説明

半導体発光素子の製造方法およびスパッタ成膜装置

【課題】結晶性の高いバッファ層を有する半導体発光素子を形成することができるスパッタ成膜装置、並びに半導体発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】スパッタ成膜装置40を用いて、スパッタ法により基板11上に薄膜を成膜する工程を含む、半導体発光素子の製造方法であって、前記スパッタ法で成膜される薄膜の材料からなるコーティング原料粒子又は前記材料の構成元素からなるコーティング原料粒子を未溶融状態で、ガスの流れを用いて前記スパッタ成膜装置40内の成長室41aの内壁に吹き付けて、前記成長室41aの内壁に前記コーティング原料粒子からなるコーティング膜100を形成する工程と、前記コーティング膜100を形成する工程の後に、前記基板11上に前記薄膜を成膜する工程、を有することを特徴とする半導体発光素子の製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子の製造方法およびスパッタ成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、短波長の光を発光する半導体発光素子用の半導体材料として、III族窒化物半導体が注目を集めている。一般にIII族窒化物半導体は、サファイア単結晶を始めとする種々の酸化物結晶、炭化珪素単結晶またはIII−V族化合物半導体単結晶等を基板として、その上に有機金属気相化学反応法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)あるいは水素化物気相エピタキシー法(HVPE法)等によって積層されて形成される。
【0003】
現在のところ広く一般に採用されている結晶成長方法は、基板としてサファイアやSiC、GaN、AlN等を用い、その上に有機金属気相化学反応法(MOCVD法)を用いて結晶を成長させる方法で、前述の基板を設置した反応管内にIII族の有機金属化合物とV族の原料ガスを用い、温度700℃〜1200℃程度の領域で下地層、n型半導体層、発光層およびp型半導体層を成長させるという方法である。
そして、各半導体層の成長後、基板もしくはn型半導体層に負極を形成し、p型半導体層に正極を形成することによって半導体発光素子が得られる。
【0004】
しかし、基板上に下地層とn型半導体層を積層する場合、基板と下地層との格子定数が異なるために、下地層の結晶性が不十分となる。このため、下地層上に積層されるn型半導体層と発光層とp型半導体層の結晶性も低下し、半導体発光素子の出力が不十分となる。
【0005】
このような問題を解決する技術として、たとえば、基板上に窒化アルミニウム(AlN)や窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる低温バッファ層と呼ばれる層を積層し、その上に高温でIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる方法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
また、上記バッファ層をMOCVD以外の方法で成膜する技術も提案されている。例えば、高周波スパッタ法で成膜したバッファ層上に、MOCVDによって同じ組成の結晶を成長させる方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3026087号公報
【特許文献2】特開平4-297023号公報
【特許文献3】特公平5-86646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のスパッタ成膜装置により、基板上に、たとえばバッファ層などの薄膜を形成すると、スパッタ成膜装置内の成長室の内壁面がプラズマに曝されるため、内壁面の材料が成長室内の領域に叩き出される。また、薄膜を形成する際の加熱により、スパッタ装置内にある材料が昇華して成長室内に放出される。このため、装置内の材料が薄膜に不純物として混入し、薄膜の結晶性を低下させるという問題が生じていた。
【0008】
このような問題を回避するために、一般的には薄膜の成膜の前に、基板を配置しない状態で薄膜の成膜処理と同じ工程を行い、成長室の内壁面を予め薄膜の材料と同じ材料からなるコーティング膜で覆う方法が採用されている。しかし、薄膜の成膜方法では、スパッタターゲットから発生する原子若しくは分子が、内壁面に向かうように真っ直ぐに飛ばされるため、内壁内の部材の影となる部分を覆うことができない。
このため、従来の方法では、成長室の内壁面の全ての領域をコーティング膜で完全に覆うことができず、薄膜の成膜時に内壁面の材料が成長室内に叩き出されたり、昇華して薄膜に混入することを防ぐことができなかった。
【0009】
特に、薄膜の成膜方法としてRFスパッタ法を用いる場合は、ターゲットに高周波電圧を印加してプラズマを発生させるために、加速したイオンがスパッタ成膜装置内の成長室の内壁面に衝突しやすく、スパッタ成膜装置内の成長室の内壁面の材料が成長室内に叩き出されやすい。
また、成長室の内壁が、設置電極を介して電気的に接地された構成である場合には、内壁がアノード電極として作用するため、内壁はマイナスにバイアスされる。このため、イオンがターゲットのみならず内壁にも引き寄せられ、成長室の内壁をスパッタする。
【0010】
また、RFスパッタ法におけるプラズマの発生領域は、DCスパッタ法におけるプラズマの発生領域よりも広いとされている。このため、成長室の内壁を接地させずに電気的に浮かせた状態で用いた場合であっても、成長室の内壁がスパッタされることを防ぐのは困難であった。
【0011】
また、薄膜の形成を繰り返すことにより、コーティング膜の表面に薄膜の材料からなる堆積物が付着するが、コーティング膜の表面は平坦であるため、堆積物が基板上に剥がれ落ちやすい。また、薄膜の形成の度にコーティング膜が熱膨張を繰り返すことにより、コーティング膜に亀裂や剥がれが生じやすい。このような堆積物やコーティング膜の剥がれ(小片)は、薄膜の形成の際の熱やプラズマの衝突により、成長室内に飛散しやすい。しかし、飛散した小片が基板上に付着すると、その部分の半導体層は特性を発揮できない。そのため、半導体発光素子に欠陥が生じ、製品の収率が低下する。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、不純物混入を防ぐスパッタ成膜装置と、前記スパッタ成膜装置を用いた半導体発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 スパッタ成膜装置を用いて、スパッタ法により基板上に薄膜を成膜する工程を含む、半導体発光素子の製造方法であって、前記スパッタ法で成膜される薄膜の材料からなるコーティング原料粒子又は前記材料の構成元素からなるコーティング原料粒子を未溶融状態で、ガスの流れを用いて前記スパッタ成膜装置内の成長室の内壁に吹き付けて、前記成長室の内壁に前記コーティング原料粒子からなるコーティング膜を形成する工程と、前記コーティング膜を形成する工程の後に、前記基板上に前記薄膜を成膜する工程、を有することを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
〔2〕 基板とスパッタターゲットとを囲む遮蔽部材を有するスパッタ成膜装置を用いて、スパッタ法により前記基板上に薄膜を成膜する工程を含む、半導体発光素子の製造方法であって、前記スパッタ法で成膜される薄膜の材料からなるコーティング原料粒子又は前記材料の構成元素からなるコーティング原料粒子を未溶融状態で、ガスの流れを用いて前記遮蔽部材に吹き付けて、該遮蔽部材の内壁に前記コーティング原料粒子からなるコーティング膜を形成する工程と、前記コーティング膜を形成する工程の後に、前記基板上に前記薄膜を成膜する工程、を有することを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
〔3〕 前記スパッタ法で成膜される薄膜は、反応性スパッタ法によって成膜することを特徴とする〔1〕又は〔2〕のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
