説明

半導体基板の製造方法及び半導体基板

【課題】格子緩和又は一部格子緩和した歪緩和SiGe層の形成を可能にし、これによって転位欠陥を少なくするようにした半導体基板の製造方法及び半導体基板を提供する。
【解決手段】Si基板10上に絶縁層11を介してSiGe層を備えた半導体基板の製造方法である。Si基板上に前記絶縁層11を介してSi層12を備えたSOI基板13のSi層12上に、第1のSiGe層14を形成するSiGe成膜工程と、SiGe成膜工程後、熱処理を施し、第1のSiGe層14中のGeをSi層12中に拡散・濃縮させ、SiGe層となる第2のSiGe層16を形成する拡散工程と、を有する。第1のSiGe層形成工程では、第1のSiGe層14中のGe濃度を5%以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の製造方法及び半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンMOSデバイスでは、スケーリング則に従った微細化や動作電圧の低減化を行うことにより、高速化と低消費電力化とを両立してきた。しかし、ゲート長が100nm以下の領域になると、高速化と低消費電力化との両立が困難になる。このため、近年ではSOIウェーハ(SOI基板)及び歪みシリコンの導入が検討され、特にSOIウェーハ上に歪シリコン(歪Si)を導入した基板が究極の基板と考えられ、研究が進められている。
【0003】
SOIウェーハ上に歪シリコンを導入した基板の製造方法として、第1の方法としては、SOIウェーハにSiGeエピタキシャル技術を組み合わせた方法が知られている。例えば、特許文献1には、既存のSOIウェーハ上にSiGeエピタキシャル層を形成して歪緩和を起こし、歪緩和したSiGe膜上にSi膜を形成し、歪Siとする方法が開示されている。
また、第2の方法として、特許文献2には、酸素イオン注入分離法(SIMOX法)によってSiGe層中に埋め込み酸化膜を形成し、この埋め込み酸化膜上に位置する歪緩和SiGe層の上に、歪みシリコン(歪Si)を形成する方法が開示されている。
【0004】
第3の方法として、特許文献3には、SOIウェーハ上にSiGe膜を形成し、次いで熱処理によってSiGe層を溶融し、その後、Geを拡散させつつSiGe層を固化させることにより、歪緩和を行う方法が開示されている。
また、特許文献4には、SOI基板でなく通常のシリコン基板を用いる方法として、酸素が添加されたSi基板上にSiGe膜を形成し、その後、酸化雰囲気下での熱処理によってGeを拡散させつつ、歪緩和を行う方法が開示されている。
【特許文献1】特開平7−169926号公報
【特許文献2】特開平9−321307号公報
【特許文献3】特開2003−31495号公報
【特許文献4】特開2000−243946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記したようにSiGeエピタキシャル技術を組み合わせて歪シリコンを導入する基板においては、高速化と低消費電力化とをより十分に両立させるため、均一かつ高濃度にGeを含有することで格子緩和または一部格子緩和した歪緩和SiGe層を形成し、これによって転位欠陥をより少なくすることが重要である。
したがって、本発明は、格子緩和または一部格子緩和した歪緩和SiGe層の形成を可能にし、これによって転位欠陥を少なくするようにした半導体基板の製造方法と、この製造方法によって得られる半導体基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体基板の製造方法は、Si基板上に絶縁層を介してSiGe層を備えた半導体基板の製造方法であって、前記Si基板上に前記絶縁層を介してSi層を備えたSOI基板の前記Si層上に、第1のSiGe層を形成するSiGe成膜工程と、前記SiGe成膜工程後、熱処理を施し、前記第1のSiGe層中のGeを前記Si層中に拡散・濃縮させ、前記SiGe層となる第2のSiGe層を形成する拡散工程と、を有し、前記第1のSiGe層形成工程では、該第1のSiGe層中のGe濃度を5%以下にすることを特徴としている。
また、本発明の半導体基板は、Si基板上に絶縁層を介してSiGe層を備えた半導体基板であって、前記の製造方法によって作製されたことを特徴としている。
【0007】
