説明

半導体発光素子

【課題】信頼性の高い高出力レーザを実現する窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】実施の形態によれば、基板と、基板上のn型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層上の窒化物半導体の活性層と、活性層上のp型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層に形成されるリッジストライプと、リッジストライプの伸長方向に垂直な、n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層の端面に形成され、活性層よりもバンドギャップの広い端面窒化物半導体層とを有し、端面窒化物半導体層の、少なくともp型窒化物半導体層の端面に形成される領域のMgの濃度が、5E16atoms/cm以上5E17atoms/cm以下である半導体発光素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導放出を用いた半導体レーザダイオード(LD)は、記録装置等の光源として用いられている。また、高出力のLDと蛍光体を用いて高光束の照明を得ることが可能であり、実現に向けた開発が進んでいる。
【0003】
高出力のLDでは、光出射端面付近での光に吸収に伴う発熱で素子が劣化するという問題がある。また、端面付近の電流注入による動作不良が生じたり、発光効率が低下したりする問題がある。
【0004】
信頼性の高い高出力のLDを実現するために、活性層の光出射端面付近に活性層よりもバンドギャップの広い材料で、光吸収の少ない窓構造を形成する方法がある。もっとも、GaN系等の窒化物半導体発光素子の場合、信頼性の高い高出力のLDを実現するために、最適な窓構造は必ずしも示されているとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4457549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、信頼性の高い高出力レーザを実現する窒化物半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施の形態の半導体発光素子は、基板と、基板上のn型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層上の窒化物半導体の活性層と、活性層上のp型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層に形成されるリッジストライプとを備える。そして、リッジストライプの伸長方向に垂直な、n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層の端面に形成され、活性層よりもバンドギャップの広い端面窒化物半導体層を有している。そして、端面窒化物半導体層の、少なくともp型窒化物半導体層の端面に形成される領域のMgの濃度が、5E16atoms/cm以上5E17atoms/cm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施の形態の半導体発光素子の断面図である。
【図2】第1の実施の形態の半導体発光素子の製造方法を示す工程断面図である。
【図3】第1の実施の形態の半導体発光素子の製造方法を示す工程断面図である。
【図4】第1の実施の形態の半導体発光素子の製造方法を示す工程断面図である。
【図5】第1の実施の形態の半導体発光素子の製造方法を示す工程断面図である。
【図6】第1の実施の形態の半導体発光素子の製造方法を示す工程断面図である。
【図7】第1の実施の形態の半導体発光素子の変形例の断面図である。
【図8】第2の実施の形態の半導体発光素子の断面図である。
【図9】第3の実施の形態の半導体発光素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて実施の形態を説明する。
【0010】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の半導体発光素子は、基板と、基板上のGaN系のn型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層上のGaN系の活性層と、活性層上のGaN系のp型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層に形成されるリッジストライプとを備える。さらに、リッジストライプの伸長方向に垂直な、n型窒化物半導体層、活性層およびp型窒化物半導体層の端面に形成され、活性層よりもバンドギャップの広い、GaN系の端面窒化物半導体層を備える。そして、端面窒化物半導体層の、少なくともp型窒化物半導体層の端面に形成される領域のMgの濃度が、5E16atoms/cm以上5E17atoms/cm以下である。
【0011】