〔4〕 前記スパッタ法で成膜される薄膜を、RFスパッタ法によって成膜することを特徴とする〔1〕又は〔2〕のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
〔5〕 前記スパッタ法で成膜される薄膜はAlNからなり、前記溶射原料粒子はAlN又はAlからなることを特徴とする〔3〕又は〔4〕のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
〔6〕 前記スパッタ法で成膜される薄膜はバッファ層であることを特徴とする〔1〕乃至〔5〕のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。
〔7〕 前記コーティング原料粒子を、温度が300℃〜600℃である前記ガスの流れに混合させることを特徴とする〔1〕乃至〔6〕のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。
〔8〕 前記コーティング原料粒子の平均粒径が、0.01μm〜10μmであることを特徴とする〔1〕乃至〔7〕のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。
〔9〕 前記コーティング膜を、10μm〜10000μmの厚さで形成することを特徴とする〔1〕乃至〔8〕のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。
〔10〕 遮蔽部材で囲まれた領域内に基板とスパッタターゲットとを配置し、スパッタ法によって前記基板上に薄膜を形成するスパッタ成膜装置であって、前記遮蔽部材の内壁に、前記スパッタ法で成膜される薄膜の材料からなるコーティング原料粒子又は前記材料の構成元素からなるコーティング原料粒子からなるコーティング膜が形成されていることを特徴とするスパッタ成膜装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半導体発光素子の製造方法によれば、スパッタ法によって成膜される薄膜の材料からなるコーティング原料粒子又は前記材料の構成元素からなるコーティング原料粒子を、スパッタ成膜装置内の、プラズマにさらされる可能性のある成長室の内壁そのもの、または装置内に配置されて成長室を形成する遮蔽部材内壁に吹き付けることにより、基板とスパッタターゲットとを囲む全ての領域を、コーティング膜で覆われた面で囲むことができる。このため、薄膜の成膜時に、スパッタ成膜装置の内壁面の材料がスパッタ法によって成膜される薄膜に混入するのを防ぐことができる。
【0015】
成長室は、装置の内壁そのものに覆われている場合と、遮蔽部材を組み上げて形成される場合がある。コーティング作業のしやすさの観点からは、遮蔽部材を組み上げて形成するほうが有利である。
【0016】
また、コーティング膜形成の際に、コーティング原料粒子を未溶融状態で、取り外し可能な遮蔽部材を内壁に吹き付けることにより、溶射原料粒子が塑性変形せずに互いに接合する。このため、コーティング膜の表面に微細な凹凸形状や隙間を形成できる。このため、コーティング膜の表面にスパッタ法によって成膜される薄膜の材料からなる堆積物が付着しても、堆積物は表面の凹凸および隙間に保持され、剥がれ落ちることがない。また、スパッタ法によって成膜される薄膜の形成の度にコーティング膜が熱膨張を繰り返しても、コーティング膜の表面に微細な凹凸形状や隙間が形成されているため、コーティング膜に亀裂や剥がれが生じにくい。このため、堆積物やコーティング膜の剥がれ(小片)が基板上に付着することが防がれ、スパッタ法によって成膜される薄膜の結晶性悪化および半導体発光素子の欠陥の発生を防ぐことができる。このため、製品の収率を向上できる。
【0017】
本発明のスパッタ成膜装置によれば、基板とスパッタターゲットとを配置する領域である成長室の内壁に、基板に形成する薄膜の材料からなるコーティング膜が形成されていることにより、スパッタ成膜装置の内壁面の材料がスパッタ法によって成膜される薄膜に混入するのを防ぐことができる。
【0018】
また、前記コーティング膜が、スパッタ法によって成膜される薄膜の材料からなるコーティング原料粒子又は前記材料の構成元素からなるコーティング原料粒子からなるため、スパッタ法によって成膜される薄膜の材料からなる堆積物が付着しても剥がれ落ちることがない。また、スパッタ法によって成膜される薄膜の形成の度にコーティング膜が熱膨張を繰り返しても、コーティング膜に亀裂や剥がれが生じにくい。このため、堆積物やコーティング膜の剥がれ(小片)が基板上に付着することが防がれ、スパッタ法によって成膜される薄膜の結晶性悪化および半導体発光素子の欠陥の発生を防ぐことができる。このため、製品の収率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明に係るスパッタ成膜装置の一例を模式的に説明する図である。
【図2】図2は、本発明に係るスパッタ成膜装置に形成されたコーティング膜の一例を模式的に説明する図であり、(a)は側方からの断面模式図であり、(b)は平面写真である。
【図3】図3は、半導体発光素子を製造する工程を説明するための断面模式図である。
【図4】図4は、本発明の半導体発光素子の製造方法を用いて製造された半導体発光素子の一例を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
『スパッタ成膜装置40』
以下、本実施形態の半導体発光素子の製造方法で用いられるスパッタ成膜装置40の構成について、図1を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明において参照する図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0021】
図1に例示するスパッタ成膜装置40は、スパッタ法によって基板11上に薄膜(スパッタ法によって成膜される薄膜)を形成する装置であり、チャンバ41と、遮蔽部材41aと、反応ガス供給手段50と、圧力モニタ51と、流量制御手段52と、マッチングボックス45および46と、から概略構成されている。以下、それぞれの構成について詳細を説明する。
この例では、遮蔽部材を組み上げて成長室を形成する場合を採用しているが、成長室をチャンバの内壁そのもので形成しても構わない。その場合は、チャンバ内壁のコーティングが施される。
【0022】
チャンバ41は、スパッタ成膜装置40内に設けられており、遮蔽部材41aの外側を囲むように構成されている。また、チャンバ41の材質としては、一般に、ステンレス、アルミ、インコネル、インバー、石英等を用いることができるが、材質はこれらに限定されず、スパッタ成膜装置40の仕様により適宜選択することができる。
また、チャンバ41の内側には、遮蔽部材41aと、ヒーター44と、電極43が設けられている。以下、各構成について説明する。
【0023】
遮蔽部材41aは、基板11への薄膜の成膜中における、スパッタ成膜装置40の内壁への原子若しくは分子(スパッタターゲット47から放出された原子若しくは分子)の衝突を遮断するための部材である。
また、遮蔽部材41aの構成としては、設置電極を介して電気的に接地されたものを用いても構わない。RFスパッタを行う場合、接地された遮蔽部材41aはアノード電極として作用する。また、遮蔽部材41aは、電気的に接地させず、電気的に浮かせた状態で用いても構わない。
【0024】
遮蔽部材41aは、基板11とスパッタターゲット47が配置される領域49を囲むように構成されており、たとえばスパッタ成膜装置40の成長室を構成している。また、基板11とスパッタターゲット47が配置される領域49を囲む」とは、基板11とスパッタターゲット47とを完全に覆い囲む場合だけでなく、その一部だけを囲む場合も含む。
【0025】
また、遮蔽部材41aは、たとえば筒状のシールド材からなることが好ましいが、基板11とスパッタターゲット47との間で発生するプラズマの発生領域を囲むものであれば、その形状は特に制限されない。また、遮蔽部材41aはスパッタ成膜装置40から取り出し可能な構成となっており、単体の部材で構成されていても、複数の部材で構成されていてもかまわない。