前記半導体基板の製造方法によれば、第1のSiGe層中のGe濃度を5%以下にしているので、拡散工程での熱処理により、該第1のSiGe層中のGeの拡散をゆるやかに起こさせ、したがって形成される第2のSiGe層中のGe濃度をゆるやかに高め、濃縮することができる。よって、形成される第2のSiGe層中に急激なGe濃度勾配が生じるのを抑え、このSiGe層中に部分的緩和を起こさせることにより、転位欠陥の発生を抑制することができる。
また、前記半導体基板によれば、前記製造方法によって作製されたことにより、転位欠陥の発生が抑制されたSiGe層を備えたものとなる。
【0008】
また、前記拡散工程では、第2のSiGe層中におけるGe濃度を10%以上20%以下にするのが好ましい。
Ge濃度を10%以上とすることにより、第2のSiGe層は十分に格子緩和がなされるようになる。また、20%以下とすることにより、比較的短時間で拡散工程を終了させることができ、かつ、第2のSiGe層中に急激なGe濃度勾配が生じるのを抑えることができる。
【0009】
また、前記拡散工程では、第2のSiGe層の膜厚を60nm以下にするのが好ましい。
第2のSiGe層の膜厚を60nm以下の薄厚にすることにより、熱処理によって形成する第2のSiGe層の、表層側と下層側との格子緩和率の不均一性を小さくすることができ、これによってこの格子緩和率の不均一性に起因する転位欠陥の発生を抑制することができる。
【0010】
また、前記拡散工程における熱処理を、酸化雰囲気下にて行うのが好ましい。
このようにすれば、第1のSiGe層中のGeをSi層中に良好に拡散させることができ、したがって形成する第2のSiGe層のGe濃度を所望の高濃度にまで容易に濃縮することができる。
【0011】
また、前記SiGe成膜工程と前記拡散工程との間に、前記第1のSiGe層中のGeの蒸発を防止する蒸発防止層を、該第1のSiGe層上に形成するのが好ましい。
このようにすれば、拡散工程における熱処理の際、第1のSiGe層中のGeが前記Si層中に拡散することなく、蒸発して排出されてしまうことを防止することができる。
【0012】
また、前記拡散工程の後、例えば熱処理によって形成された酸化膜を除去して前記第2のSiGe層を露出させた状態のもとで、該第2のSiGe層上に歪Si層をエピタキシャル成長させるのが好ましい。
このようにすれば、転位欠陥の発生が抑制された第2のSiGe層(SiGe層)上に歪Si層が形成されるので、得られる歪Si層も欠陥密度が小さい良好なものとなる。
【0013】
また、本発明の半導体基板は、Si基板上にSiGe層を介して歪みSi層が形成された半導体基板であって、前記したように、第2のSiGe層上に歪Si層をエピタキシャル成長させるようにした製造方法によって作製されたことを特徴としている。
この半導体基板によれば、前記製造方法によって作製されたことにより、欠陥密度が小さい良好な歪Si層を備えたものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半導体基板の製造方法によれば、SiGe層中に部分的緩和を起こさせることにより、転位欠陥の発生を抑制することができる。したがって、このSiGe層上に歪Si層をエピタキシャル成長させることにより、欠陥密度が小さい良好な歪Si層を形成することができる。
また、本発明の半導体基板によれば、転位欠陥の発生が抑制されたSiGe層を備えたものとなり、したがってこのSiGe層上に歪Si層がエピタキシャル成長させられることにより、欠陥密度が小さい良好な歪Si層が備えたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明を詳しく説明する。
図1(a)〜(d)は、本発明の半導体ウェーハ(半導体基板)の製造方法を工程順に示す側断面図であり、図2(a)、(b)は、本発明に係る半導体ウェーハ(半導体基板)の構造を示す側断面図である。
本発明の半導体ウェーハ(半導体基板)の製造方法では、まず、図1(a)に示すように、Si基板10上に絶縁層(例えば、SiO)であるBOX層11を介して設けられた、単結晶SiからなるSOI層(Si層)12を有するSOI基板13を作製する。本実施形態では、BOX層11の膜厚を例えば140nm程度に、また、SOI層12の膜厚を例えば70nm程度に形成する。
【0016】
このSOI基板13の製造方法としては、前記構成を得ることができれば、従来公知の種々の製造方法を採用することができる。
例えば、SOI基板の作製方法のうち代表的なものとして、従来、いわゆる基板貼り合わせ技術と、SIMOX(Separation by Implanted Oxygen)法による技術とが知られている。
【0017】
