説明

半導体装置および半導体装置の製造方法

【課題】不純物濃度の均一性および結晶性に優れたn型ダイヤモンド半導体層を有する半導体装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】実施の形態の半導体装置は、(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面を備えるダイヤモンド基板と、上記面上に形成され、リン(P)を含有するn型ダイヤモンド半導体層と、を備える。実施の形態の半導体装置の製造方法は、(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面を備えるダイヤモンド基板を準備し、上記面上に、エピタキシャル成長により、リン(P)を含有するn型ダイヤモンド半導体層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドはその機械的、化学的および熱的特性に加え、優れた潜在的な半導体特性を持つことから、半導体デバイス材料として注目されている。特に、室温で約5.5eVのバンドギャップを持つため、紫外線発光デバイスや負性電子親和力を利用した電子放出デバイスとして期待される。また、絶縁破壊耐性が高いため、ハイパワーデバイスとして期待される。さらに、堅牢な結晶性から、特に高温や放射線などの過酷な環境下で用いられる耐環境性デバイスとして期待される。
【0003】
ダイヤモンドのパワーデバイスは近年盛んに開発が行われ、ショットキー接合を有するショットキーバリアダイオード、ショットキー接合にpn接合を組み合わせたデバイス、pin構造のデバイス等に関する報告がなされている。もっとも、特に、n型ダイヤモンド半導体層の形成において、均一な不純物濃度や高い結晶性を安定して制御することは困難である。したがって、n型ダイヤモンド半導体層を安定して形成する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−240983号公報
【特許文献2】特開平5−24989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、不純物濃度の均一性および結晶性に優れたn型ダイヤモンド半導体層を有する半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施の形態の半導体装置は、(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面を備えるダイヤモンド基板と、上記面上に形成され、リン(P)を含有するn型ダイヤモンド半導体層と、を備えること特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態の半導体装置の作用を説明する図である。
【図2】実施の形態の半導体装置の模式断面図である。
【図3】実施の形態の半導体装置の製造方法を示す模式工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ダイヤモンド半導体において、n型層の制御は一般に困難である。これまでに(111)基板上、(100)基板上でリン(P)をドープすることによりn型伝導が得られている。(111)基板は固いために加工が困難であり、大面積化や平坦化が難しい。このため、産業応用上はより安価で加工のしやすい(100)基板あるいはその近傍の面方位を持つ基板を用いての半導体装置の製造が望ましい。
【0009】
しかしながら、特に、(100)面上でのダイヤモンドの成長は、異常成長粒子やヒロックなどが発生しやすい。またリン(P)ドープのn型層において平坦な膜を得ることが困難である。さらに、ドーピング濃度や成長方向の濃度プロファイルの制御などが困難である。このため、(100)面上のn型ダイヤモンド半導体層を備える半導体デバイスでは、所望のデバイス特性を得ることが困難であった。
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
なお、本明細書中、(100)面との記載は、(100)面と結晶構造上等価な面方位を備える面、例えば、(001)、(010)等、を包含するものとする。また、[100]と結晶構造上等価な方位は、<100>と記載するものとする。
【0012】
本実施の形態の半導体装置は、(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面を備えるダイヤモンド基板と、上記面上に形成され、リン(P)を含有するn型ダイヤモンド半導体層と、を備える。
【0013】
本実施の形態の半導体装置は、上記構成を備えることにより、不純物濃度の均一性および結晶性に優れたn型ダイヤモンド半導体層を実現できる。また、加工が容易であり、安価に製造することが可能となる。
【0014】
図1は、本実施の形態の半導体装置の模式断面図である。本実施の形態の半導体装置は、pnダイオードである。
【0015】
図1に示すように、本実施の形態のpnダイオード100は、単結晶のダイヤモンド基板10と、ダイヤモンド基板10上に形成されるp型ダイヤモンド半導体層12、p型ダイヤモンド半導体層12上に形成され、p型ダイヤモンド半導体層12よりも低不純物濃度のp型ダイヤモンド半導体層14を備えている。さらに、p型ダイヤモンド半導体層14上に、リン(P)を不純物として含有するn型ダイヤモンド半導体層16が形成されている。
【0016】