【0026】
また、遮蔽部材41aを構成する部材には、基板11を保持するための部材(いわゆるトレイ)が含まれるものとする。また、前記トレイは、成膜処理ごとにチャンバ41から取り出され、交換されるものとし、成長室を構成する遮蔽部材と区別される。装置により、基板11を直接搬送する場合と、部材に載せて搬送する場合がある。
また、遮蔽部材41aの内壁は、コーティング膜100により覆われている。
【0027】
コーティング膜100は、スパッタ法による成膜中における、遮蔽部材41aの内壁面とプラズマの接触を遮断する。また、スパッタ法によって成膜される薄膜の材料からなる堆積物が剥離して脱落することを防ぐための膜でもある。
なお、チャンバ41および遮蔽部材41aの材料と、スパッタ法によって成膜される薄膜の材料が同じである場合は、スパッタ成膜装置40の内壁面の材料の混入の観点からはコーティング膜100は不要であるが、堆積物の脱落低減の観点からは必要である。
【0028】
図2(a)に、本製造方法で用いられるコーティング法により形成されたコーティング膜100の断面模式図、図2(b)にAlからなるコーティング膜100の平面写真を示す。
図2(a)(b)に示すように、コーティング膜100は略球状のコーティング原料粒子100aが互いに接合してなり、表面に微細な凹凸および隙間100bが形成されている。また、コーティング膜100(溶射原料粒子100a)は、スパッタ法によって成膜される薄膜の材料または前記材料の構成元素から構成されている。
【0029】
また、コーティング原料粒子100aの平均粒径は、0.01μm〜10μmであることが好ましい。コーティング原料粒子100aの平均粒径がこの範囲内であることにより、コーティング膜100の強度が保たれつつ、表面に適度な大きさの凹凸が形成される。そのため、スパッタ法によって成膜される薄膜の材料からなる堆積物がコーティング膜100の表面に付着しても、領域49内へ飛散することなく保持される。
【0030】
一方、コーティング原料粒子100aの平均粒径が0.01μm未満であると、コーティング膜100表面の凹凸が十分な大きさとならず、スパッタ法によって成膜される薄膜の材料からなる堆積物を保持することができない。また、コーティング原料粒子100aの表面積が大きくなるため、コーティング膜100形成の際に溶射原料粒子100aが酸化されやすくなる。このため、コーティング原料粒子100a同士の結合が弱まり、コーティング膜100から溶射原料粒子100aが脱落しやすくなるため好ましくない。
【0031】
また、コーティング原料粒子100aの平均粒径が10μmを超えると、コーティング原料粒子100a同士の接触面積が体積に比較して小さくなり、コーティング原料粒子100a同士の接合強度が弱まるため、コーティング膜100の強度が低下する。また、コーティング原料粒子100aの自重により、領域49内へのコーティング原料粒子100aの脱落が発生しやすくなる。また、コーティング膜100表面の凹凸や隙間100bが大きくなりすぎる。このため、スパッタ法によって成膜される薄膜の材料からなる堆積物を保持しにくく、領域49内への堆積物の飛散が生じやすくなる。
【0032】
また、コーティング膜100は、10μm〜10000μmの厚さで形成されていることが好ましい。コーティング膜100の膜厚がこの範囲内であることにより、スパッタよる成膜の際のプラズマや熱から、遮蔽部材41aを保護できる。このため、領域49に、遮蔽部材41aの材料がプラズマによりたたき出されたり、熱で昇華することを防ぐことができる。
【0033】
一方、コーティング膜100の膜厚が10μm未満であると、遮蔽部材41aをプラズマや熱から十分保護することができない。このため、領域49内への遮蔽部材41aの材料の昇華や混入を十分に防ぐことができない。
また、コーティング膜100の膜厚が10000μmを超えると、遮蔽部材41aとコーティング膜100との熱膨張率の差による影響が大きくなるため、コーティング膜100に亀裂や剥がれが発生しやすくなる。このため、コーティング膜100の剥がれ(小片)が基板11上に付着し、半導体発光素子に欠陥が発生する。また、遮蔽部材41aへのコーティング膜100のコーティング処理に時間を要するため、作業効率の面からも好ましくない。
【0034】
また、本実施形態のコーティング膜100は、コーティング原料粒子100aを溶融させず、遮蔽部材41aに、高速で吹き付ける方法、いわゆるコールドスプレー法により堆積されたものである。ここで、遮蔽部材41aに衝突する直前のコーティング原料粒子100aの速度は400m/s〜1000m/sの範囲である。
上記構成のコーティング膜100は、コーティング原料粒子100aの形状が残ったまま互いに接合されている。そのため、コーティング原料粒子100aの形状からなる凹凸がコーティング膜100表面に好適に形成されている。
【0035】
なお、コールドスプレー法とは、コーティング原料粒子100aの材料の融点よりも低い温度に加熱したガスをノズルにより超音速流で噴出し、その流れの中にコーティング原料粒子100aを投入し、固相状態のまま被溶射物(遮蔽部材41a)に高速で衝突させて皮膜(コーティング膜100)を形成する技術である。
【0036】
また、チャンバ41内は、上部にヒーター44が設けられており、底部に電極43が設けられている。
ヒーター44は、薄膜(スパッタ法によって成膜される薄膜)の成膜の際に、領域49および基板11の温度を制御するためのものである。ヒーター44の表面には、基板11を下向きに取り付けるための図示しない取り付け手段が備えられている。この取り付け手段により、基板11を後述するスパッタターゲット47に対向させる。また、ヒーター44は、チャンバ41外側のマッチングボックス45を介して、電源48に接続されている。この構成により、電源48からマッチングボックス45を介してヒーター44に電流が供給される。
【0037】
電極43は、スパッタターゲット47に電圧を印加するためのものである。電極43の表面には、スパッタターゲット47を基板11に対向させるための図示しない取り付け手段が備えられている。また、電極43は、チャンバ41外側に設けられたマッチングボックス46を介して、電源48に接続されている。このような構成により、電源48からマッチングボックス46を介して電極43に電流が供給される。また、電極43表面は、先述したコーティング膜100により覆われていることが好ましい。電極43表面がコーティング膜100で覆われていることにより、電極43の材料が領域49に昇華するのを防ぐことができるためである。
【0038】
また、スパッタターゲット47の下方にはマグネット42が設けられている。マグネット42には、図示しない駆動装置が設けられており、回転運動可能な構成となっている。このマグネット42がスパッタターゲット47の下方で回転することにより、スパッタターゲット47の広い面積がスパッタされることで、基板11に形成される薄膜(スパッタ法によって成膜される薄膜)の膜厚等の面内分布が良好となる。さらに、スパッタターゲット47の利用効率が向上するため、原料コストの低減につながる。
【0039】
また、金属材料をスパッタターゲット47として用い、反応性スパッタ法によって、絶縁体からなる薄膜(スパッタ法で成膜される薄膜)を成膜する場合には、マグネット42は、位置が固定されたものではなく、スパッタターゲット47の下方で移動可能なものであることが好ましい。マグネット42をスパッタターゲット47の下方で移動させながら成膜を行うことにより、スパッタターゲット47表面におけるスパッタ反応が均一に行われる。このため、スパッタターゲット47表面が局所的に絶縁膜で覆われることが防がれる。このため、絶縁膜の帯電による異常放電を防ぐことができる。
【0040】
ここで、マグネット42の具体的な運動の方法は、使用するスパッタ成膜装置によって適宜選択することができる。
【0041】
また、チャンバ41の外側には、反応ガス供給手段50、圧力モニタ51、流量制御手段52は、マッチングボックス46および電源48が設けられている。以下それぞれについて説明する。
