説明

半導体装置及びその製造方法

Si(100)基板の表面にシリコン酸化膜を形成した後、このシリコン酸化膜をプラズマ窒化して酸窒化シリコン膜にする。その後NOガス雰囲気中で770乃至970℃の温度条件下で熱処理することにより、ゲート絶縁膜における基板との界面部分の窒素濃度を1乃至10原子%にすると共に、基板と酸窒化シリコン膜との界面に存在する界面Si結合欠陥の結合手の方位角分布が、基板の[100]方位に対して25°以上の角度にピークをもつようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MOSFETを備えた半導体装置及びその製造方法に関し、特に、MOSFETのゲート絶縁膜が窒素を含む酸化膜により形成されている半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の代表として知られているLSI(Large Scale Integrated circuit:大規模集積回路)は、メモリ系デバイスとロジック系デバイスとに大別される。それらのデバイスのほとんどは、集積度の点で優れ且つコストダウンが図れるMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)により構成されている。MOSFETは、通常、シリコン基板上にシリコン酸化膜等からなるゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられており、このゲート電極に制御電圧を印加することにより、ゲート絶縁膜直下のシリコン基板表面に形成されたチャネル領域の導電度を制御している。このようなMOSFETにおいては、ゲート絶縁膜の信頼性を高めることが重要な技術課題になっている。
【0003】
近時、高集積化を目的にMOSFETの微細化が進められており、これに伴いゲート絶縁膜の薄膜化が進んでいる。しかしながら、例えば、厚さが2.5nm以下のシリコン酸化膜(SiO膜)によりゲート絶縁膜を形成した半導体装置においては、トンネル電流によるゲートリークが増大したり、ゲート電極であるポリシリコン層からBが突き抜けて閾値がシフトしたりするため、MOSFETの特性が低下する。このようなゲート絶縁膜の薄膜化に伴うMOSFETの特性の低下を抑制するためには、ゲート絶縁膜を形成するシリコン酸化膜へ窒素を添加することにより、ゲート絶縁膜の誘電率を増加させて、ゲート絶縁膜の換算膜厚を減少させることが極めて有効である。現在、ゲート絶縁膜の厚さを2.5nm以下にしているMOSFETのほとんどが、ゲート絶縁膜にシリコン酸化膜を窒化した酸窒化シリコン膜(SiON膜)を採用している。なお、ゲート絶縁膜中の窒素濃度を高くする程、ゲートリーク電流及び閾値のシフト等を抑制する効果が大きくなり、MOSFETの性能が向上する。
【0004】
シリコン酸化膜を窒化して酸窒化シリコン膜を形成する方法としては、従来、NOガス又はNOガス雰囲気中でシリコン酸化膜をアニールする熱窒化法が利用されている。しかしながら、熱窒化法により酸窒化シリコン膜を形成すると、シリコン基板とシリコン酸化膜との界面近傍が窒化しやすく、この界面窒化によってシリコン酸化膜中に導入された窒素に起因する固定電荷が、チャネル近傍に高密度で発生し、クーロン散乱により電荷移動度が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、酸窒化シリコン膜を形成する方法として、プラズマ窒化法が適用され始めている。このプラズマ窒化法によれば、シリコン基板側の部分を窒化せずに、シリコン酸化膜の表面側の部分のみを選択的に選択的に窒素を分布させることができるため、固定電荷のチャネルへの影響を最小限にすることができる。
【0006】
一方、酸窒化シリコン膜によりゲート絶縁膜を形成した場合、高温下でゲート電極に基板に対して負の電圧を印加し続けると、トランジスタの駆動能力が低下する特性、即ち、ゲート負バイアス温度不安定性(Negative Bias Temperature Instability:NBTI)が劣化するという問題点がある。このNBTIはゲート絶縁膜の信頼性の評価指標であり、「NBTIの劣化」はゲート絶縁膜の信頼性の低下を示し、「NBTIの改善」はゲート絶縁膜の信頼性の向上を示す。NBTIの微視的な現象は、界面準位の増加及び膜中電荷の増加である。界面準位と膜中電荷の増加は、MOSFETへのNBTストレスを印加することにより確認でき、例えば、pMOSFETに対して、5MV/cm以下の比較的小さな電界下で、基板温度を100乃至150℃に保ちながら負バイアス温度ストレス(以下、NBTストレスという。)を長時間印加したときの電気特性変化により評価することができる。具体的には、NBTIの劣化は、閾値電圧Vthのシフト、オン電流Ionの減少及びトランスコンダクタンスgmの低下として観測される。
【0007】
MOSFETにおける閾値電圧Vthは、NBTストレス印加時間tのべき乗に比例してシフトする。この閾値電圧Vthのシフトは、酸化シリコン膜及びSiON膜に共通の特徴であり、閾値電圧シフトDVthは下記数式1により求められる。なお、下記数式1に示すAは比例定数である。
【0008】


【0009】
図13は横軸にNBTストレス印加時間tをとり、縦軸に閾値電圧シフト量DVthをとって、ゲート絶縁膜としてSiO膜又はSiON膜を形成した場合のNBTストレス印加時間tと閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。図13に示すように、ゲート絶縁膜として酸窒化シリコン膜を形成した場合、シリコン酸化膜を形成した場合に比べて、比例係数Aがわずかに増加している。この比例定数Aのわずかな増加は、閾値電圧シフト量DVthの許容値(約10mV)に至る寿命を大きく短縮するため、ゲート絶縁膜を酸窒化シリコン膜にすると、シリコン酸化膜にした場合に比べてNBTIが低下する。この比例係数Aが増加する要因は、活性化エネルギーの低下であることが明らかにされている(非特許文献1参照)。具体的には、窒素を導入していないシリコン酸化膜の活性化エネルギーが約0.2eVであるのに対し、酸窒化シリコン膜では活性化エネルギーが0.1eVまで低下することが報告されている(非特許文献2参照)。
【0010】
また、従来、NBTIを説明するための一般的なモデルが開示されており(非特許文献3参照)、非特許文献3においては、シリコン基板とゲート絶縁膜との界面に存在する界面Si結合欠陥(・Si≡Si)及びそれを終端する水素原子が重要な役割を果たすことが報告されている。図14は界面Si結合欠陥によるNBTIの劣化を示すモデル図である。図14に示すように、非特許文献3に記載のモデル図によれば、シリコン基板101とゲート絶縁膜102との界面には、1×1012cm−2の密度で潜在的界面欠陥(H−Si≡Si)が存在する。この界面欠陥の水素結合が、NBTストレスによるゲート負バイアス電界とシリコン基板101からのホール供給とで切断され、水素の移動を伴って界面準位(≡Si・)及び水素関連の膜中固定電荷を発生すると考えられている。
【0011】