型ダイヤモンド半導体層12、p型ダイヤモンド半導体層14およびn型ダイヤモンド半導体層16でリッジが形成されている。n型ダイヤモンド半導体層16上には、ショットキー電極18が形成されている。また、リッジ外のp型ダイヤモンド半導体層12上には、オーミック電極20が形成されている。
【0017】
ショットキー電極18はn型ダイヤモンド半導体層16とショットキー接合を形成する金属、例えば、ニッケル(Ni)を用いて形成される。また、オーミック電極20はp型ダイヤモンド半導体層12とできるだけ接触抵抗が小さくなるような金属、例えば、チタン(Ti)などにより形成する。
【0018】
ここで、ダイヤモンド基板10は、(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面を備える。そして、p型ダイヤモンド半導体層12、p型ダイヤモンド半導体層14およびn型ダイヤモンド半導体層16はこの面上に同一の面方位で形成されている。
【0019】
本実施の形態のpnダイオード100は、ショットキー電極18とp型ダイヤモンド半導体層14との間に、比較的低濃度のn型ダイヤモンド半導体層16を挟むことで、整流作用を維持しつつ、高い順方向電流を流すことが可能である。特に、本実施の形態によれば、(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面上に、リン(P)を不純物として含有するn型ダイヤモンド半導体層16を形成することで、n型ダイヤモンド半導体層16のリン(P)の濃度の均一性が向上する。また、n型ダイヤモンド半導体層16に結晶欠陥の少ない高い結晶性が実現される。したがって、高性能なpnダイオードが実現される。
【0020】
次に、本実施の形態の半導体装置の製造方法について説明する。本実施の形態の半導体装置の製造方法は、(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面を備えるダイヤモンド基板を準備し、上記面上に、エピタキシャル成長法により、リン(P)を含有するn型ダイヤモンド半導体層を形成する。図3は、本実施の半導体装置の製造方法を示す模式工程断面図である。
【0021】
まず、(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面を備える単結晶のダイヤモンド基板12を準備する。そして、ダイヤモンド基板12上に、マイクロ波プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により、p型ダイヤモンド半導体層12、p型ダイヤモンド半導体層14およびn型ダイヤモンド半導体層16をエピタキシャル成長させる(図3(a))。n型ダイヤモンド半導体層のリン(P)濃度は、例えば、1×1015cm−3以上である。
【0022】
次に、n型ダイヤモンド半導体層16、p型ダイヤモンド半導体層14、およびp型ダイヤモンド半導体層12を一部リッジ状に残してRIE(Reactive Ion Etching)法などによりエッチングし、p型ダイヤモンド半導体層12を露出させる(図3(b))。
【0023】
次に、p型ダイヤモンド半導体層12上に、例えば、チタン(Ti)/白金(Pt)/金(Au)を電子ビーム蒸着により堆積する。続いて、500℃〜600℃でアニールを行い、オーミック電極20を形成する(図3(c))。
【0024】
次に、n型ダイヤモンド半導体層16上に、例えば、ニッケル(Ni)を電子ビーム蒸着により堆積し、ショットキー電極18を形成する(図3(d))。
【0025】
以上の製造方法により、図2に示すpnダイオード100が実現される。本実施の形態の製造方法によれば、(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面を備える単結晶のダイヤモンド基板12上に、n型ダイヤモンド半導体層16をエピタキシャル成長させることで、不純物濃度の均一性が高く、結晶欠陥の少ない高品質なn型ダイヤモンド半導体層16が形成可能となる。したがって、高性能なpnダイオードを製造することが可能となる。
【0026】
図1は、本実施の形態の半導体装置の作用を説明する図である。図1は、単結晶のダイヤモンド基板の結晶構造を、[100]方向および[011]方向に平行な断面で示した図である。黒丸は炭素原子を示す。また、点線は各傾斜における表面構造を示す。
【0027】
図1に示すように、(100)面から<011>方向に傾斜する面では、(111)面のステップが表面上に現れることになる。このステップの密度、いいかえればステップ数の密度は、傾斜が25度の時に最大になる。このようなステップが表面に現れることにより、ステップに安定に付着するリン(P)原子が、エピタキシャル成長するダイヤモンド膜中へ安定して取り込まれる。したがって、n型ダイヤモンド半導体層の高いn型不純物濃度と、高いn型不純物濃度の均一性が実現される。
【0028】
また、<100>方向に延びやすいヒロックや異常成長粒子の大きさを低減することが可能となり平坦性が向上する。また、ステップフロー成長が優勢となることでも、ヒッロクや異常成長粒子の密度を低減することが可能となる。このため、n型ダイヤモンド半導体層中の結晶欠陥の低減も可能となる。
【0029】
そして、成膜時のn型不純物の濃度および分布(プロファイル)の制御が容易になり、低濃度でのドーピング遅れや、厚膜成長による平坦性の劣化も抑制することが可能となる。
【0030】
