1上側クラッド層106、エッチングストップ層107がこの順で積層してある。また、第1下側クラッド層103および第2下側クラッド層104を併せて単に下側クラッド層ということがある。
【0044】
半導体基板100はn型GaAsで、バッファ層101はn型GaAsで、バッファ層102はn型GaInPで、第1下側クラッド層103は厚さ2.0μmのn型(Al0.65Ga0.350.5In0.5Pで、第2下側クラッド層104は厚さ0.2μmのn型(Al0.665Ga0.3350.5In0.5Pで、活性層105は量子井戸層を含むアンド−プ層で、第1上側クラッド層106は厚さ0.1μmのp型(Al0.68Ga0.320.5In0.5Pで、エッチングストップ層107はp型GaInPでそれぞれ構成してある。
【0045】
さらに、リッジストライプ部として、第2上側クラッド層108、中間バンドギャップ層109、キャップ層110がエッチングストップ層107の上にこの順で積層してある。つまり、エッチングストップ層107の表面の一部に尾根状に突出して形成された第2上側クラッド層108、第2上側クラッド層108の上に順に積層された中間バンドギャップ層109、キャップ層110でリッジストライプ部が構成してある。また、第1上側クラッド層106および第2上側クラッド層108を併せて単に上側クラッド層ということがある。
【0046】
第2上側クラッド層108は厚さ1.5μmのp型(Al0.68Ga0.320.5In0.5Pで、中間バンドギャップ層109は厚さ0.05μmのp型GaInPで、キャップ層110は厚さ0.5μmのp型GaAsでそれぞれ構成してある。なお、リッジストライプ部の幅(リッジ幅Wr:第2上側クラッド層108の底面の幅)は1.8μmとしてある。
【0047】
エッチングストップ層107の上の第2上側クラッド層108が形成されていない領域には電流阻止層120が形成してあり、電流阻止層120の上にはコンタクト層121、p側電極123がこの順で形成してある。半導体基板100のバッファ層101が形成されている面と反対の面にはn側電極122が形成してある。なお、電流阻止層120はn型AlInPで、コンタクト層121はp型GaAsでそれぞれ構成してある。
【0048】
また、n型基板100の表面と垂直な方向で長さ方向の端部に形成された光出射端面124、125にはそれぞれ前面反射膜126、後面反射膜127が形成してある。また、共振器長Lは、光出射端面124、125相互間の距離で画定される。
【0049】
なお、本実施の形態に係る半導体レーザでは、n型ド−パントはシリコン(Si)であり、p型ド−パントはマグネシウム(Mg)とし、Mgの濃度は1.0×1018/cm3とした。n型ド−パントとしてSiを用いることにより高精度で容易にドーパント濃度Ncを制御でき、下側クラッド層を高精度に形成することができる。
【0050】
図1Bは、図1Aに示した半導体レーザの活性層での利得領域と窓部との配置関係を示す斜視図である。
【0051】
本実施の形態に係る半導体レ−ザの活性層105では、光出射端面124、125から一定長さの領域が混晶化され窓領域Awが構成してある。混晶化された窓領域Awでの活性層105のエネルギーバンドギャップは、光が増幅される領域である利得領域Agでの活性層105のエネルギーバンドギャップよりも大きくなる。したがって、半導体レ−ザによる光は窓領域Awでは吸収されないことから、半導体レ−ザの光出射端面124、125での光吸収による劣化は生じることがない。
【0052】
窓領域Awは、半導体基板100の表面にバッファ層101からキャップ層110までの各層を順次積層した後、キャップ層110の上面の両端部(窓領域Awに対応する領域)に厚さ35nmのZnO膜(図示せず)および厚さ200nmのSiO2膜(図示せず)をこの順で形成し、510℃で2時間の熱処理を施してZnを拡散することによって形成される。
【0053】
SiO2膜は外部へZnが蒸発することを防止するために形成されており、ZnO膜およびSiO2膜は熱処理後に除去される。また、窓領域Awを形成する際に、光強度分布の広がりが変化する領域となる遷移領域Atが窓領域Awと利得領域Agとの間に形成される。なお、中間バンドギャップ層109およびキャップ層110の両端部(光出射端面124、125から約30μmの領域)は除去されている。
【0054】
半導体レーザの前面となる光出射端面124に対応させた窓領域Awを活性層105の光出射端部105fに形成し、半導体レーザの後面となる光出射端面125に対応させた窓領域Awを活性層105の光出射端部105rに形成する。つまり、光出射端部105f、105rは、窓構造(窓領域Aw)を有することから、光出射端面124、125の劣化を確実に防止することが可能となる。
【0055】
図1Cは、図1Aに示した半導体レーザの活性層の積層構造例を概念的に示す側面図である。
【0056】