ゲート絶縁膜を酸窒化シリコン膜により形成したMOSFETにおいて、シリコン基板側の部分の窒素濃度が高い程、NBTIの劣化が顕著である(非特許文献4参照)。非特許文献4には、窒素濃度分布が異なる酸窒化シリコン膜を使用し、ゲート絶縁膜中の窒素濃度とNBTIとの関係を調べた実験結果が開示されている。
【0012】
また、酸窒化シリコン膜中の窒素濃度分布は、窒素導入後に熱処理することにより調節することができる(例えば、特許文献1及び2参照。)。特許文献1に記載の熱酸化膜の形成方法においては、表面に酸化膜が形成された半導体基板上に酸化窒化膜を形成した後、この酸化窒化膜の表面をエッチングにより除去し、更に酸素雰囲気中で熱処理することにより、表面側の部分が基板側の部分よりも窒素濃度が高い酸化窒化膜を形成している。具体的には、先ず、半導体基板表面に熱酸化膜を形成した後、この熱酸化膜をNOガス雰囲気中で熱処理して、基板との界面近傍に窒素濃度のピークをもつ酸化窒化膜を形成する。次に、この酸化窒化膜における窒素濃度が低い部分をエッチングにより除去する。その後、酸素雰囲気中で熱処理することにより、半導体基板の酸化窒化膜との界面近傍を酸化して、酸化窒化膜と半導体基板との間に酸化膜を形成する。ゲート絶縁膜をこの方法で形成することにより、MOSFETにおけるNBTIの劣化を抑制することができる。
【0013】
また、特許文献2に記載のゲート絶縁層の形成方法においては、半導体基板表面に熱酸化膜を形成した後、この熱酸化膜を高密度窒素プラズマに暴露して熱酸化膜中に窒素を導入し、更にこの酸化窒化膜をNO中で熱処理することにより、膜厚方向における窒素濃度が均一な酸化窒化膜を形成している。
【0014】
なお、デバイス構造に埋め込まれたゲート絶縁膜の界面Si結合欠陥は、電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance:ESR)スペクトルによって確認することができる。例えば、界面Si結合欠陥の1種であるPb1centerは、monoclinic−Iの対称性を持っており、ESRスペクトルにおけるgテンソルの主値は、夫々g=2.0058(n//[011])、g=2.0074(n//[111])、g=2.0022(n//[211])であることが詳しい実験から決定されている(非特許文献5参照)。しかしながら、通常、ESRスペクトルは、共鳴条件でのマイクロ波吸収を検知する手法で測定されるため、ゲート絶縁膜のように面積が小さい試料を測定することは難しい。このような場合には、デバイスを流れる電流変調によってスピン共鳴を検知するEDMR(Electrically Detected Magnetic Resonance)測定が有効である。EDMR測定は、一般的なESR測定の1000倍の感度があり、大きさが0.01乃至0.10mmのデバイスにおいても、界面Si結合欠陥構造を解析できるESRスペクトルの取得が可能である(非特許文献6参照)。
【0015】
【特許文献1】特開2000−357688号公報
【特許文献2】特開2002−198531号公報
【非特許文献1】N.Kimizuka、外6名,「NBTI enhancement by nitrogen incorporation into ultrathin gate oxide for 0.10μm gate CMOS generation」,2000 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers,p.92−93
【非特許文献2】Yuichi Minami、外3名,「NBTI Mechanism in Ultra−thin Gate Dielectric−Nitrogen−originated Mechanism in SiON−」,2002 International Electron Device Meeting,p.509−512
【非特許文献3】Shigeo Ogawa、外2名,「Interface−trap generation at ultrathin SiO2(4−6nm)−Si interfaces during negative−bias temperature aging」,1995年2月,Journal of Applied Physics,第77巻,第3号,p.1137−1148
【非特許文献4】M.Terai、外6名,「Impact of Nitrogen Profile on Negative−Bias Temperature Instability and CMOS Performance」,2002 International Conference on Solid State Device and Materials,p.752−753
【非特許文献5】A.Stesmans、外1名,「Electron spin resonance feature of interface defects in thermal(100)Si/SiO2」,1998年,Journal of Applied Physics,第83巻,第5号,p.2449−2457
【非特許文献6】J.H.Stathis、外1名,「Identification of interface defect generated by hot electron in SiO2」,1992年12月,Appl.Phys.Lett.,第61巻,第24号,p.2887−2889
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、前述の従来の技術には以下に示す問題点がある。即ち、特許文献1に記載の熱酸化膜の形成方法では、基板と酸化窒化膜との間に酸化膜を形成する際に窒素の再分布が起こるため、基板との界面近傍の窒素濃度が十分に下がらず、更に界面酸化が進行して全膜厚が増加するため、信頼性向上と特性向上との両立が困難になるという問題点がある。
【0017】
また、特許文献2に記載のゲート絶縁層の形成方法は、基板との界面近傍の窒素濃度を増加するため、NBTIが劣化するという問題点がある。この問題を解決するため、プラズマに暴露する条件を調節して、窒素分布をできるだけ急峻にする方法も検討されているが、この方法で厚さが2nm以下の極めて薄い膜において窒素濃度分布を制御することは、ゲートリーク電流、トランジスタ特性及び耐熱性等の他の特性とのトレードオフによる制約が厳しく、NBTIを改善することは困難である。
【0018】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ゲート絶縁膜の膜厚及び窒素濃度分布を変えずに、NBTIを改善した半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願第1発明に係る半導体装置は、Si(100)基板又はSi(100)微傾斜基板と、前記基板上に形成され窒素を含む酸化膜からなるゲート絶縁膜と、このゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を有し、前記ゲート絶縁膜と前記基板との界面には界面Si結合欠陥が存在し、この界面Si結合欠陥結合手の前記基板の[100]方位に対する方位角分布は、25°以上にピークをもつことを特徴とする。
【0020】