本実施の形態の半導体発光素子は、活性層よりもバンドギャップの広い端面窒化物半導体層を備えることにより、素子端部でのレーザ光吸収が抑えられる。また、この端面窒化物半導体層に深い準位を形成するMg等の不純物を適量導入されていることで高抵抗かつ低吸収の窓構造となる。よって、信頼性の高い高出力レーザが実現される。
【0012】
図1は、本実施の形態の半導体発光素子の断面図である。図1(a)がリッジストライプの伸長方向に平行な断面図、図1(b)が図1(a)のA−A断面図、図1(c)が図1(a)のB−B断面図である。
【0013】
本実施の形態の半導体発光素子である半導体レーザダイオードは、n型のGaN(窒化ガリウム)半導体の基板10上に、GaN系のn型窒化物半導体層12として、例えば、厚さ1200nmのSiドープされたn型のAl0.05Ga0.95Nのn型クラッド層12a、厚さ100nmのSiドープされたn型のGaNのn型ガイド層12bが形成されている。
【0014】
n型窒化物半導体層12上には、多重量子井戸構造(MQW)のGaN系半導体の、例えば、厚さ3nmのIn0.12Ga0.08N/厚さ10nmのIn0.03Ga0.97Nの多重構造の活性層14が形成されている。
【0015】
活性層14上には、GaN系のp型窒化物半導体層16として、例えば、厚さ100nmのMgドープされたp型のGaNのp型ガイド層16a、厚さ600nmのMgドープされたp型のAl0.05Ga0.95Nのp型クラッド層16b、厚さ10nmのMgドープされたp型のGaNのp型コンタクト層16cが形成されている。
【0016】
図示しない、例えば厚さ10nmのMgドープされたp型のAl0.2Ga0.8Nのオーバーフロー防止層が、p型ガイド層16aとp型クラッド層16bとの間に形成されていてもかまわない。また、p型ガイド層16aはアンドープであってもかまわない。
【0017】
p型窒化物半導体層16には、レーザ光の導波路領域を形成するためのリッジストライプ18が設けられている。リッジストライプ18の側面、および、p型クラッド層16bの表面は、例えば、シリコン酸化膜の絶縁膜20で覆われている。リッジストライプ18の伸長方向に垂直な、n型窒化物半導体層12、活性層14およびp型窒化物半導体層16の端面には、端面窒化物半導体層22が形成される。
【0018】
この端面窒化物半導体層22は、活性層14よりもバンドギャップの広い、GaN系の半導体、例えば、AlGaNで形成される。そして、少なくとも、端面窒化物半導体層22のp型窒化物半導体層16の端面に形成される領域のMgの濃度が、5E16atoms/cm以上5E17atoms/cm以下である。ここでは、端面窒化物半導体層22全体のMgの濃度が均一である場合を例に説明する。
【0019】
基板10の下面にはn側電極24、p型コンタクト層16c上にはp側電極26が設けられている。
【0020】
端面窒化物半導体層22の端面には、誘電体多層膜の反射膜が形成されていてもかまわない。
【0021】
本実施の形態によれば、活性層よりもバンドギャップの広い端面窒化物半導体層20が、レーザ出射面となる端面に設けられることにより、レーザ発振により発生するレーザ光の端面近傍での吸収が抑制される。したがって、端面近傍での温度上昇による素子の破壊が抑制され、半導体レーザダイオードの信頼性が向上する。
【0022】
また、一般にGaN系の材料では、残留不純物や点欠陥の低減が困難である。このため、n型キャリアのバックグラウンド濃度が1E16atoms/cm程度存在する。したがって、GaN系材料で端面窒化物半導体層22を形成したとしても、n型伝導の発現により、p側電極からn側電極に向けて、端面窒化物半導体層22内部、あるいは、端面窒化物半導体層22の端部表面を電流が流れ、動作不良が生じたり、発光効率が低下したりずる恐れがある。
【0023】
本実施の形態の半導体レーザダイオードによれば、5E16atoms/cm以上5E17atoms/cm以下のMgを不純物として導入することにより、端面窒化物半導体層22を高抵抗化し、余剰な電流が流れることによって生ずる動作不良および発光効率の低下を抑制することが可能となる。Mgはアクセプタレベルが深く、活性化率が非常に低いため、高抵抗を実現する不純物として好適である。また、Mgを不純物として導入することで、レーザ光を吸収するレベル(準位)が生成されるが、アクセプタレベルが深いため、レーザ光の吸収が生じにくいという利点もある。
【0024】
不純物濃度が5E16atoms/cm未満となると、抵抗が十分高くならず動作不良が生ずる恐れがある。また、不純物濃度が5E17atoms/cmを上回ると、吸収レベルが多くなりすぎ、電流に対する発光量が飽和する発光変曲点が低くなりすぎたり、発光効率の低下が生じたり、動作不良が生じたりするため望ましくない。
【0025】
また、本実施の形態において、端面窒化物半導体層22のリッジストライプの伸長方向の厚さ(図1(a)中のd)が10μm以上であることが、信頼性向上の観点から望ましい。10μmより厚いことがより望ましく、20μm以上であることがさらに望ましい。また、素子の共振器長が数百um程度であり、素子全体に占める利得領域の占める割合が小さくならないよう、50μm以下であることが望ましい。