基板貼り合わせ技術は、2枚の基板の片方又は両方に酸化膜を形成しておき、酸化膜を間に2枚の基板を貼り合わせる方法である。貼り合わせは、2枚の基板を機械的に密着させて熱処理すること等によって行い、SOI層は、貼り合わせた基板を研削及び研磨により鏡面加工して作製する。
【0018】
また、基板貼り合わせ技術として、水素イオン剥離法(スマートカット法とも呼ばれる)という手法も開発されている。この技術は、二枚のSi基板のうち酸化膜を形成した一方の上面から水素イオンを注入した後、イオン注入面を酸化膜を介して他方の基板に密着させ、その後熱処理を加えることによって基板内部に微小気泡層を形成させ、微小気泡層を劈開面として一方の基板を薄膜状に剥離し、さらに熱処理を加えて強固に結合したSOI基板とするものである。
【0019】
また、シリコン基板表面に多孔質Si層及びSi単結晶層を介してSiO層を形成し、このシリコン基板をSiO層を重ね合わせ面として支持基板に貼り合わせ、さらに前記シリコン基板及び多孔質Si層を高圧水流ではぎ取る高圧水流分離法による技術なども知られている。
一方、SIMOX法による技術は、Siウェーハに酸素をイオン注入し、高温で熱処理することにより、酸素が過飽和に含まれている領域を酸化膜に変換するもので、BOX層上にSi薄膜を残し、SOIを形成する技術である。
【0020】
次に、前記SOI層12上に、図1(b)に示すように、第1のSiGe層14を減圧CVD法によってエピタキシャル成長させる(SiGe成膜工程)。なお、この減圧CVD法による成膜は、例えばキャリアガスとしてHを用い、ソースガスとしてSiH及びGeHを用いて行う。
【0021】
ここで、本発明においては、この第1のSiGe層14中のGe濃度を、原子比で5%以下とし、好ましくは2%以上にする。原子比で5%以下にするのは、後述する拡散工程において、該第1のSiGe層14中のGeを前記SOI層12に向けてゆるやかに拡散させるためである。なお、特に限定されないものの、原子比で2%未満になると、後述する拡散工程において所望の拡散を行うために長時間を要するようになり、生産性を低下させてしまうことから、2%以上にするのが好ましい。
また、この第1のSiGe層14の膜厚については、特に限定されることないものの、後述するように拡散工程で形成する第2のSiGe層の膜厚に対応する厚さ、すなわち、拡散工程において拡散・濃縮を行うことで所望の膜厚の第2のSiGe層が得られるような厚さとする。
【0022】
次いで、前記第1のSiGe層14上に、図1(c)に示すようにSiをCVD法等によって成膜し、蒸発防止層15を形成する(蒸発防止層形成工程)。この蒸発防止層15は、後述する拡散工程において前記第1のSiGe層14中のGeが蒸発し、Si基板10上から外に排出されるのを防止するためのものである。したがって、この蒸発防止層15の厚さとしては、前記の蒸発を防止できる厚さ、例えば20nm以下程度であればよく、本実施形態では12nm程度に形成する。
【0023】
次いで、蒸発防止層15を形成したSi基板10を熱処理炉に入れ、酸化雰囲気下にて例えば1250℃の温度で熱酸化処理を施し、前記第1のSiGe層14中のGeを前記SOI層12中に拡散・濃縮させる(拡散工程)。このように酸化雰囲気下にて熱処理(熱酸化処理)を行うと、前記の蒸発防止層15であるSi層は酸化されてSiO層となる。すると、第1のSiGe層14中のGeはこのSiO層(蒸発防止層15)に拡散せず、SOI層12側にのみ選択的に拡散するようになる。これにより、SOI層12はGeが拡散して所望の高濃度にまで濃縮され、図1(d)に示すように第2のSiGe層16となる。
【0024】
なお、このようにして第1のSiGe層14中のGeを拡散させると、この第1のSiGe層14中からGeから抜けることにより、該第1のSiGe層14はほとんどGeが存在せず、したがって実質的にSi層となる。そして、前記蒸発防止層15が酸化されてSiO層となることにより、この第1のSiGe層14からなるSi層も酸化されてSiO層となる。これにより、前記蒸発防止層15と第1のSiGe層14とは、図1(d)に示すように同じSiO層17となる。
【0025】
ここで、このような拡散工程で形成する第2のSiGe層16については、そのGe濃度を、原子比で10%以上20%以下にするのが好ましい。Ge濃度を10%以上とすることにより、第2のSiGe層16は十分に格子緩和がなされるようになるからである。また、20%以下とすることにより、比較的短時間で拡散工程を終了させることができ、さらに、第2のSiGe層16中に急激なGe濃度勾配が生じるのを抑えることができるからである。