本発明においては、基板の界面Si結合欠陥のゲート絶縁膜側に突き出た結合手の方位角分布が、その基板の[100]方位に対して25°以上にピークをもつため、NBTIを低下させる要因となる閾値電圧シフト量を許容値の範囲内に抑えることができ、その結果、NBTIの低下を抑制しその改善を図ることができる。
【0021】
本願第2発明に係る半導体装置は、Si(100)基板又はSi(100)微傾斜基板と、前記基板上に形成されたゲート絶縁膜と、このゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を有し、前記ゲート絶縁膜と前記基板との界面には界面Si結合欠陥が存在し、前記基板の[100]方位と磁場方位とを平行にして測定した前記界面Si結合欠陥の電子スピン共鳴スペクトルのg値は、2.0032<g<2.0043にピークをもつことを特徴とする。
【0022】
本発明においては、基板の界面Si結合欠陥の界面欠陥が、基板[100]方位と磁場方位を平行とする電子スピン共鳴の測定条件で2.0032<g<2.0043にピークをもつため、NBTIを低下させる要因となる閾値電圧シフト量を許容値の範囲内に抑えることができ、その結果、NBTIの低下を抑制しその改善を図ることができる。
【0023】
前述の方位角及びg値は、水素原子で終端された界面Si結合欠陥から水素結合を脱離させ、前記界面Si結合欠陥を活性化させた後で、EDMR測定した電子スピン共鳴スペクトルから求めることができる。これにより、g値及びそのg値から一義的に得られるダングリングボンドの方位角を決定することができる。
【0024】
また、前記ゲート絶縁膜における前記基板との界面部分の窒素濃度は、例えば、1乃至10原子%である。ここれにより、窒素を含有するゲート絶縁膜中の窒素濃度分布と全膜厚を変えずに、界面の窒素濃度を上記範囲にすることができるので、NBTIを改善することができる。
【0025】
更に、この半導体装置は、前記ゲート絶縁膜を酸窒化シリコン膜上に高誘電率絶縁膜が形成された積層膜としても、同様の効果が得られる。
【0026】
本願第3発明に係る半導体装置の製造方法は、Si(100)基板上又はSi(100)微傾斜基板上に、窒素を含むゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられた半導体装置の製造方法であって、プラズマ酸窒化処理により前記基板上に酸窒化膜を形成する工程と、前記酸窒化膜をNOガス雰囲気中で770乃至970℃の温度条件下で熱処理する工程と、を有することを特徴とする。
【0027】
本願第4発明に係る半導体装置の製造方法は、Si(100)基板上又はSi(100)微傾斜基板上に、窒素を含むゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられた半導体装置の製造方法であって、プラズマ酸窒化処理により前記基板上に酸窒化膜を形成する工程と、前記酸窒化膜をNOガス雰囲気中で770乃至920℃の温度条件下で熱処理する工程と、を有することを特徴とする。
【0028】
本発明においては、NOアニール温度又はNOアニール温度を、対応する飽和界面窒素濃度が初期界面窒素濃度より低くなるようにしているため、基板と酸窒化膜との界面極近傍における窒素結合を酸素結合に置き換え、窒素起因の界面欠陥変形を修復することができる。その結果、NBTIの原因となる界面窒素起因の界面Si結合欠陥構造を修復でき、NBTIを改善することができる。
【0029】
また、この半導体装置の製造方法は、前記酸窒化膜上に高誘電率絶縁膜を形成してもよい。このように、前記ゲート絶縁膜を酸窒化シリコン膜と高誘電率絶縁膜との積層構造にしても、同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、NBTIを低下させる要因である閾値電圧シフトを許容値の範囲内に抑え、NBTIの低下を抑制してその改善を図ることができるため、窒素を含有するゲート絶縁膜のNBTIを、窒素濃度分布と全膜厚を変えることなく改善することができ、MOSFETの高性能化を達成できる。また、本発明の半導体装置の製造方法によれば、NOアニール温度又はNOアニール温度を、対応する飽和界面窒素濃度が初期界面窒素濃度より低くなるようにしているため、基板と酸窒化膜との界面極近傍における窒素結合を酸素結合に置き換え、窒素起因の界面欠陥変形を修復することができ、NBTIの原因となる界面窒素起因の界面Si結合欠陥構造を修復でき、NBTIを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る半導体装置のMOSFETを示す断面図である。
【図2】Pb1centerの構造を示す模式図である。
【図3】変形Pb1centerの構造を示す模式図である。
【図4】横軸に界面Si結合欠陥のg値をとり、縦軸に閾値電圧シフト量DVthをとって、界面Si結合欠陥のg値と閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。
【図5】横軸に数値計算により求めたダンリングボンド方位角θをとって、縦軸に閾値電圧シフト量DVthをとって、ダンリングボンド方位角θと閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。
【図6】横軸に界面Si結合欠陥のg値をとり、縦軸にダンリングボンド方位角θをとって、界面Si結合欠陥のg値とダンリングボンド方位角θとの関係を示すグラフ図である。
【図7】横軸に印加磁場をとり、縦軸にマイクロ波の吸収強度をとって、シリコン基板1上に形成した厚さ2.0nmのシリコン酸化膜のESRスペクトルを示す図である。
【図8】(a)乃至(f)は本実施形態の半導体装置の製造方法をその工程順に示す断面図である。
【図9】(a)はこの初期酸窒化シリコン膜7aの窒素分布を示す模式図であり、(b)は初期酸窒化シリコン膜7aの窒素濃度分布を示す深さプロファイルである。
【図10】横軸にストレス印加時間をとり、縦軸に閾値電圧シフト量DVthをとって、ストレス印加時間と閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。
【図11】横軸にNOアニール温度をとり、縦軸に閾値電圧シフト量DVthをとって、NOアニール温度と閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。
【図12】横軸にNOアニール時間をとり、縦軸に閾値電圧シフト量DVthとって、ゲート電極をHfSiO/SiON積層としたときのNOアニール時間と閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。
【図13】横軸にNBTストレス印加時間tをとり、縦軸に閾値電圧シフト量DVthをとって、ゲート絶縁膜としてSiO膜又はSiON膜を形成した場合のNBTストレス印加時間tと閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。
【図14】界面Si結合欠陥によるNBTIの劣化を示すモデル図である。
【符号の説明】
【0032】
1、101;シリコン基板
2、102;ゲート絶縁膜
3a、3b;不純物領域
4a、4b;LDD領域