【0026】
また、本実施の形態によれば、高抵抗のため電流の流れない端面窒化物半導体層22は導波構造がないため、光が広がり、端面を通過する光密度は減少する。したがって、端面付近での光化学反応による異物付着が生じないというメリットもある。
【0027】
次に、本実施の形態の半導体発光素子の製造方法について説明する。図2〜図6は本実施の形態の半導体発光素子の製造方法を示す工程断面図である。図2(a)〜図6(a)がリッジストライプの伸長方向に平行な断面図、図2(b)〜図6(b)が図2(a)〜図6(a)にA−A断面図である。
【0028】
n型のGaN基板10上にMOCVD法により、Al0.05Ga0.95Nのn型クラッド層12a、GaNのn型ガイド層12b、In0.12Ga0.08N/In0.03Ga0.97Nの多重構造の活性層14、GaNのp型ガイド層16a、Al0.05Ga0.95Nのp型クラッド層16b、GaNのp型コンタクト層16cを順次形成する(図2)。
【0029】
次に、p型コンタクト層16cの上面にSiO膜28を堆積する。レジストを用いたパターニングとフッ化アンモニウムによるエッチングにより端面窒化物半導体層形成のためのマスクを形成する。ドライエッチング装置により、上記マスクを用いて、n型クラッド層12aがなくなるまでエッチングを行い、溝30を形成する(図3)。
【0030】
上記SiO膜28を残したままMOCVD法により、溝30内をMgがドープされた単結晶のAlGaNで埋め込み、端面窒化物半導体層22を形成する(図4)。
【0031】
AlGaNはSiO膜28上にも多結晶状態で形成される。このため、SiO膜28上のAlGaNを除去するために、SiO膜をHFでエッチングした後に乾燥し、水中に沈めた後、急激に温度を上げ、AlGaNを気泡の膨張により破壊して除去する。
【0032】
この時、SiO膜28下のp型コンタクト層16cに過度なダメージを与えないように、SiO膜は一度にエッチングせず、わずかに表面に残した状態でAlGaNを除去し、その後残ったSiO膜28をエッチングすることが望ましい。
【0033】
次に、p型コンタクト層16cおよび埋め込まれた端面窒化物半導体層22の上面にSiO膜を堆積する。レジストを用いたパターニングとフッ化アンモニウムによるエッチングによりリッジストライプ形成のために幅10μm程度のマスクを形成する。ドライエッチング装置により、上記マスクを用いて、Al0.05Ga0.95Nのp型クラッド層16bの途中までエッチングを行い、リッジストライプ18を形成する。
【0034】
マスクを除去した後、例えばSiO膜の堆積と、レジストを用いたパターニングによりリッジストライプ18側面、および、p型クラッド層16bの表面に絶縁膜20を形成する(図5)。
【0035】
その後、p側電極用の電極金属を堆積してパターニングし、p側電極26を形成する。さらに、リッジストライプ18と反対側のGaN基板10を研磨して薄膜化した後、n側電極用の電極金属を堆積してパターニングし、n側電極24を形成する(図6)。
【0036】
そして、n型GaN基板10の表面にリッジストライプと直交する方向の劈開方向に沿ってスクライブラインを入れる。このスクライブラインを起点として、劈開面に沿って、図6中の破線で示す位置で、端面窒化物半導体層22が端面となるようバー状にn型GaN基板10を分離する。
【0037】
さらにバー状にしたn型GaN基板を短手方向でスクライブとブレーキングを行い、図1に示すような1つの半導体発光素子を製造する。半導体発光素子の短手方向(リッジストライプの伸長方向に直交する方向の長さ)の幅は例えば100μmとする。
【0038】
図7は、本実施の形態の半導体発光素子の変形例の断面図である。図7(a)がリッジストライプの伸長方向に平行な断面図、図7(b)が図7(a)のC−C断面図、図7(c)が図7(a)のD−D断面図である。
【0039】
本変形例は、上記実施の形態が端面窒化物半導体層22全体のMgの濃度が均一である場合であったのに対し、p型窒化物半導体層の端面に形成される領域のMgの濃度が、5E16atoms/cm以上5E17atoms/cm以下である点で異なっている。
【0040】
図7に示すように、端面窒化物半導体層22中にMgの濃度分布があり、p型窒化物半導体層16およびn型窒化物半導体層12の端面に形成される領域22aの不純物濃度が他の領域よりも高くなっている。そして、領域22aにおいて、Mgの濃度が、5E16atoms/cm以上5E17atoms/cm以下の条件を充足している。
【0041】
本変形例においても、端面窒化物半導体層22を高抵抗化し、余剰な電流が流れることによって生ずる動作不良を抑制することが可能となる。
【0042】
本変形例の半導体発光素子は、溝30をMOCVD法により端面窒化物半導体層で埋め込む際に、反応ガスの不純物濃度を制御することで製造可能である。
【0043】
(第2の実施の形態)