【0042】
反応ガス供給手段50は、原料ガス、キャリアガス等の各反応ガスの供給量を適宜調整して、配管53を介してチャンバ41内(領域49内)に供給する構成となっている。図1に示す例では、反応ガス供給手段50は、たとえば、配管53a、53bからなる配管53を介して、チャンバ41内に各反応ガスを供給するように構成されている。
【0043】
圧力モニタ51は、チャンバ41内の圧力を検知するために設けられている。図1に例示する圧力モニタ51は、たとえばチャンバ41の外壁に設置されているが、圧力モニタ51の設置箇所は特に限定されず、例えば、チャンバ41内に配置することも可能であり、適宜決定することが可能である。
【0044】
また、流量制御手段52は、反応ガス供給手段50からチャンバ41内に供給するガスの流通量を制御するために設けられている。流量制御手段52は、圧力モニタ51の検知信号Aに基づき、ガスの流量を制御するように構成されている。
【0045】
マッチングボックス45、46はスパッタ成膜装置40内部と、電源48とのインピーダンスのマッチングをとるために設けられている。また、マッチングボックス45は、電源48とヒーター44に接続されている。このような構成により、電源48から、マッチングボックス45を介してヒーター44に電流を供給することで、基板11にバイアスが印加される。また、マッチングボックス46は、電源48と電極43に接続されている。このような構成により、電源48から、マッチングボックス46を介して電極43に電流を供給することで、スパッタターゲット47にパワーが印加される。
【0046】
本発明のスパッタ成膜装置40によれば、基板11とスパッタターゲット47とを配置する領域49を囲む遮蔽部材41aの内壁に、コーティング膜100が形成されていることにより、スパッタ成膜装置40の内壁面(チャンバ41、遮蔽部材41a)の材料が薄膜(スパッタ法によって成膜される薄膜)に混入することを防ぐことができる。
【0047】
また、前記コーティング膜100が、スパッタ法によって成膜される薄膜の材料からなる溶射原料粒子100a又は材料の構成元素からなる溶射原料粒子100aからなることにより、溶射原料粒子100aの材料が領域49内に昇華して薄膜(スパッタ法によって成膜される薄膜)に混入しても、溶射原料粒子100aの材料の混入による薄膜の結晶性の低下を抑えることができる。
【0048】
たとえば、スパッタ法によって成膜される薄膜がAlNからなる層である場合に、溶射原料粒子100aがAlNからなることにより、溶射原料粒子100aの材料が領域49内に昇華して薄膜に混入しても、薄膜の結晶性の低下を抑えることができる。
また、溶射原料粒子100aがAlからなる場合は、反応性スパッタ法により薄膜を形成する際に、領域49内に昇華した溶射原料粒子100aの材料(Al)は、窒素のプラズマと反応してAlNとなる。このため、溶射原料粒子100aの材料が領域49内に昇華しても、薄膜の構成分子と同じ分子となる。このため、薄膜の材料が混入しても、薄膜の結晶性に影響が生じにくい。
【0049】
また、コーティング膜100は、表面に微細な凹凸および隙間100bが形成されているため、スパッタ法によって成膜される薄膜の形成の度にコーティング膜100が熱膨張を繰り返しても、コーティング膜100に亀裂や剥がれが生じにくい。このため、堆積物やコーティング膜100の剥がれ(小片)が領域49内に飛散しにくく、基板11上に付着することが防がれる。
【0050】
特に、薄膜の成膜方法としてRFスパッタ法で成長室の内壁を電極として用いる場合には、プラズマ粒子が内壁側を叩くことが顕著になり、コーティング膜100(コーティング原料粒子100a)や、薄膜の材料からなる堆積物が領域49内に多く叩き出される。この場合でも本発明の方法により、スパッタ法によって成膜される薄膜の結晶性悪化および半導体発光素子の欠陥の発生を防ぐことができる。このため、製品の収率を向上できる。
【0051】
また、高温の条件下での成膜により、成長室の内壁から不純物が多く成長室内に放出されたとしても、本発明の方法により、放出される物質は成膜される材料と同じ元素を含んでいるだけなので、スパッタ法によって成膜される薄膜の結晶性悪化および半導体発光素子の欠陥の発生を防ぐことができる。このため、製品の収率を向上できる。
【0052】
また、コーティング膜100は、表面に微細な凹凸および隙間100bが形成されているため、薄膜(スパッタ法によって成膜される薄膜)を形成する際の基板温度を500℃以上とした場合でも、遮蔽部材41aとコーティング膜100との熱膨張率の差による影響を抑えることができる。このため、コーティング膜100に亀裂や剥がれが発生しにくく、コーティング膜100の小片の飛散や、小片の基板11上への付着を抑えられる。また、薄膜の成膜工程を繰り返しても、コーティング膜100の亀裂が発生しにくい。このため、スパッタ成膜装置40の耐久性を向上できる。
【0053】
『半導体発光素子1の製造方法』
次いで、図1〜図3を用いて、本実施形態のスパッタ成膜装置40を用いた半導体発光素子1の製造方法を詳細に説明する。
本実施形態の半導体発光素子1の製造方法は、スパッタ成膜装置40を準備する工程と、スパッタ成膜装置40内壁にコーティング膜100を形成する工程と、基板11上にスパッタ法によって成膜される薄膜21を形成する工程と、積層半導体層20を形成する工程と、から概略構成されている。
以下、各工程について説明するが、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0054】
<スパッタ成膜装置40を準備する工程>
まず始めに、図1に示すようなスパッタ成膜装置40を準備する。図1に例示するスパッタ成膜装置40は、基板11とスパッタターゲット47とを囲む遮蔽部材41aを有している。また、遮蔽部材41aの外側にはたとえばチャンバ41と、反応ガス供給手段50と、圧力モニタ51と、流量制御手段52と、マッチングボックス45および46が設けられており、遮蔽部材41aの内側には、たとえばヒーター44と電極43とが備えられている。
なお、スパッタ成膜装置40の構成については、コーティング膜100が形成されていないこと以外は、先述したスパッタ成膜装置40の概要と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0055】
<コーティング膜100を形成する工程>
次いで、基板11を保持するための部材(いわゆるトレイ)を含む遮蔽部材41a一式をスパッタ成膜装置40から取り出し、遮蔽部材41a内壁面(スパッタ成膜装置40内壁面)を覆うように、後述するスパッタ法によって成膜される薄膜21の材料またはスパッタ法によって成膜される薄膜21の材料の構成元素からなる未溶融状態のコーティング原料粒子100aを、遮蔽部材41aに、高速で吹き付けることにより堆積させる。
【0056】
具体的には、コーティング原料粒子100aを、図示しないノズルなどの装置に供給し、ガスの流れを用いて遮蔽部材41aの内壁に溶融させずに吹き付けて付着・堆積させる。このとき用いる装置は、コーティング原料粒子100aを溶融させずに、遮蔽部材41aに高速で吹き付けて堆積可能なものであれば、ノズルに制限されず、既知の装置を用いることができる。ここで、未溶融状態の溶射原料粒子100aとは、コーティング原料粒子100aが全く溶融されずに固相状態である場合をいう。
【0057】
このように、コーティング原料粒子100aを遮蔽部材41aに高速で吹き付けることにより、コーティング原料粒子100aが互いに接合してなり、表面に微細な凹凸および隙間100bを有するコーティング膜100が形成される。
このとき、遮蔽部材41aの内側の領域に、たとえばヒーター44など、他に部材が設置されている場合は、それら部材の表面にもコーティング膜100を形成することが望ましい。
【0058】