5;ゲート電極
6;サイドウォール
7a、7b;酸窒化シリコン膜
8;ポリシリコン膜
10;MOSFET
11;ダングリングボンド(結合手)
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態に係る半導体装置について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本実施形態の半導体装置におけるMOSFETを示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の半導体装置におけるMOSFET10は、シリコン基板1の表面に、ソース・ドレイン領域となる1対の不純物領域3a及び3bが形成されており、不純物領域3aと不純物領域3bとの間に形成されたチャネル領域上には、ゲート絶縁膜2を介してゲート電極5が形成されている。また、ゲート電極5の両側面にはサイドウォール6が形成されており、不純物領域3a及び3bにおけるサイドウォール6の下方の部分には、夫々LDD領域4a及び4bが形成されている。このMOSFET10におけるシリコン基板1としては、表面の結晶面が(100)面であるシリコン基板(以下、Si(100)基板という。)及び表面の結晶面が(100)面から微傾斜しているシリコン基板(以下、Si(100)微傾斜基板という。)が使用される。また、ゲート絶縁膜2は、酸窒化シリコン膜等の窒素を含有する酸化膜により形成されている。そして、このMOSFET10のシリコン基板1とゲート絶縁膜2との界面には界面Si結合欠陥が存在しており、この界面Si結合欠陥におけるゲート絶縁膜2側に突き出た結合手(ダングリングボンド:dangling bond)のシリコン基板基板の[100]方位に対する方位角の分布が、25°以上にピークをもっている。
【0034】
シリコン基板1とゲート絶縁膜2との界面構造は、ESRスペクトルにより確認することができる。上述のような特徴を有する界面構造は、シリコン基板1の[100]方位と磁場方位とを平行にしてESR測定したときに、界面Si結合欠陥のg値が2.0032<g<2.0043の範囲に共鳴ピークをもつ。このことは、言い換えれば、シリコン基板1の[100]方位と磁場方位とを平行にしてESR測定したときに、2.0032<g<2.0043の範囲に共鳴ピークが得られた場合には、界面Si結合欠陥のゲート絶縁膜2側に突き出たダングリングボンドの方位角の分布が、25°以上にピークをもっていることを一義的に示すものである。
【0035】
本発明者等は、前述の課題を解決するために、鋭意実験研究を行った結果、前述の界面Si結合欠陥に及ぼすNBTストレスの影響を踏まえ、更にシリコン酸化膜にNBTストレスを印加して界面準位を発生させた試料をESRで測定することにより、界面準位の実体が、2種類の界面Si結合欠陥Pb0center及びPb1centerであることを見出した。この2種類の界面Si結合欠陥Pb0center及びPb1centerは、結晶格子において結合相手がいない結合手であるダングリングボンドの方位が、夫々[111]方位及び[211]方位を向いた構造をしている。このPb0center及びPb1centerの構造は、例えば、前述の非特許文献5等に記載されている。図2はPb1centerの構造を示す模式図である。図2に示すダングリングボンド11は、化学的に活性であり、水素原子等の他の原子と結合することにより安定化する。なお、図2に示すθはシリコン基板1の[100]方位に対するダングリングボンド11の方位角である。
【0036】
また、本発明者等は、SiON膜にNBTストレスを印加すると、界面Si結合欠陥Pb1centerの発生量が増加し、特に、界面窒化されたゲート絶縁膜においては構造が変形した界面Si結合欠陥である変形Pb1centerが発生し易いことを見出した。図3は変形Pb1centerの構造を示す模式図である。図3に示すように、変形Pb1centerは、バックボンドの窒化によりNが割り込み、ダングリングボンド12の方位が[211]方位から[100]方位側に約15°傾くように、最近接Si原子の配置が変化した構造をしている。
【0037】
本発明者等は、このような界面Si結合欠陥Pb0center、Pb1center及び変形Pb1centerについて、NBTIの低下に影響する閾値電圧シフト量DVthの低下と、ESRスペクトル測定から求められるg値とが、良い相関を示すことを見出し、本発明に至った。図4は横軸に界面Si結合欠陥のg値をとり、縦軸に閾値電圧シフト量DVthをとって、界面Si結合欠陥のg値と閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。なお、図4に示すESRスペクトルは、p−Si(100)基板上にゲート絶縁膜を形成し、更にこのゲート絶縁膜上にp/ポリシリコン膜を堆積した後、活性化アニールを行い、ウェハカッターを使用して横3mm、縦15mmの短冊形状に切り出した後、p/ポリシリコン膜をウェットエッチングによって除去した試料を使用した。また、ESR測定は、基板面方位[100]と磁場方位とを平行にして行い、マイクロ波周波数を9.38GHz、パワーを1mW、磁場変調を1Gauss、100kHz、温度10Kとし、ノイズを低減させるため80回の積算を行っている。更に、図4に示す値は、シリコン基板1上に形成したプラズマ酸窒化膜を、NOガス中で6.7×10Pa(5Torr)の圧力で5秒又は60秒間熱処理した後ESR測定した結果と、ESR測定に使用した試料と同様の条件で作製したpMOSFETに対してNBTストレス時間を3600秒にしてNBTストレス実験を行った結果とから求めた値である。
【0038】
図4に示すように、界面Si結合欠陥のg値が2.0032よりも小さくなると、閾値電圧シフト量DVthが許容値である約10mVを超えてしまう。また、従来は界面Si結合欠陥のg値が2.0037に近い程、NBTストレス耐性が弱い変形Pb1centerの比率が小さくなると考えられていたが、実際には、図4に示すように、NBTIの改善が見られた界面構造は、g値が2.0032よりも大きい場合であることがわかった。
【0039】
また、本発明者等は、界面Si結合欠陥のg値と一義的に関連づけられる界面Si結合欠陥のダングリングボンドの方位角θと、閾値電圧シフト量DVthとの間にも同様に相関があることも見出した。図5は横軸に数値計算により求めたダンリングボンド方位角θをとって、縦軸に閾値電圧シフト量DVthをとって、ダンリングボンド方位角θと閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図であり、図6は横軸に界面Si結合欠陥のg値をとり、縦軸にダンリングボンド方位角θをとって、界面Si結合欠陥のg値とダンリングボンド方位角θとの関係を示すグラフ図である。図5に示すように、界面Si結合欠陥のダングリングボンドの方位角θが25°よりも小さいと、閾値電圧シフト量DVthが許容値である10mVを超えてしまう。図6に示すように、界面Si結合欠陥のダングリングボンドの方位角θが25°とは、g値が2.0032の場合に相当する。
【0040】