本実施の形態の半導体発光素子は、端面窒化物半導体層が、GaN基板側から第1の低屈折率層、高屈折率層、第2の低屈折率層の積層構造を有し、端面窒化物半導体層の活性層の端面に形成される領域が高屈折率層であること以外は第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
【0044】
図8は、本実施の形態の半導体発光素子の断面図である。図8(a)がリッジストライプの伸長方向に平行な断面図、図8(b)が図8(a)のE−E断面図、図8(c)が図8(a)のF−F断面図である。
【0045】
図8に示すように端面窒化物半導体層22が、GaN基板10側から第1の低屈折率層22b、高屈折率層22c、第2の低屈折率層22dの積層構造を備えている。そして、活性層14の端面に形成される領域が高屈折率層22cとなっている。
【0046】
ここでは、高屈折率層22cの厚さが、n型ガイド層12b、活性層14およびp型ガイド層16aを合わせた厚さよりも厚くなっている。高屈折率層22cの上端は、p型ガイド層16aの上端よりも上に位置し、高屈折率層22cの下端は、n型ガイド層12bの下端よりも下に位置する。
【0047】
ここで、活性層14は、InGa1−XN(0<X<1)の多重量子井戸構造(MQW)である。例えば、第1の低屈折率層22b、第2の低屈折率層22dは、単結晶のAlGa1−YN(0<Y<1)であり、高屈折率層22cは例えば単結晶のGaNである。
【0048】
GaN系の半導体は、Alの濃度が上がることで、屈折率が低下するため、第1の低屈折率層および第2の低屈折率層のAlの濃度が、高屈折率層のAlの濃度よりも高いことが望ましい。
【0049】
本実施の形態によれば、活性層14から端面窒化物半導体層22側に出射されるレーザ光が、高屈折率層22cと、第1の低屈折率層22bおよび第2の低屈折率層22dとの界面で導波される。したがって、出射されるレーザ光が広がることなく導波され端面での反射率の低下を避けることができるという利点がある。
【0050】
なお、図8に示すように、高屈折率層22cの上端は、p型ガイド層16aの上端よりも上に位置し、高屈折率層22cの下端は、n型ガイド層12bの下端よりも下に位置する形態が、活性層14から、p型ガイド層16aまたはn型ガイド層12bを通過して出射されるレーザ光が界面で散乱されないために望ましい。しかし、少なくとも、高屈折率層22cの上端が、活性層14の上端よりも上に位置し、高屈折率層22cの下端が、活性層14の下端よりも下に位置すれば、出射されるレーザ光が広がることなく導波され端面での反射率の低下を避けることができる。
【0051】
本変形例の半導体発光素子は、溝30をMOCVD法により端面窒化物半導体層で埋め込む際に、反応ガスの組成を制御することで製造可能である。
【0052】
(第3の実施の形態)
本実施の形態の半導体発光素子は、リッジストライプ形状が端面窒化物半導体層形成の溝部と同時形成され、リッジストライプ側面も端面窒化物半導体層と同一材料で埋め込まれている点で、第1の実施の形態と異なっている。以下、第1の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
【0053】
図9は、本実施の形態の半導体発光素子の断面図である。図9(a)がリッジストライプの伸長方向に平行な断面図、図9(b)が図9(a)のG−G断面図、図9(c)が図9(a)のH−H断面図である。
【0054】
図9に示すように、リッジストライプ18側面も、例えば、AlGaNの端面窒化物半導体層22と同一材料で埋め込まれている。
【0055】
本実施の形態の半導体発光素子は、リッジストライプ18のエッチングと、端面窒化物半導体層22形成のための領域のエッチングを同一マスクで同時に行うことで製造が可能である。
【0056】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果に加え、製造プロセスが簡便になり、製造コスト削減が実現できるという利点がある。
【0057】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、各実施の形態の構成要素を適宜組み合わせてもかまわない。
【0058】
そして、実施の形態の説明においては、半導体発光素子等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる半導体発光素子に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0059】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての半導体発光素子は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【実施例】
【0060】
以下、実施例について説明する。
【0061】