このとき、コーティング原料粒子100aを遮蔽部材41aの内壁に吹き付ける方法は、コーティング原料粒子100aを溶融させずに、遮蔽部材41aに高速で吹き付けて堆積させる方法であれば、特に限定されない。また、このような方法としては、コールドスプレー法であることが特に好ましい。コーティング膜100を形成する方法としてこのような方法を用いることにより、コーティング膜100を、コーティング原料粒子100aの融点よりも低い温度の条件下で遮蔽部材41a上に形成できる。このため、遮蔽部材41aに発生する熱応力が抑えられ、遮蔽部材41aの変形やコーティング膜100の亀裂発生を防ぐことができる。
【0059】
また、コーティング原料粒子100aを投入する際のガスの温度は、300℃〜600℃であることが好ましい。即ち、300℃〜600℃のガスの流れにコーティング原料粒子100aを混合して、遮蔽部材41aの内壁に吹き付けることが好ましい。ガスの温度が上記範囲内であることにより、コーティング原料粒子100aを酸化させることなく、高い運動エネルギーを維持させたまま遮蔽部材41aに吹き付けることができるため、強度の高いコーティング膜100を形成できる。
【0060】
一方、コーティング原料粒子100aを投入する際のガスの温度が300℃未満であると、コーティング原料粒子100aの接合強度が不十分となるため、溶射原料粒子100a同士の結合が弱くなる。このため、コーティング膜100からコーティング原料粒子100aの脱落が発生しやすくなり好ましくない。
【0061】
また、コーティング原料粒子100aを投入する際のガスの温度が600℃を超えると、コーティング原料粒子100aの温度が大きくなりすぎ、衝突時に溶射原料粒子100aが熱により軟化するため、コーティング原料粒子100aの形状が保たれない。このため、コーティング膜100の表面に微細な凹凸および隙間100bが形成されず好ましくない。また、コーティング原料粒子100aが熱により酸化し、コーティング原料粒子100a同士の接合強度が弱まるため好ましくない。また、遮蔽部材41aが加熱されることにより、遮蔽部材41aが変形する恐れや、コーティング膜100の熱膨張による亀裂の発生や剥れ落ちが生じる恐れがあり、好ましくない。
【0062】
このとき、遮蔽部材41aに衝突した直後のコーティング原料粒子100aの温度は、衝突のエネルギーにより、室温〜200℃程度に低下する。
【0063】
また、コーティング原料粒子100aを投入するガスとしては、Ar、N等の不活性ガスを用いることが好ましい。コーティング原料粒子100aを投入するガスとして不活性ガスを用いることにより、コーティング原料粒子100a表面の酸化が抑えられる。このため、真空状態の条件下でコーティング膜100の形成を行う必要がなく、簡易な工程でコーティング膜100を形成できる。また、コーティング原料粒子100a表面の酸化が抑えられるため、コーティング原料粒子100a同士の接合を強くすることができる。
【0064】
また、遮蔽部材41aの内壁に吹き付けられる際の、遮蔽部材41a直前でのコーティング原料粒子100aの速度(溶射速度)は、用いる装置によっても異なる。そのため、条件に応じて適宜、装置のパワーを設定するとよい。たとえば図2(a)(b)に示すようなAlからなるコーティング膜100を形成する場合は、コーティング原料粒子100aの速度を、300m/s〜1000m/sに設定することが好ましい。コーティング原料粒子100aの速度がこの範囲内であることにより、好適な凹凸と強度を有するコーティング膜100を形成できる。
【0065】
一方、コーティング原料粒子100aの溶射速度が300m/sec未満であると、コーティング原料粒子100a同士の結合が弱くなるため、コーティング原料粒子100a同士の接合が不十分となる。また、コーティング原料粒子100aの溶射速度が1000m/secを超えると、コーティング原料粒子100aの運動エネルギーが大きくなりすぎるため、コーティング原料粒子100aの形状が保たれない。このため、コーティング膜100の表面に微細な凹凸および隙間100bが形成されず好ましくない。
【0066】
また、後述するスパッタ法によって成膜される薄膜21がAlNからなる場合は、薄膜21へのコーティング原料粒子100a材料の混入による影響の面からは、コーティング原料粒子100aはAlN又はAlからなることが好ましく、単結晶のAlNからなることが特に好ましい。
しかし生産性の観点からは、Alからなるコーティング原料粒子100aの方が、AlNからなるコーティング原料粒子100aよりも、遮蔽部材41aへのコーティング作業が容易であるため、好ましい。
【0067】
また、コーティング原料粒子100aの平均粒径は、0.01μm〜10μmであることが好ましい。コーティング原料粒子100aの平均粒径をこの範囲内とすることにより、コーティング膜100の強度が保たれつつ、表面に適度な大きさの凹凸が形成される。そのため、スパッタ法によって成膜される薄膜21の材料からなる堆積物がコーティング膜100の表面に付着しても、好適に保持されるため、領域49内への飛散を防ぐことができる。
【0068】
それに対し、コーティング原料粒子100aの平均粒径が0.01μm未満であると、原料粉末の流動性が不十分となり、原料粉末をノズルなどの装置に均一に供給することが困難となるため好ましくない。また、コーティング膜100表面に隙間100bや凹凸形状が十分な大きさで形成されない。また、コーティング原料粒子100aの表面積が大きくなるため、コーティング膜100形成の際にコーティング原料粒子100aが酸化されやすくなる。このため、コーティング原料粒子100a同士の結合が弱まり、コーティング膜100からコーティング原料粒子100aが脱落しやすくなるため好ましくない。
【0069】
また、コーティング原料粒子100aの平均粒径が10μmを超えると、コーティング原料粒子100aの表面積が小さくなるため、遮蔽部材41a表面に対してのコーティング膜100の密着性が不十分となる。このため、コーティング膜100の亀裂や剥離が生じやすくなり好ましくない。また、接触面積が小さいことにより、溶射原料粒子100a同士の接合が弱まるため、コーティング膜100の強度が低下する。また、コーティング原料粒子100aの自重により、領域49内へのコーティング原料粒子100aの脱落が発生しやすくなる。また、コーティング膜100表面の凹凸が大きくなりすぎるため、薄膜21の材料からなる堆積物を保持しにくく、領域49内への堆積物の飛散が生じやすくなり、好ましくない。
【0070】
また、コーティング膜100は10μm〜10000μmの膜厚で形成することが好ましい。コーティング膜100の膜厚がこの範囲内であることにより、スパッタ法によって成膜される薄膜21を形成する際に、遮蔽部材41aをプラズマや熱から保護できる。このため、領域49に、遮蔽部材41aの材料がたたき出されたり、昇華するのを防ぐことができる。
【0071】
一方、コーティング膜100の膜厚が10μm未満であると、遮蔽部材41aをプラズマや熱から十分保護することができない。このため、領域49内への遮蔽部材41aの材料の昇華や混入を防ぐことができず、好ましくない。
また、コーティング膜100の膜厚が10000μmを超えると、遮蔽部材41aとコーティング膜100との熱膨張率の差による影響が大きくなるため、コーティング膜100に亀裂や剥がれが発生しやすくなる。このため、コーティング膜100の剥がれ(小片)が基板11上に付着し、半導体発光素子1に欠陥が発生する。また、コーティング膜100の成膜に時間を要するため、作業効率の面からも好ましくない。
【0072】
以上の条件でコーティング原料粒子100aを蔽部材41aに吹き付けて堆積させることにより、表面に微細な凹凸と隙間100bとを有するコーティング膜100が形成される。図2(a)に、一例としてAl粒子(コーティング原料粒子100a)からなるコーティング膜100の側方からの断面模式図を、図2(b)にコーティング膜100の平面写真を示す。
図2(a)(b)に示すように、コーティング膜100は略球状の溶射原料粒子100aが堆積してなり、溶射原料粒子100a同士の間に複数の隙間100bが形成される。
【0073】
<基板11上にバッファ層(スパッタ法によって成膜される薄膜)21を形成する工程>