本実施形態の半導体装置における界面Si結合欠陥のg値及びダングリングボンド方位角θは、EDMR測定されたESRスペクトルから求めることができる。前述したように、界面Si結合欠陥構造は、そのESRスペクトルによって確認することができるが、通常使用されている共鳴条件におけるマイクロ波吸収を検知する手法では、ゲート絶縁膜のように面積が小さい試料を測定することは困難である。このため、本実施形態においては、デバイスを流れる電流変調によってスピン共鳴を検知するEDMR測定により、ゲート絶縁膜の界面Si結合欠陥のESRスペクトルを測定する。但し、半導体装置の完成品では、プロセスの最終段階で行われる水素熱処理により、界面Si結合欠陥Pb0center、Pb1center及び変形Pb1centerが水素終端されており、上述したようなESRスペクトルを得ることはできない。そこで、本実施形態においては、水素原子で終端された界面Si結合欠陥から水素結合を離脱させることにより、界面Si結合欠陥を活性化させた後でEDMR測定を行う。具体的には、特定のMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)1個にNBTストレスを印加し、水素原子で終端された界面Si結合欠陥から水素結合を脱離させることにより、MISFETに含まれる界面Si結合欠陥Pb0center、Pb1center及び変形Pb1centerを活性化する。これにより、EDMR測定が可能となり、上述したようなg値及びそのg値から一義的に得られるダングリングボンドの方位θを決定することができる。EDMR測定では、測定時にゲートバイアスを制御することができるため、界面Si結合欠陥Pb0center及びPb1centerが共に観測されるような条件を設定することが重要である。また、磁場方位とシリコン基板1の[100]方位を正確に合わせること、Pb0center及びPb1centerが識別できるような十分な分解能を設定すること等、ESR測定の場合に準じたスペクトル取得が必要である。
【0041】
次に、EDMR測定により得たESRスペクトルからg値を決定する方法について説明する。図6は横軸に印加磁場をとり、縦軸にマイクロ波の吸収強度をとって、シリコン基板1上に形成された厚さ2.0nmのシリコン酸化膜のESRスペクトルを示す図である。なお、図6に示すESRスペクトルは磁場方位とシリコン基板1の[100]方位とを平行にして測定したものである。図6に示すESRスペクトルは、2種類の界面Si結合欠陥Pb0center及びPb1centerのピークが重ね合わされたものであるため、先ず、ESRスペクトルを2つのGaussianピークに分解し、夫々のピーク中心に対応する磁場B(T)を読み取る。そして、下記数式2に示す共鳴条件の関係式から、Pb1centerの構造を特徴づけるg値の平均値を求めることができる。なお、下記数式2におけるhはプランク定数(=6.62608×10−34J・s)であり、nはマイクロ波周波数(1/秒)であり、mはボーア磁子(9.27402×10−24J・T−1)である。
【0042】

【0043】
マイクロ波周波数nと磁場強度Bとは、共に5桁以上の精度で実験的に決定できるため、g値の精度も5桁となる。但し、得られたg値の絶対値は系統的な誤差を有する場合があるので、適宜、MnO等の標準サンプルのピーク位置によって較正する必要がある。また、ESRスペクトルは、Si(100)基板に対する磁場方位によって変化するため、[100]方位を磁場に対して正確に、具体的には、±3°以内に合わせなければならない。シリコン基板1としてSi(100)微傾斜基板を使用した場合、ラウエ法などにより予め正確な[100]面方位を把握することが必要である。このESRスペクトル測定においては、ESRスペクトル上でPbcenterとPbcenterのピークを明瞭に区別するために、ESR測定時の磁場変調の大きさを2G以下にすること、S/N比を20より大きくするために十分な回数の積算を行うこと、信号強度の飽和によるスペクトル形状の変形が起こらないように十分小さなマイクロ波強度、具体的にはマイクロ波強度を0.1mW以下にすることが重要である。
【0044】
次に、ESRスペクトルのg値からダングリングボンド方位角θを算出する方法について説明する。ある方位に磁場Bを印加してESR測定を行ったときに観測されるg値は下記数式3により求められる。
【0045】

【0046】
なお、上記数式3におけるj、j及びjは、夫々磁場Bとn、n及びnとがなす角度である。また、本実施形態においては、磁場Bがシリコン基板1の[100]方位に平行(B//[100])の条件でESR測定を行うため、cos=0となる。
【0047】
また、図3に示す変形した界面Si結合欠陥(変形Pbcenter)の場合、ダングリングボンド方位がシリコン基板1の[211]方位を規準にして、[100]方向に角度δだけ傾くとし、a、bを夫々[211]方位とn及びnとがなす角とすれば、j=a+δ、j=b−δ、cosa=1/3、cosb=2/3の関係が成り立つ。従って、観測されるg値と角度δとの関係は、下記数式4により表される。
【0048】

【0049】
ここで、シリコン基板1の[100]方位を規準にして測定したダングリングボンド方位角θは、下記数式5から求められる。
【0050】

【0051】
また、ゲート絶縁膜2は、酸窒化シリコン膜等の窒素を含む酸化膜と、HfO、ZrO及びAl等の金属酸化物、それらのシリケート(HfSiO等)又はアルミネート(HfAlO等)からなる高誘電率絶縁膜(以下、High−K絶縁膜という)とが積層されたものでもよい。このように、酸化膜とHigh−K絶縁膜とを積層することにより、膜中電荷がトランジスタ特性に及ぼす影響を最小限にすることができる。但し、High−K絶縁膜は、不純物原子及びHigh−K絶縁膜を構成する金属原子がシリコン基板に拡散し易いため、High−K絶縁膜とシリコン基板1との間には、拡散防止膜として信頼性が高い窒素を含む酸化膜が設けられていることが好ましい。即ち、ゲート絶縁膜2の信頼性を確保するため意には、シリコン基板1上に先ず窒素を含む酸化膜を形成し、この窒素を含む酸化膜上にHigh−K絶縁膜を形成することが望ましい。
【0052】
更に、本実施形態の半導体装置におけるゲート絶縁膜2は、シリコン基板1の界面近傍の主たる構成元素がSi、O及びNであれば、他の不純物元素を微量に含んでいてもよい。但し、シリコン基板1とゲート絶縁膜2との界面における窒素濃度、即ち、界面窒素濃度は、1原子%以上で且つ10原子%以下であることが好ましい。本実施形態の半導体装置における界面窒素濃度とは、ゲート絶縁膜2におけるシリコン基板1との界面から0.6nm以下の極薄い範囲における窒素濃度であり、2次イオン質量分析(SIMS:Secondary ion mass spectroscopy)により、ゲート絶縁膜2の厚さ方向における窒素濃度分析により求めることができる。
【0053】