活性層105は、第2下側クラッド層104から第1上側クラッド層106にかけて順に積層された、厚さ50nmの(Al0.56Ga0.440.5In0.5Pガイド層105a、厚さ5nmのGa0.5In0.5P量子井戸層105b、厚さ5nmの(Al0.56Ga0.440.5In0.5Pバリア層105c、厚さ5nmのGa0.5In0.5P量子井戸層105d、厚さ5nmの(Al0.56Ga0.440.5In0.5Pバリア層105e、厚さ5nmのGa0.5In0.5P量子井戸層105f、および厚さ50nmの(Al0.56Ga0.440.5In0.5Pガイド層105gによって構成してある。
【0057】
図1Dは、図1Aに示した半導体レーザのn側電極の積層構造例を概念的に示す側面図である。図1Eは、図1Aに示した半導体レーザのp側電極の積層構造例を概念的に示す側面図である。
【0058】
n側電極122は、半導体基板100にAuGe層122a、Ni層122b、Mo層122cおよびAu層122dをこの順に積層して形成してある。また、p側電極123は、コンタクト層121にAuZn層123a、Mo層123bおよびAu層123cをこの順に積層して形成してある。
【0059】
図1Fは、図1Aに示した半導体レーザの後面反射膜の積層構造例を概念的に示す側面図である。
【0060】
後面反射膜127は、光出射端面125に対してAl23層127a、Si層127b、Al23層127c、Si層127dおよびAl23層127eを順に積層して形成してあり、反射率は90%となっている。
【0061】
また、前面反射膜126は、光出射端面124に対してAl23層を積層してあり、反射率は8%となっている。
【0062】
半導体レ−ザに窓構造を形成し、端面での劣化が生じない状態とした場合、図2で示すとおり、半導体レ−ザの寿命は動作電流密度によって決まることが知られている。
【0063】
図2は、図1Aに示した半導体レーザでの動作電流密度対寿命の相関を示す相関グラフである。
【0064】
同図で横軸は動作電流密度Jop(kA/cm2)であり、縦軸は寿命LT(h)である。グラフ上に□(四角図形)で示した点が実測経験値であり、実測経験値から抽出した直線Ch1が動作電流密度対寿命の相関特性を示す。実用上要求される寿命LTは5000時間であるが、この寿命LT=5000hを確保するために必要な動作電流密度Jopの条件は、直線Ch1から動作電流密度Jop=18kA/cm2以下とする必要があることが分かる。
【0065】
図3は、図1Aに示した半導体レーザに基づく構成と特性について実施例と比較例とを比較して示す特性比較図表である。
【0066】
実施例1に係る半導体レーザは、共振器長L=1500μmとした。また、第1下側クラッド層103のドーパント濃度(n型不純物としてのSiの濃度。以下同様とする。)Nc=4.0×1017/cm3、第2下側クラッド層104のドーパント濃度Nc=4.0×1017/cm3、つまり、下側クラッド層のドーパント濃度Nc=4.0×1017/cm3とした。
【0067】
実施例2に係る半導体レーザは、実施例1に比較して共振器長Lをさらに長くし共振器長L=1800μmとした。また、第1下側クラッド層103のドーパント濃度Nc=2.0×1017/cm3、第2下側クラッド層104のドーパント濃度Nc=2.0×1017/cm3、つまり、実施例1に比較して下側クラッド層のドーパント濃度をさらに低減し、ドーパント濃度Nc=2.0×1017/cm3とした。
【0068】
比較例1に係る半導体レーザは、共振器長L=1300μmとし、下側クラッド層のドーパント濃度Nc=2.0×1018/cm3とした。さらに、比較例2に係る半導体レーザは、共振器長L=2000μmとし、下側クラッド層のドーパント濃度Nc=2.0×1018/cm3とした。
【0069】
比較例1に係る半導体レーザの初期特性は、閾値電流Ith=73mA、微分効率η=0.83W/A、光出力(常用使用時のパルス。以下同様とする。)Pop=180mW(75℃)である。実使用条件である温度75℃のもと、光出力Pop=180mWでエ−ジングにかけたところ、寿命LT=5000h(時間)となった。そのときの動作電流Iop=420mAであった。共振器長L=1300μmとリッジ幅Wr=1.8μmとの積で動作電流Iop(420mA)を除して動作電流密度Jopを求めると、動作電流密度Jop=18kA/cm2である。
【0070】
比較例1に係る半導体レーザを高速で書き込む光学ドライブに適用することを想定して、光出力Popをさらに増加させ、光出力Pop=300mWとした。温度75℃で光出力Pop=300mWを出力するには、動作電流Iop=630mAが必要であり、この状態では動作電流密度Jop=27kA/cm2であった。この動作条件では、寿命LT≦50hと短く実用できない値となった。
【0071】
つまり、比較例1に係る半導体レーザは、光出力Pop=180mWでは十分な信頼性を有するが、光出力Pop=300mWでは寿命LTが50時間以内と短く、信頼性が不十分となることから実用に供することは困難である。すなわち、比較例1に係る半導体レーザを光出力Pop=300mWで動作させたときの動作電流密度Jopは27kA/cm2であり、寿命LT=5000hを確保できる動作電流密度Jop=18kA/cm2よりはるかに大きく寿命が短いことがわかる。
【0072】
比較例2に係る半導体レーザでは、光出力Pop=300mW(75℃)の動作状態とした場合の動作電流密度Jopを低減するために、共振器長L=2000μmと共振器長を比較例1に比較して長くしたものである。