以上のように、本実施の形態によれば、特性および生産性に優れたn型ダイヤモンド半導体層の形成が可能となる。したがって、n型ダイヤモンド半導体層を用いるデバイスの特性および生産性が向上する。
【0031】
なお、(100)面からの傾斜が<011>に対し±10度方向の範囲にあれば、<011>方向への傾斜とほぼ同等な効果が得られる。
【0032】
また、ステップの密度は、傾斜が25度で最大になることから、(100)面から<011>±10度方向への傾斜角度(オフ角)は、10度以上40度以下であり、15度以上35度以下であることが望ましく、21度以上29度以下であることがより望ましい。
【0033】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、半導体装置、半導体装置の製造方法等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる半導体装置、半導体装置の製造方法等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0034】
例えば、実施の形態では、n型ダイヤモンド半導体層をp型ダイヤモンド半導体層の上に形成し、pn接合を形成したが、p型ダイヤモンド半導体層とn型ダイヤモンド半導体層の間に高純度i層(intrinsicダイヤモンド層)を設けてもよい。また、n型ダイヤモンド半導体層上にショットキー電極を形成したが、n型ダイヤモンド半導体層を高濃度n型ダイヤモンド半導体層とし、p型ダイヤモンド半導体層との間に高純度i層を設け、高濃度n型ダイヤモンド半導体層上にオーミック電極を形成するpinダイオード構造でもよい。また、基板にp型導電性基板を用い、基板裏面にオーミック電極を形成する縦型のデバイス構造であっても良い。
【0035】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての半導体装置および半導体装置の製造方法が、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【実施例】
【0036】
実施の形態の製造方法で、実施の形態のpnダイオードを製造する。(100)面から<011>度方向に15度傾斜する面を備える単結晶のダイヤモンド基板を用い、マイクロ波プラズマCVD法により、p型ダイヤモンド半導体層12、p型ダイヤモンド半導体層14およびn型ダイヤモンド半導体層16をエピタキシャル成長させる。
【0037】
型ダイヤモンド半導体層12はホウ素(B)濃度を5×1020cm−3、p型ダイヤモンド半導体層14はホウ素(B)濃度を5×1019cm−3とし、n型ダイヤモンド半導体層12のリン(P)濃度は1×1015cm−3である。
【0038】
RIE法により、リッジを形成し、p型ダイヤモンド半導体層12上にオーミック電極20を、Ti/Pt/Auを電子ビーム蒸着により堆積し、500℃で15分アニールすることで形成する。次に、n型ダイヤモンド半導体層16上にショットキー電極18を、ニッケル(Ni)を電子ビーム蒸着により堆積し形成する。
【0039】
ここでn型ダイヤモンド半導体層16はドナー濃度が低いため、ショットキー電極18を形成することにより熱平衡状態では完全に空乏化している。
【0040】
作製されるpnダイオードI−V特性を測定すると、±10Vにおける整流比10桁以上、10Vにおける順方向電流密度が10000A/cmという値が得られる。また、逆方向のリーク電流は100Vで1pA以下であり、500Vまで電圧をかけてもブレークダウンは起こらない。
【符号の説明】
【0041】
10 ダイヤモンド基板
12 p型ダイヤモンド半導体層
14 p型ダイヤモンド半導体層
16 n型ダイヤモンド半導体層
18 ショットキー電極
20 オーミック電極
100 pnダイオード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面を備えるダイヤモンド基板と、
前記面上に形成され、リン(P)を含有するn型ダイヤモンド半導体層と、
を備えること特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記n型ダイヤモンド半導体層のリン(P)濃度が、1×1015cm−3以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記ダイヤモンド基板と、前記n型ダイヤモンド基板との間に、さらに、p型ダイヤモンド半導体層を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
(100)面から<011>±10度方向に10度以上40度以下の範囲で傾斜する面を備えるダイヤモンド基板を準備し、
前記面上に、エピタキシャル成長により、リン(P)を含有するn型ダイヤモンド半導体層を形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記n型ダイヤモンド半導体層のリン(P)濃度が、1×1015cm−3以上であることを特徴とする請求項4記載の半導体装置の製造方法。


【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−67541(P2013−67541A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208851(P2011−208851)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】