次いで、図3に示すように、基板11上に薄膜(スパッタ法によって成膜される薄膜)21を成膜する。ここで、「基板11上に薄膜(スパッタ法によって成膜される薄膜)21を形成する」とは、基板11上に直接、スパッタ法によって成膜される薄膜21を形成する場合だけでなく、基板11とスパッタ法によって成膜される薄膜21との間に他の層を形成する場合も含む。
ここでは、半導体積層構造20を形成するためのバッファ層として用いられる層を、スパッタ法によって成膜される薄膜21として形成する場合を一例として示す。
【0074】
まず、サファイア等からなる基板11を用意し、図1のスパッタ成膜装置40の領域49内(チャンバ41および遮蔽部材41a)内に配置する。このとき、基板11をヒーター44に保持させ、スパッタターゲット47に対向させる。
本実施形態の製造方法では、基板11をスパッタ成膜装置40内に配置した後、スパッタ法等の方法を用いて前処理を行うことが好ましい。具体的には、基板11をArやNのプラズマ中に曝す事によって表面をクリーニングする。これにより、基板11表面に付着した有機物や酸化物を除去することができる。また、基板11への前処理は前記方法に限られず、基板11に対して湿式の前処理を行ってもかまわない。
【0075】
次いで、スパッタ法により、基板11上に薄膜(スパッタ法によって成膜される薄膜)21を成膜する。このとき、スパッタ法としては、DCスパッタ法またはRFスパッタ法、反応性スパッタ法または反応性のないスパッタ法など、適宜、方法を選択することができる。
【0076】
このとき、スパッタターゲット47が、スパッタ法によって成膜される薄膜21の材料からなる場合はDCスパッタ法あるいはRFスパッタ法を用いることが好ましく、スパッタターゲット47がスパッタ法によって成膜される薄膜21の構成元素から構成されている場合には、反応性スパッタ法を行うことが好ましい。
【0077】
また、金属材料をスパッタターゲット47として用い、反応性スパッタ法によって、絶縁体からなる薄膜(スパッタ法で成膜される薄膜)21を成膜する場合には、マグネット42をスパッタターゲット47の下方で移動させながら成膜することが好ましい。マグネット42をスパッタターゲット47の下方で移動させながら成膜を行うことにより、スパッタターゲット47表面におけるスパッタ反応が均一に行われる。このため、スパッタターゲット47表面が局所的に絶縁膜で覆われることが防がれ、絶縁膜の帯電による異常放電を防ぐことができる。
【0078】
ここでは、基板11上に例えば、単結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)からなる薄膜(バッファ層)21を0.01μm〜0.5μmの膜厚で形成する。スパッタ法によって成膜される薄膜21としては、薄膜21の結晶性の観点から、単結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)を材料とすることが特に好ましいが、多結晶のAlGa1−xN(0≦x≦1)を材料として用いてもかまわない。
【0079】
<積層半導体層20を形成する工程>
次いで、既知の方法により、スパッタ法によって成膜される薄膜21上に下地層22、n型半導体層12(nコンタクト層12a、nコンタクト層12b)、発光層13(井戸層13b、障壁層13a)、p型半導体層14(pクラッド層14a、pコンタクト層14b)を順次積層することにより、図3に示す積層半導体層20を形成する。
【0080】
ここで、既知の方法による積層半導体層20の形成には、スパッタ法によって成膜される薄膜21と同様に反応性スパッタ法またはスパッタ法を用いることも出来るが、それ以外の成膜方法を用いてもかまわない。特に、MOCVD法による成膜は、結晶性の良い半導体結晶を成膜することが可能なため望ましい。一方で、MBEによる成膜も急峻な構造を形成できると言われており、特性の良好な製品を得ることができる。
【0081】
この後、図4に示すように、透光性電極15、n型電極17およびp型ボンディングパッド電極16を形成する。
まず、基板11をMOCVD装置外へ取り出し、pコンタクト層14b上に、たとえば厚さ200nmのITOからなる透光性電極15を一般に知られたフォトリソグラフィの手法により形成する。次に、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチングを施し、所望の領域にnコンタクト層12aの露出面20aを形成し、その上にTi/Auの二層構造のn型電極17を形成する。
【0082】
次いで、透光性電極15上に、金属からなるp型ボンディングパッド電極16(p型電極18)を、フォトリソグラフィの手法を用いて形成する。
以上により、図4に示す半導体発光素子1が形成される。
【0083】
本発明の半導体発光素子1の製造方法によれば、スパッタ法によって成膜される薄膜21の材料からなる溶射原料粒子100a又は前記材料の構成元素からなる溶射原料粒子100aをスパッタ成膜装置40内に配置される遮蔽部材41a内壁に吹き付けることにより、基板11とスパッタターゲット47とを囲む全ての領域を、コーティング膜100で覆われた面で囲むことができる。このため、スパッタ法によって成膜される薄膜21の成膜時に、スパッタ成膜装置40(チャンバ41、遮蔽部材41a)の内壁面の材料がスパッタ法によって成膜される薄膜21に混入するのを防ぐことができる。
【0084】
また、コーティング原料粒子100aの材料の融点未満のガスにコーティング原料粒子100aを投入し、コーティング原料粒子100aを未溶融の状態で遮蔽部材41a内壁に高速で吹き付けることにより、固相状態のコーティング原料粒子100aを塑性変形させずに互いに接合できる。
このため、コーティング膜100の表面に、コーティング原料粒子100aの形状からなる適度に粗い凹凸形状や隙間100bを形成できる。このため、コーティング膜100の表面にスパッタ法によって成膜される薄膜21の材料からなる堆積物が付着しても、堆積物はコーティング膜100表面の凹凸および隙間100bに保持され、剥がれ落ちることがない。そのため、スパッタ成膜装置40の耐久性が向上し、スパッタ法によって成膜される薄膜21形成にかかるコストを抑えることができる。
【0085】
また、コーティング膜100の表面に微細な凹凸および隙間100bが形成されるため、スパッタ法によって成膜される薄膜21の形成の度にコーティング膜100が熱膨張を繰り返しても、コーティング膜100に亀裂や剥がれが生じにくい。このため、堆積物やコーティング膜100の剥がれ(小片)が基板11上に付着することが防がれ、スパッタ法によって成膜される薄膜21の結晶性悪化および半導体発光素子1の欠陥の発生を防ぐことができる。このため、製品の収率を向上さできる。
【0086】
また、コーティング原料粒子100aを溶融せず、固相状態のままで遮蔽部材41aに吹き付けることで、遮蔽部材41aの過熱を防ぐことができる。このため、熱による遮蔽部材41aの変形や、熱膨張によるコーティング膜100の亀裂発生や剥れ落ちを防止できる。
また、未溶融状態のコーティング原料粒子100aを蔽部材41aに高速で吹き付けて堆積させることにより、従来のスパッタ法やダミー放電によって形成されたコーティング膜と比べ、高い強度のコーティング膜100を形成できる。
【0087】
また、遮蔽部材41aの内側の領域に、たとえばヒーター44など、他に部材が設置されている場合に、それら部材の表面にもコーティング膜100を形成することにより、スパッタ法によって成膜される薄膜21形成の際に部材の材料が領域49内に昇華、飛散するのを防ぐことができる。
このため、スパッタ法によって成膜される薄膜21の結晶性低下をさらに効果的に防ぐことができる。
【0088】
また、スパッタ法によって成膜される薄膜21が、たとえばバッファ層として用いるAlNからなる層である場合に、AlNからなるコーティング原料粒子100aでコーティング膜100を形成することにより、コーティング原料粒子100aの領域49内への昇華および混入によるスパッタ法によって成膜される薄膜21の結晶性低下を防ぐことができる。また、成膜条件が高温であっても、堆積物やコーティング膜100の飛散によるスパッタ法によって成膜される薄膜21の結晶性低下が防がれるため、スパッタ法によって成膜される薄膜21を高温の条件下で形成できる。このため、結晶性の高い薄膜(スパッタ法によって成膜される薄膜)21を形成できる。