【0073】
比較例2に係る半導体レーザの初期特性は、閾値電流Ith=95mA、微分効率η=0.65W/Aである。共振器長Lを長くしたことから、微分効率η=0.65W/Aと微分効率が大きく低下している。つまり、比較例1と比較して共振器長Lを長くしたことから面積が拡大したことによる動作電流密度Jopの低下はあるが、微分効率ηが低下している。微分効率ηの低下に伴い、同一の光出力Popを得るために動作電流Iopを増大することが必要となる。
【0074】
したがって、光出力Pop=300mWでは動作電流Iop=800mAが必要となり、動作電流密度Jop=22kA/cm2と動作電流密度Jopが大きくなり、寿命LT=約800hと信頼性(寿命)が低下した。つまり、単に共振器長Lを長くしただけの比較例2に係る半導体レーザでは、十分な信頼性が得られるレベルに動作電流密度Jopを低減することができず、比較例1の場合と同様実用に供することはできない。
【0075】
実施例1に係る半導体レーザの初期特性は、閾値電流Ith=63mA、微分効率η=1.05W/A、光出力Pop=300mW(75℃)での動作電流Iop=500mAである。また、光出力Pop=300mWでの動作電流密度Jop=18kA/cm2である。したがって、長期エ−ジングで寿命LT=5000hを確保でき、光出力Pop=300mWでも十分な信頼性を有する。
【0076】
つまり、共振器長Lを共振器長L=1500μmと長くし、また、下側クラッド層のドーパント濃度をドーパント濃度Nc=4.0×1017/cm3と低減することにより、十分な光出力Popの状態でも寿命LTを長くすることができ、実用上十分な信頼性を確保することが可能となる。
【0077】
実施例2に係る半導体レーザの初期特性は、閾値電流Ith=62mA、微分効率η=1.15W/A、光出力Pop=400mW(75℃)での動作電流Iop=600mAである。また、光出力Pop=400mWでの動作電流密度Jop=18kA/cm2である。したがって、実施例1と同様に長期エ−ジングで寿命LT=5000hを確保でき、実施例1に比較して高出力である光出力Pop=400mWとした場合でも十分な信頼性を有する。つまり、実施例1に比較して同一の信頼性条件下でさらに高出力とすることが可能となる。
【0078】
上述したとおり、実施例1、実施例2に係る半導体レーザの構成によれば、共振器長Lの増大に伴う微分効率ηの低減を抑制することにより、動作電流密度Jopの増大を抑制し、寿命LT=5000hを確保して十分な信頼性を有する半導体レーザとすることができる。
【0079】
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2に基づく知見から、さらにデータを収集して共振器長L、下側クラッド層103のドーパント濃度Nc、微分効率η、動作電流Iop(温度75℃で光出力Pop=300mW)、動作電流密度Jopの相互関係を分析した結果について図4ないし図6に基づいて説明する。なお、図4ないし図6は、適宜のポイントでの実験値を基礎として計算した計算値による特性曲線である。
【0080】
図4は、図1Aに示した半導体レーザでの共振器長対微分効率の相関を下側クラッド層のドーパント濃度による4つのパラメータについて示す相関グラフである。
【0081】
同図で、横軸は共振器長L(μm)であり、縦軸は温度25℃での微分効率η(W/A)である。4種類のドーパント濃度Nc(/cm3)をパラメータとしている。
【0082】
つまり、曲線Ch2aは下側クラッド層(第1下側クラッド層103および第2下側クラッド層104)のドーパント濃度NcとしてのSi濃度(以下同様である。)が2×1017/cm3(実施例2に関連)、曲線Ch2bはSi濃度が4×1017/cm3(実施例1に関連)、曲線Ch2cはSi濃度が1×1018/cm3(実施例1と比較例1、2の中間ドーパント濃度に対応)、曲線Ch2dはSi濃度が2×1018/cm3(比較例1、2に関連)の場合での共振器長L対微分効率ηの相関特性をそれぞれ示す。
【0083】
上述したとおり、共振器長Lを長くしていくと、微分効率ηは低下していく。また、パラメータとして設定した下側クラッド層のSi濃度が小さいほど微分効率ηは高くなり、共振器長Lを長くしていくことによる微分効率ηの特性低下を補償することができる。
【0084】
また、Si濃度が小さいときは、共振器長Lを長く延伸したときにも微分効率ηの低下(低下度合)が少ない。これは、下側クラッド層のドーパント濃度Ncを低減することによって、半導体レ−ザ内部での光吸収が少なくなり、微分効率ηが上昇するためである。
【0085】
なお、対応する実施例1、比較例1、比較例2の場合をそれぞれ図上に示してある。これらを参酌して、共振器長Lを1500μm以上とし、ドーパント濃度Ncを4×1017/cm3以下とすることにより、微分効率ηの低減を防止し、比較例1、比較例2に対して十分大きい微分効率ηを実現することが可能となる。
【0086】
この構成により、共振器長Lを長くした場合の微分効率の低減を抑制し、所望の光出力Popとしたときの動作電流密度Jopを低減して実用上必要な寿命LTを確保することが可能となる。