次に、ゲート絶縁膜2の界面窒素濃度とNBTIとの関係について説明する。前述の図4に示す全ての値は、シリコン酸化膜における界面Si結合欠陥Pbcenterのg値(g=2.0037)と、界面窒素濃度が5%以上のSiON膜における変形Pbcenterのg値(g=2.027)との間に位置している。NOガス雰囲気中で熱処理(以下、NOアニールという。)前のプラズマ酸窒化膜のg値が2.0030であるのに対し、閾値電圧シフト量DVthが減少するアニール条件の試料では、g値が2.0032を超える範囲に変化する。このことは、変形Pbcenterの構造が修復されて、シリコン酸化膜の界面Si結合欠陥Pbcenterの構造に近づいていることを示すものであり、その結果、NBTIが改善したことを示している。しかしながら、本発明者等が検討した結果、NBTIの改善が見られた試料でも、SIMSによる窒素深さプロファイルに変化はなく、しかも界面における窒素濃度はNOアニール前と同じ2%であった。このため、NOアニールは、シリコン基板1とゲート絶縁膜2との界面の窒素濃度を変化させるのではなく、界面Si結合欠陥の構造を修復するように作用し、その結果、NBTIを改善していると考えられる。
【0054】
また、前述の図5においても、図4と同様に、全ての値がシリコン酸化膜の界面Si結合欠陥Pbcenterの値(θ=55°)と、界面窒素濃度5%以上のSiON膜の変形Pbcenterの飽和値(θ=70°)との間に位置している。そして、NBTIが改善する熱処理温度付近で方位角が急激に変化している。このデータは、方位角θが25°以上の角度でNBTIが改善することを示している。なお、図5に示すダングリングボンドの方位角θは、界面Si結合欠陥Pbcenterのg値の平均値を、上記数式3乃至5に代入して求めた値である。
【0055】
次に、本実施形態の半導体装置の製造方法について説明する。本発明者等は、プラズマ酸窒化膜形成後の熱処理条件を変えることにより、NBTIを顕著に改善できることも見出した。図8(a)乃至(f)は本実施形態の半導体装置の製造方法をその工程順に示す断面図である。先ず、図8(a)に示すように、Si(100)基板又はSi(100)微傾斜基板からなるシリコン基板1の表面をプラズマ酸窒化処理して、シリコン基板1上にゲート絶縁膜となる酸窒化シリコン膜7aを形成する。その方法としては、例えば、プラズマ酸化又はRTO(Rapid Thermal Oxidation;急速熱酸化)により、シリコン基板1の表面にシリコン酸化膜を形成した後、このシリコン酸化膜をプラズマ窒化することにより、シリコン酸化膜に窒素を導入して酸窒化シリコン膜7aとする方法がある。
【0056】
次に、図8(b)に示すように、酸窒化シリコン膜7aが形成されたシリコン基板1をNOガス又はNOガス雰囲気中で熱処理して酸窒化シリコン膜7bとする。一般に、シリコン酸化膜等の酸化膜へのNOアニールは、シリコン酸化膜中へ窒素導入するために行われるが、その場合、酸化膜とシリコン基板との界面部分が酸窒化されてしまう。これは、NO分子が酸化膜中をほとんど反応せずにシリコン基板との界面に到達し、その界面で解離して発生するNラジカルとOラジカルがシリコン基板側の界面Si結合欠陥のダングリングボンドと結合するためである。
【0057】
また、NOアニールの特徴は、熱処理時間が長くなるに従いシリコン基板側の酸化膜の界面窒素濃度が飽和することと、それらの全膜厚が飽和することである。更に、その飽和状態では、上記のNラジカル及びOラジカルと界面原子との反応が平衡に達していることである。なお、NOアニール温度が高い程、飽和窒素濃度は増加する。このことは逆に考えれば、NOアニール温度が低い程、Oラジカル反応がNラジカル反応より相対的に優勢になることを示している。そこで、本実施形態の半導体装置の製造方法においては、対応する飽和界面窒素濃度が初期界面窒素濃度より低くなるような条件でNOアニールする。これにより、酸窒化シリコン膜7aにおけるシリコン基板1との界面近傍の窒素結合が酸素結合に置き換わり、窒素起因の界面欠陥の変形が修復される。
【0058】
本発明者等が行った実験では、NOアニールにより窒素起因の界面欠陥の変形を修復する効果は、プラズマ酸窒化で得られた酸窒化シリコン膜で特に顕著であった。これは、酸窒化シリコン膜のシリコン基板との界面近傍における窒素結合が比較的弱く、窒素結合から酸素結合への置換が起こり易くなっていることを示している。
【0059】
その際、NOアニール温度の上限は、Oラジカル反応が優勢になる温度条件から決定され、NOアニール温度が970℃を超えると、界面窒素濃度が上昇してNBTIが低下する。一方、NOアニール温度の下限は、界面で発生するOラジカルと界面N原子との置換反応速度から決定され、NOアニール温度が970℃を超えると、界面窒素濃度が上昇してNBTIが低下する。よって、NOアニール温度は770乃至970℃とする。これにより、酸窒化シリコン膜7bのシリコン基板1との界面における窒素濃度を1乃至10原子%とすることができる。なお、NOアニール温度は、870乃至920℃にすることがより好ましい。これにより、界面窒素濃度を1乃至5原子%以下にすることができる。
【0060】
また、NOガスの代わりにNOガス雰囲気中で熱処理してもよい。これは、酸窒化シリコン膜7a中でNO分子が分解してNO分子が生成され、同様の効果が得られるためである。しかしながら、NOアニールでは副生成物としてO分子も生成するため、アニール温度が高い場合には、界面酸化によって膜厚が極端に増加するという問題が発生する。このため、NOアニール温度の上限は、膜厚が増加しない条件から決定され、920℃であることが望ましく、870℃℃であることがより望ましい。一方、NOアニール温度の下限も、界面で発生するOラジカルと界面N原子との置換反応速度から決定され、770℃であることが望ましく、820℃であることがより望ましい。よって、本実施形態におけるNOアニール温度は770乃至920℃とする。これにより、酸窒化シリコン膜7bのシリコン基板1との界面における窒素濃度を1乃至10原子%以下にすることができる。なお、NOアニール温度は、870乃至920℃にすることがより好ましい。これにより、界面窒素濃度を1乃至5原子%にすることができる。
【0061】
なお、NOアニール及びNOアニールは、酸窒化シリコン膜7aを形成した後、試料を大気に曝さずに連続工程で行うことが望ましい。プラズマ酸窒化膜を一旦大気中に曝した後にNOアニールを行うと、界面欠陥の変形を修復する効果はほとんど得られない。これは、膜中欠陥の多いプラズマ酸窒化膜中に大気中の水分が吸収されてSi−OH基及びSi−H基が生成し、NOアニール時にこの欠陥が活性サイトとなってラジカルが失活し易くなったためと考えられる。
【0062】
また、NOアニール時のNOガス圧は、通常13乃至13×10Pa(0.1乃至100torr)とし、NOアニール雰囲気の圧力は13乃至13×10Pa(0.1乃至50torr)とすることが好ましい。
【0063】