【0026】
また、この第2のSiGe層16については、その膜厚を60nm以下で、好ましくは30nm以上にするのが好ましい。60nm以下の薄厚にすることにより、熱処理によって形成する第2のSiGe層16の、表層側と下層側との格子緩和率の不均一性を小さくすることができ、これによってこの格子緩和率の不均一性に起因する転位欠陥の発生を抑制することができる。なお、特に限定されないものの、30nm未満にするには、拡散工程において濃縮を行うために長時間を要するようになり、生産性を低下させてしまうことから、30nm以上にするのが好ましい。
【0027】
また、前記の酸化雰囲気については、酸素100%の雰囲気とするのが、蒸発防止層15等の酸化をより速くすることができ、好ましいものの、酸素と、窒素やアルゴンなどの不活性ガスとの混合雰囲気、例えば大気を採用してもよい。
また、この拡散工程における熱酸化処理時間については、第2のSiGe層14が所望の膜厚になり、かつ、所望のGe濃度となる時間を予め実験やシミュレーションなどによって求めておき、求められた時間で行う。
【0028】
次いで、前記のSiO層17をフッ酸水溶液(HF水溶液)によりエッチングして除去し、前記第2のSiGe層16の表面を露出させる。これにより、図2(a)に示すようにSi基板10上にBOX層(絶縁層)11を介してSiGe層(第2のSiGe層16)を備えた、本発明に係る第1の半導体ウェーハ(半導体基板)18が得られる。
このようにして得られた第1の半導体ウェーハ18は、前記したように転位欠陥の発生が抑制されたSiGe層(第2のSiGe層16)を備えたものとなる。
【0029】
その後、この露出させた第2のSiGe層16上にSiをCVD法等によってエピタキシャル成長させ、図2(b)に示すように厚さ12nm程度の歪Si層19を形成する。これにより、Si基板10上にBOX層(絶縁層)11を介してSiGe層(第2のSiGe層16)を形成し、さらにこのSiGe層16上に歪Si層19を形成した、本発明に係る第2の半導体ウェーハ(半導体基板)20が得られる。
このようにして得られた第2の半導体ウェーハ20は、転位欠陥の発生が抑制されたSiGe層(第2のSiGe層16)上に歪Si層19が形成されているので、得られる歪Si層19も欠陥密度が小さい良好なものとなる。
【0030】
よって、本発明の製造方法によれば、特に第1のSiGe層14のGe濃度を5%以下にすることにより、転位欠陥の発生が抑制されたSiGe層(第2のSiGe層16)を備えた第1の半導体ウェーハ18を形成することができる。そして、このようなSiGe層(第2のSiGe層16)上に歪Si層19を形成することにより、欠陥密度が小さい良好な歪Si層19を備えた第2の半導体ウェーハ20を形成することができる。
【0031】
次に、本発明に係る製造方法によって半導体ウェーハ(半導体基板)を製造し、得られた半導体ウェーハの評価を以下のようにして行った。
[実験例1]
まず、第1のSiGe層14中のGe濃度を変え、得られる半導体ウェーハ20の性能を評価した。
【0032】
(試料1)
本発明に係る試料1として、まず、図1(c)に示す構造のウェーハを、第1のSiGe層14のGe濃度が5%(原子比)となり、かつ、その膜厚が240nmとなるように形成した。なお、SOI基板13におけるBOX層11の厚さは140nmに、SOI層12の厚さは70nmにそれぞれ形成した。また、蒸発防止層15の厚さは12nmに形成した。
そして、拡散工程として、酸素100%の酸化雰囲気下にて熱酸化処理を行い、Ge濃度が20%(原子比)、厚さが60nmの第2のSiGe層16を形成した。続いて、この第2のSiGe層16上に形成されたSiO層17をフッ酸水溶液(HF水溶液)でエッチング除去し、その後、露出した第2のSiGe層16(SiGe層)上に歪Si層19を厚さ12nmに形成した。
【0033】
(試料2)
試料2として、図1(c)に示す構造のウェーハを、第1のSiGe層14のGe濃度が3%(原子比)となり、かつ、その膜厚が400nmとなるように形成した。なお、SOI基板13におけるBOX層11、SOI層12、及び蒸発防止層15の厚さは試料1と同一にした。
そして、拡散工程として、酸素100%の酸化雰囲気下にて熱酸化処理を行い、Ge濃度が20%(原子比)、厚さが60nmの第2のSiGe層16を形成した。続いて、この第2のSiGe層16上に形成されたSiO層17をフッ酸水溶液(HF水溶液)でエッチング除去し、その後、露出した第2のSiGe層16(SiGe層)上に歪Si層19を厚さ12nmに形成した。