【0087】
また、共振器長Lを1800μm以上とし、ドーパント濃度Ncを2×1017/cm3以下とすることにより、実施例1に比較してさらに微分効率ηを向上させることが可能となる。したがって、この構成により、実施例1に比較してさらに高出力の光出力Popとした場合の動作電流密度Jopをさらに低減して実用上必要な寿命LTを確保することが可能となる。
【0088】
図5は、図1Aに示した半導体レーザでの共振器長対動作電流の相関を下側クラッド層のドーパント濃度による4つのパラメータについて示す相関グラフである。
【0089】
同図で、横軸は共振器長L(μm)であり、縦軸は温度75℃で光出力Pop=300mWとした状態での動作電流Iop(mA)である。図4に示した4種類のドーパント濃度Nc(/cm3)をそのままパラメータとしている。
【0090】
つまり、曲線Ch3aはSi濃度が2×1017/cm3(実施例2に関連)、曲線Ch3bはSi濃度が4×1017/cm3(実施例1に関連)、曲線Ch3cはSi濃度が1×1018/cm3(実施例1と比較例1、2の中間ドーパント濃度に対応)、曲線Ch3dはSi濃度が2×1018/cm3(比較例1、2に関連)の場合での共振器長L対動作電流Iopの相関特性をそれぞれ示す。
【0091】
なお、図4と同様、対応する実施例1、比較例1、比較例2の場合をそれぞれ図上に示してある。
【0092】
上述したとおり、共振器長Lを長くしていくと、動作電流Iopは徐々に増加する。また、パラメータとして設定した下側クラッド層のSi濃度が小さいほど動作電流Iopは小さくなり、共振器長Lを長くすることによる動作電流Iopの増加を補償することができる。
【0093】
また、Si濃度を小さくした場合でも、共振器長Lを2500μm以上とすると、動作電流Iopが600mAを超えることから、光学ドライバ(レ−ザドライバIC)の最大定格電流を超える場合があり実用的でないことがある(曲線Ch3a、Ch3b)。つまり、本実施の形態に係る半導体レーザでの共振器長Lの上限は、光学ドライバ(レーザドライバIC)の最大定格電流により規定することとなる。
【0094】
図6は、図1Aに示した半導体レーザでの共振器長対動作電流密度の相関を下側クラッド層のドーパント濃度による4つのパラメータについて示す相関グラフである。
【0095】
同図で、横軸は共振器長L(μm)であり、縦軸は温度75℃で光出力Pop=300mWとした状態での動作電流密度Jop(kA/cm2)である。動作電流密度Jopは、図5で示した動作電流Iopを動作電流Iopが流れる面積(共振器長L×リッジ幅Wr)で除した値である。また、図5と同様、図4に示した4種類のドーパント濃度Nc(/cm3)をそのままパラメータとしている。
【0096】
つまり、曲線Ch4aはSi濃度が2×1017/cm3(実施例2に関連)、曲線Ch4bはSi濃度が4×1017/cm3(実施例1に関連)、曲線Ch4cはSi濃度が1×1018/cm3(実施例1と比較例1、2の中間ドーパント濃度に対応)、曲線Ch4dはSi濃度が2×1018/cm3(比較例1、2に関連)の場合での共振器長L対動作電流密度Jopの相関特性をそれぞれ示す。
【0097】
なお、図4、図5と同様、対応する実施例1、比較例1、比較例2の場合をそれぞれ図上に示してある。
【0098】
実用上必要とされる信頼性(寿命LT=5000h)を確保するためには図2で示したとおり、動作電流密度Jop=18kA/cm2以下とすることが必要であるが、図6で示すとおり、下側クラッド層のドーパント濃度Ncを比較例1、比較例2のように高濃度に維持した状態で共振器長Lを単純に長くしただけでは、共振器長Lの増大に伴い微分効率ηが低減する(図4)ことから動作電流密度Jopを18kA/cm2以下とすることは困難である(曲線Ch4c、Ch4d)。
【0099】
他方、上述したとおり、下側クラッド層のドーパント濃度Ncを低減することによって、半導体レ−ザ内部での光吸収を低減させ微分効率ηを増大させることができることから、動作電流密度Jopを低減するためには、共振器長Lの増大と下側クラッド層のドーパント濃度Ncの低減との両方を同時にバランス良く導入する必要がある(曲線Ch4a、Ch4b)。
【0100】
例えば、実施例2の場合は、曲線Ch4aに対して光出力Popを約30%(光出力Pop=400mW)向上させていることから、動作電流Iopは約20%増加させることとなるが、この場合でも曲線Ch4a(共振器長L=1800μmで動作電流密度約15kA/cm2)によれば動作電流密度Jopを18kA/cm2以下とできることが明確である。
【0101】
上述したとおり、本実施の形態(実施例1)に係る半導体レーザの構成と特性(図3ないし図6)から、共振器長Lを1500μm以上とした場合に、下側クラッド層のドーパント濃度Ncを4.0×1017/cm3以下とすることにより、共振器長Lを長くすることによる微分効率ηの低減を防止して十分な微分効率ηを実現し、所望の光出力Popを出力した場合の動作電流密度Jopを低減して、実用上十分な信頼性を確保することが可能な半導体レーザを提供することができる。
【0102】