次に、図8(c)に示すように、アニール後の酸化窒化シリコン膜7b上に、ゲート電極となるポリシリコン膜8を形成した後、図8(d)に示すように、酸化窒化シリコン膜7b及びポリシリコン膜8をエッチングして、ゲート絶縁膜2及びゲート電極5を形成する。次に、図8(e)に示すように、ゲート電極5をマスクにしてシリコン基板1の表面に不純物を導入して、LDD領域4a及び4bをゲート電極5に対して自己整合的に形成する。その後、図8(f)に示すように、ゲート電極5の両側面に、酸化シリコン等からなるサイドウォール6を形成する。その後、ゲート電極5及びサイドウォール6をマスクにしてLDD領域4a及び4bに不純物を導入することにより、不純物領域3a及び3bをゲート電極5に対して自己整合的に形成してMOSFET10とする。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の半導体装置の製造方法によれば、NOアニール温度又はNOアニール温度を、対応する飽和界面窒素濃度が初期界面窒素濃度より低くなるように設定しているため、シリコン基板1と酸窒化シリコン膜7bとの界面における窒素結合を酸素結合に置き換え、窒素起因の界面欠陥変形を修復することができる。その結果、NBTIの原因となる界面窒素起因の界面Si結合欠陥構造を修復でき、NBTIを改善することができる。また、本実施形態の半導体装置の製造方法おいては、前述のような条件で熱処理しているため、酸窒化シリコン膜7bを界面Si結合欠陥のダングリングボンドの方位角θが25°以上に分布のピークをもつようにすることができると共に、界面Si結合欠陥のg値が2.0032<g<2.0043の範囲に共鳴ピークをもつようにすることができる。
【実施例】
【0065】
次に、本発明の半導体装置の効果について詳細に説明する。先ず、本発明の実施例1として、p−Si(100)基板表面に形成されたn−ウエル上に、ゲート絶縁膜として酸窒化シリコン膜を形成して、ゲート長0.5mm、ゲート幅10mmのpMOSFETを作製した。先ず、LOCOS(local oxidation of silicon)構造を有するSi(100)基板からなるシリコン基板1上に絶縁膜形成用開口部を形成した。そして、RTOにより、この開口部に厚さが1.8nmのシリコン酸化膜を形成した。その後、真空チャンバー内でNガスをソースとしたプラズマ窒化を行い、シリコン酸化膜表面を窒化してシリコン基板1表面に厚さが2.0nmの初期酸窒化シリコン膜7aを形成した。
【0066】
図9(a)はこの初期酸窒化シリコン膜7aの窒素分布を示す模式図であり、図9(b)は初期酸窒化シリコン膜7aの窒素濃度分布を示す深さプロファイルである。図9(a)及び(b)に示すように、初期酸窒化シリコン膜7aは、主にその表面が窒化されているが、シリコン基板1側の界面近傍にも2原子%程度の窒素が含まれていた。
【0067】
次に、条件を変えてNOアニールを行った。但し、厚さ2.0nmの初期酸窒化シリコン膜7aをアニールによって増膜させないため、NOガス分圧は6.7×10Pa(5Torr)とした。また、プラズマ窒化用のチャンバーは、高真空の連続搬送機構を介してランプアニールが可能なNOアニール用真空チャンバーに連結しておき、初期酸窒化シリコン膜7aを大気に曝すことなくNOアニールを実施することができるようにした。更に、アニール中のNOガスの分圧は、昇温及び降温過程を通して一定値に保ち、試料は十分に基板温度が下がった時点で大気中に取り出した。そして、NOアニール後の酸窒化シリコン膜7bにポリシリコン膜8を成膜した後、エッチングによりゲート絶縁膜2及びゲート電極5を形成してpMOSFETとした。
【0068】
次に、このpMOSFETのNBTIについて評価した。NBTストレスを印加する際には、ソース・ドレイン及びn−ウエルをアースに接続した。NBTストレスは、ゲートバイアスVを−2Vとし、基板温度を125℃として行った。NBTIの低下は、NBTストレスを印加する前後での閾値電圧シフト量(DVth)を指標とし、ゲート絶縁膜のNOアニール依存性を比較して評価した。
【0069】
図10は横軸にストレス印加時間をとり、縦軸に閾値電圧シフト量DVthをとって、ストレス印加時間と閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。なお、NOアニール条件は、温度を950℃、時間を5秒とし、NOガス分圧は6.7×10Pa(5Torr)とした。また、図10にはNOガスを含まない雰囲気中で熱処理(以下、w/oNOアニールという。)したpMOSFETを、本実施例のpMOSFETと同様の条件で評価した結果を併せて示す。図10に示すように、本実施例のpMOSFETは、従来報告されている結果と同様に、10乃至10000秒の広いストレス時間範囲で、上記数式1に示す関係が成立しており、NBTストレス時間の経過と共に典型的なNBTIの低下現象が見られた。また、NOアニールは、w/oNOアニールに比べて閾値電圧シフト量DVthが40%程度減少していた。これは寿命に直すと約8倍の改善に相当する。
【0070】
次に、NOガス分圧を6.7×10Pa(5Torr)、アニール時間を5秒又は60秒とし、アニール温度を変えて作製したpMOSFETについて評価を行った。図11は横軸にNOアニール温度をとり、縦軸に閾値電圧シフト量DVthをとって、NOアニール温度と閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。なお、図11に示す閾値電圧シフト量DVthは、NBTストレス時間tを3600秒にして測定した値である。図11に示すように、NOアニール時間が5秒の場合には、NOアニール温度が970℃以下では閾値電圧シフト量DVthが急激に減少し、NOアニール温度が950℃で最も閾値電圧シフト量DVthが小さく、NOアニール温度が920℃以下では少しずつ効果が小さくなっていた。また、NOアニール時間が60秒の場合には、NOアニール温度が870℃以下で改善の効果が見られ、比較的低温側まで効果が現れていた。NOアニール時間によって効果の温度依存性が異なるのは、NOアニール時間が長い程界面反応の平衡状態が現れやすいためである。
【0071】
本来、長時間のNOガスアニールで界面窒素原子を酸素原子に置換する効果を得るためには、Oラジカル反応が優勢になる870℃以下に設定しなければならない。しかしながら、上述したように、昇温及び降温過程において界面窒素原子を酸素原子に置換される効果を利用すれば、図11に示すように到達温度が870℃以上でも時間や圧力の制御によって界面窒化の悪影響を抑え、熱処理のスループットを向上できる。
【0072】
次に、本発明の実施例2として、酸窒化シリコン膜上にHigh−K絶縁膜であるHfSiO膜を積層した構造のゲート絶縁膜2を備えたpMOSFETを作製した。先ず、LOCOS構造を有するp−Si(100)基板からなるシリコン基板1上に、絶縁膜形成用開口部を形成した。そして、この開口部に厚さ1.2nmのRTOシリコン酸化膜を形成した後、真空チャンバー内でNガスをソースとしたプラズマ窒化を行い、RTOシリコン酸化膜の表面を窒化して厚さ1.4nmの初期酸窒化シリコン7aを形成した。この初期酸窒化シリコン膜7aは表面が窒化されているが、シリコン基板1側の界面近傍にも4原子%程度の窒素が含まれていた。なお、プラズマ窒化用のチャンバーには、800℃までのRTA(Rapid Thermal Annealing:高速熱処理)及びNOガス雰囲気の制御が可能なものを使用した。
【0073】
引き続き、チャンバー内を高真空に排気してNOアニールを行った。その際の条件は、基板温度を780℃、NOガス分圧を約2.6kPa(20Torr)とし、熱処理時間を1乃至10分の範囲で変化させて、アニールを実施しない水準と比較した。
【0074】