第3の実施の形態で説明したと同様の半導体レーザダイオードを作成した。作成にあたっては、n型のGaN(窒化ガリウム)半導体の基板上に、GaN系のn型窒化物半導体層として厚さ1200nmのSiドープされたn型のAl0.05Ga0.95Nのn型クラッド層、厚さ100nmのSiドープされたn型のGaNのn型ガイド層を形成した。
【0062】
n型窒化物半導体層上には、多重量子井戸構造(MQW)のGaN系半導体の、厚さ3nmのIn0.12Ga0.08N/厚さ10nmのIn0.03Ga0.97Nの多重構造の活性層を形成した。
【0063】
活性層上には、GaN系のp型窒化物半導体層として、厚さ100nmのアンドープのGaNのガイド層、厚さ10nmのMgドープされたp型のAl0.2Ga0.8Nのp型オーバーフロー防止層、厚さ600nmのMgドープされたp型のAl0.05Ga0.95Nのp型クラッド層、厚さ10nmのMgドープされたp型のGaNのp型コンタクト層を形成した。
【0064】
リッジストライプ構造と、端面窒化物半導体層形成用の溝領域を、同一マスクでn型クラッド層がなくなるまで一括エッチングした。その後、MOCVD法により、リッジストライプ構造側面と溝領域内をMgドープした単結晶のAlGaNで埋め込み、リッジストライプ側面の埋め込み層と端面窒化物半導体層を同時形成した。
【0065】
その後、n側電極およびp側電極を形成し、劈開することにより半導体レーザダイオードを製造した。
【0066】
端面窒化物半導体層のMg不純物濃度を変化させた半導体レーザダイオードを製造し、レーザ発振の始まる閾電流と、光出力変曲点を評価した。結果を表1に示す。
【表1】

【0067】
不純物濃度が、5E16atoms/cm以上5E17atoms/cm以下、特に1E17atoms/cm以下で良好な特性が得られた。1E16atoms/cmの場合は、n型伝導が残っていたために端面窒化物半導体層を流れる電流が生じ発振が見られなかった。また、1E18atoms/cmの場合は、p型伝導が発現したために発振しなかったと考えられる。
【0068】
また、端面窒化物半導体層のリッジストライプの伸長方向の厚さ(図9(a)中のd)を変化させた半導体レーザダイオードを製造し、3Wの光出力で1000時間駆動させた後、突然劣化の生ずる光出力を測定し、信頼性を評価した。結果を表2に示す。
【表2】

【0069】
厚さdが10μm以上、特に20μm以上で良好な信頼性が得られた。このように、端面窒化物半導体層のリッジストライプの伸長方向の厚さが厚くなることで信頼性が向上するのは、端面窒化物半導体層による放熱が寄与しているためと推測される。
【符号の説明】
【0070】
10 基板
12 n型窒化物半導体層
14 活性層
16 p型窒化物半導体層
18 リッジストライプ
22 端面窒化物半導体層
22b 第1の低屈折率層
22c 高屈折率層
22d 第2の低屈折率層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上のn型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層上の窒化物半導体の活性層と、
前記活性層上のp型窒化物半導体層と、
前記p型窒化物半導体層に形成されるリッジストライプと、
前記リッジストライプの伸長方向に垂直な、前記n型窒化物半導体層、前記活性層および前記p型窒化物半導体層の端面に形成され、前記活性層よりもバンドギャップの広い端面窒化物半導体層とを有し、
前記端面窒化物半導体層の、少なくとも前記p型窒化物半導体層の端面に形成される領域のMgの濃度が、5E16atoms/cm以上5E17atoms/cm以下であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記端面窒化物半導体層が、前記基板側から第1の低屈折率層、高屈折率層、第2の低屈折率層からなる積層構造を有し、
前記端面窒化物半導体層の前記活性層の端面に形成される領域が前記高屈折率層であることを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記端面窒化物半導体層の前記リッジストライプの伸長方向の厚さが10μm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第1の低屈折率層および前記第2の低屈折率層のAlの濃度が、前記高屈折率層のAlの濃度よりも高いことを特徴とする請求項2記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記活性層がInGa1−XN(0<X<1)であり、前記第1および第2の低屈折率層がAlGa1−YN(0<Y<1)であり、前記高屈折率層がGaNであることを特徴とする請求項4記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−38918(P2012−38918A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177687(P2010−177687)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】