【0034】
(試料3)
試料3として、図1(c)に示す構造のウェーハを、第1のSiGe層14のGe濃度が10%(原子比)となり、かつ、その膜厚が120nmとなるように形成した。なお、SOI基板13におけるBOX層11、SOI層12、及び蒸発防止層15の厚さは試料1と同一にした。
そして、拡散工程として、酸素100%の酸化雰囲気下にて熱酸化処理を行い、Ge濃度が20%(原子比)、厚さが60nmの第2のSiGe層16を形成した。続いて、この第2のSiGe層16上に形成されたSiO層17をフッ酸水溶液(HF水溶液)でエッチング除去し、その後、露出した第2のSiGe層16(SiGe層)上に歪Si層19を厚さ12nmに形成した。
【0035】
このようにして形成した各試料について、その欠陥密度を測定し、性能を評価した。欠陥密度の測定は、歪Si層19を選択エッチング処理した後、微分干渉顕微鏡観察によるピットカウントで行った。このピットカウントの結果を図3に示す。
図3に示したように、欠陥密度は、試料1では3.88×10/cmとなり、試料2では2.50×10/cmとなり、試料3では3.52×10/cmとなった。
【0036】
したがって、第1のSiGe層14のGe濃度を5%以下にした試料1、試料2は、Ge濃度を10%にした試料3に比べ、欠陥密度が少なくなっており、これによって良好な歪Si層19が得られることが確認された。また、試料1に比べて試料2の方が欠陥密度が少なくなっており、これによって第1のSiGe層14のGe濃度が低くなると、より欠陥密度が少なくなる傾向になることが分かった。
【0037】
[実験例2]
次に、拡散工程で形成する第2のSiGe層16の膜厚を変え、得られる半導体ウェーハ20の性能を評価した。
【0038】
(試料1)
前記試料1を、そのまま実験例2に用いた。すなわち、この試料1では、拡散工程として、酸素100%の酸化雰囲気下にて熱酸化処理を行い、Ge濃度が20%(原子比)、厚さが60nmの第2のSiGe層16を形成した。
【0039】
(試料4)
試料4として、図1(c)に示す構造のウェーハを、第1のSiGe層14のGe濃度が5%(原子比)となり、かつ、その膜厚が280nmとなるように形成した。なお、SOI基板13におけるBOX層11、SOI層12、及び蒸発防止層15の厚さは試料1と同一にした。
そして、拡散工程として、酸素100%の酸化雰囲気下にて熱酸化処理を行い、Ge濃度が20%(原子比)、厚さが70nmの第2のSiGe層16を形成した。続いて、この第2のSiGe層16上に形成されたSiO層17をフッ酸水溶液(HF水溶液)でエッチング除去し、その後、露出した第2のSiGe層16(SiGe層)上に歪Si層19を厚さ12nmに形成した。
【0040】
このようにして形成した試料4について、前記試料1〜3と同様にしてその欠陥密度を測定した。得られたピットカウントの結果を、試料1の結果と併記して図4に示す。
図4に示したように、試料4の欠陥密度は4.12×10/cmとなり、試料1の欠陥密度が3.88×10/cmであるのに比べ多くなった。
このように、第2のSiGe層16の膜厚を60nmにした試料1は、70nmにした試料4に比べて欠陥密度が少なく、したがって第2のSiGe層16の膜厚を60nm以下にすることが、欠陥密度の低減化に有効であることが確認された。
【0041】
次に、前記歪Si層19を備えた本発明に係る第2の半導体ウェーハ20の応用例として、この第2の半導体ウェーハ20を用いた電界効果型トランジスタ(MOSFET)について、その製造プロセスと合わせて図5を参照して説明する。
【0042】
図5は、本発明の電界効果型トランジスタの概略的な構造を示すものである。この電界効果型トランジスタを製造するには、前記の製造工程で作製した第2の半導体ウェーハ20表面の歪Si層19上にSiOからなるゲート酸化膜21及びゲートポリシリコン膜22を順次堆積する。そして、チャネル領域となる部分上のゲートポリシリコン膜22上にゲート電極(図示略)をパターニングして形成する。
【0043】
次に、ゲート酸化膜21もパターニングしてゲート電極下以外の部分を除去する。さらに、ゲート電極をマスクに用いたイオン注入により、歪Si層19及び第2のSiGe層16(SiGe層)にn型あるいはp型のソース領域S及びドレイン領域Dを自己整合的に形成する。その後、ソース領域S及びドレイン領域D上にソース電極及びドレイン電極(図示略)をそれぞれ形成し、歪Si層19がチャネル領域となるn型あるいはp型MOSFETを製造する。
【0044】