また、上述したとおり、本実施の形態(実施例2)に係る半導体レーザの構成と特性(図3ないし図6)から、共振器長Lを1800μm以上とした場合に、下側クラッド層のドーパント濃度Ncを2.0×1017/cm3以下とすることにより、共振器長Lを長くすることによる微分効率ηの低減を防止して十分な微分効率ηを実現し、所望の光出力Popをさらに高出力とした場合の動作電流密度Jopを低減して、実用上十分な信頼性を確保することが可能な半導体レーザを提供することができる。
【0103】
<実施の形態2>
実施の形態1では、共振器長Lの増大と下側クラッド層でのドーパント濃度Ncの低減の両方をバランス良く導入することによって動作電流密度Jopを所定値(例えば実施の形態1では、動作電流密度Jop=18kA/cm2)以下に維持して所望の光出力Popでの寿命LTを改善することとしたが、他方、下側クラッド層でのドーパント濃度Ncの低減に伴い半導体レーザの素子抵抗Rdが増大するという問題が生じる。特に、下側クラッド層(第1下側クラッド層103および第2下側クラッド層104)のドーパント濃度を全層に渡って低減すると、下側クラッド層の抵抗が増大し、動作電圧Vopが上昇する場合が考えられる。
【0104】
本実施の形態に係る半導体レーザ(実施例3ないし実施例6)は、実施例1(実施の形態1)と比較して半導体レーザの素子抵抗Rdを低減する点が主に異なる。図7に基づいて、実施の形態2(実施例3ないし実施例6)について説明する。
【0105】
図7は、本発明の実施の形態2に係る半導体レーザの下側クラッド層の構造例の概略をエネルギーバンドで示すエネルギーバンド図である。
【0106】
(実施例3)
実施例3に係る半導体レーザ(図7)は、実施例1に係る半導体レーザに対して、第1下側クラッド層103と第2下側クラッド層104で構成される下側クラッド層の抵抗を低減する構成としてある。共振器長Lその他の構成は実施例1と共通としてある(共振器長L=1500μm、光出力Pop=300mW)ので主に異なる点について説明する。
【0107】
つまり、実施例3では、第1下側クラッド層103を半導体基板100側に位置する基板側領域103aと、活性層105側(第2下側クラッド層104側)に位置する活性層側領域103bとに分割して2層構造としてある。
【0108】
基板側領域103aは厚さ0.25μmでドーパント濃度Nc=7×1017(/cm3)とし、活性層側領域103bは厚さ1.75μmでドーパント濃度Nc=4×1017(/cm3)とした。
【0109】
つまり、実施例3に係る半導体レーザでは、第1下側クラッド層103の基板側領域103aでのドーパント濃度Ncは、第1下側クラッド層103の活性層105側に位置する活性層側領域103bでのドーパント濃度Nc(下側クラッド層のドーパント濃度Nc)よりも高くしてある。
【0110】
実施の形態1に係る半導体レーザ、本実施の形態に係る半導体レーザいずれでも、バッファ層102から第1下側クラッド層103(基板側領域103a)にかけて境界部分で発生するバンド不連続に起因するノッチ103n(実施例1:ノッチ103nf、実施例3:ノッチ103nt。ノッチ103nfおよびノッチ103ntを区別する必要が無い場合は、ノッチ103nとする。)を生じる。
【0111】
実施例1でのノッチ103nfは、下側クラッド層(第1下側クラッド層103および第2下側クラッド層104)のドーパント濃度Ncを小さくしている(Nc=4×1017(/cm3))ことから、ノッチ103nfが比較例1、比較例2に比較して大きくなり、バッファ層102から第1下側クラッド層103への電子の流れを阻害することとなり、結果として素子抵抗Rdを増大させ、結果として大きい動作電圧Vopが必要となる。
【0112】
他方、実施例3でのノッチ103ntは、第2下側クラッド層104は実施例1と同様とし、第1下側クラッド層103を2層構造として半導体基板100側の基板側領域103aでのドーパント濃度をNc=7×1017(/cm3)とし、実施例1の場合(Nc=4×1017(/cm3))に比較して高くしていることから、ノッチ103ntをノッチ103nfに比較して小さくすることができる。
【0113】
したがって、バッファ層102から第1下側クラッド層103(基板側領域103a)への電子の流れを阻害する要因を実施例1に比較して低減することが可能となり、結果として素子抵抗Rdを低減させることができる。つまり、実施例3に係る半導体レーザは、素子抵抗Rdを低減できることから、動作電圧Vopの増大を防止することが可能となる。
【0114】
上述したとおり、第1下側クラッド層103を基板側領域103aと活性層側領域103bとの2層構造として、基板側領域103aでのドーパント濃度Ncを、活性層側領域103bでのドーパント濃度Nc(下側クラッド層のドーパント濃度Nc)よりも高くすることにより、高い微分効率ηを有し、動作電圧Vopの増大を防止した半導体レーザを実現することが可能となる。
【0115】
(実施例4)