【0089】
また、Alからなるコーティング原料粒子100aでコーティング膜100を形成することにより、領域49内に昇華したAlは、反応性スパッタ法により窒素のプラズマと反応してAlNとなる。このため、コーティング原料粒子100aの領域49内への昇華および混入によるスパッタ法によって成膜される薄膜21の結晶性低下を防ぐことができる。
【0090】
また、スパッタ法によって成膜される薄膜21の成膜方法としてRFスパッタ法を用いることで、コーティング膜100(コーティング原料粒子100a)の材料からなる堆積物や、スパッタ法によって成膜される薄膜21の材料からなる堆積物が領域49内に多く叩き出される場合であっても、予め遮蔽部材41aをコーティング膜100で覆うことにより、前記堆積物を領域49内に飛散させることなく、コーティング膜100表面の凹凸や隙間100bに保持できる。
また、スパッタ成膜装置40の内壁が接地された構成であることにより、スパッタ成膜装置40の内壁(コーティング膜100)が激しくスパッタされたとしても、予め遮蔽部材41aをコーティング膜100で覆うことにより、スパッタされたコーティング膜100からなる堆積物を、コーティング膜100表面の凹凸や隙間100bに保持できる。
【0091】
また、RFスパッタ法による成膜により、広い領域49でプラズマが発生した場合であっても、予め遮蔽部材41aの表面をコーティング膜100で覆っておくことにより、スパッタ成膜装置40の内壁(遮蔽部材41a)への原子若しくは分子(スパッタターゲット47から放出された原子若しくは分子)の衝突を遮断できる。
【実施例】
【0092】
以下に、本発明の半導体発光素子1の製造方法を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0093】
(実施例1)
以下に示す方法により、図1に示すようにスパッタ成膜装置40内壁にコーティング膜100を形成した後に、前記スパッタ成膜装置40を用いて、図3に示す積層半導体層20を有する半導体発光素子1を製造した。
【0094】
まず、ステンレスからなるチャンバ41および遮蔽部材41aと、反応ガス供給手段50と、圧力モニタ51と、流量制御手段52と、マッチングボックス45および46とから概略構成されるスパッタ成膜装置40を準備した。次いで、コールドスプレー法により、遮蔽部材41a内壁面およびヒーター44表面を覆うようにAlからなるコーティング原料粒子100aを吹き付け、コーティング膜100を形成した。このとき、AlNコーティング膜100は、以下に示す形成条件で形成させた。
【0095】
【表1】

【0096】
「コーティング膜100の形成条件」
実施例1におけるコーティング膜100の形成条件は次のとおりである。コーティング原料粒子100aを吹き付けるガスとしてはArを用いた。また、コーティング原料粒子100aを投入する際のガスの温度を400℃に設定した。また、コーティング原料粒子100aが遮蔽部材41aに衝突する直前の速度を500m/sとした。また、遮蔽部材41aに衝突する直前のコーティング原料粒子100aの温度は、室温と同じ温度であった。また、コーティング原料粒子100aとして、Alからなる平均粒径1μmの粒子を用いた。
このようにして、100μmの膜厚のコーティング膜100が形成された。
【0097】
また、コーティング原料粒子100aを遮蔽部材41aへ吹き付ける際の遮蔽部材41aの温度を常温とした。以上により、図1に示す実施例1のスパッタ成膜装置40が形成された。
【0098】
「基板11への、スパッタ法によって成膜される薄膜21の成膜」
その後、スパッタ成膜装置40内(遮蔽部材41a内)にサファイアからなる基板11を配置して、厚さ0.03μmのAlNからなるスパッタ法によって成膜される薄膜(バッファ層)21を形成した。
【0099】
その後、基板11をスパッタ機から取り出し、MOCVD装置に導入した。MOCVD装置の中で、一般的な原料を用い、一般的な条件によって、厚さ5μmのアンドープGaNからなる下地層22、厚さ3μmのSiドープn型GaNからなるnコンタクト層12a、GaInNからなる厚さ2nmのn側第一層と、GaNからなる厚さ2nmのn側第二層とからなる薄膜層を表1に示すように20層(ペア数)繰り返し成長させてなる厚さ80nmの超格子構造のnクラッド層12b、厚さ5nmのSiドープGaNからなる障壁層13aおよび厚さ3.5nmのIn0.15Ga0.85Nからなる井戸層13bを6回積層し、最後に障壁層13aを設けた多重量子井戸構造の発光層13、厚さ10nmのMgドープ単層Al0.07Ga0.93Nからなるpクラッド層14a、厚さ150nmのMgドープp型GaNからなるpコンタクト層14bと、を順に積層し、図3に示す積層半導体層20を形成した。
【0100】
その後、基板11をMOCVD装置外へ取り出し、pコンタクト層14b上に、厚さ200nmのITOからなる透光性電極15を一般に知られたフォトリソグラフィの手法により形成した。
次に、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチングを施し、所望の領域にnコンタクト層12aの露出面20aを形成し、その上にTa/Ti/Auの三層構造のn型電極17を形成した。
【0101】
また、透光性電極15の上に、10nmのTaからなる金属反射層と100nmのPtからなるバリア層と1000nmのAuからなるボンディング層とからなる3層構造のp型ボンディングパッド構造16を、フォトリソグラフィの手法を用いて形成した。
以上のようにして、図4に示す半導体発光素子1を得た。
【0102】
また、実施例1の製造方法により形成した半導体発光素子1の特性は、20mAの電流を流した場合に、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。また、連続して10000回の成膜を行ったが、目だったダストの発生や、収率の低下は見られなかった。
【0103】
(実施例2)
実施例1のコーティング膜100の材料をAlNとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。また、連続して8000回の成膜を行ったが、目だったダストの発生や、収率の低下は見られなかった。
【0104】
(実施例3)
実施例1のコーティング原料粒子100aの平均粒径を0.01μmとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。また、連続して5000回の成膜を行ったが、目だったダストの発生や、収率の低下は見られなかった。
【0105】
(実施例4)
実施例1のコーティング原料粒子100aの平均粒径を直径10μmとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。また、連続して7000回の成膜を行ったが、目だったダストの発生や、収率の低下は見られなかった。
【0106】
(実施例5)
実施例1のAlからなるコーティング膜100を10μmの膜厚で形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。また、連続して5500回の成膜を行ったが、目だったダストの発生や、収率の低下は見られなかった。
【0107】
(実施例6)
実施例1のAlからなるコーティング膜100を10000μmの膜厚で形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。また、連続して6000回の成膜を行ったが、目だったダストの発生や、収率の低下は見られなかった。
【0108】
(実施例7)
実施例1のコーティング原料粒子100aを投入する際のガスの温度を300℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。また、連続して9000回の成膜を行ったが、目だったダストの発生や、収率の低下は見られなかった。
【0109】
(実施例8)