このようにして作製されたMOSFETでは、前記第2の半導体ウェーハ20の歪Si層19にチャネル領域が形成されるので、十分な歪効果が得られるとともに、欠陥密度が少ない良好な膜質の歪Si層19によって動作特性に優れたものとなる。また、第2の半導体ウェーハ20を用いることにより、動作特性に優れたMOSFETを高歩留まりで得ることができる。
【0045】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前記実施形態では、拡散工程によって第2のSiGe層16を形成し、この第2のSiGe層16上のSiO層17を除去して該第2のSiGe層16を露出させ、その後この第2のSiGe層16上に直接歪Si層19を形成したが、第2のSiGe層16上にさらに他のSiGe層を成膜し、該SiGe層を介して歪Si層19をエピタキシャル成長させてもよい。
また、歪Si層19上に、さらに別のSiGe層を成膜するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)〜(d)は本発明に係る半導体基板の製造方法の一実施形態を、製造工程順に説明するための側断面図である。
【図2】(a)、(b)は本発明に係る半導体基板の構造を示す側断面図である。
【図3】実験結果を示すグラフである。
【図4】実験結果を示すグラフである。
【図5】本発明に係るMOSFETの概略構成を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10…Si基板、11…BOX層(絶縁層)、12…SOI層(Si層)、13…SOI基板、14…第1のSiGe層、15…蒸発防止層、16…第2のSiGe層(SiGe層)、17…SiO、18…第1の半導体ウェーハ(半導体基板)、19…歪Si層、20…第2の半導体ウェーハ(半導体基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板上に絶縁層を介してSiGe層を備えた半導体基板の製造方法であって、
前記Si基板上に前記絶縁層を介してSi層を備えたSOI基板の前記Si層上に、第1のSiGe層を形成するSiGe成膜工程と、
前記SiGe成膜工程後、熱処理を施し、前記第1のSiGe層中のGeを前記Si層中に拡散・濃縮させ、前記SiGe層となる第2のSiGe層を形成する拡散工程と、を有し、
前記第1のSiGe層形成工程では、該第1のSiGe層中のGe濃度を5%以下にすることを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記拡散工程では、第2のSiGe層中におけるGe濃度を10%以上20%以下にすることを特徴とする請求項1記載の半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記拡散工程では、第2のSiGe層の膜厚を60nm以下にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記拡散工程における熱処理を、酸化雰囲気下にて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記SiGe成膜工程と前記拡散工程との間に、前記第1のSiGe層中のGeの蒸発を防止する蒸発防止層を、該第1のSiGe層上に形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記拡散工程の後、前記第2のSiGe層を露出させた状態のもとで、該第2のSiGe層上に歪Si層をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項7】
Si基板上に絶縁層を介してSiGe層を備えた半導体基板であって、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法により作製されたことを特徴とする半導体基板。
【請求項8】
Si基板上にSiGe層を介して歪みSi層が形成された半導体基板であって、
請求項6に記載の半導体基板の製造方法により作製されたことを特徴とする半導体基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−40931(P2010−40931A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204476(P2008−204476)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】