実施例4に係る半導体レーザ(図7に示した実施例3と基本的構成は共通するので適宜符合を援用する。)は、実施例3の構成を半導体レーザの内部での光分布との関係から規定するものである。つまり、実施例3、実施例1に係る半導体レーザの内部での光分布は、半導体レーザの集束特性からほとんどが活性層側領域103bに分布する。したがって、実施例3での光吸収の影響は実施例1と同じであり、微分効率ηは実施例1と同じ値になる。
【0116】
実施例4に係る半導体レーザは、実施例3に係る半導体レーザと同様に2層構造としてあり、2層構造を活性層105で導波される光の分布状態に合わせて構成してある。その他の構成は実施例3と同様であるので、主に異なる点について説明する。
【0117】
つまり、第1下側クラッド層103は、半導体基板100側に位置して活性層105で導波される光が分布しない基板側領域103aと、活性層105側に位置して活性層105で導波される光が分布する活性層側領域103bとを備え、基板側領域103aでのドーパント濃度Ncは、活性層側領域103bでのドーパント濃度Ncより高くしてある。
【0118】
この構成により、実施例3に係る半導体レーザと同様、素子抵抗Rdを低減できることから、高い微分効率ηを有し、動作電圧Vopの増大がない半導体レーザを実現することが可能となる。
【0119】
(実施例5)
実施例5に係る半導体レーザ(図7に示した実施例3と基本的構成は共通するので適宜符合を援用する。)は、ドーパント濃度Ncを活性層側領域103bから基板側領域103aへ徐々に増加させた構造としてある。実施例3、実施例4では、第1下側クラッド層103を2層構造としたが、2層構造とせず、基板側領域103aでのドーパント濃度Ncを徐々に変動させる構造とした場合でも同様の作用効果が得られる。その他の構成は実施例3、実施例4と同様であるので、主に異なる点について説明する。
【0120】
つまり、下側クラッド層は、半導体基板100側の第1下側クラッド層103と活性層105側の第2下側クラッド層104で構成され、第1下側クラッド層103は、半導体基板100側に位置して活性層105で導波される光が分布しない基板側領域103aと活性層105側に位置して活性層105で導波される光が分布する活性層側領域103bとを備え、基板側領域103aでのドーパント濃度Ncは、活性層側領域103bでのドーパント濃度Ncに対して活性層105側から徐々に増加させてある。なお、このときのドーパント濃度Ncは実施例3、実施例4と同様とすることが可能である。
【0121】
この構成により、実施例3、実施例4に係る半導体レーザと同様、素子抵抗Rdを低減できることから、高い微分効率ηを有し、動作電圧Vopの増大がない半導体レーザを実現することが可能となる。
【0122】
(実施例6)
活性層側領域103bでのドーパント濃度Ncよりドーパント濃度Ncを大きくした基板側領域103aの厚さは、厚くしすぎると微分効率ηが低下し、また、薄すぎると素子抵抗Rdを低減する効果が小さくなる。
【0123】
実施例6に係る半導体レーザは、基板側領域103aの厚さを最適化したものであり、他の実施例のいずれに対しても適用することが可能である。つまり、ノッチ103nの厚さは、本実施の形態では、おおよそ30nmないし90nmであることから、基板側領域103aの厚さの範囲としては、30nm以上100nm以下とすることが好ましい。また、基板側領域103aから活性層側領域103bへのドーパントの拡散を考慮して、30nm以上300nm以下とすることがより好ましい。
【0124】
この構成により、高い微分効率ηを有し、動作電圧Vopの増大がなく、低い動作電圧での駆動が可能な半導体レーザを確実に実現することが可能となる。
【0125】
<実施の形態3>
本実施の形態では、光学ドライバに対する書き込み速度をさらに向上させるため、半導体レーザの光出力Popを実施の形態1の実施例1(光出力Pop=300mW)、実施の形態2(実施例3ないし実施例6)の場合に比較してさらに増大させて実施の形態1の実施例2と同様に光出力Pop=400mWとした場合について、実施例7、実施例8として説明する。なお、本実施の形態に係る半導体レーザの基本的構成は、図7に示した実施例3と共通するので適宜符号を援用する。
【0126】
実施例7、実施例8に係る半導体レーザは、実施例2に係る半導体レーザに対して、実施の形態2(実施例3、実施例4)の場合と同様に第1下側クラッド層103を半導体基板100側に位置する基板側領域103aと、活性層105側(第2下側クラッド層104側)に位置する活性層側領域103bとに分割して2層構造としてある。なお、実施例5と同様に徐々に濃度を変化させる構造とすることも可能である。
【0127】
つまり、実施例7、実施例8に係る半導体レーザは、実施例2に係る半導体レーザに対して実施の形態2を適用したものであり、第1下側クラッド層103と第2下側クラッド層104で構成される下側クラッド層の抵抗を低減した構成としてある。共振器長Lその他の構成は実施例2と共通としてある(共振器長L=1800μm、光出力Pop=400mW)ので主に異なる点について説明する。
【0128】
具体的には、実施例7では、基板側領域103aは厚さ0.25μmでドーパント濃度Nc=5×1017(/cm3)とし、活性層側領域103bは厚さ1.75μmでドーパント濃度Nc=2×1017(/cm3)とした。また、実施例8では、基板側領域103aは厚さ0.25μmでドーパント濃度Nc=10×1017(/cm3)とし、活性層側領域103bは厚さ1.75μmでドーパント濃度Nc=2×1017(/cm3)とした。