実施例1のコーティング原料粒子100aを投入する際のガスの温度を600℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。また、連続して7000回の成膜を行ったが、目だったダストの発生や、収率の低下は見られなかった。
【0110】
(比較例1)
実施例1のコーティング膜100の膜厚を0μm(形成しない)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。しかし、連続して100回の成膜を行ったところでダストの発生が見られ、異常なチップの発生率が10%を超えた。
【0111】
(比較例2)
実施例1のコーティング原料粒子100aの平均粒径を0.005μmとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。しかし、連続して1000回の成膜を行ったところでダストの発生が見られ、異常なチップの発生率が10%を超えた。
【0112】
(比較例3)
実施例1のコーティング原料粒子100aの平均粒径を直径20μmとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であったが、また、連続して1000回の成膜を行ったところでダストの発生が見られ、異常なチップの発生率が10%を超えた。
【0113】
(比較例4)
実施例1のAlからなるコーティング膜100を5μmの膜厚で形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mWであった。また、連続して1000回の成膜を行ったところでダストの発生が見られ、異常なチップの発生率が10%を超えた。
【0114】
(比較例5)
実施例1のAlからなるコーティング膜100を15000μmの膜厚で形成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、半導体発光素子1としての特性は、順方向電圧Vf=3.0V、発光出力Po=20mW、4インチのウエーハから取れた製品のうち、異常な特性を示すチップは、1%以下であった。また、連続して900回の成膜を行ったところでダストの発生が見られ、異常なチップの発生率が10%を超えた。
【0115】
(比較例6)
実施例1のコーティング原料粒子100aを投入する際のガスの温度を常温としたが、コーティング原料粒子100a同士が結合せず、コーティング膜100を形成できなかった。
【0116】
(比較例7)
実施例1のコーティング原料粒子100aの温度を1000℃としたが、コーティング原料粒子100aが塑性変形しすぎたため、コーティング膜100の表面に微細な凹凸が形成されなかった。また、加熱により、遮蔽部材41aに変形が生じた。
【0117】
なお、実施例及び比較例の半導体発光素子1についての順方向電圧Vfは、プローブ針による通電で電流印加値20mAにおける電圧を測定したものである。同じく、実施例及び比較例の半導体発光素子1についての発光出力(Po)は、テスターによって測定した、印加電流20mAにおける発光出力である。
【0118】
実施例1〜実施例8、比較例1〜7の半導体発光素子1の順方向電圧、発光出力(Po)、異常なチップの割合の結果を表1に示す。
【0119】
表1に示すように、実施例1〜実施例8の方法で形成した半導体発光素子1はいずれも、順方向電圧が比較的低く、発光出力(Po)が20mW以上となり、高輝度で低消費電力であった。また、異常なチップの割合が1%以下と、低い値に抑えられ、その状態を少なくとも4500回の成膜の間保つことができた。
一方、比較例1〜比較例7では、多くとも1000回の成膜により、10%を超える割合のチップに異常が発生した。
【0120】
以上により、実施例1〜実施例8の半導体発光素子1の製造方法により形成した半導体発光素子1は、効果的に発光出力を向上させることができた。また、比較例1〜7の半導体発光素子1と比較して、成膜処理の繰り返しによる異常なチップ発生の割合を抑えることができた。
【符号の説明】
【0121】
11…基板、12…n型半導体層、12a…nコンタクト層、12b…nクラッド層、13…発光層、14…p型半導体層、20…積層半導体層、21…スパッタ法によって成膜される薄膜(バッファ層)、40…スパッタ成膜装置、41…チャンバ、41a…遮蔽部材、44…ヒーター、47…スパッタターゲット、100…コーティング膜、100a…溶射原料粒子、100b…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ成膜装置を用いて、スパッタ法により基板上に薄膜を成膜する工程を含む、半導体発光素子の製造方法であって、前記スパッタ法で成膜される薄膜の材料からなるコーティング原料粒子又は前記材料の構成元素からなるコーティング原料粒子を未溶融状態で、ガスの流れを用いて前記スパッタ成膜装置内の成長室の内壁に吹き付けて、前記成長室の内壁に前記コーティング原料粒子からなるコーティング膜を形成する工程と、前記コーティング膜を形成する工程の後に、前記基板上に前記薄膜を成膜する工程、を有することを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
基板とスパッタターゲットとを囲む遮蔽部材を有するスパッタ成膜装置を用いて、スパッタ法により前記基板上に薄膜を成膜する工程を含む、半導体発光素子の製造方法であって、前記スパッタ法で成膜される薄膜の材料からなるコーティング原料粒子又は前記材料の構成元素からなるコーティング原料粒子を未溶融状態で、ガスの流れを用いて前記遮蔽部材に吹き付けて、該遮蔽部材の内壁に前記コーティング原料粒子からなるコーティング膜を形成する工程と、前記コーティング膜を形成する工程の後に、前記基板上に前記薄膜を成膜する工程、を有することを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記スパッタ法で成膜される薄膜は、反応性スパッタ法によって成膜することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記スパッタ法で成膜される薄膜を、RFスパッタ法によって成膜することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記スパッタ法で成膜される薄膜はAlNからなり、前記溶射原料粒子はAlN又はAlからなることを特徴とする請求項3又は請求項4のいずれかに記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記スパッタ法で成膜される薄膜はバッファ層であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記コーティング原料粒子を、温度が300℃〜600℃である前記ガスの流れに混合させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記コーティング原料粒子の平均粒径が、0.01μm〜10μmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記コーティング膜を、10μm〜10000μmの厚さで形成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
遮蔽部材で囲まれた領域内に基板とスパッタターゲットとを配置し、スパッタ法によって前記基板上にスパッタ法で成膜される薄膜を形成するスパッタ成膜装置であって、
前記遮蔽部材の内壁に、前記スパッタ法で成膜される薄膜の材料からなるコーティング原料粒子又は前記材料の構成元素からなるコーティング原料粒子からなるコーティング膜が形成されていることを特徴とするスパッタ成膜装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−94645(P2012−94645A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239973(P2010−239973)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】