次に、酸窒化シリコン膜を大気中に取り出した後、別の真空チャンバー内に配置し、スパッタ法により、基板温度を250℃にして、酸窒化シリコン膜上に厚さが4nmのHfSiO膜を成膜した。そして、基板が十分に冷えた後、試料をチャンバーから取り出し、窒素雰囲気中で900℃で10秒間の熱処理を行った。これにより、EOT(Equivalent Oxide Thickness)が2nm、シリコン濃度が約40原子%のHfSiO/SiON積層膜が得られた。
【0075】
次に、このHfSiO/SiON積層膜を用いて、前述の第1実施例と同様の方法で、ゲート長が0.5mm、ゲート幅が10mmのpMOSFETを作製した。但し、p/ポリシリコンゲート電極からのボロン拡散の影響を除くため、ゲート電極にはTiN電極を用いた。また、NBTストレス条件は、ゲートバイアスVを−1.5Vとし、基板の保持温度を100℃とした。NBTIは、NBTストレスの印加前後での閾値電圧シフト量DVthの絶対値を指標として評価した。
【0076】
図12は横軸にNOアニール時間をとり、縦軸に閾値電圧シフト量DVthとって、ゲート電極をHfSiO/SiON積層としたときのNOアニール時間と閾値電圧シフト量DVthとの関係を示すグラフ図である。図12は、HfSiO/SiON/Si積層構造において、SiON膜のNOアニール時間に依存して、HfSiO/SiON積層膜のNBTIがどのように変化するかを示している。図12に示すように、閾値電圧シフト量DVthは、NOアニール時間が長いほど小さくなり、NOアニール時間が1乃至5分の範囲で顕著なNBTIの改善が見られた。この熱処理により、閾値電圧シフト量DVthは45%減少した。この減少は寿命に換算すると11倍の改善に相当する。
【0077】
また、シリコン基板上に同様の条件でHfSiO/SiON積層膜を形成し、界面Si結合欠陥Pb1centerのg値を決定した。その結果、酸窒化シリコン膜をNOアニールしなかった試料ではg値が2.0028であったのに対して、5分間のNOアニールを行ってNBTI改善の見られた試料では、g値が2.0035になっていた」。この結果は、酸窒化シリコン膜の上にHfSiO膜を積層した場合でも、NBTIが界面欠陥の構造によって決定されていることを示している。
【0078】
なお、ポリシリコンからなるゲート電極ゲートとHfSiO膜との界面反応を抑え、かつポリシリコン膜からHfSiO膜へのドーパント拡散を抑える目的で、HfSiO膜上に窒化シリコン膜を積層する技術、又はHfSiO膜表面を窒化する技術が検討されているが、このプロセスの条件制御による界面窒素量の制御によって、本発明の酸窒化シリコン膜の高い信頼性を維持することは、本発明の任意の適用の範囲内であるといえる。
【0079】
なお、以上の結果は、酸窒化シリコン膜上にMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;有機金属気相成長)法によりHfO膜を形成した場合にも同様に観測された。更に、酸窒化シリコン膜上に堆積する膜種をHfAlOに変えた場合でも、界面に及ぶ影響は大きく変化しないため、同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si(100)基板又はSi(100)微傾斜基板と、前記基板上に形成され窒素を含む酸化膜からなるゲート絶縁膜と、このゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を有し、前記ゲート絶縁膜と前記基板との界面には界面Si結合欠陥が存在し、この界面Si結合欠陥結合手の前記基板の[100]方位に対する方位角の分布は、25°以上にピークをもつことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記方位角は、水素原子で終端された界面Si結合欠陥から水素結合を脱離させ、前記界面Si結合欠陥を活性化させた後で、EDMR測定した電子スピン共鳴スペクトルから求めた値であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
Si(100)基板又はSi(100)微傾斜基板と、前記基板上に形成されたゲート絶縁膜と、このゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を有し、前記ゲート絶縁膜と前記基板との界面には界面Si結合欠陥が存在し、前記基板の[100]方位と磁場方位とを平行にして測定した前記界面Si結合欠陥の電子スピン共鳴スペクトルのg値は、2.0032<g<2.0043にピークをもつことを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
前記g値は、水素原子で終端された界面Si結合欠陥から水素結合を脱離させ、前記界面Si結合欠陥を活性化させた後で、EDMR測定した電子スピン共鳴スペクトルから求めた値であることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記ゲート絶縁膜における前記基板との界面部分の窒素濃度は、1乃至10原子%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記ゲート絶縁膜は、酸窒化シリコン膜上に高誘電率絶縁膜が形成された積層膜であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
Si(100)基板上又はSi(100)微傾斜基板上に、窒素を含むゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられた半導体装置の製造方法であって、プラズマ酸窒化処理により前記基板上に酸窒化膜を形成する工程と、前記酸窒化膜をNOガス雰囲気中で770乃至970℃の温度条件下で熱処理する工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
Si(100)基板上又はSi(100)微傾斜基板上に、窒素を含むゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられた半導体装置の製造方法であって、プラズマ酸窒化処理により前記基板上に酸窒化膜を形成する工程と、前記酸窒化膜をNOガス雰囲気中で770乃至920℃の温度条件下で熱処理する工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記酸窒化膜上に高誘電率絶縁膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/004224
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【発行日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511341(P2005−511341)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009198
【国際出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】