【0129】
図8は、本発明の実施の形態3に係る半導体レーザでの基板側領域のドーパント濃度と特性との相関を示す相関グラフであり、(A)は素子抵抗を、(B)は動作電圧を示す。
【0130】
同図(A)で、横軸は基板側領域103aでのドーパント濃度Nc(×1017/cm3)であり、縦軸は素子抵抗Rd(Ω)である。また、同図(B)で、横軸は同図(A)と同様であり、縦軸は動作電圧Vop(75℃で光出力Pop=400mW)である。
【0131】
同図では、実施例7の場合(基板側領域103aでのドーパント濃度Nc=5×1017(/cm3))は、抵抗Rd=3(Ω)、動作電圧Vop=3.6(V)となっている。これに対して、実施例2に対応するドーパント濃度Nc=2×1017(/cm3))の場合は、抵抗Rd=3.6(Ω)、動作電圧Vop=3.92(V)となっている。また、実施例8の場合(基板側領域103aでのドーパント濃度Nc=10×1017(/cm3))は、抵抗Rd=2.85(Ω)、動作電圧Vop=3.55(V)となっている。つまり、基板側領域103aでのドーパント濃度Nc対素子抵抗Rdの相関は曲線Ch5で示され、基板側領域103aでのドーパント濃度Nc対動作電圧Vopの相関は曲線Ch6で示される。
【0132】
半導体レ−ザの動作電圧Vopは、半導体レ−ザを電流駆動するレ−ザドライバICの駆動最大電圧(最大定格出力)以下である必要がある。すなわち、レ−ザドライバICの駆動最大電圧以上の動作電圧を必要とする半導体レ−ザには電流を流すことができず、レ−ザドライバICを適用することができない。
【0133】
光ピックアップ(レーザドライバIC)の電源電圧としては5Vが最も一般的である。電源電圧5Vの場合、電源定格の範囲は5±0.5Vであるから、最小許容電源電圧は4.5Vである。また、レーザドライバIC自体の電圧降下として0.7Vは必要であるから、半導体レ−ザに許される駆動最大電圧は4.5V−0.7V=3.8Vとなる。
【0134】
したがって、高い光出力Pop(例えば、光出力Pop=400mW)を出力するためには、素子抵抗Rdを低減し、動作電圧VopをレーザドライバICの駆動最大電圧(3.8V)以下とすることが可能なドーパント濃度Nc=3×1017(/cm3)以上とすることが必要である。また、確実性、信頼性をさらに保証するためには、基板側領域103aでのドーパント濃度Nc=4×1017(/cm3)以上とすることがより好ましい。
【0135】
本実施の形態に係る半導体レーザは、高出力の光出力での信頼性を確保し、光学ドライバに対する書き込み速度をさらに向上させた場合でも、動作電圧の上昇を防止して、低い駆動電圧での駆動が可能となり、一般的なレーザドライバICによる駆動を行なうことが可能となる。
【0136】
<実施の形態4>
本実施の形態に係る電子機器(不図示)は、半導体レーザを用いて光ディスク(書き込み用光ディスク)に対する光データの書き込みを行なう構成としてある。本実施の形態に係る電子機器は、実施の形態1ないし実施の形態3に係る半導体レーザを適用する構成としてある。
【0137】
電子機器は、光ディスクを回転駆動する光ディスク駆動部と、該光ディスク駆動部に載置された光ディスクへ光データを書き込む半導体レーザと、該半導体レーザを駆動して電気信号に対応する光信号を発生させるレーザドライバICと、該レーザドライバICへ光信号に対応する電気信号を供給する電気信号供給部と、前記光ディスク駆動部および前記電気信号供給部を制御して電子機器として機能させる制御部とを備える。なお、該制御部は中央処理装置(CPU)により構成される。
【0138】
この構成により、光ディスクに対する光データの書き込みを長期間にわたって信頼性良く行なうことが可能な電子機器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1A】本発明の実施の形態1に係る半導体レーザの構造例の概略を示す斜視図である。
【図1B】図1Aに示した半導体レーザの活性層での利得領域と窓部との配置関係を示す斜視図である。
【図1C】図1Aに示した半導体レーザの活性層の積層構造例を概念的に示す側面図である。
【図1D】図1Aに示した半導体レーザのn側電極の積層構造例を概念的に示す側面図である。
【図1E】図1Aに示した半導体レーザのp側電極の積層構造例を概念的に示す側面図である。
【図1F】図1Aに示した半導体レーザの後面反射膜の積層構造例を概念的に示す側面図である。
【図2】図1Aに示した半導体レーザでの動作電流密度対寿命の相関を示す相関グラフである。
【図3】図1Aに示した半導体レーザに基づく構成と特性について実施例と比較例とを比較して示す特性比較図表である。
【図4】図1Aに示した半導体レーザでの共振器長対微分効率の相関を下側クラッド層のドーパント濃度による4つのパラメータについて示す相関グラフである。
【図5】図1Aに示した半導体レーザでの共振器長対動作電流の相関を下側クラッド層のドーパント濃度による4つのパラメータについて示す相関グラフである。
【図6】図1Aに示した半導体レーザでの共振器長対動作電流密度の相関を下側クラッド層のドーパント濃度による4つのパラメータについて示す相関グラフである。
【図7】本発明の実施の形態2に係る半導体レーザの下側クラッド層の構造例の概略をエネルギーバンドで示すエネルギーバンド図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係る半導体レーザでの基板側領域のドーパント濃度と特性との相関を示す相関グラフであり、(A)は素子抵抗を、(B)は動作電圧を示す。
【符号の説明】
【0140】
100 半導体基板
101 バッファ層
102 バッファ層
103 第1下側クラッド層(下側クラッド層)
103a 基板側領域
103b 活性層側領域
104 第2下側クラッド層(下側クラッド層)
105 活性層
105f 光出射端部
105r 光出射端部
106 第1上側クラッド層
107 エッチングストップ層
108 第2上側クラッド層
109 中間バンドギャップ層
110 キャップ層
120 電流阻止層
121 コンタクト層
122 n側電極
123 p側電極
124 光出射端面
125 光出射端面
126 前面反射膜
127 後面反射膜
Ag 利得領域
At 遷移領域
Aw 窓領域(窓構造)
LT 寿命

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に、第1導電型の下側クラッド層、量子井戸層を含む活性層、および第2導電型の上側クラッド層がこの順に形成してある半導体レーザであって、
前記下側クラッド層のドーパント濃度は4.0×1017/cm3以下であり、
共振器長は1500μm以上としてあることを特徴とする半導体レ−ザ。
【請求項2】
半導体基板に、第1導電型の下側クラッド層、量子井戸層を含む活性層、および第2導電型の上側クラッド層がこの順に形成してある半導体レーザであって、
前記下側クラッド層のドーパント濃度は2.0×1017/cm3以下であり、
共振器長は1800μm以上としてあることを特徴とする半導体レ−ザ。
【請求項3】
前記下側クラッド層は、前記半導体基板側の第1下側クラッド層と前記活性層側の第2下側クラッド層で構成され、前記第1下側クラッド層の前記半導体基板側に位置する基板側領域でのドーパント濃度は、前記第1下側クラッド層の前記活性層側に位置する活性層側領域でのドーパント濃度より高くしてあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体レ−ザ。
【請求項4】
前記下側クラッド層は、前記半導体基板側の第1下側クラッド層と前記活性層側の第2下側クラッド層で構成され、前記第1下側クラッド層は、前記半導体基板側に位置して前記活性層で導波される光が分布しない基板側領域と前記活性層側に位置して前記活性層で導波される光が分布する活性層側領域とを備え、前記基板側領域でのドーパント濃度は、前記活性層側領域でのドーパント濃度より高くしてあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体レ−ザ。
【請求項5】
前記下側クラッド層は、前記半導体基板側の第1下側クラッド層と前記活性層側の第2下側クラッド層で構成され、前記第1下側クラッド層は、前記半導体基板側に位置して前記活性層で導波される光が分布しない基板側領域と前記活性層側に位置して前記活性層で導波される光が分布する活性層側領域とを備え、前記基板側領域でのドーパント濃度は、前記活性層側でのドーパント濃度に対して前記活性層側から徐々に増加させてあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体レ−ザ。
【請求項6】
前記基板側領域のドーパント濃度は、4.0×1017/cm3以上としてあることを特徴とする請求項3ないし請求項5のいずれか一つに記載の半導体レ−ザ。
【請求項7】
前記基板側領域の厚さは、30nm以上300nm以下としてあることを特徴とする請求項3ないし請求項6のいずれか一つに記載の半導体レ−ザ。
【請求項8】
前記活性層の光出射端部は、窓構造を有することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一つに記載の半導体レ−ザ。
【請求項9】
前記下側クラッド層のドーパントは、シリコンであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一つに記載の半導体レ−ザ。
【請求項10】
半導体レーザを用いて光データの書き込みを行なう電子機器であって、
前記半導体レーザは、請求項1ないし請求項9のいずれか一つに記載の半導体レーザであることを特徴とする電子機器。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−103573(P2008−103573A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285444(P2006−285444)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】